(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】密閉タンクシステム
(51)【国際特許分類】
B60K 15/03 20060101AFI20241008BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20241008BHJP
F02M 25/08 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B60K15/03 A
F02M37/00 301H
F02M25/08 J
F02M25/08 311Z
(21)【出願番号】P 2021160294
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 智弘
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-034675(JP,A)
【文献】特開平05-255885(JP,A)
【文献】特開2002-168150(JP,A)
【文献】実開昭51-113517(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/03
F02M 37/00
F02M 25/08
F16L 11/04
F16J 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクと、前記燃料タンクと管路によって接続されて蒸発燃料を吸着するキャニスタと、前記管路に設けられた開閉弁と、容積可変装置とを備えた密閉タンクシステムであって、
前記容積可変装置は、
前記燃料タンクの内部空間
に接続される接続口と、
筒状部材の外周に設けられた蛇腹構造部の軸方向長さが、前記燃料タンクの内圧により伸縮することで、前記筒状部材の容積が変化する可変容量部と、
を備え、
前記蛇腹構造部は、前記筒状部材の中心軸に沿った断面において、前記筒状部材の径方向外方に突出した円弧形状の第1部分と、前記第1部分より径方向内側に凹んだ円弧形状の第2部分と、前記第1部分を前記第2部分に特異点なく接続する接続部とを備え、前記第1部分および前記第2部分の円弧形状はそれぞれ中心角が180度より大き
く、
前記管路に、前記容積可変装置の前記接続口が接続された、
密閉タンクシステム。
【請求項2】
燃料タンクと、前記燃料タンクと給油口とを接続する燃料供給管と、
容積可変装置とを備えた密閉タンクシステムであって、
前記容積可変装置は、
前記燃料タンクの内部空間に接続される接続口と、
筒状部材の外周に設けられた蛇腹構造部の軸方向長さが、前記燃料タンクの内圧により伸縮することで、前記筒状部材の容積が変化する可変容量部と、
を備え、
前記蛇腹構造部は、前記筒状部材の中心軸に沿った断面において、前記筒状部材の径方向外方に突出した円弧形状の第1部分と、前記第1部分より径方向内側に凹んだ円弧形状の第2部分と、前記第1部分を前記第2部分に特異点なく接続する接続部とを備え、前記第1部分および前記第2部分の円弧形状はそれぞれ中心角が180度より大きく、
前記燃料供給管に、前記容積可変装置の前記接続口が接続された、
密閉タンクシステム。
【請求項3】
前記筒状部材は、軸方向の一端に前記接続口が設けられ、他端に閉塞壁が設けられる、請求項1
または請求項2記載の
密閉タンクシステム。
【請求項4】
前記閉塞壁に、前記筒状部材を初期位置側に付勢する付勢部材が装着される、請求項3に記載の
密閉タンクシステム。
【請求項5】
前記筒状部材は、円筒形状に形成された、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の
密閉タンクシステム。
【請求項6】
前記第1部分と前記第2部分とは、それぞれ2以上設けられる、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の
密閉タンクシステム。
【請求項7】
前記容積可変装置は、前記接続口が鉛直下方向となるように配置された、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の密閉タンクシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、容積可変装置、この容積可変装置を用いた密閉タンクシステムおよびベローズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンク内のガソリンなどの燃料は環境温度などにより気化することがあり、これを大気に放出しないように、キャニスタなどに吸着させ、エンジンなどの運転時にキャニスタから放出させて、利用することが行なわれている。キャニスタの吸着量には上限があり、また吸着された燃料を利用できるタイミングが限られる場合もあり得る。このため、環境への配慮を優先して、気化燃料の外部への放出が生じないようにする密閉タンクシステムが提案されている。
【0003】
