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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20241008BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20241008BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20241008BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20241008BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20241008BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20241008BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241008BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241008BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C11/00 D
B60C1/00 A
B60C11/03 100A
B60C11/12 A
B60C11/12 D
C08L9/00
C08K5/548
C08K3/36
C08K3/013
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022531674
(86)(22)【出願日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2021021391
(87)【国際公開番号】W WO2021261221
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2020109956
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雅子
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-40214(JP,A)
【文献】特開2018-184497(JP,A)
【文献】特表2013-514428(JP,A)
【文献】特開2015-81085(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178336(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/180257(WO,A1)
【文献】特開2008-174638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0137745(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0061425(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層と、前記第二層の半径方向内側に隣接する第三層を少なくとも備えたトレッドを有するタイヤであって、
前記第一層、前記第二層および前記第三層がゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、
前記第三層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量が、前記第二層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量よりも多く、
前記第二層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量が、前記第一層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量よりも多いタイヤ。
【請求項2】
前記第一層を構成するゴム組成物のJIS K 6258:2016に準拠して測定した23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率X1(%)と、前記第二層を構成するゴム組成物のJIS K 6258:2016に準拠して測定した23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率X2(%)との差(X1-X2)が50%以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδが0.45以上である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第二層を構成するゴム組成物の硬度と前記第一層を構成するゴム組成物の硬度との差が5以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物の比重が、それぞれ1.25以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記第二層を構成するゴム組成物の比重が1.20未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE2が、前記第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE1よりも多い、請求項1~6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記第二層を構成するゴム組成物の23℃における100%延伸時のモジュラスが、前記第一層を構成するゴム組成物の23℃における100%延伸時のモジュラスよりも大きい、請求項1~7のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第一層を構成するゴム成分および前記第二層を構成するゴム成分が、それぞれブタジエンゴムを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物が、それぞれ補強用充填剤およびシランカップリング剤を含有し、前記第一層を構成するゴム組成物中の補強用充填剤中のシリカの含有量、および前記第二層を構成するゴム組成物中の補強用充填剤中のシリカの含有量が80質量%以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物に含まれる前記シランカップリング剤が、それぞれメルカプト系シランカップリング剤である、請求項10記載のタイヤ。
【請求項12】
前記第二層を構成するゴム組成物が樹脂成分を含有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記第三層の厚さが、前記第一層および前記第二層それぞれの厚さより薄い、請求項1~12のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記トレッドが、複数の周方向溝によって仕切られた陸部を有し、少なくとも1つの前記周方向溝の溝底の最深部が、前記第二層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成されている、請求項1~13のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項15】
前記陸部に、両端が前記周方向溝に開口していないサイプを有する、請求項14記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、路面に接地するキャップゴムと、該キャップゴムよりタイヤ半径方向内側に配置されるベースゴムとを有するトレッド部を備えたタイヤにおいて、キャップゴムを相対的に剛性の高いゴム層とし、ベースゴムを相対的に剛性の低いゴム層とし、かつ、ベースゴムの厚みをタイヤ幅方向に傾斜させることで、接地圧の差を少なくし、ブレーキ性能を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-162242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のタイヤは、相対的に剛性の高いキャップゴムにより路面に対する追従性が失われやすく、また、ベースゴムの剛性が低いため十分な反力を発生させることができないことから、ウェット路面での操縦安定性には改善の余地がある。さらに、ベースゴムが露出した際に急激に耐摩耗性が悪化することも懸念され、走行末期までのトータルでの耐摩耗性能にも改善の余地がある。
【0005】
本発明は、ウェット路面での操縦安定性能、および走行末期までのトータルでの耐摩耗性能の総合性能が改善されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、トレッド部に3層以上のゴム層を設け、かつ、タイヤ半径方向内側のゴム層からタイヤ半径方向外側のゴム層に向かってフリーサルファー量の濃度勾配を付けることにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層と、前記第二層の半径方向内側に隣接する第三層を少なくとも備えたトレッドを有するタイヤであって、前記第一層、前記第二層および前記第三層がゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、前記第三層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量が、前記第二層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量よりも多く、前記第二層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量が、前記第一層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量よりも多いタイヤ、
