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特許7567823電池モジュールの診断システムおよび車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電池モジュールの診断システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241008BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241008BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20241008BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M10/48 301
B60L3/00 S
B60L58/10
H01M10/42 Z
H01M10/48 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022016410
(22)【出願日】2022-02-04
(65)【公開番号】P2023114196
(43)【公開日】2023-08-17
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 裕子
(72)【発明者】
【氏名】松岡 祥平
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-111584(JP,A)
【文献】国際公開第2018/138969(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/42-10/48
B60L1/00-3/12
B60L7/00-13/00
B60L15/00-58/40
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単電池から構成された電池モジュールの診断システムであって、
充電時の前記単電池の変位を検出する変位検出部と、
前記電池モジュールが正規品であるか否かを診断する診断装置と、を備え、
前記診断装置は、前記変位検出部で検出した前記変位に基づいて、前記電池モジュールが正規品であるか否かを診断する、電池モジュールの診断システム。
【請求項2】
前記診断装置は、前記変位検出部で検出した前記変位に基づいて、前記単電池の充電時の変位量を算出し、算出した前記変位量が、前記充電時における前記正規品の変位量の大きさを含む設定範囲の範囲内にある場合に、前記電池モジュールが正規品であると診断する、請求項1に記載の電池モジュールの診断システム。
【請求項3】
前記診断装置は、前記変位検出部で検出した前記変位に基づいて、充電電力量に対する変位量の大きさである変位量の傾きを算出し、算出した前記傾きが、前記充電時における前記正規品の変位量の傾きの大きさを含む設定範囲の範囲内にある場合に、前記電池モジュールが正規品であると診断する、請求項1または請求項2に記載の電池モジュールの診断システム。
【請求項4】
前記電池モジュールは、前記複数の単電池を積層した組電池からなり、
前記単電池は、電極体と、前記電極体を収容するケースとから構成されており、
前記変位検出部は、前記単電池の前記ケースの厚さの変化を前記変位として検出する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電池モジュールの診断システム。
【請求項5】
複数の単電池から構成された電池モジュールと、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電池モジュールの診断システムとを備え、
前記電池モジュールは、外部電源から供給される電力を用いて充電を行う外部充電が可能とされており、
前記外部充電が行われているとき、前記診断システムの前記診断装置は、前記電池モジュールが正規品であるか否かを診断する、車両。
【請求項6】
複数の単電池から構成された電池モジュールと、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電池モジュールの診断システムと、
前記診断システムの前記診断装置によって前記電池モジュールが正規品でないと診断されたとき、警告を行う手段とを備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池モジュールの診断システムに関し、特に、電池モジュールが正規品か否かを診断するシステム、および、この診断システムを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車または電気自動車などの、電池パックが搭載された車両の普及が進んでいる。車載用の電池パックについて、正規品の製造業者以外によって製造された模倣品が流通する可能性がある。また、正規品に対して改造が行われる可能性もある。これらの非正規品(模倣品またはサードパーティ製品)には、粗悪な電池が使用されていたり、車両側が要求する性能に不備があったりする可能性がある。そのため、電池パック(電池モジュール)が正規品であるか非正規品であるかを診断する技術が提案されている。
