(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】絶縁性アルミニウム合金導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 13/00 20060101AFI20241008BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20241008BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20241008BHJP
C09D 179/08 20060101ALI20241008BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20241008BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C25D13/00 J
C22C21/00 A
C22C21/02
C09D179/08 B
C09D5/44 B
H01B7/02 A
C25D13/00 307D
(21)【出願番号】P 2021138898
(22)【出願日】2021-08-27
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐古 渚
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 和彦
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-230752(JP,A)
【文献】特開2020-020022(JP,A)
【文献】特開2013-117052(JP,A)
【文献】特開2008-112620(JP,A)
【文献】特開2017-115120(JP,A)
【文献】特開昭53-039473(JP,A)
【文献】特開2015-156378(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0362802(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108473813(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 13/00
C22C 21/00
C09D 179/08
C09D 5/44
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる導体本体と、前記導体本体を被覆する絶縁層とを含む絶縁性アルミニウム合金導体であって、
前記導体本体のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内であり、Mgの含有量は1.8質量%以下であり、
前記絶縁層は、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有することを特徴とする絶縁性アルミニウム合金導体。
【請求項2】
前記導体本体のSiの含有量が、0.5質量%以上11.0質量%以下の範囲内にある請求項1に記載の絶縁性アルミニウム合金導体。
【請求項3】
前記導体本体のMgの含有量が0.8質量%以上1.3質量%以下の範囲内にある請求項1または2に記載の絶縁性アルミニウム合金導体。
【請求項4】
アニオン電着により、アルミニウム合金からなる導体本体の表面に樹脂粒子を電着させて、電着層付き導体本体を得る電着工程と、
前記電着層付き導体本体を加熱して、前記電着層を前記導体本体に焼き付けて絶縁層を形成し、絶縁性アルミニウム合金導体を得る焼付工程と、を含む絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法であって、
前記導体本体のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内であり、Mgの含有量は1.8質量%以下であり、
前記電着工程において、前記導体本体は、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有する樹脂粒子を含む電着液に浸漬されることを特徴とする絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性アルミニウム合金導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金からなるアルミニウム合金導体を絶縁層で被覆した絶縁性アルミニウム合金導体は、絶縁が必要な各種電気機器の導電材料や放熱板材料として広く用いられている。アルミニウム合金としては、Al-Cu系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金、Al-Mg-Si系合金が利用されている。絶縁性アルミニウム合金導体の絶縁層の材料としては、ポリイミドやポリアミドイミド樹脂などの樹脂が利用されている。
【0003】