〔2〕前記第一層を構成するゴム組成物のJIS K 6258:2016に準拠して測定した23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率X1(%)と、前記第二層を構成するゴム組成物のJIS K 6258:2016に準拠して測定した23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率X2(%)との差(X1-X2)が50%以下である、〔1〕記載のタイヤ、
〔3〕前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδが0.45以上である、〔1〕または〔2〕記載のタイヤ、
〔4〕前記第二層を構成するゴム組成物の硬度と前記第一層を構成するゴム組成物の硬度との差が5以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔5〕前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物の比重が、それぞれ1.25以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔6〕前記第二層を構成するゴム組成物の比重が1.20未満である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔7〕前記第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE2が、前記第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE1よりも多い、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔8〕前記第二層を構成するゴム組成物の23℃における100%延伸時のモジュラスが、前記第一層を構成するゴム組成物の23℃における100%延伸時のモジュラスよりも大きい、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔9〕前記第一層を構成するゴム成分および前記第二層を構成するゴム成分が、それぞれブタジエンゴムを含む、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔10〕前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物が、それぞれ補強用充填剤およびシランカップリング剤を含有し、前記第一層を構成するゴム組成物中の補強用充填剤中のシリカの含有量、および前記第二層を構成するゴム組成物中の補強用充填剤中のシリカの含有量が80質量%以上である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔11〕前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物に含まれる前記シランカップリング剤が、それぞれメルカプト系シランカップリング剤である、〔10〕記載のタイヤ、
〔12〕前記第二層を構成するゴム組成物が樹脂成分を含有する、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔13〕前記第三層の厚さが、前記第一層および前記第二層それぞれの厚さより薄い、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔14〕前記トレッドが、複数の周方向溝によって仕切られた陸部を有し、少なくとも1つの前記周方向溝の溝底の最深部が、前記第二層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成されている、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のタイヤ、
〔15〕前記陸部に、両端が前記周方向溝に開口していないサイプを有する、〔14〕記載のタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ウェット路面での操縦安定性能、および走行末期までのトータルでの耐摩耗性能の総合性能が改善されたタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係るタイヤのトレッドの一部が示された拡大断面図である。
図2】トレッドを平面に押し付けたときのタイヤの接地面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施形態であるタイヤは、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層と、前記第二層の半径方向内側に隣接する第三層を少なくとも備えたトレッドを有するタイヤであって、前記第一層、前記第二層および前記第三層がゴム成分を含有するゴム組成物により構成され、前記第三層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量が、前記第二層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量よりも多く、前記第二層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量が、前記第一層を構成するゴム組成物のフリーサルファー量よりも多いタイヤである。
【0011】
硫黄により加硫された加硫ゴム組成物中には、ゴム成分と化学的に結合していない状態で存在し、ゴム成分の架橋反応に寄与してない未反応の硫黄、すなわち遊離硫黄が含まれている。本開示において「フリーサルファー」とは、ゴム成分と化学的に結合せず、架橋反応に寄与しない状態で存在する遊離硫黄を意味し、「フリーサルファー量」とは、加硫ゴム組成物中に含まれる遊離硫黄量を意味する。
【0012】
理論に拘束されることは意図しないが、本開示において、ウェット路面での操縦安定性能および耐摩耗性能をバランスよく改善させ得るメカニズムとしては、以下が考えられる。
【0013】
ゴム成分と化学的に結合せず架橋反応に寄与していない遊離硫黄は、路面と接している最表面(トレッド面)で、走行中の発熱によってゴム成分と反応する。このため、トレッド面における耐摩耗性能を向上させることができ、かつ第一層を構成するゴム組成物は、加硫直後と同等の硬さを維持することが可能となる。
【0014】
このように、第一層を構成するゴム組成物中の硫黄は、走行中の発熱により消費されることとなるが、ゴム組成物中の硫黄は、濃度勾配によりゴム層間を移動することが可能である。そこで、タイヤ半径方向内側のゴム層からタイヤ半径方向外側のゴム層に向かってフリーサルファー量の濃度勾配を付けることにより、絶えず一定量の硫黄を第一層に行き届かせることができ、トレッド面と路面との摩擦により、トレッド面部分でフリーサルファーとゴム成分が結合しやすくなり、剛性を高くすることが可能となるため、反力が生じやすくなる。また、ゴム層全体は大きな剛性変化を伴わず、路面への追従性が損なわれないため、ウェット路面での操縦安定性能を向上させることが可能となる。また、この際、トレッド面部分での耐摩耗性能の向上も図ることができると考えられる。さらに、第二層が露出する際には、第一層と同じ程度の架橋形態が確保され、耐摩耗性能の急激な低下を防止できるため、急激な耐摩耗性能の悪化を招かず、走行末期までのトータルでの耐摩耗性を維持向上することが可能となると考えられる。
【0015】
反対に、タイヤ半径方向外側のゴム層からタイヤ半径方向内側のゴム層に向かってフリーサルファー量の濃度勾配を付けた場合、第一層で消費されるフリーサルファー量が多くなり、第一層の架橋密度が大きくなりすぎるため、ウェット路面での操縦安定性能が悪化すると考えられる。また、第一層が摩耗した後の耐摩耗性能の低下も大きくなると考えられる。
【0016】
前記第一層を構成するゴム組成物のJIS K 6258:2016に準拠して測定した23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率X1(%)と、前記第二層を構成するゴム組成物のJIS K 6258:2016に準拠して測定した23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率X2(%)との差(X1-X2)が50%以下であることが好ましい。
【0017】
前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδは、0.45以上であることが好ましい。
【0018】
前記第二層を構成するゴム組成物の硬度と前記第一層を構成するゴム組成物の硬度との差は、5以下であることが好ましい。
【0019】
