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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B62D25/08 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022045925
(22)【出願日】2022-03-22
(65)【公開番号】P2023140077
(43)【公開日】2023-10-04
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 優輝
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/153053(WO,A1)
【文献】特開2019-085088(JP,A)
【文献】特開2019-025999(JP,A)
【文献】特開2020-037310(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102018202616(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0394833(US,A1)
【文献】特開2021-066273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08,25/14-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方の両側部に設けられ、車両前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバと、
一対の前記フロントサイドメンバの間に取り付けられるエンコパクロスと、を備える車両前部構造であって、
前記エンコパクロスは、
各前記フロントサイドメンバの車両幅方向内側にそれぞれ取り付けられて、車両前後方向にそれぞれ延びる一対のサイドメンバと、
一対の前記サイドメンバの各前端を車両幅方向に接続するフロントクロスと、
一対の前記サイドメンバの各後端を車両幅方向に接続するリアクロスと、を備える環状部材であり、
前記リアクロスは、車両後方側に凸となるように湾曲しており、
前記フロントクロスは四角閉断面構造で、各側端部は、車両幅方向外側に向かうにつれて車両後方に向かって幅が広くなっており、車両後方側の内面に補強板が取り付けられていること、
を特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両前部構造であって、
前記リアクロスは、
車両幅方向に延びる後中央部と、
前記後中央部の両方の端部から車両前方に向かってそれぞれ湾曲し、各先端が各前記サイドメンバの延びる方向にそれぞれ延びて一対の前記サイドメンバの各前記後端にそれぞれ連結される2つの湾曲部と、を有すること、
を特徴とする車両前部構造。
【請求項3】
請求項2に記載の車両前部構造であって、
前記エンコパクロスの車両後方に設けられ、車室との隔壁を構成するダッシュパネルと、
前記車室のフロアの中央に配置され、前方端が前記ダッシュパネルに接続される上に凸の溝形断面形状のフロアトンネルパネルと、を備え、
前記フロアトンネルパネルの前記溝形断面形状は、天井板と前記天井板の両側端に接続される一対の縦板とで構成され、
前記リアクロスの各前記湾曲部は、車両後方に向かうほど車両上方にそれぞれ向かい、
前記後中央部と前記湾曲部の後端部とは、前記フロアトンネルパネルの前記前方端における前記天井板と前記縦板との稜線の高さに位置していること、
を特徴とする車両前部構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両前部構造であって、
各前記サイドメンバは、2枚のクランク状に折り曲げた板部材を組み合わせた四角閉断面構造で、各板部材は各板部材を接続するフランジが上方向又は下方向となるように組み合わせられていること、
を特徴とする車両前部構造。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の車両前部構造であって、
前記リアクロスの前記湾曲部は、他の部分よりも強度が低い低強度部を少なくとも一つ有すること、
を特徴とする車両前部構造。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載に車両前部構造であって、
前記フロントクロスは、前突の際の前記フロントサイドメンバの内折れ発生箇所と車両前後方向に重なる位置に配置されていること、
を特徴とする車両前部構造。
【請求項7】
請求項に記載の車両前部構造であって、
前記フロントサイドメンバの前記内折れ発生箇所は、前記フロントサイドメンバの車両幅方向外側で前記フロントサイドメンバの前部に取り付けられたクラッシュボックスと前記フロントサイドメンバの車両幅方向外側の面とを接続するガセット板の前記フロントサイドメンバに接続される位置であること、
