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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】流量制御システム及び流体移送システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241008BHJP
   F04B 49/06 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H02M7/48 E
F04B49/06 321B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021204586
(22)【出願日】2021-12-16
(65)【公開番号】P2023089837
(43)【公開日】2023-06-28
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 弓子
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-019223(JP,A)
【文献】特開2002-070785(JP,A)
【文献】特開平01-187385(JP,A)
【文献】特開2019-161927(JP,A)
【文献】特開2011-223678(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0036368(US,A1)
【文献】特開2012-223062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42 - 7/98
F04B 49/00 - 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路における複数のポンプを駆動させるための複数の電動機と、前記電動機の動作を制御する複数のインバータ装置と、前記インバータ装置の動作を制御する共通制御装置と、を備え、
前記インバータ装置は、
前記共通制御装置から取得される速度基準に前記電動機の回転速度が追従するように出力電流を制御する第1電流制御信号を生成する電流制御回路と、
前記電流制御回路によって生成される前記第1電流制御信号の制限値を設定するリミッタ設定回路と、
前記電流制御回路によって生成される前記第1電流制御信号が、前記制限値を超える場合は、前記第1電流制御信号を制限して前記出力電流を制限する第2電流制御信号を生成するリミッタと、
前記リミッタが前記出力電流を制限しているか否かを判定し、前記リミッタが前記出力電流を制限していると判定したときは、制限情報をアクティブとして出力するリミッタ動作判定回路と、を備え、
前記共通制御装置は
全ての前記インバータ装置から取得された前記制限情報がアクティブでない場合は、各流路の定格流量に応じた流量が前記各流路に流れるように重み付けした前記速度基準を前記インバータ装置に出力し、
前記インバータ装置から取得された前記制限情報のうち少なくとも一つがアクティブである場合は、前記制限情報がアクティブでない前記インバータ装置のみに対して、前記各流路の前記定格流量に応じて重み付けを行い、前記各流路における流量計の合計値が全体流量指令に追従するように補正された前記速度基準を前記インバータ装置に出力する
ことを特徴とする流量制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の流量制御システムにおいて、
前記インバータ装置は、エアフィルタと、半導体素子を冷却するヒートシンクと、を備えた空冷式インバータ装置であり、
前記空冷式インバータ装置は、前記エアフィルタの入口側と出口側との圧力差を検出する差圧センサと、前記ヒートシンクの冷媒の入口側に前記冷媒の温度を測定する温度センサと、を備え、
前記差圧センサによって検出された前記エアフィルタの前記入口側と前記出口側との前記圧力差が所定の圧力値を超えた場合に、前記リミッタ設定回路によって設定される制限値を第1の制限値から第2の制限値に切り替えるものであり、
前記第1の制限値は、前記インバータ装置の定格出力電流以上であり、
前記第2の制限値は、前記ヒートシンクが自冷の場合の熱抵抗と前記温度センサの検出値とから前記半導体素子のジャンクション温度が所定の温度値以下となる電流値である
ことを特徴とする流量制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載の流量制御システムにおいて、
前記インバータ装置は、半導体素子を冷却するヒートシンクを備えた空冷式インバータ装置であり、
前記空冷式インバータ装置は、前記ヒートシンクを冷却する冷媒の速度を測定する風速センサと、前記ヒートシンクの冷媒の入口側に前記冷媒の温度を測定する温度センサと、を備え、
前記風速センサの検出値から求められる前記ヒートシンクの熱抵抗と、前記半導体素子の熱抵抗と、前記温度センサの検出値とから、前記半導体素子のジャンクション温度を所定の温度とする電流値と、前記空冷式インバータ装置の定格出力電流に相当する電流値とのいずれか小さい方を前記リミッタ設定回路によって設定される制限値とする
ことを特徴とする流量制御システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の流量制御システムと、
前記複数の流路を介して接続され、流体を貯水する複数の貯水槽と、
前記複数の流路のそれぞれに設けられ、前記流体の流量を検出し、検出された前記流量を前記共通制御装置に出力する流量計と、
を備えることを特徴とする流体移送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台のインバータ装置を用いた流量制御システム及び流体移送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種プラントにおいて、例えば、空調システムや冷水システム等において、冷却水が用いられている。このような冷却水は、複数台の冷却水ポンプによって移送され、当該複数台の冷却水ポンプは、複数台の冷却水ポンプ用電動機によって駆動される場合がある。この場合、複数台の各冷却水ポンプ用電動機を制御してプラント全体の冷却水量を調整する必要があるが、冷却水ポンプ用電動機の単純な運転台数制御のみではプラント全体の冷却水量を調整できない場合がある。このため、プラント全体の冷却水量を調整するために、複数台の各冷却水ポンプ用電動機の運転は、例えば、複数台のインバータ装置によって制御される。
【0003】
しかし、例えば、インバータ装置が空冷式インバータ装置であった場合、冷却風の取入れ口に付属するフィルタが埃等で目詰まりが生じると、冷却風の不足による冷却量の不足が生じ、インバータ装置内の半導体素子等の温度が上昇してこれらが破損することがある。そのため、空冷式インバータ装置は、定期的にフィルタを清掃する必要があり、一般的には半年から1年程度の頻度で清掃や交換が行われる。
【0004】
一方、プラント設備の運転効率向上のためには、産業用機器は、可能な限り運転継続が望まれる。このため、冷却水ポンプ用電動機の運転を制御する空冷式インバータ装置は、例えば、数年間フィルタの清掃が行われないまま運転が継続される場合がある。
【0005】
このため、可能な限り運転を継続させるために、冷却能力の低下を判断し、運転時に冷却異常が発生してもインバータ素子等が許容最高温度に達するまで運転を継続させるようなインバータ装置のシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-223062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のシステムは、冷却条件を考慮し、インバータ素子等のジャンクション温度を推定し、推定温度が許容最高温度に達するまでインバータ装置の運転を継続可能とするシステムであるため、インバータ素子の推定温度が許容最高温度に達した場合、当該インバータ素子を有するインバータ装置は運転停止となってしまう。この場合、例えば、プラント全体のポンプの吐出流量(冷却水の流量)の調整が困難となり、プラント全体の運転継続に影響が出てしまう。
【0008】
