(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ベーパーチャンバ、及び、電子機器
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20241008BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20241008BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F28D15/02 101H
F28D15/02 102A
F28D15/02 L
H01L23/46 B
H05K7/20 R
(21)【出願番号】P 2021544063
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033661
(87)【国際公開番号】W WO2021045211
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019163204
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019163217
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019165245
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小田 和範
(72)【発明者】
【氏名】武田 利彦
(72)【発明者】
【氏名】竹松 清隆
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 輝寿
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-059693(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0138056(US,A1)
【文献】登録実用新案第3197578(JP,U)
【文献】特開2019-021786(JP,A)
【文献】特開2017-147291(JP,A)
【文献】特開2010-027963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/00 - 15/06
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉空間に作動流体が封入されたベーパーチャンバであって、
前記密閉空間には、前記作動流体が凝縮液の状態で移動する流路である凝縮液流路と、
前記凝縮液流路より流路断面積が大きく、前記作動流体が蒸気及び凝縮液の状態で移動する複数の蒸気流路と、が備えられており、
複数の前記凝縮液流路と複数の前記蒸気流路が直線状に延びる直線部と、
前記直線部に連続し、複数の前記凝縮液流路と複数の前記蒸気流路の延びる方向が変化する湾曲部と、を有し、
前記凝縮液流路と前記蒸気流路とを連通する連通開口部が設けられ、
前記湾曲部における前記連通開口部のピッチは、前記直線部における前記連通開口部のピッチと異なる、
ベーパーチャンバ。
【請求項2】
前記湾曲部における前記連通開口部のピッチは、前記直線部における前記連通開口部のピッチよりも大きい、請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項3】
前記湾曲部における前記連通開口部のピッチは、前記直線部における前記連通開口部のピッチよりも小さい、請求項1に記載のベーパーチャンバ。
【請求項4】
密閉空間に作動流体が封入されたベーパーチャンバであって、
前記密閉空間には、前記作動流体が凝縮液の状態で移動する流路である凝縮液流路と、
前記凝縮液流路より流路断面積が大きく、前記作動流体が蒸気及び凝縮液の状態で移動する複数の蒸気流路と、が備えられており、
複数の前記凝縮液流路と複数の前記蒸気流路が直線状に延びる直線部と、
前記直線部に連続し、複数の前記凝縮液流路と複数の前記蒸気流路の延びる方向が変化する湾曲部と、を有し、
前記湾曲部における前記蒸気流路の外側壁の湾曲の中心が、前記湾曲部における前記蒸気流路の内側壁の湾曲の中心よりも外側にある、
ベーパーチャンバ。
【請求項5】
前記湾曲部において、前記蒸気流路の外側壁の湾曲の半径をr
out
、前記湾曲部の蒸気流路が前記直線部の蒸気流路と同じ流路幅であったと仮定したときの前記蒸気流路の外側壁の湾曲の半径をr
c
としたとき、r
out
<r
c
である、請求項4に記載のベーパーチャンバ。
【請求項6】
前記湾曲部において、前記蒸気流路の外側壁の湾曲の半径をr
out
、前記湾曲部の蒸気流路が前記直線部の蒸気流路と同じ流路幅であったと仮定したときの前記蒸気流路の外側壁の湾曲の半径をr
c
としたとき、r
out
=r
c
である、請求項4に記載のベーパーチャンバ。
【請求項7】
密閉空間に作動流体が封入されたベーパーチャンバであって、
前記密閉空間には、前記作動流体が凝縮液の状態で移動する流路である凝縮液流路と、
前記凝縮液流路より流路断面積が大きく、前記作動流体が蒸気及び凝縮液の状態で移動する複数の蒸気流路と、が備えられており、
複数の前記凝縮液流路と複数の前記蒸気流路が直線状に延びる直線部と、
前記直線部に連続し、複数の前記凝縮液流路と複数の前記蒸気流路の延びる方向が変化する湾曲部と、を有し、
前記湾曲部において、内側に配置される前記蒸気流路の流路断面積が、外側に配置される前記蒸気流路の流路断面積よりも大きい、ベーパーチャンバ。
【請求項8】
前記湾曲部において、内側に配置される前記蒸気流路の幅が、外側に配置される前記蒸気流路の幅よりも大きい請求項
7に記載のベーパーチャンバ。
【請求項9】
前記湾曲部において、内側に配置される前記蒸気流路の高さが、外側に配置される前記蒸気流路の高さよりも大きい請求項
7又は
8に記載のベーパーチャンバ。
【請求項10】
筐体と、
前記筐体の内側に配置された電子部品と、
前記電子部品に対して直接又は他の部材を介して接触して配置された請求項
1~9のいずれか1項に記載されたベーパーチャンバと、を備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は密閉空間に封入された作動流体を相変化を伴いつつ還流することにより熱輸送を行うベーパーチャンバに関する。
【背景技術】
【0002】
パソコン並びに携帯電話及びタブレット端末等の携帯型端末に備えられているCPU(中央演算処理装置)等の電子部品からの発熱量は、情報処理能力の向上により増加する傾向にあり冷却技術が重要である。このような冷却のための手段としてヒートパイプがよく知られている。これはパイプ内に封入された作動流体により、熱源における熱を他の部位に輸送することで拡散させ、熱源を冷却するものである。
【0003】
一方、近年においては特に携帯型端末等で薄型化が顕著であり、従来のヒートパイプよりも薄型の冷却手段が必要となってきた。これに対して例えば特許文献1乃至特許文献3に記載のようなベーパーチャンバが提案されている。
【0004】
ベーパーチャンバはヒートパイプによる熱輸送の考え方を平板状の部材に展開した機器である。すなわち、ベーパーチャンバには、対向する平板の間に作動流体が封入されており、この作動流体が相変化を伴いつつ還流することで熱輸送を行い、熱源における熱を輸送及び拡散して熱源を冷却する。
【0005】
より具体的には、ベーパーチャンバの対向する平板間には作動流体が流れる流路が設けられ、ここに作動流体が封入されている。ベーパーチャンバを熱源に配置すると、熱源の近くにおいて作動流体は熱源からの熱を受けて蒸発し、気体(蒸気)となって流路を移動する。これにより熱源からの熱が熱源から離れた位置に円滑に輸送され、その結果熱源が冷却される。熱源からの熱を輸送した気体状態の作動流体は熱源から離れた位置にまで移動し、周囲に熱を吸収されることで冷却されて凝縮し、液体状態に相変化する。相変化した液体状態の作動流体は他の流路を通り、熱源の位置にまで戻ってまた熱源からの熱を受けて蒸発して気体状態に変化する。
以上のような循環により熱源から発生した熱が熱源から離れた位置に輸送され熱源が冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許5788069号公報
【文献】特開2016-205693号公報
【文献】特許6057952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の第一の目的は、薄型化しても必要な強度を得ることができるベーパーチャンバを提供する。
本開示の第二の目的は、方向が変化する流路を有する場合であっても熱輸送能力を高めることができるベーパーチャンバを提供する。
本開示の第三の目的は、作動流体が流れる流路の内面に酸化膜が生じ難い中間体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様は、内側に具備された密閉空間に作動流体が封入されたベーパーチャンバであって、密閉空間には、複数の第1流路と、隣り合う第1流路の間に設けられた第2流路と、を有し、隣り合う2つの第1流路の平均の流路断面積をAgとし、隣り合う第1流路の間に配置された複数の第2流路の平均の流路断面積をAlとしたとき、少なくとも一部でAlはAgの0.5倍以下であり、第1流路及び第2流路となる溝を備える層と、溝の内側に積層され、第1流路及び第2流路の内面をなす層と、を備える、ベーパーチャンバである。
【0009】
本開示の第2の態様は、密閉空間に作動流体が封入されたベーパーチャンバであって、密閉空間には、作動流体が凝縮液の状態で移動する流路である凝縮液流路と、凝縮液流路より流路断面積が大きく、作動流体が蒸気及び凝縮液の状態で移動する複数の蒸気流路と、が備えられており、複数の凝縮液流路と複数の蒸気流路が直線状に延びる直線部と、直線部に連続し、複数の凝縮液流路と複数の蒸気流路の延びる方向が変化する湾曲部と、を有し、湾曲部において、内側に配置される蒸気流路の流路断面積が、外側に配置される蒸気流路の流路断面積よりも大きい、ベーパーチャンバである。
【0010】
本開示の第3の態様は、ベーパーチャンバのための中間体が多面付けされたシートであって、内部に作動流体の流路となるべき中空部が設けられており、中空部は外部から遮断されている、シートである。
【発明の効果】
【0011】
第1の態様によれば、ベーパーチャンバの強度を高めることができる。
第2の態様によれば、方向が変化する流路を有するベーパーチャンバであっても熱輸送能力を高めることができる。
第3の態様によれば、作動流体が流れる流路の内面に酸化膜が生じ難い中間体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図2はベーパーチャンバ1の分解斜視図である。
【
図8】
図8は外周液流路部14を平面視して一部を拡大した図である。
【
図9】
図9は他の例の外周液流路部14を平面視して一部を拡大した図である。
【
図10】
図10は他の例の外周液流路部14を平面視して一部を拡大した図である。
【
図11】
図11は他の例の外周液流路部14を平面視して一部を拡大した図である。
【
図12】
図12は他の例の外周液流路部14を平面視して一部を拡大した図である。
【
図14】
図14は内側液流路部15を平面視して一部を拡大した図である。
【
図25】
図25は変形例にかかるベーパーチャンバを説明する図である。
【
図26】
図26は変形例にかかるベーパーチャンバを説明する図である。
【
図28】
図28はベーパーチャンバ101の分解斜視図である。
【
図34】
図34は外周液流路部114を平面視して一部を拡大した図である。
【
図35】
図35は内側液流路部115に注目した切断面である。
【
図36】
図36は内側液流路部115を平面視して一部を拡大した図である。
【
図37】
図37は湾曲部118cの形態例を説明する図である。
【
図38】
図38は湾曲部118cの形態例を説明する図である。
【
図39】
図39は湾曲部118cの形態例を説明する図である。
【
図40】
図40は湾曲部118cの形態例を説明する図である。
【
図47】
図47はベーパーチャンバ101の他の切断面である。
【
図51】
図51は凝縮液流路103及び蒸気流路104を説明する図である。
【
図52】
図52は、ベーパーチャンバ101の作動を説明する図である。
【
図53】
図53はベーパーチャンバ201の外観斜視図である。
【
図54】
図54はベーパーチャンバ201の分解斜視図である。
【
図55】
図55は第三シート230を一方の面側から見た図である。
【
図56】
図56は第三シート230を他方の面側から見た図である。
【
図61】
図61はベーパーチャンバ201の他の切断面である。
【
図62】
図62はベーパーチャンバの製造方法S301の流れを表す図である。
【
図65】
図65は多面付け第一シート301に形成されている形状310の1つを表す斜視図である。
【
図66】
図66は多面付け第一シート301に形成されている形状310の1つを表す平面図である。
【
図67】
図67は多面付け第一シート301に形成されている形状310の1つを表す断面図である。
【
図69】
図69は多面付け第一シート301に形成されている形状310の1つを表す他の断面図である。
【
図70】
図70は外周液流路部314を平面視して一部を拡大した図である。
【
図71】
図71は1つの内側液流路部315に注目した切断面である。
【
図72】
図72は内側液流路部315を平面視して一部を拡大した図である。
【
図74】
図74は中間体が多面付けされたシート350、及び、中間体が多面付けされたシートが巻かれたロール351を説明する図である。
【
図75】
図75は中間体が多面付けされたシート350の断面の一部である。
【
図78】
図78は注入口319の形成について説明する図である。
【
図79】
図79は注入口319の形成について説明する図である。
【
図80】
図80は他の注入口319の形成について説明する図である。
【
図81】
図81は他の注入口319の形成について説明する図である。
【
図85】
図85は他の形態にかかるベーパーチャンバ353を説明する図である。
【
図86】
図86は他の形態にかかるベーパーチャンバ353を説明する図である。
【
図87】
図87は他の形態にかかるベーパーチャンバ353を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を図面に示す形態に基づき説明する。以下に示す図面では分かりやすさのため部材の大きさや比率を変更または誇張して記載することがある。また、見やすさのため説明上不要な部分の図示や繰り返しとなる符号は省略することがある。
【0014】
[第1の形態]
図1には第1の形態にかかるベーパーチャンバ1の外観斜視図、
図2にはベーパーチャンバ1の分解斜視図を表した。これら図及び以下に示す各図には必要に応じて便宜のため、方向を表す矢印(x、y、z)も合わせて表示した。xy面内方向は平板状であるベーパーチャンバ1の板面方向であり、z方向は厚さ方向である。
【0015】
ベーパーチャンバ1は、
図1、
図2からわかるように第一シート10及び第二シート20を有している。そして、後で説明するように、この第一シート10と第二シート20とが重ねられて接合(拡散接合、ろう付け等)されていることにより第一シート10と第二シート20との間に中空部が形成され、ここに作動流体が封入されることで密閉空間2(例えば
図19参照)とされている。
【0016】
本形態で第一シート10は全体としてシート状の部材である。
図3には第一シート10を内面10a側から見た斜視図、
図4には第一シート10を内面10a側から見た平面図をそれぞれ表した。また、
図5には
図4にI
1-I
1で切断したときの第一シート10の切断面を示した。
第一シート10は、内面10a、該内面10aとは反対側となる外面10b及び内面10aと外面10bとを連結して厚さを形成する側面10cを備え、内面10a側に作動流体が還流する流路のためのパターンが形成されている。後述するようにこの第一シート10の内面10aと第二シート20の内面20aとが対向するようにして重ね合わされ中空部が形成され、ここに作動流体が封入されて密閉空間2となる。
【0017】
図5からわかるように、本形態で第一シート10は内面10aを形成する材料からなる層である内層10dと、外面10bを形成する材料からなる層である外層10eと、を有して構成されている。すなわち、第一シート10は複数の層が積層されてなり、そのうちの1つの層が内面10aを形成し、他の層が外面10bを形成している。
本形態では側面10cは、内層10dの端面と外層10eの端面により形成されている。
【0018】
ここで、第一シート10の内面10a側には上記したように作動流体が移動するためのパターンが設けられているが、内層10dは、このパターンのうち、作動流体が直接接触する面を構成する。そのため、内層10dは、作動流体に対して化学的に安定であり、熱伝導率が高い材料からなることが好ましい。より具体的には例えば銅、及び、銅合金を用いることができる。特に銅、及び、銅合金を用いることにより、作動流体(特に水)との反応を抑制しつつ、熱輸送能力の向上を図り、さらには後述するようにベーパーチャンバの作製がしやすいものとなる。
【0019】
外層10eは、内層10dが内面10a側に積層されるとともに、外面10bを形成する。
外層10eのうち内層10dに接する側には、第一シート10の内面10a側に形成されたパターンが設けられている。ただし上記したように外層10eの当該パターン部分は、流路を形成するものの、内層10dに覆われており、作動流体が直接触れないようにされている。すなわち、外層10eには作動流体の流路(凝縮液流路及び蒸気流路)となる溝が形成されており、この溝の内側に上記内層10dが積層されている。
【0020】
一方、本形態では、外層10eのうち外面10bとなる側の面は平坦面や若干の凹凸面等、ベーパーチャンバ1に配置される部品との接触が考慮された面となっている。
従って、本形態では、外層10eは、内面10a側で内層10dと接触する面と、外面10bとの距離(すなわち厚さ)がx方向の位置及びy方向の位置により異なるように構成されている。
これにより、流路を形成しつつも薄くしたベーパーチャンバであっても、ベーパーチャンバのとしての強度を維持することができる。
【0021】
そのため、外層10eは、内層10dよりも強度が高い材料からなることが好ましい。具体的には外層10eの0.2%耐力又は上降伏点が、内層10dの0.2%耐力又は上降伏点よりも大きいことが好ましい。これを満たすものであれば特に限定されることはないが、より高い強度のため、外層10eの0.2%耐力又は上降伏点は100MPa以上であることが好ましく、より好ましくは200MPa以上である。
これにより、ベーパーチャンバに所望の流路を形成しつつも、これを薄型化したときであっても、外部からの衝撃、低温凍結による作動流体の固化による膨張、及び、作動時の蒸気圧力などによる力に対してベーパーチャンバの変形や破損を抑制することができる。
また、外層10eによりこのようにベーパーチャンバの強度向上を行うことができるため、内面10a側に形成される作動流体が移動する流路のパターンについては強度に関する制約を緩和することができ、熱的な性能の向上に注目した設計が可能となるため、熱的な性能の観点からも利点があるといえる。
【0022】
外層10eを構成する材料は特に限定されることはないが、熱の拡散の観点から熱伝導率が高い方が好ましく、10W/m・K以上であることが好ましい。かかる観点から外層10eを構成する材料は、ステンレス鋼、不変鋼(インバー)、コバール等の鉄系材料、チタン合金、及び、ニッケル合金等を挙げることができる。また、これらの金属にダイヤモンドやアルミナ、シリコンカーバイドなどの微粒子が含まれた複合材料を使用しても良い。
【0023】
内層10dの厚さは仕様を考慮し、特に限定されることはないが、5μm以上20μm以下であることが好ましい。内層10dが5μmよりも薄いと外層10eの材料と作動流体とが相互に影響を及ぼす可能性が高まる。一方、内層10dが20μmより厚いと製造の観点から困難が生じたり、面内ばらつきを含めた厚みの要求仕様を満たすことが困難になることや表面が粗くなったりする可能性が高まる。
【0024】
一方、外層10eの厚さは、仕様によるので特に限定されることはないが、いずれの部位でも0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。外層10eに0.02mmより薄い部分があると変形を抑制する効果が小さくなる虞があり、0.5mmより厚い部分があるとベーパーチャンバから外部への熱移動が阻害されたり、厚みの仕様を満たすことが困難になったりする。
【0025】
このような第一シート10の厚さは、内層10dと外層10eとの合計とされるが、その具体的な厚さは特に限定されることはない。ただし、1.0mm以下であることが好ましく、0.75mm以下であってもよく、0.5mm以下であってもよい。一方、この厚さは0.02mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であってもよく、0.1mm以上であってもよい。この厚さの範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、この厚さの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
これにより薄型のベーパーチャンバとして適用できる場面を多くすることができる。そして、ベーパーチャンバに所望の流路を形成しつつもこれを薄型化したときであっても、外部からの衝撃、低温凍結による作動流体の固化による膨張、及び、作動時の蒸気圧力などによる力に対してベーパーチャンバの変形や破損を抑制することができる。
【0026】
このような第一シート10は本体11及び注入部12を備えている。本体11は作動流体が還流する部位を形成するシート状であり、本形態では平面視で角が円弧状(いわゆるR)に形成された長方形である。なお、上記したように、本体11及び注入部12の内面10aは内層10dからなり、外面10bは外層10eからなっている。
【0027】
注入部12は第一シート10と第二シート20により形成された中空部に対して作動流体を注入する部位である。本形態では本体11の平面視長方形である一辺から突出する平面視四角形のシート状である。本形態では第一シート10の注入部12は内面10a側も外面10b側も平坦面とされている。
【0028】
本体11の内面10a側には、作動流体が還流するための構造が形成されている。本体11は本形態のように四角形である他、円形、楕円形、三角形、その他の多角形、並びに、屈曲部を有する形である例えばL字型、T字型、クランク型等であってもよい。また、これらの少なくとも2つを組み合わせた形状とすることもできる。
本体11には、その内面10a側に、外周接合部13、外周液流路部14、内側液流路部15、蒸気流路溝16、及び、蒸気流路連通溝17が具備されて構成されている。
【0029】
外周接合部13は、本体11の内面10a側に、該本体11の外周に沿って形成された面である。この外周接合部13が第二シート20の外周接合部23に重なって接合(拡散接合、ろう付け等)されることにより、第一シート10と第二シート20との間に中空部が形成され、ここに作動流体が封入されることにより密閉空間2とされる。
