(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】移動支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/005 20060101AFI20241008BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
G08G1/005
B60L3/00 H
(21)【出願番号】P 2022018933
(22)【出願日】2022-02-09
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 拓昌
(72)【発明者】
【氏名】谷口 真潮
(72)【発明者】
【氏名】橋立 直弥
【審査官】西畑 智道
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100885(JP,A)
【文献】特開2021-174467(JP,A)
【文献】特開2009-116753(JP,A)
【文献】特開2013-009826(JP,A)
【文献】特開2000-175957(JP,A)
【文献】特開2011-215712(JP,A)
【文献】特開2018-081220(JP,A)
【文献】特開2007-278979(JP,A)
【文献】特開2007-210403(JP,A)
【文献】特開2021-142211(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0254703(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動支援デバイスに備えられ、ユーザの移動を支援するための移動支援動作が可能な移動支援装置であって、
前記ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさに応じ、電力モードを、前記移動支援動作を可能とする通常モードと該通常モードよりも消費電力が少ない省電力モードとの間で切り替えるモード切替制御部を備えており、
前記電力モードが前記省電力モードとなる条件は、前記周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしていることを含
み、
前記ユーザの移動に対する周辺リスクに相関のあるリスク指標を取得可能なリスク指標取得部を備えており、
前記低リスク条件は、前記リスク指標取得部によって取得された前記リスク指標が所定の閾値以下となっていることであり、
前記周辺リスクは、前記ユーザに対する車両の接近であって、
前記リスク指標取得部は、前記ユーザに接近する車両が発する音に共振する共振装置と、該共振装置の共振に伴って発電する発電装置と、該発電装置の発電に係る物理量を検知する検知手段とを備え、
前記低リスク条件は、前記検知手段で検知された前記物理量が所定の閾値以下となっていることであることを特徴とする移動支援装置。
【請求項2】
請求項1記載の移動支援装置において、
前記車両が発する音は、接近通報音、緊急車両のサイレン音および列車の走行音のうちの少なくとも一つであることを特徴とする移動支援装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の移動支援装置において、
前記共振装置の共振周波数は、前記車両が発する音の周波数に対し、当該車両が前記ユーザに接近する場合のドップラ効果による周波数遷移分だけ高い周波数として設定されていることを特徴とする移動支援装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の移動支援装置において、
前記移動支援デバイスは、前記ユーザが把持する把持部を備えており、
前記共振装置は、前記把持部内の複数箇所に配設されていて、これら共振装置それぞれの共振周波数は、互いに異なる周波数の音を発する前記車両それぞれの当該音の周波数に応じて個別に設定されていることを特徴とする移動支援装置。
【請求項5】
請求項4記載の移動支援装置において、
前記移動支援デバイスの前記把持部には、前記ユーザの手の各指が接触する複数の接触領域を備えており、
前記各共振装置は、互いに異なる前記接触領域に対応した位置にそれぞれ配設されていることを特徴とする移動支援装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の移動支援装置において、
前記各共振装置それぞれの配設位置に対応して配設され且つ前記ユーザの押圧操作が可能な複数のスイッチと、
前記ユーザが押圧操作した前記スイッチからの押圧信号を受け、該押圧信号を発した前記スイッチに応じて、接近する前記車両を特定し、該車両に対するユーザ存在通知動作を行う通知手段とを備えていることを特徴とする移動支援装置。
【請求項7】
移動支援デバイスに備えられ、ユーザの移動を支援するための移動支援動作が可能な移動支援装置であって、
前記ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさに応じ、電力モードを、前記移動支援動作を可能とする通常モードと該通常モードよりも消費電力が少ない省電力モードとの間で切り替えるモード切替制御部を備えており、
前記電力モードが前記省電力モードとなる条件は、前記周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしていることを含み、
前記ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさは、前記ユーザが移動中に危機に遭遇するまでの物理的時間に基づく切迫度に応じて求められることを特徴とする移動支援装置。
【請求項8】
請求項7記載の移動支援装置において、
前記切迫度は、前記ユーザが移動中に危機に遭遇するまでの物理的時間に対応する基準切迫度に対して、前記ユーザの移動時における切迫度補正パラメータに応じて補正されたものであることを特徴とする移動支援装置。
【請求項9】
請求項8記載の移動支援装置において、
前記切迫度補正パラメータは、前記移動中に危機に遭遇することに対する前記ユーザの回避行動の機敏さ、前記移動中に危機に遭遇することに対する周辺環境に起因する前記ユーザの回避行動のし易さ、前記移動中の危機の種類のうち少なくとも一つであることを特徴とする移動支援装置。
【請求項10】
移動支援デバイスに備えられ、ユーザの移動を支援するための移動支援動作が可能な移動支援装置であって、
前記ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさに応じ、電力モードを、前記移動支援動作を可能とする通常モードと該通常モードよりも消費電力が少ない省電力モードとの間で切り替えるモード切替制御部を備えており、
前記電力モードが前記省電力モードとなる条件は、前記周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしていることを含み、
前記ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさは、前記ユーザが移動中に危機に遭遇した際の結果がもたらす影響度合いである重要度に応じて求められることを特徴とする移動支援装置。
【請求項11】
請求項1~10のうち何れか一つに記載の移動支援装置において、
前記周辺リスクの大きさは、当該移動支援装置に備えられた情報取得手段によって取得されたユーザ周辺情報、当該移動支援装置が受信する外部機器からの受信情報、および、前記移動支援デバイスの位置情報のうち少なくとも一つから求められることを特徴とする移動支援装置。
【請求項12】
請求項1~11のうち何れか一つに記載の移動支援装置において、
前記周辺リスクが前記所定の低リスク条件を満たしている状態から所定の高リスク条件を満たした状態となった際には、前記モード切替制御部は、前記電力モードを前記省電力モードから前記通常モードに切り替える構成となっていることを特徴とする移動支援装置。
【請求項13】
請求項1~6のうち何れか一つに記載の移動支援装置において、
前記リスク指標取得部によって取得された前記リスク指標が所定の閾値以下となっている状態から当該リスク指標が前記閾値を超えた場合には、前記モード切替制御部は、前記電力モードを前記省電力モードから前記通常モードに切り替える構成となっていることを特徴とする移動支援装置。
【請求項14】
請求項1~13のうち何れか一つに記載の移動支援装置において、
前記省電力モードは、当該移動支援装置に内蔵されている機器への給電を停止するスリープ状態となるモードであることを特徴とする移動支援装置。
【請求項15】
請求項1~14のうち何れか一つに記載の移動支援装置において、
前記移動支援動作が必要な状況の情報を記憶する記憶部を備えており、
前記モード切替制御部は、前記ユーザの移動状態において、前記記憶部に記憶されている前記移動支援動作が必要な状況となっている場合に、前記電力モードを前記通常モードに切り替えることを特徴とする移動支援装置。
【請求項16】
請求項15記載の移動支援装置において、
前記モード切替制御部は、前記記憶部に記憶されている前記移動支援動作が必要な状況の情報から生成された学習済みモデルに対し、現在の前記ユーザの周辺情報を照合することによって前記電力モードの切り替えを行うことを特徴とする移動支援装置。
【請求項17】
請求項1~16のうち何れか一つに記載の移動支援装置において、
前記移動支援デバイスは、前記ユーザが把持または携帯するものであることを特徴とする移動支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの移動(例えば視覚障碍者の歩行)に対する移動支援を行うための移動支援装置に係る。特に、本発明は、移動支援装置の省電力化を図るための対策に関する。
【背景技術】
【0002】
視覚障碍者等の歩行者に対する歩行支援(ユーザの移動に対する移動支援)を行うための移動支援装置として、特許文献1に開示されているものが知られている。この特許文献1には、周辺に存在する移動体(車両等)の移動に関する情報を受信し、この受信した情報に基づいて、視覚を用いずに行動するユーザ(視覚障碍者)に対して移動支援のための通知を行うことが開示されている。具体的には、移動体との衝突を回避するための通知機能として、ユーザが把持する移動支援デバイス(白杖)の周辺に存在する移動体と通信を行うことで、該移動体の現在位置、移動方向および移動速度を取得して、移動体の今後の移動軌跡とユーザの今後の移動軌跡とを予測し、移動体とユーザとが衝突する確率が所定値以上の場合に、ユーザに対して、移動体と衝突する可能性があることを移動支援デバイスからの音声または移動支援デバイスの振動により通知するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の移動支援装置は、ユーザの移動に対する周辺リスク(例えば車両が接近していること)の大小に関わりなく周辺環境を認識するために一律に電力消費するものであった。そのため、電力消費量が多く、バッテリの蓄電残量が無くなるまでの時間が比較的短いものであった。バッテリの蓄電残量が無くなった場合には、前述した動作(移動体との衝突を回避するための通知等の移動支援動作)を発揮することができなくなってしまう。
【0005】
搭載するバッテリを大型化することにより、前記機能を長期間に亘って継続的に発揮させることは可能であるものの、この場合、バッテリの大型化および重量の増大化を招いてしまうため、実用性に欠けるものである。また、ユーザが必要に応じて移動支援装置の電源のON/OFFを切り替えるようにすることで、省電力化を図ることができてバッテリの小型化が可能になるものの、電源のON/OFF操作は煩わしく、また、電源のON操作を怠った場合には前記機能を発揮することができず、当該機能を適切なタイミングで発揮させることについては保証できないものとなる。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、移動支援装置の省電力化を図る上での実用性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、移動支援デバイスに備えられ、ユーザの移動を支援するための移動支援動作が可能な移動支援装置を前提とする。そして、この移動支援装置は、前記ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさに応じ、電力モードを、前記移動支援動作を可能とする通常モードと該通常モードよりも消費電力が少ない省電力モードとの間で切り替えるモード切替制御部を備えており、前記電力モードが前記省電力モードとなる条件は、前記周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしていることを含み、前記ユーザの移動に対する周辺リスクに相関のあるリスク指標を取得可能なリスク指標取得部を備えており、前記低リスク条件は、前記リスク指標取得部によって取得された前記リスク指標が所定の閾値以下となっていることであり、前記周辺リスクは、前記ユーザに対する車両の接近であって、前記リスク指標取得部は、前記ユーザに接近する車両が発する音に共振する共振装置と、該共振装置の共振に伴って発電する発電装置と、該発電装置の発電に係る物理量を検知する検知手段とを備え、前記低リスク条件は、前記検知手段で検知された前記物理量が所定の閾値以下となっていることであることを特徴とする。
【0008】
ここで、「通常モードよりも消費電力が少ない」とは、消費電力が零になる場合を含む概念である。
【0009】