そこで、本件開示は、流体の流量を制御する複数台のインバータ装置におけるインバータ素子について、インバータ装置間の負荷分担をすることで、プラント全体として必要な流体の流量を継続して確保し、プラント全体の運転を継続させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様に係る流量制御システムは、複数の流路における複数のポンプを駆動させるための複数の電動機と、前記電動機の動作を制御する複数のインバータ装置と、前記インバータ装置の動作を制御する共通制御装置と、を備え、前記インバータ装置は、前記共通制御装置から取得される速度基準に前記電動機の回転速度が追従するように出力電流を制御する第1電流制御信号を生成する電流制御回路と、前記電流制御回路によって生成される前記第1電流制御信号の制限値を設定するリミッタ設定回路と、前記電流制御回路によって生成される前記第1電流制御信号が、前記制限値を超える場合は、前記第1電流制御信号を制限して前記出力電流を制限する第2電流制御信号を生成するリミッタと、前記リミッタが前記出力電流を制限しているか否かを判定し、前記リミッタが前記出力電流を制限していると判定したときは、制限情報をアクティブとして出力するリミッタ動作判定回路と、を備え、前記共通制御装置は、全ての前記インバータ装置から取得された前記制限情報がアクティブでない場合は、各流路の定格流量に応じた流量が前記各流路に流れるように重み付けした前記速度基準を前記インバータ装置に出力し、前記インバータ装置から取得された前記制限情報のうち少なくとも一つがアクティブである場合は、前記制限情報がアクティブでない前記インバータ装置のみに対して、前記各流路の前記定格流量に応じて重み付けを行い、前記各流路における流量計の合計値が全体流量指令に追従するように補正された前記速度基準を前記インバータ装置に出力することを特徴とする。
【0010】
一態様に係る流体移送システムは、上記のいずれかに記載の流量制御システムと、前記複数の流路を介して接続され、前記流体を貯水する複数の貯水槽と、前記複数の流路のそれぞれに設けられ、前記流体の流量を検出し、検出された前記流量を前記共通制御装置に出力する流量計と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本件開示によれば、流体の流量を制御する複数台のインバータ装置におけるインバータ素子について、インバータ装置間の負荷分担をすることで、プラント全体として必要な流体の流量を継続して確保し、プラント全体の運転を継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る複数台のインバータ装置を用いた流量制御システム及び流体移送システムの構成例を示す図である。
図2図1に示した共通制御装置の構成例を示す図である。
図3図1に示したインバータ装置の冷却構成の一例を示す図である。
図4図3に示したVFD制御装置によって行われる制御の一例を示す制御ブロック図である。
図5図4に示したVFD制御装置におけるリミッタ設定回路の動作についての説明図である。
図6図1から図5に示す第1実施形態における共通制御装置によるパワー配分設定(速度基準設定)の処理例を示すフローチャートである。
図7図6に示すフローチャートの処理の続きを示すフローチャートである。
図8】第2実施形態に係るインバータ装置の冷却構成の一例を示す図である。
図9図1図7に示した第1実施形態及び図8に示した第2実施形態における共通制御装置及びVFD制御装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本件開示の流量制御システム及び流体移送システムの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0014】
<第1実施形態の構成>
図1は、第1実施形態に係る複数台のインバータ装置VFDを用いた流量制御システム2及び流体移送システム1の構成例を示す図である。流体移送システム1は、例えば、工場などのプラント等における空調システムや冷水システム等において用いられる流体(例えば、冷却水等)の移送システムである。
【0015】
図1に示すとおり、流体移送システム1は、第1貯水槽11と、第2貯水槽12と、複数の流路FP1~FPnと、複数の流量計FL1~FLnと、複数のポンプP1~Pnと、複数の電動機M1~Mnとを有する。また、流体移送システム1は、複数のインバータ装置VFD1~VFDnと、共通制御装置20とを有する。
【0016】
第1貯水槽11と第2貯水槽12とは、複数の流路FP1~FPnを介して接続され、複数の流路FP1~FPnには、それぞれ流量計FL1~FLnと、ポンプP1~Pnとが配されている。複数のポンプP1~Pnは、それぞれ電動機M1~Mnと接続され、電動機M1~Mnは、それぞれインバータ装置VFD1~VFDnと接続されている。また、複数の流量計FL1~FLnと、インバータ装置VFD1~VFDnとは、それぞれ共通制御装置20と接続されている。
【0017】
なお、本明細書において、nは、2以上の任意の整数である。また、本明細書において、第1貯水槽11と、第2貯水槽12とは、これらをまとめて「貯水槽10」とも称される。また、本明細書において、複数の流路FP1~FPnは、これらをまとめて「流路FP」とも称される。同様に、複数の流量計FL1~FLnと、複数のポンプP1~Pnと、複数の電動機M1~Mnと、複数のインバータ装置VFD1~VFDnとは、それぞれこれらをまとめて「流量計FL」、「ポンプP」、「電動機M」、「インバータ装置VFD」とも称される。また、本明細書において、「k」は、1~nの任意の整数である。
【0018】
なお、本実施形態において、上述の流体移送システム1のうち、第1貯水槽11と、第2貯水槽12と、複数の流路FP1~FPnとを除いた、流体移送システム1の制御又は動作に関わる構成は、本件開示の「流量制御システム2」の一例である。
【0019】
第1貯水槽11と第2貯水槽12とは、複数の流路FP1~FPnを介して接続され、例えば、流路FP1~FPn介して移送される流体13が貯水される。なお、貯水槽10は、第1貯水槽11と、第2貯水槽12との2つに限られず、1つであっても、3つ以上であってもよい。
【0020】
流体13は、例えば、工場等のプラントなどの冷却水等である。流体13は、ポンプPによって、流路FPを介して、第1貯水槽11と第2貯水槽12との間で移送される。第1貯水槽11又は第2貯水槽12から移送される流体13は、例えば、空気と熱交換を行って冷風を作り、作られた冷風が不図示のダクト等を通じて不図示のプラントの各部屋を冷房する。流体13は、熱交換によって温められた後、例えば、不図示の冷凍機(チラー)や冷却塔等によって冷却され、流路FPを介して再び第1貯水槽11又は第2貯水槽12に貯水される。このように、流体13は、例えば、不図示のプラントにおける空調システム等に利用される。
【0021】
複数の流路FP1~FPnは、第1貯水槽11と第2貯水槽12とを接続する流路であり、各流路FPkは、それぞれポンプPkと流量計FLkとが配される。各流路FPkは、それぞれ定格流量Qrk以内でポンプPkによって流体13が移送される。なお、定格流量Qrkは、各流路FPkで共通の値でもよく、流路FPk毎に異なってもよい。
【0022】
複数の流量計FL1~FLnは、流路FP1~FPnにそれぞれ配されており、各流路FP1~FPnを流れる流体13の流量Qm1~Qmnを検出する。また、複数の流量計FL1~FLnは、共通制御装置20と有線又は無線で接続されており、検出された各流路FP1~FPnの各流量Qm1~Qmnを共通制御装置20に向けて出力する。なお、各流量計FLkは、例えば、各流量Qmkの検出及び共通制御装置20への出力を定期的に又は任意のタイミングで行ってもよく、共通制御装置20の指示に従って行ってもよい。また、流量計FLは、各流路FPkに複数設けられても良く、代表的な所定の流路FPkにのみ設けられてもよい。
【0023】
複数のポンプP1~Pnは、流路FP1~FPnにそれぞれ配されており、それぞれ電動機M1~Mnと接続されている。各ポンプP1~Pnは、接続されている電動機M1~Mnの回転速度に従った流量Qmの流体13を流路FP1~FPnの一方から他方に吐出する。なお、ポンプPは、各流路FPkに複数配されていても良く、代表的な所定の流路FPkにのみ単数又は複数配されていてもよい。なお、各ポンプP1~Pnは、各流路FP1~FPnの定格流量Qr1~Qrnを通水可能な容量を有する。
【0024】
複数の電動機M1~Mnは、それぞれポンプP1~Pnと、インバータ装置VFD1~VFDnと接続されている。電動機M1~Mnは、例えば、三相交流誘導電動機等であり、接続されている各ポンプP1~Pnを動作させて流体13を吐出させる。各電動機M1~Mnは、接続されているインバータ装置VFD1~VFDnの制御に従って回転速度が制御される。
【0025】
ここで、流体13の流量Qmkは、電動機Mkの回転速度に比例する。このため、インバータ装置VFD1~VFDnにより電動機M1~Mnの回転速度が制御されることによって、各ポンプP1~Pnによる流体13の吐出流量Qm1~Qmnが制御され、最終的にはプラント全体の流体13の流量Qmが調整される。なお、電動機M1~Mnは、各ポンプP1~Pnが各流路FP1~FPnの定格流量Qr1~Qrnを通水可能とさせることができる回転速度を有する。
【0026】
複数のインバータ装置VFD1~VFDnは、それぞれ電動機M1~Mnと、共通制御装置20と接続されている。各インバータ装置VFD1~VFDnは、共通制御装置20から取得される速度基準(速度指令)S1~Snに基づいて、各電動機M1~Mnの回転速度を制御する。なお、各インバータ装置VFD1~VFDnは、各ポンプP1~Pnが各流路FP1~FPnの各定格流量Qr1~Qrnを通水可能となるようになるまで電動機M1~Mnの回転速度を制御可能である。また、複数のインバータ装置VFD1~VFDnは、後述の所定の制御(図4、5参照)に基づいて制限情報信号L1~Lnを共通制御装置20へ出力する。