図4、
図5にW
1で示した外周接合部13の幅(外周接合部13が延びる方向に直交する方向の大きさで、第二シート20との接合面における幅)は必要に応じて適宜設定することができるが、この幅W
1は、3.0mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であってもよく、2.0mm以下であってもよい。幅W
1が3mmより大きくなると、密閉空間の内容積が小さくなり蒸気流路や凝縮液流路が十分確保できなくなる虞がある。一方、幅W
1は0.2mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であってもよく、0.8mm以上であってもよい。幅W
1が0.2mmより小さくなると第一シートと第二シートとの接合時における位置ずれが生じた際に接合面積が不足する虞がある。幅W
1の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、幅W
1の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
【0030】
また外周接合部13のうち、本体11の四隅には厚さ方向(z方向)に貫通する穴13aが設けられている。この穴13aは第二シート20との重ね合せの際の位置決め手段として機能する。
【0031】
外周液流路部14は、液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に通る第2流路である凝縮液流路3の一部を構成する部位である。
図6には
図5のうち矢印I
2で示した部分、
図7には
図4にI
3-I
3で切断される部位の切断面を示した。いずれの図にも外周液流路部14の断面形状が表れている。また、
図8には
図6に矢印I
4で示した方向から見た外周液流路部14を平面視した拡大図を表した。
【0032】
これらの図からわかるように、外周液流路部14は本体11の内面10aのうち、外周接合部13の内側に沿って形成され、密閉空間2の外周に沿って設けられている。また、外周液流路部14には、本体11の外周方向に平行に延びる複数の溝である液流路溝14aが形成され、複数の液流路溝14aが、該液流路溝14aが延びる方向とは異なる方向に所定の間隔で配置されている。従って、
図6、
図7からわかるように外周液流路部14ではその断面において内面10a側に、凹部である液流路溝14aと液流路溝14aの間である凸部14bとが凹凸を繰り返して形成されている。
なお、この液流路溝14aは外層10eに形成された溝の内側に内層10dが積層されてなる溝である。
【0033】
このように複数の液流路溝14aを備えることで、1つ当たりの液流路溝14aの深さ及び幅を小さくし、第2流路である凝縮液流路3(
図20等参照)の流路断面積を小さくして大きな毛細管力を利用することができる。一方、液流路溝14aを複数とすることにより合計した全体としての凝縮液流路3の流路断面積は適する大きさが確保され、必要な流量の凝縮液を流すことができる。
【0034】
ここで液流路溝14aは溝であることから、その断面形状において、外面10b側に具備される底部、及び底部とは向かい合わせとなる反対側の内面10a側に具備される開口を備えている。
本形態で液流路溝14aはその断面が半楕円形状とされている。ただし、当該断面形状は半楕円形状であることに限らず、円形や、長方形、正方形、台形等の四角形や、その他の多角形、及び、これらのいずれか複数を組み合せた形状であってもよい。
【0035】
さらに、本形態では、外周液流路部14では、
図8からわかるように隣り合う液流路溝14aは、所定の間隔で連通開口部14cにより連通している。これにより複数の液流路溝14a間で凝縮液量の均等化が促進され、効率よく凝縮液を流すことができ、円滑な作動流体の還流が可能となる。
本形態では
図8で示したように1つの液流路溝14aの該溝を挟んで液流路溝14aが延びる方向の同じ位置に対向するように連通開口部14cが配置されている。ただしこれに限定されることはなく、例えば
図9に示したように、1つの液流路溝14aの該溝を挟んで液流路溝14aが延びる方向で異なる位置に連通開口部14cが配置されてもよい。すなわち、液流路溝が延びる方向と直交する方向に沿って凸部14bと連通開口部14cとが交互に配置されてもよい。
【0036】
その他、例えば
図10~
図12に記載のような形態とすることもできる。
図10~
図12には、
図8と同じ視点で、1つの凝縮液流路14aとこれを挟む2つの凸部14b、及び各凸部14bに設けられた1つの連通開口部14cを示した図を表した。これらはいずれも、当該視点(平面視)で凸部14b及び連通開口部14cの形状が
図8の例とは異なる。
すなわち、
図8に示した凸部14bでは、連通開口部14cが形成される端部においてもその幅が他の部位と同じであり一定である。これに対して
図10~
図12に示した形状の凸部14bでは、連通開口部14cが形成される端部においてその幅が、凸部14bの最大幅よりも小さくなるように形成されている。より具体的には、
図10の例では当該端部において角が円弧状となり角にRが形成されることにより端部の幅が小さくなる例、
図11は端部が半円状とされることにより端部の幅が小さくなる例、
図12は端部が尖るように先細りとなる例である。
【0037】
図10~
図12に示したように、凸部14bにおいて連通開口部14cが形成される端部でその幅が、凸部14bの最大幅よりも小さくなるように形成されていることで、連通開口部14cを作動流体が移動しやすくなり、隣り合う凝縮液流路3への作動流体の移動が容易となる。
【0038】
以上のような構成を備える外周液流路部14は、さらに次のような構成を備えていることが好ましい。
図4~
図7にW
2で示した外周液流路部14の幅(液流路溝14aが配列される方向の大きさで、第二シート20との接合面における幅)は、ベーパーチャンバ全体の大きさ等から適宜設定することができるが、幅W
2は、3.0mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であってもよく、1.0mm以下であってもよい。幅W
2が3.0mmを超えると内側の液流路や蒸気流路のための空間が十分にとれなくなる虞がある。一方、幅W
2は0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であってもよく、0.4mm以上であってもよい。幅W
2が0.1mmより小さいと外側を還流する液の量が十分得られない虞がある。幅W
2の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、幅W
2の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
そして当該幅W
2は第二シート20の外周液流路部24の幅W
9(
図17参照)と同じであっても良いし、大きくても小さくてもよい。本形態では同じとされている。
【0039】
液流路溝14aについて、
図6、
図8にW
3で示した溝幅(液流路溝14aが配列される方向の大きさ、溝の開口面における幅)は、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。一方、幅W
3は20μm以上であることが好ましく、45μm以上であってもよく、60μm以上であってもよい。幅W
3の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、幅W
3の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
また、
図6、
図7にD
1で示した溝の深さは、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であってもよく、100μm以下であってもよい。一方、深さD
1は5μm以上であることが好ましく、10μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。深さD
1の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、深さD
1の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
以上のように構成することにより、還流に必要な凝縮液流路の毛細管力をより強く発揮することができる。
【0040】
凝縮液流路の毛細管力をより強く発揮する観点から、幅W3を深さD1で割った値で表される流路断面におけるアスペクト比(縦横比)は、1.0よりも大きいことが好ましい。この比は1.5以上でもよく、2.0以上であってもよい。または、アスペクト比は1.0より小さくてもよい。この比は0.75以下であってもよく、0.5以下であってもよい。
その中でも製造の観点からW3はD1より大きいことが好ましく、かかる観点からアスペクト比は1.3より大きいことが好ましい。
【0041】
また、複数の液流路溝14aにおける隣り合う液流路溝14aのピッチは、1100μm以下であることが好ましく、550μm以下であってもよく、220μm以下であってもよい。一方、ピッチは30μm以上であることが好ましく、55μm以上であってもよく、70μm以上であってもよい。このピッチの範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、ピッチの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
これにより、凝縮液流路の密度を上げつつ、接合時や組み立て時に変形して凝縮液流路が潰れることを抑制することができる。
【0042】
連通開口部14cについて、
図8にL
1で示した液流路溝14aが延びる方向に沿った開口部の大きさは、1100μm以下であることが好ましく、550μm以下であってもよく、220μm以下であってもよい。一方、大きさL
1は30μm以上であることが好ましく、55μm以上であってもよく、70μm以上であってもよい。大きさL
1の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、大きさL
1の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
【0043】
また、
図8にL
2で示した液流路溝14aが延びる方向における隣り合う連通開口部14cのピッチは、2700μm以下であることが好ましく、1800μm以下であってもよく、900μm以下であってもよい。一方、このピッチL
2は60μm以上であることが好ましく、110μm以上であってもよく、140μm以上であってもよい。このピッチL
2の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、ピッチL
2の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
【0044】
図1~
図5に戻って内側液流路部15について説明する。内側液流路部15も液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に通る第2流路である凝縮液流路3の一部を構成する部位である。
図13には
図5のうちI
4で示した部分を示した。この図にも内側液流路部15の断面形状が表れている。また、
図14には
図13に矢印I
5で示した方向から見た内側液流路部15を平面視した拡大図を示した。
【0045】
これらの図からわかるように、内側液流路部15は本体11の内面10aのうち、外周液流路部14の環状である環の内側に形成された壁である。本形態の内側液流路部15は、
図3、
図4からわかるように、本体11の平面視長方形で長辺に平行な方向(x方向)に延びる壁であり、複数(本形態では3つ)の内側液流路部15が短辺に平行な方向(y方向)に所定の間隔で配列されている。
各内側液流路部15には、内側液流路部15が延びる方向に平行な溝である液流路溝15aが形成され、複数の液流路溝15aが、該液流路溝15aが延びる方向とは異なる方向に所定の間隔で配置されている。従って、
図5、
図13からわかるように内側液流路部15では、その断面において内面10a側に、凹部である液流路溝15aと液流路溝15aの間の凸部15bとが凹凸を繰り返して形成されている。なお、この液流路溝15aは外層10eに形成された溝の内側に内層10dが積層されてなる溝である。
【0046】
このように複数の液流路溝15aを備えることで、1つ当たりの液流路溝15aの深さ及び幅を小さくし、第2流路としての凝縮液流路3(
図20等参照)の流路断面積を小さくして大きな毛細管力を利用することができる。一方、液流路溝15aを複数とすることにより合計した全体としての凝縮液流路3の流路断面積は適する大きさが確保され、必要な流量の凝縮液を流すことができる。
【0047】
ここで液流路溝15aは溝であることから、その断面形状において、外面10b側に具備される底部、及び底部とは向かい合わせとなる反対側の部位で内面10a側に具備される開口を備えている。
本形態で液流路溝15aはその断面が半楕円形状とされている。ただし、当該断面形状は半楕円形状であることに限らず、円形や、長方形、正方形、台形等の四角形や、その他の多角形、及び、これらのいずれか複数を組み合わせた形状であってもよい。
【0048】
さらに、
図14からわかるように隣り合う液流路溝15aは、所定の間隔で連通開口部15cにより連通している。これにより複数の液流路溝15a間で凝縮液量の均等化が促進され、効率よく凝縮液を流すことができるため、円滑な作動流体の還流が可能となる。
この連通開口部15cについても、連通開口部14cと同様に、
図9に示した例に倣って、液流路溝15aが延びる方向と直交する方向に沿って凸部15bと連通開口部15cとが交互に配置されてもよい。また、
図10~
図12の例に倣って連通開口部15c及び凸部15bの形状としてもよい。
【0049】
以上のような構成を備える内側液流路部15は、さらに次のような構成を備えていることが好ましい。
図4、
図5、
図13にW
4で示した内側液流路部15の幅(内側液流路部15と蒸気流路溝16が配列される方向の大きさで、第二シート20との接合面における幅)は、3000μm以下であることが好ましく、1500μm以下であってもよく、1000μm以下であってもよい。一方、この幅W
4は100μm以上であることが好ましく、200μm以上であってもよく、400μm以上であってもよい。この幅W
4の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、幅Gの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
当該幅W
4は第二シートの内側液流路部25の幅W
10(
図17参照)と同じであってもよいし、大きくても小さくてもよい。本形態では同じとされている。
【0050】
また、複数の内側液流路部15のピッチは4000μm以下であることが好ましく、3000μm以下であってもよく、2000μm以下であってもよい。一方、このピッチは200μm以上であることが好ましく、400μm以上であってもよく、800μm以上であってもよい。このピッチの範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、ピッチの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つを組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
これにより蒸気流路の流路抵抗を下げ、蒸気の移動と、凝縮液の還流とをバランスよく行うことができる。
【0051】
液流路溝15aについて、
図13、
図14にW
5で示した溝幅(液流路溝15aが配列される方向の大きさで、溝の開口面における幅)は、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。一方、この幅W
5は20μm以上であることが好ましく、45μm以上であってもよく、60μm以上であってもよい。この幅W
5の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、幅W
5の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
また、
図13にD
2で示した溝の深さは、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であってもよく、100μm以下であってもよい。一方、この深さD
2は5μm以上であることが好ましく、10μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。この深さD
2の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、深さD
2の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
これにより還流に必要な凝縮液流路の毛細管力を強く発揮することができる。
【0052】
流路の毛細管力をより強く発揮する観点から、幅W5を深さD2で割った値で表される流路断面におけるアスペクト比(縦横比)は、1.0よりも大きいことが好ましい。1.5以上であってもよいし、2.0以上であってもよい。又は1.0よりも小さくてもよく、0.75以下でもよく0.5以下でもよい。
その中でも製造の観点から幅W5は深さD2よりも大きいことが好ましく、かかる観点からアスペクト比は1.3より大きいことが好ましい。
【0053】
また、複数の液流路溝15aにおける隣り合う液流路溝15aのピッチは、1100μm以下であることが好ましく、550μm以下であってもよく、220μm以下であってもよい。一方、このピッチは30μm以上であることが好ましく、55μm以上であってもよく、70μm以上であってもよい。このピッチの範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、ピッチの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
これにより、凝縮液流路の密度を上げつつ、接合時や組み立て時に変形して流路が潰れることを抑制することができる。
【0054】
さらに、連通開口部15cについて、
図14にL
3で示した液流路溝15aが延びる方向に沿った開口部の大きさは、1100μm以下であることが好ましく、550μm以下であってもよく、220μm以下であってもよい。一方、この大きさL
3は30μm以上であることが好ましく、55μm以上であってもよく、70μm以上であってもよい。この大きさL
3の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、大きさL
3の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
また、
図14にL
4で示した、液流路溝15aが延びる方向における隣り合う連通開口部15cのピッチは、2700μm以下であることが好ましく、1800μm以下であってもよく、900μm以下であってもよい。一方、このピッチL
4は60μm以上であることが好ましく、110μm以上であってもよく、140μm以上であってもよい。このピッチL
4の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、このピッチL
4の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
【0055】
上記した本形態の液流路溝14a及び液流路溝15aは等間隔に離間して互いに平行に配置されているが、これに限られることは無く、毛細管作用を奏することができれば溝同士のピッチがばらついても良く、また溝同士が平行でなくても良い。
【0056】
次に蒸気流路溝16について説明する。蒸気流路溝16は作動流体が蒸発して気化した蒸気が通る部位で、第1流路である蒸気流路4(
図19等参照)の一部を構成する。
図4には平面視した蒸気流路溝16の形状、
図5には蒸気流路溝16の断面形状がそれぞれ表れている。
【0057】
これら図からもわかるように、蒸気流路溝16は本体11の内面10aのうち、外周液流路部14の環状である環の内側に形成された溝により構成されている。詳しくは本形態の蒸気流路溝16は、隣り合う内側液流路部15の間、及び、外周液流路部14と内側液流路部15との間に形成され、本体11の平面視長方形で長辺に平行な方向(x方向)に延びた溝である。そして、複数(本形態では4つ)の蒸気流路溝16が同短辺に平行な方向(y方向)に配列されている。従って、
図5からわかるように第一シート10は、y方向において、外周液流路部14及び内側液流路部15である壁を凸とし、蒸気流路溝16を凹とした凹凸が繰り返された形状を備えている。
ここで蒸気流路溝16は溝であることから、その断面形状において、外面10b側となる底部、及び、底部とは向かい合わせとなる反対側で内面10a側に開口を備えている。
なお、この蒸気流路溝16は外層10eに形成された溝の内側に内層10dが積層されてなる溝である。
【0058】
このような構成を備える蒸気流路溝16は、さらに次のような構成を備えていることが好ましい。
図4、
図5にW
6で示した蒸気流路溝16の幅(内側液流路部15と蒸気流路溝16が配列される方向の大きさで、溝の開口面における幅)は、少なくとも上記した液流路溝14aの幅W
3、液流路溝15aの幅W
5より大きく形成され、2000μm以下であることが好ましく、1500μm以下であってもよく、1000μm以下であってもよい。一方、この幅W
6は100μm以上であることが好ましく、200μm以上であってもよく、400μm以上であってもよい。この幅W
6の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、幅W
6の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の
候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
蒸気流路溝16のピッチは、内側液流路部15のピッチにより決まるのが通常である。
一方、
図5にD
3で示した蒸気流路溝16の深さは、少なくとも上記した液流路溝14aの深さD
1、液流路溝15aの深さD
2より大きく形成され、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であってもよく、100μm以下であってもよい。一方、この深さD
3は10μm以上であることが好ましく、25μm以上であってもよく、50μm以上であってもよい。この深さD
3の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、深さD
3の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
このように、蒸気流路溝の流路断面積を液流路溝の流路断面積よりも大きくすることにより、作動流体の性質上、凝縮液よりも体積が大きくなる蒸気を円滑に還流することができる。
