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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】繊維樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20241008BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C45/26
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021135338
(22)【出願日】2021-08-23
(65)【公開番号】P2023030288
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 亮
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102012009006(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0389103(US,A1)
【文献】特開2005-231282(JP,A)
【文献】特開2005-186482(JP,A)
【文献】特開2006-218666(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0346974(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
B29C 45/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも繊維と樹脂とを含む板状体と前記板状体に設けられた樹脂構造体とを備える繊維樹脂成形体の製造方法であって、
植物性繊維と樹脂繊維とが交絡したマット状の繊維マットを、プレス型によって加熱しつつプレスし、前記繊維マットに含まれる樹脂繊維を植物性繊維に結着させた後、これを冷却固化し、所定の寸法、形状に裁断することで、前記板状体を製造する板状体製造工程と、
前記板状体に切込部を形成する切込形成工程と、
前記板状体を非加熱状態で一対の成形型で挟みつつ、前記成形型において前記板状体に対向する成形面に設けられた凹部を通るように樹脂を射出して前記板状体に前記樹脂構造体を形成する射出成形工程と、を含み、
前記成形面には、前記凹部の側方部分において、前記板状体側に向けて先尖り状に突出する突部が設けられ
さらに、前記射出成形工程では、前記非加熱状態で前記切込部を開くように前記板状体を折り曲げる形で一対の前記成形型で挟みつつ、前記凹部を通るように射出された樹脂を開かれた前記切込部に充填することを特徴とする繊維樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記切込形成工程では、直線状に延びた複数の前記切込部を、所定の間隔で直線方向に並ぶ形で、前記板状体の裏面側まで貫通しない深さで形成するものとし、
前記射出成形工程では、前記非加熱状態で、前記切込部を開くように前記板状体を折り曲げる形で一対の前記成形型で挟むことで、複数の前記切込部が裂けて連なって一本の直線状となり、前記凹部を通るように射出された樹脂を一本の直線状の前記切込部に充填する、
ことを特徴とする請求項1に記載の繊維樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、繊維樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維樹脂成形体の製造方法として、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1には、植物性の繊維と熱可塑性樹脂とを含む板状体(プレボード)を加熱した後、軟化した板状体を成形型でプレス(コールドプレス)することで基材として成形し、成形型で基材をプレスした状態で成形空間を通して溶融した樹脂を射出することで、基材に樹脂(樹脂成形体)が接合してなる繊維樹脂成形体(成形構造体)を形成すること、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-157603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の工程において、例えば製造コストを削減するために、板状体の加熱を行わず(これを非加熱式と呼ぶことがある)、軟化していない状態の板状体を成形型でコールドプレスすることがある。このような工程では、板状体ごとの板厚にバラツキがある場合、例えば、板状体の板厚が比較的厚い場合、板状体に対し成形型からの圧力が過剰にかかり成形される基材に破壊や変形が生じ得る。また、この板状体を所望の板厚まで圧縮する場合、成形型の型締め圧力が不足する可能性がある。一方、板状体の板厚が比較的薄い場合、成形空間を通して樹脂を射出するときに、溶融した樹脂が基材と成形型との間から漏れてしまう可能性が考えられる。
