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特許7567960基板の洗浄装置,基板の洗浄方法,半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】基板の洗浄装置,基板の洗浄方法,半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241008BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H01L21/304 647Z
H01L21/30 572B
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023039733
(22)【出願日】2023-03-14
(65)【公開番号】P2024130169
(43)【公開日】2024-09-30
【審査請求日】2024-03-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】三浦 敏徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】花倉 満
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-077069(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130523(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/146584(WO,A1)
【文献】特開2004-241414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/027
B01F 23/23
B08B 3/04
C01B 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンガスと当該オゾンガスを溶解可能な溶媒とを気液混合器に受容してオゾン水を生成するオゾン水生成部と、
前記オゾン水を吐出するオゾン水供給部と、
前記オゾン水との混和性を有している混和性液体を吐出する混和性液体供給部と、
前記オゾン水供給部による前記オゾン水の吐出方向に位置するように基板を支持する支持部と、
を備え、
前記気液混合器は、
前記溶媒が流通する溶媒流通路と、
前記溶媒流通路に接続して設けられ、前記オゾンガスを当該溶媒流通路に導入するオゾンガス導入路と、
を備えており、前記オゾンガスをオゾン濃度50体積%以上でオゾン分圧30kPa(abs)以下にて受容し、
前記混和性液体供給部は、前記オゾン水供給部による前記オゾン水の吐出方向に前記基板が位置している場合に、当該基板のうち当該オゾン水が吐出される側である被吐出側部に対して、前記オゾン水供給部から吐出するオゾン水よりも高い温度で前記混和性液体を吐出でき、
前記オゾン水供給部および前記混和性液体供給部により、前記オゾン水および前記混和性液体の両者を同時または交互に吐出して、当該両者を前記被吐出側部にて混和可能なことを特徴とする基板の洗浄装置。
【請求項2】
前記混和性液体供給部は、前記混和性液体を温度40℃以上で吐出することを特徴とする請求項1記載の基板の洗浄装置。
【請求項3】
前記オゾン水供給部により前記オゾン水を吐出するオゾン水吐出口と、前記混和性液体供給部により前記混和性液体を吐出する混和性液体吐出口と、がそれぞれ複数個設けられているシャワーヘッドを、更に備えていることを特徴とする請求項1記載の基板の洗浄装置。
【請求項4】
前記オゾン水供給部により前記オゾン水を吐出するオゾン水吐出口と、前記混和性液体供給部により前記混和性液体を吐出する混和性液体吐出口と、がそれぞれ複数個設けられている一対のシャワーヘッドを、更に備え、
前記一対のシャワーヘッドは、前記基板を挟んで互いに対向する方向に位置していることを特徴とする請求項1記載の基板の洗浄装置。
【請求項5】
前記支持部は、前記基板を回転自在に支持することを特徴とする請求項1記載の基板の洗浄装置。
【請求項6】
前記基板の前記被吐出側部には、レジスト層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の基板の洗浄装置。
【請求項7】
前記レジスト層には、硬化層が形成されていることを特徴とする請求項6記載の基板の洗浄装置。
【請求項8】
オゾンガスと当該オゾンガスを溶解可能な溶媒とを気液混合器に受容してオゾン水を生成するオゾン水生成工程と、
支持部によって支持されている基板に対し、前記オゾン水を吐出するオゾン水供給工程と、
前記基板に対し、前記オゾン水との混和性を有する混和性液体を吐出する混和性液体供給工程と、
を有し、
前記気液混合器は、
前記溶媒が流通する溶媒流通路と、
前記溶媒流通路に接続して設けられ、前記オゾンガスを当該溶媒流通路に導入するオゾンガス導入路と、
を備えており、前記オゾンガスをオゾン濃度50体積%以上でオゾン分圧30kPa(abs)以下にて受容し、
前記混和性液体供給工程は、前記オゾン水供給工程による前記オゾン水の吐出方向に前記基板が位置している場合に、当該基板のうち当該オゾン水が吐出される側である被吐出側部に対して、前記オゾン水供給工程により吐出するオゾン水よりも高い温度で前記混和性液体を吐出し、
前記オゾン水供給工程および前記混和性液体供給工程を同時または交互に行うことにより、前記オゾン水および前記混和性液体の両者を前記被吐出側部にて混和することを特徴とする基板の洗浄方法。
【請求項9】
前記混和性液体供給工程は、前記混和性液体を温度40℃以上で吐出することを特徴とする請求項8記載の基板の洗浄方法。
【請求項10】
前記オゾン水供給工程により前記オゾン水を吐出するオゾン水吐出口と、前記混和性液体供給工程により前記混和性液体を吐出する混和性液体吐出口と、がそれぞれ複数個設けられているシャワーヘッドを用いることを特徴とする請求項8記載の基板の洗浄方法。
