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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】駆動システム及び車両
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20241008BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241008BHJP
   B60L 58/18 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
H02P27/06
B60L50/60
B60L58/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023037558
(22)【出願日】2023-03-10
(65)【公開番号】P2024128546
(43)【公開日】2024-09-24
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃太
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170044(JP,A)
【文献】国際公開第2023/181372(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
B60L 50/60
B60L 58/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1直流電流を出力する第1バッテリと、
前記第1直流電流を第1スイッチング素子でスイッチングすることにより車両を推進させるための力を発生する電動機に第1交流電流を出力する第1インバータと、
第2直流電流を出力する第2バッテリと、
前記第2直流電流を第2スイッチング素子でスイッチングすることにより前記電動機に前記第1交流電流と同じ周波数の第2交流電流を出力する第2インバータと、
前記第1直流電流より前記第2直流電流が小さい場合、前記第1交流電流の1周期における前記第1スイッチング素子のオン時間が前記第2スイッチング素子のオン時間より短くなり、前記第1直流電流が小さいほど、前記第1交流電流の1周期における前記第1スイッチング素子のオン時間が長くなり、かつ、前記第2直流電流が小さいほど、前記第2交流電流の1周期における前記第2スイッチング素子のオン時間が長くなるように前記第1インバータ及び前記第2インバータをPWM制御する制御部と、
を備える駆動システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1インバータからの前記第1交流電流の位相と、前記第2インバータからの前記第2交流電流の位相とをずらして前記第1交流電流及び前記第2交流電流を重ね合わせることによりインターリーブを行った交流電流を前記電動機へ出力する、
請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記制御部は、第1制御信号を前記第1スイッチング素子に入力することにより前記第1スイッチング素子にスイッチングさせ、前記第1制御信号と同じ周波数であり、かつ前記第1制御信号と各周期の開始位置が異なる第2制御信号を前記第2スイッチング素子に入力することにより前記第2スイッチング素子にスイッチングさせることにより、前記第1交流電流を前記第1インバータに出力させ、前記第1交流電流と位相が異なる前記第2交流電流を前記第2インバータに出力させる、
請求項2に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記第1バッテリの第1端子電圧を測定する第1電圧測定部と、
前記第2バッテリの第2端子電圧を測定する第2電圧測定部と、
をさらに備え、
前記制御部は、前記第1端子電圧及び前記第2端子電圧に基づいて、前記第1バッテリ及び前記第2バッテリの充電率を推定し、前記第1バッテリ及び前記第2バッテリのうち、推定した前記充電率が高い方のバッテリに対応するインバータから前記電動機に出力される交流電流の1周期における当該バッテリに対応するスイッチング素子のオン時間が、推定した前記充電率が低い方のバッテリに対応するインバータから前記電動機に供給される交流電流の1周期における当該バッテリに対応するスイッチング素子のオン時間より長くなるように、前記第1インバータ及び前記第2インバータをPWM制御する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動システム。
【請求項5】
