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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】熱負荷記憶装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/62 20160101AFI20241008BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241008BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H02P29/62
B60L3/00 N
G01N17/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021157462
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048263
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克也
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-20266(JP,A)
【文献】特開2016-111734(JP,A)
【文献】国際公開第2004/082114(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0276165(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/62
B60L 3/00
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの熱負荷を記憶する熱負荷記憶装置であって、
前記モータを搭載するモータ搭載機器をシステム起動してからシステム停止するまでの期間としての機器使用期間毎の前記モータの最低温度と最高温度との差分としての使用時差分を演算し、
前記モータ搭載機器をシステム停止している期間としての機器非使用期間毎の前記モータの最低温度と最高温度との差分としての非使用時差分を演算し、
前記モータの最低温度と最高温度との差分の範囲として予め定められた温度区間毎に、演算した前記機器使用期間毎の前記使用時差分及び前記機器非使用期間毎の前記非使用時差分が前記温度区間に含まれる頻度を計数し、
前記温度区間と、計数した前記温度区間毎の前記頻度と、を前記熱負荷として記憶する
熱負荷記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱負荷記憶装置に関し、詳しくは、モータの熱負荷を記憶する熱負荷記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の記憶装置として、負荷サイクル振幅と負荷サイクル時間とを演算し、演算した負荷サイクル振幅と負荷サイクル時間とを用いて、ガスタービン機関の構成部品の疲労寿命消耗を求める装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。負荷サイクル振幅は、ガスタービン機関のコールドスタートから最大負荷勾配で全負荷に至る際の振幅より小さい振幅での構成部品の温度の最大値(極大値)と最小値(極小値)との差である。負荷サイクル時間は、構成部品の温度が最大値と最小値との間の変化に要する時間である。この装置では、こうした負荷サイクル振幅と負荷サイクル時間とを用いてガスタービン機関の構成部品の疲労寿命消耗を求めることにより、構成部品の小刻みに(短時間に複数回)発生する温度の上昇または下降を考慮して、構成部品の疲労寿命消耗を求めることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-187497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータを搭載するモータ搭載機器では、モータの劣化の程度を推定するために過去にモータに加えられた熱負荷を記憶することが重要な課題として認識されている。モータの熱負荷を記憶する手法として、上述の装置と同様に、モータの使用中に負荷サイクル振幅と負荷サイクル時間と演算し、演算した負荷サイクル振幅と負荷サイクル時間とから熱負荷を逐一演算する方法を用いることが考えられる。しかしながら、モータの駆動中は、加速などによるモータの負荷の増加によるモータの温度上昇とモータの負荷の低下などによるモータの温度の低下が発生し、モータの温度が小刻みに(短時間で複数回)変化する。そのため、上述の装置と同様の手法でモータの熱負荷を記憶すると、負荷サイクル振幅と負荷サイクル時間とを演算するための演算負荷が増大してしまう。また、モータ搭載機器がシステム停止している間もモータの温度変化がありモータの劣化が進むが、システム停止中については考慮されていない。
