(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】レーザ加工機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/142 20140101AFI20241008BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B23K26/142
B23K26/16
(21)【出願番号】P 2022024686
(22)【出願日】2022-02-21
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆太
(72)【発明者】
【氏名】山本 健史
(72)【発明者】
【氏名】本吉 隆
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/209086(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/230193(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/203862(WO,A1)
【文献】特開2020-157332(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/142
B23K 26/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工機であって、
レーザ光を出射するためのレーザ出射部であって、前記レーザ光を透過可能な保護ガラスを有するレーザ出射部と、
前記レーザ出射部に取り付けられ、前記レーザ出射部から出射された前記レーザ光の光路を囲むように設けられる筒状のハウジングと、を備え、
前記ハウジングは、
前記保護ガラスと面する第一開口端部と、
前記第一開口端部とは逆側の第二開口端部と、
前記第一開口端部の内側の全周に亘って設けられ、前記ハウジングの中心軸に向かって気体を吹き出すための第一吹出部と、
前記ハウジングの内部の全周に亘って設けられ、気体を前記第一吹出部へと供給するための第一供給路と、
前記第一供給路に気体を導入するための複数の第一気体導入口と、を備え、
前記第一供給路は、前記ハウジングの内部を流動する気体を分流させるための複数の分流部を備え、
前記複数の分流部は、
前記第一供給路において前記複数の第一気体導入口のそれぞれの近傍に設けられ、前記複数の第一気体導入口から導入される気体を前記ハウジングの周方向に向かって流動させるための第一分流部と、
前記第一供給路において、前記複数の第一気体導入口のうち一の第一気体導入口と、前記一の第一気体導入口に隣接する他の第一気体導入口との間に設けられる第二分流部と、を含む、
レーザ加工機。
【請求項2】
請求項
1に記載のレーザ加工機であって、
前記複数の分流部は、さらに、前記第一供給路において前記第一分流部と前記第二分流部との間かつ前記第一供給路と前記第一吹出部との境界に設けられる第三分流部を含む、
レーザ加工機。
【請求項3】
レーザ加工機であって、
レーザ光を出射するためのレーザ出射部であって、前記レーザ光を透過可能な保護ガラスを有するレーザ出射部と、
前記レーザ出射部に取り付けられ、前記レーザ出射部から出射された前記レーザ光の光路を囲むように設けられる筒状のハウジングと、を備え、
前記ハウジングは、
前記保護ガラスと面する第一開口端部と、
前記第一開口端部とは逆側の第二開口端部と、
前記第一開口端部の内側の全周に亘って設けられ、前記ハウジングの中心軸に向かって気体を吹き出すための第一吹出部と、を備え、
前記第一吹出部は、前記ハウジングの中心軸において前記第二開口端部から前記第一吹出部までの距離の50%以上80%以下のいずれかの位置に向かって気体を吹き出すように傾斜している、
レーザ加工機。
【請求項4】
請求項
3に記載のレーザ加工機であって、
前記第一吹出部は、前記ハウジングの中心軸において前記第二開口端部から前記第一開口端部までの距離の70%の位置に向かって気体を吹き出すように傾斜している、
レーザ加工機。
【請求項5】
レーザ加工機であって、
レーザ光を出射するためのレーザ出射部であって、前記レーザ光を透過可能な保護ガラスを有するレーザ出射部と、
前記レーザ出射部に取り付けられ、前記レーザ出射部から出射された前記レーザ光の光路を囲むように設けられる筒状のハウジングと、を備え、
前記ハウジングは、
前記保護ガラスと面する第一開口端部と、
前記第一開口端部とは逆側の第二開口端部と、
前記第一開口端部の内側の全周に亘って設けられ、前記ハウジングの中心軸に向かって気体を吹き出すための第一吹出部と、
前記第二開口端部の全周に亘って設けられ、前記第二開口端部から前記レーザ出射部とは逆側に向かって気体を吹き出すための第二吹出部と、
前記ハウジングの内部の全周に亘って設けられ、気体を前記第二吹出部へと供給するための第二供給路と、
前記第二供給路に気体を導入するための複数の第二気体導入口と、を備え、
前記第二供給路は、
前記第二供給路において、前記複数の第二気体導入口のそれぞれの近傍に設けられ、前記複数の第二気体導入口から導入される気体を前記ハウジングの周方向に向かって流動させるための第四分流部と、
前記第二供給路において、前記複数の第二気体導入口のうち一の第二気体導入口と、前記一の第二気体導入口に隣接する他の第二気体導入口との間に設けられる第五分流部と、を備える、
レーザ加工機。
【請求項6】
レーザ加工機であって、
レーザ光を出射するためのレーザ出射部であって、前記レーザ光を透過可能な保護ガラスを有するレーザ出射部と、
前記レーザ出射部に取り付けられ、前記レーザ出射部から出射された前記レーザ光の光路を囲むように設けられる筒状のハウジングと、を備え、
前記ハウジングは、
前記保護ガラスと面する第一開口端部と、
前記第一開口端部とは逆側の第二開口端部と、
前記第一開口端部の内側の全周に亘って設けられ、前記ハウジングの中心軸に向かって気体を吹き出すための第一吹出部と、
前記第二開口端部の全周に亘って設けられ、前記第二開口端部から前記レーザ出射部とは逆側に向かって気体を吹き出すための第二吹出部と、を備え、
前記第二吹出部の開口面積は、前記第一吹出部の開口面積よりも小さい、
レーザ加工機。
【請求項7】
請求項1から請求項
6までのいずれか一項に記載のレーザ加工機であって、
さらに、前記ハウジングから離間して設けられ、前記ハウジングの中心軸に交差する向きに気流を発生させる気流発生部を備える、
レーザ加工機。
【請求項8】
請求項
7に記載のレーザ加工機であって、
前記気流発生部は、前記ハウジングの中心軸に沿った長さ以上の距離だけ前記ハウジングから離間させて設けられる、
レーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ溶接時に加工点から飛散してくるスパッタがレーザ光学系のミラーやレンズに衝突することを防止するために、レーザスキャナに保護ガラスを配置したレーザ溶接装置が知られている(例えば、特許文献1)。このレーザ溶接装置は、レーザ光の光路を横切る方向に空気を流すことにより、スパッタが保護ガラスに付着することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、保護ガラスに対する異物の付着を完全に除去することはできないことがある。この結果、保護ガラスの交換が必要となることがある。そのため、保護ガラスに対する異物の付着を改善するための技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、レーザ加工機が提供される。このレーザ加工機は、レーザ光を出射するためのレーザ出射部であって、前記レーザ光を透過可能な保護ガラスを有するレーザ出射部と、前記レーザ出射部に取り付けられ、前記レーザ出射部から出射された前記レーザ光の光路を囲むように設けられる筒状のハウジングと、を備える。前記ハウジングは、前記保護ガラスと面する第一開口端部と、前記第一開口端部とは逆側の第二開口端部と、前記第一開口端部の内側の全周に亘って設けられ、前記ハウジングの中心軸に向かって気体を吹き出すための第一吹出部と、を備える。
この形態のレーザ加工機によれば、ハウジングの内部空間に保護ガラスを覆う気流を発生させることができ、スパッタやヒュームなどの異物が保護ガラスへ衝突することを抑制または防止することができる。