こうした密閉タンクシステムでは、燃料の気化が進んだ場合、タンク内の圧力が高まってしまう。このため、タンクの耐圧を高くするか、燃料を収容する部分の容積を可変する機構を設け、圧力変動を抑制することが行なわれている(例えば、特許文献1参照)。容積を可変する機構としては、ベローズなどの蛇腹構造を用いるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、通常のベローズでは、容積変動を繰り返すと、蛇腹の部分が折畳と伸長とを繰り返すことになり、特に折り返しの部分に応力が集中し、耐久性に欠ける懸念があった。車両に用いられる燃料タンクの耐用年数などを考えると、容積を可変する動きを繰り返しても、十分な耐久性を実現する必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、容積可変装置(50,50A)としての態様である。この容積可変装置(50,50A)は、燃料タンク(15)の内部空間に接続される接続口(62)と、筒状部材の外周に設けられた蛇腹構造部(63)の軸方向長さが、前記燃料タンク(15)の内圧により伸縮することで、前記筒状部材の容積が変化する可変容量部(60)と、を備える。ここで、前記蛇腹構造部(63)は、前記筒状部材の中心軸に沿った断面において、前記筒状部材の径方向外方に突出した円弧形状の第1部分(71)と、前記第1部分(71)より径方向内側に凹んだ円弧形状の第2部分(72)と、前記第1部分(71)を前記第2部分(72)に特異点なく接続する接続部(73)とを備え、前記第1部分(71)および前記第2部分(72)の円弧形状はそれぞれ中心角(θ)が180度より大きい。この容積可変装置(50,50A)は、内容積の変化量を大きくでき、しかも高い耐久性を備えた可変容積部(60)を実現できる。この容積可変装置(50,50A)を用いることで、密閉タンクシステム(10,10A)を容易に実現できる。
【0007】
本開示の他の態様は、可変容積部を構成するベローズの製造方法としての態様である。ベローズ(60)は、蛇腹構造部(63)を備えた筒状部材である。このベローズの製造方法は、前記筒状部材を、前記蛇腹構造部(63)が伸長した状態の形状に成形する工程(T100)と、前記蛇腹構造部(63)の径方向外方に突出した第1部分(71)の頂部を含む所定の範囲を、前記筒状部材の中心軸に沿った断面が円弧形状の凹部を備えた外1リング型(171)により取り囲む工程(T120)と、前記蛇腹構造部(63)の前記第1部分(71)より径方向内側に凹んだ第2部分(72)の谷部を含む所定の範囲を、前記筒状部材の中心軸に沿った断面が円弧形状の凸部を備えた内リング型(172)により取り囲む工程(T110)と、前記筒状部材を塑性変形可能な第1状態として、前記外リング型(171)および前記内リング型(172)が互いに近接する方向に、前記蛇腹構造部(63)を圧縮する工程(T140)と、前記圧縮により塑性変形された前記筒状部材を弾性変形可能な第2状態として、前記蛇腹構造部(63)を伸長して、前記外リング型(171)および前記内リング型(172)を取り外す工程(T150~T170)とを備える。こうすれば、伸縮性に富み、耐久性に優れた蛇腹構造部(63)を備えたベローズ(60)を容易に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の容積可変装置を備えた燃料タンクシステムを示す概略構成図。
【
図2】容積可変装置の外観をケースを破断して示す側面図。
【
図4】容積可変装置に用いられるベローズの形状を示す説明図。
【
図5】実施形態で用いるベローズの変形の様子を示す説明図。
【
図6】参考例のベローズの変形の様子を示す説明図。
【
図9】ベローズの製造過程における治具部品の配置の様子を示す説明図。
【
図10】ベローズの製造過程における治具の配置の様子を示す説明図。
【
図11】ベローズの製造過程において部材を圧縮する工程を示す説明図。
【
図14】容積可変装置を備えた燃料タンクシステムの他の形態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
(A1)燃料タンクシステムの構成:
図1は、第1実施形態で用いる容積可変装置50を備える燃料タンクシステム10の概略構成図である。この燃料タンクシステム10は、密閉タンクシステムであり、内燃機関(エンジン)を搭載する自動車等の車両に搭載される。燃料タンクシステム10は、後述するように、容積可変装置50の他に、燃料を燃料タンク15や、燃料タンク15に供給する燃料供給管16、更には燃料タンク15から蒸発した蒸発燃料を処理する蒸発燃料処理装置12などを備える。
【0010】
図示するように、燃料タンク15には、燃料供給管16が設けられている。燃料供給管16は、その上端部の給油口から燃料を燃料タンク15内に導入するパイプであって、給油口にはタンクキャップ17が着脱可能に取付けられている。また、燃料供給管16の上端部内と燃料タンク15内の気層部とは、ブリーザパイプ18により連通されている。給油口には、車両側に開閉可能なリッド48が設けられ、リッド48を外部からの指令により開閉するリッドオープナー47も設けられている。
【0011】
燃料タンク15内には燃料供給ポンプ装置19が設けられている。燃料供給ポンプ装置19は、燃料タンク15内の燃料を吸引しこれを加圧して吐出する燃料ポンプ20、燃料の液面レベルを感知するセンダゲージ21、タンク内圧を大気圧に対する相対圧としての検出するタンク内圧センサ22等を備えている。燃料ポンプ20により燃料タンク15内から汲み上げられた燃料は、図示しない燃料通路を介してエンジンに設けられた燃料噴射バルブに供給される。
【0012】
蒸発燃料処理装置12は、ベーパ通路31とパージ通路32とキャニスタ34と電磁弁38とを備える。電磁弁38は、ベーパ通路31の途中に設けられている。ベーパ通路31の一端部(上流側端部)は、燃料タンク15内の気層部と連通されている。ベーパ通路31の他端部(下流側端部)は、キャニスタ34内と連通されている。キャニスタ34内には、吸着材としての活性炭(不図示)が装填されている。燃料タンク15内の蒸発燃料は、ベーパ通路31を介してキャニスタ34内の吸着材(活性炭)に吸着される。キャニスタ34には大気通路43が連通されている。大気通路43の他端部は大気に開放されている。この大気通路43はなくてもよい。
