(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】全固体電池用負極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241008BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241008BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/48
C01B33/02 Z
(21)【出願番号】P 2021207995
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】萩原 英輝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 一平
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-054720(JP,A)
【文献】特開2020-119802(JP,A)
【文献】特開2021-101421(JP,A)
【文献】再公表特許第2006/129415(JP,A1)
【文献】特開2019-087487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/48
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含み、
前記負極活物質は細孔を有するSi系粒子を含み、
前記細孔を有するSi系粒子は、
式(1):x=D90/D50[式中、D90は前記Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積90%粒子径(μm)を表し、D50は前記Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径(μm)を表す。]で表されるxが37.9以上を満たし、且つ、
式(2):y=p1/p2[式中、p1は前記Si系粒子のDFT法により得られるlog微分細孔容積分布曲線において、積算細孔容積(cc/g)を表し、p2は前記log微分細孔容積分布曲線において、最も存在比率の高い細孔径(nm)を表す。]で表されるyが0.0035以下を満たす、
全固体電池用負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池用負極に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。
【0003】
例えば、特許文献1には、Si系負極活物質を含有する負極活物質層を有する全固体電池であって、上記負極活物質層が、上記Si系負極活物質の表面の周囲0.3μmの領域に特定量の空隙を有する、全固体電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体電池においてSi系負極活物質を用いることが知られている。Si系負極活物質は、理論容量が大きく電池の高エネルギー密度化に有効である反面、充放電時の体積変化が大きく、全固体電池の拘束圧が変動する恐れがある。この点、特許文献1のように空隙を設けることで、Si系負極活物質の体積変化を抑制できるものの、低充電率(SOC:State of Charge)領域において電池抵抗が高くなるという新たな課題が生じる。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、低SOC領域における電池抵抗を低減可能な全固体電池用負極を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の全固体電池用負極は、負極活物質を含み、
前記負極活物質は細孔を有するSi系粒子を含み、
前記細孔を有するSi系粒子は、
式(1):x=D90/D50[式中、D90は前記Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積90%粒子径(μm)を表し、D50は前記Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径(μm)を表す。]で表されるxが37.9以上を満たし、且つ、
式(2):y=p1/p2[式中、p1は前記Si系粒子のDFT法により得られるlog微分細孔容積分布曲線において、積算細孔容積(cc/g)を表し、p2は前記log微分細孔容積分布曲線において、最も存在比率の高い細孔径(nm)を表す。]で表されるyが0.0035以下を満たすことを特徴とする全固体電池用負極である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、低SOC領域における電池抵抗を低減可能な全固体電池用負極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、細孔を有するSi系粒子の吸着等温線を用いて、DFT法により得られるlog微分細孔容積分布曲線の一例である。
