(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】乗員保護補助装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20241008BHJP
B60N 2/888 20180101ALI20241008BHJP
B60N 2/879 20180101ALI20241008BHJP
B60N 2/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/888
B60N2/879
B60N2/14
(21)【出願番号】P 2022080053
(22)【出願日】2022-05-16
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 光由
(72)【発明者】
【氏名】石井 篤史
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0061561(US,A1)
【文献】特開2020-179826(JP,A)
【文献】特開2020-175895(JP,A)
【文献】特開2004-268818(JP,A)
【文献】特開2011-164825(JP,A)
【文献】特開2020-138721(JP,A)
【文献】特開2017-222337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/42
B60N 2/888
B60N 2/879
B60N 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて乗員が車両後方側を向いた状態で着座可能なシートと、
前記シートのヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置を検出可能な頭部検出センサと、
前記頭部検出センサの検出結果に基づいて、乗員への注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行するか否かを判定する制御部と、
を有する乗員保護補助装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記シートのリクライニング角度と、前記頭部検出センサの検出結果とに基づいて、乗員への注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行するか否かを判定する請求項1に記載の乗員保護補助装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両の速度と、前記頭部検出センサの検出結果とに基づいて、乗員への注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行するか否かを判定する請求項1に記載の乗員保護補助装置。
【請求項4】
前記制御部は、対向車線の有無に応じて判定時の閾値を変更する請求項3に記載の乗員保護補助装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記頭部検出センサの検出結果に基づいて乗員への注意喚起が必要と判定した場合、車両に搭載されたスピーカから音声によって乗員へ注意喚起を行う請求項1~4の何れか1項に記載の乗員保護補助装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記頭部検出センサの検出結果に基づいて制限速度の設定が必要と判定した場合、車速の上限値を設定する請求項1~4の何れか1項に記載の乗員保護補助装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記頭部検出センサの検出結果に基づいてリクライニング角度の変更が必要と判定した場合、前記シートを制御してシートバックを起立する方向へ回動させる請求項1~4の何れか1項に記載の乗員保護補助装置。
【請求項8】
前記頭部検出センサは、乗員を車両後方側から撮像するカメラを含んで構成されている請求項1~4の何れか1項に記載の乗員保護補助装置。
【請求項9】
前記ヘッドレストには、赤外線の反射率が高い材質によって模様が織り込まれており、
前記カメラは、赤外線カメラである請求項8に記載の乗員保護補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乗員が前方を向いて座席に着座している状態において、後突(後面衝突)が予測された場合、座席を所定の後突保護状態に遷移させる装置が開示されている。具体的には、特許文献1に記載の装置では、後突が予測された場合、ヘッドレストの前面を車両前方へ突出させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の装置では、乗員が前方向きに着座している状態で後突から乗員を保護することができる。一方、乗員が後向きに着座している状態で前突(前面衝突)した場合、車両が進行方向に走行していることから後突時よりも大きな衝突荷重が入力される可能性が高いため、乗員の頭部がヘッドレストを乗り越える可能性があり、対策が必要となる。