(2)上記形態のレーザ加工機において、前記ハウジングは、さらに、前記ハウジングの内部の全周に亘って設けられ、気体を前記第一吹出部へと供給するための第一供給路を備えてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、ハウジングを利用することにより効率良く第一吹出部に気体を導くための流路を設けることができる。
(3)上記形態のレーザ加工機において、前記ハウジングは、さらに、前記第一供給路に気体を導入するための複数の第一気体導入口を備えてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、第一供給路に対して複数の位置から気体を導入することにより、単数の第一気体導入口から第一供給路に気体が導入される場合に比べて、第一供給路の圧力ばらつきを抑制することができる。
できる。
(4)上記形態のレーザ加工機において、前記第一供給路は、前記ハウジングの内部を流動する気体を分流させるための複数の分流部を備えてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、ハウジングの内部に管路を設ける場合と比較して簡易な構造により、気体を所望の方向に導くことができる。
(5)上記形態のレーザ加工機において、前記複数の分流部は、前記第一供給路において前記複数の第一気体導入口のそれぞれの近傍に設けられ、前記複数の第一気体導入口から導入される気体を前記ハウジングの周方向に向かって流動させるための第一分流部と、前記第一供給路において、前記複数の第一気体導入口のうち一の第一気体導入口と、前記一の第一気体導入口に隣接する他の第一気体導入口との間に設けられる第二分流部と、を含んでよい。
この形態のレーザ加工機によれば、第一分流部および第二分流部が備えられない場合と比較して、第一供給路を流動する気体の圧力や流速を分散させることができる。
(6)上記形態のレーザ加工機において、前記複数の分流部は、さらに、前記第一供給路において前記第一分流部と前記第二分流部との間かつ前記第一供給路と前記第一吹出部との境界に設けられる第三分流部を含んでよい。
この形態のレーザ加工機によれば、第三分流部を備えない場合と比較して、第一吹出部から吹き出される気体の圧力や流速を、第一開口端部の周縁部全体で均一化することができる。
(7)上記形態のレーザ加工機において、前記第一吹出部は、前記ハウジングの中心軸において前記第二開口端部から前記第一吹出部までの距離の50%以上80%以下のいずれかの位置に向かって気体を吹き出すように傾斜していてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、ハウジングの内部空間に局所的な負圧が発生することを抑制することができる。
(8)上記形態のレーザ加工機において、前記第一吹出部は、前記ハウジングの中心軸において前記第二開口端部から前記第一開口端部までの距離の70%の位置に向かって気体を吹き出すように傾斜していてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、ハウジングの内部空間に局所的な負圧が発生することをより確実に抑制することができる。
(9)上記形態のレーザ加工機において、前記ハウジングは、さらに、前記第二開口端部の全周に亘って設けられ、前記第二開口端部から前記レーザ出射部とは逆側に向かって気体を吹き出すための第二吹出部を備えてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、第二吹出部から吹き出される気体により、異物がハウジングの内部空間に進入することを抑制または防止することができる。
(10)上記形態のレーザ加工機において、前記ハウジングは、さらに、前記ハウジングの内部の全周に亘って設けられ、気体を前記第二吹出部へと供給するための第二供給路を備えてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、ハウジングを利用することにより効率良く第二吹出部に気体を導くための流路を設けることができる。
(11)上記形態のレーザ加工機において、前記ハウジングは、さらに、前記第二供給路に気体を導入するための複数の第二気体導入口を備えてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、第二供給路に対して複数の位置から気体を導入することにより、単数の第二気体導入口から第二供給路に気体が導入される場合に比べて、第二供給路の圧力ばらつきを抑制することができる。
(12)上記形態のレーザ加工機において、前記第二供給路は、前記第二供給路において、前記複数の第二気体導入口のそれぞれの近傍に設けられ、前記複数の第二気体導入口から導入される気体を前記ハウジングの周方向に向かって流動させるための第四分流部と、前記第二供給路において、前記複数の第二気体導入口のうち一の第二気体導入口と、前記一の第二気体導入口に隣接する他の第二気体導入口との間に設けられる第五分流部と、を備えてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、第四分流部および第五分流部が備えられない場合と比較して、第二供給路を流動する気体の圧力や流速を安定させることができる。
(13)上記形態のレーザ加工機において、前記第二吹出部の開口面積は、前記第一吹出部の開口面積よりも小さくてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、第二吹出部から吹き出される気流を、第一吹出部から吹き出される気流よりも高圧とすることで、ハウジングの内部空間に異物が進入することを抑制することができる。
(14)上記形態のレーザ加工機において、さらに、前記ハウジングから離間して設けられ、前記ハウジングの中心軸に交差する向きに気流を発生させる気流発生部を備えてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、ワークから飛散する異物を第一気流発生部の気流によって押し流すことができ、異物がレーザ出射部に到達することを抑制または防止することができる。
(15)上記形態のレーザ加工機において、前記気流発生部は、前記ハウジングの中心軸に沿った長さ以上の距離だけ前記ハウジングから離間させて設けられてよい。
この形態のレーザ加工機によれば、ハウジングの内部空間に発生させた気流が第一気流発生部から吹き出される気流により乱されることを抑制することができる。
本開示は、レーザ加工機以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、レーザ加工機に用いられるハウジング、レーザ加工機の製造方法、ハウジングの製造方法、レーザ加工方法、気流発生方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係るレーザ溶接装置の概略構成を正面視で示す説明図。
【
図2】ハウジングの内部構成を断面視で示す説明図。
【
図3】ハウジング内の気体の流動経路を示す説明図。
【
図4】本実施形態のレーザ溶接装置を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第一の説明図。
【
図5】本実施形態のレーザ溶接装置を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第二の説明図。
【
図6】本実施形態のレーザ溶接装置を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第三の説明図。
【
図7】比較例としてのハウジングの内部構成を断面視で示す説明図。
【
図8】比較例としてのハウジングを用いて流体シミュレーションを行った結果を示す説明図。
【
図9】比較例としてのハウジングを用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第二の説明図。
【
図10】比較例としてのハウジングを用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第三の説明図。
【
