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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】空気調和機
(51)【国際特許分類】
   F25B 49/02 20060101AFI20241008BHJP
   F24F 11/64 20180101ALI20241008BHJP
【FI】
F25B49/02 520Z
F24F11/64
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022150031
(22)【出願日】2022-09-21
(62)【分割の表示】P 2020178414の分割
【原出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2022181215
(43)【公開日】2022-12-07
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 寛
【審査官】森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/035418(WO,A1)
【文献】特開2018-203179(JP,A)
【文献】特開2019-66164(JP,A)
【文献】特開2020-165625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/02
F24F 11/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、室外熱交換器及び膨張弁を有する室外機に、室内熱交換器を有する室内機が冷媒配管で接続されて形成される冷媒回路を有し、前記冷媒回路に所定量の冷媒が充填された空気調和機であって、
前記空気調和機は、
空気調和運転時の運転状態量を定期的に取得する取得部と、
前記取得部で取得された運転状態量を記憶する記憶部と、
前記運転状態量を用いて、前記冷媒回路に残存している残存冷媒量を推定する推定モデルと、
前記記憶部から、冷媒回路が第1の安定条件を満たしている状態における運転状態量である第1の運転状態量、又は、前記冷媒回路が前記第1の安定条件よりも緩和された条件である第2の安定条件を満たしている状態における運転状態量である第2の運転状態量を検出する検出部と、
前記推定モデルと、前記検出部にて検出した前記第1の運転状態量あるいは前記第2の運転状態量のうちのいずれか一方とを用いて、前記冷媒回路の前記残存冷媒量を推定する制御部と、を有する
ことを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1の運転状態量の検出数が所定数以上の場合は、前記第1の運転状態量を用いて残存冷媒量を推定し、
前記第1の運転状態量の検出数が所定数未満の場合は、前記第2の運転状態量を用いて残存冷媒量を推定することを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
前記取得部は、
前記圧縮機が起動してから所定時間経過後に前記運転状態量として取得することを特徴とする請求項2に記載の空気調和機。
【請求項4】
前記制御部は、
前記残存冷媒量の推定は所定時刻に実行され、前記所定時刻より前の所定期間に取得した前記第1の運転状態量あるいは前記第2の運転状態量を用いて残存冷媒量を推定することを特徴とする請求項3に記載の空気調和機。
【請求項5】
前記制御部は、
前記第2の運転状態量を用いて前記残存冷媒量を推定する際に、前記第2の運転状態量を取得する毎に前記残存冷媒量を推定し、推定した前記残存冷媒量の平均値を算出し、算出した平均値を前記所定期間の残存冷媒量とすることを特徴とする請求項4に記載の空気調和機。
【請求項6】
前記制御部は、
前記取得部にて取得した前記運転状態量にはタイムスタンプが付与されており、前記タイムスタンプを参照することで、前記第1の安定条件下で取得した前記第1の運転状態量であるか、あるいは、前記第2の安定条件下で取得した前記第2の運転状態量であるかを判別することを特徴とする請求項5に記載の空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
冷媒回路で検知できる運転状態量を用いて冷媒量の判定を行う空気調和機が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、例えば、冷房サイクル時の冷媒回路の液管を流れる冷媒を液冷媒のみにする(ガス冷媒は存在しないようにする)ために、蒸発器出口の冷媒過熱度や蒸発器の圧力が調整された状態(以下、デフォルト状態という)での凝縮器出口の冷媒過冷却度を用いて冷媒量を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-23072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気調和機が実稼動している場合には、特許文献1の前提条件となっているデフォルト状態にすることは困難であり、冷媒量を推定するのは困難となる。
【0005】
本発明ではこのような問題に鑑み、空気調和機が実稼動している場合でも、冷媒回路に残存する冷媒量を推定できる空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの態様の空気調和機は、圧縮機、室外熱交換器及び膨張弁を有する室外機に、室内熱交換器を有する室内機が冷媒配管で接続されて形成される冷媒回路を有し、前記冷媒回路に所定量の冷媒が充填された空気調和機である。前記空気調和機は、取得部と、記憶部と、推定モデルと、検出部と、制御部とを有する。取得部は、空気調和運転時の運転状態量を定期的に取得する。記憶部は、前記取得部で取得された運転状態量を記憶する。推定モデルは、前記運転状態量を用いて、前記冷媒回路に残存している残存冷媒量を推定する。検出部は、前記記憶部から、冷媒回路が第1の安定条件を満たしている状態における運転状態量である第1の運転状態量、又は、前記冷媒回路が前記第1の安定条件と異なる第2の安定条件を満たしている状態における運転状態量である第2の運転状態量を検出する。制御部は、前記推定モデルと、前記検出部にて検出した運転状態量を用いて、前記冷媒回路の前記残存冷媒量を推定する。
【発明の効果】
【0007】
一つの側面として、空気調和機が実稼動している場合でも、冷媒回路に残存する残存冷媒量を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施例の空気調和機の一例を示す説明図である。
図2図2は、室外機及び室内機の一例を示す説明図である。