【0013】
燃料タンク15内の気層部において、ベーパ通路31の上流側端部には、満タン検知弁35及びフューエルカットオフバルブ36が設けられている。満タン検知弁35は、燃料の浮力によって開閉するフロート弁で構成された満タン規制バルブであり、燃料タンク15の燃料液面が満タン液面以下では開弁状態で、給油によって燃料液面が満タン液面まで上昇するとフロート弁が閉弁することによりベーパ通路31が遮断される。ベーパ通路31が遮断されると、燃料が燃料供給管16まで満たされ、給油ガンのオートストップ機構が動作し、給油が停止される。また、フューエルカットオフバルブ36は、燃料の浮力によって開閉するフロート弁で構成され、通常は開弁状態に保持されており、車両の横転時に閉弁することによって燃料タンク15内の燃料のベーパ通路31への流出を阻止する。
【0014】
ベーパ通路31の途中に設けられた電磁弁38は、電気的な制御により通路を開閉することにより、ベーパ通路31を流れる蒸発燃料を含むガス(「流体」という)の流量を調整する。なお、電磁弁38には、電磁弁38の閉弁時における燃料タンク15内の圧力を適正圧力に保つためにリリーフ弁を設けてもよい。
【0015】
パージ通路32はキャニスタ34に吸着された燃料を、燃料として利用するために、エンジンの動作時に、エンジン側にパージする通路である。パージ通路32には、こうした燃料のパージのタイミングを制御するための電磁弁等や、これを制御するための図示しないECU等が設けられている。こうしたECUには、このほか、電磁弁38、リッドオープナー47、燃料ポンプ20などの電装品も接続され、ECUからの指示を受けて、それぞれ所望のタイミングで動作するが、これらの接続や動作に関する詳しい説明および図示は省略する。
【0016】
(A2)容積可変装置の構成:
燃料タンク15から電磁弁38に至るベーパ通路31の途中に接続される容積可変装置50の構造について説明する。
図2は、容積可変装置50のケース51を破断して内部を示す説明図である。図示するように、容積可変装置50は、ケース51と、その内部に収容された可変容積部としてのベローズ60と、ベローズ60を圧縮方向に付勢する圧縮バネ55とからなる。ベローズ60は、合成樹脂からなる。ベローズ60の製造方法については、後述する。圧縮バネ55は、ベローズ60の一端に設けられた閉塞壁61とケース51の底部壁53との間に介装される。ベローズ60は、流体、ここでは蒸発燃料が出入りする接続口62と、筒状部材の外周に設けられた蛇腹構造部63とからなる。接続口62は、ベーパ通路31に接続され、ベーパ通路31と蛇腹構造部63との内部を連通する。蛇腹構造部63は、接続口62を介してうける蒸発燃料の圧力により、筒状部材の中心軸AX方向に伸縮することで、その内部容積を可変する。圧縮バネ55は、蒸発燃料の圧力が低下したときに、蛇腹構造部63が元の長さに収縮するのを助ける。蛇腹構造部63は、内圧が大気圧と等しい場合、中心軸AX方向の長さが最小の状態となるが、一旦内圧がかかって伸長すると、合成樹脂製であるため、内圧がなくなっても完全には元の長さに戻らない場合があり得る。こうした状態になっても、圧縮バネ55の弾発力により、蛇腹構造部63は、元の長さに戻る。
【0017】
図3は、この蛇腹構造部63の外観を示す斜視図である。また、
図4は、蛇腹構造部63を、中心軸AXを挟んで、一方を断面視により、また他方を外形形状を側面視により示す説明図である。この実施形態では、蛇腹構造部63は、5個の蛇腹を備える。蛇腹構造部63は、
図4に示すように、筒状部材の中心軸AXに沿った断面において、筒状部材の径方向外方に突出した円弧形状の部分であって、中心軸AXに沿って5個配列された第1部分71と、第1部分71より径方向内側に凹んだ円弧形状の部分であって、5個の第1部分71の間に配列された4個の第2部分72と、各第1部分71を隣接する第2部分72に特異点なく接続する接続部73とからなる。ここで、「特異点なく」とは、第1部分71と接続部73との接続点や、接続部73と第2部分72との接続点において、接線がなかったり2以上の接線が存在する、ということがない、ことを言う。換言すれば、一方から他方への接続部位において、接線方向が滑らかに変化していることを言う。なお、最も接続口62側の第1部分71と接続口62とも、同様に特異点なく接続されている。従って、この部分を第2部分の半分が存在する半第2部分72eと解し、第1部分71とは、接続部73を介して接続されていると見做してもよい。
【0018】
ここで、第1部分71および第2部分72の円弧形状はそれぞれ中心角が180度より大きい。本実施形態では、中心角θは、共に270度である。第1部分71と第2部分72の中心角は、それぞれ180度を超えていればよく、接続部73により特異点なく接続されれば、同じでも良いし、異なっていてもよい。接続部73の長さは、第1部分71の円弧の長さより短い。より好ましくは、第1部分71の円弧の長さの1/2より短い。接続部73の長さは0であってもよい。また、接続部73は直線形状でもよいし、曲線形状でもよいし、両者を含んでいてもよい。5つの第1部分71,4つの第2部分72,9つの接続部73のそれぞれの形状は、内圧による蛇腹構造部63の変形を考慮すれば、同一であることが望ましい。もとより、各第1部分71および各第2部分72が同じように変形するよう、厚みや材料を調整するのであれば、必ずしも同一形状でなくてもよい。
【0019】
