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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】多孔体、およびそれを含む燃料電池
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/08 20060101AFI20241008BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20241008BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20241008BHJP
   C25D 1/08 20060101ALI20241008BHJP
   H01M 8/0232 20160101ALI20241008BHJP
   H01M 8/0236 20160101ALI20241008BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20241008BHJP
【FI】
C22C1/08 D
C22C19/03 M
C22C19/07 M
C25D1/08 321A
H01M8/0232
H01M8/0236
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021567188
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2020045774
(87)【国際公開番号】W WO2021131689
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2019232469
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 良子
(72)【発明者】
【氏名】真嶋 正利
(72)【発明者】
【氏名】小川 光靖
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】沼田 昂真
(72)【発明者】
【氏名】野田 陽平
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-015217(JP,A)
【文献】特表2017-507452(JP,A)
【文献】国際公開第2019/050301(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/244480(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/235265(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/11
C22C 1/08,19/03,19/05,19/07
C25D 1/08
H01M 8/0232,8/0236,8/10,8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体であって、
前記骨格の本体は、ニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含み、
前記コバルトの質量割合は、前記ニッケルおよび前記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下であり、
前記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなり、
前記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなり、
前記第一元素の質量と前記第二元素の質量との合計の割合は、前記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下であり、
燃料電池の集電体用である、多孔体。
【請求項2】
前記コバルトの質量割合は、前記ニッケルおよび前記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.45以下又は0.6以上0.8以下である、請求項1に記載の多孔体。
【請求項3】
前記第一元素の質量割合は、前記骨格の本体の質量に対して、4ppm以上40000ppm以下である、請求項1または請求項2に記載の多孔体。
【請求項4】
前記第二元素の質量割合は、前記骨格の本体の質量に対して、1ppm以上10000ppm以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項5】
前記骨格の本体は、酸素を構成元素としてさらに含む、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項6】
前記酸素は、前記骨格の本体において0.1質量%以上35質量%以下含まれる、請求項5に記載の多孔体。
【請求項7】
前記骨格の本体は、スピネル型酸化物を含む、請求項5または請求項6に記載の多孔体。
【請求項8】
前記骨格の本体は、その断面を3000倍の倍率で観察することにより観察像を得た場合、前記観察像の任意の10μm四方の領域において現われる長径1μm以上の空隙の数が5個以下である、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項9】
前記骨格は、中空である、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項10】
前記多孔体は、シート状の外観を有し、厚みが0.2mm以上2mm以下である、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の多孔体。
【請求項11】
空気極用集電体および水素極用集電体を備える燃料電池であって、
前記空気極用集電体および前記水素極用集電体の少なくとも一方は、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の多孔体を含む、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多孔体、およびそれを含む燃料電池に関する。本出願は、2019年12月24日に出願した日本特許出願である特願2019-232469号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来から金属多孔体等の多孔体は、気孔率が高く、もって表面積が大きいことから、電池用電極、触媒担持体、金属複合材、フィルターなどの様々な用途に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-154517号公報
【文献】特開2012-132083号公報
【文献】特開2012-149282号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体であって、
上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含み、
上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下であり、
上記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなり、
上記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなり、
上記第一元素の質量と上記第二元素の質量との合計の割合は、上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下である。
【0005】
本開示の一態様に係る燃料電池は、空気極用集電体および水素極用集電体を備える燃料電池であって、上記空気極用集電体または上記水素極用集電体の少なくとも一方は、上記多孔体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本開示の一態様に係る多孔体における骨格の部分断面の概略を示す概略部分断面図である。
図2図2は、骨格の長手方向に直交する断面を示す概略断面図である。
図3A図3Aは、本開示の一態様に係る多孔体の三次元網目状構造を説明するため、多孔体におけるセル部の1つに着目した拡大模式図である。
図3B図3Bは、セル部の形状の一態様を示す模式図である。
図4A図4Aは、セル部の形状の他の態様を示す模式図である。
図4B図4Bは、セル部の形状のさらに他の態様を示す模式図である。
図5図5は、接合した2つのセル部の態様を示す模式図である。
図6図6は、接合した4つのセル部の態様を示す模式図である。
図7図7は、複数のセル部が接合することによって形成された三次元網目状構造の一態様を示す模式図である。