この特定事項により、ユーザの移動に対する周辺リスクが比較的高い場合(所定の低リスク条件を満たしていない場合)には、そのことを条件として、モード切替制御部は、移動支援装置の電力モードを通常モードにし、ユーザの移動を支援するための移動支援動作を可能にする。これに対し、ユーザの移動に対する周辺リスクが比較的低く、所定の低リスク条件を満たしている場合には、そのことを含む所定条件が成立している場合に(所定の低リスク条件を満たしていることのみを条件とする場合も含む)、移動支援装置の電力モードは省電力モードとなり、移動支援装置で消費される電力が零になる。または、移動支援装置で消費される電力が減少する。このように、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードが省電力モードとなることで移動支援装置の電力消費量を削減することができる。その結果、大型のバッテリを搭載しておく必要なしに、移動支援装置の機能(適切なタイミングで移動支援動作を実施する機能)を長期間に亘って継続的に発揮させることができ、移動支援装置の省電力化を図る上での実用性を高めることができる。
【0011】
具体的に、リスク指標が所定の閾値を超えている場合には、ユーザの移動に対する周辺リスクは比較的高いことが想定され、そのことを条件として、モード切替制御部は、移動支援装置の電力モードを通常モードにし、ユーザの移動を支援するための移動支援動作を可能にする。これに対し、リスク指標が所定の閾値以下となっている場合には、ユーザの移動に対する周辺リスクは比較的低いことが想定され、そのことを含む所定条件が成立している場合に、移動支援装置の電力モードは省電力モードとなり、移動支援装置で消費される電力が零になる。または、移動支援装置で消費される電力が減少する。これにより、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードが省電力モードとなることで移動支援装置の電力消費量を削減することができる。このようにリスク指標と所定の閾値との対比によって電力モードが切り替えられるようにしたことにより、電力モードを切り替える条件の設定を容易に行うことができる。
【0013】
より具体的に、ユーザに車両が接近しておりユーザの移動に対する周辺リスクが高くなっていることを、該車両が発する音(該車両の走行に伴って発生する音も含む)に共振装置が共振する動作を利用して認識する。つまり、ユーザに接近する車両が発する音に共振装置が共振することで、その振動(共振)を利用して発電装置が発電を行う。そして、この発電に係る物理量(電流値や電圧値等)を検知手段が検知した場合に、その検知された物理量が所定の閾値を超えている場合には、そのことを条件として、モード切替制御部は、移動支援装置の電力モードを通常モードにし、ユーザの移動を支援するための移動支援動作を可能にする。つまり、ユーザに車両が接近していることに連動して移動支援動作が行われることになる。一方、前記物理量が所定の閾値以下(物理量が零である場合を含む)となっている場合には、そのことを含む所定条件が成立している場合に、移動支援装置の電力モードは省電力モードとなり、移動支援装置で消費される電力が零になる。または、移動支援装置で消費される電力が減少する。このように、車両が発する音を利用して、ユーザの移動に対する周辺リスクを認識できるようにしていることにより、電力を使用することなく周辺リスクを認識することが可能であり、これによっても移動支援装置の省電力化に寄与させることができる。
【0014】
この場合に、前記車両が発する音は、接近通報音、緊急車両のサイレン音および列車の走行音のうちの少なくとも一つである。
【0015】
これらの音は所定の周波数帯の音となっている。そして、この音(接近通報音、緊急車両のサイレン音および列車の走行音のうちの少なくとも一つ)を対象として共振装置が共振するように設定しておくことにより、車両が発する音以外の音(周辺の騒音等)に共振装置が共振してしまうといったことを抑制でき、ユーザに車両が接近しているといった周辺リスクを正確に認識することが可能となる。その結果、省電力モードの解除が無駄に行われてしまう(ユーザに車両が接近していないにも拘わらず周辺の騒音等に共振して省電力モードが解除されてしまう)といった状況を抑制することができる。
【0016】
より具体的に、前記共振装置の共振周波数は、前記車両が発する音の周波数に対し、当該車両が前記ユーザに接近する場合のドップラ効果による周波数遷移分だけ高い周波数として設定されている。
【0017】
これによれば、車両がユーザに接近している場合に限り、該車両から到達する音(ドップラ効果によって高周波数側に遷移した音)に共振装置が共振して、発電装置による発電が行われることになる。つまり、車両がユーザから遠ざかっている状況では、該車両から到達する音に共振装置は共振せず、発電装置による発電も行われない。このため、車両がユーザから遠ざかっており、ユーザの移動に対する周辺リスクが低い状況では、リスク指標が所定の閾値以下となり、電力モードが省電力モードとなる。このようにドップラ効果を考慮した共振装置の共振周波数を設定することで、ユーザの移動に対する周辺リスクの認識精度を高めることができ、車両がユーザから遠ざかっている状況であるにも拘わらず省電力モードが解除されてしまうといった状況を抑制することができて、移動支援装置の省電力化にいっそう寄与させることができる。
【0018】
また、前記移動支援デバイスは、前記ユーザが把持する把持部を備えており、前記共振装置は、前記把持部内の複数箇所に配設されていて、これら共振装置それぞれの共振周波数は、互いに異なる周波数の音を発する前記車両それぞれの当該音の周波数に応じて個別に設定されている。
【0019】
これによれば、ユーザは、各共振装置それぞれの配設位置と、各共振装置が共振する音(接近通報音やサイレン音や走行音)と、その音を発する車両の種類との関係を予め把握しておくことにより(電動車等の車両が発する接近通報音に共振する共振装置の配設位置や、緊急車両が発するサイレン音に共振する共振装置の配設位置や、列車の走行音に共振する共振装置の配設位置を予め把握しておくことにより)、移動支援デバイスの把持部を把持した状態で、何れの共振装置が共振しているかを認識することで、接近している車両の種類(共振している音に応じた車両の種類)を知ることが可能になる。つまり、ユーザが車両を見ることができなかったり、車両が発する音をユーザが聞くことができない状況であっても、車両が接近していることと、その車両の種類とを知ることが可能になる。
【0020】
また、前記移動支援デバイスの前記把持部には、前記ユーザの手の各指が接触する複数の接触領域を備えており、前記各共振装置は、互いに異なる前記接触領域に対応した位置にそれぞれ配設されている。
【0021】
これによれば、ユーザは、移動支援デバイスの把持部を把持した状態で、共振によって振動が伝わってくる指を認識することにより、何れの共振装置が共振しているかを容易に認識することが可能になり、接近している車両の種類を容易に知ることができる。
【0022】
また、前記各共振装置それぞれの配設位置に対応して配設され且つ前記ユーザの押圧操作が可能な複数のスイッチと、前記ユーザが押圧操作した前記スイッチからの押圧信号を受け、該押圧信号を発した前記スイッチに応じて、接近する前記車両を特定し、該車両に対するユーザ存在通知動作を行う通知手段とを備えている。
【0023】
これによれば、何れかの共振装置が共振することで車両が接近していることを認識したユーザが、何らかの理由で当該車両を認識できなくなった場合には、共振している共振装置の配設位置に対応して配設されているスイッチの押圧操作を行う。この際、当該スイッチからは押圧信号が出力され、該押圧信号を通知手段が受信する。この場合、押圧信号を出力したスイッチが把握されているので、ユーザが認識できなくなった車両が特定されることになる。通知手段は、この車両に対してユーザ存在通知動作(ユーザの存在を知らせるための通知動作)を行う。これにより、ユーザに接近している車両の運転者は、当該ユーザの存在を認識することになり、該運転者がユーザの存在を考慮した運転操作を行うことが期待できる。その結果、ユーザと車両との接触を回避できる。
【0024】
また、前記ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさは、前記ユーザが移動中に危機に遭遇(例えば車両に接近)するまでの物理的時間に基づく切迫度に応じて求められる。
【0025】
これによれば、前記切迫度が低く、前記低リスク条件を満たしている状態では移動支援装置の電力モードは省電力モードとなる。そして、前記切迫度が高くなり、前記低リスク条件を満たさない状態になると移動支援装置の電力モードは通常モードとなり、移動支援動作が可能となる。これによっても、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードが省電力モードとなることで移動支援装置の電力消費量を削減することができる。
【0026】
この場合、前記切迫度は、前記ユーザが移動中に危機に遭遇するまでの物理的時間に対応する基準切迫度に対して、前記ユーザの移動時における切迫度補正パラメータに応じて補正されたものであってもよい。
【0027】
これによれば、ユーザの移動時における様々な状況(ユーザの状態や周辺環境等)に応じた切迫度を適切に求めることが可能となり、ユーザに対して提供する移動支援動作の適正化を図ることができる。
【0028】
具体的に、前記切迫度補正パラメータは、前記移動中に危機に遭遇することに対する前記ユーザの回避行動の機敏さ、前記移動中の危機に遭遇することに対する周辺環境に起因する前記ユーザの回避行動のし易さ、前記移動中の危機の種類のうち少なくとも一つである。
【0029】
ユーザが移動のリスクに遭遇するまでの物理的時間(基準切迫度を決定する物理的時間)が同じであったとしても、リスクに遭遇することに対する回避行動が機敏なユーザよりも回避行動が機敏でないユーザの方がリスクに遭遇してしまう可能性は高くなる。このため、この回避行動が機敏でないユーザの場合には、前記物理的時間が同じであったとしても切迫度を高いものとして扱うことが好ましい。また、リスクに遭遇することに対する回避行動のし易い周辺環境である場合よりも回避行動のし難い周辺環境である場合の方がリスクに遭遇してしまう可能性は高くなる。このため、回避行動のし難い周辺環境である場合にも、切迫度を高いものとして扱うことが好ましい。また、ユーザが遭遇するリスクの種類によっては、接近が許容できない範囲が異なる。例えば、ユーザが人に接近する場合には、物に接近する場合に比べて、接近が許容できない範囲は広いことが想定される。つまり、遭遇するリスクが物の場合には、遭遇するまでの物理的時間を考慮するのみでよいが、遭遇するリスクが人の場合には、遭遇するまでの物理的時間に加えて心理的なパーソナルスペースを確保するための余裕時間(心理的余裕時間)を考慮することが必要であるため、この場合にも切迫度を高いものとして扱うことが好ましい。
【0030】
これらを考慮し、本解決手段では、移動のリスクに遭遇することに対するユーザの回避行動の機敏さ、移動のリスクに遭遇することに対する周辺環境に起因するユーザの回避行動のし易さ、移動のリスクの種類のうち少なくとも一つに基づいて、基準切迫度(リスクに遭遇するまでの物理的時間に対応する切迫度)に対する補正によって切迫度を決定するようにしている。これにより、移動支援装置の電力モードを通常モードと省電力モードとの間で切り替えるタイミングのいっそうの適正化を図ることができる。
【0031】
また、前記ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさは、前記ユーザが移動中に危機に遭遇した際の結果がもたらす影響度合いである重要度に応じて求められる。
【0032】
これによれば、前記重要度が低く、前記低リスク条件を満たしている状態では移動支援装置の電力モードは省電力モードとなる。一方、前記重要度が高く、前記低リスク条件を満たさない状態では移動支援装置の電力モードは通常モードとなり、移動支援動作が可能となる。これによっても、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードが省電力モードとなることで移動支援装置の電力消費量を削減することができる。
【0033】
前記周辺リスクの大きさは、前記移動支援装置に備えられた情報取得手段によって取得されたユーザ周辺情報、前記移動支援装置が受信する外部機器からの受信情報、および、前記移動支援デバイスの位置情報のうち少なくとも一つから求められる。
【0034】
これにより、ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさを適正に求めることができ、移動支援装置の電力モードを通常モードと省電力モードとの間で切り替えるタイミングの適正化を図ることができる。
【0035】
前記周辺リスクが前記所定の低リスク条件を満たしている状態から所定の高リスク条件を満たした状態となった際には、前記モード切替制御部は、前記電力モードを前記省電力モードから前記通常モードに切り替える構成となっている。
【0036】
より具体的に、前記リスク指標取得部を備えた移動支援装置の場合にあっては、前記リスク指標取得部によって取得された前記リスク指標が所定の閾値以下となっている状態から当該リスク指標が前記閾値を超えた場合に、前記モード切替制御部は、前記電力モードを前記省電力モードから前記通常モードに切り替える構成となっている。
【0037】
このようにして、電力モードを省電力モードから通常モードに切り替えるタイミングの適正化を図るようにしたことで、移動支援動作の開始タイミングの適正化が図れ、移動支援装置を搭載した移動支援デバイスの実用性を高めることができる。
【0038】
また、前記省電力モードは、前記移動支援装置に内蔵されている機器への給電を停止するスリープ状態となるモードである。
【0039】