【0003】
たとえば、特開2012-174487号公報(特許文献1)は、電池パック(電池モジュール)を開示する。この電池パック内の制御部は、初期状態で測定された電池の重量(第1の重量)と、現在の電池の重量(第2の重量)との差が閾値よりも大きい場合に、電池が正規品でないと診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-174487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、電池が正規品であるか否かが電池の重量に基づいて診断される。そのため、重量は同等であるが、重量以外の特性(形状、構造および材料などを含み得る)が異なる電池を対象とする場合には、適切に診断できない可能性がある。
【0006】
本開示の目的は、正規品と非正規品とで電池の重量が同等な場合であっても、電池モジュールについて、正規品であるか否かを診断することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る電池モジュールの診断システムは、複数の単電池から構成された電池モジュールの診断システムである。診断システムは、充電時の単電池の変位を検出する変位検出部と、電池モジュールが正規品であるか否かを診断する診断装置とを備える。診断装置は、変位検出部で検出した変位に基づいて、電池モジュールが正規品であるか否かを診断する。
【0008】
好ましくは、診断装置は、変位検出部で検出した変位に基づいて単電池の充電時の変位量を算出し、算出した変位量が、充電時における正規品の変位量の大きさを含む設定範囲の範囲内にある場合に、電池モジュールが正規品であると診断することにより、変位検出部で検出した変位に基づいて、電池モジュールが正規品であるか否かを診断してもよい。
【0009】
好ましくは、診断装置は、変位検出部で検出した変位に基づいて、充電電力量に対する変位量の大きさである変位量の傾きを算出し、算出した傾きが、充電時における正規品の変位量の傾きの大きさを含む設定範囲の範囲内である場合に、電池モジュールが正規品であると診断することにより、変位検出部で検出した変位に基づいて、電池モジュールが正規品であるか否かを診断してもよい。
【0010】
上記の構成によれば、充電時の単電池の変位に基づいて、電池モジュールが正規品であるか否かを診断するので、正規品と非正規品とで重量が同等な場合であっても、電池モジュールについて、正規品であるか否かを診断することができる。
【0011】
本開示の電池モジュールは、複数の単電池を積層した組電池からなり、単電池は、電極体と電極体を収容するケースとから構成され、変位検出部は、単電池のケースの厚さの変化を、単電池の変位として検出するものであってよい。
【0012】
この構成によれば、単電池のケースの厚さの変化を単電池の変位として検出するので、充電時の単電池の変位を精度よく検出できる。
【0013】
本開示に係る車両は、複数の単電池から構成された電池モジュールと、上記の電池モジュールの診断システムを搭載した車両である。車両に搭載された電池モジュールは、外部電源から供給される電力を用い充電を行う外部充電が可能とされており、外部充電が行われているとき、診断装置が、電池モジュールが正規品であるか否かを診断する。
【0014】
この構成によれば、車両に搭載された電池モジュールが外部充電を行う際に、診断装置によって、電池モジュールが正規品であるか否かを診断するので、定期的に診断を実行でき、より確実に電池モジュールが正規品であるか否を診断することができる。
【0015】
本開示に係る車両は、複数の単電池から構成された電池モジュールと、上記の電池モジュールの診断システムを搭載した車両である。車両は、診断装置によって電池モジュールが正規品でないと診断されたとき、警告を行う手段を備える。
【0016】
この構成によれば、車両のユーザに、非正規品の電池モジュールが搭載されていることを、知らせることができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、正規品と非正規品とで電池の重量が同等な場合であっても、電池モジュールについて、正規品であるか否かを診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施の形態に係る電池モジュールの診断システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。
図2】本実施の形態における組電池の構造を概略的に示す斜視図である。
図3】セルの構成の一例を示す斜視図である。
図4】充電時におけるセルの変位を説明する図である。
図5】本実施の形態における診断処理を示すフローチャートである。
図6】本実施の形態における診断処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0020】