【請求項11】
前記オゾン水供給工程により前記オゾン水を吐出するオゾン水吐出口と、前記混和性液体供給工程により前記混和性液体を吐出する混和性液体吐出口と、がそれぞれ複数個設けられている一対のシャワーヘッドを用い、
前記一対のシャワーヘッドは、前記基板を挟んで互いに対向する方向に位置させることを特徴とする請求項8記載の基板の洗浄方法。
【請求項12】
前記支持部は、前記基板を回転自在に支持することを特徴とする請求項8記載の基板の洗浄方法。
【請求項13】
前記オゾン水供給工程および前記混和性液体供給工程の両者を交互に行う場合であって、当該オゾン水供給工程と、混和性液体供給工程と、当該オゾン水供給工程および混和性液体供給工程の両者を停止している状態で前記基板を回転させる回転工程と、によるサイクルを複数回行うことを特徴とする請求項12記載の基板の洗浄方法。
【請求項14】
前記基板の前記被吐出側部には、レジスト層が形成されていることを特徴とする請求項8記載の基板の洗浄方法。
【請求項15】
前記レジスト層には、硬化層が形成されていることを特徴とする請求項14記載の基板の洗浄方法。
【請求項16】
請求項8記載の基板の洗浄方法により洗浄した前記基板を用いて半導体装置を製造することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記基板の前記被吐出側部には、レジスト層が形成されていることを特徴とする請求項16記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記レジスト層には、硬化層が形成されていることを特徴とする請求項17記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の洗浄装置,基板の洗浄方法,半導体装置の製造方法に貢献可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の電気機器に適用される基板(半導体ウエハ基板等)においては、任意の工程(フォトリソグラフィ工程,エッチング工程,成膜工程,イオン注入工程,CMP工程等)が実施される他に、当該各工程後には必要に応じて、当該基板の表面にパーティクルや有機物等の不要物質が残存しないように、当該基板の洗浄が適宜実施されている。
【0003】
例えば半導体装置の製造工程の一つであるリソグラフィ工程は、基板に対して微細パターンを形成するものであり、一つの半導体素子を作成するにあたり、複数回(例えば数十回~数百回)繰り返して行われる場合がある。
【0004】
このリソグラフィ工程では、感光材として有機物等から成るレジスト(フォトレジスト)が一般的に用いられており、当該レジストを基板に塗布してレジスト層を形成したり、そのレジスト層に所望のパターンを形成する。このレジスト層は、適宜利用した後(例えば、エッチング工程後,成膜工程後,イオン注入工程後等)、洗浄して所望通りに除去(例えば完全に除去)することが求められる。
【0005】
一般的な洗浄では、洗浄用の薬液として、高温に加熱した硫酸や過酸化水素水が用いられてきたが、使用後の薬液の廃液処理が大きな環境負荷となるおそれがあった。そこで、近年においては、これを代替する環境負荷の極めて低い洗浄手法として、強い酸化力を有するオゾン水を利用した手法が試みられてきた(例えば特許文献1~7,非特許文献1~3)。オゾン水は、適宜分解して最終的に酸素と水になるため、廃液処理の環境負荷が極めて低いものとして注目されている。
【0006】
オゾン水においては、例えばオゾンガスを溶媒に溶解して得ることが可能であり、所望のオゾン濃度を維持しながら、当該オゾン水の被供給対象物(基板)に対して供給することが好ましい。例えば特許文献4の場合、温水と加圧状態のオゾン水との両者を基板に供給することにより、当該両者が混合される直前までの間はオゾン水のオゾン濃度を維持し易くすると共に、当該混合によってオゾン水を昇温し所望の酸化力を発揮し易くする旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-261068号公報
【文献】特許4444557号公報
【文献】特開2009-297588号公報
【文献】特開2021-034672号公報
【文献】特許5332052号公報
【文献】特許7186751号公報
【文献】特開2008-311257号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】T.Miura et al, ”Novel plasmaless photoresist removal method in gas phase at room temperature”, ECS Transactions, Volume 19, Issue 3, pp. 423 (2009).
【文献】T.Miura et al,” Production and Detection of OH Species by a Highly Concentrated Ozone Gas for Thin Film Processing”,ACSIN-12&ICSPM21(2013).
【文献】オゾンハンドブック(改定第2版)日本オゾン協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のように単にオゾンガスを溶媒に溶解する手法では、高濃度のオゾン水を得ることが困難である。例えば、オゾンガスを加圧状態にして溶媒に溶解させる手法も考えられるが、この手法ではオゾンの急激な自己分解反応が起こり易く、実用的な安全性を保持することが困難となるおそれがある。
【0010】