前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物の比重は、それぞれ1.25以下であることが好ましい。前記第一層を構成するゴム組成物の比重は、1.24以下がより好ましく、1.23以下がさらに好ましく、1.22以下が特に好ましい。前記第二層を構成するゴム組成物の比重は、1.23以下がより好ましく、1.21以下がさらに好ましく、1.20未満が特に好ましい。比重を前記の範囲とすることにより、タイヤが転動する際のトレッドへかかるエネルギーを低下させ、ゴム層内部でのフリーサルファーの消費を防ぎ、ウェット路面での操縦安定性、および走行末期までのトータルでの耐摩耗性能を向上させることができると考えられる。
【0020】
前記第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE2は、前記第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE1よりも多いことが好ましい。
【0021】
前記第二層を構成するゴム組成物の23℃における100%延伸時のモジュラスは、前記第一層を構成するゴム組成物の23℃における100%延伸時のモジュラスよりも大きいことが好ましい。
【0022】
前記第一層を構成するゴム成分および前記第二層を構成するゴム成分は、それぞれブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0023】
前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物が、それぞれ補強用充填剤およびシランカップリング剤を含有し、前記第一層を構成するゴム組成物中の補強用充填剤中のシリカの含有量、および前記第二層を構成するゴム組成物中の補強用充填剤中のシリカの含有量が80質量%以上であることが好ましい。
【0024】
前記第一層を構成するゴム組成物および前記第二層を構成するゴム組成物に含まれる前記シランカップリング剤は、それぞれメルカプト系シランカップリング剤であることが好ましい。
【0025】
前記第二層を構成するゴム組成物は、樹脂成分を含有することが好ましい。
【0026】
前記第三層の厚さは、前記第一層および前記第二層それぞれの厚さより薄いことが好ましい。
【0027】
前記トレッドは、複数の周方向溝によって仕切られた陸部を有し、少なくとも1つの前記周方向溝の溝底の最深部が、前記第二層の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成されていることが好ましい。
【0028】
前記陸部には、両端が前記周方向溝に開口していないサイプを有することが好ましい。
【0029】
本開示の一実施形態であるタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0030】
図1は、タイヤのトレッドの一部が示された拡大断面図である。図1において、上下方向がタイヤ半径方向であり、左右方向がタイヤ幅方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤ周方向である。
【0031】
図示される通り、本開示のタイヤのトレッド部は、第一層6、第二層7、および第三層8を備え、第一層6の外面がトレッド面3を構成し、第二層7が第一層6の半径方向内側に隣接し、第三層8が第二層7の半径方向内側に隣接している。第一層6は、典型的にはキャップトレッドに相当する。第二層7および第三層8は、典型的にはベーストレッドまたはアンダートレッドに相当する。また、本開示の目的が達成される限り、第三層8とベルト層との間に、さらに1または2以上のゴム層を有していてもよい。
【0032】
図1において、両矢印t1は第一層6の厚み、両矢印t2は第二層7の厚み、両矢印t3は第三層8の厚みである。図1には、溝が形成されていないトレッド面上の任意の点が、記号Pとして示されている。記号Nで示される直線は、点Pを通り、この点Pにおける接平面に垂直な直線(法線)である。本明細書では、厚みt1、t2およびt3は、図1の断面において、溝が存在しない位置におけるトレッド面上の点Pから引いた法線Nに沿って測定される。
【0033】
本開示において、第一層6の厚みt1は特に限定されないが、ウェットグリップ性能の観点から、1.0mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2.0mm以上がさらに好ましい。一方、発熱性の観点からは、第一層6の厚みt1は、10.0mm以下が好ましく、9.0mm以下がより好ましく、8.0mm以下がさらに好ましい。
【0034】
本開示において、第二層7の厚みt2は特に限定されないが、1.5mm以上が好ましく、2.0mm以上がより好ましく、2.5mm以上がさらに好ましい。また、第二層7の厚みt2は、10.0mm以下が好ましく、9.0mm以下がより好ましく、8.0mm以下がさらに好ましい。
【0035】
本開示において、第三層8の厚みt3は特に限定されないが、1.0mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましい。また、第三層8の厚みt3は、10.0mm以下が好ましく、9.0mm以下がより好ましく、8.0mm以下がさらに好ましい。
【0036】
本開示のトレッドは、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝1を有している。周方向溝1は、周方向に沿って直線状に延びているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、周方向に沿って波状や正弦波状やジクザク状に延びていてもよい。
【0037】
本開示のトレッドは、タイヤ幅方向で、周方向溝1によって仕切られた陸部2を有している。
【0038】
周方向溝1の溝深さHは、陸部2の延長線4と周方向溝1の溝底の最深部の延長線5との距離によって求められる。なお、溝深さHは、例えば、周方向溝1が複数ある場合、陸部2の延長線4と、複数の周方向溝1のうち最も深い溝深さを有する周方向溝1(図1においては左側の周方向溝1)の溝底の最深部の延長線5との距離である。
【0039】
本開示では、周方向溝1は、周方向溝1の溝底の最深部が、陸部2の第二層7の最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成されている。具体的には、周方向溝1の直下(タイヤ半径方向内側)では、第二層7は、その最外部に対してタイヤ半径方向内側に凹んだ凹部を有し、第一層6の一部が第二層7の当該凹部内に所定の厚さで形成されている。周方向溝1は、第二層7の最外部を越えて第二層7の凹部の内側へ入り込むように形成されている。
【0040】
図2に、トレッドを平面に押し付けたときの接地面の模式図を示す。本開示に係るタイヤを構成するトレッド10は、図1および図2に示すように、タイヤ周方向Cに連続して延びる(図2の例では、タイヤ周方向に沿って直線状に延びる)周方向溝1と、幅方向に延びる横溝21およびサイプ22、23とを有する。
【0041】
トレッド10は、周方向Cに連続して延びる複数の周方向溝1を有している。図2においては、周方向溝1は3つ設けられているが、周方向溝の数は特に限定されず、例えば2つ~5つであってもよい。また、周方向溝1は、本開示では、周方向に沿って直線状に延びているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、周方向に沿って波状や正弦波状やジクザク状に延びていてもよい。
【0042】
トレッド10は、タイヤ幅方向Wで、複数の周方向溝1によって仕切られた陸部2を有している。ショルダー陸部11は、周方向溝1とトレッド端Teとの間に形成された一対の陸部である。センター陸部12は、一対のショルダー陸部11の間に形成された陸部である。図2においては、センター陸部12は2つ設けられているが、センター陸部の数は特に限定されず、例えば1つ~5つであってもよい。
【0043】
陸部2には、陸部2を横断する横溝および/またはサイプが設けられていることが好ましい。また、陸部2には、両端が周方向溝1に開口していないサイプを有することがより好ましい。図2においては、ショルダー陸部11には、末端が周方向溝1に開口している複数のショルダー横溝21と、両端が周方向溝1に開口していない複数のショルダーサイプ22とが設けられ、センター陸部12には、片端が周方向溝1に開口している複数のセンターサイプ23が設けられているが、このような態様に限定されない。
【0044】
なお、本明細書において、周方向溝、横溝を含め「溝」は、少なくとも2.0mmよりも大きい幅の凹みをいう。一方、本明細書において、「サイプ」は、幅が2.0mm以下、好ましくは0.5~2.0mmの細い切り込みをいう。
【0045】
本開示では、特に言及された場合を除き、タイヤの各部材の寸法および角度は、タイヤが正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤに空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤには荷重がかけられない。なお、本明細書において「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、ETRTOであれば“Measuring Rim”とする。本明細書において「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”とする。
