(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】導電性膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/16 20060101AFI20241008BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241008BHJP
H01G 4/008 20060101ALI20241008BHJP
H01G 11/02 20130101ALI20241008BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20241008BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01B5/16
H01B13/00 501Z
H01G4/008
H01G11/02
H01G11/30
H05K9/00 W
(21)【出願番号】P 2022546950
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2021032162
(87)【国際公開番号】W WO2022050317
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】P 2020147673
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】阿部 匡矩
(72)【発明者】
【氏名】部田 武志
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-93971(JP,A)
【文献】特開2017-76739(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181526(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/004173(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/16
H01B 13/00
H01G 4/008
H01G 11/02
H01G 11/30
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜であって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、
Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびMnからなる群より選択される少なくとも1
種であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性膜が、リン原子を0.001質量%以上0.09質量%未満で更に含み、かつ、2000S/cm以上の導電率を維持する、導電性膜。
【請求項2】
前記リン原子が、リン酸基含有ポリアニオンの塩に由来する、請求項1に記載の導電性膜。
【請求項3】
前記リン酸基含有ポリアニオンの塩が、ポリリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、トリポリリン酸金属塩およびヘキサメタリン酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項2に記載の導電性膜。
【請求項4】
電極または電磁シールドとして使用される、請求項1~3のいずれかに記載の導電性膜。
【請求項5】
前記電極が、キャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体電極、センサ用電極、およびアンテナ用電極のいずれかである、請求項4に記載の導電性膜。
【請求項6】
(a)1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子とリン酸基含有ポリアニオンの塩とを水性溶媒中に含む混合物を調製することであって、
前記層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、
Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびMnからなる群より選択される少なくとも1
種であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記混合物における前記層状材料の粒子の濃度が、10mg/mL以上250mg/mL以下であり、
前記混合物における前記リン酸基含有ポリアニオンの塩のモル濃度が、0.001モル/L以上0.1モル/L以下であること、および
(b)前記混合物を乾燥させて導電性膜を得ること
を含む、導電性膜の製造方法。
【請求項7】
前記(a)の後、かつ、前記(b)の前に、
前記混合物を、別の水性溶媒を用いてせん断力を付与しつつ洗浄すること
を更に含む、請求項6に記載の導電性膜の製造方法。
【請求項8】
前記(a)における前記リン酸基含有ポリアニオンの塩は、複数のリン酸基を有するポリアニオンと金属イオンとの塩であり、
前記(b)にて得られる前記導電性膜が、前記金属イオンに対応する金属元素を0.5質量%以下で含む、請求項6または7に記載の導電性膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれかに記載の導電性膜が得られる、請求項6~8のいずれかに記載の導電性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる二次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
現在、種々の電気デバイスへのMXeneの応用に向けて様々な研究がなされている。しかしながら、MXeneは、導電率が経時的に(例えば数日~1月程度で)低下することが知られており、この主な原因は、MXeneが酸化され易いことによるものと考えられている。MXeneを工業的に利用するためには、MXeneの酸化は重大な問題である。
【0004】