を特徴とする車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントサイドメンバとエンコパクロスとを備える車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両前方のエンジンルーム、或いはフロントコンパートメントの中には、車両を駆動するエンジンやハイブリッド駆動ユニットなどが搭載されていたが、近年、ボデーのフロア下にバッテリを搭載し、車両前方の空間を積載空間とする車両が用いられている。このような前方に積載空間を有する車両の前方衝突対応性能を向上させるために、フロントサイドメンバの間に弓型に湾曲したクロスバーと、フロントサイドメンバとクロスバーとを連結する支持ブラケットを設ける構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、車体後部にバッテリと水素タンクとを搭載した車両において、耐衝撃性の向上を図るために左右のリアサイドフレームの間に車両後方に凸のU字型のフレームを取り付ける構造が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、車両前方の一対のフロントサイドメンバの間を環状の構造部材であるエンコパクロスで繋ぎ、エンコパクロスの上側にパワーコントロールユニットを搭載し、エンコパクロスの下側に車両駆動用のモータを取り付ける車両前部構造が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-95114号公報
【文献】特開2010-184574号公報
【文献】特開2020-37310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電動車両では、フロア下等に搭載するバッテリの重量の増加によりボデーの重量が増加している。このため、前突時の衝突エネルギーが増加し、衝突エネルギーの吸収量を大きくすることが求められている。一方でバリアの進入量を抑制することも求められる。
【0007】
そこで、本発明は、車両の前突時にバリアの進入量を抑制しつつ衝突エネルギーの吸収量を大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両前部構造は、車両前方の両側部に設けられ、車両前後方向に延びる一対のフロントサイドメンバと、一対の前記フロントサイドメンバの間に取り付けられるエンコパクロスと、を備える車両前部構造であって、前記エンコパクロスは、各前記フロントサイドメンバの車両幅方向内側にそれぞれ取り付けられて、車両前後方向にそれぞれ延びる一対のサイドメンバと、一対の前記サイドメンバの各前端を車両幅方向に接続するフロントクロスと、一対の前記サイドメンバの各後端を車両幅方向に接続するリアクロスと、を備える環状部材であり、前記リアクロスは、車両後方側に凸となるように湾曲しており、前記フロントクロスは四角閉断面構造で、各側端部は、車両幅方向外側に向かうにつれて車両後方に向かって幅が広くなっており、車両後方側の内面に補強板が取り付けられていること、を特徴とする。
【0009】
このように、リアクロスを車両後方側に凸となるように湾曲させることによって、エンコパクロスの車両前後方向の剛性を高くすることができる。このため、衝突の際のエンコパクロスの変形を抑制し、エンコパクロスに入力された前突の際の衝突荷重をスムースにリアクロスの後方部分に流してリアクロスの後方に配置されたダッシュパネルの強度の高い部位に衝突荷重を伝達することができる。これにより、バリアの進入量を抑制しつつ衝突エネルギーの吸収量を大きくできる。また、これにより、フロントクロスに車両幅方向内側に向かう荷重が入力された際にフロントクロスが変形することを抑制し、荷重を他方側のフロントサイドメンバにスムースに伝達することができる。
【0010】
本発明の車両前部構造において、前記リアクロスは、車両幅方向に延びる後中央部と、前記後中央部の両方の端部から車両前方に向かってそれぞれ湾曲し、各先端が各前記サイドメンバの延びる方向にそれぞれ延びて一対の前記サイドメンバの各前記後端にそれぞれ連結される2つの湾曲部と、を有してもよい。
【0011】
この構成により、リアクロスが各サイドメンバと連続する湾曲形状となるので、エンコパクロスの車両前後方向の剛性を更に高くすることができ、バリアの進入量をより抑制しつつ衝突エネルギーの吸収量をより大きくできる。
【0012】
本発明の車両前部構造において、前記エンコパクロスの車両後方に設けられ、車室との隔壁を構成するダッシュパネルと、前記車室のフロアの中央に配置され、前方端が前記ダッシュパネルに接続される上に凸の溝形断面形状のフロアトンネルパネルと、を備え、前記フロアトンネルパネルの前記溝形断面形状は、天井板と前記天井板の両側端に接続される一対の縦板とで構成され、前記リアクロスの各前記湾曲部は、車両後方に向かうほど車両上方にそれぞれ向かい、前記後中央部と前記湾曲部の後端部とは、前記フロアトンネルパネルの前記前方端における前記天井板と前記縦板との稜線の高さに位置してもよい。
【0013】
これにより、前突の際に後中央部又は湾曲部の後端部をフロアトンネルパネルの前方端における稜線に接触させることができ、衝突荷重を車両前後方向の強度の高いフロアトンネルパネルの稜線部分に伝達することができる。これにより、バリアの進入量を抑制しつつ衝突エネルギーの吸収量を大きくできる。
【0016】
本発明の車両前部構造において、各前記サイドメンバは、2枚のクランク状に折り曲げた板部材を組み合わせた四角閉断面構造で、各板部材は各板部材を接続するフランジが上方向又は下方向となるように組み合わせられてもよい。
【0017】
これにより、各サイドメンバと各フロントサイドメンバとの間に組付けの際に必要な隙間を確保することができる。
【0018】
本発明の車両前部構造において、前記リアクロスの前記湾曲部は、他の部分よりも強度が低い低強度部を少なくとも一つ有してもよい。
【0019】
これにより、湾曲部がダッシュパネルの強度の高い部分に接した際に車両前後方向に潰れることで、エンコパクロスの上側に搭載されている高電圧機器がエンコパクロスに対して相対的に車両前方に移動する。これにより、高電圧機器とリアクロスとの間に配置されている高電圧ケーブルと高電圧機器とが接触することを抑制することができる。
