IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソニー株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20241008BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20241008BHJP
   G02B 5/32 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G02B27/01
G02B5/18
G02B5/32
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021573063
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(86)【国際出願番号】 JP2021000469
(87)【国際公開番号】W WO2021149512
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2020008397
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 一恵
(72)【発明者】
【氏名】加瀬川 亮
(72)【発明者】
【氏名】三谷 諭司
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-233665(JP,A)
【文献】特開2006-113182(JP,A)
【文献】特開2004-102204(JP,A)
【文献】特開2000-066136(JP,A)
【文献】国際公開第2005/093493(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0274450(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
G02B 5/18,5/32
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体像を形成する像面を有し、前記物体像を前記像面から斜めに投射する第1のスクリーンと、
前記像面と平行に配置され前記物体像の像光が入射する入射面を有し、前記入射面における前記像光の入射方向に対応する正反射方向とは異なる出射方向に沿って前記像光を回折し、前記物体像と平行な虚像を形成する第2のスクリーンと
を具備し、
前記第2のスクリーンは、一方向に周期を持つ干渉縞が露光され前記入射面から入射した前記像光を回折して前記入射面から出射する反射型のホログラフィック光学素子を含み、
前記干渉縞の境界ピッチは、前記物体像及び前記出射方向に向けて表示される前記虚像を結ぶ線の二等分線と前記ホログラフィック光学素子とのなす角度が16.3°以下となるように設定される
画像表示装置。
【請求項2】
請求項に記載の画像表示装置であって、
前記入射面における前記干渉縞の周期方向は、前記入射方向を前記入射面に対して正射影した方向である
画像表示装置。
【請求項3】
請求項に記載の画像表示装置であって、
前記干渉縞のスラント角度は、前記虚像を表示するための仰角範囲にブラッグ条件で回折された前記像光が含まれるような角度、又は前記仰角範囲にブラッグ条件をあえて外した条件で回折された前記像光のみが含まれるような角度のいずれか一方に設定される
画像表示装置。
【請求項4】
請求項に記載の画像表示装置であって、
前記物体像の像光は、互いに波長の異なる複数の色光を含み、
前記ホログラフィック光学素子は、前記複数の色光の各々に応じて前記干渉縞の境界ピッチ及び前記干渉縞のスラント角度がそれぞれ設定された互いに積層された複数のホログラフィック光学素子、又は、前記複数の色光の各々に応じた前記境界ピッチ及び前記スラント角度で前記干渉縞が多重露光された単一のホログラフィック光学素子のいずれか一方である
画像表示装置。
【請求項5】
請求項に記載の画像表示装置であって、
前記ホログラフィック光学素子は、前記干渉縞の境界ピッチが等しく前記干渉縞のスラント角度が異なる互いに積層された複数のホログラフィック光学素子、又は、前記干渉縞の境界ピッチが等しく前記干渉縞のスラント角度が異なるように前記干渉縞が多重露光された単一のホログラフィック光学素子のいずれか一方である
画像表示装置。
【請求項6】
請求項に記載の画像表示装置であって、
前記第2のスクリーンは、前記ホログラフィック光学素子を挟んで前記第1のスクリーンとは反対側に配置され、前記ホログラフィック光学素子を通過した前記像光を回折して、前記ホログラフィック光学素子に向けて出射する反射型の他のホログラフィック光学素子を有する
画像表示装置。
【請求項7】
請求項に記載の画像表示装置であって、
前記入射面における前記干渉縞の周期方向は、前記入射方向を前記入射面に対して正射影した方向と交差する方向である
画像表示装置。
【請求項8】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記出射方向は、前記入射面と直交する方向に設定される
画像表示装置。
【請求項9】
請求項に記載の画像表示装置であって、
前記第1及び前記第2のスクリーンは、鉛直方向に沿って配置され、
前記出射方向は、水平方向に設定される
画像表示装置。
【請求項10】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記第1のスクリーンは、前記物体像の前記像光が投射される前記入射面上の領域に対して、斜め下方又は斜め上方のいずれか一方に配置される
画像表示装置。
【請求項11】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記第2のスクリーンは、平板形状、又は視認者側に凸となる湾曲形状のいずれか一方である
画像表示装置。
【請求項12】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記第1のスクリーンは、拡散スクリーンであり、
さらに、前記拡散スクリーンに前記物体像の像光を投射する投射部を具備する
画像表示装置。
【請求項13】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記第1のスクリーンは、前記物体像を表示可能なディスプレイである
画像表示装置。
【請求項14】
請求項1に記載の画像表示装置であって、
前記像光の光源は、互いに異なる波長の光を出射する1以上の単一波長光源、又は互いに異なる波長の光を出射する1以上の狭帯域光源である
画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、虚像を表示可能な画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、虚像表示を行うヘッドアップディスプレイ(HUD)が記載されている。このHUDでは、情報表示源から出射された光がコンバイナにより回折され、所定の位置にいる観察者に虚像として表示される。情報表示源から出射された光は、折り返しミラーを介してコンバイナに入射し、観察者に向けて反射回折される。コンバイナは、観察者と虚像とを結ぶ光軸(観察者の視線)に対して垂直に配置される。このため、観察者は、コンバイナを正面から見ることになり虚像表示の違和感が軽減される(特許文献1の明細書段落[0014][0023][0024]図1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-48562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、観察者に対して虚像を表示することで、様々な情報提示や視聴体験を提供することが可能であり、装置サイズの小型化を図るとともに実在感のある虚像表示を実現することが可能な技術が求められている。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、装置サイズの小型化を図るとともに実在感のある虚像表示を実現することが可能な画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る画像表示装置は、第1のスクリーンと、第2のスクリーンとを具備する。
前記第1のスクリーンは、物体像を形成する像面を有し、前記物体像を前記像面から斜めに投射する。
前記第2のスクリーンは、前記像面と平行に配置され前記物体像の像光が入射する入射面を有し、前記入射面における前記像光の入射方向に対応する正反射方向とは異なる出射方向に沿って前記像光を回折し、前記物体像と平行な虚像を形成する。
【0007】
この画像表示装置では、第1のスクリーンの像面に形成された物体像が斜めに投射される。第2のスクリーンは、像面と平行な入射面に入射した物体像の像光を回折し、物体像と平行な虚像を形成する。この時、像光は、入射方向に対応する正反射方向とは異なる出射方向に回折される。これにより、像光が正反射される方向とは異なる方向から第2のスクリーンと平行に表示された虚像を観察することが可能となり、装置サイズの小型化を図るとともに実在感のある虚像表示を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本技術の第1の実施形態に係る画像表示装置の基本構成を示す模式図である。
図2図1Aに示す画像表示装置の側面図を拡大した模式図である。
図3】反射型ホログラムの構成例を示す模式図である。
図4】虚像スクリーンによって表示される虚像位置と観察方向との関係を説明するための模式図である。
図5】虚像スクリーンによって表示される虚像の一例を示す模式図である。
図6】観察方向の仰角に応じた虚像の変化を表すグラフである。
図7】観察方向の方位角に応じた虚像の変化を表すグラフである。
図8】表示仰角範囲と出射角度との関係を説明するための模式図である。
図9】スラント角度に応じた回折効率仰角範囲の一例を示す図である。
図10】スラント角度に応じた回折効率仰角範囲の一例を示す図である。
図11】出射角度による入射角度の二階微分の絶対値を示すグラフである。
図12】画像表示装置の具体的な構成例を示す模式図である。
図13】実像スクリーンの構成例を示す模式図である。
図14】実像スクリーンの他の構成例を示す模式図である。
図15】実像スクリーンの配置例を示す模式図である。
図16】比較例として挙げるホログラムスクリーンでの虚像変動を示す図である。
図17】比較例として挙げるホログラムスクリーンでの虚像変動を示す図である。
図18】第2の実施形態に係る画像表示装置の構成例を示す模式図である。
図19】第3の実施形態に係る画像表示装置の構成例を示す模式図である。
図20】第4の実施形態に係る画像表示装置の構成例を示す模式図である。
図21】他の実施形態に係る虚像スクリーンの構成例を示す模式図である。
図22】虚像スクリーンにおける回折効率分布の一例を示すマップである。
図23】回転配置の反射型ホログラムの一例を示す模式図である。
図24】回転配置の反射型ホログラムを用いた画像表示装置の構成例を示す模式図である。
図25】回転配置の反射型ホログラムを用いた画像表示装置の他の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0010】
<第1の実施形態>
[画像表示装置の構成]
図1は、本技術の第1の実施形態に係る画像表示装置の基本構成を示す模式図である。図1A及び図1Bは、画像表示装置100の側面図及び上面図である。画像表示装置100は、物体像1を構成する像光を回折して、物体像1の虚像2を表示する装置である。
【0011】
画像表示装置100は、実像スクリーン10と、虚像スクリーン20とを有し、実像スクリーン10に形成された物体像1を、虚像スクリーン20を介して虚像2として表示する。ここで、物体像1とは、表示対象となる対象画像の像であり、典型的には映像である。
実像スクリーン10上の各点からは、物体像1の各画素を表示する拡散光(像光)が出射される。従って、物体像1は、実像スクリーン10上に形成された実像であると言える。
