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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/18 20060101AFI20241008BHJP
   B60R 22/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B60R21/18
B60R22/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022002473
(22)【出願日】2022-01-11
(65)【公開番号】P2023102108
(43)【公開日】2023-07-24
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】深浦 和実
(72)【発明者】
【氏名】山田 真史
(72)【発明者】
【氏名】折▲高▼ 早苗
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-160710(JP,A)
【文献】特開2020-066425(JP,A)
【文献】特開2021-054250(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1227526(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/18
B60R 22/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右両端をシートの左右に連結させた状態として、シートに着座した乗員の腰部の前方側に配設可能なラップベルト部、を備えるとともに、
該ラップベルト部に配設されて、作動時に、膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時、下面側の支持面を乗員の大腿部に支持させた状態で、後面側の乗員拘束面により、前方移動する乗員の上半身を受け止めて保護可能なエアバッグ、を備え、
前記エアバッグが、膨張完了時の前記乗員拘束面を下方のラップベルト部側に引っ張るテザーを備えて構成される乗員保護装置であって、
前記テザーが、前記ラップベルト部から離れて前記乗員拘束面に連結された先端部と、前記ラップベルト部側の元部と、を備えて、
前記元部側が、前記ラップベルト部の下方を潜って、膨張完了時の前記エアバッグにおける前記ラップベルト部の前方側の部位に、連結されていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記エアバッグが、下端側に、前記ラップベルト部を挿通させる筒状のベルト挿通部を備え、
前記テザーの前記元部が、前記ベルト挿通部の前縁側の部位に、連結されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記ベルト挿通部が、可撓性を有したシート状素材の両端相互を縫合して筒状に形成される構成として、
前記テザーの前記元部が、前記シート状素材の両端相互の縫合時に、共縫いされて、前記ベルト挿通部に連結されていることを特徴とする請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記エアバッグが、
前記支持面及び前記乗員拘束面を備えて膨張するバッグ本体部と、
前記バッグ本体部の下端側に連結されて、ガス供給源からの膨張用ガスを前記バッグ本体部に供給する導管部と、
該導管部の下面側に結合されて、前記ラップベルト部を挿通させる筒状のベルト挿通部と、
前記テザーと、
を備え、
前記テザーの前記元部が、前記導管部の前縁側に連結されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した乗員を保護するための乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員保護装置としては、シートベルトのラップベルト部に、膨張用ガスを流入させて膨張するエアバッグを配設させて、シートに着座した乗員を保護するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。ラップベルト部は、左右両端をシートの左右に連結させた状態として、シートに着座した乗員の腰部の前方側に配設されるベルト部位である。