【0027】
ここで、電動機Mkの回転速度は、周波数にほぼ比例するため、インバータ装置VFDkによって、周波数が制御されることで、電動機Mkの回転速度が自在に制御される。このため、本実施形態におけるインバータ装置VFDkは、「可変周波数ドライブ(VFD:Variable Frequency Drive)」とも称され、電動機Mkの可変速装置として用いられる。
【0028】
なお、本実施形態におけるインバータ装置VFDkは、例えば、強制空冷式インバータ装置等の空冷式インバータ装置であり、インバータ装置VFDkが有する半導体素子47が発生させる熱は、空気Aに放熱される(図3参照)。なお、インバータ装置VFDkの詳細については、後述する(図3~5等参照)。なお、空気Aは、「冷媒」又は「冷却風」の一例である。
【0029】
共通制御装置20は、複数の流量計FL1~FLnと、複数のインバータ装置VFD1~VFDnとそれぞれ接続されている。共通制御装置20は、各流量計FL1~FLnから、各流路FP1~FPnを流れる流体13の各流量Qm1~Qmnを取得する。また、共通制御装置20は、各インバータ装置VFD1~VFDnから、各インバータ装置VFD1~VFDnによる後述の所定の制御(図4、5参照)に基づいた制限情報信号L1~Lnを取得する。また、共通制御装置20は、後述の所定の演算処理(図6、7参照)に基づいて算出した各速度基準S1~Snを各インバータ装置VFD1~VFDnに対して出力する。これにより、共通制御装置20は、各インバータ装置VFD1~VFDnの動作を制御することで、流体移送システム1の動作を統括的に制御する。なお、共通制御装置20の詳細については、後述する(図2参照)。
【0030】
図2は、図1に示した共通制御装置20の構成例を示す図である。
【0031】
図2に示すとおり、共通制御装置20は、送受信部21と、操作部22と、記憶部23と、表示部24と、通信部25と、システムバス26と、制御部30とを有する。送受信部21と、操作部22と、記憶部23と、表示部24と、通信部25と、制御部30とは、システムバス26を介して相互に接続される。なお、送受信部21は、流量計FL1~FLn及びインバータ装置VFD1~VFDnと接続され、通信部25は、例えば、不図示の上位装置等と接続される。
【0032】
共通制御装置20は、流量計FL及びインバータ装置VFDから取得される情報に基づいて各インバータ装置VFDkの動作を制御することで、各電動機Mk及び各ポンプPkの動作や、流体移送システム1で移送される流体13の各流量Qmkを統括的に制御する。なお、共通制御装置20は、1つに限られず、例えば、複数のインバータ装置VFDkを有する所定グループ毎に複数設けられ、自身が担当する所定グループが有する複数のインバータ装置VFDkのみを制御するものであってもよい。
【0033】
送受信部21は、各流量計FL1~FLnと有線又は無線で接続され、各流量計FL1~FLnから、各流量計FL1~FLnが検出した各流路FP1~FPnを流れる流体13の各流量Qm1~Qmnを受信する。また、送受信部21は、各インバータ装置VFD1~VFDnとも有線又は無線で接続される。そして、送受信部21は、各インバータ装置VFD1~VFDnから、各インバータ装置VFD1~VFDnによる後述の所定の制御(図4、5参照)に基づいて算出された各制限情報信号L1~Lnを受信する。送受信部21は、受信した各流量Qm1~Qmn及び各制限情報信号L1~Lnを、システムバス26を介して共通制御装置20内の各構成要素に出力する。また、送受信部21は、制御部30が後述の所定の演算処理(図6、7参照)に基づいて算出した速度基準S1~Snを、制御部30の指示に従い、制御部30や記憶部23等から取得して、各インバータ装置VFD1~VFDnに対して送信する。
【0034】
なお、送受信部21は、各流量Qm1~Qmn及び各制限情報信号L1~Lnの受信と、各速度基準S1~Snの送信とを、定期的に又はリアルタイムで行ってもよく、操作部22を介して受け付けたオペレータからの指示に従って行ってもよい。また、本実施形態では、複数の流量計FL及び複数のインバータ装置VFDに対し、1つの送受信部21が設けられている例について説明しているが、これには限られない。送受信部21は、各流量計FLk及び各インバータ装置VFDkにそれぞれ専用に設けられていてもよい。また、送受信部21は、送信部と受信部とに分かれて設けられていてもよい。また、送受信部21は、複数の流量計FL及び複数のインバータ装置VFDと、所定の機器又は所定のネットワークを介して接続されていてもよい。
【0035】
操作部22は、例えば、不図示のオペレータによって操作されるHMI(Human Machine Interface:ヒューマンマシンインターフェース)等のユーザインターフェース(UI:User Interface)であり、システムバス26と接続され、不図示のオペレータによる操作を受け付けて、制御部30等に対して指示を与える。なお、操作部22は、共通制御装置20の外部に設けられ、有線又は無線で共通制御装置20と接続され、不図示のオペレータによって外部から遠隔操作されるものであってもよい。
【0036】
記憶部23は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶媒体であり、システムバス26と接続される。記憶部23は、例えば、制御部30の動作に必要なプログラムを記憶する。また、記憶部23は、例えば、送受信部21によって取得された現在又は過去の各流量Qm1~Qmn及び各制限情報信号L1~Lnや、制御部30によって算出された現在又は過去の各速度基準S1~Snを始めとした各種の値等を記憶する。また、記憶部23は、例えば、制御部30による演算で用いられる各種係数、各種演算式、各種閾値、及び各種テーブル等を記憶してもよい。
【0037】
なお、記憶部23は、共通制御装置20の外部に設けられ、有線又は無線で共通制御装置20と接続されていてもよく、後述のメモリ92(図9参照)と共通であってもよい。
【0038】
表示部24は、例えば、共通制御装置20に設けられたモニタであり、システムバス26と接続される。表示部24は、例えば、送受信部21によって送受信される各種の値や、制御部30によって算出される各種の値や、記憶部23に記憶される各種の値等や、各種のアラーム等を表示する。
【0039】
通信部25は、例えば、不図示の上位装置、外部装置、外部端末等と有線又は無線で接続される外部入出力I/F(Interface)や無線通信部等であり、システムバス26と接続される。通信部25は、例えば、不図示の上位装置等からの指示を受信し、システムバス26を介して共通制御装置20内の各構成要素に出力する。また、通信部25は、システムバス26を介して制御部30や記憶部23等から取得した各種の情報や値、アラーム等を不図示の上位装置等に送信する。なお、通信部25は、送受信部21と共通であってもよく、不図示の上位装置等と、所定の機器又は所定のネットワークを介して接続されていてもよい。
【0040】
システムバス26は、共通制御装置20の内部で各構成要素を結ぶデータ伝送路(バス)であり、制御部30と他の構成要素とを相互に接続する。システムバス26は、送受信部21と、操作部22と、記憶部23と、表示部24と、通信部25と、制御部30とを相互に接続し、接続されたこれらにより、情報の伝送が相互に行われる。
【0041】
制御部30は、システムバス26と接続され、例えば、プログラムを実行することにより動作するCPU(Central Processing Unit)等の不図示の演算装置を有する。制御部30は、例えば、記憶部23や後述のメモリ92(図9参照)に記憶された所定のプログラムを実行することにより不図示の演算装置を動作させて、共通制御装置20や流量制御システム2の動作を統括的に制御する。また、制御部30は、不図示の上位装置からの指示や不図示のオペレータから操作部22を介して受け付けた指示に従って、共通制御装置20や流量制御システム2の動作を制御してもよい。
【0042】
制御部30は、所定のプログラムを実行することにより、例えば、速度基準算出部31と、速度基準補正部32と、動作制御部33として機能する。なお、これらの各機能は、制御部30が有する機能の一例であり、制御部30の機能は、これらには限られない。なお、これらの各機能は、共通制御装置20が有する演算処理装置が実行する流量制御プログラムにより実現されても良く、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0043】