【0059】
本形態では蒸気流路溝16の断面形状は半楕円形であるが、これに限らず長方形、正方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が半円形、底部が半楕円形、又はこれらのいずれか複数を組み合わせた形状であってもよい。蒸気流路は蒸気の流動抵抗を小さくすることにより、作動流体の円滑な還流をさせることができるので、かかる観点から流路断面の形状を決定することもできる。
【0060】
本形態では隣り合う内側液流路部15の間に1つの蒸気流路溝16が形成された例を説明したが、これに限らず、隣り合う内側液流路部の間に2つ以上の蒸気流路溝が並べて配置される形態であってもよい。
また、第二シート20に蒸気流路溝が形成されていれば、第一シート10の一部または全部に蒸気流路溝が形成されない形態であってもよい。
【0061】
蒸気流路連通溝17は、複数の蒸気流路溝16を連通させる溝である。これにより、複数の蒸気流路溝16内の蒸気の均等化が図られたり、蒸気がより広い範囲に運ばれ、多くの凝縮液流路3を効率よく利用できるようになったりするため、作動流体の還流をより円滑にすることが可能となる。
【0062】
本形態の蒸気流路連通溝17は、
図3、
図4からわかるように、内側液流路部15、蒸気流路溝16が延びる方向の両端部と、外周液流路部14との間に形成されている。また、
図7には
図4にI
3-I
3で示した線に沿って切断面で、蒸気流路連通溝17の連通方向に直交する断面が表れている。
図2~
図4では、わかり易さのため蒸気流路溝16と蒸気流路連通溝17との境界となるべき部分に点線を付した。ただしこの線は必ずしも形状により表れる線ではなくわかり易さのために付した仮想の線である。
【0063】
蒸気流路連通溝17は、隣り合う蒸気流路溝16を連通させるように形成されていればよく、その形状は特に限定されることはないが、例えば次のような構成を備えることができる。
図4、
図7にW
7で示した蒸気流路連通溝17の幅(連通方向に直交する方向の大きさで、溝の開口面における幅)は、1000μm以下であることが好ましく、750μm以下であってもよく、500μm以下であってもよい。一方、この幅W
7は100μm以上であることが好ましく、150μm以上であってもよく、200μm以上であってもよい。この幅W
7の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、幅W
7の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
また、
図7にD
4で示した蒸気流路連通溝17の深さは、300μm以下であることが好ましく、225μm以下であってもよく、150μm以下であってもよい。一方、この深さD
4は10μm以上であることが好ましく、25μm以上であってもよく、50μm以上であってもよい。この深さD
4の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、深さD
4の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
【0064】
本形態で蒸気流路連通溝17の断面形状は半楕円形であるが、これに限らず、長方形、正方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が半円形、底部が半楕円形又は、これらのいずれか複数の組み合わせであってもよい。
蒸気流路連通溝は蒸気の流動抵抗を小さくすることにより作動流体の円滑な還流をさせることができるので、かかる観点から流路断面の形状を決定することもできる。
なおこの蒸気流路連通溝17も、外層10eに設けられた溝及びこの溝の内側に積層された内層10dからなる溝である。
【0065】
本形態では、本体11の外面10bは平坦面となるように構成されている。これにより外面10bに密着すべき部材(例えば冷却対象である電子部品や、熱を伝達させるべき電子機器の筐体等。)への密着性を高めることができる。ただし、外面10bの形状はこれに限らずその目的に応じて凹凸を有していてもよい。
ここで、外面10bは内面10aに対応した形状とはなっておらず、外面10bが目的とする熱の伝達等に寄与できるような形状とされている。そして、この外面10bは上記したように外層10eにより形成されている。従って、外層10eはx方向位置及びy方向位置によって厚さが異なる。
このような内面10a、外面10b、及び、これを構成する内層10d、外層10eにより、ベーパーチャンバに所望の流路を形成しつつもこれを薄型化したときであっても、外部からの衝撃、低温凍結による作動流体の固化による膨張、及び、作動時の蒸気圧力などによる力に対してベーパーチャンバの変形や破損を抑制することができる。
【0066】
次に第二シート20について説明する。本形態で第二シート20も全体としてシート状の部材である。
図15には第二シート20を内面20a側から見た斜視図、
図16には第二シート20を内面20a側から見た平面図をそれぞれ表した。また、
図17には
図16にI
6-I
6で切断したときの第二シート20の切断面を示した。また、
図18には
図16にI
7-I
7で切断したときの第二シート20の切断面を示した。
第二シート20は、内面20a、該内面20aとは反対側となる外面20b及び内面20aと外面20bとを連結し厚さを形成する側面20cを備え、内面20a側に作動流体が還流するパターンが形成されている。後述するようにこの第二シート20の内面20aと上記した第一シート10の内面10aとが対向するようにして重ね合わされることで中空部が形成され、ここに作動流体を封入することで密閉空間2となる。
【0067】
図16、
図17からわかるように、本形態で第二シート20は内面20aを形成する材料からなる層である内層20dと、外面20bを形成する材料からなる層である外層20eとを有して構成されている。すなわち、第二シート20は複数の層が積層されてなり、そのうちの1つの層が内面20aを形成し、他の層が外面20bを形成している。
本形態では側面20cは、内層20dの端面と外層20eの端面により形成されている。
【0068】
ここで、第二シート20の内面20a側には作動流体が移動するためのパターンが設けられているが、内層20dは、このパターンのうち、作動流体が直接接触する面を構成する。そのため、内層20dは、作動流体に対して化学的に安定であり、熱伝導率が高い材料からなることが好ましい。そのため例えば銅、及び、銅合金を用いることができる。特に銅、及び、銅合金を用いることにより、作動流体(特に水)との反応を抑制しつつ、熱輸送能力の向上を図り、さらには後述するようなエッチング及び拡散接合によるベーパーチャンバの作製がしやすいものとなる。
【0069】
外層20eは、内層20dが内面20a側に積層されるとともに、外面20bを形成する。
外層20eのうち内層20dに接する側には、第二シート20の内面20a側に形成されたパターンが設けられている。ただし上記したように外層20eの当該パターン部分は、流路を形成するものの、内層20dに覆われており、作動流体が直接触れないようにされている。すなわち、外層20eは流路となる溝を有しており、この溝の内側に上記の内層20dが積層されている。
【0070】
一方、本形態では、外層20eのうち外面20bとなる側の面は平坦面や若干の凹凸面等、ベーパーチャンバ1に配置される部品との接触が考慮されている。
従って、本形態では、外層20eは、内面20a側で内層20dと接触する面と、外面20bとの距離(すなわち厚さ)がx方向の位置及びy方向の位置により異なるように構成されている。
これにより、流路を形成しつつも薄くしたベーパーチャンバであっても、ベーパーチャンバとして必要な強度を具備することができる。
【0071】
そのため、外層20eは、内層20dよりも強度が高い材料からなることが好ましい。具体的には外層20eの0.2%耐力又は上降伏点が、内層20dの0.2%耐力又は上降伏点よりも大きいことが好ましい。これを満たすものであれば特に限定されることはないが、より高い強度のため、外層20eの0.2%耐力又は上降伏点は、100MPa以上であることが好ましく、より好ましくは200MPa以上である。
これにより、ベーパーチャンバに所望の流路を形成しつつもこれを薄型化したときであっても、外部からの衝撃、低温凍結による作動流体の固化による膨張、及び、作動時の蒸気圧力などによる力に対してベーパーチャンバの変形や破損を抑制することができる。
また、外層20eによりこのようにベーパーチャンバの強度向上を行うことができるため、内面20a側に形成される作動流体が移動する流路のパターンについては強度に関する制約を緩和することができ、熱的な性能の向上に注目した設計が可能となるため、熱的な性能の観点からも利点があるといえる。
【0072】
外層20eを構成する材料は特に限定されることはないが、熱の拡散の観点から熱伝導率が高い方が好ましく、10W/m・K以上であることが好ましい。かかる観点から外層20eを構成する材料は、ステンレス鋼、不変鋼(インバー)、コバール等の鉄系材料、チタン合金、及び、ニッケル合金等を挙げることができる。また、これらの金属にダイヤモンドやアルミナ、シリコンカーバイドなどの微粒子が含まれた複合材料を使用しても良い。
【0073】
内層20dの厚さは仕様を考慮し特に限定されることはないが、5μm以上20μm以下であることが好ましい。内層20dが5μmよりも薄いと外層20eの材料と作動流体とが相互に影響を及ぼす可能性が高まる。一方、内層20dが20μmより厚いと製造の観点から困難が生じたり、面内ばらつきを含めた厚みの要求仕様を満たすことが困難になったり、表面が粗くなったりする可能性が高まる。
【0074】
一方、外層20eの厚さは、仕様によるので特に限定されることはないが、いずれの部位でも0.02mm以上0.5mm以下であることが好ましい。外層20eに0.02mmより薄い部分があると変形を抑制する効果が小さくなる虞があり、0.5mmより厚い部分があるとベーパーチャンバから外部への熱移動が阻害されたり、厚みの仕様を満たすことが困難になったりする。
【0075】
このような第二シート20の厚さは、内層20dと外層20eとの合計とされるが、その具体的な厚さは特に限定されることはない。ただし、1.0mm以下であることが好ましく、0.75mm以下であってもよく、0.5mm以下であってもよい。一方、この厚さは0.02mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であってもよく、0.1mm以上であってもよい。この厚さの範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、この厚さの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
これにより薄型のベーパーチャンバとして適用できる場面を多くすることができる。そして、ベーパーチャンバに所望の流路を形成しつつもこれを薄型化したときであっても、外部からの衝撃、低温凍結による作動流体の固化による膨張、及び、作動時の蒸気圧力などによる力に対してベーパーチャンバの変形や破損を抑制することができる。
また、第一シート10と第二シート20との厚さは同じであってもよく、異なるものであってもよい。
【0076】
このような第二シート20は本体21及び注入部22を備えている。本体21は作動流体が還流する部位を形成するシート状の部位であり、本形態では平面視で角に円弧(いわゆるR)が形成された長方形である。
ただし、第二シート20の本体21は本形態のように四角形である他、円形、楕円形、三角形、その他の多角形、並びに、屈曲部を有する形である例えばL字型、T字型、クランク型等であってもよい。また、これらの少なくとも2つを組み合わせた形状とすることもできる。
【0077】
注入部22は第一シート10と第二シート20とにより形成された中空部に対して作動流体を注入して密閉空間2(
図19参照)とする部位であり、本形態では本体21の平面視長方形である一辺から突出する平面視四角形のシート状である。本形態では第二シート20の注入部22には内面20a側に注入溝22aが形成されており、第二シート20の側面20cから本体21の外側と内側(中空部、密閉空間2となるべき部位)とが連通している。
【0078】
本体21の内面20a側には、作動流体が還流するための構造が形成されている。具体的には、本体21の内面20a側には、外周接合部23、外周液流路部24、内側液流路部25、蒸気流路溝26、及び、蒸気流路連通溝27が具備されている。
【0079】
外周接合部23は、本体21の内面20a側に、該本体21の外周に沿って形成された面である。この外周接合部23が第一シート10の外周接合部13に重なって接合(拡散接合、ろう付け等)されることにより、第一シート10と第二シート20との間に中空部を形成し、ここに作動流体が封入されて密閉空間2となる。
図16~
図18にW
8で示した外周接合部23の幅(外周接合部23が延びる方向に直交する方向の大きさで、第一シート10との接合面における幅)は上記した本体11の外周接合部13の幅W
1と同じであることが好ましい。ただしこれに限らず大きくてもよく、小さくてもよい。
【0080】
また外周接合部23のうち、本体21の四隅には厚さ方向(z方向)に貫通する穴23aが設けられている。この穴23aは第一シート10との重ね合せの際の位置決め手段として機能する。
【0081】
外周液流路部24は、液流路部であり、作動流体が凝縮して液化した際に通る第2流路である凝縮液流路3の一部を構成する部位である。
【0082】
外周液流路部24は本体21の内面20aのうち、外周接合部23の内側に沿って形成されている。本形態において第二シート20の外周液流路部24は、
図17、
図18からわかるように、第一シート10との接合前において平坦面であり外周接合部23と面一である。これにより上記した第一シート10の複数の液流路溝14aの開口を閉鎖して第2流路である凝縮液流路3を形成する。第一シート10と第二シート20との組み合わせに関する詳しい態様は後で説明する。
なお、このように本形態の第二シート20では外周接合部23と外周液流路部24とが面一であるため、構造的には両者を区別する境界線は存在しない。しかし、わかり易さのため、
図15、
図16では点線により両者の境界を表している。
【0083】
外周液流路部24は、次のような構成を備えていることが好ましい。
図16~
図18にW
9で示した外周液流路部24の幅(外周液流路部24が延びる方向に直交する方向の大きさで、第一シート10との接合面における幅)は、第一シート10の外周液流路部14の幅W
2と同じでもよいし、大きくても小さくてもよい。
【0084】
次に内側液流路部25について説明する。内側液流路部25も液流路部であり、第2流路である凝縮液流路3を構成する1つの部位である。
【0085】
内側液流路部25は、
図15~
図18からわかるように、本体21の内面20aのうち、外周液流路部24の環状である環の内側に形成されている。本形態の内側液流路部25は、本体21の平面視長方形で長辺に平行な方向(x方向)に延びる壁で、複数(本形態では3つ)の内側液流路部25が同短辺に平行な方向(y方向)に所定の間隔で配列されている。
本形態で各内側液流路部25は、その内面20a側の表面が、第一シート10との接合前において平坦面により形成されている。これにより上記した第一シート10の複数の液流路溝15aの開口を閉鎖して凝縮液流路3を形成する。
【0086】
図16、
図17にW
10で示した内側液流路部25の幅(内側液流路部25と蒸気流路溝26が配列される方向の大きさで、第一シート10との接合面における幅)は、第一シート10の内側液流路部15の幅W
4と同じであってもよいし、大きくても小さくてもよい。本形態では同じとされている。
【0087】
なお、本形態では各内側液流路部25では接合前において平坦面により形成されているが、第一シートと同様に液流路溝を形成しても良い。また、その場合は、液流路溝同士は平面視で同じ位置にあってもよく、ずれていてもよい。
【0088】
次に蒸気流路溝26について説明する。蒸気流路溝26は作動流体が蒸発して気化した蒸気が通る部位であり、第1流路である蒸気流路4の一部を構成する。
図16には平面視した蒸気流路溝26の形状、
図17には蒸気流路溝26の断面形状がそれぞれ表れている。
【0089】
これらの図からもわかるように、蒸気流路溝26は本体21の内面20aのうち、外周液流路部24の環状である環の内側に形成された溝により構成されている。詳しくは本形態の蒸気流路溝26は、隣り合う内側液流路部25の間、及び、外周液流路部24と内側液流路部25との間に形成され、本体21の平面視長方形で長辺に平行な方向(x方向)に延びた溝である。そして、複数(本形態では4つ)の蒸気流路溝26が同短辺に平行な方向(y方向)に配列されている。従って、
図17からわかるように第二シート20は、y方向において、外周液流路部24及び内側液流路部25である壁による凸と、蒸気流路溝26である溝による凹とにより、凹凸が繰り返された形状を備えている。
ここで蒸気流路溝26は溝であることから、その断面形状において、外面20b側である底部、及び、底部とは向かい合わせとなる反対側の部位で内面20a側となる開口を備えている。
なお、この蒸気流路溝26は外層20eに形成された溝、及びこの溝の内側に内層20dが積層されてなる溝である。
【0090】
蒸気流路溝26は、第一シート10と組み合わされた際に該第一シート10の蒸気流路溝16と厚さ方向に重なる位置に配置されていることが好ましい。これにより蒸気流路溝16と蒸気流路溝26とで第1流路である蒸気流路4を形成することができる。
【0091】
図16、
図17にW
11で示した蒸気流路溝26の幅(内側液流路部25と蒸気流路溝26が配列される方向の大きさで、溝の開口面における幅)は、第一シート10の蒸気流路溝16の幅W
6と同じであってもよいし、大きくても小さくてもよい。
また、
図17にD
5で示した蒸気流路溝26の深さは、300μm以下であることが好ましく、225μm以下であってもよく、150μm以下であってもよい。一方、この深さD
5は10μm以上であることが好ましく、25μm以上であってもよく、50μm以上であってもよい。この深さD
5の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、深さD
5の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
また第一シート10の蒸気流路溝16と第二シート20の蒸気流路溝26の深さは同じであってもよく、大きくても小さくてもよい。
【0092】
本形態で蒸気流路溝26の断面形状は半楕円形であるが、長方形、正方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が半円形、底部が半楕円形、又はこれらのいくつかを組み合わせた形状であってもよい。蒸気流路は蒸気の流動抵抗を小さくすることにより作動流体を円滑に還流させることができるので、かかる観点から流路断面の形状を決定することもできる。
【0093】
本形態では隣り合う内側液流路部25の間に1つの蒸気流路溝26が形成された例を説明したが、これに限らず、隣り合う内側液流路部の間に2つ以上の蒸気流路溝が並べて配置される形態であってもよい。
また、第一シート10に蒸気流路溝が形成されていれば、第二シート20の一部または全部に蒸気流路溝が形成されない形態であってもよい。
【0094】
蒸気流路連通溝27は、複数の蒸気流路溝26を連通させる溝である。これにより、複数の蒸気流路4内の蒸気の均等化が図られたり、蒸気がより広い範囲に運ばれ、多くの凝縮液流路3を効率よく利用できるようになったりするため、作動流体の還流をより円滑にすることが可能となる。
【0095】
本形態の蒸気流路連通溝27は、
図15、
図16、
図18からわかるように、内側液流路部25、及び蒸気流路溝26が延びる方向の端部と、外周液流路部24との間に形成されている。また、
図18には蒸気流路連通溝27の連通方向に直交する断面が表れている。
【0096】
図16、
図18にW
12で示した蒸気流路連通溝27の幅(連通方向に直交する方向の大きさ、溝の開口面における幅)は、第一シート10の蒸気流路連通溝17の幅W
7と同じでもよいし、大きくても小さくてもよい。また、
図18にD
6で示した蒸気流路連通溝27の深さは、300μm以下であることが好ましく、225μm以下であってもよく、150μm以下であってもよい。一方、この深さD
6は10μm以上であることが好ましく、25μm以上であってもよく、50μm以上であってもよい。この深さD
6の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、深さD
6の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
また第一シート10の蒸気流路連通溝17と第二シート20の蒸気流路連通溝27の深さは同じでもよく、大きくても小さくてもよい。
【0097】
本形態で蒸気流路連通溝27の断面形状は半楕円形であるが、これに限らず長方形、正方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が半円形、底部が半楕円形、又は、これらのいくつかを組み合わせた形状であってもよい。蒸気流路は蒸気の流動抵抗を小さくすることにより円滑な還流させることができるので、かかる観点から流路断面の形状を決定することもできる。
なお、蒸気流路連通溝27も、外層20eに設けられた溝、及びこの溝の内側に積層された内層20dからなる溝である。
【0098】
本形態では、本体21の外面20bは平坦面となるように構成されている。これにより外面20bに密着すべき部材(例えば冷却対象である電子部品や、熱を伝達させるべき電子機器の筐体等。)への密着性を高めることができる。ただし、外面20bの形状はこれに限らずその目的に応じて凹凸を有していてもよい。
ここで、外面20bは内面20aに対応した形状とはなっておらず、外面20bが目的とする熱の伝達等に寄与できるような形状とされている。そして、この外面20bは上記したように外層20eにより形成されている。従って、外層20eはx方向位置及びy方向位置によって厚さが異なる。
このような内面20a、外面20b、及び、これを構成する内層20d、外層20eにより、ベーパーチャンバに所望の流路を形成しつつもこれを薄型化したときであっても、外部からの衝撃、低温凍結による作動流体の固化による膨張、及び、作動時の蒸気圧力などによる力に対してベーパーチャンバの変形や破損を抑制することができる。
【0099】
次に、第一シート10と第二シート20とが組み合わされてベーパーチャンバ1とされたときの構造について説明する。この説明により、第一シート10及び第二シート20が有する各構成の配置、大きさ、形状等がさらに理解される。
図19には、
図1にI
8-I
8で示したy方向に沿ってベーパーチャンバ1を厚さ方向に切断した切断面を表した。この図は第一シート10における
図5に表した図と、第二シート20における
図17に表した図とが組み合わされてこの部位におけるベーパーチャンバ1の切断面が表されたものである。
図20には
図19にI
9で示した部位を拡大した図、
図21には、
図1にI
10-I