この乗員保護装置では、ラップベルト部に、エアバッグが折り畳まれて収納されており、作動時に、エアバッグが膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張を完了させたエアバッグは、下面側の支持面を乗員の大腿部に支持させた状態で、後面側の乗員拘束面により、前方移動する乗員の上半身を受け止めて保護していた。さらに、このエアバッグには、乗員拘束面を乗員に接近させてエアバッグが膨張できるように、膨張完了時の乗員拘束面を下方のラップベルト部側に引っ張るテザーが、配設されていた。このテザーは、先端部を乗員拘束面における上下方向の中間付近に連結させ、先端部から離れたラップベルト部側の元部を、エアバッグに設けた筒状のベルト挿通部に連結させていた。ベルト挿通部は、折り畳んだエアバッグをラップベルト部の所定位置に移動させるように、ラップベルト部を挿通可能な筒状として、配設されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-160710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の乗員保護装置では、テザーの元部が連結されるベルト挿通部は、可撓性を有したシート状素材から形成されており、テザーに張力が発生すると、伸びが発生し、乗員拘束面を乗員側に接近させる引張力を、十分に確保し難かった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、エアバッグの乗員拘束面をラップベルト部側に引っ張るテザーの引張力を、安定して確保できる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置では、左右両端をシートの左右に連結させた状態として、シートに着座した乗員の腰部の前方側に配設可能なラップベルト部、を備えるとともに、
該ラップベルト部に配設されて、作動時に、膨張用ガスを流入させて膨張し、膨張完了時、下面側の支持面を乗員の大腿部に支持させた状態で、後面側の乗員拘束面により、前方移動する乗員の上半身を受け止めて保護可能なエアバッグ、を備え、
前記エアバッグが、膨張完了時の前記乗員拘束面を下方のラップベルト部側に引っ張るテザーを備えて構成される乗員保護装置であって、
前記テザーが、前記ラップベルト部から離れて前記乗員拘束面に連結された先端部と、前記ラップベルト部側の元部と、を備えて、
前記元部側が、前記ラップベルト部の下方を潜って、膨張完了時の前記エアバッグにおける前記ラップベルト部の前方側の部位に、連結されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る乗員保護装置では、作動時、エアバッグが膨張すると、先端部を乗員拘束面に連結させたテザーの元部側が、ラップベルト部の下面側を潜って、エアバッグにおけるラップベルト部の前方側の部位に、連結されていることから、ラップベルト部に押さえられて、ずれず、その結果、テザーは、所定の引張力を安定して確保できる。
【0008】
したがって、本発明に係る乗員保護装置では、エアバッグの乗員拘束面をラップベルト部側に引っ張るテザーの引張力を、安定して確保できる。そして、エアバッグは、膨張完了時、乗員拘束面を乗員に接近させることができて、乗員拘束面が、乗員の上半身における頭部と胸部とを円滑に受け止めて保護することができる。
【0009】
また、本発明に係る乗員保護装置では、前記エアバッグが、下端側に、前記ラップベルト部を挿通させる筒状のベルト挿通部を備え、
前記テザーの前記元部が、前記ベルト挿通部の前縁側の部位に、連結されていてもよい。
【0010】
このような構成では、テザーの元部側が、ベルト挿通部の下面側を経て、ベルト挿通部の前縁側部位に連結される構成であり、ラップベルト部の下方を潜るテザーの元部側を、極力、長くすることなく、ラップベルト部の前方側の部位に連結させることができて、テザーの長さ寸法を、極力、短く設定できる。
【0011】
この場合、前記ベルト挿通部が、可撓性を有したシート状素材の両端相互を縫合して形成される構成として、
前記テザーの前記元部が、シート状素材の両端相互の縫合時に、共縫いされて、前記ベルト挿通部に連結される構成とすることが望ましい。
【0012】