図11】比較例としてのレーザ溶接装置と、本実施形態に係るレーザ溶接装置との焦点位置ずれ量の評価結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本実施形態に係るレーザ加工機としてのレーザ溶接装置100の概略構成を正面視で示す説明図である。レーザ溶接装置100は、例えば、自動車の車体の製造工程で用いられるリモートレーザ装置である。レーザ溶接装置100は、レーザ光を、例えば、ステージSTの上に配置されたワークWKに照射してワークWKを溶接する。ワークWKは、例えば、互いに重ねられた複数の鋼板などである。レーザ溶接装置100は、レーザ発振器30と、レーザスキャナ50と、エア供給ユニット60と、ハウジング70と、第一気流発生部62と、第二気流発生部64と、を備えている。
【0009】
レーザ発振器30は、レーザ光を生成し、光ファイバケーブルなどを介してレーザスキャナ50へと導く。レーザ発振器30は、例えば、CO2レーザ、YAGレーザ、ファイバーレーザ、ディスクレーザ、エキシマレーザ等のレーザ光を生成することができる。
【0010】
レーザスキャナ50は、レーザ発振器30から導かれたレーザ光を出射口58から出射するレーザ出射部として機能する。レーザスキャナ50は、スキャナヘッドとも呼ばれることがある。レーザスキャナ50は、レーザ光学系と、保護ガラス54と、を備えている。レーザ光学系には、例えばガルバノミラーなどのミラー52と、図示しないレンズ群とが含まれる。レンズ群には、例えば、レーザ光を平行光にするためのコリメートレンズや、ワークWK上の加工点W0にレーザ光の焦点を結ぶための集光レンズなどが
含まれる。なお、
図1には、ミラー52からワークWKまでのレーザ光の光路LZが模式的に示されている。
【0011】
ミラー52は、例えば、軸周りを回動可能に設けられている。レーザ溶接装置100は、ミラー52の回転を操作することにより、レーザスキャナ50を固定した状態であっても、
図1に示す所定の範囲LRでレーザ光を走査することができる。本開示において、ミラー52からワークWK上の加工点W0までの距離を、「焦点距離」とも呼ぶ。
【0012】
保護ガラス54は、レーザスキャナ50におけるレーザ光の出射口58に備えられている。保護ガラス54は、光学系からのレーザ光を透過することができる。保護ガラス54は、レーザ加工時に、ワークWK上の加工点W0から飛散してくるスパッタや、ワークWKに含まれる金属が昇華したヒュームなどがミラー52やレンズ群に衝突することを防止している。
【0013】
保護ガラス54には、スパッタやヒュームなどの異物が付着することがある。保護ガラス54に異物が付着すると、熱レンズ効果(thermal lens effect)によって、レーザ光の焦点距離が変化することがある。「熱レンズ効果」とは、保護ガラス54に付着した異物にレーザ光が吸収されて発熱し、保護ガラス54の熱膨張を引き起こすことによって、保護ガラス54の屈折率が変化する現象である。この結果、レーザ溶接装置100は、レーザ光をワークWK上の加工点W0に適切に集光できなくなることがある。
【0014】
本実施形態では、レーザスキャナ50は、ロボット40に連結されている。ロボット40は、いわゆる多関節アームを有している。多関節アームは、曲げ関節やねじり関節を含む複数の関節で順次接続されている。ロボット40は、ロボット制御部20によって制御される。ロボット制御部20には、例えば、アームの回転角や移動量など、任意の位置にレーザスキャナ50を移動させるための情報が格納されている。ロボット40は、ロボット制御部20からの制御信号に従い、ワークWKに対するレーザスキャナ50の相対的な位置を調節する。ロボット40は、1個以上の関節を有する任意の機構のアームを有してよい。ただし、レーザスキャナ50は、必ずしもロボット40に連結されている必要はなく、例えば、ロボット40を省略してレーザスキャナ50を定置型としてもよい。
【0015】
ハウジング70は、レーザスキャナ50に取り付けられる略円筒状の金属製の部材である。ハウジング70は、レーザスキャナ50の出射口58近傍に取り付けられている。ハウジング70は、出射口58ならびに保護ガラス54を覆うように配置され、スパッタやヒュームなどの異物が保護ガラス54に付着することを抑制または防止する。ハウジング70は、金属には限らず、樹脂製やセラミック製とされてもよい。ハウジング70は、円筒形状には限らず、断面形状が多角形の角筒形状であってもよく、内部空間をレーザ光が通過可能な任意の筒形状であってもよい。
【0016】
ハウジング70の内壁は、ハウジング70の内部空間を規定している。ハウジング70の内部空間を通過する軸線を、「中心軸AX」とも呼ぶ。ハウジング70の内壁は、保護ガラス54を通過して出射口58から出射されたレーザ光の光路LZを囲むように設けられる。換言すれば、ハウジング70は、レーザスキャナ50から出射されるレーザ光がハウジング70の内部空間を通過可能な位置となるように、レーザスキャナ50の出射口58に取り付けられている。以降の説明において、中心軸AXに沿った方向を「軸方向」とも呼び、軸方向に垂直な平面において中心軸AX周りにおけるハウジング70の外縁に沿った方向を「ハウジング70の周方向」とも呼ぶ。中心軸AXに沿ったハウジング70の両端のうち、レーザスキャナ50および保護ガラス54と面する端部を、第一開口端部70Tとも呼び、第一開口端部70Tとは逆側の端部を、第二開口端部70Bとも呼ぶ。第二開口端部70Bは、加工時にはワークWKと面する。
【0017】
本実施形態では、ハウジング70には、後述するように、気体を流通させるための流路が設けられている。ハウジング70に供給された気体は、ハウジング70の所定の位置から吹き出されることによって、
図1に示す気流AR1を発生させる。気流AR1は、ハウジング70の内部空間と、第二開口端部70BからワークWKに向かう所定の範囲とを含んでいる。ハウジング70の内部空間に負圧となる領域が存在すると、スパッタやヒューム等の異物を吸い込む要因となり得る。そのため、保護ガラス54への異物の付着をより効果的に実現するためには、気流AR1の全体が均一な圧力を有していることが好ましい。なお、
図1では、技術の理解を容易にするために気流AR1,AR2,AR3についてハッチングを付している。
【0018】
第一気流発生部62は、
図1に示す高速高圧の気流AR2を発生させる。第一気流発生部62は、エアナイフとも呼ばれることがある。第一気流発生部62は、ハウジング70の中心軸AXに交差する向きに略平面状の範囲の気流AR2を吹き出している。気流AR2は、レーザ光を走査する範囲LRのいずれにおいてもレーザ光の光路LZに交差する。これにより、レーザ溶接時に加工点W0からレーザスキャナ50に向かって飛散するスパッタは、第一気流発生部62から発生された気流によって押し流される。その結果、スパッタがレーザスキャナ50に到達することを抑制または防止することができる。気流によって押し流された異物がワークWKに衝突することを抑制するために、気流AR2は、ワークWKとは重ならないことが好ましい。
【0019】
本実施形態では、第一気流発生部62は、
図1に距離L2で示すように、第二開口端部70Bから離間して設けられている。これにより、ハウジング70の内部空間に発生する気流AR1が気流AR2により乱されることを抑制している。本実施形態では、第二開口端部70Bから第一気流発生部62までの距離L2は、ハウジング70の中心軸AXに沿った長さL1以上となるように設定されている。なお、第二気流発生部64は第一気流発生部62よりもワークWKに近い位置に配置されることから、第一気流発生部62よりもさらに離れた状態で、第二開口端部70Bから離間して設けられている。
【0020】
第二気流発生部64は、
図1に示す高速高圧の気流AR3を発生させる。第二気流発生部64は、ワークWK全体を覆うように、第二気流発生部64を頂点とする略円錐状の範囲の気流AR3を吹き出している。これにより、レーザ溶接時に発生するワークWKから発生するヒュームは、第二気流発生部64から発生された気流によって押し流される。その結果、ヒュームがレーザスキャナ50に到達することを抑制または防止することができる。気流AR2と、気流AR3とは、各範囲に発生する気流同士が干渉して機能が低下することを抑制する観点から、互いに重ならないことが好ましい。第二気流発生部64は、第一気流発生部62よりもワークWKに近い位置に配置されている。
【0021】
エア供給ユニット60は、図示しないエアポンプにより、第一気流発生部62と、第二気流発生部64と、ハウジング70とに対して個別に空気を圧送することができる。なお、エア供給ユニット60は、例えば、空気に代えて、窒素などの他の気体を用いてもよい。
