(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20241008BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20241008BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20241008BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20241008BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20241008BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L23/10
C08L91/00
C08L83/04
C08K5/00
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2021558336
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 JP2020042257
(87)【国際公開番号】W WO2021100603
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2019208921
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大森 正敏
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真由
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-068846(JP,A)
【文献】特開昭62-068845(JP,A)
【文献】特開昭62-070439(JP,A)
【文献】特開昭62-064852(JP,A)
【文献】特開平07-330986(JP,A)
【文献】特開2018-027994(JP,A)
【文献】特開2018-154682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(D)を含み、かつ、
成分(A)~(D)の合計100質量部に対し、成分(A)を1~80質量部、成分(B)を5~80質量部、成分(C)を5~80質量部、成分(D)を0.01~15質量部含有する、熱可塑性エラストマー組成物を射出成形してなる射出成形体。
成分(A) プロピレン系重合体
成分(B) 少なくとも2個の芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPと、少なくとも1個の共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQとを有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物
成分(C) 炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D) ハロゲン系難燃剤
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、更に、シリコーンを含有する、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項3】
前記成分(D)のハロゲン系難燃剤のハロゲン原子が、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の射出成形体。
【請求項4】
前記成分(D)のハロゲン系難燃剤に含まれるハロゲン原子の含有率が70~95質量%である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の射出成形体。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマー組成物が、熱可塑性エラストマー組成物のJIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定したメルトフローレート(MFR)が10g/10分以上200g/10分以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の射出成形体。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の射出成形体を用いた自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体に関する。より詳細には、本発明は射出成形性、触感、耐傷付き性、難燃性に優れた熱可塑性エラストマー組成物と、この熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、加熱により軟化して流動性を有し、冷却するとゴム弾性を有する。熱可塑性エラストマーは、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有すると共に、独特のゴム弾性を有し、また、リサイクルが可能であることから、自動車部品、建築部品、医療用部品、電線被覆材、雑貨等の用途に幅広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、射出成形用熱可塑性エラストマー組成物として、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックAの少なくとも1個と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBの少なくとも1個とからなるブロック共重合体及びそれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体と、プロピレン系ブロック共重合体とを含む、いわゆるスチレン系エラストマーが開示されている。特許文献1には、このスチレン系エラストマーが自動車内装材に使用できることが記載されている。
【0004】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線・ケーブル・コードや光ファイバ心線、光ファイバコードにもスチレン系エラストマーが積極的に使用されている。その際に、発熱体である電気・電子機器の放熱性や難燃性を改善するべく、環境負荷の点を考慮して、非ハロゲン系の難燃剤を用いることが好ましいことが知られている。
例えば、特許文献2~特許文献4には、非ハロゲン系難燃剤として、水酸化マグネシウムを用いた熱可塑性エラストマーが、絶縁電線・ケーブル・コードなどの電子・電子機器用の熱可塑性エラストマーに使用されることが開示されている。
【0005】
【文献】特開2006-83323号公報
【文献】特開2012-107212号公報
【文献】特開2013-072033号公報
【文献】特開2013-072034号公報
【0006】
近年、自動車内部空間において、高級感の高まりや、居住空間としての快適さを求める動きが高まってきており、自動車内装材、特に、アームレストやコンソールパッドなどの用途に代表される自動車内装材の表皮において、良好な外観や触感、及び耐傷付き性が要求されている。