また、特許文献4のように単に温水と加圧状態のオゾン水とを基板に供給すると、当該オゾン水は、急激に昇温しながら減圧し(例えば常圧状態に戻り)、脱気(発泡)され易くなる。このように脱気されたオゾン水は、オゾン濃度が低下し、所望の酸化力を発揮できなくなるおそれがある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高濃度のオゾン水を安全に生成し易くし、その生成したオゾン水のオゾン濃度減衰を抑制し所望の酸化力を発揮し易くすることに貢献可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る基板の洗浄装置,洗浄方法,半導体装置の製造方法は、前記の課題の解決に貢献できるものであり、当該洗浄装置の一態様においては、オゾンガスと当該オゾンガスを溶解可能な溶媒とを気液混合器に受容してオゾン水を生成するオゾン水生成部と、前記オゾン水を吐出するオゾン水供給部と、前記オゾン水との混和性を有している混和性液体を吐出する混和性液体供給部と、前記オゾン水供給部による前記オゾン水の吐出方向に位置するように基板を支持する支持部と、を備えたものとする。
【0013】
前記気液混合器は、前記溶媒が流通する溶媒流通路と、前記溶媒流通路に接続して設けられ、前記オゾンガスを当該溶媒流通路に導入するオゾンガス導入路と、を備えており、前記オゾンガスをオゾン濃度50体積%以上でオゾン分圧30kPa(abs)以下にて受容するものとする。
【0014】
前記混和性液体供給部は、前記オゾン水供給部による前記オゾン水の吐出方向に前記基板が位置している場合に、当該基板のうち当該オゾン水が吐出される側である被吐出側部に対して、前記オゾン水供給部から吐出するオゾン水よりも高い温度で前記混和性液体を吐出でき、前記オゾン水供給部および前記混和性液体供給部により、前記オゾン水および前記混和性液体の両者を同時または交互に吐出して、当該両者を前記被吐出側部にて混和可能なことを特徴とする。
【0015】
洗浄方法の一態様は、オゾンガスと当該オゾンガスを溶解可能な溶媒とを気液混合器に受容してオゾン水を生成するオゾン水生成工程と、支持部によって支持されている基板に対し、前記オゾン水を吐出するオゾン水供給工程と、前記基板に対し、前記オゾン水との混和性を有する混和性液体を吐出する混和性液体供給工程と、を有するものとする。
【0016】
前記気液混合器は、前記溶媒が流通する溶媒流通路と、前記溶媒流通路に接続して設けられ、前記オゾンガスを当該溶媒流通路に導入するオゾンガス導入路と、を備えており、前記オゾンガスをオゾン濃度50体積%以上でオゾン分圧30kPa(abs)以下にて受容するものとする。
【0017】
前記混和性液体供給工程は、前記オゾン水供給工程による前記オゾン水の吐出方向に前記基板が位置している場合に、当該基板のうち当該オゾン水が吐出される側である被吐出側部に対して、前記オゾン水供給工程により吐出するオゾン水よりも高い温度で前記混和性液体を吐出し、前記オゾン水供給工程および前記混和性液体供給工程を同時または交互に行うことにより、前記オゾン水および前記混和性液体の両者を前記被吐出側部にて混和することを特徴とする。
【0018】
半導体装置の製造方法の一態様は、前記基板の洗浄方法により洗浄した前記基板を用いて半導体装置を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上示したように本発明によれば、高濃度のオゾン水を安全に生成し易くし、その生成したオゾン水のオゾン濃度減衰を抑制し所望の酸化力を得られ易くすることに貢献可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例によるオゾン水の供給装置の構成例を説明するための概略構成図。
図2】基板Sに形成される領域R1~R3を説明するための概略構成図。
図3】実施例1による吐出構成を説明するための概略構成図。
図4】実施例1の吐出構成により基板Sに形成される領域R1~R3を説明するための概略構成図。
図5】実施例2による吐出構成を説明するための概略構成図。
図6】シャワーヘッドHの一例を説明するための概略構成図(シャワーヘッド供給面H11を臨んだ図)。
図7】シャワーヘッドHの他例を説明するための概略構成図(シャワーヘッド供給面H12を臨んだ図)。
図8】実施例2による吐出構成を説明するための概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態の基板の洗浄装置,洗浄方法,半導体装置の製造方法は、例えば特許文献4に示すように単に温水と加圧状態のオゾン水とを基板に供給して洗浄する構成とは、全く異なるものである。
【0022】
すなわち、本実施形態においては、オゾンガスと当該オゾンガスを溶解可能な溶媒(以下、単に溶媒と適宜称する)とを気液混合器に受容してオゾン水を生成し、そのオゾン水の供給対象である基板に対して、当該オゾン水を吐出して供給できる構成である。気液混合器は、オゾンガスをオゾン濃度50体積%以上でオゾン分圧30kPa(abs)以下にて受容する。
【0023】
また、基板のうち前記オゾン水が吐出される側である被吐出側部(以下、単に被吐出側部と適宜称する)に対して、オゾン水との混和性を有する混和性液体(以下、単に混和性液体と適宜称する)を、当該吐出するオゾン水よりも高い温度(以下、昇温可能温度と適宜称する)で吐出して供給できる構成である。そして、前記オゾン水および昇温可能温度の混和性液体(以下、単に昇温可能液体と適宜称する)の両者を同時(一緒)または交互に吐出することにより、当該両者を被吐出側部にて混和させることが可能な構成である。
【0024】
このような構成によれば、オゾン分圧が十分に減圧された状態の高濃度のオゾンガスを受容してオゾン水を生成する構成であるため、当該オゾンガスにおいて急激な自己分解反応を起こさないように十分抑制でき、実用的な安全性を保持することが可能となる。また、前記のように受容したオゾンガスによれば、気液混合器において溶媒に溶解し易くなり、高濃度(例えば100ppm以上)のオゾン水を安全に生成することが可能となる。
【0025】
また、基板(被吐出側部)に対してオゾン水を吐出して供給する場合に、特許文献4のように当該オゾン水を加圧状態にする必要がなく、当該オゾン水の脱気を抑制できる。このため、特許文献4の構成と比較すると、当該オゾン水のオゾン濃度減衰を十分抑制できることとなる。
