(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ガス容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16J 12/00 20060101AFI20241008BHJP
F17C 11/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F16J12/00 Z
F17C11/00 C
F17C11/00 A
(21)【出願番号】P 2022044382
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2024-03-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/水素貯蔵効率向上に向けた水素タンクの研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】本郷 博昭
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-307949(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0066320(US,A1)
【文献】特開2009-002370(JP,A)
【文献】特開2012-132562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 12/00- 13/24
F17C 1/00- 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する容器本体と、
前記容器本体の外部と前記内部空間とを連絡する口金と、
前記内部空間に配置され、熱伝導材製の区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす収容部材と、
前記副空間に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材と、を有するガス容器を製造する方法であって、
前記貯蔵材の粉末が固められてなり前記副空間と同じ形状をなす貯蔵材ペレットを、前記収容部材の前記副空間に挿入し固定する組み付け工程を有し、
前記組み付け工程は、
前記貯蔵材ペレットの外周面と、前記区画壁における前記副空間側面と、の一方に、第1接着剤層を形成し、他方に、前記第1接着剤層よりも低粘度の第2接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記貯蔵材ペレットを前記副空間に挿入する挿入工程と、を有する、ガス容器の製造方法。
【請求項2】
内部空間を有する容器本体と、
前記容器本体の外部と前記内部空間とを連絡する口金と、
前記内部空間に配置され、熱伝導材製の区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす収容部材と、
前記副空間に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材と、を有するガス容器を製造する方法であって、
前記貯蔵材の粉末が固められてなり前記副空間と同じ形状をなす貯蔵材ペレットを、前記収容部材の前記副空間に挿入し固定する組み付け工程を有し、
前記組み付け工程は、
前記貯蔵材ペレットの外周面と、前記区画壁における前記副空間側面と、の一方に、第1接着剤層と、前記第1接着剤層よりも低粘度でありかつ前記第1接着剤層よりも挿入方向の先側に位置する第2接着剤層と、を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記貯蔵材ペレットを前記副空間に挿入する挿入工程と、を有する、ガス容器の製造方法。
【請求項3】
前記区画壁のうち、前記副空間側かつ前記挿入工程における挿入開始側に位置する端部に、リング溝状のプール部を設ける、請求項1または請求項2に記載のガス容器の製造方法。
【請求項4】
前記貯蔵材ペレットの外周面に前記第1接着剤層を形成し、前記区画壁における前記副空間側面であり前記プール部を含む領域に前記第2接着剤層を形成する、請求項1を引用する請求項3に記載のガス容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスなどのガスを貯蔵および放出するためのガス容器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両や各種装置の燃料として、水素ガスや天然ガス等を用いる技術が提案されている。これらのガスを貯蔵および放出するためのガス容器についても盛んに検討がなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に紹介されているガス容器は、その内部空間に、貯蔵材の一種である水素吸蔵合金を収容するものである。
貯蔵材は、貯蔵の対象となるガス(以下、必要に応じて充填ガスと称する)を物理的または化学的に吸蔵し、および、放出する。これら貯蔵材によると、内部空間に貯蔵可能なガスの量を増大させることができる。
【0004】
一方、貯蔵材は、充填ガスを吸蔵および放出する際に温度変化を伴う。
【0005】
例えば、特許文献1に紹介されているように、貯蔵材が水素吸蔵合金であれば、温度変化により貯蔵材の体積変化が生じる。このような場合、貯蔵材の温度変化量やその速度、すなわち貯蔵材の体積変化量やその速度が過大になると、ガス容器に変形等の機械強度の低下が生じる虞がある。
【0006】
さらに、一般的な貯蔵材による充填ガスの吸蔵および放出には温度変化が伴うため、当該貯蔵材が温度変化すると貯蔵材による充填ガスの吸蔵または放出が生じる。
従って、貯蔵材への充填ガスの吸蔵、および、当該貯蔵材からの充填ガスの放出を円滑に行うためには、貯蔵材の温度を内部空間全体にわたって均一化することが肝要と考えられる。
【0007】
特許文献1に紹介されているガス容器における内部空間には、熱交換媒体の通路である熱媒管と、当該熱媒管から延出するフィン部とが配置されている。
当該ガス容器によると、熱媒管に熱交換媒体を流通させることで、内部空間内のガス貯蔵材の温度を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、既述したように、上記特許文献1に紹介されているガス容器では、熱媒管に熱交換媒体を流通させることで内部空間内のガス貯蔵材の温度を制御している。
しかし、この種のガス容器であっても、充填ガスの貯蔵放出性能に優れるとは言い難い。
【0010】
本発明の発明者は、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させるべく、当該特許文献1に紹介されているような従来型のガス容器では充分な充填ガスの貯蔵放出性能が得られない理由を検討した。そして、鋭意研究の結果、当該従来型のガス容器においては、内部空間で依然として温度のムラが生じており、これにより、従来型のガス容器における貯蔵材では、充填ガスの吸蔵放出量や速度が頭打ちになっているという着想を得た。