【0005】
本開示は上記のような事情に基づいて完成された技術であって、板状体ごとの板厚のバラツキに対処できる非加熱式の繊維樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、少なくとも繊維と樹脂とを含む板状体と前記板状体に設けられた樹脂構造体とを備える繊維樹脂成形体の製造方法であって、前記板状体を一対の成形型で挟みつつ、前記成形型において前記板状体に対向する成形面に設けられた凹部を通るように樹脂を射出して前記板状体に前記樹脂構造体を形成する射出成形工程を含み、対向する前記成形面又は前記板状体の少なくとも一方には、前記凹部の側方部分において、対向する他方側に向けて突出する突部が設けられていることに特徴を有する繊維樹脂成形体の製造方法である。
【0007】
このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、少なくとも凹部が形成された部分(すなわち樹脂構造体を形成する部分)において板状体の板厚が比較的薄く、板状体と成形面との間に隙間が生じ得るような場合でも、凹部の側方部分に、成形面又は板状体の少なくとも一方から突部が突出して配されているため、その突部が堰止め機能を発現し、射出成形工程において凹部と板状体との隙間から樹脂が漏れ拡がることを抑制することができる。このように突部により樹脂の漏れ拡がりを抑制しているため、板状体と成形面との間に隙間を生じるようなプレス条件としても不都合はなく、従って、プレス条件として一対の成形型間の距離をより小さくするような条件を採用する必要もなくなり、板状体を過剰に圧縮することを回避できるようになる(特に板厚誤差等に起因した比較的厚い板状体に対しても過剰なプレス圧を掛けるような事態を回避できる)。
【0008】
前記射出成形工程では、前記成形面に設けられ溝状の前記凹部に沿った形をなし対向する前記板状体側に向けて突出する前記突部を、前記板状体に当接させてもよい。
【0009】
このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、射出成形工程において溝状の凹部を通る樹脂が凹部と板状体との隙間から側方に流動して漏れ拡がることを突部で堰き止めることができる。板状体の厚みによっては、突部を板状体に食い込ませ、この状態で溝状の凹部を通して樹脂を射出することができるので、凹部と板状体との隙間からの樹脂漏れをさらに抑制することができる。
【0010】
前記射出成形工程では、前記板状体側に向けて先尖り状に突出する前記突部を前記板状体に当接させてもよい。
【0011】
このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、板状体の厚みによっては、突部を板状体に食い込ませ易くなり、凹部と板状体との隙間からの樹脂漏れを一層抑制することができる。
【0012】
前記射出成形工程では、前記板状体に設けられた突条形状をなし前記成形面側に向けて突出する前記突部を、溝状の前記凹部付近に当接させて潰してもよい。
【0013】
このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、溝状の凹部を通る樹脂が凹部と板状体との隙間から側方に流動して漏れ拡がることを突部で堰き止めることができる。また、板状体の厚みがバラついていたとしても突部の潰れる量が適宜変更される(例えば、複数の板状体に対する一対の成形型間の距離を一定にした場合、任意の板状体の厚みが厚い程、突部の潰れる量が増加する)。これにより、突部が凹部付近に当接して密着した状態を好適に維持することができる。
【0014】
当該繊維樹脂成形体の製造方法は、前記板状体に切込部を形成する切込形成工程を含み、前記射出成形工程では、前記切込部を開くように前記板状体を折り曲げる形で一対の前記成形型で挟みつつ、前記凹部を通るように射出された樹脂を開かれた前記切込部に充填してもよい。
【0015】