非特許文献1には、MXeneの水性コロイド懸濁液にポリリン酸塩(0.1Mのポリリン酸ナトリウム)等を添加することにより、個々のMXeneフレークのエッジをキャップでき、MXeneの酸化を抑制できることが報告されている。非特許文献2には、MXeneナノシートの分散液にL-アスコルビン酸ナトリウムを添加することにより、MXeneナノシートのエッジを保護でき、MXeneの酸化を抑制できることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Varun Natu et ai., "Edge Capping of 2D-MXene Sheets with Polyanionic Salts to Mitigate Oxidation in Aqueous Colloidal Suspensions", Angewandte Chemie International Edition, 2019, Volume 58, Issue 36, pp. 12655-12660
【文献】Xiaofei Zhao et al., "Antioxidants Unlock Shelf-Stable Ti3C2Tx (MXene) Nanosheet Dispersions", Matter, 2019, Volume 1, Issue 2, pp. 513-526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1で報告されている酸化防止法は、MXeneの懸濁液ないし分散液に限られたものであり、MXeneの乾燥膜では、初期導電率への影響および酸化防止(導電率の経時低下低減)の効果が確かめられていない。また、非特許文献2で報告されている酸化防止法では、MXeneの乾燥膜において、初期導電率が1/2以下になってしまっている(非特許文献2のFigure S6を参照のこと)。従来の酸化防止法では、MXeneを含む導電性膜であって、初期導電率を低下させないこと、および、酸化防止により、導電率の経時低下を効果的に低減することの双方が達成された導電性膜(換言すれば、高い導電率を維持できる導電性膜)は実現されていない。
【0007】
本発明の目的は、MXeneを含み、かつ、高い導電率を維持できる導電性膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性膜であって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性膜が、リン原子を0.001質量%以上0.09質量%未満で更に含み、かつ、2000S/cm以上の導電率を維持する、導電性膜が提供される。
【0009】
本発明の1つの態様において、前記リン原子が、リン酸基含有ポリアニオンの塩に由来し得る。
【0010】
本発明の1つの態様において、前記リン酸基含有ポリアニオンの塩が、ポリリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、トリポリリン酸金属塩およびヘキサメタリン酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1つであり得る。
【0011】
本発明の1つの態様において、前記導電性膜が、電極または電磁シールドとして使用され得る。前記電極は、例えば、キャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体電極、センサ用電極、およびアンテナ用電極のいずれかであり得る。
【0012】
本発明のもう1つの要旨によれば、
(a)1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子とリン酸基含有ポリアニオンの塩とを水性溶媒中に含む混合物を調製することであって、
前記層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記混合物における前記層状材料の粒子の濃度が、10mg/mL以上250mg/mL以下であり、
前記混合物における前記リン酸基含有ポリアニオンの塩のモル濃度が、0.001モル/L以上0.1モル/L以下であること、および
(b)前記混合物を乾燥させて導電性膜を得ること
を含む、導電性膜の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の1つの態様において、前記導電性膜の製造方法が、
前記(a)の後、かつ、前記(b)の前に、
前記混合物を、別の水性溶媒を用いてせん断力を付与しつつ洗浄することを更に含み得る。
【0014】
本発明の1つの態様において、
前記(a)における前記リン酸基含有ポリアニオンの塩が、複数のリン酸基を有するポリアニオンと金属イオンとの塩であり、
前記(b)にて得られる前記導電性膜が、前記金属イオンに対応する金属元素を0.5質量%以下で含み得る。
【0015】
本発明の前記導電性膜が、本発明の前記導電性膜の製造方法によって製造され得る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、導電性膜が、所定の層状材料(本明細書において「MXene」とも言う)の粒子を含み、リン原子を0.001質量%以上0.09質量%未満で更に含み、かつ、2000S/cm以上の導電率を維持し、これにより、MXeneを含み、かつ、高い導電率を維持できる導電性膜が提供される。また、本発明によれば、所定の層状材料の粒子を10mg/mL以上250mg/mL以下で、リン酸基含有ポリアニオンの塩を0.001モル/L以上0.1モル/L以下で水性溶媒中に含む混合物を調製し、混合物を乾燥させることにより、導電性膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の1つの実施形態における導電性膜を説明する図であって、(a)は導電性膜の概略模式断面図を示し、(b)は導電性膜におけるMXeneの概略模式斜視図を示す。
【
図2】本発明の1つの実施形態における導電性膜に利用可能な層状材料であるMXeneの粒子を示す概略模式断面図であって、(a)は単層MXene粒子を示し、(b)は多層(例示的に二層)MXene粒子を示す。
【
