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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ハイブリッド車
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/50 20160101AFI20241008BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20241008BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20241008BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20241008BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20241008BHJP
   B60K 6/36 20071001ALI20241008BHJP
   F16H 61/12 20100101ALI20241008BHJP
   F16H 59/46 20060101ALI20241008BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241008BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20241008BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/442 ZHV
B60K6/52
B60W10/10 900
B60W20/40
B60K6/36
F16H61/12
F16H59/46
B60L50/16
B60L15/20 S
B60L3/00 H
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021129651
(22)【出願日】2021-08-06
(65)【公開番号】P2023023805
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 一康
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-076192(JP,A)
【文献】特開2020-118191(JP,A)
【文献】特開2015-205638(JP,A)
【文献】特開2015-123896(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111456(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ー 20/50
B60K 6/442
B60K 6/52
B60K 6/36
F16H 61/12
F16H 59/46
B60L 50/16
B60L 15/20
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド車であって、
少なくとも一つの第1駆動輪と、
少なくとも一つの第2駆動輪と、
前記第1駆動輪に第1動力伝達経路を介して接続されたエンジンと、
前記第1動力伝達経路に設けられた第1モータジェネレータと、
前記第1動力伝達経路に設けられているとともに、前記エンジン及び前記第1モータジェネレータと、前記第1駆動輪との間に位置するクラッチと、
前記第1動力伝達経路に設けられているとともに、前記クラッチと前記第1駆動輪との間に位置する変速機と、
前記第2駆動輪に第2動力伝達経路を介して接続された第2モータジェネレータと、
前記エンジン、前記第1モータジェネレータ、前記クラッチ、前記変速機、及び、前記第2モータジェネレータを制御して、第1走行モードと第2走行モードとを含む、複数の走行モードを選択的に実行可能な制御装置と、
を備え、
前記第1走行モードは、前記クラッチにおける動力伝達が接続された状態で、前記エンジンと前記第1モータジェネレータとの少なくとも一方によって前記第1駆動輪が駆動される走行モードであり、
前記第2走行モードは、前記クラッチにおける動力伝達が遮断された状態で、前記第2モータジェネレータによって前記第2駆動輪が駆動される走行モードであり、
前記変速機は、複数のドグクラッチを有し、前記複数のドグクラッチを所定の順序で係合及び係合解除するように構成されたシーケンシャル方式の変速機であり、