このような繊維樹脂成形体の製造方法によると、開かれた切込部の形(即ち、板状体が折り曲げられた形)を樹脂で固定することができる。これにより、板状体を加熱することなく任意の部分で折り曲げてその形を固定可能な繊維樹脂成形体の製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば板状体ごとの板厚のバラツキに対処できる非加熱式の繊維樹脂成形体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態1に係るドアトリムを表面側から視た斜視図
図2】ドアトリムを裏面側から視た斜視図
図3】繊維マットをプレス型によってプレスする態様を示す断面図
図4】プレボードに切込部を形成した態様を示す斜視図
図5】上型と下型との間にプレボードを配した態様を示す断面図
図6】上型を下型に近接させプレボードを挟んだ態様を示す断面図
図7】切込部付近を拡大した断面図
図8】第1リブ成形凹部付近の断面図(図7のIIX-IIX線断面)
図9】基材を挟みつつ凹部に樹脂を射出した態様を示す断面図
図10】第1リブ成形凹部付近の断面図(図8の断面と同じ位置の断面)
図11】上型を下型から離間させドアトリムを離型する態様を示す断面図
図12】実施形態2に係る第1リブ成形凹部付近の断面図
図13】基材を挟みつつ樹脂を凹部に射出した態様を示す断面図(図12の断面と同じ位置の断面)
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態1>
本開示の実施形態1を図1から図11によって説明する。本実施形態では、自動車(乗物)のドアに取り付けられる乗物用内装材としてのドアトリム(繊維樹脂成形体)100について説明する。尚、矢印方向Fを前方、矢印方向Bを後方、矢印方向Uを上方(ドアトリム100の表面側)、矢印方向Dを下方(ドアトリム100の裏面側)、矢印方向Lを左方、矢印方向Rを右方として各図を説明する。
【0019】
図1及び図2に示すように、ドアトリム100は、板状の基材(板状体)1と、基材に設けられた複数の樹脂構造体2と、を備える。基材1は、繊維及び樹脂を含み、交絡した繊維がバインダーとしての樹脂により結着されて板状をなしている。基材1に含まれる繊維としては、特に限定されないが、植物性の繊維、ガラス繊維、又は炭素繊維等の群から選択される1つまたは2つ以上の繊維を採用することができる。その中でも、植物性の繊維が好ましく、ケナフ繊維が好ましい。基材1の繊維としてこのようなものを採用すると、基材1の強度向上や自然環境への貢献等を行うことができる。基材1に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、加工性向上や製造コスト削減等の観点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系の熱可塑性樹脂を採用することができる。
【0020】
基材1は、大部分をなす本体部10と、本体部10の左右両側に配され本体部10から下方に向けてクランク状に折り曲げられた折曲部11と、を備える。折曲部11は、本体部10に接続した切込部18と、切込部18から左右方向における外側に向かうほど下方に向けて傾いた傾斜部14と、傾斜部14から左右方向における外側に向けて延びたフランジ部16と、を備える。切込部18は、前側(又は後側)から視た断面視において基材1の表面1A側からV字状に切り込まれた形をなすV字溝が、前後方向に延びた形をなしている。切込部18の上側(表面側)には、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が当該切込部18のV字溝上に充填されてなり、前後方向に延びた直線状の充填部28が設けられている。
【0021】
図2に示すように、基材1の裏面1B側には、本体部10の裏面から下方に延びた取付ボス20と、取付ボス20から左右両方向に延びた下面視直線状の第1リブ23と、第1リブ23に直交し切込部18の裏面側において前後方向に延びた下面視直線状の第2リブ25と、第2リブ25上において一定間隔で設けられた板状の複数の保持リブ26と、が設けられている。充填部28、取付ボス20、第1リブ23、第2リブ25、及び保持リブ26は、樹脂構造体2の一例である。このような樹脂構造体2は、例えば熱可塑性樹脂であるポリプロピレンによって形成されている。
【0022】
