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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】シート制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/50 20060101AFI20241008BHJP
   B60N 2/10 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B60N2/50
B60N2/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022082603
(22)【出願日】2022-05-19
(65)【公開番号】P2023170688
(43)【公開日】2023-12-01
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉竹 健
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-173232(JP,A)
【文献】特開2007-253883(JP,A)
【文献】特開2020-011594(JP,A)
【文献】特開2009-154773(JP,A)
【文献】特開2008-284949(JP,A)
【文献】特開2007-176425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/50
B60N 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員が着座するシートの姿勢を変化させることが可能なアクチュエータの駆動を制御して、前記車両の制動時に前記シートの姿勢を制御するシート制御装置であって、
前記車両の制動開始時に、前記シートの前部が制動前の位置よりも下方に移動する沈み込み挙動が発生すると判定された場合、前記シートのピッチ角速度とは逆向きの力を前記アクチュエータから出力させる第1制御を実行し、
前記第1制御を実行後から停車までに、前記シートの前部が制動前の位置よりも上方に移動する揺り返し挙動が発生すると判定された場合、前記シートのピッチ角速度と同じ向きの力を前記アクチュエータから出力させる第2制御を実行する
ことを特徴とするシート制御装置。
【請求項2】
前記沈み込み挙動が発生すると判定される場合とは、前記シートのピッチ角速度の変化率が所定値以上である場合と、ブレーキ踏力の変化率が閾値以上である場合とのうちのいずれか一方を満たす場合である
ことを特徴とする請求項1に記載のシート制御装置。
【請求項3】
前記揺り返し挙動が発生すると判定される場合とは、前記制動開始時よりもブレーキ踏力が小さくなり、前記シートに作用する前後加速度が一定方向となり減少している場合である
ことを特徴とする請求項2に記載のシート制御装置。
【請求項4】
前記第2制御を実行後から停車までに、前記シートの前部が制動前の位置よりも下方に移動する挙動が発生すると判定された場合、前記第1制御を実行する
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載のシート制御装置。
【請求項5】
前記シートは、前記車両に複数設けられており、
前記アクチュエータは、複数の前記シートにそれぞれ設けられており、
複数の前記シートごとに前記第1制御および前記第2制御を実行する
ことを特徴とする請求項4に記載のシート制御装置。
【請求項6】
前記シートは、前記車両のフロアに複数設けられており、
前記アクチュエータは、前記フロアの全体を前記車両のピッチ方向に動かすことが可能に構成され、
前記フロアの全体が前記車両のピッチ方向に動くように前記第1制御および前記第2制御を実行する
ことを特徴とする請求項4に記載のシート制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の乗員が着座するシートの姿勢を制御するシート制御装置が開示されている。このシート制御装置は、シートをピッチ方向、ヨー方向、ロール方向に回動可能なアクチュエータを制御する。特許文献1に記載の構成は、車両の急減速または急加速により車体が前後方向に傾いた場合、ピッチレートセンサの検出値に基づいてアクチュエータを作動してシートをピッチ方向に回動させることにより、シートクッションを水平に維持するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-090181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の制動時、車両の揺れに応じてシートに発生するピッチ方向の振動としては、制動開始時に生じる沈み込み挙動と、その後の停車までに生じる揺り返し挙動とが挙げられる。しかしながら、特許文献1に記載の構成では、車両の制動時に発生するシートの沈み込み挙動と揺り返し挙動とを正確に検出することができず、制動開始から停車までシートの姿勢を適切に制御できず、乗り心地が悪化する虞がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、車両の乗員が着座するシートの姿勢を車両の制動時に適切に制御することができるシート制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の乗員が着座するシートの姿勢を変化させることが可能なアクチュエータの駆動を制御して、前記車両の制動時に前記シートの姿勢を制御するシート制御装置であって、前記車両の制動開始時に、前記シートの前部が制動前の位置よりも下方に移動する沈み込み挙動が発生すると判定された場合、前記シートのピッチ角速度とは逆向きの力を前記アクチュエータから出力させる第1制御を実行し、前記第1制御を実行後から停車までに、前記シートの前部が制動前の位置よりも上方に移動する揺り返し挙動が発生すると判定された場合、前記シートのピッチ角速度と同じ向きの力を前記アクチュエータから出力させる第2制御を実行することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、車両の制動開始から停車までシートの姿勢を適切に制御することができる。特に、第1制御を実行後から停車までに、第2制御を実行することにより、乗員の上体がシートから離れる方向に移動することを抑制することができる。これにより、乗り心地が向上する。