最近では、これら表皮は、成形加工のし易さと内装工程の簡便さが進んできており、より薄肉化されるようになってきている。
【0007】
自動車内装材の表皮が薄肉化されると難燃性が低下するため、薄肉化に伴う難燃性の低下を難燃剤の配合で補う必要がある。
しかし、特許文献2~4に開示されている水酸化マグネシウムなどの難燃剤では、上記用途において、薄肉化に伴う難燃性の低下を改善するには十分ではない。難燃剤の多量配合で難燃性を向上させようとすると、触感や耐傷付き性が低下し、成形性や外観も損なわれる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の課題は、優れた射出成形性、良好な触感、耐傷付き性を発現でき、且つ難燃性に優れた熱可塑性エラストマー組成物、並びにこの熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体を提供することにある。
【0009】
本発明者は、ハロゲン系難燃剤を、プロピレン系重合体とスチレン系(水添)ブロック共重合体と炭化水素系ゴム用軟化剤を含む熱可塑性エラストマー組成物に配合することにより、良好な触感、射出成形性、耐傷付き性を維持した上で高い難燃性を有し、自動車内装材の表皮等に最適な成形体を得ることができること見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、以下の[1]~[10]に存する。
【0011】
[1] 下記成分(A)~(D)を含み、かつ、成分(D)の含有割合が成分(A)~(D)の合計100質量部に対して0.01~30質量部である、熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A) プロピレン系重合体
成分(B) 少なくとも2個の芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPと、少なくとも1個の共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQとを有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物
成分(C) 炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D) ハロゲン系難燃剤
【0012】
[2] 更に、シリコーンを含有する、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
[3] 前記成分(D)のハロゲン系難燃剤のハロゲン原子が、フッ素原子、塩素原子及び臭素原子からなる群より選ばれる1種以上である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[4] 前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)、及び前記成分(D)の合計100質量部に対する前記成分(D)の含有割合が0.9~30質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[5] 前記成分(A)~(D)の合計100質量部に対し、成分(A)を1~80質量部、成分(B)を5~80質量部、成分(C)を5~80質量部、成分(D)を0.9~30質量部含有する、[4]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[6] 前記成分(D)のハロゲン系難燃剤に含まれるハロゲン原子の含有率が70~95質量%である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体。
【0018】
[8] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形してなる射出成形体。
【0019】
[9] [1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いた自動車部品。
【0020】
[10] 下記成分(A)~(D)を含む熱可塑性エラストマー組成物を用いた自動車部品。
成分(A) プロピレン系重合体
成分(B) 少なくとも2個の芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPと、少なくとも1個の共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQとを有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物
成分(C) 炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D) ハロゲン系難燃剤
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、射出成形性、触感、耐傷付き性、難燃性に優れた熱可塑性エラストマー組成物、並びにこの熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0023】
[熱可塑性エラストマー組成物]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)~(D)を所定の割合で含むことを特徴とする。
成分(A) プロピレン系重合体
成分(B) 少なくとも2個の芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPと
、少なくとも1個の共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQとを有するブロ
ック共重合体及び/又はその水素添加物
成分(C) 炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D) ハロゲン系難燃剤
【0024】
<メカニズム>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、射出成形性に優れ、良好な触感、耐傷付き性を有し、かつ難燃性に優れるという効果を奏する理由については、以下の通り推定される。
成分(A)のプロピレン系重合体と、成分(B)の少なくとも2個の芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックPと、少なくとも1個の共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQとを有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物と、成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤により、射出成形性に優れ、良好な触感と耐傷付き性に優れたものとなる。
難燃剤として成分(D)のハロゲン系難燃剤を配合することにより、射出成形性、良好な触感、耐傷付き性を維持しつつ、難燃性を向上させることができる。
