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特許7567803ソフトコンタクトレンズ表面を処理する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ソフトコンタクトレンズ表面を処理する方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20241008BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20241008BHJP
   C08G 81/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G02C7/04
C08F220/36
C08G81/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021551686
(86)(22)【出願日】2020-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2020037995
(87)【国際公開番号】W WO2021070862
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019185732
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 将智
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】川崎 寛子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆範
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-533518(JP,A)
【文献】特開2017-146334(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111838(WO,A1)
【文献】特表平07-502053(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109796616(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0263971(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
C08F 220/36
C08G 81/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に示すポリ(メタ)アクリル酸と、共重合体(P)とを反応させることを含むソフトコンタクトレンズ表面を処理する方法。
ポリ(メタ)アクリル酸:平均分子量が1,000~2,000,000のポリ(メタ)アクリル酸
共重合体(P):式(1)で表される親水性単量体(n)と式(2)で表される反応性単量体(n)とを重合させて得られる共重合体であり、該共重合体における親水性単量体(n)は80~99モル%であり、反応性単量体(n)は1~20モル%であり、重量平均分子量が10,000~5,000,000である共重合体(P)。式(1)、式(2)中、Xは水素原子またはメチル基を示す。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記ソフトコンタクトレンズがシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズである請求項1に記載のソフトコンタクトレンズ表面を処理する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の構造を有する2種の相異なる重合体が反応することにより得られる反応物を含むソフトコンタクトレンズ用表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内におけるソフトコンタクトレンズ装用者は1000万人を超えると見られており、その手軽さや便利さゆえに装用者が急増した。しかし、その手軽さや便利さから、若年層を中心にソフトコンタクトレンズ装用の長時間化が進んでいることが報告されている(非特許文献1)。このソフトコンタクトレンズ装用の長時間化によって、課題となるのは、ソフトコンタクトレンズ装用による角膜への酸素不足と、装用による不快感である。
角膜への酸素の供給を高めることは、ソフトコンタクトレンズを構成する素材にシリコーンモノマー等の酸素透過に優れる官能基を有する素材を配合することで可能となり、酸素透過に優れるソフトコンタクトレンズの配合処方や製造方法について技術開発がなされている(特許文献1など)。しかし、酸素透過性に優れるシリコーンモノマーは疎水性が極めて高く、結果としてソフトコンタクトレンズに乾燥感や不快感等を与えることとなる。このため、シリコーンモノマーを配合したシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対して、コンタクトレンズ表面の親水化に向けた技術開発がなされている。
【0003】
これらの技術として、例えば、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへ、メタクリル酸やアクリル酸といったカルボキシル基を有する親水性モノマーなどを配合すること等が考えられる。しかし、シリコーンモノマーと、カルボキシル基を有するモノマーとを同時に配合した場合、コンタクトレンズ中でポリマーの加水分解反応を亢進させ、経時安定性が優れないため、これまで実用化に至っていないのが現状であった。
また、別の技術として、あらかじめ、アミノ基、エポキシ基、チオール基などの高い反応性を有する官能基と親水性基とを併せ持つ共重合体と、高い反応性を有する官能基を有するシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを製造しておき、これらの反応性基を化学的に結合させることで、コンタクトレンズ表面に親水性を付与する技術も開発されている(特許文献2)。しかし、高度に管理された製造設備が必要となり経済面で不利となることや、コンタクトレンズ表面に親水層を形成させることで、かえって酸素透過性を低下させてしまう懸念が考えられ、製品への展開は十分に進んでいるとは言えない状況であった。
このように、良好な親水性を有することで装用感に優れるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズを提供するための表面処理技術の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-115005号公報