図3図3は、室外機の制御回路の一例を示すブロック図である。
図4図4は、空気調和機の冷媒変化の状態を示すモリエル線図である。
図5図5は、取得処理に関わる制御回路の処理動作の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、検出処理に関わる制御回路の処理動作の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、推定処理に関わる制御回路の処理動作の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、実施例2の空気調和システムの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、本願の開示する空気調和機等の実施例を詳細に説明する。尚、本実施例により、開示技術が限定されるものではない。また、以下に示す各実施例は、矛盾を起こさない範囲で適宜変形しても良い。
【実施例1】
【0010】
<空気調和機の構成>
図1は、本実施例の空気調和機1の一例を示す説明図である。図1に示す空気調和機1は、1台の室外機2と、1台の室内機3とを有する、例えば、家庭用の空気調和機である。室外機2は、液管4及びガス管5で室内機3と接続される。そして、室外機2と室内機3とが液管4及びガス管5等の冷媒配管で接続されることで、空気調和機1の冷媒回路6が形成されている。
【0011】
<室外機の構成>
図2は、室外機2および室内機3の一例を示す説明図である。室外機2は、圧縮機11と、四方弁12と、室外熱交換器13と、膨張弁14と、アキュムレータ15と、室外機ファン16と、制御回路17とを有する。これら圧縮機11、四方弁12、室外熱交換器13、膨張弁14及びアキュムレータ15を用いて、以下で詳述する各冷媒配管で相互に接続されて冷媒回路6の一部を成す室外側冷媒回路を形成する。
【0012】
圧縮機11は、例えば、インバータにより回転数が制御される図示しないモータの駆動に応じて、運転容量を可変できる高圧容器型の能力可変型圧縮機である。圧縮機11は、その冷媒吐出側が四方弁12の第1のポート12Aと吐出管21で接続されている。また、圧縮機11は、その冷媒吸入側がアキュムレータ15の冷媒流出側と吸入管22で接続されている。
【0013】
四方弁12は、冷媒回路6における冷媒の流れる方向を切替えるための弁であって、第1のポート12A~第4のポート12Dを備えている。第1のポート12Aは、圧縮機11の冷媒吐出側と吐出管21で接続されている。第2のポート12Bは、室外熱交換器13の一方の冷媒出入口(後述する第1の室外熱交口部13Aに相当する)と室外冷媒管23で接続されている。第3のポート12Cは、アキュムレータ15の冷媒流入側と室外冷媒管26で接続されている。そして、第4のポート12Dは、室内熱交換器51と室外ガス管24で接続されている。
【0014】
室外熱交換器13は、冷媒と、室外機ファン16の回転により室外機2の内部に取り込まれた外気とを熱交換させる。室外熱交換器13は、前記一方の冷媒出入口としての第1の室外熱交口部13Aと、他方の冷媒出入口としての第2の室外熱交口部13Bと、前記第1の室外熱交口部13Aと第2の室外熱交口部13Bとの間をつなぐ室外熱交中間部13Cとを有する。第1の室外熱交口部13Aは、四方弁12の第2のポート12Bと室外冷媒管23で接続される。第2の室外熱交口部13Bは、膨張弁14と室外液管25で接続される。室外熱交中間部13Cは、第1の室外熱交口部13Aと第2の室外熱交口部13Bに接続される。室外熱交換器13は、空気調和機1が冷房運転を行う場合に凝縮器として機能し、空気調和機1が暖房運転を行う場合に蒸発器として機能する。
【0015】
膨張弁14は、室外液管25に設けられており、図示しないパルスモータで駆動する電子膨張弁である。膨張弁14は、パルスモータに与えられるパルス数に応じて開度が調整されることで、膨張弁14から冷媒回路6内を流れる冷媒量(室外熱交換器13から室内熱交換器51に流入する冷媒量、又は、室内熱交換器51から室外熱交換器13に流入する冷媒量)を調整するものである。膨張弁14の開度は、圧縮機11の冷媒の吐出温度(冷媒吐出温度)が所定の温度である目標吐出温度に到達させるように調整される。
【0016】
アキュムレータ15は、その冷媒流入側が四方弁12の第3のポート12Cと室外冷媒管26で接続されている。更に、アキュムレータ15は、その冷媒流出側が圧縮機11の冷媒流入側と吸入管22で接続されている。アキュムレータ15は、室外冷媒管26からアキュムレータ15の内部に流入した冷媒をガス冷媒と液冷媒とに分離し、ガス冷媒のみを圧縮機11に吸入させる。
【0017】
室外機ファン16は、樹脂材で形成されており、室外熱交換器13の近傍に配置されている。室外機ファン16は、図示しないファンモータの回転に応じて、図示しない吸込口から室外機2の内部へ外気を取り込み、室外熱交換器13において冷媒と熱交換した外気を図示しない吹出口から室外機2の外部へ放出する。
【0018】
また、室外機2には、複数のセンサが配置されている。吐出管21には、圧縮機11から吐出された冷媒の温度、すなわち冷媒吐出温度を検出する吐出温度センサ31が配置されている。室外熱交換器13と膨張弁14との間の室外液管25には、熱交換器温度の内、第2の室外熱交口部13Bに流入する冷媒の温度、又は、第2の室外熱交口部13Bから流出する冷媒の温度を検出するための室外熱交出口センサ32が配置されている。そして、室外機2の図示しない吸込口付近には、室外機2の内部に流入する外気の温度、すなわち外気温度を検出する外気温度センサ33が配置されている。
【0019】
制御回路17は、後述する室内機3の制御回路18からの指示を受けて室外機2を制御する。室外機2の制御回路17は、図示しない通信部と、記憶部と、制御部とを有する。通信部は、室内機3の後述する通信部41と通信するための通信インタフェースである。記憶部は、例えば、フラッシュメモリであって、室外機2の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値等の運転状態量、圧縮機11や室外機ファン16の駆動状態、室外機2の定格能力及び各室内機3の要求能力、などを記憶する。
【0020】
<室内機の構成>
図2に示すように、室内機3は、室内熱交換器51と、ガス管接続部52と、液管接続部53と、室内機ファン54と、制御回路18とを有する。これら室内熱交換器51、ガス管接続部52及び液管接続部53は、後述する各冷媒配管で相互に接続されて、冷媒回路6の一部を成す室内機冷媒回路を構成する。
【0021】