アルミニウム合金導体の表面を絶縁層で被覆する方法としては、電着法が知られている。電着法は、電着工程と焼付工程とを含む。電着工程では、電荷を有する樹脂粒子が分散されている電着液に、導体本体と対向電極とを浸漬し、導体本体と対向電極との間に電圧を印加することによって、樹脂粒子を導体本体の表面に電着させて電着層を形成する。焼付工程では、電着層を加熱して、電着層を導体本体に焼き付けることによって絶縁層を形成する。
【0004】
電着法には、アニオン性基を有する樹脂からなる樹脂粒子を用いるアニオン電着と、カチオン性基を有する樹脂からなる樹脂粒子を用いる電着をカチオン電着とがある。アニオン電着では、導体本体を陽極とし、対向電極を陰極として電圧を印加する。カチオン電着では、導体本体を陰極とし、対向電極を陽極として電圧を印加する。例えば、特許文献1には、絶縁層の材料として、分子骨格中にシロキサン結合を有し、分子中にアニオン性基を有するブロック共重合ポリイミドを用いた電着液(電着塗料組成物)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂をアニオン電着で成膜した絶縁層は耐熱性が高く、可撓性が高いことから、高耐熱のエナメル線に使用されている。しかしながら、アニオン電着では、電着中に陽極である導体本体の表面でプロトンが生成し、導体本体の周囲の電着液のpHが低下することがあるという問題がある。電着液のpHが低下して電着液が酸性となると、電着液に導体本体のアルミニウムが溶出し、水素ガスが発生することがある。電着中に水素ガスが発生すると、電着層中に水素ガスが混入し、膜中に気泡が混入することによる外観不良が生じやすくなる。アニオン電着を用いてアルミニウム基材にこのポリアミドイミド樹脂を被覆すると、電着直後の電着層に、この気泡が原因と考えられる外観異常が発生し、焼付後、絶縁層に凹凸や発泡が生じることがある。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、アニオン電着による製造が可能で、表面が平滑で凹凸の少ない絶縁層で被覆された絶縁性アルミニウム合金導体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の絶縁性アルミニウム合金導体は、アルミニウム合金からなる導体本体と、前記導体本体を被覆する絶縁層とを含む絶縁性アルミニウム合金導体であって、前記導体本体のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内であり、Mgの含有量は1.8質量%以下であり、前記絶縁層は、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有することを特徴とする。
【0009】
このような構成とされた絶縁性アルミニウム合金導体によれば、絶縁層は、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有するので、アニオン電着によって製造することができる。そして、導体本体のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内とされているので、絶縁性アルミニウム合金導体をアニオン電着によって製造する際の電着工程において、導体本体の周囲の電着液のpHが低下して、電着液が酸性となったときでも導体本体からアルミニウムが溶出しにくくなる。これにより、アルミニウムの溶出によって発生する水素ガスの量が減少するので、電着層の外観不良が低減する。さらに、導体本体のMgの含有量は1.8質量%以下とされていて、アルミニウムよりもイオン化傾向の高いMgの含有量が少ないので、電着液が酸性となったときでも導体本体からアルミニウムがより溶出しにくくなる。よって、上記のような構成とされた絶縁性アルミニウム合金導体は、絶縁層の表面が平滑で、凹凸が少ない。
【0010】
ここで、本発明の絶縁性アルミニウム合金導体においては、前記導体本体のSiの含有量が、0.5質量%以上11.0質量%以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合、導体本体のSiの含有量が、0.5質量%以上11.0質量%以下の範囲内にあるので、絶縁性アルミニウム合金導体をアニオン電着によって製造する際の電着工程において、電着液が酸性となったときでも導体本体からアルミニウムがより溶出しにくくなる。
【0011】
また、本発明の絶縁性アルミニウム合金導体においては、前記導体本体のMgの含有量が0.8質量%以上1.3質量%以下の範囲内にある構成とされていてもよい。
この場合、導体本体のMgの含有量が0.8質量%以上であるので、導体本体の硬度が高くなり、加工性が向上する。また、導体本体のMgの含有量が1.3質量%以下であるので、電着液が酸性となったときでも導体本体からアルミニウムがさらに溶出しにくくなる。
【0012】