前記制御装置は、前記第1走行モードの実行中に前記エンジンと前記第1モータジェネレータとの一方に異常が生じたときは、その他方を用いて前記ドグクラッチの相対位相及び相対差回転を調節しながら前記変速機をニュートラルまで変速した後に、前記第2走行モードへ移行する、
ハイブリッド車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ハイブリッド車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、ハイブリッド車が開示されている。このハイブリッド車は、主にエンジンを用いて走行するエンジン走行モードと、主にモータジェネレータを用いて走行するEV走行モードとを、選択的に実行する。例えば、エンジン走行モードの実行中にエンジンに異常が生じたときは、EV走行モードへ移行することによって、退避走行を実行するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-111291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、エンジンと車輪との間には変速機が設けられており、この変速機には、複数のドグクラッチを有し、複数のドグクラッチを所定の順序で係合及び係合解除するように構成されたシーケンシャル方式の変速機を採用することができる。しかしながら、このようなドグクラッチを有する変速機では、変速するときに、ドグクラッチの相対位相及び相対差回転を調節しながら、ドグクラッチを係合又は係合解除する必要がある。そのことから、エンジンの異常に応じて直ちにEV走行モードへ移行してしまうと、ドグクラッチの相対位相及び相対差回転が調節不能となることから、ドグクラッチの係合及び係合解除もできなくなる。そして、係合したままのドグクラッチでは、例えば路面から受ける外力によって意図しない相対差回転が生じ、それによってドグ歯がダメージを受けるおそれがある。
【0005】
従って、本明細書では、異常の発生に伴う走行モードの移行において、変速機に与えるダメージを回避し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する技術は、ハイブリッド車に具現化される。このハイブリッド車は、少なくとも一つの第1駆動輪と、少なくとも一つの第2駆動輪と、前記第1駆動輪に第1動力伝達経路を介して接続されたエンジンと、前記第1動力伝達経路に設けられた第1モータジェネレータと、前記第1動力伝達経路に設けられているとともに、前記エンジン及び前記第1モータジェネレータと前記第1駆動輪との間に位置するクラッチと、前記第1動力伝達経路に設けられているとともに、前記クラッチと前記第1駆動輪との間に位置する変速機と、前記第2駆動輪に第2動力伝達経路を介して接続された第2モータジェネレータとを備える。
【0007】
ハイブリッド車はさらに、前記エンジン、前記第1モータジェネレータ、前記クラッチ、前記変速機、及び、前記第2モータジェネレータを制御して、第1走行モードと第2走行モードとを含む、複数の走行モードを選択的に実行可能な制御装置とを備える。ここで、前記第1走行モードは、前記クラッチにおける動力伝達が接続された状態で、前記エンジンと前記第1モータジェネレータとの少なくとも一方によって前記第1駆動輪が駆動される走行モードである。一方、前記第2走行モードは、前記クラッチにおける動力伝達が遮断された状態で、前記第2モータジェネレータによって前記第2駆動輪が駆動される走行モードである。
【0008】
前記変速機は、複数のドグクラッチを有しており、前記複数のドグクラッチを所定の順序で係合及び係合解除するように構成されたシーケンシャル方式の変速機である。そして、前記制御装置は、前記第1走行モードの実行中に前記エンジンと前記第1モータジェネレータとの一方に異常が生じたときは、その他方を用いて前記ドグクラッチの相対位相及び相対差回転を調節しながら前記変速機をニュートラルまで変速した後に、即ち、全てのドグクラッチを係合解除した後に、前記第2走行モードへ移行するように構成されている。
【0009】
上記の構成によると、第1走行モードの実行中に、例えばエンジン(又は第1モータジェネレータ)に異常が生じたときでも、直ちに第2走行モードへ移行することなく、クラッチにおける動力伝達が維持される。これにより、健全である第1モータジェネレータ(又はエンジン)を利用して、変速機のドグクラッチにおける相対位相及び相対差回転を調節しながら、ドグクラッチの係合及び係合解除を行うことができる。この状態で、制御装置は、シーケンシャル方式の変速機を、全てのドグクラッチが係合解除されるニュートラルまで、順に変速していく。そして、制御装置は、全てのドグクラッチが係合解除された状態で、第1走行モードから第2走行モードへ移行する。これにより、第2走行モードによる退避走行中に、ドグクラッチがダメージを受けることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例のハイブリッド車10の構成を模式的に示す。