【文献】特表2012-508902号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Walline J. J., 2013, Long-term Contact Lens Wear of Children and Teens, Eye & Contact Lnes, 39, 283-289.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ソフトコンタクトレンズの表面親水性を飛躍的に向上させ、不快感を改善しうるソフトコンタクトレンズ表処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリ(メタ)アクリル酸と、2種の異なる構成単位を特定割合で有する共重合体(P)とを反応して得られる反応物を含むソフトコンタクトレンズ用表面処理剤を用いることによって、ソフトコンタクトレンズ表面に対して、簡便に、かつ、極めて優れた表面親水性を付与し、乾燥感を軽減する技術を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のソフトコンタクトレンズ表処理する方法とは次の通りである。
【0008】
[1] 以下に示すポリ(メタ)アクリル酸と、共重合体(P)とを反応させることを含むソフトコンタクトレンズ表面を処理する方法。
ポリ(メタ)アクリル酸:平均分子量が1,000~2,000,000のポリ(メタ)アクリル酸
共重合体(P):式(1)で表される親水性単量体(n)と式(2)で表される反応性単量体(n)とを重合させて得られる共重合体であり、該共重合体における親水性単量体(n)は80~99モル%であり、反応性単量体(n)は1~20モル%であり、重量平均分子量が10,000~5,000,000である共重合体(P)。式(1)、式(2)中、Xは水素原子またはメチル基を示す。
【化1】
【化2】
[2] 前記ソフトコンタクトレンズがシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズである上記[1]に記載のソフトコンタクトレンズ表面を処理する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のソフトコンタクトレンズ表処理する方法を用いることで、きわめて優れた表面親水性を付与でき、乾燥感や不快感を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤は、以下に示すポリ(メタ)アクリル酸と、共重合体(P)とを反応して得られる反応物を含むソフトコンタクトレンズ用表面処理剤である。
ポリ(メタ)アクリル酸:平均分子量が1,000~2,000,000のポリ(メタ)アクリル酸
共重合体(P):式(1)で表される親水性単量体(n)と式(2)で表される反応性単量体(n)とを重合させて得られる共重合体であり、該共重合体における親水性単量体(n)は80~99モル%であり、反応性単量体(n)は1~20モル%であり、重量平均分子量が10,000~5,000,000である共重合体(P)。式(1)、式(2)中、Xは水素原子またはメチル基を示す。
【化3】

【化4】
【0011】
なお、本明細書において、「ポリ(メタ)アクリル酸」とは、「ポリアクリル酸又はポリメタクリル酸」を意味し、他の類似用語についても同様である。
また、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、濃度や重量平均分子量の範囲など)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組合せることができる。例えば、「好ましくは10以上、より好ましくは20以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは90以下」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組合せて、「10以上90以下」とする事ができる。例えば、「好ましくは10~100、より好ましくは20~90」という記載においても、同様に「10~90」とすることができる。
【0012】
<ポリ(メタ)アクリル酸>
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤に含まれる反応物の製造に用いられるポリ(メタ)アクリル酸は、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸が挙げられ、好ましくはポリアクリル酸が挙げられる。
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤に用いるポリ(メタ)アクリル酸の平均分子量は1,000~2,000,000であり、好ましくは、5,000~1,000,000である。ここで、上記平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量を意味する。
【0013】
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤に含まれる反応物の製造に用いられる共重合体(P)は、下記式(1)で表される親水性単量体(n)と式(2)で表される反応性単量体(n)とを重合させて得られる。共重合体(P)における親水性単量体(n)は80~99モル%であり、共重合体(P)における反応性単量体(n)は1~20モル%である。なお、詳細には、共重合体(P)における親水性単量体(n)とは、共重合体(P)中の親水性単量体(n)に基づく構成単位を意味し、共重合体(P)における反応性単量体(n)とは、共重合体(P)中の反応性単量体(n)に基づく構成単位を意味する。なおこれら、共重合体(P)中の各構成単位のモル%は、各単量体の仕込み比により調整することができるため、共重合体(P)は、下記式(1)で表される親水性単量体(n)80~99モル%及び下記式(2)で表される反応性単量体(n)1~20モル%を重合して得られ、その重量平均分子量は10,000~5,000,000である。
【化5】

【化6】
【0014】
[式(1)で表される親水性単量体(n)]
本発明で用いられる共重合体(P)は、式(1)で表される親水性単量体(n)、すなわち、ホスホリルコリン構造を有する単量体(以下、単に「親水性単量体(n)」ともいう。)を有する。共重合体(P)が親水性単量体(n)を有することにより、共重合体(P)に親水性が付与され、ソフトコンタクトレンズ表面に優れた親水性を付与することができる。
親水性単量体(n)は、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル-2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファートであり、好ましくは、式(1’)で表される2-(メタクリロイルオキシ)エチル-2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(以下、「2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン」ともいう。)である。
【化7】
【0015】
共重合体(P)における親水性単量体(n)の含有量は、80~99モル%である。含有量が80モル%未満であると、ソフトコンタクトレンズ表面への親水性を向上させる効果が期待できず、含有量が99モル%より多いと、相対的に式(2)で表される反応性単量体(n)が少なくなり、共重合体(P)のポリ(メタ)アクリル酸との化学的結合が望めなくなる。前述の観点から、共重合体(P)における親水性単量体(n)の含有量は、好ましくは85モル%以上、より好ましくは87モル%以上であり、更に好ましくは95モル%以下である。