速度基準算出部31は、例えば、通信部25を介して上位装置等から、又は操作部22を介したオペレータの操作を受け付けて、全体流量指令Qtを取得する。速度基準算出部31は、送受信部21を介して複数の各流量計FLkによって検出された各流量Qmkを取得する。速度基準算出部31は、各流量Qmkの合計値が全体流量指令Qtに追従するように複数の各インバータ装置VFDkの各速度基準(速度指令)Skを算出する。
【0044】
速度基準補正部32は、送受信部21を介して各インバータ装置VFDkで算出された制限情報信号Lkを取得する。速度基準補正部32は、全インバータ装置VFDkからの制限情報信号Lkがアクティブでない場合、各流路FPkの定格流量Qrkに応じた各流量Qmkが各流路FPkに流れるように、各流路FPkの定格流量Qrkに応じて各速度基準Skを重みづけする。
【0045】
一方、速度基準補正部32は、各インバータ装置VFDkからの制限情報信号Lkのうち少なくとも1つがアクティブである場合、制限情報信号Lkがアクティブでないインバータ装置VFDkに対して、各流路FPkの各定格流量Qrkに応じて重みづけを行う。そして、速度基準補正部32は、制限情報信号Lkがアクティブでないインバータ装置VFDkに対して、各流量Qmkの合計値Qmtが全体流量指令Qtに追従するように各速度基準Skを補正して増加させる。
【0046】
動作制御部33は、速度基準算出部31又は速度基準補正部32から各インバータ装置VFDkの各速度基準Skを取得し、取得した各速度基準Skを、送受信部21を介して各インバータ装置VFDkに出力する。これにより、各インバータ装置VFDkは、速度基準Skを取得し、所得した速度基準Skに従って電動機Mkを回転させ、ポンプPkを動作させて、各流路FPkに所定の流量Qmkを通水させる。
【0047】
共通制御装置20は、上記の各機能により、各インバータ装置VFDkの動作を制御することで、流量制御システム2及び流体移送システム1の動作を統括的に制御する。なお、制御部30の動作の詳細は、後述する(図6、7参照)。
【0048】
図3は、図1に示したインバータ装置VFDkの冷却構成の一例を示す図である。図3では、複数のインバータ装置VFD1~VFDnのうち、任意のインバータ装置VFDkを例にとって説明する。図3におけるインバータ装置VFDkは、例えば、強制空冷式インバータ装置等の空冷式インバータ装置である。
【0049】
図3に示すとおり、インバータ装置VFDkは、インバータ盤41と、エアフィルタ42と、第1ダクト43と、ヒートシンク44と、第2ダクト45と、ファン46と、半導体素子47とを有する。また、インバータ装置VFDkは、差圧センサ51と、温度センサ52と、VFD制御装置60とを有する。
【0050】
インバータ盤41は、半導体素子47及びその他の不図示の電気制御機器や、ヒートシンク44及びファン46等の盤用冷却器等が格納された装置であり、例えば、インバータ装置VFDkの外側を囲うように配される。
【0051】
エアフィルタ42は、外部から空気Aを取り入れる際、空気中からゴミや塵埃等を取り除き、空気Aを清浄空気するものであり、例えば、インバータ盤41における空気Aの取り入れ口41aに配される。
【0052】
第1ダクト43は、エアフィルタ42とヒートシンク44との間に配置され、空気Aの取り入れ口41aからエアフィルタ42を経由して取り入れられた空気Aをヒートシンク44まで通風する風導管である。
【0053】
ヒートシンク44は、放熱・排熱を目的として取り付けられる部品であり、第1ダクト43と第2ダクト45との間に配置される。ヒートシンク44は、例えば、伝熱特性の良いアルミニウム、鉄、銅などの金属が用いられ、外気などへ熱を排出する目的上、表面積が広くなるよう、例えば、フィンと呼ばれる板や棒の生えた剣山状や蛇腹状に成型された放熱部44aを有する。
【0054】
ヒートシンク44には、インバータ装置VFDkの主回路を構成する半導体素子47が密に接しており、半導体素子47が発生させる熱が、ヒートシンク44の放熱部44aを経由して空気Aに放熱されるように構成されている。ヒートシンク44は、半導体素子47から熱を奪い、奪われた熱が放熱部44aを経由して空気Aに放熱され、放熱された空気Aは、第2ダクト45に排出される。
【0055】
第2ダクト45は、ヒートシンク44と、ファン46との間に配置され、ヒートシンク44の放熱部44aで放熱された空気Aを、インバータ盤41における空気Aの排出口41bまで通風する風導管である。なお、第1ダクト43と第2ダクト45とは、ファン46によってエアフィルタ42経由で吸引される外部の空気Aを、効率的にヒートシンク44の放熱部44aに接触させ、放熱効果を高めるように構成されている。
【0056】
ファン46は、例えば、軸に対して放射状に配置された羽根が回転することで空気Aを移動させる送風機であり、例えば、インバータ盤41における空気Aの排出口41bの内側の第2ダクト45内に配置される。ファン46が羽根を回転させることにより、外部から吸引された空気Aは、ヒートシンク44の放熱部44aを経由して放熱を受け、排出口41bからインバータ装置VFDkの外部に排出される。
【0057】
半導体素子(インバータ素子)47は、インバータ装置VFDkの主回路を構成する回路素子であり、発生させる熱がヒートシンク44の放熱部44aを経由して空気Aに放熱されるように、インバータ盤41内においてヒートシンク44に密接して配置される。半導体素子47は、例えば、シリコン等の半導体を素材として作成されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の複数のスイッチング素子で構築される。
【0058】
半導体素子47は、例えば、VFD制御装置60によって生成される、スイッチング素子のゲート駆動信号であるPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号によって制御される。半導体素子47は、例えば、三相交流である商用電源を直流に変換し、DCバス等のコンデンサ部品を経由した後、インバータ回路によって再度交流に変換する。このように、半導体素子47が交流の商用電源を直流に変換し、変換した直流を交流に再変換することで、インバータ装置VFDkは、電流の周波数を制御することができ、それにより、電動機Mk(図1参照)のモータの速度を変化させる事ができる。
【0059】
差圧センサ51は、例えば、エアフィルタ42の内側と外側との空気Aの圧力差を検出可能な位置に配置され、エアフィルタ42の内側と外側との空気Aの圧力差を検出する。差圧センサ51は、検出された圧力差の値を不図示の信号線を介してVFD制御装置60に出力する。なお、差圧センサ51が配置される位置は、圧力差が検出可能であれば図3に示す位置には限られず、また、複数配置されてもよい。
【0060】
温度センサ52は、例えば、第1ダクト43内のヒートシンク44の空気Aの入口側に配置され、ヒートシンク44の放熱部44aの入口側の空気Aの温度を測定する。温度センサ52は、測定された温度の値を不図示の信号線を介してVFD制御装置60に出力する。なお、温度センサ52が配置される位置は、図8に示す位置には限られず、また、複数配置されてもよい。
【0061】
VFD制御装置60は、インバータ盤41内に設けられ、例えば、プログラムを実行することにより動作するCPU等の不図示の演算装置を有する。VFD制御装置60は、例えば、後述のメモリ92(図9参照)等に記憶された所定のプログラムを実行することにより不図示の演算装置を動作させて、インバータ装置VFDkの動作を統括的に制御する。
【0062】
また、VFD制御装置60は、共通制御装置20と接続され、共通制御装置20から取得される速度基準Skに基づいてゲートパルスを発生させて、半導体素子47の動作を制御し、これにより、電動機Mkの回転速度を制御する。また、VFD制御装置60は、差圧センサ51と、不図示の信号線を介して接続され、これらが検出又は測定した値を取得し、後述の所定の制御(図4、5参照)に基づいて算出された制限情報信号L1~Lnを共通制御装置20へ出力する。
【0063】
なお、VFD制御装置60が有する機能は、VFD制御装置60が有する演算処理装置が実行するVFD制御プログラムにより実現されても良く、ハードウェアにより実現されてもよい。VFD制御装置60によって行われる制御又は演算処理の詳細は、後述する(図4、5参照)。
【0064】
図4は、図3に示したVFD制御装置60によって行われる制御の一例を示す制御ブロック図である。
【0065】
図4に示すとおり、VFD制御装置60は、速度帰還回路61と、トルク基準回路62と、電流制御回路63と、リミッタ64と、リミッタ設定回路65と、電圧制御回路66と、PWM回路67と、コンパレータ68とを有する。
【0066】
速度帰還回路61は、インバータ装置VFDkが電動機Mkの回転速度を制御するための速度帰還信号を発生させる回路である。速度帰還回路61は、例えば、電動機Mkの軸にポジションセンサが設けられている場合、当該ポジションセンサから取得した信号を微分して、電動機Mkの回転速度に変換する回路であってもよい。また、速度帰還回路61は、例えば、電動機Mkの軸にポジションセンサが設けられていない場合、インバータ装置VFDkの出力電流検出値、出力電圧信号、及び出力周波数等を取得してもよい。そして、速度帰還回路61は、例えば、これらの値から、電動機Mkの回転速度を推定する回転速度推定回路であってもよい。速度帰還回路61は、算出又は推定した速度帰還信号をトルク基準回路62に出力する。