【
図3】
図3は、実施例1~6及び比較例2~8の細孔を有するSi系粒子の粒子形状パラメータxの値と、細孔形状パラメータyの値とをプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[全固体電池用負極]
本開示の全固体電池用負極は、負極活物質を含み、
前記負極活物質は細孔を有するSi系粒子を含み、
前記細孔を有するSi系粒子は、
式(1):x=D90/D50[式中、D90は前記Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積90%粒子径(μm)を表し、D50は前記Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径(μm)を表す。]で表されるxが37.9以上を満たし、且つ、
式(2):y=p1/p2[式中、p1は前記Si系粒子のDFT法により得られるlog微分細孔容積分布曲線において、積算細孔容積(cc/g)を表し、p2は前記log微分細孔容積分布曲線において、最も存在比率の高い細孔径(nm)を表す。]で表されるyが0.0035以下を満たすことを特徴とする。
【0011】
上述のように空隙(細孔)を設けたSi系負極活物質を用いると、充放電時の体積変化を抑制できるものの、低SOC領域での抵抗が大きくなる。この点に関して、細孔を有するSi系粒子について、どのようなパラメータが電池抵抗の低減に寄与するか不明であり、細孔を有するSi系粒子を負極活物質として用いた全固体電池には、性能改善の余地がある。
本発明者らは、低SOC領域における電池抵抗を低減可能な全固体電池用負極を得るため、その原料となる細孔を有するSi系粒子の粒子形状パラメータ及び細孔形状パラメータに着目し、低SOC領域における電池抵抗との相関関係について鋭意検討を重ねた。その結果、本発明者らは、細孔を有するSi系粒子のD90とD50とからなる特定の式(1)の粒子形状パラメータxと、細孔を有するSi系粒子の積算細孔容積p1と最も存在比率の高い細孔径p2とからなる特定の式(2)の細孔形状パラメータyが、後述の実施例及び比較例で示されるように、低SOC領域における電池抵抗と高い相関関係を有することを見出し、本発明を完成させた。
本開示ではこのように低SOC領域における電池抵抗と高い相関関係がある、前記式(1)の粒子形状パラメータxが37.9以上を満たし、且つ、前記式(2)の細孔形状パラメータyが0.0035以下を満たすように細孔を有するSi系粒子を制御することにより、低SOC領域における電池抵抗を低減可能な全固体電池用負極を提供することができる。
【0012】
本開示において、低SOC領域における抵抗が低くなる明確な理由は不明だが、以下のように推察される。細孔を有するSi系粒子において、粒子表面総面積が多すぎると表面反応の抵抗に影響しやすいが、D90/D50を制御して標準偏差がより高い粒径分布とすることで、粒子表面総面積を抑制でき、表面反応の抵抗を抑制できると考えられる。そのため、Si系粒子において、D90/D50を十分に大きくすることで、抵抗を低減できると考えられる。また、Si系粒子内部に細孔による空隙が多いと抵抗に影響しやすいが、積算細孔容積p1と最も存在比率の高い細孔径p2の比を制御して、積算細孔容積の割に細孔径を大きくすることで粒子内のイオン拡散性が高くなると考えられる。そのため、Si系粒子において、p1/p2を特定範囲に小さくすることで、抵抗を低減できると考えられる。従って、D90/D50が37.9以上、且つ、p1/p2が0.0035以下の場合において、相乗的に抵抗が小さくなると考えられる。
【0013】
(1)負極活物質
本開示の全固体電池用負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質は前記特定の細孔を有するSi系粒子を含む。
【0014】
前記負極活物質は、Si系負極活物質であってよい。Si系負極活物質としては、例えば、Si単体、Si合金、Si酸化物を挙げることができる。Si合金は、Si元素を主成分として含有することが好ましい。Si合金中のSi元素の割合は、例えば、50mol%以上であってもよく、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよい。Si合金としては、例えば、Si-Li系合金、Si-Al系合金、Si-Sn系合金、Si-In系合金、Si-Ag系合金、Si-Pb系合金、Si-Sb系合金、Si-Bi系合金、Si-Mg系合金、Si-Ca系合金、Si-Ge系合金、Si-Pb系合金等を挙げることができる。Si合金は、2成分系合金であってもよく、3成分系以上の多成分系合金であってもよい。Si合金は、Si-Li系合金であってよい。
Si系負極活物質の形状は、粒子状であってよい。本開示において、粒子状のSi系負極活物質をSi系粒子と称する。
本開示において用いられるSi系粒子としては、細孔を有するSi系粒子であってよい。
【0015】