【0046】
本開示における「フリーサルファー量」は、次のように求めることができる。JIS K 6233:2016「ゴム-イオンクロマトグラフィーによる全硫黄の求め方(定量)」に準拠した酸素燃焼フラスコ法により、加硫後のゴム試験片中の硫黄量Ts(質量%)を算出する。次に、前記の試験片を、JIS K 6229:2015「ゴム-溶剤抽出物の求め方(定量)」に準拠し、24時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出する。可溶成分抽出後の試験片を加熱乾燥し、試験片中の溶媒を除去した後、JIS K 6233:2016に準拠した酸素燃焼フラスコ法により、試験片中の硫黄量As(質量%)を算出する。硫黄量Tsと硫黄量Asとの差(Ts-As)を算出することにより、フリーサルファー量を求めることができる。なお、ゴム組成物中のフリーサルファー量は、硫黄の配合量や、加硫促進剤の種類および配合量により適宜調整することができる。
【0047】
本開示では、第三層8を構成するゴム組成物のフリーサルファー量が、第二層7を構成するゴム組成物のフリーサルファー量よりも多く、かつ、第二層7を構成するゴム組成物のフリーサルファー量が、第一層6を構成するゴム組成物のフリーサルファー量よりも多い。第三層8を構成するゴム組成物のフリーサルファー量と、第二層7を構成するゴム組成物のフリーサルファー量との差は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましい。第二層7を構成するゴム組成物のフリーサルファー量と、第一層6を構成するゴム組成物のフリーサルファー量との差は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましい。
【0048】
本開示における「アセトン抽出量」は、JIS K 6229:2015に準拠し、各加硫ゴム試験片を24時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出し、抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式により求めることができる。なお、アセトン抽出量は、加硫ゴム組成物に含有される可塑剤中の有機低分子化合物の濃度の指標となるものである。また、本開示において、特に断りがない場合、アセトン抽出量はタイヤからサンプルを切り出し測定される値である。
アセトン抽出量(質量%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0049】
第二層7を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE2は、第一層6を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE1よりも多いことが好ましい。第二層7を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE2と第一層6を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE2との差(AE2-AE1)は、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。アセトン抽出量の差を前記の範囲とすることにより、第二層7中の可塑剤成分中にフリーサルファーが移動しやすくなり、結果として、走行中に第二層7から第一層6へとフリーサルファーが移行しやすくなると考えられる。
【0050】
第一層6を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE1に対する第二層7を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AE2の比(AE2/AE1)は、1.05~2.00が好ましく、1.10~1.80がより好ましく、1.15~1.60がさらに好ましく、1.20~1.40が特に好ましい。アセトン抽出量の比を前記の範囲とすることにより、アセトン抽出量の差を前記の範囲とすることにより、第二層7中の可塑剤成分中にフリーサルファーが移動しやすくなり、結果として、走行中に第二層7から第一層6へとフリーサルファーが移行しやすくなると考えられる。
【0051】
本開示においては、ゴム組成物の架橋密度を反映する尺度として、トルエン膨潤前後の質量変化率を使用する。本開示において、トルエン膨潤前後の質量変化率は、JIS K 6258:2016「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐液性の求め方」に準拠し、加硫後の各試験用ゴム組成物を23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率(%)を測定することにより求めることができる。数値が小さいほど架橋密度が高いことを示す。また、本開示において、特に断りがない場合、トルエン膨潤前後の質量変化率はタイヤからサンプルを切り出し測定される値である。
【0052】
本開示では、第一層6を構成するゴム組成物のJIS K 6258:2016に準拠して測定した23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率X1(%)と、第二層7を構成するゴム組成物のJIS K 6258:2016に準拠して測定した23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量変化率X2(%)との差(X1-X2)が50%以下であることが好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましく、30%以下が特に好ましい。質量変化率の差を前記の範囲とすることにより、第一層6の架橋密度が低く、かつ第二層7の架橋密度との差が小さくなるため、絶えず一定量のフリーサルファーを第一層6に行き届かせることができ、良好なウェット路面での操縦安定性能と耐摩耗性能とが持続するものと考えられる。
【0053】
本開示における100%延伸時のモジュラスは、JIS K 6251:2017「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張試験特性の求め方」に準拠し、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で測定された、列理方向への伸び100%時の引張応力を指す。サンプルは、例えばダンベル状7号形とすることができる。第一層6を構成するゴム組成物の100%延伸時のモジュラスは、1.6MPa以上が好ましく、1.8MPa以上がより好ましく、2.0MPa以上がさらに好ましい。また、第二層7を構成するゴム組成物の100%延伸時のモジュラスは、1.8MPa以上が好ましく、2.0MPa以上がより好ましく、2.2MPa以上がさらに好ましい。なお、第一層6、第二層7および第三層8を構成するゴム組成物の100%延伸時のモジュラスの上限値は特に制限されない。また、本開示の効果の観点から、第二層7を構成するゴム組成物の23℃における100%延伸時のモジュラスは、第一層6を構成するゴム組成物の23℃における100%延伸時のモジュラスよりも大きいことが好ましい。なお、本明細書において「列理方向」とは、押出しまたはせん断処理によりゴムシートを形成する際の圧延方向を意味し、タイヤの周方向と一致する。
【0054】
本開示における「0℃tanδ」は、温度0℃、初期歪10%、動歪1%、周波数10Hzの条件下での損失正接tanδを指す。試験用ゴム組成物(例えば、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmとすることができる)をタイヤから切り出して作製する場合には、タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように切り出す。第一層6を構成するゴム組成物の0℃tanδは、0.45以上が好ましく、0.50以上がより好ましく、0.55以上がさらに好ましく、0.60以上が特に好ましい。また、第二層7を構成するゴム組成物の0℃tanδは、0.45以上が好ましく、0.50以上がより好ましく、0.55以上がさらに好ましい。0℃tanδを上記の範囲とすることにより、ヒステリシスロスにより良好なウェットグリップ性能が得られるだけでなく、湿潤路面上や低温路面上を走行した際にも、トレッド面3で熱を発生させることが可能となり、耐摩耗性能をさらに向上させることが可能となる。一方、第一層6、第二層7、および第三層8を構成するゴム組成物の0℃tanδは、低燃費性能の観点から、1.60以下が好ましく、1.40以下がより好ましく、1.20以下がさらに好ましく、1.00以下が特に好ましい。なお、第一層6を構成するゴム組成物の0℃tanδの値は、第二層7を構成するゴム組成物の0℃tanδの値よりも大きいことが好ましい。
【0055】