【0005】
本発明は、後向きに着座している乗員の衝突保護性能を向上させることができる乗員保護補助装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る乗員保護補助装置は、車両に搭載されて乗員が車両後方側を向いた状態で着座可能なシートと、前記シートのヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置を検出可能な頭部検出センサと、前記頭部検出センサの検出結果に基づいて、乗員への注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行するか否かを判定する制御部と、を有する。
【0007】
請求項1に係る乗員保護補助装置では、車両に搭載されたシートは、乗員が車両後方側を向いた状態で着座可能となっている。また、頭部検出センサは、シートのヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置を検出可能とされている。さらに、制御部は、頭部検出センサの検出結果に基づいて、乗員への注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行するか否かを判定する。これにより、例えば、ヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置が比較的高い場合、すなわち、ヘッドレストと乗員の頭部との差分が比較的小さい場合、制御部によって乗員への注意喚起を実行すると判定され、乗員に対して注意喚起が行われる。
【0008】
また、例えば、ヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置が比較的高い場合、制御部によって制限速度の設定を実行すると判定され、車両に制限速度が設定されることで、車速が大きい状態での衝突が抑制される。さらに、例えば、ヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置が比較的高い場合、制御部によってリクライニング角度の変更を実行すると判定され、シートバックが起立する方向へ回動されることで、前突時に乗員の頭部がヘッドレストを乗り越えにくくなる。
【0009】
請求項2に係る乗員保護補助装置は、請求項1において、前記制御部は、前記シートのリクライニング角度と、前記頭部検出センサの検出結果とに基づいて、乗員への注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行するか否かを判定する。
【0010】
請求項2に係る乗員保護補助装置では、リクライニング角度が大きく安楽姿勢となっている場合、かつ、ヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置が比較的高い場合に、前突に対する対策が実行される。これにより、ヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置のみで前突に対する対策の実行要否を判定する構成と比較して、不必要に前突に対する対策が実行されるのを抑制することができ、乗員の快適性を確保することができる。
【0011】
請求項3に係る乗員保護補助装置は、請求項1において、前記制御部は、前記車両の速度と、前記頭部検出センサの検出結果とに基づいて、乗員への注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行するか否かを判定する。
【0012】
請求項3に係る乗員保護補助装置では、車速が大きい場合、かつ、ヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置が比較的高い場合に、前突に対する対策が実行される。これにより、ヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置のみで前突に対する対策の実行要否を判定する構成と比較して、不必要に前突に対する対策が実行されるのを抑制することができ、乗員の快適性を確保することができる。
【0013】
請求項4に係る乗員保護補助装置は、請求項3において、前記制御部は、対向車線の有無に応じて判定時の閾値を変更する。
【0014】
請求項4に係る乗員保護補助装置では、対向車線の有無に応じて前突に対する対策の要否を判定する判定時の閾値を変更する。ここで、対向車線が有る場合には、対向車線が無い場合よりも前突の可能性が高くなる。また、対向車との衝突時には、同一車線の先行車両との衝突時よりも入力される衝突荷重が大きくなる可能性が高い。このため、対向車線が有る場合に判定時の閾値を下げることで、前突に対する対策が実行されやすくなり、乗員の保護性能を向上させることができる。