図8図8は、本開示の一態様に係る燃料電池を示す模式断面図である。
図9図9は、本開示の一態様に係る燃料電池用セルを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
このような金属多孔体の製造方法としては、たとえば特開平11-154517号公報(特許文献1)において、発泡樹脂などに導電性を付与する処理を施した後、この発泡樹脂上に金属からなる電気めっき層を形成し、必要に応じて発泡樹脂を焼却し、除去することによって金属多孔体を製造する方法が開示されている。
【0008】
さらに特開2012-132083号公報(特許文献2)には、耐酸化性および耐食性の特性を備えた金属多孔体として、ニッケル-スズ合金を主成分とする骨格を有する金属多孔体が開示されている。特開2012-149282号公報(特許文献3)には、高い耐食性を備えた金属多孔体として、ニッケル-クロム合金を主成分とする骨格を有する金属多孔体が開示されている。
【0009】
このように金属多孔体等の多孔体は様々なものが知られているが、これを電池用電極の集電体、特に固体酸化物型燃料電池(SOFC)の電極の集電体(例えば、空気極用集電体、水素極用集電体)として用いる場合、多孔体の強度を調整する等、更なる改善の余地がある。
【0010】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有する多孔体、およびそれを含む燃料電池を提供することを目的とする。
【0011】
[本開示の効果]
上記によれば、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有する多孔体、およびそれを含む燃料電池を提供することができる。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係る多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体であって、
上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含み、
上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下であり、
上記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなり、
上記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなり、
上記第一元素の質量と上記第二元素の質量との合計の割合は、上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下である。このような特徴を有する多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有することができる。
【0013】
[2]上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.45以下又は0.6以上0.8以下であることが好ましい。このような特徴を有する多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として更に適度な強度を有することができる。
【0014】
[3]上記第一元素の質量割合は、上記骨格の本体の質量に対して、4ppm以上40000ppm以下であることが好ましい。このような特徴を有する多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として更に適度な強度を有することができる。
【0015】
[4]上記第二元素の質量割合は、上記骨格の本体の質量に対して、1ppm以上10000ppm以下であることが好ましい。このような特徴を有する多孔体は、更に適度な強度を有することができる。
【0016】
[5]上記骨格の本体は、酸素を構成元素としてさらに含むことが好ましい。この態様は、多孔体が使用により酸化された状態にあることを意味する。上記多孔体は、このような状態においても高温環境下で高い導電性を維持することができる。
【0017】
[6]上記酸素は、上記骨格の本体において0.1質量%以上35質量%以下含まれることが好ましい。この場合、高温環境下で高い導電性をより効果的に維持することができる。
【0018】
[7]上記骨格の本体は、スピネル型酸化物を含むことが好ましい。この場合も、高温環境下で高い導電性をより効果的に維持することができる。
【0019】
[8]上記骨格の本体は、その断面を3000倍の倍率で観察することにより観察像を得た場合、上記観察像の任意の10μm四方の領域において現われる長径1μm以上の空隙の数が5個以下であることが好ましい。これにより、強度を十分に向上させることができる。
【0020】
[9]上記骨格は、中空であることが好ましい。これにより、多孔体を軽量とすることができ、かつ必要な金属量を低減することができる。
【0021】
[10]上記多孔体は、シート状の外観を有し、厚みが0.2mm以上2mm以下であることが好ましい。これにより従来に比べ、厚みの薄い空気極用集電体および水素極用集電体を形成可能となり、もって必要な金属量を低減すること、及びコンパクトな燃料電池を製造することができる。
【0022】
[11]本開示の一態様に係る燃料電池は、空気極用集電体および水素極用集電体を備える燃料電池であって、上記空気極用集電体または上記水素極用集電体の少なくとも一方は、上記多孔体を含む。このような特徴を有する燃料電池は、高温環境下で高い導電性を維持することができ、もって効率よく発電することができる。
【0023】
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味する。Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。
【0024】
≪多孔体≫
本実施形態に係る多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体である。上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含む。上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して0.2以上0.8以下である。上記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。上記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。本実施形態の一側面において、上記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなることが好ましい。上記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなることが好ましい。上記第一元素の質量と上記第二元素の質量との合計の割合は、上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下である。このような特徴を有する多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有することができる。ここで、本実施形態における「多孔体」としては、たとえば、金属からなる多孔体、当該金属の酸化物からなる多孔体、金属および当該金属の酸化物を含む多孔体が挙げられる。
【0025】
骨格の本体におけるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合が0.2以上である多孔体では、強度が高く、SOFCスタック化時に変形したとしても骨格に割れが起きにくい傾向がある。また、骨格の本体におけるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合が0.8以下である多孔体では、当該多孔体を空気極用集電体または水素極用集電体として燃料電池を製造しても、燃料電池の構成部材である固体電解質が割れにくい傾向がある。そのため、上記骨格の本体における上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対する上記コバルトの質量割合が0.2以上0.8以下であるとき、上記骨格を備える多孔体は燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有する。
【0026】