本発明の絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法は、アニオン電着により、アルミニウム合金からなる導体本体の表面に樹脂粒子を電着させて、電着層付き導体本体を得る電着工程と、前記電着層付き導体本体を加熱して、前記電着層を前記導体本体に焼き付けて絶縁層を形成し、絶縁性アルミニウム合金導体を得る焼付工程と、を含む絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法であって、前記導体本体のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内であり、Mgの含有量は1.8質量%以下であり、前記電着工程において、前記導体本体は、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有する樹脂粒子を含む電着液に浸漬されることを特徴とする。
【0013】
このような構成とされた絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法によれば、電着液がカルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有する樹脂粒子を含むので、アニオン電着によって電着層を形成することができる。そして、導体本体のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内とされているので、電着工程において、導体本体の周囲の電着液のpHが低下して、電着液が酸性となったときでも導体本体からアルミニウムが溶出しにくくなる。これにより、アルミニウムの溶出によって発生する水素ガスの量が減少するので、電着層の外観不良が低減する。さらに、導体本体のMgの含有量は1.8質量%以下とされていて、アルミニウムよりもイオン化傾向の高い金属の含有量が少ないので、電着液が酸性となったときでも導体本体からアルミニウムがより溶出しにくくなる。よって、上記のような構成とされた製造方法によって、絶縁層の表面が平滑で、凹凸が少ない絶縁性アルミニウム合金導体を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によればアニオン電着による製造が可能で、表面が平滑で凹凸の少ない絶縁層で被覆された絶縁性アルミニウム合金導体及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る絶縁性アルミニウム合金導体の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法で用いることができる電着装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態である絶縁性アルミニウム合金導体およびその製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る絶縁性アルミニウム合金導体の断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る絶縁性アルミニウム合金導体10は、導体本体11と、導体本体11を被覆する絶縁層12とを含む。
【0018】
導体本体11は、アルミニウム合金からなる。
アルミニウム合金はSiを含む。Siは、アルミニウム合金を化学的に安定化させ、酸に溶解しにくくする作用がある。また、Siは、アルミニウム合金の強度を向上させる作用がある。一方、Siの含有量が多くなりすぎると、アルミニウム合金の強度が高くなりすぎて、加工性が低下するおそれがある。このため、本実施形態では、導体本体11のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内とされている。導体本体11のSiの含有量は0.5質量以上11.0質量%以下の範囲内にあることが好ましく、0.8質量以上11.0質量%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0019】
アルミニウム合金はMgを含んでいてもよい。Mgは、アルミニウム合金を軽量化すると共に硬度を向上させる作用がある。一方、Mgは、イオン化傾向がアルミニウムよりも高い。このためMgの含有量が多くなりすぎると、アルミニウム合金が酸に溶解しやすくなる。このため、本実施形態では、導体本体11のMgの含有量は1.8質量%以下とされている。アルミニウム合金の酸への溶解性の観点から、Mgの含有量は1.3質量%以下であることが好ましい。また、アルミニウム合金の硬度の向上の観点から、導体本体11のMgの含有量が0.8質量%以上であることが好ましい。
【0020】
アルミニウム合金は、Li、K、Ca、Naの含有量がそれぞれ0.1質量%以下であることが好ましい。これらの金属は、イオン化傾向がアルミニウムよりも高い。このためこれらの金属の含有量が多くなりすぎると、アルミニウム合金が酸に溶解しやすくなるおそれがある。
【0021】
アルミニウム合金としては、Al-Cu系合金、Al-Mn系合金、Al-Si系合金。Al-Mg-Si系合金を用いることができる。Al-Cu系合金としては、A2024などの2000番系合金を用いることができる。Al-Mn系合金としては、A3003などの3000番系合金を用いることができる。Al-Si系合金としては、A4032などの4000番系合金を用いることができる。Al-Mg-Si系合金としては、A6061などの6000番系合金を用いることができる。これらの合金の中では、6000番系合金が好ましい。