室内熱交換器51は、冷媒と、室内機ファン54の回転により図示しない吸込口から室内機3の内部に取り込まれた室内空気とを熱交換させる。室内熱交換器51は、一方の冷媒出入口としての第1の室内熱交口部51Aと、他方の冷媒出入口としての第2の室内熱交口部51Bと、第1の室内熱交口部51Aと第2の室内熱交口部51Bとの間をつなぐ室内熱交中間部51Cとを有する。第1の室内熱交口部51Aは、ガス管接続部52と室内ガス管56で接続される。第2の室内熱交口部51Bは、液管接続部53と室内液管57で接続される。室内熱交中間部51Cは、第1の室内熱交口部51Aと第2の室内熱交口部51Bに接続される。室内熱交換器51は、空気調和機1が暖房運転を行う場合に凝縮器として機能し、空気調和機1が冷房運転を行う場合に蒸発器として機能する。
【0022】
室内機ファン54は、樹脂材で形成されており、室内熱交換器51の近傍に配置されている。室内機ファン54は、図示しないファンモータによって回転することで、図示しない吸込口から室内機3の内部に室内空気を取り込み、室内熱交換器51において冷媒と熱交換した室内空気を図示しない吹出口から室内へ放出する。
【0023】
室内機3には各種のセンサが設けられている。室内熱交中間部51Cには、熱交換器温度の内、室内熱交中間部51Cを通過する冷媒の温度、すなわち室内熱交中間温度を検出する室内熱交中間センサ58が配置されている。
【0024】
制御回路18は、空気調和機1全体を制御する。図3は、室内機3の制御回路18の一例を示すブロック図である。制御回路18は、通信部41と、取得部42と、検出部43と、記憶部44と、制御部45とを有する。通信部41は、室外機2の通信部と通信するための通信インタフェースである。取得部42は、前述した各種センサから検出信号に応じた検出値等の運転状態量を取得する。記憶部44は、例えば、フラッシュメモリであって、室内機3の制御プログラムや各種センサからの検出信号に対応した検出値等の運転状態量、室内機ファン54の駆動状態、室外機2から送信される運転情報(例えば、圧縮機11の運転・停止情報、室外機ファン16の駆動状態等を含む)、室外機2の定格能力及び各室内機3の要求能力、などを記憶する。
【0025】
記憶部44は、運転状態量メモリ61と、第1の運転状態量メモリ61Aと、第2の運転状態量メモリ61Bとを有する。運転状態量メモリ61は、取得部42にて取得した全ての運転状態量を記憶する。運転状態量は、例えば、冷房運転時において、圧縮機11の回転数、膨張弁14の開度、圧縮機11の冷媒吐出温度、室外熱交出口温度及び外気温度の各運転状態量や、例えば、暖房運転時において、圧縮機11の回転数、膨張弁14の開度、圧縮機11の冷媒吐出温度及び室内熱交中間温度の各運転状態量である。
【0026】
第1の運転状態量メモリ61Aは、運転状態量の内、第1の運転状態量を記憶する。第1の運転状態量は、冷媒回路6における高圧や低圧の各値が安定して冷媒回路6内を冷媒が安定して循環している状況下で第1の安定条件を満たしている状態における空気調和運転時の運転状態を示す運転状態量である。第1の安定条件は、圧縮機11の回転数の変動が第1の所定範囲以内の状態で第1の所定期間以上継続している状態、かつ、圧縮機11の冷媒吐出温度と目標吐出温度との差の絶対値が所定値以下の状態で第1の所定期間以上継続している状態である。第1の運転状態量は、例えば、圧縮機11の起動から8分経過後、圧縮機11の回転数の変動が5分間で±1rps以内、かつ、圧縮機11の冷媒吐出温度と目標吐出温度との差の絶対値が5分間で±2℃以内であるときに取得した運転状態量である。
【0027】
第2の運転状態量メモリ61Bは、運転状態量の内、第2の運転状態量を記憶する。第2の運転状態量は、冷媒回路6内を冷媒が安定して循環している状況下で第1の安定条件と異なる第2の安定条件を満たしている状態における空気調和運転時の運転状態を示す運転状態量である。第2の安定条件は、圧縮機11の回転数の変動が第1の所定範囲を超える第2の所定範囲内の状態で、第1の所定期間以上又は第1の所定期間を超える第2の所定期間以上継続している状態である。第2の運転状態量は、例えば、圧縮機11の起動から8分経過後、圧縮機11の回転数の変動が12分間で±5rps以内であるときに取得した運転状態量である。なお、第2の安定条件は、第1の安定条件と比べて圧縮機11の回転数の変動が緩和された条件であるため、第2の安定条件下で取得した第2の運転状態量は、第1の安定条件下で所得した第1の運転状態量と比べてばらつきが大きくなる。
【0028】
検出部43は、運転状態量メモリ61に記憶中の運転状態量から第1の運転状態量を検出し、検出した第1の運転状態量を第1の運転状態量メモリ61Aに記憶する。また、検出部43は、運転状態量メモリ61に記憶中の運転状態量から第2の運転状態量を検出し、検出した第2の運転状態量を第2の運転状態量メモリ61Bに記憶する。
【0029】
また、記憶部44は、冷媒回路6に残存する残存冷媒量を推定する推定モデルを記憶している。推定モデルは、冷房用推定モデル62Aと、暖房用推定モデル62Bとを有する。冷房用推定モデル62Aは、冷房運転時における冷媒回路6の残存冷媒量を推定するモデルである。また、暖房用推定モデル62Bは、暖房運転時における冷媒回路6の残存冷媒量を推定するモデルである。
【0030】
制御部45は、各種センサでの検出値を定期的(例えば、30秒毎)に取り込む。制御部45は、これら入力された各種情報に基づいて、空気調和機1全体を制御する。更に、制御部45は、上述した各推定モデルを用いて残存冷媒量を推定する。
【0031】
また、制御部45は、所定期間内において第1の運転状態量の検出数をカウントし、第1の運転状態量の検出数が所定数以上の場合に第1の運転状態量及び各推定モデルを用いて、冷媒回路6の残存冷媒量を推定する。制御部45は、所定期間内において第1の運転状態量の検出数が所定数未満の場合に第2の運転状態量及び各推定モデルを用いて、冷媒回路6の残存冷媒量を推定する。制御部45は、所定期間、例えば、1日に第1の運転状態量の検出数が所定数、例えば、50個以上の場合に第1の運転状態量及び各推定モデルを用いて残存冷媒量を推定する。また、制御部45は、1日に第1の運転状態量の検出数が50個未満の場合に第2の運転状態量及び各推定モデルを用いて残存冷媒量を推定する。
【0032】
制御部45は、1日のうちの所定時刻、例えば午前1時に、前日の24時間に取得した第1の運転状態量あるいは第2の運転状態量のいずれかを用いて前日の冷媒回路6の残存冷媒量の推定を行う。第1の運転状態量の検出数が所定数以上の場合は、取得した第1の運転状態量及び推定モデルを用いて残存冷媒量を推定し、第1の運転状態量の検出数が所定数未満の場合は、取得した第2の運転状態量及び推定モデルを用いて残存冷媒量を推定する。なお、1日の残存冷媒量の推定の具体的な方法については、後述する。
【0033】
<冷媒回路の動作>