【0067】
トルク基準回路62は、速度帰還回路61から取得された速度帰還信号が、共通制御装置20(図1、2参照)から取得した速度基準Skに追従するように、トルク基準を算出し、算出されたトルク基準を電流制御回路63に出力する回路である。
【0068】
電流制御回路63は、トルク基準回路62から取得されたトルク基準に応じて、第1電流制御信号を発生させる回路である。電流制御回路63は、発生させた第1電流制御信号をリミッタ64とコンパレータ68とに出力する。
【0069】
リミッタ64は、電流制御回路63から取得された第1電流制御信号が、リミッタ設定回路65から取得された制限値Ir又は制限値Isを超えない場合は、第1電流制御信号と同じ値を第2電流制御信号として電圧制御回路66に出力する。一方、リミッタ64は、電流制御回路63から取得された第1電流制御信号が、リミッタ設定回路65から取得された制限値Ir又は制限値Isを超える場合は、制限値Ir又は制限値Isと同じ値を第2電流制御信号として電圧制御回路66に出力する。なお、制限値Irと、制限値Isとは、「第1の制限値」と「第2の制限値」との一例である。
【0070】
リミッタ設定回路65は、インバータ装置VFDkに設けられた各種センサ(例えば、差圧センサ51等)の値等を取得して、制限値Ir又は制限値Isの算出し、算出された制限値Ir又は制限値Isをリミッタ64とコンパレータ68とに出力する。なお、リミッタ設定回路65の動作の詳細は、後述する(図5参照)。
【0071】
電圧制御回路66は、リミッタ64から取得された第2電流制御信号に応じて電圧指令信号を生成し、生成された電圧指令信号をPWM回路67に出力する。
【0072】
PWM回路67は、電圧制御回路66から取得された電圧指令信号と、所定のキャリア周波数を有するキャリア信号とに基づいてPWM変調を行い、ゲートパルスを発生させる。そして、PWM回路67は、発生させたゲートパルスをインバータ装置VFDのインバータ主回路を構成する半導体素子47(図3参照)に出力する。
【0073】
コンパレータ68は、電流制御回路63から取得された第1電流制御信号と、リミッタ設定回路65から取得された制限値Ir又は制限値Isとを比較する。コンパレータ68は、第1電流制御信号が制限値Ir又は制限値Isを超えると判定した場合は、リミッタ64による第1電流制御信号の制限がされている(アクティブである=リミッタ動作)として、Hレベルを制限情報Lkとして共通制御装置20へ出力する。
【0074】
一方、コンパレータ68は、第1電流制御信号が制限値Ir又は制限値Isを超えていないと判定した場合は、リミッタ64による第1電流制御信号の制限がされていない(アクティブでない=リミッタ不動作)として、Lレベルを制限情報Lkとして共通制御装置20へ出力する。なお、コンパレータ68は、「リミッタ動作判定回路」の一例である。制限情報Lkは、HレベルとLレベルの論理情報(ビット情報)である。
【0075】
<第1実施形態の動作>
図5は、図4に示したVFD制御装置60におけるリミッタ設定回路65の動作についての説明図である。図5(a)は、風速-熱抵抗特性を示す図である。図5(b)は、インバータ電流-許容電力特性を示す図である。図5(c)は、許容電力-インバータ電流特性を示す図である。
【0076】
以下、適宜図4も参照しながらリミッタ設定回路65の動作について説明する。半導体素子47は、一般に、動作時にその特性を満足させるためのジャンクション温度(接合部温度)Tjの上限温度Tjmaxが定められている。例えば、シリコン単結晶をベースとしたIGBTでは、半導体素子47のジャンクション温度Tjの上限温度Tjmaxは、一般的に125℃程度である。また、半導体素子47は、通電やスイッチングした際に熱を発生させる。従って、動作時に適切に熱を放熱させるために、ヒートシンク44が用いられる。
【0077】
ここで、ヒートシンク44と接する冷媒(例えば、空気A)の温度をTa、ヒートシンク44の熱抵抗をRf、半導体素子47の熱抵抗をRtj(Rtjには半導体素子47自身の熱抵抗と、ヒートシンク44と半導体素子47との間の接触熱抵抗も含む)とし、発生損失をPcとすると、半導体素子47のジャンクション温度Tjは、以下の式(1)のとおりである。
【0078】
Tj=Ta+(Rtj+Rf)×Pc・・・・・・(1)
【0079】
さらに、式(1)は、下記の式(2)の条件を満たす必要がある。
【0080】
Tj≦Tjmax・・・・・・(2)
【0081】
図5(a)は、風速Vw-熱抵抗Rf特性を示す図である。図5(a)において、縦軸はヒートシンク熱抵抗Rfであり、横軸は風速Vwである。強制風冷式ヒートシンクの熱抵抗Rfは、図5(a)のように示される。すなわち、ヒートシンク熱抵抗Rfと風速Vwとの関係は、関数Rf(Vw)で示される。図5(a)で示されるように、関数Rf(Vw)は、風速Vwが増加するに従い、ヒートシンク熱抵抗Rfが減少する関数である。関数Rf(Vw)は、ヒートシンク44の型式により定まるものであり、実測などで予め求めることが出来る。また、半導体素子47の熱抵抗(半導体素子熱抵抗)Rtjについても、例えば、半導体素子メーカーの技術資料等で提供されている。また接触熱抵抗も実測から求めることが出来る。
【0082】
図5(b)は、インバータ電流Iinv-許容電力Pc特性を示す図である。図5(b)において、縦軸は許容電力Pcであり、横軸はインバータ電流Iinvである。半導体の発生損失Pcとインバータの出力電流Iinvの関係は、図5(b)の関数Pc(Iinv)のように示される。すなわち、関数Pc(Iinv)は、インバータの出力電流Iinvの増加とともに、半導体の発生損失Pcが増加する関数である。半導体素子47の発生損失Pcは、インバータの出力電流Iinvの有効電力成分と無効電力成分との割合で変わる。
【0083】
この点、図1に示す構成の場合、電動機Mkの回転速度により有効電流成分と無効電流成分とが一意に決まるため、出力電流Iinvと半導体素子47の発生損失Pcとの関係は、一意に決まることになる。
【0084】
図5(c)は、許容電力Pc-インバータ電流Iinv特性を示す図である。図5(c)において、縦軸はインバータ電流Iinvであり、横軸は許容電力Pcである。すなわち、図5(b)に示す関数Pc(Iinv)は、図5(c)に示すように、インバータの出力電流Iinvに関し半導体素子47の発生損失Pcを変数とする関数Iinv(Pc)とみなすことができる。即ち、関数Iinv(Pc)は関数Pc(Iinv)の逆関数として求めることが出来る。
【0085】
従って、エアフィルタ42が目詰まりして空気Aの風速が減少し、ヒートシンク44の熱抵抗Rfが所定の値よりも増加しても、インバータの出力電流Iinvを低減することができれば、半導体素子47の発生損失Pcを低減でき、その結果、ジャンクション温度Tjを下げることになる。インバータの出力電流Iinvは、インバータの出力電流Iinvの有効電力成分(言い換えれば、トルク電流成分)としてもよい。
【0086】
ここで、第1実施形態における通常運転時(エアフィルタ42の目詰まり無し)の制限値Irは、例えば、インバータの定格運転時の出力電流Iinv(定格出力電流)と等しいかそれ以下である。あるいは、制限値Irは、制限値Irで運転時のインバータの出力電力Iinvが、ポンプPkが流路FPkに必要な最大流量Qmmaxを通水するのに必要なパワーを電動機Mkが供給するために必要な電力と等しいかそれ以上である。このようにして、通常運転時(エアフィルタ42の目詰まり無し)の制限値Irが決定される。
【0087】
ここで、通常運転時(エアフィルタ42の目詰まり無し)の制限値Irにおける半導体素子47の発生損失PcをPc1とした場合、以下の式(3)に示す関係が成立する。但し、Tamaxは、インバータの最大周囲温度(冷媒の最大入り口温度)であり、Rf1は、目詰まりなしと判断される条件でのヒートシンク冷却最小風速におけるヒートシンク熱抵抗である。
【0088】
Tjmax≧Tamax+(Rtj+Rf1)×Pc1・・・・・・(3)
【0089】
一方、第1実施形態における異常運転時(エアフィルタ42の目詰まり有り)の制限値Isは、例えば、以下のように設定される。例えば、図1に示すように、エアフィルタ42に差圧センサ51は有るが、風速センサ53(図8参照)は無い場合、エアフィルタ42の目詰まり有り時の半導体素子47の許容発生損失Pc2は、以下の式(4)で求められる。但し、Rf0は、風速0(自冷)のときのヒートシンク44の熱抵抗である(図5(a)参照)。
【0090】
Pc2=(Tjmax-Tamax)/(Rtj+Rf0)・・・・・・(4)
【0091】