【0016】
[式(2)で表される反応性単量体(n)]
本発明で用いられる共重合体(P)は、式(2)で表される反応性単量体(n)を有する。共重合体(P)が式(2)で表される反応性単量体(n)を有することにより、ポリ(メタ)アクリル酸と反応して反応物を生成しやすくなる。
式(2)で表される反応性単量体(n)は、2-アミノエチル(メタ)アクリレートであり、好ましくは、式(2’)で表される2-アミノエチルメタクリレートである。
なお、式(2)及び(2’)で表される反応性単量体(n)におけるアミノ基は、塩酸塩などの塩となっていてもよい。
【化8】
【0017】
共重合体(P)における反応性単量体(n)の含有量は、1~20モル%である。含有量が1モル%未満であると、ポリ(メタ)アクリル酸と反応する効果が期待できず、含有量が20モル%より多いと、高い親水性が望めなくなる。
前述の観点から、共重合体(P)における反応性単量体(n)の含有量は、好ましくは15モル%以下、より好ましくは13モル%以下であり、更に好ましくは5モル%以上である。
本発明に用いる共重合体(P)における各単量体の好ましい組合せは、例えば、親水性単量体(n)として、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、反応性単量体(n)として、2-アミノエチル(メタ)アクリレートである。
共重合体(P)における各単量体を前記組合せとすると、ソフトコンタクトレンズ表面に対して優れた親水性と耐久性を付与することができる。
【0018】
[その他の単量体]
共重合体(P)は、本発明の効果を損なわない範囲において、前記親水性単量体(n)及び反応性単量体(n)以外のその他の単量体を含んでいてもよいが、前記親水性単量体(n)及び反応性単量体(n)のみからなる共重合体であることが好ましい。
前記その他の単量体は、例えば、直鎖又は分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレート、環状アルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有(メタ)アクリレート、スチレン系単量体、ビニルエーテル単量体、ビニルエステル単量体、親水性の水酸基含有(メタ)アクリレート、酸基含有単量体、窒素含有基含有単量体から選ばれる重合性単量体が挙げられる。
【0019】
直鎖又は分岐鎖のアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
環状アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン及びクロロスチレン等が挙げられる。
ビニルエーテル単量体としては、例えば、メチルビニルエーテル及びブチルビニルエーテル等が挙げられる。
ビニルエステル単量体としては、例えば、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル等が挙げられる。
【0021】
親水性の水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
酸基含有単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸及びスチレンスルホン酸(メタ)アクリロイルオキシホスホン酸等が挙げられる。
窒素含有基含有単量体として、例えば、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0022】
共重合体(P)がその他の単量体を構成単位として含有する場合、親水性単量体(n)(モル数:N)と、その他の単量体(モル数:N)とのモル比率[N/N]は、親水性単量体(n)を100として、好ましくは100/50以下である。また、共重合体(P)がその他の単量体を構成単位として含有する場合、親水性単量体(n)(モル数:N)、反応性単量体(n)(モル数:N)、その他の単量体(モル数:N)に基づく各構成単位のモル比率が、N:N:N=50~99:1~50:1~50であることが好ましい。
【0023】
[共重合体(P)の重量平均分子量]
共重合体(P)の重量平均分子量は10,000~5,000,000であり、好ましくは、12,000以上、より好ましくは、14,000以上、更に好ましくは、16,000以上、そして、好ましくは、4,000,000以下、より好ましくは、3,000,000以下、更に好ましくは、2,000,000以下である。例えば、共重合体(P)の重量平均分子量は、18,000~1,500,000、30,000~1,500,000、30,000~1,200,000であっても良い。
重量平均分子量が、10,000未満であると製造する際に不純物との分離が困難となるおそれがあり、重量平均分子量が5,000,000を超える場合は、粘度が増大して濾過が困難となるおそれがある。
共重合体(P)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)測定による値をいう。
【0024】
[共重合体(P)の製造方法]
共重合体(P)は、前記親水性単量体(n)、反応性単量体(n)、及び必要に応じて用いられるその他の単量体の重合を行うことにより製造することができ、通常はランダム共重合体であるが、各単量体が規則的に配列された交互共重合体やブロック共重合体であってもよく、一部にグラフト構造を有していても良い。
具体的には、例えば、前記各単量体の混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、及びヘリウム等の不活性ガス雰囲気下においてラジカル重合することにより共重合体(P)を得ることができる。
【0025】
ラジカル重合方法は、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、滴下重合、溶液重合などの公知の方法により行うことができる。ラジカル重合方法は、精製等の観点から滴下重合もしくは溶液重合が好ましく、特に滴下重合が好ましい。
共重合体(P)の精製は、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の公知の精製方法により行うことができる。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤、有機過酸化物、及び過硫酸化物等を挙げることができる。
【0026】
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-ジアミノプロピル)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-(5-メチル-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二塩酸塩、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉相酸)、2,2’-アゾビスイソブチルアミド二水和物、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルペルオキシネオデカネート、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、過酸化ラウロイル、t-ブチルペルオキシデカネート、及びコハク酸ペルオキシド等が挙げられる。