上記多孔体は、その外観がシート状、直方体状、球状および円柱状などの各種の形状を有することができる。なかでも多孔体は、シート状の外観を有し、厚みが0.2mm以上2mm以下であることが好ましい。多孔体の厚みは、0.5mm以上1mm以下であることがより好ましい。多孔体の厚みが2mm以下であることより、従来に比べ厚みの薄い多孔体となっており必要な金属量を低減すること、及びコンパクトな燃料電池を製造することができる。多孔体の厚みが0.2mm以上であることより必要な強度を備えることができる。上記厚みは、たとえば市販のデジタルシックネスゲージによって測定が可能である。
【0027】
<骨格>
多孔体は、上述のとおり三次元網目状構造を有する骨格を備える。骨格の本体は、ニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含む。上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して0.2以上0.8以下である。
【0028】
骨格は、図1に示すように、気孔部14を有する三次元網目状構造を有する。ここで三次元網目状構造の詳細については、後述する。骨格12は、ニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含む本体11(以下、「骨格本体11」と記載する場合がある。)、およびこの骨格本体11に囲まれた中空の内部13からなる。骨格本体11は、後述する支柱部およびノード部を形成している。このように骨格は、中空であることが好ましい。
【0029】
さらに骨格12は、図2に示すように、その長手方向に直交する断面の形状が三角形であることが好ましい。しかし骨格12の断面形状は、これに限定されるべきではない。骨格12の断面形状は、四角形、六角形などの三角形以外の多角形であってもよい。本実施形態において「三角形」とは、幾何学的な三角形のみならず、略三角形の形状(例えば、頂角が面取りされている形状、頂角にRが付与されている形状等)も含む概念である。他の多角形についても同様である。本実施形態の一側面において、骨格12の断面形状が円形であってもよい。
【0030】
すなわち骨格12は、骨格本体11に囲まれた内部13が中空の筒形状を有し、長手方向に直交する断面が三角形またはその他の多角形、あるいは円形であることが好ましい。骨格12は、筒形状であるので骨格本体11において筒の内側面をなす内壁、および筒の外側面をなす外壁を有している。骨格12は、骨格本体11に囲まれた内部13が中空であることにより、多孔体を非常に軽量とすることができる。ただし骨格は、中空であることに限定されず、中実であってもよい。上記内部13が中実である場合、多孔体の強度を向上することができる。
【0031】
骨格は、ニッケルおよびコバルトの合計の目付量が200g/m以上1000g/m以下であることが好ましい。上記目付量は、250g/m以上900g/m以下であることがより好ましい。後述するように、上記目付量は、導電性を付与する導電化処理を施した導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金めっきを行なうときなどに、その量を適宜調整することができる。
【0032】
上述したニッケルおよびコバルトの合計の目付量を、骨格の単位体積当たりの質量(骨格の見かけの密度)に換算すると次のとおりとなる。すなわち上記骨格の見かけの密度は、0.14g/cm以上0.75g/cm以下であることが好ましく、0.18g/cm以上0.65g/cm以下であることがより好ましい。ここで「骨格の見かけの密度」は、次式で定義される。
骨格の見かけの密度(g/cm)=M(g)/V(cm
M:骨格の質量[g]
V:骨格における外観の形状の体積[cm]。
【0033】
骨格は、その気孔率が40%以上98%以下であることが好ましく、45%以上98%以下であることがより好ましく、50%以上98%以下であることが最も好ましい。骨格の気孔率が40%以上であることにより、多孔体を非常に軽量なものとすることができ、かつ多孔体の表面積を大きくすることができる。骨格の気孔率が98%以下であることにより、多孔体に十分な強度を備えさせることができる。
【0034】
骨格の気孔率は、次式で定義される。
気孔率(%)=[1-{M/(V×d)}]×100
M:骨格の質量[g]
V:骨格における外観の形状の体積[cm
d:骨格を構成する物質自体の密度[g/cm]。
【0035】
骨格は、その平均気孔径が60μm以上3500μm以下であることが好ましい。骨格の平均気孔径が60μm以上であることにより、多孔体の強度を高めることができる。骨格の平均気孔径が3500μm以下であることにより、多孔体の曲げ性(曲げ加工性)を高めることができる。これらの観点から、骨格の平均気孔径は60μm以上1000μm以下であることがより好ましく、100μm以上850μm以下であることが最も好ましい。
【0036】
骨格の平均気孔径は、次の方法により求めることができる。すなわち、まず顕微鏡を用いて骨格の表面を3000倍の倍率で拡大した観察像を少なくとも10視野準備する。次に、この10視野のそれぞれにおいて上記骨格における1インチ(25.4mm=25400μm)あたりの気孔の数を求める。さらに、この10視野における気孔の数を平均値(n)とした上で、これを次式に代入することより算出される数値を、骨格の平均気孔径とする。
平均気孔径(μm)=25400μm/n
【0037】
ここで、上記骨格の気孔率および平均気孔径は、多孔体の気孔率および平均気孔径と把握することもできる。
【0038】
骨格の本体は、その断面を3000倍の倍率で観察することにより観察像を得た場合、上記観察像の任意の10μm四方の領域において現われる長径1μm以上の空隙の数が5個以下であることが好ましい。本実施形態において「長径」とは、上記観察像における空隙の外縁上の任意の2点間距離のうち、最長の距離を意味する。この空隙の数は、3個以下であることがより好ましい。これにより多孔体の強度を十分に向上させることができる。さらに骨格の本体は、上記空隙の数が5個以下であることにより、微粉を焼結してなる成形体とは異なることが理解される。観察される空隙の数の下限は、たとえば0個である。ここで「空隙の数」とは、骨格本体の断面における複数(例えば、10か所)の「10μm四方の領域」をそれぞれ観察することにより求められる空隙の数平均を意味する。
【0039】
骨格の断面の観察は、電子顕微鏡を用いることにより行うことができる。具体的には、10視野において骨格本体の断面の観察を行なうことにより、上述の「空隙の数」を求めることが好ましい。骨格本体の断面は、骨格の長手方向に直交する断面(例えば図2)であってもよく、骨格の長手方向と平行な断面(例えば図1)であってもよい。観察像において空隙は、色のコントラスト(明暗の差)によってその他の部分と区別することができる。空隙の長径の上限は制限されるべきではないが、たとえば10000μmである。
【0040】
骨格本体の平均厚みは、10μm以上50μm以下であることが好ましい。ここで「骨格本体の厚み」とは、上記骨格の内部の中空との界面である内壁から骨格の外側の外壁までの最短距離を意味する。複数箇所で求めた「骨格本体の厚み」の平均値を「骨格本体の平均厚み」とする。骨格本体の厚みは、骨格の断面を電子顕微鏡で観察することにより求めることができる。
【0041】
骨格本体の平均厚みは、具体的には以下の方法により求めることができる。まずシート状の多孔体を、骨格本体の断面が現れるように切断する。切断された断面を一つ選択し、これを3000倍の倍率で拡大して電子顕微鏡により観察することにより観察像を得る。次に、この観察像に現れた1個の骨格を形成する多角形(たとえば、図2の三角形)のうちの任意の1辺の厚みを、その1辺の中央部において測定し、これを骨格本体の厚みとする。さらに、このような測定を10枚(10視野)の観察像に対して行なうことにより、10点の骨格本体の厚みを得る。最後に、これらの平均値を算出することにより、骨格本体の平均厚みを求めることができる。
【0042】
(三次元網目状構造)
多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備える。本実施形態において「三次元網目状構造」とは、立体的な網目状の構造を意味する。三次元網目状構造は、骨格によって形成される。以下、三次元網目状構造について詳細に説明する。
【0043】
三次元網目状構造30は、図7に示すように、セル部20を基本の単位としており、複数のセル部20が接合することによって形成される。セル部20は、図3Aおよび図3Bに示すように、支柱部1と、複数の支柱部1を繋ぐノード部2とを備える。支柱部1とノード部2とは、便宜上その用語について分けて説明されるが、両者の間に明確な境界はない。すなわち複数の支柱部1と複数のノード部2とが一体となってセル部20が形成され、このセル部20を構成単位として三次元網目状構造30が形成される。以下、理解を容易にするため、図3Aのセル部を図3Bの正十二面体に見立てて説明する。
【0044】