前記第1バッテリ及び前記第2バッテリから所定の直流負荷へ直流電力を供給するか否かを切り替えるための切替スイッチをさらに備え、
前記制御部は、直流負荷を動作させる場合に前記切替スイッチを制御することにより、前記第1バッテリ又は前記第2バッテリの少なくともいずれかから前記直流負荷へ電力を供給させる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の駆動システム。
【請求項6】
車両であって、
前記車両を推進させるための力を発生する電動機と、
第1直流電流を出力する第1バッテリと、
前記第1直流電流を第1スイッチング素子でスイッチングすることにより前記電動機に第1交流電流を出力する第1インバータと、
第2直流電流を出力する第2バッテリと、
前記第2直流電流を第2スイッチング素子でスイッチングすることにより前記電動機に前記第1交流電流と同じ周波数の第2交流電流を出力する第2インバータと、
前記第1直流電流より前記第2直流電流が小さい場合、前記第1交流電流の1周期における前記第1スイッチング素子のオン時間が前記第2スイッチング素子のオン時間より短くなり、前記第1直流電流が小さいほど、前記第1交流電流の1周期における前記第1スイッチング素子のオン時間が長くなり、かつ、前記第2直流電流が小さいほど、前記第2交流電流の1周期における前記第2スイッチング素子のオン時間が長くなるように前記第1インバータ及び前記第2インバータをPWM制御する制御部と、
を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機により車両を推進させる駆動システム及び当該駆動システムを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のバッテリから供給される電力を用いて車両に搭載された電動機を駆動することが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、バッテリの故障時に車両が走行できなくなるリスクを低減することを目的として、複数のバッテリを並列に接続することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2020-519223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、複数のバッテリの内部抵抗にばらつきがある場合には内部抵抗の比較的大きいバッテリに比べて、内部抵抗の比較的小さいバッテリから大きな電流が出力されやすい。このため、内部抵抗の比較的小さいバッテリにおいて過電流が発生しやすいという問題があった。
【0005】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、複数のバッテリの内部抵抗にばらつきがある場合に、いずれかのバッテリにおいて過電流が発生することを抑制することができる駆動システム及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の駆動システムは、第1直流電流を出力する第1バッテリと、前記第1直流電流を第1スイッチング素子でスイッチングすることにより車両を推進させるための力を発生する電動機に第1交流電流を出力する第1インバータと、第2直流電流を出力する第2バッテリと、前記第2直流電流を第2スイッチング素子でスイッチングすることにより前記電動機に前記第1交流電流と同じ周波数の第2交流電流を出力する第2インバータと、前記第1直流電流より前記第2直流電流が小さい場合、前記第1交流電流の1周期における前記第1スイッチング素子のオン時間が前記第2スイッチング素子のオン時間より短くなるように前記第1インバータ及び前記第2インバータをPWM制御する制御部と、を備える。
【0007】
前記制御部は、前記第1インバータからの前記第1交流電流の位相と、前記第2インバータからの前記第2交流電流の位相とをずらして前記第1交流電流及び前記第2交流電流を重ね合わせることによりインターリーブを行った交流電流を前記電動機へ出力してもよい。前記制御部は、第1制御信号を前記第1スイッチング素子に入力することにより前記第1スイッチング素子にスイッチングさせ、前記第1制御信号と同じ周波数であり、かつ前記第1制御信号と各周期の開始位置が異なる第2制御信号を前記第2スイッチング素子に入力することにより前記第2スイッチング素子にスイッチングさせることにより、前記第1交流電流を前記第1インバータに出力させ、前記第1交流電流と位相が異なる前記第2交流電流を前記第2インバータに出力させてもよい。
【0008】
