IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 村田機械株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-搬送システム 図1
  • 特許-搬送システム 図2
  • 特許-搬送システム 図3
  • 特許-搬送システム 図4
  • 特許-搬送システム 図5
  • 特許-搬送システム 図6
  • 特許-搬送システム 図7
  • 特許-搬送システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】搬送システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/677 20060101AFI20241008BHJP
   B65G 1/00 20060101ALI20241008BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20241008BHJP
【FI】
H01L21/68 A
B65G1/00 535
G05D1/43
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022073049
(22)【出願日】2022-04-27
(65)【公開番号】P2023162608
(43)【公開日】2023-11-09
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】北村 亘
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-285906(JP,A)
【文献】特開平11-297785(JP,A)
【文献】特開平04-352343(JP,A)
【文献】特表2015-527754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
G05D 1/43
B65G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の処理装置の間で物品を搬送する搬送システムであって、
上記処理装置において処理すべき物品を搬送する搬送車と、
搬送すべき物品を一時的に保管する複数の一時保管部と、
上記搬送車を制御して、第1の処理装置において処理された物品を上記一時保管部まで搬送させると共に、この一時保管部に物品が保管され、その物品に対して次工程の処理を行う第2の処理装置が決定されると、物品を第2の処理装置まで搬送させるコントローラと、
を有し、
上記コントローラは、上記第1の処理装置において処理された物品に対して次の処理を行うことが予想される第2の処理装置である候補処理装置を複数抽出する候補処理装置抽出部と、
この候補処理装置抽出部によって抽出された複数の候補処理装置に基づいて、上記第1の処理装置において処理された物品を一時的に保管する一時保管部を選択する一時保管部選択部と、
を有し、
上記一時保管部選択部は、物品を一時的に保管可能な複数の一時保管部と、上記候補処理装置抽出部によって抽出された複数の候補処理装置との組み合わせ夫々について搬送時間を特定し、特定された搬送時間に基づいて、上記第1の処理装置において処理された物品を一時的に保管する一時保管部を選択することを特徴とする搬送システム。
【請求項2】
上記一時保管部選択部は、一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間の平均値、一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間のばらつき、及び一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間の最大値のうちの少なくとも1つに基づいて一時保管部を選択する請求項記載の搬送システム。
【請求項3】
上記一時保管部選択部は、一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間の平均値、一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間のばらつき、及び一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間の最大値のうちの少なくとも2つに、所定の重み係数を夫々乗じた数の和が最小となる一時保管部を選択する請求項記載の搬送システム。
【請求項4】
上記コントローラは、或る処理装置において処理された物品に対して、次の処理を行う可能性がある候補処理装置を記憶した候補装置テーブルを備えており、上記候補処理装置抽出部は、上記候補装置テーブルを使用して候補処理装置を抽出する請求項1乃至3の何れか1項に記載の搬送システム。
【請求項5】
上記候補装置テーブルは、上記搬送システムによる過去の物品の搬送記録に基づいて生成される請求項記載の搬送システム。
【請求項6】
上記複数の搬送車は、天井に設けられた走行軌道に沿って走行する天井搬送車であり、上記走行軌道は、複数の処理装置との間で物品を移載することができる複数のイントラベイ軌道と、これらのイントラベイ軌道を接続するインターベイ軌道から構成され、上記候補処理装置抽出部は、互いに異なるイントラベイ軌道に対応する処理装置を抽出する請求項1記載の搬送システム。
【請求項7】
上記インターベイ軌道は、複数の棟に夫々設けられたイントラベイ軌道を接続するように構成され、上記候補処理装置抽出部は、互いに異なる棟に設けられたイントラベイ軌道に対応する処理装置を抽出する請求項記載の搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送システムに関し、特に、複数の処理装置の間で物品を搬送する搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許第4782194号公報(特許文献1)には、搬送システムが記載されている。この搬送システムは、搬送車が走行するイントラベイルートと、イントラベイルート間を接続するインターベイルートと、を有し、これらのイントラベイルート及びインターベイルートに沿って、搬送する半導体カセットを保管するための中継バッファが複数設けられている。また、特許文献1記載の搬送システムは、搬送指令作成手段を有し、この搬送指令作成手段は、搬送先の処理装置への到着時刻を指定した搬送要求が発生すると、搬送元の処理装置から中継バッファへの第1の搬送指令、中継バッファ間の搬送指令、及び最後の中継バッファから前記搬送先の処理装置への第2の搬送指令を作成する。半導体カセットは複数の中継バッファを経由し、中継バッファにて半導体カセットを一時保管して時間調整が行われる。これにより、半導体カセットが搬送先の処理装置へ指定された到着時刻に到着するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4782194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の搬送システムにおいては、半導体カセットが中継バッファに保管された後に、搬送先が、予定されていた搬送先よりも中継バッファから遠い、別の搬送先に変更される可能性がある。このような場合においては、半導体カセットの搬送距離が長くなり、搬送効率が低下する。