本開示におけるゴム硬度は、JIS K 6253-3:2012「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-」に準拠して、23℃雰囲気下にて、タイプAデュロメーターを用いて測定されたショア硬度(Hs)を意味する。具体的には、タイヤを幅20mmで半径方向に切断し、切断面を平滑にした後、断面方向からタイプAデュロメーターを押し当てることにより、加硫後の各ゴム層の23℃におけるショア硬度(Hs)を測定することができる。本開示では、第一層6を構成するゴム組成物のゴム硬度と、第二層7を構成するゴム組成物のゴム硬度との差は6以下であることが好ましく、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましく、3以下が特に好ましい。ゴム硬度の差を前記の範囲とすることにより、摩耗により第二層7が最表面となった際の過度な性能変化を抑制することができると考えられる。
【0056】
<ゴム成分>
本開示に係るトレッドの各ゴム層を構成するゴム組成物(トレッド用ゴム組成物)は、ゴム成分としてイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。第一層6および第二層7を構成するゴム成分は、SBRを含むことが好ましく、SBRおよびBRを含むことがより好ましく、SBRおよびBRのみからなるゴム成分としてもよい。第三層8を構成するゴム成分は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましく、イソプレン系ゴムおよびBRを含むことがより好ましく、イソプレン系ゴムおよびBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0057】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム等を、変性NRとしてはエポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等を、変性IRとしてはエポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等を挙げることができる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
第一層6および第二層7を構成するゴム成分において、イソプレン系ゴム(好ましくはNR)を含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。また、イソプレン系ゴムを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上とすることができる。
【0059】
第三層8を構成するゴム成分において、イソプレン系ゴム(好ましくはNR)を含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。また、イソプレン系ゴムのゴム成分中の含有量の上限値は特に制限されず、100質量%としてもよい。
【0060】
(SBR)
SBRとしては特に限定されず、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。なかでもS-SBRが好ましく、変性S-SBRがより好ましい。
【0061】
変性SBRとしては、通常この分野で使用される官能基が導入された変性SBRが挙げられる。上記官能基としては、例えば、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、水酸基等の官能基が挙げられる。また、変性SBRとしては、水素添加されたもの、エポキシ化されたもの、スズ変性されたもの等を挙げることができる。
【0062】
SBRとしては油展SBRを用いることもできるし、非油展SBRを用いることもできる。油展SBRを用いる場合、SBRの油展量、すなわち、SBRに含まれる油展オイルの含有量は、SBRのゴム固形分100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましい。
【0063】
前記で列挙されたSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記で列挙されたSBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)、ZSエラストマー(株)等により製造、販売されているSBRを使用することができる。
【0064】
SBRのスチレン含量は、トレッド部での減衰性の確保およびウェットグリップ性能の観点から、15質量%以上が好ましく、20質量%以上より好ましい。また、グリップ性能の温度依存性および耐摩耗性能の観点からは、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される値である。
【0065】
SBRのビニル含量は、シリカとの反応性の担保、ゴム強度や耐摩耗性能の観点から10モル%以上が好ましく、13モル%以上がより好ましく、16モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、温度依存性の増大防止、ウェットグリップ性能、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0066】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、15万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、25万以上がさらに好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、250万以下が好ましく、200万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0067】
第一層6および第二層7を構成するゴム成分において、SBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。また、SBRのゴム成分中の含有量の上限値は特に制限されず、100質量%としてもよい。なお、第三層8を構成するゴム組成物がSBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、特に制限されない。
【0068】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50モル%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90モル%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。変性BRとしては、上記SBRで説明したのと同様の官能基等で変性されたBRが挙げられる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで、耐摩耗性能を向上させることができる。シス含量は、好ましくは95モル%以上、より好ましくは96モル%以上、さらに好ましくは97モル%以上、特に好ましくは98モル%以上である。なお、本明細書において、シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0070】
希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル含量が、好ましくは1.8モル%以下、より好ましくは1.0モル%以下、さらに好ましくは0.8%モル以下であり、シス含量が、好ましくは95モル%以上、より好ましくは96モル%以上、さらに好ましくは97モル%以上、特に好ましくは98モル%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0071】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0072】
変性BRとしては、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)が好適に用いられる。
【0073】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0074】
前記で列挙されたBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
BRのガラス転移温度(Tg)は、低温脆性防止の観点から、-14℃以下が好ましく、-17℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。一方、該Tgの下限値は特に制限されないが、耐摩耗性の観点から、-150℃以上が好ましく、-120℃以上がより好ましく、-110℃以上がさらに好ましい。なお、BRのガラス転移温度は、JIS K 7121に従い、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定(DSC)を行って測定される値である。
【0076】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0077】
第一層6および第二層7を構成するゴム成分において、BRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。また、BRを含有する場合の含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上とすることができる。なお、第三層8を構成するゴム組成物がBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、特に制限されない。
【0078】
(その他のゴム成分)