次に、本実施形態における空気調和機1の空調運転時の冷媒回路6における冷媒の流れや各部の動作について説明する。
【0034】
空気調和機1が暖房運転を行う場合、四方弁12は、第1のポート12Aと第4のポート12Dとが連通し、第2のポート12Bと第3のポート12Cとが連通するように切替えている(図2に実線で示す状態)。これにより、冷媒回路6は、室内熱交換器51が凝縮器として機能し、室外熱交換器13が蒸発器として機能する暖房サイクルとなる。尚、説明の便宜上、暖房運転時の冷媒の流れは、図2に示す実線矢印で表記する。
【0035】
冷媒回路6がこの状態で圧縮機11が駆動すると、圧縮機11から吐出された冷媒は、吐出管21を流れて四方弁12に流入し、四方弁12から室外ガス管24を流れて、ガス管5へと流入する。ガス管5を流れる冷媒は、ガス管接続部52を介して室内機3に流入する。室内機3に流入した冷媒は、室内ガス管56を流れて室内熱交換器51に流入する。室内熱交換器51に流入した冷媒は、室内機ファン54の回転により室内機3の内部に取り込まれた室内空気との間で熱交換することで凝縮する。つまり、室内熱交換器51が凝縮器として機能し、室内熱交換器51で冷媒と熱交換することによって加熱された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることで、室内機3が設置された室内の暖房が行われる。
【0036】
室内熱交換器51から室内液管57に流入した冷媒は、液管接続部53を介して液管4に流出する。液管4に流入した冷媒は、室外機2に流入する。室外機2に流入した冷媒は、室外液管25を流れ、膨張弁14を通過して減圧される。膨張弁14で減圧された冷媒は、室外液管25を流れて室外熱交換器13に流入し、室外機ファン16の回転によって室外機2の図示しない吸込口から流入した外気と熱交換を行って蒸発する。室外熱交換器13から室外冷媒管26へと流出した冷媒は、四方弁12、室外冷媒管26、アキュムレータ15及び吸入管22の順に流入し、圧縮機11に吸入されて再び圧縮され、四方弁12の第1のポート12A及び第4のポート12D経由で室外ガス管24に流出する。
【0037】
また、空気調和機1が冷房運転を行う場合、四方弁12は、第1のポート12Aと第2のポート12Bとが連通し、第3のポート12Cと第4のポート12Dとが連通するように切替えている(図2に破線で示す状態)。これにより、冷媒回路6は、室内熱交換器51が蒸発器として機能し、室外熱交換器13が凝縮器として機能する冷房サイクルとなる。尚、説明の便宜上、冷房運転時の冷媒の流れは、図2に示す破線矢印で表記する。
【0038】
冷媒回路6がこの状態で圧縮機11が駆動すると、圧縮機11から吐出された冷媒は、吐出管21を流れて四方弁12に流入し、四方弁12から室外冷媒管23を流れて、室外熱交換器13に流入する。室外熱交換器13に流入した冷媒は、室外機ファン16の回転により室外機2の内部に取り込まれた室外空気との間で熱交換することで凝縮する。つまり、室外熱交換器13が凝縮器として機能し、室外熱交換器13で冷媒によって加熱された室外空気が図示しない吹出口から室外に吹き出される。
【0039】
室外熱交換器13から室外液管25へと流入した冷媒は、膨張弁14を通過して減圧される。膨張弁14で減圧された冷媒は、液管4を流れて室内機3に流入する。室内機3に流入した冷媒は、室内液管57を流れて室内熱交換器51に流入し、室内機ファン54の回転によって室内機3の図示しない吸入口から流入した室内空気と熱交換を行って蒸発する。つまり、室内熱交換器51が蒸発器として機能し、室内熱交換器51で冷媒と熱交換することによって冷却された室内空気が図示しない吹出口から室内に吹き出されることで、室内機3が設置された室内の冷房が行われる。
【0040】
室内熱交換器51からガス管接続部52を介してガス管5へ流れる冷媒は、室外機2の室外ガス管24に流れて四方弁12の第4のポート12Dに流入する。四方弁12の第4のポート12Dに流入した冷媒は、第3のポート12Cからアキュムレータ15の冷媒流入側に流入する。アキュムレータ15の冷媒流入側から流入した冷媒は、吸入管22を介して流入し、圧縮機11に吸入されて再び圧縮されることになる。
【0041】
空気調和機1が以上に説明した冷房運転や暖房運転を行っているとき、制御回路18内の取得部42は、吐出温度センサ31、室外熱交出口センサ32及び外気温度センサ33のセンサ値を室外機2の制御回路17を介して取得する。更に、取得部42は、室内機3の室内熱交中間センサ58及び吸込温度センサ59のセンサ値を取得する。
【0042】
図4は、空気調和機1の冷凍サイクルを示すモリエル線図である。前述したように、空気調和機1の冷房運転時は、室外熱交換器13が凝縮器として機能するとともに室内熱交換器51が蒸発器として機能し、空気調和機1の暖房運転時は、室外熱交換器13が蒸発器として機能するとともに室内熱交換器51が凝縮器として機能する。
【0043】
圧縮機11は、蒸発器から流入する低温低圧のガス冷媒(図4の点Aの状態の冷媒)を圧縮して高温高圧のガス冷媒(図4の点Bの状態になった冷媒)を吐出する。尚、圧縮機11が吐出するガス冷媒の温度が冷媒吐出温度であり、冷媒吐出温度は、吐出温度センサ31で検出する。
【0044】
凝縮器は、圧縮機11からの高温高圧のガス冷媒を空気と熱交換して凝縮させる。この際、凝縮器では、潜熱変化によってガス冷媒が全て液冷媒となった後は顕熱変化によって液冷媒の温度が低下して過冷却状態となる(図4の点Cの状態)。尚、ガス冷媒が潜熱変化で液冷媒へと変化している際の温度が凝縮温度であり、凝縮器の出口における過冷却状態となっている冷媒の温度が熱交出口温度である。熱交換器温度の内、熱交出口温度は、冷房運転時の室外熱交出口センサ32で検出する。なお、暖房運転時は冷媒の流れが冷房運転時と逆になり、室外熱交換器13が蒸発器として機能する。暖房運転時には、室外熱交出口センサ32は室外熱交換器13の温度を検出して結氷を検知したり、除霜運転を制御したりする際に用いられる。
【0045】
膨張弁14は、凝縮器から流出した低温高圧の冷媒を減圧する。膨張弁14で減圧された冷媒は、ガスと液とが混合した気液二相冷媒(図4の点Dの状態になった冷媒)となる。
【0046】
蒸発器は、流入した気液二相冷媒を空気と熱交換して蒸発させる。この際、蒸発器では、潜熱変化によって気液二相冷媒が全てガス冷媒となった後は顕熱変化によってガス冷媒の温度が上昇して過熱状態(図4の点Aの状態)となり、圧縮機11に吸入される。尚、液冷媒が潜熱変化でガス冷媒へと変化している際の温度が蒸発温度である。蒸発温度は、冷房運転時の室内熱交中間センサ58で検出する室内熱交中間温度である。また、蒸発器で過熱されて圧縮機11に吸入される冷媒の温度が吸入温度である。なお、暖房運転時は冷媒の流れが冷房運転時と逆になり、室内熱交換器51が凝縮器として機能する。室内熱交中間センサ58の検出結果は目標吐出温度の算出に用いられる。