【0011】
本発明の発明者はさらなる鋭意研究を重ね、上記した内部空間における当該温度のムラを解消または緩和するために、内部空間にハニカム形状の収容部材を配置することに到達した。当該収容部材は、熱伝導材製の区画壁により区画形成された複数の副空間を有し、当該副空間には貯蔵材が収容保持される。
【0012】
当該収容部材における区画壁は、熱伝導材製であるため熱交換器として機能する。そして当該収容部材は、当該区画壁が張り巡らされることにより熱的に均一化され、当該区画壁により区画形成された副空間に収容保持された貯蔵材もまた熱的に均一化される。
これにより、当該ハニカム形状の収容部材を有するガス容器によると、充填ガスの貯蔵放出性能の向上を実現し得ると考えられる。
【0013】
しかしこの種のガス容器を製造する工程は非常に煩雑であり、また、この種のガス容器において収容部材の各副空間に充分な量の貯蔵材を収容保持させることもまた困難であった。
【0014】
すなわち、ハニカム形状の収容部材は数多くの副空間を有するものであり、各々の副空間は比較的小径なものである。このため、例えば貯蔵材として一次粒子や当該一次粒子が凝集した二次粒子からなる粉末を用いる場合には、比較的小径かつ多数の副空間の各々に、当該貯蔵材の粉末を直接充填する必要がある。
しかし、貯蔵材の粉末を副空間に充填する工程は非常に煩雑であるとともに、充分な量の貯蔵材の粉末を副空間に充填すること自体が非常に困難である。また、このような製造方法によると、各副空間への貯蔵材の充填量がばらつく問題が生じ易い。さらには、粉末状の貯蔵材は取り扱い性に劣る問題もある。
【0015】
このため本願発明者は、上記した貯蔵材の粉末にかえて、貯蔵材の粉末を副空間と同じ形状に固めた貯蔵材ペレットを予め準備し、当該貯蔵材ペレットを各副空間に挿入することを志向した。この場合には、貯蔵材の取り扱い性が向上するために、貯蔵材の粉末を直接充填する場合に比べてガス容器の製造工程を簡略化でき、かつ、各副空間に対する貯蔵材の充填量を増大させ、かつ、当該充填量のばらつきを低減することが可能になると考えられる。
【0016】
しかし実際にこの種のガス容器を製造すると、貯蔵材ペレットを副空間に挿入する際に貯蔵材ペレットと区画壁とが擦れ合うことで、当該貯蔵材ペレットの表面が削れて、ガス容器の内部空間に収容保持される貯蔵材の総量が予定量に満たなくなる問題が生じる。
【0017】
さらには、この種のガス容器を例えば自動車等の燃料容器として用いる場合には、貯蔵材ペレットが副空間を区画形成する区画壁に対して安定的に固定されていないと、走行時の振動により貯蔵材ペレットと区画壁とが擦れ合い、貯蔵材ペレットの表面が削れてしまう問題が生じる。この場合、貯蔵材ペレットから脱落した貯蔵材がガス容器の外部に漏出してしまうと、ガス容器の内部空間に収容保持される貯蔵材の総量が予定量に満たなくなる問題が生じる。
【0018】
このため、単に貯蔵材ペレットを用いるだけでは、ガス容器の内部空間に充分な量の貯蔵材を収容保持し難く、この場合にも、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させることは困難であった。
【0019】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させ得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決する本発明のガス容器の製造方法の第1態様は、
内部空間を有する容器本体と、
前記容器本体の外部と前記内部空間とを連絡する口金と、
前記内部空間に配置され、熱伝導材製の区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす収容部材と、
前記副空間に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材と、を有するガス容器を製造する方法であって、
前記貯蔵材の粉末が固められてなり前記副空間と同じ形状をなす貯蔵材ペレットを、前記収容部材の前記副空間に挿入し固定する組み付け工程を有し、
前記組み付け工程は、
前記貯蔵材ペレットの外周面と、前記区画壁における前記副空間側面と、の一方に、第1接着剤層を形成し、他方に、前記第1接着剤層よりも低粘度の第2接着剤層を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記貯蔵材ペレットを前記副空間に挿入する挿入工程と、を有する、ガス容器の製造方法である。
【0021】
上記課題を解決する本発明のガス容器の製造方法の第2態様は、
内部空間を有する容器本体と、
前記容器本体の外部と前記内部空間とを連絡する口金と、
前記内部空間に配置され、熱伝導材製の区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす収容部材と、
前記副空間に収容保持され充填ガスを吸蔵および放出する貯蔵材と、を有するガス容器を製造する方法であって、
前記貯蔵材の粉末が固められてなり前記副空間と同じ形状をなす貯蔵材ペレットを、前記収容部材の前記副空間に挿入し固定する組み付け工程を有し、
前記組み付け工程は、
前記貯蔵材ペレットの外周面と、前記区画壁における前記副空間側面と、の一方に、第1接着剤層と、前記第1接着剤層よりも低粘度でありかつ前記第1接着剤層よりも挿入方向の先側に位置する第2接着剤層と、を形成する接着剤層形成工程と、
前記接着剤層形成工程後に、前記貯蔵材ペレットを前記副空間に挿入する挿入工程と、を有する、ガス容器の製造方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1のガス容器を模式的に説明する説明図である。
【
図2】実施例1のガス容器の軸方向断面を模式的に表す説明図である。
【
図3】実施例1のガス容器における要部を分解した様子を模式的に説明する説明図である。
【
図4】実施例1のガス容器における収容部材を模式的に説明する説明図である。
【
図5】実施例1の製造方法における接着剤層形成工程を模式的に表す説明図である。
【
図6】実施例1の製造方法における挿入工程を模式的に表す説明図である。
【
図7】実施例1の製造方法における挿入工程を模式的に表す説明図である。
【
図8】実施例1の製造方法における挿入工程を模式的に表す説明図である。
【
図9】実施例2の製造方法における接着剤層形成工程を模式的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のガス容器の製造方法は、既述したハニカム形状の収容部材を有するガス容器を製造方法であり、当該収容部材の副空間に貯蔵材ペレットを挿入し固定する組み付け工程を有する。
【0025】
本発明の第1態様のガス容器の製造方法においては、当該組み付け工程が、下記(1-1)の接着剤層形成工程、および、下記(1-2)の挿入工程、の2工程を有する。