【0008】
また、前記沈み込み挙動が発生すると判定される場合とは、前記シートのピッチ角速度の変化率が所定値以上である場合と、ブレーキ踏力の変化率が閾値以上である場合とのうちのいずれか一方を満たす場合であってもよい。
【0009】
この構成によれば、制動開始直後に発生するシートの沈み込み挙動を正確に検出することが可能である。
【0010】
また、前記揺り返し挙動が発生すると判定される場合とは、前記制動開始時よりもブレーキ踏力が小さくなり、前記シートに作用する前後加速度が一定方向となり減少している場合であってもよい。
【0011】
この構成によれば、第1制御を実行後から停車までに発生する揺り返し挙動を正確に検出することができる。
【0012】
また、前記第2制御を実行後から停車までに、前記シートの前部が制動前の位置よりも下方に移動する挙動が発生すると判定された場合、前記第1制御を実行してもよい。
【0013】
この構成によれば、第2制御を実行後から停車までに発生するシートのピッチ方向の振動を正確に検出することができる。
【0014】
また、前記シートは、前記車両に複数設けられており、前記アクチュエータは、複数の前記シートにそれぞれ設けられており、複数の前記シートごとに前記第1制御および前記第2制御を実行してもよい。
【0015】
この構成によれば、車両に設けられた複数のシートごとに第1制御と第2制御とを実行することができる。
【0016】
また、前記シートは、前記車両のフロアに複数設けられており、前記アクチュエータは、前記フロアの全体を前記車両のピッチ方向に動かすことが可能に構成され、前記フロアの全体が前記車両のピッチ方向に動くように前記第1制御および前記第2制御を実行してもよい。
【0017】
この構成によれば、車両のフロア全体をピッチ方向に動かすことにより車両に設けられた複数のシートの姿勢を変化させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、車両の制動開始から停車までシートの姿勢を適切に制御することができる。特に、第1制御を実行後から停車までに、第2制御を実行することにより、乗員の上体がシートから離れる方向に移動することを抑制することができる。これにより、乗り心地が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態におけるシート制御装置を搭載した車両を示す図である。
図2図2は、シートとアクチュエータとを説明するための斜視図である。
図3図3は、シート制御装置を説明するためのブロック図である。
図4図4は、シート制御の処理を示すフローチャート図である。
図5図5は、制動時の制御状態とシートの挙動を示すタイムチャート図である。
図6図6は、シート制御装置を搭載した車両の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態におけるシート制御装置について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、実施形態におけるシート制御装置を搭載した車両を示す図である。シート制御装置1は、車両Veに設けられたシート2を対象にして、シート2の姿勢を制御するものである。車両Veはシート制御装置1を搭載している。このシート制御装置1は、車両Veの制動時に発生する車両Veの揺れに対して、シート2の姿勢を適切な姿勢に制御するように構成されている。
【0022】
シート2は、車両Veのフロアに設けられており、車両Veの乗員が着座するものである。車両Veには運転席や助手席や後部座席などの複数のシート2が設けられている。シート2は、図2に示すように、座面を有するシートクッション2aと、乗員の背部を支えるシートバック2bと、乗員の足が置かれる足置き部2cと、を備える。車両Veが走行中、シートクッション2aがピッチ方向に動くと、シートクッション2aと一体的にシートバック2bと足置き部2cとがピッチ方向に動く。そして、シート2はアクチュエータ3の駆動によって姿勢が変化させられる。
【0023】
アクチュエータ3は、シート2の姿勢を変化させることが可能な駆動装置である。アクチュエータ3は、車両Veのピッチ方向にシート2を回動させることが可能に構成されたアクチュエータである。
【0024】
アクチュエータ3は、図2に示すように、シート2をピッチ方向、ヨー方向、ロール方向の三軸に回動させることが可能である。例えば、アクチュエータ3は、シート2をピッチ方向に回動させるように駆動する第1アクチュエータと、シート2をヨー方向に回動させるように駆動する第2アクチュエータと、シート2をロール方向に回動させるように駆動する第3アクチュエータとを含む。アクチュエータ3が駆動することにより、シート2はピッチ方向、ヨー方向、ロール方向に姿勢を変化することができる。そして、アクチュエータ3はシート制御装置1により駆動が制御される。
【0025】
図3は、シート制御装置を説明するためのブロック図である。
【0026】
シート制御装置1は、車両Veを制御する電子制御装置である。この電子制御装置はCPU、RAM、ROM、入出力インターフェースを備えたマイクロコントローラを含んで構成されている。シート制御装置1はROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。シート制御装置1には、車両Veに搭載された各種センサからの信号が入力される。
【0027】
シート制御装置1に入力される信号として、車速センサ21からの信号や、加速度センサ22からの信号や、ブレーキストロークセンサ23からの信号や、マスターシリンダ圧センサ24の信号や、シート角速度センサ25からの信号などが挙げられる。車両Veは、車速を検出する車速センサ21と、シート2の前後加速度を検出する加速度センサ22と、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキストロークセンサ23と、ブレーキ踏力を検出するマスターシリンダ圧センサ24と、シート2のピッチ方向の角速度(以下、ピッチ角速度という)を検出するシート角速度センサ25とを備える。車速センサ21は車速信号を出力する。加速度センサ22はシート前後加速度信号(シート前後G信号)を出力する。ブレーキストロークセンサ23はブレーキ信号を出力する。マスターシリンダ圧センサ24はマスターシリンダ圧信号を出力する。シート角速度センサ25はシート角速度信号を出力する。そして、シート制御装置1は各種センサから入力された信号に基づいて各種の制御を実行する。