【0047】
<推定モデルの構成>
推定モデルは、複数の運転状態量の内、任意の運転状態量(特徴量)を用いて回帰分析法の一種である重回帰分析法で生成されている。重回帰分析法では、実際の空気調和機(以下、実機)を用いた試験結果(実機を用いて冷媒回路に残存する冷媒量を変化させた場合に、運転状態量がどのような値となるかを試験した結果)や複数のシミュレーション結果(数値計算により冷媒回路を再現して、残存する冷媒量に対して運転状態量がどのような値となるかを計算した結果)から得られた回帰式のうち、P値(生成した推定モデルの精度に運転状態量が与える影響度合いを示す値(所定の重みパラメータ))が一番小さく、かつ、補正値R2(生成した推定モデルの精度を示す値)が0.9以上1.0以下の間のできるだけ大きい値となる回帰式を選択して推定モデルとして生成する。ここで、P値および補正値R2は、重回帰分析法で推定モデルを生成する際に、当該推定モデルの精度に関わる値であり、P値が小さいほど、また、補正値R2が1.0に近い値であるほど、生成された推定モデルの精度が高くなる。
【0048】
推定モデルは、冷房用推定モデル62Aと、暖房用推定モデル62Bとを有する。本実施例では、これら各推定モデルは、後述するように実機を用いた試験結果を用いて生成されて、予め空気調和機1の制御回路18に記憶されている。
【0049】
冷房用推定モデル62Aは、冷房運転時の運転状態量、例えば、第1の運転状態量又は第2の運転状態量を用いて、冷房運転時の残存冷媒量を高精度に推定できる第1の回帰式である。
【0050】
【数1】
【0051】
係数α1~α6は、推定モデル生成の際に決定されるものとする。制御部45は、1日のうちの所定時刻に、前日の24時間で検出部43が検出した第1の運転状態量もしくは第2の運転状態量のうちの圧縮機11の回転数、膨張弁14の開度、圧縮機11の冷媒吐出温度、熱交出口温度及び外気温度をそれぞれ第1の回帰式に代入することで、第1の運転状態量あるいは第2の運転状態量を検出した時点の冷媒回路6の残存冷媒量を算出する。そして、制御部45は、各時点での第1の運転状態量を用いて算出した残存冷媒量の平均値、あるいは、各時点での第2の運転状態量を用いて算出した残存冷媒量の平均値のいずれかを前日の残存冷媒量の推定値とする。尚、圧縮機11の回転数、膨張弁の開度、圧縮機11の冷媒吐出温度、室外熱交出口温度及び外気温度を代入する理由は、冷房用推定モデル62Aの生成時に使用した特徴量を使用するためである。圧縮機11の回転数は、例えば圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。膨張弁の開度は、例えば制御部45から膨張弁のステッピングモータ(図示しない)に入力されるパルス信号のパルス数を使用する。圧縮機11の冷媒吐出温度は、吐出温度センサ31で検出する。熱交出口温度は、室外熱交出口センサ32で検出する。外気温度は、外気温度センサ33で検出する。
【0052】
暖房用推定モデル62Bは、暖房運転時の運転状態量、例えば、第1の運転状態量又は第2の運転状態量を用いて、暖房運転時の残存冷媒量を高精度に推定できる第2の回帰式である。
【0053】
【数2】
【0054】
係数α11~α15は、推定モデル生成の際に決定されるものとする。制御部45は、1日のうちの所定時刻に、前日の24時間で検出部43が検出した第1の運転状態量もしくは第2の運転状態量のうちの圧縮機11の回転数、膨張弁14の開度、圧縮機11の冷媒吐出温度及び室内熱交中間温度をそれぞれ第2の回帰式に代入することで、第1の運転状態量あるいは第2の運転状態量を検出した時点の冷媒回路6の残存冷媒量を算出する。そして、制御部45は、各時点での第1の運転状態量を用いて算出した残存冷媒量の平均値、あるいは、各時点での第2の運転状態量を用いて算出した残存冷媒量の平均値のいずれかを前日の残存冷媒量の推定値とする。尚、圧縮機11の回転数、膨張弁14の開度、圧縮機11の冷媒吐出温度及び室内熱交中間温度を代入する理由は、暖房用推定モデル62Bの生成時に使用した特徴量を使用するためである。圧縮機11の回転数は、圧縮機11の図示しない回転数センサで検出する。膨張弁の開度は、例えば制御部45から膨張弁のステッピングモータ(図示しない)に入力されるパルス信号のパルス数を使用する。圧縮機11の冷媒吐出温度は、吐出温度センサ31で検出する。熱交換器温度の内、室内熱交中間温度は、室内熱交中間センサ58で検出する。
【0055】
以上に説明したように、冷房運転時は、第1の回帰式を使用して残存冷媒量を推定する。また、暖房運転時は、第2の回帰式を使用して残存冷媒量を推定する。
【0056】
<回帰式の生成方法>
次に第1の回帰式及び第2の回帰式の生成に使用する特徴量について説明する。第1の回帰式を使用する冷房運転時では、重回帰分析法により第1の回帰式の生成を行う際に使用する特徴量として、本実施例では、圧縮機11の回転数、膨張弁14の開度、圧縮機11の冷媒吐出温度、室外熱交出口温度及び外気温度の各運転状態量を用いる。そして、これら各運転状態量は、実機を用いた試験結果を使用する。また、第2の回帰式を使用する暖房運転時では、重回帰分析により第2の回帰式の生成を行う際に使用する特徴量として、本実施例では、圧縮機11の回転数、膨張弁14の開度、圧縮機11の冷媒吐出温度及び室内熱交中間温度の各運転状態量を用いる。そして、これら各運転状態量は、実機を用いた試験結果を使用する。なお、上述した冷房用推定モデル62Aである第1の回帰式や暖房用推定モデル62Bである第2の回帰式を生成する際は、第1の安定条件が成立しているときに検出した第1の運転状態量を用いる。
【0057】
具体的には、空気調和機1の設計段階で、一例として室内機3が運転している場合に外気温度、室内温度や冷媒充填量を異ならせて空気調和機1を試験運転して、特徴量と冷媒不足率との関係を取得する。試験運転を行う際の条件としては、例えば、外気温度を20℃、25℃、30℃、35℃及び40℃と変化させる。なお、試験運転を行うに際しては、外気温度の他のパラメータを加えてもよい。
【0058】
複数の運転状態量の内、推定モデルに使用する任意の運転状態量(特徴量)は、複数の運転状態量と冷媒充填量との関係を示す試験結果(以下、教師データ)から得ることになる。具体的に教師データは、冷媒回路に充填させる冷媒量を変えることで変化した残存冷媒量とその残存冷媒量で運転した際の各運転状態量とを紐づけたデータ(重回帰分析法での推定モデル生成に用いる教師データ)である。
【0059】