これによれば、移動支援装置の電力モードが省電力モード(スリープ状態)となっている状態では、前記機器による消費電力を零にすることができ、大幅な省電力化を実現することができる。
【0040】
前記移動支援動作が必要な状況の情報を記憶する記憶部を備えており、前記モード切替制御部は、前記ユーザの移動状態において、前記記憶部に記憶されている前記移動支援動作が必要な状況となっている場合に、前記電力モードを前記通常モードに切り替える。
【0041】
これは、記憶部に記憶されている情報に基づいて、ユーザの現在の移動状態における周辺リスクの大きさを判断するものであり、ユーザ周辺情報を取得するための手段(カメラ等)の情報を必要とすることなく、ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさを判断することが可能になる。
【0042】
この場合に、前記モード切替制御部は、前記記憶部に記憶されている前記移動支援動作が必要な状況の情報から生成された学習済みモデルに対し、現在の前記ユーザの周辺情報を照合することによって前記電力モードの切り替えを行う。
【0043】
これにより、モード切替制御部によって切り替えられる電力モードの適正化を図ることができる。
【0044】
また、前記移動支援デバイスは、前記ユーザが把持または携帯するものである。
【0045】
ユーザが把持または携帯するものの例としては、視覚障碍者が把持する白杖や、高齢者等が乗車するパーソナルモビリティの把持部等が挙げられる。これらの移動支援デバイスに本発明を適用することにより、これら移動支援デバイスを利用した適切な移動支援動作(適切なタイミングでの移動支援動作)が行える状態を長期間に亘って継続させることができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明では、ユーザの移動に対する周辺リスクの大きさに応じて電力モードを切り替えるに当たり、電力モードが省電力モードとなる条件を、周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしていることを含むようにしている。これにより、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードが省電力モードとなることで移動支援装置の電力消費量を削減することができる。その結果、大型のバッテリを搭載しておく必要なしに、移動支援装置の機能(適切なタイミングで移動支援動作を実施する機能)を長期間に亘って継続的に発揮させることができ、移動支援装置の省電力化を図る上での実用性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】第1実施形態に係る移動支援装置を内蔵した白杖を示す図である。
【
図2】第1実施形態における白杖のグリップ部の内部を示す概略図である。
【
図3】第1実施形態に係る移動支援装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態に係る移動支援装置に備えられた起動ユニットの概略構成を示す模式図である。
【
図5】第1実施形態においてユーザの移動時における移動支援装置の動作を説明するための図である。
【
図6】第2実施形態に係る移動支援装置に備えられた起動ユニットの概略構成を示す模式図である。
【
図7】第3実施形態に係る白杖をユーザが把持した状態を示す図である。
【
図8】第4実施形態に係る白杖のグリップ部周辺の一部を破断して示す図である。
【
図9】第4実施形態に係る移動支援装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【
図10】第4実施形態における移動支援動作の手順を示すフローチャート図である。
【
図11】第5実施形態に係る白杖と車両との通信状態を説明するための図である。
【
図12】第5実施形態に係る移動支援装置の制御系および車両の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【
図13】第6実施形態に係る移動支援装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【
図15】切迫度および重要度、切迫感および重要感、情報属性ゾーンの関係を表す図である。
【
図17】情報属性に割り当てられた振動パターンの例を示す波形図である。
【
図18】第7実施形態に係る移動支援システムの制御系の概略構成を示すブロック図である。
【
図19】第8実施形態に係るパーソナルモビリティのグリップ部をユーザが把持した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0051】
(第1実施形態)
先ず、第1実施形態について説明する。本実施形態では、本発明に係る移動支援装置を、視覚障碍者が使用する白杖(移動支援デバイス)に内蔵した場合について説明する。尚、以下では、視覚障碍者を単にユーザと呼ぶ場合もある。また、本発明におけるユーザとしては視覚障碍者に限定されるものではない。
【0052】
-白杖の概略構成-
図1は、本実施形態に係る移動支援装置10を内蔵した白杖1を示す図である。この
図1に示すように、白杖1は、シャフト部2、グリップ部(把持部)3、チップ部(石突き)4を備えている。
【0053】
シャフト部2は、中空の略円形断面を有するロッド状であって、アルミニウム合金やガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂等で形成されている。
【0054】
グリップ部3は、シャフト部2の基端部(上端部)に設けられ、ゴム等の弾性体で成るカバー31が装着されて構成されている。また、本実施形態における白杖1のグリップ部3は、ユーザが把持する際の持ち易さと滑り難さを考慮し、先端側(
図1における上側)が僅かに湾曲した形状となっている。尚、グリップ部3の構成としてはこれに限定されるものではない。
【0055】
チップ部4は、硬質の合成樹脂などで形成された略有底筒状の部材であって、シャフト部2の先端部に外挿されて接着やねじ止めなどの手段で固定されている。尚、チップ部4は、先端側の端面が半球状となっている。
【0056】
本実施形態に係る白杖1は、折り畳み不能な直杖であるが、シャフト部2の中間の一箇所または複数箇所で折り畳み可能或いは伸縮可能とされたものであってもよい。
【0057】
-移動支援装置の構成-
以下、本発明に係る移動支援装置10について説明する。
【0058】
図2は、白杖1のグリップ部3の内部を示す概略図である。この
図2に示すように、本実施形態に係る移動支援装置10は、白杖1に内蔵されている。また、
図3は、移動支援装置10の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【0059】
これらの図に示すように、移動支援装置10は、カメラ20、近距離無線通信機30、メインバッテリ40、充電ソケット50、起動ユニット60、制御装置70等を備えている。
【0060】
カメラ20は、グリップ部3の根元部における当該グリップ部3の前面(ユーザの進行方向に向く面)に埋め込まれ、ユーザの進行方向前側(歩行方向前方)を広角に撮影する。このカメラ20は、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等で成る。また、カメラ20の構成や配設位置は前述したものには限定されず、例えば、シャフト部2の前面(ユーザの進行方向に向く面)に埋め込まれたものであってもよい。
【0061】
近距離無線通信機30は、前記カメラ20と制御装置70との間で近距離無線通信を行うための無線通信装置である。例えば、周知のBluetooth(登録商標)等の通信手段によって、カメラ20と制御装置70との間で近距離無線通信を行い、カメラ20が撮影した画像の情報を制御装置70に向けて無線送信する構成となっている。
【0062】
メインバッテリ40は、前記カメラ20、近距離無線通信機30、制御装置70のための電力を蓄電する二次電池で構成されている。
【0063】
充電ソケット50は、メインバッテリ40に電力を蓄える際に充電ケーブルが接続される部分である。例えば、ユーザが在宅中に家庭用電源からメインバッテリ40を充電する際に充電ケーブルが接続される。
【0064】
起動ユニット60は、移動支援装置10を起動させるためのスイッチ機能を発揮するものであって、グリップ部3の根元部における前記カメラ20の上側に配設されている。
【0065】
図4は、起動ユニット60の概略構成を示す模式図である。この
図4に示すように、起動ユニット60は、電磁誘導によって発電を行うものであって、ケーシング61内に、サブバッテリ62、発電ユニット63、電流センサ64を備えた構成となっている。また、発電ユニット63は、磁石63a、コイルバネ63b、電磁コイル63cを備えている。
【0066】
具体的に、サブバッテリ62は、発電ユニット63で発電された電力を蓄電する二次電池で構成されている。サブバッテリ62は、連結シャフト62a,62aによってケーシング61に支持されている。
【0067】
発電ユニット63の構成としては、サブバッテリ62の下面に取り付けられたコイルバネ63bの下端に磁石63aが取り付けられている。磁石63aの外周囲には電磁コイル63cが配設されている。この電磁コイル63cはサブバッテリ62の正負の各端子(図示省略)に接続されている。このため、磁石63aが、コイルバネ63bの伸縮を伴いながら上下方向(グリップ部3の延在方向)に沿って往復移動した場合に、電磁コイル63c中の磁界が変化することに伴い電磁誘導による誘導電流が発生し、この誘導電流によってサブバッテリ62が充電されるようになっている。尚、本実施形態では、前記電磁誘導によって発生した電力をサブバッテリ62に充電するようにしているが、サブバッテリ62を備えさせることなく、電磁コイル63cをメインバッテリ40の正負の各端子に接続する構成を採用し、前記電磁誘導によって発生した電力をメインバッテリ40に充電するようにしてもよい。
【0068】
そして、本実施形態にあっては磁石63aおよびコイルバネ63bで構成されるバネマス系の共振周波数(固有振動数)は、車両の接近通報音の周波数に略一致されたものとなっている。この接近通報音は、車両(例えば電動車や燃料電池車)に搭載されたスピーカから車両前方に向けて発せられる音であって、歩行者等に自車両の接近を知らせるためのものであり、予め規定された周波数帯の音である。このため、白杖1を把持しているユーザの近くに、接近通報音を発している車両が存在している場合(例えば、白杖1を把持しているユーザに、接近通報音を発している車両が近付いている場合)には、前記バネマス系が接近通報音と共振し、これによって、磁石63aが、コイルバネ63bの伸縮を伴いながら上下方向に沿って往復移動して前記電磁誘導による発電が行われる構成となっている。
【0069】
より具体的には、白杖1を把持しているユーザに、接近通報音を発している車両が近付いている場合、ドップラ効果に起因して実際の接近通報音よりも僅かに高い周波数の接近通報音が白杖1に到達することになるので、磁石63aおよびコイルバネ63bで構成されるバネマス系の共振周波数は、このドップラ効果を考慮して、実際の接近通報音(スピーカから発せられている音)よりも僅かに高い周波数(ドップラ効果による周波数遷移分だけ高い周波数)として設定されている。このため、白杖1を把持しているユーザに、接近通報音を発している車両が近付いている場合には、前記バネマス系が接近通報音と共振して電磁誘導による発電が行われるのに対し、ユーザの近くに、接近通報音を発している車両が存在していたとしても、該車両がユーザから遠ざかっていく場合には、前記バネマス系が接近通報音と共振することがなく、電磁誘導による発電は行われないようになっている。尚、実際の接近通報音よりも僅かに高い周波数として設定されるバネマス系の共振周波数の値としては、実験またはシミュレーションによって(車両の平均的な車速と、それに伴うドップラ効果による周波数の遷移分等を考慮することで)適宜設定されることになる。
【0070】
また、前記バネマス系が接近通報音と共振している場合には、磁石63aが上下方向に沿って往復移動することに伴って振動が発生する。この振動はケーシング61を経てグリップ部3に伝達されることになる。このため、白杖1のグリップ部3を把持しているユーザの手には当該振動が伝わることになり、ユーザに、車両(接近通報音を発している車両)が接近していることを通知することができる。つまり、ユーザに対する注意喚起を行うことができる。
【0071】
このような構成により、前記磁石63aおよびコイルバネ63bによって本発明でいう共振装置(ユーザに接近する車両が発する音に共振する共振装置)が構成されており、磁石63aおよび電磁コイル63cによって本発明でいう発電装置(共振装置の共振に伴って発電する発電装置)が構成されていることになる(磁石63aは共振装置の構成要素であり発電装置の構成要素でもある)。
【0072】
電流センサ(本発明でいう検知手段)64は、前記電磁コイル63cに接続される導線上に配置され、前記電磁誘導による発電が行われた際に、その電流値(発電に係る物理量)を検知する。この検知された電流値の情報は、電流センサ64から制御装置70に送信される。この電流センサ64としては、公知の抵抗検出型および磁場検出型の何れであってもよい。また、電流センサ64から制御装置70への電流値の情報の送信は有線によるものであってもよいし、無線によるもの(例えば前記近距離無線通信機30を利用したもの)であってもよい。電流値の情報の無線による送信を行うに当たっては、例えば前記電磁誘導によって発電された電力やサブバッテリ62に蓄えられている電力が使用されることが好ましい。
【0073】