ここで、図5(c)を参照すると、異常運転時(エアフィルタ42の目詰まり有り)の制限値Isは、式(5)で求められる。
【0092】
Is=Iinv(Pc2)・・・・・・(5)
【0093】
このとき、リミッタ設定回路65の出力を切り替える切替条件は、以下のとおりである。すなわち、差圧センサ51の検出値が所定の圧力値Pdetを超えたときは、出力を制限値Isとし、それ未満のときは、出力をIrとする。
【0094】
ここで、所定の圧力値Pdetは、以下の式(6)で示される。但し、Pfanは、ファン46が発生する圧力であり、Pfinは、ヒートシンク44を冷却風(空気A)が風速Vw1で通過するときにヒートシンク44に発生する冷却風(空気A)の圧力損失である。なお、風速Vw1は、目詰まり有りとの判定時にヒートシンク44を通過する冷却風(空気A)の最大風速であり、すなわち目詰まり無しとの判定時の最小風速に相当する(図5(a)参照)。
【0095】
Pdet=Pfan-Pfin・・・・・・(6)
【0096】
以上により、リミッタ設定回路65は、算出された制限値Ir又は制限値Isをリミッタ64とコンパレータ68とに出力する。これにより、各インバータ装置VFDkのエアフィルタ42に目詰まりが無いときと、目詰まりが有るときとで、各インバータ装置VFDkの制限値Ir又はIsを変更することができる。
【0097】
図6は、図1から図5に示す第1実施形態における共通制御装置20によるパワー配分設定(速度基準設定)の処理例を示すフローチャートである。以下、図1から図5を参照しながら、図6のフローチャートについて説明する。
【0098】
図6に示すフローチャートは、流量制御システム2及び流体移送システム1の運転中において、所定間隔毎又はリアルタイムに、共通制御装置20の制御部30によって開始される。なお、図6に示すフローチャートは、不図示の上位装置からの指示や操作部22を介して不図示のオペレータから受け付けた指示に従って、共通制御装置20の制御部30によって開始されてもよい。
【0099】
ステップS102において、制御部30の速度基準算出部31は、リミッタ動作を意味するフラグ配列LF(k)を初期化し、LF(k)=0とする。すなわち、速度基準算出部31は、フラグ配列LF(k)の値をkの1からnについて0とする。
【0100】
ステップS104において、制御部30の速度基準算出部31は、不図示の上位装置からの指示に基づいて、第1貯水槽11と第2貯水槽12との間で移送される流体13の全体流量指令Qtを取得する。なお、速度基準算出部31は、不図示のオペレータによる共通制御装置20の操作部22(HMI)の直接操作により受け付けた指示に基づいて、第1貯水槽11と第2貯水槽12との間で移送される流体13の全体流量指令Qtを取得してもよい。
【0101】
ステップS106において、制御部30の速度基準算出部31は、全体流量指令Qtに変化があるか否かを判定する。速度基準算出部31は、全体流量指令Qtに変化があると判定したときは(Yes側)、ステップS108に処理を移行させる。一方、速度基準算出部31は、全体流量指令Qtに変化が無いと判定したときは(No側)、ステップS114に処理を移行させる。
【0102】
ステップS108において、制御部30の速度基準算出部31は、全体流量指令Qtを各流路FP1~FPnの各流量指令Q1~Qnに分配する。ここで、各流路FP1~FPnの定格流量をQr1~Qrnとすると、全体定格流量Qrtは、式(7)で与えられる。
【0103】
【数1】
【0104】
流路FPkにおける流量指令Qkは、全体定格流量Qrtを流路FPkにおける定格流量Qrkに応じて重みづけした以下の式(8)で与えられる。
【0105】
Qk=Qt×Qrk/Qrt・・・・・・(8)
【0106】
なお、定格流量Qr1~Qrnが全て等しい場合は、流路FPkにおける流量指令Qkは、以下の式(9)となる。
【0107】
Qk=Qt/n・・・・・・(9)
【0108】
ステップS110において、制御部30の速度基準算出部31は、全体流量指令Qtを各流路FP1~FPnにおける各インバータ装置VFD1~VFDnの各速度基準S1~Snに変換する。ここで、流路FPkに定格流量Qrkを通水するための電動機Mkの回転速度をSrkとし、流量は電動機Mkの回転速度に比例するものとすると、流路FPkに流量指令Qkの流量を通水する為のインバータ装置VFDkの速度基準Skは以下の式(10)で示される。
【0109】
Sk=Srk×Qk/Qrk・・・・・・(10)
【0110】
ステップS112において、制御部30の速度基準算出部31又は動作制御部33は、共通制御装置20の送受信部21を介して、各速度基準Skを各インバータ装置VFDkに送信する。
【0111】
ステップS114において、制御部30の速度基準補正部32は、送受信部21を介して、各インバータ装置VFDkから各制限情報信号(制限情報)Lkを取得する。
【0112】
ステップS116において、制御部30の速度基準補正部32は、送受信部21を介して、各流量計FLkから各流路FPkの実測の流量Qmkを取得する。
【0113】
ステップS118において、制御部30の速度基準補正部32は、各流路FP1~FPnの各流量Qm1~Qmnの実測値の合計である実測合計流量Qmtを求める。すなわち、速度基準補正部32は、以下の式(11)により、各流量Qm1~Qmnを合計し、実測合計流量Qmtを求める。
【0114】
【数2】
【0115】
ステップS120において、制御部30の速度基準補正部32は、全体流量指令Qtと実測合計流量Qmtとの差である流量差ΔQtを求める。すなわち、制御部30は、以下の式(12)により、全体流量指令Qtから実測合計流量Qmtを減算して流量差ΔQtを求める。
【0116】
ΔQt=Qt-Qmt・・・・・・(12)
【0117】
図7は、図6に示すフローチャートの処理の続きを示すフローチャートである。以下、図1から図6を参照しながら、図7のフローチャートについて説明する。
【0118】
ステップS122において、制御部30の速度基準補正部32は、流量差ΔQtの絶対値が、許容誤差流量Qetの範囲を超えるか否かを判定する。すなわち、速度基準補正部32は、以下の式(13)を満たすか否かを判定する。
【0119】
|ΔQt|>Qet・・・・・・(13)
【0120】
制御部30の速度基準補正部32は、流量差ΔQtの絶対値が、許容誤差流量Qetの範囲を超えると判定した場合(Yes側)、ステップS124に処理を移行させる。一方、速度基準補正部32は、流量差ΔQtの絶対値が、許容誤差流量Qetの範囲を超えないと判定した場合(No側)、図6及び図7に示すフローチャートの処理を終了させる。なお、許容誤差流量ΔQetは、例えばシステムがハンチングを起こさないように設定される。また、流量差ΔQtの絶対値での判定でなく、その正負により許容誤差流量ΔQetの判定に差が設けられてもよい。
【0121】
ステップS124において、制御部30の速度基準補正部32は、インバータ装置VFDkのリミッタ設定回路65の動作の有無を示すフラグ配列LF(k)のkについて、k=1に設定する。
【0122】
ステップS126において、制御部30の速度基準補正部32は、インバータ装置VFDkから取得された制限情報LkがHレベル(アクティブ=リミッタ動作)であるか否かを判定する。速度基準補正部32は、インバータ装置VFDkから取得された制限情報LkがHレベル(アクティブ=リミッタ動作)であると判定した場合(Yes側)、ステップS129に処理を移行させる。一方、速度基準補正部32は、制御部30は、インバータ装置VFDkから取得された制限情報LkがLレベル(非アクティブ=リミッタ不動作)であると判定した場合(No側)、ステップS128に処理を移行させる。
【0123】
ステップS128において、制御部30の速度基準補正部32は、インバータ装置VFDkのリミッタ設定回路65の動作の有無を示すフラグ配列LF(k)を、LF(k)=1に設定する。そして、速度基準補正部32は、ステップS130に処理を移行させる。
【0124】
ステップS129において、制御部30の動作制御部33は、表示部24や通信部25を通じて、インバータ装置VDFkのエアフルタ42が目詰まりであることを警報として表示および上位装置に出力し、ステップS130に処理を移行させる。
【0125】
ステップS130において、制御部30の速度基準補正部32は、k=nであるか否かを判定する。すなわち、制御部30は、全てのインバータ装置VFDk(すなわち全てのインバータ装置VFD1~VFDn)のリミッタ設定回路65の動作の有無を示すフラグ配列LF(k)を、0又は1に設定したか否かを判定する。速度基準補正部32は、k=nであると判定した場合(Yes側)、ステップS134に処理を移行させる。一方、の速度基準補正部32は、k=nではないと判定した場合(No側)、ステップS132に処理を移行させる。
【0126】
ステップS132において、制御部30の速度基準補正部32は、k=k+1に設定し、ステップS126に処理を移行させる。すなわち、速度基準補正部32は、kを1ずつインクリメントし(増加させ)、k=nとなるまでステップS126~S132の処理を繰り返す。