(A3)蛇腹構造部の変形:
上記構造を有する蛇腹構造部63の変形の様子について説明する。容積可変装置50に設けられたベローズ60は、ベーパ通路31を介して受ける蒸発燃料の圧力(以下、「内圧」という)により、中心軸AX方向の長さを変え、内部容積を可変する。中心軸AX方向の長さが長くなれば内部容積は増加し、中心軸AX方向の長さが短くなれば、内部容積は減少する。内圧による蛇腹構造部63の変形を、
図5を用いて模式的に説明する。蛇腹構造部63の変形の正確な説明は、構造解析に基づいてなされるが、ここでは省略する。
【0020】
図5には、内圧が大気圧に等しい場合の第1部分71と第2部分72と接続部73との形状を実線JCで示し、内圧が大気圧より高くなって蛇腹構造部63が変形した場合の第1部分71と第2部分72と接続部73との形状を破線BEで示す。変形前の第1部分71の外径、つまり中心軸AXからの隔たりを符号bで、第2部分72の内径、つまり中心軸AXからの隔たりを符号aで、それぞれ示す。またこのときの第1部分71の最外点を符号1pで、第2部分72の最内点を符号1vで、それぞれ示す。
【0021】
この状態から内圧が大気圧より高まると、蛇腹構造部63は、中心軸AX方向に沿って長くなり、第1部分71の最外点1pを基準点とすると、破線BEで示したように、第2部分72の最内点1vは、点2vまで移動する。このとき、本実施形態の蛇腹構造部63では、中心軸AXから第2部分72の最内点2vまでの距離aは、移動前の最内点1vまでの距離aとほとんど変わらない。これは、第1部分71および第2部分72の中心角θが180度より大きいことによっている。第1部分71の最外点1pから第2部分72の最内点1vまでの蛇腹構造部63に沿った距離(線長)は、最外点1pから最内点1vまでの直線距離に比べて十分に長い。実際、内圧により蛇腹構造部63が、中心軸AXに沿って移動すると、第1部分71や第2部分72の円弧部分の曲率半径が大きくなっていく。結果的に、蛇腹構造部63が内圧により中心軸AX方向に拡がっていっても、第1部分71の最外点1pと第2部分72の最内点2vとの中心軸AXに対する径方向の隔たりを変化させるような力はほぼ働かない。つまり、蛇腹構造部63が内圧で拡がっても、第1部分71および第2部分72に径方向の大きな力は働かない。もともと蛇腹構造部63は、
図3に示したように、第1部分71や第2部分72は、円環状に形成されている。つまり、第1部分71の外径が小さくなるような変形、第2部分72の内径が大きくなるような変形を生じるには、各部に大きな荷重が働くことになる。本実施形態では、第1部分71の最外点1pと第2部分72の最内点2vとの中心軸AXに対する径方向の隔たりがほとんど変化しないので、蛇腹構造部63の各部に大きなストレスがかかることがない。
図5に破線BEとして示した状態から、更に蛇腹構造部63が中心軸AX方向に延びていくと、蛇腹構造部63の外形は、断面視において、最外点1pと最内点1vとを繋ぐ直線に近づくが、完全に直線になるまでは、蛇腹構造部63は、最外点1pを径方向内側に、最内点1vを径方向外側に、それぞれ移動させることなく、中心軸AX方向に更に伸長可能である。
【0022】
図6は、参考例として、従来のベローズの各部の変形の様子を示す説明図である。参考例のベローズは、実施形態の蛇腹構造部63の第1部分や第2部分に相当する円弧形状の中心角が180度未満であり、しかも円弧の半径も小さいから、両部分を長い直線部で接続している。図において、実線Jcは、内圧がかかっておらず、ベローズが縮んでいる初期状態を模式的に示し、破線Beは、内圧がかかって、ベローズが中心軸AX方向に延びた状態を模式的に示している。
【0023】
図示するように、内圧がかかっていない初期状態において、ベローズの径方向の最外点1pは、中心軸AXから距離b1だけ隔たっており、径方向の最内点1vは、中心軸AXから距離a1だけ隔たっている。この状態から内圧が高まると、ベローズは中心軸AX方向に延びていくが、延びるためには、最外点2pは中心軸AXからの距離b2の位置に、最内点2vは中心軸AXからの距離a2の位置に、それぞれ移動しなければならない。この結果、
b1>b2 かつ a1<a2
となる。つまり、従来のベローズでは、中心軸AXに沿って伸長するためには、ベローズの外径を小さし、内径を大きくするような変形を伴わざるを得ない。
【0024】
これは、以下の理由による。参考例として示したベローズでは、第1部分,第2部分に相当する円弧状の部分の中心角は180度未満であり、円弧の半径が小さいから、この部分の曲率半径が大きくなっても、最外点1pから最内点2vまでの距離にほとんど影響を与えない。また両部分を繋ぐ直線部は、ベローズが拡がるにつれて傾き、中心軸AXに垂直な径方向の距離は短くなる。このため、最外点には、これを径方向内側に変形させようとする荷重が加わり、最内点には、これを径方向外側に変形させようとする荷重が加わるからである。
【0025】
以上、参考例を用いて説明した様に、ベローズにおいて、内容積を大きく増減しようとして中心軸AX方向に沿った移動量を大きくすると、径方向の変形を引き起こす荷重が、ベローズの、特に径方向の最外点付近や最内点付近に加わってしまう。従来のベローズでは、径方向外周が縮径し、径方向内周が増径する荷重がかかり、しかも最外周、最内周の曲率半径は小さいから、この部分にストレスが繰り返し掛かり、耐久性を十分に確保することが困難であったのに対して、本実施形態では、こうした問題を生じにくいため、内容積の増減を大きくでき、しかも高い耐久性を実現できた。なお、上記の説明では、ベローズ60として、
図3に示した円筒形状のものを用いたが、