【0015】
請求項5に係る乗員保護補助装置は、請求項1~4の何れか1項において、前記制御部は、前記頭部検出センサの検出結果に基づいて乗員への注意喚起が必要と判定した場合、車両に搭載されたスピーカから音声によって乗員へ注意喚起を行う。
【0016】
請求項5に係る乗員保護補助装置では、スピーカから音声が出力されることで、例えば、乗員に対して前突に対する対策が不十分である旨の注意喚起が行われる。これにより、乗員にシートポジションの変更などを促すことができる。
【0017】
請求項6に係る乗員保護補助装置は、請求項1~4の何れか1項において、前記制御部は、前記頭部検出センサの検出結果に基づいて制限速度の設定が必要と判定した場合、車速の上限値を設定する。
【0018】
請求項6に係る乗員保護補助装置では、車速の上限値を設定することで、前突時に車両に入力される衝突荷重が大きくなる速度域で車両が走行するのを抑制することができる。
【0019】
請求項7に係る乗員保護補助装置は、請求項1~4の何れか1項において、前記制御部は、前記頭部検出センサの検出結果に基づいてリクライニング角度の変更が必要と判定した場合、前記シートを制御してシートバックを起立する方向へ回動させる。
【0020】
請求項7に係る乗員保護補助装置では、シートバックが起立する方向へ回動されることで、前突時に乗員が車両前方側へ慣性移動した場合に、乗員がシートバックに沿ってずり上がるのを抑制することができる。
【0021】
請求項8に係る乗員保護補助装置は、請求項1~4の何れか1項において、前記頭部検出センサは、乗員を車両後方側から撮像するカメラを含んで構成されている。
【0022】
請求項8に係る乗員保護補助装置では、カメラによって乗員を車両後方側から撮像することで、他の方向からカメラで撮像する構成と比較して、ヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置を高精度に検出することができる。
【0023】
請求項9に係る乗員保護補助装置は、請求項8において、前記ヘッドレストには、赤外線の反射率が高い材質によって模様が織り込まれており、前記カメラは、赤外線カメラである。
【0024】
請求項9に係る乗員保護補助装置では、赤外線カメラによってヘッドレストに織り込まれた模様を検出することで、夜間であってもヘッドレストに対する乗員の頭部の相対位置を高精度に検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明に係る乗員保護補助装置では、後向きに着座している乗員の衝突保護性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る乗員保護補助装置を備えた車両を車両幅方向から見た概略側面図である。
【
図2】実施形態における制御部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る乗員保護補助装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】実施形態におけるシートを赤外線カメラで撮像した画像データを示す図であり、頭部の相対位置を検出する一例が示されている。
【
図5】頭部の相対位置を検出する他の例が示されている。
【
図6】頭部の相対位置を検出するさらに他の例が示されている。
【
図7】ヘッドレストに対する頭部の相対高さ及びリクライニング角度に対する判定閾値を示す
【
図8】実施形態における乗員保護補助処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】変形例におけるシートを赤外線カメラで撮像した画像データを示す図であり、
【発明を実施するための形態】
【0027】
実施形態に係る乗員保護補助装置10について、図面を参照して説明する。
【0028】
図1に示されるように、本実施形態の乗員保護補助装置10は、車両Vに搭載されており、シート12と頭部検出センサ18と制御部19とを含んで構成されている。なお、本実施形態の車両Vは一例として、自動運転が可能とされている。すなわち、乗員Pが運転することなく、車両Vの加減速及び操舵が制御されるように構成されている。
【0029】
ここで、本実施形態では、シート12は、車両前方側に位置する前席シート12Aと、車両後方側に位置する後席シート12Bとを含んで構成されている。また、前席シート12Aは、シートの向きを変更可能に構成されており、前席シート12Aの向きを車両後方側へ向けることで、乗員Pが車両後方側を向いた状態で着座可能となり、前席シート12Aの乗員Pと後席シート12Bの乗員Pとが対面した状態となる。
【0030】
前席シート12A及び後席シート12Bはそれぞれ、乗員Pの臀部及び大腿部を下方から支持可能なシートクッション15と、乗員Pの背部を支持可能なシートバック16と、乗員Pの頭部を支持可能なヘッドレスト17とを含んで構成されている。