以下の実施の形態では、本開示に係る「電池モジュールの診断システム」が車両に搭載された構成を例に説明する。しかし、本開示に係る「電池モジュールの診断システム」の用途は、車両用に限定されず、たとえば定置用であってもよい。
【0021】
<システム構成>
図1は、本実施の形態に係る電池モジュールの診断システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。車両1は、本実施の形態では電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)である。ただし、車両1の種類は、電池パックが搭載された車両であれば、これに限定されるものではない。車両1は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)であってもよいし、プラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)であってもよいし、燃料電池車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle)であってもよい。
【0022】
車両1は、インレット10と、AC/DCコンバータ20と、充電リレー(CHR:Charge Relay)30と、電池パック40と、電力制御装置(PCU:Power Control Unit)50と、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)60と、統合電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)70とを備える。電池パック40は、組電池41と、監視ユニット42と、変位測定装置43と、電池ECU44とを備える。電池パック40は、本開示に係る「電池モジュールの診断システム」に相当する。また、電池ECU44は、本開示の「診断装置」に相当する。
【0023】
インレット10は、充電ケーブル91の先端に設けられた充電コネクタを挿入可能に構成されている。充電ケーブル91を介して、車両1と、車両1の外部に設置された外部電源(たとえば系統電源)92とが電気的に接続される。車両1は、外部電源92から供給される電力を用いて組電池41を充電する「外部充電」が可能に構成されている。
【0024】
AC/DCコンバータ20は、インレット10と充電リレー30との間に電気的に接続されている。AC/DCコンバータ20は、外部電源92からインレット10を介して供給される交流電力を直流電力に変換し、その直流電力を充電リレー30に出力する。また、AC/DCコンバータ20は、組電池41(またはPCU50)から充電リレー30を介して供給される直流電力を交流電力に変換し、その交流電力をインレット10に出力する。
【0025】
充電リレー30は、AC/DCコンバータ20と組電池41とを結ぶ電力線に電気的に接続されている。充電リレー30は、統合ECU70からの制御信号に応じて開放/閉成される。
【0026】
組電池41は、モータジェネレータ60を駆動するための電力を蓄え、PCU50を通じてモータジェネレータ60へ電力を供給する。また、組電池41は、外部充電時にはAC/DCコンバータ20から出力された電力により充電される。さらに、組電池41は、モータジェネレータ60の発電時(回生発電時など)にもPCU50を通じて発電電力を受けて充電される。
【0027】
監視ユニット42は、電圧センサ421と、電流センサ422と、温度センサ423とを含む。電圧センサ421は、組電池41の電圧(より詳細には、後述する各セル81の電圧)Vを検出する。電流センサ422は、組電池41に入出力される電流Iを検出する。温度センサ423は、組電池41の温度TBを検出する。各センサは、その検出結果または測定結果を示す信号を電池ECU44に出力する。
【0028】
電池ECU44は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ441と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ442と、各種信号を入出力する入出力ポート(図示せず)とを含む。
【0029】
電池ECU44は、監視ユニット42の各センサからの信号の入力ならびにメモリ442に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、統合ECU70と協調しながら組電池41を管理する。本実施の形態において電池ECU44により実行される主要な処理としては、組電池41が正規品であるかどうかを診断する「診断処理」が挙げられる。電池ECU44による診断処理については後述する。
【0030】
PCU50は、たとえば、インバータと、コンバータ(いずれも図示せず)とを含む。PCU50は、統合ECU70からの制御信号に従って、組電池41とモータジェネレータ60との間で双方向の電力変換を実行する。
【0031】