【0026】
また、基板の被吐出側部に吐出されたオゾン水(被吐出側部に残存するオゾン水)は、昇温可能液体と混和して昇温し、所望の酸化力を発揮し易くなる。これにより、所望の洗浄効果を得ることが可能となる。
【0027】
本実施形態の基板の洗浄装置,洗浄方法,半導体装置の製造方法は、前述のようにオゾン分圧が十分に減圧された状態の高濃度のオゾンガスを受容して生成したオゾン水を適用したものであって、基板に吐出したオゾン水を昇温可能液体と混和して昇温できる構成であればよい。すなわち、種々の分野(例えば、オゾン分野,洗浄分野,半導体分野等)の技術常識を適宜適用し、必要に応じて先行技術文献等を適宜参照して設計変形することが可能であり、その一例として後述の実施例が挙げられる。
【0028】
なお、後述の実施例では、例えば互いに同様の内容について同一符号を引用する等により、詳細な説明を適宜省略しているものとする。また、図中において、白抜き矢印はオゾン水の吐出状態を描写したものであり、黒抜き矢印は昇温可能液体の吐出状態を描写したものである。
【0029】
≪参考≫
例えば従来のオゾンガス生成装置(オゾナイザ)の場合、生成できるオゾンガスは低濃度(例えばオゾン濃度20体積%以下)であって、オゾン以外(例えば酸素等)の成分によるガス(以下、非オゾン成分と適宜称する)が多く含まれてしまうことがあった。このような低濃度オゾンガスを用いても、高濃度のオゾン水を生成することは困難であり、非オゾン成分が多く溶解されたものとなる。
【0030】
また、前記のような低濃度オゾンガスを高圧状態で溶媒に溶解して高濃度化したオゾン水は、オゾン成分の他に非オゾン成分も過飽和状態で溶解したものとなる。このようなオゾン水を大気開放した場合には、当該非オゾン成分により脱気(例えば気泡が生じて大気中に飛散)し易くなり、併せてオゾン成分も飛散し易くなるため、当該オゾン水の高濃度状態を保持できなくなる。
【0031】
近年は、オゾナイザ等で生成したオゾンガスを、例えば吸着濃縮方式(シリカゲル等の表面吸着を利用した方法)や冷却濃縮方式等により濃縮することにより、高濃度(例えばオゾン濃度50体積%以上)のオゾンガスを生成できるようになった。
【0032】
例えば、明電舎製で冷却濃縮方式のオゾンガス生成装置(商品名ピュアオゾンジェネレータ)によれば、オゾン濃度が約100体積%に近い極めて高濃度(オゾン濃度90体積%以上)のオゾンガスを生成することも可能であり、国際安全規格SEMI-S2の認証を取得して実用的な安全性も実現している。
【0033】
しかしながら、前記のように濃縮したオゾンガスにおいても、急激な自己分解反応が起こらないように減圧状態を保持する必要があるため、当該オゾンガスを高圧状態で気液混合器に受容してオゾン水を生成するような構成には、適用困難である。
【0034】
一方、本実施形態においては、後述のオゾン水生成部2のように、オゾンガスを減圧状態(オゾン分圧30kPa(abs)以下)で気液混合器に受容する構成であるため、前記のように濃縮した極めて高濃度のオゾンガスも安全に利用でき、所望の高濃度のオゾン水を生成することが十分可能となる。
【0035】
具体例として、気液混合器に受容するオゾンガスがオゾン濃度90体積%以上で酸素濃度10体積%未満の場合、当該オゾンガスの全圧を30kPa(abs)以下の減圧状態(すなわち、オゾン分圧30kPa(abs)以下の状態)にすることにより、当該オゾンガスを安全に保持できる。
【0036】
また、オゾン濃度50体積%以上で酸素濃度50体積%未満のオゾンガスの場合には、当該オゾンガスの全圧を60kPa(abs)以下の減圧状態(すなわち、オゾン分圧30kPa(abs)以下の状態)にすることにより、当該オゾンガスを安全に保持できる。
【0037】
≪実施例≫
<実施例による洗浄装置1の主な構成>
図1は、実施例による基板の洗浄装置1の構成を説明するための概略構成図である。この装置1は、オゾンガスと溶媒とを気液混合器21に受容してオゾン水を生成するオゾン水生成部2と、当該オゾン水を基板Sに吐出して供給するオゾン水供給部3と、混和性液体を受容して昇温可能液体を基板Sに吐出して供給する混和性液体供給部4と、を主な要素として備えている。
【0038】
この装置1は、例えば図外の制御部によって、オゾン水生成部2,オゾン水供給部3,混和性液体供給部4等を適宜制御して稼働できる。制御部の一例としては、オゾン水生成部2,オゾン水供給部3,混和性液体供給部4等の状態(例えば、溶媒,オゾン水,混和性液体において、それぞれの温度,流量,圧力等;以下、単に装置状態と適宜称する)を適宜取得して、当該装置状態を制御したり、オゾン水,昇温可能液体それぞれの吐出を制御(例えば後述のようにオゾン水および昇温可能液体を同時または交互に吐出するように制御)する構成が挙げられる。
【0039】
オゾン水生成部2内における溶媒やオゾン水の流路(例えば矢印Y1,Y2の流路)、オゾン水供給部3内におけるオゾン水の流路(図示省略)、混和性液体供給部4内における混和性液体の流路(図示省略)は、種々の態様を適用することが可能である。その一例として、種々の配管等を適用して構成した態様が挙げられる。ただし、オゾン水供給部3内におけるオゾン水の流路と、混和性液体供給部4内における混和性液体の流路と、の両者は、互いに独立した構成(すなわち、互いに連通していない構成)とする。
【0040】
前記各流路においては、前記のように配管等を適用する他に、例えば図1に示すように温度調整部(例えば加熱器や冷却器)22,31,41等を設けたり、種々の流路機器(例えば開閉弁,ポンプ,貯留タンク,計測器等)を設けてもよい。なお、前記各流路に不純物(金属配管の場合は、配管内周面の溶解により生じる金属イオン等の不純物)が混入し得る場合には、当該混入を抑制するように構成にすることが好ましい。例えば、温度調整部22,31,41においては、それぞれの流路の外周側(例えば配管外周側)に設置し、当該流路の内周側を間接的に温度調整できるように構成することが挙げられる。また、金属配管を適用する場合には、配管内周面がテフロン(登録商標)等によりコーティング加工されているものを、適用することが挙げられる。