まず支柱部1およびノード部2は、それぞれが複数存在することによって、平面状の多角形構造体であるフレーム部10を形成する。図3Bにおいて、フレーム部10の多角形構造体は正五角形であるが、三角形、四角形、六角形などの正五角形以外の多角形であってもよい。ここでフレーム部10の構造について、複数の支柱部1と複数のノード部2とによって平面多角形状の孔が形成されていると把握することもできる。本実施形態において、平面多角形状の孔の孔径は、フレーム部10によって画定する平面多角形状の孔に外接する円の直径を意味する。フレーム部10は、その複数が組み合わせられることによって、立体状の多面体構造体であるセル部20を形成する。このとき、1個の支柱部1および1個のノード部2は、複数のフレーム部10で共有される。
【0045】
支柱部1は、上述した図2の模式図で示すように、中空の筒形状を有し、断面が三角形であることが好ましいが、これに限定されるべきではない。支柱部1は、断面形状が四角形、六角形などの三角形以外の多角形、あるいは円形であってもよい。ノード部2の形状は、頂点を有するようなシャープエッジの形状であってもよいし、当該頂点が面取りされているような平面状であってもよいし、当該頂点にアールが付与されたような曲面状であってもよい。
【0046】
セル部20の多面体構造体は、図3Bにおいて十二面体であるが、立方体、二十面体(図4A)、切頂二十面体(図4B)などの他の多面体であってもよい。ここでセル部20の構造について、複数のフレーム部10のそれぞれによって画定する仮想平面Aによって囲まれた立体状の空間(気孔部14)が形成されていると把握することもできる。本実施形態において、上記立体状の空間の孔径(以下、「気孔径」とも記す。)は、セル部20によって画定する上記立体状の空間に外接する球の直径と把握することができる。ただし、本実施形態における多孔体の平均気孔径は、便宜的に上述した計算式に基づいて算出される。すなわちセル部20によって画定する立体状の空間の孔径(気孔径)の平均値は、上記骨格の平均気孔径であるとみなす。
【0047】
セル部20は、これが複数組み合わせられることによって三次元網目状構造30を形成する(図5図7)。このとき、フレーム部10は2つのセル部20で共有されている。三次元網目状構造30は、フレーム部10を備えると把握することもできるし、セル部20を備えると把握することもできる。
【0048】
多孔体は、上述したように平面多角形状の孔(フレーム部)と立体状の空間(セル部)とを形成する三次元網目状構造を有している。このため平面状の孔のみを有する二次元網目状構造体(たとえばパンチングメタル、メッシュなど)と明確に区別することができる。さらに多孔体は、複数の支柱部と複数のノード部とが一体となって三次元網目状構造を形成しているため、構成単位である繊維同士が絡み合わされて形成された不織布などのような構造体と明確に区別することができる。多孔体は、このような三次元網目状構造を有することから、連通気孔を有することができる。
【0049】
本実施形態において三次元網目状構造は、上述の構造に限定されない。たとえばセル部は、その大きさおよび平面的形状がそれぞれ異なる複数のフレーム部によって形成されていてもよい。さらに三次元網目状構造は、その大きさおよび立体的形状がそれぞれ異なる複数のセル部によって形成されていてもよい。三次元網目状構造は、平面多角形状の孔が形成されていないフレーム部を一部に含んでいてもよいし、立体状の空間が形成されていないセル部(内部が中実であるセル部)を一部に含んでいてもよい。
【0050】
(ニッケルおよびコバルト)
骨格の本体は、上述のとおりニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含む。骨格の本体は、本開示の多孔体が有する作用効果に影響を与えない限り、ニッケル、コバルト、第一元素及び第二元素以外の他の成分を含むことを除外するものではない。本実施形態の一側面において、骨格の本体は、金属成分として上記の4成分(ニッケル、コバルト、第一元素および第二元素)からなることが好ましい。具体的には、骨格の本体は、ニッケルおよびコバルトからなるニッケル-コバルト合金と上記第一元素と上記第二元素とを含むことが好ましい。ニッケル-コバルト合金は、骨格の本体における主成分であることが好ましい。ここで骨格の本体における「主成分」とは、骨格の本体において占める質量割合が最も多い成分をいう。より具体的には、骨格の本体における質量割合が50質量%を超える成分をいう。
【0051】
骨格の本体におけるニッケルの質量とコバルトの質量との合計の割合は、たとえば多孔体をSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体として用いる前の状態、すなわち多孔体を700℃以上の高温に曝す前の状態において、上記骨格の本体の質量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。ニッケルの質量とコバルト質量との合計の割合の上限は、上記骨格の本体の質量に対して、100質量%未満であってもよいし、99質量%以下であってもよいし、95質量%以下であってもよい。
【0052】
ニッケルおよびコバルトは、これらの質量の合計の割合が高いほど、多孔体をSOFCの空気極用集電体および水素極用集電体などに用いた場合、生成される酸化物がニッケルおよびコバルトの少なくとも一方と酸素とからなるスピネル型酸化物となる割合が高まる傾向がある。これにより多孔体は、高温環境下で使用された場合にも高い導電性を維持することができる。
【0053】
(ニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合)
コバルトの質量割合は、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下である。このような組成を有する骨格を備える多孔体をSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体などに用いた場合、酸化によってNi3-xCo(ただし、0.6≦x≦2.4)、典型的にはNiCoまたはNiCoOの化学式で示されるスピネル型酸化物が骨格中に生成される。骨格本体の酸化によりCoCoの化学式で示されるスピネル型酸化物が生成される場合もある。スピネル型酸化物は、高い導電性を示し、もって多孔体は、高温環境下での使用によって骨格本体の全体が酸化された場合にも高い導電性を維持することができる。
【0054】
上記コバルトの質量割合は、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対して0.2以上0.45以下又は0.6以上0.8以下であることが好ましく、0.2以上0.45以下であることが更に好ましい。上記骨格の本体において、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合が0.6以上0.8以下である場合、上記多孔体は強度が更に高く、SOFCのスタック化時に変形したとしても骨格の本体に割れが更に起きにくい傾向がある。また、上記骨格の本体において、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合が0.2以上0.45以下である場合、当該多孔体を空気極用集電体または水素極用集電体として燃料電池を製造しても、燃料電池の構成部材である固体電解質が割れにくい傾向がある。
【0055】
(酸素)
骨格の本体は、酸素を構成元素としてさらに含むことが好ましい。具体的には、酸素は、上記骨格の本体において0.1質量%以上35質量%以下含まれることがより好ましい。骨格本体中の酸素は、たとえば多孔体をSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体として用いた後に検出され得る。すなわち多孔体を700℃以上の高温に曝した後の状態で、酸素は、上記骨格の本体において0.1質量%以上35質量%以下含まれることが好ましい。酸素は、上記骨格の本体において10質量%以上30質量%以下含まれることがより好ましく、25質量%以上28質量%以下含まれることがさらに好ましい。
【0056】
上記骨格の本体において構成元素として酸素が0.1質量%以上35質量%以下含まれる場合、多孔体が700℃以上の高温に曝されたという熱履歴を伺い知ることができる。さらに、多孔体がSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体などに用いられることにより700℃以上の高温に曝され、骨格中にニッケルおよびコバルトの少なくとも一方、ならびに酸素からなるスピネル型酸化物が生成された場合、上記骨格の本体には、酸素が構成元素として0.1質量%以上35質量%以下含まれる傾向がある。
【0057】