図2】第1走行モードにおける動力伝達経路を模式的に示す。
図3】第2走行モードにおける動力伝達経路を模式的に示す。
図4】変速機24の要部の構成を模式的に示す。
図5】ドグクラッチ72(74)が係合する様子を模式的に示す。
図6】制御装置50が実行する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施例のハイブリッド車10について説明する。本実施例のハイブリッド車10は、電動車に属するものであり、典型的には路面を走行する電動車(いわゆる自動車)である。但し、本実施例で説明する技術の一部又は全部は、例えば軌道を走行する電動車にも同様に採用することができる。ハイブリッド車10は、車体12と、車体12の前部に設けられた一対の前輪14と、車体12の後部に設けられた一対の後輪16とを備える。なお、車体12の具体的な構成や、ハイブリッド車10が備える車輪の数は特に限定されない。また、ハイブリッド車10は、ユーザによって運転操作されるものに限られず、外部装置によって遠隔操作されるものや、自律走行するものであってもよい。
【0012】
ハイブリッド車10はさらに、エンジン18と、第1モータジェネレータ(以下、「第1モータ」と称する)20と、クラッチ22と、変速機24と、第1動力伝達経路26とを備える。エンジン18は、第1動力伝達経路26を介して、一対の後輪16接続されている。エンジン18は、燃料を燃焼して動力を発生する内燃機関であり、特に限定されないが、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、水素エンジン等が挙げられる。ここで、本実施例における一対の後輪16は、本技術における「少なくとも一つの第1駆動輪」の一例である。
【0013】
第1モータ20は、第1動力伝達経路26に設けられている。第1モータ20は、エンジン18と後輪16との間に位置しており、エンジン18と共に後輪16を駆動する原動機として機能する。また、第1モータ20は、原動機としてだけでなく、発電機としても機能することができる。即ち、ハイブリッド車10は、エンジン18によって第1モータ20を駆動することで、第1モータ20による発電を行うことができる。あるいは、ハイブリッド車10は、減速する必要があるときに、第1モータ20を発電機として機能させることで、一対の後輪16の回生制動を行うことができる。
【0014】
クラッチ22は、第1動力伝達経路26に設けられている。クラッチ22は、エンジン18及び第1モータ20と、一対の後輪16との間に位置している。クラッチ22は、第1動力伝達経路26を機械的に接続及び切断することによって、エンジン18及び第1モータ20と後輪16との間の動力伝達を接続及び遮断することができる。このような構成によると、ハイブリッド車10は、エンジン18を一対の後輪16から機械的に切り離した状態で、エンジン18によって第1モータ20を駆動することにより、第1モータ20による発電を行うことができる。即ち、ハイブリッド車10は、その速度にかかわらず、第1モータ20による発電を行うことができる。
【0015】
変速機24は、第1動力伝達経路26に設けられている。変速機24は、クラッチ22と一対の後輪16との間に位置している。変速機24は、クラッチ22から入力される回転運動を、選択された変速段に応じた変速比で変速して、一対の後輪16へ出力する。変速機24の出力する回転運動(即ち、トルク)は、図示しないデファレンシャルギヤを介して、一対の後輪16へ分配される。特に限定されないが、本実施例における変速機24は、「1速」から「8速」までの変速段を有するシーケンシャル方式の変速機であり、「1速」と「2速」との間と「4速」と「5速」との間に、動力伝達が遮断されるニュートラル(中立)が設けられている。変速機24の構成については、後段において詳細に説明する。
【0016】