(1-1)貯蔵材ペレットの外周面と、区画壁における副空間側面と、の一方に、第1接着剤層を形成し、他方に、当該第1接着剤層よりも低粘度の第2接着剤層を形成する接着剤層形成工程、
(1-2)上記した(1-1)接着剤層形成工程後に、貯蔵材ペレットを副空間に挿入する挿入工程。
【0026】
また、本発明の第2態様のガス容器の製造方法においては、当該組み付け工程が、下記(2-1)の接着剤層形成工程、および、下記(2-2)の挿入工程、の2工程を有する。
(2-1)貯蔵材ペレットの外周面と、区画壁における副空間側面と、の一方に、第1接着剤層と、当該第1接着剤よりも低粘度でありかつ当該第1接着剤層よりも挿入方向の先側に位置する第2接着剤層と、を形成する接着剤層形成工程、
(2-2)上記した(2-1)接着剤層形成工程後に、貯蔵材ペレットを副空間に挿入する挿入工程。
【0027】
以下、必要に応じて、本発明の第1態様のガス容器の製造方法を第1製造方法と称し、本発明の第2態様のガス容器の製造方法を第2製造方法と称する場合がある。また、貯蔵材ペレットの外周面をペレット外周面と称し、区画壁における副空間側面を区画内周面と称する場合がある。
【0028】
上記のように、本発明の第1製造方法は、(1-1)接着剤層形成工程を有し、本発明の第2製造方法は(2-1)接着剤層形成工程を有する。
【0029】
(1-1)接着剤層形成工程および(2-1)接着剤層形成工程では、何れも、第1接着剤層および第2接着剤層を形成する。
第1接着剤層および第2接着剤層は接着剤の層であり、ペレット外周面と区画内周面とを接着する機能を有する。このため、組み付け工程を経て得られたガス容器において、収容部材と貯蔵材とは接着され一体化される。
【0030】
ここで、貯蔵材を収容部材に対して接着し当該収容部材に安定的に保持するためには、ペレット外周面と区画内周面との隙間をあまり大きくしないのが良いと考えられる。この場合には、狭い隙間に接着剤を満たす必要がある。
【0031】
しかし接着剤は比較的粘度が高いため、ペレット外周面及び/又は区画内周面との摩擦抵抗が比較的大きく、均一に塗り広げ難い。このため、ペレット外周面と区画内周面との狭い隙間に接着剤を均一に行き渡らせるのは容易ではない。
【0032】
ペレット外周面と、区画内周面との隙間に接着剤が行き渡らない場合には、接着剤層が硬化した層(硬化接着層と称する)の内部に空気が巻き込まれる虞がある。この場合には、硬化接着層と相手材(つまりペレット外周面、及び/又は、区画内周面)との接着面積が低下したり、硬化接着層自体の強度低下が生じたりする可能性がある。
【0033】
したがって、ペレット外周面と区画内周面とを通常の方法で単に接着するだけでは、貯蔵材を収容部材に安定して接着一体化し難い問題がある。
【0034】
本発明の第1製造方法および第2製造方法では、収容部材と貯蔵材とを接着するための接着剤層として、粘度の異なる2種の接着剤層、すなわち、第1接着剤層と当該第1接着剤層よりも低粘度の第2接着剤とを用いている。
これにより、第1製造方法および第2製造方法によると、貯蔵材を収容部材に安定して接着一体化することが可能である。
【0035】
具体的には、第1製造方法では、(1-1)接着剤層形成工程において、ペレット外周面と区画内周面との一方に第1接着剤層を形成し、他方に第2接着剤層を形成する。そして、(1-2)挿入工程において貯蔵材ペレットを副空間に挿入する。
【0036】
これにより、ペレットの外周面に形成された第1接着剤層(または第2接着剤層)と、区画内周面に形成された第2接着剤層(または第1接着剤層)とが互いに圧接し、第1接着剤層と第2接着剤層との境界面において、低粘度の第2接着剤層が高粘度の第1接着剤層に対して変形する。
【0037】
このため第2接着剤層は、ペレット外周面と区画内周面との間に充填される充填材として機能し、第1接着剤層は第2接着剤層を塗り広げるための押圧材として機能する。さらに第2接着剤層は第1接着剤層に対する潤滑剤としても機能し、第1接着剤層は充填材としても機能する。
【0038】
これにより、本発明の第1製造方法では、ペレット外周面と区画内周面との間に、第1接着剤層と第2接着剤層とを隙間なく充填することが可能である。その結果、貯蔵材を収容部材に安定的に接着一体化することが可能であり、ひいては、ガス容器の内部空間に充分な量の貯蔵材を収容保持することができ、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させることができる。
【0039】
一方、本発明の第2製造方法では、(2-1)接着剤層形成工程において、ペレット外周面と区画内周面との一方に、第1接着剤層および第2接着剤層を形成し、このうち第2接着剤層を第1接着剤層よりも挿入方向の先側に形成する。そして、(2-2)挿入工程において貯蔵材ペレットを副空間に挿入する。
【0040】
第2製造方法では、第1接着剤層と第2接着剤層との両方を、ペレット外周面と区画内周面との同じ側に形成するものの、低粘度の第2接着剤層を高粘度の第1接着剤層よりも挿入方向の先側に形成する。挿入方向の先側とは、挿入工程における貯蔵材ペレットの進行方向の先側と言い換えても良い。
【0041】
上記のように、低粘度の第2接着剤層を高粘度の第1接着剤層よりも挿入方向の先側に形成することにより、貯蔵材ペレットの挿入時には、挿入方向の後側にある第1接着剤により挿入方向の先側にある第2接着剤が挿入方向に押圧される。
このため、第2製造方法においても、第1製造方法と同様に、第2接着剤層がペレット外周面と区画内周面との間に充填される充填材として機能し、第1接着剤層が第2接着剤層を塗り広げるための押圧材として機能する。また、第2接着剤層が第1接着剤層に対する潤滑剤としても機能し、第1接着剤層が充填材としても機能する。
【0042】
これにより、本発明の第2製造方法によっても、ペレット外周面と区画内周面との間に、第1接着剤層と第2接着剤層とを隙間なく充填することが可能であり、その結果、貯蔵材を収容部材に安定的に接着一体化することが可能である。
したがって、本発明の第2製造方法によっても、第1製造方法と同様に、ガス容器の内部空間に充分な量の貯蔵材を収容保持することができ、ガス容器における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させることができる。
【0043】
以下、本発明の第1製造方法および第2製造方法を、その工程および構成要素毎に説明する。なお、第1製造方法および第2製造方法に共通の事項については、単に本発明の製造法として説明する場合がある。さらに、本発明の製造方法により製造されるガス容器を、本発明のガス容器と称する場合がある。
【0044】
なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x~y」は、下限x及び上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、並びに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで新たな数値範囲を構成し得る。更に、上記の何れかの数値範囲内から任意に選択した数値を新たな数値範囲の上限、下限の数値とすることができる。