図3】実施例1~2および比較例1~3で製造した導電性膜の導電率の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の1つの実施形態における導電性膜およびその製造方法について詳述するが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1を参照して、本実施形態の導電性膜30は、所定の層状材料の粒子10を含み、リン原子(図示せず)を0.001質量%以上0.09質量%未満で更に含み、かつ、2000S/cm以上の導電率を維持する。以下、その製造方法を通じて、本実施形態の導電性膜30を説明する。
【0020】
本実施形態の導電性膜30の製造方法は、
(a)所定の層状材料の粒子とリン酸基含有ポリアニオンの塩とを水性溶媒中に含む混合物を調製することであって、
前記混合物における前記層状材料の粒子の濃度が、10mg/mL以上250mg/mL以下であり、
前記混合物における前記リン酸基含有ポリアニオンの塩のモル濃度が、0.001モル/L以上0.1モル/L以下であること、および
(b)前記混合物を乾燥させて導電性膜を得ること
を含む。
【0021】
・工程(a)
まず、所定の層状材料の粒子を準備する。本実施形態において使用可能な所定の層状材料はMXeneであり、次のように規定される:
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、該層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「MmXnTs」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0022】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0023】
かかるMXeneは、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
MmAXn
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、MmXnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「MmXn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したMmXn層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。エッチングは、F-を含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。
【0024】
後述するように、MXene粒子の配向性が高い導電性膜を得るには、MXene粒子に残留するA原子がより少なくなるようにエッチング(洗浄および遠心分離等を含む)を行うことが好ましい。残留するA原子がより少ないことは、後述する粒子状物質およびこれを含むスラリーにおいて、単層MXeneの純度をより高くすること、および単層MXene粒子の面内寸法をより大きくすることに寄与する。
【0025】
また、MXene粒子の配向性が高い導電性膜を得るには、エッチングの後、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneをより少層のMXene、好ましくは単層MXeneに分離すること)をもたらす処理を実施することが好ましい。アスペクト比がより大きい2次元形状のMXene粒子(単層・少層MXeneの粒子、好ましくは単層MXene粒子)を得るには、かかる層分離処理は、MXene粒子へのダメージが少ないほうがより好ましい。層分離処理は、任意の適切な方法、例えば超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより実施可能であるが、超音波処理は、せん断力が大きすぎてMXene粒子が破壊され得る(小片化し得る)ので、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより適切なせん断力を付与することが好ましい。層分離処理は、MXene粒子にせん断力を付与した後、遠心分離および精製等を含み得る。MXene粒子に残留するA原子がより少ないと、A原子の結合力による影響がより小さいので、より小さいせん断力でMXene粒子を効果的に層分離し得る。
【0026】
MXeneは、上記の式:MmXnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.3Y0.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti3C2、Ti3N2、Ti3(CN)、Zr3C2、(Ti,V)3C2、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf3C2、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2、
Ti4N3、V4C3、Nb4C3、Ta4C3、(Ti,Nb)4C3、(Nb,Zr)4C3、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr2V2)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo2V2)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3
【0027】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti3C2Tsである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0028】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、導電性膜の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0029】
このようにして合成されるMXeneの粒子10は、
図2に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料の粒子(MXene粒子10の例として、
図2(a)中に1つの層のMXene粒子10aを、
図2(b)中に2つの層のMXene粒子10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、M