【0005】
本発明は、搬送システムにより搬送される物品の搬送先が変更される可能性がある場合や、物品の搬送先が確定していない場合においても、物品の搬送効率を向上させることができる搬送システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数の処理装置の間で物品を搬送する搬送システムであって、処理装置において処理すべき物品を搬送する搬送車と、搬送すべき物品を一時的に保管する複数の一時保管部と、搬送車を制御して、第1の処理装置において処理された物品を一時保管部まで搬送させると共に、この一時保管部に物品が保管され、その物品に対して次工程の処理を行う第2の処理装置が決定されると、物品を第2の処理装置まで搬送させるコントローラと、を有し、コントローラは、第1の処理装置において処理された物品に対して次の処理を行うことが予想される第2の処理装置である候補処理装置を複数抽出する候補処理装置抽出部と、この候補処理装置抽出部によって抽出された複数の候補処理装置に基づいて、第1の処理装置において処理された物品を一時的に保管する一時保管部を選択する一時保管部選択部と、を有し、一時保管部選択部は、物品を一時的に保管可能な複数の一時保管部と、候補処理装置抽出部によって抽出された複数の候補処理装置との組み合わせ夫々について搬送時間を特定し、特定された搬送時間に基づいて、第1の処理装置において処理された物品を一時的に保管する一時保管部を選択することを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明においては、搬送車は、第1の処理装置において処理された物品を一時保管部に搬送する。また、一時保管部に物品が保管され、その物品に対して次工程の処理を行う第2の処理装置が決定されると、搬送車は物品を第2の処理装置に搬送する。
【0008】
このように構成された本発明によれば、第1の処理装置において物品の処理が終了すると、次工程の処理を行う第2の処理装置が決定していない場合であっても物品を一時保管部に搬送するので、物品が第1の処理装置の近傍に止まることがなく、搬送効率を向上させることができる。また、上記のように構成された本発明によれば、候補処理装置抽出部によって抽出された複数の候補処理装置に基づいて、第1の処理装置において処理された物品を一時的に保管する一時保管部が選択される。このため、各候補処理装置に物品を搬送しやすい一時保管部を選択することができ、物品の搬送先が変更される可能性がある場合や、物品の搬送先が確定していない場合においても搬送効率を高めることができる。
【0010】
このように構成された本発明によれば、一時保管部から、候補処理装置抽出部によって抽出された各候補処理装置までの搬送時間に基づいて一時保管部が選択されるので、各候補処理装置までの搬送時間が短くなるように一時保管部を選択することができ、搬送時間の短縮を期待することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、一時保管部選択部は、一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間の平均値、一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間のばらつき、及び一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間の最大値のうちの少なくとも1つに基づいて一時保管部を選択する。
【0012】
このように構成された本発明によれば、搬送時間の平均値、搬送時間のばらつき、及び搬送時間の最大値のうちの少なくとも1つに基づいて一時保管部が選択される。このため、次工程を行う処理装置が、候補処理装置の中の、どの処理装置に決定された場合でも、極端に搬送時間が長くなるのを回避することができ、総合的な搬送効率の向上を期待することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、一時保管部選択部は、一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間の平均値、一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間のばらつき、及び一時保管部から各候補処理装置までの搬送時間の最大値のうちの少なくとも2つに、所定の重み係数を夫々乗じた数の和が最小となる一時保管部を選択する。
【0014】
このように構成された本発明によれば、搬送時間の平均値、搬送時間のばらつき、及び搬送時間の最大値のうちの少なくとも2つに、所定の重み係数を夫々乗じた数の和が最小となる一時保管部が選択されるので、搬送システムの特質に応じて適切な一時保管部を選択することができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、コントローラは、或る処理装置において処理された物品に対して、次の処理を行う可能性がある候補処理装置を記憶した候補装置テーブルを備えており、候補処理装置抽出部は、候補装置テーブルを使用して候補処理装置を抽出する。
【0016】
このように構成された本発明によれば、コントローラが候補装置テーブルを備えているので、候補処理装置抽出部によって、迅速に候補処理装置を抽出することができる。
【0017】
本発明において、好ましくは、候補装置テーブルは、搬送システムによる過去の物品の搬送記録に基づいて生成される。
【0018】
このように構成された本発明によれば、候補装置テーブルが搬送システムによる過去の物品の搬送記録に基づいて生成されるので、ユーザーが候補装置テーブルを作成することなく、自動的に候補装置テーブルを生成することができる。
【0019】
本発明において、好ましくは、複数の搬送車は、天井に設けられた走行軌道に沿って走行する天井搬送車であり、走行軌道は、複数の処理装置との間で物品を移載することができる複数のイントラベイ軌道と、これらのイントラベイ軌道を接続するインターベイ軌道から構成され、候補処理装置抽出部は、互いに異なるイントラベイ軌道に対応する処理装置を抽出する。