【0031】
ここで、シートバック16は、シートクッション15に対して車両前後方向に回動可能に構成されており、運転時におけるリクライニング角度よりもシートバック16を傾倒させることができるように構成されている。なお、以下の説明において、リクライニング角度は、シートバック16が垂直である状態を0度とした場合の傾倒角度とする。
【0032】
また、本実施形態では、シートバック16及びヘッドレスト17には、赤外線の反射率が高い材質によって模様が織り込まれている。
図4に示されるように、本実施形態のシートバック16及びヘッドレスト17は、赤外線の反射率が高い材質が織り込まれているため、赤外線カメラで撮像した際に、反射するように構成されている。
【0033】
車両Vの車室内における天井部には、頭部検出センサ18が設けられている。頭部検出センサ18は、前席用赤外線カメラ18A及び後席用赤外線カメラ18Bを含んで構成されている。
【0034】
前席用赤外線カメラ18Aは、車両後部における天井部に設けられており、前席シート12Aへ向けられている。そして、前席用赤外線カメラ18Aによって前席シート12Aに着座した乗員Pが撮像される。
【0035】
後席用赤外線カメラ18B、車両前部における天井部に設けられており、後席シート12Bへ向けられている。そして、後席用赤外線カメラ18Bによって後席シート12Bに着座した乗員Pが撮像される。
【0036】
ここで、本実施形態では、車両Vに制御部19が搭載されている。
【0037】
(乗員保護補助装置10のハードウェア構成)
図2は、制御部19のハードウェア構成を示すブロック図である。この
図2に示されるように、制御部19は、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)20、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)24、ストレージ26、通信I/F(通信インタフェース)28及び入出力I/F(入出力インタフェース)30を含んで構成されている。各構成は、バス32を介して相互に通信可能に接続されている。
【0038】
CPU20は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU20は、ROM22又はストレージ26からプログラムを読み出し、RAM24を作業領域としてプログラムを実行する。CPU20は、ROM22又はストレージ26に記録されているプログラムに従って、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。
【0039】
ROM22は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM24は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ26は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。本実施形態では、ROM22又はストレージ26には、各種処理を行うためのプログラム及び各種データなどが格納されている。
【0040】
通信I/F28は、制御部19が図示しないサーバなどの機器と通信するためのインタフェースであり、たとえば、CAN(Controller Area Network)、イーサネット(登録商標)、LTE(Long Term Evolution)、FDDI(Fiber Distributed Data Interface)、Wi-Fi(登録商標)などの規格が用いられる。
【0041】
入出力I/F30には、前席用赤外線カメラ18A、後席用赤外線カメラ18B、前席シート12A、後席シート12B、スピーカ34、周辺センサ36及び自動運転ECU(Electronic Control Unit)38が電気的に接続されている。
【0042】
制御部19は、入出力I/F30を介して前席用赤外線カメラ18Aで撮像された画像を取得する。また、制御部19は、入出力I/F30を介して後席用赤外線カメラ18Bで撮像された画像を取得する。
【0043】
制御部19は、入出力I/F30を介して前席シート12Aのリクライニング角度を取得できるように構成されている。また、前席シート12Aには図示しない電動のリクライナが搭載されており、制御部19によってリクライナを作動させることで、前席シート12Aのリクライニング角度を変更できるように構成されている。
【0044】
制御部19は、入出力I/F30を介して後席シート12Bのリクライニング角度を取得できるように構成されている。また、後席シート12Bには図示しない電動のリクライナが搭載されており、制御部19によってリクライナを作動させることで、後席シート12Bのリクライニング角度を変更できるように構成されている。
【0045】
スピーカ34は、車室内に設けられて乗員Pへ音を出力可能に構成されており、制御部19からの信号に基づいて所定の音を出力する。