10で示したx方向に沿ってベーパーチャンバ1の厚さ方向に切断した切断面を表した。この図は、第一シート10における
図7に表した図と、第二シート20における
図18に表した図とが組み合わされてこの部位におけるベーパーチャンバ1の切断面が表されたものである。
【0100】
図1、
図2、及び
図19~
図21よりわかるように、第一シート10と第二シート20とが重ねられるように配置され接合されることでベーパーチャンバ1とされている。このとき第一シート10の内面10aと第二シート20の内面20aとが向かい合うように配置されており、第一シート10の本体11と第二シート20の本体21とが重なり、第一シート10の注入部12と第二シート20の注入部22とが重なっている。すなわち、第一シート10の内層10dと第二シート20の外層20eとが重なっている。
本形態では、第一シート10と第二シート20との相対的な位置関係は、第一シート10の穴13aと第二シート20の穴23aと位置を合わせることで適切になるように構成されている。
【0101】
このような第一シート10と第二シート20との積層体により、本体11及び本体21に具備される各構成が
図19~
図21に表れるように配置される。具体的には次の通りである。
【0102】
第一シート10の外周接合部13と第二シート20の外周接合部23とが重なるように配置されており、拡散接合やろう付け等の接合手段により両者が接合されている。これにより、第一シート10と第二シート20との間に中空部が形成され、ここに作動流体が封入されることで密閉空間2とされている。
【0103】
第一シート10の外周液流路部14と第二シート20の外周液流路部24とが重なるように配置されている。これにより外周液流路部14の液流路溝14a及び外周液流路部24により中空部のうち、作動流体が凝縮して液化した状態である凝縮液が流れる第2流路である凝縮液流路3が形成される。
同様に、第一シート10の内側液流路部15と第二シート20の内側液流路部25とが重なるように配置されている。これにより内側液流路部15の液流路溝15a及び内側液流路部25により中空部のうち、凝縮液が流れる第2流路である凝縮液流路3が形成される。
このように断面においてその四方を壁で囲まれた細い流路を形成することにより強い毛細管力で凝縮液を移動させ、円滑な循環が可能となる。すなわち、凝縮液が流れることを想定した流路を考えたとき、該流路の1つの面が連続的に開放されているようないわゆる溝による流路に比べて、上記凝縮液流路3によれば高い毛細管力を得ることができる。
また、凝縮液流路3は第1流路である蒸気流路4とは分離されて形成されているため、作動流体の循環を円滑にさせることができる。
さらに、隣り合う凝縮液流路3は連通開口部14c、連通開口部15cにより互いに連通しているので、凝縮液の均等化が図られており、さらに作動流体の循環が円滑にされている。
【0104】
凝縮液流路3については流路の毛細管力をより強く発揮する観点から、流路幅を流路高さで割った値で表される流路断面におけるアスペクト比(縦横比)は、1.0よりも大きいことが好ましい。この比は1.5以上でもよく、2.0以上であってもよい。または、アスペクト比は1.0より小さくてもよい。この比は0.75以下であってもよく、0.5以下であってもよい。
その中でも製造の観点から流路幅が流路高さより大きいことが好ましく、かかる観点からアスペクト比は1.3より大きいことが好ましい。
【0105】
一方、
図19、
図20からわかるように、第一シート10の蒸気流路溝16の開口と第二シート20の蒸気流路溝26の開口とが向かい合うように重なって流路を形成し、これが蒸気が流れる第1流路である蒸気流路4となる。
上記した第2流路である凝縮液流路3の流路断面積は、当該第1流路である蒸気流路4の流路断面積より小さくされている。より具体的には、隣り合う2つの蒸気流路4(本形態では1つの蒸気流路溝16及び1つの蒸気流路溝26により形成される流路)の平均の流路断面積をA
gとし、この隣り合う2つの蒸気流路4の間に配置される複数の凝縮液流路3(本形態では1つの内側液流路部15、及び、1つの内側液流路溝25により形成される複数の凝縮液流路3)の平均の流路断面積をA
lとしたとき、凝縮液流路3と蒸気流路4とは、A
lがA
gの0.5倍以下の関係にあるものとし、好ましくは0.25倍以下である。これにより作動流体はその相態様(気相、液相)によって第1流路と第2流路とを選択的に通り易くなる。
この関係はベーパーチャンバ全体のうち少なくとも一部において満たせばよく、ベーパーチャンバの全部でこれを満たせばさらに好ましい。
【0106】
図21からわかるように、第一シート10の蒸気流路連通溝17の開口と第二シート20の蒸気流路連通溝27の開口とが向かい合うように重なり流路を形成する。
【0107】
一方、注入部12、注入部22についても
図1、
図2に表れているように、その内面10a、内面20a同士が向かい合うように重なり、第二シート20の注入溝22aの底部とは反対側の開口が第一シート10の注入部12の内面10aにより塞がれ、外部と本体11、本体21間の中空部(凝縮液流路3及び蒸気流路4)とを連通する注入流路5が形成されている。
ただし、注入流路5から中空部に対して作動流体を注入した後は、注入流路5は閉鎖されて密閉空間2となるので、最終的な形態のベーパーチャンバ1では外部と中空部とは連通していない。
本形態で注入部12、注入部22は、ベーパーチャンバ1の長手方向における一対の端部のうちの一方の端部に設けられている例が示されているが、これに限られることはなく、他のいずれかの端部に配置されていてもよく、複数配置されてもよい。複数配置される場合には例えばベーパーチャンバ1の長手方向における一対の端部のそれぞれに配置されてもよいし、他の一対の端部のうちの一方の端部に配置されもよい。
【0108】
ベーパーチャンバ1の密閉空間2には、作動流体が封入されている。作動流体の種類は特に限定されることはないが、純水、エタノール、メタノール、アセトン、及びそれらの混合物等、通常のベーパーチャンバに用いられる作動流体を用いることができる。
【0109】
以上のようにベーパーチャンバ1において、凝縮液流路3及び蒸気流路4は、外層10e、外層20e、内層10d、及び内層20dにより構成されており、凝縮液流路3及び蒸気流路4の内面は内層10d及び内層20dからなる。
【0110】
一方、本形態では、ベーパーチャンバ1の外側は、外層10e及び外層20eにより形成されており、その形態は内側である凝縮液流路3及び蒸気流路4によらない形状(本形態では平坦)とされている。
【0111】
このような態様において、外層10e及び外層20eは、内層10d及び内層20dより高い強度を有しており、凝縮液流路3及び蒸気流路4を有しつつ、ベーパーチャンバが薄型化しても、ベーパーチャンバの変形や破損を抑制することができる。すなわち、外部からの衝撃、低温凍結による作動流体の固化による膨張、及び、作動時の蒸気圧力などによる力がかかったときにもベーパーチャンバの変形や破損を抑制することができる。
【0112】
一方、内層10d及び内層20dにより、作動流体に対して化学的安定性を有するとともに熱伝導率が高い材料により構成することができるため、熱抵抗は小さく抑えることができる。そのとき、外層10e及び外層20eによりベーパーチャンバの強度向上を行うことができるため、内層10d及び内層20dに形成される作動流体が移動するパターンについては強度向上よりも熱的な性能に注力したパターン設計が可能となるため、熱的な性能の観点からも利点があるといえる。
【0113】
本形態のベーパーチャンバ1は、薄型である場合に特にその効果が大きい。かかる観点からベーパーチャンバ1の厚さは1mm以下、より好ましくは0.4mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下である。0.4mm以下とすることにより、ベーパーチャンバ1を設置する電子機器において、ベーパーチャンバを配置するスペースを形成するための加工(例えば溝形成等)をすることなく電子機器内部にベーパーチャンバを設置できることが多くなる。そして本形態によれば、このような薄いベーパーチャンバであっても熱的な性能を維持しつつ強度が高く変形に対して強いものなる。
【0114】
以上のようなベーパーチャンバは例えば次のような工程を含むことにより作製することができる。
図22A~
図22Dに説明のための図を表した。
始めに
図22Aに示したように第一シート10の外層10eとなるシート10e’を準備する。
次にこのシート10e’に対して、
図22Bに示したように、液流路溝14a液流路溝15a、蒸気流路溝16、及び蒸気流路連通溝17となるべき溝をハーフエッチングにより形成する。ハーフエッチングとは厚さ方向に貫通することなくその途中までエッチングを行うことである。
【0115】
次いで、
図22Cに示したように、シート10e’の上記ハーフエッチングをした側の面に対して、内層10dとなる材料によりスパッタやめっきを施して内層10dを形成する。このとき、内層10dの材料によりスパッタやめっきを施す前に、密着性を高める観点からスパッタやめっきにより中間層を形成してもよい。中間層の形成はスパッタであればチタン、ニッケル、ニッケルクロムによる中間層を挙げることができ、めっきによる中間層の形成はいわゆるストライクめっき処理である。
【0116】
以上の工程を含むことにより第一シート10を作製することができる。これによれば、積層材料であっても加工による材料の除去を少なく抑えることができ、材料の損失を少なくすることができる。
また、異なる金属を積層した材料をエッチングする必要がないため、加工時における電池効果で腐食や、エッチングレートの違いによる加工精度の低下を抑えることができる。
また、複数種類の金属を圧延積層した材料は薄型化すると反りが大きくなる傾向にあるが、上記のように製造することでこの反りを小さく抑えることができるため、接合や搬送において歩留まり向上が期待できる。
【0117】
第二シート20も上記の工程を含んで作製し、これにより第一シート10及び第二シート20を得た後、
図22Dに示したように第一シート10の内面10a(内層10d)及び第二シート20の内面20a(内層20d)を向かい合わせるように重ね、位置決め手段としての穴13a、穴23aを用いて位置決めをし、仮止めを行う。仮止めの方法は特に限定されることはないが、抵抗溶接、超音波溶接、及び接着剤による接着等を挙げることができる。
そして仮止め後に拡散接合を行い恒久的に第一シート10と第二シート20とを接合する。ここで、「恒久的に接合」とは、厳密な意味に縛られることはなく、ベーパーチャンバ1の動作時に、密閉空間2の密閉性を維持可能な程度に、第一シート10の内面10aと第二シート20の内面20aとの接合を維持できる程度に接合されていることを意味する。
【0118】
なお、上記の形態では、内層10d及び内層20dの形成をスパッタやめっきにより形成して、その後に第一シート10と第二シート20とを拡散接合により接合する方法を説明した。ただしこれに限らず、例えば、第一シート10と第二シート20とをろう付けにより接合することを前提に、内層10d及び内層20dをろう付けの材料であるろう材で構成してもよい。これによれば内層10d及び内層20dの形成と接合を同時に行うことが可能である。
【0119】
以上のようにして第一シート10と第二シート20とを接合した後、形成された注入流路5から真空引きを行い、中空部を減圧する。その後、減圧された中空部に対して注入流路5(
図1参照)から作動流体を注入して中空部に作動流体が入れられる。そして注入部12、注入部22に対してレーザによる溶融を利用したり、かしめたりして注入流路5を閉鎖して密閉空間とする。これにより密閉空間2の内側に作動流体が安定的に保持される。
【0120】
本形態のベーパーチャンバでは、内部液流路部15と内側液流路部25との重なりによりこれが支柱として機能するため、接合時及び減圧時に密閉空間がつぶれることを抑制することができる。また、外層10e及び外層20eにより強度が高められているため、これによっても当該つぶれの発生を抑制することができる。
【0121】
以上では、エッチングによるベーパーチャンバの製造について説明したが、製造方法はこれに限らず、プレス加工、切削加工、レーザ加工、及び3Dプリンタによる加工によりベーパーチャンバを製造することもできる。
例えば3Dプリンタによりベーパーチャンバを製造する場合にはベーパーチャンバを複数のシートを接合して作製する必要がなく、接合部のないベーパーチャンバとすることが可能となる。
【0122】
次にベーパーチャンバ1の作用について説明する。
図23には電子機器の一形態である携帯型端末40の内側にベーパーチャンバ1が配置された状態を模式的に表した。ここではベーパーチャンバ1は携帯型端末40の筐体41の内側に配置されているため点線で表している。このような携帯型端末40は、各種電子部品を内包する筐体41及び筐体41の開口部を通して外部に画像が見えるように露出したディスプレイユニット42を備えて構成されている。そしてこれら電子部品の1つとして、ベーパーチャンバ1により冷却すべき電子部品30が筐体41内に配置されている。
【0123】
ベーパーチャンバ1は携帯型端末等の筐体内に設置され、CPU等の冷却すべき対象物である電子部品30に取り付けられる。電子部品はベーパーチャンバ1の外面10b又は外面20bに直接、又は、熱伝導性の高い粘着剤、シート、テープ等を介して取り付けられる。外面10b、外面20bのうちどの位置に電子部品が取り付けられるかは特に限定されることはなく、携帯型端末等において他の部材の配置との関係により適宜設定される。本形態では
図1に点線で示したように、冷却すべき熱源である電子部品30を第一シート10の外面10bのうち、本体11のxy方向中央に配置した。従って
図1において電子部品30は死角となって見えない位置なので点線で表している。
本形態のベーパーチャンバ1では、外面10b及び外面20bは、外層10e及び外層20eで形成されており、その形状は内面側の流路の形状に沿った形状とはされていない。従って、外面10b及び外面20bの形状を、接触するべき電子部品や筐体に対して密着性を高める観点から形成することができ、かかる観点で熱的性能を高めることができる。
【0124】
図24には作動流体の流れを説明する図を表した。説明のし易さのため、この図では第二シート20は省略し、第一シート10の内面10aが見えるように表示している。
【0125】
電子部品30が発熱すると、その熱が第一シート10内を熱伝導により伝わり、密閉空間2内における電子部品30に近い位置に存在する凝縮液が熱を受ける。この熱を受けた凝縮液は熱を吸収し蒸発し気化する。これにより電子部品30が冷却される。
【0126】
気化した作動流体は蒸気となって
図24に実線の直線矢印で示したように蒸気流路4内を流れて移動する。この流れは電子部品30から離隔する方向に生じるため、蒸気は電子部品30から離れる方向に移動する。
蒸気流路4内の蒸気は熱源である電子部品30から離れ、比較的温度が低いベーパーチャンバ1の外周部に移動し、当該移動の際に順次第一シート10及び第二シート20に熱を奪われながら冷却される。蒸気から熱を奪った第一シート10及び第二シート20はその外面10b、外面20bに接触した電子機器40の筐体41等に熱を伝え、最終的に熱は外気に放出される。
【0127】
蒸気流路4を移動しつつ熱を奪われた作動流体は凝縮して液化する。この凝縮液は蒸気流路4の壁面に付着する。一方で蒸気流路4には連続して蒸気が流れているので、凝縮液は
図20、
図21に矢印I
11で示したように蒸気で押し込まれるように、凝縮液流路3に移動する。本形態の凝縮液流路3は、
図8、
図14に表れているように連通開口部14c、連通開口部15cを備えているので、凝縮液はこの連通開口部14c、連通開口部15cを通って複数の凝縮液流路3に分配される。
【0128】
凝縮液流路3に入った凝縮液は、凝縮液流路による毛細管力、及び、蒸気からの押圧により、
図24に点線の直線矢印で表したように熱源である電子部品30に近づくように移動する。
このとき、凝縮液流路3は第二シート20により液流路溝14a、液流路溝15aの開口が塞がれているので断面においてその四方が壁となり、毛細管力を高めることができる。これにより円滑な凝縮液の移動が可能とされている。
そして再度熱源である電子部品30からの熱により気化して上記を繰り返す。
【0129】
ここまでに説明したベーパーチャンバ1は、第一シート10及び第二シート20の2つのシートからなる例であった。ただし、これに限られることはなく、
図25に示したように3つのシート、及び、
図26に示したように4つのシートによるベーパーチャンバであってもよい。
【0130】
図25に示したベーパーチャンバは、第一シート10、第二シート20、及び、中間シートである第三シート50の積層体である。第一シート10と第二シート20との間に挟まれるように第三シート50が配置され、それぞれが接合されている。
【0131】
この例では第一シート10は内面10a及び外面10bのいずれも平坦である。同様に、第二シート20も内面20a及び外面20bのいずれも平坦である。そして、内面10a及び内面20aがそれぞれ内層10d及び内層20dにより構成されており、外面10b及び外面20bがそれぞれ外層10e及び外層20eにより構成されている。
この時の、第一シート10および第二シート20の厚さは、1.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であってもよく、0.1mm以下であってもよい。一方、この厚さ0.005mm以上であることが好ましく、0.015mm以上であってもよく、0.030mm以上であってもよい。この厚さの範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、この厚さの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
【0132】
一方、第三シート50には、蒸気流路溝51、壁52、液流路溝53、及び、凸部54が備えられている。
蒸気流路溝51は、第三シート50を厚さ方向に貫通した溝であり、上記した蒸気流路溝16と蒸気流路溝26とを重ねて第1流路である蒸気流路4を構成すると同様の溝であり、これに相当する形態を有している。
壁52は、隣り合う蒸気流路溝51の間に具備される壁であり、上記した外周液流路部14と外周液流路部24、及び、内側液流路部15と内側液流路部25を重ねた壁に相当する形態を有している。
液流路溝53は、壁52のうち第一シート10に対向する面に配置される溝であり、上記した液流路溝14a、液流路溝15aに相当する形態を有している。液流路溝53により第2流路である凝縮液流路3が形成される。
凸部54は、隣り合う液流路溝53の間に配置される凸部であり、上記した凸部14b、凸部15bに相当する形態で配置される。
【0133】
そして、第三シート50には、凝縮液流路3及び蒸気流路4となる溝が形成されており、この溝の内側に内層50dが積層されている。また、第三シート50は外面を形成しないため、内層50dが積層される部位は、内層50dを積層させるための基礎となる層である基層50fとされている。従って壁52は基礎層50fの外周に内層50dが積層されている態様となる。基層50fを構成する材料は上記外層10eと同様に考えることができる。
【0134】
以上のような構成のベーパーチャンバも上記と同様の効果を有するものとなる。
【0135】
図26に示したベーパーチャンバは、第一シート10、第二シート20、並びに、2つの中間シートである第三シート60及び第四シート70の積層体である。これらシートが第一シート10側から、第一シート10、第三シート60、第四シート70、及び、第二シート20の順に積層され接合されている。
【0136】
本形態では、第一シート10及び第二シート20は内面10a、20a、及び外面10b、20bはいずれも平坦である。そして、内面10a及び内面20aがそれぞれ内層10d及び内層20dにより構成されており、外面10b及び外面20bがそれぞれ外層10e及び外層20eにより構成されている。
この時の、第一シート10および第二シート20の厚さは、1.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であってもよく、0.1mm以下であってもよい。一方、この厚さは0.005mm以上であることが好ましく、0.015mm以上であってもよく、0.030mm以上であってもよい。この厚さの範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、この厚さの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
なお、本形態では見やすさのため、内層のハッチングを省略して表している。
【0137】
第三シート60には、液流路溝14a、液流路溝15a、及び、蒸気流路溝16が備えられている。
本形態における液流路溝14a、液流路溝15a、及び、蒸気流路溝16は、第三シート60を厚さ方向に貫通した溝であるが、それ以外においては、上述した液流路溝14a、液流路溝15a、及び、蒸気流路溝16と同様の形態とすることができる。
そして、第三シート60は、凝縮液流路3及び蒸気流路4となる溝が形成されており、この溝の内側に内層60dが積層されている。また、第三シート60は外面を形成しないため、内層60dが積層される部位は、内層60dを積層させるための基礎となる基層60fとされている。基層60fを構成する材料は上記外層10eと同様に考えることができる。
【0138】
第四シート70には蒸気流路溝26が備えられている。
本形態における蒸気流路溝26は、第四シート70を厚さ方向に貫通した溝であるが、それ以外においては、上述した蒸気流路溝26と同様の形態とすることができる。
そして、第四シート70には、蒸気流路4となる溝が形成されており、この溝の内側に内層70dが積層されている。また、第四シート70は外面を形成しないため、内層70dが積層される部位は、内層60dを積層させるための基礎となる基層70fとされている。基層70fを構成する材料は上記外層10eと同様に考えることができる。
【0139】
このようなシートが積層されることにより、第一シート10、凝縮液流路14a、及び、第四シート70により囲まれた第2流路である凝縮液流路3、及び、第一シート10、凝縮液流路15a、及び、第四シート70により囲まれた第2流路である凝縮液流路3となる。
同様に、蒸気流路溝16と蒸気流路溝26とが重なり、第一シート10と第二シート20との間に配置されることで第1流路である蒸気流路4となる。
以上のような構成のベーパーチャンバも上記と同様の効果を有するものとなる。
【0140】
[第2の形態]
図27には第2の形態にかかるベーパーチャンバ101の外観斜視図、
図28にはベーパーチャンバ101の分解斜視図を表した。
本形態のベーパーチャンバ101は、
図27、
図28からわかるように第一シート110及び第二シート120を有している。そして、後で説明するように、この第一シート110と第二シート120とが重ねられて接合(拡散接合、ろう付け等)されていることにより第一シート110と第二シート120との間に中空部が形成され、この中空部に作動流体が封入されて密閉空間102とされている(例えば
図45参照)。
【0141】
本形態で第一シート110は全体としてシート状の部材で、平面視でL字状とされている。