(2)細孔を有するSi系粒子
細孔を有するSi系粒子は、細孔を有していることで、充放電時の体積変化を抑制することができる。Si系粒子の空隙率は特に限定されないが例えば、5%以上、50%以下である。空隙率は、例えば、Si系粒子の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を観測し、下記式から算出することができる。
空隙率(%)=100×(細孔部面積)/(粒子面積)
【0016】
本開示において用いられる細孔を有するSi系粒子は、式(1):x=D90/D50[式中、D90は前記Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積90%粒子径(μm)を表し、D50は前記Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径(μm)を表す。]で表されるxが37.9以上を満たす。
xの下限は50.0以上であってもよく、100.0以上であってもよく、200.0以上であってもよい。一方、xの上限は特に限定されないが、例えば232.0以下であってよい。
なお、D50及びD90はそれぞれ、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径及び累積90%粒子径をいい、具体的な求め方としては、後述の実施例に記載した方法を採用することができる。
【0017】
前記細孔を有するSi系粒子のD50は、上記関係を満たす値であれば特に限定されない。D50は、例えば0.331μm以上であってよく、0.342μm以上であってもよい。一方、D50は、例えば0.690μm以下であってよい。
【0018】
前記細孔を有するSi系粒子のD90は、上記関係を満たす値であれば特に限定されない。D90は、例えば12.556μm以上であってよく、56.004μm以上であってもよい。一方、D90は、例えば76.781μm以下であってよい。
【0019】
本開示において用いられる細孔を有するSi系粒子は、式(2):y=p1/p2[式中、p1は前記Si系粒子のDFT法により得られるlog微分細孔容積分布曲線において、積算細孔容積(cc/g)を表し、p2は前記log微分細孔容積分布曲線において、最も存在比率の高い細孔径(nm)を表す。]で表されるyが0.0035以下を満たす。
yの上限は、0.0030以下であってもよく、0.0025以下であってもよい。一方、yの下限は特に限定されないが、例えば0.0020以上であってよい。
なお、p1及びp2はそれぞれ、前記細孔を有するSi系粒子について比表面積測定装置を用いて測定することができる。本開示の細孔を有するSi系粒子のDFT法により得られるlog微分細孔容積分布曲線における積算細孔容積(cc/g)及び最も存在比率の高い細孔径(nm)の具体的な求め方としては、後述の実施例に記載した方法を採用することができる。
【0020】
前記細孔を有するSi系粒子の積算細孔容積p1は、上記関係を満たす値であれば特に限定されない。p1は、例えば0.097cc/g以上であってよく、0.103cc/g以上であってもよい。一方、p1は、0.165cc/g以下であってよい。
【0021】
前記細孔を有するSi系粒子の最も存在比率の高い細孔径p2は、上記関係を満たす値であれば特に限定されない。p2は、例えば39.5nm以上であってよく、43.9nm以上であってもよい。一方、p2は、47.5nm以下であってよい。
【0022】
本開示の前記細孔を有するSi系粒子の製造方法は、前記粒子形状パラメータx及び細孔形状パラメータyを満たせば特に限定されるものではない。本開示の前記細孔を有するSi系粒子の製造方法は、前記パラメータx及びyを同時に満たす細孔を有するSi系粒子を容易に製造できる点から、下記工程1~工程6を有する製造方法であってよい。下記工程1~工程6を有する製造方法は、特に下記工程3を有することにより、前記パラメータx及びyを同時に満たす細孔を有するSi系粒子を容易に製造できる。
【0023】
工程1:Si系負極活物質をボールミルにて粉砕し、所定の粒径サイズに調整して、Si系粒子を得る工程。
工程2:乳鉢に、得られたSi系粒子を入れ、さらに金属Liを添加し、室温にて粉体を混合することにより、Si-Li系合金粒子を得る工程。
工程3:メシチレン溶媒に、Si-Li系合金粒子を添加した後、常温(25℃)で混合物を攪拌しながら、0℃以下のエタノールを一定速度で滴下する工程。
工程4:さらに混合物を攪拌しながら、酢酸を一定速度で滴下する工程。
工程5:得られた混合物を減圧条件下で濾過し、粉体を回収する工程。
工程6:回収された粉体を真空乾燥して、溶媒を除去し、細孔を有するSi系粒子を得る工程。
【0024】
前記工程1においては、Si負極活物質の組成、Si負極活物質の量、ボールミル回転数、粉砕時間を適宜制御することができる。所定の粒径サイズとしては、例えば、300~2000nmに調整することが挙げられる。
【0025】