【0005】
本発明の熱負荷記憶装置は、演算負荷の増大を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱負荷記憶装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の熱負荷記憶装置は、
モータの熱負荷を記憶する熱負荷記憶装置であって、
前記モータを搭載するモータ搭載機器をシステム起動してからシステム停止するまでの期間としての機器使用期間毎の前記モータの最低温度と最高温度との差分としての使用時差分を演算し、
前記モータ搭載機器をシステム停止している期間としての機器非使用期間毎の前記モータの最低温度と最高温度との差分としての非使用時差分を演算し、
前記モータの最低温度と最高温度との差分の範囲として予め定められた温度区間毎に、演算した前記機器使用期間毎の前記使用時差分及び前記機器非使用期間毎の前記非使用時差分が前記温度区間に含まれる頻度を計数し、
前記温度区間と、計数した前記温度区間毎の前記頻度と、を前記熱負荷として記憶する
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の熱負荷記憶装置では、モータを搭載するモータ搭載機器をシステム起動してからシステム停止するまでの期間としての機器使用期間毎のモータの最低温度と最高温度との差分としての使用時差分を演算する。また、モータ搭載機器をシステム停止している期間としての機器非使用期間毎の前記モータの最低温度と最高温度との差分としての非使用時差分を演算する。そして、モータの最低温度と最高温度との差分の範囲として予め定められた温度区間毎に、演算した機器使用期間毎の使用時差分及び機器非使用期間毎の非使用時差分が温度区間に含まれる頻度を計数する。さらに、温度区間と、計数した温度区間毎の頻度と、を熱負荷として記憶する。この結果、モータ搭載機器の使用中において小刻みに発生するモータの温度変化量を逐一演算するものに比して、演算負荷の増大を抑制できる。
【0009】
こうした本発明の熱負荷記憶装置では、前記モータ搭載機器をシステム起動した直後の前記モータの温度を前記モータの最低温度としてもよい。モータの温度は、モータ搭載機器をシステム停止したときのモータの温度が外気温より高いときには、システム停止した直後から外気温に向けて徐々に低下し、モータ搭載機器をシステム起動する直前または直後に最低温度となり、その後モータの使用に伴って温度が上昇すると考えられる。したがって、モータ搭載機器をシステム起動した直後のモータの温度を機器使用期間及びその直前の機器非使用期間のモータの最低温度とすることにより、より簡便にモータの最低温度を定めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施例としての熱負荷記憶装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】車両ECU60により実行される第1処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図3】頻度テーブルの一例を示す説明図である。
図4】車両ECU60により実行される第2処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図5】システムの状態と実際のモータの温度の時間変化の一例を説明するための説明図である。
図6】実施例の他の頻度テーブルの一例を示す説明図である。
図7】比較例の頻度テーブルの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0012】
図1は、本発明の一実施例としての熱負荷記憶装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。図示するように、実施例の電気自動車20は、走行用のモータ32と、インバータ34と、システムメインリレー(SMR)38と、バッテリ40と、補機バッテリ50と、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)42と、車両用電子制御ユニット(以下、「車両ECU」という)60と、電源用電子制御ユニット(以下、「電源ECU」という)64と、を備える。実施例の熱負荷記憶装置としては、主として、車両ECU60が該当する。
【0013】
モータ32は、例えば同期発電電動機として構成されており、モータ32の回転子は、駆動輪22に動力を伝達する動力伝達機構24に接続されている。インバータ34は、モータ32に接続されると共に電力ライン36に接続されている。モータ32は、車両ECU60によってインバータ34の図示しない複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0014】