【0022】
図2および
図3を用いてハウジング70に形成された流路について説明する。
図2は、ハウジング70の内部構成を断面視で示す説明図である。ハウジング70は、第一気体導入口74と、第一供給路722と、第一吹出部720とを備えている。第一気体導入口74、第一供給路722、ならびに第一吹出部720は、エア供給ユニット60から圧送された空気を用いて、ハウジング70の内部空間SPに気流AR1を発生させる。
【0023】
第一気体導入口74は、
図1で示したエア供給ユニット60に接続されている。第一気体導入口74は、ハウジング70の外壁面に対して略垂直に設けられている。第一気体導入口74は、ハウジング70内の第一供給路722に接続されており、エア供給ユニット60から供給された空気を第一供給路722へと導く。
【0024】
本実施形態では、ハウジング70は、複数の第一気体導入口74を備えている。複数の第一気体導入口74により、一つの第一供給路722に対して複数の位置から空気を導入している。
図2では、第一気体導入口74は、2つのみ図示されているが、本実施形態では、4つ設けられている。本実施形態では、4つの第一気体導入口74は、ハウジング70の外壁面において、中心軸AX周りに略等間隔となるように配置されている。なお、第一気体導入口74は、単数とすることもでき、4つに限らず2以上の任意の数で設定されてもよい。
【0025】
第一供給路722は、第一気体導入口74から供給される空気を、第一吹出部720へと導く。第一供給路722は、ハウジング70の内部において周方向に沿って全周に亘って形成された一つの帯状の空間である。「ハウジング70の内部」とは、ハウジングの内壁面と、ハウジング70の外壁面との間を意味する。第一供給路722は、第一気体導入口74から供給された空気を第一吹出部720へと導く間に空気の圧力を分散させる。したがって、例えば、第一吹出部720と第一気体導入口74とが直接接続される場合と比較して、第一供給路722などの流路全体の圧力を略均等にすることができる。第一供給路722は、ハウジング70の内部には限らず、例えば、ハウジング70の外壁面上に設けることもできる。この場合には、第一供給路722は、例えば、ホースやパイプなどの管路をハウジング70の外壁面に取り付けることによって形成することができる。
【0026】
第一吹出部720は、第一供給路722から導かれてきた空気を、第一開口端部70Tの内側の全周からハウジング70の中心軸AXに向かって吹き出す。第一吹出部720から吹き出される空気により内部空間SPに気流が発生する。本実施形態では、第一吹出部720は、第一開口端部70Tの内側の全周に亘って設けられている、いわゆるスリット状の1つの開口である。「第一吹出部720が第一開口端部70Tに設けられる」とは、第一吹出部720が第一開口端部70T近傍に設けられる状態をも含み、例えば、第一吹出部720が第一開口端部70Tから離間して備えられる状態をも含む。所定の距離としては、例えば、第一供給路722の流路の厚さと、ハウジング70の厚さとを足し合わせて得られる距離などである。
【0027】
第一吹出部720から吹き出された空気は、
図2に示す気流AR11を発生させる。気流AR11の気流は、
図1に示した気流AR1の発生に寄与する。第一吹出部720は、1つのスリットには限らず、例えば、複数のスリットであってもよい。また、第一吹出部720は、ハウジング70の内部空間SPに向かって略均等な圧力で吹き出すことができることを前提に、任意の形状にすることができる。例えば、第一吹出部720は、スリット状に変えて複数の開口であってよく、この場合には、複数の開口を第一開口端部70Tの周縁部の全体に亘って連続的に配列してもよい。
【0028】
図2に示すように、第一吹出部720は、保護ガラス54に近い上面720Aと、上面720Aに対向する下面720Bとを含んでいる。上面720Aは、中心軸AXに対する傾斜角を設定することにより、第一吹出部720から吹き出される気体の流動方向を調節することができる。本実施形態では、上面720Aは、空気の流動方向が中心軸AXに向かう方向成分と、保護ガラス54から離れる方向成分とで規定される向きに傾斜している。これにより、気流AR11を、第一開口端部70Tから第二開口端部70Bに向かう方向(保護ガラス54から離れる方向)に傾斜させている。
【0029】
第一吹出部720から吹き出される気体の流動方向は、ハウジング70の中心軸AX上において第二開口端部70Bから第一吹出部720の上面720Aの開口端の位置までの距離(以下、「第一吹出部720の高さ」とも呼ぶ。)を100%としたとき、第一吹出部720の高さの80%の距離となる位置PAから、50%の距離となる位置PBまでに含まれるいずれかの方向であることが好ましい。気流AR11を傾斜させた状態で中心軸AX上において互いに衝突させるとともに、衝突後の気流を第二開口端部70Bに向かって流動させることにより、ハウジング70の内部空間SPに局所的な負圧が発生することを抑制している。例えば、第二開口端部70Bから位置PAよりも離れた位置に向けて空気が吹き出される場合には、第一吹出部720から吹き出される気流同士が傾斜しない状態で高速高圧の状態で互いに衝突しやすくなる。その結果、ハウジング70内の気流が乱れる可能性がある。位置PBよりも第二開口端部70Bに近い位置に向けて空気が吹き出される場合には、第一吹出部720から吹き出される気流同士が衝突しにくくなり、中心軸AX上に負圧が発生しやすくなる。この結果、スパッタやヒュームなどの異物が中心軸AX上の負圧によって保護ガラス54に向かって吸い上げられる可能性がある。本実施形態では、第一吹出部720から吹き出される気体の流動方向は、流体シミュレーションの結果に基づいて内部空間SPでの負圧の発生をより確実に抑制する観点から、第一吹出部720の高さの70%の距離となる位置PTに設定されている。
【0030】
第一吹出部720の下面728Bは、傾斜角の調節により、気流AR11の厚みを調節することができる。本実施形態では、中心軸AX上において第二開口端部70Bと重なる位置に向かう方向に下面728Bを傾斜させることで、気流AR11の厚みが比較的厚くなるように設定されている。例えば、気流AR11の厚みは、
図2に示す気流AR12の厚みよりも厚い。なお、気流AR11は、薄く設定されてもよく、例えば、気流AR12の厚みと同様の厚さとされてもよい。
【0031】
本実施形態では、ハウジング70は、さらに、隔壁724と、第二気体導入口76と、第二供給路726と、第二吹出部728と、を備えている。第二気体導入口76、第二供給路726、ならびに第二吹出部728は、隔壁724により、第一気体導入口74、第一供給路722、ならびに第一吹出部720とは異なる流路として機能する。第二気体導入口76、第二供給路726、ならびに第二吹出部728は、エア供給ユニット60から圧送された空気を用いて、ハウジング70の第二開口端部70Bからハウジング70の外部に気流を発生させる。
【0032】
第二気体導入口76は、エア供給ユニット60に接続されている。第二気体導入口76は、ハウジング70の外壁面に対して略垂直に設けられている。第二気体導入口76は、ハウジング70内の第二供給路726に接続されており、エア供給ユニット60から供給された空気を第二供給路726へと導く。
【0033】
本実施形態では、ハウジング70は、複数の第二気体導入口76を備えている。複数の第二気体導入口76により、一つの第二供給路726に対して複数の位置から空気を導入している。本実施形態では、第一気体導入口74と同様に、4つの第二気体導入口76が、ハウジング70の外壁面において中心軸AX周りに略等間隔で配置されている。ただし、第二気体導入口76は、第一気体導入口74と同数でなくともよく、単数であってもよく、2以上の任意の数であってもよい。
【0034】
第二供給路726は、第二気体導入口76から供給される吸気を、第二吹出部728へと導く。本実施形態では、第二供給路726は、ハウジング70の内部において周方向に沿って全周に亘って形成された一つの帯状の空間である。ただし、第二供給路726は、ハウジング70の外壁面上に設けられてもよい。
【0035】