【0020】
このように構成された本発明によれば、搬送車の走行軌道が複数のイントラベイ軌道とインターベイ軌道から構成され、候補処理装置抽出部によって抽出される処理装置が、互いに異なるイントラベイ軌道に対応するものであっても、適切な位置にある一時保管部を選択することができ、搬送効率を向上させることができる。
【0021】
本発明において、好ましくは、インターベイ軌道は、複数の棟に夫々設けられたイントラベイ軌道を接続するように構成され、候補処理装置抽出部は、互いに異なる棟に設けられたイントラベイ軌道に対応する処理装置を抽出する。
【0022】
このように構成された本発明によれば、インターベイ軌道が複数の棟に夫々設けられたイントラベイ軌道を接続するように構成され、候補処理装置抽出部によって抽出される処理装置が、互いに異なる棟に設けられたイントラベイ軌道に対応するものであっても、適切な位置にある一時保管部を選択することができ、搬送効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の搬送システムによれば、搬送される物品の搬送先が変更される可能性がある場合や、物品の搬送先が確定していない場合においても、物品の搬送効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態による搬送システムを概略的に示す平面図である。
図2】本発明の第1実施形態による搬送システムに備えられている搬送車及びバッファを示す側面図である。
図3】本発明の第1実施形態による搬送システムに備えられているコントローラの構成を示すブロック図である。
図4】本発明の第1実施形態による搬送システムに備えられているコントローラにおける処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の第1実施形態による搬送システムを適用した半導体製造工場の一例を模式的に表した平面図である。
図6】本発明の第1実施形態による搬送システムにおいて、各バッファから各候補処理装置までの搬送時間の一例を示す図である。
図7】本発明の第2実施形態による搬送システムを概略的に示す平面図である。
図8】本発明の第2実施形態による搬送システムにおいて、各バッファから各候補処理装置までの搬送時間の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による搬送システムを説明する。
まず、図1乃至図6を参照して、本発明の第1実施形態による搬送システムを説明する。
なお、本実施形態においては、半導体製造工場のクリーンルーム内において、半導体ウェーハを収容したフープ(Foup)や、レチクルを収容したレチクルポッド(Reticle Pod)等の物品を搬送する搬送システムに、本発明が適用されている。
【0026】
図1は、本発明の第1実施形態による搬送システムを概略的に示す平面図である。図2は、本発明の第1実施形態による搬送システムに備えられている搬送車及びバッファを示す側面図である。図3は、本発明の第1実施形態による搬送システムに備えられているコントローラの構成を示すブロック図である。
【0027】
図1に示すように、本発明の第1実施形態による搬送システム1は、処理装置において処理すべき物品を搬送する搬送車2と、搬送すべき物品を一時的に保管する複数の一時保管部であるバッファ4と、処理装置12に物品を搬送することができる複数のイントラベイ軌道6と、これらのイントラベイ軌道6を接続するインターベイ軌道8と、を有する。さらに、搬送システム1はコントローラ10を有し、コントローラ10は、搬送車2を制御して、第1の処理装置12において処理された物品をバッファ4に搬送すると共に、このバッファ4に物品が保管された後で、その物品に対して次工程の処理を行う第2の処理装置12が決定されると、物品を第2の処理装置12に搬送する。
【0028】
まず、イントラベイ軌道6は、天井に設けられたレールによって構成された走行軌道であり、処理装置に物品を搬送することができるように、このイントラベイ軌道6に沿って複数の処理装置12が配置されている。搬送車2は、イントラベイ軌道6から吊り下げられた状態で走行することにより、イントラベイ軌道6に沿って配置された或る処理装置12から他の処理装置12へ物品Mを搬送することができる。従って、本実施形態において、搬送車2は、天井に設けられた走行軌道に沿って走行する天井搬送車である。また、本実施形態の搬送システム1は、複数のイントラベイ軌道6を備えており、各イントラベイ軌道6を構成するレールは、半導体製造工場の天井から吊り下げられている。
【0029】
次に、インターベイ軌道8は、半導体製造工場の天井から吊り下げられた環状のレールによって構成された走行軌道であり、分岐軌道6aを介して各イントラベイ軌道6に夫々接続されている。これにより、搬送システム1に備えられた搬送車2は、インターベイ軌道8を介して、或るイントラベイ軌道6から、他のイントラベイ軌道6へ相互に乗り入れることができる。即ち、搬送システム1は、或るイントラベイ軌道6に沿って配置された処理装置12から、他のイントラベイ軌道6に沿って配置された他の処理装置12へ、物品Mを搬送することができる。
【0030】
また、本実施形態においては、図1に示された4つのイントラベイ軌道6に沿って配置された一群の処理装置12により、半導体製造工場の1つのフェーズ14が構成されている。本実施形態において、インターベイ軌道8は、図1に示された1つのフェーズ14と、同様の機能を有する一群の処理装置12からなる他の複数のフェーズ14を相互に接続するように構成されている。即ち、或るフェーズ14に属する1つの処理装置12と同様の機能を有する処理装置12が、他のフェーズ14にも備えられている。従って、本実施形態においては、第1の処理装置による処理を終えた物品Mに対して、次工程の処理を行うことができる第2の処理装置は、処理を行った第1の処理装置と同一のフェーズ内、及び他のフェーズ内に、夫々少なくとも1つ存在する。
【0031】
次に、図2を参照して、搬送車2及びバッファ4の構成を説明する。
図2に示すように、搬送車2は、イントラベイ軌道6又はインターベイ軌道8を構成するレールから吊り下げられた状態で、走行機構15により走行し、目標となる位置まで移動することができる。また、搬送車2は、スライド機構16及び把持機構18を備えている。
【0032】
スライド機構16は、ボールねじ駆動機構(図示せず)によって水平方向に伸縮することができ、先端には物品Mに設けられたフランジM1を把持するための把持機構18が取り付けられている。また、把持機構18は、懸垂ベルト18a及びグリッパ18bを備えている。