この物体像1(実像)の像光が、虚像スクリーン20により回折されることで、虚像2が形成される。これにより、ユーザ3は、虚像スクリーン20越しに物体像1の虚像2を観察することが可能となる。
【0012】
図1Aでは、物体像1及び虚像2が、それぞれ黒色及び灰色の矢印を用いて模式的に図示されている。また図1Bでは、図1Aに示す物体像1及び虚像2が、それぞれ黒色及び灰色のひし形を用いて模式的に図示されている。このうち、ユーザ3が観察するのは、灰色の矢印又は灰色のひし形で表された虚像2である。
図1A及び図1Bに示す虚像2は、ユーザ3が標準観察軸4に沿って虚像スクリーン20を観察している状態(以下、標準観察状態と記載する)で、ユーザ3が視認する像である。画像表示装置100は、このような標準観察状態を想定して設計される。
なお標準観察軸4とは異なる方向から虚像スクリーン20を観察する場合であっても、虚像2を視認することが可能である。この場合、標準観察状態と比べて虚像2の位置等が変化することが考えられる。本開示では、このような観察方向の違いによって生じる虚像2の位置等の変化(虚像変動)を抑制するように、画像表示装置100が構成される。
【0013】
実像スクリーン10は、第1の面11と第2の面12とを有する。第1の面11は、物体像1が形成される面であり、物体像1の像光5が出射する面である。第2の面12は、第1の面11とは反対側の面である。実像スクリーン10は、第1の面11を虚像スクリーン20に向けて配置される。また実像スクリーン10は、典型的には、平板形状であり、第1の面11及び第2の面12はともに平面である。本実施形態では、第1の面11は、像面に相当する。
実像スクリーン10は、物体像1を第1の面11から斜めに投射する。第1の面11から物体像を投射する投射方向は、例えば物体像1と虚像2とが重ならないように、虚像スクリーン20の構成と合わせて設定される。
実像スクリーン10としては、例えば投射された光を拡散して物体像1を形成するスクリーンや、物体像1を直接表示するディスプレイ等が用いられる(図13及び図14等参照)。
第1の面11の各点からは、各点に対応する物体像1の画素を表示する拡散光(像光)が出射される。以下では、拡散光のうち、投射方向に沿って出射される光線を主光線と記載する。すなわち投射方向とは、拡散光の主光線が投射される方向である。拡散光の拡散分布は、例えば主光線の強度が最も高くなるように設定される。これにより、所望の方向に向けて明るい物体像1を投射することが可能となり、虚像2の明るさを向上することが可能となる。
【0014】
図1に示すように、本実施形態では、虚像スクリーン20のユーザ3に向けられる面(第3の面21)側に実像スクリーン10が配置される。具体的には、実像スクリーン10は、物体像1の像光5が投射される第3の面21上の領域に対して、斜め下方に配置される。これにより、画像表示装置100の上側には虚像2を表示し、下側には実像スクリーン10や他の光学系を収納するといった構成が可能となる。また実像スクリーン10は、虚像2を表示する像光5の光路を避けて配置される。これにより、虚像2が実像スクリーン10によって遮られるといった事態を回避することが可能となる。
【0015】
本実施形態では、像光5の光源として、互いに異なる波長の光を出射する1以上の単一波長光源が用いられる。ここで像光5の光源とは、例えばプロジェクタの光源、あるいはディスプレイのバックライト等である。また単一波長光源とは、例えば波長幅が狭い単色の可視光を発光する光源である。
例えば、単色での画像表示を行う場合には、その色で発光する光源が用いられる。またカラーでの画像表示を行う場合には、RGBの各色光を発光する光源が用いられる。単一波長光源の波長等は限定されない。なお、虚像スクリーン20は、これらの波長の光(像光5)を適正に回折することが可能となるように構成される。
このような光源としては、例えばLD(Laser Diode)等を用いたレーザ光源が用いられる。レーザ光源を用いることで、虚像2の明るさを大幅に向上することが可能である。
【0016】
また、像光5の光源として、互いに異なる波長の光を出射する1以上の狭帯域光源が用いられてもよい。狭帯域光源とは、例えば単色で狭帯域の波長幅の可視光を発光可能な光源である。狭帯域光源の波長幅は、レーザ光源等の単一波長光源よりも広いが、例えば蛍光体やカラーフィルタ等を介して生成された可視光よりも狭い。
狭帯域光源としては、例えばSLD(Super Luminescent Diode)や単色のLED(Light Emitting Diode)等の発光素子が用いられる。狭帯域光源が用いられる場合であっても、波長幅が狭いため、十分な回折効率が得られる。
この他、蛍光体を介して可視光を生成する光源や水銀ランプ等が用いられてもよい。
【0017】
また例えば、狭帯域光源等の波長幅が比較的広い光源と、光の帯域を制限する狭帯域バンドパスフィルタとを組み合わせて用いてもよい。これにより、例えばLED等を用いることも可能となり、装置コストを抑えることが可能となる。
このように帯域の狭い単一波長の光を用いることで、虚像スクリーン20によって回折される像光5の進行方向(回折方向)を高精度に制御することが可能となる。これにより、波長分散によって生じる虚像2のボケ等を十分に防ぐことが可能となり、虚像表示の分解能を高めることが可能となる。
【0018】
虚像スクリーン20は、実像スクリーン10により投射された物体像1の像光5を回折して物体像1の虚像2を形成する。
虚像スクリーン20は、第3の面21と第4の面22とを有する。第3の面21は、第1の面11と平行に配置され物体像1の像光5が入射する面である。第4の面22は、第3の面21とは反対側の面である。虚像スクリーン20は、第3の面21をユーザ3に向けて配置される。本実施形態では、第3の面21は、入射面に相当する。また虚像スクリーン20は、平板形状であり、第3の面21及び第4の面22はともに平面である。
第3の面21に入射した像光5は、虚像スクリーン20により回折され、第3の面21から出射される。すなわち、虚像スクリーン20は、第3の面21に入射した像光5を反射する、反射型のスクリーンである。
以下では、第3の面21(虚像スクリーン20)に平行な面をXY面と記載する。このうち、第3の面21の横方向をX方向と記載し、縦方向をY方向と記載する。また第3の面21(XY面)に直交する方向をZ方向と記載する。なお、図1A及び図1Bに示す側面図及び上面図は、画像表示装置100をX方向及びY方向に沿って見た模式図である。
【0019】
図2は、図1Aに示す画像表示装置100の側面図を拡大した模式図である。図2には、虚像スクリーン20(第3の面21)に対する像光5の入射方向及び出射方向が白抜きの矢印を用いて模式的に図示されている。
ここで像光5の入射方向とは、例えば主光線が第3の面21に入射する方向であり、実像スクリーン10(第1の面11)による像光5の投射方向と平行な方向である。また出射方向とは、例えば主光線が第3の面21で反射(回折)されて出射する方向であり、虚像スクリーン20による回折方向である。
例えば、出射方向に平行な方向が、標準観察軸4として設定される。あるいは、出射方向とは異なる方向を標準観察軸4として設定することも可能である。この点については後述する。
以下では、第3の面21の法線6(図中の太い実線)と像光5の入射方向との間の角度を、第3の面21に入射する像光5の入射角度θinとする。また、第3の面21の法線6と像光5の出射方向との間の角度を、第3の面21から出射する像光5の出射角度θoutとする。
【0020】
虚像スクリーン20は、第3の面21における像光5の入射方向(投射方向)に対応する正反射方向7とは異なる出射方向に沿って像光5を回折する。例えば入射角度θinで第3の面21に入射した像光5は、その像光5が正反射される方向(正反射方向7)とは異なる方向に向けて出射される。
ここで、正反射方向7とは、例えばミラー等の鏡面において光が反射される方向であり、入射角度と出射角度とが等しい反射方向である。図2では、入射角度θinで第3の面21に入射した像光5の正反射方向7が、点線を用いて模式的に図示されている。なお、正反射が生じる場合、正反射方向7には、物体像1の正反射像が表示される。
【0021】
図2に示すように、虚像スクリーン20は、第3の面21に対する像光5の入射角度θinと出射角度θoutとが互いに異なる値となるように、像光5を回折する。従って、虚像スクリーン20による回折では、θin≠θoutとなる。
このように像光5を回折することで、正反射方向7以外の方向に像光5を出射することが可能となり、所望の方向に向けて虚像2を表示することが可能となる。また虚像スクリーン20は、物体像1の正反射像と、物体像1の虚像2とが重ならないように構成されるとも言える。これにより、正反射等の映り込みを回避することが可能となる。
【0022】
また虚像スクリーン20は、出射方向に沿って像光5を回折して、物体像1と平行な虚像2を形成する。
例えば図2に示すように、実像スクリーン10(第1の面11)上の点Pから出射され第3の面21に入射した像光5(拡散光)は、虚像スクリーン20により回折され、第3の面21における入射位置Qと第4の面22側の点P'(虚像焦点)とをつなぐ光路に沿って第3の面21から出射される。
これにより、第3の面21に向けられたユーザ3の瞳に入射する像光5は、第4の面22側の点P'から出射されたように観察される。また他の点から出射された像光5も同様の回折を受けて第3の面21から出射される。この結果、第4の面22側に形成される虚像2は、物体像1と平行な像となる。
【0023】
このように、虚像スクリーン20に対して虚像2が平行に表示されるため、スクリーンに対して虚像2が傾斜している場合等にユーザが感じる違和感を軽減することが可能であり、虚像表示の実在感を高めることが可能である。
また図1及び図2に示すように、画像表示装置100では、物体像1(実像スクリーン10)と、虚像スクリーン20と、虚像2とが、互いに平行に配置される。このように各スクリーンを平行に配置可能であるため、コンパクトな装置構成を実現することが可能である。
また像光5の出射方向(虚像2が表示される方向)は、正反射方向7とは異なる方向に任意に設定可能である。これにより、例えばユーザ3の視線に対して虚像スクリーン20を斜めに配置するといった構成を避けることが可能である。この結果、装置のフォームファクタが向上し、装置サイズの小型化を図ることが可能である。
なお、本開示において、「平行」な状態とは、実質的に平行である状態、すなわち略平行な状態を含む。例えば、完全に平行な状態からのずれ量(角度)が所定の角度範囲(例えば±10°程度)に含まれる状態は、「平行」な状態である。
【0024】
本実施形態では、像光5の出射方向は、第3の面21と直交する方向に設定される。すなわち、出射方向は、第3の面21の法線6と平行な方向(Z方向)に設定され、虚像スクリーン20で回折された像光5の出射角度θoutは、0°となる。
これにより、虚像スクリーン20を正面から見るユーザ3に対して、虚像スクリーン20と平行な虚像2を表示することが可能となり、違和感のない虚像表示を実現することが可能となる。
【0025】
また本実施形態では、実像スクリーン10及び虚像スクリーン20は、鉛直方向に沿って配置され、出射方向は、水平方向に設定される。例えば、図1及び図2に示す例では、Y方向が鉛直方向となる。またXZ面が水平面となる。このように、本実施形態では、実像スクリーン10及び虚像スクリーン20が鉛直に設置され、物体像1及び虚像2も鉛直に表示される。これにより虚像スクリーン20を水平方向から見るユーザ3に対して、鉛直に形成された虚像2を表示することが可能となる。
なお、出射方向の向きは限定されない。例えばユーザ3が斜め上方から装置を観察するような場合には、ユーザ3の観察方向に合わせて出射方向を斜め上方に設定するといったことも可能である。この他、出射方向は、装置の用途等に応じて適宜設定されてよい。
【0026】
[虚像スクリーンの構成]
虚像スクリーン20は、反射型ホログラム24を用いて構成される。