【0020】
本発明の車両前部構造において、前記フロントクロスは、前突の際の前記フロントサイドメンバの内折れ発生箇所と車両前後方向に重なる位置に配置されてもよい。
【0021】
これにより、一方のフロントサイドメンバに内折れが発生した際に一方のフロントサイドメンバから入力された車両幅方向内側に向かう荷重を他方のフロントサイドメンバに伝達して一方側のフロントサイドメンバの内折れを止め、一方のフロントサイドメンバに車両後方側での外折れ変形を起こさせることができる。これにより、フロントサイドメンバの三節折れを実現し、効果的に衝突エネルギーを吸収することができる。
【0022】
本発明の車両前部構造において、前記フロントサイドメンバの前記内折れ発生箇所は、前記フロントサイドメンバの車両幅方向外側で前記フロントサイドメンバの前部に取り付けられたクラッシュボックスと前記フロントサイドメンバの車両幅方向外側の面とを接続するガセット板の前記フロントサイドメンバに接続される位置でもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、車両の前突時にバリアの進入量を抑制しつつ衝突エネルギーの吸収量を大きくできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態の車両前部構造を示す斜視図である。
図2】実施形態の車両前部構造を示す平面図である。
図3】実施形態の車両前部構造を示す部分断面側面図であって、図2に示すA-A矢視である。
図4】実施形態の車両前部構造のエンコパクロスの平面図である。
図5図4に示すエンコパクロスのサイドメンバの断面図であって、図4に示すB-B断面と、サイドメンバに隣接するフロントサイドメンバの断面図である。
図6図4に示すエンコパクロスのフロントクロスの断面図であって、図4に示すC-C断面である。
図7図4に示すエンコパクロスのリアクロスの断面図であって、図4に示すD-D断面である。
図8】実施形態の車両前部構造を車両前方から見た立面図である。
図9】実施形態の車両前部構造のエンコパクロスとフロントサイドメンバとの接続部の拡大平面図である。
図10】実施形態の車両前部構造を車両前方から見た立面図であって、サスメンと、モータと、エンコパクロスと、電力制御装置と、を車両前方のフロントコンパートメントの中に搭載する工程を示す説明図である。
図11】実施形態の車両前部構造を備える車両の左側がオフセット衝突した際の車両前部構造の変形を示す平面図である。
図12】実施形態の車両前部構造を備える車両の左側がオフセット衝突した際の車両前部構造の変形を示す平面図であって、図11に示す状態よりもバリアが進入した状態を示す図である。
図13】実施形態の車両前部構造を備える車両の左側がオフセット衝突した際のエンコパクロスの変形と電力制御装置の移動を模式的に示す平面図である。
図14】対比例のエンコパクロスを備える車両の左側がオフセット衝突した際のエンコパクロスの後退を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら実施形態の車両前部構造100について説明する。各図に示す矢印FR、矢印UP、矢印RHは、車両10の前方向(進行方向)、上方向、右方向をそれぞれ示している。また、各矢印FR、UP、RHの反対方向は、車両後方向、下方向、左方向を示す。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車両幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。
【0026】
図1に示すように、実施形態の車両前部構造100は、一対のフロントサイドメンバ11L、11Rと、エンコパクロス20と、フレーム40と、ブラケット51L、51Rと、エプロン部接続ブラケット53L、53Rと、フレーム接続ブラケット52L、52Rと、を含んでいる。
【0027】
最初に図1から3を参照しながら車両前部構造100を備える車両10の全体構成について説明する。車両10は、ダッシュパネル16の前方の空間であるフロントコンパートメント10Fと、ダッシュパネル16の後方の空間である車室10Rとを備えている。図3に示すようにフロントコンパートメント10Fは内部に駆動用のモータ80と高電圧機器である電力制御装置70とを収容する。
【0028】
まず、フロントコンパートメント10Fの構成について説明する。図1、2に示すように、フロントコンパートメント10Fは、一対のフロントサイドメンバ11L、11Rと、一対のサスペンションタワー14L、14R(以下、サスタワー14L、14Rという)と、エプロン部15L、15Rと、一対のアッパメンバ13L、13Rと、ダッシュパネル16と、フロントサスペンションメンバ60(以下、サスメン60という)と、を含んでいる。左右のフロントサイドメンバ11L、11Rの間には後で説明するエンコパクロス20が取り付けられており、エンコパクロス20にはフレーム40が取り付けられている。
【0029】