モータジェネレータ60は、たとえば永久磁石がロータ(図示せず)に埋設された三相交流回転電機である。モータジェネレータ60は、組電池41からの供給電力を用いて駆動軸を回転させる。また、モータジェネレータ60は、回生制動によって発電することも可能である。モータジェネレータ60によって発電された交流電力は、PCU50により直流電力に変換されて組電池41に充電される。
【0032】
統合ECU70は、電池ECU44と同様に、プロセッサと、メモリと、入出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。統合ECU70は、車両1に設けられた各センサからの信号の入力ならびにメモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両1が所望の状態となるように機器類(AC/DCコンバータ20、充電リレー30およびPCU50)を制御する。統合ECU70は、たとえば、AC/DCコンバータ20および/またはPCU50を制御することによって組電池41の充放電を制御する。なお、車両1に搭載されるECUは、適宜、統合して構成されていてもよいし機能毎に分割して構成されていてもよい。
【0033】
<組電池の構造>
図2は、本実施の形態における組電池41の構造を概略的に示す斜視図である。組電池41は、複数のスタック410(電池ジュール)を含む。複数のスタック410は、互いに直列接続されていてもよいし並列接続されていてもよい。図1には複数のスタック410うちの1つが代表的に示されている。なお、組電池41は、ひとつのスタック410から構成されてもよい。
【0034】
スタック410(電池モジュール)は、複数のセル(単電池)81と、複数の樹脂枠82と、一対のエンドプレート83と、一対の拘束バンド84とを含む。スタック410では、複数のセル81と複数の樹脂枠82とが積層されることにより積層体が形成されている。
【0035】
複数のセル81の各々は、リチウムイオン電池またはニッケル水素電池などの二次電池である。スタック410に含まれるセルの数は特に限定されるものではない。各セル81の構成は共通であり、積層された各セル81は、電気的に直列接続されている。
【0036】
複数の樹脂枠82の各々は、積層方向に隣り合う2つのセル81の間に配置されている。一対のエンドプレート83は、積層体の積層方向の一方端と他方端とに配置されている。エンドプレート83は、積層体を積層方向に両側から挟み込むように配置されている。
【0037】
一対の拘束バンド84は、樹脂枠82の上面と下面とに配置されている。拘束バンド84は、積層体を挟み込んだ状態の一対のエンドプレート83を互いに拘束する。
【0038】
図3は、セル81の構成の一例を示す斜視図である。この例では、セル81はリチウムイオン電池である。
【0039】
セル(単電池)81は、略直方体形状を有する角型セルである。セル81は、電極体812を収容するケース813とケース813の上面を封止する蓋体814を含む。蓋体814には、正極端子815および負極端子816が設けられている。正極端子815および負極端子816の各々の一方端は、蓋体814から外部に突出している。正極端子815および負極端子816の各々の他方端は、ケース813内部において、内部正極端子および内部負極端子(いずれも図示せず)にそれぞれ電気的に接続されている。なお、図示しないが、隣り合う2つのセル81は、バスバーにより互いに電気的に直列に接続されている。
【0040】
ケース813内部には電極体812が収容されている。電極体812は、たとえば、正極シートと負極シートとがセパレータを介して積層され、さらに筒状に捲回され形成されている。電解液は、正極シート、負極シートおよびセパレータ等に保持されている。なお、電極体812として捲回体に代えて積層体を採用することも可能である。
【0041】
図1を参照して、電池パック40には、変位測定装置43が設けられている。変位測定装置43は、たとえば、レーザ変位計であってよく、積層されたセル81のケース813の厚さt(図3参照)方向の変位(厚みtの変化)を検出し、その検出結果を電池ECU44に出力する。
【0042】
<セル(単電池)81の変位>
以上のように構成された車両1において、電池パック40内の組電池41は、その使用に伴い、または時間の経過とともに劣化する。組電池41の劣化が相当程度進んだ場合には、組電池41を新たな組電池(または劣化が比較的進行していない中古品の組電池)に置き換えることが考えられる。その際に、模倣品またはサードパーティ製品などの非正規の組電池が選択される可能性がある。
【0043】
特許文献1のように、組電池41が正規品であるかどうかを組電池41の重量に基づいて診断することも考えられる。しかし、そうすると、重量は同等であるものの、重量以外の特性(セルの外形形状もしくは構造、または、電池材料など)が異なる組電池41に置き換えられた場合には、その組電池41が正規品であるかどうかを適切に診断できない可能性がある。
【0044】