第二吹出部728は、第二供給路726から導かれてきた空気を、第二開口端部70Bの全周からレーザスキャナ50とは逆側に向かって吹き出す。本実施形態では、第二吹出部728は、第二開口端部70Bの内側の全周に亘って設けられている、いわゆるスリット状の1つの開口である。「第二吹出部728が第二開口端部70Bに設けられる」とは、第二吹出部728が第二開口端部70B近傍に設けられる状態をも含み、第二吹出部728が第二開口端部70Bから所定の距離だけ離間して備えられてもよい。所定の距離としては、例えば、第二供給路726の流路の厚さと、ハウジング70の厚さとを足し合わせて得られる距離などである。
【0036】
第二吹出部728から吹き出された空気は、
図2に示す気流AR12を発生させる。気流AR12は、気流AR11とともに、気流AR1の気流の発生に寄与する。第二吹出部728は、1つのスリットには限らず、例えば、複数のスリットであってもよく、スリット状に変えて複数の開口であってもよい。
【0037】
図2に示すように、第二吹出部728は、第二開口端部70Bに至る下面728Bと、下面728Bに対向する上面728Aとを含んでいる。上面728Aおよび下面728Bは、第二開口端部70Bから中心軸AXに向かう方向成分と、第二開口端部70Bからレーザスキャナ50とは逆側に向かう方向成分とで規定される向きに傾斜している。これにより、気流AR12を、第二開口端部70BからワークWKに向かう方向に傾斜させている。ただし、これに限らず、第二吹出部728は、中心軸AXから離れる方向成分と、第二開口端部70Bからレーザスキャナ50とは逆側に向かう方向成分とで規定される向きに傾斜していてもよい。
【0038】
本実施形態では、
図2に示すように、第二吹出部728の開口面積は、比較的小さく設定されている。第二吹出部728の開口面積は、例えば、第一吹出部720の開口面積よりも小さい。そのため、気流AR12の発生範囲の厚みは、気流AR11の発生範囲の厚みよりも薄くなり得る。この結果、第二吹出部728から吹き出される気流AR12は、第一吹出部720から吹き出される気流AR11よりも高速高圧となり得る。
【0039】
図3は、ハウジング70内の気体の流動経路を示す説明図である。
図3には、説明の便宜のため、ハウジング70内の第一供給路722および第二供給路726の構造を図示し、ハウジング70の外壁部の図示は省略されている。
図3に示すように、本実施形態において、第一供給路722および第二供給路726は、ハウジング70の周方向に沿って形成された2つの帯状の流路であり、隔壁724によって互いに独立して設けられている。
【0040】
図3に示すように、第一供給路722には、第一気体導入口74から第一供給路722に導入された空気を分流させるための複数の分流部が形成されている。具体的には、第一供給路722は、互いに機能が異なる第一分流部721と、第二分流部723と、第三分流部725と、を備えている。
【0041】
第一分流部721は、4つの第一気体導入口74のそれぞれの近傍に設けられている。第二分流部723は、一の第一気体導入口74Aと、第一気体導入口74Aに隣接する他の第一気体導入口74Bとの間に設けられている。本実施形態では、4つの第一気体導入口74が等間隔で設けられていることから、第一気体導入口74それぞれの中間に配置されている。第一分流部721および第二分流部723は、周方向DRに沿って長尺な形状を有している。
【0042】
方向F10で示すように、エア供給ユニット60から供給される空気は、第一気体導入口74Aから第一供給路722に導入されて、第一供給路722の壁面に衝突する。第一供給路722に導入された空気は、第一分流部721および隔壁724によって分流され、方向F12で示すように、周方向DRに沿った両側に流動する。このとき、一部の空気は、方向F11で示すように、第一分流部721と第二分流部723との間に向かって流動する。
【0043】
方向F12に沿って流動した空気は、隣接する第一気体導入口74Bから導入された空気と衝突することにより、方向F12と交差する方向F13へと流動方向が切り替えられる。方向F13に流動した空気は、第二分流部723によって分流され、方向F14で示すように、周方向DRに沿った両側に流動する。方向F14に流動した空気は、第一分流部721と第二分流部723との間を流動して第一吹出部720に向かって流動する。
【0044】
第三分流部725は、第一供給路722において、第一分流部721と第二分流部723との間の位置、かつ第一供給路722と第一吹出部720との境界となる位置に設けられている。第三分流部725の配置位置は、上述した方向F11に流動する空気と、方向F14に流動する空気とが互いに衝突し得る予測位置に相当する。本実施形態では、第三分流部725は、
図3に示すように、当該位置ごとに2つずつ設けられている。ただし、第三分流部725の数は、2つずつには限らず1つであってもよく、3以上の任意の数であってもよい。
【0045】
本実施形態では、第三分流部725の形状は略三角形状である。底辺が第一吹出部720近傍に配置され、頂点が第一吹出部720から離れた位置に配置されている。第三分流部725の周方向DRでの幅は、第一吹出部720に近い位置の方が、第一吹出部720から離れた位置よりも大きいことが好ましい。すなわち、第一吹出部720に近い位置の幅の方が広く設定されていることが好ましい。第三分流部725は略三角形状には限らず、円形、楕円形、多角形、矩形などの任意の形状であってもよい。また、第三分流部725は軸方向DXに沿って長尺な形状とされてもよい。
【0046】
第一分流部721と第二分流部723との間から第一吹出部720へと流動する空気は、方向F15で示すように、第三分流部725によって第三分流部725の数に基づく複数の方向に分断される。分断された複数の位置から第一吹出部720へと導かれた空気は、方向F16で示すように、第一吹出部720から吹き出される。このように、第一供給路722に導入された空気は、第一分流部721、第二分流部723、ならびに第三分流部725によって分流されるとともに、空気同士での衝突を繰り返しながら第一吹出部720へと導かれる。その結果、第一吹出部720に導かれた空気は、圧力や流速が第一開口端部70Tの全周に亘って略均一の状態で、第一吹出部720からハウジング70内へと吹き出される。
【0047】
図3に示すように、第二供給路726には、第二気体導入口76から第二供給路726に導入された空気を分流させるための複数の分流部が形成されている。具体的には、第二供給路726は、互いに機能が異なる第四分流部727と、第五分流部729と、を備えている。
【0048】
第四分流部727および第五分流部729は、周方向DRに沿って長尺な形状を有しており、上述した第一分流部721および第二分流部723と同様な機能を有している。第四分流部727は、第一分流部721と同様に、4つの第二気体導入口76のそれぞれの近傍に設けられている。第五分流部729は、第二分流部723と同様、一の第二気体導入口76Aと、第二気体導入口76Aに隣接する他の第二気体導入口76Bとの中間に設けられている。
【0049】
方向F20で示すように、エア供給ユニット60から供給される空気は、第二気体導入口76Aから第二供給路726に導入されて、第二供給路726の壁面に衝突する。第二供給路726に導入された空気は、第四分流部727および隔壁724によって分流され、方向F22で示すように、周方向DRに沿って両側に流動する。このとき、一部の空気は、方向F21で示すように、第四分流部727と第五分流部729との間に向かって流動する。
【0050】
方向F22に沿って流動した空気は、隣接する第二気体導入口76Bから導入された空気と衝突することにより、方向F22と交差する方向F23へと流動方向が切り替えられる。方向F23に流動した空気は、第五分流部729によって分流され、方向F24で示すように、周方向DRに沿った両側に分流され、第四分流部727と第五分流部729との間を流動して第二吹出部728に向かって流動する。このように、第二供給路726に導入された空気は、第四分流部727および第五分流部729によって分流され、空気同士での衝突を繰り返しながら第二吹出部728へと導かれる。その結果、第二吹出部728に導かれた空気は、方向F26で示すように、圧力や流速が第二開口端部70Bの全周に亘って略均一の状態で、第二吹出部728からハウジング70の外部へと吹き出される。
【0051】