【0041】
図1の装置1においては、オゾン水生成部2によりオゾン水を生成(オゾン水生成工程)し、オゾン水供給部3によるオゾン水の吐出方向および混和性液体供給部4による昇温可能液体の吐出方向に基板Sの被吐出側部S1が位置する状態で、当該オゾン水および当該昇温可能液体の両者を同時または交互に吐出(後述のオゾン水供給工程,混和性液体供給工程)するように用いる。
【0042】
これにより、例えば図2に示すように基板Sの被吐出側部S1には、オゾン水が存在する領域R1と、昇温可能液体が存在する領域R2と、当該領域R1,R2が重なっている領域R3と、が形成される。すなわち、領域R1のオゾン水と領域R2の昇温可能液体とが領域R3にて混和することにより、当該領域R3(および領域R3の周辺)に存在するオゾン水は、昇温可能液体の熱を吸熱して昇温する。そして、昇温したオゾン水は、酸化力が高められることとなる。
【0043】
前記のように昇温したオゾン水は、オゾン分解によってOHラジカルを発生する場合がある。このOHラジカルは、比較的高い活性を有するものの、オゾンと比較すると寿命が短いため発生直後に消滅(反応性の選択性が低いため、発生後に直ちに周囲の物質と反応して消滅)し易いものの、図2に示すように被吐出側部S1にて発生したOHラジカルによれば、当該消滅前に被吐出側部S1に対して有効に作用する可能性が高くなる。
【0044】
したがって、被吐出側部S1のオゾン水は、OHラジカルの発生によって反応速度常数が増加(例えば数桁レベルで増加)し易いため、たとえ昇温可能液体によって希釈されたとしても、十分な酸化力を有することとなる。
【0045】
<オゾン水生成部2の構成例>
図1に示すオゾン水生成部2は、気液混合器21において、溶媒を受容しながら、オゾンガスをオゾン濃度50体積%以上でオゾン分圧30kPa(abs)以下にて受容することにより、当該オゾンガスを溶媒に溶解して高濃度(例えば100ppm以上)のオゾン水を生成する構成となっている。また、当該生成したオゾン水を、後段のオゾン水供給部3に対して導出(例えば矢印Y1のように導出)できる構成となっている。
【0046】
気液混合器21は、例えばエジェクタ,アスピレータ,ジェットポンプ等を適用することが挙げられるが、これに限定されるものではなく、種々の態様を適用することが可能である。すなわち、気液混合器21においては、受容した溶媒が流通する溶媒流通路(図示省略)と、その溶媒流通路に接続して設けられたものであって受容したオゾンガスを当該溶媒流通路に導入するオゾンガス導入路(図示省略)と、を有した構成であればよい。
【0047】
このように溶媒流通路およびオゾンガス導入路を有した構成の気液混合器21によれば、オゾンガス導入路には、溶媒流通路に流通する溶媒の流量(流速)に応じて、ベルヌーイの定理による吸引圧が発生する。また、オゾンガス導入路には、溶媒の飽和蒸気圧に応じた蒸気が発生する。例えば、溶媒が原料水の場合、水と同等の諸特性(飽和蒸気圧特性や水蒸気圧特性)を有することになる。
【0048】
このような溶媒の諸特性と、気液混合器21によりオゾンガスを受容する圧力(以下、単に受容圧力と適宜称する)と、によれば、当該気液混合器21のオゾンガス導入路の蒸気圧が当該受容圧力よりも小さくなるような溶媒温度の範囲(以下、吸引可能範囲と適宜称する)を、導き出すことが可能となる。この吸引可能範囲は、溶媒に対する気体の一般的溶解特性(溶媒の温度が低くなるに連れて溶解度が向上する傾向)を考慮して、適宜設定(例えば、特許第4296393号公報の段落[0023]のように25℃以下に設定)することが好ましい。したがって、溶媒温度が吸引可能範囲から外れている場合には、例えば、溶媒を気液混合器21で受容する前の段階で予め当該溶媒温度を調整(例えば図外の温度調整部により調整)したり、温度調整部22を稼働して当該溶媒温度を調整することが挙げられる。
【0049】
気液混合器21により生成したオゾン水は、後段のオゾン水供給部3に導出する前に、オゾン濃度を安定化させる濃度調整ガスを加えてもよく、オゾン水生成部2内で循環(例えば矢印Y2のように気液混合器21の上流側にフィードバックするように循環)あるいは一時的に貯留してもよい。濃度調整ガスにより高濃度化を図る場合には、例えばオゾン水に炭酸ガス等を加えることにより、当該オゾン水を酸性化することが挙げられる。
【0050】
溶媒においては、オゾンガスを溶解可能なものであれば適宜適用でき、その一例として原料水,純水,超純水等を適用することが挙げられる。また、必要に応じて、図外の純水製造装置等により、溶媒の純水度を高めることも可能である。
【0051】
オゾンガスにおいては、種々のオゾンガス生成装置によって生成することが可能であり、気液混合器21にて受容する場合にオゾン濃度50体積%以上でオゾン分圧30kPa(abs)以下であればよい。オゾンガス生成装置の一例としては、明電舎製のオゾンガス生成装置(商品名ピュアオゾンジェネレータ)を適用することが挙げられる。
【0052】
このようなオゾン水生成部2によれば、100ppm以上(例えば300~400ppm)の高濃度のオゾン水を安全に生成することが可能となる。
【0053】
<オゾン水供給部3の構成例>
図1に示すオゾン水供給部3は、オゾン水生成部2から導入されたオゾン水を吐出部30から吐出できる構成となっているが、その吐出構成においては、基板Sの被吐出側部S1に吐出して供給できる構成であればよく、種々の態様を適用することが可能である。その一例として、後述の実施例1~3に示すように吐出ノズル32やシャワーヘッドHの吐出口33を介して吐出する構成が挙げられる。
【0054】
また、オゾン水供給部3内のオゾン水においては、基板Sに吐出する前に、オゾン濃度を保持するために温度調整(例えば温度調整部31により冷却)してもよく、当該オゾン水供給部3内で一時的に貯留してもよい。