このような構成であれば、エアバッグにおけるラップベルト部の前方側の部位へのテザーの元部側の連結作業を、ベルト挿通部の形成時に同時にできることから、テザーの組付作業を効率的に行える。
【0013】
また、本発明に係る乗員保護装置では、前記エアバッグが、
前記支持面及び前記乗員拘束面を備えて膨張するバッグ本体部と、
前記バッグ本体部の下端側に連結されて、ガス供給源から膨張用ガスを前記バッグ本体部に供給する導管部と、
該導管部の下面側に結合されて、前記ラップベルト部を挿通させる筒状のベルト挿通部と、
前記テザーと、
を備え、
前記テザーの前記元部が、前記導管部の前縁側に連結されていてもよい。
【0014】
このような構成では、エアバッグの膨張時、ラップベルト部の上方で導管部も膨張することから、テザーの元部側も上昇し、テザーを前方側に引っ張る作用を生じさせることとなって、テザーによる乗員拘束面をラップベルト部側に引っ張る引張力、を高めることができ、乗員拘束面を、一層、乗員の上半身に接近させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態である乗員保護装置を搭載したシートの斜視図である。
図2】実施形態の乗員保護装置を搭載したシートの左側面図である。
図3】実施形態の乗員保護装置を搭載したシートの正面図であり、シートベルトが乗員に装着された状態を示し、また併せて、エアバッグの膨張時を二点鎖線で示すとともに、さらに、エアバッグの配設部位の概略縦断面図を示す。
図4】実施形態の乗員保護装置のエアバッグの膨張状態を示す後方側から見た概略斜視図である。
図5】実施形態の乗員保護装置のエアバッグの膨張時におけるテザーの引張状態を説明する概略縦断面図である。
図6】実施形態の乗員保護装置のエアバッグの膨張完了時を示す正面図である。
図7】実施形態の乗員保護装置のエアバッグの膨張完了時を示す左側面図である。
図8】実施形態の乗員保護装置のエアバッグの膨張完了後の乗員を受け止める状態を説明する左側面図である。
図9】実施形態の変形例におけるエアバッグの膨張時におけるテザーの引張状態を説明する概略縦断面図である。
図10図9に示すエアバッグを使用した乗員保護装置の作動時の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態の乗員保護装置10は、図1~4,6,7に示すように、車両のシート1に搭載されるもので、シートベルト11と、エアバッグ29と、エアバッグ29に膨張用ガスを供給するインフレーター24と、を備えて構成されている。シート1は、背もたれ部2と座部5とを備えている。
【0017】
シートベルト11は、シート1に着座した乗員MPを拘束できるように、シート1の左右方向の一方側(実施形態では左方側)において、上端11a側を、背もたれ部2の上端3における左縁3a側の内部に配設されたリトラクタ15から繰り出し可能とし、下端11b側を、座部5の左側部6側に配設されたアンカ部材17に固定される固定端として配設されている。なお、図1,2に示す符号18の部材は、ベルト11を、挿通可能として、座部5の左側部6から外れないように押えておく押え部材である。
【0018】
シートベルト11の中間部位には、タング20が配設され、タング20は、シート1の左右方向の他方側(実施形態では右方側)における座部5の右側部7側に配設されたバックル19に締結されることとなり、タング20をバックル19に締結させた状態のシートベルト11は、タング20からリトラクタ15側に延びる部位を、乗員MPの上半身MUの前面側に配置されるショルダーベルト部12とし、タング20から固定端11b側に延びる部位を、乗員MPの腰部MWの前面側に配置されるラップベルト部13としている。なお、バックル19には、図示しないリリースボタンが配設されており、締結したタング20を締結解除する際、リリースボタンを押圧操作すれば、タング20をバックル19から取り外すことができる。また、リトラクタ15は、ベルト11の急激な引き出しがあれば、引き出しを停止させ、さらに、車両の衝突等があれば、引き出したベルト11を巻き取り可能なプリテンショナーを配設させて構成されている。
【0019】
インフレーター24は、膨張用ガスを吐出する略円柱状のインフレーター本体25と、インフレーター本体25から突出して略L字状に屈曲するパイプ部26と、を備えて、シート1の座部5の後面側に取付固定されている(図1,2参照)。パイプ部26には、エアバッグ29の後述する導管部45の先端部47側が、外装され、さらに、クランプ27で締め付けられて、連結されている。