【0025】
<成分(A)>
本発明で用いる成分(A)のプロピレン系重合体(以下「プロピレン系重合体(A)」と称す場合がある。)としては、プロピレン系重合体(A)を構成する単量体単位中にプロピレン単位を主成分として50質量%以上含有するものであればよい。耐熱性、剛性、結晶性、耐薬品性等の観点から、プロピレン系重合体(A)中のプロピレン単位の含有率は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。プロピレン系重合体(A)中のプロピレン単位の含有率の上限については特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0026】
成分(A)中のプロピレン単位、以下に記載する他の共重合成分の各構成単位の含有量は、赤外分光法により求めることができる。
【0027】
プロピレン系重合体(A)の種類は特に限定されず、具体的にはプロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体等が挙げられ、これらのいずれであっても使用することができる。
【0028】
プロピレン系重合体(A)のメルトフローレート(JIS K7210、230℃、21.2N荷重)は、特に定めることはないが、通常0.05~200g/10分であり、0.05~100g/10分であることが好ましく、0.1~80g/10分であることがより好ましい。メルトフローレートが上記下限以上であれば、成形性が良好となり、得られる成形体の外観が良好となる。メルトフローレートが上記上限以下であれば、機械的特性、特に引張破壊強さが良好となる傾向にある。
【0029】
プロピレン系重合体(A)を製造するに際して使用される触媒については特に限定されないが、好ましいものとして、立体規則性触媒が挙げられる。立体規則性触媒としては、以下に限定されないが、例えば、チーグラー触媒やメタロセン触媒が挙げられる。
これらの触媒の中でも、メタロセン触媒が好ましい。
【0030】
チーグラー触媒としては、以下に限定されないが、例えば、三塩化チタン、四塩化チタン、トリクロロエトキシチタン等のハロゲン化チタン化合物、前記ハロゲン化チタン化合物と、ハロゲン化マグネシウムに代表されるマグネシウム化合物との接触物等の遷移金属成分とアルキルアルミニウム化合物又はそれらのハロゲン化物、水素化物、アルコキシド等の有機金属成分との2成分系触媒、更にそれらの成分に窒素、炭素、リン、硫黄、酸素、ケイ素等を含む電子供与性化合物を加えた3成分系触媒が挙げられる。
【0031】
メタロセン触媒としては、以下に限定されないが、例えば、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(いわゆるメタロセン化合物)と、メタロセン化合物と反応して安定なイオン状態に活性化しうる助触媒と、必要により、有機アルミニウム化合物とからなる触媒であり、公知の触媒はいずれも使用できる。メタロセン化合物は、好ましくはプロピレンの立体規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物であり、より好ましくはプロピレンのアイソ規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物である。
【0032】
プロピレン系重合体(A)の製造方法としては、例えば、上記触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法が挙げられる。例えば、スラリー重合法の場合には、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性炭化水素又は液状モノマー中で行うことができる。重合温度は、通常-80~150℃であり、好ましくは40~120℃である。重合圧力は、1~60気圧が好ましい。得られるプロピレン系重合体(A)の分子量の調節は、水素又は他の公知の分子量調整剤で行うことができる。重合は連続式又はバッチ式反応で行い、その条件は通常用いられている条件でよい。重合反応は一段で行ってもよく、多段で行ってもよい。
【0033】
プロピレン系重合体(A)は、市販品を用いることができる。プロピレン系重合体(A)の市販品としては、例えば、サンアロマー社製のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社製のノバテック(登録商標)PP、ウェイマックス(WAYMAX(登録商標))が挙げられる。
【0034】
プロピレン系重合体(A)は1種のみを用いてもよく、共重合組成や物性等の異なる2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
<成分(B)>
本発明で用いる成分(B)は、少なくとも2個の芳香族ビニル化合物単位を主体とする重合ブロックP(以下、単に「ブロックP」と称す場合がある。)と、少なくとも1個の共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックQ(以下、単に「ブロックQ」と称す場合がある。)とを有するブロック共重合体及び/又はその水素添加物(以下「(水添)ブロック共重合体」と称す場合がある。)である。
【0036】
ここで、「主体とする」とは、対象の単量体単位を対象の重合体ブロック中に、50モル%以上含むことをいう。
【0037】
ブロックPを構成する芳香族ビニル化合物としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等の芳香族ビニル化合物が挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく用いられる。特に好ましくはスチレンである。
【0038】
ブロックPは、1種の芳香族ビニル化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の芳香族ビニル化合物単位から構成されていてもよい。ブロックPには、ビニル芳香族化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0039】
ブロックQを構成する共役ジエン化合物とは、1対の共役二重結合を有するジオレフィンである。共役ジエン化合物としては、以下に限定されないが、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンが挙げられる。これらの中でも、入手性及び生産性の観点から、1,3-ブタジエン、イソプレンが好ましく用いられる。特に好ましくは1,3-ブタジエンである。
【0040】
ブロックQは、1種の共役ジエン化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン化合物単位から構成されていてもよい。ブロックQには、共役ジエン化合物単位以外の単量体単位が含まれていてもよい。
【0041】
成分(B)の(水添)ブロック共重合体は、芳香族ビニル化合物単位がスチレン単位であり、共役ジエン化合物単位がブタジエン単位であるものが好ましい。
【0042】