システムメインリレー38は、電力ライン36に設けられており、オンオフにより電力ライン36の遮断及び遮断の解除を行なう。システムメインリレー38は、車両ECU60により制御されている。
【0015】
バッテリ40は、例えばリチウムイオン二次電池またはニッケル水素電池として構成されており、電力ライン36に接続されている。
【0016】
補機バッテリ50は、例えばニッケル水素二次電池または鉛蓄電池として構成されており、バッテリ40より定格電圧が低く、電力ライン51に接続されている。電力ライン51は、電源ECU64に接続されている。また、電力ライン51は、DC/DCコンバータ52を介して電力ライン36に接続されると共に、リレー54を介して車両ECU60に接続されている。
【0017】
車両ECU60は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロプロセッサを備える。
【0018】
車両ECU60には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。車両ECU60に入力される信号としては、例えば、モータ32の回転子の回転位置を検出する回転位置センサ(例えばレゾルバ)からのモータ32の回転子の回転位置θmや、モータ32の温度を検出する温度センサ32aからのモータ温度Tmo、バッテリ40の端子間に取り付けられた電圧センサ40aからのバッテリ40の電圧Vbや、バッテリ40の出力端子に取り付けられた電流センサ40bからのバッテリ40の電流Ibを挙げることができる。なお、車両ECU60は、車両の駆動制御装置としても機能するため、車両ECU60には、シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサからのシフトポジションや、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサからのアクセル開度、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサからのブレーキペダルポジションBP、車速センサからの車速も挙げることができる。
【0019】
車両ECU60からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。車両ECU60から出力される信号としては、例えば、インバータ34の複数のスイッチング素子への制御信号や、システムメインリレー38への制御信号を挙げることができる。車両ECU60は、電源ECU64と通信ポートを介して通信可能に接続されている。車両ECU60は、電流センサ40bからのバッテリ40の電流Ib(バッテリ40から放電するときが正の値)の積算値に基づいてバッテリ40の蓄電割合SOCを演算している。
【0020】
電源ECU64は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロプロセッサを備える。
【0021】
電源ECU64には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。電源ECU64に入力される信号としては、例えば、パワースイッチ62からのスタート信号や、ブレーキペダルポジションセンサからのブレーキペダルポジションBPを挙げることができる。
【0022】
電源ECU64からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。電源ECU64から出力される信号としては、例えば、リレー54への制御信号を挙げることができる。電源ECU64は、上述したように、車両ECU60と通信ポートを介して通信可能に接続されている。電源ECU64は、車両がシステム起動しているか否かに拘わらず、補機バッテリ50から電力の供給を受けて作動する。
【0023】
こうして構成された実施例の熱負荷記憶装置を搭載する電気自動車20では、電源ECU64は、車両ECU60にオフのイグニッション信号を送信しているときに、ブレーキペダルが踏み込まれていない状態でパワースイッチ62が操作されると、リレー54をオンすると共にイグニッション信号をオフからオンに切り替えることにより、車両ECU60への電力の供給開始とシステム起動指示を行なう。イグニッション信号がオフからオンに切り替わると、車両ECU60は、システムメインリレー38をオンしてシステムを起動する。
【0024】
電源ECU64は、車両ECU60にオンのイグニッション信号を送信しているときに、パワースイッチ62が操作されると、イグニッション信号をオンからオフに切り替えることにより、車両ECU60にシステム停止指示を行なう。イグニッション信号をオンからオフに切り替わると、車両ECU60は、システムメインリレー38をオフしてシステムを停止すると共にシステム停止信号を電源ECU64に送信する。システム停止信号を受信した電源ECU64は、リレー54をオフして補機バッテリ50から車両ECU60への電力の供給を停止する。