制御装置70は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、制御プログラムを記憶するROM(Read-Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random-Access Memory)、および、入出力ポート等を備えている。
【0074】
そして、この制御装置70は、前記制御プログラムによって実現される機能部として、情報受信部71、モード切替制御部72、情報送信部73を備えている。以下、これら各部の機能の概略について説明する。
【0075】
情報受信部71は、後述する電力モードが通常モードとなっている状態において、前記カメラ20が撮影した画像の情報を、当該カメラ20から近距離無線通信機30を介して所定時間間隔をもって受信する。また、この情報受信部71は、電流センサ64から電流値の情報(電流センサ64が検知した電流値の情報)を、前記電磁誘導による発電が行われた際に受信する。
【0076】
モード切替制御部72は、情報受信部71が受信した電流値の情報に応じて移動支援装置10の電力モードを切り替えるための切り替え指令情報を生成する。具体的に、移動支援装置10による移動支援動作を実行するための電気回路ECとメインバッテリ40との間には電源スイッチPSが介在されており、モード切替制御部72は、この電源スイッチPSのON/OFF切り替えを行うための切り替え指令情報を生成する。
【0077】
具体的に、モード切替制御部72は、電流センサ64からの情報に含まれる電流値が所定の閾値を超えている場合(本発明でいう所定の高リスク条件を満たした状態)には、電源スイッチPSをONするための切り替え指令情報(スイッチON指令情報)を生成する。また、モード切替制御部72は、電流センサ64からの情報に含まれる電流値が所定の閾値以下となっている場合(本発明でいう所定の低リスク条件を満たした状態)には、電源スイッチPSをOFFするための切り替え指令情報(スイッチOFF指令情報)を生成する。モード切替制御部72によって生成された切り替え指令情報は情報送信部73から電源スイッチPSに送信される。尚、前記所定の閾値は、予め実験やシミュレーションによって決定されたものである。
【0078】
そして、電源スイッチPSにスイッチON指令情報が送信された場合には、電源スイッチPSがONとなり、移動支援装置10の電力モードが、メインバッテリ40から電気回路ECへ給電が行われる通常モードとなる。この通常モードでは、カメラ20の起動(撮影の開始)や、近距離無線通信機30の起動(カメラ20が撮影した画像の情報の制御装置70への送信)が行われて、移動支援装置10の作動による移動支援動作が可能となる。
【0079】
一方、電源スイッチPSがONとなっている状態において、電源スイッチPSにスイッチOFF指令情報が送信された場合には、電源スイッチPSがOFFとなり、移動支援装置10の電力モードが、メインバッテリ40から電気回路ECへの給電が行われない省電力モード(通常モードよりも消費電力が少ない省電力モード)となり、移動支援装置10の作動を停止させる。つまり、移動支援装置10の作動による移動支援動作が不能となる。
【0080】
このような電力モードの切り替え動作が行われるようになっているため、前記電流センサ64が検知した電流値が本発明でいうリスク指標(ユーザの移動に対する周辺リスクに相関のあるリスク指標;検知手段で検知された物理量)に相当し、前記起動ユニット60が本発明でいうリスク指標取得部(ユーザの移動に対する周辺リスクに相関のあるリスク指標を取得可能なリスク指標取得部)に相当することになる。そして、電流センサ64からの情報に含まれる電流値が所定の閾値以下となっている状態が、本発明でいう「周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしている」状態および「リスク指標取得部によって取得されたリスク指標が所定の閾値以下となっている」状態に相当することになる。
【0081】
-移動支援装置の動作-
次に、前述の如く構成された移動支援装置10の動作について説明する。
図5は、ユーザUの移動時における移動支援装置10の動作を説明するための図である。この
図5は、歩道上を移動するユーザ(白杖1を把持した視覚障碍者)Uが、車道を渡る際に、該車道を走行する車両Vが接近通報音を発しながら近付いてくる場合を表しており、ユーザUは、移動しながらIの位置、IIの位置、IIIの位置の順で車道に近付いていく。
【0082】
ユーザUがIの位置を移動している状態では、車両Vの接近通報音は白杖1に到達しておらず、前記バネマス系(磁石63aおよびコイルバネ63bで構成されるバネマス系)は未だ接近通報音と共振しておらず、発電ユニット63の発電は行われていない。
【0083】
ユーザUがIIの位置に達すると、車両Vの接近通報音が白杖1に到達し、前記バネマス系が接近通報音と共振することで発電ユニット63の発電が開始される。この発電に伴い、電流センサ64が検知している電流値が所定の閾値を超えた際には、該電流センサ64から受信した電流値の情報に従ってモード切替制御部72はスイッチON指令情報を生成する。このスイッチON指令情報は、情報送信部73から電源スイッチPSに送信され、該電源スイッチPSがONとなり、移動支援装置10の電力モードが、メインバッテリ40から電気回路ECへ給電が行われる通常モードとなる。つまり、メインバッテリ40からの給電によってカメラ20や近距離無線通信機30が起動し、カメラ20によって撮影された周辺の画像の情報を用いた移動支援動作の必要の有無の判断や必要に応じた移動支援動作の実行が可能となる。つまり、移動支援動作を実施する前段階での待機状態となる。また、前述したように、前記バネマス系が接近通報音と共振することに伴う振動がグリップ部3に伝達されることになり、白杖1のグリップ部3を把持しているユーザUの手には当該振動が伝わる。これにより、ユーザUに、車両(接近通報音を発している車両)Vが接近していることの通知が行われ、ユーザUに対する注意喚起が行われることになる。尚、このIIの位置では、カメラ20で撮影された画像内に車両Vは存在しておらず、未だ、移動支援動作の必要は無いと判断され、移動支援動作(例えば音声によるユーザUへの警告等)は開始されていない。
【0084】
ユーザUがIIIの位置に達すると、カメラ20によって撮影された画像内に前記車両Vが存在する状況となり、ユーザUに対する移動支援動作が必要になったと判断して、ユーザUに注意喚起(車両接近の警告)のための通知を行う。例えば、白杖1に搭載された図示しないスピーカによる音声通知(例えば車両が接近している旨の通知や車両が接近してくる方向の通知等)を行う。また、白杖1に個別の振動発生機(前記バネマス系の共振による振動とは異なるパターンで振動する振動発生機)を備えさせ、該振動発生機の振動によって、ユーザUに注意喚起のための通知を行うようにしてもよい。この移動支援動作による警告を認識したユーザUは、移動(歩行)を停止し、車両Vが通過するのを待つことになる。
【0085】
車両VがユーザUの前を通過すると、白杖1に到達する接近通報音が、前記バネマス系が共振しない音(ドップラ効果による周波数遷移分だけ低い周波数となった音)となったり、車両Vの接近通報音が白杖1に到達しなくなったりすることで、前記バネマス系は共振しなくなり、これによって発電ユニット63の発電は停止する。これにより、電流センサ64が検知している電流値が所定の閾値以下となり、該電流センサ64から受信した電流値の情報に従ってモード切替制御部72はスイッチOFF指令情報を生成する。このスイッチOFF指令情報は、情報送信部73から電源スイッチPSに送信され、該電源スイッチPSがOFFとなり、移動支援装置10の電力モードが、通常モードから省電力モードに切り替えられ、メインバッテリ40から電気回路ECへの給電が停止される。
【0086】
図5におけるIVの位置は、車両Vが通過した後に、ユーザUが横断歩道を横断した後の位置であり、接近通報音を発している車両Vが接近して来ない限り、前記省電力モードが維持されることになる。
【0087】
このような動作が、ユーザUの移動中において、接近通報音を発している車両Vが接近してくる度に繰り返される。
【0088】
-実施形態の効果-
以上説明したように本実施形態では、ユーザUに車両Vが接近している(周辺リスクが比較的高い)場合には、そのことを条件として、モード切替制御部72が、移動支援装置10の電力モードを通常モードにし、ユーザUの移動(歩行)を支援するための移動支援動作を可能にする。これに対し、ユーザUに車両Vが接近していない(周辺リスクが比較的低い)場合には、そのことを条件として、モード切替制御部72が、移動支援装置10の電力モードを省電力モードにし、移動支援装置10で消費される電力が零になる。または、移動支援装置10で消費される電力が減少する。このように、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードが省電力モードとなることで移動支援装置10の電力消費量を削減することができる。その結果、大型のメインバッテリを搭載しておく必要なしに、移動支援装置10の機能(適切なタイミングで移動支援動作を実施する機能)を長期間に亘って継続的に発揮させることができ、移動支援装置10の省電力化を図る上での実用性を高めることができる。
【0089】
また、本実施形態では、車両Vが発する接近通報音を利用して、ユーザUの移動に対する周辺リスクを認識できるようにしている。このため、電力を使用することなく周辺リスクの認識が可能であり、これによっても移動支援装置10の省電力化に寄与させることができる。
【0090】
また、前記接近通報音は予め規定された周波数帯の音となっており、この接近通報音を対象としてバネマス系(共振装置)の共振が行われるようになっているので、車両Vが発する音以外の音(周辺の騒音等)にバネマス系が共振してしまうといったことを抑制でき、ユーザUに車両Vが接近しているといった周辺リスクを正確に認識することが可能となる。その結果、省電力モードの解除が無駄に行われてしまう(ユーザUに車両Vが接近していないにも拘わらず周辺の騒音等に共振して省電力モードが解除されてしまう)といった状況を抑制することができる。
【0091】
特に、本実施形態では、バネマス系の共振周波数を、車両Vが発する接近通報音の周波数に対し、当該車両VがユーザUに接近する場合のドップラ効果による周波数遷移分だけ高い周波数として設定している。このため、車両VがユーザUに接近している場合に限り、接近通報音にバネマス系が共振して、発電ユニット63による発電が行われることになる。つまり、車両VがユーザUから遠ざかっている状況では、該車両Vが発する接近通報音にバネマス系は共振せず、発電ユニット63による発電も行われない。このため、ユーザUの移動に対する周辺リスクの認識精度を高めることができ、車両VがユーザUから遠ざかっている状況であるにも拘わらず省電力モードが解除されてしまうといった状況を抑制することができて、移動支援装置10の省電力化にいっそう寄与させることができる。
【0092】
また、本実施形態では、車両Vが発する接近通報音にバネマス系が共振することによってユーザUの手には振動が伝わって注意喚起を行うことができるので、仮にユーザ(視覚障碍者)Uが、車両Vが発する接近通報音を聞き取れない(周囲の騒音に接近通報音が掻き消されている)状況であったとしても、ユーザUに車両Vが接近していることを認識させることが可能となる。
【0093】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態は、起動ユニット60の構成が前述した実施形態のものと異なっている。その他の構成および動作は前述した実施形態のものと同様であるので、ここでは起動ユニット60の構成についてのみ説明する。
【0094】
図6は、本実施形態に係る移動支援装置10に備えられた起動ユニット60の概略構成を示す模式図である。この
図6に示すように、本実施形態に係る起動ユニット60は、ケーシング61の内部において所定間隔を存した位置に支持プレート61a,61bが配設されている。これら支持プレート61a,61bは、ケーシング61の内壁に固定されている。
【0095】
サブバッテリ62は、各支持プレート61a,61b同士の間に配置されており、サブバッテリ62の上面と上側の支持プレート61aとの間、および、サブバッテリ62の下面と下側の支持プレート61bとの間のそれぞれには圧電素子65a,65bが配設されている。つまり、上側の圧電素子65aは、上面が上側の支持プレート61aに、下面がサブバッテリ62の上面にそれぞれ接合されている。同様に、下側の圧電素子65bは、上面がサブバッテリ62の下面に、下面が下側の支持プレート61bにそれぞれ接合されている。また、各圧電素子65a,65bの電力線(図示省略)はサブバッテリ62の正負の各端子(図示省略)に接続されている。また、この電力線には図示しない電流センサが設けられ、検知された電流値の情報は、電流センサから制御装置70(
図3を参照)に送信されることになる。
【0096】
本実施形態にあっては、サブバッテリ62および各圧電素子65a,65bで構成されるバネマス系の共振周波数(固有振動数)が、車両の接近通報音の周波数に略一致されたものとなっている。より具体的には、ドップラ効果を考慮して、実際の接近通報音(スピーカから発せられている音)よりも僅かに高い周波数(ドップラ効果による周波数遷移分だけ高い周波数)として設定されている。
【0097】
このため、白杖1を把持しているユーザの近くに、接近通報音を発している車両が存在している場合(例えば、白杖1を把持しているユーザに、接近通報音を発している車両が近付いている場合)には、このバネマス系が接近通報音と共振し、これによって、サブバッテリ62から各圧電素子65a,65bに対して周期的に圧力が作用して圧電効果によって発電が行われ、その電力がサブバッテリ62に充電されるようになっている。
【0098】