懸垂ベルト18aは、1つの搬送車2に4本備えられており、スライド機構16の先端に設けられたリール(図示せず)に巻回している。また、グリッパ18bは、物品MのフランジM1を狭持可能な開閉機能を有している。
【0033】
グリッパ18bは、4本の懸垂ベルト18aに吊るされており、モータ等の駆動装置(図示せず)によるリールの正逆回転により、懸垂ベルト18aを介してグリッパ18bが上下移動するようになっている。また、懸垂ベルト18aの長さは、バッファ4の固定棚板22a上の物品Mを、グリッパ18bによって把持して上下移動させることができるように設定されている。スライド機構16が伸張し、把持機構18が物品Mの真上の位置に移動すると、グリッパ18bが物品Mの上まで降下される。さらに、グリッパ18bを開閉させてフランジM1を狭持するように構成されている。
【0034】
バッファ4は、図1に示すように、各処理装置12の間に配置された、物品Mを一時的に保管する一時保管部である。さらに、図2に示すように、本実施形態において、バッファ4は、吊下ロッド22bと固定棚板22aとから構成され、全体が天井から吊り下げられたオーバーヘッドバッファ(OHB)である。
【0035】
処理装置12による処理は各工程によって処理内容が異なるため処理時間もまた異なっており、次工程の処理を受けるまでの不定期間の待ち時間が発生する。この間に物品Mを保管できる装置としてストッカ(図示せず)を設けることもできるが、処理装置12と距離が離れていたり、入出庫にも手間がかかったりするため、迅速に対応できないという欠点がある。したがって、この待ち時間の間の簡易な物品Mの保管箇所としてバッファ4が処理装置12の近傍に配置されている。しかしながら、ストッカ(図示せず)等、物品を保管することができる任意の構成を一時保管部(バッファ)として利用することもできる。
【0036】
次に、搬送車2による物品Mのバッファ4への載置及び搬出の原理を説明する。
物品Mの搬出動作は以下のようになる。イントラベイ軌道6を走行し、バッファ4の対向位置に停止した搬送車2は、バッファ4へ向けてスライド機構16を繰り出す。これにより物品Mを把持していない把持機構18のグリッパ18bを物品Mの真上まで移動させる。目的とする物品Mの真上までグリッパ18bを移動させた後、懸垂ベルト18aを伸張させ、バッファ4内の所定の物品Mの上までグリッパ18bを降下させて、グリッパ18bで物品Mに配設されたフランジM1を把持する。
【0037】
次いで、物品Mを把持した後、リール(図示せず)を回転させることで懸垂ベルト18aを巻き上げ、グリッパ18bと共に物品Mを上昇させ、続いてスライド機構16を縮退させる。その後、搬送車2は物品Mの次の搬送先に向かいイントラベイ軌道6及びインターベイ軌道8を走行する。
【0038】
また、搬送車2がバッファ4に物品Mを載置する場合には、同様に、搬出とは逆の順序で載置作業を実施することができる。即ち、物品Mをグリッパ18bにより把持しイントラベイ軌道6を走行してきた搬送車2は、物品Mを載置するバッファ4の所定の対向位置に停止する。次いで、スライド機構16を繰り出して物品Mを固定棚板22aの真上に移動させ、リール(図示せず)を回転させることで懸垂ベルト18a伸長させて、物品Mを把持したグリッパ18bを、物品Mを載置する固定棚板22aの高さ位置まで降下させる。その後、グリッパ18bを開放することで物品Mがバッファ4に載置される。
【0039】
このように、本実施形態においては、搬送車2から側方に向けてスライド機構16が延び、上面視において搬送車2の側方にあるバッファ4の固定棚板22aに物品Mを載置している。これに対し、変形例として、搬送車2は、鉛直下方に位置するバッファの棚板に物品Mを載置するように本発明を構成することもできる。また、本実施形態において、バッファ4は各処理装置12の間に配置されているが、処理装置12の上方等、任意の位置にバッファを配置することができる。或いは、インターベイ軌道8に沿ってバッファを配置することもできる。
【0040】
次に、図3を参照して、コントローラ10の構成を説明する。
図3に示すように、コントローラ10は、第1の処理装置において物品Mの処理が終了したことを報知する信号が入力される信号入力部10aと、その物品Mに対して次の処理を行うことが予想される第2の処理装置である候補処理装置を複数抽出する候補処理装置抽出部10bと、抽出された複数の候補処理装置に基づいて、第1の処理装置において処理された物品Mを一時的に保管するバッファ4を選択する一時保管部選択部10cと、選択されたバッファ4に物品Mを搬送するよう、搬送車2に指令信号を送信する指令信号送信部10dと、を有する。
【0041】
さらに、コントローラ10には、或る処理装置12において処理された物品Mに対して、次の処理を行う可能性がある候補処理装置を記憶した候補装置テーブル10e、及び或る処理装置12から他の処理装置12(候補処理装置)までの搬送時間を記録した搬送時間データベース10fを備えている。具体的には、コントローラ10は、マイクロプロセッサ、メモリ、インターフェイス回路、送受信器、外部記憶装置、及びこれらを作動させるソフトウェア等(以上、図示せず)から構成されている。
【0042】
信号入力部10aは、或る処理装置12において物品Mの処理が終了したことを報知する信号が、上位のコントローラ20から入力されるように構成されている。即ち、半導体製造工場内では、或る処理装置12(第1の処理装置)において半導体ウェーハの処理が終了すると、その半導体ウェーハを収容したフープ(物品M)が、半導体ウェーハに次工程の処理を施す他の処理装置12(第2の処理装置)に搬送される。ここで、本実施形態の搬送システム1は、所謂プッシュ方式による搬送を行うため、第1の処理装置における処理が終了すると、次工程の処理を実行する第2の処理装置が確定していない状態であっても、第1の処理装置からフープを搬出し、所定のバッファ4に一時的に保管する。
【0043】
本実施形態において、上位のコントローラ20は、半導体の製造全体を統括するコントローラであり、半導体の製造工程において、第1の処理装置における処理が終了したことを報知する信号を、コントローラ10の信号入力部10aに入力する。コントローラ10は、このような信号が信号入力部10aに入力されると、第1の処理装置から物品Mを搬出してバッファ4まで搬送し、バッファ4に物品Mを一時的に保管する。なお、本実施形態においては、上位のコントローラ20とコントローラ10は別々に構成されているが、これらは一体に構成されていても良い。
【0044】