ハイブリッド車10はさらに、第2モータジェネレータ(以下、「第2モータ」と称する)30を備える。第2モータ30は、第2動力伝達経路32を介して、一対の前輪14に接続されており、一対の前輪14を駆動する原動機として機能する。第2動力伝達経路32には、デファレンシャルギヤ34が設けられており、第2モータ30が出力する回転運動(即ち、トルク)は、デファレンシャルギヤ34を介して、一対の前輪14に分配される。また、第2モータ30は、原動機だけでなく、前輪14を回生制動するための発電機としても機能することができる。即ち、ハイブリッド車10は、減速する必要があるときに、第2モータ30を発電機として機能させることで、前輪14の回生制動を行うことができる。図示省略するが、第2動力伝達経路32には、必要に応じて減速機やクラッチが設けられてもよい。ここで、本実施例における一対の前輪14は、本技術における「少なくとも一つの第2駆動輪」の一例である。
【0017】
ハイブリッド車10は、さらに、バッテリ40と、第1パワーコントロールユニット(以下、「第1PCU」と称する)36と、第2パワーコントロールユニット(以下、「第2PCU」と称する)38とを備える。バッテリ40は、第1モータ20及び第2モータ30のための電源装置である。バッテリ40は、複数の二次電池セルを有しており、繰り返し充放電可能に構成されている。ここでいう二次電池セルは、特に限定されないが、例えばリチウムイオン電池セル又はニッケル水素電池セルであってよい。
【0018】
第1PCU36は、電力変換装置であって、バッテリ40と第1モータ20との間に介在する。即ち、バッテリ40は、第1PCU36を介して、第1モータ20に接続されている。第1モータ20が原動機として機能する場合、第1PCU36は、バッテリ40から出力される直流電力を三相交流電力に変換して、第1モータ20へ供給する。一方、第1モータ20が発電機として機能する場合、第1PCU36は、第1モータ20から出力される三相交流電力を直流電力に変換して、バッテリ40へ供給する。これにより、バッテリ40は、第1モータ20で発電された電力によって充電される。
【0019】
第1PCU36の具体的な構成は特に限定されない。一例ではあるが、本実施例における第1PCU36は、バッテリ40に接続された電圧コンバータと、その電圧コンバータと第1モータ20との間に位置するインバータと、それらの動作を制御するパワーコントローラとを備える。電圧コンバータは、直流電力を昇圧及び降圧可能に構成されており、インバータは、直流電力と交流電力との間で電力変換可能に構成されている。
【0020】
第2PCU38は、同じく電力変換装置であって、バッテリ40と第2モータ30との間に介在する。即ち、バッテリ40は、第2PCU38を介して、第2モータ30に接続されている。第2モータ30が原動機として機能する場合、第2PCU38は、バッテリ40から出力される直流電力を三相交流電力に変換して、第2モータ30へ供給する。一方、第2モータ30が発電機として機能する場合、第2PCU38は、第2モータ30から出力される三相交流電力を直流電力に変換して、バッテリ40へ供給する。これにより、バッテリ40は、第2モータ30で発電された電力によって充電される。第2PCU38の具体的な構成についても特に限定されない。一例ではあるが、本実施例における第2PCU38は、第1PCU36と同様に、電圧コンバータとインバータとパワーコントローラとを備える。
【0021】
ハイブリッド車10はさらに、制御装置50を備える。制御装置50は、コンピュータ装置を用いて構成されており、各種の制御プログラムを記憶するメモリと、それらの制御プログラムを実行するプロセッサ等を有する。制御装置50は、エンジン18、第1PCU36、第2PCU38、クラッチ22、及び、変速機24と電気的に接続されており、これらの動作を制御可能に構成されている。制御装置50には、例えば、ユーザによる操作情報や、ハイブリッド車10の状態を示す車両情報が入力される。操作情報とは、例えば、ユーザによるアクセルペダルの操作量を示すアクセル開度情報や、ユーザによるブレーキペダルの操作量を示すブレーキ踏力情報である。車両情報とは、例えば、ハイブリッド車10の速度を示す車速情報や、バッテリ40の充電率(SOC:State of Charge)を示すバッテリ情報である。制御装置50は、入力された操作情報や車両情報に応じて、上述したハイブリッド車10の各部の動作を制御する。
【0022】