すなわち骨格の本体は、スピネル型酸化物を含むことが好ましい。これにより多孔体は、酸化された場合にも高い導電性をより効果的に維持することができる。上記骨格の本体において酸素の質量割合が上述の範囲を外れる場合、多孔体は、酸化された場合において高い導電性をより効果的に維持する性能が、所望のとおりに得られない傾向がある。
【0058】
(第一元素)
上記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。上記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなることが好ましい。上記第一元素は、ニッケルとコバルトとを含む結晶粒の粒界に存在していると考えられる。上記第一元素が上記結晶粒の粒界に存在していることで、当該結晶粒の粗大化が抑制され、ひいては骨格本体の硬度(強度)が向上していると本発明者らは考えている。
【0059】
上記第一元素の質量割合は、上記骨格の本体の質量に対して、4ppm以上40000ppm以下であることが好ましく、20ppm以上10000ppm以下であることがより好ましい。上記第一元素が複数種類含まれている場合、上記第一元素の質量割合は、これら複数種類の元素の質量割合の合計を意味する。上記第一元素の質量割合は、後述するEDX装置(エネルギー分散型X線分析装置)で求めることが可能である。
【0060】
(第二元素)
上記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。上記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなることが好ましい。上記第二元素は、ニッケルとコバルトとを含む結晶粒の粒界に存在していると考えられる。上記第二元素が上記結晶粒の粒界に存在していることで、当該結晶粒の粗大化が抑制され、ひいては骨格本体の硬度(強度)が向上していると本発明者らは考えている。
【0061】
また、上記第二元素は、上記第一元素と共に上記骨格本体に含まれることで、上記第一元素の粒界拡散を防止していると考えられる。一方で上記第一元素は、上記第二元素と共に上記骨格本体に含まれることで、上記第二元素の粒界拡散を防止していると考えられる。すなわち、上記第一元素と上記第二元素とは、共に上記骨格本体に含まれることで、両者の粒界拡散を防止して、ひいては上記結晶粒の粗大化を効率的に抑制していると本発明者らは考えている。
【0062】
上記第二元素の質量割合は、上記骨格の本体の質量に対して、1ppm以上10000ppm以下であることが好ましく、1ppm以上5000ppm以下であることがより好ましい。上記第二元素が複数種類含まれている場合、上記第二元素の質量割合は、これら複数種類の元素の質量割合の合計を意味する。上記第二元素の質量割合は、後述するEDX装置で求めることが可能である。
【0063】
本実施形態の一側面において、上記第一元素はホウ素であり、かつ上記第二元素はナトリウム、アルミニウム、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってもよい。上記第一元素は鉄であり、かつ上記第二元素はマグネシウム、銅、カリウム及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってもよい。上記第一元素はカルシウムであり、かつ上記第二元素はナトリウム、スズ、クロム、チタン及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってもよい。
【0064】
本実施形態の一側面において、上記第一元素はホウ素及びカルシウムであり、かつ上記第二元素はナトリウム、アルミニウム及びケイ素であってもよい。上記第一元素はホウ素及び鉄であり、かつ上記第二元素はマグネシウム及びスズであってもよい。上記第一元素はホウ素、鉄及びカルシウムであり、かつ上記第二元素はナトリウム、アルミニウム、ケイ素及びスズであってもよい。
【0065】
上記第一元素の質量と上記第二元素の質量との合計の割合は、上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下であり、10ppm以上10000ppm以下であることが好ましく、55ppm以上477ppm以下であることがより好ましい。ここで、上記第一元素が複数種類含まれている場合、上記第一元素の質量は、これら複数種類の元素の質量の合計を意味する。上記第二元素の場合も同様である。
【0066】
(他の成分)
骨格の本体は、本開示の多孔体が有する作用効果に影響を与えない限り、上述のように他の成分を構成元素として含むことができる。骨格は、他の成分としてたとえば炭素、タングステン、リン、銀、金、モリブデン、窒素、硫黄、フッ素、及び塩素などが含まれていてもよい。さらに骨格の本体は、他の成分として上述の酸素が、多孔体をSOFCの空気極用集電体または水素極用集電体として用いる前の状態において含まれていてもよい。骨格本体中において他の成分は、これら単独で5質量%以下であることが好ましく、これらの合計で10質量%以下であることが好ましい。
【0067】
本実施形態の一側面において、上記骨格の本体は、窒素、硫黄、フッ素、及び塩素からなる群より選ばれる少なくとも1つの非金属元素を構成元素として更に含んでいてもよい。上記非金属元素は、その質量の合計の割合が上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上10000ppm以下であってもよい。好ましくは、上記非金属元素はその質量の合計の割合が上記骨格の本体の質量に対して10ppm以上8000ppm以下である。
【0068】
また、上記骨格の本体は、リンを構成元素として更に含んでいてもよい。このとき、リンの質量割合は、上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下であってもよい。好ましくは、上記リンの質量割合は、上記骨格の本体の質量に対して10ppm以上40000ppm以下である。
【0069】
本実施形態の他の一側面において、上記骨格の本体は、窒素、硫黄、フッ素、塩素、及びリンからなる群より選ばれる少なくとも2つの非金属元素を構成元素として更に含んでいてもよい。上記非金属元素は、その質量の合計の割合が上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下であってもよい。好ましくは、上記非金属元素は、その質量の合計の割合が上記骨格の本体の質量に対して10ppm以上10000ppm以下である。
【0070】
上記多孔体を燃料電池の空気極用集電体または水素極用集電体として用いた場合、上述のように700℃以上の高温環境に曝されるが、上記骨格の本体が上述の非金属元素を構成元素として含んでいることにより、適度な強度を維持することができる。
【0071】
(各元素の質量割合の測定方法)
骨格の本体における各元素(例えば酸素)の質量割合(質量%)については、切断された骨格の断面の観察像(電子顕微鏡像)に対し、電子顕微鏡(SEM)に付帯のEDX装置(たとえばSEM部分:商品名「SUPRA35VP」、カールツァイスマイクロスコピー株式会社製、EDX部分:商品名「octane super」、アメテック株式会社製)を用いて分析することにより求めることができる。上記EDX装置により、骨格の本体におけるニッケル、コバルト、第一元素及び第二元素の質量割合を求めることも可能である。具体的には、上記EDX装置により検出された各元素の原子濃度に基づいて、骨格の本体におけるニッケル、コバルト、第一元素及び第二元素の質量%、質量比などをそれぞれ求めることができる。骨格の本体に酸素が含まれる場合には、骨格の本体における酸素の質量%も同様の方法で求めることができる。さらに、上記骨格の本体がニッケルおよびコバルトの少なくとも一方、ならびに酸素からなるスピネル型酸化物を有するか否かについては、上記断面に対してX線を照射し、その回折パターンを解析するX線回折(XRD)法を用いることによって特定することができる。
【0072】
上記骨格の本体がスピネル型酸化物を有するか否かを特定する測定装置については、たとえばX線回折装置(たとえば商品名(型番):「Empyrean」、スペクトリス株式会社製、解析ソフト:「統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL」)を用いることができる。測定条件は、たとえば次のとおりとすればよい。
【0073】
(測定条件)
X線回折法: θ-2θ法
測定系: 平行ビーム光学系ミラー
スキャン範囲(2θ): 10~90°
積算時間: 1秒/ステップ
ステップ: 0.03°。
【0074】
≪燃料電池≫