【0028】
例えば、シート制御装置1は、車両Veの制動時にシート2の姿勢を制御するシート制御を実行する。この場合、シート制御装置1は、ブレーキストロークセンサ23から入力された信号によりブレーキペダルの踏み込みを検知してシート制御を実行する。シート制御装置1は、シート制御を実行する制御部11を備える。シート制御は、シート2のピッチ角速度とは逆向きの力をアクチュエータ3から出力させる第1制御と、シート2のピッチ角速度と同じ向きの力をアクチュエータ3から出力させる第2制御とを含む。制御部11は、車両Veの制動時にシート2が適切な姿勢となるようアクチュエータ3の駆動を制御する。その際、制御部11は状況に応じて第1制御と第2制御とを使い分ける。
【0029】
このように、シート制御装置1はブレーキペダルの踏み込み量に応じてシート2の姿勢を適切に変化させることにより、シート2に着座している乗員のピッチ方向の振動を抑制する。その際、シート制御装置1は、急制動が発生した時点などの制動開始時だけではなく、制動を開始してから停車するまでの間に生じる車両Veの揺れを想定してシート制御を実行する。シート制御は、制動開始時のシート2の沈み込み挙動に対する制御と、その後に生じる揺り返し挙動に対する制御とを含む。つまり、シート制御が実行されるシーンとしては、車両Veの走行中に運転者がブレーキペダルを踏み込んだことにより車両Veが減速して停車するまでのシーンが挙げられる。このシーンにおいて、シート制御装置1は、急制動から揺り返しにより発生する車両Veの揺れに対して乗員を分離し、乗員のピッチ方向の振動を抑制するように、アクチュエータ3の駆動を制御してシート2の姿勢を制御する。
【0030】
詳細には、急制動時において、まず制動開始直後に車両Veの前部が下方に沈み込む。その際にシート2に生じるピッチ方向の振動は、沈み込みによる第1波である第1角速度となる。第1角速度の向きは、シート2の前部が制動前の位置よりも下方に移動する回転方向である。急制動時には車両Veの沈み込みに伴ってシート2が沈み込む挙動が発生する。そのため、シート2のピッチ角速度の変化率が大きい場合、シート制御装置1はアクチュエータ3により第1角速度と逆位相の力をかけてシート2の沈み込みを抑制し、沈み込みによる乗員の動きを抑制する。この場合、制御部11はシート制御のうち第1制御を実行する。
【0031】
さらに、車両Veが停車する前に、前後加速度による揺り返し現象が発生する。そのため、シート2には、前後加速度による揺り返し挙動が発生する。シート2に生じるピッチ方向の振動は、揺り返しの第2波である第2角速度となる。第2角速度の向きは、シート2の前部が制動前の位置よりも上方に移動する回転方向である。つまり、第2角速度は第1角速度とは反対方向に作用する。そして、制動中であることによりシート2に作用する前後加速度が一定方向(後ろ方向)の状態で、第2角速度の発生によりシート2のピッチ角速度が前から後ろ方向に推移すると、乗員の上体がシートバック2bから離れる状態となる。これを抑制するために、シート制御装置1はシート2の揺り返し挙動が発生すると判定された場合、アクチュエータ3により第2角速度と同位相の力をかけてシート2の姿勢を制御する。第2角速度と同位相の力をアクチュエータ3から出力することにより、シート2の前部が制動前の位置よりも上方に移動させ、シートクッション2aに着座している乗員の上体をシートバック2bに押し付ける方向にシート2を後方へ傾けることができる。これにより、シート2に着座する乗員の上体が前に移動することを抑制し、乗員の上体をシートバック2b側に落ち着かせることができる。この場合、制御部11はシート制御のうち第2制御を実行する。
【0032】
その後、シート2に生じるピッチ方向の振動として、揺り返しの第3の波である第3角速度が挙げられる。第3角速度の向きは、シート2の前部が制動前の位置よりも下方に移動する回転方向である。シート制御装置1は、揺り返しの振動である第3角速度と逆位相にシート2の姿勢を制御して、シート2の揺れを抑制し、乗員への振動を効果的に抑制する。この場合、制御部11はシート制御のうち第1制御を実行する。
【0033】
このように、車両Veの制動時、制動開始直後にシート2のピッチ角速度が大きい場合に、逆位相をかけて、シート2の沈み込みを抑制する。その後、制動による振動がある程度収まった時点で、同位相をかけて、乗員の上体を落ち着かせる。そして、乗員の上体が落ち着いてきた段階で、再度逆位相をかけて、シート2の揺れを抑制する。
【0034】
また、車両Veには複数のシート2が設けられているため、シート制御装置1はシート2ごとにシート制御を実行するように構成されている。つまり、シート制御装置1は、シート2に設けられているアクチュエータ3ごとにその駆動を制御する。そのため、制御部11は、シート2ごとに第1制御と第2制御とを実行する。
【0035】
図4は、シート制御の処理を示すフローチャート図である。図4に示す処理は、車両Veが走行中にシート制御装置1の制御部11により繰り返し実行される。
【0036】
車両Veが走行中、制御部11は車両情報を取得する(ステップS1)。ステップS1では、車両情報として、車速、ブレーキ信号、マスターシリンダ圧、シート角速度、前後加速度が取得される。車速は車速センサ21からの信号に応じて取得される現在の車速である。ブレーキ信号はブレーキストロークセンサ23からの信号に応じて取得され、運転者がブレーキペダルを踏んでいない場合にはブレーキOFFを表し、運転者がブレーキペダルを踏み込んでいる場合にはブレーキONを表す。マスターシリンダ圧はマスターシリンダ圧センサ24からの信号に応じて取得され、ブレーキ踏力の大きさを表す。シート角速度はシート角速度センサ25からの信号に応じて取得され、シート2のピッチ角速度を表す。前後加速度は加速度センサ22からの信号に応じて取得され、シート2に作用する前後加速度を表す。ステップS1では、車両Veのばね下の前後加速度とばね上の前後加速度との代表的な値として、シート2の前後加速度が検出される。このようにステップS1において制御部11は、シート角速度センサ25によるシート角速度と加速度センサ22による前後加速度とに加えて、マスターシリンダ圧センサ24によってブレーキ踏力をリニアに検出する。