ブロックPの少なくとも2個と、ブロックQの少なくとも1個を有するブロック重合体は、直鎖状、分岐状、放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましい。
P-(Q-P)m (1)
(P-Q)n (2)
(式中PはブロックPを、QはブロックQをそれぞれ表す。mは1~5の整数を表す。nは2~5の整数を表す。
ブロックP、ブロックQがそれぞれ複数存在する場合に、それらの化合物単位はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0043】
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序-無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。
【0044】
成分(B)は、組成物のゴム弾性の観点から、式(1)で表されるブロック共重合体であることが好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体が更に好ましく、mが1である式(1)で表されるブロック共重合体が最も好ましい。
【0045】
成分(B)は、ブロックPと、ブロックQとを有するブロック共重合体の水素添加物であってもよい。この場合、式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることがより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物であることが更に好ましく、mが1である式(1)で表されるブロック共重合体の水素添加物が最も好ましい。
【0046】
成分(B)のブロック共重合体中のブロックPの割合は、熱可塑性エラストマー組成物の機械的強度の点から多い方が好ましく、柔軟性、ブリードアウトのしにくさの点から少ない方が好ましい。具体的には、成分(B)のブロック共重合体中のブロックPの含有率は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。一方、成分(B)のブロック共重合体中のブロックPの含有率は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。ブロックPの割合が高くなるほど、機械的強度に優れ、低くなるほど、柔軟性に優れ、ブリードアウトしにくい傾向にある。
【0047】
成分(B)のブロック共重合体中のブロックQの割合は、熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、ブリードアウトのしにくさの点から多い方が好ましく、機械的強度の点から少ない方が好ましい。具体的には、成分(B)のブロック共重合体中のブロックQの含有率は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが特に好ましい。一方、成分(B)のブロック共重合体中のブロックQの含有率は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。ブロックQの割合が高くなるほど、柔軟性に優れ、ブリードアウトしにくい傾向にあり、低くなるほど、機械的強度に優れる傾向にある。
【0048】
成分(B)の(水添)ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、耐熱性、機械的強度の点では大きい方が好ましいが、成形外観及び流動性、成形性の点では小さい方が好ましい。成分(B)の(水添)ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、10.000以上であることが好ましく、30,000以上であることがより好ましく、800,000以下であることが好ましく、650,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることが更に好ましい。
【0049】
ここで、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により、以下の条件で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
(測定条件)
機器:日本ミリポア社製「150C ALC/GPC」
カラム:昭和電工社製「AD80M/S」3本
検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」測定
波長:3.42μm
溶媒:o-ジクロロベンゼン
温度:140℃
流速:1cm3/分
注入量:200マイクロリットル
濃度:2mg/cm3
酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-p-フェノール0.2質量%添加
【0050】
成分(B)としては、好ましくは、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物が挙げられる。
【0051】
成分(B)としては、市販品を用いることもできる。成分(C)の市販品としては、具体的には、クレイトンポリマー社製「クレイトン(登録商標)G」、クラレ社製「セプトン(登録商標)」、旭化成社製「タフテック(登録商標)」、「S.O.E.(登録商標)」、TSRC社製「TAIPOL(登録商標)」が挙げられる。
【0052】
成分(B)の(水添)ブロック共重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混
合して用いてもよい。
【0053】
<成分(C)>
本発明で用いる成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の柔軟性、流動性の向上に有効である。
【0054】
炭化水素系ゴム用軟化剤としては成分(B)に対する親和性が高いことから、鉱物油系軟化剤や合成樹脂系軟化剤が好ましく、鉱物油系軟化剤がより好ましい。
【0055】
鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素由来の炭素原子であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30~45%程度がナフテン系炭化水素由来の炭素原子であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素由来の炭素原子であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。
成分(C)として用いる炭化水素系ゴム用軟化剤は、上述の各種軟化剤の何れか1種でも、複数種の混合物でも構わない。これらのうち、色相が良好であることから、パラフィン系オイルが好ましい。
【0056】
合成樹脂系軟化剤としては、ポリブテン及び低分子量ポリブタジエン等が挙げられる。
【0057】
炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の流動性の向上という点では低い方が好ましいが、フォギング等の起こり難さの点では高い方が好ましい。炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は、20センチストークス(cSt)以上であることが好ましく、50センチストークス以上であることがより好ましく、一方、800センチストークス以下であることが好ましく、600センチストークス以下であることがより好ましい。
炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
炭化水素系ゴム用軟化剤の流動点は20℃以上、-10℃以下が好ましい。
炭化水素系ゴム用軟化剤のアニリン点は110℃以上、150℃以下が好ましい。
【0058】
<成分(D)>
本発明で用いる成分(D)のハロゲン系難燃剤は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の触感および耐傷付き性を維持しつつ、難燃性の向上に有効である。
【0059】
成分(D)のハロゲン系難燃剤に含まれるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、少量の添加で優れた難燃性付与・向上効果を得ることができることから、臭素原子がより好ましい。
【0060】
成分(D)に含まれるハロゲン原子の含有率としては、ハロゲン原子換算濃度で、10質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。その上限は95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。ハロゲン原子の含有率が高くなるほど、難燃性が優れる傾向にあり、低くなるほど、金型汚染や環境負荷が低減される傾向にある。
【0061】
成分(D)のハロゲン系難燃剤としては、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ-ビスフェノールA、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ-ビスフェノールS、トリス(ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、デカブロモジフェニレンオキサイド、臭素化エポキシ樹脂、1,2-ビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)エタン、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、エチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、ポリブロモフェニルインダン、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネート、臭素化ポリフェニレンオキシド、ポリペンタブロモベンジルアクリレートが挙げられる。好ましくは、1,2-ビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)エタンである。
【0062】
成分(D)のハロゲン系難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用
いてもよい。
【0063】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ハロゲン系難燃剤以外の難燃剤を併用しても良いが、実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、難燃剤として機能する添加量で添加されていないことをいい、通常樹脂成分に対し、0.1質量%以下である。ハロゲン系以外の難燃剤とは、ハロゲンを含まない難燃剤であり、例えばリン酸エステル、ポリリン酸塩、赤燐等のリン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤、その他シリコーン系難燃剤、トリアジン系難燃剤が挙げられる。
ここで、樹脂成分とは、成分(A)及び成分(B)と必要に応じて用いられる後述のその他の樹脂やエラストマーの合計である。
【0064】
<配合割合>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(D)の含有割合は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量部に対して、0.01~30質量部である。良好な触感と耐傷付き性の観点からその上限は20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下が更に好ましい。求められる難燃性を得る観点からその下限は0.5質量部以上が好ましく、0.9質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましい。
【0065】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の含有割合は、これらの合計100質量部に対して、成分(A)が1~80質量部、成分(B)が5~80質量部、成分(C)が5~80質量部、成分(D)が0.9~30質量部であることが好ましい。この含有割合は、より好ましくは、成分(A)が5~70質量部、成分(B)が10~70質量部、成分(C)が10~70質量部、成分(D)が1.0~20質量部であり、更に好ましくは、成分(A)が5~60質量部、成分(B)が10~65質量部、成分(C)が10~65質量部、成分(D)が1.0~15質量部であり、特に好ましくは、成分(A)が10~55質量部、成分(B)が15~55質量部、成分(C)が15~55質量部、成分(D)が1.0~12質量部である。
【0066】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の成分(A)と成分(B)との質量比[成分(A)の質量]:[成分(B)の質量]は、5:95~90:10の範囲であることが好ましく、10:90~80:20の範囲であることがより好ましく、10:90~70:30の範囲であることが更に好ましい。
【0067】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の成分(B)と成分(C)との質量比[成分(B)の質量]:[成分(C)の質量]は、20:80~80:20の範囲であることが好ましく、25:75~75:25の範囲であることがより好ましく、25:75~65:35の範囲であることが更に好ましい。
【0068】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が成分(A)のプロピレン系重合体を上記範囲内で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に得た上で、成分(A)による耐熱性、射出成形性、機械的特性の向上効果を十分に得ることができる。
【0069】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(B)の(水添)ブロック共重合体を上記範囲内で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に得た上で、成分(B)による耐熱性、耐油性、成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤の耐ブリード性の効果を十分に得ることができる。