反射型ホログラム24は、反射型のホログラフィック光学素子(HOE:Holographic Optical Element)である。HOEは、ホログラム技術を用いた光学素子であり、予め記録された干渉縞により光を回折することで、光の進行方向の制御(光路制御)を実現する。
反射型ホログラム24は、第3の面21から入射した像光5を回折して第3の面21から出射するように構成される。また反射型ホログラム24では、出射方向が制御可能である。本実施形態では、反射型ホログラム24は、反射型の回折光学素子に相当する。
【0027】
反射型ホログラムは、例えばフィルム状のホログラム材料(フォトポリマー等)を用いて構成される。この場合、ガラスやプラスチックなどの透明基材上に、反射型ホログラム24を貼り付けることで、保持性や耐久性を備えた虚像スクリーン20を構成することが可能である。なお図1及び図2では、透明基材の図示が省略されている。
このように、反射型ホログラム24を貼り付ける構成では、ユーザ3側に透明基材の層が入ることを避けたい場合は表に貼ればよい。これにより透明基材表面での正反射等を回避することが可能となる。また反射型ホログラム24に直接触れることを防ぎたい場合は、裏に貼ればよい。
また反射型ホログラム24に接着性が無い場合や、より高い耐久性を考慮した場合等には、透明基板の間に反射型ホログラム24を挟むような構成が用いられてもよい。
【0028】
反射型ホログラム24は、特定の角度範囲で入射した光を回折して反射し、その他の角度範囲の光を透過するように構成される。
例えば、第3の面21に対して特定の角度範囲で入射した光は、その入射角度に応じた出射角度で第3の面21から出射される。第3の面21に対する像光5の入射角度θin(投射方向)は、この角度範囲に含まれるように設定される。あるいは、θinが含まれるように角度範囲が設定される。
また特定の角度範囲以外の入射角度で入射した光は、干渉縞による回折をほとんど受けることなく、反射型ホログラム24を透過する。このため、例えば第4の面22側から水平方向に沿って入射した背景の光をそのまま通過させることが可能である。
このように、反射型ホログラム24は、透明スクリーンとして機能する。これにより、現実の空間に虚像2を重畳して表示することが可能となり、優れた視覚効果を発揮することが可能となる。
【0029】
本実施形態では、反射型ホログラム24として、体積位相型ホログラム(体積型HOE)が用いられる。体積位相型ホログラムは、素子を構成するホログラム材料(フォトポリマー等)の内部に干渉縞が記録された1次の回折次数のみを持つHOEである。従って、反射型ホログラム24では、2次以上の回折は無視することが可能である。
また反射型ホログラム24は、屈折力(パワー)を持たない反射型ミラーホログラムとして構成される。この場合、反射型ホログラム24は、正反射とは異なる方向に光を反射する平面ミラーと見做すことが可能である。
例えば、図2に示すように、第1の面11の点Pから出射され第3の面21の点Qに入射した像光5が回折されて、第4の面22側の点P'に点Pの虚像2が形成されるとする。この場合、線分PQの長さは、線分P'Qの長さと等しくなり(PQ=P'Q)、三角形PQP'は、二等辺三角形となる。
【0030】
図3は、反射型ホログラム24の構成例を示す模式図である。図3(a)は、反射型ホログラム24の厚さ方向の断面を示す模式図である。図3(b)は、反射型ホログラム24の第3の面21を示す模式図である。
【0031】
反射型ホログラム24は、一方向に周期を持つ干渉縞8が露光されたHOEである。具体的には、第3の面21(第4の面22)に沿って、互いに平行な複数の帯状の干渉縞8が形成される。例えば互いに平行に形成された各干渉縞8と直交する方向が、干渉縞8が周期を持つ方向(周期方向)となる。
この干渉縞8は、一次元回折格子として機能する。すなわち反射型ホログラム24は、一次元回折格子を有する。図3では、反射型ホログラム24に形成された干渉縞8が縞状のパターンにより模式的に図示されている。
このような一方向に周期を持つ干渉縞8(一次元回折格子)のパターンは、例えばレーザ光をスキャンして干渉縞を生成するスキャン露光等の手法を用いて形成される。
【0032】
図3(a)に示すように、反射型ホログラム24の内部には、スラント角度φの干渉縞8が一定の間隔で形成される。ここでスラント角度φは、干渉縞8と、反射型ホログラム24の表面(第3の面21及び第4の面22)との間の角度である。例えば反射型ホログラム24に入射した光は、その入射角度とスラント角度φとに応じた角度で反射される。スラント角度φは、干渉縞8を露光する際のレーザ光の入射角度等を調整することで、所望の角度に設定することが可能である。
上記したように、反射型ホログラム24では干渉縞8により一次元回折格子が構成される。図3(a)には、干渉縞8のグレーティングベクトル25が太線の矢印により模式的に図示されている。グレーティングベクトル25は、各干渉縞8に直交するベクトルである。このグレーティングベクトル25の方向が、干渉縞8の周期方向となる。
【0033】
本実施形態では、第3の面21における干渉縞8の周期方向は、入射方向(投射方向)を第3の面21に対して正射影した方向である。
例えば図2に示すように、投射方向を第3の面21に対して正射影した方向は、第3の面21の上下方向(Y方向)となる。従って、図3(b)に示すように、第3の面21における干渉縞8の周期方向(第3の面21におけるグレーティングベクトル25の方向)は、Y方向となる。
これにより、例えば像光5の回折効率を左右対称にすることが可能である。
【0034】
反射型ホログラム24には、出射方向(出射角度θout)に物体像1を回折するグレーティングベクトル25(スラント角度φ)を持った干渉縞8が露光される。
以下では、反射型ホログラム24内の干渉縞8の周期をグレーティングピッチPと記載し、反射型ホログラム24の表面における干渉縞8の周期を境界ピッチΛと記載する。グレーティングピッチPは、干渉縞8を露光する際のレーザ光の波長と露光角度によって決まるピッチである。
例えば、第3の面21における像光5の入射角度θin及び出射角度θoutの関係は、境界ピッチΛを用いて、以下の式で表すことが可能である。
Sinθin±mλ/Λ=Sinθout (1)
ここで、λは、再生光源となる像光5の主波長であり、mは1以上の整数である。
この(1)式に従って、境界ピッチΛやスラント角度φを設定することが可能である。なお(1)式は、ブラッグ条件を表す式である。
【0035】
[虚像と観察方向との関係]
図4は、虚像スクリーン20によって表示される虚像位置と観察方向との関係を説明するための模式図である。図5は、虚像スクリーン20によって表示される虚像2の一例を示す模式図である。以下では、反射型ホログラム24を用いて虚像スクリーン20の一般的な性質について説明する。なお図4及び図5では、虚像や虚像位置の変化が強調して図示されている。
【0036】
画像表示装置100を観察しているユーザ3の顔が移動すると、視点9の位置が移動する。このとき、ユーザ3が虚像スクリーン20を観察する観察方向(視線の方向)が変化する。
例えばユーザ3の顔が上下に移動すると、虚像スクリーン20に対する観察方向の仰角が変化する。また例えばユーザ3の顔が左右に移動すると、虚像スクリーン20に対する観察方向の方位角が変化する。
ここで、仰角とは、例えば対象となる方向(観察方向等)を表すベクトルが、XZ面(水平面)となす角度である。また方位角とは、例えばXZ面に射影されたベクトルのXZ面内での方位を示す角度である。
【0037】
図4には、互いに仰角が異なる3か所の視点9a~9cに向けて表示される虚像2a~2cの位置が図示されている。虚像2a~2cは、同一の物体像1(物体像1上の同一点)を表示する虚像2である。
また図5(a)~(c)には、視点9a~9cで観察される虚像2の一例が模式的に図示されている。ここでは、実空間上の物体であるステージ30を基準として虚像2が表示されるものとする。
【0038】
視点9aは、Z方向(標準観察軸4)に沿って虚像スクリーン20を観察する視点である。例えば視点9aで観察される虚像2aは、物体像1及び虚像スクリーン20と平行な像となり、虚像2aの位置は、設計上の表示位置となる。例えば図5(a)に示すように、視点9aでは、ステージ30の上方に所定の間隔を空けて配置されたキャラクターの虚像2aが観察される。この虚像2aは、設計上の表示位置及び表示姿勢で表示された像である。
【0039】
視点9bは、視点9aよりも上方から虚像スクリーン20を観察する視点である。視点9bでは、視点9aに比べて観察方向の仰角が大きい。この場合、図4に示すように、虚像2bの表示位置は、視点9aでの表示位置に比べて、ユーザ3から見て上方及び後方(ユーザ3から離れる方向)にシフトする。この結果、図5(b)に示すように、虚像2bは、ステージ30に対して上方に移動し、そのサイズは、虚像2aに比べて小さくなる。また虚像2bは、ユーザ3側に倒れるように傾斜して表示姿勢が変化する(図16参照)。このため虚像2bは、虚像2aに比べて歪んだ像となる。
視点9cは、視点9bよりも上方から虚像スクリーン20を観察する視点であり、視点9bに比べて観察方向の仰角が大きい。この場合、虚像2cの表示位置は、虚像2bよりもさらに上方及び後方にシフトする。この結果、虚像2cは、虚像2bよりも上方に表示され、サイズが小さく、歪みの大きい像となる。
また、視点9b及び9cのように、標準観察軸4とは異なる角度で虚像スクリーン20を観察する場合、反射型ホログラム24での回折効率が低下することで、虚像2の表示輝度が低下する。図5に示す例では、虚像2aが最も明るい像となり、虚像2cが最も暗い像となる。
なお、ユーザ3が左右方向に顔を移動して、観察方向の方位角が変化する場合にも、虚像2の表示位置、表示姿勢、及び表示輝度等が変化する(図17等参照)。
【0040】
このように、ユーザ3が顔を仰角方向(上下方向)や方位角方向(左右方向)へ動かした場合、虚像2が移動してしまい、虚像2の実在感が失われる場合がある。例えば、一人のユーザ3が顔を移動させた場合に虚像変動が生じることで、実空間に対して虚像2が定位しているように知覚させることが難しくなる可能性がある。また複数のユーザ3に虚像2を表示する場合には、各ユーザ3から見える虚像2の位置が異なってしまうといった事態や、虚像2が倒れて見え難くなるといった事態が起こり得る。また、観察方向によっては、虚像スクリーン20で表示可能な角度範囲を超えてしまい、虚像表示ができなくなる恐れがある。
【0041】
ここで発明者は、反射型ホログラム24を用いて表示される虚像2について考察した。そして、観察方向の変化に対して虚像2の表示位置等の変化が小さくなるような反射型ホログラム24の干渉縞8に関する条件を見出した。以下、具体的に説明する。
【0042】
[境界ピッチの設定]
本実施形態では、干渉縞8の境界ピッチΛは、物体像1及び出射方向に向けて表示される虚像2を結ぶ線の二等分線31と反射型ホログラム24とのなす交差角度αが16.3°以下となるように設定される
図2を参照して説明したように、本実施形態では屈折力のない平面ミラー型の反射型ホログラム24が用いられる。この場合、物体像1の位置Pと、像光5の入射位置Qと、虚像の位置P'とは、二等辺三角形を形成し、線分PP'の二等分線31は、入射位置Qを通る線となる。この二等分線31と第3の面21とのなす角度が交差角度αである。
【0043】
例えば図2に示す二等辺三角形の角度関係のもとで、上記した(1)式を変形すると、境界ピッチΛは、波長λと、出射角度θout(あるいは入射角度θout)と、交差角度αとを用いて表すことが可能である。従って、例えば使用する波長λ及び出射角度θoutが設定されている場合、交差角度αを設定することで、境界ピッチΛを定めることが可能である。
また、あるαに対して、上記した角度関係を満たす入射角度θin及び出射角度θoutのペア(入射方向及び出射方向のペア)を任意に選択可能である。このうち、入射角度θin及び出射角度θoutは、例えば物体像1と虚像2とが重ならない範囲で設定される。