候補処理装置抽出部10bは、第1の処理装置において処理された半導体ウェーハに対して、次工程の処理を施す第2の処理装置の候補を抽出するように構成されている。即ち、半導体ウェーハに対し、或る処理装置12によって実行された処理の次に実行される次工程の処理は概ね決められているが、工場内に次工程の処理を実行可能な処理装置12が複数存在する場合には、次工程の処理を実行する処理装置12を1つに特定することはできない。
【0045】
ここで、コントローラ10に備えられた候補装置テーブル10eには、第1の処理装置において実行された処理の次に実行される処理を実行可能な全ての処理装置12が、候補処理装置として列挙されている。候補処理装置抽出部10bは、第1の処理装置における処理が終了したことを報知する信号が入力されると、候補装置テーブル10eを参照して、次工程の処理を実行可能な全ての処理装置12を、候補処理装置として抽出するように構成されている。また、第1の処理装置において実行された処理の次に実行され得る処理が複数存在する場合には、それらの処理を実行可能な全ての処理装置12が、候補処理装置抽出部10bによって候補処理装置として抽出される。
【0046】
なお、候補装置テーブル10eは、半導体ウェーハの製造工程に応じて、搬送システム1を利用するユーザが作成しても良い。或いは、新規に導入された搬送システム1を、所定期間プル方式(次工程の処理を行う処理装置が確定された後、その処理装置近傍のバッファに物品Mを保管する搬送方式)等で稼動させ、取得された過去の物品の搬送記録に基づいて自動的に候補装置テーブル10eが生成されるように本発明を構成することもできる。
【0047】
一時保管部選択部10cは、候補処理装置抽出部10bによって抽出された複数の候補処理装置に基づいて、第1の処理装置において処理された物品Mを一時的に保管するバッファ4を選択するように構成されている。即ち、一時保管部選択部10cは、現在使用可能な(現在他の物品Mが保管されていない)全てのバッファ4から、各候補処理装置までの搬送時間に基づいて、物品Mを一時的に保管するバッファ4を選択する。
【0048】
ここで、コントローラ10に備えられた搬送時間データベース10fには、半導体製造工場内の全てのバッファ4から、工場内の全ての処理装置12までの平均的な搬送時間が夫々記憶されている。基本的には、或るバッファ4から、或る処理装置12までの距離が短ければ、その間の搬送時間は比較的短くなり、距離が長ければ、その間の搬送時間は比較的長くなる。しかしながら、実際には、高速で走行可能なイントラベイ軌道6又はインターベイ軌道8を通過するか否かや、搬送車2の通行量が多く混雑することの多いイントラベイ軌道6又はインターベイ軌道8を通過するか否か等によって搬送時間は変化する。このため、搬送時間データベース10fに記憶された各バッファ4と各処理装置12との間の搬送時間は、過去の搬送実績に基づく搬送時間の平均値が記憶されている。
【0049】
なお、物品を搬送すべき距離と搬送時間が概ね比例する搬送システムにおいては、搬送時間に代えて、搬送距離に基づいて物品を一時的に保管するバッファ4を選択するように本発明を構成することもできる。或いは、搬送時間を所定のルールに従ってスコア化し、このスコアに基づいて物品を一時的に保管するバッファ4を選択するように本発明を構成することもできる。
【0050】
一時保管部選択部10cは、候補処理装置抽出部10bによって候補処理装置が抽出されると、現在使用可能な全てのバッファ4から、各候補処理装置までの搬送時間を、搬送時間データベース10fを使用して特定する。さらに、本実施形態において、一時保管部選択部10cは、バッファ4から各候補処理装置までの搬送時間の平均値、及びバッファ4から各候補処理装置までの搬送時間のばらつきに基づいて、物品Mを一時的に保管するバッファ4を選択する。
【0051】
具体的には、一時保管部選択部10cは、数式(1)に示す評価関数fiの値が最小となるバッファ4を選択する。
上式において、costijは、使用可能なi番目のバッファ4から、j番目の候補処理装置までの平均的な搬送時間を表し、αは平均的な搬送時間の平均値に乗じる重み係数、βは平均的な搬送時間の標準偏差(ばらつき)に乗じる重み係数を夫々表している。また、average()はcostijの平均値を表し、stdev()はcostijの標準偏差(ばらつき)を表している。
【0052】
このように、本実施形態においては、バッファ4から各候補処理装置までの搬送時間の平均値、及びバッファ4から各候補処理装置までの搬送時間のばらつき(標準偏差)に、所定の重み係数(α、β)を夫々乗じた数の和に基づいて、この値が最小となるバッファ4が、一時保管部選択部10cによって選択される。具体的には、一時保管部選択部10cは、評価関数fiの値を最小にするバッファ4を選択する。また、本実施形態においては、搬送時間のばらつきを表す指標として標準偏差を使用しているが、搬送時間の分散等、種々の指標を搬送時間のばらつきを表す指標として使用することができる。なお、本実施形態においては、搬送時間の平均値及び搬送時間のばらつきに基づいてバッファ4を選択しているが、これらに加えて、又はこれらに代えて、バッファ4から各候補処理装置までの搬送時間の最大値に基づいて、バッファ4が選択されるように本発明を構成することもできる。
【0053】
即ち、バッファ4から各候補処理装置までの搬送時間の平均値、バッファ4から各候補処理装置までの搬送時間のばらつき、及びバッファ4から各候補処理装置までの搬送時間の最大値のうちの少なくとも1つに基づいてバッファ4が選択されるように本発明を構成することができる。また、バッファ4から各候補処理装置までの搬送時間の平均値、バッファ4から各候補処理装置までの搬送時間のばらつき、及びバッファ4から各候補処理装置までの搬送時間の最大値のうちの少なくとも2つに、所定の重み係数を夫々乗じた数の和に基づいてバッファ4が選択されるように本発明を構成することもできる。
【0054】
なお、バッファ4の選択に使用する評価関数は、適用する搬送システムの特質に応じて設定するのが良い。即ち、バッファ4から次工程の処理装置12までの搬送時間が多くの場合に短ければ、希に搬送時間が長い場合があっても、搬送効率が大きく低下しない搬送システムにおいては、搬送時間の平均値のみを使用した評価関数、又は搬送時間の平均値に乗じる重み係数(α)を大きくした評価関数を用いるのが良い。逆に、バッファ4から次工程の処理装置12までの搬送時間の平均が短くても、希に搬送時間が長い場合があると全体として搬送効率が大きく低下してしまう搬送システムも存在する。このような搬送システムにおいては、搬送時間のばらつき及び/又は搬送時間の最大値を使用した評価関数、又は、搬送時間のばらつき及び/又は搬送時間の最大値に乗じる重み係数を大きくした評価関数を用いるのが良い。