本開示に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBR、およびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
<補強用充填剤>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックおよび/またはシリカを含む補強用充填剤を含有することが好ましい。また、補強用充填剤は、カーボンブラックおよびシリカのみからなる補強用充填剤としてもよい。第一層6および第二層7を構成するゴム組成物は、補強用充填剤としてシリカを含むことが好ましく、カーボンブラックおよびシリカを含むことがより好ましい。第三層8を構成するゴム組成物は、補強用充填剤としてカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0080】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0081】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。また、分散性、低燃費性能、破壊特性および耐ピンチカット性能の観点からは、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」のA法に準じて測定される値である。
【0082】
第一層6および第二層7を構成するゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐候性や補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、トレッド部の発熱抑制による耐チッピング性能向上の観点からは、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下が特に好ましい。第三層8を構成するゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、20~100質量部が好ましく、25~80質量部がより好ましく、30~60質量部がさらに好ましい。
【0083】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性およびトレッド部での減衰性の確保の観点から、140m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がより好ましく、160m2/g以上がさらに好ましく、170m2/g以上が特に好ましい。また、発熱性および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0085】
シリカの平均一次粒子径は、20nm以下が好ましく、18nm以下がより好ましい。該平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が前期の範囲であることによって、シリカの分散性をより改善でき、補強性、破壊特性、耐摩耗性をさらに改善できる。なお、シリカの平均一次粒子径は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたシリカの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。
【0086】
第一層6および第二層7を構成するゴム組成物中における、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、トレッド部での減衰性の確保およびウェットグリップ性能の観点から、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましく、80質量部以上が特に好ましい。また、ゴムの比重を低減させ軽量化を図る観点、およびトレッド部の発熱抑制による耐ピンチカット性能向上の観点からは、120質量部以下が好ましく、110質量部以下がより好ましく、105質量部以下がさらに好ましく、100質量部以下が特に好ましい。なお、第三層8を構成するゴム組成物中における、ゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、特に制限されない。
【0087】
(その他の補強用充填剤)
シリカおよびカーボンブラック以外の補強用充填剤としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。
【0088】
第一層6および第二層7を構成するゴム組成物の、シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましい。また、該シリカの含有率は、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、95質量%以下がさらに好ましい。シリカの含有率を前記の範囲とすることにより、補強用充填剤とフリーサルファーとの相互作用を低減し、フリーサルファーを第一層6へ移行させやすくなると考えられる。
【0089】
第三層8を構成するゴム組成物の、シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のカーボンブラックの含有率は、50質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0090】
補強用充填剤のゴム成分100質量部に対する合計含有量は、ゴムの比重を低減させ軽量化を図る観点から、130質量部以下が好ましく、120質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましく、105質量部以下が特に好ましい。また、補強性およびトレッド部での減衰性の確保の観点から、55質量部以上が好ましく、65質量部以上がより好ましく、75質量部以上がさらに好ましく、85質量部以上が特に好ましい。
【0091】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、下記のメルカプト系シランカップリング剤;ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤;等が挙げられる。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤および/またはメルカプト系シランカップリング剤を含有することが好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
メルカプト系シランカップリング剤は、下記式(1)で表される化合物、および/または下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物であることが好ましい。
【化1】
(式中、R101、R102、およびR103は、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル、炭素数1~12のアルコキシ、または-O-(R111-O)z-R112(z個のR111は、それぞれ独立して、炭素数1~30の2価の炭化水素基を表し;R112は、炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、炭素数6~30のアリール、または炭素数7~30のアラルキルを表し;zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表し;R104は、炭素数1~6のアルキレンを表す。)
【化2】
【化3】
(式中、xは0以上の整数を表し;yは1以上の整数を表し;R201は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシルもしくはカルボキシルで置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、または炭素数2~30のアルキニルを表し;R202は、炭素数1~30のアルキレン、炭素数2~30のアルケニレン、または炭素数2~30のアルキニレンを表し;ここにおいて、R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【0093】
式(1)で表される化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記式(4)で表される化合物(エボニックデグサ社製のSi363)等が挙げられ、下記式(4)で表される化合物を好適に使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化4】
【0094】
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、モメンティブ社等より製造販売されているものが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0096】
<可塑剤>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤としては、例えば、樹脂成分、オイル、液状ゴム等が挙げられる。
【0097】
第二層7を構成するゴム組成物は、樹脂成分を含有することが好ましい。樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられ、これらが水素添加されたものであってもよい。これらの樹脂成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