このような構成により、前記サブバッテリ62および各圧電素子65a,65bによって本発明でいう共振装置が構成されており、各圧電素子65a,65bによって本発明でいう発電装置が構成されていることになる。
【0099】
そして、前述した実施形態の場合と同様に、バネマス系が車両の接近通報音と共振して発電が行われた場合には、電源スイッチPSがONとなり、移動支援装置10の電力モードが通常モードとなる。バネマス系が車両の接近通報音と共振しておらず発電が行われていない場合には、電源スイッチPSがOFFとなり、移動支援装置10の電力モードが省電力モードとなる。
【0100】
本実施形態においても、前述した実施形態と同様の効果を奏することができる。つまり、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードが省電力モードとなることで移動支援装置10の電力消費量を削減することができる。その結果、大型のメインバッテリを搭載しておく必要なしに、移動支援装置10の機能(適切なタイミングで移動支援動作を実施する機能)を長期間に亘って継続的に発揮させることができ、移動支援装置10の省電力化を図る上での実用性を高めることができる。
【0101】
また、本実施形態では、サブバッテリ62を利用してバネマス系を構成しているため、起動ユニット60の部品点数の削減を図ることができる。
【0102】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態は、白杖1のグリップ部3の内部に複数の起動ユニット60を配設したものである。また、本実施形態では、起動ユニット60として、前記第1実施形態で示した起動ユニット60(
図4を参照)を適用した場合について説明する。
【0103】
図7は、本実施形態に係る白杖1をユーザが把持した状態を示す図である。この
図7では、白杖1を破線で示し、ユーザの手(グリップ部3を把持している手)Hを二点鎖線で示している。
【0104】
各起動ユニット60A,60B,60Cとしては、グリップ部3を把持しているユーザの手Hの人差し指F1に対応する位置(グリップ部3の表面のうち人差し指F1が接触する接触領域に対応する位置)に配設された第1起動ユニット60A、ユーザの手の中指F2に対応する位置(グリップ部3の表面のうち中指F2が接触する接触領域に対応する位置)に配設された第2起動ユニット60B、ユーザの手の薬指F3に対応する位置(グリップ部3の表面のうち薬指F3が接触する接触領域に対応する位置)に配設された第3起動ユニット60Cを備えている。各起動ユニット60A,60B,60Cそれぞれには電流センサ64(
図4を参照)が備えられ、共振に伴う発電を行った起動ユニット60A,60B,60Cの電流センサ64から電流値の情報が制御装置70に送信されるようになっている。
【0105】
また、各起動ユニット60A,60B,60Cに備えられている磁石63aおよびコイルバネ63bで構成されるバネマス系(
図4を参照)の共振周波数(固有振動数)は互いに異なっている。例えば、第1起動ユニット60Aのバネマス系の共振周波数は車両の接近通報音の周波数(より具体的には、ドップラ効果を考慮し、実際の接近通報音よりも僅かに高い周波数)に略一致されたものとなっている。また、第2起動ユニット60Bのバネマス系の共振周波数は緊急車両(例えば救急車)のサイレン音の周波数(例えば960Hzおよび770Hz;より具体的には、ドップラ効果を考慮し、実際のサイレン音よりも僅かに高い周波数)に略一致されたものとなっている。また、第3起動ユニット60Cのバネマス系の共振周波数は列車の走行音の周波数に略一致されたものとなっている。つまり、各起動ユニット60A,60B,60Cのバネマス系それぞれの共振周波数は、互いに異なる周波数の音を発する車両それぞれの当該音の周波数に応じて個別に設定されている。
【0106】
このため、白杖1を把持しているユーザの近くに、接近通報音を発している車両が存在している場合(例えば、白杖1を把持しているユーザに、接近通報音を発している車両が近付いている場合)には、第1起動ユニット60Aのバネマス系のみが接近通報音と共振し、これによって、第1起動ユニット60Aの磁石63aが、コイルバネ63bの伸縮を伴いながら上下方向に沿って往復移動して前記電磁誘導による発電が行われると共に、その往復移動に伴って発生する振動がケーシング61を経てグリップ部3に伝達されることになる。第1起動ユニット60Aは、白杖1のグリップ部3を把持しているユーザの手Hの人差し指F1に対応する位置に配設されているので、この振動は主に人差し指F1に伝達されることになる。また、白杖1を把持しているユーザの近くに、サイレン音を発している緊急車両が存在している場合(例えば、白杖1を把持しているユーザに、サイレン音を発している緊急車両が近付いている場合)には、第2起動ユニット60Bのバネマス系のみがサイレン音と共振し、これによって、第2起動ユニット60Bでの発電が行われると共に、その共振に伴って発生する振動がケーシング61を経てグリップ部3に伝達されることになる。第2起動ユニット60Bは、白杖1のグリップ部3を把持しているユーザの手Hの中指F2に対応する位置に配設されているので、この振動は主に中指F2に伝達されることになる。更に、白杖1を把持しているユーザに列車が近付いている場合には、第3起動ユニット60Cのバネマス系のみが列車の走行音と共振し、これによって、第3起動ユニット60Cでの発電が行われると共に、その共振に伴って発生する振動がケーシング61を経てグリップ部3に伝達されることになる。第3起動ユニット60Cは、白杖1のグリップ部3を把持しているユーザの手Hの薬指F3に対応する位置に配設されているので、この振動は主に薬指F3に伝達されることになる。
【0107】
前記共振に伴う発電によって移動支援装置10が起動する動作、および、この起動による移動支援動作については、前述した実施形態の場合と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0108】
本実施形態では、ユーザが、各起動ユニット60A,60B,60Cそれぞれの配設位置と、各起動ユニット60A,60B,60Cが共振する音(接近通報音やサイレン音や走行音)と、その音を発する車両の種類との関係を予め認識しておくことにより(電動車等の車両が発する接近通報音に共振する第1起動ユニット60Aの配設位置、緊急車両が発するサイレン音に共振する第2起動ユニット60Bの配設位置、列車の走行音に共振する第3起動ユニット60Cの配設位置を予め認識しておくことにより)、白杖1のグリップ部3を把持した状態で、何れの起動ユニット60A,60B,60Cのバネマス系が共振しているかを把握することで、接近している車両の種類(共振している音に応じた車両の種類)を知ることが可能になる。つまり、ユーザが車両を見ることができなかったり、車両が発する音をユーザが聞くことができない状況であっても、車両が接近していることと、その車両の種類とを知ることが可能になる。
【0109】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。本実施形態は、前述した第3実施形態のものと同様に、白杖1のグリップ部3の内部に複数の起動ユニット60A,60B,60Cを配設したものである。また、それに加えて、ユーザが操作可能なスイッチを備えていると共に、ユーザの存在を車両に通知する機能を備えたものとなっている。
【0110】
図8は、本実施形態に係る白杖1のグリップ部3周辺の一部を破断して示す図である。また、
図9は、本実施形態に係る移動支援装置10の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【0111】
これらの図に示すように、本実施形態における白杖1のグリップ部3には、3箇所にスイッチS1,S2,S3が設けられている。これらスイッチS1,S2,S3は押込式のスイッチである。具体的には、第1起動ユニット60Aの配設位置に対応した位置であって、ユーザが人差し指によって押圧(押し込み)可能な第1スイッチS1と、第2起動ユニット60Bの配設位置に対応した位置であって、ユーザが中指によって押圧可能な第2スイッチS2と、第3起動ユニット60Cの配設位置に対応した位置であって、ユーザが薬指によって押圧可能な第3スイッチS3とを備えている。
【0112】
これらスイッチS1,S2,S3は、前記振動によって車両の存在を認識したユーザが、当該車両が認識できなくなった場合に押圧操作するためのものである。例えば、第1起動ユニット60Aからの振動が人差し指F1(
図7を参照)に伝達されたことで、接近通報音を発している車両が近付いていることを認識したユーザが、その後、当該車両の接近の有無を認識できなくなった場合には、第1スイッチS1を押圧し、制御装置70に、ユーザが車両の接近の有無を認識できなくなっていることの情報を提供するようになっている。同様に、第2起動ユニット60Bからの振動が中指F2に伝達されたことで、サイレン音を発している緊急車両が近付いていることを認識したユーザが、その後、当該緊急車両の接近の有無を認識できなくなった場合には、第2スイッチS2を押圧することになり、第3起動ユニット60Cからの振動が薬指F3に伝達されたことで、列車が近付いていることを認識したユーザが、その後、当該列車の接近の有無を認識できなくなった場合には、第3スイッチS3を押圧することになる。
【0113】
図9に示すように、各スイッチS1,S2,S3は制御装置70に接続されており、押圧操作されたスイッチS1,S2,S3から制御装置70に押圧信号が送信されるようになっている。尚、この制御装置70への押圧信号の送信は、有線によるものであってもよいし、無線によるもの(例えば前記近距離無線通信機30を利用したもの)であってもよい。押圧信号の無線による送信を行うに当たっては、例えば前記電磁誘導によって発電された電力やサブバッテリ62に蓄えられている電力が使用されることが好ましい。
【0114】
また、
図8に示すように、本実施形態における白杖1のシャフト部2にはスピーカ2aおよびLEDライト2bが設けられている。スピーカ2aは外部に向けて警報音を発するものであって、ユーザに近付いてくる車両に対し、必要に応じて警報音を発するようになっている。このスピーカ2aは、例えば警報音の放射方向に指向性を有する指向性スピーカで構成され、特定の方向(ユーザに近付いてくる車両に向かう方向)に警報音を発するものとなっている。つまり、カメラ20からの画像に基づいて車両の位置を認識し、該車両に向けて警報音を発するものとなっている。また、スピーカ2aの向きを変更可能な回動機構を設けておき、この回動機構の作動によってスピーカ2aの向きを車両(ユーザに近付いてくる車両)に向くように変更する構成を採用することも可能である。LEDライト2bは外部に向けて光を照射するものであって、ユーザに近付いてくる車両に対し、必要に応じて点灯(または点滅)して光を照射するようになっている。例えば、光の照射方向を可変とする駆動部を備え、特定の方向(ユーザに近付いてくる車両に向かう方向)に光を照射するものとなっている。以下では、これら警報音を発する動作や光を照射する動作をユーザ存在通知動作と呼ぶこととする。
【0115】
図9に示すように、制御装置70には、前記制御プログラムによって実現される機能部として、前述した各機能部以外に通知制御部74を備えている。この通知制御部74は、前記第1~第3のスイッチS1,S2,S3のうち、何れかのスイッチから押圧信号が送信された場合に、スピーカ2aに対して送信するための警報音放射指令情報、および、LEDライト2bに対して送信するための光照射指令情報を生成する。これら指令情報は、情報送信部73からスピーカ2aおよびLEDライト2bに向けてそれぞれ送信されることになる。これによりスピーカ2aは、ユーザに近付いてくる車両に向かう方向に警報音を発する。また、LEDライト2bは、ユーザに近付いてくる車両に向かう方向に光を照射することになる。
【0116】
これにより、ユーザが、車両の存在が認識できなくなった状況となっても、何れかのスイッチS1,S2,S3を押圧することにより、その車両に向けて警報音の放射や光の照射を行うことで、ユーザ(視覚障碍者)が存在していることの通知を行い。車両の運転者にユーザの存在を気付かせることができるようになっている。このような構成により、前記通知制御部74、スピーカ2aおよびLEDライト2bによって本発明でいう通知手段(押圧信号を発したスイッチに応じて接近する車両を特定し、該車両に対するユーザ存在通知動作を行う通知手段)が構成されていることになる。
【0117】
図10は、本実施形態における移動支援動作の手順を示すフローチャートである。このフローチャートの動作は、ユーザが白杖1を把持した移動中に所定時間間隔で繰り返される。尚、このフローチャートにあっては、接近通報音を発している車両を車両Aとし、サイレン音を発している緊急車両を車両Bとし、列車を車両Cとして説明する。
【0118】
先ず、ステップST1において、第1起動ユニット60Aが共振しているか(第1起動ユニット60Aのバネマス系が車両からの接近通報音と共振しているか)否かを判断する。
【0119】
第1起動ユニット60Aが共振しており、ステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、前記共振に伴う移動支援装置10の起動に伴ってカメラ20も起動し、このカメラ20で取得された撮影画像から車両A(接近通報音を発している車両)の位置を特定する。
【0120】
その後、車両Aの接近リスクに応じた移動支援動作を実行する。例えば、前述したように、白杖1に搭載されたスピーカによる音声通知や、個別の振動発生機を備えさせることによる振動によって、ユーザUに注意喚起のための通知を行う。
【0121】