【0055】
次に、コントローラ10の指令信号送信部10dは、搬送車2に対し、第1の処理装置における処理が終了した物品Mを、一時保管部選択部10cによって選択されたバッファ4に搬送するよう、指令信号を送信するように構成されている。また、指令信号送信部10dは、バッファ4に一時的に保管されている物品Mに対して、次工程の処理を行う処理装置12が確定したとき、バッファ4から、その処理装置12へ物品Mを搬送するよう、指令信号を送信するように構成されている。
【0056】
次に、図4乃至図6を参照して、本発明の第1実施異形態による搬送システム1の作用を説明する。
図4は、本発明の第1実施形態による搬送システムに備えられているコントローラにおける処理を示すフローチャートである。図5は、本発明の第1実施形態による搬送システムを適用した半導体製造工場の一例を模式的に表した平面図である。図6は、各バッファから各候補処理装置までの搬送時間の一例を示す図である。
【0057】
なお、図1においては工場内に配置されている各処理装置を符号「12」で指示したが、図5においては個々の処理装置を区別して指示するために符号「12a」、「12b」...として示している。同様に、図1においては各バッファを符号「4」で指示し、各フェーズを符号「14」で指示したが、図5においては、夫々、符号「4a」、「4b」...、符号「14a」、「14b」...として示している。
【0058】
まず、図4のステップS1においては、上位のコントローラ20からの指令信号が、コントローラ10の信号入力部10aに入力される。上位のコントローラ20からの指令信号には、或る処理装置12における物品Mに対する処理が終了した旨の信号、或るバッファ4に一時的に保管されている物品Mに対して次工程の処理を行う処理装置12が、物品Mを受け入れ可能になった旨の信号等が含まれる。例えば、図5に示す例において、第1のフェーズ14aに属する第1の処理装置12aにおいて、物品Mに対する処理が終了した旨の信号が、信号入力部10aに入力される。
【0059】
次に、ステップS2においては、コントローラ10の候補処理装置抽出部10bが、候補装置テーブル10eを参照して、第1の処理装置12aにおいて処理された物品Mに対して次の処理を行うことが予想される第2の処理装置の候補が複数抽出される。例えば、図5に示す例において、第1の処理装置12aによって物品Mに対する工程kの処理が終了すると、工程kの次工程である工程k+1を実行可能な処理装置が、候補処理装置抽出部10bによって抽出される。例えば、工程k+1の処理は第1のフェーズ14a内では処理装置12bにより実行可能であるが、工程k+1の処理は、第2のフェーズ14b内では処理装置12c、第3のフェーズ14c内では処理装置12dによっても実行可能である。従って、次の処理を行うことが予想される候補処理装置として、処理装置12b、12c、12dが抽出される。ここで、候補処理装置抽出部10bによって抽出される候補処理装置は、多くの場合、互いに異なるフェーズに属しているため、各候補処理装置には、互いに異なるイントラベイ軌道6を介して物品が搬送される。
【0060】
さらに、ステップS3においては、コントローラ10の一時保管部選択部10cによって、現時点において使用可能なバッファ4に対する評価関数fの値が数式(1)を使用して計算される。例えば、図5に示す例では、現時点において使用可能なバッファ(物品を一時保管可能なバッファ)として、バッファ4a、4b、4cが存在している。従って、この例においては、図6に示すように、3つのバッファ4a、4b、4cから、候補処理装置である3つの処理装置12b、12c、12dへの搬送時間に基づいて評価関数fの値が計算される。これらの各バッファ4から各処理装置12への平均的な搬送時間は、コントローラ10の搬送時間データベース10fに記憶されている。
【0061】
即ち、図6に示すように、1番目のバッファ4aから1番目の候補処理装置である処理装置12bへの平均的な搬送時間は30秒であり、1番目のバッファ4aから2番目、3番目の候補処理装置である処理装置12c、12dへの平均的な搬送時間は、夫々、90秒、150秒である。同様に、2番目のバッファ4bから1番目、2番目、3番目の候補処理装置である処理装置12b、12c、12dへの平均的な搬送時間は、夫々、90秒、30秒、90秒であり、3番目のバッファ4cから1番目、2番目、3番目の候補処理装置である処理装置12b、12c、12dへの平均的な搬送時間は、夫々、150秒、90秒、30秒である。
【0062】
次に、これらの搬送時間に基づいて、数式(1)を使用して、評価関数fiの値が計算される。なお、下記に示す例では、数式(1)の重み係数α=1、β=1としている。
まず、1番目のバッファ4aから、1番乃至3番の候補処理装置(処理装置12b、12c、12d)への搬送時間は、夫々、30秒、90秒、150秒であるから、1番目のバッファ4aについては、各候補処理装置への搬送時間の平均値は90秒と計算される。さらに、1番目のバッファ4aから、各候補処理装置への搬送時間の標準偏差は約48秒と計算される。従って、1番目のバッファ4aに関する評価関数f1の値は、約138秒と計算される。
【0063】
同様に、2番目のバッファ4bから、1番乃至3番の候補処理装置への搬送時間は、夫々、90秒、30秒、90秒であるから、2番目のバッファ4bについては、各候補処理装置への搬送時間の平均値は70秒と計算される。さらに、2番目のバッファ4bから、各候補処理装置への搬送時間の標準偏差は約28秒と計算される。従って、2番目のバッファ4bに関する評価関数f2の値は、約98秒と計算される。さらに、3番目のバッファ4cから、1番乃至3番の候補処理装置への搬送時間は、夫々、150秒、90秒、30秒であるから、3番目のバッファ4cについては、各候補処理装置への搬送時間の平均値は90秒と計算される。さらに、3番目のバッファ4cから、各候補処理装置への搬送時間の標準偏差は約48秒と計算される。従って、3番目のバッファ4cに関する評価関数f3の値は、約138秒と計算される。
【0064】
次いで、図4のステップS4において、コントローラ10の一時保管部選択部10cは、各バッファ4について計算した評価関数fiの値が最小となるバッファを選択する。即ち、図6に示す例では、1番目のバッファ4aに対する評価関数f1=138秒、2番目のバッファ4bに対する評価関数f2=98秒、3番目のバッファ4cに対する評価関数f3=138秒と計算されるので、評価関数の値が最も小さい2番目のバッファ4bが選択される。
【0065】