前記駆動システムは、前記第1バッテリの第1端子電圧を測定する第1電圧測定部と、前記第2バッテリの第2端子電圧を測定する第2電圧測定部と、をさらに備え、前記制御部は、前記第1端子電圧及び前記第2端子電圧に基づいて、前記第1バッテリ及び前記第2バッテリの充電率を推定し、前記第1バッテリ及び前記第2バッテリのうち、推定した前記充電率が高い方のバッテリに対応するインバータから前記電動機に出力される交流電流の1周期における当該バッテリに対応するスイッチング素子のオン時間が、推定した前記充電率が低い方のバッテリに対応するインバータから前記電動機に供給される交流電流の1周期における当該バッテリに対応するスイッチング素子のオン時間より長くなるように、前記第1インバータ及び前記第2インバータをPWM制御してもよい。
【0009】
前記駆動システムは、前記第1バッテリ及び前記第2バッテリから所定の直流負荷へ直流電力を供給するか否かを切り替えるための切替スイッチをさらに備え、前記制御部は、直流負荷を動作させる場合に前記切替スイッチを制御することにより、前記第1バッテリ又は前記第2バッテリの少なくともいずれかから前記直流負荷へ電力を供給させてもよい。
【0010】
本発明の第2の態様の車両は、車両であって、前記車両を推進させるための力を発生する電動機と、第1直流電流を出力する第1バッテリと、前記第1直流電流を第1スイッチング素子でスイッチングすることにより前記電動機に第1交流電流を出力する第1インバータと、第2直流電流を出力する第2バッテリと、前記第2直流電流を第2スイッチング素子でスイッチングすることにより前記電動機に前記第1交流電流と同じ周波数の第2交流電流を出力する第2インバータと、前記第1直流電流より前記第2直流電流が小さい場合、前記第1交流電流の1周期における前記第1スイッチング素子のオン時間が前記第2スイッチング素子のオン時間より長くなるように前記第1インバータ及び前記第2インバータをPWM制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数のバッテリの内部抵抗にばらつきがある場合に、いずれかのバッテリにおいて過電流が発生することを抑制するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の駆動システムの一例である車両の構成を示す。
図2】車両の要部の構成を示す。
図3】制御部による第1出力電流から第4出力電流のインターリーブの一例を示す。
図4】制御部による第1インバータから第4インバータのPWM制御の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[車両の概要]
図1は、本実施形態の駆動システムSの一例である車両100の構成を示す。車両100は、電動機1、複数のバッテリ2、複数のインバータ3、切替スイッチ4、直流負荷5、補助バッテリ6及び制御装置7を備える。また、複数のバッテリはそれぞれ、バッテリ2a(第1バッテリ)、バッテリ2b(第2バッテリ)、バッテリ2c(第3バッテリ)、バッテリ2d(第4バッテリ)である。複数のインバータ3はそれぞれ、インバータ3a(第1インバータ)、インバータ3b(第2インバータ)、インバータ3c(第3インバータ)、およびインバータ3d(第4インバータ)である。電動機1は、U相ステータコイル11、V相ステータコイル12、W相ステータコイル13を備える。本明細書の例では、車両100は、電気自動車である。一例としては、車両100は、トラック又はバス等の商用車である。
【0014】
電動機1は、車両100を推進させるための力を発生する。例えば、電動機1は、永久磁石式同期電動機(PMモータ)である。バッテリ2aは、直流電流Iaを出力する。例えば、バッテリ2aは、バッテリセルに加えて、過充電等を防止する保護回路及び充放電回路等を収容するバッテリパックである。バッテリ2bは、直流電流Ibを出力する。例えば、バッテリ2bは、バッテリ2a同様に、バッテリセルに加えて、過充電等を防止する保護回路及び充放電回路等を収容するバッテリパックである。バッテリ2cは、直流電流Icを出力する。例えば、バッテリ2cは、バッテリ2a同様に、バッテリセルに加えて、過充電等を防止する保護回路及び充放電回路等を収容するバッテリパックである。バッテリ2dは、直流電流Idを出力する。例えば、バッテリ2dは、バッテリ2a同様に、バッテリセルに加えて、過充電等を防止する保護回路及び充放電回路等を収容するバッテリパックである。
【0015】
インバータ3aは、バッテリ2aが出力した直流電流Ia(第1直流電流)をその内部のスイッチング素子でスイッチングすることにより電動機1に交流電流ac1を出力する。本明細書の例では、インバータ3aは、3相交流電流をU相ステータコイル11、V相ステータコイル12、W相ステータコイル13にそれぞれ供給する。インバータ3aは、インバータ3b、インバータ3c、インバータ3dと並列に接続されている。