【0045】
本発明の製造方法は、容器本体、口金、収容部材および貯蔵材を有するガス容器を製造する方法である。以下に、先ず、本発明の製造方法で製造する本発明のガス容器について説明する。
【0046】
〔ガス容器〕
本発明のガス容器に収容する充填ガスの種類は特に限定せず、ガス容器内における当該充填ガスの圧力もまた特に限定しないが、本発明のガス容器は、水素ガスや天然ガス等の燃料ガスを高圧で充填する所謂耐圧容器として具現化するのが特に好適である。
【0047】
本発明ガス容器の構成要素のうち、容器本体は、対象となる充填ガスを収容するための内部空間を有するものである。このような容器本体の材料としては、当該充填ガスを透過し難い所謂ガスバリア性を有する材料を選択するのが好適である。
【0048】
具体的には、容器本体の材料は、充填ガスの種類やガス容器を設置する環境等に応じて適宜適切に選択すれば良い。
【0049】
例えば充填ガスが水素ガスであれば、容器本体の材料として、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等を用いるのが好適である。容器本体の内部を、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のガスバリア性に優れる材料でコートするのも好適である。
本発明のガス容器が住宅等に設置されるものである等、ガス容器の質量が多少大きくても良い場合等には、容器本体の材料としてアルミニウムやステンレススチール等の金属材料を選択しても良い。
【0050】
容器本体の形状は特に限定しないが、例えば円筒状や正多角形筒状等の、充填ガスに因る内圧が均一に分散する形状を有するのが好適である。
【0051】
容器本体は、口金に一体成形しても良いし、口金とは別体で形成しても良い。
例えば予め形成した口金をインサートとして、容器本体をインサート成形しても良い。または、予め形成した容器本体に口金を挿入することで、両者を一体化しても良い。
容器本体外部への充填ガスの漏出を抑制するため、口金と容器本体との間には、Oリング等のシール部材を介在させるのが好適である。
【0052】
口金の材料もまた特に限定しないが、口金にはある程度の剛性が要求されるため、当該口金用の材料としてはアルミニウム、アルミニウム合金又はステンレススチール等の金属材料を選択するのが好適である。
【0053】
口金は、容器本体の外部と容器本体に設けられた内部空間とを連絡し、充填ガスの出入り口として機能する。
【0054】
口金は、一つの容器本体に対して少なくとも一つあれば良いが、一つの容器本体に対して複数あっても良い。例えば、容器本体が円筒状である場合には、容器本体における軸方向の両端部に口金を一体化しても良い。
この場合、二つの口金の双方を、充填ガスの出入口として用いても良いし、一方の口金に栓をしても良い。また、後述する実施例のように、口金の一方を充填ガスの出入口として用い、他方を熱交換媒体の流通する熱交換器として利用しても良い。
勿論、本発明のガス容器は、口金とは別の熱交換器を有しても良い。
【0055】
本発明のガス容器を耐圧容器として用いる場合、容器本体の外部を補強層で被覆するのが好適である。
【0056】
補強層は、一般的な耐圧容器同様に、樹脂を含浸した高強度繊維(所謂FRP)で構成すれば良い。高強度繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を採用すれば良く、当該高強度繊維に含浸される樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を採用すれば良い。
【0057】
補強層を形成する方法としては一般的な方法を採用すれば良く、例えば、樹脂材料を含浸させた高強度繊維を容器本体に対して巻回してヘリカル層やフープ層を形成し、さらに、樹脂材料を加熱硬化させる方法を採用し得る。または、樹脂および高強度繊維を材料とする当該ヘリカル層やフープ層をシート状に形成したものを、容器本体に貼り付け、さらに、樹脂材料を加熱硬化させる方法を採用することも可能である。
【0058】
収容部材は、容器本体の内部空間に配置される。
【0059】
収容部材は、区画壁により区画された副空間が複数配列するハニカム形状をなす。各副空間の形状は特に限定しないが、副空間に貯蔵材を収容保持する都合上、口金の延びる方向、すなわち、充填ガスの流通方向に沿って延びる柱状をなすのが好ましい。
【0060】
各々の副空間は、同一の形状であっても良いし、異なる形状であっても良いが、当該副空間を区画形成する区画壁の剛性を考慮すると、当該副空間の流路断面は、正六角形や正八角形等の正多角形状であるのが好適である。
各副空間の流路断面は、当該副空間の軸方向全体にわたって一定であっても良いし、一定でなくても良い。但し、充填ガスの圧力損失を考慮すると、副空間の軸方向長さの50%以上にわたって一定であるのが好ましく、当該軸方向長さの75%以上にわたって一定であるのがより好ましく、副空間の軸方向長さの全長にわたって一定であるのが特に好ましい。
【0061】
副空間を区画する区画壁は、副空間の形状に応じた形状であれば良い。
既述したように、区画壁は、熱伝導材製であり、熱交換器として機能する。本明細書において、熱伝導材とは、25℃の常温における熱伝導率が空気よりも高い材料を意味し、具体的には、ステンレススチール、アルミニウム、アルミナ、炭化ケイ素等に代表される各種の金属、合金、セラミックス等を挙げることができる。
【0062】
区画壁は、板状の材料を、溶着または接着等により一体化することで製造しても良いし、セラミックスの原料スラリーを押出成形および焼成等することで製造しても良い。
【0063】
本発明のガス容器において、区画壁の少なくとも一つは、隣り合う二つの副空間を連絡する連絡口を有するのが好適である。これにより隣り合う二つの副空間は、連絡口を通じて連絡し、当該二つの副空間において充填ガスは連絡口を通じて流通可能である。
【0064】
本発明のガス容器において、全ての区画壁が連絡口を有しても良いし、一部の区画壁のみが連絡口を有しても良いが、内部空間の全体を充填ガスの濃度的に均一化するためには、区画壁の多くが連絡口を有するのが好ましい。
連絡口の大きさは特に限定せず、また、当該連絡口をメッシュ等の通気材で覆っても良い。
【0065】
副空間には貯蔵材が収容保持される。本発明のガス容器においては、複数の副空間の全てに貯蔵材が収容保持されても良いし、複数の副空間の一部にのみ貯蔵材が収容保持され、残部には貯蔵材が収容保持されなくても良い。本明細書では、必要に応じて、貯蔵材を収容保持する副空間を貯蔵部と称し、貯蔵材を収容保持しない副空間を空洞部と称する。
【0066】
内部空間の全体を充填ガスの濃度的に均一化するためには、本発明のガス容器は、貯蔵材が収容保持されず、充填ガスの流路として機能する副空間、すなわち空洞部を有するのが好適である。