【0037】
制御部11は、ブレーキONであるか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2では、ブレーキストロークセンサ23からの信号に基づいてブレーキペダルが踏み込まれたか否かが判定される。ステップS2では、ステップS1で取得したブレーキ信号を用いて、ブレーキOFFからブレーキONに切り替わったか否か、またはブレーキONが継続しているか否かが判定される。
【0038】
ブレーキONではないと判定された場合(ステップS2:No)、この制御ルーチンは終了する。
【0039】
ブレーキONであると判定された場合(ステップS2:Yes)、制御部11は、シート2のピッチ角速度であるシート角速度について目標値Aとシート実角速度との偏差σを算出する(ステップS3)。ステップS3では、ステップS1で取得したシート角速度(シート実加速度)と予め設定された目標値Aとを用いて、目標値Aからシート実加速度を減ずることにより偏差σが求められる。目標値Aは、シート2が基本姿勢であることを表す値、すなわちシートクッション2aが水平状態であることを表す値としてのゼロに設定されている。基本姿勢とは、制動前のシート2の姿勢や、停車状態におけるシート2の姿勢のことを表す。例えばシートクッション2aが水平に保たれた姿勢が基本姿勢となる。そのため、偏差σは、ピッチ方向においてシート2の姿勢が基本姿勢に対してどの程度ずれているかを表す値である。
【0040】
さらに、シート2のピッチ角速度には回転方向があるため、シート角速度は、一方の方向を正の値として、他方の方向を負の値とする。この説明では、基本姿勢に対してシート2の前部が下方に移動する場合にシート角速度は正の値となり、基本姿勢に対してシート2の前部が上方に移動する場合にシート角速度は負の値となるものとする。言い換えれば、制動時のシート2の沈み込み挙動により、シートクッション2aの前部が制動前の位置よりも下方に移動する場合、シート角速度は正の値となる。その後のシート2の揺り返し挙動により、シートクッション2aの前部が制動前の位置よりも上方に移動する場合、シート角速度は負の値となる。そのため、ステップS3で算出される偏差σは正の値や負の値となる。シート2の前部が制動前の位置より下方に移動した場合にはシート角速度は正の値となるため、目標値Aからシート実角速度を減じた値である偏差σは負の値となる。シート2の前部が制動前の位置よりも上方に移動した場合にはシート角速度は負の値となるため、目標値Aからシート実角速度を減じた値である偏差σが正の値となる。つまり、制御部11は偏差σが正の値であるか負の値であるかを判断することにより、シート2のピッチ方向の回転方向を検知することができるとともに、その値の大きさに基づいてシート2のピッチ方向の動きの大きさを検知することができる。
【0041】
そして、制御部11はステップS3において目標値Aとシート実角速度との偏差σを算出すると、第1角速度演算と、第2角速度演算と、第3角速度演算とのうちのいずれかの演算結果に応じてアクチュエータ3の駆動を制御する。なお、この処理フローでは、ステップS3の処理が第1角速度演算に含まれるものとする。
【0042】
ステップS3の処理が実施されると、制御部11は、シート角速度の変化率ΔJ1が第1設定値Ja以上であるか否か、またはマスターシリンダ圧の変化率ΔM1が第1閾値Mb以上であるか否かを判定する(ステップS4)。ΔJ1はシート角速度の時間当たりの変化量を表す。ΔM1はマスターシリンダ圧の時間当たりの変化量を表す。マスターシリンダ圧はブレーキ踏力を表すため、ΔM1はブレーキ踏力の時間当たりの変化量を表す。第1設定値Jaは予め設定された値であり、第1角速度演算におけるシート角速度の閾値を表す。第1閾値Mbは予め設定された値であり、第1角速度演算におけるマスターシリンダ圧の閾値を表す。
【0043】
ステップS4において、制御部11は、シート角速度の変化率ΔJ1と第1設定値Jaとを用いて、シート2に沈み込み挙動が発生しているか否かを判定する。シート角速度の変化率ΔJ1が第1設定値Ja以上である場合、制御部11はシート2において沈み込み挙動が発生していると判断する。
【0044】
また、ステップS4において、制御部11は、マスターシリンダ圧の変化率ΔM1と第1閾値Mbとを用いて、シート2の沈み込み挙動が発生するか否かを判定する。言い換えれば、制御部11はマスターシリンダ圧信号に基づいて、シート2の沈み込み挙動を発生させるようなブレーキ踏力が発生しているか否かを判定する。要するに、制御部11はシート2の姿勢が基本姿勢から変化する前にブレーキ踏力の増加率に基づいてシート2の沈み込み挙動が発生する可能性があるか否かを判定することになる。ブレーキ踏力の増加率が所定の閾値以上である場合、シート2の沈み込み挙動が発生すると判定される。そのため、マスターシリンダ圧の変化率ΔM1が第1閾値Mb以上である場合、制御部11はブレーキ踏力の急増によりシート2の沈み込み挙動が発生する可能性があると判断する。
【0045】
ステップS4で肯定的に判定された場合(ステップS4:Yes)、制御部11は、シート2のピッチ角速度を目標値Aに近づけるための演算処理を行う(ステップS5)。ステップS5では、偏差σの絶対値を小さくするための制御が実行される。ステップS5において、制御部11はPID制御とFF制御とを実行する。偏差σの絶対値が大きい値である場合には、制御部11はFF制御を実行する。そして、偏差σの絶対値が小さい値である場合には、制御部11はPID制御を実行する。
【0046】
また、制御部11は、偏差σが負の値であるか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6では、ステップS3で算出した偏差σが負の値であるか否かが判定される。ステップS6において制御部11はシート2の沈み込み挙動が発生するか否かを判定する。