本明細書において「C5系石油樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、シクロペンタジエン系樹脂が好適に用いられる。シクロペンタジエン系樹脂としては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)、シクロペンタジエン樹脂、メチルシクロペンタジエン樹脂(水素添加されていないシクロペンタジエン系樹脂)、ならびにこれらのシクロペンタジエン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたシクロペンタジエン系樹脂)が挙げられる。シクロペンタジエン系樹脂としては、例えば、エクソンモービルケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0099】
本明細書において「芳香族系石油樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、
クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0100】
本明細書において「C5C9系石油樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0101】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂;テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂;並びにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられる。テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。テルペン系樹脂としては、例えば、ヤスハラケミカル(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0102】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、変性ロジン樹脂等が挙げられる。ロジン系樹脂としては、例えば、荒川化学(株)、ハリマ化成(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0103】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0104】
樹脂成分の軟化点は、ウェットグリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度として定義され得る。
【0105】
樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましく、12質量部以上が特に好ましい。また、発熱性抑制の観点からは、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0106】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0107】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0108】
液状ゴムは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられる。これらの液状ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0109】
液状ゴムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、5質量部以上が特に好ましい。また、液状ゴムの含有量は、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0110】
可塑剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の可塑剤を併用する場合は全ての合計量)は、ウェットグリップ性能の観点から、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、25質量部以上がさらに好ましい。また、加工性の観点からは、130質量部以下が好ましく、120質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下がさらに好ましく、50質量部以下が特に好ましい。
【0111】
<その他の配合剤>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、ワックス、加工助剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0112】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0113】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらの加工助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加工助剤としては、例えば、Schill+Seilacher社、パフォーマンスアディティブス社等より市販されているものを使用することができる。
【0114】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0115】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0117】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0118】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0119】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0120】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0121】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0122】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤を併用することがより好ましい。
【0123】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0124】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0125】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0126】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0127】
本開示に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0128】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0129】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0130】
[タイヤ]
本開示に係るタイヤは、第一層6、第二層7、および第三層8を含むトレッドを備えるものであり、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わない。また、空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ等が挙げられる。
なお、本明細書における高性能タイヤとは、グリップ性能に特に優れたタイヤであり、競技車両に使用する競技用タイヤをも含む概念である。
【0131】
第一層6、第二層7、および第三層8を含むトレッドを備えたタイヤは、前記のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機で第一層6、第二層7、および第三層8の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【0132】
本開示のタイヤは、タイヤ内腔に、シーラント、制音体、タイヤモニタリングのためのセンサやタグ、およびそれらの取り付け部材を設けてもよい。
【0133】
シーラントとしては、一般にパンク防止用として、トレッド部のタイヤ内周面に用いられるものを好適に使用することができる。そのようなシーラント層の具体例としては、例えば、特開2020-23152号公報に記載のものが挙げられる。シーラントの厚さは、通常、1~10mmであることが好ましい。シーラントの幅は、通常、ベルト層の最大幅の85~115%であることが好ましく、95~105%であることが好ましい。
【0134】