【0020】
エアバッグ29は、図4に示すように、膨張用ガスを流入させて大きく膨張するバッグ本体部30と、バッグ本体部30の下端30a側に連結されて、ガス供給源としてのインフレーター24からの膨張用ガスをバッグ本体部30に供給する導管部45と、導管部45の下面46b側に結合されて、ラップベルト部13を挿通させる筒状のベルト挿通部55と、テザー60と、を備えて構成されている。これらのバッグ本体部30、導管部45、ベルト挿通部55、及び、テザー60は、ポリエステル等の可撓性を有した織布から形成されている。
【0021】
バッグ本体部30は、膨張完了時に、周壁31が、側方から見て略三角柱状に膨張する構成として、底面側の底壁部32、後面側の後壁部33、前面側の前壁部34、及び、左右の側壁部35(L,R)、を備えて構成されている。そして、膨張完了時のバッグ本体部30は、底壁部32の下面32a側を、乗員MPの大腿部MFに支持させる支持面37とし、後壁部33の後面33a側を、前方移動する乗員MPの上半身MUを受け止める乗員拘束面38としている。乗員拘束面38は、上部側を頭部拘束面38aとし、下部側を胸部拘束面38bとしている。乗員拘束面38の左右方向の中央付近における頭部拘束面38aと胸部拘束面38bとの境界部位付近、すなわち、乗員拘束面38の上下方向の中間部位38c付近は、テザー60の先端部62が連結される連結部位65としている。
【0022】
底壁部32の後縁付近には、導管部45からの膨張用ガスを流入させる複数の流入口40aを開口させた流入口部40が配設されている(図4~6参照)。また、左右の側壁部35L,35Rの前部側には、バッグ本体部30内に流入する膨張用ガスの余剰分を排気するベントホール42が開口されている。
【0023】
導管部45は、元部46を、エアバッグ29のバッグ本体部30における膨張用ガスを流入させるための流入口部40に、連結させ、先端部47を、インフレーター24のパイプ部26に、連結させている。導管部45は、外形形状を相互に等しくした外側材49とバッグ側材50との外周縁相互を縫合して形成されている。導管部45の元部46には、バッグ本体部30の流入口部40の流入口40aと連通する連通口46cが、配設され、連通口46cの周縁が、流入口40aの周縁に縫合されて、導管部45が、バッグ本体部30の下端30aとなる底壁部32の後縁32b側に連結されている。導管部45は、既述したように、先端部47が、インフレーター24のパイプ部26に連結されて、インフレーター本体25からの膨張用ガスをバッグ本体部30に供給するように構成されている。
【0024】
なお、導管部45は、外形寸法を同じとした下面側の外側材49と、バッグ本体部30側のバッグ側材50と、の外周縁相互を縫合して形成されて、外側材49とバッグ側材50との外周縁相互の縫合前に、バッグ側材50の連通口46cの周縁が、バッグ本体部30の流入口40aの周縁に縫合させておくこととなる。
【0025】
ベルト挿通部55は、略長方形のシート状素材57の両端部57a,57a相互を連結させて、筒状に形成され、ラップベルト部13におけるエアバッグ29(バッグ本体部30)の配設部位22を包むように、配設されている。ベルト挿通部55は、ループ状に端部57a,57a相互を結合させる前に、導管部45の外側材49に縫合して結合されており、折り畳んだバッグ本体部30をラップベルト部13の配設部位22に配置させた後、端部57a,57a相互を結合させて、筒状(ループ状)に形成している。
【0026】
テザー60は、ラップベルト部13から離れて、エアバッグ29の乗員拘束面38に連結される先端部62と、ラップベルト部13側の元部61と、を備えた帯状としている。先端部62は、乗員拘束面38の上下方向の中間部位38cにおける左右方向の中央を連結部位65として、バッグ本体部30の後壁部33に対して、縫合により連結されている。元部61側は、ラップベルト部13の下方を潜って、膨張完了時のエアバッグ29におけるラップベルト部13の前方側の部位に、連結されている。実施形態の場合、元部61のエアバッグ29に対する連結部位64は、ベルト挿通部55の前縁55a側としている。実施形態のベルト挿通部55は、既述したように、シート状素材57の端部57a,57a相互を連結させて形成されており、さらに、端部57a,57a相互の連結部位が、ベルト挿通部55の前縁55aとしていることから、元部61側は、ベルト挿通部55の下面55b側を経て、端部57a,57aに配置させ、端部57a,57a相互の縫合時に、共縫いして、ベルト挿通部55の前縁55aに連結されている。