図7に示すような、角を丸くした角筒形状のベローズ60Sなどであってもよい。
【0026】
(A4)燃料タンクシステムとしての機能:
上述した実施形態のベローズ60を用いた容積可変装置50は、内圧によって、その内容積を大きく増加させることができ、しかも高い耐久性を実現する。このため、この容積可変装置50を用いた燃料タンクシステム10では、燃料タンク15が密閉型であり、蒸発燃料の蒸発が進んで、燃料タンク15の内圧が高くなると、容積可変装置50の内容積が増加し、内圧の上昇を抑制する。そこで、密閉型の燃料タンク15と本実施形態の容積可変装置50とを用いた燃料タンクシステム10での動作について、説明する。
【0027】
車両に燃料を供給する給油時以外では、電磁弁38は閉弁状態に維持される。したがって、燃料タンク15の蒸発燃料はキャニスタ34内に流入・吸着されない。車両の駐車中等のように、電磁弁38が閉弁している状態で、燃料タンク15内の燃料が蒸発した場合には、上述したように、容積可変装置50の内容積が変化し、これにより燃料タンク15の内圧は適正範囲に保たれる。
【0028】
車両の走行中においても電磁弁38は閉弁状態に維持されるが、予め定めたパージ条件が成立すると、図示しない電磁弁を開弁するなどして、パージ通路32を介して、キャニスタ34と図示しないエンジンの吸気通路とが連通状態にされる。この結果、エンジンの吸気負圧がパージ通路32を介してキャニスタ34内に作用し、キャニスタ34内に吸着されていた蒸発燃料が、吸気通路にパージされて、エンジンで燃焼される。なお、蒸発燃料のパージ中については、電磁弁38を開弁状態とし、燃料タンク15内の蒸発燃料をパージして、燃料タンク15の内圧を大気圧程度まで低下させるようにしてもよい。
【0029】
給油の際に、リッド48を開くために図示しないリッドスイッチが操作されると、電磁弁38を開弁状態にする。この際、燃料タンク15のタンク内圧が大気圧より高圧であれば、容積可変装置50のベローズ60は膨張しているが、電磁弁38が開弁すると同時に、燃料タンク15および容積可変装置50内の蒸発燃料は、ベーパ通路31を通ってキャニスタ34内の吸着材に吸着される。これにより、燃料タンク15の内圧は下がるから、リッド48が開かれて、燃料の給油が行なわれても、蒸発燃料が大気に放出されることが防止もしくは抑制される。なお、リッドの開閉を指示するリッドスイッチが操作されてもすぐにはリッド48を開かず、蒸発燃料のキャニスタ34への吸着が進んで燃料タンク15のタンク内圧が大気圧近傍値に低下するのを待ってリッド48を開くようにしてもよい。こうすれば、リッド48が開き、タンクキャップ17が開けられても、蒸発燃料の大気への放出は防止される。これは給油中も同様である。給油が終了してリッド48が閉じられるまで、電磁弁38を開弁状態に維持してもよい。こうすれば、給油の際に蒸発燃料が生じても、蒸発燃料はベーパ通路31を通ってキャニスタ34内の吸着材に吸着される。
【0030】
以上説明した燃料タンクシステム10は密閉型であって、容積可変装置50を用いて燃料タンク15の気相部分の容積を増加するので、燃料タンク15内の圧力の上昇を防止できる。従って、燃料タンク15の耐圧性を過剰に高くする必要がない。この結果、燃料タンク15の板厚を過剰に厚くする必要がなく、燃料タンク15の重量も増加させない。結果的に、車両の燃費向上などにも資することができる。更に、燃料タンク15の温度上昇を抑制するために、燃料タンク15に断熱材などを装着する必要性を抑制できる。また、燃料タンク15自体の容積を可変にする複雑な機構を設ける必要がない。
【0031】
更に、キャニスタ34に吸着した燃料をエンジンで燃焼させるタイミングが限られるハイブリッド車やプラグインハイブリッド車などにおいて、キャニスタ34の容量を過剰に増やす必要がなく、また吸着仕切れなくなった蒸発燃料がやむを得ず大気に放出されるといった事態を回避しやすくなる。しかも、そのために用いる容積可変装置50のベローズ60は、高い耐久性を備えるので、長期に亘って使用できる。
【0032】
B.ベローズ60の製造方法:
上述した可変容積部としてのベローズ60の製造方法について説明する。
図8は、ベローズの製造方法を示す工程図である。ベローズ60を製造する際には、まずベローズ60に成型されるプレ成形品を成型する(工程T100)。プレ成形品160の一例を、
図9の欄(A)に示す。こうしたプレ成形品160は、合成樹脂をブロー成形やインジェクションブロー成形により製造可能である。プレ成形品160の材料としては、成形可能な可塑性を有し、成形後に柔軟性や弾性を備えた樹脂であれば、種々の材料を用いることができる。成形後の弾性が低く、柔軟性に富んだ材料を用いる場合は、圧縮された状態に戻すためのバネなどを設ければよい。ベローズ60は、蒸発燃料に対する耐透過性も必要になるが、プレ成形品160の表面に低透過性の被膜や塗膜を形成する後加工を施すことで、耐透過性が得られれば、樹脂自体の耐透過性は問わない。もとより、二層以上の構成をとれば、そのうちの一部の層を、耐透過性の低い材料とすることも可能である。
【0033】
耐透過性を有する材料としては、1層で形成するのであれば、ポリアミドのうち、例えばPA11,PA66、2層で形成するのであれば、PA12/PA9T,ETFE/PA12,ETFE/PA1012などがある。PE単層のように、それ自体の耐燃料透過性が低い樹脂でも、後加工などを施すことで、耐透過性を高められれば、利用してもよい。もとより、EVOHやPA,ETFEを含む多層化により、耐透過性を持たせてもよい。
【0034】