前記工程2においては、金属Li量、乳鉢回転数、混合時間を適宜制御することができる。金属Li量としては、例えば、Si系粒子に対して0.8~1.4(質量比)に調整することが挙げられる。
【0026】
前記工程3においては、メシチレン量、エタノール温度、滴下速度、エタノール量、攪拌子回転速度を適宜制御することができる。メシチレン量としては、例えば、Si-Li系合金粒子に対して25~45(質量比)に調整することが挙げられる。0℃以下のエタノール温度としては、例えば、0℃以下に調整することが挙げられる。エタノールの滴下速度としては、例えば、1滴/2sec~1滴/6secに調整することが挙げられる。エタノール量としては、例えば、Si-Li系合金粒子に対して25~45(質量比)に調整することが挙げられ、6.9~8.9(質量比)に調整してもよい。攪拌子回転速度としては、例えば、100~500(単位:rpm)に調整することが挙げられる。
前記工程3においてメシチレンをSi-Li系合金粒子に事前に添加しておくことにより、Si-Li系合金粒子に対するエタノールの反応性を制御でき、微細な細孔構造を制御することができる。
【0027】
前記工程4においては、酢酸量、攪拌子回転速度を適宜制御することができる。酢酸量としては、例えば、Si-Li系合金粒子に対して45~65(質量比)に調整することが挙げられる。
【0028】
前記工程6においては、真空乾燥時の真空度、及び乾燥時間を適宜制御することができる。真空度としては、例えば、-0.1MPaであってよく、乾燥時間としては、12時間以上であってよい。
【0029】
(3)負極中の他の成分
本開示の全固体電池用負極は、前記負極活物質の他に、更に他の成分を含んでよい。
本開示の全固体電池用負極は、負極集電体の一面又は両面に、負極活物質層を有するものであってよい。負極集電体は、例えば、5μmから30μmの厚さを有していてもよい。負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅およびニッケルが挙げられる。
【0030】
前記負極活物質層は、前記負極活物質の他に、必要に応じて固体電解質、導電材、結着材の少なくとも一つを含んでよい。
負極活物質層における負極活物質の割合は、例えば20質量%以上であり、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよい。一方、負極活物質の割合は、例えば80質量%以下であり、70質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよい。
負極活物質層は、負極活物質として、前記細孔を有するSi系粒子のみを含有していてもよく、その他の負極活物質を含有していてもよい。後者の場合、全ての負極活物質における前記細孔を有するSi系粒子の割合は、50質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
【0031】
固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。
硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。硫化物固体電解質は、ガラス(非晶質)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-GeS2、Li2S-P2S5-GeS2が挙げられる。
【0032】
また、導電材としては、例えば、炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、気相成長炭素繊維(VGCF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。導電材としては、気相成長炭素繊維(VGCF)であってよい。
【0033】
また、結着材(バインダー)としては、例えば、ブチレンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ化物系バインダーが挙げられる。結着材(バインダー)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であってよい。
【0034】
負極活物質層の厚さは、例えば、0.3μm以上、1000μm以下である。
【0035】
本開示の全固体電池用負極は、負極活物質を含み、前記負極活物質が前記特定の細孔を有するSi系粒子を含めば、従来公知の製法を適宜選択して製造することができる。
【0036】
[全固体電池]
図1は、本開示における全固体電池の一例を示す概略断面図である。
全固体電池100は、電池要素20を含む。全固体電池100は、外装体(不図示)をさらに含んでいてもよい。電池要素20は、外装体に収納されていてもよい。外装体は、例えば、金属製のケース等であってもよい。外装体は、例えば、アルミラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。
【0037】