mX
nで表される層本体(M
mX
n層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M
mX
nT
s」とも表され、sは任意の数である。MXene粒子10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在する粒子(
図2(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXeneの粒子10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体の粒子(
図2(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXeneの粒子10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene粒子10は、単層MXene粒子10aおよび/または多層MXene粒子10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXene粒子である場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。本実施形態においては、後述するように、MXene粒子10は、多層MXene粒子よりも単層MXene粒子ができるだけ多い(単層MXene粒子の含有割合が高い)ことが好ましい。
【0030】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり得る(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)。MXene粒子が積層体(多層MXene)の粒子である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、
図2(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmである。
【0031】
MXene粒子の層に垂直な方向の厚さ(二次元粒子であるMXene粒子の「厚さ」に対応し得る)は、例えば0.8nm以上で、例えば20nm以下、特に15nm以下、より特に10nm以下である。MXene粒子の層の総数は、1または2以上であり得、例えば1以上10以下、特に1以上6以下であり得る。MXene粒子が積層体(多層MXene)の粒子である場合、層数の少ないMXeneの粒子であることが好ましい。用語「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が6層以下であることを言う。また、層数の少ない多層MXeneの粒子の積層方向の厚さは、15nm以下、特に10nm以下であり得る。本明細書において、この「層数の少ない多層MXene」を「少層MXene」とも称する。本実施形態において、MXene粒子は、その大部分が単層MXeneおよび/または少層MXeneの粒子であり得、更に、その大部分が単層MXene粒子であり得る。換言すれば、MXene粒子の厚さの平均値は、10nm以下であり得る。この厚さの平均値は、例えば7nm以下であり得、更には5nm以下であり得る。一方、単層MXeneの厚みを考慮すると、MXene粒子の厚さの下限は0.8nmとなり得る。よって、MXene粒子の厚さの平均値は、約1nm以上であり得る。
【0032】
MXene粒子の層に平行な平面(二次元シート面)内における寸法(二次元粒子であるMXene粒子の「面内寸法」に対応し得る)は、例えば0.1μm以上、特に1μm以上であり得、例えば200μm以下、特に40μm以下であり得る。
【0033】
なお、上述したこれら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求められ得る。
【0034】
リン酸基含有ポリアニオンの塩は、複数のリン酸基を有するポリアニオン(単に「リン酸基含有ポリアニオン」とも言う)と金属イオン(カチオン)との塩であり得る。特に、複数のリン酸基を有するポリアニオンとアルカリ金属イオンとの塩である場合、水性溶媒に対して容易に溶解し得るので好ましい。より詳細には、リン酸基含有ポリアニオンの塩は、ポリリン酸金属塩、ピロリン酸金属塩、トリポリリン酸金属塩およびヘキサメタリン酸金属塩からなる群より選択される少なくとも1つであってよく、好ましくはポリリン酸金属塩および/またはヘキサメタリン酸金属塩であり、より好ましくはヘキサメタリン酸金属塩である。ポリリン酸金属塩の平均重合度は、例えば2以上100000以下であってよい。金属塩がアルカリ金属塩である場合、アルカリ金属元素は、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどであり得、好ましくはナトリウムである。
【0035】
そして、MXene粒子とリン酸基含有ポリアニオンの塩とを水性溶媒中に含む混合物を調製する。この混合物は、MXene粒子の濃度が、10mg/mL以上250mg/mL以下であり、かつ、リン酸基含有ポリアニオンの塩のモル濃度(M)が0.001モル/L以上0.1モル/L以下であるように調製する。
【0036】
混合物におけるMXene粒子の濃度は、10mg/mL以上であることにより、工業的量産に耐え得るコストで導電性膜を製造でき、250mg/mL以下であることにより、工業的量産に耐え得る粘度で混合物を扱うことができる。好ましくは、MXene粒子の濃度は、20mg/mL以上および/または140mg/mL以下であり得る。MXene粒子の濃度は、混合物における固形分濃度として理解され、固形分濃度は、例えば加熱乾燥重量測定法、凍結乾燥重量測定法、ろ過重量測定法などを用いて測定可能である。
【0037】
混合物におけるリン酸基含有ポリアニオンの塩の濃度は、0.001モル/L以上であることにより、最終的に得られる導電性膜の酸化を効果的に防止すること(換言すれば、導電率の経時低下を効果的に低減すること)ができ、0.1モル/L以下であることにより、最終的に得られる導電性膜の初期導電率の低下を効果的に防止することができる。好ましくは、上記塩の濃度は、0.01モル/L以上および/または0.09モル/L以下であり得る。
【0038】