フロントサイドメンバ11L、11Rは、車両10の前方のフロントコンパートメント10Fの両側部に設けられて車両前後方向に延びる閉断面の構造部材であり、先端には、それぞれクラッシュボックス12L、12Rが取り付けられている。各クラッシュボックス12L、12Rと各フロントサイドメンバ11L、11Rの車両幅方向外側の面とはガセット板11a(図2参照)で接続されている。サスタワー14L、14Rは、前輪の懸架装置の上部が取り付けられる円筒形の構造物であり、車両幅方向内側は、フロントサイドメンバ11L、11Rの車両幅方向外側に接続されている。エプロン部15L、15Rは、前輪を収容するホイールハウスのサスタワー14L、14Rの前方の部分であり、板部材で構成されている。エプロン部15L、15Rの下端部の一部はフロントサイドメンバ11L、11Rの車両幅方向外側に接続されている。アッパメンバ13L、13Rは、サスタワー14L、14Rとエプロン部15L、15Rの車両幅方向外側に接続されて車両前後方向に延びる強度部材である。アッパメンバ13L、13Rの前方は、車両下方に湾曲すると共に、車両幅方向内側に向かって湾曲してフロントサイドメンバ11L、11Rの前方の車両幅方向外側に接続されている。また、アッパメンバ13L、13Rの後部は図2に示すように、各フロントピラー17L、17Rに接続されている。ダッシュパネル16は、フロントコンパートメント10Fと車室10Rとを仕切る隔壁である。サスメン60は、フロントサイドメンバ11L、11Rの下側に取り付けられて、前輪の懸架装置が搭載される強度部材である。
【0030】
以上説明したように、フロントコンパートメント10Fは、フロントサイドメンバ11L、11Rと、アッパメンバ13L、13Rと、サスタワー14L、14Rと、エプロン部15L、15Rとで車両幅方向が規定され、下部はサスメン60で規定され、後部はダッシュパネル16で規定され、前方は、図示しないラジェータサポートで規定される空間である。図3に示すように、サスメン60の上側には、モータ80が搭載されている。モータ80は、2つの前部マウント81で前部がサスメン60に取り付けられており、モータ80の後方の後部マウント82は、フロントコンパートメント10Fの中で車両幅方向に延びる支持部材69の上に取り付けられている。また、モータ80の上部は、エンコパクロス20の内周の空間を貫通してエンコパクロス20の上側まで突出している。
【0031】
次に、車室10Rの構成について説明する。図2に示すように、ダッシュパネル16の後方は車室10Rとなっている。車室10Rには車室10Rの床を構成するフロアパネル18が設けられており、フロアパネル18の車両幅方向中央には、フロアトンネルパネル19が設けられている。フロアトンネルパネル19は、天井板19aと天井板19aの両側端に接続される一対の縦板19bとで構成される上に凸の溝形断面形状である。天井板19aと縦板19bとの接続部はフロアトンネルパネル19の溝形断面の稜線19cを構成する。図3に示すように、フロアトンネルパネル19の前方端は、ダッシュパネル16に設けられた切欠き部16aの周縁に接続されている。
【0032】
次に、エンコパクロス20について説明する。図4に示すようにエンコパクロス20は、左右一対のサイドメンバ21L、21Rと、フロントクロス24と、リアクロス27とで構成される環状部材である。リアクロス27は、車両後方に凸に湾曲し、上面視でアルファベットの大文字のDのような形状となっている。
【0033】
図2に示すように、左右のサイドメンバ21L、21Rは、ブラケット51L、51Rによって左右のフロントサイドメンバ11L、11Rの車両幅方向内側にそれぞれ取り付けられて、車両前後方向にそれぞれ延びる四角閉断面部材である。図5に示すように、左のサイドメンバ21Lは、2枚のクランク状に折り曲げた板部材21a、21bを組み合わせた四角閉断面構造で、各板部材21a、21bは各板部材21a、21bを接続するフランジ21c、21dが上方向又は下方向となるように組み合わせられている。左のサイドメンバ21Lは、車両幅方向外側の面と左のフロントサイドメンバ11Lの車両幅方向内側の面との間に隙間Sがあくように配置されている。右側のフロントサイドメンバ11Rと右のサイドメンバ21Rは、左のフロントサイドメンバ11Lと左のサイドメンバ21Lと左右対称なので説明は省略する。尚、図4中に示す符号28は、ブラケット51L、51Rを固定するボルト55(図9、10参照)を通すボルト穴である。
【0034】
図4に示すように、フロントクロス24は、左右のサイドメンバ21L、21Rの各前端21Lf、21Rfを車両幅方向に接続する四角閉断面構造の部材であり、一定断面の前中央部22と、車両幅方向外側に向かうにつれて車両後方に向かって幅が広くなる左右の側端部23L、23Rとで構成されている。左右の側端部23L、23Rの車両幅方向外側の後部23Lr、23Rrは、左右のサイドメンバ21L、21Rの各前端21Lf、21Rfに接続されている。フロントクロス24の前中央部22は、図6に示すように、2枚のクランク状に折り曲げた板部材22a、22bを組み合わせた四角閉断面構造で、各板部材22a、22bは各板部材22a、22bを接続するフランジ22c、22dが上方向又は下方向となるように組み合わせられている。側端部23L、23Rも同様の構造の四角閉断面構造である。前中央部22の板部材22aの車両後方側と下側の内面には山形に折り曲げられた補強板31が取り付けられている。図4に示すように、補強板31は、前中央部22から左右の側端部23L、23Rの内部まで延びている。また、側端部23L、23Rの中に配置されている補強板31は、前中央部22に配置されている補強板31よりも幅が広くなっている。
【0035】
左右の各側端部23L、23Rの車両幅方向外側の前部には、前方及び車両幅方向外側に向かって上面の高さが低くなる傾斜部23aが設けられている。また、左右の側端部23L、23Rの後部23Lr、23Rrの近傍には、ブラケット51L、51Rを固定するボルト55(図9、10参照)を通すボルト穴29が設けられており、左右の側端部23L、23Rはサイドメンバ21L、21Rと同様ブラケット51L、51Rによって左右のフロントサイドメンバ11L、11Rに取り付けられている。