電池要素20は、正極11、固体電解質層13、および負極12を含む。正極11は、正極活物質および固体電解質を含む。負極12は、前記本開示の全固体電池用負極である。固体電解質層(セパレータ層)13は、正極11と負極12との間に介在している。固体電解質層13は、正極11と負極12との間の電子伝導を遮断する。固体電解質層13は、イオンを伝導する。すなわち固体電解質層13は、正極11と負極12とをイオン的に接続する。
前記正極11、固体電解質層13は、従来公知の全固体電池用正極及び固体電解質層を適宜選択して用いることができる。前記正極11、固体電解質層13の具体例としては、例えば、特開2021-103656号公報を参照することができる。
【0038】
本開示における全固体電池は、全固体リチウム電池であってよい。全固体電池は、一次電池であっても、二次電池であってもよいが、中でも二次電池であってよい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。二次電池には、二次電池の一次電池的使用(初回充電のみを目的とした使用)も含まれる。
【0039】
また、本開示における全固体電池は、単電池であってもよく、積層電池であってもよい 。積層電池は、モノポーラ型積層電池(並列接続型の積層電池)であってもよく、バイポーラ型積層電池(直列接続型の積層電池)であってもよい。全固体電池の形状としては、 例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、この実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
(細孔を有するSi系粒子の調製)
工程1.Si活物質(組成:Si金属)をボールミルにて粉砕(回転数:1000rpm、時間:3時間)し、所定の粒径サイズ(600nm)に調整して、Si系粒子を得た。
工程2.乳鉢に、得られたSi系粒子を入れ、さらに金属Liを添加した。室温にて粉体を混合(乳鉢回転数:50rpm、時間:20分)することにより、Si-Li系合金を得た。なお、混合物において、Si系粒子と金属Liは、Si系粒子:金属Li=1:1.2の質量比で含まれるように秤量した。
工程3.メシチレン溶媒3.4質量部に、Si-Li系合金(0.1質量部)を添加した後、常温(25℃)で混合物を攪拌(攪拌子回転速度:250rpm)しながら、-5℃のエタノール(3.1質量部)を一定速度(1滴/5sec)で滴下した。
工程4.さらに混合物を攪拌(攪拌子回転速度:250rpm)しながら、酢酸を(5.6質量部)を一定速度(1滴/5sec)で滴下した。
工程5.得られた混合物を減圧条件下でフィルター濾過し、粉体を回収した。
工程6.粉体を真空乾燥(真空度:-0.1MPa、乾燥時間:12時間)して、溶媒を除去し、細孔を有するSi系粒子を得た。
【0042】
(負極の作製)
上記細孔を有するSi系粒子を50質量%、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75Li2S-0.25P2S5))を37質量%、導電材(VGCF)を10質量%、バインダー(PVdF)を3質量%となる量を、分散媒(ヘプタン)に投入した。この分散媒に対して、超音波ホモジナイザーを用いて5分間超音波処理をして負極合材を得た。負極合材を集電箔(Ni箔、厚さ24μm)の両面に塗工して乾燥し、その後、線圧50kN/cmでロールプレスした。得られた負極活物質層(各層の厚さ45.3μm)付き集電箔をφ11.3mmに打ち抜いて(1cm2)、負極を得た。
【0043】
(評価用電池の作製)
正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)を84.7質量%、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75Li2S-0.25P2S5))を13.4質量%、導電材(VGCF)を1.3質量%、バインダー(PVdF)を0.6質量%となる量を、分散媒(ヘプタン)に投入した。この分散媒に対して、超音波ホモジナイザーを用いて5分間超音波処理をして正極合材を得た。正極合材を集電箔(Al箔、厚さ10μm)に塗工して乾燥し、その後、線圧50kN/cmでロールプレスした。得られた正極活物質層(厚さ70.0μm)付き集電箔をφ11.3mmに打ち抜いて(1cm2)、正極を得た。
【0044】
硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-75(0.75Li2S-0.25P2S5))を99.5質量%、バインダー(PVdF)を0.5質量%となる量を、分散媒(ヘプタン)に投入した。この分散媒に対して、超音波ホモジナイザーを用いて5分間超音波処理をして合材を得た。得られた合材を基材(Al箔、厚さ20μm)に厚み15μmとなるように塗工して乾燥し、その後、Φ11.3mmに打ち抜いて(1cm2)、固体電解質層(セパレーター層、厚さ15.0μm)を得た。
【0045】