【0027】
テザー60の長さ寸法L1(図5参照)は、膨張完了時のエアバッグ29における連結部位64,65間の外周側の距離L0より、短く設定されており(L1<L0)、エアバッグ29の膨張完了時、確実に、乗員拘束面38を乗員MPの上半身MU側に接近させることができるように、構成されている。
【0028】
また、折り畳まれたバッグ本体部30、バッグ本体部30に連結された導管部48の元部46側、及び、ベルト挿通部55からなるエアバッグ29は、ラップベルト部13の配設部位22に配設される際に、バッグカバー67に覆われたバッグ組付体75として、配設されている(図3参照)。すなわち、エアバッグ29は、導管部45や端部57a,57a相互の縫合前のベルト挿通部55を取り付けたバッグ本体部30を折り畳み、ついで、バッグ本体部30が折り崩れしないように、図示しない帯状のラッピング材で部分的に包んだ後、筒状にする前のベルト挿通部55により、ラップベルト部13の配設部位22を包んで、テザー60の元部61を間にして端部57a,57a相互を縫合させて、エアバッグ29を形成しつつ、ラップベルト部13の配設部位22に取り付ける。さらに、エアバッグ29のバッグ本体部30、導管部45の元部46、及び、ベルト挿通部55が、露出しないように、バッグカバー67により覆って、バッグ組付体75として、エアバッグ29は、ラップベルト部13の配設部位22に配設されることとなる。
【0029】
バッグカバー67は、上下二枚のファブリック等から形成されるシート状のカバー素材68,68から形成され、折り畳まれたバッグ本体部30や導管部45の元部46、さらには、ベルト挿通部55、の上下をカバー素材68,68で挟み、ついで、前後の縁68a,68b相互を縫合糸69,70で縫合して、配設されている(図3参照)。縫合糸69,70は、後縁68b,68b相互を縫合する後方側の縫合糸70が、前縁68a,68a相互を縫合する前方側の縫合糸69より、引張強度を弱くしており、エアバッグ29(バッグ本体部30)の膨張時、縫合糸70が破断して、後縁68b,68b相互が分離し、バッグカバー67が押し開かれて、バッグ本体部30を配設部位22から上方へ膨張させることとなる。
【0030】
実施形態の乗員保護装置10では、シート1に装着済みのシートベルト11におけるラップベルト部13の配設部位22に、バッグ組付体75としてエアバッグ29を組み付け、また、インフレーター24のパイプ部26に、エアバッグ29の導管部45の先端部47を、クランプ27を利用して、連結させれば、シート1に搭載することができる。
【0031】
実施形態の乗員保護装置10では、シート1への搭載後、シート1に着座した乗員MPがシートベルト11を装着した状態で、車両が衝突等すれば、作動される。その際、ラップベルト部13が、シート1に着座した乗員MPの腰部MWの前方側に配設されていることから、インフレーター24からの膨張用ガスが、導管部45を経て、流入口部40の流入口40aからバッグ本体部30内に流入して、エアバッグ29(バッグ本体部30)が膨張する(図6,7参照)。そして、バッグ本体部30が膨張すると、先端部62を乗員拘束面38に連結させたテザー60の元部61側が、ラップベルト部13の下面13b側を潜って、エアバッグ29におけるラップベルト部13の前方側の連結部位64に、連結されていることから、ラップベルト部13に押さえられて、ずれず、その結果、テザー60は、所定の引張力を安定して確保でき、エアバッグ29の乗員拘束面38を乗員MPの上半身MUに接近させることができて、乗員拘束面38が、乗員MPの上半身MUにおける頭部MHと胸部MBとを円滑に受け止めて保護することができる。
【0032】
したがって、実施形態の乗員保護装置10では、エアバッグ29の乗員拘束面38をラップベルト部13側に引っ張るテザー60の引張力を、安定して確保できる。
【0033】