水性溶媒は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(水性溶媒全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい(以下も同様)。
【0039】
混合物の調製方法は特に限定されない。例えば、MXene粒子を水性溶媒中に含むスラリー(以下、「MXeneスラリー」とも言う)と、リン酸基含有ポリアニオンの塩を水性溶媒中に含む溶液(以下、「リン酸基含有ポリアニオン塩水溶液」とも言う)とを準備し、これらを混合して混合物を調製してよい。リン酸基含有ポリアニオン塩水溶液とMXeneスラリーとの混合は、任意の適切な態様で実施され得る。例えば、リン酸基含有ポリアニオン塩水溶液にMXeneスラリーを添加して混合しても、その逆であってもよい。
【0040】
本実施形態はいかなる理論によっても拘束されないが、この混合物において、リン酸基含有ポリアニオンが、MXene粒子の酸化され易いサイト(酸素がアタックする部位、以下、単に「酸化サイト」と言う)に接合する(強く吸着される)。MXene粒子の酸化サイトとしては、MXene粒子の層(シート)のエッジおよびX原子(炭素原子/窒素原子)の欠陥部が知られている。MXene粒子のエッジは正の電荷を強く帯びており、欠陥部にはダングリングボンドが存在する。他方、リン酸基含有ポリアニオンのリン酸基は、π電子を多く有する。このため、リン酸基含有ポリアニオンのリン酸基と、MXene粒子のエッジおよび欠陥部との相互作用により(より詳細には、リン酸基のπ電子と、MXene粒子のエッジおよび欠陥部にあるM原子のd軌道の電子とが混じり合うことにより)、リン酸基含有ポリアニオンが、MXene粒子の酸化サイトに接合し、導電路を確保できるものと考えられる。リン酸基含有ポリアニオンの塩は、それ単独では絶縁性であり得るため、もしリン酸基含有ポリアニオンの塩がMXene粒子を覆ってしまうと、最終的に得られる導電性膜の初期導電率を(ひいてはその後の導電率も)低下させることが考えられ得る。しかしながら、π電子は導電性の向上に寄与できることから、リン酸基含有ポリアニオンがMXene粒子の酸化サイトに上記のような相互作用により接合することで、初期導電率の低下を低減することができる。
【0041】
・工程(p)
上記工程(a)の後、かつ、後述する工程(b)の前に、中間工程(p)として、工程(a)で調製した混合物を、別の(新たな、またはフレッシュな)水性溶媒を用いてせん断力を付与しつつ洗浄することが好ましい。これにより、MXene粒子の酸化サイトに接合していない不要なリン酸基含有ポリアニオンや、その他の不要なイオン(リン酸基含有ポリアニオンの塩を形成していたカチオン、より詳細には金属イオン)を効果的に除去することができる。MXene粒子の酸化サイトに接合していない不要なリン酸基含有ポリアニオンを効果的に除去することにより、最終的に得られる導電性膜の初期導電率の低下を低減することができ、高い導電率を維持できる。また、その他の不要なイオンとして金属イオン(例えばナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオン)が混合物中に過剰に存在していると、MXene粒子が金属イオンに吸着されて凝集し得、単に洗浄しただけではかかる凝集を解くことは難しいが、せん断力を付与しつつ洗浄することにより、MXene粒子の凝集を解いて、その原因となっていた過剰量の金属イオンを効果的に除去し、これにより、MXene粒子の凝集を低減ないし防止することができる。MXene粒子の凝集を低減ないし防止することにより、
図1に模式的に示すように、最終的に得られる導電性膜30においてMXene粒子10が比較的整列した状態で存在し、より詳細には、導電性膜30の主面に対して、MXene粒子の二次元シート面(MXeneの層に平行な平面)が比較的揃っている(好ましくは平行である)MXene粒子が多い(配向性/スタック性が高いとも表現され得る)ので、導電性膜の初期導電率を向上させることができ、高い導電率を維持できる。
【0042】
より詳細には、混合物を固液分離(例えば沈降、遠心分離等)に付し、混合物から水性溶媒(液相)を部分的に除去し、混合物に別の(新たな、またはフレッシュな)水性溶媒を添加し、混合物にせん断力を付与する操作を、任意の適切なタイミングで実施するものであってよい。かかる操作は1回実施しても、場合により2回以上繰り返して実施してもよい。
【0043】
せん断力の付与は、例えば、シェイカー、シェアミキサーなどを用いて、またはハンドシェイクにより、せん断力を付与する強度および時間等を適宜選択して実施できる。例えば、オートマチックシェイカー(FAST & FLUID社製、SK-550)により所定時間処理することでせん断力を加えてよい。せん断力は、MXene粒子を破壊しないように加えることが望ましく、MXene粒子(例えばフレーク等)に対して異方的なエネルギーを加えられることが望ましい。
【0044】
・工程(b)
その後、上記で得られた混合物を乾燥させて導電性膜30を得る。
【0045】
乾燥させる前に、混合物を用いて導電性膜の前駆体(「前駆体膜」とも言う)を形成してよい。前駆体の形成方法は特に限定されず、例えば塗工、吸引ろ過、スプレーなどを利用できる。より詳細には、混合物をそのままで、または適宜調整(例えば水性溶媒で希釈)して、パーコーター、ロールコーター、スピンコーター、ブレードなどを使用して、任意の適切な基材(導電性膜と共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性膜から分離されてもよい)上に塗工することにより、該基材上に前駆体を形成することができる。また、混合物を適宜調整(例えば水性溶媒で希釈)して、ヌッチェなどに設置したフィルター(導電性膜と共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性膜から分離されてもよい)を通じて吸引ろ過し、水性溶媒を少なくとも部分的に除去することによって、該フィルター上に前駆体を形成することができる。フィルターは、特に限定されないが、メンブレンフィルターなどを使用し得る。また、混合物を適宜調整(例えば水性溶媒で希釈)して、スプレーガン、エアブラシなどで任意の適切な基材(導電性膜と共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性膜から分離されてもよい)上にスプレーすることにより、該基材上に前駆体を形成することができる。