【0067】
空洞部と貯蔵部との存在比率や、流路断面積の比率等は特に限定しないが、充分な量の充填ガスを貯蔵および放出し、かつ、充填ガスの流路を十分に確保するためには、これらの比率に最適な範囲が存在する。
【0068】
具体的には、貯蔵部の流路断面積の平均値を100%とした場合の、空洞部の流路断面積の平均値は、10~500%の範囲内、20~200%の範囲内、または、50~150%の範囲内であるのが好適である。
【0069】
また、空洞部と貯蔵部との存在比率(数比)は、1:50~1:1の範囲内、1:15~1:2の範囲内、または1:7~1:3の範囲内であるのが好適である。
【0070】
また、貯蔵部の流路断面積の和を100%とした場合の、空洞部の流路断面積の和は、2~50%の範囲内、7~30%の範囲内、または、15~23%の範囲内であるのが好適である。
【0071】
貯蔵材は、副空間に収容保持され、充填ガスを吸蔵および放出する。このような貯蔵材としては、本発明のガス容器に貯蔵すべき充填ガスの種類に応じたものを適宜適切に選択すれば良い。
【0072】
例えば充填ガスが水素である場合、貯蔵材としては、カーボンナノチューブ等の多孔性の炭素材料、多孔性の金属錯体(所謂MOF)、ゼオライト、水素吸蔵合金、金属水素化物等を例示できる。
【0073】
本発明のガス容器において、各貯蔵材は、当該貯蔵材の粉末が固められてなる貯蔵材ペレットの状態で副空間に収容保持される。
【0074】
より具体的には、貯蔵材ペレットは、貯蔵材の粉末が架橋剤により架橋するか、またはバインダにて結着し、ペレット状に形成されたものをいう。貯蔵材の粉末とは、貯蔵材の一次粒子および二次粒子を総称したものである。
【0075】
貯蔵材ペレットの形状は、当該貯蔵材ペレットを収容保持する副空間と同型状である。なお、本明細書でいう同型状とは、略同型状を含み、具体的には、貯蔵材ペレットの体積が副空間の体積の90%以上100%以下の範囲内であることが許容される。貯蔵材ペレットの体積は、副空間の体積の95%以上であるのがより好適である。
以下、本発明の製造方法について説明する。
【0076】
〔製造方法〕
本発明の製造方法は上記した本発明のガス容器を製造する方法であって、上記した貯蔵材ペレットを、収容部材の副空間に挿入し固定する組み付け工程を有する。既述したように、組み付け工程は第1製造方法と第2製造方法とで異なるが、第1接着剤層および第2接着剤層を形成する点においては同様である。本明細書においては、先ず第1接着剤層および第2接着剤層について説明する。
【0077】
第1接着剤層および第2接着剤層は、粘度の異なる二種の接着剤層である。したがって、第1接着剤層を構成する接着剤(第1接着剤と称する)の種類、第2接着剤層を構成する接着剤(第2接着剤と称する)の種類、および第1接着剤と第2接着剤との組み合わせは特に限定されず、第1接着剤層が第2接着剤層よりも高粘度であるような組み合わせであれば良い。
【0078】
つまり、第1接着剤および第2接着剤は、要求される接着強度やガス容器の使用環境に応じて適宜適切に選択すれば良い。本発明における接着剤とは、流体状から固体状に状態変化可能であり、流体状から固体状に状態変化する際に少なくともペレット外周面と区画内周面とに固着可能な組成物を指す。
【0079】
例えば第1接着剤および第2接着剤は、挿入工程つまり副空間に貯蔵材ペレットを挿入している時点においては流体状であれば良い。そして、当該挿入工程の後には、化学反応や溶媒の気化等によって硬化することで、流体状から固体状に状態変化し、ペレット外周面および区画内周面に固着できれば良い。ここでいう流体状とは流動可能である状態を指し、液状、ゲル状、ゾル状、スラリー状等を含む概念である。
【0080】
第1接着剤および第2接着剤として、具体的には、反応系接着剤、溶剤系接着剤、エマルジョン系接着剤、ホットメルト系接着剤、合成ゴム系接着剤等を例示することができる。
【0081】
第1接着剤および第2接着剤の粘度は、種々の方法によって調整できる。例えば、第1接着剤や第2接着剤に含まれるオリゴマー、ポリマー等の樹脂構成成分の分子量を適宜設定することにより、粘度調整することもできる。一般に、低分子量の樹脂構成成分は高分子量の樹脂構成成分に比べて粘度が低いとされている。
【0082】
或いは、第1接着剤や第2接着剤に各種のフィラーを配合することで接着剤の粘度を調整することもできる。
さらには、フィラーの種類や量を適宜設定することによって第1接着剤や第2接着剤の粘度を調整することも可能である。フィラーの種類や粒径等にもよるが、小径のフィラーを用いる場合であれば、一般には、フィラーの配合量が多い程、接着剤の粘度が高まるとされている。
【0083】
第1接着剤や第2接着剤が溶剤系接着剤やエマルジョン系接着剤であれば、溶媒や分散媒の配合割合(つまり接着剤の固形分濃度)を適宜調整することによって、接着剤の粘度を調整することもできる。固形分濃度が高い程、接着剤の粘度が高まる。さらに、主剤と硬化剤との混合比や主剤および/または硬化剤の種類を適宜変更することによっても、第1接着剤や第2接着剤の粘度を調整し得る。このような場合には、第1接着剤層および第2接着剤層の組成は、実質的にほぼ同じになる。
以下、第1製造方法方と第2製造方法とに場合分けして、本発明の製造方法を説明する。
【0084】
〔第1製造方法〕
第1製造方法は、既述したように(1-1)接着剤層形成工程と、(1-2)挿入工程とを有する。
(1-1)接着剤層形成工程
(1-1)接着剤層形成工程においては、ペレット外周面と区画内周面との一方に第1接着剤層を形成し、他方に第2接着剤層を形成する。第1接着剤層および第2接着剤層については上記したとおりである。
【0085】
第1接着剤層および第2接着剤層は、ペレット外周面と区画内周面との何れに形成しても良い。
また第1接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面の周方向の一部にのみ形成しても良いし、周方向の全周にわたって形成しても良い。同様に、第2接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面の周方向の一部にのみ形成しても良いし、周方向の全周にわたって形成しても良い。
【0086】
貯蔵材ペレットと収容部材とを強固に一体化するためには、第1接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面の周方向の全周にわたって形成するのが好ましく、同様に、第2接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面の周方向の全周にわたって形成するのが好ましい。
【0087】
また、接着剤層形成工程を容易に行うためには、第1接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面のうち、軸方向の一部にのみ形成するのが好適であり、第2接着剤層もまた同様である。なお、(1-1)接着剤層形成工程においても、既述した第2製造方法の(2-1)接着剤層形成工程と同様に、第2接着剤層を第1接着剤層よりも挿入方向の先側に形成するのがより好ましい。