【0016】
インバータ3bは、インバータ3aと同様に、バッテリ2bが出力した直流電流Ib(第2直流電流)をその内部のスイッチング素子でスイッチングすることにより電動機1に交流電流ac1と同じ周波数の交流電流ac2を出力する。インバータ3bは、インバータ3aと同様に、3相交流電流をU相ステータコイル11、V相ステータコイル12、W相ステータコイル13にそれぞれ供給する。
【0017】
インバータ3cは、インバータ3aと同様に、バッテリ2cが出力した直流電流Ic(第3直流電流)をその内部のスイッチング素子でスイッチングすることにより電動機1に交流電流ac1と同じ周波数の交流電流ac3を供給する。インバータ3dは、インバータ3aと同様に、バッテリ2dが出力した直流電流Id(第4直流電流)をその内部のスイッチング素子でスイッチングすることにより電動機1に交流電流ac1と同じ周波数の交流電流ac4を出力する。
【0018】
切替スイッチ4は、バッテリ2a又はバッテリ2bの少なくともいずれかから所定の直流負荷5へ直流電力を供給するか否かを切り替えるための素子である。切替スイッチ4は、制御装置7の制御により、バッテリ2a及びバッテリ2bのうち少なくともいずれかから直流負荷5へ直流電力を供給するように動作する。例えば、切替スイッチ4は、バッテリ2a等から直流負荷5へ直流電力を供給するモードであることを示す制御信号が制御装置7から入力されている状態では、バッテリ2a又はバッテリ2bの少なくともいずれかと直流負荷5とを電気的に導通させ、バッテリ2a等から直流負荷5へ直流電力を供給させる。
【0019】
切替スイッチ4は、バッテリ2a等から直流負荷5へ直流電力を供給するモードであることを示す制御信号が制御装置7から入力されていない状態では、バッテリ2a及びバッテリ2bと直流負荷5との間をいずれも電気的に遮断し、バッテリ2a等から直流負荷5へ直流電力を供給させない。なお、図1においては、バッテリ2a及びバッテリ2bが切替スイッチ4に接続されているが、バッテリ2c及びバッテリ2dの少なくともいずれかも切替スイッチ4に接続されており、バッテリ2c及びバッテリ2dの少なくともいずれかが切替スイッチ4を介して直流電力を直流負荷5へ供給してもよい。
【0020】
直流負荷5は、例えば、車両100の架装に設けられたウイングを開閉するための直流モータである。直流負荷5は、車両100の架装に搭載された冷凍装置又は冷蔵装置であってもよい。
【0021】
補助バッテリ6は、切替スイッチ4を介して直流負荷5に接続されている。補助バッテリ6は、直流電流を直流負荷5に供給する。
【0022】
制御装置7は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)である。制御装置7は、各インバータ3をPWM制御することにより、電動機1へ交流電流を出力する。
【0023】
制御装置7は、複数のバッテリ2の内部抵抗にばらつきがある場合、それぞれのバッテリから電動機1に供給される電流の平均値が一定になるように、PWM制御時の各インバータ3のスイッチング素子のオン時間の長さを設定する。このとき、制御装置7は、バッテリ2が出力する電流値が小さいほど、PWM制御時にこのバッテリ2に対応するインバータ3のスイッチング素子のオン時間が長くなるように各インバータ3のスイッチング素子のオン時間を設定する。
【0024】
例えば、制御装置7は、バッテリ2aから供給される電流値に比べてバッテリ2bから供給される電流値が小さい場合、インバータ3aが供給する交流電流ac1の1周期におけるインバータ3aのスイッチング素子のオン時間が、インバータ3bのスイッチング素子のオン時間より短くなるようにインバータ3aのスイッチング素子等のオン時間を設定する。このようにして、制御装置7は、各バッテリ2が供給する電流の平均値が略一定になるように各インバータ3を制御するので、複数のバッテリ2のいずれかのバッテリにおいて過電流が発生することを抑制することができる。
【0025】
[車両100の要部の構成]
図2は、車両100の要部の構成を示す。車両100は、複数の電圧測定部21a~22d、スイッチング素子301a(第1スイッチング素子)、スイッチング素子301b(第2スイッチング素子)、スイッチング素子301c(第3スイッチング素子)、スイッチング素子301d(第4スイッチング素子)、切替スイッチ4及び制御装置7を備える。制御装置7は、記憶部701及び制御部702を備える。スイッチング素子301aは、インバータ3aのスイッチング素子である。スイッチング素子301bは、インバータ3bのスイッチング素子である。スイッチング素子301cは、インバータ3cのスイッチング素子である。スイッチング素子301dは、インバータ3dのスイッチング素子である。