上記正極、セパレーター層、及び負極を、中心をそろえて重ね合わせ、面圧5トン/cm2で各層を密着した。その後、タブ付きラミネートで封止して5MPaで拘束することで、評価用電池(全固体リチウム電池)を作製した。なお、評価用電池の容量が2mAhとなるように作製した。
【0046】
[実施例2~実施例6]
実施例1の細孔を有するSi系粒子の調製の工程3において、メシチレン量、エタノール温度、エタノールの滴下速度、エタノール量、攪拌子回転速度の少なくとも1つを変更した以外は、実施例1と同様に細孔を有するSi系粒子を調製した。
得られた細孔を有するSi系粒子を用いて、実施例1と同様にして、負極、及び、評価用電池を作製した。
【0047】
[比較例1]
実施例1の負極の作製において、細孔を有するSi系粒子の代わりに、細孔を有しないSi系粒子を用いた以外は、実施例1と同様にして、負極、及び、評価用電池を作製した。
【0048】
[比較例2~8]
実施例1の細孔を有するSi系粒子の調製の工程3において、メシチレン量、エタノール温度、エタノールの滴下速度、エタノール量、攪拌子回転速度の少なくとも1つを変更した以外は、実施例1と同様に細孔を有するSi系粒子を調製した。
得られた細孔を有するSi系粒子を用いて、実施例1と同様にして、負極、及び、評価用電池を作製した。
【0049】
[評価]
(Si系粒子のD50、及びD90)
湿式法にて、Si系粒子を水溶媒に分散(Si系粒子:水=1:400(質量比))させて、レーザー回折式粒子径分布測定装置(SHIMADZU製、SALD-2300)を用いて、Si系粒子の体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径D50、及びSi系粒子の体積基準の粒子径分布における累積90%粒子径D90を求めた。得られたD50およびD90から、粒子形状パラメータx=D90/D50を算出した。
実施例1~実施例6および比較例1~比較例8の測定結果を表1又は表2に示す。
【0050】
(Si系粒子の細孔径、及び積算細孔容積)
比表面積測定装置(Anton Paar QuantaTec製、Quantachrome Nova)を用い、ガス液化温度77Kで、窒素ガス吸着法によって、細孔を有するSi系粒子の吸着等温線を測定した。
図2に、細孔を有するSi系粒子の吸着等温線を用いて、DFT法により得られるlog微分細孔容積分布曲線の一例を示す。
図2に示されるように、DFT法により得られるlog微分細孔容積分布曲線において、細孔を有する粒子の細孔径の指標を示す第1ピークの径を最も存在比率の高い細孔径p2(nm)として求めた。また、細孔容積のうち、前記第1ピークの極小値の径以下の細孔径の範囲における積算細孔容積を、積算細孔容積p1(cc/g)として求めた。得られたp1およびp2から、細孔形状パラメータy=p1/p2を算出した。
実施例1~実施例6および比較例1~比較例8の測定結果を表1又は表2に示す。
【0051】
(電池抵抗測定)
各実施例および各比較例で得られた評価用全固体電池に対して、直流内部抵抗(DCIR)測定を行い、放電抵抗を求めた。測定は、25℃において、SOC20%から4C放電を10秒間行い、抵抗を求めた。
<判定基準>
〇:DCIRが40mΩ以下
×:DCIRが40mΩ超過
実施例1~実施例6および比較例1~比較例8の測定結果を表1又は表2に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
なお、表1及び表2において、np-Siは、細孔を有するSi系粒子を示す。
【0055】
表1および表2に示すように、粒子形状パラメータ(x=D90/D50)が大きいと、DCIRが低くなる傾向が確認された。このことから、標準偏差がより高い粒径分布の方が抵抗低減に有効であり、粒子表面総面積が多すぎると表面反応の抵抗に影響すると推定される。また、細孔形状パラメータ(y=p1/p2)が小さいと、DCIRが低くなる傾向が確認された。このことから、粒子内部に細孔による空隙が多いと抵抗に影響しやすいが、細孔径を大きくすることで粒子内のイオンや導電のパスを確保していると推定される。
【0056】
図3は、実施例1~6及び比較例2~8の細孔を有するSi系粒子の粒子形状パラメータxの値と、細孔形状パラメータyの値とをプロットした図である。
図3と表1及び表2の性能評価の結果から明らかなように比較例5では、粒子形状パラメータxは所定値よりも大きいものの、細孔形状パラメータyが所定値より大きいためDCIRの値が大きくなっていた。また、比較例4と6では、細孔形状パラメータyは所定値より小さいものの、粒子形状パラメータxが所定値よりも小さいためDCIRの値が大きくなっていた。このことから、細孔を有するSi系粒子において、粒子形状パラメータxと細孔形状パラメータyの両方を制御することは、低SOC領域における電池抵抗の低減と高い相関関係を有することが分かった。
【符号の説明】
【0057】
11 正極
12 負極
13 固体電解質層
20 電池要素
100 全固体電池