図4は、本実施形態のレーザ溶接装置100を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第一の説明図である。「流体シミュレーション」とは、例えば、コンピュータを用いた数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)を利用した流体解析である。
図4には、レーザ溶接装置100におけるハウジング70の断面視でのシミュレーション結果が示されている。シミュレーション結果では、流体の速度(単位は、例えば、m/s)の分布が色の違いによって20段階で示されている。例えば、流速が遅い箇所は青色で示され、それよりも流速が早い箇所は緑色で示され、最も流速が早い箇所は赤色で示されている。
図4では、説明の便宜のため、最も流速が早い箇所ならびに最速から5段階目の速さまでの箇所が実線で囲むことによって図示されている。なお、本開示におけるそれぞれのシミュレーション結果は、第二気流発生部64がオフの状態で行った結果である。
図4に示すように、シミュレーション結果によれば、流速が早い領域は、上述した気流AR11と、気流AR12と、気流AR2とのそれぞれの形状と略一致していることが理解できる。
【0052】
図5は、本実施形態のレーザ溶接装置100を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第二の説明図である。
図5では、ハウジング70の上面視でのシミュレーション結果が示されている。具体的には、第一吹出部720を含む位置を中心軸AXに沿って見た場合の流体の流速のシミュレーション結果が示されている。シミュレーション結果での流速の表示方法は、
図4と同様であるので説明を省略する。
図5では、
図4と同様に、説明の便宜のため、最も流速が早い箇所ならびに最速から5段階目の速さまでの箇所が実線で囲むことによって図示されている。
【0053】
図5に示すように、流速が早い領域は、第一吹出部720からハウジング70の内部空間SPに吹き出された方向F16に流動する気流によって発生する。シミュレーション結果によれば、流速が早い領域は、内部空間SPの周縁部の全体に亘って略均一な大きさであり、気流AR11が第一吹出部720から内部空間SPへの気流が略均一の圧力および流速で吹き出されていることが分かる。
【0054】
図4および
図5で示したシミュレーション結果によれば、以下のことが理解できる。
(1)
図4に示すように、ハウジング70の内部空間SPは、流速が早い気流AR12により覆われている。これにより、スパッタやヒュームなどの異物がハウジング70の内部空間SPに進入することを抑制または防止することができる。
(2)
図4および
図5に示すように、ハウジング70の内部空間SPにおいて、略均一の圧力および流速の気流AR11により保護ガラス54の全体が覆われている。これにより、スパッタやヒュームなどの異物がハウジング70の内部空間SPに進入した場合であっても保護ガラス54に衝突することを抑制または防止することができる。
(3)
図4に示すように、気流AR11および気流AR12は、中心軸AXに対して略線対称の形状を有しており、流速の分布が一様な安定した気流を発生させている。
(4)第一気流発生部62から吹き出される気流AR2が気流AR11や、気流AR12のうちハウジング70近傍の気流を乱すことを抑制できている。
【0055】
図6は、本実施形態のレーザ溶接装置100を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第三の説明図である。
図6には、レーザ溶接装置100におけるハウジング70の断面視でのシミュレーション結果が示されている。シミュレーション結果では、圧力(単位は、例えば「Pa」)の分布が色の違いによって20段階で示されている。例えば、圧力が大気圧と等しい箇所は緑色で示され、大気圧よりも圧力が高い箇所、すなわち正圧の箇所は、赤色で示され、負圧の箇所は、青色で示されている。
図6に示すシミュレーション結果では、ハウジング70の内部空間SPおよびハウジング70の近傍において略全域が緑色を示し、正圧の領域と負圧の領域とがほぼ無く、気圧がハウジング70の内部空間SPおよびその近傍において安定していることを確認できた。
【0056】
図7から
図10を用いて、比較例としてのハウジング200の流体シミュレーションの結果について説明する。
図7は、比較例としてのハウジング200の内部構成を断面視で示す説明図である。ハウジング200は、本実施形態のレーザ溶接装置100が備えるハウジング70とは、吹出部の構成が異なる点において相違し、その他の構成は、ハウジング70と同様である。
【0057】
ハウジング200は、第一供給路222と、複数の第一吹出部220と、隔壁224と、第二供給路226と、第二吹出部228と、複数の第三吹出部223とを備えている。第一供給路222および第二供給路226は、ハウジング200の内部において周方向に沿って形成された帯状の空間であり、エア供給ユニット60からの空気が導入される。第一供給路222と、第二供給路226とは、隔壁224によって互いに区分されている。第一供給路222には、第一気体導入口74と同様に構成された後述する4つの第一気体導入口230が接続され、第二供給路226には、第二気体導入口76と同様に構成された図示しない4つの第二気体導入口が接続されている。なお、第一供給路222および第二供給路226には、分流部は形成されていない。
【0058】
第一吹出部220は、第一供給路222と連通し、第一供給路222に供給された空気をハウジング200の内部空間に向かって吹き出す。第一吹出部220は、第一吹出部720とは異なり、第一開口端部200Tから離間した位置に配置されている。また第一吹出部220を構成する上面および下面は傾斜されていない。第三吹出部223は、第二供給路226と連通し、第二供給路226に供給された空気を内部空間に向かって吹き出す。第一吹出部220および第三吹出部223を規定する上面および下面は傾斜していない。第一吹出部220および第三吹出部223は、それぞれ周方向に沿って長尺な形状を有している。第二吹出部228は、第二開口端部200Bの周縁部の全体に亘って設けられている、いわゆるスリット状の1つの開口である。第二吹出部228は、第二開口端部200Bからハウジング200の外部に向かって気体を吹き出す。
【0059】
図8は、比較例としてのハウジング200を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す説明図である。
図8には、第一吹出部220を含む位置、具体的には、
図7のVIII-VIII位置を中心軸AX2に沿って見た場合における流体の流速のシミュレーション結果が示されている。シミュレーション結果での流速の表示方法は、
図4と同様であるので説明を省略する。
図8では、
図4と同様に、説明の便宜のため、最も流速が早い箇所ならびに最速から5段階目の速さまでの箇所が実線で囲むことによって図示されている。
図8に示すように、ハウジング200の内部空間には、流速が早い気流SR1が発生していることが分かる。
【0060】
図8に方向F110で示すように、第一気体導入口230Aから導入された空気は、第一供給路222の壁面に衝突し、例えば、第一供給路222の壁面に沿って方向F120に向かって流動する。このとき方向F120に流動する空気は、第一気体導入口230A近傍の第一吹出部220Aに到達するものの、第一吹出部220Aから噴出されず、方向F120に沿って継続して流動している。方向F120に沿って流動する空気は、隣接する他の第一気体導入口230Bから導入されて、方向F120に流動しつつ第一吹出部220Bを通過する空気と、第一気体導入口230A,230Bの互いの中間となる位置の第一吹出部220T近傍で衝突する。この結果、空気の流動方向は方向F130に切り替えられ、空気は第一吹出部220Tから吹き出す気流SR1となる。なお、第二供給路226および第三吹出部223でも同様なシミュレーション結果を示した。
【0061】
図9は、比較例としてのハウジング200を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第二の説明図である。
図9には、ハウジング200の断面視でのシミュレーション結果が示されている。シミュレーション結果での流速の表示方法は、
図4と同様であるので説明を省略する。
図9では、説明の便宜のため、最も流速が早い箇所ならびに最速から5段階目の速さまでの箇所が実線で囲むことによって図示されている。