このように設定された出射角度θout(入射角度θin)において、交差角度αが0°<α≦16.3°となるような境界ピッチΛが設定される。
交差角度αを基準にして境界ピッチΛを設定することで、以下のグラフに示す通り、顔移動に対する虚像変動を少なく抑えることが可能となる。
【0044】
図6は、観察方向の仰角に応じた虚像2の変化を表すグラフである。
図6には、観察方向の仰角(視点仰角)を変化させて虚像2の高さ移動量(図6A)、奥行移動量(図6B)、傾きの変化量(図6C)を計算したシミュレーション結果のグラフが示されている。各グラフの横軸は、水平方向を0°とする観察方向の仰角である。また各グラフの縦軸は、水平方向から観察したときの虚像2の状態を基準に設定されている。
また図6A図6Cに示す各グラフには、交差角度αが、25°、16.3°、13.1°、及び9.5°に設定された場合のデータ35a~35dがプロットされている。このうち、データ35b、データ35c、及びデータ35dが、交差角度αが16.3°以下となる境界ピッチΛが設定された反射型ホログラム24についてのデータとなる。
【0045】
図6Aに示すように、交差角度α=25°の場合(データ35a)、虚像2の鉛直方向の移動量は、観察する仰角の変化に伴い急激に増加する。この結果、α=25°では、観察方向の仰角が10°になった時点で、18mm程度の高さ移動が生じる。すなわち、ユーザ3が虚像スクリーン20を見る仰角が10°変化しただけで、虚像2の位置が上方に18mm変化する。また図6B及び図6Cに示すように、α=25°の場合、観察方向の仰角が10°の状態で、奥行方向への移動量は-20mm以上であり、像の傾斜は-30°近くになる。このようにα=25°となるような境界ピッチΛが設定された構成では、虚像2の移動や傾斜によって、実在感が大きく損なわれる可能性がある。
【0046】
これに対し、交差角度α=16.3°の場合(データ35b)、虚像変動が十分に小さく抑えられる。例えば図6Aに示すように、α=16.3°では、観察方向の仰角が10°である状態での虚像2の高さ移動は5mm程度に抑えられる。またα=13.1°及び9.5°である場合(データ35c及び25d)では、虚像2の高さ移動は、さらに小さい量となる。
また図6B及び図6Cに示すように、αが16.3°以下である場合、奥行方向への移動量は-10mm以下であり、像の傾斜は-10°以下となる。
このようにα≦16.3°となるような境界ピッチΛが設定された構成では、観察方向の仰角の変化に伴う虚像2の移動や傾斜が十分に抑制される。この場合、例えば一定の仰角範囲(例えば仰角が0°から10°までの範囲等)で観察方向が変化しても、虚像2の位置や姿勢はほとんど変化しない。これにより、虚像2があたかもその位置に存在しているような実在感のある表示を実現することが可能となる。
【0047】
図7は、観察方向の方位角に応じた虚像2の変化を表すグラフである。
図7には、観察方向の方位角(視点方位角)を変化させて虚像2の高さ移動量(図7A)、奥行移動量(図7B)、傾きの変化量(図7C)を計算したシミュレーション結果のグラフが示されている。図7に示す各グラフでは、観察方向の仰角が10°に設定されている。
各グラフの横軸は、虚像スクリーン20に直交する方向(Z方向)を0°とする観察方向の方位角である。また各グラフの縦軸は、仰角10°及び方位角0°観察したときの虚像2の状態を基準に設定されている。
また図7A図7Cに示す各グラフには、交差角度αが、25°、16.3°、13.1°、及び9.5°に設定された場合のデータ35a~25dがプロットされている。このうち、データ35b、データ35c、及びデータ35dが、交差角度αが16.3°以下となる境界ピッチΛが設定された反射型ホログラム24についてのデータとなる。
なおデータ35eは、交差角度α=16.3°でユーザ側凸状に湾曲した反射型ホログラムでのデータであり、データ35fは、交差角度α=16.3°で干渉縞の周期方向をZ方向を軸に回転させた反射型ホログラムでのデータである。データ35e及び35fについては後述する。
【0048】
図7Aに示すように、虚像2の高さ移動は、交差角度α=25°の場合(データ35a)に最も大きい。例えば方位角20°での観察では、8mm以上の高さ移動が生じる。
交差角度α≦16.3°である場合(データ35b、35c、35d)には、方位角変化に伴う高さ移動は十分に抑制されている。例えば方位角20°での観察では、高さ移動は3mm以下となる。
図7Bに示すように、虚像2の奥行移動も、交差角度α=25°の場合に最も大きく、例えば方位角20°での観察では、-30mm以上となる。
交差角度α≦16.3°である場合には、方位角変化に伴う奥行移動も十分に抑制されており、例えば方位角20°での観察では、奥行移動は-10mm以下である。
図7Cに示すように、交差角度α=25°の場合、仰角10°の観察方向からは、方位角0°の時点で-30°近い角度で虚像2が傾斜する。
交差角度α≦16.3°である場合には、虚像2の傾斜は、-10°以下である。またこの場合、虚像2の傾斜角度は、方位角が変化してもほとんど変わらない。
このようにα≦16.3°となるような境界ピッチΛが設定された構成では、観察方向の方位角の変化に伴う虚像2の移動や傾斜が十分に抑制される。これにより、例えばユーザ3が左右に移動した場合であっても、虚像2の位置や姿勢がほとんど変化しないため、実在感のある表示を実現することが可能となる。
【0049】
[スラント角度の設定]
画像表示装置100には、虚像2を表示する角度範囲(表示角度範囲)が設定される。表示角度範囲とは、虚像2を適正に表示することが可能な仰角及び方位角の角度範囲である。例えば、画像表示装置100は、表示角度範囲に含まれる観察方向から観察される虚像2の高さ位置、奥行位置、及び像の傾斜等が、所定の許容範囲に収まるように構成される。
表示角度範囲は、例えば図6及び図7等を参照して説明した、観察方向に対する虚像の位置及び姿勢の変化の特性に基づいて設定される。あるいは、表示角度範囲は、反射型ホログラム24による像光5の回折効率等に基づいて、一定値以上の回折効率が得られる回折効率角度範囲として設定される。あるいは、画像表示装置100の用途等に応じて表示角度範囲が設定されてもよい。
【0050】
本実施形態では、表示角度範囲として設定された仰角の範囲(表示仰角範囲)における回折効率の分布が、所望の分布となるように、反射型ホログラム24の干渉縞8のスラント角度φが設定される。
反射型ホログラム24では、入射方向(入射角度θin)から入射した像光5を出射方向(出射角度θout)に対して回折する場合に、ブラッグ条件が満たされ、像光5の回折効率が最大となる。すなわち、出射角度θoutは、ブラッグ角であるといえる。
スラント角度φは、ブラッグ条件から、例えばθin及びθoutの関数として表すことが可能である。従って、例えば入射方向(像光5の投射方向)が設定されている場合、スラント角度φを設定することで、出射方向(出射角度θout)を定めることが可能である。
このように、スラント角度φを設定することで、回折効率が最大となる方向が定まり、表示仰角範囲における回折効率の角度分布を設定することが可能となる。
【0051】
図8は、表示仰角範囲と出射角度θoutとの関係を説明するための模式図である。図8には、画像表示装置100に設定された表示仰角範囲40(斜線の範囲)と、反射型ホログラム24の回折効率仰角範囲41(グレーの範囲)とが模式的に図示されている。
ここで、回折効率仰角範囲41とは、例えば虚像2を表示することが可能な回折効率(回折効率ピークの30%以上等)で像光5を回折可能な出射仰角の範囲である。また回折効率仰角範囲41における回折効率は、出射角度θoutでピークとなる。
【0052】
スラント角度φは、例えば、表示仰角範囲40に出射角度θoutが含まれるように設定される。この場合、表示仰角範囲40内の仰角で出射される像光5には、オンブラッグの条件で回折された像光5及びオフブラッグの条件で回折された像光5が含まれる。
オンブラッグの条件とは、ブラッグ条件を満たす像光5の入出射の角度の条件である。オンブラッグの条件で回折された像光5は、入射角度θinで反射型ホログラム24に入射し、出射角度θoutで出射する像光5である。この場合、像光5の回折効率は最大となる。
オフブラッグの条件とは、例えばブラッグ条件をあえて外した入出射の角度の条件である。ここでは、回折効率が第1の閾値以上であり、かつ回折効率が最大とはならない状態での像光5の回折を、オフブラッグの条件の回折とする。第1の閾値は、例えば回折効率ピークの50%等である。これに限定されず、第1の閾値は適宜設定可能である。本実施形態では、第1の閾値は、第1の値に相当する。
【0053】
このように、干渉縞8のスラント角度φは、虚像2を表示するための表示仰角範囲にブラッグ条件で回折された像光5が含まれるような角度に設定される。言い換えれば、スラント角度φは、表示仰角範囲に回折される像光5に対する回折効率が、第1の閾値以上となる角度に設定される。
これにより、表示仰角範囲に対して、最大の回折効率を含む第1の閾値以上の効率で像光5を回折することが可能となり、明るい虚像2を表示することが可能となる。この結果、虚像2の視認性を向上することが可能である。
【0054】
図8に示す例では、表示仰角範囲40は、水平方向を中心に対称な仰角の範囲として設定される。またスラント角度φは、出射角度θout(ブラッグ角)が表示仰角範囲40のセンター(仰角0°)となるように設定される。なお図8では、表示仰角範囲40は、回折効率仰角範囲41に含まれるような角度幅に設定される。
この場合、水平方向にはオンブラッグの条件で回折された像光5が出射される。このため、水平方向から反射型ホログラム24を観察した場合に、虚像2が最も明るく表示される。また、水平方向から上下にずれた方向には、オフブラッグの条件で回折された像光5が出射される。これにより、水平方向を中心として、ユーザ3の視点が下方又は斜め上方に移動した場合であっても、虚像2を十分な明るさで表示することが可能である。
なお、スラント角度φは、必ずしも使用する表示仰角範囲40のセンターがブラッグ角となるように設定される必要はなく、所望の虚像表示が可能となるように適宜設定されてよい。
【0055】
図9及び図10は、スラント角度φに応じた回折効率仰角範囲41の一例を示す図である。図9A及び図10Aは、反射型ホログラム24における回折効率の角度分布の一例を示すマップである。マップの縦軸は、反射型ホログラムAから出射される像光5の出射方向の仰角であり、マップの横軸は、出射方向の方位角である。また各点の色は、出射方向の仰角及び方位角に応じた回折効率を表している。
図9B及び図10Bは、図9A及び図10Aに示す反射型ホログラム24における回折効率仰角範囲41を示す模式図である。
【0056】
図9Aでは、回折効率仰角範囲41に水平方向(仰角0°)が含まれる角度範囲で、出射角度θoutが水平方向よりも上側の角度となるようにスラント角度φが設定される。この場合、図9Bに示すように、一定以上の回折効率が得られる仰角範囲を水平方向から上方に偏らせることが可能となる。この構成は、例えば図8に示す構成から、ブラッグ角を上方にシフトした構成であると言える。
例えば、画像表示装置100を観察する際に、ユーザ3の視点が上方に移動することが想定される場合等には、図9に示すように、回折効率仰角範囲41を斜め上方に傾ける構成が採用される。これにより、視点の移動量が大きい場合であっても、明るい虚像2を表示することが可能となる。
【0057】
図10Aでは、回折効率仰角範囲41から水平方向が外れる角度範囲で、出射角度θoutが水平方向よりも上側の角度となるようにスラント角度φが設定される。この場合、図10Bに示すように、反射型ホログラム24を斜め上方から観察する視点に向けて明るい虚像2が表示される。また、反射型ホログラム24を水平方向から観察しても、虚像2を視認することはできない。
例えば、画像表示装置100がユーザ3の視点よりも下方に配置され、観察方向がほぼ斜め上方となるような場合には、図10に示すような構成が採用される。