【0022】
絶縁層12は、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有する。カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂は、アニオン電着により、導体本体11の表面に電着させたものであってもよい。アニオン電着により電着されたカルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂は、導体本体11との密着性が高い。このため、絶縁層12は耐熱性が高くなる。また、絶縁層12は可撓性が高くなるので、導体本体11を変形加工しても剥離が起こりにくい。
【0023】
絶縁性アルミニウム合金導体10の形状は特に制限はなく、例えば、線状、円柱状、平方角柱状、コイル状などの形状であってもよい。また、絶縁層12の膜厚は特に制限はなく、例えば、5μm以上100μm以下の範囲内であってもよい。
【0024】
次に、本実施形態の絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法を示すフロー図である。
図2に示すように、本実施形態に係る絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法は、脱脂工程S01と、電着工程S02、焼付工程S03を含む。
【0025】
脱脂工程S01は、導体本体11の表面に付着している油脂を取り除く工程である。油脂を取り除く方法としては、例えば、導体本体11を脱脂剤に浸漬する方法を採用することができる。脱脂剤としては、有機溶剤や界面活性剤を用いることができる。例えば、本実施形態では、液温が20℃程度の脱脂剤(ネオサンデップS、日本マルセル株式会社製)を10質量%含む脱脂剤水溶液に、基材を1分間浸漬することにより、基材の表面に付着した油脂を溶解除去した。
【0026】
導体本体11は、表面粗さRaが2.0μm以下であることが好ましい。表面粗さRaが2.0μm以下の表面が平滑な導体本体11を用いることにより、次の電着工程S02において、発生した気泡が導体本体11の表面に付着しにくくなる。
【0027】
電着工程S02は、アニオン電着により、アルミニウム合金からなる導体本体11の表面に樹脂粒子を電着させて、電着層付き導体本体11を得る工程である。
図3は、本発明の一実施形態に係る絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法で用いることができる電着装置の構成図である。
図3に示す電着装置20は、電着槽21と電源22とを有する。電着槽21は、電着液30が貯留されている。電着液30には、導体本体11と対向電極23が浸漬されている。電源22は、導体本体11と対向電極23に接続されている。
【0028】
電着液30は、樹脂粒子31と溶媒32を含む。
樹脂粒子31は、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有する。樹脂粒子31は、負に帯電している。樹脂粒子31の粒子径は特に制限はないが、例えば、メジアン径で50nm以上500nm以下の範囲内にあってもよい。電着液の樹脂粒子31の含有率は特に制限はないが、例えば、1質量%以上10質量%以下の範囲内であり、好ましくは1.5質量%以上5質量%以下の範囲内である。
【0029】
溶媒32は、有機溶媒と、水と、疎水性塩基とを含んでいてもよい。
有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,3ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)などの極性溶剤を用いることができる。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。また、疎水性塩基は、有機溶媒に対して親和性を有することが好ましい。疎水性塩基の例としては、トリ-n-プロピルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジベンジルアミン、デシルアミン、オクチルアミン、ヘキシルアミン、ジアミルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミントリアミルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリベンジルアミン、アニリン等を挙げることができる。これらの疎水性塩基は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。有機溶媒と水との合計量に対する有機溶媒の含有率は、例えば、10質量%以上87質量%以下の範囲内である。疎水性塩基の含有率は、例えば、電着液30に対して0.02質量%以上0.1質量%以下の範囲内である。