取付ボス20は、上下方向を高さ方向とする円筒状の円筒部21と、円筒部21の上端から前後両方向に延びた補強リブ22と、を備えている。取付ボス20は、ドアポケット、オーナメント、アームレスト等の他部材を取り付ける部分とされる。保持リブ26は、左右上下平面に広がる板状をなしており、基材1の本体部10と折曲部11とを架け渡すように立設している。保持リブ26は、折曲部11が本体部10に対して上下方向に弾性変形することを抑制している。
【0023】
第1リブ23は、後述する射出成形工程において第1リブ成形凹部63を通った溶融樹脂が冷却されることで形成されたものである。同様に、第2リブ25は、後述する射出成形工程において第2リブ成形凹部64を通った溶融樹脂が冷却されることで形成されたものである。取付ボス20と複数の保持リブ26とは、第1リブ23及び第2リブ25を介して接続されている。
【0024】
取付ボス20、保持リブ26、第1リブ23、及び第2リブ25における基材1側(上側)には、それぞれ、側方(基材1の裏面1B上における前後方向や左右方向)に広がった薄膜状の薄膜部29が設けられている。薄膜部29の厚み(上下方向における距離)は、取付ボス20、保持リブ26、第1リブ23、及び第2リブ25の厚みよりも薄い。薄膜部29は、取付ボス20の前後左右側、第1リブ23の前後両側、保持リブ26の左右方向における内側(片側)、第2リブ25の左右方向における内側(片側)に設けられている。薄膜部29も、複数の複数の樹脂構造体2のうちの一つである。
【0025】
続いて、ドアトリム100を製造するための製造装置について説明する。ドアトリム100の製造装置は、大別すると、植物性繊維と樹脂繊維とが交絡したマット状の繊維マット1Mを加熱しつつ押圧してプレボード(板状体)1Pを製造するプレス型30,31と、プレボード1Pを間に挟んで樹脂を射出することによりドアトリム100として成形する成形装置50と、を備える。
【0026】
図3に示すように、プレス型30,31(プレス板や熱板と呼ぶことがある)は、下型31と下型31に対向する位置に設けられた上型30と、を備えている。上型30は、図示しない駆動装置(例えば、電動モータ、エアシリンダ、油圧シリンダ等)を備え、下型31に対し上下方向へ移動が可能な可動型とされる。プレス型30,31は、ヒータ等の発熱装置を内蔵しており、繊維マット1Mを任意の温度で加熱しつつプレスすることができる。このようなヒータは、プレス型30,31のうちいずれか一方のみに設けられていてもよい。尚、プレス型30,31による加熱は、繊維マット1Mの樹脂繊維を溶融させて植物性繊維に結着させプレボード1Pを形成するための工程であり、後述する射出成形工程を行うに際し、例えばプレボード1Pを軟化させて折り曲げる等の成形をするための工程ではない(本技術の射出成型工程は、非加熱式により行われる)。
【0027】
図5は、成形装置50及びプレボード1Pにおいて、図2のXI-XI線断面に相当する位置での切断面を示している。成形装置50は、一対の成形型51,61を備える。一対の成形型51,61は、下型61と下型61に対向する位置に配された上型51と、を含んで構成される。上型51は、図示しない駆動装置(例えば、電動モータ、エアシリンダ、油圧シリンダ等)を備え、下型61に対し上下方向へ移動が可能な可動型とされる。図6から図10では、上型51を下型61に近接させて一対の成形型51,61を型閉じした状態を示している。上型51は、下型61に対向し下型61側から上方に向けて窪んだ成形面51Aを備える。下型61は、上型51の成形面51Aに対向し上型51側に向けて膨らんだ成形面61Aを備える。型閉じした状態の一対の成形型51,61において、上型51の成形面51Aと下型61の成形面61Aとの間の空間を、第1成形空間S1とする。
【0028】
一対の成形型51,61は、型閉じ前の状態(型開き状態)において成形面51Aと成形面61Aとの間にプレボード1Pを配し、上型51を下型61に対し近接させて型閉じすることで、プレボード1Pを第1成形空間S1に挟むことができる。プレボード1Pを一対の成形型51,61の間に配するときは、成形面51Aが、プレボード1Pの表面1PA(基材1の表面1Aとなる面)に対向し、成形面61Aが、プレボード1Pの裏面1PB(基材1の裏面1Bとなる面)に対向するように位置させる。
【0029】