過硫酸化物としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、及び過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
これらラジカル重合開始剤は、単独でも、2種以上を組合せて用いても良い。重合開始剤の使用量は、各単量体の合計100質量部に対して通常0.001~10質量部、好ましくは0.02~5.0質量部、より好ましくは0.03~3.0質量部である。
共重合体(P)の合成は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒としては、各単量体組成物を溶解し、反応に悪影響を及ぼさないものであれば特に制限はなく、例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、直鎖又は環状のエーテル系溶媒、及び含窒素系溶媒を挙げることができる。
アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びイソプロパノール等が挙げられる。
ケトン系溶媒として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びジエチルケトン等が挙げられる。
エステル系溶媒として、例えば、酢酸エチル等が挙げられる。
直鎖又は環状のエーテル系溶媒としては、例えば、エチルセルソルブ、及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。
含窒素系溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ニトリメタン、及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。
これら溶媒の中でも、水及びアルコール系溶媒を用いることが好ましい。
【0028】
<反応物の製造>
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤には、上記したポリ(メタ)アクリル酸と、共重合体(P)とを反応して得られる反応物を含む。ポリ(メタ)アクリル酸と共重合体(P)とを反応は、縮合剤の存在下において行うことが好ましい。
縮合剤としては、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0029】
本発明における反応物は、反応溶液中で生成させることが好ましい。該反応溶液は、上記したポリ(メタ)アクリル酸、共重合体(P)、及び溶媒を含む溶液である。該反応溶液には、さらに上記した縮合剤が含まれることが好ましい。該反応溶液中で、ポリ(メタ)アクリル酸と共重合体(P)とが反応して、反応物が生成する。前記溶媒としては、水が挙げられ、水以外にもエタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール等のアルコールを含有してもよい。水は、通常、医薬品や医療機器の製造に用いられる水を用いることができる。具体的には、イオン交換水、精製水、滅菌精製水、蒸留水及び注射用水を用いることができる。
【0030】
反応溶液中のポリ(メタ)アクリル酸の濃度は、好ましくは0.00001w/v%~1.0w/v%、より好ましくは0.001w/v%~0.8w/v%であり、さらに好ましくは0.1w/v%~0.6w/v%である。濃度が0.00001w/v%未満であるとコンタクトレンズの表面処理の効果が期待できず、1.0w/v%より多いとポリ(メタ)アクリル酸を溶解するのに時間を要する場合がある。
反応溶液中の共重合体(P)の濃度は、好ましくは0.05w/v%~4.0w/v%、より好ましくは0.1w/v%~2.0w/v%、更に好ましくは0.2w/v%~1.0w/v%である。共重合体(P)の濃度がこれら下限値以上であると、ソフトコンタクトレンズへの優れた親水性とその耐久性の付与効果が得やすくなる。これら上限値以下であると、配合量に見合った効果が得られ経済的に有利である。
反応溶液中の縮合剤の濃度は、好ましくは0.05w/v%~1.0w/v%、より好ましくは0.1w/v%~0.8w/v%、更に好ましくは0.2w/v%~0.6w/v%である。
また、反応溶液には緩衝剤を含有させることが好ましく、緩衝剤の濃度は好ましくは0.0001w/v%~15.0w/v%、より好ましくは、0.001w/v%~10.0w/v%、更に好ましくは0.01w/v%~5.0w/v%である。なお、緩衝剤の具体的種類については後述する。
これら反応溶液中の各成分の濃度は、ポリ(メタ)アクリル酸と共重合体(P)とが反応を開始する前の各成分の濃度を意味する。
なお、本発明において、「w/v%」は、100mLの溶液中のある成分の質量をグラム(g)で表したものである。例えば、「本発明の溶液が1.0w/v%の共重合体(P)を含有する」とは、100mLの溶液が1.0gの共重合体(P)を含有していることを意味する。
【0031】
反応溶液中で反応物を生成させる際の温度は、例えば0~60℃であり、好ましくは10~50℃である。また、反応時間は、例えば10~480分であり、好ましくは60~360分である。
【0032】
以上のようにして、本発明における反応物を製造することができる。該反応物は、反応溶液中に含まれており、溶媒などを除去して、該反応物を単離して使用してもよいが、該反応物を含む反応溶液を、そのまま本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤としてもよい。
【0033】
反応物の製造は、上記のように溶液中でポリ(メタ)アクリル酸と共重合体(P)とを反応させることにより行うことができる。中でも以下の工程(i)~(iii)を含む工程により行い、反応物を得ると同時に本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤を調製することが好ましい。
【0034】
(i)溶媒にポリ(メタ)アクリル酸を溶解させたポリ(メタ)アクリル酸溶液と、溶媒に共重合体(P)を溶解させた表面処理溶液とを別々に準備する工程。
(ii)ソフトコンタクトレンズを上記ポリ(メタ)アクリル酸溶液に浸漬する工程。
(iii)ソフトコンタクトレンズをポリ(メタ)アクリル酸溶液から取り出し、該ソフトコンタクトレンズを表面処理溶液に浸漬することで、該表面処理溶液をポリ(メタ)アクリル酸、共重合体(P)、及び溶媒を含む反応溶液とし、該反応溶液中でポリ(メタ)アクリル酸と共重合体(P)とを反応させて反応物を生成させて、該反応物を含むソフトコンタクトレンズ用表面処理剤を調製する工程。
【0035】
なお、上記工程(iii)において、反応溶液中に反応物が生成するが、該反応物を含む反応溶液が本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤に相当する。上記工程(iii)では、ソフトコンタクトレンズ用表面処理剤が調製されると共に、ソフトコンタクトレンズの表面処理が行われる。