【0070】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤を上記範囲内で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に得た上で、成分(C)による柔軟性、流動性の向上効果を十分に得ることができる。
【0071】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が、成分(D)のハロゲン系難燃剤を上記範囲内で含むことにより、他の成分の配合効果を十分に維持しつつ、難燃性の向上効果を十分に得ることができる。
【0072】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、成分(A)~(D)以外の他の成分(本明細書において、単に「その他の成分」と称することがある。)を含有していてもよい。その他の成分としては、成分(A)、(B)以外の樹脂やエラストマー(本明細書においてはこれらをまとめて単に「その他の樹脂」と称することがある。)や各種添加剤が挙げられる。
【0073】
その他の成分の含有割合は、成分(A)~(D)の合計を100質量部としたときに900質量部以下であることが好ましく、570質量部以下であることがより好ましく、400質量部以下であることが更に好ましく、300質量部以下であることが特に好ましい。
【0074】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が含有し得るその他の樹脂としては、ポリオレフィン樹脂(ただし、前記成分(A)に該当するものを除く。)、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂(ただし、前記成分(B)に該当するものを除く。)、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂や、エチレン・プロピレン・共重合ゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合ゴム(EPDM)、エチレン・ブテン共重合ゴム(EBM)、エチレン・プロピレン・ブテン共重合ゴム等のオレフィン系エラストマー;ポリアミド・ポリオール共重合体等のポリアミド系エラストマー;ポリ塩化ビニル系エラストマー及びポリブタジエン系エラストマー、これらの水添物や、酸無水物等により変性して極性官能基を導入させたもの、更に他の単量体をグラフト、ランダム及び/又はブロック共重合させたもの等が挙げられる。上記で挙げたその他の樹脂は1種のみを含有しても2種以上を含有してもよい。
【0075】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が含有し得る添加剤としては、酸化防止剤、結晶核剤、滑剤等の成形加工助剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系化合物等の光安定剤、耐加水分解改良剤、顔料、染料等の着色剤、帯電防止剤、導電剤、補強剤、充填材、可塑剤、離型剤、発泡剤等が挙げられる。
【0076】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に、滑剤としてシリコーンを配合することは有効である。シリコーンは、熱可塑性エラストマー組成物に耐摩耗性を付与し、エラストマー特有のべたつきを防ぐ成分である。
【0077】
シリコーンの分子構造におけるシロキサン主鎖の結合する置換基の種類については特に限定するものではないが、その中でもジメチルシリコーン(ジメチルポリシロキサン)、メチルフェニルシリコーン、あるいはアルキル変性シリコーンが好適に用いられる。
シリコーンの動粘度(25℃)は通常1センチストークス以上、好ましくは5センチストークス以上、より好ましくは10センチストークス以上であり、上限については特に制限されない。シリコーンの動粘度が高いほど耐摩耗性、耐傷付き性向上の効果が高く、低いほどべたつき改良効果が高い。
【0078】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がシリコーンオイル等の滑剤を含有する場合、その含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量部あたり、好ましくは0.1~15質量部であり、より好ましくは0.1~10質量部である。シリコーンの含有量が0.1質量部以上であると、耐摩耗性、耐傷付き性や耐べたつき性の改良効果の観点で好ましく、15質量部以下であると、機械的強度性、難燃性等の観点で好ましい。
【0079】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、酸化防止剤(熱安定剤)として、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等を配合することができる。
【0080】
ヒドロキシルアミン系酸化防止剤としては、N,N-ジアルキルヒドロキシルアミンが好ましく、一般式R1R2NOH(式中、R1及びR2は各々独立してアルキルを表す。)で示される化合物が挙げられる。式中、好ましいR1またはR2は、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ヘプタデシル基である。特に好ましいジアルキルヒドロキシルアミンはN,N-ジオクタデシルヒドロキシルアミンおよびN,N-ジヘキサデシルヒドロキシルアミンまたはこれらの混合物である。
【0081】
ジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤としては、ジアルキルジチオカルバミン酸の金属塩が好ましく、中でもジアルキルジチオカルバミン酸ニッケルが好ましく、特にジブチルジチオカルバミン酸ニッケルが、耐熱老化性の改良効果が大きいことから好ましい。
【0082】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は公知のものが使用でき、特にテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンのような分子量が500以上のものの使用が好ましい。市販品として、BASF社製「イルガノックス(登録商標)1010」等が挙げられる。
【0083】
イオウ系酸化防止剤とは、チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系、チオジプロピオンエステル系等のイオウを含む化合物である。但し、上記のジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤に相当するものは含まない。これらの中でも、特にチオジプロピオンエステル系化合物が好ましい。
【0084】