【0026】
電圧測定部21は、各バッテリ2に設けられ、各バッテリ2の端子電圧を測定する。電圧測定部21は、例えば、ADコンバータである。電圧測定部21aは、バッテリ2aの端子電圧を測定する。電圧測定部21bは、バッテリ2bの端子電圧を測定する。電圧測定部21cは、バッテリ2cの端子電圧を測定する。電圧測定部21dは、バッテリ2dの端子電圧を測定する。各電圧測定部21は、測定した端子電圧を制御部702へ入力する。
【0027】
スイッチング素子301aは、インバータ3aに設けられている。スイッチング素子301aは、例えば、パワー半導体である。スイッチング素子301aは、バッテリ2aから直流電力が供給される状態とバッテリ2aから直流電力が供給されない状態とを切り替える。図2には図示していないが、スイッチング素子301aは、U相ステータコイル11へ供給する交流電流を出力するU相用スイッチング部と、V相ステータコイル12へ供給する交流電流を出力するV相用スイッチング部と、W相ステータコイル13へ供給する交流電流を出力するW相用スイッチング部と、を有する。
【0028】
スイッチング素子301b、スイッチング素子301c、及び、スイッチング素子301dは、順にインバータ3b、インバータ3c及びインバータ3dに設けられる。スイッチング素子301b、スイッチング素子301c、及び、スイッチング素子301dの構成および動作は、スイッチング素子301aと同様であるため、説明を省略する。
【0029】
記憶部701は、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等により構成される。記憶部701は、制御部702を機能させるための各種プログラムや各種データを記憶する。制御部702は、例えば、制御装置7に搭載されたプロセッサである。制御部702は、記憶部701に記憶されたプログラムを実行することにより、各種の機能を実行する。
【0030】
例えば、制御部702は、バッテリ2aがインバータ3aヘ供給する電流を電流センサ(不図示)により測定した結果を取得する。同様に、制御部702は、バッテリ2bからバッテリ2dがインバータ3bからインバータ3dへ供給する電流量をそれぞれ電流センサ(いずれも不図示)により測定した結果を取得する。ここで、各バッテリ2から対応する各インバータ3へ供給する電流を測定する電流センサは、バッテリ2ごとに設けられているとする。さらに、制御部702は、各電圧測定部21が測定した端子電圧から端子電圧を取得する。
【0031】
制御部702は、スイッチング素子301a、スイッチング素子301b、スイッチング素子301c及びスイッチング素子301dをスイッチングすることにより、各バッテリ2が供給する直流電力を交流電力に変換する。より詳しくは、制御部702は、電動機1の角速度の目標値等に基づいて、電動機1のU相ステータコイル11、V相ステータコイル12及びW相ステータコイル13に供給する電流の目標値を算出する。
【0032】
制御部702は、算出したU相ステータコイル11、V相ステータコイル12及びW相ステータコイル13の電流の目標値と、U相ステータコイル11等の現在の電流値とに基づいて、U相ステータコイル11等に印加する電圧値を算出する。制御部702は、各インバータ3をPWM制御することにより、算出した電圧値の電圧がU相ステータコイル11に印加されるようにする。
【0033】
[バッテリ間の内部抵抗等のばらつきの調整]
制御部702は、複数のバッテリ2間の内部抵抗等のばらつきに起因して発生する各バッテリ2が出力する直流電流のばらつきの影響を低減するために、各インバータ3のスイッチング素子301のPWM制御時のオン時間の長さを設定する。このとき、制御部702は、バッテリが出力する電流値が小さいほどこのバッテリに対応するスイッチング素子のPWM制御時のオン時間が長くなるように、各インバータ3のスイッチング素子301のオン時間を設定する。
【0034】
例えば、制御部702は、直流電流Iaより直流電流Ibが小さい場合、インバータ3aが供給する交流電流ac1の1周期におけるスイッチング素子301aのオン時間が、同じ1周期におけるインバータ3bのスイッチング素子301bのオン時間より短くようにスイッチング素子301a及びスイッチング素子301bのオン時間を設定する。
【0035】
本明細書の例では、制御部702は、複数のインバータ3全てをPWM制御することにより電動機1へ交流電流ac1を出力する場合の例について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、制御部702は、複数のインバータ3のうちのいずれか2つ以上をPWM制御することにより電動機1へ交流電流を出力してもよく、5つ以上のインバータ3をPWM制御することにより電動機1へ交流電力を供給してもよい。