重回帰分析法では、例えば、冷媒充填量を異ならせて試験運転を行い、各冷媒充填量において外気温度毎に異なる各運転状態量を取得し、冷媒充填量毎のデータに分類する。教師データに使用する運転状態量としては、例えば、圧縮機11、室内機3及び室外機2の運転状態量がある。圧縮機11の運転状態量としては、例えば、回転数、目標回転数、運転時間、冷媒吐出温度、目標吐出温度、出力電圧等がある。また、室内機3の運転状態量としては、例えば、室内機ファン54の回転数や目標回転数、熱交換器中間センサ温度等がある。また、室外機2の運転状態量としては、例えば、室外機ファン16の回転数や目標回転数、膨張弁14の開度、凝縮器出口センサ温度等がある。そして、冷媒充填量毎のデータを教師データとして機械学習を行うことで、残存冷媒量を推定するための任意の運転状態量(特徴量)を抽出すると共に係数を導出して、推定モデルを生成する。
【0060】
<運転状態量の取得処理の動作>
次に実施例1の空気調和機1で運転状態量を取得する際の動作について説明する。図5は、運転状態量の取得に関わる制御回路18の処理動作の一例を示すフローチャートである。図5において制御回路18の取得部42は、運転状態量を取得する所定タイミングであるか否かを判定する(ステップS11)。尚、所定タイミングは、例えば、運転状態量を取得する5分周期のタイミングである。取得部42は、所定タイミングである場合(ステップS11:Yes)、空気調和機1の運転状態量を取得する(ステップS12)。取得部42は、空気調和機1の運転状態量を取得した後、運転状態量を運転状態量メモリ61に記憶し(ステップS13)、ステップS11に処理を戻す。なお、取得部42は、ステップS11において所定タイミングでない場合(ステップS11:No)、ステップS11に処理を戻す。
【0061】
<運転状態量の検出処理の動作>
図6は、運転状態量の検出に関わる制御回路18の処理動作の一例を示すフローチャートである。図6において制御回路18の検出部43は、1日のうちの所定時刻(例えば、前述した午前1時)に運転状態量メモリ61に記憶した運転状態量を参照し、圧縮機11の起動から8分経過後に取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にあるか否かを判定する(ステップS21)。検出部43は、圧縮機11の起動から8分経過後に取得した運転状態量がある場合(ステップS21:Yes)、圧縮機11の回転数の変動が第2の所定範囲、例えば、±5rps内の状態で第2の所定期間、例えば、12分間以上継続したとき、つまり、第2の安定条件が成立しているときに取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にあるか否かを判定する(ステップS22)。なお、5分周期のタイミングで取得されて運転状態量メモリ61に記憶されている運転状態量には、取得した時間を示すタイムスタンプが付与されており、検出部43は、運転状態量に付与されたタイムスタンプを参照することで、第2の安定条件が成立していた時間帯に取得した運転状態量があるか否かを判定できる。
【0062】
検出部43は、圧縮機11の回転数の変動が第2の所定範囲内の状態で第2の所定期間以上継続したときに取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にない場合(ステップS22:No)、圧縮機11の回転数の変動が第1の所定範囲、例えば、±1rps内の状態で第1の所定期間、例えば、5分間以上継続したときに取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にあるか否かを判定する(ステップS23)。検出部43は、圧縮機11の回転数の変動が第1の所定範囲内の状態で第1の所定期間以上継続したときに取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にある場合(ステップS23:Yes)、ステップS23の条件を満たす運転状態量の中に圧縮機11の冷媒吐出温度と目標吐出温度との差の絶対値が所定値、例えば2℃以下の状態で第1の所定期間以上継続したときに取得した運転状態量があるか否かを判定する(ステップS24)。つまり、検出部43は、ステップS23の判定とステップS24の判定を行うことで、第1の安定条件が成立しているときに取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にあるか否かを判定する。なお、検出部43は、運転状態量に付与されたタイムスタンプを参照することで、第1の安定条件が成立していた時間帯に取得した運転状態量があるか否かを判定できる。
【0063】
検出部43は、ステップS23の条件を満たす運転状態量の中に圧縮機11の冷媒吐出温度と目標吐出温度との差の絶対値が所定値以下の状態で第1の所定期間以上継続したときに取得した運転状態量がある場合(ステップS24:Yes)、該当する運転状態量を第1の運転状態量として検出する(ステップS25)。更に、検出部43は、ステップS25にて検出した第1の運転状態量を第1の運転状態量メモリ61Aに記憶し(ステップS26)、ステップS21に処理を戻す。
【0064】
また、検出部43は、圧縮機11の回転数の変動が第2の所定範囲内の状態で第2の所定期間以上継続したときに取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にある場合(ステップS22:Yes)、該当する運転状態量を第2の運転状態量として検出する(ステップS27)。検出部43は、ステップS27にて検出した第2の運転状態量を第2の運転状態量メモリ61Bに記憶し(ステップS28)、ステップS23に処理を進める。
【0065】
また、検出部43は、圧縮機11の起動から8分経過後に取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にない場合(ステップS21:No)、ステップS21に処理を戻す。また、検出部43は、圧縮機11の回転数の変動が第1の所定範囲内の状態で第1の所定期間以上継続したときに取得した運転状態量が運転状態量メモリ61内にない場合(ステップS23:No)、ステップS21に処理を戻す。また、検出部43は、ステップS23の条件を満たす運転状態量の中に圧縮機11の冷媒吐出温度と目標吐出温度との差の絶対値が所定値以下の状態で第1の所定期間以上継続したときに取得した運転状態量がない場合(ステップS24:No)、ステップS21に処理を戻す。
【0066】
<残存冷媒量の推定処理の動作>
図7は、残存冷媒量の推定に関わる制御回路18の処理動作の一例を示すフローチャートである。図7において、制御回路18の制御部45は、推定タイミングであるか否かを判定する(ステップS31)。尚、推定タイミングは前述した1日のうちの所定時刻、例えば、午前1時である。制御部45は、推定タイミングである場合(ステップS31:Yes)、所定期間、例えば前日の1日のうちに取得した第1の運転状態量の数(検出数)をカウントし(ステップS32)、所定期間内の第1の運転状態量の検出数が所定数、例えば、50個以上であるか否かを判定する(ステップS33)。