リン系酸化防止剤としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸誘導体、フェニルホスホン酸、ポリホスホネート、ジアルキルペンタエリスリトールジホスファイト、ジアルキルビスフェノールAジホスファイト等のリンを含む化合物が挙げられる。
【0085】
これらの酸化防止剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤の含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量部あたり、好ましくは0.01~5質量部である。酸化防止剤の含有量が0.01質量部以上であると、耐熱劣化性の改良効果の観点で好ましく、5質量部以下であると、ブリード等の問題を起こしにくい点、組成物の機械的強度の観点等から好ましい。
【0087】
ヒンダードアミン系光安定剤は、ヒンダードピペリジン構造を含む化合物であり、公知のものが使用できる。ヒンダードアミン系光安定剤の市販品としてはBASF社製「チヌビン(登録商標)」シリーズが挙げられる。
ヒンダードアミン系光安定剤は1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0088】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がヒンダードアミン系光安定剤を含有する場合、その含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量部あたり、好ましくは0.005~2質量部であり、より好ましくは0.01~0.5質量部である。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が上記範囲内であると、耐候性が十分であり、成形体表面へのブリードも起こりにくく好ましい。
【0089】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の上記の酸化防止剤等の添加剤の合計の含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量部あたり、2質量部以下とすることが好ましく、1質量部以下とすることがより好ましい。
【0090】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法は、特に限定されるものではない。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、例えば、常法に従って、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)と、必要に応じて添加されるその他の成分とをドライブレンドした後、溶融混練することにより製造することができる。
【0091】
その際に用いられる混合装置としては、特に限定されないが、例えば、バンバリーミキサー、ラボプラストミル、単軸押出機、二軸押出機等の混練装置が挙げられる。このうち、押出機を用いた溶融混合法により製造することが、生産性、良混練性の点から好ましい。
混練時の溶融温度は、適宜設定することができるが、通常130~300℃の範囲内であり、150~250℃の範囲であることが好ましい。
【0092】
<熱可塑性エラストマー組成物の物性>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重21.2Nで測定したメルトフローレート(MFR)が2g/10分以上であることが成形性の観点から好ましく、より好ましくは5g/10分以上であり、更に好ましくは10g/10分以上である。また、成形性の観点から、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のメルトフローレート(MFR)は、200g/10分以下であることが好ましく、185g/10分以下であることがより好ましく、160g/10分以下であることが更に好ましい。
【0093】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性の観点から、JIS K6251の測定法に準拠した手順で測定した引張伸びが200%以上であることが好ましく、300%以上であることがより好ましい。引張伸びの上限としては、流動性の観点から、1500%以下であることが好ましく、1200%以下であることがより好ましい。
【0094】
<用途>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の用途には特に制限はないが、特に、自動車部品、建築部品、医療用部品、電線被覆材、雑貨等の成形材料として有用である。
【0095】
[成形体]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形することにより、種々の成形体として用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物の成形には、通常の射出成形法、押出成形法等の各種成形方法を用いることができる。
【0096】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる本発明の成形体の具体例としては、射出成形体、押出成形体等が挙げられる。
【0097】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形する際の成形条件は以下の通りである。
成形温度は、通常160~250℃であり、好ましくは170~220℃である。
射出圧力は、通常5~100MPaであり、好ましくは10~80MPaである。
金型温度は通常10~80℃であり、好ましくは20~60℃である。
【0098】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を射出成形してなる射出成形体は、プロピレン樹脂のようなオレフィン系硬質樹脂に熱融着して、複合成形体として用いることもできる。
【0099】
本発明の成形体は、自動車部品、建築部品、医療用部品、電線被覆材、雑貨等として有用である。本発明の成形体は、その良好な外観や触感、及び耐傷付き性と優れた難燃性から、アームレストやコンソールパッドなどの用途に代表される自動車内装材の表皮として有用である。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を用いて本発明の具体的態様を更に詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0101】
以下の実施例及び比較例において、熱可塑性エラストマー組成物の調製に用いた原料及び得られた熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は次の通りである。
【0102】
[使用原料]
<成分(A)>
A-1:日本ポリプロ社製「ノバテックPP(登録商標)BC06C」
プロピレン・エチレン共重合体
ポリプロピレン単位含有率:91質量%
MFR(JIS K7210、230℃、21.2N荷重):60g/10分
【0103】
<成分(B)>
B-1:TSRC社製「TAIPOL(登録商標)6159」