制音体としては、タイヤ内腔で制音効果を発揮できるものであればいずれも好適に用いることができる。そのような制音体の具体例としては、例えば、特開2019-142503号公報に記載のものが挙げられる。制音体は、例えば、多孔質状のスポンジ材により構成される。スポンジ材は、海綿状の多孔構造体であり、例えばゴムや合成樹脂を発泡させた連続気泡を有するいわゆるスポンジそのものの他、動物繊維、植物繊維または合成繊維等を絡み合わせて一体に連結したウエブ状のものを含む。また「多孔構造体」には、連続気泡のみならず独立気泡を有するものを含む。制音体としては、ポリウレタンからなる連続気泡のスポンジ材が挙げられる。スポンジ材としては、例えば、エーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EDPMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジを好適に用いることができ、とりわけエーテル系ポリウレタンスポンジを含むポリウレタン系またはポリエチレン系等のスポンジが、制音性、軽量性、発泡の調節可能性、耐久性などの観点から好ましい。
【0135】
制音体は、トレッド部の内腔面に固着される底面を有する長尺帯状をなし、タイヤ周方向にのびる。このとき周方向の外端部を互いに突き合わせて略円環状に形成し得る他、外端部間を周方向に離間させてもよい。
【実施例
【0136】
本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示は、実施例のみに限定されるものではない。
【0137】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
SBR1:後述の製造例1で製造した変性S-SBR(スチレン含量:30質量%、ビニル含量:52モル%、Mw:25万、非油展品)
SBR2:変性S-SBR(スチレン含量:40質量%、ビニル含量:25モル%、Mw:110万、非油展品)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(ビニル含量:1.5モル%、シス含量:97モル%、Tg:-108℃、Mw:44万)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイヤブラックN220(N2SA:115m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:18nm)
シランカップリング剤1:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
シランカップリング剤2:モメンティブ社製のNXT-Z45(メルカプト系シランカップリング剤)
オイル:H&R(株)製のVivaTec500(TDAEオイル)
樹脂成分:東ソー(株)製のペトロタック100V(C5C9系石油樹脂、軟化点:96℃)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
【0138】
製造例1:SBR1の合成
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、スチレン、および1,3-ブタジエンを仕込んだ。反応器の内容物の温度を20℃に調整し、n-ブチルリチウムを添加して重合を開始する。断熱条件で重合し、最高温度は85℃に達する。重合転化率が99%に達した時点で1,3-ブタジエンを追加し、さらに5分重合させた後、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを変性剤として加えて反応を行う。重合反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加する。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥し、SBR1を得た。
【0139】
(実施例および比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を用いて、所定の形状の口金を備えた押し出し機でトレッドの第一層(厚さ:3mm)、第二層(厚さ:3mm)、および第三層(厚さ:1mm)の形状に合わせて押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、表2に記載の各試験用タイヤ(サイズ:205/65R15、リム:15×6JJ、内圧:230kPa)を得た。なお、周方向溝の溝深さは6mmとした。
【0140】
<第一層、第二層および第三層のフリーサルファー量の測定>
JIS K 6233:2016に準拠した酸素燃焼フラスコ法により、加硫後の各ゴム試験片中の硫黄量Ts(質量%)を算出した。次に、前記の試験片を、JIS K 6229-3:2015に準拠し、24時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出した。可溶成分抽出後の試験片をオーブンに入れ、100℃で30分加熱し、試験片中の溶媒を除去した後、JIS K 6233:2016に準拠した酸素燃焼フラスコ法により、試験片中の硫黄量As(質量%)を算出した。そして、硫黄量Tsと硫黄量Asとの差(Ts-As)を算出することにより、フリーサルファー量を求めた。なお、前記第一層、第二層および第三層の各ゴム試験片は、各試験用タイヤのトレッド部から切り出したものを用いた。
【0141】
<第一層、第二層および第三層のアセトン抽出量(AE量)の測定>
JIS K 6229:2015に準拠し、加硫後の各ゴム試験片を24時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出した。抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記計算式によりアセトン抽出量を求めた。なお、前記第一層、第二層および第三層の各ゴム試験片は、各試験用タイヤのトレッド部から切り出したものを用いた。
アセトン抽出量(質量%)={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0142】
<トルエン膨潤指数および質量変化率の測定>
JIS K 6258:2016に準拠し、加硫後の各ゴム試験片について、23℃のトルエンに24時間浸漬した前後の質量を測定し、下記式によりトルエン膨潤指数を求めた。結果を表1に示す。求めたトルエン膨潤指数から100を引いた値が、質量変化率(%)となる。トルエン膨潤指数および質量変化率が小さいほど架橋密度が高いことを示す。
(トルエン膨潤指数)=(浸漬後の重量)/(浸漬前の重量)×100
【0143】
<引張試験>
ダンベル状7号形の試験片を、各試験用タイヤのトレッド部の各ゴム層から、タイヤ周方向が引張方向となるように切り出して作製した。JIS K 6251:2017「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張試験特性の求め方」に準拠し、前記ダンベル状7号形の試験片について、23℃雰囲気下にて、引張速度3.3mm/秒の条件で引張試験を実施し、100%延伸時のモジュラス(MPa)を測定した。
【0144】
<損失正接tanδの測定>
加硫後の各ゴム試験片を、各試験用タイヤのトレッド部の各ゴム層から、タイヤ周方向が長辺となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製した。各ゴム試験片の損失正接tanδを、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度0℃、初期歪10%、動歪1%、周波数10Hzの条件下で測定した。なお、サンプルの厚み方向はタイヤ半径方向とした。
【0145】
<ゴム硬度の測定>
タイヤを幅20mmで半径方向に切断し、切断面を平滑にした後、断面方向からタイプAデュロメーターを押し当てることにより、加硫後の各ゴム層の23℃におけるショア硬度(Hs)を測定した。
【0146】
<ウェット操縦安定性能>
各試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着し、湿潤アスファルト路面のテストコースを10周走行させ、コーナリング時の進入、旋回、出口での操縦安定性について10名のテストドライバーのフィーリングに基づいて、10段階で評点付けし合計の評点を求めた後、比較例1の評点を100として指数化した。数値が大きいほど、ウェット路面での操縦安定性能が良好であることを示す。
【0147】
<トータルでの耐摩耗性能>
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着し、ウェアインジケーターが露出するまでの走行距離を測定し、比較例1の走行距離を100として指数化した。指数が大きいほど、走行末期までのトータルでの耐摩耗性能が良好であることを示す。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
表1および表2の結果より、トレッド部に3層以上のゴム層を設け、かつ、タイヤ半径方向内側のゴム層からタイヤ半径方向外側のゴム層に向かってフリーサルファー量の濃度勾配を付けた本開示のタイヤは、ウェット路面での操縦安定性能、および走行末期までのトータルでの耐摩耗性能の総合性能(ウェット操縦安定性能指数およびトータルでの耐摩耗性能指数の総和)が改善されていることがわかる。
【符号の説明】
【0151】
1・・・周方向溝
2・・・陸部
3・・・トレッド面
4・・・陸部の延長線
5・・・周方向溝の溝底の最深部の延長線
6・・・第一層
7・・・第二層
8・・・第三層
9・・・第二層の最外部の延長線
11・・・ショルダー陸部
12・・・センター陸部
21・・・ショルダー横溝
22・・・ショルダーサイプ
23・・・センターサイプ
図1
図2