【0025】
次に、実施例の熱負荷記憶装置を搭載する電気自動車20の動作、特に、モータ32の熱負荷を記憶する際の動作について説明する。最初に、トリップ毎(機器使用期間毎)の熱負荷を記憶する際の動作について説明し、次に、システム停止毎(機器非使用期間毎)の熱負荷を記憶する際の動作について説明する。なお、「トリップ」とは、電源ECU64からのイグニッション信号がオフからオンに切り替わって、車両ECU60が車両のシステム起動を開始してから、電源ECU64からのイグニッション信号がオンからオフに切り替わって車両ECU60が車両のシステム停止を完了するまでの期間のことである。
【0026】
最初に、トリップ毎(機器使用期間毎)の熱負荷を記憶する際の動作について説明する。図2は、車両ECU60により実行される第1処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、電源ECU64からのイグニッション信号がオフからオンに切り替わって車両ECU60が車両のシステム起動を開始したとき、つまり、トリップを開始したときに実行を開始する。
【0027】
第1処理ルーチンが実行されると、車両ECU60の図示しないCPUは、モータ温度Tmoを入力する処理を実行する(ステップS100)。モータ温度Tmoは、温度センサ32aにより検出された値を入力している。
【0028】
続いて、入力したモータ温度Tmoを今回のトリップでのモータ32の最低温度Tmlow1に設定する(ステップS110)。入力したモータ温度Tmoを最低温度Tmlow1に設定するのは、トリップが開始されてモータ32が駆動を開始するとトリップ中はトリップ開始時に比してモータ32の温度が高くなるから、トリップ開始直後のモータ温度Tmoを今回のトリップでのモータ32の最低温度Tmlow1に設定しても差し支えないことに基づく。
【0029】
次に、ステップS110で入力したモータ温度Tmoを仮最高温度Tmhtmpに設定する(ステップS120)。そして、ステップS100と同様の処理でモータ温度Tmoを入力し(ステップS130)、ステップS130で入力したモータ温度Tmoが仮最高温度Tmhtmpより高いか否かを判定する(ステップS140)。ステップS130で入力したモータ温度Tmoが仮最高温度Tmhtmp以下のときには、ステップS160に進み、モータ温度Tmoが仮最高温度Tmhtmpより高いときには、仮最高温度TmhtmpをステップS130のモータ温度Tmoに更新して(ステップS150)、ステップS160に進む。そして、電源ECU64からのイグニッション信号をオンからオフに切り替えられたか否か、即ち、システム停止指示がなされたか否かを判定し(ステップS160)、システム停止指示がないときには、システム停止指示がなされるまで、ステップS130~S160を繰り返し実行する。こうした処理により、仮最高温度Tmhtmpを、トリップが開始されてから最も高いモータ温度Tmoに設定することになる。
【0030】
ステップS160でシステム停止指示がなされたと判定したときには、仮最高温度Tmhtmpを今回のトリップでの最高温度Tmhighに設定し(ステップS170)、次式(1)を用いて、今回のトリップ(機器使用期間)でのモータ32の最低温度Tmlow1と最高温度Tmhighとの差分としての使用時差分ΔTmo1を演算する(ステップS180)。
【0031】
ΔTmo1=|Tmhigh-Tmlow1| ・・・(1)
【0032】
こうして使用時差分ΔTmo1を演算すると、車両ECU60の図示しないフラッシュメモリに記憶されている頻度テーブルにおいて、使用時差分ΔTmo1が含まれる温度区間の回数(頻度)を値1だけ増加させて(ステップS190)、第1処理ルーチンを終了する。図3は、頻度テーブルの一例を示す説明図である。頻度テーブルは、例えば、モータ32の最低温度と最高温度との差分の範囲として予め定められた10℃毎の温度区間(区間A~G)と、演算した使用時差分ΔTmo1と後述する非使用時差分ΔTmo2とが温度区間に含まれる回数(頻度)を温度区間毎に計数した値と、から構成されている。例えば、使用時差分ΔTmo1が値7のときには、使用時差分ΔTmo1が値7が含まれる区間Aの回数(頻度)を値1だけ増加させる。使用時差分ΔTmo1は、トリップ中(機器使用期間)のモータ32に加わった熱衝撃による熱負荷に相当する。したがって、車両がシステム起動する度に図2の第1処理ルーチンを実行することにより、トリップ毎(機器使用期間毎)にモータ32に加わった熱衝撃による熱負荷を頻度テーブルとして車両ECU60に記憶させることができる。
【0033】
次に、システム停止中(機器非使用期間中)の熱負荷を記憶する際の動作について説明する。図4は、車両ECU60により実行される第2処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、電源ECU64からのイグニッション信号がオフからオンに切り替わって車両ECU60が車両のシステム起動を開始したとき、つまり、トリップを開始したときに、図2に例示した第1処理ルーチンと並行して実行を開始する。