【0088】
第1接着剤層の量および第2接着剤層の量は特に限定しないが、既述したように第2接着剤層はペレット外周面と区画内周面との間に充填される充填材として機能し、第1接着剤層は第2接着剤層を塗り広げるための押圧材として機能するものであるために、第1接着剤層の量を第2接着剤層の量よりも多くするのがより好適である。
【0089】
第1接着剤層および第2接着剤層を形成する方法は特に限定されず、如何なる方法を採用しても良い。例えば、第1接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面に第1接着剤を塗布することによって形成しても良い。また、例えば第1接着剤層が熱可塑性樹脂製であれば、予め、ペレット外周面または区画内周面に沿ったリング状等に成形しておいた第1接着剤を、ペレット外周面または区画内周面に装着し、これを加熱することで流体状の第1接着剤層を形成しても良い。第2接着剤層についても同様である。
【0090】
(1-2)挿入工程
(1-2)挿入工程は、上記の(1-1)接着剤層形成工程後に、貯蔵材ペレットを副空間に挿入する工程である。(1-2)挿入工程は、(1-1)後に行えば良く、より具体的には、第1接着剤層および第2接着剤層が硬化せず流動状態であるときに行えば良い。なお第1接着剤層や第2接着剤層が熱可塑性樹脂製であれば、一旦硬化した第1接着剤層や第2接着剤層を、(1-2)挿入工程前に加熱し軟化させても良い。
【0091】
〔第2製造方法〕
第2製造方法は、既述した(2-1)接着剤層形成工程と、(2-2)挿入工程とを有する。このうち(2-2)挿入工程については(2-1)挿入工程と同様に行えば良いために割愛する。
【0092】
(2-1)接着剤層形成工程
(2-1)接着剤層形成工程においては、ペレット外周面と区画内周面との一方に第1接着剤層および第2接着剤層を形成する。このうち、第2接着剤層を、第1接着剤層よりも挿入方向の先側に形成する。第1接着剤層および第2接着剤層については上記したとおりである。
【0093】
ペレット外周面と区画内周面との他方、すなわち、第1接着剤層および第2接着剤層を形成していない方の面には、接着剤層を形成しなくても良いし、場合によっては、第2接着剤層を形成しても良い。
【0094】
(2-1)接着剤層形成工程においても、(1-1)接着剤層形成工程と同様に、第1接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面の周方向の一部にのみ形成しても良いし、周方向の全周にわたって形成しても良い。同様に、第2接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面の周方向の一部にのみ形成しても良いし、周方向の全周にわたって形成しても良い。さらには、第1接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面の周方向の全周にわたって形成するのが好ましく、同様に、第2接着剤層は、ペレット外周面または区画内周面の周方向の全周にわたって形成するのが好ましい。
【0095】
ここで、接着剤層形成工程を容易に行うためには、第1接着剤層および第2接着剤層は、ペレット外周面に形成するのが好適であり、当該ペレット外周面のうち挿入方向の先側部分に形成するのが特に好適である。
【0096】
本発明の製造方法において、区画壁の形状として好適な形状がある。
具体的には、区画壁のうち、副空間側かつ挿入工程における挿入開始側に位置する端部に、リング溝状のプール部を設けるのが好適である。プール部は、副空間の径方向外側に向けて凹み、かつ、挿入開始側および径方向内側に開口するともいい得る。
【0097】
先ず、本発明の第2製造方法において、貯蔵材ペレットのペレット外周面に第1接着剤層および第2接着剤層を形成し、かつ、区画壁にプール部がある態様について説明する。
【0098】
プール部は、区画壁のうち挿入工程における挿入開始側、換言すると、区画壁のうち既述した挿入方向の後側に位置する。したがって、当該態様の第2製造方法において、貯蔵材ペレットを副空間に挿入する際には、先ず、当該貯蔵材ペレットは区画壁のプール部を通過する。
【0099】
プール部は、上記したように段差状をなすために、副空間の孔径、すなわち対向する区画壁間の距離は、プール部において、当該プール部よりも挿入方向の先側部分よりも広い。このようなプール部には、接着剤層の一部を貯留する機能がある。貯蔵材ペレットのペレット外周面における挿入方向の先側には、第2接着剤層が形成されているため、プール部には当該第2接着剤層が貯留される。
【0100】
プール部に貯留された第2接着剤層は、挿入工程において、第1接着剤層によって挿入方向の先側に徐々に押し出される。このため、当該態様によると、ペレット外周面と区画内周面との隙間に第2接着剤層を均一に供給することが可能である。
【0101】
本発明の第2製造方法において、区画壁の区画内周面に第1接着剤層および第2接着剤層を形成し、かつ、区画壁にプール部がある態様について説明する。
【0102】
この態様では、接着剤層形成工程において、区画壁内周面におけるプール部を含む領域に、第2接着剤層を形成するのが良い。換言すると、この態様では、接着剤層形成工程後のプール部には、既に第1接着剤層および第2接着剤層が貯留されているのが良い。
【0103】
当該態様の第2製造方法においても、挿入工程においては、貯蔵材ペレットは、区画壁のプール部を通過し、プール部のうち挿入開始側にある第1接着剤層を挿入方向先側に向けて押圧する。挿入方向の先側に向けて押圧された第1接着剤層は、さらに挿入方向の先側にある第2接着剤層を挿入方向の先側に押圧する。
第1接着剤層は、第2接着剤層よりも高粘度であるために、第2接着剤層を塗り広げるための押圧材として機能し、プール部に貯留された第2接着剤層は、挿入方向の先側に徐々に押し出される。したがって、当該態様によっても、ペレット外周面と区画内周面との隙間に第2接着剤層を均一に供給することが可能である。
【0104】
また、この態様では、プール部における挿入開始側に貯留されている第1接着剤層によって、プール部に蓋がされるために、同じくプール部に貯留されている第2接着剤層の挿入開始側への漏出が阻害される。これにより、当該態様によると、ペレット外周面と区画内周面との隙間に充分な量の第2接着剤層を供給することが可能である。
【0105】
本発明の第1製造方法において、貯蔵材ペレットのペレット外周面に第1接着剤層を形成するとともに区画壁の区画内周面に第2接着剤層を形成し、かつ、区画壁にプール部がある態様について説明する。
【0106】
この態様でも、接着剤層形成工程において、区画壁内周面におけるプール部を含む領域に、第2接着剤層を形成するのが良い。
【0107】