【0062】
図9に示すシミュレーション結果によれば、以下のことが理解できる。
(1)第一吹出部220から吹き出す気流SR1と、第三吹出部223から吹き出す気流SR2の気流とが発生している。気流SR1および気流SR2は、保護ガラス54を覆うことができていない。
(2)第二吹出部228から吹き出される気流SR3の流速は気流SR1および気流SR2よりも小さい。
【0063】
図10は、比較例としてのハウジング200を用いて流体シミュレーションを行った結果を示す第三の説明図である。
図10には、ハウジング200の断面視での圧力分布が示されている。シミュレーション結果における圧力分布の表示方法は、
図6と同様であるので説明を省略する。
【0064】
図10に示すように、シミュレーション結果によれば、ハウジング200の内部空間には、正圧を示す範囲PP1,PP2と、負圧を示す範囲PN1,PN2と、が存在することを確認できた。範囲PP1の正圧は、第一吹出部220および第三吹出部223から吹き出される気流SR1,SR2によって発生している。範囲PP2の正圧と、範囲PN1,PN2の負圧とは、
図8で示したようにハウジング200の内部空間で不均一に発生する気流SR1,SR2に起因して発生したと推測される。
図10に示す範囲PN1,PN2のように、ハウジング200の内部空間に発生した負圧は、スパッタやヒュームなどの異物を吸い込み、保護ガラス54へと異物を衝突させる要因となり得る。また、
図9で示したように、気流SR3の流速が小さいことから、異物がハウジング200の内部空間に進入することを抑制または防止することが難しい。
【0065】
図11は、比較例としてのハウジング200を備えたレーザ溶接装置と、本実施形態に係るレーザ溶接装置100との焦点位置ずれ量の評価結果を示す説明図である。
図11に示すグラフにおいて、縦軸は焦点位置ずれ量(単位:mm)を示し、横軸はレーザ溶接装置の稼働日数を示している。
図11に示すグラフGRは、比較例としてのハウジング200を備えるレーザ溶接装置による評価結果を示し、グラフG1は、本実施形態のレーザ溶接装置100による評価結果を示している。焦点距離のずれは、上述したように、熱レンズ効果により発生し得る。すなわち、保護ガラス54に対する異物の付着量が多いほど焦点距離のずれ量は大きくなり得る。
【0066】
焦点位置のずれ量は、例えば、レーザ光のワークWKからの反射光の強度を測定することで導出することができる。具体的には、測定の開始位置として予め定められた焦点距離でワークWKにレーザ光を照射して反射光の強度を測定するとともに、焦点距離を所定の間隔でずらしながらワークWKからの反射光の強度を測定する。反射光の強度がピークになる位置が現在の焦点距離を示す。そのため、検出したピーク強度が得られた焦点距離と、予め定められた基準位置とのずれ量との差分を求めることにより、焦点位置のずれ量を算出することができる。
【0067】
図11に示す閾値TRは、レーザ溶接装置100に要求される焦点位置ずれ量の許容上限値である。焦点位置ずれ量が閾値TR以上となると保護ガラス54の交換が必要になる。グラフGRで示すように、比較例としてのハウジング200では、稼働日数に対する焦点位置のずれ量の増加の傾きが大きい。これは、保護ガラス54に異物が付着する速度が速いことを意味する。ハウジング200では、稼働日数が4日に到達した時点で焦点位置のずれ量が閾値TRを超えている。これに対して、本実施形態のレーザ溶接装置100では、グラフG1で示すように、稼働日数が10日に到達した時点で焦点距離のずれ量が閾値TRを超えている。すなわち、
図11に示す実験結果によれば、本実施形態のレーザ溶接装置100は、比較例としてのハウジング200を備える場合と比較して、スパッタやヒュームなどの異物が保護ガラス54に付着する速度を低減できていることが分かる。具体的には、本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、比較例としてのハウジング200を備える場合と比較して、保護ガラス54の交換頻度を2.5分の1にまで下げられることが分かる。
【0068】
以上、説明したように、本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、ハウジング70は、第一開口端部70Tの内側の全周に亘って設けられ、ハウジング70の中心軸AXに向かって空気を吹き出すための第一吹出部720を備えている。第一吹出部720を介して第一開口端部70Tの内側の全周からハウジング70の内部空間SPに向かって空気が吹き出される。したがって、ハウジング70の内部空間SPにおいて保護ガラス54を覆う気流を発生させることができ、スパッタやヒュームなどの異物がハウジング70の内部空間SPに進入した場合であっても保護ガラス54への衝突を抑制または防止できる。内部空間SPの周縁部の全体に亘って略均一な流速の気流を発生させることができる。この結果、ハウジング70の内部空間SPにおいて気圧を安定させることができ、内部空間SPに異物が導かれることを抑制または防止することができる。
【0069】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、ハウジング70の内部の全周に亘って設けられ、空気を第一吹出部720へと供給するための第一供給路722を備える。したがって、ハウジング70を利用して効率良く第一吹出部720に空気を導くための流路を設けることができる。
【0070】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、ハウジング70は、さらに、ハウジング70における複数の位置から第一供給路722に空気を導入するための4つの第一気体導入口74を備える。第一供給路722に対して複数の位置から空気を導入することにより、単数の第一気体導入口74から第一供給路722に空気が導入される場合に比べて、第一供給路722の圧力ばらつきを抑制することができる。
【0071】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第一供給路722は、空気を分流させるための複数の分流部を備えている。したがって、ハウジング70の内部に、溝状の流路や管路を設ける場合と比較して簡易な構造により、空気を所望の方向に導くことができる。
【0072】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第一供給路722には、複数の第一気体導入口74のそれぞれの近傍に設けられる第一分流部721と、複数の第一気体導入口74のうち一の第一気体導入口74Aと、第一気体導入口74Aに隣接する他の第一気体導入口74Bとの間に設けられる第二分流部723とが設けられている。第一分流部721は、複数の第一気体導入口74から導入される気体をハウジング70の周方向DRに向かって流動させる。したがって、第一気体導入口74から第一供給路722に導入された空気を、周方向DRに向かって流動させることができる。周方向DRに向かって流動する空気は、隣接する第一気体導入口74A,74Bから導入される空気同士で衝突させることができ、第二分流部723によって拡散できる。したがって、本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、例えば、第一分流部721および第二分流部723が備えられない場合と比較して、第一供給路722を流動する空気の圧力や流速を分散させて均一化することができる。
【0073】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第一供給路722は、さらに、第一分流部721と第二分流部723との間かつ第一供給路722と第一吹出部720との境界に設けられる第三分流部725を備えている。隣接する第一気体導入口74A,74Bから導入される空気同士が衝突し第二分流部723によって拡散された空気を、さらに分散させたうえで第一吹出部720へと送り込むことができる。したがって、第三分流部725を備えない場合と比較して、第一吹出部720から吹き出される空気の圧力や流速を、第一開口端部70Tの周縁部全体で均一化することができる。