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物
重量平均分子量:400,000
スチレン単位含有率:30質量%
B-2:クラレ社製「セプトン(登録商標)4077」
スチレン・イソプレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物
重量平均分子量:380,000
スチレン単位含有率:30質量%
B-3:旭化成社製「S.O.E.-SS(登録商標)S1605」
スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体の水素添加物
重量平均分子量:200,000
スチレン単位含有率:60質量%
【0104】
<成分(C)>
C-1:出光興産社製「ダイアナ プロセスオイルPW90」
パラフィン系オイル
動粘度(40℃):90センチストークス
【0105】
<成分(D)>
D-1:Albemarle Corporation製「SAYTEX(登録商標)8010」
1,2-ビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)エタン
臭素原子の含有率:82質量%
【0106】
<その他の難燃剤>
X-1:協和化学工業株式会社製「キスマ(登録商標)5」
水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)
X-2:アデカ株式会社製「アデカスタブ(登録商標)FP-2200」
リン系酸化防止剤
【0107】
<その他の添加剤>
E-1:BASF社製「イルガノックス(登録商標)1010」
ヒンダードフェノール系酸化防止剤
F-1:東レ・ダウコーニング社製「BY27-001」
ジメチルシリコーン含有マスターバッチ
ジメチルシリコーン含有率:50質量%
【0108】
[熱可塑性エラストマー組成物の評価]
<難燃性:燃焼速度 FMVSS No.302>
FMVSS No.302燃焼試験装置を用い、実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットから作成した射出成形体(350mm×100mm×1.5mm)の右端より38mmのバーナー炎を15秒間接炎させて、標線間254mmの燃焼距離における燃焼速度を測定した。試験治具は、ワイヤー有りで測定し、試験回数5回のうちの平均値を算出した。
燃焼速度が遅いほど、難燃性が高い。燃焼速度は、40mm/min以下が好ましく、35mm/min以下がより好ましく、30mm/min以下が更に好ましい。
【0109】
<触感>
実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットから作成した射出成形体(350mm×100mm×1.5mm)について、人の手、指3本で撫でるように触った際の触感を調べ、下記基準で評価した。
射出成形体の触感は、ブリード物が表面に発生しておらず、手に付着しないものが好ましく、より好ましくはさらさらした触感である。
A:さらさらしており、手に付着物を感じない
B:少しさらさらしており、手に付着物を感じない
C:べたべたしている、または、さらさらしているが手に付着物を感じる
【0110】
<耐傷付き性:テーバースクラッチ>
実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットから作成した射出成形体(350mm×100mm×1.5mm)に対して、株式会社東洋精機製作所テーバー式スクラッチテスターを使用して、タングステンカーバイド製カッターを正刃で治具に取り付け、荷重350gで、回転数0.5rpmの速度で回転させたときの試験片の状態を観察し、以下の基準で評価した。
射出成形体の耐傷付き性は、切れや貫通がなく、変化なし、または表面の削れのみであることが最も好ましい。
A:変化なし、または表面の一部に削れ有り
B:表面全体の削れ、かつ表面の一部の切れ有り
C:貫通
【0111】
<流動性:MFR>
実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物について、JIS K7210(1999)に従って、測定温度230℃、測定荷重21.2Nの条件で測定した。
【0112】
<柔軟性:引張伸び>
実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットから作成した射出成形体(350mm×100mm×1.5mm)について、JIS K6251の規格に準拠した方法で試験速度:500mm/分にて測定した。
【0113】
[実施例1~5、比較例1~6]
表-1に示す配合で原料を混合し、得られた混合物を二軸混練機により溶融混練(シリンダー温度180℃~200℃)し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
得られた熱可塑性エラストマー組成物について、MFRの測定を行い、結果を表-1に示した。
得られた熱可塑性エラストマー組成物を、型締力180tで、電動の射出成形機(住友重機械工業株式会社製)で、シリンダー温度200℃、金型温度40℃にて、縦350mm×横100mm×厚さ1.5mmのシート状の金型中に射出速度40mm/秒で射出充填した。
充填完了後30秒間冷却してから射出成形体を取り出した。得られた射出成形体について難燃性、触感、耐傷付き性及び引張伸びの評価を行った。これらの結果を表-1に示した。
【0114】
【0115】
[評価結果]
表-1から次のことが言える。
実施例1~5は、成分(A)のプロピレン系重合体と、成分(B)の水添ブロック共重合体、及び成分(C)の炭化水素系ゴム用軟化剤と、成分(D)のハロゲン系難燃剤を含むことで、燃焼速度が40mm/min以下であり、かつ触感が優れ、傷付き性評価では、切れがなく耐傷付き性にも優れている。また、MFRの値から成形性にも優れ、引張伸びの値から柔軟性にも優れることが分かる。
【0116】
比較例1および比較例2は、ハロゲン系難燃剤を含んでおらず、燃焼速度が速く、難燃性が劣っている。
比較例3~5は、難燃剤として水酸化マグネシウムを使用している。このうち、水酸化マグネシウムの配合量が比較的少ない比較例3は、実施例2と比較して燃焼速度が速く難燃性に劣り、かつテーバースクラッチテストにより、表面全体に削れや切れが発生した。水酸化マグネシウムの配合量が多い比較例4及び比較例5は、燃焼速度が40mm/min以下であるが、触感評価にて手にブリード物を感じ、またテーバースクラッチテストにより、刃が試験片を貫通した。
比較例6はハロゲン系難燃剤の代わりにリン系難燃剤を配合したものであるが、ハロゲン系難燃剤を用いた場合よりも難燃性付与効果が劣る。
【0117】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2019年11月19日付で出願された日本特許出願2019-208921に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物より得られた成形体は、難燃性、触感、耐傷付き性に優れ、自動車内装部品等の自動車部品や建築部品、医療用部品、電線被覆材、雑貨等に好適に用いられる。