【0046】
周辺センサ36は、車両Vの周囲に設けられたセンサ群によって構成されており、車両Vの周囲の状況を検出する。
【0047】
自動運転ECU38は、車両Vのスロットル開度を変更するスロットルアクチュエータ、車両Vの制動力を変更するブレーキアクチュエータ、及び車両Vの操舵量を変更する操舵アクチュエータと接続されており、車両Vを自動的に走行させる自動運転処理を行う。
【0048】
(乗員保護補助装置10の機能構成)
乗員保護補助装置10は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。乗員保護補助装置10が実現する機能構成について
図3を参照して説明する。
【0049】
図3に示されるように、乗員保護補助装置10は、機能構成として、頭部位置取得部42、リクライニング角度取得部44、対向車線情報取得部46、注意喚起部48、制限速度設定部50及びリクライニング角度制御部52を含んで構成されている。なお、各機能構成は、CPU20がROM22又はストレージ26に記憶されたプログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0050】
頭部位置取得部42は、シート12のヘッドレスト17に対する乗員Pの頭部の相対位置を取得する。具体的には、頭部位置取得部42は、前席用赤外線カメラ18Aで撮像された画像情報に基づいて前席シート12Aの乗員Pの頭部の相対位置を取得する。また、頭部位置取得部42は、後席用赤外線カメラ18Bで撮像された画像情報に基づいて後席シート12Bの乗員Pの頭部の相対位置を取得する。
【0051】
ここで、
図4を参照して後席シート12Bに着座した乗員Pの頭部位置を取得する方法の一例について説明する。
図4に示されるように、前席用赤外線カメラ18Aで撮像した画像は、赤外線の反射率が低い乗員Pが暗く表示され、シートバック16及びヘッドレスト17が明るく表示される。このため、画像処理を行うことで、ヘッドレスト17の上端と乗員Pの頭部HEの上端とを検出することができ、頭部位置取得部42は、このヘッドレスト17の上端と頭部HEとの高さの差分H1を頭部HEの相対位置として取得する。このため、ヘッドレスト17に対する乗員Pの頭部HEの相対位置が高いほど、頭部位置取得部42が取得する頭部HEの相対位置は小さくなる。
【0052】
なお、
図4に示した例に限定されず、他の方法で頭部HEの相対位置を取得してもよい。例えば、
図5及び
図6に示される方法で頭部HEの相対位置を取得してもよい。
【0053】
図5に示される方法では、頭部位置取得部42は、ヘッドレスト17の上端と頭部HEとの高さの差分H1と、ヘッドレスト17の上端と肩の高さの差分H2とに基づいて頭部HEの相対位置を算出する。この
図5の方法では、頭部HEの位置を正確に検出できかった場合であっても、差分H2を考慮して頭部HEの高さを推測することができる。
【0054】
図6に示される方法では、頭部位置取得部42は、ヘッドレスト17の上端と乗員Pの目の高さの差分H3を頭部HEの相対位置として取得する。目の高さは、例えば、両目の位置を検出し、中点の高さを目の高さとしてもよい。なお、前席用赤外線カメラ18Aによって乗員Pの目を検出することが可能であるが、
図6では説明の便宜上、目の図示していない。
【0055】
図3のリクライニング角度取得部44は、シート12のリクライニング角度を取得する。具体的には、リクライニング角度取得部44は、前席シート12Aのリクライナからの信号により前席シート12Aのリクライニング角度を取得する。また、リクライニング角度取得部44は、後席シート12Bのリクライナからの信号により後席シート12Bのリクライニング角度を取得する。
【0056】
対向車線情報取得部46は、車両Vの走行車線に隣接する対向車線についての情報を取得する。具体的には、対向車線情報取得部46は、周辺センサ36からの信号、及びナビゲーションシステムに記憶された情報などに基づいて、走行車線に隣接する対向車線の情報を取得する。なお、ここでいう対向車線は、走行車線と隣接するものだけを含む。このため、中央分離帯を挟んで対向車線がある場合、対向車線情報取得部46は、走行車線隣接する対向車線は無い、と判断する。
【0057】
注意喚起部48は、頭部位置取得部42で取得された頭部HEの相対位置H1に基づいて乗員Pへの注意喚起が必要と判定した場合、車両Vに搭載されたスピーカ34から音声によって乗員Pへ注意喚起を行う。また、注意喚起部48は、車両Vに搭載された図示しないモニタなどに表示することで乗員Pへ注意喚起を行ってもよい。
【0058】
ここで、本実施形態の注意喚起部48は一例として、シート12のリクライニング角度と、頭部位置取得部42によって取得された頭部HEの相対位置H1とに基づいて、注意喚起を行う。具体的には、注意喚起部48は、
図7に示される閾値L1よりも頭部HEの相対位置H1が小さい場合に、乗員Pへの注意喚起を行う。