【0058】
またスラント角度φは、例えば、表示仰角範囲40に出射角度θoutが含まれないように設定されてもよい。すなわち表示仰角範囲からブラッグ角を外すことも可能である。この場合、表示仰角範囲40の仰角で出射される像光5には、オフブラッグの条件で回折された像光5のみが含まれる。
従って表示仰角範囲40における回折効率は、第1の閾値以上でありかつ第2の閾値以下となる。第2の閾値は、例えば虚像2を適正に表示可能な範囲で適宜設定されてよい。本実施形態では、第2の閾値は、第2の値に相当する。
【0059】
このように、干渉縞8のスラント角度φは、表示仰角範囲40にブラッグ条件をあえて外した条件(オフブラッグの条件)で回折された像光5のみが含まれるような角度に設定されてもよい。言い換えれば、スラント角度φは、虚像2を表示する表示角度範囲として設定された仰角の範囲(表示仰角範囲40)に回折される像光5に対する回折効率が、第1の閾値以上かつ第2の閾値以下となる角度に設定されてもよい。
この場合であっても、表示仰角範囲40に対して適正に虚像2を表示することが可能である。例えば、必要な表示仰角範囲40を狭めたいときには、このようにオフブラッグで使用する。
【0060】
このように、本実施形態では、反射型ホログラム24のスラント角度φが、オンブラッグとオフブラッグの両条件を含むか、またはオフブラッグ条件のみとなるように設定される。これにより、表示仰角範囲40にのみ高い回折効率を設定し、明るい虚像2を表示させることが可能となる。また、表示仰角範囲40から外れた範囲(つまりユーザ3に見せたくない仰角範囲)では、回折効率を意図的に低く設定し、虚像2の変動を見せないようにするといったことが可能である。これにより、虚像変動が視認されることが防止され、虚像2の実在感を損ねる事態を回避することが可能となる。
【0061】
図11は、出射角度θoutによる入射角度θinの二階微分の絶対値を示すグラフである。例えば、反射型ホログラム24に入射角度θin(入射仰角)で入射した像光5は、その入射角度θinと反射型ホログラム24に設定された交差角度αとに応じた出射角度θout(観察方向の仰角)で回折される。図11に示す各グラフは、交差角度αごとに入射角度θinを出射角度θoutで二階微分した値の絶対値をプロットしたものであり、各交差角度αにおける出射角度θoutに対する入射角度θinの変化量を示すグラフであると言える。このような入射角度θinの変化量を基準として、反射型ホログラム24が設計されてもよい。
【0062】
反射型ホログラム24の設計パラメータ(境界ピッチΛやスラント角度φ)は、例えば、観察方向として想定される仰角(出射角度θout)において、出射角度θoutによる入射角度θinの二階微分の絶対値が所定の閾値以下となるように設定される。例えば図11に示すように、0°~10°の出射角度θoutの範囲において、入射角度θinの二階微分がおよそ0.03以下となるように設計された反射型ホログラム24は、αが16.3°以下に設定された反射型ホログラム24と同等の挙動をしめす。これにより観察方向の仰角の変化に対する虚像変動を十分に抑制することが可能である。
【0063】
図12は、画像表示装置100の具体的な構成例を示す模式図である。図12に示す例では、実像スクリーン10として、拡散スクリーンが用いられる。また画像表示装置100は、拡散スクリーンに物体像1の像光5を投射するプロジェクタ15を有する。本実施形態では、プロジェクタ15は、投射部に相当する。
【0064】
画像表示装置100の設計値について説明する。なお、以下で説明する数値はあくまで一例であり、各設計値は適宜選択することが可能である。
視認距離Lは、虚像スクリーン20の第3の面21から、ユーザ3の視点9までの距離であり、例えば200mm≦L≦2000mmの範囲に設定される。
視点9の仰角移動の角度範囲ω1は、上記した表示仰角範囲に相当する。画像表示装置100は、表示仰角範囲ω1に対して、適正に虚像2を表示するように構成される。表示仰角範囲ω1は、例えば0°≦ω1≦10°の範囲に設定される。
視点9の方位角移動の角度範囲ω2は、上記した表示角度範囲として設定された方位角の範囲(表示方位角範囲)に相当する。画像表示装置100は、表示方位角範囲ω2に対して、適正に虚像2を表示するように構成される。表示仰角範囲ω2は、例えば-15°≦ω2≦15°の範囲に設定される。
虚像表示距離aは、虚像スクリーン20の第3の面21から、虚像2が表示される位置までの水平距離であり、例えばa=50mm程度に設定される。
スクリーン間距離bは、虚像スクリーン20の第3の面21と、実像スクリーン10の第1の面11(物体像1)との水平距離であり、例えばb=45mm程度に設定される。
【0065】
図12に示す例では、虚像スクリーン20は、反射型ホログラム24と透明基材26とを用いて構成される。反射型ホログラム24は透明基材26のユーザ3側に貼合される。なお図2を参照して説明したように、反射型ホログラム24は透明基材26の虚像2側に貼合されてもよいし、透明基材26と一体型として形成されてもよい。又2つの透明基材26で反射型ホログラム24を挟むような構成が採用されてもよい。
反射型ホログラム24の境界ピッチΛは、例えば1200nmに設定され、スラント角度φは81.4°に設定される。この時、出射角度θoutは0°に設定され、Z方向と平行に虚像スクリーン20を観察する観察方向に対してブラッグ条件が満たされており、オンブラッグとなっている。図12には、ブラッグ条件を満たす入射方向及び出射方向が黒色の太い矢印を用いて模式的に図示されている。またZ方向と交差する観察方向に対しては、オフブラッグとなっている。
ブラッグ条件をみたすスラント角度φの選択は,使用する表示仰角範囲ω1に対して自由に選択可能である。いずれにしろ、ユーザ3の顔が移動するため、画像表示装置100はオンブラッグの条件とオフブラッグの条件は共存するか、オフブラッグの条件での使用となる。
【0066】
プロジェクタ15は、所定の放射角(画角)で物体像1となる対象画像を構成する像光5を出射する。図12に示すように、プロジェクタ15は、所定の投射角度(投射方向)で像光5を投射するように配置される。この投射角度は、放射角の中心角度となる。このように像光5を斜めに投射することで、実像スクリーン10から出射される像光5の輝度を向上することが可能である。
【0067】
プロジェクタ15としては、レーザ光源(LD:Laser Diode)を用いたレーザプロジェクタ等が用いられる。本実施形態では、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いた走査型プロジェクタによりレーザ光をスキャンして画像を投射するスキャン型のレーザプロジェクタが用いられる。なお液晶ライトバルブ等を用いた投影型のレーザプロジェクタが用いられてもよい。
【0068】
レーザ光源を用いることで、狭帯域のRGB光を用いて対象画像を投射することが可能となり、像光5の帯域を狭めることが可能である。これにより、高い回折性能を発揮することが可能となる。なお、光源として、LED光源やランプ光源等を用いたプロジェクタ15が用いられてもよい。この場合、光の帯域を狭くする狭帯域フィルタ等を組み合わせることで、帯域の狭い像光5を投射することが可能である。
【0069】
図13は、実像スクリーン10の構成例を示す模式図である。図13A及び図13Bには、透過型及び反射型の拡散スクリーンとして構成された実像スクリーン10a及び10bと、各スクリーンに像光5を投射するプロジェクタ15とが模式的に図示されている。
【0070】
図13Aに示すように、実像スクリーン10aは、第1の面11a及び第2の面12aを有する。実像スクリーン10aは、第2の面12aから入射した光を透過して、第2の面12aの反対側の第1の面11aから拡散して出射する。
従って、第2の面12aは、プロジェクタ15から物体像1の像光5が投射される投射面として機能する。また、第1の面11aは、像光5を拡散して出射する拡散面として機能する。これにより、第1の面11aには、プロジェクタ15から出射された像光5により構成される対象画像の物体像1が形成される。
図13Aでは、実像スクリーン10a(第1の面11a)に形成される物体像1と、物体像1を構成する像光5(拡散光)が模式的に図示されている。なお図12に示す構成では、透過型の実像スクリーン10aが用いられている。
透過型の実像スクリーン10aが用いることで、例えばプロジェクタ15の配置の自由度が向上し、様々な投射角度や投射距離に対応することが可能となる。
【0071】
図13Bに示すように、実像スクリーン10bは、第1の面11b及び第2の面12bを有する。実像スクリーン10bは、第1の面11bから入射した光を反射して、第1の面11bから拡散して出射する。
従って、第1の面11bは、プロジェクタ15から物体像1の像光5が投射される投射面であるとともに、像光5を拡散して出射する拡散面として機能する。これにより、第1の面11aには、プロジェクタ15から出射された像光5により構成される対象画像の物体像1が形成される。
反射型の実像スクリーン10bを用いることで、例えばプロジェクタ15を実像スクリーン10よりも装置の内側に配置するといったことが可能となり装置サイズを小さくすることが可能となる。
【0072】
拡散スクリーン(実像スクリーン10a及び10b)としては、例えば拡散特性のある透過型のHOEや反射型のHOEが用いられる。あるいは、拡散特性を持ったHOE以外のスクリーンが用いられてもよい。また例えば所定の投射方向に向けて拡散光を出射するように構成された異方性拡散スクリーン等が用いられてもよい。この他、拡散スクリーンの具体的な構成は限定されない。
【0073】
図14は、実像スクリーン10の他の構成例を示す模式図である。図14に示す実像スクリーン10cは、物体像1を表示可能なディスプレイである。本開示においてディスプレイとは、像光5を投射することなく表示面に対象画像(物体像1)を表示する表示装置である。
実像スクリーン10cとしては、例えば有機ELディスプレイやプラズマディスプレイ等の画素ごとに発光して画像を表示する自発光パネルを備えたディスプレイが用いられる。あるいは、液晶ディスプレイ等の画素ごとに光を変調して画像を表示するバックライト式パネルを備えたディスプレイが用いられてもよい。
【0074】
図14に示すように、実像スクリーン10cは、第1の面11cを有する。第1の面11cは、物体像1を表示する表示面として機能し、第1の面11cの各点からは、物体像1の各画素を表示する拡散光(像光5)が出射される。
いずれのディスプレイが用いられる場合でも、光を出射する方向(投射方向)や光の拡散角を制御することで、所定の投射方向に物体像1投射することが可能である。
このように、自発光パネルやバックライト式パネルを備えたディスプレイを用いた実像スクリーン10cは、像光5を投射するための投射光学系(投影系)が不要である。これにより、装置サイズの増大を回避することが可能となり、コンパクトな画像表示装置100を実現することが可能となる。
【0075】
図15は、実像スクリーンの配置例を示す模式図である。図15Aに示すように、上記では、虚像スクリーン20の第3の面21の斜め下方に実像スクリーン10が配置される例について説明した。この構成では、画像表示装置100(虚像スクリーン20)の上方に、背景に重畳して虚像2を表示するシースルー面を設けることが可能である。これにより、例えば机や床面等に設置して使用する画像表示装置100を容易に構成することが可能である。
【0076】
図15Bに示す画像表示装置100では、虚像スクリーン20の斜め上方に実像スクリーン10が配置される。具体的には、実像スクリーン10は、物体像1の像光5が投射される第3の面21上の領域に対して、斜め上方に配置される。この場合、例えば実像スクリーン10による物体像1の投射方向等に応じて、虚像スクリーン20である反射型ホログラム24の各パラメータ(境界ピッチやスラント角度等)を適宜設定することで、所望の方向に虚像2を表示することが可能である。