【0030】
電着液30は、例えば、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂と、ポリアミドイミド樹脂を溶解可能な有機溶媒と、疎水性塩基とを混合して調製したポリアミドイミド樹脂溶液に、ポリアミドイミド溶液の貧溶媒である水を加えることによって得ることができる。
【0031】
電着液30は、さらにフッ素樹脂粒子を含んでいてもよい。フッ素樹脂粒子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)粒子、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)粒子を挙げることができる。電着液のフッ素樹脂粒子の含有率は特に制限はないが、例えば、電着液30に対して0.5質量%以上10質量%以下の範囲内であり、樹脂粒子31(ポリアミドイミド樹脂粒子)に対して100質量%以上1000質量%以下の範囲内である。
【0032】
電着工程S02では、電着液30に浸漬させた導体本体11を陽極とし、対向電極23を陰極として、電源22を用いて直流電圧を印加する。印加する直流電圧は、1V以上600V以下の範囲内にあることが好ましい。直流電圧を印加することによって、電着液30中の樹脂粒子31が導体本体11の表面に電着して電着層が生成する。
【0033】
焼付工程S03は、電着層付き導体本体11を加熱して、電着層を導体本体11に焼き付けて絶縁層を形成し、絶縁性アルミニウム合金導体を得る工程である。焼付温度は、電着層中のポリアミドイミド樹脂が硬化して、基材に絶縁層が形成される温度範囲であればよく、200℃以上450℃以下の範囲内にすればよい。また、焼付時間は、例えば、1分間以上60分間以下の範囲内であればよい。
【0034】
電着層を導体本体に焼き付ける前に、電着層付き導体本体11に付着している電着液30を除去してもよい。電着液30を除去する方法としては、電着層付き導体本体11に圧縮空気を吹き付けて電着液30を吹き飛ばす方法、電着層付き導体本体11を電着層が生成する温度よりも低い温度で加熱して電着液30を揮発させる方法を用いることができる。
【0035】
以上のような工程を経て、導体本体11の表面に、ポリアミドイミド樹脂を含む絶縁層12を形成することができる。なお、導体本体11の表面に油脂が付着していない場合、脱脂工程S01は省略してもよい。
【0036】
以上のような構成とされた絶縁性アルミニウム合金導体10によれば、絶縁層12は、カルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有するので、アニオン電着によって製造することができる。そして、導体本体11のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内とされているので、絶縁性アルミニウム合金導体10をアニオン電着によって製造する際の電着工程S02において、導体本体11の周囲の電着液30のpHが低下して、電着液30が酸性となったときでも導体本体11からアルミニウムが溶出しにくくなる。これにより、アルミニウムの溶出によって発生する水素ガスの量が減少するので、電着層の外観不良が低減する。さらに、導体本体11のMgの含有量は1.8質量%以下とされているので、電着液30が酸性となったときでも導体本体11からアルミニウムがより溶出しにくくなる。よって、上記のような構成とされた絶縁性アルミニウム合金導体10は、絶縁層12の表面が平滑で、凹凸が少ない。
【0037】
また、本発明の絶縁性アルミニウム合金導体において、導体本体11のSiの含有量が、0.5質量%以上11.0質量%以下の範囲内にある場合は、絶縁性アルミニウム合金導体10をアニオン電着によって製造する際の電着工程において、電着液が酸性となったときでも導体本体11からアルミニウムがより溶出しにくくなる。
【0038】
また、本発明の絶縁性アルミニウム合金導体10において、導体本体11のMgの含有量が1.3質量%以下である場合は、電着液が酸性となったときでも導体本体11からアルミニウムがさらに溶出しにくくなる。また、本実施形態の絶縁性アルミニウム合金導体10において、導体本体11のMgの含有量が0.8質量%以上とされている場合は、導体本体11の硬度が高くなる。
【0039】
また、本実施形態の絶縁性アルミニウム合金導体の製造方法によれば、電着液30がカルボキシル基を有するポリアミドイミド樹脂を含有する樹脂粒子31を含むので、アニオン電着によって電着層を形成することができる。そして、導体本体11のSiの含有量は0.3質量%以上13.5質量%以下の範囲内とされているので、電着工程S02において、導体本体11の周囲の電着液30のpHが低下して、電着液30が酸性となったときでも導体本体11からアルミニウムが溶出しにくくなる。これにより、アルミニウムの溶出によって発生する水素ガスの量が減少するので、電着層の外観不良が低減する。さらに、導体本体11のMgの含有量は1.8質量%以下とされているので、電着液30が酸性となったときでも導体本体11からアルミニウムがより溶出しにくくなる。よって、本実施形態の製造方法によって、絶縁層12の表面が平滑で、凹凸が少ない絶縁性アルミニウム合金導体10を製造することが可能となる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0041】