下型61には、例えばスクリュータイプの射出装置41が取り付けられている。射出装置41は、上記樹脂構造体2を構成する樹脂(例えばポリプロピレン等の熱可塑性樹脂)を溶融させた状態で、スプルー62に向けて射出可能とされている。図5及び図7に示すように、下型61は、射出装置41から成形面61Aに向けて延び、当該下型61を管状に貫通するスプルー62と、成形面61Aにおいてスプルー62の出口部分に設けられたゲート69と、成形面61Aに設けられ射出装置41側(下方)に窪んだ凹状の部分である複数の凹部63,64,65と、を備える。複数の凹部63,64,65は、ゲート69から左右方向における内側に向かって溝状に延びた第1リブ成形凹部63と、ゲート69から前後方向における外側(図5において紙面奥手前方向)に向かって溝状に延び、第1リブ成形凹部63に直交する第2リブ成形凹部64と、第1リブ成形凹部63の途中(左右方向に設けられた2つの第1リブ成形凹部63の間)に設けられた取付ボス成形凹部65と、第2リブ成形凹部の途中に設けられた複数の保持リブ成形凹部(不図示)と、を含む。
【0030】
スプルー62は、射出装置41から射出される樹脂を成形面61A側に流す流路とされる。ゲート69は、第1リブ成形凹部63と第2リブ成形凹部64とが直交した部分に設けられており、スプルー62から流入する樹脂を第1リブ成形凹部63と第2リブ成形凹部64とに分流させる部分である。第1リブ成形凹部63及び第2リブ成形凹部64は、ゲート69から流入する樹脂を成形面61Aに沿って通す流路であり、取付ボス成形凹部65や保持リブ成形凹部に比して成形面61Aから下方に窪む深さが浅い部分とされ、ランナーと呼ばれることがある。第1リブ成形凹部63は、ゲート69から流入する樹脂を左右方向における内側(取付ボス成形凹部65側)に通す流路とされる。第2リブ成形凹部64は、ゲート69から流入する樹脂を前後方向における外側(保持リブ成形凹部側)に通す流路とされる。
【0031】
図5図7及び図8に示すように、成形面61Aには、第1リブ成形凹部63の側方部分(前後両側の部分)において、上型51側(第1成形空間S1にプレボード1Pが挟まれている場合、当該成形面61Aに対向するプレボード1Pの裏面1PB側)に向けて突出する2つの突部66が設けられている。突部66は、溝状の第1リブ成形凹部63に沿った形で左右方向に延びている。突部66は、成形面61Aからプレボード1Pの裏面1PB側に向けて先尖り状に突出している。尚、突部66は、第1リブ成形凹部63以外の凹部の側方部分(第2リブ成形凹部64の左右方向における内側の部分、取付ボス成形凹部65の周囲の部分、及び保持リブ成形凹部の左右方向における内側の部分)にも、それぞれ設けられている。
【0032】
次にドアトリム100の製造方法について説明する。ドアトリム100の製造方法は、大別すると、繊維マット1Mをプレボード(板状体)1Pとして成形するプレボート成形工程と、プレボード1Pに切込部18を形成する切込形成工程と、プレボード1Pを一対の成形型51,61で挟みつつ、複数の凹部63,64,65を通るように樹脂を射出して基材(板状体)1に複数の樹脂構造体2を形成する射出成形工程と、を含み、各工程をこの順で実行するものとされる。
【0033】
図3に示すように、プレボード成形工程では、繊維と熱可塑性樹脂とを含むマット状の繊維マット1Mを、プレス型30,31によって加熱しつつプレスする。これにより、繊維マット1Mが圧縮され、繊維マット1Mに含まれる熱可塑性樹脂が溶融する。その後、繊維マット1Mを冷却固化させることで、熱可塑性樹脂を繊維に結着させる。次いで、冷却固化した繊維マット1Mを、図示しない裁断機を用いて所定の寸法、形状に裁断することで、プレボード1Pとして成形する。尚、繊維マット1Mを構成する繊維や熱可塑性樹脂としては、上記基材1に含まれる繊維や樹脂として記載したものを採用する。
【0034】
図4に示すように、切込形成工程では、プレボード1Pの左右両側において、前後方向に直線状に延びた複数の切込部18を形成する。切込部18は、カッター等によりプレボード1Pの表面1PA側から切り込まれるようにして形成される。切込部18は、プレボード1Pの裏面1PB側まで貫通しない深さとする。
【0035】
図5に示すように、射出成形工程では、プレボード1Pを、上型51および下型61の間に配する。このとき、切込部18が設けられた表面1PAが上型51の成形面51Aに対向し、裏面1PBが下型61の成形面61Aに対向する向きとなるように、プレボード1Pを配する。また、2つの切込部18が2つの第2リブ成形凹部64の直上に沿って位置するように、プレボード1Pを位置決めする。
【0036】