組電池41の充電を行う際、充電によってセル81(ケース813)の厚みtが増大する。充電による厚みtの増大量は、セル(単電池)の電極体(正極、負極)の材料やケース構造の相違によって異なる。このため、充電時における、正規品と非正規品の厚みtの増大量は相違する。本実施の形態においては、充電時のセル81(ケース813)の変位(厚みtの変化)を用いて、組電池41が正規品であるか非正規品であるかを診断する。
【0045】
図4は、充電時におけるセル81の変位を説明する図である。図4(A)はセル81の変位量δを示しており、図4(B)は変位量の傾きθを示している。図4(A)において、縦軸は変位量δであり、横軸はセル81(組電池41)のSOC(State Of Charge)である。図4(A)に示すように、組電池41の充電に伴い、SOCの上昇とともにセル81の変位量δが大きくなる。これは、充電によって蓄電量が増加するに従い、セル81(ケース813)の厚みtが増大(ケース813が膨らむ)からである。
【0046】
図4(A)において、実線は、正規品の新品時と劣化時の変位量δを示している。本実施の形態において、正規品の劣化時の変化量は、新品時に比較して小さくなっているが、その変位量δとSOCの関係(軌跡)は、ほぼ相似となっている。一点鎖線は、非正規品の新品時と劣化時の変位量δの一例を示している。非正規品の劣化時の変化量は、新品時および劣化時とも、正規品に比較して小さくなっている。これは、正規品と非正規品において、電極体(正極、負極)の材料やケース構造が相違するからである。
【0047】
図4(A)に示すように、組電池41(セル81)を、SOC=0%から満充電(たとえば、SOC=95%)まで充電したとき、正規品であれば、変位量δ(0~95%)が、B1~A1の範囲内に含まれる。したがって、部品や測定精度のばらつきを考慮して、設定範囲Th1を、「(B1-α)~(A1+α)」に設定し、組電池41をSOC=0%から満充電まで充電したときの変位量δ(0~95%)が、設定範囲Th1の範囲内にある場合((B1-α)≦δ(0~95%)≦(A1+α))には、組電池41が正規品であると診断できる。他方、組電池41をSOC=0%から満充電まで充電したときの変位量δ(0~95%)が、設定範囲Th1の範囲から外れる場合(δ(0~95%)<(B1-α)、あるいは、(A1+α)<δ(0~95%))には、組電池41が非正規品であると診断できる。なお、αは、ばらつきを考慮したマージン(許容値)である。
【0048】
さらに、図4(A)に示すように、組電池41をSOC=50%から満充電まで充電したとき、正規品であれば、変位量δ(50~95%)が、(B1-B2)~(A1-A2)の範囲内に含まれる。したがって、部品や測定精度のばらつきを考慮して、設定範囲Th2を、「(B1-B2-α)~(A1-A2+α)」に設定し、組電池41をSOC=50%から満充電まで充電したときの変位量δ(50~95%)が、設定範囲Th2の範囲内にある場合((B1-B2-α)≦δ(50~95%)≦(A1-A2+α))には、組電池41が正規品であると診断できる。他方、組電池41をSOC=50%から満充電まで充電したときの変位量δ(50~95%)が、設定範囲Th2の範囲から外れる場合(δ(50~95%)<(B1-B2-α)、あるいは、(A1-A2+α)<δ(50~95%))には、組電池41が非正規品であると診断できる。
【0049】
図4(B)において、縦軸は変位量の傾きθであり、横軸はセル81(組電池41)のSOCである。変位量の傾きθ[mm/SOC]は、図4(A)に示した変位量δの勾配(単位SOC当たりの変位量δの大きさ)であり、充電電力量に対する変位量δの大きさに相当する。図4(B)において、実線は、図4(A)に実線で示した正規品の新品時と劣化時における変位量の傾きの平均値を示しており、一点鎖線は、図4(A)に一点鎖線で示した非正規品の新品時と劣化時における変位量の傾きの平均値を示している。図4(B)に示すように、変位量δと同様に、変位量の傾きθも正規品と非正規品では相違する。
【0050】
本実施の形態の正規品では、図4(B)に示すように、SOC=0%からSOC=S1までの充電時における変化量の傾きθは、C2~C1であり、また、SOC=S2からSOC=S3までの充電における変化量の傾きθは、C4~C3であり、他のSOCの範囲より、変位量の傾きθが大きな値を示している。したがって、これらのSOCの範囲における充電時の変位量の傾きθを用いて、正規品であるか非正規品であるかを診断することにより、精度よく診断することが可能である。
【0051】
たとえば、設定範囲Th3を、「(C2-β)~(C1+β)」に設定し、組電池41をSOC=0%からSOC=S1まで充電したとき、変位量の傾きθが設定範囲Th3の範囲内である場合((C2-β)≦θ≦(C1+β))には、組電池41が正規品であると診断できる。また、組電池41をSOC=0%からSOC=S1まで充電したとき、変位量の傾きθが設定範囲Th3の範囲から外れる場合(θ<(C2-β)、あるいは、(C1+β)<θ)には、組電池41は非正規品であると診断できる。
【0052】