図29には第一シート110を内面110a側から見た斜視図、
図30には第一シート110を内面110a側から見た平面図をそれぞれ表した。また、
図31には
図30のI
101-I
101で切断したときの第一シート110の切断面を示した。
第一シート110は、内面110a、該内面110aとは反対側となる外面110b及び内面110aと外面110bとを渡して厚さを形成する側面110cを備え、内面110a側に作動流体が移動する流路のためのパターンが形成されている。後述するようにこの第一シート110の内面110aと第二シート120の内面120aとが対向するようにして重ね合わされることで中空部が形成され、ここに作動流体が封入されて密閉空間102となる。
【0142】
第一シート110の厚さは特に限定されることはないが上記第一シート10と同様に考えることができる。
【0143】
第一シート110は本体111及び注入部112を備えている。本体111は作動流体が移動する部位を形成するシート状であり、本形態では平面視で湾曲する部位を有するL字型である。
注入部112は第一シート110と第二シート120により形成された中空部に対して作動流体を注入する部位であり、本形態では本体111の平面視L字型から突出する平面視四角形のシート状である。本形態では第一シート110の注入部112は内面110a側も外面110b側も平坦面とされている。
【0144】
本体111の内面110a側には作動流体が移動するための構造が形成されている。当該構造として具体的には、本体111の内面110a側に、外周接合部113、外周液流路部114、内側液流路部115、蒸気流路溝116、及び、蒸気流路連通溝117が具備されている。
【0145】
外周接合部113は、本体111の内面110a側に、該本体111の外周に沿って形成された面である。この外周接合部113が第二シート120の外周接合部123に重なって接合(拡散接合、ろう付け等)されることにより、第一シート110と第二シート120との間に中空部が形成され、ここに作動流体が封入されることで密閉空間102となる。外周接合部113の幅は必要に応じて適宜設定することができるが、最も狭い部分において第一シート10で説明した幅W1と同様に考えることができる。
【0146】
外周液流路部114は、液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に通る流路である凝縮液流路103(例えば
図46参照)の一部を構成する部位である。
図32には
図31のうち矢印I
102で示した部分、
図33には
図30にI
103-I
103による切断面を示した。いずれの図にも外周液流路部114の断面形状が表れている。また、
図34には
図32に矢印I
105で示した方向から見た外周液流路部114を平面視した拡大図を表した。
【0147】
これらの図からわかるように、外周液流路部114は本体111の内面110aのうち、外周接合部113の内側に沿って形成され、密閉空間102の外周に沿って環状となるように設けられている。また、外周液流路部114には、該外周液流路部114が延びる方向に平行に延びる複数の溝である液流路溝114aが形成され、複数の液流路溝114aが、該液流路溝114aが延びる方向とは異なる方向に間隔を有して配置されている。従って、
図32、
図33からわかるように外周液流路部114ではその断面において凹部である液流路溝114aと液流路溝114a間の凸部である壁114bとが凹凸を繰り返して形成されている。
ここで液流路溝114aは溝であることから、その断面形状において、底部と、該底部に向かい合う反対側の部位に存する開口と、を備えている。
【0148】
このように複数の液流路溝114aを備えることで、1つ当たりの液流路溝114aの深さ及び幅を小さくし、凝縮液流路103(例えば
図46参照)の流路断面積を小さくして大きな毛細管力を利用することができる。一方、液流路溝114aを複数とすることにより合計した全体としての凝縮液流路103の内容積は適する大きさが確保され、必要な流量の凝縮液を流すことができる。
【0149】
さらに、外周液流路部114では、
図23からわかるように隣り合う液流路溝114aは、壁114bに間隔を有して設けられた連通開口部114cにより連通している。これにより複数の液流路溝114a間で凝縮液量の均等化が促進され、効率よく凝縮液を流すことができる。また、蒸気流路104を形成する蒸気流路溝116に隣接する壁114bに設けられた連通開口部114cは、蒸気流路104と凝縮液流路103とを連通させる。従って、連通開口部114cを設けることにより蒸気流路104で生じた凝縮液を円滑に凝縮液流路103に移動させることができるとともに、凝縮液流路103で生じた蒸気を円滑に蒸気流路104に移動させることもでき、これによっても作動流体の円滑な移動を促進することが可能となる。
【0150】
本形態では
図34で示したように1つの液流路溝114aの該溝を挟んで液流路溝114aが延びる方向において同じ位置に対向するように連通開口部114cが配置されている。ただしこれに限定されることはなく、
図9を用いて説明した例に倣って連通開口部114cを配置してもよい。
【0151】
また、外周液流路部114の幅は第一シート10で説明した幅W
2と同様に考えることができる。
液流路溝114aについて、その溝幅は第一シート10で説明した幅W
3、溝の深さは第一シート10で説明した深さD
1と同様に考えることができる。ただし、液流路溝114aの深さは、第一シート110の厚さから当該溝の深さを引いた残りのシート厚さよりも小さいことが好ましい。これにより作動流体の凍結時においてシートが破れてしまうことをより確実に防止することができる。
また、壁114bについて、
図32、
図34にW
101で示した幅は20μm以上300μm以下であることが好ましい。この幅が20μmより小さいと作動流体の凍結と溶融との繰り返しにより破断し易くなり、この幅が300μmより大きくなると連通開口部114cの幅が大きくなりすぎ、隣り合う凝縮液流路103との作動流体の円滑な連通が阻害される虞がある。
【0152】
連通開口部114cについて、液流路溝114aが延びる方向に沿った連通開口部114cの大きさは第一シート10で説明した大きさL1、液流路溝114aが延びる方向における隣り合う連通開口部114cのピッチは第一シート10で説明したピッチL2と同様に考えることができる。
【0153】
本形態では液流路溝114aの断面形状は半楕円形であるがこれに限定されることなく、正方形、長方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が半円形、底部が半楕円形等であってもよい。
【0154】
また、液流路溝114aは、密閉空間内の縁に沿って連続して形成されていることが好ましい。すなわち、液流路溝114aは他の構成要素によって寸断されることなく1周に亘って環状に延びていることが好ましい。これにより凝縮液の移動を阻害する要因が減るため、円滑に凝縮液を移動させることができる。
【0155】
本形態では外周液流路部114が設けられているが、外周液流路部114は必ずしも設けられる必要はなくベーパーチャンバの形状、ベーパーチャンバが適用される機器との関係、及び、使用環境等の観点から、外周液流路部114が設けられていない形態としてもよい。この形態では密閉空間の外周部を蒸気流路として、ベーパーチャンバの外周部まで蒸気により熱を運ぶように構成することができ、より高い均熱化をすることができる場合がある。
【0156】
図29乃至
図31に戻って内側液流路部115について説明する。内側液流路部115も液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に通る凝縮液流路103の一部を構成する部位である。
図35には
図31のうちI
105で示した部分を示した。この図にも内側液流路部115の断面形状が表れている。また、
図36には
図35に矢印I
106で示した方向から見た内側液流路部115を平面視した拡大図を示した。
【0157】
これらの図からわかるように、内側液流路部115は本体111の内面110aのうち、環状である外周液流路部114(又は、外周接合部113)の環の内側に形成されている。本形態の内側液流路部115は、
図29、
図30からわかるように、湾曲部を有して延びる凸条であり、複数(本形態では5つ)の内側液流路部115が延びる方向とは異なる方向に間隔を有して配列され、蒸気流路溝116の間に配置されている。
各内側液流路部115には、内側液流路部115が延びる方向に平行な溝である液流路溝115aが形成され、複数の液流路溝115aが、該液流路溝115aが延びる方向とは異なる方向に所定の間隔で配置されている。従って、
図31、
図36からわかるように内側液流路部115ではその断面において凹部である液流路溝115aと液流路溝115a間の凸部である壁115bとが凹凸を繰り返して形成されている。
ここで液流路溝115aは溝であることから、その断面形状において、底部と、該底部に向かい合う反対側の部位に存する開口と、を備えている。
【0158】
このように複数の液流路溝115aを備えることで、1つ当たりの液流路溝115aの深さ及び幅を小さくし、凝縮液流路103(例えば
図46参照)の流路断面積を小さくして大きな毛細管力を利用することができる。一方、液流路溝115aを複数とすることにより合計した全体としての凝縮液流路103の内容積は適する大きさが確保され、必要な流量の凝縮液を流すことができる。
【0159】
さらに、内側液流路部115でも、
図36からわかるように、外周液流路部114の例に倣って
図34と同じようにして隣り合う液流路溝115aは、壁115bに間隔を有して設けられた連通開口部115cにより連通している。これにより複数の液流路溝115a間で凝縮液量の均等化が促進され、効率よく凝縮液を流すことができる。また、蒸気流路104を形成する蒸気流路溝116に隣接する壁115bに設けられた連通開口部115cは、蒸気流路104と凝縮液流路103とを連通させる。従って、後で説明するように連通開口部115cを構成することにより蒸気流路104で生じた凝縮液を円滑に凝縮液流路103に移動させることができるとともに、凝縮液流路で発生した蒸気を円滑に蒸気流路104に移動させることもでき、これによっても作動流体の円滑な移動を促進することが可能となる。
【0160】
内側液流路部115についても、
図9の例に倣って、1つの液流路溝115aの該溝を挟んで液流路溝115aが延びる方向において異なる位置に連通開口部115cが配置されてもよい。
【0161】
以上のような構成を備える内側液流路部115の幅は第一シート10で説明した幅W4と同様に考えることができる。
【0162】
液流路溝115aについて、その溝幅は第一シート10で説明したW5、溝の深さはD2と同様に考えることができる。なお、溝の深さは、第一シート110の厚さから当該溝の深さを引いた残りのシート厚さよりも小さいことが好ましい。これにより作動流体の凍結時においてシートが破れてしまうことをより確実に防止することができる。
【0163】
また、壁115bについて、
図35、
図36にW
102で示した幅は20μm以上300μm以下であることが好ましい。この幅が20μmより小さいと作動流体の凍結と溶融の繰り返しにより破断し易くなり、この幅が300μmより大きくなると連通開口部115cの幅が大きくなりすぎ、凝縮液流路103間の円滑な連通が阻害される虞がある。
【0164】
連通開口部115cについて、液流路溝115aが延びる方向に沿った連通開口部115cの大きさは第一シート10で説明したL3と同様に考えることができ、液流路溝115aが延びる方向における隣り合う連通開口部115cのピッチは第一シート10で説明したL4と同様に考えることができる。
【0165】
また、本形態で液流路溝115aの断面形状は半楕円形であるが、これに限らず、正方形、長方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が半円形、底部が半楕円形等であってもよい。
【0166】
次に蒸気流路溝116について説明する。蒸気流路溝116は、蒸気状及び凝縮液状の作動流体が移動する部位で、蒸気流路104の一部を構成する。
図30には平面視した蒸気流路溝116の形状、
図31には蒸気流路溝116の断面形状がそれぞれ表れている。
【0167】
これら図からもわかるように、蒸気流路溝116は本体111の内面110aのうち、環状である外周液流路部114の環の内側に形成された溝により構成されている。詳しくは本形態の蒸気流路溝116は、隣り合う内側液流路部115の間、及び、外周液流路部114と内側液流路部115との間に形成され、湾曲した部位を有して延びた溝である。そして、複数(本形態では6つ)の蒸気流路溝116が当該延びる方向とは異なる方向に配列されている。従って、
図31からわかるように第一シート110は、内側液流路部115を凸条とし、蒸気流路溝116を凹条とした凹凸が繰り返された形状を備えている。
ここで蒸気流路溝116は溝であることから、その断面形状において、底部と、該底部に向かい合う反対側の部位に存する開口と、を備えている。
【0168】
蒸気流路溝116は、第二シート120の蒸気流路溝126と組み合わされて蒸気流路104が形成されたとき、当該蒸気流路104で作動流体が移動するように構成されていればよい。
蒸気流路溝116の幅は少なくとも上記した液流路溝114a、液流路溝115aの幅より大きく形成され、第一シート10で説明した幅W6と同様に考えることができる。
一方、蒸気流路溝116の深さは、少なくとも上記した液流路溝114a、液流路溝115aの深さより大きく形成され、第一シート10で説明した深さD3と同様に考えることができる。
これらにより、蒸気流路が形成されたときに作動流体の安定した移動が行われるとともに、蒸気流路溝の流路断面積を液流路溝よりも大きくすることで、作動流体の性質上、凝縮液よりも体積が大きくなる蒸気を円滑に移動させることができる。
【0169】
ここで蒸気流路溝116は、後で説明するように第二シート120と組み合わされて蒸気流路104が形成されたときに、蒸気流路104の幅が高さ(厚さ方向大きさ)よりも大きい扁平形状となるように構成されていることが好ましい。そのため、高さを幅で除した値で示されるアスペクト比は好ましくは4.0以上、より好ましくは8.0以上である。
【0170】
本形態では蒸気流路溝116の断面形状は半楕円形であるが、これに限らず正方形、長方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が円形、底部が半楕円形等であってもよい。
【0171】
蒸気流路連通溝117は、複数の蒸気流路溝116を連通させ、第二シート120の蒸気流路連通溝127と組み合わされて蒸気流路溝116による複数の蒸気流路104をその端部で連通する流路を形成する溝である。これにより、内側液流路部115が延びる方向における蒸気流路104で生じる作動流体の移動を円滑に行うことができる。
蒸気流路連通溝117は、第一シート10で説明した蒸気流路連通溝17と同様に考えることができる。
【0172】
本形態では第一シート110は、液流路溝114a(外周液流路部114)、液流路溝115a(内側液流路部115)、及び蒸気流路溝116において、これらが延びる方向が変化する部位である湾曲部118cを備えている。すなわち、第一シート110は、液流路溝114a(外周液流路部114)、液流路溝115a(内側液流路部115)、及び蒸気流路溝116がx方向に直線状に延びる直線部118a、液流路溝114a(外周液流路部114)、液流路溝115a(内側液流路部115)、及び蒸気流路溝116がy方向に直線状に延びる直線部118b、並びに、直線部118a及び直線部118bにおける液流路溝114a(外周液流路部114)、液流路溝115a(内側液流路部115)、及び蒸気流路溝116を連結する湾曲部118cを備える。従って湾曲部118cは、その一端が一方の直線部118aに接続され、他端が他方の直線部118bに接続され、x方向からy方向へ、及び、y方向からx方向へ流れが向きを変えるように液流路溝114a(外周液流路部114)、液流路溝115a(内側液流路部115)、及び蒸気流路溝116が湾曲している。
ここで直線部と湾曲部との境界は、各溝において流れの方向が変化し始める点を境界とすればよい。以下、同様に考えることができる。
【0173】
本形態では、湾曲部118cにおいて、複数の蒸気流路溝116の幅を考えたとき、湾曲の半径が小さい内側ほど大きく、湾曲の半径が大きい外側ほど小さくなるように構成されている。これによれば、湾曲部における流動抵抗のバランスを高めることができ、作動流体の移動がより円滑となって熱輸送能力を高めることができる。
そのための具体的な形態は特に限定されることはないが、例えば
図37、
図38、
図39、
図40に示した形態を挙げることができる。
【0174】
図37乃至
図40では、1つの蒸気流路溝116に注目して説明する図である。これらの図に表した符号の意味は次の通りである。
・蒸気流路溝116は湾曲部118cにおいて、湾曲の内側壁w
inは湾曲の半径がr
inであり、その中心がO
1の円弧状である。
・蒸気流路溝116は湾曲部118cにおいて、湾曲の外側壁w
outは湾曲の半径がr
outであり、後で説明するように形態によってその中心がO
1、O
2、O
3又はO
4の円弧状である。
・湾曲部118cに属する複数の蒸気流路溝116のうち最も幅が狭い蒸気流路溝の幅がαであるところ、他の蒸気流路溝116の幅がβに広げられている(α<β)。すなわち、本形態では湾曲部118cに属する複数の蒸気流路116のうち最も外側に配置される蒸気流路溝116の幅がαである。
・点線で示した曲線は、蒸気流路溝116の幅がαの場合の仮想線であり、このときの湾曲の半径はr
cであり、その中心がO
1の円弧状である。
・湾曲の半径は、湾曲部において壁(内側壁、外側壁)の向きが変化し始めた2点、及び、この2点の中央における1点の合計3点を通る円を考え、この円の半径を湾曲の半径とすることができる。また、湾曲を円や楕円の一部であると見なしたとき、
図37乃至
図40に示したように、湾曲に対して円、楕円の中心側(すなわちO
1、O
2、O
3、O
4側)を湾曲部の「内側」、湾曲に対して円、楕円の中心側とは反対側を湾曲の「外側」とする。また、湾曲の形状は正円の一部のような形状であることに限らず、楕円の一部のような形状でもよく、湾曲部において配置される複数の蒸気流路溝のうち一部が直線であるような形状であってもよい。以下湾曲部に関する形状は同様に考えることができる。
【0175】
図37の例は、湾曲部118cにおいて、蒸気流路溝116の外側壁w
outの湾曲の半径r
outが湾曲の半径r
cよりも大きい(r
out>r
c)とともに、その中心がO
1である。この形態例では、湾曲部118cに属する蒸気流路溝116においては、内側に配置される蒸気流路溝116ほどr
outが大きくなるようにすればよい。これにより溝幅βも内側に配置される蒸気流路溝116ほど大きくなる。
【0176】
図38の例は、湾曲部118cにおいて、蒸気流路溝116の外側壁w
outの湾曲の半径r
outが湾曲の半径r
cと同じ(r
out=r
c)であるが、その中心がO
1よりも蒸気流路溝116側にずれたO
2にある。この形態例では、湾曲部118cに属する蒸気流路溝116においては、内側に配置される蒸気流路溝116の外壁w
outの中心(O
2)が蒸気流路溝116に近づくようにすればよい。これにより溝幅βも内側に配置される蒸気流路溝116ほど大きくなる。
【0177】
図39の例は、湾曲部118cにおいて、蒸気流路溝116の外側壁w
outの湾曲の半径r
outが湾曲の半径r
in及び湾曲の半径r
cよりも小さく(r
out<r
in<r
c)、その中心がO
1よりも蒸気流路溝116側にずれたO
3にある。この形態例では、湾曲部118cに属する蒸気流路溝116においては、r
outの大きさ及びO
3の位置の両方により、内側に配置される蒸気流路溝116ほど幅βが大きくなるようにすればよい。
【0178】
図40の例は、湾曲部118cにおいて、蒸気流路溝116の外側壁w
outの湾曲の半径r
outと内側壁w
inの湾曲の半径r
inとが同じであり、当該r
outの中心O
4が、r
inの中心O
1よりも蒸気流路溝116側にずれた側にある。この形態例では、湾曲部118cに属する蒸気流路溝116においては、O
4の位置により、内側に配置される蒸気流路溝116ほど幅βが大きくなるようにすればよい。
【0179】
なお、
図37及び
図38の例では、外側壁w
outにおいて、直線状の部分と円弧部分とが1つの屈折部により接続されている。これに限らず、この1つの屈折部を小さな多数の屈折部としたり、曲線としたりすることで、徐々に滑らかに向きが変わるように接続するように構成してもよい。
【0180】
内側の蒸気流路溝ほど幅が広くなる程度は特に限定されることはないが、外側に配置された隣の溝に対して3%乃至20%程度幅が広いことが好ましい。この割合は複数の溝で一定であったり、規則的であったりする必要はなく適宜設定することができる。
【0181】
直線部118bにおける蒸気流路溝116の幅に対する湾曲部118cにおける蒸気流路溝116の幅は特に限定されることはないが、直線部118a、直線部118bに比べて10%以上100%以下の範囲で幅が大きくしてもよい。この範囲とすることにより直線部118bの流動抵抗と湾曲部118cの流動抵抗とのバランスをよくすることができる。
【0182】
また、上記では蒸気流路溝の幅に注目して形態を説明したが、その代わり、又は、それに加えて湾曲部118cにおける蒸気流路溝116の深さを変えてもよい。すなわち、湾曲部118cに属する複数の蒸気流路溝116において、外側に配置された蒸気流路溝116が最も浅く、内側に配置される蒸気流路溝116ほど深くなるように構成してもよい。深さ方向(z方向)を変更することによる形態では、平面方向(xy方向)に広がることが抑制されるため、凝縮液流路を配置する部位を多く確保して熱輸送能力の向上が図れたり、外周接合部を広く取ることができて耐圧の信頼性の向上が図れたりする。
【0183】
すなわち、湾曲部118cにおける蒸気流路溝116の幅を上記のように溝ごとに異なるように構成することで、第一シート110と第二シート120とを組み合わせたときに湾曲部において、内側に配置される蒸気流路の幅を、外側に配置される蒸気流路の幅よりも大きくすることができる。これにより、湾曲部において、内側に配置される蒸気流路の流路断面積を、外側に配置される蒸気流路の流路断面積よりも大きくすることができる。
一方、湾曲部118cにおける蒸気流路溝116の深さを溝ごとに異なるように構成することで、第一シート110と第二シート120とを組み合わせたときに湾曲部において、内側に配置される蒸気流路の高さを、外側に配置される蒸気流路の高さよりも大きくすることができる。これにより、湾曲部において、内側に配置される蒸気流路の流路断面積を、外側に配置される蒸気流路の流路断面積よりも大きくすることができる。
【0184】
また、湾曲部118cでは、液流路溝114a及び液流路溝115aと蒸気流路溝116とを仕切る壁114b及び壁115bに設けられた連通開口部114c及び連通開口部開口部115c(
図34、