【0034】
第2処理ルーチンが実行されると、車両ECU60の図示しないCPUは、第1処理ルーチンのステップS100と同様の処理で、モータ温度Tmoを入力する処理を実行する(ステップS200)。そして、入力したモータ温度Tmoを今回のトリップの直前、つまり、今回のトリップと前回のトリップとの間のシステム停止期間(機器非使用期間)でのモータ32の最低温度Tmlow2に設定する(ステップS210)。
【0035】
ここで、システム起動直後のモータ温度Tmoを最低温度Tmlow2に設定する理由について説明する。図5は、システムの状態と実際のモータの温度の時間変化の一例を説明するための説明図である。実施例では、システム停止中には、補機バッテリ50から車両ECU60への電力供給が停止されるから、温度センサ32aにより検出されたモータ温度Tmoを車両ECU60に入力できない。モータ温度は、図示するように、システムを起動した直後は低く(黒塗りの四角印)、システム起動中は、モータ32の駆動の開始に伴って上昇し、モータ32の駆動状態に応じたタイミングで極大値(黒塗りの丸印)となる。そして、システム停止すると、モータ32の駆動が停止するから、モータ32の温度が外気温より高い場合には時間の経過と共に下降し、システム起動前後で最も低い温度になると考えられる。したがって、システム起動した直後のモータ温度Tmoを最低温度Tmlow2に設定することにより、温度センサ32aにより検出されたモータ温度Tmoを車両ECU60に入力できないシステム停止中に車両ECU60に電源を供給することなく、適正に、最低温度Tmlow2を設定することができる。
【0036】
こうしてモータ32の最低温度Tmlow2を設定すると、次式(2)を用いて、システム停止している期間(機器非使用期間)のモータ32の最低温度Tmlow2と最高温度Tmhigh2との差分としての非使用時差分ΔTmo2を演算する(ステップS220)。式(2)中、「前回Tmhigh」は、1つ前のトリップ中、即ち、今回のシステム停止の直前のトリップにおいて実行された第1処理ルーチンのステップS170で設定した最高温度Tmhighである。こうした処理により、温度センサ32aにより検出されたモータ温度Tmoを車両ECU60に入力できないシステム停止している期間において車両ECU60に非使用時差分ΔTmo2を検出するためだけに電源を供給することなく、モータ32の最高温度と最低温度との差分を演算できる。
【0037】
ΔTmo2=|前回Tmhigh-Tmlow2| ・・・(2)
【0038】
こうして非使用時差分ΔTmo2を演算すると、図3に例示した頻度テーブルにおいて非使用時差分ΔTmo2が含まれる温度区間の回数(頻度)を値1だけ増加させて(ステップS230)、第2処理ルーチンを終了する。非使用時差分ΔTmo2は、システム停止中(機器非使用期間)においてモータ32に加わった熱衝撃による熱負荷に相当する。したがって、車両がシステム起動する度に図4の第2処理ルーチンを実行することにより、システム停止する毎(機器非使用期間毎)にモータ32に加わった熱衝撃による熱負荷を頻度テーブルとして車両ECU60に記憶させることができる。このように、実施例では、トリップ中(機器使用期間中)の熱衝撃による熱負荷と共にシステム停止中(機器非使用期間中)の熱衝撃による熱負荷を頻度テーブルとして車両ECU60に記憶させることができる。こうした頻度テーブルを車両ECU60に記憶させる際に、温度差分の演算は、トリップ中に第1処理ルーチンのステップS180、第2処理ルーチンのステップS220の2回行なえばよいから、システム起動時においてモータ32の温度が小刻みに上昇または下降する際の温度変化量を逐一演算するものに比して、演算負荷の増大を抑制できる。
【0039】
こうして頻度テーブルを記憶すると、頻度テーブルを用いて、下記の方法でモータ32の劣化度Detを演算できる。この演算では、モータの熱衝撃に対する保証値は温度差ΔTでNcサイクル(上昇と下降で1サイクル)であり、モータの劣化度は温度差の6乗に比例すると仮定できることを発明者は見出している。図3に例示した頻度テーブルの区間n(nは、A~G)でのモータ32の劣化度De(n)は、次式(3)により表すことができる。式(3)中、「N(n)」は、区間nにおける回数(頻度)である。「dMax(n)」は、区間nにおける温度差の最大値であり、例えば、区間Aでは値10、区間Cでは値30となる。モータ32の劣化度Detは、各区間nの劣化度De(n)の和として演算できる。
【0040】
De(n)=N(n)/2/(ΔT/ dMax(n))6・Nc ・・・(3)
【0041】