次に、図6に示すように、上型51を下型61に近接させて型閉じした状態にし、プレボード1Pを上型51の成形面51Aと下型61の成形面61Aとの間で挟む。これにより、プレボード1Pの左右両側の部分1PCを、切込部18を起点として下型61側に折り曲げて折曲部11として成形し、プレボード1Pを基材(板状体)1として成形する。本実施形態における非加熱式の射出成形工程では、加熱によりプレボード1Pを軟化させないため、複数の切込部18が前後方向(図6における紙面奥手前方向)に沿って裂け、連続した一本の直線状の形となる。また、切込部18が左右方向に引き伸ばされるように開き、断面視V字状の形が左右方向に広がる。
【0037】
射出成形工程において、上型51の成形面51Aと下型61の成形面61Aとの間の距離(型間距離と呼ぶことがある)は、複数のプレボード1Pの厚みから算出される代表値(平均値、中央値等)に基づいて設定する。型間距離は、例えば、複数のプレボード1Pの厚みから算出される代表値以上が好ましく、代表値の誤差(バラツキ)の最大値以上がより好ましく、代表値の誤差の最大値であることがさらに好ましい。例えば、一定数のプレボード1Pの厚みの平均値が2.5mmであり誤差が±0.3mmである場合(即ち、一定数のプレボード1Pの厚みが、2.2mm以上2.8mm以下の範囲でバラツキがある場合)、型間距離は、2.5mm以上が好ましく、2.8mm以上がより好ましく、2.8mmであることがさらに好ましい。尚、ドアトリム100の製造方法は、射出成形工程前において、このような複数のプレボードの厚みの代表値を測定する工程を含んでいてもよい。また、下型61の成形面61Aとプレボード1Pの裏面1PBとの間は、全体的に、又は部分的にわずかな隙間が空いていてもよい(即ち、プレボード1Pの裏面1PBが成形面61Aによりプレスされていない状態であってもよい)。
【0038】
図6から図8に示すように、一対の成形型51,61を型閉じしてプレボード1Pを挟み、突部66を、プレボード1Pに対し裏面1PB側から当接させる。突部66の成形面61Aからプレボード1P側に突出する突出高さは、型間距離から上記代表値の誤差の最小値に相当するプレボード1Pの厚みを引いた値としてもよく、上記代表値の誤差の最大値から最小値を引いた値としてもよい。例えば、一定数のプレボード1Pの厚みの平均値が2.5mmであり誤差が±0.3mmであり型間距離を2.8mmとした場合、突部66の突出高さを、0.6mmに設定する。突部66の突出高さがこのような値であると、図6から図8に示すように、プレボード1Pの厚みが比較的厚い場合(例えば、上記平均値が2.5mmであるときに、成形するプレボード1Pの厚みが2.8mmである場合)、突部66において上型51側に位置する先端部66Aをプレボード1Pの裏面1PBに突き刺して食い込ませることができる。一方、プレボード1Pの厚みが比較的薄い場合(例えば、上記平均値が2.5mmであるときに、成形するプレボード1Pの厚みが2.2mmである場合)、突部66の先端部66Aをプレボード1Pの裏面1PBに当接させることができる。尚、第1リブ成形凹部63と突部66とプレボード1Pの裏面1PBとにより囲まれる空間を、第2成形空間S2とする。
【0039】
次に、図9に示すように、上記型間距離を変更することなく、プレボード1P(基材1)を一対の成形型51,61で挟んだ状態を維持しつつ、溶融した樹脂を射出装置41からスプルー62に射出する。スプルー62に射出された樹脂は、ゲート69から第1リブ成形凹部63及び第2リブ成形凹部64に流入する。第1リブ成形凹部63を通る樹脂は、第2成形空間S2(図10参照)を充満しつつ、取付ボス成形凹部65に到達する。そして、取付ボス成形凹部65と突部66と基材1の裏面1Bとに囲まれた空間に樹脂が充満する。第2リブ成形凹部64を通る樹脂は、保持リブ成形凹部に到達し、第2リブ成形凹部64と保持リブ成形凹部と突部66と基材1の裏面1Bとに囲まれた空間に充満する。
【0040】
第2リブ成形凹部64を通る樹脂は、その直上に位置する開かれた切込部18において、裏面1B側から表面1A側に向けて含浸し、切込部18と上型51の成形面51Aとの間の空間に充満する(開かれた切込部18に樹脂が充填される)。
【0041】
樹脂の射出を停止し、基材1を一対の成形型51,61で挟んだ状態を所定時間維持し、射出された樹脂を冷却させ固化させることで、基材1の表裏面側に対し複数の樹脂構造体2を形成させる。具体的には、図9及び図10に示すように、射出された樹脂の固化により、第2成形空間S2に充満した樹脂を第1リブ23及び薄膜部29として、取付ボス成形凹部65と突部66と基材1の裏面1Bとに囲まれた空間に充満した樹脂を取付ボス20及び薄膜部29(図2参照)として、第2リブ成形凹部64と突部66と基材1の裏面1Bとに囲まれた空間に充満した樹脂を第2リブ25及び薄膜部29として、保持リブ成形凹部と突部66と基材1の裏面1Bとに囲まれた空間に充満した樹脂を保持リブ26及び薄膜部29として、切込部18と上型51の成形面51Aとの間の空間に充満した樹脂を充填部28として、それぞれ形成させる。