【0059】
すなわち、リクライニング角度が所定の角度θ以下の場合、頭部HEの相対位置がHAよりも小さい場合に、乗員Pへの注意喚起を行う。また、リクライニング角度が所定の角度θを超えると、リクライニング角度に応じて変動した閾値L1よりも頭部HEの相対位置が小さい場合に、乗員Pへの注意喚起を行う。リクライニング角度θは、例えば、30°に設定されており、リクライニング角度が30°を超えると、前突による乗員Pの慣性移動時に頭部HEがヘッドレスト17を乗り越える可能性が高くなるため、注意喚起の閾値を上げて頭部HEの相対位置が比較的大きい場合でも注意喚起が行われるようになっている。
【0060】
制限速度設定部50は、頭部位置取得部42で取得された頭部HEの相対位置に基づいて車両Vの制限速度の設定が必要と判定した場合、車速Vの上限値を設定する。すなわち、制限速度設定部50は、自動運転ECU38に対して制限速度を設定させることで、自度運転時の上限速度を下げる。
【0061】
具体的には、制限速度設定部50は、
図7に示される閾値L2よりも頭部HEの相対位置H1が小さい場合に、制限速度を設定する。すなわち、リクライニング角度がθ以下の場合、頭部HEの相対位置H1がHBよりも小さい場合に、制限速度を設定する。また、リクライニング角度がθを超えると、リクライニング角度に応じて変動した閾値L2よりも頭部HEの相対位置が小さい場合に、制限速度を設定する。
【0062】
リクライニング角度制御部52は、頭部位置取得部42で取得された頭部HEの相対位置に基づいてシート12のリクライニング角度の変更が必要と判定した場合、シート12を制御してシートバック16を起立する方向へ回動させる。
【0063】
具体的には、リクライニング角度制御部52は、所定の閾値よりも頭部HEの相対位置が小さい場合に、シートバック16を起立する方向へ回動させる。すなわち、前席シート12Aの場合、リクライニング角度制御部52は、前席シート12Aの乗員Pの頭部HEの相対位置H1が所定の閾値よりも小さい場合、前席シート12Aのシートバック16を車両後方側へ回動させる。
【0064】
(作用)
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0065】
(乗員保護補助処理の一例)
図8は、乗員保護補助装置10による乗員保護補助処理の流れの一例を示すフローチャートである。この乗員保護補助処理は、CPU20がROM22又はストレージ26からプログラムを読み出して、RAM24に展開することによって実行される。
【0066】
CPU20は、ステップS102で前席シート12Aに着座した乗員Pの頭部HEの相対位置を取得する。具体的には、CPU20は、頭部位置取得部42の機能によって頭部HEの相対位置H1を取得する。
【0067】
CPU20は、ステップS104で前席シート12Aのリクライニング角度を取得する。具体的には、CPU20は、リクライニング角度取得部44の機能によって前席シート12Aのリクライニング角度を取得する。
【0068】
CPU20は、ステップS106で制限速度の設定が必要か否かについて判定する。具体的には、CPU20は、リクライニング角度がθよりも大きい場合と小さい場合とで判定の閾値を変更する。
【0069】
リクライニング角度がθ以下の場合、CPU20は、頭部HEの相対位置H1がHBよりも小さい場合に、制限速度の設定が必要と判定する。また、CPU20は、頭部HEの相対位置H1がHB以上の場合に、制限速度の設定が不要と判定する。
【0070】
一方、リクライニング角度がθよりも大きい場合、CPU20は、
図7に示されるグラフに基づいて、リクライニング角度に対応する閾値L2を算出し、この閾値L2よりも頭部の相対位置H1が小さい場合に、制限速度の設定が必要と判定する。また、CPU20は、頭部の相対位置H1が所定の閾値L2以上の場合に、制限速度の設定が不要と判定する。このように、リクライニング角度がθ以下の場合、閾値L1を一定のHBとし、リクライニング角度がθよりも大きい場合、閾値L2はリクライニング角度に応じて変動する。
【0071】
ステップS106で制限速度の設定が必要と判定された場合、CPU20は、ステップS112の処理へ移行し、制限速度設定部50の機能によって車両Vの制限速度を設定する。そして、乗員保護補助処理を終了する。
【0072】
ステップS106で制限速度の設定が不要と判定された場合、CPU20は、ステップS108の処理へ移行し、リクライニング角度の変更が必要か否かについて判定する。本実施形態では一例として、CPU20は、頭部HEの相対位置H1がHAよりも小さく、かつ、前席シート12Aのリクライニング角度がθよりも大きい場合、前席シート12Aのリクライニング角度の変更が必要と判定する。
【0073】