【0067】
制御部45は、所定期間内の第1の運転状態量の検出数が所定数以上の場合(ステップS33:Yes)、第1の運転状態量及び各推定モデルを用いて、取得した第1の運転状態量毎に冷媒回路6の残存冷媒量を算出する(ステップS34)。例えば、冷房運転時の制御部45は、第1の運転状態量及び冷房用推定モデル62Aを用いて、取得した第1の運転状態量毎に冷媒回路6の残存冷媒量を算出する。また、暖房運転時の制御部45は、第1の運転状態量及び暖房用推定モデル62Bを用いて、取得した第1の運転状態量毎に冷媒回路6の残存冷媒量を算出する。
【0068】
制御部45は、所定期間内の第1の運転状態量の検出数が所定数以上でない場合(ステップS33:No)、すなわち検出数が所定数未満の場合、第2の運転状態量及び推定モデルを用いて、取得した第2の運転状態量毎に冷媒回路6の残存冷媒量を算出する(ステップS35)。例えば、冷房運転時の制御部45は、第2の運転状態量及び冷房用推定モデル62Aを用いて、取得した第2の運転状態量毎に冷媒回路6の残存冷媒量を算出する。また、暖房運転時の制御部45は、第2の運転状態量及び暖房用推定モデル62Bを用いて、取得した第2の運転状態量毎に冷媒回路6の残存冷媒量を算出する。
【0069】
次に制御部45は、ステップS34で算出した各残存冷媒量あるいはステップS35で算出した各残存冷媒量の平均値を算出し(ステップS36)、算出した各残存冷媒量の平均値が所定値未満であるか否かを判定する(ステップS37)。ここで、所定値とは、冷媒回路6に充填されている冷媒量がこの所定値未満となれば、空気調和機1で発揮される空調能力に支障が出ることが、予め行われる試験などで判明している値であり、例えば、空気調和機1が設置された際に冷媒回路6に充填されていた冷媒量に対し60%の冷媒量である。
【0070】
制御部45は、算出した各残存冷媒量の平均値が所定値未満である場合(ステップS37:Yes)、算出した平均値を残存冷媒量の推定値として出力し(ステップS38)ステップS31に処理を戻す。ここで、残存冷媒量の推定値の出力は例えば、室内機3を操作する図示しないリモコンや空気調和機1の使用者の携帯端末に残存冷媒量の推定値を送信することであり、残存冷媒量の推定値を受信したリモコンや懈怠端末では、各々の表示部に受信した残存冷媒量の推定値が表示される。
【0071】
なお、制御部45は、ステップS31において推定タイミングでない場合(ステップS31:No)、ステップS31に処理を戻す。また、制御部45は、ステップS37において算出した各残存冷媒量の平均値が所定値未満でない場合(ステップS37:No)、ステップS31に処理を戻す。
【0072】
<実施例1の効果>
実施例1の空気調和機1は、冷媒回路6が第1の安定条件を満たしている状態における空気調和運転時の運転状態を示す第1の運転状態量と、冷房運転用/暖房運転用の各推定モデルとを用いて、冷媒回路6に残存している残存冷媒量を推定する。第1の運転状態量を残存冷媒量の推定に用いれば、各推定モデルの生成にも第1の運転状態量を使用しているため、残存冷媒量を正確に推定できる。また、第1の安定条件が成立しない、つまり、冷媒回路6が安定している状態が得づらい場合は、冷媒回路6が第2の安定条件を満たしている状態における空気調和運転時の運転状態を示す第2の運転状態量と、冷房運転用/暖房運転用の各推定モデルとを用いて、冷媒回路6に残存している残存冷媒量を推定する。第2の運転状態量を残存冷媒量の推定に用いれば、第1の運転状態量を用いる場合と比べて個々の推定の精度は落ちるが、第2の運転状態量は第1の運転状態量より多く取得できるため、個々の推定結果を平均しこの平均値を残存冷媒量の推定値とすることで、残存冷媒量の推定精度を確保できる。
【0073】
制御部45は、所定期間内において第1の運転状態量の検出数が所定数以上の場合に第1の運転状態量及び推定モデルを用いて、残存冷媒量を推定する。所定期間内において第1の運転状態量の検出数が所定数未満の場合に第2の運転状態量及び推定モデルを用いて、残存冷媒量を推定する。その結果、残存冷媒量を推定する際に、第1の運転状態量又は第2の運転状態量を使い分けることができる。
【0074】
制御部45は、所定タイミング毎に第2の運転状態量及び推定モデルを用いて残存冷媒量を推定した場合に、所定期間内の所定タイミング毎に推定した残存冷媒量の平均値を、所定期間内の残存冷媒量として出力する。その結果、高精度の残存冷媒量を推定できる。
【0075】
尚、実施例1では、圧縮機11の回転数の変動が第1の所定範囲以内の状態で第1の所定期間以上継続している状態、かつ、圧縮機11の冷媒吐出温度と目標吐出温度との差の絶対値が所定値以下の状態で第1の所定期間以上継続している状態の場合に第1の安定条件を満たしている状態とした。しかしながら、圧縮機11の回転数の変動が第1の所定範囲以内の状態で第1の所定期間以上継続している状態のみで第1の安定条件を満たしている状態としてもよく、適宜変更可能である。
【0076】
実施例1では、圧縮機11の回転数の変動が第1の所定範囲を超える第2の所定範囲内の状態で、第1の所定期間を超える第2の所定期間以上継続している状態として第2の安定条件を満たしている状態とした。しかしながら、第2の所定期間以上継続していなくても、圧縮機11の回転数の変動が第2の所定範囲内の状態で第1の所定期間以上継続している状態で第2の安定条件を満たしている状態としてもよく、適宜変更可能である。
【0077】
実施例1では、所定タイミング毎に残存冷媒量を推定する場合を例示したが、定期的に推定しなくてもよく、適宜変更可能である。
【0078】
実施例1では、空気調和機1の設計段階で各運転状態量を空気調和機1の試験運転により求め、学習機能を有するサーバなどの端末に試験結果を学習させて得られた推定モデルを制御回路18が予め記憶している場合を例示した。これに代えて、各運転状態量をシミュレーションにより取得し、取得した結果を学習させて得られた推定モデルを予め記憶してもよい。さらに、空気調和機1との間を通信網110で接続するサーバ120が存在し、このサーバ120が第1の回帰式及び第2の回帰式を生成して空気調和機1に送信するようにしてもよい。この実施の形態につき、以下に説明する。
【実施例2】
【0079】
<空気調和システムの構成>
図8は、実施例2の空気調和システム100の一例を示す説明図である。尚、実施例1の空気調和機1と同一の構成には同一符号を付すことで、その重複する構成及び動作の説明については省略する。図8に示す空気調和システム100は、実施例1で説明した空気調和機1と、通信網110と、サーバ120とを有し、空気調和機1が通信網110を介してサーバ120と通信可能に接続されている。