【0036】
工程(i)におけるポリ(メタ)アクリル酸溶液中のポリ(メタ)アクリル酸の濃度は、好ましくは0.05w/v%~1.0w/v%、より好ましくは0.1w/v%~0.8w/v%、更に好ましくは0.2w/v%~0.6w/v%である。
ポリ(メタ)アクリル酸を溶解させる溶媒としては、水、有機溶媒などが挙げられる。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフランなどのエーテル系、アセトンやN-メチルピロリドンなどのケトン系、酢酸エチルなどのエステル系、エタノールなどのアルコール、ジメチルホルムアミドなどのアミド系が挙げられ、アルコール系が好ましい。
【0037】
上記工程(i)における表面処理溶液の溶媒としては、水が挙げられ、水のほか、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール等のアルコールを含有してもよい。水は、通常、医薬品や医療機器の製造に用いられる水を用いることができる。具体的には、イオン交換水、精製水、滅菌精製水、蒸留水及び注射用水を用いることができる。
上記工程(i)における共重合体(P)を含む表面処理溶液には、縮合剤を含むことが好ましい。縮合剤の種類については上記した通りである。また、表面処理溶液には緩衝剤を含むことが好ましい。
表面処理溶液中の共重合体(P)、縮合剤、緩衝剤の濃度については、上記した反応溶液中のこれらの濃度と同様である。
【0038】
上記工程(ii)における浸漬時間は特に限定されないが、0.1~6分が好ましい。
【0039】
工程(iii)では、工程(ii)において浸漬したソフトコンタクトレンズをポリ(メタ)アクリル酸溶液から取り出し、そのまま表面処理溶液に浸漬してもよいが、余剰のポリメタクリル酸を除去する観点から、ポリ(メタ)アクリル酸溶液から取り出し、水に浸漬した後、表面処理溶液に浸漬することが好ましい。
なお工程(iii)の反応溶液中の溶媒の種類は、上記した表面処理溶液の溶媒と同様である。また、反応溶液中のポリ(メタ)アクリル酸、共重合体(P)、縮合剤、緩衝剤の濃度は上記した通りである。
【0040】
[その他の成分]
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤はポリ(メタ)アクリル酸と、共重合体(P)とを反応して得られる反応物以外に、更に必要に応じて以下の成分を含有していてもよい。
【0041】
(緩衝剤)
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤は緩衝剤を含めることができる。本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤が緩衝剤を含むことによりpH及び浸透圧を調整することができ、ソフトコンタクトレンズの変形を抑制することができる。
【0042】
本発明においては前記効果を得る観点から、リン酸緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝液、及びホウ酸緩衝液から選ばれる1種以上と緩衝剤として用いることができる。
本明細書においてリン酸緩衝液とは、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等からなる緩衝液である。2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝液とは、2-モルホリノエタンスルホン酸からなる緩衝液である。ホウ酸緩衝液とはホウ酸、ホウ砂、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等からなる緩衝液である。
【0043】
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤の緩衝剤の濃度は、好ましくは0.0001w/v%~15.0w/v%、より好ましくは、0.001w/v%~10.0w/v%、更に好ましくは0.01w/v%~5.0w/v%である。
特に緩衝剤としては、リン酸緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝液及びホウ酸緩衝液から選ばれる1種以上を用いる場合、その濃度は、リン酸緩衝液、2-モルホリノエタンスルホン酸緩衝液及びホウ酸緩衝液の成分の合計として、好ましくは0.001w/v%~10.0w/v%、より好ましくは0.01w/v%~5.0w/v%、更に好ましくは0.1w/v%~5.0w/v%である。
【0044】
(添加剤)
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤は、更に必要に応じて添加剤を含有しても良い。
添加剤として、従来のソフトコンタクトレンズ用途に使用されているものを挙げることができ、例えば、無機塩類、酸、塩基、酸化防止剤、安定化剤及び防腐剤等が挙げられる。
無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
酸として、例えば、リン酸、硫酸等が挙げられる。
塩基として、例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン及びモノエタノールアミン等が挙げられる。
酸化防止剤として、例えば、酢酸トコフェロール及びジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
安定化剤として、例えば、エデト酸ナトリウム及びグリシン等が挙げられる。
防腐剤として、例えば、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩、ソルビン酸カリウム、クロロブタノール及び塩酸ポリヘキサニド等が挙げられる。
【0045】
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤は、更に、ソフトコンタクトレンズに対して、潤いを与え、装用感を向上させる観点から、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等を含有しても良い。
これら添加剤の中でも、ソフトコンタクトレンズの浸透圧を好適な範囲に調整する観点から、無機塩類である塩化ナトリウム又は塩化カリウムを添加することが好ましい。なお、無機塩類は緩衝剤とともに生理食塩液(例えば、ISO生理食塩液)として用いることもできる。
【0046】
ソフトコンタクトレンズへの親水性およびその持続性を付与する効果をさらに増強する観点から、ポリエチレングリコール、アルギン酸ナトリウム、ポロキサマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウム又はコンドロイチン硫酸ナトリウムを添加することが好ましい。
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤に対して添加剤を含有する場合、その濃度は添加剤の成分の合計として、好ましくは0.001w/v%~10.0w/v%、より好ましくは0.001w/v%~7.0w/v%である。