本実施形態に係る燃料電池は、空気極用集電体および水素極用集電体を備える燃料電池である。上記空気極用集電体または上記水素極用集電体の少なくとも一方は、上記の多孔体を含む。上記空気極用集電体または水素極用集電体は、上述のように燃料電池用の集電体として適度な強度を有する多孔体を含む。そのため上記空気極用集電体または水素極用集電体は、SOFCの空気極用集電体または水素極用集電体の少なくとも一方として好適である。上記燃料電池は、多孔体がニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを含むため、上記多孔体を空気極用集電体として用いることがより好適である。
【0075】
図8は、本開示の一態様に係る燃料電池を示す模式断面図である。燃料電池150は、水素極用集電体110と、空気極用集電体120と、燃料電池用セル100とを備える。上記燃料電池用セル100は、上記水素極用集電体110と、上記空気極用集電体120との間に設けられている。ここで「水素極用集電体」とは、燃料電池において水素を供給する側の集電体を意味する。「空気極用集電体」とは、燃料電池において酸素を含むガス(例えば、空気)を供給する側の集電体を意味する。
【0076】
図9は、本開示の一態様に係る燃料電池用セルを示す模式断面図である。上記燃料電池用セル100は、空気極102と、水素極108と、上記空気極102と上記水素極108との間に設けられている電解質層106と、上記電解質層106と上記空気極102との反応を防ぐため、それらの間に設けられる中間層104とを備える。空気極としては、例えば、LaSrCoの酸化物(LSC)が用いられる。電解質層としては、例えば、YがドープされたZrの酸化物(YSZ)が用いられる。中間層としては、例えば、GdがドープされたCeの酸化物(GDC)が用いられる。水素極としては、例えば、YSZとNiOとの混合体が用いられる。
【0077】
上記燃料電池150は、燃料流路114を有する第一インターコネクタ112と、酸化剤流路124を有する第二インターコネクタ122とを更に備える。燃料流路114は、水素極108に燃料(例えば、水素)を供給するための流路である。燃料流路114は、第一インターコネクタ112における主面であって水素極用集電体110と向かい合っている主面に設けられている。酸化剤流路124は、空気極102に酸化剤(例えば、酸素)を供給するための流路である。酸化剤流路124は、第二インターコネクタ122における主面であって空気極用集電体120と向かい合っている主面に設けられている。
【0078】
≪多孔体の製造方法≫
本実施形態に係る多孔体は、従来公知の手法を適宜用いることにより製造することができる。このため上記多孔体の製造方法は、特に制限されるべきではないが、次の方法とすることが好ましい。
【0079】
すなわち、三次元網目状構造を有する樹脂成形体に導電被覆層を形成することにより導電性樹脂成形体を得る工程(第1工程)と、上記導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金めっきを行なうことにより多孔体前駆体を得る工程(第2工程)と、上記多孔体前駆体に対して熱処理を行なって、導電性樹脂成形体中の樹脂成分を焼却し、これを除去することにより多孔体を得る工程(第3工程)とを含む多孔体の製造方法により、多孔体を製造することが好ましい。ここで、本実施形態において「ニッケル-コバルト合金」とは、ニッケル及びコバルトを主成分とする合金であって、他の元素を含みうる合金(例えば、ニッケル及びコバルトを主成分とし、かつ上記第一元素及び上記第二元素を含む合金)を意味する。
【0080】
<第1工程>
まず、三次元網目状構造を有する樹脂成形体(以下、単に「樹脂成形体」とも記す。)のシートを準備する。樹脂成形体としてポリウレタン樹脂、メラミン樹脂などを用いることができる。さらに、樹脂成形体に導電性を付与する導電化処理として、樹脂成形体の表面に導電被覆層を形成する。この導電化処理としては、たとえば以下の方法を挙げることができる。
(1)カーボン、導電性セラミックなどの導電性粒子およびバインダーを含有した導電性塗料を塗布、含浸などの手段により樹脂成形体の表面に含ませること、
(2)無電解めっき法によってニッケルおよび銅などの導電性金属による層を樹脂成形体の表面に形成すること、
(3)蒸着法またはスパッタリング法によって導電性金属による層を樹脂成形体の表面に形成すること。これにより、導電性樹脂成形体を得ることができる。
【0081】
<第2工程>
次に、上記導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金めっきを行なうことにより多孔体前駆体を得る。ニッケル-コバルト合金めっきの方法は、無電解めっきを適用することもできるが、効率の観点から電解めっき(所謂、合金の電気めっき)を用いることが好ましい。ニッケル-コバルト合金の電解めっきでは、導電性樹脂成形体をカソードとして用いる。
【0082】
ニッケル-コバルト合金の電解めっきに用いるめっき浴としては、公知のものを使用することができる。たとえばワット浴、塩化浴、スルファミン酸浴などを用いることができる。ニッケル-コバルト合金の電解めっきの浴組成は、たとえば以下の例を挙げることができる。
【0083】
(浴組成)
塩(水溶液): スルファミン酸ニッケルおよびスルファミン酸コバルト(NiおよびCoの合計量として350~450g/L)
ただし、Ni及びCoそれぞれの質量比については、所望するNiおよびCoの合計質量に対するCoの質量割合により、Co/(Ni+Co)=0.2~0.8から調整する。
第一元素を構成元素として含む塩
第二元素を構成元素として含む塩
ホウ酸: 30~40g/L
pH: 4~4.5。
【0084】
上述の第一元素を構成元素として含む塩としては、例えば、Na(OH)・8HO、FeSO・7HO及びCaSO・2HOが挙げられる。
【0085】
上述の第二元素を構成元素として含む塩としては、例えば、NaSO、Al(SO、NaSiO、MgSO、CuSO・5HO、KSO、SnSO、Cr(SO・nHO、Ti(SO及びZnSO・7HOが挙げられる。
【0086】
ニッケル-コバルト合金の電解めっきの電解条件は、たとえば以下の例を挙げることができる。
(電解条件)
温度: 40~60℃
電流密度: 0.5~10A/dm
アノード: 不溶性陽極。
【0087】
以上により、導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金がめっきされた多孔体前駆体を得ることができる。また、窒素、硫黄、フッ素、塩素、リンといった非金属元素を添加する場合は、めっき浴中に各種添加物を投入することで、多孔体前駆体中に含有させることができる。各種添加物の例として、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、各非金属元素が含まれていればよい。
【0088】
<第3工程>
続いて、上記多孔体前駆体に対して熱処理を行なって、導電性樹脂成形体中の樹脂成分を焼却し、これを除去することにより多孔体を得る。これにより、三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体を得ることができる。上記樹脂成分を除去するための熱処理の温度および雰囲気は、たとえば600℃以上とし、大気などの酸化性雰囲気とすればよい。
【0089】
ここで上記の方法により得た多孔体の平均気孔径は、樹脂成形体の平均気孔径とほぼ等しくなる。このため多孔体を適用する用途に応じ、多孔体を得るために用いる樹脂成形体の平均気孔径を適宜選択すればよい。多孔体の気孔率は、最終的にはめっきされる金属量(目付量)で決定されるため、最終製品である多孔体において求められる気孔率に応じ、めっきするニッケル-コバルト合金の目付量を適宜選択すればよい。樹脂成形体の気孔率および平均気孔径は、上述した骨格の気孔率および平均気孔径と同様に定義され、かつ「骨格」を「樹脂成形体」に読み替えて適用することにより、上述の計算式に基づいて求めることができる。
【0090】
以上の工程を経ることより、本実施形態に係る多孔体を製造することができる。上記多孔体は、三次元網目状構造を有する骨格を備え、上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含む。さらに上記コバルトの質量割合は、ニッケルおよびコバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下である。上記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、上記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、上記第一元素の質量割合と上記第二元素の質量割合との合計は、上記骨格の本体に対して5ppm以上50000ppm以下である。もって多孔体は、燃料電池の空気極用集電体または水素極用集電体として適度な強度を有することができる。