図36参照)について、そのピッチを他の部位(直線部118a、直線部118b)と異なるように構成することができる。これは湾曲部における連通開口部のピッチを直線部における湾曲部のピッチよりも大きくしてもよいし、小さくしてもよい。いずれの形態とするかは、ベーパーチャンバの全体形状、熱源の位置等の影響を考慮し、流動抵抗を下げることができる形態を総合的に判断して採用することができる。または、この湾曲部118cについては、液流路溝114a及び液流路溝115aと蒸気流路溝116とを仕切る壁114b及び壁115bに設けられた連通開口部114c及び連通開口部115cを設けなくてもよい。
【0185】
湾曲部の連通開口部のピッチを直線部の連通開口部のピッチよりも大きくした形態では、蒸気流路溝116(蒸気流路104)を流れる作動流体が湾曲部118cで連通開口部114c、連通開口部115cへ進入することを抑制することができる。湾曲部118cでは蒸気流路溝116(蒸気流路104)を移動する作動流体がその流れ方向により直接的に連通開口部114c、連通開口部115cに流れ込もうとする力が働くため、蒸気が凝縮液流路103に入り込むことや、連通開口部114c、連通開口部115cの凹凸で流動抵抗が高くなる傾向にある。これに対して、湾曲部118cで蒸気流路溝116に接する連通開口部114c、連通開口部115cのピッチを大きくしたり、蒸気流路溝116に接する連通開口部114c、連通開口部115cをなくしたりすることでこのような流動抵抗の上昇を抑えることができ、蒸気流路溝116(蒸気流路104)ごとの流動抵抗の差をさらに小さくし、作動流体の移動のバランスを向上させ、熱輸送能力を高めることができる場合がある。
【0186】
一方、湾曲部の連通開口部のピッチを直線部の連通開口部のピッチよりも小さくした形態では、湾曲部では蒸気流路溝(蒸気流路)を流れる蒸気が壁面に強く当たる機会が増えるため、凝縮し易い傾向にある。このとき湾曲部の連通開口部のピッチを直線部の連通開口部のピッチよりも小さくした形態とすることで、連通開口部の数を増やし、凝縮液を円滑に液流路溝(凝縮液流路)に導入させることができ、蒸気流路が凝縮液で閉鎖されることを抑制することが可能となる。これにより流動抵抗の上昇を抑えることができ、蒸気流路溝(蒸気流路)ごとの流動抵抗の差をさらに小さくし、作動流体の移動のバランスを向上させ、熱輸送能力を高めることができる場合がある。
【0187】
また、上記ピッチの大きさの代わりに、湾曲部において、隣り合う連通開口部の間である壁の長さ(流路に沿った方向の大きさ)が、直線部における壁の長さに対して大きくなるように構成してもよいし、小さくなるように構成してもよい。このとき、湾曲部に属する壁の長さは一定である必要はなく、壁ごとに異なっていてもよい。この場合に、湾曲部の壁の長さと直線部の壁の長さとの大小関係は、それぞれの部位に属する壁の長さの平均値同士の関係によるものとする。
【0188】
次に第二シート120について説明する。本形態で第二シート120も全体としてシート状の部材であり、平面視でL字型に湾曲している。
図41には第二シート120を内面120a側から見た斜視図、
図42には第二シート120を内面120a側から見た平面図をそれぞれ表した。また、
図43には
図42にI
107-I
107で切断したときの第二シート120の切断面を示した。また、
図44には
図42にI
108-I
108で切断したときの第二シート120の切断面を示した。
第二シート120は、内面120a、該内面120aとは反対側となる外面120b及び内面120aと外面120bとを渡して厚さを形成する側面120cを備え、内面120a側に作動流体が移動するパターンが形成されている。後述するようにこの第二シート120の内面120aと上記した第一シート110の内面110aとが対向するようにして重ね合わされて接合されることで中空部となり、ここに作動流体が封入されて密閉空間102が形成される。
【0189】
第二シート120の厚さは特に限定されることはないが上記した第二シート20と同様に考えることができる。
【0190】
第二シート120は本体121及び注入部122を備えている。本体121は作動流体が移動する部位を形成するシート状であり、本形態では平面視で湾曲する部位を有するL字型である。
注入部122は第一シート110と第二シート120とにより形成された中空部に対して作動流体を注入する部位であり、本形態では本体121の平面視L字型から突出する平面視四角形のシート状である。本形態では第二シート120の注入部122には内面120a側に注入溝122aが形成されており、第二シート120の側面120cから本体121の内側(中空部、密閉空間102となるべき部位)に連通している。
【0191】
本体121の内面120a側には、作動流体が移動するための構造が形成されている。具体的には、本体121の内面120a側には、外周接合部123、外周液流路部124、内側液流路部125、蒸気流路溝126、及び、蒸気流路連通溝127が具備されている。
【0192】
外周接合部123は、本体121の内面120a側に、該本体121の外周に沿って形成された面である。この外周接合部123が第一シート110の外周接合部113に重なって接合(拡散接合やろう付け等)されることにより、第一シート110と第二シート120との間に中空部を形成し、ここに作動流体が封入されて密閉空間102となる。
外周接合部123の幅は上記した第一シート110の本体111の外周接合部113の幅と同じであることが好ましい。
【0193】
外周液流路部124は、液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に通る流路である凝縮液流路103(例えば
図46参照)の一部を構成する部位である。
【0194】
外周液流路部124は本体121の内面120aのうち、外周接合部123の内側に沿って形成され、密閉空間102の外周に沿って環状を成すように形成されている。本形態において第二シート120の外周液流路部124は、
図43、
図44からわかるように第一シート110との接合前において平坦面であり外周接合部123と面一である。これにより上記した第一シート110の複数の液流路溝114aのうち少なくとも一部の液流路溝114aの開口を閉鎖して凝縮液流路103を形成する。第一シート110と第二シート120との組み合わせに関する詳しい態様は後で説明する。
なお、このように第二シート120では外周接合部123と外周液流路部124とが面一であるため、構造的には両者を区別する境界線は存在しない。しかし、わかり易さのため、
図41、
図42では点線により両者の境界を表している。
【0195】
外周液流路部124の幅は特に限定されることはなく、第一シート110の外周液流路部114の幅と同じでもよいし、異なってもよい。
外周液流路部124の幅を外周液流路部113の幅より小さくした場合、外周液流路部114のうち少なくとも一部において、液流路溝114aの開口が外周液流路部124により閉鎖されずに開口し、ここから凝縮液が入りやすく、また、蒸気が出やすいため、より円滑な作動流体の移動をさせることができる。
【0196】
本形態では第二シート120の外周液流路部124は平坦面からなるように構成されているが、これに限らず、外周液流路部114と同様に液流路溝が設けられてもよい。このときには第一シートの液流路溝と第二シートの液流路溝とが重ね合わされることで凝縮液流路103とすることができる。
【0197】
また、本形態では第一シートでも説明したように、外周液流路部124は必ずしも設けられる必要はなく、外周液流路部124が設けられていない形態であってもよい。
【0198】
次に内側液流路部125について説明する。内側液流路部125も液流路部であり、凝縮液流路103を構成する1つの部位である。
【0199】
内側液流路部125は、
図41乃至
図44よりわかるように、本体121の内面120aのうち、外周液流路部124の環状である環の内側に形成されている。本形態の内側液流路部125は、湾曲部を有して延びる凸条であり、複数(本形態では5つ)の内側液流路部125が延びる方向とは異なる方向に間隔を有して配列され、蒸気流路溝126の間に配置されている。
本形態で各内側液流路部125は、その内面120a側の表面が第一シート110との接合前において平坦面となるように形成されている。これにより上記した第一シート110の複数の液流路溝115aのうち少なくとも一部の液流路溝115aの開口を閉鎖して凝縮液流路103を形成する。
なお、本形態のように内側液流路部125に凝縮液流路103を形成するための溝が形成されていない場合、第二シート120の厚さは、第一シート110の厚さから液流路溝115aの深さを引いた厚さ以上であることが好ましい。これにより、ベーパーチャンバにおける第二シート側における破断(破れ)を防止することができる。
【0200】
本形態では第二シート120の内側液流路部125は平坦面からなるように構成されているが、これに限らず、内側外周液流路部115と同様に液流路溝が設けられてもよい。このときには第一シートの液流路溝と第二シートの液流路溝とが重ね合わされることで凝縮液流路103とすることができる。
【0201】
内側液流路部125の幅は特に限定されることはなく、第一シート110の内側液流路部115の幅と同じでもよいし、異なっていてもよい。本形態では内側液流路部125の幅と内側液流路部115の幅とは同じである。
内側液流路部125の幅と内側液流路部115の幅とが異なっていると接合時の位置ズレの影響を小さくすることができる。なお、内側液流路部125の幅を内側液流路部115の幅より小さくした場合には、内側液流路部115のうち少なくとも一部において、液流路溝115aの開口が内側液流路部125により閉鎖されずに開口し、ここから凝縮液が入りやすく、また、発生した蒸気が出やすいため、より円滑に作動流体を移動させることができる。
【0202】
次に蒸気流路溝126について説明する。蒸気流路溝126は、蒸気状及び凝縮液状の作動流体が移動する部位であり、蒸気流路104の一部を構成する。
図42には平面視した蒸気流路溝126の形状、
図43には蒸気流路溝126の断面形状がそれぞれ表れている。
【0203】
これらの図からもわかるように、蒸気流路溝126は本体121の内面120aのうち、環状である外周液流路部124の環の内側に形成された湾曲部を有する溝により構成されている。詳しくは本形態の蒸気流路溝126は、隣り合う内側液流路部125の間、及び、外周液流路部124と内側液流路部125との間に形成された溝である。そして、複数(本形態では6つ)の蒸気流路溝126が、蒸気流路溝126が延びる方向とは異なる方向に配列されている。従って、
図43からわかるように第二シート120は、内側液流路部125を凸とする凸条が形成され、蒸気流路溝126を凹とする凹条が形成されて、これらの凹凸が繰り返された形状を備えている。
ここで蒸気流路溝126は溝であることから、その断面形状において、底部と、該底部に向かい合う反対側の部位に存する開口と、を備えている。
【0204】
蒸気流路溝126は、第一シート110と組み合わされた際に該第一シート110の蒸気流路溝116と厚さ方向に重なる位置に配置されていることが好ましい。これにより蒸気流路溝116と蒸気流路溝126とで蒸気流路104を形成することができる。
蒸気流路溝126の幅は特に限定されることはなく、第一シート110の蒸気流路溝116の幅と同じでもよいし、異なっていてもよい。本形態では蒸気流路溝116の幅と蒸気流路溝の幅とは同じである。
蒸気流路溝126の幅と蒸気流路溝116の幅とが異なっていると、接合時の位置ズレの影響を小さくすることができる。なお、蒸気流路溝126の幅を蒸気流路溝116の幅より大きくした場合には、内側液流路部115のうち少なくとも一部において、液流路溝115aの開口が内側液流路部125により閉鎖されずに開口し、ここから凝縮液が入りやすく、蒸気が出やすいため、より円滑な作動流体の移動をさせることができる。
一方、蒸気流路溝126の深さは、上記した第二シート20の蒸気流路溝26と同様に考えることができる。
【0205】
ここで蒸気流路溝126は、後で説明するように第一シート110と組み合わされて蒸気流路104が形成されたときに、蒸気流路104の幅が高さ(厚さ方向大きさ)よりも大きい扁平形状となるように構成されていることが好ましい。そのため、蒸気流路溝126の深さを蒸気流路溝126の幅で除した値で示されるアスペクト比は好ましくは4.0以上、より好ましくは8.0以上である。
【0206】
本形態で蒸気流路溝126の断面形状は半楕円形であるが、正方形、長方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が半円形、底部が半楕円形等であってもよい。
【0207】
蒸気流路連通溝127は、第一シート110の蒸気流路連通溝117と組み合わされて、蒸気流路溝126による複数の蒸気流路104の端部を連通する流路を形成する溝である。蒸気流路連通溝127は上記した第二シート20の蒸気流路連通溝27と同様に考えることができる。
【0208】
本形態では第二シート120は、外周液流路部124、内側液流路部125、及び蒸気流路溝126において、これらが延びる方向が変化する部位である湾曲部128cを備えている。すなわち、
図42からわかるように、第二シート120は、外周液流路部124、内側液流路部125、及び蒸気流路溝126がx方向に直線状に延びる直線部128a、外周液流路部124、内側液流路部125、及び蒸気流路溝126がy方向に直線状に延びる直線部128b、及び、直線部128a及び直線部128bにおける外周液流路部124、内側液流路部125、及び蒸気流路溝126を連結する湾曲部128cを備える。従って湾曲部128cは、その一端が一方の直線部128aに接続され、他端が他方の直線部128bに接続され、x方向からy方向へ、及び、y方向からx方向へ流れが向きを変えるように外周液流路部124、内側液流路部125、及び蒸気流路溝126が湾曲している。
【0209】
そして、本形態の湾曲部128cでは、外周液流路部124、内側液流路部125、及び蒸気流路溝126の態様は、上記した第一シート110の湾曲部118cと同様に考えることができる。
【0210】
次に、第一シート110と第二シート120とが組み合わされてベーパーチャンバ101とされたときの構造について説明する。この説明により、第一シート110及び第二シート120が有する各構成の配置、大きさ、形状等がさらに理解される。
図45には、
図27にI
109-I
109で示したy方向に沿ってベーパーチャンバ101を厚さ方向に切断した切断面を表した。この図は第一シート110における
図31に表した図と、第二シート120における
図43に表した図とが組み合わされてこの部位におけるベーパーチャンバ101の切断面が表されたものである。
図46には
図45にI
110で示した部位を拡大した図を表した。
図47には、
図27にI
111-I
111で示したx方向に沿ってベーパーチャンバ101の厚さ方向に切断した切断面を表した。この図は、第一シート110における
図33に表した図と、第二シート120における
図44に表した図とが組み合わされてこの部位におけるベーパーチャンバ101の切断面が表されたものである。
【0211】
図27、
図28、及び
図45乃至
図47よりわかるように、第一シート110と第二シート120とが重ねられるように配置され接合されることでベーパーチャンバ101とされている。このとき第一シート110の内面110aと第二シート120の内面120aとが向かい合うように配置されており、第一シート110の本体111と第二シート120の本体121とが重なり、第一シート110の注入部112と第二シート120の注入部122とが重なっている。
【0212】
このような第一シート110と第二シート120との積層体により、本体111及び本体121に具備される各構成が
図45乃至
図47に表れるように配置される。具体的には次の通りである。
【0213】
本形態のベーパーチャンバ101は、薄型である場合に特にその効果が大きい。かかる観点から
図27、
図45にL
100で示したベーパーチャンバ101の厚さは1mm以下、より好ましくは0.4mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下である。0.4mm以下とすることにより、ベーパーチャンバ101を設置する電子機器において、ベーパーチャンバを配置するスペースを形成するための加工(例えば溝形成等)をすることなく電子機器内部にベーパーチャンバを設置できることが多くなる。そして本形態によれば、このような薄いベーパーチャンバであっても熱的な性能を維持しつつ強度が高く変形に対して強いものとなる。
【0214】
一方、第一シート110の外周接合部113と第二シート120の外周接合部123とが重なるように配置されており、拡散接合やろう付け等の接合手段により両者が接合され、作動流体が封入されている。これにより、第一シート110と第二シート120との間に密閉空間102が形成されている。
【0215】
また、第一シート110の外周液流路部114と第二シート120の外周液流路部124とが重なるように配置されている。これにより外周液流路部114の液流路溝114a及び外周液流路部124により作動流体が凝縮して液化した状態である凝縮液が流れる凝縮液流路103が形成される。
同様に、第一シート110の凸条である内側液流路部115と第二シート120の凸条である内側液流路部125とが重なるように配置されている。これにより内側液流路部115の液流路溝115a及び内側液流路部125により凝縮液が流れる凝縮液流路103が形成される。
【0216】
ここで、凝縮液流路103はベーパーチャンバ101の薄型化に伴い、その断面形状が扁平形状とされていることが好ましい。これにより毛細管力を高めることができ、凝縮液の移動をさらに円滑に行うことができるため、熱輸送能力を高い水準に維持することが可能となる。より具体的には凝縮液流路103の幅を高さで除した値で表されるアスペクト比が1.0より大きく4.0以下であることが好ましい。
このとき、凝縮液流路103の幅は、本形態では液流路溝115aの幅に準じるが、10μm以上300μm以下であることが好ましい。幅が10μmより小さくなると流路抵抗が大きくなり輸送能力が低下する虞がある。一方、幅が300μmより大きくなると毛細管力が小さくなるため輸送能力が低下する虞がある。
また、凝縮液流路103の高さは、本形態において液流路溝115aの深さに準じるが5μm以上200μm以下であることが好ましい。これにより移動に必要な凝縮液流路の毛細管力を十分に発揮することができる。なお、この高さは、凝縮液流路103を挟んで厚さ方向(z方向)一方側及び他方側における第一シート110及び第二シート120の厚さ(肉厚)以下であることが好ましい。これにより凝縮液流路103に起因するベーパーチャンバの破断(破れ)をさらに防止することができる。
【0217】
凝縮液流路103の断面形状は液流路溝114a及び液流路溝115aの断面形状により、半楕円形であるが、これに限らず正方形、長方形、台形等の四角形、三角形、半円形、底部が半円形、底部が半楕円形及びこれらも組み合わせ等であってもよい。また、三日月形状のようにすることもできる。
【0218】
なお、本形態では液流路溝114a、液流路溝115aは第一シート110にのみ設けられているため、凝縮液流路の高さは液流路溝114a、液流路溝115aの深さに基づくものとなるが、これに限らず第二シート120にも液流路溝が設けられてもよい。この場合には第一シートの液流路溝と第二シートの液流路溝とが重なることで凝縮液流路が形成され、両方の液流路溝の深さの合計に準じた凝縮液流路の高さとなる。
【0219】
このように第一シート及び第二シートに液流路溝を設けてこれを重ねることで凝縮液流路とした場合、
図48乃至
図50のように凝縮液流路を構成することができる。
図48の例は、第一シート及び第二シートの液流路溝が同じ幅、同じ位置に配置されている例である。
図49の例は、第二シートにおける液流路溝の幅が第一シートにおける液流路溝の幅よりも大きくされ位置は一致する例である。この例では凝縮液流路内にPで示したように凸部ができ、毛細管力を向上させ、凝縮液が移動する力(凝縮液の供給力)を高めることができる。
図51の例は、第一シート及び第二シートの液流路溝が同じ幅であるが、位置がずれされて配置された例である。この例でも凝縮液流路内にPで示したように凸部ができ、毛細管力を向上させ、凝縮液が移動する力(凝縮液の供給力)を高めることができる。
【0220】
また、上記したように凝縮液流路103には連通開口部114c、及び連通開口部115cが形成されている。これにより複数の凝縮液流路103が連通し、凝縮液の均等化が図られて効率よく凝縮液の移動が行われる。また、蒸気流路104に隣接し、蒸気流路104と凝縮液流路103を連通する連通開口部114c、連通開口部115cについては、蒸気流路104で生じた凝縮液を円滑に凝縮液流路103に移動させ、及び、凝縮液流路103で発生した蒸気を円滑に蒸気流路104に移動させ、作動流体の移動を速やかに行わせることができる。
【0221】
また、外周液流路部114、外周液流路部124により形成される凝縮液流路103は、密閉空間102内の縁に沿って連続して環状に形成されていることが好ましい。すなわち、外周液流路部114、外周液流路部124により形成される凝縮液流路103は、他の構成要素によって寸断されることなく1周に亘って環状となって延びていることが好ましい。これにより凝縮液の移動を阻害する要因を減らせることができ、円滑に凝縮液を移動させることができる。
【0222】
本形態では、ここまで説明したように、シートに凝縮液流路溝を設けてこれにより流路を形成することで凝縮液流路としたが、その代わりに毛細管力を生じる手段を別途ここに配置して凝縮液流路としてもよい。そのために例えば、メッシュ(網状)材料、不織布、より線、及び金属粉の焼結体などのような、いわゆるウィックと呼ばれるものを配置することもできる。
【0223】
第一シート110の蒸気流路溝116の開口と第二シート120の蒸気流路溝126の開口とが向かい合うように重なって流路を形成しこれが蒸気流路104となる。
ここで、蒸気流路104はベーパーチャンバ101の薄型化に伴い、その断面形状が扁平形状とされていることが好ましい。これにより薄型化されても流路内の表面積を確保することが可能とされ、熱輸送能力を高い水準に維持することが可能となる。より具体的には、蒸気流路104の幅を蒸気流路104の高さで除した値で表されるアスペクト比が2.0以上であることが好ましい。さらに高い熱輸送能力を確保する観点から、当該比は4.0以上がさらに好ましい。
【0224】
図47からわかるように、第一シート110の蒸気流路連通溝117の開口と第二シート120の蒸気流路連通溝127の開口とが向かい合うように重なり流路を形成して、蒸気流路溝116、及び、蒸気流路溝126により形成される複数の蒸気流路104をその端部を連通させ、作動流体の移動をバランスよく行うための流路になる。
【0225】
以上のようにベーパーチャンバ101の密閉空間102には、第一シート110及び第二シート120が有する形状により、凝縮液流路103及び蒸気流路104が形成される。
図51には密閉空間102に形成された凝縮液流路103及び蒸気流路に注目した図を表した。
図46、