【0055】
基板Sに吐出する際のオゾン水の温度は、凝固状態にならない範囲であって昇温可能液体によって昇温可能な範囲であればよく、当該昇温可能液体に応じて適宜設定することが可能である。
【0056】
<混和性液体供給部4の構成例>
図1に示す混和性液体供給部4は、混和性液体を受容して昇温可能液体を吐出部40から吐出できる構成となっているが、その吐出構成においては、基板Sの被吐出側部S1に吐出して供給できる構成であればよく、種々の態様を適用することが可能である。その一例として、後述の実施例1~3に示すように吐出ノズル42やシャワーヘッドHの吐出口43を介して吐出する構成が挙げられる。
【0057】
また、混和性液体供給部4内の混和性液体においては、基板Sの被吐出側部S1に吐出する前(被吐出側部S1に到達する前まで)に、昇温可能温度となるように温度調整(例えば温度調整部41により加熱)することが挙げられるが、当該混和性液体供給部4に受容した段階で既に昇温可能温度になっている場合には、そのまま吐出してもよい。また、当該オゾン水供給部3内で一時的に貯留してもよい。
【0058】
混和性液体は、オゾン水との混和性を有するものであれば適宜適用することが可能であり、その一例として原料水,純水,超純水,イオン交換水,塩基性水溶液,酸性水溶液等を適用することが挙げられる。ただし、低級アルコール等の有機溶媒においては、オゾン水との混和性を有するが、当該有機溶媒のC-C結合がオゾンにより切断されてしまうことが考えられるため、基板Sに対して何らかの影響が生じ得る可能性がある場合には、好ましくない。また、水道水を適用することも可能であるが、必要に応じて(例えば基板Sの種類に応じて)、図外の純水製造装置等により純水度を高めてから適用することが好ましい。
【0059】
混和性液体の昇温可能温度は、適宜設定することが可能なものである。その一例として、オゾン水が常温(例えば5℃~35℃)の場合に、昇温可能温度を常温より大きい温度(例えば40℃以上)に設定することが挙げられる。このように昇温可能温度を設定することにより、混和性液体(昇温可能液体)の熱エネルギーをオゾン水に与えることができ、その結果、OHラジカルの発生を促進することができる。また、混和性液体が原料水,純水,超純水,イオン交換水の場合には、昇温可能温度の上限を100℃に設定してもよい。
【0060】
<基板Sの一例>
基板Sは、オゾン水供給部3によるオゾン水の吐出方向および混和性液体供給部4による昇温可能液体の吐出方向に位置できるものであって、オゾン水の酸化力を発揮して所望の効果が得られるものであればよく、種々の態様を適用することが可能である。一例として、特許文献1~7,非特許文献1~3,特開2017-173461号公報,特開2017-123402号公報に示すような洗浄対象となり得る各種基板(例えば半導体基板,ガラス基板)が、挙げられる。
【0061】
具体例として、洗浄対象となり得る各種基板を基板Sとする場合、当該基板の種々の工程(フォトリソグラフィ工程,エッチング工程,成膜工程,イオン注入工程,CMP工程等)毎に、必要に応じて装置1を適宜適用して洗浄することが挙げられる。これにより、当該基板表面にパーティクルや有機物等の不要物質が残存しないように、当該基板表面を洗浄できることとなる。
【0062】
例えば、フォトリソグラフィ工程により、基板Sの被吐出側部S1にフォトレジストを塗布してレジスト層(例えば後述の被覆層S1a,S1b)を形成(レジスト層形成工程)した後、当該レジスト層を装置1によって洗浄(レジスト層除去工程)して、当該レジスト層を所望通りに除去することが可能となる。
【0063】
また、レジスト層においては、当該レジスト層の表面に不純物イオンをイオン注入することにより、当該表面側に硬化層が形成されたものであってもよい。このように硬化層が形成されたレジスト層においては、例えば特許文献5の場合、プラズマ処理によって予め硬化層を除去してから、残りを洗浄して除去する手法が提案されているが、洗浄装置の大型化や複雑化を招いたり、洗浄コストの増加等を招くおそれがある。また、特許文献6では、高温水蒸気処理によって予め硬化層にクラックを形成してから、当該クラックを介してオゾン水をレジスト層内部に浸入させて洗浄する手法が提案されているが、当該硬化層自体は溶解できないため、当該レジスト層の除去速度が極めて低くなってしまうおそれがある。
【0064】
一方、装置1によれば、前記のような硬化層にてオゾン水の高い酸化力を発揮できるため、特許文献5のプラズマ処理や特許文献6の高温水蒸気処理を行わなくても、当該硬化層を含むレジスト層を除去することが十分可能となる。また、装置1は、特許文献5のプラズマ処理や特許文献6の高温水蒸気処理と組み合わせて適用してもよく、この場合には、当該硬化層を含むレジスト層の除去が容易になる可能性がある。
【0065】
レジスト層に対するイオン注入においては、目的とするレジスト層に応じて適宜設定することが可能であり、例えば基板Sの被吐出側部S1にP型層やN型層を形成する場合には、不純物イオンとしてP,As,B等のイオン種を適用し、当該イオン種を任意の加速電圧(例えば数百kV程度),注入量(例えば1013~1015個/cm)でイオン注入することが挙げられる。
【0066】
また、基板Sが多孔質の場合、装置1から吐出したオゾン水および昇温可能液体は、被吐出側部S1表面に存在するだけでなく、当該基板Sの内部側に形成されている微小孔等の表面にも存在し得ることとなる。すなわち、当該微小孔等の表面においても、図1に示したような領域R1~R3が形成され、オゾン水の酸化力による所望の効果が得られることとなる。
【0067】
<その他>
オゾン水供給部3により吐出するオゾン水や混和性液体供給部4により吐出する昇温可能液体において、その吐出方向,吐出流量(流速),吐出力等は適宜設定することが可能である。例えば、オゾン水および昇温可能液体の各吐出方向は、例えば後述の図3図5図8のように単に基板Sに対して直交する方向(図中では鉛直方向上方側または下方側)に設定するのではなく、それぞれ当該基板Sに対して所定角度で傾斜した方向に設定してもよい。