特に本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤が塩化ナトリウムを含有する場合、その濃度は好ましくは0.001w/v%~1.5w/v%、より好ましくは0.05w/v%~1.3w/v%、更に好ましくは0.1w/v%~1.0w/v%である。
一方、本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤が塩化カリウムを含有する場合、その濃度は好ましくは0.01w/v%~4.0w/v%、より好ましくは0.05w/v%~3.5w/v%、更に好ましくは0.1w/v%~3.0w/v%である。
【0047】
[ソフトコンタクトレンズ用表面処理剤の製造方法]
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤の製造方法は、特に限定されず、上記のように反応溶液中でポリ(メタ)アクリル酸と、共重合体(P)とを反応させて反応物を生成させて、そのままソフトコンタクトレンズ用表面処理剤としてもよいし、反応物を単離して、溶媒等を配合しソフトコンタクトレンズ用表面処理剤としてもよい。中でも、上記したように工程(i)~(iii)を含む工程により、ソフトコンタクトレンズ用表面処理剤を製造することが好ましい。
【0048】
[ソフトコンタクトレンズ用表面処理剤のpH]
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤のpHは、縮合反応の効率を向上させる観点から、好ましくは3.0~8.0、より好ましくは3.5~7.8、更に好ましくは4.0~7.6、より更に好ましくは4.5~7.5である。
なお、本明細書におけるソフトコンタクトレンズ用表面処理剤のpHは、第17改正日本薬局方 一般試験法 2.54 pH測定法に従って測定した値をいう。
【0049】
[ソフトコンタクトレンズ用表面処理剤の浸透圧及び浸透圧比]
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤の浸透圧は、装用感を向上させる観点から、好ましくは200~400mOsm、より好ましくは225~375mOsm、更に好ましくは230~350mOsm、より更に好ましくは240~340mOsmである。浸透圧比は好ましくは0.7~1.4、より好ましくは0.7~1.3、更に好ましくは0.8~1.2である。
なお、本明細書におけるソフトコンタクトレンズ用表面処理剤の浸透圧は、第17改正日本薬局方 一般試験法 2.47 浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)に従って測定した値をいい、浸透圧比は得られた浸透圧の値を0.9質量%の生理食塩液の浸透圧の値(286mOsm)で除した値を指す。
【0050】
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤は、上記したとおりソフトコンタクトレンズの表面親水性を向上させることができ、装用者の乾燥感や不快感を軽減させることができる。したがって、本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用として用いることが好ましい。
【実施例
【0051】
以下、本発明について実施例及び比較例により、本発明のコンタクトレンズ用表面処理剤を具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例に用いた共重合体および重合体は次のとおりである。
【0052】
<ポリアクリル酸>
ポリアクリル酸1・・ポリアクリル酸5,000(平均分子量5,000、富士フィルム和光純薬製)
ポリアクリル酸2・・ポリアクリル酸25,000(平均分子量25,000、富士フィルム和光純薬製)
ポリアクリル酸3・・ポリアクリル酸250,000(平均分子量250,000、富士フィルム和光純薬製)
ポリアクリル酸4・・ポリアクリル酸1,000,000(平均分子量1,000,000、富士フィルム和光純薬製)
【0053】
<共重合体(P)>
共重合体(P)として以下に示す共重合体(P1)~共重合体(P5)を用いた。
【0054】
共重合体(P1)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:Nb)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P1))を得た。
共重合体(P1)における親水性単量体(n):92.5モル%
共重合体(P1)における反応性単量体(n):7.5モル%
共重合体(P1)の重量平均分子量:200,000
【0055】
共重合体(P2)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:Nb)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P2))を得た。
共重合体(P2)における親水性単量体(n):95.0モル%
共重合体(P2)における反応性単量体(n):5.0モル%
共重合体(P2)の重量平均分子量:210,000
【0056】
共重合体(P3)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:N)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P3))を得た。
共重合体(P3)における親水性単量体(n):97.5モル%
共重合体(P3)における反応性単量体(n):2.5モル%
共重合体(P3)の重量平均分子量:230,000
【0057】
共重合体(P4)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:N)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P4))を得た。
共重合体(P4)における親水性単量体(n):95.0モル%
共重合体(P4)における反応性単量体(n):5.0モル%
共重合体(P4)の重量平均分子量:270,000
【0058】
共重合体(P5)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:N)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P5))を得た。
共重合体(P5)における親水性単量体(n):95.0モル%
共重合体(P5)における反応性単量体(n):5.0モル%
共重合体(P5)の重量平均分子量:150,000
【0059】
共重合体(P6)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:N)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P6))を得た。
共重合体(P6)における親水性単量体(n):90.0モル%
共重合体(P6)における反応性単量体(n):10.0モル%
共重合体(P6)の重量平均分子量:300,000
【0060】
共重合体(P7)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:N)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P7))を得た。