当該態様の第1製造方法においては、貯蔵材ペレットのペレット外周面に形成されている第1接着剤層は、挿入工程の際に区画壁のプール部を通過し、プール部に貯留されている第2接着剤層を挿入方向先側に向けて押圧する。したがって、この態様によっても、第1接着剤層は第2接着剤層を塗り広げるための押圧材として機能し、プール部に貯留された第2接着剤層は、挿入方向の先側に徐々に押し出される。したがって、当該態様によっても、ペレット外周面と区画内周面との隙間に第2接着剤層を均一に供給することが可能である。
【0108】
さらに、この態様でも、第1接着剤層がプール部の蓋として機能し、プール部に貯留されている第2接着剤層の挿入開始側への漏出が阻害される。これにより、当該態様によっても、ペレット外周面と区画内周面との隙間に充分な量の第2接着剤層を供給することが可能である。
【0109】
以下、具体例を挙げて本発明のガス容器の製造方法を説明する。
【0110】
(実施例1)
実施例1のガス容器は、車両に搭載され、充填ガスの一種である水素ガスを貯蔵および放出するため耐圧容器である。
実施例1の製造方法は第1製造方法である。
実施例1のガス容器を模式的に説明する説明図を
図1に示す。実施例1のガス容器における要部の軸方向断面を模式的に表す説明図を
図2に示す。実施例1のガス容器における要部を分解した様子を模式的に説明する説明図を
図3に示す。実施例1のガス容器における収容部材を模式的に説明する説明図を
図4に示す。実施例1の製造方法における接着剤層形成工程を模式的に表す説明図を
図5に示す。実施例1の製造方法における挿入工程を模式的に表す説明図を
図6~
図8に示す。
以下、軸方向、径方向とは各図に示す方向を指すものとする。
【0111】
〔ガス容器〕
図1~
図3に示すように、実施例1のガス容器1は、容器本体10、口金20、口金30、補強層40、貯蔵材ペレット50、収容部材60、および、連結部70を有する。
【0112】
容器本体10は、ポリエチレン樹脂製であり、軸方向の両端部が縮径した略円筒状をなす、所謂樹脂ライナーである。
図2に示すように、略筒状をなす容器本体10の内部には、内部空間18が形成されている。
【0113】
容器本体10は、4つの分体(第1分体11、第2分体12、第3分体13、第4分体14)が溶着され一体化されたものである。当該4つの分体は容器本体10が軸方向に直交する方向に四分割されたものといい得る。
【0114】
第1分体11および第2分体12は同型の円筒状をなし、第3分体13および第4分体14は同型のドーム状をなす。
各分体は、軸方向に沿って、第3分体13、第1分体11、第2分体12、第4分体14の順に配列している。
【0115】
容器本体10の軸方向の両端部は各々開口している。当該開口の一方を第1開口部15と称し、他方を第2開口部16と称する。第1開口部15は第3分体13に設けられ、第2開口部16は第4分体14に設けられている。
第1開口部15および第2開口部16には、各々、Oリングを介して、金属製の口金20(口金20、口金30)が装着されている。
【0116】
口金20は熱交換媒体が循環する熱交換流路21を一体に有する。
口金30には、図略のバルブおよびガス供給管が取り付けられている。
口金30は、当該ガス供給管およびバルブを介して、充填ガスである水素ガスが出入りする、充填ガス出入口として機能する。なお、口金20は実質的に目詰めされ、充填ガス出入口としては機能しないが、熱交換器として機能する。
【0117】
図1に示すように、容器本体10の外面は、FPR製の補強層40で覆われている。
【0118】
図2に示すように、容器本体10の内部空間18には、収容部材60が配置されている。
【0119】
図3および
図4に示すように、収容部材60は、区画壁61によって区画された副空間62が複数配列するハニカム形状をなす。
図4に示すように、各副空間62は、軸方向に延び、径方向すなわち軸方向と直交する方向に配列している。各副空間62は同型状であり、各副空間62の径方向断面は正六角形であり、かつ、当該径方向断面は軸方向において一定である。
なお、区画壁61は、ステンレススチールの一種であるSUS316L製であり板状をなす。区画壁61の厚さは0.1mm程度である。
【0120】
図2および
図3に示すように、収容部材60の中心部は中空であり、当該中心部には筒状をなす連結部70が一体化されている。連結部70は、区画壁61と同じ材料からなり、口金20に向けて軸方向に延びている。
【0121】
図4に示すように、各副空間62には貯蔵材ペレット50が収容されている。貯蔵材は多孔性の炭素系材料であり、貯蔵材ペレット50は、当該貯蔵材が架橋剤で架橋されたペレット状をなす。貯蔵材ペレット50の形状は内部空間18の形状と概略同じである。
【0122】
以下、実施例1の製造方法を説明する。
【0123】
〔製造方法〕
〔準備工程〕
先ず、容器本体10を構成する4つの分体(第1分体11、第2分体12、第3分体13、第4分体14)を各々射出成形した。
このうち第3分体13(
図3参照)の第1開口部15に、Oリングとともに口金20を装着した。また、第4分体14の第2開口部16にも、Oリングとともに口金20を装着した。
また、区画壁61をハニカム形状になるように組み立てることで収容部材60を製造した。
【0124】
〔組み付け工程〕
組み付け工程では、収容部材60における副空間62に、貯蔵材ペレット50を挿入し、当該貯蔵材ペレット50を区画壁61に接着した。
【0125】
〔接着剤層形成工程〕
先ず、組み付け工程の接着剤層形成工程では、
図5に示すように、貯蔵材ペレット50のペレット外周面51における挿入方向aの先側部分に、第1接着剤を塗布して、第1接着剤層81を形成した。また、区画壁61の区画内周面63における挿入開始側部分、つまり、挿入方向aの後側部分に、第2接着剤を塗布して、第2接着剤層82を形成した。
【0126】
ここで、実施例1では、区画内周面63のうち挿入開始側に位置する端部に、リング溝状のプール部65が形成されている。実施例1の接着剤層形成工程においては、第2接着剤層82を、区画内周面63におけるプール部65を含む領域に形成した。
【0127】
第2接着剤は第1接着剤よりも低粘度の接着剤であり、第2接着剤層82は第1接着剤層81よりも低粘度の接着剤層である。
第1接着剤層81の厚みと第2接着剤層82の厚みとの和は、ペレット外周面51と区画内周面63との隙間の厚み、換言すると、径方向におけるペレット外周面51と区画内周面63との距離よりもやや大きい。
【0128】
〔挿入工程〕
上記した接着剤形成工程後に、第1接着剤層81を形成した貯蔵材ペレット50を、第2接着剤層82を形成した収容部材60の副空間62に挿入した。
【0129】
図6に示すように、このとき、プール部65に貯留されている第2接着剤層82に第1接着剤層81が当接した。そして貯蔵材ペレット50の挿入が進行するにつれて、第2接着剤層82は、第1接着剤層81に押圧されてプール部65の底面66および内周面67に圧接するとともに、反力によってプール部65の底面66および内周面67に押圧されて第1接着剤層81に圧接した。
【0130】