[本発明例1]
(電着液の調製)
NMP(N-メチル-2-ピロリドン)に、カルボキル基含有ポリアミドイミド(PAI)を溶解して、PAI濃度が20質量%のPAIワニスを得た。得られたPAIワニスに、NMPとトリ-n-プロピルアミンと水を加えてPAI粒子を析出させて、PAI粒子:NMP:水:トリ-n-プロピルアミン=2.0質量%:79質量%:18.95質量%:0.05質量%の電着液を調製した。
【0042】
(脱脂工程)
アルミニウム合金導体として、Siの含有量が0.5質量%で、Mgの含有量が1.8質量%で、残部Alのアルミニウム合金からなる導体本体(A2024、横幅:1cm、縦幅:10cm、厚み:0.3cm)を用意した。導体本体を切削加工して、表面粗さRaを2μmとした。切削加工した導体本体を、脱脂剤(ネオサンデップS、日本マルセル株式会社製)を10質量%含む脱脂剤水溶液に1分間浸漬した。浸漬後、脱脂剤から導体本体を取り出して、水洗した後、表面の水分を拭き取った。こうして、導体本体を脱脂した。
【0043】
(電着工程)
攪拌機と調温器とを備えた電着槽に、上記(1)で調製した電着液を投入した。この電着液に、純銅製の円筒型対向電極(直径:5cm、縦幅:15cm、厚み:0.3mm)を浸漬した。次いで、円筒型対向電極の中央に上記(2)で脱脂した導体本体を浸漬した。さらに、電着液に、スターラーと投げ込み式調温器を投入した。
【0044】
電着液の液温を10℃に調節した。次いで、電着液を撹拌しながら、導体本体を陽極とし、円筒型対向電極を陰極として、100Vの電圧を20秒間印加して、導体本体の表面にPAI樹脂粒子を付着させて、電着層付き導体本体を得た。
【0045】
(焼付工程)
電着槽から電着層付き導体本体を取り出して、電着層を水で洗浄した。次いで、洗浄後の電着層付き導体本体を100℃で10分間加熱して電着層を乾燥した後、220℃で30分間加熱して電着層を導体本体に焼き付けた。
【0046】
こうして、絶縁性アルミニウム合金導体を製造した。得られた絶縁性アルミニウム合金導体の絶縁層の厚さは、34μmであった。
【0047】
[本発明例2~6、比較例1~3]
導体本体として、化学組成が下記の表1に記載されているものを用いたこと以外は、本発明例1と同様にして、絶縁性アルミニウム合金導体を製造した。得られた絶縁性アルミニウム合金導体の絶縁層の厚さは、本発明例1で得られたものと同様に34μmであった。
【0048】
[評価]
本発明例2~6及び比較例1~3で得られた絶縁性アルミニウム合金導体に対して、下記の評価を実施した。その結果を下記の表1に示す。
【0049】
(絶縁層の発泡)
得られた絶縁性アルミニウム合金導体の両面の絶縁層の外観を、光学顕微鏡を用いて観察して、絶縁層の発泡の数を計測した。絶縁層1cm2当たりの発泡の数が、9個以下であった場合を「◎」とし、10個以上29個以下であった場合を「〇」とし、30個以上59個以下であった場合を「△」とし、60個以上であった場合を「×」とした。
【0050】
(硬度)
得られた絶縁性アルミニウム合金導体の硬度として、ブリネル硬さを評価した。評価は、絶縁性アルミニウム合金導体の絶縁層が形成されていない部分のブリネル硬さを測定することによって行った。ブリネル硬さの測定は、JIS Z 2243-1:2018(ブリネル硬さ試験-第1部:試験方法)に従って行った。ブリネル硬さが70以上の場合を「〇」とし、20以上70未満の場合を「△」とし、20未満の場合を「×」とした。
【0051】
【0052】
導体本体のSiの含有量とMgの含有量が本発明の範囲内にある本発明例1~6で得られた絶縁性アルミニウム合金導体はいずれも、絶縁層の発泡が低減した。また、導体本体のMgの含有量が0.8質量%以上である本発明例1、3、4で得られた絶縁性アルミニウム合金導体は、硬度が高くなった。これに対して、導体本体のSiの含有量が本発明の範囲よりも少ない比較例1で得られた絶縁性アルミニウム合金導体は、絶縁層の発泡が多く、硬度は低くなった。また、導体本体のSiの含有量が本発明の範囲よりも少なく、Mgの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例2で得られた絶縁性アルミニウム合金導体は、硬度は高いものの絶縁層の発泡が多くなった。また、導体本体のSiの含有量が本発明の範囲内にあって、Mgの含有量が本発明の範囲よりも多い比較例3で得られた絶縁性アルミニウム合金導体は、比較例2と同様に、硬度は高いものの絶縁層の発泡が多くなった。
【符号の説明】
【0053】
10 絶縁性アルミニウム合金導体
11 導体本体
12 絶縁層
20 電着装置
21 電着槽
22 電源
23 対向電極
30 電着液
31 樹脂粒子
32 溶媒