【0127】
なお、ステップS124~ステップS132の処理は、全てのインバータ装置VFDkのリミッタ設定回路65の動作の有無を示すフラグ配列LF(k)を、0又は1に設定するフローである。すなわち、インバータ装置VFDkから取得された制限情報LkがHレベル(アクティブ=リミッタ動作)であればフラグ配列LF(k)=0のままとし、制限情報LkがLレベル(非アクティブ=リミッタ不動作)であればフラグ配列LF(k)=1に設定する。なお、ステップS124~ステップS132のフラグ配列LF(k)の設定の目的は、後述のステップS136及びステップS140に示すパワー再分配処理の単純化である。
【0128】
ステップS134において、制御部30の速度基準補正部32は、流量差ΔQt>0であるか否かを判定する。速度基準補正部32は、流量差ΔQt>0であると判定した場合(Yes側)、ステップS136に処理を移行させる。一方、速度基準補正部32は、流量差ΔQt>0ではないと判定した場合(No側)、ステップS138に処理を移行させる。
【0129】
すなわち、速度基準補正部32は、流量差ΔQtの絶対値が許容誤差流量Qetの範囲を超える場合であって(S122:Yes)、速度基準Skを増加させる方向の場合(S134:Yes)、ステップS136に処理を移行させる。一方、制御部30は、流量差ΔQtの絶対値が許容誤差流量Qetの範囲を超える場合であって(S122:Yes)、速度基準Skを減少させる方向の場合(S134:No)、ステップS138に処理を移行させる。
【0130】
ステップS136において、制御部30の速度基準補正部32は、フラグ配列LF(k)=1であるインバータ装置VFDkに流量差ΔQtを再配分し、フラグ配列LF(k)=0であるインバータ装置VFDkに対しては流量差ΔQtの再配分量を0(ゼロ)とする。すなわち、速度基準補正部32は、リミッタ64が動作していないインバータ装置VFDkを有する流路FPkに対しては、流路FPkの定格流量Qrkに応じて流量補正指令ΔQkを求める。一方、速度基準補正部32は、リミッタ64が動作しているインバータ装置VFDkを有する流路FPkに対しては、流量補正指令ΔQkを0とする。
【0131】
フラグ配列LF(k)を計算式に使用することにより、リミッタ64が動作していない流路FPの定格流量Qrの合計をQrt1とすると、リミッタ不動作の流路FPkの合計定格流量Qrt1は、以下の式(14)で表される。
【0132】
【数3】
【0133】
例えば、速度基準補正部32は、流路FPkに対しては、以下の式(15)を用いて、流量差ΔQtを流路FPkの定格流量Qrkに応じて重みづけをして、流量補正指令ΔQk求めることが出来る。
【0134】
ΔQk=LF(k)×ΔQt×Qrk/Qrt1・・・・・・(15)
【0135】
ステップS138において、制御部30の速度基準補正部32は、流量差ΔQtを各インバータ装置VFDkに再配分する。すなわち、速度基準補正部32は、速度基準Sk(流量補正指令ΔQk)を減少方向とする場合は、以下の式(16)を用いて、全ての流路FPkについて、流量差ΔQtを流路FPkの定格流量Qrkに応じて重みづけをして、流量補正指令ΔQk求める。
【0136】
ΔQk=ΔQt×Qrk/Qrt・・・・・・(16)
【0137】
ステップS140において、制御部30の速度基準補正部32は、流量補正指令ΔQkに応じて、流量差ΔQtの再配分量を各インバータ装置VFDkの速度基準Skの速度基準補正量ΔSkに変換する。なお、速度基準補正量ΔSkは、以下の式(17)により求められる。但し、Srkは、流路FPkに定格流量Qrkを通水するための電動機Mkの回転速度である。
【0138】
ΔSk=Srk×ΔQk/Qrk・・・・・・(17)
【0139】
ステップS142において、制御部30の速度基準補正部32は、これまでの速度基準Sk(例えば、ステップS110で求められた速度基準Sk)に速度基準補正量ΔSkが加算された新たな速度基準Skを求める。なお、新たな速度基準Skは、以下の式(18)で算出される。
【0140】
Sk=Sk+ΔSk・・・・・・(18)
【0141】
ステップS144において、制御部30の動作制御部33は、送受信部21を介して、各インバータ装置VFDkへ新たな速度基準Skを送信し、図6及び図7に示すフローチャートの処理を終了する。
【0142】
<第1実施形態の作用効果>
以上、図1から図7に示す第1実施形態によれば、共通制御装置20は、リミッタ64が動作していないインバータ装置VFDkを有する流路FPkに対しては、流路FPkの定格流量Qrkに応じて流量補正指令ΔQkを求める。一方、共通制御装置20は、リミッタ64が動作しているインバータ装置VFDkを有する流路FPkに対しては、流量補正指令ΔQkを0とする(S136)。そして、共通制御装置20は、求められた流量補正指令ΔQkに基づいて速度基準補正量ΔSkを求め(S140)、求められた速度基準補正量ΔSkを加味した新たな速度基準Skを算出し(S142)、各インバータ装置VFDkに送信する(S144)。
【0143】
すなわち、図1から図7に示す第1実施形態によれば、各インバータ装置VFDkのリミッタ64の動作及び各流路FPの定格流量Qrkに応じて、インバータ装置VFDkへの速度基準Skが補正される。このため、図1から図7に示す第1実施形態によれば、インバータ装置VFDに異常が発生しても、インバータ素子(半導体素子47)のジャンクション温度Tjが上限温度Tjmaxより高い温度での運転を継続することを抑制することが出来る。また、エアフィルタ42に目詰まりの発生を検知し、警報を出力することが出来る。
【0144】
このため、図1から図7に示す第1実施形態によれば、(強制)空冷式インバータ装置VFDのエアフィルタ42に目詰まりが発生しても、インバータ素子(半導体素子47)について、破損を抑制することができる。
【0145】
また、これにより、図1から図7に示す第1実施形態によれば、プラント等において、流体13の流量Qmを制御する複数台のインバータ装置VFDにおけるインバータ素子(半導体素子47)について、破損を抑制することができる。これにより、図1から図7に示す第1実施形態によれば、プラント全体として必要な流体13の流量Qm(ポンプPの吐出流量Qm)を継続して確保することができ、プラント全体の運転を継続させることができる。さらに、エアフィルタ42に目詰まりの発生を検知し、警報を出力することが出来るため、プラントの停止を計画し、目詰まりの発生したエアフィルタ42の清掃・交換を行う事ができ、プラントの運用効率の改善に貢献できる。
【0146】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態に係るインバータ装置VFD’kの冷却構成の一例を示す図である。なお、図8では、複数のインバータ装置VFD’1~VFD’nのうち、任意のインバータ装置VFD’kを例にとって説明する。図8におけるインバータ装置VFD’kは、例えば、強制空冷式インバータ装置等の空冷式インバータ装置である。
【0147】
なお、図8において、図1図7に示す実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。図8に示す第2実施形態では、図1図7に示す第1実施形態とは異なり、インバータ装置VFD’kは、差圧センサ51を有さない代わりに、温度センサ52と、風速センサ53とを有する。
【0148】
温度センサ52は、例えば、第1ダクト43内のヒートシンク44の空気Aの入口側に配置され、ヒートシンク44の放熱部44aの入口側の空気Aの温度を測定する。温度センサ52は、測定された温度の値を不図示の信号線を介してVFD制御装置60に出力する。なお、温度センサ52が配置される位置は、図8に示す位置には限られず、また、複数配置されてもよい。
【0149】
風速センサ53は、例えば、第2ダクト45内のヒートシンク44の空気Aの出口側に配置され、ヒートシンク44を通過する空気Aの速度を測定する。風速センサ53は、測定された速度の値を不図示の信号線を介してVFD制御装置60に出力する。なお、風速センサ53が配置される位置は、図8に示す位置には限られず、また、複数配置されてもよい。
【0150】
VFD制御装置60’は、共通制御装置20と接続され、共通制御装置20から取得される速度基準Skに基づいてゲートパルスを発生させて、半導体素子47の動作を制御し、これにより、電動機Mkの回転速度を制御する。また、VFD制御装置60’は、温度センサ52と、風速センサ53と、不図示の信号線を介して接続され、これらが検出又は測定した値を取得し、所定の制御(図4、5参照)に基づいて算出された制限情報信号L1~Lnを共通制御装置20へ出力する。
【0151】