【0068】
また、オゾン水および昇温可能液体の混和効率、ひいてはOHラジカル発生効率を最適化(高い促進酸化効果の発揮)するという観点によれば、基板Sに対するオゾン水および昇温可能液体の各吐出方向の角度(以下、それぞれを単にオゾン水吐出角度,昇温可能液体吐出角度と適宜称する)は、臨機応変に適宜変更できるようにしておくことが好ましい。例えば、装置1において、オゾン水吐出角度,昇温可能液体吐出角度をそれぞれ変更可能な角度調整機能部を、備えておくことが挙げられる。
【0069】
オゾン水および昇温可能液体の吐出流量や吐出力は、装置1と基板Sとの両者の位置関係等に応じて適宜設定することが挙げられるが、当該オゾン水の吐出流量や吐出力においては、当該吐出後にオゾン水の脱気等が起こらないような範囲で、適宜設定することが好ましい。
【0070】
また、オゾン水および昇温可能液体の両者を吐出状態にする場合、先に昇温可能液体の吐出を開始してから所定時間経過後(例えば数秒~数十秒後)に、次いでオゾン水の吐出を開始することが挙げられる。この場合、例えば後述の検証例1,2に示す実施例1吐出構成と同様に、予め基板Sの被吐出側部S1を昇温可能液体によって加温(オゾン水の吐出を開始する前に加温)できることから、OHラジカルが発生し易くなり、促進酸化効果が得られるため、より高い酸化力を発揮できる可能性がある。
【0071】
また、基板Sは、後述の実施例1~3に示すように支持部6を介して適宜支持してもよく、容器5内に適宜収容してもよい。
【0072】
<実施例1>
図3図4は、実施例1を示すものであって、管状の吐出ノズル32,42を用いた場合の吐出構成の一例を説明するものである。図3においては、吐出ノズル32が、基板Sを収容可能な容器(常圧チャンバ等)5の垂直方向上方側の位置に、当該容器5を内外方向に貫通する姿勢で設けられている。この吐出ノズル32は、当該吐出ノズル32の一端側がオゾン水供給部3の吐出部30に連通して接続されており、これにより当該オゾン水供給部3のオゾン水を容器5内に対して鉛直方向下方側に吐出できるように構成されている。
【0073】
吐出ノズル42は、容器5の垂直方向上方側で吐出ノズル32から所定距離を隔てた位置に、当該容器5を内外方向に貫通する姿勢で設けられている。この吐出ノズル42は、当該吐出ノズル42の一端側が混和性液体供給部4の吐出部40に連通して接続されており、これにより当該混和性液体供給部4の昇温可能液体を容器5内に対して鉛直方向下方側に吐出できるように構成されている。
【0074】
図3図4に示す基板Sは、平板状を成しており、厚さ方向の一端側面(吐出ノズル32,42に対向する面)の被吐出側部S1にレジスト層等の被覆層S1aが設けられている。また、基板Sは、当該被覆層S1aが吐出ノズル32,42に対向する姿勢で、支持部6によって回転自在に支持されている。
【0075】
図3の支持部6の場合、基板Sを支持する支持台61と、当該支持台61の中央部から垂直方向下方側に延在して当該支持台61を回転させる回転軸62と、により構成されている。支持台61においては、当該支持台61を回転させた場合に、基板Sが位置ずれしないように支持できる構成が好ましく、その一例として真空チャックにより支持する構成が挙げられる。
【0076】
本実施例1の吐出構成によれば、吐出ノズル32を介してオゾン水を吐出するオゾン水供給工程と、吐出ノズル42を介して昇温可能液体を吐出する混和性液体供給工程と、の両者を同時または交互に行うことにより、例えば図4に示すように基板Sの被覆層S1aには、図2と同様の領域R1~R3が形成される。これにより、基板Sの被覆層S1aに対してオゾン水の酸化力を発揮することができ、当該基板Sを枚葉処理方式で洗浄することが可能となる。
【0077】
なお、前記のようにオゾン水供給工程および混和性液体供給工程の両者を同時または交互に行っている間においては、支持部6によって基板Sを回転させる回転工程を行ってもよい。この回転工程を適宜実行することにより、オゾン水供給工程および混和性液体供給工程により吐出されたオゾン水および昇温可能液体は、当該回転の遠心力によって、被覆層S1a表面に沿って拡張しながら分布し易くなり、領域R1~R3も拡張し易くなる。これにより、被覆層S1aに対して、オゾン水の酸化力を広く均等に発揮し易くなる。
【0078】
また、オゾン水供給工程および混和性液体供給工程の両者を交互に行っている場合であって、当該両者のうち一方の工程を停止して他方の工程に切り替える間(すなわち、両者を停止している間)に、回転工程を行うようにしてもよい。この場合、オゾン水,昇温可能液体それぞれが、吐出される毎に被覆層S1a表面に沿って拡張しながら分布し易くなり、領域R3が更に拡張し易くなる可能性がある。これにより、被覆層S1aに対して、オゾン水の酸化力を更に広く均等に発揮し易くなる可能性がある。
【0079】
オゾン水および昇温可能液体の両者の吐出を停止している状態で、支持部6によって基板Sを回転し続けた場合には、当該被覆層S1aに残存するオゾン水や昇温可能液体が、当該回転の遠心力によって除去され、例えば容器5に設けられている排出部51を介して排出されることとなる。
【0080】
具体例としては、オゾン水供給工程および混和性液体供給工程の両者を交互に行う場合であって、当該オゾン水供給工程と、混和性液体供給工程と、当該オゾン水供給工程および混和性液体供給工程の両者を停止している状態で行う回転工程と、によるサイクルを繰り返して行うことが挙げられる。このようなサイクルを繰り返すことにより、オゾン水の酸化力を効率よく均等に発揮し易くなる可能性がある。
【0081】
排出部51から排出したオゾン水は、時間経過と共に分解するため、たとえ自然環境下に放出しても、当該自然環境に対する負荷を十分抑制(例えば硫酸や薬液等を利用する場合と比較して十分抑制)することが可能である。