その後、ステップST4に移り、第1スイッチS1がON操作(押圧操作)されたか否かを判定する。つまり、ユーザが車両Aの存在を認識できなくなったことで第1スイッチS1がON操作されたか否かを判定する。この判定は、第1スイッチS1からの押圧信号の送信の有無に従って行われる。
【0122】
第1スイッチS1がON操作されておらず、ステップST4でNO判定された場合には、そのままリターンされ、移動支援動作を継続する。
【0123】
一方、第1スイッチS1がON操作され、ステップST4でYES判定された場合には、ステップST5に移り、車両Aに対するユーザ存在通知動作を実行する。この場合、カメラ20で取得された撮影画像から車両A(接近通報音を発している車両)の位置が特定されており(ステップST2)、白杖1に対して車両Aが存在する方向も特定されることになるので、この車両Aに向けてスピーカ2aから警報音を発すると共に、この車両に向けてLEDライト2bから光を照射することになる。
【0124】
このようにしてユーザ存在通知動作が実行されている状況で、ステップST6において、第1スイッチS1のON操作が解除されたか否かを判定する。つまり、ユーザが、車両の存在が再認識できる状況となったことで第1スイッチS1のON操作を解除したか否かを判定する。
【0125】
第1スイッチS1のON操作が解除されておらず、ステップST6でNO判定された場合には、そのままユーザ存在通知動作を継続する。一方、第1スイッチS1のON操作が解除され、ステップST6でYES判定された場合にはステップST7に移り、車両Aに対するユーザ存在通知動作を終了してリターンされる。
【0126】
ステップST1において、第1起動ユニット60Aが共振しておらず、NO判定された場合には、ステップST8に移り、第2起動ユニット60Bが共振しているか(第2起動ユニット60Bのバネマス系が緊急車両からのサイレン音と共振しているか)否かを判断する。
【0127】
第2起動ユニット60Bが共振しており、ステップST8でYES判定された場合には、ステップST9に移る。以下のステップST9~ステップST14の各処理動作は、前述したステップST2~ステップST7の各処理動作に対応している。つまり、ステップST9において、カメラ20が起動し、撮影画像から車両B(サイレン音を発している緊急車両)の位置を特定する。また、ステップST10において、車両Bの接近リスクに応じた移動支援動作を実行する。
【0128】
また、ステップST11では、第2スイッチS2がON操作されたか否かを判定する。つまり、ユーザが車両Bの存在を認識できなくなったことで第2スイッチS2がON操作されたか否かを判定する。第2スイッチS2がON操作された場合には、ステップST12に移り、車両Bに対するユーザ存在通知動作を実行する。この場合も、カメラ20で取得された撮影画像から車両B(サイレン音を発している緊急車両)の位置が特定されており(ステップST9)、白杖1に対して車両Bが存在する方向も特定されることになるので、この車両Bに向けてスピーカ2aから警報音を発すると共に、この車両Bに向けてLEDライト2bから光を照射することになる。
【0129】
ステップST13では、第2スイッチS2のON操作が解除されたか否かを判定し、第2スイッチS2のON操作が解除された場合には、ステップST14において、車両Bに対するユーザ存在通知動作を終了してリターンされる。
【0130】
ステップST8において、第2起動ユニット60Bが共振しておらず、NO判定された場合には、ステップST15に移り、第3起動ユニット60Cが共振しているか(第3起動ユニット60Cのバネマス系が列車の走行音と共振しているか)否かを判断する。
【0131】
第3起動ユニット60Cが共振しており、ステップST15でYES判定された場合には、ステップST16に移る。以下のステップST16~ステップST21の各処理動作も、前述したステップST2~ステップST7の各処理動作に対応している。つまり、ステップST16において、カメラ20が起動し、撮影画像から車両C(列車)の位置を特定する。また、ステップST17において、車両Cの接近リスクに応じた移動支援動作を実行する。
【0132】
また、ステップST18では、第3スイッチS3がON操作されたか否かを判定する。つまり、ユーザが車両Cの存在を認識できなくなったことで第3スイッチS3がON操作されたか否かを判定する。第3スイッチS3がON操作された場合には、ステップST19に移り、車両Cに対するユーザ存在通知動作を実行する。この場合も、カメラ20で取得された撮影画像から車両C(列車)の位置が特定されており(ステップST16)、白杖1に対して車両Cが存在する方向も特定されることになるので、この車両Cに向けてスピーカ2aから警報音を発すると共に、この車両Cに向けてLEDライト2bから光を照射することになる。
【0133】
ステップST20では、第3スイッチS3のON操作が解除されたか否かを判定し、第3スイッチS3のON操作が解除された場合には、ステップST21において、車両Cに対するユーザ存在通知動作を終了してリターンされる。
【0134】
ステップST15において、第3起動ユニット60Cが共振しておらず、NO判定された場合には、何れの起動ユニット60A,60B,60Cも共振していない、または、共振が終了したことになるので、ステップST22に移り、前述した何れかの移動支援動作が行われていた場合には、その移動支援動作を終了し、前述した何れかのユーザ存在通知動作が行われていた場合には、そのユーザ存在通知動作を終了してリターンされる。
【0135】
以上の動作が、ユーザが白杖1を把持した移動中に繰り返される。
【0136】
本実施形態では、何れかの起動ユニット60A,60B,60Cが共振することで車両が接近していることを把握したユーザが、何らかの理由で当該車両を把握できなくなった場合には、共振している起動ユニット60A,60B,60Cの配設位置に対応して配設されているスイッチS1,S2,S3の押圧操作を行うことにより、ユーザが把握できなくなった車両を特定して、該車両に対してユーザ存在通知動作(ユーザの存在を知らせるための通知動作)を行うようにしている。これにより、ユーザに接近している車両の運転者は、当該ユーザの存在を把握することになり、該運転者がユーザの存在を考慮した運転操作を行うことが期待できる。その結果、ユーザと車両との接触を回避できる。
【0137】
尚、本実施形態では、スピーカ2aおよびLEDライト2bが車両に向くような機能部を備えさせるようにしているが、前記スピーカ2aまたは個別のスピーカからユーザに向けて車両が接近してくる方向に向きを変更するような音声指示を与え、この音声指示に従ってユーザが向きを変更した場合に、白杖1の向き(スピーカ2aおよびLEDライト2bの向き)が車両に向くようにしてもよい。
【0138】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態について説明する。前述した第4実施形態は、ユーザ存在通知動作として、接近する車両に向けてのスピーカ2aからの警報音の放射およびLEDライト2bからの光の照射を行うものとしていた。本実施形態は、それに代えて、移動支援装置10と車両Vとの間での通信によって、車内の情報提供デバイス(例えばナビゲーションシステム等)を利用して、車両の運転者にユーザの存在を把握させるようにしたものである。ここでは、前述した第4実施形態との相違点について主に説明する。
【0139】
図11は、本実施形態に係る白杖1と車両Vとの通信状態を説明するための図である。また、
図12は、本実施形態に係る移動支援装置10の制御系および車両Vの制御系の概略構成を示すブロック図である。
【0140】
図11に示すように、本実施形態における白杖1のシャフト部2には、車両Vに搭載されている無線通信装置としてのDCM(Data Communication Module)81と通信可能な通信部75が設けられている。
【0141】
DCM81は、車両Vに搭載されたナビゲーションシステム82との間で車載ネットワークを通じて双方向通信が可能となっている。
【0142】
本実施形態における制御装置70に備えられた通知制御部74は、前記第1~第3のスイッチS1,S2,S3(
図11を参照)のうち、何れかのスイッチから押圧信号が送信された場合に、そのスイッチに対応する位置に配設されている起動ユニット60A,60B,60C(車両が発する音に共振している起動ユニット)が共振している音を発している車両を特定し(例えば車両のID情報等を特定し)、その車両に向けて通信部75を介して送信するユーザ存在通知情報を生成する。このユーザ存在通知情報は、通知制御部74から通信部75を介して車両VのDCM81に送信されることになる。通信部75とDCM81との間では、多数の基地局を有する携帯電話網やインターネット網等を含む所定のネットワークを通じた双方向での通信が行われており、車両VのID情報(個体情報)や前記ユーザ存在通知情報の送受信が行われている。
【0143】
本実施形態にあっても、何れかの起動ユニット60A,60B,60Cが共振することで車両が接近していることを把握したユーザが、何らかの理由で当該車両を把握できなくなった場合には、共振している起動ユニット60A,60B,60Cの配設位置に対応して配設されているスイッチS1,S2,S3の押圧操作を行うことになる。そして、本実施形態にあっては、第1~第3のスイッチS1,S2,S3のうち、何れかのスイッチから押圧信号が送信された場合に、ユーザ存在通知情報を生成し、このユーザ存在通知情報が通信部75を介して車両VのDCM81に送信される。DCM81が受信した情報はナビゲーションシステム82に送信され、このナビゲーションシステム82のスピーカから車両前方に歩行者(ユーザ)が存在している旨の音声が運転者に向けて発せられることになる。また、ユーザ存在通知情報としてユーザの位置情報を含ませるようにした場合には、ナビゲーションシステム82の表示画面上(表示画面の地図上)にユーザの位置を表示させることも可能である。
【0144】
これにより、ユーザが、車両の存在が認識できなくなった状況となっても、その車両に向けてユーザ存在通知情報を送信し、ナビゲーションシステム82を利用してユーザの存在を通知することにより、車両の運転者にユーザの存在を気付かせることが可能になる。このような構成により、前記通知制御部74および通信部75によって本発明でいう通知手段(押圧信号を発したスイッチに応じて接近する車両を特定し、該車両に対するユーザ存在通知動作を行う通知手段)が構成されていることになる。
【0145】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態について説明する。前述した各実施形態は、起動ユニット60の共振の有無によってユーザの移動に対する周辺リスクの大きさが判断される(共振していない状態では周辺リスクが低く、共振している状態では周辺リスクが高いと判断する)ものとしていた。本実施形態は、それに代えて、カメラ20からの画像の情報(本発明でいう情報取得手段によって取得されたユーザ周辺情報)に基づいて周辺リスクの大きさを判断するものである。つまり、本実施形態では、省電力モードでは、カメラ20と該カメラ20からの画像の情報の送受信を行う通信系およびその情報を処理する処理系のみが電力供給を受けて作動し、その他の機器には電力供給が行われない状態となり(本発明でいう通常モードよりも消費電力が少ない省電力モードの状態となり)、通常モードでは、全ての機器に電力供給が行われる状態となるものとなっている。
【0146】
また、本実施形態では、起動ユニット60の共振に伴う振動を白杖1のグリップ部3に伝達することによって、ユーザの手に当該振動を伝えてユーザに対する注意喚起を行うものとしていた。本実施形態は、それに代えて、白杖1のグリップ部3に専用の振動発生機を内蔵するようにしたものである。このため、起動ユニット60は、グリップ部3以外の箇所に配設することが可能となっている。また、本実施形態では、周辺リスク(周辺リスクの指標として後述する切迫度や重要度)に応じて振動発生機の振動パターンを変更することを可能にしている。以下、具体的に説明する。
【0147】
図13は、本実施形態に係る移動支援装置10の制御系の概略構成を示すブロック図である。この
図13に示すように、制御装置70には、振動発生機83が接続されている。この振動発生機83は、白杖1のグリップ部3に内蔵されている。この振動発生機83は、内蔵されたモータの作動に伴って振動し、その振動をグリップ部3に伝達することによって、当該グリップ部3を把持しているユーザに向けて種々の通知が行えるようになっている。尚、この振動発生機83としては、前述した第3実施形態の場合と同様に、グリップ部3内の複数箇所に配設されていてもよい。この振動発生機83の振動によるユーザに向けての通知の具体例については後述する。
【0148】
また、本実施形態における白杖1には、ユーザの移動速度や移動加速度を求めるためのGセンサ84およびユーザの位置情報を求めるためのGPSモジュール85が備えられている。また、制御装置70は、通知判断部76、属性設定部77、情報通知状態決定部78を備えている。
【0149】
通知判断部76は、情報受信部71が受信した情報(カメラ20が撮影した画像の情報、Gセンサ84からの加速度の情報、および、GPSモジュール85からのユーザの位置情報)を受け、これら情報に基づいてユーザに通知すべき移動に関する情報の有無を判断する。
【0150】
このユーザに通知すべき移動に関する情報の例としては、横断歩道が接近した旨の情報、信号機が赤信号から青信号に切り替わった旨の情報、横断歩道の横断が完了した旨の情報、移動に支障を来す障害物が相対的に近付いている旨の情報、移動を緊急に停止する必要がある旨の情報(車両が接近している場合等に提供される情報)、横断歩道の横断中に当該横断歩道の左側または右側に逸脱する可能性が生じている旨の情報等が挙げられる。ユーザに通知すべき移動に関する情報としてはこれらに限定されるものではない。