図8に示す第2実施形態では、図1図7に示す第1実施形態と同様に、通常運転時(エアフィルタの目詰まり無し)の制限値Irにおける半導体の発生損失PcをPc1とした場合、上述した式(3)と同様の式(19)に示す関係が成立する。なお、上述した式(3)と同様に、式(19)において、Tamaxは、インバータの最大周囲温度(冷媒の最大入り口温度)であり、Rf1は、目詰まりなしと判断される条件でのヒートシンク冷却最小風速におけるヒートシンクの熱抵抗である。
【0152】
Tjmax=Tamax+(Rtj+Rf1)×Pc1・・・・・・(19)
【0153】
このとき、第2実施形態における異常運転時(エアフィルタ42の目詰まり有り)の制限値Isは以下のように設定される。例えば、図8に示すように、エアフィルタ42に差圧センサ51が無く、温度センサ52と風速センサ53とが有る場合、エアフィルタ42の目詰まり有り時の半導体素子47の許容発生損失Pc2は、以下の式(20)のとおりである。すなわち、運転中に、風速センサ53から得られた風速Vwから上述の図5(a)で示される関数Rf(Vw)を求め、さらに温度センサ52から冷媒温度(空気Aの温度)Taを求め、以下の式(20)で許容電力Pc2を求める。
【0154】
Pc2=(Tjmax-Ta)/{Rtj+Rf(Vw)}・・・・・・(20)
【0155】
さらに、上述の図5(c)に示される関数Iinv(Pc)から、式(21)に基づいて、異常運転時(エアフィルタ42の目詰まり有り)の制限値Isを求める。
【0156】
Is=Iinv(Pc2)・・・・・・(21)
【0157】
なお、関数Rf(Vw)及び関数Iinv(Pc)は、ルックアップテーブルあるいは近似式等でインバータ装置VFD’kに組み込んでおくことが出来る。なお、リミッタ設定回路65の出力を切り替える切替条件は、以下のとおりである。すなわち、制限値Is又は制限値Irのうち小さい方が出力される。
【0158】
以上により、リミッタ設定回路65は、算出された制限値Ir又は制限値Isをリミッタ64とコンパレータ68とに出力する。これにより、各インバータ装置VFD’kのエアフィルタ42に目詰まりが無いときと、目詰まりが有るときとで、各インバータ装置VFD’kの制限値Ir又はIsを変更することができる。
【0159】
<第2実施形態の作用効果>
以上、図8に示す第2実施形態によれば、図1図7に示す第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0160】
また、図8に示す第2実施形態によれば、温度センサ52と風速センサ53とによって異常が検出されるため、エアフィルタ42の目詰まり以外の異常を検出することも可能である。このため、図8に示す第2実施形態によれば、エアフィルタ42の目詰まり以外の原因であっても、図1図7に示す第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0161】
<ハードウェア構成例>
図9は、図1図7に示した第1実施形態及び図8に示した第2実施形態における共通制御装置20及びVFD制御装置60又は60’が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。上述した各機能は処理回路により実現される。一態様として、処理回路は、少なくとも1つの演算装置91と少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0162】
処理回路が演算装置91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。演算装置91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0163】
処理回路が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。各機能は処理回路で実現される。
【0164】
共通制御装置20及びVFD制御装置60又は60’が有する各機能は、それぞれ一部又は全部がハードウェアによって構成されてもよく、演算装置が実行するプログラムとして構成されてもよい。すなわち、共通制御装置20及びVFD制御装置60又は60’は、コンピュータとプログラムとによっても実現可能であり、プログラムは、記憶媒体に記憶されることも、ネットワークを通して提供されることも可能である。
【0165】
<実施形態の補足事項>
以上、図1図9に示す実施形態によれば、図1図7に示す第1実施形態と、図8に示す第2実施形態とに分かれているが、これらの実施形態は組み合わされてもよい。すなわち、インバータ装置VFDk又はVFD’kは、差圧センサ51と、温度センサ52と、風速センサ53との全てを備えていてもよい。そして、これらの任意の組み合わせ又は全てによって検出又は測定された値によって、制限値Is又は制限値Irが算出されてもよい。組み合わされた後の実施形態であっても、組み合わされる前の各実施形態が奏する各作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0166】
また、図1図9に示す実施形態によれば、本件開示の一態様として、流量制御システム2並びに共通制御装置20及びVFD制御装置60又は60’を例に説明したが、これには限られない。本件開示は、流量制御システム2並びに共通制御装置20及びVFD制御装置60又は60’の各部における処理ステップが行われる流量制御方法、並びに共通制御方法及びVFD制御方法としても実現可能である。
【0167】
また、本件開示は、流量制御システム2並びに共通制御装置20及びVFD制御装置60又は60’の各部における処理ステップをコンピュータに実行させる流量制御プログラム並びに共通制御プログラム及びVFD制御プログラムとしても実現可能である。
【0168】
また、本件開示は、流量制御プログラム並びに共通制御プログラム及びVFD制御プログラムが記憶された記憶媒体(非一時的なコンピュータ可読媒体)としても実現可能である。交流コンデンサの故障検出プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)あるいはDVD(Digital Versatile Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等のリムーバブルディスク等に記憶して頒布することができる。なお、これらのプログラムは、共通制御装置20及びVFD制御装置60又は60’が有する不図示のネットワークインタフェース等を介してネットワーク上にアップロードされてもよく、ネットワークからダウンロードされ、メモリ92等に格納されてもよい。
【0169】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。
【符号の説明】
【0170】
1…流体移送システム;2…流量制御システム;10…貯水槽;11…第1貯水槽;12…第2貯水槽;13…流体;20…共通制御装置;21…送受信部;22…操作部;23…記憶部;24…表示部;25…通信部;26…システムバス;30…制御部;31…速度基準算出部;32…速度基準補正部;33…動作制御部;41…インバータ盤;41a…取り入れ口;41b…排出口;42…エアフィルタ(フィルタ);43…第1ダクト;44…ヒートシンク;44a…放熱部;45…第2ダクト;46…ファン;47…半導体素子(インバータ素子);51…差圧センサ;52…温度センサ;53…風速センサ;60,60’…VFD制御装置;61…速度帰還回路;62…トルク基準回路;63…電流制御回路;64…リミッタ;65…リミッタ設定回路;66…電圧制御回路;67…PWM回路;68…コンパレータ(リミッタ動作判定回路);91…演算装置;92…メモリ;93…ハードウェア;A…空気;FL,FL1~FLn,FLk…流量計;FP,FP1~FPn,FPk…流路;Iinv…インバータ電流(インバータ出力電流、出力電流);Iinv(Pc)…関数;Ir…制限値;Is…制限値;LF(k)…フラグ配列;L,L1~Ln,Lk…制限情報信号(制限情報);M,M1~Mn,Mk…電動機;P,P1~Pn,Pk…ポンプ;Pc(Iinv)…関数;Pc…発生損失(許容電力);Pc2…許容発生損失(許容電力);Pdet…圧力値;Pfan…圧力;Pfin…圧力損失;Q,Q1~Qn,Qk…流量指令;Qet…許容誤差流量;Qm,Qm1~Qmn,Qmk…流量;Qmmax…最大流量;Qmt…実測合計流量(合計値);Qr,Qr1~Qrn,Qrk…定格流量;Qrt…全体定格流量;Qrt1…合計定格流量;Qt…全体流量指令;Rf…ヒートシンク熱抵抗;Rf0…ヒートシンク熱抵抗;Rf(Vw)…関数;Rtj…半導体素子熱抵抗;S,S1~Sn,Sk…速度基準(速度指令);Srk…回転速度;Ta…周囲温度(冷媒温度);Tj…ジャンクション温度(接合部温度);Tjmax…上限温度;VFD,VFD1~VFDn,VFDk,VFD’k…インバータ装置(空冷式インバータ装置,強制空冷式インバータ装置);Vw…風速;Vw1…風速;ΔQk…流量補正指令;ΔQt…流量差;ΔSk…速度基準補正量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9