【0091】
以上の説明は、以下に付記する特徴を含む。
(付記1)
三次元網目状構造を有する骨格を備えた多孔体であって、
上記骨格の本体は、ニッケルとコバルトと第一元素と第二元素とを構成元素として含み、
上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.8以下であり、
上記第一元素は、ホウ素、鉄及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、
上記第二元素は、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、カリウム、チタン、クロム、銅、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、
上記第一元素の質量と上記第二元素の質量との合計の割合は、上記骨格の本体の質量に対して5ppm以上50000ppm以下である、多孔体。
(付記2)
上記コバルトの質量割合は、上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.2以上0.45以下である、付記1に記載の多孔体。
(付記3)
上記第一元素の質量と上記第二元素の質量との合計の割合は、上記骨格の本体の質量に対して55ppm以上477ppm以下である、付記1に記載の多孔体。
(付記4)
上記骨格の本体における上記ニッケルおよび上記コバルトの合計の質量割合は、80質量%以上100質量%未満である、付記1に記載の多孔体。
(付記5)
上記第一元素はホウ素であり、かつ上記第二元素はナトリウム、アルミニウム、亜鉛及びスズからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である、付記1に記載の多孔体。
(付記6)
上記第一元素は鉄であり、かつ上記第二元素はマグネシウム、銅、カリウム及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である、付記1に記載の多孔体。
(付記7)
上記第一元素はカルシウムであり、かつ上記第二元素はナトリウム、スズ、クロム、チタン及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である、付記1に記載の多孔体。
(付記8)
上記第一元素はホウ素及びカルシウムであり、かつ上記第二元素はナトリウム、アルミニウム及びケイ素である、付記1に記載の多孔体。
(付記9)
上記第一元素はホウ素及び鉄であり、かつ上記第二元素はマグネシウム及びスズである、付記1に記載の多孔体。
(付記10)
上記第一元素はホウ素、鉄及びカルシウムであり、かつ上記第二元素はナトリウム、アルミニウム、ケイ素及びスズである、付記1に記載の多孔体。
【実施例
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0093】
≪多孔体の作製≫
<試料1~試料12>
以下の手順で試料1~試料12の多孔体を作製した。
(第1工程)
まず三次元網目状構造を有する樹脂成形体として1.5mm厚のポリウレタン樹脂製シートを準備した。このポリウレタン樹脂製シートの気孔率および平均気孔径を上述の計算式に基づいて求めたところ、上記気孔率は96%であり、上記平均気孔径は450μmであった。
【0094】
次に、導電性塗料(カーボンブラックを含むスラリー)を上記樹脂成形体に含浸し、その後ロールで絞って乾燥させることにより、樹脂成形体の表面に導電被覆層を形成した。これにより導電性樹脂成形体を得た。
【0095】
(第2工程)
上記導電性樹脂成形体をカソードとし、下記の浴組成および電解条件の下で電解めっきを行なった。これにより、導電性樹脂成形体上にニッケル-コバルト合金を660g/m付着させ、もって多孔体前駆体を得た。
【0096】
〈浴組成〉
塩(水溶液):スルファミン酸ニッケル及びスルファミン酸コバルトの水溶液 NiおよびCoの合計量を400g/Lとした。
Co/(Ni+Co)の質量割合を0.22、0.58又は0.78とした。
第一元素としてホウ素を、表1に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Na(OH)・8HOをめっき浴中に添加した。
第二元素としてナトリウム、アルミニウム、亜鉛又はスズを、表1に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、NaSO、Al(SO、ZnSO・7HO又はSnSOをめっき浴中に添加した。
ホウ酸: 35g/L
pH: 4.5。
【0097】
〈電解条件〉
温度: 50℃
電流密度: 5A/dm
アノード: 不溶性陽極。
【0098】
(第3工程)
上記多孔体前駆体に対して熱処理を行なって、導電性樹脂成形体中の樹脂成分を焼却し、これを除去することにより試料1~試料12の多孔体を得た。このとき、上記樹脂成分を除去するための熱処理の温度は650℃であり、熱処理中の雰囲気は大気雰囲気であった。
【0099】
<試料13~試料24>
第2工程において、第一元素として鉄を、表1に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、FeSO・7HOをめっき浴中に添加したこと、及び、第二元素としてマグネシウム、銅、カリウム又はアルミニウムを、表1に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、MgSO、CuSO・5HO、KSO又はAl(SOをめっき浴中に添加したこと以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料13~試料24の多孔体を作製した。
【0100】
<試料25~試料36>
第2工程において、第一元素としてカルシウムを、表2に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、CaSO・2HOをめっき浴中に添加したこと、及び、第二元素としてナトリウム、スズ、クロム又はチタンを、表2に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、NaSO、SnSO、Cr(SO・nHO又はTi(SOをめっき浴中に添加したこと以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料25~試料36の多孔体を作製した。
【0101】
<試料37~試料39>
第2工程において、第一元素としてカルシウムを、表2に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、CaSO・2HOをめっき浴中に添加したこと、及び、第二元素としてケイ素及びナトリウムを、表2に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、NaSiOをめっき浴中に添加したこと以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料37~試料39の多孔体を作製した。
【0102】
<試料40~試料42>
第2工程において、第一元素としてホウ素及びカルシウムを、表3に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Na(OH)・8HO及びCaSO・2HOをめっき浴中に添加したこと、並びに、第二元素としてアルミニウム、ケイ素及びナトリウムを、表3に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Al(SO及びNaSiOをめっき浴中に添加したこと以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料40~試料42の多孔体を作製した。
【0103】
<試料43~試料45>
第2工程において、第一元素としてホウ素及び鉄を、表3に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Na(OH)・8HO及びFeSO・7HOをめっき浴中に添加したこと、並びに、第二元素としてマグネシウム及びスズを、表3に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、MgSO及びSnSOをめっき浴中に添加したこと以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料43~試料45の多孔体を作製した。
【0104】
<試料46~試料48>