プレ成形品160は、蛇腹構造部63に最終的に成形される筒状部163と、接続口62に成形される小径部162とからなる。筒状部163は、ベローズ60の第1部分71と第2部分72の形状に合わせて、凸部と凹部とが繰り返される形状にプレ成形される。
【0035】
プレ成形したプレ成形品160に対して、次に内リング型を嵌め込む作業を行なう(工程T110)。内リング型172は、断面円形のリング形状の型であり、プレ成形品160に第2部分72を成形するために、プレ成形品160の最も窪んだ複数箇所(この例では4箇所)に配置される。内リング型172は、略同形状の第1リング型172aと第2リング型172bとに分割されており、嵌め合わされて、プレ成形品160の最内周を全周取り囲む内リング型172なる。この様子を、
図9の欄(A)とB-B断面を示す欄(B)とに示した。
【0036】
内リング型172の配置に続いて、外リング型171を嵌め込む作業を行なう(工程T120)。外リング型171は、プレ成形品160の最も外方に出っ張った部分に配置される。外リング型171は、内側が円弧形状に凹んだ断面形状をしており、内リング型172同様二つの部材を外方から嵌め合わされて、プレ成形品160の最外周を全周取り囲む。プレ成形品160の形状に合わせて、外リング型171は、複数箇所(この例では5箇所)に配置される。この様子を、
図9の欄(C)に示した。なお、工程T110と工程T120とは、実施の前後を問わず、同時に行なってもよいし、工程T120を工程T110より前に行なってもよい。
【0037】
こうしてプレ成形品160の最内周部分に内リング型172を、最外周部分に外リング型171を配置した後、圧縮成形装置を装着する(工程T130)。圧縮成形装置180の一例を、
図10に示す。この圧縮成形装置180は、いわゆる多節リンク(マジックハンド)の構成を備え、プレ成形品160の外周を囲むように、周方向に60度おきに、全部で6台配置される。図では、このうち、180度の位置に配置された圧縮成形装置180a,180bを示した。6台の圧縮成形装置180は、同期して動作する。もとより、プレ成形品160の圧縮が行なえれば、圧縮成形装置180の台数は任意である。
【0038】
圧縮成形装置180は、各リンクが外側で組み合う箇所のうち、プレ成形品160に対して内側になる部分に、外リング型171を配置する。また、リンクの最終端のうち、外リング型171が配置されない側(外側)のリンク先端には、駆動ピン181aが設けられ、この駆動ピン181aは、溝181bに摺動可能に収容される。この状態で、駆動ピン181aを溝181b内で摺動させると、
図11に示すように、圧縮成形装置180は縮み、これに合わせて、プレ成形品160も圧縮される。このとき、多節リンクは、外リング型171に結合されている位置とプレ成形品160の径方向の距離は一定に保つように駆動される。
【0039】
そこで、この圧縮成形装置180をプレ成形品160に装着し(工程T130)、プレ成形品160を加熱し、圧縮成形装置180を用いてプレ成形品160を圧縮し、その後冷却する(工程T140)。プレ成形品160は、
図11に示した形状に圧縮され、この状態で冷却される。この結果、熱可塑性の合成樹脂を用いたプレ成形品160は、
図4に示したベローズ60の形状に形成される。
【0040】
成形されたベローズ60が十分に冷却するのを待って、次に圧縮成形装置180を取り外す(工程T150)。その後、ベローズ60に接続口62から所定圧力の空気を送り込み、ベローズ60の蛇腹構造部63を伸長する(工程T160)。この状態を、
図12に例示した。ベローズ60は、冷却された状態でも可撓性を有し、弾性変形可能なので、内圧Pが大気圧より高くなれば、中心軸AX方向に伸長する。この状態で、内リング型172を第1リング型172aと第2リング型172bとに分離して、ベローズ60から離脱する(工程T170)。その後、内圧を抜いて、ベローズ60の伸長を解除して、元の長さに戻し、つまり縮んだ状態として、ベローズ60を完成させる(工程T180)。以上の工程により実施形態のベローズ60は製造される。
【0041】
上述した工程により製造されたベローズ60の一例を、
図13の欄(A)に示した。この例では、隣接する第1部分71同士、隣接する第2部分72同士は接触していないが、加熱圧縮の工程T140で、各部分が接触する位置まで圧縮し、同図欄(B)に示すベローズ60Aのように、形成してもよい。各部が接触するほど圧縮すれば、ベローズ60の全長を短くでき、伸張時の内容積の増加率を大きくできる。
【0042】
C.第2実施形態:
燃料タンクシステム10Aとしての他の実施形態を、
図14に示す。この燃料タンクシステム10Aでは、容積可変装置50Aは、ベーパ通路31に連通しておらず、接続口62が燃料供給管16に接続している。また、第1実施形態では、容積可変装置50Aは、中心軸AXが水平方向とされていたのに対して、垂直方向とされている。
【0043】
このようにしても、第1実施形態と同様、燃料タンク15内の圧力が上昇すると、容積可変装置50Aはその内容積を増加させ、燃料タンク15の内圧の上昇を抑制する。また、容積可変装置50Aは垂直方向に配置され、接続口62が鉛直下方を向いているので、燃料供給管16に供給される燃料が侵入しにくく、また仮に侵入しても自重により燃料供給管16側に戻り、排出される。このように容積可変装置50Aを垂直方向に沿って配置すると、容積可変装置50Aの収縮方向と重力方向が一致する。従って、圧縮バネ55に代えて所定の重量の重りを蛇腹構造部63の閉塞壁61に配置することで、燃料タンク15の内圧が下がった場合の蛇腹構造部63の収縮を補助してもよい。容積可変装置50Aは、燃料供給管16の近くに配設可能であり、例えば車両の場合、ホイールハウス内に設置することも可能である。