【0036】
後で説明するように、実施形態の車両前部構造100を備える車両10の左側がオフセット衝突した際、衝突の初期に左のフロントサイドメンバ11Lが車両幅方向内側に向かって内折れを起す。フロントクロス24は、フロントサイドメンバ11Lの内折れ発生箇所と車両前後方向に重なる位置に配置されており、左のフロントサイドメンバ11Lの内折れした部分がフロントクロス24の左の側端部23Lの端面23Lgにぶつかり、図4中に矢印99で示す位置で車両幅方向内側に向かう荷重Fがフロントクロス24に入力される。フロントクロス24の前中央部22の板部材22aの車両後方側の面は、荷重Fの入力される位置よりも距離dだけ車両前方にオフセットするように配置されている。尚、車両10の右側がオフセット衝突した際には、右のフロントサイドメンバ11Rが内折れしてフロントクロス24の右の側端部23Rの端面23Rgにぶつかる。
【0037】
図4に示すように、リアクロス27は、車両幅方向に延びる後中央部25と、後中央部25の左右両方の端部25Ls、25Rsと左右のサイドメンバ21L、21Rの各後端21Lr、21Rrとを接続する2つの湾曲部26L、26Rとで構成されている。左右の湾曲部26L、26Rは、後中央部25の左右両方の端部25Ls、25Rsから車両前方に向かってそれぞれ湾曲し、各先端26Lf、26Rfが左右のサイドメンバ21L、21Rの延びる方向にそれぞれ延びて左右のサイドメンバ21L、21Rの各後端21Lr、21Rrにそれぞれ連結される。これにより、リアクロス27の各湾曲部26L、26Rの各先端26Lf、26Rfと各サイドメンバ21L、21Rの各後端21Lr、21Rrとが連続し、リアクロス27と各サイドメンバ21L、21Rとが連続する湾曲形状となり、エンコパクロス20の車両前後方向の剛性を高くすることができる。
【0038】
図7に示すように、リアクロス27の後中央部25は、山形に折り曲げた板部材25aとクランク状に折り曲げられた板部材25bとを組み合わせた四角閉断面構造である。板部材25a、25bは、各板部材25a、25bを接続する車両前方側のフランジ25cが上方向に延び、車両後方側のフランジ25eが車両後方に延びるように組み合わせられている。後中央部25の板部材25bの車両後方側の内面と板部材25aの下側の内面には山形に折り曲げられた補強板32が取り付けられている。
【0039】
左右の湾曲部26L、26Rは、先に説明したサイドメンバ21L、21Rと同様に、2枚のクランク状に折り曲げた板部材を組み合わせた四角閉断面構造である。各湾曲部26L、26Rの長手方向に沿った中央部分の車両後方側の内面には、補強板31と同様の山形の補強板33L、33Rが取り付けられている。補強板33L、33Rが設けられていない湾曲部26L、26Rの後端部26Lr、26Rrの近傍と、先端26Lf、26Rfの近傍は、補強板33L、33Rが設けられている部分よりも強度が低い低強度部を構成する。
【0040】
図3に示すように、リアクロス27の各湾曲部26L、26Rは、車両後方に向かうほど車両上方にそれぞれ向かい、後中央部25と左右の湾曲部26L、26Rの後端部26Lr、26Rrとは、フロアトンネルパネル19の前方端における天井板19aと縦板19bとの稜線19cの高さに位置している。尚、リアクロス27の後中央部25と左右の湾曲部26L、26Rの後端部26Lr、26Rrとは、車両前方視でフロアトンネルパネル19の前方端における天井板19aと重なるように配置されていてもよい。
【0041】
次にフレーム40について説明する。図2に示すように、フレーム40は、車両幅方向に延びるフレームクロス41と、フレームクロス41から車両後方に延びるフレームメンバ42、43とで構成される。図3に示すように、フレームクロス41は、フレーム接続ブラケット52L、52Rによって各ブラケット51L、51Rの上端部に接続されている。図2、3に示すように、フレームメンバ42、43は、エンコパクロス20の湾曲部26R、26Lにそれぞれ設けられたフレームメンバ接続ブラケット44、45にそれぞれボルト44a、45aで締結されている。フレーム40の上には、電力制御装置70が搭載されている。電力制御装置70には、図示しないバッテリとの間を接続する高電圧ケーブル75、76、77が接続されている。高電圧ケーブル75、76、77は、上に凸の溝形断面形状のフロアトンネルパネル19の内部に配策され、ダッシュパネル16の切欠き部16aを通ってフロントコンパートメント10Fの中に入り、リアクロス27の後中央部25の車両前方側を通ってフレーム40の上側に配置されている電力制御装置70の端子に接続されている。
【0042】
次に、エンコパクロス20と左右のフロントサイドメンバ11L、11R及び左右のエプロン部15L、15Rとの接続構造と、フレーム40のエンコパクロス20への接続構造について説明する。
【0043】
図8、9に示すように、エンコパクロス20の左右のサイドメンバ21L、21Rとフロントクロス24の左右の側端部23L、23Rは、ブラケット51L、51Rで左右の各フロントサイドメンバ11L、11Rに接続されている。ブラケット51L、51Rは車両幅方向内側の長さが車両幅方向外側の長さよりも少し長い略台形状の板部51La、51Raと、板部51La、51Raから上方向に突出した2つの凸部51Lb、51Lc、51Rb、51Rcを備えている。板部51La、51Raの車両幅方向内側は、3つのボルト55で左右のサイドメンバ21L、21Rとフロントクロス24の左右の側端部23L、23Rとに締結されている。板部51La、51Raの車両幅方向外側は、2つのボルト54で左右のフロントサイドメンバ11L、11Rに接続されている。