制御装置50は、第1走行モードと第2走行モードとを含む、複数の走行モードを選択的に実行可能である。図2に示すように、第1走行モードでは、クラッチ22における動力伝達が接続された状態で、エンジン18と第1モータ20との少なくとも一方によって一対の後輪16が駆動される。第1走行モードは、パラレルハイブリッド走行モードとも称される。なお、第1走行モードでは、第2モータ30によって一対の前輪14がさらに駆動されてもよい。あるいは、第1走行モードでは、エンジン18の出力する動力を第1モータ20と一対の後輪16とのそれぞれに供給し、第1モータ20による発電を行いつつ、一対の後輪16を駆動することもできる。一方、第2走行モードでは、クラッチ22における動力伝達が遮断された状態で、第2モータ30によって一対の前輪14が駆動される。第2走行モードは、EV(Electric Vehicle)走行モードとも称される。なお、第2走行モードでは、エンジン18によって第1モータ20を駆動して、第1モータ20による発電がおこなわれてもよい。このような走行モードは、EV走行モード特別して、シリーズハイブリッド走行モードとも称される。
【0023】
次に、図4図5を参照して、変速機24の構成について説明する。図4に示すように、変速機24は、複数のギア対62、64と、複数のドグクラッチ72、74と、シフトバレル70と、アクチュエータ80を有する。図4では、変速機24の一部のみが示されており、二つのギア対62、64と、二つのドグクラッチ72、74のみが、代表して図示されている。複数のドグクラッチ72、74は、変速機24による変速比を切り替えるために、複数のギア対62、64に対してそれぞれ設けられている。シフトバレル70は、複数のドグクラッチ72、74に接続されており、自己の回転角に応じて複数のドグクラッチ72、74を選択的に係合及び係合解除する。アクチュエータ80は、例えばサーボモータである。アクチュエータ80は、シフトバレル70に接続されており、シフトバレル70の回転角や回転速度を自由に調節することができる。
【0024】
複数のドグクラッチ72、74は、軸方向に隣接する二つの回転体の間に設けられている。例えば、第1のドグクラッチ72は、第1のギア対62を構成するギア62aと、当該ギア62aと同軸に配置された摺動スリーブ68との間に設けられている。第1のドグクラッチ72は、ギア62aに設けられた複数の第1ドグ歯76と、摺動スリーブ68に設けられた複数の第2ドグ歯78とを有する。複数の第1ドグ歯76は、それぞれ略直方体の形状を有しており、複数の第2ドグ歯78に向けて突出している。複数の第2ドグ歯78もまた、それぞれ略直方体の形状を有しており、複数の第1ドグ歯76に向けて突出している。複数の第1ドグ歯76及び複数の第2ドグ歯78は、それぞれ周方向に沿って等間隔に配列されており、互いに係合可能に構成されている。
【0025】
同様に、第2のドグクラッチ74は、第2のギア対64を構成するギア64aと、当該ギア64aと同軸に配置された前述の摺動スリーブ68との間に設けられている。第2のドグクラッチ74についても、第1のドグクラッチ72と同様に、ギア64aに設けられた複数の第1ドグ歯76と、摺動スリーブ68に設けられた複数の第2ドグ歯78とを有する。
【0026】
摺動スリーブ68は、回転シャフト66(例えば、出力シャフトやカウンターシャフト)と一体回転する一方で、軸方向には相対変位可能に支持されている。摺動スリーブ68は、シフトバレル70に接続されており、シフトバレル70の回転角に応じて、回転シャフト66の軸方向に沿って変位する。例えば、シフトバレル70が第1の回転角まで回転すると、摺動スリーブ68が第1のギア対62に向けて変位して、第1のドグクラッチ72が係合する。このとき、第2のドグクラッチ74(及びその他のドグクラッチ)では、係合が解除されている。これにより、複数のギア対62、64のうち、第1のギア対62が有効化されることによって、それに対応する変速比が実現される。
【0027】
一方、シフトバレル70が第2の回転角まで回転すると、摺動スリーブ68が第2のギア対64に向けて変位する。これにより、第2のドグクラッチ74が係合するとともに、第1のドグクラッチ72(及びその他のドグクラッチ)の係合が解除される。複数のギア対62、64のうち、第2のギア対64が有効化されることによって、それに対応する変速比が実現される。以上のように、本実施例における変速機24では、シフトバレル70の回転角に応じて、複数のドグクラッチ72、74が選択的に係合及び係合解除され、これによって変速比が変更される。
【0028】