【0044】
D.その他の実施形態:
(1)本開示の容積可変装置は、上記以外の形態でも実施可能である。容積可変装置としての他の実施形態の一つは、燃料タンクの内部空間の接続される接続口と、筒状部材の外周に設けられた蛇腹構造部の軸方向長さが、前記燃料タンクの内圧により伸縮することで、前記筒状部材の容積が変化する可変容量部と、を備えた構成である。ここで、前記蛇腹構造部は、前記筒状部材の中心軸に沿った断面において、前記筒状部材の径方向外方に突出した円弧形状の第1部分と、前記第1部分より径方向内側に凹んだ円弧形状の第2部分と、前記第1部分を前記第2部分に特異点なく接続する接続部とを備え、前記第1部分および前記第2部分の円弧形状はそれぞれ中心角が180度より大きいものとしてよい。こうすれば、可変容量部に接続された燃料タンクの内圧が大気圧より高くなると、蛇腹構造部の軸方向長さが長くなり、その内容積が増加して、燃料タンクの内圧の上昇を緩和する。このとき、蛇腹構造部を構成する第1部分と第2部分は、その中心角が180度より大きく、かつ両者を特異点無く接続する接続部を備えるので、蛇腹構造部は、第1部分の最外径および第2部分の最内径が大きく変化することなく、その軸方向長さを、一定の範囲に亘って増加する。このため、蛇腹構造部の各部に大きなストレスがかかることがなく、可変容積部は、高い耐久性を実現できる。
【0045】
ここで、接続部は、特異点なく第1部分を第2部分に接続できればよく、長さはゼロであってもよい。例えば、第1部分,第2部分が、径方向の軸線に対して対称形をしており、第1部分の中心角がα゜、第2部分の中心角がβ゜であり、α、βが次式(1)を満たしていれば、第1部分の端点の接線方向と、第2部分の端点の接線方向は一致するので、両端点を直接接続あるいは所定長の直線的な接続部で接続すればよい。
α=β かつ 180<α,β≦270 …(1)
第1部分と第2部分の両端点を直接接続した場合は、接続部は点であり、実質的な長さを有しない。もとより、接続部を曲線形状とすれば、第1部分を第2部分に特異点なく接続する条件は緩和される。例えば、α,βを270以上としてもよい。また、この場合、α≠βでもよくも第1部分,第2部分は径方向の軸線に対して対称形をしていなくてもよい。
【0046】
この容積可変装置は、接続口により燃料タンクの内部空間に接続されているので、燃料タンクの内部の圧力が高くなった場合、容量可変装置の可変容量部は内容積を増加し、燃料タンクの内圧の上昇を抑制する。このため、密閉タンクシステムを容易に構成できる。
【0047】
(2)こうした構成において、前記筒状部材は、軸方向の一端に前記接続口が設けられ、他端に閉塞壁が設けられたものとしてよい。こうすれば、筒状部材を接続口に接続された燃料タンクの圧力を、閉塞壁がストレートに受けることに成り、筒状部材に設けられた蛇腹構造部の軸方向の動きがスムースなものになる。また閉塞壁にバネなどの弾性部材を装着して、蛇腹構造部の収縮方向への動きをサポートしやすくなる。もとより、接続口と閉塞壁とは、軸方向の両端以外に配置されていてもよい。例えば、接続口を、蛇腹構造部の軸方向に対して交叉する方向に向けて設けてもよい。
【0048】
(3)こうした構成において、前記閉塞壁に、前記筒状部材を初期位置側に付勢する付勢部材が装着されるものとしてよい。こうすれば、蛇腹構造部の材料を、内圧によって変形した後で初期位置まで戻る弾性が発現する材料とする必要がない。このため、蛇腹構造部の材料の選択の自由度が高まる。もとより、蛇腹構造部は、初期位置側にもどろうとする力が働く程度の材料や構造とすることも差し支えない。付勢部材は、バネ、エラストマなどを用いることができる。閉塞壁を外側から付勢する圧縮バネでもよいし、蛇腹構造部の内側に設けられ、閉塞壁を内側に付勢する引っ張りバネでもよい。バネはコイルスプリングでも板ばねでもよい。また、蛇腹構造部を、閉塞壁が上方となる垂直方向に配置すれば、付勢部材は、重力により閉塞壁を下方、つまり初期位置側に付勢する重量物であってもよい。また磁力や圧縮空気などにより、閉塞壁を付勢する構成としてもよい。
【0049】
(4)こうした構成において、前記筒状部材は、円筒形状に形成されたものとしてよい。こうすれば、筒状部材の周方向において応力が集中しやすい箇所がなく、蛇腹構造部の耐久性を高くできる。筒状部材は、角筒形状などであってもよく、容量可変装置の設置スペースを有効利用できる形状とすればよい。
【0050】
(5)こうした構成において、前記第1部分と前記第2部分とは、それぞれ2以上設けられたものとしてよい。こうすれば、可変容量部の内容積を大きくできる。第1部分と第2部分の数は同一でも良く、第1部分が第2部分より1だけ多く設けるものとしてもよい。
【0051】
(6)燃料タンクと、前記燃料タンクと管路によって接続されて蒸発燃料を吸着するキャニスタと、前記管路に設けられた開閉弁と、上述した容積可変装置のいずれか一つとを備える密閉タンクシステムにおいて、前記管路に、前記容積可変装置の前記接続口を接続する構成としてもよい。こうすれば、密閉タンクシステムを容易に構成でき、容積可変装置の可変容量部が容積を変化させることにより、燃料タンク内の圧力の上昇を容易に抑制できる。この場合、開閉弁は電磁弁などの電動弁としてもよく、車両等の運転状態に応じて開閉し、燃料タンク内の蒸発燃料をキャニスタに導くタイミングを制御してもよい。こうしたタイミングを制御するために、ECUなどの制御部を設けてもよい。
【0052】