共重合体(P7)における親水性単量体(n):80.0モル%
共重合体(P7)における反応性単量体(n):20.0モル%
共重合体(P7)の重量平均分子量:1,000,000
【0061】
共重合体(P8)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:N)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P8))を得た。
共重合体(P8)における親水性単量体(n):90.0モル%
共重合体(P8)における反応性単量体(n):10.0モル%
共重合体(P8)の重量平均分子量:1,500,000
【0062】
共重合体(P9)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:N)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩重合体(共重合体(P9))を得た。
共重合体(P9)における親水性単量体(n):90.0モル%
共重合体(P9)における反応性単量体(n):10.0モル%
共重合体(P9)の重量平均分子量:10,000
【0063】
<重量平均分子量の測定>
得られた共重合体(P1)~共重合体(P9)について、5mgを0.1mol/L硫酸ナトリウム水溶液1gへと溶解し、GPC測定を行った。その他の測定条件は以下の通りである。
カラム:Shodex(GSM-700)
移動相:0.1mol/L硫酸ナトリウム水溶液
標準物質:プルラン
検出器:示差屈折率RI-8020(東ソー(株)製)
重量平均分子量の算出法:分子量計算プログラム(SC-8020用GPCプログラム)
流量:毎分1.0mL
注入量:100μL
カラムオーブン:40℃
測定時間:30分間
【0064】
<共重合体(P)の比較用重合体>
共重合体(P)の比較用重合体として以下に示す重合体(A)、重合体(B)、重合体(C)および重合体(D)を用いた。
重合体(A)
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単独重合体(重量平均分子量200,000)を用いた。
重合体(B)
市販のポリ塩化ジメチルジメチレンピロソジニウム液(40%液)(ポリクオタニウム-6、東邦化学工業株式会社製MEポリマーH40W(製品名)、重量平均分子量250,000)を用いた。
【0065】
重合体(C)
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸共重合体(モル比;2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン:メタクリル酸=3:7)(重量平均分子量288,000)を用いた。
重合体(D)
親水性単量体(n)(モル数:Na)として2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチルホスファート(別名:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、反応性単量体(n)(モル数:N)として、2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩を用い、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩共重合体を得た。
重合体(D)における親水性単量体(n):40.0モル%
重合体(D)における反応性単量体(n):60.0モル%
重量平均分子量:234,000
【0066】
<重合体の濃度調整>
それぞれの重合体は、実施例及び比較例に用いる際に、取扱いを容易にすることを目的に、あらかじめ以下の濃度調整を行った。
共重合体(P1)~共重合体(P9):各重合体と精製水を用いて、共重合体の濃度が10w/v%となるように調整した。このように調整された溶液を各表にて、「共重合体(P1)溶液」等と記載した。
重合体(A):重合体(A)と精製水を用いて、重合体(A)の濃度が5w/v%となるように調整した。
重合体(B):重合体(B)は40w/v%液であり、このまま用いた。
重合体(C):重合体(C)と精製水を用いて、重合体(C)の濃度が5w/v%となるように調整した。
重合体(D):重合体(D)と精製水を用いて、重合体(D)の濃度が10w/v%となるように調整した。
【0067】
<ISO生理食塩液>
各実施例・比較例で用いたISO生理食塩塩を以下の通り調製した。
ISO18369-3:2006、Ophthalmic Optics-Contact Lenses Part3:Measurement Methods.に従い、ISO生理食塩液を調製した。具体的には、8.3gの塩化ナトリウム、5.993gのリン酸水素ナトリウム十二水和物、0.528gのリン酸二水素ナトリウム二水和物を水に溶かして全量を1000mLとし、ろ過することによりISO生理食塩液を得た。塩化ナトリウムはキシダ化学株式会社製、リン酸水素ナトリウム十二水和物は和光純薬工業株式会社製、リン酸二水素ナトリウム二水和物は富士フィルム和光純薬株式会社製、水はイオン交換水を用いた。
【0068】
<評価用コンタクトレンズ>
表面処理には次のコンタクトレンズを用いた。
(1):株式会社シード製、シード 2ウィークファイン UV(組成:2-HEMA、EGDMA、含水率:38%、FDA分類:I、酸素透過性(Dk値):12)
(2):ジョンソンエンドジョンソン株式会社製、2ウィークアキュビュー(組成:2-HEMA、MAA、含水率:58%、FDA分類:IV、酸素透過性(Dk値):28)
(3):日本アルコン株式会社製、エアオプティクスアクア(組成:ベタコン、TRIS、DMA、含水率:33%、FDA分類:I(シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ)、酸素透過性(Dk値):138)
(4):ボシュロムジャパン株式会社製、メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト(組成:TRIS構造を修飾したモノマー、NVP、含水率:36%、FDA分類:III、酸素透過性(Dk値):130)
なお、上記(3)及び(4)がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに該当する。
【0069】
<ソフトコンタクトレンズのWBUT(Water Breaking Up Time)試験>
以下の手順に従い、ソフトコンタクトレンズのWBUT試験を行った。
(1)15mL遠沈管へISO生理食塩液を10mL以上入れ、実施例にて処理したソフトコンタクトレンズ1枚を該15mL遠沈管へ入れ、2時間振とうした。
(2)遠沈管内のISO生理食塩液を取り除き、再度、ISO生理食塩液を10mL以上入れ、終夜振とうした。
(3)ソフトコンタクトレンズを15mL遠沈管から取り出し、水分を軽くふき取り、該ソフトコンタクトレンズをコンタクトレンズケースに入れた。これにISO生理食塩液を1mL入れた。