【0151】
横断歩道の存在の認識や、横断歩道の横断が完了したことの認識や、横断歩道の横断中に当該横断歩道の左側または右側に逸脱する可能性が生じていることの認識は、カメラ20が撮影した画像の情報に基づいて行われる。また、GPSモジュール85からのユーザの位置情報と予め記憶された地図情報とを参照することによってこれらを認識するようになっていてもよい。また、信号機の認識および移動に支障を来す障害物が相対的に近付いていることの認識は、カメラ20が撮影した画像の情報に基づいて行われる。また、障害物が固定物(移動しない物体)であった場合には、GPSモジュール85からのユーザの位置情報と予め記憶された地図情報とを参照することによって障害物が相対的に近付いていることを認識するようになっていてもよい。
【0152】
通知判断部76は、このようなユーザに通知すべき移動に関する情報が存在すると判定した場合、その情報を属性設定部77に出力する。
【0153】
属性設定部77は、通知判断部76からユーザに通知すべき移動に関する情報が存在する旨の情報を受信した場合、その通知すべき移動に関する情報の属性を求める。この情報の属性とは、ユーザの移動中における周辺リスクの切迫度および重要度に応じて決定されるものである。ここで、切迫度とは、移動しているユーザが周辺リスク(危機)に遭遇するまでの物理的時間に基づく度合いである。ここでいう周辺リスクに遭遇するとは、移動しているユーザが障害物等に接触する状況(例えば車両に接触する状況)や、ユーザの移動状態が危険な状況(例えば信号機の状態が赤信号となっている横断歩道を横断しようとして車道に出てしまう状況等)をいう。つまり、この切迫度は、移動しているユーザが周辺リスクに遭遇するまでの物理的時間が短いほど大きくなる。つまり、この切迫度は、周辺リスクに遭遇するに際し、周辺リスク回避の余裕時間の逆数として求めることができる。以下では、周辺リスクに遭遇する場合の例としてユーザが障害物(車両等)に接触する状況について主に説明することとする。例えば、移動しているユーザが障害物に相対的に近付いていく場合には、この障害物までの距離が短くなるほど(障害物に接触するまでの時間が短くなるほど)切迫度は大きくなる。この切迫度を求めるに当たり、周辺リスクに遭遇するまでの物理的時間は、当該周辺リスクまでの距離とユーザの移動速度とによって算出される。周辺リスクまでの距離は、カメラ20が撮影した画像の情報に基づいて算出される。ユーザの移動速度は、Gセンサ84からの情報に基づいて算出される。本実施形態にあっては、この切迫度が所定の大きさとなった場合に移動支援装置10の電力モードを省電力モードから通常モードに切り替えるようにしている。
【0154】
また、重要度とは、移動しているユーザが前記周辺リスク(危機)に遭遇した際の結果がもたらす影響度合いである。つまり、この重要度は、移動しているユーザが遭遇する周辺リスクとなる物体の大きさが大きいほど、また、その物体の表面が硬いほど、更には、その物体に対する相対的な接近速度が高いほど大きくなる。例えば、移動しているユーザが車両に近付いていく場合(または車両がユーザに近付いてくる場合)には、人に相対的に近付いていく場合よりも重要度は大きくなる。本実施形態にあっては、この重要度が所定の大きさとなった場合に移動支援装置10の電力モードを省電力モードから通常モードに切り替えるようにしている。
【0155】
図14は、情報属性テーブルを示す図である。この情報属性テーブルは、制御装置70のROMに予め記憶されている。
図14に示すように、本実施形態では、ユーザの移動の周辺リスクに対する切迫度および重要度に応じて情報属性(INFO.1~INFO.N)が設定されている。切迫度としては「小」「中」「大」の3パターンに区分けされており、重要度としては「中」「大」の2パターンに区分けされており、これら切迫度と重要度に応じて複数(例えば6個)の情報属性(INFO.1~INFO.N)が割り当てられている。
【0156】
切迫度としては、移動しているユーザが、車両や壁等に相対的に近付いていく場合において、衝突するまでの時間が短いほど切迫度は大きくなる。つまり、衝突するまでの時間が短くなっていくに従って経時的に切迫度は「小」「中」「大」の順で遷移していくことになる。一例として、衝突するまでの時間が10sec~6secの場合に切迫度は「小」とされ、衝突するまでの時間が6sec~3secの場合に切迫度は「中」とされ、衝突するまでの時間が3sec未満の場合に切迫度は「大」とされる。これらの値はこれに限定されるものではなく任意に設定可能である。
【0157】
また、衝突するまでの時間が同じであっても、ユーザ自身の特性によって切迫度は異なる。例えば、障害物に接触する可能性を認知した時点で、その障害物への接触を回避する行動の機敏さ(本発明でいう切迫度補正パラメータに相当)が高いユーザは切迫度が小さくされるのに対し、障害物への接触を回避する行動の機敏さが低いユーザ(例えば高齢者等)は切迫度が大きくされる。例えば、回避する行動の機敏さが高いユーザの場合、衝突するまでの時間が短くなっていくに従って経時的に切迫度は「小」「中」「大」の順で遷移していくことになる(例えば前述したように衝突するまでの時間が10sec~6secの場合に切迫度は「小」とされ、衝突するまでの時間が6sec~3secの場合に切迫度は「中」とされ、衝突するまでの時間が3sec未満の場合に切迫度は「大」とされる)のに対し、同じ状況であったとしても、回避する行動の機敏さが低いユーザの場合、衝突するまでの時間が短くなっていくに従って経時的に切迫度は「中」「大」の順で遷移していく(切迫度が「小」の状態は存在しない)ことになる。この場合の例として、衝突するまでの時間が10sec~5secの場合に切迫度は「中」とされ、衝突するまでの時間が5sec未満の場合に切迫度は「大」とされる。これらの値もこれに限定されるものではなく任意に設定可能である。また、回避する行動の機敏さが低いユーザの場合においても切迫度が「小」「中」「大」の順で遷移していくこととした場合にあっては、切迫度が「小」とされるタイミング、「小」から「中」に切り替わるタイミングおよび「中」から「大」に切り替わるタイミングそれぞれは、回避する行動の機敏さが高いユーザの場合に比べて早いタイミングとなる。例えば衝突するまでの時間が15sec~10secの場合に切迫度は「小」とされ、衝突するまでの時間が10sec~5secの場合に切迫度は「中」とされ、衝突するまでの時間が5sec未満の場合に切迫度は「大」とされる。これらの値もこれに限定されるものではなく任意に設定可能である。本実施形態にあっては、例えば切迫度が「中」または「大」となった場合に移動支援装置10の電力モードを省電力モードから通常モードに切り替えるようにしている。また、前記切迫度補正パラメータとしては、ユーザの移動中に危機に遭遇することに対する周辺環境に起因するユーザの回避行動のし易さ(障害物に接触することを回避するための周辺スペースの大きさであって、カメラ20によって撮影された画像から判断し、周辺スペースが大きいほど回避行動が容易であると判断して切迫度は小さい側に移行する)や、ユーザの移動中の危機の種類(障害物の種類であって、カメラ20によって撮影された画像から判断し、障害物が小さいほど回避行動が容易であると判断して切迫度は小さい側に移行する)であってもよい。
【0158】
重要度としては、ユーザが接触した場合の移動に対する影響度の指標である。例えば、ユーザが車両や壁等の障害物に相対的に近付いていく場合にあっては、接触した場合の移動に対する影響度が高いため、重要度は大となる。一方、ユーザが他の人に相対的に近付いていく場合にあっては、接触した場合の移動に対する影響度は比較的小さい(車両や壁に接触する場合に比べて小さい)ため、重要度は中となる。この障害物の認識は、周知の画像マッチング処理や深層学習等によって行われる。本実施形態にあっては、例えば重要度が「大」となった場合に移動支援装置10の電力モードを省電力モードから通常モードに切り替えるようにしている。
【0159】
以上の切迫度および重要度の設定は、当該移動支援装置10の設計者または各情報の設定者によって白杖1の使用前に予め設定(プリセット)されるものとなっている。つまり、ユーザが周辺リスクに遭遇するまでの物理的時間と切迫度との関係、白杖1を使用するユーザが周辺リスクに遭遇することを回避する行動の機敏さと切迫度との関係、移動の周辺リスクと重要度との関係それぞれは当該移動支援装置10にプリセットされた情報である。
【0160】
図15は、前述した切迫度および重要度、切迫感および重要感、情報属性ゾーンの関係を表す図である。切迫感とは、切迫度に対応した人の心理的な感覚(障害物等に接触することに対する危機感の大きさに相当)を表している。重要感とは、重要度に対応した人の心理的な感覚(障害物等に接触したと仮定した場合の恐怖感の大きさに相当)を表している。
図15からも明らかなように切迫度が大きいほど切迫感も大きく、重要度が大きいほど重要感も大きくなる。このため、本実施形態では、前記情報属性(INFO.1~INFO.N)の割り当て領域(情報属性ゾーン)として、切迫感および重要感が共に比較的小さい領域をアドバイザリゾーンとし、切迫感および重要感が共に比較的大きい領域を警報ゾーンとし、それ以外の領域(切迫感および重要感が共に中間的な領域)を注意喚起ゾーンとして区画し、それぞれに情報属性(INFO.1~INFO.N)を割り当てるようにしている。
図15に示すものでは、例示として、情報属性INFO.1(切迫感が小で且つ重要感が中)をアドバイザリゾーンに割り当て、情報属性INFO.4(切迫感が中で且つ重要感が大)を注意喚起ゾーンに割り当て、情報属性INFO.N(切迫感が大で且つ重要感が大)を警報ゾーンに割り当てている。
【0161】
尚、前述した説明では、ユーザ自身の特性によって切迫度を異なるものとしていたが、このユーザ自身の特性を考慮することなく、単純に、ユーザがリスクに遭遇するまでの物理的時間のみによって切迫度を決定するものとしてもよい。
【0162】
情報通知状態決定部78は、属性設定部77によって求められた通知すべき移動に関する情報の属性(情報属性)に基づき、ユーザに対する当該通知すべき移動に関する情報の通知状態を決定する。具体的には、振動発生機83の振動物理特性(振動パターン)を情報属性に応じて決定する。
【0163】
図16は、この振動発生機83の振動物理特性を決定する際に使用される振動特性決定マップを示す図である。この振動特性決定マップは、制御装置70のROMに予め記憶されている。
【0164】
具体的に、振動発生機83の振動としては、振動ON期間と振動OFF期間とが繰り返されるようになっており、振動特性決定マップは、情報属性(INFO.1~INFO.N)に応じて、振動発生機83の振動物理特性として、1回の振動ON期間と1回の振動OFF期間との和、および、1回の振動ON期間と1回の振動OFF期間との和に対する1回の振動ON期間の比率を決定するものとして使用される。以下の説明では、1回の振動ON期間と1回の振動OFF期間との和を、振動の「断続時間」と呼び、1回の振動ON期間と1回の振動OFF期間との和に対する1回の振動ON期間の比率を、振動の「Duty比」と呼ぶこととする。
【0165】
前述で例示したように、情報属性INFO.1(切迫度が小で且つ重要度が中であってアドバイザリゾーンに割り当てられた情報属性INFO.1)の場合には、移動支援装置10は省電力モードが維持されるため、振動発生機83の振動は行われない。これに対し、情報属性INFO.4(切迫度が中で且つ重要度が大であって注意喚起ゾーンに割り当てられた情報属性INFO.4)に対しては、断続時間が中間的な長さで且つDuty比が大きく設定される。
図17(a)は、この場合における振動発生機83の振動パターンを示す波形図である。また、情報属性INFO.N(切迫度が大で且つ重要度が大であって警報ゾーンに割り当てられた情報属性INFO.N)に対しては、断続時間が短く且つDuty比が大きく設定される。
図17(b)は、この場合における振動発生機83の振動パターンを示す波形図である。ここでは、2種類のINFO.4、INFO.Nの振動パターンについて説明したが、その他の情報属性においてもそれぞれ個別に断続時間およびDuty比が設定されている。
【0166】
これら各情報属性それぞれに対応して設定される断続時間およびDuty比の傾向としては、切迫度が大きいほど断続時間が短くなるように設定され、重要度が大きいほどDuty比が大きくなるように設定される。これは、切迫度が大きい状況では断続時間を短くして単位時間当たりの振動ON期間と振動OFF期間との繰返し回数を多くすることにより(
図17(b)を参照)、ユーザが直感的に緊急性が高い通知であることを認識し易くすることに鑑みられたものである。また、重要度が大きい状況では振動OFF期間に比べて振動ON期間を大幅に長くすることにより(
図17(a)を参照)、ユーザが直感的に障害物に接触した際の影響が大きい(被害が大きい)通知であることを認識し易くすることに鑑みられたものである。
【0167】
このようにして、カメラ20等によって取得した情報に基づいて移動支援装置10の電力モードを切り替え、通常モードにおいて、ユーザに通知すべき移動に関する情報が有ると判断された場合には、当該通知すべき移動に関する情報の属性(情報属性)を求め、その属性に基づき、ユーザに対する当該通知すべき移動に関する情報の通知状態(振動発生機83の振動パターン)を決定するようにしている。これにより、ユーザに提供する情報の適正化を図ることができる。
【0168】