さらに、たとえば、設定範囲Th4を、「(C4-β)~(C3+β)」に設定し、組電池41をSOC=S2からSOC=S3まで充電したとき、変位量の傾きθが設定範囲Th4の範囲内である場合((C4-β)≦θ≦(C3+β))には、組電池41が正規品であると診断できる。また、組電池41をSOC=S2からSOC=S3まで充電したとき、変位量の傾きθが設定範囲Th4の範囲から外れる場合(θ<(C4-β)、あるいは、(C3+β)<θ)には、組電池41は非正規品であると診断できる。なお、βは、ばらつきを考慮したマージン(許容値)である。
【0053】
このように、組電池41の充電時に変位測定装置43で検出した、充電時のセル81の変位に基づいて、組電池41が正規品/非正規品のどちらであるかを診断できる。
【0054】
<診断処理>
図5および図6は、本実施の形態における診断処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、組電池41(スタック410)が交換された場合に実行される。たとえば、組電池41が交換された際に、電池ECU44の初期化(イニシャライズ)処理とともに実行されてよい。各ステップは、電池ECU44によるソフトウェア処理により実現されるが、電池ECU44内に作製されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。以下、ステップをSと略す。
【0055】
図5を参照して、S1において、電池ECU44は、重量センサ(図示せず)を用いて組電池41の重量Wを測定する。電池ECU44のメモリ442には、電池パック40の初期状態(工場出荷時の状態など)での組電池41(正規品)の重量W0が不揮発的に記憶されている。続くS2で、電池ECU44は、S1にて測定された重量Wと、初期状態での重量W0との重量差ΔW(=W-W0)を算出する。そして、電池ECU44は、重量差ΔWが予め定められた閾値TH未満であるどうかを判定する(S3)。重量差ΔWが閾値TH以上である場合、S3において否定判定され、電池ECU44は、対象組電池が非正規品であると診断する(図6:S17)。一方、重量差ΔWが閾値TH未満である場合、S3において肯定判定され、電池ECU44は、処理をS4に進める。なお、S1~S3の処理の詳細については特許文献1を参照できる。
【0056】
S4では、組電池41の外部充電を開始する。充電ケーブル91の充電コネクタがインレット10に接続されると、電池ECU44は、充電リレー30を閉成し、AC/DCコンバータ20の作動を開始して、外部充電を開始する。なお、組電池41が交換された際には、組電池41(セル81)の初回の充電であるので、SOCがほぼ0%の状態から充電が行われる可能性が高い。
【0057】
続くS5で、電池ECU44は、外部充電中のSOCおよびセル81の変位を取得し、メモリ442に記憶する。SOCは、SOC-OCV(Open Circuit Voltage:開回路電圧)曲線を用いた「OCV法」を用いて、あるいは、充放電電流を積算する「電流積算法」を用いて、算出してよい。また、「OCV法」と「電流積算法」を組み合わせて、SOCを取得してもよい。セル81の変位は、たとえば、外部充電を開始したときのセル81のケース813の位置を基準として、ケース813厚さt方向の変位(厚さtの変化)を検出し、SOCと変位を紐付けして、メモリ442に記憶する。
【0058】
S6では、満充電になり外部充電が終了したか否かを判定する。たとえば、組電池41のSOCが95%以上になり、満充電になると、外部充電が終了したと判定する。満充電でない場合は、否定判定されS5へ戻って、外部充電を継続するとともに、SOCおよびセル81の変位を取得する。満充電になり、外部充電が終了すると、肯定判定されS7へ進む。なお、電池ECU44は、満充電になると、充電リレー30を開放し、AC/DCコンバータ20の作動を停止して、外部充電を終了する。
【0059】
続くS7では、メモリ442に記憶された、外部充電中のSOCおよびセル81の変位に基づいて、変位量δと変位量の傾きθを算出する。本実施の形態では、変位測定装置43により、スタック410(電池モジュール)に含まれるすべてのセル81の変位を検出しており、すべてのセル81に対して、SOCと変位が紐付けされメモリ442に格納されている。本実施の形態では、すべてのセル81の変位量の平均値を、変位量δとして算出する。
【0060】
本実施の形態では、SOC=0%から満充電まで充電したときの変位量δ(0~95%)と、SOC=50%から満充電まで充電したときの変位量δ(50~95%)を算出する。たとえば、変位量δ(0~95%)は、満充電(SOC=95%)時の変位測定装置43の検出値からSOC=0%のときの検出値を減算することにより算出される。また、変位量δ(50~95%)は、満充電時の変位測定装置43の検出値からSOC=50%のときの検出値を減算することにより算出される。したがって、外部充電の開始時のSOCが、たとえば、20%のときには、変位量(0~95%)は算出されない。
【0061】