【0047】
ステップS6において偏差σが負の値であると判定された場合(ステップS6:Yes)、制御部11は、沈み込み挙動による第1角速度が生じていると判断し、シート角速度と逆位相の力をアクチュエータ3から出力させる(ステップS7)。ステップS7では、制御部11がアクチュエータ3の駆動を制御して、第1角速度とは逆向きの回転方向に作用する力がアクチュエータ3から出力される。アクチュエータ3から出力されたピッチ方向の力がシート2に作用することによって、シート2の沈み込み挙動が低減される。
【0048】
このステップS7の処理は、ステップS4で肯定的に判定された場合に実行される処理である。このステップS4で肯定的に判定された場合とは、シート角速度の変化率ΔJ1が第1設定値Ja以上である場合と、マスターシリンダ圧の変化率ΔM1が第1閾値Mb以上である場合とのうちのいずれか一方を満たす場合である。
【0049】
そのため、シート角速度の変化率ΔJ1が第1設定値Ja以上であることによりステップS4で肯定的に判定された場合、かつステップS6で肯定的に判定された場合、ステップS7において、制御部11はシート2の沈み込み挙動が発生したと判断し、シート2のピッチ方向の動きに対して逆向きの力をアクチュエータ3から出力させる。アクチュエータ3は、シート2の前部が下方に移動する動きとは反対方向の力、すなわちシート2の沈み込み挙動を低減するための力を出力する。
【0050】
一方、マスターシリンダ圧の変化率ΔM1が第1閾値Mb以上であることによりステップS4で肯定的に判定された場合、かつステップS6で肯定的に判定された場合、ステップS7において、制御部11はシート2の沈み込み挙動が発生する可能性があると判断し、第1角速度とは逆向きの力をアクチュエータ3から出力させる。アクチュエータ3は、シート2の前部が下方に移動しようとする力とは反対方向の力、すなわちシート2の沈み込み挙動の発生を抑制するための力を出力する。
【0051】
ステップS7の処理を実施するシーンは、急制動時における制動開始直後である。急制動時の車両Veの沈み込み挙動に対して、ステップS7の処理を実施することにより、アクチュエータ3により第1角速度と逆位相の力をかけてシート2の沈み込みを抑制し、乗員の動きを抑制することができる。そして、ステップS7の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。ステップS7の処理が実施された場合とは、第1角速度演算の演算結果に応じてアクチュエータ3の駆動を制御する場合である。
【0052】
ステップS6において偏差σが負の値でないと判定された場合(ステップS6:No)、制御部11は、シート角速度と同位相の力をアクチュエータ3から出力させる(ステップS8)。ステップS8では、制御部11がアクチュエータ3の駆動を制御して、シート角速度(第1角速度とは反対方向の角速度)と同じ向きの回転方向に作用する力がアクチュエータ3から出力される。ステップS8の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0053】
ステップS4で否定的に判定された場合(ステップS4:No)、制御部11は、シート角速度の変化率ΔJ2が第2設定値Jb以上かつ第3設定値Jc未満であるか否か、またはマスターシリンダ圧の変化率ΔM2が第1閾値Mb以上かつ第2閾値Mc未満であるか否かを判定する(ステップS9)。ΔJ2はシート角速度の時間当たりの変化量を表す。ΔM2はマスターシリンダ圧の時間当たりの変化量を表す。第2設定値Jbは予め設定された値であり、第2角速度演算におけるシート角速度の下限値(閾値)を表す。第3設定値Jcは予め設定された値であり、第2角速度演算におけるシート角速度の上限値(閾値)を表す。第1閾値Mbは、第2角速度演算におけるマスターシリンダ圧の下限値(閾値)を表す。第2閾値Mcは予め設定された値であり、第2角速度演算におけるマスターシリンダ圧の上限値(閾値)を表す。
【0054】
ステップS9において、制御部11は、シート角速度の変化率ΔJ2と第2設定値Jbと第3設定値Jcとを用いて、シート2に揺り返し挙動が発生するか否かを判定する。シート角速度の変化率ΔJ2が第2設定値Jb以上かつ第3設定値Jc未満である場合、制御部11はシート2において揺り返し挙動が発生していると判断する。
【0055】
また、ステップS9において、制御部11は、マスターシリンダ圧の変化率ΔM2と第1閾値Mbと第2閾値Mcとを用いて、シート2の揺り返しを発生させるようなブレーキ踏力が発生しているか否かを判定する。この場合、シート2の姿勢が基本姿勢から変化する前に、すなわちシート2のピッチ方向の動きに依らずに、ブレーキ踏力の変化率に基づいて、シート2の揺り返し挙動が発生する可能性があるか否かを判定することになる。そのため、マスターシリンダ圧の変化率ΔM2が第1閾値Mb以上かつ第2閾値Mc未満である場合、制御部11はブレーキ踏力の変化によりシート2において揺り返し挙動が発生する可能性があると判断する。
【0056】
ステップS9で肯定的に判定された場合(ステップS9:Yes)、制御部11は、シート2のピッチ角速度を目標値Aに近づけるための演算処理を行う(ステップS10)。ステップS10では、偏差σの絶対値を小さくするための制御が実行される。ステップS10において、制御部11はPID制御とFF制御とを実行する。偏差σの絶対値が大きい値である場合には、制御部11はFF制御を実行する。そして、偏差σの絶対値が小さい値である場合には、制御部11はPID制御を実行する。
【0057】
また、制御部11は、偏差σが負の値であるか否かを判定する(ステップS11)。ステップS11では、ステップS3で算出した偏差σが負の値であるか否かが判定される。ステップS11において制御部11はシート2の揺り返し挙動が発生するか否かを判定する。
【0058】