前述したように、変速機24の動作は、制御装置50によって制御される。制御装置50は、制御装置50は、アクチュエータ80を制御することによって、シフトバレル70の回転角や回転速度を調節する。これにより、シフトバレル70の回転角に応じて、複数のドグクラッチ72、74が選択的に係合及び係合解除される。ここで、図5に示すように、ドグクラッチ72、74を係合及び係合解除するときは、ドグ歯76、78の意図しない接触(例えば頂面接触)を避けるために、ドグクラッチ72、74における相対位相及び相対差回転(相対速度)を調節する必要があり、且つ、ストローク速度(ドグ歯76、78が接近する速度)も調節されることが好ましい。これにより、ドグクラッチ72、74を係合させるときに、ドグウィンドウと称される角度範囲内で、ドグ歯76、78を係合させることができる。なお、相対位相及び相対差回転については、エンジン18又は第1モータ20によって調節され、ストローク速度については、アクチュエータ80によって調節される。
【0029】
工業製品であるハイブリッド車10では、それぞれの構成要素において、劣化、故障、動作不良といった異常が生じことも想定される。例えば、第1走行モードの実行中に、エンジン18又は第1モータ20に異常が生じることも想定される。この場合、本実施例のハイブリッド車10では、エンジン18又は第1モータ20を必要としない第2走行モードへ移行することによって、いわゆる退避走行を実施するように構成されている。但し、第2走行モードへ移行した後は、クラッチ22における動力伝達が遮断されて、エンジン18及び第1モータ20が変速機24から機械的に切り離される。このため、ドグクラッチ72、74における相対位相及び相対差回転の調節が不能となり、ドグクラッチ72、74の係合及び係合解除もできなくなる。そして、係合したままのドグクラッチ72、74では、例えば路面から受ける外力によって意図しない相対差回転が生じ、それによってドグ歯76、78がダメージを受けるおそれがある。
【0030】
上記の懸念に対して、本実施例のハイブリッド車10では、第1走行モードを実行中の制御装置50が、図6に示す一連の処理を実行するように構成されている。先ず、制御装置50は、第1モータ20に異常が生じたときは(S12でYES)、第1モータ20の動作を停止させる(S14)。但し、エンジン18の動作については、直ちに禁止しない。あるいは、制御装置50は、エンジン18に異常が生じたときは(S16でYES)、エンジン18の動作を停止させる(S18)。但し、第1モータ20の動作については、直ちに禁止しない。
【0031】
このように、第1走行モードの実行中に、エンジン18と第1モータ20との一方に異常が生じた場合、制御装置50は、直ちに第2走行モードへ移行することなく、異常が生じたエンジン18又は第1モータ20のみの動作を停止する。これにより、クラッチ22における動力伝達が継続され、健全であるエンジン18又は第1モータ20を利用して、変速機24のドグクラッチ72、74における相対位相及び相対差回転を調節することができる。即ち、変速機24の変速が可能な状態を維持することができる。
【0032】
次いで、制御装置50は、変速機24の目標とする変速段を「ニュートラル」に設定する(S20)。制御装置50は、健全であるエンジン18又は第1モータ20を利用して、ドグクラッチ72、74の相対位相及び相対差回転を調節しながら、変速機24を「ニュートラル」まで変速していく。そして、変速機24が実際に「ニュートラル」まで変速された後に(S26でYES)、制御装置50は、第2走行モードへ移行して退避走行を開始する。このように、全てのドグクラッチ72、74が係合解除された状態で、第2走行モードによる退避走行が開始されるので、ドグクラッチ72、74がダメージを受けることを回避することができる。
【0033】
なお、目標とする変速段を「ニュートラル」に設定した後(S20)、所定時間内に変速機24を「ニュートラル」まで変速できない場合(S24でYES)、制御装置50は、第2走行モードによる退避走行(S26)へ移行することなく、ハイブリッド車10の走行を禁止してもよい(S28)。このような構成によると、二次的な異常の発生を未然に回避することができる。
【0034】
以上、本技術の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0035】
10:ハイブリッド車
12:車体
14:前輪
16:後輪
18:エンジン
20:第1モータ
22:クラッチ
24:変速機
26:第1動力伝達経路
30:第2モータ
32:第2動力伝達経路
36:第1パワーコントロールユニット(PCU)
38:第2パワーコントロールユニット(PCU)
40:バッテリ
50:制御装置
72、74:変速機のドグクラッチ
76、78:ドグクラッチのドグ歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6