既述したように、第1接着剤層81の粘度は第2接着剤層82の粘度よりも高く、第1接着剤層81は第2接着剤層82に比べて変形し難い。したがって、
図7に示すように、このとき第2接着剤層82は、第1接着剤層81に押圧されて大きく変形し、プール部65から挿入方向aの先側に向けて押し出された。そして、
図8に示すように、当該第2接着剤層82は、ペレット外周面51と区画内周面63との隙間に充填された。
【0131】
換言すると、貯蔵材ペレット50を副空間62に挿入する際には、第1接着剤層81と第2接着剤層82とが圧接し、第1接着剤層81と第2接着剤層82との境界面において、第2接着剤層82が第1接着剤層81に対して変形する。このため第2接着剤層82は、ペレット外周面51と区画内周面63との隙間に充填される充填材として機能し、第1接着剤層81は第2接着剤層82を塗り広げるための押圧材として機能する。さらに第2接着剤層82は第1接着剤層81に対する潤滑剤としても機能し、第1接着剤層81は充填材としても機能する。
【0132】
このため、
図8に示すように、挿入工程後には、第1接着剤層81と第2接着剤層82とからなる接着剤層が、ペレット外周面51と区画内周面63との隙間に、隙間なく充填された。これにより、貯蔵材ペレット50が収容部材60に組み付けられた一体品が得られた。
【0133】
その後、口金30に対して固定した収容部材60を、第2分体12および第1分体11に挿入し、第1分体11、第2分体12および第4分体14を溶着して、一体化した。
さらに、収容部材60に一体化した連結部70を口金20接触させつつ、収容部材60を口金20に対して固定した。そして、第1分体11、第2分体12および第4分体14の一体品と第3分体13とを溶着して、容器本体10を得た。
【0134】
このようにして得られた容器本体10の表面に、FRP製の補強層40を形成し、実施例1のガス容器1を得た。
【0135】
実施例1の製造方法によると、貯蔵材ペレット50のペレット外周面51と、区画壁61の区画内周面63との間に、第1接着剤層81と第2接着剤層82とを隙間なく充填することが可能である。その結果、貯蔵材ペレット50を収容部材60に安定的に接着一体化することが可能であり、ひいては、ガス容器1の内部空間18に充分な量の貯蔵材ペレット50を収容保持することができ、ガス容器1における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させることができる。
【0136】
参考までに、実施例のガス容器1の作用について以下に説明する。
【0137】
実施例のガス容器1において、容器本体10の内部空間18には、貯蔵材ペレット50を収容保持する収容部材60が配置されている。
【0138】
収容部材60は、区画壁61が張り巡らされたハニカム構造をなし、貯蔵材ペレット50は、区画壁61の間に形成されている副空間62に収容されている。区画壁61は、熱伝導材製であり、熱交換器として機能する。このような区画壁61が存在することで、内部空間18はその全体にわたって熱的に均一化され、当該内部空間18に収容されている貯蔵材ペレット50の温度もまた均一化されている。
【0139】
さらに、区画壁61は、連結部70を介して口金20に接触し、当該口金20に熱的に連絡されている。口金20には熱交換媒体が循環する熱交換流路21が一体に設けられているため、区画壁61は当該熱交換媒体と間接的に熱交換する。
【0140】
これにより内部空間18は効率良くかつ迅速に温度調節され、当該内部空間18にある貯蔵材ペレット50もまた効率良くかつ迅速に温度調節される。したがって、実施例のガス容器1では、当該内部空間18において、貯蔵材ペレット50への充填ガスの吸蔵、および、貯蔵材ペレット50からの充填ガスの放出が円滑に行われる。
【0141】
ガス容器1において、充填ガスが図略のバルブおよび口金30を経て容器本体10の内部空間18へ供給されると、当該充填ガスは、内部空間18に配置されている収容部材60の軸方向端面69(
図2参照)を経て収容部材60の各副空間62に流入する。
【0142】
副空間62に流入した充填ガスは、当該副空間62に収容保持されている貯蔵材ペレット50の貯蔵材ペレット50に徐々に吸蔵されつつ、口金30側から口金20側に流通する。これにより、実施例1のガス容器1は、充填ガスを貯蔵する。
【0143】
(実施例2)
実施例2の製造方法は第2製造方法であり、第1接着剤層および第2接着剤層の位置以外は、実施例1の製造方法と概略同じである。実施例2のガス容器は実施例1のガス容器と概略同じものである。したがって、以下、実施例1との相違点を中心に、実施例2の製造方法を説明する。
実施例2の製造方法における接着剤層形成工程を模式的に表す説明図を
図9に示す。
【0144】
〔製造方法〕
〔接着剤層形成工程〕
実施例2の製造方法における接着剤層形成工程では、
図9に示すように、貯蔵材ペレット50のペレット外周面51における挿入方向aの先側部分に、第1接着剤層81および第2接着剤層82を形成した。また、このうち第2接着剤層82を、第1接着剤層81よりも挿入方向aの先側に配置した。
【0145】
実施例2の製造方法において、第1接着剤層81の厚みおよび第2接着剤層82の厚みは、各々、ペレット外周面51と区画内周面63との隙間の厚みよりもやや大きい。
【0146】
〔挿入工程〕
上記した接着剤形成工程後に、第1接着剤層81および第2接着剤層82を形成した貯蔵材ペレット50を、収容部材60の副空間62に挿入した。
【0147】
このとき、挿入方向aの先側に位置する第2接着剤層82が先ずプール部65に貯留され、次いで当該第2接着剤層82よりも挿入方向aの後側に位置する第1接着剤層81が当該プール部65に向けて進む。したがって、実施例2の製造方法においても、実施例1の製造方法と同様に、第2接着剤層82は、第1接着剤層81に押圧されてプール部65の底面66および内周面67に圧接するとともに、反力によってプール部65の底面66および内周面67に押圧されて第1接着剤層81に圧接した。
【0148】
そして、このとき第2接着剤層82は第1接着剤層81に押圧されて大きく変形し、プール部65から挿入方向aの先側に押し出され、ペレット外周面51と区画内周面63との隙間に充填された。
これにより、実施例2の製造方法によっても、実施例1の製造方法と同様に、第1接着剤層81と第2接着剤層82とからなる接着剤層が、ペレット外周面51と区画内周面63との隙間に、隙間なく充填された。そしてその結果、ガス容器1の内部空間18に充分な量の貯蔵材ペレット50を収容保持することができ、ガス容器1における充填ガスの貯蔵放出性能を向上させることができる。
【0149】
尚、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0150】
1:ガス容器 10:容器本体
18:内部空間 20:口金
50:貯蔵材ペレット 51:貯蔵材ペレットの外周面
60:収容部材 61:区画壁
62:副空間 63:区画壁における副空間側面
65:プール部 81:第1接着剤層
82:第2接着剤層