【0046】
次に、上記で形成した前駆体を乾燥させて、導電性膜30を得る。本発明において「乾燥」は、前駆体中に存在し得る水性溶媒を除去することを意味する。
【0047】
乾燥は、自然乾燥(代表的には常温常圧下にて、空気雰囲気中に配置する)や空気乾燥(空気を吹き付ける)などのマイルドな条件で行っても、温風乾燥(加熱した空気を吹き付ける)、加熱乾燥、および/または真空乾燥などの比較的アクティブな条件で行ってもよい。
【0048】
前駆体の形成および乾燥は、所望の導電性膜厚さが得られるまで適宜繰り返してもよい。例えば、スプレーと乾燥との組み合わせを複数回繰り返して実施してもよい。
【0049】
これにより得られる本実施形態の導電性膜30は、MXene粒子10を含み、リン原子を0.001質量%以上0.09質量%未満で更に含む。
【0050】
導電性膜中のリン原子は、リン酸基含有ポリアニオンの塩に由来する。かかるリン原子は、好ましくは、上述の通り、リン酸基含有ポリアニオンの形態でMXene粒子の酸化サイトに接合している。これにより、MXene粒子の酸化サイトがリン酸基含有ポリアニオンにより保護され、導電性膜が酸素などを含む酸化雰囲気(代表的には空気)に曝されても、酸素などによりMXene粒子の酸化サイトがアタックされるのを阻止でき、MXene粒子の酸化を防止することができる。
【0051】
導電性膜中のリン原子の含有量は、0.001質量%以上であることにより、酸化防止の効果が得られ(導電率の経時低下を低減でき)、0.09質量%未満であることにより、初期導電率の低下を低減することができる。好ましくは、リン原子の含有量は、0.01質量%以上および/または0.08質量%以下であり得る。リン原子の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)や蛍光X線分析(XRF)などの元素(原子)分析により測定可能である。
【0052】
また、導電性膜は、リン酸基含有ポリアニオンの塩に由来する金属イオンに対応する金属元素(例えばアルカリ金属)を0.5質量%以下で含んでいてよい。導電性膜中の金属元素の含有量は、0.5質量%以下であることにより、MXene粒子の凝集を低減ないし防止でき、初期導電率の低下を低減することができる。好ましくは、金属元素の含有量は、0.001質量%以上および/または0.09質量%未満であり得る。金属元素の含有量は、例えば、ICP-AESやXRFなどにより測定可能である。
【0053】
本実施形態の導電性膜は、MXene粒子とリン酸基含有ポリアニオンと、場合により残留し得る金属元素との複合材料から成っていてよい。
【0054】
本実施形態の導電性膜は、2000S/cm以上、好ましくは3000S/cm以上の導電率を維持する。より詳細には、導電性膜が、2000S/cm以上、好ましくは3000S/cm以上の導電率を維持するとは、導電性膜を、常温(例えば0~40℃、特に10~30℃、代表的には25℃)および常圧(代表的には大気圧、特に標準大気圧、具体的には約0.1MPa)の空気中(例えば湿度50%以下、代表的には湿度0%)で保存した場合、例えば30日、好ましくは50日またはそれ以上に亘って、2000S/cm以上、好ましくは3000S/cm以上の導電率を示すものであり得る。導電性膜の導電率は、測定ばらつきがなければ経時的に低下する傾向にあると考えられるので、(好ましくは導電性膜の初期導電率と)所定時間(日数)経過後の導電性膜の導電率が、2000S/cm以上、好ましくは3000S/cm以上であれば、導電性膜が、2000S/cm以上、好ましくは3000S/cm以上の導電率を維持するものと理解してよい。導電性膜の初期導電率は、代表的に、導電性膜作製後、上記条件にて1日保存した後の導電率を初期導電率とした場合、3000S/cm以上、好ましくは4000S/cm以上であり得る。そして、導電性膜作製後、上記条件にて例えば30日、好ましくは50日またはそれ以上保存した後の導電率は、2000S/cm以上、好ましくは3000S/cm以上であり得、初期導電率を基準とした低下率は、30%以下、15%以下、好ましくは12%以下であり得る。導電性膜がいつ作製されたか不明な場合、導電性膜を任意の時点から上記条件にて例えば30日、好ましくは50日保存した後の導電率が、2000S/cm以上であれば、導電性膜が、2000S/cm以上の導電率を維持するものと理解される。導電性膜の導電率について、上限は特に存在しないが、例えば10000S/cm以下であり得る。導電率は、導電性膜の抵抗率および厚さを測定し、これらの測定値から算出可能である。
【0055】
本実施形態の導電性膜は、いわゆるフィルムとしての形態を有し得、具体的には、互いに対向する2つの主面を有するものであり得る。導電性膜の厚さ、および平面視した場合の形状および寸法などは、導電性膜の用途に応じて適宜選択され得る。
【0056】
本実施形態の導電性膜は、任意の適切な用途に利用され得る。例えば、任意の適切な電気デバイスにおける電極や電磁シールド(EMIシールド)など、高い導電率を維持すること(初期導電率の低下を低減し、酸化を防止すること)が要求されるような用途に利用され得る。
【0057】
電極は、特に限定されないが、例えばキャパシタ用電極、バッテリ用電極、生体電極、センサ用電極、アンテナ用電極などであり得る。本実施形態の導電性膜を使用することにより、より小さい容積(装置占有体積)でも、大容量のキャパシタおよびバッテリ、低インピーダンスの生体電極、高感度のセンサおよびアンテナを得ることができる。
【0058】
キャパシタは、電気化学キャパシタであり得る。電気化学キャパシタは、電極(電極活物質)と電解液中のイオン(電解質イオン)との間での物理化学反応に起因して発現する容量を利用したキャパシタであり、電気エネルギーを蓄えるデバイス(蓄電デバイス)として使用可能である。バッテリは、繰り返し充放電可能な化学電池であり得る。バッテリは、例えばリチウムイオンバッテリ、マグネシウムイオンバッテリ、リチウム硫黄バッテリ、ナトリウムイオンバッテリなどであり得るが、これらに限定されない。
【0059】
生体電極は、生体信号を取得するための電極である。生体電極は、例えばEEG(脳波)、ECG(心電図)、EMG(筋電図)、EIT(電気インピーダンストモグラフィ)を測定するための電極であり得るが、これらに限定されない。