【0044】
車両幅方向外側に配置された凸部51Lb、51Rbの上端には2つのボルト58でエプロン部接続ブラケット53L、53Rの各車両幅方向内側の端部が接続されており、エプロン部接続ブラケット53L、53Rの反対側の端部は、ボルト57で各エプロン部15L、15Rに接続されている。
【0045】
車両幅方向内側に配置された凸部51Lc、51Rcの上部には、2つのボルト59aで左右のフレーム接続ブラケット52L、52Rの車両幅方向外側の端部が接続されている。フレーム接続ブラケット52L、52Rの反対側の端部は、ボルト59bでフレームクロス41の左右の端部に接続されている。
【0046】
次に、図10を参照しながらフロントコンパートメント10Fにモータ80と、電力制御装置70と、エンコパクロス20と、サスメン60とを搭載する工程について説明する。
【0047】
図10に示すように、モータ80を左右の前部マウント81によってサスメン60の上部に搭載する。次に、サスメン60の上に仮設部材65を取り付け、その上にエンコパクロス20を取り付ける。エンコパクロス20の上部に仮設部材66を取り付け、その上にフレーム40を取り付ける。この際、フレーム40のフレームメンバ42、43(図2参照)はエンコパクロス20に取り付けられたフレームメンバ接続ブラケット44、45(図2参照)に取り付けておく。そして、フレーム40の上に電力制御装置70を取り付け、モータ80と電力制御装置70とエンコパクロス20とフレーム40とサスメン60とを一体の組立体85に組み立てる。
【0048】
次に、エンコパクロス20の左右のサイドメンバ21L、21Rの車両幅方向外側の面と左右のフロントサイドメンバ11L、11Rの車両幅方向内側の面との間にそれぞれ組付け用の隙間S(図5参照)があくように組立体85を位置合わせし、組立体85を車両10の下側から左右のフロントサイドメンバ11L、11Rの間に押し上げる。
【0049】
エンコパクロス20の位置が所定の高さとなるまで組立体85を上昇させたら、ブラケット51L、51Rの板部51La、51Raを上側からフロントサイドメンバ11L、11Rとサイドメンバ21L、21R、フロントクロス24の左右の側端部23L、23Rの上面に合わせ、上側からボルト54、55を通し、ボルト54、55で板部51La、51Raを左右のフロントサイドメンバ11L、11Rと左右のサイドメンバ21L、21Rと、左右の側端部23L、23Rに締結する。また、締結部材62をサスメン60の下側から挿入してフロントサイドメンバ11L、11Rの下側に延びているサスメンサポート11bにサスメン60を締結する。
【0050】
次に、エプロン部接続ブラケット53L、53Rを上側からエプロン部15L、15Rの上面と凸部51Lb、51Rbの上部に合わせ、上側からボルト57、58を通し、ボルト57、58でエプロン部接続ブラケット53L、53Rをエプロン部15L、15Rの上面と凸部51Lb、51Rbの上部に締結する。また、上側からボルト59a、59bでフレーム接続ブラケット52L、52Rを凸部51Lc、51Rcの上端とフレームクロス41の左右の端部とに接続する。
【0051】
組立体85を左右のフロントサイドメンバ11L、11Rとサスメン60とエプロン部15L、15Rに取り付けたら、仮設部材65、66を取り外す。このように、実施形態の車両前部構造100では、モータ80と電力制御装置70とエンコパクロス20とフレーム40とサスメン60との組立体85を一体にして車両10の下側から組付けることができる。
【0052】
次に図11から図13を参照しながら、実施形態の車両前部構造100を備える車両10の左側がオフセット衝突した際の各部の変形について説明する。尚、以下の説明では、オフセット衝突とは、アルミハニカム製のバリア90が車両幅方向の40%の部分に正面衝突する場合をいう。
【0053】
最初、バリア90は左右のフロントサイドメンバ11L、11Rの前方にクラッシュボックス12L、12Rを介して取り付けられているバンパリーンフォース68に当たる。バンパリーンフォース68はバリア90の形状に追従するように折り曲げられる。この際、バンパリーンフォース68の左側部分が後ろ向きの大きな衝突荷重を受け、その後ろに配置されている左のクラッシュボックス12Lは圧縮方向の塑性変形を起こして衝撃を吸収する。そして、衝撃荷重は左のクラッシュボックス12Lから左のフロントサイドメンバ11Lの前端に伝達される。
【0054】
左のフロントサイドメンバ11Lは、後ろ向きの衝撃荷重を受けると共に、左のクラッシュボックス12Lから左のガセット板11aを通じて、車両幅方向内側に向かう荷重の入力を受ける。このため、左のフロントサイドメンバ11Lは、左のガセット板11aが左のフロントサイドメンバ11Lに接続される位置111で内側に曲げられると同時に後ろ向きの荷重を受けて内折れを起こす。従って、位置111が左のフロントサイドメンバ11Lの内折れが発生する内折れ発生箇所となる。
【0055】
左のフロントサイドメンバ11Lは内折れによって、内折れした部分がフロントクロス24の左の側端部23Lの端面23Lgにぶつかり、左の側端部23Lには図4を参照して説明したように車両幅方向内側に向かう荷重Fが入力される。この荷重Fは、フロントクロス24によって反対側の右のフロントサイドメンバ11Rに伝達される。これにより、左のフロントサイドメンバ11Lの内折れは止まり、左のフロントサイドメンバ11Lは、位置112で外側に折れ曲がり、更に、位置113で再び内折れし、三節折れに変形する。
【0056】