ステップS11において偏差σが負の値であると判定された場合(ステップS11:Yes)、制御部11は、シート角速度と逆位相の力をアクチュエータ3から出力させる(ステップS12)。ステップS12では、制御部11がアクチュエータ3の駆動を制御して、シート角速度(第2角速度とは反対方向の角速度)と逆向きの回転方向に作用する力がアクチュエータ3から出力される。ステップS12の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0059】
ステップS11において偏差σが負の値でないと判定された場合(ステップS11:No)、制御部11は、揺り返し挙動として第2角速度が生じていると判断し、シート角速度と同位相の力をアクチュエータ3から出力させる(ステップS13)。ステップS13では、制御部11がアクチュエータ3の駆動を制御して、第2角速度と同じ向きの回転方向に作用する力がアクチュエータ3から出力される。第1角速度とは逆向きの回転方向に作用する力がアクチュエータ3から出力される。アクチュエータ3から出力されたピッチ方向の力がシート2に作用することによって、シート2の揺り返し挙動が低減される。
【0060】
このステップS13の処理は、ステップS9で肯定的に判定された場合に実行される処理である。このステップS13で肯定的に判定された場合とは、シート角速度の変化率ΔJ2が第2設定値Jb以上かつ第3設定値Jc未満である場合と、マスターシリンダ圧の変化率ΔM2が第1閾値Mb以上かつ第2閾値Mc未満である場合とのうちのいずれか一方を満たす場合である。
【0061】
そのため、シート角速度の変化率ΔJ2が第2設定値Jb以上かつ第3設定値Jc未満であることによりステップS9で肯定的に判定された場合、かつステップS11で否定的に判定された場合、ステップS13において、制御部11はシート2の揺り返し挙動が発生したと判断し、シート2のピッチ方向の動きに対して同じ向きの力をアクチュエータ3から出力させる。アクチュエータ3は、シート2の前部が上方に移動する動きと同じ向きの力を出力する。
【0062】
一方、マスターシリンダ圧の変化率ΔM2が第1閾値Mb以上かつ第2閾値Mc未満であることによりステップS9で肯定的に判定された場合、かつステップS11で否定的に判定された場合、ステップS13において、制御部11はシート2の揺り戻し挙動が発生する可能性があると判断し、第2角速度の方向とは同じ向きの力をアクチュエータ3から出力させる。アクチュエータ3は、シート2の前部が上方に移動しようとする力と同じ向きの力を出力する。
【0063】
ステップS13の処理を実施するシーンは、車両Veが停車する前、揺り返し挙動として第2角速度が発生するシーンである。ステップS13の処理を実施することにより、アクチュエータ3により第2角速度と同位相の力をかけてシート2の姿勢を制御し、乗員の上体が前に移動することを抑制することができる。そして、ステップS13の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。ステップS13の処理が実施された場合とは、第2角速度演算の演算結果に応じてアクチュエータ3の駆動を制御する場合である。
【0064】
ステップS9で否定的に判定された場合(ステップS9:No)、制御部11は、シート角速度の変化率ΔJ3が第2設定値Jb以上かつ第3設定値Jc未満であるか否か、またはマスターシリンダ圧の変化率ΔM3が第1閾値Mb以上かつ第2閾値Mc未満であるか否かを判定する(ステップS14)。ΔJ3はシート角速度の時間当たりの変化量を表す。ΔM3はマスターシリンダ圧の時間当たりの変化量を表す。第2設定値Jbは第3角速度演算におけるシート角速度の下限値(閾値)を表す。第3設定値Jcは第3角速度演算におけるシート角速度の上限値(閾値)を表す。第1閾値Mbは第3角速度演算におけるマスターシリンダ圧の下限値(閾値)を表す。第2閾値Mcは第3角速度演算におけるマスターシリンダ圧の上限値(閾値)を表す。
【0065】
ステップS14において、制御部11は、シート角速度の変化率ΔJ3と第2設定値Jbと第3設定値Jcとを用いて、シート2の揺り戻し挙動が発生しているか否かを判定する。シート角速度の変化率ΔJ3が第2設定値Jb以上かつ第3設定値Jc未満である場合、制御部11はシート2において揺り返し挙動が発生していると判断する。
【0066】
また、ステップS14において、制御部11は、マスターシリンダ圧の変化率ΔM3と第1閾値Mbと第2閾値Mcとを用いて、シート2の揺り返し挙動を発生させるようなブレーキ踏力が発生しているか否かを判定する。この場合、ブレーキ踏力の変化率に基づいて、シート2の揺り返し挙動が発生する可能性があるか否かを判定することになる。そのため、マスターシリンダ圧の変化率ΔM3が第1閾値Mb以上かつ第2閾値Mc未満である場合、制御部11はブレーキ踏力の急変によりシート2において揺り返し挙動が発生する可能性があると判断する。
【0067】
ステップS14で否定的に判定された場合(ステップS14:No)、この制御ルーチンは終了する。
【0068】
ステップS14で肯定的に判定された場合(ステップS14:Yes)、制御部11は、シート2のピッチ角速度を目標値Aに近づけるための演算処理を行う(ステップS15)。ステップS15では、偏差σの絶対値を小さくするための制御が実行される。ステップS15において、制御部11はPID制御とFF制御とを実行する。偏差σの絶対値が大きい値である場合には、制御部11はFF制御を実行する。そして、偏差σの絶対値が小さい値である場合には、制御部11はPID制御を実行する。
【0069】
また、制御部11は、偏差σが負の値であるか否かを判定する(ステップS16)。ステップS16では、ステップS3で算出した偏差σが負の値であるか否かが判定される。ステップS16において制御部11はシート2の揺り返し挙動が発生するか否かを判定する。
【0070】
ステップS16において偏差σが負の値であると判定された場合(ステップS16:Yes)、制御部11は、揺り返し挙動による第3角速度が生じると判断し、シート角速度と逆位相の力をアクチュエータ3から出力させる(ステップS17)。ステップS17では、制御部11がアクチュエータ3の駆動を制御して、第3角速度とは逆向きの回転方向に作用する力がアクチュエータ3から出力される。アクチュエータ3から出力されたピッチ方向の力がシート2に作用することによって、シート2の揺り返し挙動が低減される。