このように、デザイン性や、使用する角度範囲(表示仰角範囲等)等を考えて、画像表示装置100(虚像スクリーン20)の下方にシースルー面を持ってくる構成が採用されてもよい。これにより、例えば天井等に設置して使用する画像表示装置100を容易に構成することが可能である。
【0077】
以上、本実施形態に係る画像表示装置では、実像スクリーン10の第1の面11に形成された物体像1が斜めに投射される。虚像スクリーン20は、第1の面11と平行な第3の面21に入射した物体像1の像光5を回折し、物体像1と平行な虚像2を形成する。この時、像光5は、入射方向に対応する正反射方向とは異なる出射方向に回折される。これにより、像光5が正反射される方向とは異なる方向から虚像スクリーン20と平行に表示された虚像2を観察することが可能となり、装置サイズの小型化を図るとともに実在感のある虚像表示を実現することが可能となる。
【0078】
虚像を表示する方法として、物体像の像光を正反射方向に出射する構成が考えられる。例えば鉛直に配置された虚像用のスクリーンにより正反射方向に虚像が表示されるとする。この場合、水平方向に虚像を表示しようとすると、水平方向から像光を入射する必要があり、虚像と物体像とが重なってしまう。またスクリーンに対して斜めに光を入射する場合には、正反射の制限(入射角度=出射角度)があるため、観察方向を傾ける必要がある。この結果、視線に対してスクリーンが傾くことになり、観察者は虚像表示に対して違和感を覚える可能性がある。
また例えば、観察者による虚像の観察位置が固定されている構成があり得る。この場合、観察者にとって見やすいようにスクリーンを配置するといったことが可能であるが、移動しながらの観察は難しくなる。また、観察者が虚像を見下ろすような構成では、スクリーンを視線に合わせて傾斜させると、フォームファクタが悪化しデバイスサイズが増大する恐れがある。
【0079】
また、観察位置を移動可能な構成とした場合、ホログラムの構成によっては、虚像位置が大きくずれてしまい、実在感を損ねる可能性がある。
図16及び図17は、比較例として挙げるホログラムスクリーンでの虚像変動を示す図である。図16及び13には、交差角度α=25°となる境界ピッチΛが設定された反射型のホログラムスクリーン36によって表示される虚像2の位置を表すグラフが示されている。図16のグラフは、観察方向の仰角を変化させた場合の虚像2の移動を示すグラフである。図17のグラフは、観察方向の方位角を変化させた場合の虚像2の移動を示すグラフである。なお図17では、仰角が5°の状態で方位角を変化せている。各グラフの横軸及び縦軸は、虚像2の奥行位置及び高さ位置である。
図16に示すように、ホログラムスクリーン36では、観察方向の仰角が0°から25°に変化した場合には、虚像2の位置は、高さ方向に100mm程度移動し、奥行方向に100mm以上移動する。また虚像2は、鉛直な状態から水平に近い状態にまでユーザ3側に傾く。また図17に示すように、観察方向の方位角が0°から25°に変化した場合には、高さ方向に20mm程度移動し、奥行方向に-50mm程度移動し、ユーザ3側に傾く。
【0080】
本実施形態では、実像スクリーン10から投射方向に沿って斜めに投射された物体像1の像光5が、虚像スクリーン20により投射方向の正反射方向とは異なる出射方向に出射され、物体像1と平行な像が形成される。このように、虚像スクリーン20による像光の回折方向は、正反射の制限を受けない。このため、例えば水平方向に虚像2を表示する場合であっても、虚像2と物体像1とが重ならない構成を容易に実現可能である。
【0081】
また物体像1(実像スクリーン10)と、虚像スクリーン20と、虚像2とがそれぞれ平行に配置(垂直に立てて配置)される。このため、スクリーン等を斜めに配置する必要がなくなり、画像表示装置100のフォームファクタを改善することが可能である。この結果、装置サイズの小型化を図ることが可能である。
【0082】
また画像表示装置100は、一定の表示角度範囲に向けて虚像2を表示可能なように構成される。これにより、ユーザ3が移動しながら虚像2を観察する移動観察が可能となる。
さらに、画像表示装置100では、像光の入射角度θinと出射角度θout(回折角度)とが、θin≠θoutとなるように設定され、物体像1と虚像2の二等分線と虚像スクリーン20(第3の面21)とのなす交差角度αが、α≦16.3°に設定される。これにより、観察方向や視認位置の移動に対する虚像変動が抑制され、虚像表示の実在感を大幅に向上する。
【0083】
このように、画像表示装置100では、フォームファクタ等を考えて虚像スクリーン20を垂直に配置した場合であっても、顔移動をしても虚像移動が少なく、虚像2の実体感が失われにくい。また、虚像2を観察するための視認位置は固定されていない。従って画像表示装置100は、複数のユーザ3が同時に同じ位置に虚像2を見ることが可能なデバイスであると言える。これにより、複数のユーザ3で同じ視聴体験を共有することが可能となり、優れたアミューズメント性を発揮することが可能となる。
【0084】
<第2の実施形態>
本技術に係る第2の実施形態の画像表示装置について説明する。これ以降の説明では、上記の実施形態で説明した画像表示装置100における構成及び作用と同様な部分については、その説明を省略又は簡略化する。
【0085】
図18は、第2の実施形態に係る画像表示装置の構成例を示す模式図である。図18に示すように、画像表示装置200は、互いに平行に配置された実像スクリーン210と、虚像スクリーン220とを有する。本実施形態では、境界ピッチが互いに異なる反射型ホログラムを2枚用いて、全体として透過型の虚像スクリーン220が構成される。
【0086】
実像スクリーン210は、物体像1を形成する第1の面211とその反対側の第2の面212とを有する。実像スクリーン210は、平板形状であり、第1の面211をユーザ3側に向けて、虚像2と重ならないように配置される。また、実像スクリーン210は、虚像スクリーン220を挟んでユーザ3とは反対側に配置される。
虚像スクリーン220は、第1の反射型ホログラム221と、第2の反射型ホログラム222と、透明基材230とを有する。第1及び第2の反射型ホログラム222及び223は、平板形状の透明基材230の両面に配置される。第1の反射型ホログラム221は、透明基材230のユーザ3とは反対側に向けられる面に配置され、第2の反射型ホログラム222は、透明基材230のユーザ3に向けられる面に配置される。透明基材230としては、例えばガラス基板やアクリル等のプラスチック基板が用いられる。なお各ホログラムに十分な剛性がある場合等には、透明基材230を用いることなく空気層を挟んで各ホログラムが配置されてもよい。
【0087】
第1の反射型ホログラム221は、第3の面223と、第3の面223とは反対側の第4の面224とを有する。第3の面223は、第2の反射型ホログラム222(第5の面225)に向けられる面であり、第4の面224は、実像スクリーン210に向けられる面である。
第1の反射型ホログラム221は、物体像1の像光5を回折して、出射方向に沿って出射する。より詳しくは、透明基材230を介して第1の面211から所定の角度で入射する光を回折して第1の面211から出射する。なお、所定の角度は、例えば透明媒質(透明基材230)を介した入射角度である。本実施形態では、第1の反射型ホログラム221は、回折光学素子に相当する。
【0088】
第2の反射型ホログラム222は、第5の面225と、第5の面225とは反対側の第6の面226とを有する。第5の面225は、第1の反射型ホログラム221(第1の面211)に向けられる面であり、第6の面226は、ユーザ3に向けられる面である。このように、本実施形態では、第2の反射型ホログラム222が、第1の反射型ホログラム221を挟んで実像スクリーン210とは反対側に配置される。
第2の反射型ホログラム222は、第1の反射型ホログラム221を通過した像光5を回折して、第1の反射型ホログラム221に向けて出射する。また第2の反射型ホログラム222には、第1の反射型ホログラム221が回折する角度範囲に対して像光5を回折するような干渉縞(グレーティングベクトル)が形成される。本実施形態では、第2の反射型ホログラム222は、他の回折光学素子に相当する。
【0089】
例えば、物体像1を表示する実像スクリーン210を、ユーザ3に対して装置の奥側に配置したい場合には、第1及び第2の反射型ホログラム222及び223を2枚使用して、全体として透過型となる虚像スクリーン220を構成することが可能である。
すなわち、第4の面224及び第3の面223(第1の反射型ホログラム221)を通過して、第5の面225に入射した像光5は、第2の反射型ホログラム222の回折により第5の面225から出射され、第3の面223に入射する。この像光5は、第3の面223における入射方向に対応する正反射方向とは異なる出射方向(図では水平方向)に出射する。この結果、ユーザ3は虚像スクリーン220越しに虚像2を観察することが可能となる。
【0090】
ここで、例えば第1の面211に対して、物体像1(実像スクリーン210)の位置Pと対象な位置を物体像1の仮想位置(P'')とし、虚像2の位置を虚像位置P'とする。また仮想位置P''と、虚像位置P'との2等分線が第1の面211となす角度を交差角度αとする。この交差角度αを基準として、上記の実施形態で説明した条件を満たすように、各反射型ホログラムが構成される。
例えば交差角度αが16.3°以下となるように、第1の反射型ホログラム221の境界ピッチΛが設定される。また例えば、表示仰角範囲における回折効率が所望の分布となるように、第1の反射型ホログラム221のスラント角度が適宜設定される。
これにより、反射型ホログラムを2枚組み合わせた構成であっても、装置サイズを小型化するとともに、観察方向の変化に伴う虚像変動を抑制して、実在感のある虚像表示を実現することが可能である。
【0091】
<第3の実施形態>
図19は、第3の実施形態に係る画像表示装置の構成例を示す模式図である。図19Aは、画像表示装置300をX方向から見た側面図であり、図19Bは、画像表示装置300をY方向から見た上面図である。画像表示装置300は、平面形状の実像スクリーン310と、湾曲した虚像スクリーン320とを有する。この構成は、例えば図1等を参照して説明した画像表示装置100の虚像スクリーン20を視認者であるユーザ3側に凸状に湾曲させた構成であるともいえる。
【0092】
虚像スクリーン320は、反射型ホログラム321と、透明基材330とを有する。虚像スクリーン320は、Y方向を軸としてユーザ3側に凸となるように湾曲した透明基材330に反射型ホログラム321を貼り合せて構成される。
図19に示す例では、透明基材330の凸状の湾曲面に反射型ホログラム321が配置される。これに限定されず、例えば透明基材330の内側の凹面(ユーザ3とは反対側に向けられる面)に反射型ホログラム321が配置されてもよい。
例えば平面で作製(露光)した反射型ホログラム321を曲面に変形して用いることが可能である。例えば、反射型ホログラム321がフィルムであれば、透明な曲面を備えた透明基材330(プラスチック成型品等)の表面に張り付けて使用可能である。
いずれにしろ、画像表示装置300では、物体像1の像光5が入射する第3の面323が外側に配置され、虚像スクリーン320は、視認者(ユーザ3)側に凸となる湾曲形状である。すなわち虚像スクリーン320では、ユーザ3側に向けられる第3の面232が外周面となる。
【0093】
虚像スクリーン320の曲率を適宜設定することで、水平方向に視点が移動して観察方向の方位角が変化した場合に生じる虚像変動を抑制することが可能である。例えば、上記した図7に示すデータ35eは、α=16.3°の境界ピッチΛに設定された反射型ホログラムを、曲率半径R=200mmで湾曲させた場合のデータである。例えば平面形状の虚像スクリーンで生じる方位角変化に伴う虚像変動(データ35b)に比べ、湾曲した虚像スクリーン320による虚像変動(データ35e)が小さくなる。