図51等からわかるように、ベーパーチャンバ101は、2つの蒸気流路104の間に、複数の凝縮液流路103が配置されてなる形状を具備する。これにより凝縮液が主要に流れるべき凝縮液流路103と、蒸気及び凝縮液が移動する蒸気流路104とが分離して交互に並ぶような形態となり、作動流体の円滑な移動が助けられる。
【0226】
蒸気流路104及び凝縮液流路103により、蒸気流路104では蒸気及び凝縮液の状態である作動流体が移動して効率よく熱の移動及び拡散が行われる。一方、当該蒸気流路104とは分離して設けられた凝縮液流路103により毛細管力で凝縮液が効率よく移動するため、ドライアウトの発生を抑制することが可能となる。
【0227】
また、ベーパーチャンバ101では、凝縮液流路103及び蒸気流路104が延びる方向が異なる2つの直線部106が湾曲部107によって連結された態様となる。このような流路を形成することにより、ベーパーチャンバを電子機器に配置する際に、その配置に関する制約を受け、一直線状のみによる流路を形成することができないときであっても、湾曲部107を設けることで熱源から発生した熱を効率的に離隔した位置にまで移動させることができる。
【0228】
この湾曲部107は第一シート110の湾曲部118c及び第二シート120の湾曲部128cにより形成される。従って、湾曲部107は、その一端が一方の直線部106に接続され、他端が他方の直線部106に接続され、x方向からy方向へ、及び、y方向からx方向へ流れが向きを変えるように凝縮液流路103及び蒸気流路104が湾曲している。
【0229】
そして本形態では、湾曲部107に属する蒸気流路104の流路断面積について、内側に配置される蒸気流路104の方が外側に配置される蒸気流路104の流路断面積よりも大きくなるように構成されている。これによれば、湾曲部における流動抵抗のバランスを高めることができ、作動流体の移動がより円滑となって熱輸送能力を高めることができる。具体的には流路の幅及び高さの少なくとも一方の大きさを調整することで蒸気流路の流路断面積を調整することができる。
ここで「流路断面積」は、流路が延びる方向に直交する面における流路の断面積である。
【0230】
このように湾曲部107において蒸気流路104の流路断面積(本形態では幅)を大きくする手段、程度、及び考え方は、上記した第一シート110の湾曲部118cにおいて説明したことと同様である。
【0231】
また、湾曲部107では、凝縮液流路103と蒸気流路104とを仕切る壁114b及び壁115bに設けられた連通開口部114c及び連通開口部115c(
図34、
図36参照)について、そのピッチを直線部106と異なるように構成することができる。これは湾曲部における連通開口部のピッチを直線部における湾曲部のピッチよりも大きくしてもよいし、小さくしてもよい。いずれかの形態とするかは、ベーパーチャンバの全体形状、熱源の位置等の影響を考慮し、流動抵抗を下げることができる形態を総合的に判断して採用することができる。または、この湾曲部107については、凝縮液流路103と蒸気流路104とを仕切る壁114b及び壁115bに連通開口部114c及び連通開口部115cを設けなくてもよい。
湾曲部の連通開口部のピッチを直線部の連通開口部のピッチよりも大きくした形態では、蒸気流路104を流れる作動流体が湾曲部107で連通開口部114c、連通開口部115cへ進入することを抑制することができる。湾曲部107では蒸気流路104を移動する作動流体がその流れ方向により直接的に連通開口部114c、連通開口部115cに流れ込もうする力が働くため、蒸気が凝縮液流路103に入り込むことや、連通開口部114c、連通開口部115cの凹凸で流動抵抗が高くなる傾向にある。これに対して、湾曲部107で蒸気流路104に接する連通開口部114c、連通開口部115cのピッチを大きくしたり、蒸気流路104に接する連通開口部114c、連通開口部115cをなくしたりすることでこのような流動抵抗の上昇を抑えることができ、蒸気流路104ごとの流動抵抗の差をさらに小さくし、作動流体の移動のバランスを向上させ、熱輸送能力を高めることができることがある。
一方、湾曲部の連通開口部のピッチを直線部の連通開口部のピッチよりも小さくした形態では、湾曲部では蒸気流路溝(蒸気流路)を流れる蒸気が壁面に強く当たる機会が増えるため、凝縮し易い傾向にある。このとき湾曲部の連通開口部のピッチを直線部の連通開口部のピッチよりも小さくした形態することで、連通開口部の数を増やし、凝縮液を円滑に液流路溝(凝縮液流路)に導入させることができ、蒸気流路が凝縮液で閉鎖されることを抑制することが可能となる。これにより流動抵抗の上昇を抑えることができ、蒸気流路溝(蒸気流路)ごとの流動抵抗の差をさらに小さくし、作動流体の移動のバランスを向上させ、熱輸送能力を高めることができる場合がある。
【0232】
また、上記ピッチの大きさの代わりに、湾曲部において、隣り合う連通開口部の間である壁の長さ(流路に沿った方向の大きさ)が、直線部における壁の長さに対して大きくなるように構成してもよいし、小さくなるように構成してもよい。このとき、湾曲部に属する壁の長さは一定である必要はなく、壁ごとに異なっていてもよい。この場合に、湾曲部の壁の長さと直線部の壁の長さとの大小関係は、それぞれの部位に属する壁の長さの平均値同士の関係によるものとする。
【0233】
一方、注入部112、注入部122についても
図27、
図28に表れているように、その内面110a、内面120a同士が向かい合うように重なり、第二シート120の注入溝122aの底部とは反対側の開口が第一シート110の注入部112の内面110aにより塞がれ、外部と本体111、本体121間の中空部(凝縮液流路103及び蒸気流路104)とを連通する注入流路105が形成されている。
ただし、注入流路105から密閉空間102に対して作動流体を注入した後は、注入流路105は閉鎖されるので、最終的な形態のベーパーチャンバ101では外部と密閉空間102とは連通していない。
【0234】
そしてベーパーチャンバ101の密閉空間102には、作動流体が封入されている。作動流体の種類は特に限定されることはないが、純水、エタノール、メタノール、アセトン等、通常のベーパーチャンバに用いられる作動流体を用いることができる。
【0235】
以上のようなベーパーチャンバ101は上記したベーパーチャンバ1と同様に作製することができる。
【0236】
次にベーパーチャンバ101が作動したときの作用について説明する。ベーパーチャンバ101が電子機器に取り付けられる態様は
図23により説明した態様と同じように考えることができる。
【0237】
図52には作動流体の挙動を説明する図を表した。説明のし易さのため、この図は
図51と同じ視点による図で、密閉空間102内に形成された凝縮液流路103及び蒸気流路104に注目した図である。
電子部品30が発熱すると、その熱が第一シート110内を熱伝導により伝わり、密閉空間102内における電子部品30に近い位置に存在する凝縮液が熱を受ける。この熱を受けた凝縮液は熱を吸収し蒸発し気化する。これにより電子部品30が冷却される。
【0238】
気化した作動流体は蒸気となって、蒸気流路104を移動する。気化した作動流体の移動は、
図52に実線の直線矢印で示したように蒸気流路104内を振動するように移動する場合や、図示はしていないが振動することなく熱源である電子部品30から離隔する一方向に移動する場合もある。
このとき、蒸気流路104には湾曲部107の湾曲した部位が含まれているが、湾曲部107が上記構成を備えているので、湾曲部107でも流動抵抗のバランスが良くされているため、作動流体が円滑に蒸気流路104を移動する。これにより高い熱輸送能力を発揮することができる。
そして作動流体の当該移動の際に、作動流体は順次第一シート110及び第二シート120に熱を奪われながら冷却される。蒸気から熱を奪った第一シート110及び第二シート120はその外面110b、外面120bに接触した携帯型端末装置の筐体等に熱を伝え、最終的に熱は外気に放出される。そして、蒸気流路104を移動しつつ熱を奪われた作動流体は凝縮して液化する。
【0239】
蒸気流路104に生じた凝縮液の一部は、連通開口部等から凝縮液流路103に移動する。本形態の凝縮液流路103は連通開口部114c、連通開口部115cを備えているので、凝縮液はこの連通開口部114c、連通開口部115cを通って複数の凝縮液流路103に分配される。
【0240】
凝縮液流路103に入った凝縮液は、凝縮液流路による毛細管力により、
図52に点線の直線矢印で表したように熱源である電子部品30に近づくように移動する。そして再度熱源である電子部品30からの熱により気化して上記過程を繰り返す。
【0241】
以上のように、ベーパーチャンバ101によれば、蒸気流路の作動流体の移動、及び、凝縮液流路における高い毛細管力で、作動流体の移動が円滑で良好になり、熱輸送能力を高めることができる。
また、ベーパーチャンバ101では湾曲部107を有する流路を形成することにより、ベーパーチャンバを電子機器に配置する際に、その配置に関する制約を受け、一直線状のみによる流路を形成することができないときであっても、熱源から発生した熱を効率的に離隔した位置にまで移動させることができる。
そして、当該湾曲部107では上記のように複数の蒸気流路104で流動抵抗の差が小さくなる構成とされているので、バランスよく作動流体を移動させることができ、熱輸送能力を高めることができる。
【0242】
図53乃至
図61は、変形例にかかるベーパーチャンバ201を説明する図である。
図53はベーパーチャンバ201の外観斜視図、
図54はベーパーチャンバ201の分解斜視図である。
【0243】
ベーパーチャンバ201は、
図53、
図54からわかるように第一シート210、第二シート220、及び、第三シート230を有している。そして、この第一シート210、第二シート220、及び、第三シート230が重ねられて接合(拡散接合、ろう付け等)されていることにより、第一シート210と第二シート220との間で、第一シート210、第二シート220、及び第三シート230に囲まれる中空部が形成され、この中空部に作動流体が封入されて密閉空間202となる。
【0244】
本形態で第一シート210は全体としてシート状の部材である。第一シート210は表裏とも平坦な面により構成されており、内面210a、該内面210aとは反対側となる外面210b、及び、内面210aと外面210bとを渡して厚さを形成する側面210cを備える。
【0245】
第一シート210は本体211及び注入部212を備えている。本体211は作動流体が移動する密閉空間を形成するシート状の部位であり、本形態では平面視で角が円弧(いわゆるR)にされた長方形である。
注入部212は第一シート210、第二シート220、及び、第三シート230により形成された密閉空間に対して作動流体を注入する部位であり、本形態では本体211の平面視L字型から突出する平面視四角形のシート状である。本形態では第一シート210の注入部212は内面210a側も外面210b側も平坦面とされている。
【0246】
本形態で第二シート220は全体としてシート状の部材である。第二シート220は表裏とも平坦な面により構成されており、内面220a、該内面220aとは反対側となる外面220b、及び、内面220aと外面220bとを渡して厚さを形成する側面220cを備える。
【0247】
そして第二シート220も本体221及び注入部222を有している。
【0248】
本形態で第三シート230は、第一シート210の内面210aと第二シート220の内面220aとの間に挟まれて重ねられるシートであり、本体231に作動流体が移動するための構造が形成されている。
図55、
図56には第三シート230を平面視した図を表した。
図55は第二シート220に重ねられる面の図、
図56は第一シート210に重ねられる面の図である。また
図57には
図55にI
201-I
201で示した線に沿った切断面、
図58には
図55にI
202-I
202で示した線に沿った切断面をそれぞれ示した。
【0249】
第三シート230は本体231及び注入部232を備えている。本体231は作動流体が移動する密閉空間を形成するシート状の部位であり、本形態では平面視で湾曲部を有するL字状である。
注入部232は第一シート210、第二シート220、及び、第三シート230により形成された密閉空間に対して作動流体を注入する部位であり、本形態では本体231の平面視L字型から突出する平面視四角形のシート状である。注入部232には、第一シート210に重なる面側に注入溝232aが形成されている。注入溝232aは上記した注入溝122aと同様に考えることができる。
【0250】
本体231は、外周接合部233、外周液流路部234、内側液流路部235、蒸気流路スリット236、及び、蒸気流路連通溝237が具備されている。
【0251】
外周接合部233は、本体231の外周に沿って形成された部位である。そして外周接合部233のうち一方の面が第一シート210の面に重なって接合(拡散接合、ろう付け等)され、他方の面が第二シート220の面に重なって接合(拡散接合、ろう付け等)される。これにより、第一シート210、第二シート220、及び、第三シート230に囲まれた中空部が形成され、ここに作動流体が封入されて密閉空間となる。
外周接合部233は上記した外周接合部113と同様に考えることができる。
【0252】
外周液流路部234は、液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に通る流路である凝縮液流路103の一部を構成する部位である。外周液流路部234は本体231のうち外周接合部233の内側に沿って形成され、密閉空間202の外周に沿って環状となるように設けられている。そして外周液流路部234のうち、第二シート220に対向する側の面には液流路溝234aが形成されている。本形態では液流路溝234aは第二シート220に対向する側の面にのみ設けられているが、これに加えて第一シート210に対向する側の面にも液流路溝が設けられてもよい。
外周液流路部234、及び、ここに具備される液流路溝234aは上記した外周液流路部114、及び、液流路溝114aと同様に考えることができる。
【0253】
内側液流路部235も液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に通る凝縮液流路103の一部を構成する部位である。内側液流路部235は本体231のうち、環状である外周液流路部234の環の内側に湾曲部を有して延びるよう形成されている。そして、複数(本形態では5つ)の内側液流路部235が当該延びる方向とは異なる方向に配列され、蒸気流路スリット236の間に配置されている。
【0254】
内側液流路部235のうち、第二シート220に対向する側の面には、内側液流路部235が延びる方向に平行な溝である液流路溝235aが形成されている。内側液流路部235及び液流路溝235aは、上記した内側液流路部115及び液流路溝115aと同様に考えることができる。
本形態では液流路溝235aは第二シート220に対向する側の面にのみ設けられているが、これに加えて第一シート210に対向する側の面にも液流路溝が設けられてもよい。
【0255】
蒸気流路スリット236は、蒸気状及び凝縮液状の作動流体が移動する部位で、蒸気流路104を構成するスリットである。蒸気流路スリット236は本体231のうち、環状である外周液流路部234の環の内側に形成された、湾曲部を有するスリットにより構成されている。詳しくは本形態の蒸気流路スリット236は、隣り合う内側液流路部235の間、及び、外周液流路部234と内側液流路部235との間に形成されたスリットである。従って蒸気流路スリット236は第三シート230の厚さ方向(z方向)に貫通している。
そして、複数(本形態では6つ)の蒸気流路スリット236が、延びる方向とは異なる方向に配列されている。従って、
図60からわかるように第三シート230は、外周液流路部234及び内側液流路部235と蒸気流路スリット236とが交互に繰り返された形状を備えている。
【0256】
このような蒸気流路スリット236は、上記した蒸気流路溝116と蒸気流路溝126とが組み合わされて形成される蒸気流路104の態様と同様に考えることができる。
【0257】
本形態では蒸気流路スリット236の断面形状は楕円の円弧の一部同士が重なるようにして形成された形状で、厚さ方向中央が突出する形であるが、これに限らず正方形、長方形、台形等の四角形、三角形、半円形、三日月形、及びこれらの組み合わせ等のように他の形態であってもよい。
【0258】
蒸気流路連通溝237は、複数の蒸気流路スリット236を連通させる流路を形成する溝である。これにより、内側液流路部235が延びる方向における蒸気流路で生じる作動流体の移動のバランスを取ることができる。
また、これにより蒸気流路にある作動流体の均等化が図られたり、蒸気がより広い範囲に運ばれ、多くの液流路溝234a、液流路溝235aによる凝縮液流路を効率よく利用できるようになったりもする。
【0259】
本形態の蒸気流路連通溝237は、内側液流路部235が延びる方向の両端部及び蒸気流路スリット236が延びる方向の両端部と、外周液流路部234との間に形成されている。蒸気流路連通溝237は、隣り合う蒸気流路スリット236を連通させることができればよく、その形状は特に限定されることはないが、上記した蒸気流路連通溝117と蒸気流路連通溝127とを重ねて形成された流路と同様に考えることができる。
【0260】
また第三シート230についても、ベーパーチャンバ201が密閉空間において凝縮液流路103及び蒸気流路104が直線部と湾曲部とを有するように、直線部238a、直線部238b、及び湾曲部238cを具備してなる。これら直線部及び湾曲部の考え方はここまで説明したものと同様である。
【0261】
このような第三シート230は、両面ごとに個別になされるエッチング、両面から同時のエッチング、プレス加工、又は、切削加工などにより作製することが可能である。
【0262】
図59乃至
図61には、第一シート210、第二シート220、及び、第三シート230が組み合わされてベーパーチャンバ201とされたときの構造について説明する図を表した。
図59には
図53にI
203-I
203で示した線に沿った切断面、
図60には
図59の一部を拡大した図を表した。また
図61には
図53にI
204-I
204で示した線に沿った切断面を表した。
【0263】
図53、及び、
図59乃至
図61よりわかるように、第一シート210、第二シート220、及び、第三シート230が重ねられるように配置され接合されることでベーパーチャンバ201とされている。このとき第一シート210の内面210aと第三シート230の一方の面(液流路溝234a、液流路溝235aが配置されていない側の面)とが向かい合うように配置され、第二シート220の内面220aと第三シート230の他方の面(液流路溝234a、液流路溝235aが配置された側の面)とが向かい合うように重ねられる。同様にして各シートの注入部212、注入部222、及び注入部232も重ねられる。
【0264】
これにより、第一シート210と第二シート220との間には、第一シート210、第二シート220、及び、第三シート230で囲まれる密閉空間が形成される。そしてここには凝縮液流路103、及び、蒸気流路104が形成される。これら密閉空間内における凝縮液流路103及び蒸気流路104の形態については、上記したベーパーチャンバ101の凝縮液流路103及び蒸気流路104と同様の考え方を適用することができる。
【0265】
なお、上記形態では2つの直線部が90度で交差してL字型となるように延びる場合の交差部分に湾曲部を有するベーパーチャンバについて説明した。ただし湾曲の形態はこれに限定されず他の形態であっても上記説明の湾曲部の態様を適用することが可能である。例えば、2つの直線部がT字に交差する方向に延びる場合の交差部分、2つの直線部が十字に交差する方向に延びる場合の交差部分、2つの直線が鋭角(90度より小さい角度)で交差してV字型となるように延びる場合の交差部分、及び、2つの直線が鈍角(90度より大きい角度)で交差してV字型となるように延びる場合の交差部分の各交差部分に上記した湾曲部を適用することができる。
【0266】
[第3の形態]
第3の形態では、最終の製造物であるベーパーチャンバの製造途中で得られる物である中間体、この中間体が多面付けされたシート、及びこのシートが巻かれたロールについて説明することから、便宜上、製造方法を示し、これに沿って説明しつつ、得られる中間体、中間体が多面付けされたシート、及び中間体が多面付けされたロールの構成ついて説明をする。
【0267】
<<ベーパーチャンバの製造方法S1>>
図62には1つの形態にかかるベーパーチャンバの製造方法S301(以下、「製造方法S301」と記載することがある。)の流れを示した。
図62からわかるように、製造方法S301は、多面付け中間体シート・多面付け中間体ロールの製造S310、中間体の製造S320、注入口の形成S330、注液S340、及び、封止S350の各工程を含んでいる。
なお、以下では便宜のため、「ベーパーチャンバ用の中間体が多面付けされたシート」を「多面付け中間体シート」、「ベーパーチャンバ用の中間体が多面付けされたシートが巻かれたロール」を「多面付け中間体ロール」と記載することがある。
以下に各工程について詳しく説明する。
【0268】
<材料>
製造方法S301に先立って、材料を準備する。本形態では2枚のシートを接合することによりベーパーチャンバを製造することから、2枚の材料シートを準備する。
以下で説明するように、本形態では、2枚の材料シートから枚葉でベーパーチャンバを作製する形態ではなく、帯状に長い2つの材料シートを重ね合わせて複数の中間体が配列された多面付け中間体シート、多面付け中間体ロールを作製し、その後に中間体を個別に打ち抜く等してベーパーチャンバを作製するいわゆる「多面付け」の工程を経る態様である。従って、本形態で準備する材料シートは帯状に長い2つのシートであり、通常はこの帯状のシートが巻かれたロールで提供されている。
ただし、本開示は、多面付け特有の工程を除いては枚葉で作製する中間体、及び、枚葉で作製するベーパーチャンバのそれぞれの製造方法にも適用することができる。
【0269】
材料シートを構成する材料は特に限定されることはないが、金属を用いることができる。その中でも熱伝導率が高い金属であることが好ましい。これには例えば銅、銅合金、アルミニウム等を挙げることができる。ただし、必ずしも金属材料である必要はなく、例えばAlN、Si3N4、又はAl2O3などセラミックスや、ポリイミドやエポキシなど樹脂も可能である。
また、1つシートで2種類以上の材料を積層したもの(いわゆるクラッド材やベーパーチャンバ1で説明した第一シート10や第二シート20)を用いてもよいし、部位によって材質が異なる材料であってもよい。
【0270】
材料シートの厚さはベーパーチャンバ1の第一シート10、第二シート20、ベーパーチャンバ101の第一シート110、第二シート120等と同様に考えることができる。
【0271】
<多面付け中間体シート・多面付け中間体ロールの製造S310>
多面付け中間体シート・多面付け中間体ロールの製造S310(以下、「工程S310」と記載することがある。)は、上記した材料から多面付け中間体シート、及び/又は、多面付け中間体ロールを製造する。
図63には工程S310の流れを示した。
図63からわかるように、工程S310は、加工S311及び接合S312の工程を含んでいる。
【0272】
(加工S311)