【0036】
[複数の出力電流のインターリーブ]
制御部702は、電動機1へ出力する交流電流のリプル低減を目的として、インバータ3aが出力する交流電流ac1の位相と、インバータ3bが出力する交流電流ac2の位相と、インバータ3cが出力する交流電流ac3の位相と、インバータ3dが出力する交流電流ac4の位相と、をずらして交流電流ac1から交流電流ac4を重ね合わせることによりインターリーブを行った交流電流を電動機1へ供給する。
【0037】
図3(a)から図3(c)は、インターリーブの原理を説明するための例を示す。図3(a)は、インバータ3aからインバータ3dと同様のインバータにより生成された交流電流のグラフを示す。図3の縦軸は、電流を示す。図3の横軸は、時間を示す。図3(b)は、図3(a)とはリプルの波形の位相が180度異なり、且つ、図3(a)の交流電流と同期する交流電流のグラフを示す。図3(c)は、図3(a)の交流電流と図3(b)の交流電流とを重ね合わせるインターリーブを行った交流電流のグラフを示す。図3(c)のグラフでは、図3(a)及び図3(b)の交流電流に比べてリプルが低減されている。
【0038】
制御部702は、図3の例と同様の原理により、各インバータ3から出力された交流電流のインターリーブを行う。一例としては、制御部702は、各インバータ3から出力された交流電流の位相を90度ずつ異ならせることにより、各インバータ3から出力された交流電流のインターリーブを行う。制御部702は、制御信号Saをスイッチング素子301aに入力することによりスイッチング素子301aにスイッチングさせ、交流電流ac1をインバータ3aに出力させる。制御部702は、制御信号Saと同じ周波数であり、かつ制御信号Saと各周期の開始位置が異なる制御信号Sbをスイッチング素子301bに入力することによりスイッチング素子301bにスイッチングさせる。制御部702は、交流電流ac1と位相が異なる交流電流ac2をインバータ3bに出力させる。
【0039】
同様に、制御部702は、制御信号Scをスイッチング素子301cに入力することによりスイッチング素子301cにスイッチングさせ、交流電流ac3をインバータ3cに出力させる。制御部702は、制御信号Sdをスイッチング素子301dに入力することによりスイッチング素子301dにスイッチングさせ、交流電流ac4をインバータ3dに出力させる。
【0040】
制御部702は、同じ周波数で互いに位相が異なる交流電流が重ね合うことにより、各インバータ3から出力された元の交流電流に比べてリプルの小さい波形を有する交流電流が各ステータコイルに入力されるようにすることができる。このとき、制御部702は、各ステータコイル11に印加する電圧のリプルを低減することもできる。このため、制御部702は、電動機1の力率を改善し、電動機1の回転数等の制御の精度がノイズ等により低下することを抑制することができる。制御部702は、複数のインバータ3の交流電流を重ね合わせるインターリーブによりリプルの小さい交流電流を生成するので、スイッチング素子301のスイッチング周波数を4倍にすることにより同様の交流電流を生成する場合に比べて、スイッチング損失を低減することができる。
【0041】
本明細書の例では、制御部702が複数のインバータ3の交流電流のインターリーブを行う場合の例について説明したが、本発明は、制御部702が複数のインバータ3すべての交流電流をインターリーブを行う例に限定されない。例えば、制御部702は、複数のインバータ3のうちいずれか2以上の交流電流のインターリーブを行ってもよい。5つ以上のインバータが出力する交流電流のインターリーブを行ってもよい。
【0042】
[充電率に基づくPWM制御]
制御部702は、各バッテリ2の充電率に基づいて、PWM制御時の各インバータ3のスイッチング素子301のオン時間を設定してもよい。まず、制御部702は、各電圧測定部21が測定した端子電圧に基づいて、各バッテリ2の充電率を推定する。充電率が高いほど、供給される電流値が高いといえる。したがって、制御部702は、バッテリ2の充電率が高いほど、電動機1に供給される交流電流の1周期における当該バッテリ2に対応するスイッチング素子301のオン時間が長くなるように、オン時間を設定してもよい。
【0043】
例えば、制御部702は、複数のバッテリ2のうち、推定した充電率が高い方のバッテリ2に対応するインバータ3のスイッチング素子301のオン時間が、推定した充電率が低い方のバッテリ2に対応するインバータ3のスイッチング素子301のオン時間より長くなるように設定する。制御部702は、設定したスイッチング素子301のオン時間に基づいてインバータ3をPWM制御する。このようにして、制御部702は、各バッテリ2に蓄えられた電力を過不足なく利用して電動機1を駆動させることができる。