(7)あるいは、燃料タンクと、前記燃料タンクと給油口とを接続する燃料供給管と、上述した容積可変装置のいずれか一つとを備える密閉タンクシステムにおいて、前記管路に、前記燃料供給管に、前記容積可変装置の前記接続口が接続する構成としてもよい。こうすることでも、密閉タンクシステムを容易に構成でき、容積可変装置の可変容量部が容積を変化させることにより、燃料タンク内の圧力の上昇を容易に抑制できる。
【0053】
上述したいずれの構成を採用した場合でも、容積可変装置の耐久性は高いので、密閉タンクシステムのメンテナンスの手間を軽減できる。また、密閉タンクシステムとするために、燃料タンクの耐圧性能を過剰に高くする必要がない。更に、キャニスタへの蒸発燃料の吸着を抑制できるから、ハイブリッド車両のように、キャニスタに吸着された燃料の燃焼のタイミングが限られる場合でも、キャニスタの吸着材を過大なものにする必要がない。
【0054】
(8)こうした構成において、前記容積可変装置は、前記接続口が鉛直下方向となるように配置されたものとしてよい。こうすれば、容積可変装置に、給油中の燃料が入っても、燃料を、自重で排出しやすくできる。
【0055】
(9)本開示の他の実施形態として、蛇腹構造部を備えた筒状部材であるベローズの製造方法がある。この製造方法では、前記筒状部材を、前記蛇腹構造部が伸長した状態の形状に成形し、前記蛇腹構造部の径方向外方に突出した第1部分の頂部を含む所定の範囲を、前記筒状部材の中心軸に沿った断面が円弧形状の凹部を備えた外リング型により取り囲み、前記蛇腹構造部の前記第1部分より径方向内側に凹んだ第2部分の谷部を含む所定の範囲を、前記筒状部材の中心軸に沿った断面が円弧形状の凸部を備えた内リング型により取り囲み、前記筒状部材を塑性変形可能な第1状態として、前記外リング型および前記内リング型が互いに近接する方向に、前記蛇腹構造部を圧縮し、前記圧縮により塑性変形された前記筒状部材を弾性変形可能な第2状態として、前記蛇腹構造部を伸長し、前記外リング型および前記内リング型を取り外す。こうすれば、伸縮性に富み、耐久性に優れた蛇腹構造部を備えたベローズを容易に提供できる。
【0056】
ここで、筒状部材は、合成樹脂など、塑性変形可能な第1状態にでき、かつ弾性変形可能な第2状態にできる素材であれば採用可能である。例えば熱可塑性や光可塑性を有する合成樹脂などを用いることができる。熱可塑性を有する合成樹脂としては、1層で形成するのであれば、ポリアミドのうち、例えばPA11,PA66、2層で形成するのであれば、PA12/PA9T,ETFE/PA12,ETFE/PA1012などがある。また4層のAd-PE/EVOH/Ad-PE/PEなども利用可能である。このほか、ナイロンまたはフッ素、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)の積層構造とすることも可能である。燃料タンクからの蒸発燃料に触れる可能性が高いため、筒状部材は、燃料に対する耐透過性を備えることが望ましい。PE単層のように、それ自体の耐燃料透過性が低い樹脂でも、低透過樹脂と多層構造としたり、低透過被膜や塗膜を後加工により施したりすることで、耐透過性を高めれば、利用可能である。合成樹脂に代えて、ゴム等の弾性素材を用いることも可能である。
【0057】
外リング型,内リング型は、筒状部材の外形形状に合わせた形状を備えれば良く、筒状部材は円筒形状であれば、内側が円形の形状を備えればよい。筒状部材が軸方向に垂直な断面が矩形の筒状であれば、各リング部材も内側か矩形の形状を備えればよい。
【0058】
(10)こうした構成において、前記外リング型および前記内リング型は、周方向に複数に分割されているものとしてよい。こうすれば、第1,内リング型を、伸長された筒状部材に容易に装着でき、圧縮した後に、容易に取り外すことができる。分割の数は2以上であればよく、外リング型と内リング型とは、同じ位置で分割されていてもよく、異なる位置で分割されていてもよい。
【0059】
(11)こうした構成において、前記筒状部材は、熱可塑性の合成樹脂を用いて形成され、前記第1状態は、前記合成樹脂が可塑性を生じる温度以上に保持した状態であり、前記第2状態は、前記合成樹脂を、前記温度未満に保持した状態であるものとしてよい。こうすれば、筒状部材を容易に圧縮でき、かつ製造されたベローズにおける蛇腹構造部を内圧により容易に弾性変形させることができる。
【0060】
(12)本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。例えば、上記実施形態においてハードウェアにより実現した構成の一部は、ソフトウェアにより実現することができる。
【符号の説明】
【0061】
10,10A…燃料タンクシステム、12…蒸発燃料処理装置、15…燃料タンク、16…燃料供給管、17…タンクキャップ、18…ブリーザパイプ、19…燃料供給ポンプ装置、20…燃料ポンプ、21…センダゲージ、31…ベーパ通路、32…パージ通路、34…キャニスタ、35…満タン検知弁、36…フューエルカットオフバルブ、38…電磁弁、43…大気通路、47…リッドオープナー、48…リッド、50,50A…容積可変装置、51…ケース、53…底部壁、55…圧縮バネ、60,60A,60S…ベローズ、61…閉塞壁、62…接続口、63…蛇腹構造部、71…第1部分、72…第2部分、72e…半第2部分、73…接続部、160…プレ成形品、162…小径部、163…筒状部、171…外リング型、172…内リング型、172a…第1リング型、172b…第2リング型、180,180a,180b…圧縮成形装置、181a…駆動ピン、181b…溝