従って、例えば水平方向の顔移動に対して虚像移動等を抑制したい場合は、平面で作製した虚像スクリーン320をユーザ3側に凸になる水平方向に曲率を持たせることが有効である。なお、虚像スクリーン320を湾曲させることで生じる虚像2の歪みは、実像スクリーン310に形成される物体像1を予め補正することで、解消することが可能である。
このように、視認者側に凸の曲面スクリーンにすることで、水平方向の視認位置移動をさらに改善させることが可能である。
【0094】
この他、虚像スクリーン320上のホログラム面(第3の面323及び第4の面324)を、デザイン性等の観点から任意の曲面形状にすることも可能である。この場合も、虚像2の歪みは、実像スクリーン310側の映像(物体像1)を逆に歪ませて補正可能である。
【0095】
<第4の実施形態>
図20は、第4の実施形態に係る画像表示装置の構成例を示す模式図である。画像表示装置400は、実像スクリーン410及び虚像スクリーン420のペア430を、それぞれが表示する虚像2が互いに重なるように複数配置して構成される。例えば鉛直方向(Y方向)に沿った虚像2の中心軸が、所定の基準軸Oと一致するように実像スクリーン410及び虚像スクリーン420のペア430が配置される。このスクリーンのペア430について、基準軸Oを中心として回転した位置に、他のペア430が配置される。各スクリーンのペア430は、例えば図1等を参照して説明した画像表示装置100と同様に構成される。
このように、画像表示装置400は、虚像スクリーン410(実像スクリーン420)を複数枚合わせて筒状に配置したデバイスである。これにより、画像表示装置400を中心とする様々な方位に向けて虚像表示を行うことが可能となる。
【0096】
各スクリーンのペア430では、虚像スクリーン410として用いられる反射型ホログラムの境界ピッチΛやスラント角度φが、虚像変動を抑制可能なように適宜設定される。
このため、例えば画像表示装置400を観察するユーザ3の視点が、基準軸Oの周りに移動して観察方向の方位角が変化したとしても、面と面の切り替わり位置での虚像変動差を抑えることが可能である。すなわち、虚像スクリーン410の切り替わり位置で、虚像2の表示位置が不連続に変化するといった事態を回避することが可能となる。この結果、虚像2の実体感が失われにくくなる。
【0097】
<その他の実施形態>
本技術は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
【0098】
上記の実施形態では、主に反射型ホログラムとして、1次の回折次数のみを持つ体積ホログラムについて説明した。これは、感光性のあるフォトポリマーを用いたフォトポリマー位相変調型回折格子の一例である。これに限定されず、任意の位相変調型回折格子が用いられてよい。例えば液晶によって屈折率を変化させる液晶位相変調型の素子等が用いられてもよい。またインプリントによって回折パターンを形成する位相型ホログラム等の回折格子を用いることも可能である。インプリントを用いることで、装置コストを抑えることが可能である。
この他、ホログラムの具体的な構成は限定されない。例えばスラントにおける屈折率差の大小に応じて、フォトポリマー等の材料が選択される。この場合、例えば必要な回折効率や回折効率角度範囲が得られるような屈折率差を実現する材料が選択される。また、ホログラムの種類は、製造性やコストに応じて適宜選択されてよい。
【0099】
実像スクリーンは、多視点映像源として構成されてもよい。多視点映像源とは、例えば見る方向に応じて異なる視点画像を表示可能な映像源である。視点画像は、例えば所定の表示対象を様々な方向から撮影した画像である。例えば視点画像を各方向に表示することで、表示対象の立体像を表示することが可能である。この場合、虚像スクリーンは、多視点映像源により表示された立体像を虚像として表示する。
【0100】
多視点映像源としては、例えば複数のプロジェクタから投射角度を変えて画像を投射することで複数の視点画像を表示するマルチプロジェクタ型の映像源が用いられる。また例えば、複数の視点画像を表示する裸眼立体表示ディスプレイ等が用いられてもよい。このようなディスプレイとしては、レンチキュラレンズ方式、レンズアレイ方式、及び視差バリア方式等のディスプレイが挙げられる。この他、多視点映像源の具体的な構成は限定されず、装置の用途等に応じて任意の映像源が用いられてよい。
【0101】
図21は、他の実施形態に係る虚像スクリーンの構成例を示す模式図である。上記では、主に単色での虚像表示について説明したが、本技術はカラー表示にも適用可能である。図21には、カラー表示に対応した虚像スクリーン520の断面図が模式的に図示されている。カラー表示を行う場合には、例えば物体像(像光)の光源として、RGB等のカラー表示に必要な波長の光(例えば赤色光(R)、緑色光(G)、青色光(B)等)を出射する光源が設けられる。従って、物体像の像光には、互いに波長の異なる複数の色光が含まれる。これらの各色光を回折可能なように虚像スクリーン520が構成される。
【0102】
図21(a)では、虚像スクリーン520の回折光学素子として、複数の色光の各々に応じて干渉縞8の境界ピッチΛ及び干渉縞8のスラント角度φがそれぞれ設定された互いに積層された複数の反射型ホログラム524a~524cが用いられる。すなわち、図21(a)に示す回折光学素子は、使用カラー波長であるRGB用に設計された境界ピッチΛとスラント角度φを備えた複数のHOEを積層して構成される。
反射型ホログラム524a、524b、524cの各境界ピッチ及びスラント角度φは、それぞれ赤色光(R)、緑色光(G)、及び青色光(B)を所定の出射方向に向けて回折するように設定される。
このような反射型ホログラム524a、524b、524cは、例えば、赤色、緑色、及び青色の波長の光で干渉縞8を露光することで生成される。なお、必ずしも回折の対象となる色光の波長と、干渉縞8を露光する際の露光波長とが一致している必要はない。例えば、赤色光(R)を回折する反射型ホログラム524aが、緑色の波長で露光されることもある。このように、露光波長としては、使用する色光と同様の波長の光が用いられる場合もあれば、他の波長の光が用いられる場合もある。
また、図21(a)に示す例では、反射型ホログラム524a、524b、524cがこの順番で積層される。なお、各反射型ホログラム524a~524cを積層する順番は限定されない。
このように、複数の反射型ホログラム524を積層して用いる場合、各反射型ホログラム524ごとに、図6及び図7等を参照して説明した方法に従って境界ピッチΛやスラント角度φが設定される。これにより、観察方向の移動に伴う虚像変動が十分に抑制されたカラーの虚像等を表示することが可能となる。
【0103】
図21(b)では、虚像スクリーン520の回折光学素子として、複数の色光の各々に応じた境界ピッチΛ及びスラント角度φで干渉縞8が多重露光された単一の反射型ホログラム524dが用いられる。
反射型ホログラム524dには、干渉縞8の多重露光(同時露光)が可能なフォトポリマー等が用いられ、例えば各色光に応じた露光条件で複数種類の干渉縞8が露光される。これらの干渉縞8の境界ピッチΛとスラント角度φは、RGBの各色光の光を適正に回折するように設計される。
これにより、カラー表示に対応した単層の反射型ホログラム524dを構成することが可能であり、例えば複数のホログラムを積層する工程が不要となり、装置コストを抑えることが可能である。
【0104】
図22は、虚像スクリーンにおける回折効率分布の一例を示すマップである。ここでは、反射型ホログラムにおいて、回折効率が一定値以上となる出射方向の角度範囲(回折効率角度範囲)を広げる方法について説明する。この回折効率角度範囲は、上記した表示角度範囲の一例である。
【0105】
図22Aは、単一のスラント角度φが設定された反射型ホログラムAにおける回折効率の角度分布の一例を示すマップである。マップの縦軸は、反射型ホログラムAから出射される像光5の出射方向の仰角であり、マップの横軸は、出射方向の方位角である。また各点の色は、出射方向の仰角及び方位角に応じた回折効率を表している。
反射型ホログラムAは、緑色光Gを回折するホログラムであり、その境界ピッチΛは1200nmに設定され、スラント角度φは78.3°に設定されている。
以下では、回折効率がピーク値の80%以上となる仰角及び方位角の範囲を、回折効率仰角範囲及び回折効率方位角範囲と記載する。
図22Aに示すように、反射型ホログラムAのみを用いた虚像スクリーンでは、方位角=0°における回折効率仰角範囲が10°程度である。また仰角=2°における回折効率方位角範囲は、±20°程度である。
【0106】
図22Bは、反射型ホログラムAに、反射型ホログラムBを積層して構成された虚像スクリーンにおける回折効率の角度分布の一例を示すマップである。
反射型ホログラムBは、緑色光Gを回折するホログラムであり、その境界ピッチΛは1200nmに設定され、スラント角度φは77.95°に設定されている。すなわち、反射型ホログラムBは、反射型ホログラムAと境界ピッチΛを共通にしてスラント角度φを変えて干渉縞が露光されたホログラムである。
このように、図22Bでは、虚像スクリーンの回折光学素子として、干渉縞8の境界ピッチΛが等しく干渉縞8のスラント角度φが異なる互いに積層された複数の反射型ホログラムA及びBが用いられる。
【0107】
境界ピッチΛを共通にすることで、反射型ホログラムBは、反射型ホログラムAと同一波長の光(ここでは緑色光G)を回折可能なホログラムとなる。またスラント角度φを変更することで、反射型ホログラムBは、反射型ホログラムAとは異なる回折効率の角度分布を持ったホログラムとなる。
この結果、図22Bに示すように、反射型ホログラムA及びBを積層した虚像スクリーンでは、方位角=0°における回折効率仰角範囲は、15°以上に拡大される。また仰角=2°における回折効率方位角範囲は、±28°程度に拡大される。
【0108】
また、虚像スクリーンの回折光学素子として、干渉縞8の境界ピッチΛが等しく干渉縞8のスラント角度φが異なるように干渉縞8が多重露光された単一の反射型ホログラムCが用いられてもよい。
反射型ホログラムCには、例えば反射型ホログラムAと同様のスラント角度φ=78.3°の干渉縞8と、反射型ホログラムBと同様のスラント角度φ=77.95°の干渉縞とが露光される。これにより、回折効率角度範囲を拡大することが可能である。
【0109】
このように、境界ピッチΛを一定にして、複数のスラント角度φが設定された反射型ホログラムを積層するか、複数のスラント角度φでの干渉縞8を同時露光することで、回折効率を持つ角度範囲を広げることが可能である。これにより、ユーザ3が虚像2を視認可能な視認角度範囲を広げることが可能である。
なお、図22では、単色の光を回折する場合について説明したが、カラー表示を行う場合には、RGBの波長ごとに、上記した方法を用いることで、回折効率角度範囲を拡大することが可能である。
【0110】
上記の実施形態では、反射型ホログラムの第3の面(入射面)における干渉縞8の周期方向が、像光5の入射方向を第3の面に正射影した方向と平行となる構成について説明した(図3等参照)。これに限定されず、第3の面における干渉縞8の周期方向は、入射方向を第3の面に対して正射影した方向と交差する方向に設定されてもよい。
これは、例えば図3に示す反射型ホログラム24を、Z方向を軸に所定の角度だけ回転させた構成である。この場合、第3の面21における干渉縞8の方向は、水平方向に対して回転角度と同じ角度で傾いた方向となる。
以下では、図3(b)に示す反射型ホログラム24における干渉縞8の配置を水平配置と記載する。また水平配置からZ方向を軸として干渉縞8が回転された反射型ホログラムの配置を回転配置と記載する。
【0111】
図23は、回転配置の反射型ホログラムの一例を示す模式図である。図23には、干渉縞8の方向が水平方向に対して傾くように構成された反射型ホログラム27が模式的に図示されている。なお、図23の左側及び右側に示す反射型ホログラム27a及び27bでは、干渉縞8の傾斜方向が異なる。
ここでは、ユーザ3は、仰角0°以上の角度で斜め上方から反射型ホログラムを観察するものとする。
【0112】