【0042】
続いて、図11に示すように、上型51を下型61から離間させて一対の成形型51,61を型開き状態する。そして、基材1に樹脂構造体2が形成してなるドアトリム100を一対の成形型51,61から離型する。尚、図11において示されるドアトリム100の断面は、図2のXI-XI線断面に相当する。
【0043】
続いて、本実施形態の効果について説明する。本実施形態では、少なくとも繊維と樹脂とを含む基材1と基材1に設けられた樹脂構造体2とを備えるドアトリム100の製造方法であって、プレボード1Pを一対の成形型51,61で挟みつつ、下型61においてプレボード1Pに対向する成形面61Aに設けられた凹部63,64,65を通るように樹脂を射出して基材1に樹脂構造体2を形成する射出成形工程を含み、プレボード1Pに対向する成形面61Aには、凹部63,64,65の側方部分において、プレボード1P側に向けて突出する突部66が設けられているドアトリム100の製造方法を示した。
【0044】
このようなドアトリム100の製造方法によると、少なくとも凹部63,64,65が形成された部分(すなわち樹脂構造体2を形成する部分)においてプレボード1Pの板厚が比較的薄く、プレボード1Pと成形面61Aとの間に隙間が生じ得るような場合でも、凹部63,64,65の側方部分に、成形面61Aから突部66が突出して配されているため、その突部66が堰止め機能を発現し、射出成形工程において凹部63,64,65の側方部分とプレボード1Pとの隙間から樹脂が漏れ拡がることを抑制することができる。このように突部66により樹脂の漏れ拡がりを抑制しているため、プレボード1Pと成形面61Aとの間に隙間を生じるようなプレス条件としても不都合はなく、従って、プレス条件として一対の成形型51,61間の距離をより小さくするような条件を採用する必要もなくなり、プレボード1Pを過剰に圧縮することを回避できるようになる(特に板厚誤差等に起因した比較的厚いプレボード1Pに対しても過剰なプレス圧を掛けるような事態を回避できる)。
【0045】
射出成形工程では、成形面61Aに設けられ溝状の凹部63,64に沿った形をなし対向するプレボード1P側に向けて突出する突部66を、プレボード1Pに当接させる。
【0046】
このようなドアトリム100の製造方法によると、射出成形工程において溝状の凹部63,64を通る樹脂が凹部63,64とプレボード1Pとの隙間から側方に流動して漏れ拡がることを突部66で堰き止めることができる。プレボード1Pの厚みによっては、突部66をプレボード1Pに食い込ませ、この状態で溝状の凹部63,64を通して樹脂を射出することができるので、凹部63,64とプレボード1Pとの隙間からの樹脂漏れをさらに抑制することができる。
【0047】
射出成形工程では、プレボード1P側に向けて先尖り状に突出する突部66をプレボード1Pに当接させる。
【0048】
このようなドアトリム100の製造方法によると、プレボード1Pの厚みによっては、突部66をプレボード1Pに食い込ませ易くなり、凹部63,64とプレボード1Pとの隙間からの樹脂漏れを一層抑制することができる。
【0049】
当該ドアトリム100の製造方法は、プレボード1Pに切込部18を形成する切込形成工程を含み、射出成形工程では、切込部18を開くようにプレボード1Pを折り曲げる形で一対の成形型51,61で挟みつつ、凹部64を通るように射出された樹脂を開かれた切込部18に充填する。
【0050】
このようなドアトリム100の製造方法によると、開かれた切込部18の形(即ち、プレボード1Pが折り曲げられた形)を樹脂で固定することができる。これにより、プレボード1Pを加熱することなく任意の部分で折り曲げてその形を固定可能なドアトリム100の製造方法を提供することができる。
【0051】
<実施形態2>
次に、本開示の実施形態2を図12および図13によって説明する。尚、本実施形態では、上記実施形態と同じ部位には、同一の符号を用い、構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
【0052】