【0080】
サーバ120は、生成部121と、送信部122とを有する。生成部121は、冷媒回路6に充填された冷媒の残存冷媒量の推定に関わる運転状態量を用いて重回帰分析法で推定モデルを生成する。尚、推定モデルは、例えば、実施例1で説明した冷房用推定モデル62Aと、暖房用推定モデル62Bとを有する。送信部122は、生成部121にて生成した各推定モデルを通信網110経由で空気調和機1に送信する。空気調和機1内の制御回路18は、受信した各推定モデルを用いて空気調和機1の冷媒回路6における残存冷媒量を算出する。
【0081】
サーバ120内の生成部121は、冷媒回路6における残存冷媒量を実測できる空気調和機1の標準機(製造メーカの試験室などに設置されている)から定期的に冷房運転時の運転状態量を収集し、各推定モデルで推定した残存冷媒量と実測した残存冷媒量との比較結果と収集した運転状態量とを用いて、冷房用推定モデル62Aを生成あるいは更新する。そして、サーバ120内の送信部122は、生成あるいは更新した冷房用推定モデル62Aを空気調和機1に定期的に送信する。なお、実施例1のように、各推定モデルの生成に使用する運転状態量をシミュレーションで得て、生成部121がシミュレーションで得た運転状態量を用いて各推定モデルを生成してもよい。
【0082】
サーバ120内の生成部121は、上述した空気調和機1の標準機から定期的に暖房運転時の運転状態量を収集し、推定モデルで推定した残存冷媒量と実測した残存冷媒量との比較結果と収集した運転状態量とを用いて、暖房用推定モデル62Bを生成する。そして、サーバ120内の送信部122は、生成した暖房用推定モデル62Bを空気調和機1に定期的に送信する。なお、実施例1のように、各推定モデルの生成に使用する運転状態量をシミュレーションで得て、生成部121がシミュレーションで得た運転状態量を用いて各推定モデルを生成してもよい。
【0083】
<実施例2の効果>
実施例2のサーバ120は、冷媒回路6の残存冷媒量の推定に関わる運転状態量を用いて重回帰分析法を使用して、残存冷媒量を推定する推定モデルを生成し、生成した推定モデルを空気調和機1に送信する。空気調和機1は、サーバ120から受信した推定モデルと、現在の運転状態量とを用いて、残存冷媒量を推定する。その結果、家庭用の空気調和機1でも、高精度な推定モデルを用いて現時点の残存冷媒量を推定できる。
【0084】
また、本実施例では、冷媒回路6に残存する残存冷媒量を推定する場合を説明した。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、具体的には、冷媒回路6に冷媒を充填した際の充填量(初期値)に対する、冷媒回路6から外部に漏洩した冷媒量の割合である冷媒不足率を推定してもよい。また、推定した冷媒不足率に初期値を乗じて、冷媒回路6から外部に漏洩した冷媒量を提供するようにしてもよい。また、冷媒回路6から外部に漏洩した絶対的な冷媒量あるいは冷媒回路6に残留する絶対的な冷媒量を推定する推定モデルを生成し、この推定モデルによる推定結果を提供するようにしてもよい。冷媒回路6から外部に漏洩した絶対的な冷媒量あるいは冷媒回路6に残留する絶対的な冷媒量を推定する推定モデルを生成する場合は、ここまでに説明した各運転状態量に加えて、室外熱交換器13及び室内熱交換器51の容積や液管4の容積を考慮すればよい。
【0085】
また、冷媒不足率は、冷媒が規定量充填されているときを100%としたとき、この規定量に対する減少分の割合である。これに代えて、冷媒回路6に冷媒を規定量充填した直後に、冷媒不足率を推定し、この推定結果を100%としてもよい。例えば、冷媒回路6に冷媒を規定量充填した直後に推定した冷媒不足率が90%である場合、つまり、冷媒回路6に充填されている冷媒量が規定量充填より10%少ないと推定した場合、この規定量充填より10%少ない冷媒量を100%としてもよい。このように100%とする冷媒量を推定結果に合わせることで、これ以降の冷媒不足率をより正確に推定できる。
【0086】
<変形例>
本実施例では、室内機3に備えた制御回路18が空気調和機1全体を制御する場合を例示したが、制御回路18は室外機2やクラウド側に備えても良い。本実施例では、推定モデルは、サーバ120で生成する場合を例示したが、サーバ120ではなく、人がシミュレーション結果から推定モデルを算出しても良い。また、本実施例では、室内機3の制御回路18が推定モデルを用いて冷媒量を推定する場合を例示したが、推定モデルを生成するサーバ120で冷媒量を推定しても良い。また、本実施例では、重回帰分析法を用いて各推定モデルを生成する場合を例示したが、一般の回帰分析法を行える機械学習手法のSVR(Support Vector Regression)、NN(Neural Network)などを用いて推定モデルを生成しても良い。その際、特徴量選択に当たっては重回帰分析法で用いたP値や補正値R2の代わりに、推定モデルの精度が向上するよう特徴量を選択する一般の手法(Forward Feature Selection法、Backward feature Eliminationなど)を使えばよい。
【0087】
また、図示した各部の各構成要素は、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各部の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0088】
更に、各装置で行われる各種処理機能は、CPU(Central Processing Unit)(又はMPU(Micro Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)等のマイクロ・コンピュータ)上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良い。また、各種処理機能は、CPU(又はMPU、MCU等のマイクロ・コンピュータ)で解析実行するプログラム上、又はワイヤードロジックによるハードウェア上で、その全部又は任意の一部を実行するようにしても良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0089】
1 空気調和機
2 室外機
3 室内機
11 圧縮機
18 制御回路
42 取得部
43 検出部
44 記憶部
45 制御部
61A 第1の運転状態量メモリ
61B 第2の運転状態量メモリ
62A 冷房用推定モデル
62B 暖房用推定モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8