このように、左のフロントサイドメンバ11Lが三節折れ変形することにより、エンコパクロス20の左側は、車両後方に向かって動くことになる。他方、右のフロントサイドメンバ11Rは、元の位置からあまり動かず、エンコパクロス20の右側はあまり後退しない。このため、エンコパクロス20は、左側が車両後方に後退するように回転し、後中央部25の左の端部25Lsと左の湾曲部26Lの後端部26Lrの近傍がダッシュパネル16に接触する。ダッシュパネル16の車室10Rの側には、フロアトンネルパネル19の前方端が接続されている。このため、後中央部25の左の端部25Lsと左の湾曲部26Lの後端部26Lrの近傍は、上面視でフロアトンネルパネル19の天井板19aと左の縦板19bとの接続部である稜線19cの近傍に位置する。また、図3を参照して説明したように、後中央部25の左の端部25Lsと左の湾曲部26Lの後端部26Lrとは、フロアトンネルパネル19の稜線19cの高さに位置している。このため、側面視でも、後中央部25の左の端部25Lsと左の湾曲部26Lの後端部26Lrの近傍は、フロアトンネルパネル19の稜線19cの前方端に位置する。従って、リアクロス27の後中央部25と左の湾曲部26Lの後端部26Lrとは、フロアトンネルパネル19の稜線19cの前方端に位置するダッシュパネル16に接触し、フロアトンネルパネル19の稜線19cに衝突荷重を伝達する。
【0057】
この状態では、エンコパクロス20は、図13中に破線で示す初期状態から矢印95、96で示すように左側が車両後方に後退するように回転しているが、図13中に一点鎖線で示すように上面視でD字型の平面形状は変化しておらず、エンコパクロス20とフレーム40との相対位置関係、及びエンコパクロス20とフレーム40の上に搭載されている電力制御装置70との相対位置関係、電力制御装置70とリアクロス27との間を上下に通っている高電圧ケーブル75~77とリアクロス27の相対位置は変化していない。このため、高電圧ケーブル75~77は、リアクロス27と電力制御装置70との間の空間に存在しており、エンコパクロス20及び電力制御装置70には接触していない。
【0058】
図11の状態から更にバリア90が進入すると、後中央部25の左の端部25Lsと左の湾曲部26Lの後端部26Lrに加わる車両前後方向の荷重が大きくなる。これに伴い、後中央部25の左の端部25Lsと左の湾曲部26Lの後端部26Lrは、強度の高いフロアトンネルパネル19の稜線19cから受ける車両前方に向う反力も大きくなってくる。これにより、図12、及び図13の実線と矢印97で示すように、後中央部25の左の端部25Lsと左の湾曲部26Lの後端部26Lrが車両前向に潰れるように変形する。これは、先に、図4を参照して説明したように、湾曲部26Lの後端部26Lrの近傍と、先端26Lfの近傍は、補強板33Lが設けられていない低強度部となっていること、及び、後端部26Lrの近傍と先端26Lfの近傍とは曲げ半径が小さくなっており、変形しやすいことによる。
【0059】
この変形により、図12、及び図13の実線と矢印98で示すように、フレーム40がエンコパクロス20に対して変形し、電力制御装置70の左側が車両前方に移動するように回転し、電力制御装置70の左側がエンコパクロス20に対して相対的に前方に移動する。これにより、後中央部25と左の湾曲部26と電力制御装置70との間には、高電圧ケーブル75~77が上下に通る空間が残存し、高電圧ケーブル75~77がエンコパクロス20及び電力制御装置70に接触しない状態を保持できる。
【0060】
以上、車両10の左側がオフセット衝突した際の変形について説明したが、車両10の右側がオフセット衝突した際の変形は車両10の左側がオフセット衝突した際の変形と左右対称となるので、説明は省略する。
【0061】
以上、説明したように、実施形態の車両前部構造100では、リアクロス27を車両後方側に凸となるように湾曲させることによって、エンコパクロス20の車両前後方向の剛性を高くすることができる。特に、リアクロス27の各湾曲部26L、26Rの各先端26Lf、26Rfと各サイドメンバ21L、21Rの各後端21Lr、21Rrとが連続し、リアクロス27と各サイドメンバ21L、21Rとを連続する湾曲形状としているので、エンコパクロス20の車両前後方向の剛性を更に高くすることができる。これにより、エンコパクロス20に入力された前突の際の衝突荷重によりエンコパクロス20が変形することを抑制し、衝突荷重をスムースにリアクロス27から後方の部材に伝達することができる。
【0062】
また、車両10の左側のオフセット衝突の際にエンコパクロス20が回転して後中央部25の左の端部25Lsと左の湾曲部26Lの後端部26Lrの近傍がダッシュパネル16に衝突する。このように、曲面部分がダッシュパネル16に衝突するので、図14に示す対比例のエンコパクロス201のように角部202がダッシュパネル16に衝突してダッシュパネル16を損傷させることを抑制できる。尚、図14において、実線はオフセット衝突前のエンコパクロス201を示し、破線はオフセット衝突の際のエンコパクロス201を示し、矢印209はオフセット衝突の際のエンコパクロス201の後退を示す。
【0063】
更に、リアクロス27を後方に凸となるように湾曲させることによりエンコパクロス20の変形を抑制できるので、オフセット衝突でエンコパクロス20がダッシュパネル16に衝突した初期状態において、エンコパクロス20と電力制御装置70と高電圧ケーブル75~77の相対位置を変化させず、高電圧ケーブル75~77がエンコパクロス20及び電力制御装置70に接触することを抑制できる。
【0064】