【0071】
このステップS17の処理は、ステップS14で肯定的に判定された場合に実行される処理である。このステップS14で肯定的に判定された場合とは、シート角速度の変化率ΔJ3が第2設定値Jb以上かつ第3設定値Jc未満である場合と、マスターシリンダ圧の変化率ΔM3が第1閾値Mb以上かつ第2閾値Mc未満である場合とのうちのいずれか一方を満たす場合である。
【0072】
そのため、シート角速度の変化率ΔJ3が第2設定値Jb以上かつ第3設定値Jc未満であることによりステップS14で肯定的に判定された場合、かつステップS16で肯定的に判定された場合、ステップS17において、制御部11はシート2の揺り返し挙動が発生したと判断し、シート2のピッチ方向の動きに対して逆向きの力をアクチュエータ3から出力させる。アクチュエータ3は、シート2の前部が下方に移動する動きとは反対方向の力、すなわちシート2の揺り返し挙動を低減するための力を出力する。
【0073】
一方、マスターシリンダ圧の変化率ΔM3が第1閾値Mb以上かつ第2閾値Mc未満であることによりステップS14で肯定的に判定された場合、かつステップS16で肯定的に判定された場合、ステップS17において、制御部11はシート2の揺り返し挙動が発生する可能性があると判断し、第3角速度の方向とは反対向きの力をアクチュエータ3から出力させる。アクチュエータ3は、シート2の前部が下方に移動しようとする力とは反対方向の力、すなわちシート2の揺り返し挙動の発生を抑制するための力を出力する。
【0074】
ステップS17の処理を実施するシーンは、車両Veが停車する前、揺り返し挙動として第3角速度が発生するシーンである。ステップS17の処理を実施することにより、第3角速度と逆位相にシート2の姿勢を制御して、シート2の揺れを抑制し、乗員の振動を抑制することができる。そして、ステップS17の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。ステップS17の処理が実施された場合とは、第3角速度演算の演算結果に応じてアクチュエータ3の駆動を制御する場合である。
【0075】
ステップS16において偏差σが負の値でないと判定された場合(ステップS16:No)、制御部11は、シート角速度と同位相の力をアクチュエータ3から出力させる(ステップS18)。ステップS18では、制御部11がアクチュエータ3の駆動を制御して、シート角速度(第3角速度とは反対方向の角速度)と同じ向きの回転方向に作用する力がアクチュエータ3から出力される。ステップS18の処理を実施すると、この制御ルーチンは終了する。
【0076】
図4に示すように、制御部11は、第1角速度演算としてステップS3~S8の処理を実施し、第2角速度演算としてステップS9~S13の処理を実施し、第3角速度演算としてステップS14~S18の処理を実施する。
【0077】
図5は、制動時の制御状態とシートの挙動を示すタイムチャート図である。図5には、シート制御装置1がシート制御を実行した場合を実施例として記載し、従来構成を比較例として記載する。図5に示すシート角速度信号について、実線は実施例の実角速度を表し、破線は実施例の制御量を表し、二点鎖線は比較例の実角速度を表す。また、シート変位は実施例の変位を表すものである。
【0078】
車両Veが所定車速で走行中、運転者がブレーキペダルを踏み込んだことにより、シート制御装置1にはブレーキONを示すブレーキ信号が入力される(時刻t1)。時刻t1において、車両Veは制動を開始する。
【0079】
時刻t1直後、マスターシリンダ圧が急激に増加する。これは急制動要求である。そのため、シート2に作用する前後加速度(以下、シート前後加速度という)が急激に増加する。シート前後加速度は、制動開始から停車まで後ろ方向に一定となり、その一定方向(後ろ方向)で増加したり減少したりと大きさが変化する。その際、マスターシリンダ圧の変化率ΔM1が第1閾値Mbを超えたことにより、シート制御装置1は、シート角速度と逆位相の力をアクチュエータ3から出力させる。つまり、制動開始直後のシート2の沈み込み挙動を抑制するようにシート制御装置1はアクチュエータ3の駆動を制御する。これにより、シート2の前部が下方に移動することを抑制できる。比較例のように、何も制御を実行しない場合には、シートの前部が下方に移動する沈み込み挙動が発生する。
【0080】
詳細には、シート角速度信号とシート姿勢とシート変位とに注目して、実施例と比較例とを比較する。まず、比較例では、シート角速度信号に二点鎖線で示すように、シート角速度が目標値Aに対して大きく乖離して偏差σが負の値として生じる。そのため、シート姿勢の比較例に示すように、シートに沈み込み挙動が発生してシートの前部が制動前の位置よりも下方に移動する。さらに、この沈み込み後にシート姿勢が成り行きで変化するため、乗員がシートクッションの座面上を摩擦しながらスライドすることによる振動(図5に波線で示す)が発生する。
【0081】
これに対して、実施例のシート姿勢では、シート2の前部が制動前の位置よりも上方に移動するようにシート2の姿勢が変化されている。これは、シート角速度信号に破線で示すように、従来構成のシート角速度の変化量(偏差σ)を打ち消すような制御量のシート角速度がシート2に作用したため、すなわち第1角速度と逆位相の力がアクチュエータ3から出力されたためである。これにより、シート角速度信号に実線で示すように、目標値Aよりも正の値側に実角速度が推移する。
【0082】
さらに、シート変位のフロント変位に示すように、シート2の前部は指定位置よりも上方に移動し、シート変位のリア変位で示すように、シート2の後部は指定位置よりも下方に移動する。指定位置は、制動前の位置や基本姿勢の位置である。そして、フロント変位とリア変位とについて(A)に示すように、シート制御装置1は能動的に徐々に指定位置へシート変位を移行させる。すなわち、シート制御装置1はシート2の沈み込み挙動を抑制するようにシート2の姿勢を変化させた後、シート2に着座する乗員に気づかせないようにシート2の姿勢を徐々に基本姿勢へ向けて変化させる。これにより、乗員がシートクッション2aの座面上を摩擦しながらスライドすることによる振動の発生を抑制することができる。
【0083】