CPU20は、ステップS108でリクライニング角度の変更が必要と判定した場合、ステップS114の処理へ移行し、前席シート12Aのリクライニング角度を変更する。具体的には、CPU20は、リクライニング角度制御部52の機能によって、前席シート12Aのシートバック16を車両後方側、すなわち起立する側へ回動させる。本実施形態では一例として、リクライニング角度制御部52は、リクライニング角度がθ以下となるまでシートバック16を回動させる。そして、乗員保護補助処理を終了する。
【0074】
ステップS108でリクライニング角度の変更が不要と判定された場合、CPU20は、ステップS110の処理へ移行し、乗員Pへの注意喚起が必要か否かについて判定する。具体的には、CPU20は、リクライニング角度がθよりも大きい場合と小さい場合とで判定の閾値を変更する。
【0075】
リクライニング角度がθ以下の場合、CPU20は、頭部HEの相対位置H1がHAよりも小さい場合に、注意喚起が必要と判定する。また、CPU20は、頭部HEの相対位置H1がHA以上の場合に、注意喚起が不要と判定する。
【0076】
一方、リクライニング角度がθよりも大きい場合、CPU20は、
図7に示されるグラフに基づいて、リクライニング角度に対応する閾値L1を算出し、この閾値L1よりも頭部の相対位置H1が小さい場合に、注意喚起が必要と判定する。また、CPU20は、頭部の相対位置H1が所定の閾値L1以上の場合に、注意喚起が不要と判定する。このように、リクライニング角度がθ以下の場合、閾値L1を一定とし、リクライニング角度がθよりも大きい場合、閾値L1はリクライニング角度に応じて変動する。
【0077】
ステップS110で注意喚起が必要と判定された場合、CPU20は、ステップS116の処理へ移行し、注意喚起部48の機能により、スピーカ34及び図示しないモニタを用いて乗員Pへ注意喚起を行う。そして、乗員保護補助処理を終了する。
【0078】
ステップS110で注意喚起が不要と判定された場合、CPU20は、注意喚起を行わずに乗員保護補助処理を終了する。
【0079】
以上のように、本実施形態の乗員保護補助装置10では、車両Vに搭載された前席シート12Aは、乗員Pが車両後方側を向いた状態で着座可能となっている。また、前席用赤外線カメラ18Aによって前席シート12Aのヘッドレスト17に対する乗員Pの頭部HEの相対位置H1を検出可能とされている。
【0080】
そして、制御部19は、前席用赤外線カメラ18Aの検出結果に基づいて、乗員Pへの注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行するか否かを判定する。これにより、例えば、ヘッドレスト17に対する乗員Pの頭部HEの相対位置が閾値L1よりも小さい場合、乗員Pに対して注意喚起が行われる。
【0081】
また、乗員Pの頭部HEの相対位置H1が閾値L2よりも小さい場合、車両Vの制限速度が設定されることで、車速が大きい状態での衝突が抑制される。さらに、制御部19によってシートバック16が起立する方向へ回動されることで、前突時に乗員Pの頭部HEがヘッドレスト17を乗り越えにくくなる。
【0082】
さらに、本実施形態では、リクライニング角度が大きく安楽姿勢となっている場合、かつ、乗員Pの頭部HEの相対位置H1が比較的高い場合に、前突に対する対策が実行される。これにより、ヘッドレスト17に対する乗員Pの頭部HEの相対位置H1のみで前突に対する対策の実行要否を判定する構成と比較して、不必要に前突に対する対策が実行されるのを抑制することができ、乗員Pの快適性を確保することができる。
【0083】
さらに、本実施形態では、注意喚起部48は、スピーカ34から音声を出力させることで、乗員Pに対して注意喚起を行う。これにより、乗員Pにシートポジションの変更などを促すことができる。
【0084】
さらにまた、本実施形態では、制限速度設定部50は、所定の条件で車速Vの上限値を設定することで、前突時に車両Vに入力される衝突荷重が大きくなる速度域で車両Vが走行するのを抑制することができる。
【0085】
また、本実施形態では、リクライニング角度制御部52は、所定の条件でシートバック16が起立する方向へ回動されることで、前突時に乗員Pが車両前方側へ慣性移動した場合に、乗員Pがシートバック16に沿ってずり上がるのを抑制することができる。
【0086】
以上、実施形態に係る乗員保護補助装置10について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、頭部HEの相対位置H1及びリクライニング角度に基づいて注意喚起、制限速度の設定、及びリクライニング角度の変更の少なくとも一つを実行する構成としたが、これに限定されず、車速及び対向車線の有無に応じて判定時の閾値を変更してもよい。
【0087】
車速に応じて判定時の閾値を変更する場合、例えば、車両Vの速度が時速20km以下の状態では、リクライニング角度にかかわらず、頭部HEの相対位置H1が所定の閾値よりも小さい場合にのみ注意喚起を行う。このときの閾値は、HAよりも大きい値に設定される。
【0088】