【0060】
センサ用電極は、目的の物質、状態、異常等を検知するための電極である。センサは、例えばガスセンサ、バイオセンサ(生体起源の分子認識機構を利用した化学センサ)などであり得るが、これらに限定されない。
【0061】
アンテナ用電極は、空間に電磁波を放射する、および/または、空間中の電磁波を受信するための電極である。
【0062】
とりわけ、本実施形態の導電性膜を使用することにより、高い遮蔽率(EMIシールド性)の電磁シールドを得ることができる。一般的には、EMIシールド性は、下記の式(1)に基づいて、導電率に対して表1のように算出される。
【0063】
【数1】
式(1)中、SEはEMIシールド性(dB)であり、σは導電率(S/cm)であり、fは電磁波の周波数(MHz)であり、tは膜厚さ(cm)である。
【0064】
【表1】
*但し、f=1000MHzとし、t=1×10
-4cmとした。
【0065】
表1から理解される通り、導電率が2000S/cm以上であると、高いEMIシールド性が得られる。本実施形態の導電性膜によれば、導電率が2000S/cm以上であるので、厚さ一定の場合には、より高いEMIシールド性が得られ、厚さを低減した場合でも十分なEMIシールド効果を得ることができる。
【0066】
以上、本発明の1つの実施形態における導電性膜について、その製造方法を通じて詳述したが、本発明は種々の改変が可能である。なお、本発明の導電性膜は、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本発明の導電性膜の製造方法は、上述の実施形態における導電性膜を提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
実施例1は、リン酸基含有ポリアニオンの塩としてヘキサメタリン酸ナトリウムを適切な濃度で使用して導電性膜を製造した例に関する。
【0068】
・混合物の調製
MAX粒子としてTi3AlC2粒子を既知の方法で調製した。このTi3AlC2粒子(粉末)をLiFと共に9モル/Lの塩酸に添加して(Ti3AlC2粒子1gにつき、LiF 1g、9モル/Lの塩酸10mLとした)、35℃にてスターラーで24時間撹拌して、Ti3AlC2粒子に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに対して、純水による洗浄および遠心分離機を用いた上澄みの分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物を再び洗浄に付す)操作を10回程度繰り返し実施した。そして、沈降物に純水を添加した混合物をオートマチックシェーカーで15分間撹拌し、その後、遠心分離機で5分間の遠心分離操作に付して上澄みと沈降物に分離させ、上澄みを遠心脱水により分離除去した。これにより、上澄みを除いた残りの沈降物に純水を添加することにより希釈して、粗精製スラリーを得た。粗精製スラリーは、MXene粒子として、単層MXene粒子と、層分離(デラミネーション)不足により単層化されていない多層MXene粒子とを含み得、更に、MXene粒子以外の不純物(未反応のMAX粒子および、エッチングされたA原子に由来する副生成物の結晶物(例えばAlF3の結晶物)等)を含むと理解される。
【0069】
上記で得た粗精製スラリーを遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、2600×gの相対遠心力(RCF)にて5分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みを回収し、精製スラリーを得た。精製スラリーは、MXene粒子として、単層MXene粒子を多く含むと理解される。上澄みを除いた残りの沈降物は、その後、使用しなかった。
【0070】
上記で得た精製スラリーを遠心管に入れ、遠心分離機を用いて、3500×gのRCFにて120分間の遠心分離を行った。これにより遠心分離された上澄みを分離除去した。分離除去した上澄みは、その後、使用しなかった。上澄みを除いた残りの沈降物として粘土状物質(クレイ)を得た。これにより、MXeneクレイとして、Ti3C2Ts-水分散体クレイを得た。このMXeneクレイと純水とを適切な量で混合して、固形分濃度(MXene濃度)が約74mg/mLのMXeneスラリーを準備した。
【0071】
ヘキサメタリン酸ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)を0.30g(約5×10-4モル)計り取り、純水39.86mlに溶かして、リン酸基含有ポリアニオン塩水溶液としてヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を調製した。
このリン酸基含有ポリアニオン塩水溶液に、上記で準備したMXeneスラリー(固形分濃度 約74mg/mL)を約10.14mL(10.89g)添加して、全量50mLの混合物を調製した。この混合物は、MXene濃度15mg/mLで、ヘキサメタリン酸ナトリウム濃度0.01モル/Lであった。
【0072】
・混合物の洗浄
上記で調製した混合物を遠沈管に移し替え、よく振った後、3時間静置した。その後、遠沈管内の混合物に対して、(i)5000rpmで2分間遠心分離を実施し、(ii)遠心分離後の混合物から上澄みを捨て、(iii)その残りに純水を全量50mLになるように添加し、(iv)ハンドシェイクによりせん断力を付与した。(i)~(iv)の操作を合計3回繰り返した。
【0073】
・水性媒体の除去および乾燥
3回目のハンドシェイクの後、遠沈管内の混合物から5mLをスポイトで採取し、吸引ろ過に付した。吸引ろ過のフィルターには、メンブレンフィルター(メルク株式会社製、デュラポア、孔径0.45μm)を用いた。吸引ろ過後、フィルター上の前駆体膜を真空乾燥オーブンで80℃にて一晩乾燥させて、導電性膜を得た。
【0074】
(実施例2)
実施例2は、リン酸基含有ポリアニオンの塩としてポリリン酸ナトリウムを適切な濃度で使用して導電性膜を製造した例に関する。
【0075】