さらに、ステップS4において、コントローラ10の指令信号送信部10dは、処理装置12a(図5)における処理が終了した物品Mを、一時保管部選択部10cによって選択されたバッファ4bに搬送するよう、搬送車2に制御信号を送信する。これにより、処理装置12aにおいて処理された物品Mは、搬送車2により、バッファ4bに搬送される。次いで、図4のフローチャートにおける処理はステップS1に戻り、ステップS1~S5の処理が繰り返し実行される。
【0066】
また、選択されたバッファ4bに一時的に保管されていた物品Mに対し、次工程の処理を行う処理装置12が決定されると、指令信号が、上位のコントローラ20からコントローラ10に入力される。コントローラ10の指令信号送信部10dは、この指令信号に基づいて搬送車2を制御し、バッファ4bに保管されていた物品Mを指定された処理装置12に搬送する。上述したように、次工程の処理を行う第2の処理装置として処理装置12bが指定された場合には、この処理装置12bへ物品Mを搬送するために要する時間は約90秒となる。同様に、第2の処理装置として処理装置12cが指定された場合には搬送時間は約30秒となり、処理装置12dが指定された場合には搬送時間は約90秒となる。
【0067】
このように、候補処理装置抽出部10bによって抽出された複数の候補処理装置に基づいて、第1の処理装置12aにおいて処理された物品を一時的に保管するバッファとして、バッファ4bを選択することにより、次工程の処理を行う第2の処理装置への搬送時間を約90秒以下に抑えることができる。これに対して、比較例として、処理装置12aにおいて処理された物品Mを、常に、処理装置12aと同一のフェーズ14aに属するバッファ4aに一時的に保管しておくことも考えられる。しかしながら、この比較例では、次工程の処理を行う第2の処理装置としてフェーズ14cに属する処理装置12dが指定されると、この処理装置12dまでの搬送時間に約150秒を要することになり、搬送システム1による搬送効率が低下してしまう。
【0068】
本発明の第1実施形態の搬送システム1によれば、第1の処理装置12aにおいて物品Mの処理が終了すると、次工程の処理を行う第2の処理装置が決定していない場合であっても物品Mをバッファ4に搬送するので、物品Mが第1の処理装置12aの近傍に止まることがなく、搬送効率を向上させることができる。また、本実施形態の搬送システム1によれば、候補処理装置抽出部10bによって抽出された複数の候補処理装置12b、12c、12dに基づいて、第1の処理装置12aにおいて処理された物品Mを一時的に保管するバッファ4bが選択される。このため、各候補処理装置12b、12c、12dに物品Mを搬送しやすいバッファ4を選択することができ、搬送効率を更に高めることができる。
【0069】
また、本実施形態の搬送システム1によれば、候補処理装置抽出部10bによって抽出された各候補処理装置12b、12c、12dまでの搬送時間(図6)に基づいてバッファ4が選択されるので、各候補処理装置12b、12c、12dまでの搬送時間が短くなるようにバッファ4を選択することができ、搬送時間を短縮することができる。
【0070】
さらに、本実施形態の搬送システム1によれば、搬送時間の平均値、及び搬送時間のばらつき(標準偏差)に基づいてバッファ4が選択される(数式1)。このため、次工程を行う処理装置が、候補処理装置12b、12c、12dの中の、どの処理装置に決定された場合でも、極端に搬送時間が長くなるのを回避することができ、総合的な搬送効率を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態の搬送システム1によれば、搬送時間の平均値、及び搬送時間のばらつきに、所定の重み係数(数式1のα、β)を夫々乗じた数の和に基づいてバッファ4が選択されるので、搬送システムの特質に応じて適切なバッファ4を選択することができる。
【0072】
さらに、本実施形態の搬送システム1によれば、コントローラ10が候補装置テーブル10e(図3)を備えているので、候補処理装置抽出部10bによって、迅速に候補処理装置を抽出することができる。
【0073】
また、本実施形態の搬送システム1によれば、搬送車2の走行軌道が複数のイントラベイ軌道6とインターベイ軌道8から構成され、候補処理装置抽出部10bによって抽出される処理装置12が、互いに異なるイントラベイ軌道6を介して物品Mが搬送されるものであっても、適切な位置にあるバッファ4を選択することができ、搬送効率を向上させることができる。
【0074】
次に、図7及び図8を参照して、本発明の第2実施形態による搬送システムを説明する。図7は、本発明の第2実施形態による搬送システムを概略的に示す平面図である。図8は、各バッファから各候補処理装置までの搬送時間の一例を示す図である。
【0075】
本実施形態の搬送システムは、システム全体が2つの棟に分散して設けられ、各棟に設けられたインターベイ軌道が、中間インターベイ軌道によって接続されている点が、上述した本発明の第1実施形態とは異なっている。従って、ここでは、本発明の第2実施形態の、第1実施形態とは異なる点のみを説明し、同様の構成、作用、効果については説明を省略する。
【0076】
図7に示すように、本発明の第2実施形態による搬送システム100は、第1の棟105aと、第2の棟105bに分散して設けられている。第1の棟105a内には、環状の第1インターベイ軌道108a、及びこの第1インターベイ軌道108aに接続された複数のイントラベイ軌道106が配置されている。一方、第2の棟105b内には、環状の第2インターベイ軌道108b、及びこの第2インターベイ軌道108bに接続された複数のイントラベイ軌道106が配置されている。さらに、第1の棟105a内の第1インターベイ軌道108aと、第2の棟105b内の第2インターベイ軌道108bが、中間インターベイ軌道108cによって接続されている。
【0077】
また、本実施形態の搬送システム100にも、物品Mを搬送する複数の搬送車が備えられており、これらの搬送車は、各インターベイ軌道、各イントラベイ軌道に沿って物品を搬送することができる。なお、図7においては、図面を簡単化するため、搬送車の図示を省略している。さらに、本実施形態においても、各イントラベイ軌道106に沿って複数の処理装置が配置されており、物品に対して各処理工程を実行するように構成されている。なお、図7においては、図面を簡単化するため、処理装置112a、112b、112cのみを示しているが、実際には各イントラベイ軌道106に沿って多数の処理装置が配置されている。
【0078】
また、本実施形態においても、各イントラベイ軌道106に沿って複数の一時保管部であるバッファが配置されており、或る処理装置における処理が終了した物品を一時的に保管するように構成されている。なお、図7においては、図面を簡単化するため、バッファ104a、104b、104cのみを示しているが、実際には各イントラベイ軌道106又は各インターベイ軌道に沿って多数のバッファが配置されている。