加工S311は、ベーパーチャンバの流路のための形状を形成する工程である。本形態では2つの材料シートのうち一方の材料シートである多面付け第一シート301に当該形状を形成し、他方の材料シートである多面付け第二シート302は流路のための加工はすることなく利用する。
図64には、加工後で形状310が付与された多面付け第一シート301を説明する図を表した。この図からわかるように、多面付け第一シート301には、ベーパーチャンバの流路のための形状310が複数配列されており、形状310が多面付けされたシート301となり、このシート301が巻かれてロールとなっている。
【0273】
形状310の形成方法は特に限定されることはなく、エッチング、切削加工、及びプレス加工等を挙げることができる。この中でもエッチングによる形状の形成は他の方法に比べて効率がよく量産性が高い。この場合には、材料シートの厚さ方向に貫通することなくその途中までエッチングを行う、いわゆるハーフエッチングを適用することができる。
【0274】
ここで形状310の具体的態様は特に限定されることはないが、例えば次のような形態とすることができる。
図65~
図67に一つの形態例を説明する図を示した。
図65は、
図64のうち、多面付けされた形状310のうちの1つの形状310に注目した外観斜視図である。
図66には
図65をz方向から見た(平面視した)図を表した。また、
図67には
図66にI
301-I
301で切断したときの断面図を表した。
【0275】
付与される形状は、作動流体が還流するための流路となる溝、及び、この溝に作動流体を注入するための流路となる溝である。本形態では具体的に、外周液流路部314、内側液流路部315、蒸気流路溝316、及び、蒸気流路連通溝317、及び、注入溝318を具備している。
【0276】
外周液流路部314は、液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に通る第2流路である凝縮液流路354(
図84等参照)の一部を構成する部位である。
図68には
図67のうち矢印I
302で示した部分、
図69には
図66にI
303-I
303で切断される部位の切断面を示した。いずれの図にも外周液流路部314の断面形状が表れている。また、
図90には
図7に矢印I
304で示した方向(z方向、平面視)から見た外周液流路部314の一部の拡大図を表した。
【0277】
これら図からわかるように、外周液流路部314は、環状に構成される部位である。そして、外周液流路部314には、この環状方向に沿って延びる複数の溝である液流路溝314aが設けられ、複数の液流路溝314aが、該液流路溝314aが延びる方向とは異なる方向に所定の間隔で配置されている。従って、
図68、
図69からわかるように外周液流路部314ではその断面において凹部である液流路溝314aと液流路溝314aの間である凸部314bとが凹凸を繰り返して形成されている。そして本形態では、外周液流路部314において、
図70からわかるように、隣り合う液流路溝314aは、所定の間隔で連通開口部314cにより連通している。
【0278】
このような外周液流路部314の形態は、上記した各形態のベーパーチャンバの外周液流路部と同様に考えることができる。
【0279】
内側液流路部315も液流路部として機能し、作動流体が凝縮して液化した際に流れる第2流路である凝縮液流路354の一部を構成する部位である。
図71には
図67のうち矢印I
305で示した部分を示した。この図にも内側液流路部315の断面形状が表れている。また、
図72には
図71に矢印I
306で示した方向から見た(z方向から見た、平面視した)内側液流路部315の一部を拡大した図を示した。
【0280】
これら図からわかるように、内側液流路部315は、外周液流路部314の環状である環の内側に形成されている。本形態の内側液流路部315は、
図65、
図66からわかるように、x方向に延びる壁であり、複数(本形態では3つ)の内側液流路当該延びる方向に直交する方向(y方向)に所定の間隔で配列されている。
各内側液流路部315には、内側液流路部315が延びる方向に平行な溝である液流路溝315aが形成され、複数の液流路溝315aが、該液流路溝315aが延びる方向とは異なる方向に所定の間隔で配置されている。従って、
図67、
図71からわかるように内側液流路部315ではその断面において、凹部である液流路溝315aと液流路溝315aの間である凸部315bによる凸条とが凹凸を繰り返して形成されている。そして、
図72からわかるように隣り合う液流路溝315aは、所定の間隔で連通開口部315cにより連通している。
【0281】
このような内側液流路部315の形態は、上記した各形態のベーパーチャンバの内側液流路部と同様に考えることができる。
【0282】
蒸気流路溝316は作動流体が蒸発して気化した蒸気が通る部位で、第1流路である蒸気流路355(
図84等参照)の一部を構成する。
図66にはz方向から見た蒸気流路溝316の形状、
図67には蒸気流路溝316の断面形状がそれぞれ表れている。
【0283】
これら図からもわかるように、蒸気流路溝316は外周液流路部314の環状である環の内側に形成された溝により構成されている。詳しくは本形態の蒸気流路溝316は、隣り合う内側液流路部315の間、及び、外周液流路部314と内側液流路部315との間に形成され、内側液流路部315が延びる方向(x方向)に延びた溝である。そして、複数(本形態では4つ)の蒸気流路溝316が当該延びる方向に直交する方向(y方向)に配列されている。従って、
図67からわかるように、y方向において、外周液流路部314及び内側液流路部315の凸条、蒸気流路溝316を凹条とした凹凸が繰り返された形状を備えている。
【0284】
このような蒸気流路溝316の形態は、上記した各形態のベーパーチャンバの蒸気流路溝と同様に考えることができる。
【0285】
蒸気流路連通溝317は、複数の蒸気流路溝316を連通させる溝である。これにより、複数の蒸気流路355の蒸気の均等化が図られたり、蒸気がより広い範囲に運ばれ、多くの凝縮液流路354を効率よく利用できるようになったりするため、作動流体の還流をより円滑にすることが可能となる。
蒸気流路連通溝317の形態は、上記した各形態のベーパーチャンバの蒸気流路連通溝と同様に考えることができる。
【0286】
注入溝318は、作動流体を蒸気流路溝316に注入させる溝である。
図65、
図66からわかるように、本形態で注入溝318は、外周液流路部314を横切るようにして蒸気流路連通溝317に連結した溝である。
【0287】
(接合S312)
図63に示した接合S312では、上記のように加工S311で準備した多面付け第一シート301と多面付け第二シート302とを重ね合せて接合し、多面付け中間体シート350、及び、これを巻いてなる多面付け中間体ロール351を製造する。
接合方法は特に限定されることはなく、具体的には拡散接合、ろう付け、照射等を挙げることができる。ここでは1つの例として照射で接合する場合を説明する。
図73に説明のための図を示した。なお、本形態ではこれらの接合はいずれも不図示の真空ポンプに接続された真空槽360の中で行われる。
【0288】
多面付け第一シート301、及び、多面付け第二シート302がそれぞれロールから巻き出される。
【0289】
次いで、巻き出された多面付け第一シート301のうち、上記した形状310が形成された側の面に対して、照射装置361から、原子ビーム、イオンビーム、及びプラズマの少なくとも1つを照射する。
ここで、照射する原子ビームは中性原子の集団を一定の進行方向に細い線束として走らせたもの、イオンビームはイオンを電界で加速したもの、プラズマは気体を構成する分子が電離し陽イオンと電子に分かれて運動している状態をそれぞれ意味する。
これにより、多面付け第一シート301のうち照射が行われた面の酸化膜が除去される。
【0290】
同様に、巻き出された多面付け第二シート302のうち、多面付け第一シート301に重ねる側の面に対して、照射装置362から、原子ビーム、イオンビーム、及びプラズマの少なくとも1つを照射する。
これにより、多面付け第二シート302のうち照射が行われた面の酸化膜が除去される。
【0291】
以上のようにして照射が行われた多面付け第一シート301の面と多面付け第二シート302の面とを重ね合せて押圧ロール363により押圧する。これにより多面付第一シート301と多面付け第二シート302とが接合され、多面付け中間体シート350となる。そしてこの多面付け中間体シート350が巻き取られて多面付け中間体ロール351となる。
【0292】
このようにして、接合するシートの接合面に対して上記のような照射を行ってから接合を行うと、酸化膜が除去されており、高い温度による接合を行う必要がないため、材料の変質を抑制することができる。特に、ベーパーチャンバが薄くなることに伴い、このような材料の変質は例えば作動流体の封止不良等の問題を引き起こしやすくするため、このような問題の発生を抑制することができる。
また、接合面における酸化膜の除去だけでなく、液流路溝314a、液流路溝315a、蒸気流路溝316、蒸気流路連通溝317の内側の酸化膜も除去できるため、その内面の濡れ性が高まり、ベーパーチャンバの熱輸送性能も向上させることができる。
【0293】
なお、このような酸化膜除去効果、及びこれによる熱輸送性能の向上は、拡散接合やろう付けでも認めることができる。
【0294】
図74には多面付け中間体シート350、及び、多面付け中間体ロール351の外観を示した。
図74では、形状310は多面付け第一シート301と多面付け第二シート302との間に配置され外部からは見えないで点線で表している。
図75には、多面付け中間体シート350の多面付けした形状310のうちの1つの形状にかかる部位の断面を表している。この断面は
図67と同様の視点による図である。
【0295】
これら図からわかるように、多面付け中間体シート350、及び、多面付け中間体ロール351では、液流路溝314a、液流路溝315a、蒸気流路溝316、蒸気流路連通溝317の開口が多面付け第二シート302により閉鎖されており、中空部を形成している。
そして本形態では中空部内は酸素濃度が1%以下となるように構成している。好ましくは0.1%以下、より好ましくは500ppm以下である。そして、この中空部は外部から遮断されており、多面付け中間体シート350、多面付け中間体ロール351の外部とは連通していないので、この酸素濃度が維持されている。
これによれば、多面付け中間体シート350、多面付け中間体ロール351を保管、搬送する等、すぐにはベーパーチャンバへの加工はしないときであっても、中空部の内側を酸素濃度が低い状態に維持することができるため、中空部の内面の酸化膜の生成を抑制することができる。従って、その後この多面付け中間体シート350を用いてベーパーチャンバを作製しても流路(凝縮液流路354、蒸気流路355)の内面に酸化膜が少なく、熱輸送性能が良好なベーパーチャンバとすることが可能である。
【0296】
そのための1つの手段として、中空部内を真空状態とすることができる。ここで「真空状態」とは、完全な真空に限らず、例えば圧力を134Pa以下(1Torr以下)とすればよい。
【0297】
中空部内を真空状態にする方法は、特に限定されることはないが、例えば上記のように、多面付け第一シート301と多面付け第二シート302とを接合する際に、真空雰囲気で行うことが考えられる。上記した照射による接合のみでなく、拡散接合やろう付けによる接合であっても真空雰囲気で接合することが可能である。
【0298】
また、本形態では、多面付け中間体シート350、多面付け中間体ロール351の中空部内が真空状態である例を説明したが、酸素濃度を抑えて中空部の内面における酸化膜生成を抑制することができればよく、真空状態とする代わりに中空部内に窒素やアルゴン等の不活性ガスを含めるように構成してもよい。これによっても中空部内の酸素濃度を抑制し、酸化膜の生成を抑えることができる。
この場合にも、不活性ガス雰囲気で接合することができる接合方法により接合を行うことで中空部内に当該不活性ガスを含ませることが可能である。
【0299】
また、中空部内には水分が含まれていても良い。
【0300】
なお、中空部内に空気を含み、酸素濃度が1%より大きい構成であっても、上記のように中空部が外部から遮断されており、空気の入れ替わりが無いため、中空部が外部と連通している場合に比べると酸化膜の生成は抑制される。従って、程度の差はあるにしても、中空部に空気が含まれた形態を採用しても上記効果を奏するものとなる。
【0301】
<中間体の製造S320>
図62に示した中間体の製造S320では、多面付け中間体シート350、多面付け中間体ロール351から、中間体352を製造する。具体的には、中間体352は、中間体352となるべき物が多面付けされた多面付け中間体シート350から個別の中間体352を打ち抜き等の公知の方法を用いて取り出す。
図76には中間体352の外観斜視図、
図77には中間体352をz方向からみた(平面視した)図を表した。
図77には中間体352の内部に形成された中空部の形態を点線で表している。
【0302】
図76、
図77からわかるように中間体352でも、中空部が外部から遮断されている。これにより、中間体352の状態でも中空部の内面における酸化膜の生成が抑制される。従って本形態では中間体352の状態で保管、輸送がなされてもよい。
【0303】
図77にW
301で示した接合部の幅は必要に応じて適宜設定することができるが、この幅W
301は、3.0mm以下であることが好ましく、2.5mm以下であってもよく、2.0mm以下であってもよい。幅W
301が3.0mmより大きくなると、作動流体が流れる流路のための空間の内容積が小さくなり蒸気流路や凝縮液流路が十分確保できなくなる虞がある。一方、幅W
301は0.2mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であってもよく、0.8mm以上であってもよい。幅W
301が0.2mmより小さくなると第一シートと第二シートとの接合時における位置ずれが生じた際に接合面積が不足する虞がある。幅W
301の範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、幅W
301の範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
【0304】
<注入口の形成S330>
図62に示した注入口の形成S330では、中空部に作動流体を注入するための開口を形成する。従って、本形態では中間体352に対して外部から注入溝318に連通する開口を形成する。
図78、
図79には1つの例にかかる注入口319の形態、及び、
図80、
図81には他の例にかかる注入口319の形態を示した。
【0305】
図78、
図79に示した例では、中間体352に対してz方向(厚さ方向)に穴を開けることにより注入口319を形成して、注入溝318と外部とを連通する。
これに対して
図80、
図81に示した例では、中間体352の端面を除去することにより注入口319を形成して、注入溝318と外部とを連通する。
【0306】
本形態では、中間体352に対して注入口を開ける例であるが、この他、多面付け中間体シート350、多面付け中間体ロール351で保管、輸送が行われ、中間体352を取り出した後すぐにベーパーチャンバを作製する場合には、中間体352とする前の段階で多面付け中間体シート350に対して注入口319を形成してもよい。
従ってこの場合には、中間体352の取り出し前、又は、中間体352の取り出しと同時に注入口319を形成することになる。
【0307】
<注液S340>
図62に示した注液S340では、形成した注入口319を利用して中空部に対して作動流体を注入する。注入の方法は特に限定されることはなく、公知の方法を適用することができる。
【0308】
作動流体の種類は特に限定されることはないが、純水、エタノール、メタノール、アセトン、及びそれらの混合物等、通常のベーパーチャンバに用いられる作動流体を用いることができる。
【0309】
<封止S350>
封止S350では作動流体が注入された状態で注入溝318を閉鎖する。閉鎖のための方法は特に限定されることはないが、かしめや溶接等を挙げることができる。
【0310】
[ベーパーチャンバ]
以上のようにして製造されたベーパーチャンバ353は次のような構成を有する。
図82乃至
図84に説明のための図を示した。
図82はベーパーチャンバ353の外観斜視図、
図83はベーパーチャンバ353をz方向から見た図、
図84は
図83にI
307-I
307で示した線に沿った断面図である。
図83では、その内側の構造を点線で表している。
【0311】
ベーパーチャンバ353の内部は、中間体352の中空部に作動流体が封入されることで密閉空間とされている。
具体的にはこの密閉空間は、液流路溝314a及び液流路溝315aにより作動流体が凝縮して液化した状態である凝縮液が流れる第2流路である凝縮液流路354、並びに、蒸気流路溝316により作動流体が凝縮して気化した状態である蒸気が流れる第1流路である蒸気流路355を具備する。さらにこの密閉空間は、蒸気流路連通溝317により蒸気流路355を連通する流路も備える。
このように第2流路である凝縮液流路354は、第1流路である蒸気流路355とは分離されて形成されているため、作動流体の循環を円滑にさせることができる。また、凝縮液流路354を断面においてその四方を壁で囲まれた細い流路を形成することにより強い毛細管力で凝縮液を移動させ、円滑な循環が可能となる。
【0312】
ここで、第2流路である凝縮液流路354の流路断面積は、第1流路である蒸気流路355の流路断面積より小さくされている。より具体的には、隣り合う2つの蒸気流路355(本形態では1つの蒸気流路溝316により形成される蒸気流路355)の平均の流路断面積をAgとし、隣り合う2つの蒸気流路355の間に配置される複数の凝縮液流路354(本形態では1つの内側液流路部315により形成される複数の凝縮液流路354)の平均の流路断面積をAlとしたとき、凝縮液流路354と蒸気流路355とは、AlがAgの0.5倍以下の関係にあるものとし、好ましくは0.25倍以下である。これにより作動流体はその相態様(気相、液相)によって第1流路と第2流路とを選択的に通り易くなる。
この関係はベーパーチャンバ全体のうち少なくとも一部において満たせばよく、ベーパーチャンバの全部でこれを満たせばさらに好ましい。
【0313】
このようなベーパーチャンバ353も、上記説明した他の形態のベーパーチャンバと同様に電子機器に取り付けられて作用することができる。
本形態では、上記したように、製造過程で、多面付け中間体シート350、多面付け中間体ロール351、及び中間体352において、中空部(凝縮液流路354、蒸気流路355)の内面に酸化膜が生じ難い状態が維持されているので、凝縮液流路354、蒸気流路355の内面の濡れ性がよく、作動流体の円滑な流動及び熱移動を高めることができる。
特に本形態のように、ベーパーチャンバを薄くしつつ、流路の内表面積を高めて伝熱面積を大きくすることで高い熱輸送能力を得ようとする形態では、酸化膜の影響が相対的に大きくなるため、本開示のようにすることで、熱輸送能力を発揮できる効果が顕著である。
【0314】
本形態では、多面付け第一シート301のみに液流路溝314a、液流路溝315a、蒸気流路溝316が設けられた例を示したが、
図85に示したように多面付け第二シート302にも蒸気流路溝326が設けられてもよく、
図86に示したように多面付け第二シート302にも液流路溝324a、液流路溝325a、蒸気流路溝326が設けられてもよい。
この例でも本開示の多面付け中間体シート、多面付け中間体ロール、中間体及びベーパーチャンバとすることができる。
【0315】
また、2つの多面付けシートからなることに限られることはなく、
図87に示したように3つの多面付けシートによる多面付け中間体シート、多面付け中間体ロール、並びにここから製造される中間体、及びベーパーチャンバであってもよい。
【0316】
図87に示した多面付け中間体シートは、多面付け第一シート301、多面付け第二シート302、及び、多面付け中間シート303(多面付け第三シート303)の積層体である。
多面付け第一シート301と多面付け第二シート302との間に挟まれるように多面付け中間シート303が配置され、それぞれが上記した例に倣って接合されている。
【0317】
この例では多面付け第一シート301、及び、多面付け第二シート302はその両面が平坦である。
この時の、多面付け第一シート301及び多面付け第二シート302の厚さは、1.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であってもよく、0.1mm以下であってもよい。一方、この厚さ0.005mm以上であること好ましく、0.015mm以上であってもよく、0.030mm以上であってもよい。この厚さの範囲は、上記複数の上限の候補値のうちの任意の1つと、複数の下限の候補値のうちの1つの組み合わせによって定められてもよい。また、この厚さの範囲は、複数の上限の候補値の任意の2つの組み合わせ、又は、複数の下限の候補値の任意の2つの組み合わせにより定められてもよい。
【0318】
多面付け中間シート303には、蒸気流路溝336、外周液流路部334、内側液流路部335、液流路溝334a、液流路部335aが備えられている。
蒸気流路溝336は、多面付け中間シート303を厚さ方向に貫通した溝であり、上記した蒸気流路溝316により第1流路である蒸気流路355を構成する溝と同様の溝であり、これに相当する形態で配置される。
外周液流路部334及び液流路溝334aは、上記した外周液流路部314及び液流路溝314aと同様に考えることができ、外周液流路部335及び液流路溝335aは、上記した外周液流路部315及び液流路溝315aと同様に考えることができる。
【0319】
本開示の上記各形態の例はそのままに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態とすることができる。各形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0320】
1、101 ベーパーチャンバ
2、102 密閉空間
3、103 凝縮液流路
4、104 蒸気流路
10、110 第一シート
10a 内面
10b 外面
10c 側面
10d 内層
10e 外層
11、111 本体
12、112 注入部
13、113 外周接合部
14、114 外周液流路部
14a、114a 液流路溝
14c、114c連通開口部
15、115内側液流路部
15a、115a 液流路溝
15c、115c 連通開口部
16、116 蒸気流路溝
17、117 蒸気流路連通溝
20、120 第二シート
20a 内面
20b 外面
20c 側面
20d 内層
20e 外層
21、121 本体
22、122 注入部
23、123 外周接合部
24、124 外周液流路部
25、125 内側液流路部
26、126 蒸気流路溝
27、127 蒸気流路連通溝
30 電子部品
40 電子機器(携帯型端末)
41 筐体
50、230 第三シート
236 蒸気流路スリット
301 多面付け第一シート
302 多面付け第二シート
350 多面付け中間体シート
351 多面付け中間体ロール
352 中間体
353 ベーパーチャンバ