車両Vの速度が時速20kmよりも大きい状態では、頭部HEの相対位置H1に対して、車速に対応する係数を乗じた数に基づいて注意喚起及び制限速度の設定の判定を行う。すなわち、車両Vの速度が大きくなるほど、係数が大きくなるように設定されているため、
図7に示される閾値L1及び閾値L2が大きくなる。このため、頭部HEの相対位置H1がHAよりも大きい場合であっても、車両Vの速度が大きくなれば、注意喚起及び制限速度の設定が実行され得る。なお、車両Vの速度は、図示しない車速センサなどによって検知することができる。
【0089】
また、対向車線が存在する場合、対向車線が存在しない場合よりも閾値L1及び閾値L2が大きくなるようにしてもよい。対向車線の有無は、対向車線情報取得部46の機能によって取得される。
【0090】
さらに、周辺センサ36などによって対向車線を走行する対向車両が検知された場合、車両Vの速度と対向車の速度を加算した相対速度に基づいて
図7に示される閾値L1及び閾値L2を変動させてもよい。
【0091】
以上のように車速に基づいて閾値を変更すれば、車速が小さい状態で不必要に前突に対する対策が実行されるのを抑制することができ、乗員Pの快適性を確保することができる。
【0092】
また、対向車線の有無に応じて前突に対する対策の要否を判定する判定時の閾値を変更することで、乗員Pの保護性能を向上させることができる。
【0093】
さらに、本実施形態では、シートバック16及びヘッドレスト17に赤外線の反射率が高い材質を織り込んだが、これに限定されない。例えば、
図9に示される変形例の構成を採用してもよい。
【0094】
(変形例)
図9に示されるように、本変形例では、シートバック16は赤外線の反射率が高い材質が織り込まれていない。また、ヘッドレスト17には、赤外線の反射率が高い材質によって模様62A及び模様62Bが織り込まれている。
【0095】
模様62Aは、ヘッドレスト17の上端部に車両幅方向に直線状に延在されている。また、模様62Bは、模様62Aよりも下方に設けられており、模様62Aと同様に車両幅方向に直線状に延在されている。そして、模様62A及び模様62Bは、赤外線カメラで撮像した際に、反射するように構成されている。
【0096】
本変形例では、乗員保護補助装置10は、頭部位置取得部42によって乗員Pの頭部の相対位置H1を取得する。そして、乗員Pの頭部HEが模様62Bよりも低い位置にある場合、乗員Pへの注意喚起は行われない。また、乗員Pの頭部HEが模様62Bよりも高く模様62Aよりも低い位置にある場合、注意喚起部48によって乗員Pへ注意喚起を行う。さらに、乗員Pの頭部HEが模様62Aよりも高い位置にある場合、制限速度の設定を行う。
【0097】
このように、本変形例では、乗員Pの頭部HEの相対位置H1を容易に把握することができる。
【0098】
また、上記実施形態及び変形例では、前席シート12Aに着座した乗員Pに対して注意喚起などを行う構成としたが、これに加えて、後席シート12Bに着座した乗員Pについても同様に頭部の相対位置に基づいて注意喚起などを行ってもよい。
【0099】
さらに、上記実施形態及び変形例では、頭部位置取得部42は、前席用赤外線カメラ18Aで撮像された画像情報に基づいて前席シート12Aの乗員Pの頭部HEの相対位置を取得したが、これに限定されない。例えば、前席シート12Aに着座した乗員Pの頭部HEの高さを検知可能なセンサを搭載し、このセンサによって検知された情報に基づいて頭部HEの相対位置を取得してもよい。
【0100】
また、上記実施形態でCPU20がプログラムを読み込んで実行した処理を、CPU20以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Spec Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、上記処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせで実行してもよく、例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0101】
さらに、上記実施形態では、ストレージ26に種々のデータを記憶させる構成としたが、これに限定されない。例えば、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的記録媒体を記憶部としてもよい。この場合、これらの記録媒体に各種プログラム及びデータなどが格納されることとなる。
【0102】
さらにまた、上記実施形態で説明した処理の流れは一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【符号の説明】
【0103】
10 乗員保護補助装置
12A 前席シート(シート)
12B 後席シート(シート)
16 シートバック
18A 前席用赤外線カメラ(頭部検出センサ)
18B 後席用赤外線カメラ(頭部検出センサ)
19 制御部
34 スピーカ