前述したように、本実施形態では、切迫度および重要度が共に低く、低リスク条件を満たしている状態では移動支援装置10の電力モードは省電力モードとなる。そして、切迫度が高くなったり重要度が高くなったりして、低リスク条件を満たさない状態になると、移動支援装置10の電力モードは通常モードとなり、移動支援動作が可能となる。このため、本実施形態にあっても、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードが省電力モードとなることで移動支援装置10の電力消費量を削減することができる。
【0169】
また、ユーザが移動中に危機に遭遇するまでの物理的時間に対応する基準切迫度に対して、ユーザの移動時における切迫度補正パラメータに応じて補正することで切迫度を求めているので、ユーザの移動時における様々な状況(ユーザの状態や周辺環境等)に応じた切迫度を適切に求めることが可能となり、ユーザに対して提供する移動支援動作の適正化を図ることができる。
【0170】
また、本実施形態では、カメラ20、Gセンサ84、GPSモジュール85等の手段によって取得された情報に基づいてユーザに通知すべき移動に関する情報が有ると判断された場合、当該通知すべき移動に関する情報の属性を切迫度および重要度に基づいて求め、その属性に基づき、ユーザに対する当該通知すべき移動に関する情報の通知状態(白杖1の振動発生機83の振動パターン)を決定するようにしている。これにより、ユーザに提供する情報の適正化を図ることができる。
【0171】
尚、本実施形態にあっては、ユーザに接近する車両の車種と接近方向に応じて振動発生機83の振動パターンを設定する(車両の車種と接近方向に応じて互いに異なる振動パターンで振動発生機83を振動させる)ようにしてもよい。
【0172】
また、本実施形態にあっては、グリップ部3の内部に複数の振動発生機83を配設するようにしてもよい。この場合、前述した第3実施形態の場合と同様に、各振動発生機83を、ユーザの互いに異なる指の位置に対応させて配設し、カメラ20によって撮影された画像に基づいて車両の種類を特定し、その車両に応じた一つの振動発生機83を振動させるようにすることが好ましい。この場合にも、前述したように、ユーザは、白杖1のグリップ部3を把持した状態で、何れの振動発生機83が振動しているかを把握することで、接近している車両の種類を知ることが可能になる。
【0173】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態について説明する。本実施形態は、移動支援装置10とシステム管理サーバとによって構築された移動支援システムであって、システム管理サーバからの指令信号(本発明でいう外部機器からの受信情報)によって移動支援装置10の電力モードが通常モードと省電力モードとの間で切り替えられるものである。
【0174】
図18は、本実施形態に係る移動支援システムの制御系の概略構成を示すブロック図である。この
図18に示すように、移動支援装置10およびシステム管理サーバ100それぞれには、互いに情報の送受信を可能にする通信部79,101を備えている。
【0175】
移動支援装置10は、前述した第6実施形態に係る移動支援装置10(
図13を参照)と同様に、振動発生機83、Gセンサ84およびGPSモジュール85を備えている。Gセンサ84からの加速度の情報、および、GPSモジュール85からのユーザの位置情報は、通信部79によってシステム管理サーバ100に送信されるようになっている。
【0176】
システム管理サーバ100は、モード切替判断部102を備えている。このモード切替判断部102は、通信部101が移動支援装置10から受信した情報(加速度の情報およびユーザの位置情報)から、移動支援装置10の電力モードを通常モードとすべきか省電力モードとすべきかを判断する。具体的には、システム管理サーバ100には図示しないデータベースに地図情報が格納されており、この地図情報に対して、移動支援動作が必要な領域と移動支援動作が不要な領域とが予め設定されている。例えば、横断歩道周辺の領域や歩道の無い道路周辺の領域を移動支援動作が必要な領域として設定され、その他の領域を移動支援動作が不要な領域として設定されている。これら領域を設定する条件としては前述したものには限定されず、任意に設定可能である。
【0177】
そして、モード切替判断部102は、移動支援装置10から受信した情報に基づいて、ユーザが現在移動している領域が移動支援動作が必要な領域であるのか移動支援動作が不要な領域であるのかを判断し、移動支援動作が必要な領域である場合には、通常モードへの切り替え指令情報を通信部101から移動支援装置10に向けて送信する。また、ユーザが現在移動している領域が移動支援動作が不要な領域である場合には、省電力モードへの切り替え指令情報を通信部101から移動支援装置10に向けて送信する。
【0178】
移動支援装置10は、システム管理サーバ100から受信した指令情報に従い、モード切替制御部72が、移動支援装置10の電力モードを切り替えるための切り替え指令情報を生成する。つまり、システム管理サーバ100から通常モードへの切り替え指令情報を受信した場合には、電源スイッチPSをONすることで移動支援装置10が通常モードとなり、システム管理サーバ100から省電力モードへの切り替え指令情報を受信した場合には、電源スイッチPSをOFFすることで移動支援装置10が省電力モードとなる。
【0179】
移動支援装置10が通常モードとなった場合には、カメラ20によって撮影される周辺画像内に存在する車両に応じて(ユーザに車両が近付いている場合に)振動発生機83を振動させる移動支援動作が行われることになる。
【0180】
本実施形態においても、前述した実施形態の場合と同様に、必要に応じて電力モードが通常モードとなって移動支援動作を可能にしながらも、移動支援動作が不要な状況では電力モードを省電力モードにすることで移動支援装置の電力消費量を削減することができる。その結果、大型のバッテリを搭載しておく必要なしに、移動支援装置の機能を長期間に亘って継続的に発揮させることができ、移動支援装置の省電力化を図る上での実用性を高めることができる。
【0181】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態について説明する。前述した各実施形態は、本発明に係る移動支援装置を、ユーザが使用する白杖1に内蔵した場合について説明した。本実施形態は、それに変えてパーソナルモビリティのグリップ部に移動支援装置10を内蔵したものである。以下、具体的に説明する。
【0182】
図19は、本実施形態に係るパーソナルモビリティのグリップ部5をユーザが把持した状態を示す図である。この
図19では、パーソナルモビリティのグリップ部5を破線で示し、ユーザの手(グリップ部5を把持している手)Hを二点鎖線で示している。
【0183】
本実施形態では、前述した第3実施形態の場合と同様に、グリップ部5の内部に複数の起動ユニット60A,60B,60Cが配設されている。
【0184】
各起動ユニット60A,60B,60Cとしては、グリップ部5を把持しているユーザの手Hの親指および人差し指F1に対応する位置(グリップ部5の表面のうち親指および人差し指F1が接触する接触領域に対応する位置)に配設された第1起動ユニット60A、ユーザの手Hの中指F2に対応する位置(グリップ部5の表面のうち中指F2が接触する接触領域に対応する位置)に配設された第2起動ユニット60B、ユーザの手の薬指F3に対応する位置(グリップ部5の表面のうち薬指F3が接触する接触領域に対応する位置)に配設された第3起動ユニット60Cを備えている。
【0185】
また、本実施形態にあっても、各起動ユニット60A,60B,60Cに備えられているバネマス系(
図4を参照)の共振周波数(固有振動数)は互いに異なっている。各起動ユニット60A,60B,60Cそれぞれのバネマス系の共振周波数は前述した第3実施形態の場合と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0186】
その他の構成および移動支援装置10の電力モードの切り替え動作は、前述した第3実施形態の場合と同様である。
【0187】
このため、本実施形態にあっても、第3実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。つまり、パーソナルモビリティに乗車するユーザが、各起動ユニット60A,60B,60Cそれぞれの配設位置と、各起動ユニット60A,60B,60Cが共振する音(接近通報音やサイレン音や走行音)と、その音を発する車両の種類との関係を予め認識しておくことにより、グリップ部5を把持した状態で、何れの起動ユニット60A,60B,60Cのバネマス系が共振しているかを把握することで、接近している車両の種類(共振している音に応じた車両の種類)を知ることが可能になる。
【0188】
(他の実施形態)
尚、本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲および該範囲と均等の範囲で包含される全ての変形や応用が可能である。
【0189】
例えば、前記第1~第5実施形態および第8実施形態では、起動ユニット60(60A,60B,60C)に備えられたバネマス系が、車両が発する音に共振するものとしていた。本発明はこれに限らず、振動膜を備えさせ、該振動膜が、車両が発する音に共振するものとしてもよい。この場合、振動膜の膜厚、材質、大きさを適宜設定することによって共振周波数を調整することができるので、共振させたい音に応じてこれらは設定されることになる。
【0190】
また、前記第3、第4、第5実施形態では、各起動ユニット60A,60B,60Cを同一構成(バネマス系の共振周波数が互いに異なる同一構成)としていた。本発明はこれに限らず、各起動ユニット60A,60B,60Cを互いに異なる構成としたり、少なくとも一つの起動ユニットを他の起動ユニットと異なる構成としてもよい。例えば、第1起動ユニット60Aを
図4に示す構成のものとし、第2起動ユニット60Bを
図6に示す構成のものとし、第3起動ユニット60Cを振動膜が利用された構成のものとすることが挙げられる。
【0191】
また、前記各実施形態では、移動支援装置10の電力モードが、通常モードと省電力モードとの2つのモードの間で切り替えられるものとしていた。本発明はこれに限らず、省電力モードとして、全ての機器に電力を供給しない停止モード(本発明でいうスリープ状態)と、一部の機器(例えばカメラ20等)のみに電力を供給する待機モードとを備えさせるようにしてもよい。この場合、ユーザの移動に対する周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしている場合の電力モードとして、停止モードとするか待機モードとするかは任意に設定が可能である。
【0192】
また、前記各実施形態では、通常モードにあっては、メインバッテリ40に蓄えられた電力によって移動支援装置10が起動されて移動支援動作を行うものとなっていた。本発明はこれに限らず、起動ユニット60(60A,60B,60C)に備えられたバネマス系の共振に伴って発生する電力を利用して移動支援装置10の起動および移動支援動作を行うものとしてもよい。この場合、メインバッテリを不要とすることが可能となる。
【0193】
また、前記各実施形態では、周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしていることのみを条件として移動支援装置10の電力モードを省電力モードとするようにしていた。本発明はこれに限らず、周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしていることと、その他の条件を満たしていることとを条件(AND条件)として移動支援装置10の電力モードを省電力モードとするようにしてもよい。例えば、白杖1に省電力モード切替許可スイッチを備えさせ、この省電力モード切替許可スイッチがONとなっていることと、周辺リスクが所定の低リスク条件を満たしていることとを条件として移動支援装置10の電力モードを省電力モードとするようにしてもよい。
【0194】
また、本発明にあっては、制御装置70のROM(記憶部)に地図情報を格納し、この地図情報に対して、移動支援動作が必要な領域と移動支援動作が不要な領域とを予め設定しておくことで、白杖1の位置情報に基づいて電力モードを切り替えるようにしてもよい。例えば、横断歩道周辺の領域や歩道の無い道路周辺の領域を移動支援動作が必要な領域として設定し、その他の領域を移動支援動作が不要な領域として設定しておき、白杖1の位置情報に基づいて、移動支援動作が必要な領域を移動していると判断した場合に、電力モードを省電力モードから通常モードに切り替えるようにする。この場合、ROMに記憶されている移動支援動作が必要な状況の情報から生成された学習済みモデルに対し、現在のユーザの周辺情報を照合することによって電力モードの切り替えを行うようにしておくことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明は、ユーザの移動を支援する移動支援動作が可能であって省電力化される移動支援装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0196】
1 白杖
2a スピーカ(通知手段)
2b LEDライト(通知手段)
10 移動支援装置
20 カメラ(情報取得手段)
60 起動ユニット(リスク指標取得部)
60A 第1起動ユニット(リスク指標取得部)
60B 第2起動ユニット(リスク指標取得部)
60C 第3起動ユニット(リスク指標取得部)
63 発電ユニット(発電装置)
63a 磁石
63b コイルバネ
63c 電磁コイル
64 電流センサ(検知手段)
70 制御装置
72 モード切替制御部
74 通知制御部(通知手段)
100 システム管理サーバ
101 通信部
102 モード切替判断部
S1 第1スイッチ
S2 第2スイッチ
S3 第3スイッチ
U ユーザ
H ユーザの手
F1 人差し指
F2 中指
F3 薬指