【0079】
さらに、搬送システム100はコントローラ110を有し、コントローラ110は、搬送車(図7には図示省略)を制御して、第1の処理装置において処理された物品をバッファに搬送すると共に、このバッファに物品が保管された後で、その物品に対して次工程の処理を行う第2の処理装置が決定されると、物品を第2の処理装置に搬送する。
【0080】
まず、搬送システム100において、例えば、第1の処理装置112aにおける物品の処理が完了し、次工程の処理を行う候補処理装置として処理装置112b、112cが抽出された場合について評価関数fの値を計算する。ここで、候補処理装置として抽出される処理装置112b、112cは、多くの場合、互いに異なる棟に配置されており、これらの処理装置には互いに異なる棟に設けられたイントラベイ軌道106を介して物品が搬送される。
【0081】
ここで、処理装置112bの近傍の、バッファ104aに物品を一時的に保管した場合には、図8に示すように、処理装置112bまでの平均的な搬送時間は30秒となり、処理装置112cまでの平均的な搬送時間は340秒となる。即ち、本実施形態のように、搬送システム100が第1の棟105a及び第2の棟105bに分散している場合には、一時的に保管したバッファと同一の棟内の候補処理装置に物品を搬送する時間は短いものの、保管したバッファとは異なる棟内の候補処理装置に物品を搬送する搬送時間が極端に長くなる。この結果、バッファ104aについては、各候補処理装置への搬送時間の平均値は185秒と計算される。さらに、バッファ104aから、各候補処理装置への搬送時間の標準偏差は約155秒と計算される。従って、バッファ104aに関する評価関数faの値は、数式(1)より、約340秒と計算される(重み係数α=1、β=1とした)。
【0082】
次に、候補の処理装置112b、112cの何れからも比較的離れているバッファ104bに物品を一時的に保管した場合、図8に示すように、処理装置112bまでの平均的な搬送時間は190秒となり、処理装置112cまでの平均的な搬送時間は150秒となる。即ち、候補の処理装置112b、112cの何れからも離れた、両者の中間地点に近いバッファ104bに物品を保管することにより、各候補処理装置までの搬送時間の差が小さくなる。この結果、バッファ104bについては、各候補処理装置への搬送時間の平均値は170秒と計算される。さらに、バッファ104bから、各候補処理装置への搬送時間の標準偏差は約20秒と計算される。従って、バッファ104bに関する評価関数fbの値は、約190秒と計算される(重み係数α=1、β=1とした)。
【0083】
このため、処理装置112aにおける処理が終了した時点において使用可能なバッファが、バッファ104a、104bのみであった場合には、コントローラ110の一時保管部選択部(図7には図示省略)によって、評価関数の値が小さくなるバッファ104bが選択される。このように、複数の棟に分散している搬送システム100では、物品を、別の棟へ搬送する場合と、同一の棟内で搬送する場合で大きく搬送時間がばらつき、搬送時間の標準偏差が大きくなる。このため、搬送時間のばらつきが少なくなるバッファが選択されやすくなる。
【0084】
さらに、バッファ104cのように、中間インターベイ軌道108cに沿ってバッファを設けることが可能な場合には、搬送時間のばらつきを抑えることができる。即ち、中間インターベイ軌道108cに沿って配置されているバッファ104cに物品を一時的に保管した場合、図8に示すように、処理装置112bまでの平均的な搬送時間は110秒となり、処理装置112cまでの平均的な搬送時間は170秒となる。この結果、バッファ104cについては、各候補処理装置への搬送時間の平均値は140秒と計算される。さらに、バッファ104cから、各候補処理装置への搬送時間の標準偏差は約30秒と計算される。従って、バッファ104cに関する評価関数fcの値は約170秒と計算され(重み係数α=1、β=1とした)、評価関数の値をさらに小さくすることができる。
【0085】
本発明の第2実施形態の搬送システム100によれば、インターベイ軌道108a、108b、108cが複数の棟105a、105bに夫々設けられたイントラベイ軌道106を接続するように構成されている。そして、候補処理装置抽出部によって抽出される処理装置112b、112cが、互いに異なる棟に設けられたイントラベイ軌道106を介して物品Mが搬送されるものであっても、適切な位置にあるバッファ104b又は104cを選択することができ、搬送効率を向上させることができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態においては、天井搬送車が天井に設けられた走行軌道に沿って走行するオーバーヘッド・ホイスト・トランスポートを使用した搬送システムに、本発明が適用されていた。しかしながら、搬送車が床面上の軌道(通路)を走行する無人搬送車(AGV)や、有軌道式無人搬送車(RGV)を使用した搬送システム等、種々の搬送システムに本発明を適用することができる。また、上述した実施形態においては、物品として、半導体ウェーハを収容したフープや、レチクルを収容したレチクルポッドが搬送されていたが、任意の物品を搬送する搬送システムに本発明を適用することができる。なお、上述した実施形態においては、各搬送車が走行する軌道がレールによって構成されていたが、各搬送車が走行する軌道は、「レール」のような物理的な部材によって構成されたものでなくても良い。
【符号の説明】
【0087】
1 搬送システム
2 搬送車(天井搬送車)
4 バッファ(一時保管部)
6 イントラベイ軌道(走行軌道)
6a 分岐軌道
8 インターベイ軌道(走行軌道)
10 コントローラ
10a 信号入力部
10b 候補処理装置抽出部
10c 一時保管部選択部
10d 指令信号送信部
10e 候補装置テーブル
10f 搬送時間データベース
12 処理装置
14 フェーズ
15 走行機構
16 スライド機構
18 把持機構
18a 懸垂ベルト
18b グリッパ
20 上位のコントローラ
22a 固定棚板
22b 吊下ロッド
100 搬送システム
104a バッファ
104b バッファ
104c バッファ
105a 第1の棟
105b 第2の棟
106 イントラベイ軌道
108a 第1インターベイ軌道
108b 第2インターベイ軌道
108c 中間インターベイ軌道
112a 処理装置
112b 処理装置
112c 処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8