第2工程において、第一元素としてホウ素、鉄及びカルシウムを、表3に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Na(OH)・8HO、FeSO・7HO及びCaSO・2HOをめっき浴中に添加したこと、並びに、第二元素としてアルミニウム、ケイ素、スズ及びナトリウムを、表3に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Al(SO、NaSiO及びSnSOをめっき浴中に添加したこと以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料46~試料48の多孔体を作製した。
【0105】
<試料101~試料103>
第2工程において、第一元素及び第二元素に対応する塩をめっき浴中に添加しなかったこと(表4)以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料101~試料103の多孔体を作製した。なお、表4及び後述する表5中、「第一元素」及び「第二元素」の欄において「-」で示されている箇所は、対応する元素が多孔体中に含まれていないことを意味する。
【0106】
<試料104~試料112>
第2工程において、第一元素に対応する塩をめっき浴中に添加しなかったこと、及び、第二元素としてスズ、ナトリウム又はクロムを、表4に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、SnSO、NaSO又はCr(SO・nHOをめっき浴中に添加したこと以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料104~試料112の多孔体を作製した。
【0107】
<試料113~試料121>
第2工程において、第一元素としてホウ素、鉄又はカルシウムを、表5に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Na(OH)・8HO、FeSO・7HO又はCaSO・2HOをめっき浴中に添加したこと、及び、第二元素に対応する塩をめっき浴中に添加しなかったこと(表5)以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料113~試料121の多孔体を作製した。
【0108】
<試料122~試料130>
第2工程において、第一元素としてホウ素、鉄又はカルシウムを、表5に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Na(OH)・8HO、FeSO・7HO又はCaSO・2HOをめっき浴中に添加したこと、及び、第二元素としてアルミニウムを、表5に記載の質量割合で多孔体中に含まれるように、Al(SOをめっき浴中に添加したこと以外は<試料1~試料12>と同じにすることで、試料122~試料130の多孔体を作製した。
【0109】
以上の手順で、試料1~試料48の多孔体及び試料101~試料130の多孔体を得た。ここで、試料1~試料48は実施例に相当し、試料101~試料130は比較例に相当する。
【0110】
≪多孔体の性能評価≫
<多孔体の物性分析>
上述の方法により得た試料1~試料48の多孔体及び試料101~試料130の多孔体に関し、これらの骨格の本体におけるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合を、それぞれ上記SEMに付帯のEDX装置(SEM部分:商品名「SUPRA35VP」、カールツァイスマイクロスコピー株式会社製、EDX部分:商品名「octane super」、アメテック株式会社製)を用いて調べた。具体的には、まず各試料の多孔体を切断した。次に切断された多孔体の骨格の断面を、上記EDX装置によって観察し、検出された各元素の原子濃度に基づいて当該コバルトの質量割合を求めた。その結果、試料1~試料48の多孔体及び試料101~試料130の多孔体の骨格本体におけるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合はいずれも、これらを作製するのに用いためっき浴に含まれるニッケルおよびコバルトの合計質量に対するコバルトの質量割合(Co/(Ni+Co)の質量比)と一致した。
【0111】
さらに試料1~試料48の多孔体及び試料101~試料130の多孔体に対し、上述した計算式に従って骨格の平均気孔径および気孔率を求めた。その結果、上記樹脂成形体の気孔率および平均気孔径と一致し、気孔率は96%であり、平均気孔径は450μmであった。さらに試料1~試料48の多孔体及び試料101~試料130の多孔体は、厚みが1.4mmであった。試料1~試料48の多孔体及び試料101~試料130の多孔体においてニッケルおよびコバルトの合計の目付量は、上述のとおり660g/mであった。
【0112】
<発電評価>
さらに試料1~試料48の多孔体及び試料101~試料130の多孔体を空気極用集電体として、エルコーゲン社製のYSZセル(図9)と共に燃料電池を作製し(図8)、以下の評価項目で発電評価を行った。
【0113】
(固体電解質の割れの評価)
以下の手順で、固体電解質の割れを評価した。すなわち、上記燃料電池を2000時間動作させた後のYSZセルを目視にて確認し、ひび割れおよびクラックの有無を確認することで、割れの有無を確認した。その結果を表1~表5に示す。
【0114】
(発電2000時間後の作動電圧維持率の評価)
作製した燃料電池について、初期の作動電圧V1と2000時間後の作動電圧V2とを求め、下記の式により2000時間後の作動電圧維持率を算出し、その結果を下記の表1~表5に示した。表5中、「-」は、当該作動電圧維持率が測定できなかったことを示す。なお、それぞれの作動電圧V1、V2は、3回測定しその結果を平均することで求めた。
発電2000時間後の作動電圧維持率(%)=(V2/V1)×100
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】
【0119】
【表5】
【0120】
<考察>
表1~表3の結果によれば、骨格の本体がニッケル、コバルト、第一元素及び第二元素を含み、上記第一元素の質量割合と上記第二元素の質量割合との合計が、上記骨格の本体に対して5ppm以上50000ppm以下である場合、燃料電池中に含まれている固体電解質に割れが観察されないことが分かった。さらに、当該燃料電池は、発電後2000時間後の作動電圧維持率が90%を超えており良好であることがわかった。特に上記コバルトの質量割合が上記ニッケルおよび上記コバルトの合計質量に対して、0.22である場合、上記コバルトの質量割合が0.58又は0.78である場合と比較して、発電後2000時間後の作動電圧維持率が特に良好であることがわかった。
以上のことから、実施例に係る多孔体は、燃料電池の空気極用集電体および水素極用集電体として適度な強度を有することが分かった。
【0121】
表4及び表5の結果によれば、骨格の本体がニッケル及びコバルトを含むが、第一元素、第二元素又はこれらの両方を含まない場合、燃料電池中に含まれている固体電解質に割れは観察されなかった。しかしこれらの燃料電池は、発電後2000時間後の作動電圧維持率が62%以下であった。(試料101~121)。試料101~121の燃料電池では、空気極用集電体(多孔体)の強度が比較的弱く、発電後2000時間後には当該空気極用集電体と燃料電池用セル又はインターコネクタとの接触が弱くなったと考えられる。その結果、接触抵抗が増加し、作動電圧維持率が低下したと考えられる。また表5の結果によれば、骨格の本体がニッケル、コバルト、第一元素及び第二元素を含むが、上記第一元素の質量割合と上記第二元素の質量割合との合計が、上記骨格の本体に対して50000ppmを超える場合、燃料電池中に含まれている固体電解質に割れが観察された(試料122~130)。上述の通り試料122~130の燃料電池は、固体電解質に割れが存在するため、発電後2000時間後の作動電圧維持率が測定できなかった。
【0122】
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0123】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0124】
1 支柱部、 2 ノード部、 10 フレーム部、 11 骨格本体、 12 骨格、 13 内部、 14 気孔部、 20 セル部、 30 三次元網目状構造、 100 燃料電池用セル、 102 空気極、 104 中間層、 106 電解質層、 108 水素極、 110 水素極用集電体、 112 第一インターコネクタ、 114 燃料流路、 120 空気極用集電体、 122 第二インターコネクタ、 124 酸化剤流路、 150 燃料電池、 A 仮想平面
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9