そして、エアバッグ29のバッグ本体部30は、膨張完了時、乗員拘束面38を乗員MPに接近させることができて、乗員拘束面38の頭部拘束面38aと胸部拘束面38bとが、乗員MPの上半身MUにおける頭部MHと胸部MBとを円滑に受け止めて保護することができる。この乗員MPの受け止め状態を詳しく述べると、乗員拘束面38の連結部位65が、テザー60により、下方に引っ張られて、胸部拘束面38bより、頭部拘束面38aが後方に移動する状態となって(図7参照)、前進移動する乗員MPは、頭部MH側が頭部拘束面38aに受止められて(図8参照)、前方移動する運動エネルギーが吸収され、その後、胸部MBが胸部拘束面38bに受け止められる状態となり、胸部MBをソフトに受け止めることができる。なお、テザー60による乗員拘束面38の乗員MPへの接近作用がない状態で、バッグ本体部30の乗員拘束面38が乗員MPの上半身MUを受け止める場合には、図7の二点鎖線のエアバッグ29のバッグ本体30ののように、乗員拘束面38を乗員MPから離して膨張することとなって、胸部MBが、まず、乗員拘束面38に受け止められ、その後、頭部MHが乗員拘束面38に受け止める状態を招き、胸部MBを強く押圧される場合が生じ易いが、実施形態では、そのような状態を避けることができる。
【0034】
また、実施形態の乗員保護装置10では、エアバッグ29が、下端30a側に、ラップベルト部13を挿通させる筒状のベルト挿通部55を備え、テザー60の元部61が、ベルト挿通部55の前縁55a側の部位に、連結されている。
【0035】
そのため、実施形態では、ラップベルト部13の下方を潜るテザー60の元部61側を、極力、長くすることなく、ラップベルト部13の前方側の部位64としてのベルト挿通部55の前縁55a側に連結させることができて、テザー60の長さ寸法L1を、極力、短く設定できる。
【0036】
この場合、実施形態では、ベルト挿通部55が、可撓性を有したシート状素材57の両端部57a,57a相互を縫合して形成される構成として、テザー60の元部61が、シート状素材57の両端部57a,57a相互の縫合時に、共縫いされて、ベルト挿通部55に連結される構成としている。
【0037】
そのため、実施形態では、エアバッグ29におけるラップベルト部13の前方側の連結部位64へのテザー60の元部61側の連結作業を、ベルト挿通部55の形成時に同時にできることから、テザー60の組付作業を効率的に行える。
【0038】
また、実施形態の乗員保護装置10では、エアバッグ29が、支持面37及び乗員拘束面38を備えて膨張するバッグ本体部30と、バッグ本体部30の下端30a側に連結されて、ガス供給源としてのインフレーター24から膨張用ガスをバッグ本体部30に供給する導管部45と、導管部45の下面46b側に結合されて、ラップベルト部13を挿通させる筒状のベルト挿通部55と、テザー60と、を備え、テザー60の元部61が、ラップベルト部13の前方側の部位としてのベルト挿通部55の前縁55aに連結させたが、図9,10に示すように、導管部45Aの元部46の前縁46a側を連結部位64Aとして、テザー60の元部61を連結させてもよい。
【0039】
このような構成では、エアバッグ29のバッグ本体部30の膨張時、ラップベルト部13の上方で導管部45Aの元部46も膨張することから、テザー60の元部61側も上昇し、テザー60を前方側に引っ張る作用を生じさせることとなって、テザー60による乗員拘束面38をラップベルト部13側に引っ張る引張力、を高めることができ、乗員拘束面38を、一層、乗員MPの上半身MUに接近させることができる。
【0040】
なお、シートに装着されるシートベルトとしては、図1,6に示す3点式の場合だけでなく、ショルダーベルト部の無い二点式のシートベルトのラップベルト部にバッグ組付体75を組み付けてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…シート、10…乗員保護装置、11…シートベルト、13…ラップベルト部、13b…下面、29…エアバッグ、30…バッグ本体部、30a…下端、32…底壁部、32a…(支持面)下面、33…後壁部、33a…(乗員拘束面)後面、37…支持面、38…乗員拘束面、45,45A……導管部、46…元部、46a…前縁、47…先端部、55…ベルト挿通部、55a…前縁、55b…下面、57…シート状素材、57a…端部、60…テザー、61…元部、62…先端部、64,64A…(テザー元部側の)連結部位、65…(テザー先端部側の)連結部位、
MP…乗員、MW…腰部、MF…大腿部、MB…胸部、MH…頭部、MU…上半身。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10