(4)ソフトコンタクトレンズをピンセットでつまみ、ゆっくりと引き上げた。
(5)引き上げたソフトコンタクトレンズが液面と接触しない高さまで引き上げた時点から時間の測定を開始した。
(6)ソフトコンタクトレンズ表面に形成されている液膜が切れた時点で、時間の測定を終了し、時間の測定の開始から時間の測定の終了までの時間(秒)をこすり洗い前のWBUTとした。
(7)終了後、ソフトコンタクトレンズを人差し指に置き、親指と人差し指を用いて20回のこすり洗いを行った。
(8)こすり洗いの後、ピンセットを用いてソフトコンタクトレンズをISO生理食塩液に浸漬させた。
(9)(4)、(5)及び(6)の手順を再度行い、こすり洗い後のWBUTを計測した。
各測定を3回繰り返して行い、それぞれの平均値をWBUT(こすり洗い前)及びWBUT(こすり洗い後)として評価を行った。WBUTは数値が大きいほど良好な親水性を示す。
WBUT:5秒以上で表面親水性を有する、10秒以上を優れた表面親水性を有する、15秒以上を極めて優れた表面親水性を有すると判断した。
【0070】
<ソフトコンタクトレンズの酸素透過性測定>
ソフトコンタクトレンズの酸素透過性は、Createch/Rehder Dev. Co.製 Oxygen Permeometer model 201Tを用いて測定した。
なお、酸素透過性の測定は、各実施例において、表面処理剤により処理する前と後のソフトコンタクトレンズについて行った。
【0071】
(実施例1)
あらかじめ、ビーカーに水100g及び2-モルホリノエタンスルホン酸0.976gを量り、溶解させた。この液につき、さらに共重合体(P1)溶液(10w/v%水溶液)20g及び水溶性カルボジイミド(塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)0.5gを加えて混合し、表面処理溶液とした。
別に、ビーカーにエタノール100g、ポリアクリル酸1 0.4gを入れて混合し、ポリアクリル酸溶液を作製し、該ポリアクリル酸溶液に評価用コンタクトレンズ(1)を10枚入れ、1分間浸漬させた。この後、評価用コンタクトレンズ(1)を取り出し、水100gに入れ、更に1分間浸漬させた。
水から評価用コンタクトレンズ(1)を取り出した後、あらかじめ調製した表面処理溶液へ、この評価用コンタクトレンズ(1)を入れ、37℃にて60分間浸漬し、ポリアクリル酸1と共重合体(P1)とが反応した反応物を含むソフトコンタクトレンズ用表面処理剤を作製すると共に、該表面処理剤により、評価用コンタクトレンズ(1)の表面処理を行った。この後、評価用コンタクトレンズ(1)を取り出し、ISO生理食塩液へ浸漬して、実施例1のコンタクトレンズとした。
この実施例1のコンタクトレンズにつき、<ソフトコンタクトレンズのWBUT(Water Breaking Up Time)試験>を実施した。その評価結果を表1に示す。
なお、実施例1のコンタクトレンズ用表面処理剤を製造するにあたり、ポリアクリル酸と共重合体(P)との反応の追跡を13C-NMRにて行った。その結果、ポリアクリル酸及び共重合体(P)以外の新たな成分が生成しており、反応物が製造されていることが確認された。
【0072】
(実施例2~実施例20)
ポリアクリル酸溶液、表面処理溶液、及びソフトコンタクトレンズ用表面処理剤の組成、並びに使用した評価用コンタクトレンズの種類を表1~3のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~20の各ソフトコンタクトレンズをそれぞれ調製した。各実施例及び各比較例のコンタクトレンズにつき、<ソフトコンタクトレンズのWBUT試験>を行った。結果を表1~3に示す。
【0073】
(比較例1)
実施例1で用いた共重合体(P1)の10w/v%水溶液20gの代わりに、重合体(A)の5w/v%水溶液20gを用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0074】
(比較例2)
実施例1で用いた共重合体(P1)の10w/v%水溶液20gの代わりに、重合体(B)の40w/v%水溶液20gを用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0075】
(比較例3)
実施例1で用いた共重合体(P1)の10w/v%水溶液20gの代わりに、重合体(C)の5w/v%水溶液20gを用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0076】
(比較例4)
実施例1で用いた共重合体(P1)の10w/v%水溶液20gの代わりに、重合体(D)の10w/v%水溶液20gを用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0077】
(比較例5)
実施例1で用いた共重合体(P1)の10w/v%水溶液20gの代わりに、重合体(D)の10w/v%水溶液1gを用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0078】
(比較例6)
実施例1で用いた共重合体(P1)の10w/v%水溶液20gの代わりに、重合体(D)の10w/v%水溶液40gを用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0079】
(比較例7)
実施例1で用いたポリアクリル酸1 0.4gの代わりに、ポリアクリル酸1 0.05gを用い、実施例1で用いた共重合体(P1)の10w/v%水溶液20gの代わりに、重合体(D)の10w/v%水溶液20gを用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0080】
(比較例8)
実施例1で用いたポリアクリル酸1 0.4gの代わりに、ポリアクリル酸2 1gを用い、実施例1で用いた共重合体(P1)の10w/v%水溶液20gの代わりに、重合体(D)の10w/v%水溶液20gを用いた以外は実施例1と同様にして実験を行った。結果を表4に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
実施例1~実施例20の表面処理を施したコンタクトレンズに対して、表面処理後の酸素透過性を測定した。その結果を表5に示す。
【0086】
【表5】
【0087】
表1~表5の結果から明らかなように、本発明のポリアクリル酸と共重合体(P)とを反応して得られる反応物を含むソフトコンタクトレンズ表面処理剤を用いることで、ソフトコンタクトレンズ表面に対し優れた親水性とその持続性を付与する事ができる。また、本発明のソフトコンタクトレンズ表面処理剤は、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへ用いた際、極めて優れた親水性とその持続性を発現し、酸素透過性にも影響を与えず、装用感に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のソフトコンタクトレンズ用表面処理剤を用いて、ソフトコンタクトレンズ表面へと親水性処理を施すことで、きわめて優れた表面親水性を付与することができ、かつ、付与した表面親水性は耐久性も優れることから、不快感を軽減し、装用感にも優れるソフトコンタクトレンズを提供することができる。