図6は、実施例の他の頻度テーブルの一例を示す説明図である。図7は、比較例の頻度テーブルの一例を示す説明図である。比較例では、システム起動時においてモータ32の小刻みな温度変化量を計数している。したがって、図6の頻度テーブルと図7の頻度テーブルとを比較すると、図7の頻度テーブルでの区間Aの回数(頻度)が図6に比して多くなっている。実施例では、システムを起動した直後のモータ温度Tmoとしての最低温度Tmlow1とシステム起動中のモータ温度Tmoの最高温度Tmhighとに基づく使用時差分ΔTmo1と、システムを起動した直後のモータ温度Tmoとしての最低温度Tmlow2と前回のシステム起動中のモータ温度Tmoの最高温度Tmhighとに基づく非使用時差分ΔTmo2とから作成した頻度テーブルを用いてモータ32の劣化度De(n)を演算するから、システム起動時においてモータ32の小刻みな温度変化量を計数するものに比して、モータ32の劣化度De(n)の精度が低下すると考えられる。しかしながら、図6図7の頻度テーブルについてモータ32の劣化度Detを算出すると、その違いは、1%未満となる。したがって、実施例では、システム起動時においてモータ32の小刻みな温度変化量を計数するものに比して、モータ32の劣化度De(n)の精度が若干低下するが、大きな低下とはならないと考えられる。
【0042】
以上説明した実施例の熱負荷記憶装置を搭載する電気自動車20によれば、トリップ毎(機器使用期間毎)のモータ32の最低温度Tmlow1と最高温度Tmhighとの差分としての使用時差分ΔTmo1を演算し、システム停止している期間としての機器非使用期間毎のモータ32の最低温度Tmlow2と最高温度Tmhigh2との差分としての非使用時差分ΔTmo2を演算し、モータ32の最低温度と最高温度との差分の範囲として予め定められた温度区間(区間)毎に、演算したトリップ毎の使用時差分ΔTmo1及び機器非使用期間毎の非使用時差分ΔTmo2が温度区間(区間)に含まれる頻度を計数し、温度区間(区間)と、計数した温度区間(区間)毎の頻度と、から構成される頻度テーブルを熱負荷として記憶することにより、演算負荷の増大を抑制できる。
【0043】
実施例の熱負荷記憶装置を搭載する電気自動車20では、システムを起動した直後に検出されたモータ温度Tmoを最低温度Tmlow1に設定している。しかしながら、トリップ中にモータ温度Tmoを逐一検出し、検出した全てのモータ温度Tmoのうち最も低いモータ温度Tmoを最低温度Tmlow1に設定してもよい。
【0044】
実施例の熱負荷記憶装置を搭載する電気自動車20では、ステップS140~S170で、トリップ中のモータ温度Tmoが仮最高温度Tmhtmpより高いときには、仮最高温度Tmhtmpを更新し、システム停止指示があったときの仮最高温度Tmhtmpを最高温度Tmhighに設定している。しかしながら、トリップ中にモータ温度Tmoを逐一検出し、検出したモータ温度Tmoの全てを車両ECU60のRAMに記憶し、記憶した全てのモータ温度Tmoから最も高いモータ温度Tmoを最高温度Tmhighに設定してもよい。
【0045】
実施例の熱負荷記憶装置を搭載する電気自動車20では、モータ32の温度を検出するために温度センサ32aを設けている。しかしながら、温度センサ32aとは別の手段でモータ32の温度を検出または推定できる場合には、温度センサ32aを設けずに、別の手段でモータ32の温度を検出または推定してもよい。
【0046】
実施例では、本発明の熱負荷記憶装置を、モータ32を備える電気自動車に適用している。しかしながら、こうした電気自動車に限定されるものではなく、モータを搭載した機器、例えば、船舶や鉄道などの輸送機器や、農業用機械、建設機械、金属加工機械などの生産機械、家電などに適用しても構わない。
【0047】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、車両ECU60が「熱負荷記憶装置」に相当する。
【0048】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0049】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、熱負荷記憶装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
20 電気自動車、22 駆動輪、24 動力伝達機構、32 モータ、32a 温度センサ、34 インバータ、36 電力ライン、38 システムメインリレー、40 バッテリ、40a 電圧センサ、40b 電流センサ、42 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、50 補機バッテリ、52 DC/DCコンバータ、54 リレー、60 車両用電子制御ユニット(車両ECU)、62 パワースイッチ、64 電源用電子制御ユニット(電源ECU)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7