図12に示すように、プレボード201Pは、その裏面201PBから下型261の成形面261A側に向けて突出する突部219を備える。突部219は、第1リブ成形凹部63に対向する対向部217の側方(前後両側の方向)において、左右方向(紙面奥手前方向)に延びた突条形状をなしている。突部219の下端部219Bは、断面視かまぼこ状をなしている。尚、突部219は、プレボード201Pにおいて第1リブ成形凹部63以外の凹部(第2リブ成形凹部64、取付ボス成形凹部65、及び保持リブ成形凹部)に対向する部分の側方にも、それぞれ設けられている。
【0053】
突部219は、図3に示すプレボード成形工程において、繊維マット1Mをプレス型30,31によって加熱プレスする際に形成される。具体的には、下型31に対し左右方向等の一方向に延びた溝状の溝部を形成しておき、この溝部の形をプレスによって繊維マット1Mの裏面に転写させることにより、一方向に突条に延びた突部219を形成させる。
【0054】
図13に示すように、射出成形工程では、一対の成形型51,261の間にプレボード201Pを挟み、突部219を下型261の成形面261Aに押し付ける(当接させる)ことで、突部219の下端部219Bを潰す。そして、この状態で型間距離を変更することなく、凹部63,64,65と一部が潰れた突部219とプレボード201Pの裏面201PB(基材201の裏面201B)との間の空間に射出装置41からスプルー62、ゲート69を介して溶融した樹脂を射出する。尚、第1リブ成形凹部63と一部が潰れた突部219とプレボード201Pの裏面201PBとの間の空間を、第2成形空間S2とする。
【0055】
凹部63,64,65を通るように射出され各空間に充満した樹脂が冷却され固化すると、薄膜部229、第1リブ23、第2リブ25、取付ボス20、及び保持リブ26等の樹脂構造体202が基材201に形成してなるドアトリム200が製造される。
【0056】
このようなドアトリム200の製造方法によると、溝状の凹部63,64を通る樹脂が凹部63,64とプレボード1Pとの隙間から側方に流動して漏れ拡がることを突部219で堰き止めることができる。また、プレボード201Pの厚みがバラついていたとしても突部219の潰れる量が適宜変更される(例えば、複数のプレボード201Pに対する一対の成形型51,261間の距離を一定にした場合、任意のプレボード201Pの厚みが厚い程、突部219の潰れる量が増加する)。これにより、突部219が凹部63,64付近に当接して密着した状態を好適に維持することができる。
【0057】
<他の実施形態>
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されず、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0058】
(1)上記実施形態では、突部は、成形面又はプレボードの一方に設けられることしたが、これに限られない。例えば、突部は、成形面及びプレボードの両方に設けられていてもよい。
【0059】
(2)上記実施形態以外にも、切込部の形は適宜変更可能である。例えば、切込部は、プレボードの一端から他端まで一直線状に延びていてよい。また、切込部は、プレボードの裏面側まで貫通していてもよい。
【0060】
(3)射出成形工程では、プレボードを一対の成形型でプレスしていてもよい。即ち、上型の成形面がプレボードの表面に当接して押圧し、下型の成形面がプレボードの裏面に当接して押圧していてもよい。
【0061】
(4)上記実施形態で例示した繊維樹脂成形体の製造方法は、繊維樹脂成形体としてのドアトリムを製造する際に適用されるだけでなく、ピラーガーニッシュ、インストルメントパネル、ルーフライニング等、その他の乗物用内装材を製造する際にも適用することができる。また、上記実施形態で例示した繊維樹脂成形体の製造方法は、車両用に限られず、種々の乗物に搭載される繊維樹脂成形体を製造する際において適用されてもよい。例えば、地上の乗物としての列車や遊戯用車両、飛行用乗物としての飛行機やヘリコプター、海上や海中用乗物としての船舶や潜水艇などの乗物に搭載される繊維樹脂成形体についても上記繊維樹脂成形体の製造方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,201…基材(板状体)、1P,201…プレボード(板状体)、2,202…樹脂構造体、11…折曲部、18…切込部、20…取付ボス、41…射出装置、51,61,261…成形型、61,261…下型、61A,261A…下型の成形面、63,64,65…凹部、66,219…突部、100,200…ドアトリム(繊維樹脂成形体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13