変位量の傾きθは、たとえば、すべてのセル81の変位量の平均値である変位量δを算出し、SOCに対する変位量δの軌跡を求め、変位量δの勾配(単位SOC当たりの変位量δの大きさ)を算出し、各SOCにおける変位量δの傾きθを算出する。したがって、外部充電の開始時のSOCが、たとえば、20%のときには、20%より小さいSOCにおける傾きθは算出されない。
【0062】
S8では、S7において変位量δ(0~95%)が算出されたか否かを判定する。変位量(0~95%)が算出されている場合は、肯定判定されS9へ進み、変位量(0~95%)が算出されていない場合は、否定判定されS10へ進む。
【0063】
S9において、変位量δ(0~95%)が設定範囲Th1の範囲内にあるか否かを判定する。変位量δ(0~95%)が設定範囲Th1の範囲内にある場合((B1-α)≦δ(0~95%)≦(A1+α))には、肯定判定されS16(図6)に進み、組電池41(スタック410)は正規品であると判定される。変位量δ(0~95%)が設定範囲Th1から外れている場合(δ(0~95%)<(B1-α)、あるいは、(A1+α)<δ(0~95%))には、否定判定されS12(図6)に進む。
【0064】
S10では、S7において変位量δ(50~95%)が算出されたか否かを判定する。変位量(50~95%)が算出されている場合は、肯定判定されS11へ進み、変位量(50~95%)が算出されていない場合は、否定判定されS12(図6)へ進む。
【0065】
S11において、変位量δ(50~95%)が設定範囲Th2の範囲内にあるか否かを判定する。変位量δ(50~95%)が設定範囲Th2の範囲内にある場合((B1-B2-α)≦δ(50~95%)≦(A1-A2+α))には、肯定判定されS16(図6)に進み、組電池41(スタック410)は正規品であると判定される。変位量δ(50~95%)が設定範囲Th2から外れている場合(δ(50~95%)<(B1-B2-α)、あるいは、(A1-A2+α)<δ(50~95%))には、否定判定されS12(図6)に進む。
【0066】
図6を参照して、S12では、S7においてSOCが0%~S1における傾きθが算出されたか否かを判定する。SOCが0%~S1における傾きθが算出されている場合は、肯定判定されS13へ進み、SOCが0%~S1における傾きθが算出されていない場合は、否定判定されS14へ進む。
【0067】
S13では、SOCが0%~S1における傾きθのすべてが、設定範囲Th3の範囲内にあるか否かを判定する。SOCが0%~S1における傾きθのすべてが、設定範囲Th3の範囲内にある場合((C2-β)≦θ≦(C1+β))には、肯定判定されS16へ進み、組電池41(スタック410)は正規品であると判定される。SOCが0%~S1における傾きθの一部あるいはすべてが、設定範囲Th3から外れている場合(θ<(C2-β)、あるいは、(C1+β)<θ)には、否定判定されS17へ進んで、組電池41(スタック410)は非正規品であると判定される。
【0068】
S14では、S7においてSOCがS2~S3における傾きθが算出されたか否かを判定する。SOCがS2~S3における傾きθが算出されている場合は、肯定判定されS15へ進み、SOCがS2~S3における傾きθが算出されていない場合は、否定判定されS19へ進む。
【0069】
S15では、SOCがS2~S3における傾きθのすべてが、設定範囲Th4の範囲内にあるか否かを判定する。SOCがS2~S3における傾きθのすべてが、設定範囲Th4の範囲内にある場合((C4-β)≦θ≦(C3+β))には、肯定判定されS16へ進み、組電池41(スタック410)は正規品であると判定される。SOCがS2~S3における傾きθの一部あるいはすべてが、設定範囲Th4から外れている場合(θ<(C4-β)、あるいは、(C3+β)<θ)には、否定判定されS17へ進んで、組電池41(スタック410)は非正規品であると判定される。
【0070】
S19では、S7で算出した変位量δおよび傾きθのデータが、正規品/非正規品のどちらであるかを診断するのに十分でないため、診断を保留し今回の処理を終了する。なお、この場合、車両1の走行終了後、組電池41の外部充電を行う際に、図5および図6に示した診断処理を実行するようにしてよい。
【0071】
S17に続くS18では、電池ECU44は、車載ディスプレイなどのHMI(Human Machine Interface)に警告メッセージを表示して車両1のユーザ(ドライバ)に警告を行った後、処理を終了する。なお、MIL(Malfunction Indication Lamp)を点灯するとともに、組電池41が非正規品であることを示す診断コード(ダイアグノーシスコード)を統合ECU70のメモリに書き込んでもよい。また、この際、統合ECU70は、車両1の走行を禁止してもよい。
【0072】
本実施の形態では、組電池41(スタック410(電池モジュール))の外部充電時に、変位測定装置43でセル81(単電池)の変位を検出し、充電時のセル81の変位に基づいて、組電池41が正規品であるか否かを診断する。したがって、正規品と非正規品とで重量が同等な場合であっても、組電池41について、正規品であるか否かを適切に診断することができる。