また、実施形態の車両前部構造100では、リアクロス27の各湾曲部26L、26Rを車両後方に向かうほど車両上方にそれぞれ向かうようにして、リアクロス27の後中央部25と各湾曲部26L、26Rの各後端部26Lr、26Rrとの高さがフロアトンネルパネル19の前方端における稜線19cの高さに位置するように構成している。このため、オフセット衝突の際にエンコパクロス20から強度の高いフロアトンネルパネル19の稜線19cに衝突荷重を伝達することができ、バリア90の進入量を抑制しつつ衝突エネルギーの吸収量を大きくできる。
【0065】
また、実施形態の車両前部構造100では、フロントクロス24を幅が一定の前中央部22と車両幅方向に向かって車両後方に幅が広くなる左右の側端部23L、23Rとで構成し、内部に補強板31を配置している。これにより、前中央部22の車両後方側面が、車両左側のオフセット衝突の際に左側から車両幅方向内側に向かってフロントクロス24に入力される荷重Fの車両前後方向の位置よりも距離dだけ車両前方にオフセットされていても、入力された荷重Fによりフロントクロス24が変形することを抑制し、荷重Fを反対側の右のフロントサイドメンバ11Rにスムースに伝達することができる。これにより、左のフロントサイドメンバ11Lを三節折れに変形させて衝撃エネルギーを吸収することができる。また、前中央部22の車両後方側面が距離dだけ車両前方にオフセットされているので、エンコパクロス20の内周寸法を大きくできる。サスメン60の上に取り付けられるモータ80は、上部がエンコパクロス20の内周の空間を貫通してエンコパクロス20の上側まで突出するので、エンコパクロス20の内周寸法を大きくすることにより、サスメン60の上に大きな寸法のモータ80を搭載することができる。
【0066】
更に、実施形態の車両前部構造100では、左右のサイドメンバ21L、21Rは、2枚のクランク状に折り曲げた板部材21a、21bを組み合わせた四角閉断面構造で、各板部材21a、21bは各板部材21a、21bを接続する各フランジ21c、21dが上方向又は下方向となるように組み合わせられている。このため、左右のサイドメンバ21L、21Rと左右のフロントサイドメンバ11L、11Rとの間に組付けの際に必要な隙間Sを確保することができ、モータ80と電力制御装置70とエンコパクロス20とフレーム40とサスメン60との組立体85を一体にして車両10の下側から組付けることができる。これにより、組立体85の搭載を短時間で行うことができる。また、エンジン車のエンジンを車両下側から搭載する設備を使用することが可能となり新たな設備投資が不要となる。
【0067】
また、実施形態の車両前部構造100では、リアクロス27の各湾曲部26L、26Rの各先端26Lf、26Rfと後端部26Lr、26Rrとが他の部分よりも強度が低い低強度部を構成する。このため、車両10の左側のオフセット衝突の後期に左の湾曲部26Lがフロアトンネルパネル19の稜線19cの前端部から大きな反力を受けた場合に、左の湾曲部26Lが車両前後方向に潰れて、電力制御装置70の左側がエンコパクロス20に対して相対的に車両前方に移動する。これにより、電力制御装置70とリアクロス27との間に配置されている高電圧ケーブル75~77が電力制御装置70又はリアクロス27と接触することを抑制できる。
【0068】
尚、実施形態の車両前部構造100では、各湾曲部26L、26Rはそれぞれ2つの低強度部を有することとして説明したが、これに限らず、例えば、各後端部26Lr、26Rrのみを低強度部としてもよい。
【0069】
以上、説明したように、実施形態の車両前部構造100は、車両10の前突時にバリア90の進入量を抑制しつつ衝突エネルギーの吸収量を大きくできる。
【符号の説明】
【0070】
10 車両、10F フロントコンパートメント、10R 車室、11L,11R フロントサイドメンバ、11a ガセット板、11b サスメンサポート、12L,12R クラッシュボックス、13L,13R アッパメンバ、14L,14R サスタワー、15L,15R エプロン部、16 ダッシュパネル、16a 切欠き部、17L,17R フロントピラー、18 フロアパネル、19 フロアトンネルパネル、19a 天井板、19b 縦板、19c 稜線、20,201 エンコパクロス、21L,21R サイドメンバ、21Lf,21Rf 前端、21Lr,21Rr 後端、21a,21b,22a,22b,25a,25b 板部材、21c,21d,22c,22d,25c,25e フランジ、22 前中央部、23L,23R 側端部、23Lg,23Rg 端面、23Lr,23Rr 後部、23a 傾斜部、24 フロントクロス、25 後中央部、25Ls,25Rs 端部、26L,26R 湾曲部、26Lf,26Rf 先端、26Lr,26Rr 後端部、27 リアクロス、28,29 ボルト穴、31,32,33L,33R 補強板、40 フレーム、41 フレームクロス、42,43 フレームメンバ、44,45 フレームメンバ接続ブラケット、44a,45a,54,55,57,58,59a,59b ボルト、51L,51R ブラケット、51La,51Ra 板部、51Lb,51Lc 凸部、52L,52R フレーム接続ブラケット、53L,53R エプロン部接続ブラケット、60 サスメン、62 締結部材、65,66 仮設部材、68 バンパリーンフォース、69 支持部材、70 電力制御装置、75~77 高電圧ケーブル、80 モータ、81 前部マウント、82 後部マウント、85 組立体、90 バリア、100 車両前部構造。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14