図23の左側に示す反射型ホログラム27aは、ユーザ3から見て、水平配置から時計回りに回転された回転配置を有し、干渉縞8の方向は左上から右下にかけて傾いた方向となる。この干渉縞8に直交する方向(左下から右上にかけて傾いた方向)が周期方向となる。
例えばユーザ3が回転配置の反射型ホログラム27aの中心位置を見ながら、反射型ホログラム27aの右側から左側に移動する状況を考える。
これは、水平配置の反射型ホログラム24(図3B参照)において、その中心位置を右斜め上から見ているユーザ3が、左下方向に視点を移動させる状況に対応する。この場合、水平配置の反射型ホログラム24の中心位置から見た観察方向の仰角は、視点が左下方向に移動するにつれて小さくなる。
回転配置の反射型ホログラム27aにおいても、その干渉縞8を基準とした観察方向の仰角(例えば干渉縞8と直交する面における仰角)が、ユーザ3の移動に伴い小さくなる。この結果、ユーザ3が反射型ホログラム27aの右側から左側に移動する間に虚像変動は小さくなる。
【0113】
言い換えれば、反射型ホログラム27aを右側から見ている状態は、観察方向の仰角にオフセットが付加された状態である。この仰角のオフセットは、ユーザ3が左側に移動するにつれて減少するため、虚像変動が小さくなる。なお虚像変動が最小となった後は、再び仰角のオフセットが増加するため、虚像変動も増加する。
この結果、回転配置では、虚像変動が抑えられる方向において、虚像変動を抑制可能な角度範囲が水平配置の角度範囲よりも広くなる。すなわち、干渉縞8を回転配置に設定することで、虚像変動が抑制された観察範囲を広げることが可能である。
例えば、図7に示すデータ35fは、α=16.3°の境界ピッチΛに設定された反射型ホログラム24を、水平配置の状態からZ方向を軸に10°回転させた場合のデータである。例えば水平配置の反射型ホログラム24で生じる方位角変化に伴う虚像変動(データ35b)に比べ、回転配置の反射型ホログラム27aによる虚像変動(データ35e)が広い角度範囲にわたって小さくなる。
【0114】
図23の右側に示す反射型ホログラム27bは、ユーザ3から見て、水平配置から反時計回りに回転された回転配置を有し、干渉縞8の方向は左下から右上にかけて傾いた方向となる。この干渉縞8に直交する方向(左上から右下にかけて傾いた方向)が周期方向となる。
反射型ホログラム27bでは、例えばユーザ3が反射型ホログラム27bの左側から右側に向かう方向で、虚像変動が抑制される。
【0115】
図24は、回転配置の反射型ホログラム27を用いた画像表示装置の構成例を示す模式図である。図24に示す画像表示装置600では、観察方向から見て時計回り及び反時計周りに干渉縞8が回転された反射型ホログラム27a及び27bが用いられる。
画像表示装置600は、平面状の実像スクリーン610と、平面状の虚像スクリーン620とを有する。実像スクリーン610は、虚像スクリーン620の中心に向けて斜め下方から物体像1を投射する。虚像スクリーン620には、回転配置の反射型ホログラム27a及び27bが、ユーザ3から見て左側及び右側に互いに隣接して配置される。これら反射型ホログラム27a及び27bの境界線が、虚像スクリーン620の中心線となる。
【0116】
例えばユーザ3が中心線から左側に移動する場合には、反射型ホログラム27aにより、虚像2の変動が抑制された表示が可能となる。逆にユーザ3が中心線から右側に移動する場合には、反射型ホログラム27bにより虚像2の変動が抑制される。このように、時計回り及び反時計回りに干渉縞8が回転された反射型ホログラム27a及び27bを用いることで、虚像2の位置ずれや傾斜の少ない方位角範囲を拡大することが可能である。
【0117】
図25は、回転配置の反射型ホログラム27を用いた画像表示装置の他の構成例を示す模式図である。図25に示す画像表示装置700では、観察方向から見て時計回りに干渉縞8が回転された反射型ホログラム27aが用いられる。
画像表示装置700は、複数の実像スクリーン710と、複数の虚像スクリーン720とを有する。各虚像スクリーン720は、反射型ホログラム27aを用いて構成され、虚像2が表示される側を内側にして所定の角度で隣接して配置される。すなわち、複数の虚像スクリーン720により、多面スクリーンが構成される。複数の実像スクリーン710は、各反射型ホログラム27aの右端を中心として物体像1を投射するように、多面スクリーン(虚像スクリーン720)を囲んで配置される。
このように画像表示装置700は、図24に示す画像表示装置600から反射型ホログラム27bを除いたユニットを回転対称に配置して構成されるともいえる。
なお図25では、2つの虚像スクリーン620を用いた2面スクリーンを構成した例である。これに限定されず、2面以上の多面スクリーンが構成されてもよい。また、反射型ホログラム27bを含むユニットが回転対称に配置されて画像表示装置が構成されてもよい。
【0118】
例えば図25に示すように、ユーザ3が虚像スクリーン720の境界の左側に移動する場合、境界の左側に配置された反射型ホログラム27aにより、虚像2の変動が抑制される。またユーザ3が境界から右側に移動する場合、境界の右側に配置された次の反射型ホログラム27aにより虚像2が表示される。
この時、右側の反射型ホログラム27aを介して虚像2を観察する方位角の角度幅は、左側の反射型ホログラム27aにおける角度幅と同様となる。従って右側の反射型ホログラム27aにおいても、左側の反射型ホログラム27bと同様に虚像2の変動が抑制される。
このように、画像表示装置700では、虚像2を表示するパネルが切り替わるまで、虚像変動が十分に抑制された状態を維持することが可能である。これにより、虚像変動が十分に抑制された実在感のある全周画像等を表示することが可能となる。
【0119】
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【0120】
本開示において、「同じ」「等しい」「直交」「平行」等は、「実質的に同じ」「実質的に等しい」「実質的に直交」「実質的に平行」等を含む概念とする。例えば「完全に同じ」「完全に等しい」「完全に直交」「完全に平行」等を基準とした所定の範囲(例えば±10%の範囲)に含まれる状態も含まれる。
【0121】
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)物体像を形成する像面を有し、前記物体像を前記像面から斜めに投射する第1のスクリーンと、
前記像面と平行に配置され前記物体像の像光が入射する入射面を有し、前記入射面における前記像光の入射方向に対応する正反射方向とは異なる出射方向に沿って前記像光を回折し、前記物体像と平行な虚像を形成する第2のスクリーンと
を具備する画像表示装置。
(2)(1)に記載の画像表示装置であって、
前記第2のスクリーンは、前記入射面から入射した前記像光を回折して前記入射面から出射する反射型の回折光学素子を含む
画像表示装置。
(3)(2)に記載の画像表示装置であって、
前記回折光学素子は、一方向に周期を持つ干渉縞が露光されたホログラフィック光学素子である
画像表示装置。
(4)(3)に記載の画像表示装置であって、
前記入射面における前記干渉縞の周期方向は、前記入射方向を前記入射面に対して正射影した方向である
画像表示装置。
(5)(3)又は(4)に記載の画像表示装置であって、
前記干渉縞の境界ピッチは、前記物体像及び前記出射方向に向けて表示される前記虚像を結ぶ線の二等分線と前記ホログラフィック光学素子とのなす角度が16.3°以下となるように設定される
画像表示装置。
(6)(3)から(5)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記干渉縞のスラント角度は、前記虚像を表示するための仰角範囲にブラッグ条件で回折された前記像光が含まれるような角度、又は前記仰角範囲にブラッグ条件をあえて外した条件で回折された前記像光のみが含まれるような角度のいずれか一方に設定される
画像表示装置。
(7)(3)から(6)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記物体像の像光は、互いに波長の異なる複数の色光を含み、
前記回折光学素子は、前記複数の色光の各々に応じて前記干渉縞の境界ピッチ及び前記干渉縞のスラント角度がそれぞれ設定された互いに積層された複数のホログラフィック光学素子、又は、前記複数の色光の各々に応じた前記境界ピッチ及び前記スラント角度で前記干渉縞が多重露光された単一のホログラフィック光学素子のいずれか一方である
(8)(3)から(7)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記回折光学素子は、前記干渉縞の境界ピッチが等しく前記干渉縞のスラント角度が異なる互いに積層された複数のホログラフィック光学素子、又は、前記干渉縞の境界ピッチが等しく前記干渉縞のスラント角度が異なるように前記干渉縞が多重露光された単一のホログラフィック光学素子のいずれか一方である
画像表示装置。
(9)(3)から(8)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第2のスクリーンは、前記回折光学素子を挟んで前記第1のスクリーンとは反対側に配置され、前記回折光学素子を通過した前記像光を回折して、前記回折光学素子に向けて出射する反射型の他の回折光学素子を有する
画像表示装置。
(10)(3)から(9)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記入射面における前記干渉縞の周期方向は、前記入射方向を前記入射面に対して正射影した方向と交差する方向である
画像表示装置。
(11)(1)(10)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記出射方向は、前記入射面と直交する方向に設定される
画像表示装置。
(12)(11)に記載の画像表示装置であって、
前記第1及び前記第2のスクリーンは、鉛直方向に沿って配置され、
前記出射方向は、水平方向に設定される
画像表示装置。
(13)(1)から(12)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第1のスクリーンは、前記物体像の前記像光が投射される前記入射面上の領域に対して、斜め下方又は斜め上方のいずれか一方に配置される
画像表示装置。
(14)(1)から(13)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第2のスクリーンは、平板形状、又は視認者側に凸となる湾曲形状のいずれか一方である
画像表示装置。
(15)(1)から(14)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第1のスクリーンは、拡散スクリーンであり、
さらに、前記拡散スクリーンに前記物体像の像光を投射する投射部を具備する
画像表示装置。
(16)(1)から(14)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記第1のスクリーンは、前記物体像を表示可能なディスプレイである
画像表示装置。
(17)(1)から(16)のうちいずれか1つに記載の画像表示装置であって、
前記像光の光源は、互いに異なる波長の光を出射する1以上の単一波長光源、又は互いに異なる波長の光を出射する1以上の狭帯域光源であるである
画像表示装置。
【符号の説明】
【0122】
1…物体像
2、2a~2c…虚像
3…ユーザ
5…像光
7…正反射方向
8…干渉縞
10、10a~10c、210、310、410、610、710…実像スクリーン
11、11a~11c、211…第1の面
15…プロジェクタ
20、220、320、420、520、620、720…虚像スクリーン
21、223、323…第3の面
24、27、321…反射型ホログラム
100、200、300、400、600、700…画像表示装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25