【0073】
本実施の形態では、充電時におけるセル81の変位量δが設定範囲の範囲内である場合、あるいは、充電時におけるセル81の変位量の傾きθが設定範囲の範囲内である場合に、組電池41が正規品であると診断している。しかし、変位量δが設定範囲内であり、かつ、変位量の傾きθが設定範囲内である場合に、組電池41が正規品であると診断してもよい。また、変位量δあるいは傾きθのいずれか一方のみを用いて診断を行ってもよい。
【0074】
本実施の形態では、変位量δとして、SOC=0%から満充電まで充電したときの変位量δ(0~95%)と、SOC=50%から満充電まで充電したときの変位量δ(50~95%)とを用いていたが、いずれか一方を用いて診断を行ってよい。また、SOCの範囲は、予め実験等によって、セル(単電池)の特性に応じて適宜設定される。
【0075】
本実施の形態では、変位量の傾きθとして、SOCが0%~S1における傾きθと、SOCがS2~S3における傾きθとを用いていたが、いずれか一方を用いて診断を行ってもよい。また、SOCの範囲は、予め実験等によって、セル(単電池)の特性に応じて適宜設定される。
【0076】
本実施の形態では、すべてのセル81の変位量の平均値を、変位量δとして算出していた。しかし、各セル81の変位量δの中から、最大値δmax、および、最小値δminを選択し、最大値δmaxが設定範囲内にあり、かつ、最小値minが設定範囲内にある場合に、組電池41(スタック410(電池モジュール))が正規品であると診断することが望ましい。これにより、スタック410(組電池41)を構成するセル81の一部が、非正規品である場合であっても、スタック410(組電池41)が非正規品であることを、精度よく診断することができる。
【0077】
同様に、各セル81における変位量の傾きθを算出し、すべてのセル81の傾きθが設定範囲内にある場合に、組電池41が正規品であると診断することが望ましい。これにより、スタック410(組電池41)を構成するセル81の一部が、非正規品である場合であっても、スタック410(組電池41)が非正規品であることを、精度よく診断することができる。
【0078】
(変形例1)
上記実施の形態では、変位測定装置43(たとえば、レーザ変位計)を用いて、すべてのセル81のケース813の厚さt方向の変位(厚みtの変化)を検出していた。しかし、セル81の変位は、歪ゲージ等によって検出するものであってもよい。たとえば、図2および図3に示すように、セル81のケース813に歪ゲージ424を貼り付け、歪ゲージ424の出力信号(出力電圧)に基づいて、セル81の変位を検出するようにしてもよい。なお、組電池41(スタック410)を構成するすべてのセル81に歪ゲージ424を設けなくともよい。この場合であっても、歪ゲージ424の検出信号を用いて算出した変位量δ、あるいは、傾きθが設定範囲から外れるセル81を備えたスタック410は、非正規品であると診断できるので、スタック410の単位で組電池41が交換された際に、組電池41が正規品であるか非正規品であるかを適切に診断できる。
【0079】
(変形例2)
上記の実施の形態では、図5および図6の診断処理を、組電池41が交換された場合に実行している。変形例2では、組電池41が外部充電される毎に、図5および図6の診断処理を実行する。電池ECU44は、たとえば、充電ケーブル91の充電コネクタがインレット10に接続され、充電リレー30が閉成されて、AC/DCコンバータ20が作動を開始して、外部充電が開始された際、図5および図6の診断処理を実行する。
【0080】
この変形例2によれば、組電池41が外部充電される毎に、組電池41が正規品であるか非正規品であるかを診断するので、診断頻度が高くなり、より確実に診断を行うことが可能になる。
【0081】
なお、車両1が、内燃機関とモータジェネレータを備え、かつ、外部充電可能なPHEVである場合、組電池41の電力を積極的に消費してSOCを低下させるCD(Charge Depleting)モードで走行し、SOCが低下してCDモードによる走行を終了したとき、組電池41が満充電に至るまで強制充電走行を行い、この強制充電走行時の充電時に、図5および図6の診断処理を実行するようにしてもよい。
【0082】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0083】
1 車両、10 インレット、20 AC/DCコンバータ、30 充電リレー、40 電池パック、41 組電池、410 スタック、42 監視ユニット、421 電圧センサ、422 電流センサ、423 温度センサ、424 歪ゲージ、43 変位測定装置、44 電池ECU、441 プロセッサ、442 メモリ、60 モータジェネレータ、70 統合ECU、81 セル、82 樹脂枠、83 エンドプレート、84 拘束バンド、812 電極体、813 ケース、814 蓋体、815 正極端子、 816 負極端子、91 充電ケーブル、92 外部電源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6