リン酸基含有ポリアニオン塩水溶液として、ポリリン酸ナトリウム(関東化学株式会社製)を0.14g(約5×10-4モル)計り取り、純水39.86mlに溶かして調製したポリリン酸ナトリウム水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、混合物を調製した。この混合物は、MXene濃度15mg/mLで、ポリリン酸ナトリウム濃度0.01モル/Lであった。その後、実施例1と同様にして、導電性膜を得た。
【0076】
(比較例1)
比較例1は、リン酸基含有ポリアニオンの塩を使用せずに導電性膜を製造した例に関する。
【0077】
リン酸基含有ポリアニオン塩水溶液に代えて純水を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、混合物を調製した。この混合物は、MXene濃度15mg/mLであった。その後、実施例1と同様にして、導電性膜を得た。
【0078】
(比較例2)
比較例2は、リン酸基含有ポリアニオンの塩としてヘキサメタリン酸ナトリウムを高濃度で使用して導電性膜を製造した例に関する。
【0079】
リン酸基含有ポリアニオン塩水溶液として、ヘキサメタリン酸ナトリウム(ナカライテスク株式会社製)を3.05g(約5×10-3モル)計り取り、純水39.86mlに溶かして調製した高濃度ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、混合物を調製した。この混合物は、MXene濃度15mg/mLで、ヘキサメタリン酸ナトリウム濃度0.1モル/Lであった。その後、実施例1と同様にして、導電性膜を得た。
【0080】
(比較例3)
比較例3は、リン酸基含有ポリアニオンの塩としてポリリン酸ナトリウムを高濃度で使用して導電性膜を製造した例に関する。比較例3は、非特許文献1の開示内容に相当するものと理解され得る。
【0081】
リン酸基含有ポリアニオン塩水溶液として、ポリリン酸ナトリウム(関東化学株式会社製)を1.33g(約5×10-3モル)計り取り、純水39.86mlに溶かして調製したポリリン酸ナトリウム水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、混合物を調製した。この混合物は、MXene濃度15mg/mLで、ポリリン酸ナトリウム濃度0.1モル/Lであった。その後、実施例1と同様にして、導電性膜を得た。
【0082】
(評価)
上記で作製した実施例1~2および比較例1~3のフィルター上の導電性膜(サンプル)について、作製後、常温常圧の大気環境(湿度0%)下にて保存し、作製1日後(初期)およびその後所定期間ごとに最大50日後まで、導電性膜の導電率(S/cm)を測定した。より詳細には、導電率は、1サンプルにつき3箇所で、抵抗率(表面抵抗率)(Ω)および(フィルターを除去した)厚さ(μm)を測定して、これら測定値から導電率(S/cm)を算出し、これにより得られた3箇所の導電率の算術平均値を採用した。抵抗率測定には、低抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリティック製、ロレスタAX MCP-T370)を用いた。厚さ測定には、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、MDH-25MB)を用いた。結果を表2および
図3に示す。
【0083】
上記で作製した実施例1~2および比較例1~3の導電性膜(サンプル)について、リン(より詳細にはリン原子)含有量を、ICP-AESにより測定した。結果を表2に併せて示す。比較例1の導電性膜は、リンの検出限界(0.0003質量%)未満のため、リンを検出できなかった。
【0084】
【表2】
表2中、記号「-」は、測定を省略したことを示す。
【0085】
表2を参照して、比較例1(コントロール)の導電性膜の初期導電率が、6494S/cmであり、実施例1の導電性膜の初期導電率は、5899S/cmであり、実施例2の導電性膜の初期導電率は、5713S/cmであった。よって、比較例1の導電性膜の初期導電率を基準として、実施例1の導電性膜の初期導電率の低下率は、約9%であり、実施例2の導電性膜の初期導電率の低下率は、約12%であり、いずれも15%以下であった。これに対して、比較例2の導電性膜の初期導電率は、2482S/cmであり、比較例3の導電性膜の初期導電率は、519S/cmであった。よって、比較例1の導電性膜の初期導電率を基準として、比較例2の導電性膜の初期導電率の低下率は、約62%であり、比較例3の導電性膜の初期導電率の低下率は、約92%であった。これら結果から、リン酸基含有ポリアニオンの塩の濃度が適切であれば、初期導電率の低下を低減できるが、リン酸基含有ポリアニオンの塩の濃度が高すぎると、初期導電率を顕著に低下させることが確認された。比較例2および比較例3では、リン酸基含有ポリアニオンの塩(特にナトリウムイオン)が過剰に存在したため、MXeneが凝集してしまい、MXene粒子の配向性が悪くなったものと考えられる。特に、比較例3の導電性膜(ポリリン酸ナトリウム0.1モル/L)では、初期導電率は1/10程度にまで低下した。
【0086】
表2および
図3を参照して、導電性膜の導電率の経時変化をみると、比較例1(コントロール)では、比較例1の導電性膜の初期導電率を100%として、50日経過時点で、約63%以下にまで低下していた。これに対して、実施例1および実施例2では、それぞれ実施例1および実施例2の導電性膜の初期導電率を100%として、50日間に亘って、約95%以上(即ち、低下率5%以下)に維持できていた。なお、比較例2~3では、上述のように初期導電率が顕著に低下していたため、36日以降の導電性膜の導電率は測定しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の導電性膜は、任意の適切な用途に利用され得、例えば電気デバイスにおける電極や電磁シールドとして特に好ましく使用され得る。
【0088】
本願は、2020年9月2日付けで日本国にて出願された特願2020-147673に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0089】
1a、1b 層本体(MmXn層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene(層状材料)粒子
30 導電性膜