その後、マスターシリンダ圧とシート前後加速度とが減少に転じ、ブレーキ振動が収まってきた時点で、シート2の揺り返し挙動が発生すると判定される(時刻t2)。時刻t2において、揺り返し挙動としての第2角速度が発生すると判定されたことにより、第2角速度と同位相の力を出力するようにアクチュエータ3の駆動が制御される。時刻t2時点で揺り返し挙動が発生すると判定される場合とは、制動開始時よりもブレーキ踏力が小さくなり、シート2に作用する前後加速度が一定方向となり減少している場合である。
【0084】
時刻t2直後、実施例では、シート角速度信号に破線で示すように、第2角速度と同位相の力が作用することにより、目標値Aよりも正の値側に実角速度が推移する。シート前後加速度が減少している間、第2角速度と同位相の力をアクチュエータ3から出力させる。実施例のシート姿勢に示すように、シート2の前部が制動前の位置よりも上方に移動するように制御される。すなわち、シート変位のフロント変位に示すように、シート2の前部は指定位置よりも上方に移動し、シート変位のリア変位で示すように、シート2の後部は指定位置よりも下方に移動する。そして、シート前後加速度が減少から増加に転じた際に、シート制御装置1は第2角速度と逆位相の力をアクチュエータ3から出力させ、乗員の姿勢を安定させる。
【0085】
その後、乗員の上体が落ち着いてきた段階で、揺り返し挙動として第3角速度が発生すると判定される(時刻t3)。時刻t3において、揺り返し挙動としての第3角速度が発生すると判定されたことにより、第3角速度と逆位相の力を出力させるようにアクチュエータ3の駆動が制御される。
【0086】
時刻t3直後、実施例では、シート角速度信号に実線で示すように、シート2に第3角速度と逆位相の力が作用することにより、実角速度は目標値Aに沿うように推移する。シート前後加速度が増加している間、第3角速度と逆位相の力をアクチュエータ3から出力させる。実施例のシート姿勢に示すように、シート2の前部が制動前の位置よりも上方に移動するように制御される。すなわち、シート変位のフロント変位に示すように、シート2の前部は指定位置よりも上方に移動し、シート変位のリア変位で示すように、シート2の後部は指定位置よりも下方に移動する。これにより、シート2の前部が下方に移動することを抑制し、シート2の振動を抑制することができる。
【0087】
この揺り返し挙動を抑制した後、フロント変位とリア変位とについて(A)に示すように、シート制御装置1は能動的に徐々に指定位置へシート変位を移行させる。すなわち、シート制御装置1はシート2の揺り返し挙動を抑制するようにシート2の姿勢を変化させた後、シート2に着座する乗員に気づかせないようにシート2の姿勢を徐々に基本姿勢へ向けて変化させる。
【0088】
これに対して、比較例のシート姿勢に示すように、時刻t2以降、シートの前部が制動前の位置よりも下方に移動し、シートの前部が制動前の位置よりも上方に移動し、シートの前部が制動前の位置よりも上方に移動するように、シートは揺り返し挙動を続ける。さらに、この揺り返し後にシート姿勢が成り行きで変化する。そのため、時刻t2以降、比較例では、乗員がシートクッションの座面上を摩擦しながらスライドすることによる振動が発生する。
【0089】
以上説明した通り、実施形態によれば、車両Veの制動開始から停車までに、沈み込み挙動と揺り返し挙動とに対して、シート2の姿勢を適切に制御することができる。これにより、乗り心地を向上させることができる。
【0090】
また、第1変形例として、図6に示すように、車両Veのフロア全体を制振することにより、シート2の姿勢を適切に制御するように構成することが可能である。第1変形例のアクチュエータ3は、車両Veのフロア全体をピッチ方向に回動させることが可能に構成されている。シート制御装置1は、このアクチュエータ3の駆動を制御することにより、車両Veのフロア全体の姿勢を制御してシート2の姿勢を制御するように構成されている。
【0091】
また、第2変形例として、シート2のシートクッション2aとシートバック2bとを別々に動かすことが可能なアクチュエータ3を備えることが可能である。第2変形例では、シート2は、シートクッション2aとシートバック2bとが独立して動くことが可能に構成されている。さらに、アクチュエータ3は、シートクッション2aをピッチ方向に回動させることが可能な前部用アクチュエータと、シートバック2bをピッチ方向に回動させることが可能な後部用アクチュエータとを含んで構成される。そのため、シート制御装置1はシート制御を実行することにより、シートクッション2aの姿勢とシートバック2bの姿勢とを独立して制御することが可能である。
【0092】
さらに、第2変形例では、図5に示す時刻t1において、アクチュエータ3の前部用アクチュエータによってシートクッション2aの前部が制動前の位置よりも上方に移動するように姿勢を変化させ、かつアクチュエータ3の後部用アクチュエータによってシートバック2bの後部が制動前の位置よりも下方に移動するように姿勢を変化させる。そして、シートバック2bの姿勢に関しては、時刻t1から停車するまでの間、この姿勢に保たれる。すなわち、シート変位のリア変位は指定位置よりも下方に移動した状態に維持される。一方、シートクッション2aの姿勢は、シート変位のフロント変位で(A)に示すように指定位置に能動的に変化させられる。つまり、アクチュエータ3の前部用アクチュエータは、実施形態におけるシート変位のフロント変位と同様に、時刻t2以降はシートクッション2aの前部が制動前の位置よりも上方に移動するようにシートクッション2aの姿勢を変化させる。そして、車両Veが停車するタイミングで、前部用アクチュエータはシートクッション2aを指定位置に戻し、かつ後部用アクチュエータはシートバック2bを指定位置に戻す。これにより、シート2を基本姿勢に戻すことができる。
【符号の説明】
【0093】
1 シート制御装置
2 シート
2a シートクッション
2b シートバック
2c 足置き部
3 アクチュエータ
11 制御部
21 車速センサ
22 加速度センサ
23 ブレーキストロークセンサ
24 マスターシリンダ圧センサ
25 シート角速度センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6