【0044】
[直流負荷5への電力の供給]
制御部702は、直流負荷5を動作させる場合に切替スイッチ4を制御することにより、バッテリ2a又はバッテリ2bの少なくともいずれかから直流負荷5へ電力を供給させる。例えば、制御部702は、電動機1が駆動している状態では、直流負荷5用の補助バッテリ6と、直流負荷5とを導通させ、且つ、バッテリ2a及びバッテリ2bと直流負荷との間をいずれも遮断させるように、切替スイッチ4を制御する。このとき、補助バッテリ6から直流負荷5へ電力が供給されるが、バッテリ2a及びバッテリ2bから直流負荷5へ電力は供給されない。
【0045】
一方、制御部702は、電動機1の停止している状態では、直流負荷5用の補助バッテリ6と直流負荷5との間を遮断させ、バッテリ2a又はバッテリ2bの少なくとも一方と直流負荷5との間を導通させるように切替スイッチ4を制御する。このとき、補助バッテリ6から直流負荷5へ電力が供給されず、バッテリ2a又はバッテリ2bの少なくとも一方から直流負荷5へ電力は供給される。このようにして、制御部702は、電動機1の停止している状態ではバッテリ2a又はバッテリ2bに蓄えられた電力を直流負荷5に供給するので、補助バッテリ6に蓄えられた電力が消費されるまでの時間を長くすることができる。
【0046】
制御部702は、複数のバッテリ2のうち1つ以上のバッテリから直流負荷5へ切替スイッチ4により直流電流を供給してもよい。制御部702は、5つ以上のバッテリから直流負荷5へ直流電流を供給してもよい。
【0047】
[制御装置7による電動機1の制御の処理手順]
図4は、制御部702による各インバータ3のPWM制御の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順は、車両100の走行時に開始される。まず、制御部702は、各電圧測定部21が測定した各バッテリ2の端子電圧を取得する(S101)。
【0048】
制御部702は、電動機1の角速度の目標値等に基づいて、電動機1のU相ステータコイル11、V相ステータコイル12及びW相ステータコイル13に供給する電流の目標値をそれぞれ算出する(S102)。制御部702は、算出したU相ステータコイル11等の電流の目標値と、U相ステータコイル11等に供給されている現在の電流値とに基づいて、電動機1のU相ステータコイル11等に印加する電圧値を算出する(S103)。
【0049】
制御部702は、算出した電圧値に基づいて、各バッテリ2が供給する電流の平均値が一定になるように、各インバータ3のスイッチング素子301のPWM制御時のオン時間の長さを設定する(S104)。制御部702は、設定したオン時間で各インバータ3をPWM制御し、電動機1に交流電流を出力する(S105)。制御部702は、車両100の走行が終了したか否かを判定する(S106)。制御部702は、車両100の走行が終了したと判定した場合(S106のYES)、処理を終了する。制御部702は、S106の判定において車両100の走行が終了していないと判定した場合(S106のNO)、S101の処理に戻る。
【0050】
[本実施形態の制御装置7による効果]
制御部702は、バッテリ2aから供給される電流値に比べてバッテリ2bから供給される電流値が小さい場合、インバータ3aが供給する交流電流ac1の1周期におけるスイッチング素子301aのオン時間が、インバータ3bのスイッチング素子301bのオン時間より短くなるようにスイッチング素子301a等のオン時間を設定する。このようにして、制御部702は、バッテリ2aからバッテリ2dから供給される電流の平均値が略一定になるようにインバータ3aからインバータ3dを制御するので、バッテリ2aからバッテリ2dのいずれかのバッテリにおいて過電流が発生することを抑制することができる。
【0051】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0052】
1 電動機
2a 第1バッテリ
2b 第2バッテリ
2c 第3バッテリ
2d 第4バッテリ
3a 第1インバータ
3b 第2インバータ
3c 第3インバータ
3d 第4インバータ
4 切替スイッチ
5 直流負荷
6 補助バッテリ
7 制御装置
11 U相ステータコイル
12 V相ステータコイル
13 W相ステータコイル
22a 電圧測定部
22b 電圧測定部
22c 電圧測定部
22d 電圧測定部
100 車両
301a 第1スイッチング素子
301b 第2スイッチング素子
301c 第3スイッチング素子
301d 第4スイッチング素子
701 記憶部
702 制御部
図1
図2
図3
図4