【0074】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第一吹出部720は、ハウジング70の中心軸AXにおいて第二開口端部70Bから第一吹出部720までの距離の50%以上80%以下のいずれかの位置に向かって気体を吹き出すように傾斜されている。したがって、第一吹出部720から吹き出される気流を傾斜させた状態で中心軸AX上において互いに衝突させるとともに、衝突後の気流を第二開口端部70Bに向かって流動させることができる。したがって、ハウジング70の内部空間SPに局所的な負圧が発生することを抑制することができる。
【0075】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第一吹出部720は、ハウジング70の中心軸AXにおいて第二開口端部70Bから第一吹出部720までの距離の70%の位置PTに向かって気体を吹き出すように傾斜されている。したがって、ハウジング70の内部空間SPに局所的な負圧が発生することをより確実に抑制することができる。
【0076】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、ハウジング70は、さらに、第二開口端部70Bの全周に亘って設けられ、第二開口端部70Bから中心軸AXに向かう方向成分および第二開口端部70Bからレーザスキャナ50とは逆側に向かう方向成分で規定される方向F10に向かって気体を吹き出すための第二吹出部728を備えている。第二吹出部728から吹き出される空気により、ハウジング70の内部空間SPを覆うことができ、スパッタやヒュームなどの異物がハウジング70の内部空間SPに進入することを抑制または防止することができる。また、第二開口端部70Bの周縁部の全体から略均一な流速の気流を発生させることができる。この結果、ハウジング70の内部空間SP近傍の気圧を安定させ、ハウジング70の内部空間SPの気流が乱されることを抑制することができる。
【0077】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、ハウジング70は、さらに、ハウジング70の内部の全周に亘って設けられ、空気を第二吹出部728へと供給するための第二供給路726を備えている。したがって、ハウジング70を利用して効率良く第二吹出部728に空気を導くための流路を設けることができる。
【0078】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、ハウジング70は、さらに、ハウジング70における複数の位置から第二供給路726に気体を導入するための4つの第二気体導入口76を備えている。第二供給路726に対して複数の位置から空気を導入することにより、単数の第二気体導入口から第二供給路726に空気が導入される場合に比べて、第二供給路726の圧力ばらつきを抑制することができる。
【0079】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第二供給路726は、複数の第二気体導入口76のそれぞれの近傍に設けられ、複数の第二気体導入口76から導入される気体をハウジング70の周方向DRに向かって流動させるための第四分流部727と、複数の第二気体導入口76のうち一の第二気体導入口76Aと、第二気体導入口76Aに隣接する他の第二気体導入口76Bとの間に設けられる第五分流部729と、を備えている。第四分流部727により、第二気体導入口76から第二供給路726に導入された空気を、周方向DRに向かって流動させることができる。また、周方向DRに向かって流動する空気同士を衝突させて、第五分流部729によって拡散することができる。したがって、本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第四分流部727および第五分流部729が備えられない場合と比較して、第二供給路726を流動する空気の圧力や流速を安定させることができる。
【0080】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第二吹出部728の開口面積は、第一吹出部720の開口面積よりも小さい。第二吹出部728から吹き出される気流を、第一吹出部720から吹き出される気流よりも高速高圧とすることで、ハウジング70の内部空間SPを高速高圧の気流AR12の気流で覆うことができる。これにより、スパッタやヒュームなどの異物がハウジング70の内部空間SPに進入することをより確実に抑制または防止することができる。
【0081】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、ハウジング70の第二開口端部70Bから離間して設けられ、レーザ光の光路LZに交差する向きに気流を発生させる第一気流発生部62を備えている。ワークWKの加工点W0から飛散するスパッタを第一気流発生部62からの気流によって押し流すことができ、スパッタがレーザスキャナ50に到達することを抑制または防止することができる。
【0082】
本実施形態のレーザ溶接装置100によれば、第一気流発生部62は、ハウジング70の中心軸AXに沿った長さL1以上の距離L2だけハウジング70の第二開口端部70Bから離間させて設けられている。これにより、ハウジング70の内部空間SPに発生させた気流が第一気流発生部62から吹き出される気流により乱されることを抑制することができる。
【0083】
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態では、レーザ加工機の一例としてレーザ溶接装置100を用いて説明した。これに対して、レーザ加工機は、レーザ溶接装置100には限らず、レーザによる切断、穴開け、マーキングなどの種々の用途のレーザ加工機であってよい。
【0084】
(B2)上記実施形態では、ハウジング70と、レーザスキャナ50とが別体である例を示した。これに対して、ハウジング70とレーザスキャナ50とが、例えば、一つの筐体として一体的に形成されていてもよい。この場合において、ハウジング70の第一開口端部70Tは、例えば、保護ガラス54と、ハウジング70の内部空間SPとの境界とすることができる。
【0085】
(B3)上記実施形態では、ハウジング70は、第一気体導入口74と、第一供給路722と、第一吹出部720とともに、第二気体導入口76、第二供給路726、ならびに第二吹出部728を備える例が示されている。これに対して、例えば、第一気体導入口74と、第一供給路722と、第一吹出部720とによって保護ガラス54への異物の付着を充分に抑制できるような場合には、第二気体導入口76、第二供給路726、ならびに第二吹出部728は省略することもできる。
【0086】
(B4)上記第1実施形態では、第一供給路722および第二供給路726には、複数の分流部が形成されている例を示した。これに対して、第一供給路722および第二供給路726には分流部が備えられなくてもよい。また、第一供給路722および第二供給路726が上述した空気の流動経路に沿った溝状で形成されてもよい。このように構成されたレーザ溶接装置100によれば、第一供給路722および第二供給路726に供給された気体を、第一吹出部720の所望の位置に導くことが容易となる。
【0087】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
20…ロボット制御部、30…レーザ発振器、40…ロボット、50…レーザスキャナ、52…ミラー、54…保護ガラス、58…出射口、60…エア供給ユニット、62…第一気流発生部、64…第二気流発生部、70…ハウジング、70B…第二開口端部、70T…第一開口端部、74,74A,74B…第一気体導入口、76,76A,76B…第二気体導入口、100…レーザ溶接装置、200…ハウジング、200B…第二開口端部、200T…第一開口端部、220,220A,220B,220T…第一吹出部、222…第一供給路、223…第三吹出部、224…隔壁、226…第二供給路、228…第二吹出部、230,230A,230B…第一気体導入口、720…第一吹出部、720A…上面、720B…下面、721…第一分流部、722…第一供給路、723…第二分流部、724…隔壁、725…第三分流部、726…第二供給路、727…第四分流部、728…第二吹出部、728A…上面、728B…下面、729…第五分流部、AR1,AR11,AR12,AR2,AR3…気流、AX,AX2…中心軸、DR…周方向、DX…軸方向、LZ…光路、SP…内部空間、SR1~SR3…気流、ST…ステージ、W0…加工点、WK…ワーク