【0082】
<実施例2>
図5図7は、実施例2を示すものであって、シャワーヘッドHを用いた場合の吐出構成の一例を説明するものである。図5においては、容器5の垂直方向上方側の位置に、シャワーヘッドHが設けられている。このシャワーヘッドHは、当該シャワーヘッドHのうち基板Sと対向している側であるシャワーヘッド供給面H1に、オゾン水吐出口33と混和性液体吐出口43とが、それぞれ複数個設けられている。
【0083】
また、シャワーヘッドHにおける容器5外側の位置には、吐出部30,40それぞれに連通して接続可能な接続部(継手等)34,44が、設けられている。接続部34は、シャワーヘッドH内部のオゾン水用流路(図示省略)を介して吐出口33と連通し、接続部44は、シャワーヘッドH内部の昇温可能液体用流路(図示省略)を介して吐出口43と連通している。ただし、オゾン水用流路と昇温可能液体用流路との両者は、互いに独立した構成(すなわち、互いに連通していない構成)とする。これにより、吐出口33,43を介して、オゾン水,昇温可能液体をそれぞれ吐出できる構成となっている。
【0084】
シャワーヘッド供給面H1や吐出口33,43の形状等においては、特に限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0085】
例えば、シャワーヘッド供給面H1は、被覆層S1aにおけるシャワーヘッド供給面H1に対向している面(以下、単に被吐出側部対向面と適宜称する)よりも大きい形状にし、当該被吐出側部対向面の全域にわたってオゾン水,昇温可能液体を吐出し易くすることが挙げられる。
【0086】
具体例として、被吐出側部対向面の形状が円形の場合には、図6に示すシャワーヘッド供給面H11のように円形の形状とし、そのシャワーヘッド供給面H11に対して複数個の吐出口33,43を分散した位置に設けることが挙げられる。各吐出口33,43を分散した位置に設ける場合、種々の態様を適用することが可能である。図6の場合、シャワーヘッド供給面H11に対して複数個の吐出口33が分散するように設けられ、当該各吐出口33の四方の位置に吐出口43が設けられている態様となっている。
【0087】
なお、例えば図7に示すシャワーヘッド供給面H12のように、当該シャワーヘッド供給面H12が帯状に延在した形状であっても、複数個の吐出口33,43が当該延在方向(シャワーヘッド供給面H12に沿って直線状)に所定間隔を隔てて交互に位置するように設けられた構成であれば、実施例1と同様にオゾン水供給工程,混和性液体供給工程,回転工程を適宜実行することにより、被吐出側部対向面の全域にわたってオゾン水,昇温可能液体を吐出することが十分可能となる。
【0088】
吐出口33,43の形状は、適宜設定することが可能であり、その一例として円形状,矩形状,楕円状,スリット状等にすることが挙げられる。なお、図6図7の吐出口33,43においては、便宜上、互いに異なる形状で描写(吐出口33は円形状に描写、吐出口43は矩形状に描写)しているが、互いに同一形状であってもよい。
【0089】
本実施例2によれば、実施例1と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、当該被吐出側部対向面の全域にわたってオゾン水,昇温可能液体を吐出して分布させることが容易になる。これにより、被吐出側部対向面の全域に対し、領域R3が形成され易くなり、オゾン水の酸化力を均等かつ十分に発揮し易くなる可能性がある。
【0090】
<実施例3>
図8は、実施例3を示すものであって、一対のシャワーヘッドHa,Hbを用いた場合の吐出構成の一例を説明するものである。図8に示すシャワーヘッドHa,Hbおいては、それぞれ実施例2のシャワーヘッドHと同様の態様であって、基板Sを挟んで互いに対向して位置するように、容器5の垂直方向上方側,下方側に設けられている。
【0091】
図8の基板Sの場合、厚さ方向の一端側面,他端側面に、それぞれ被吐出側部S1に相当する被覆層S1a,S1bが設けられている。また、基板Sを支持する支持部6は、基板Sの外周縁部を保持する保持部63を有し、被覆層S1a,S1bをそれぞれシャワーヘッドHa,Hbに対向させた姿勢で、当該基板Sを回転自在に支持できる構成となっている。
【0092】
保持部63の具体例としては、基板Sの外周縁部を当該基板Sの厚さ方向に把持する構成や、当該基板Sの径方向外側に配置されている複数個の爪部を当該基板Sの外周縁部に対し径方向内側に向かって押圧しながら保持する構成(例えば、いわゆるエッジグリップを用いて保持する構成)が挙げられる。
【0093】
本実施例3によれば、実施例1,2と同様の作用効果を奏する他に、以下に示すことが言える。すなわち、基板Sの一端側面,他端側面の各被吐出側部S1に対して同時に、オゾン水,昇温可能液体を適宜吐出(それぞれ同時または交互に吐出)できるため、作業効率の向上(作業時間の短縮等)を図ることが可能となる。
【0094】
また、保持部63を有した構成の支持部6によれば、基板Sの厚さ方向の一端側面,他端側面との接触を回避するように、当該基板Sを適宜保持して支持できる。これにより、基板Sにおいては、当該一端側面,他端側面が汚染しないように支持しながら、枚葉処理方式で十分に洗浄することが可能となる。
【0095】
≪検証例1≫
本検証例1では、装置1において、実施例1の吐出構成(以下、単に実施例1吐出構成と適宜称する)に基づいて適用し、基板Sに対するオゾン水の酸化力を検証した。検証条件としては、市販の半導体ウエハを切断加工して得た20mm×20mmの角形チップを、基板Sとして適用した。また、角型チップは、厚さ方向の一端側にノボラック樹脂系フォトレジストから成る厚さ2μmの被覆層S1aを形成(ポストベーク済)してから、支持部6の支持台61に支持した状態(回転させない状態)にした。また、オゾン水生成部2においては、明電舎製のオゾンガス生成装置(商品名ピュアオゾンジェネレータ)により生成したオゾンガス(オゾン濃度90体積%,オゾン分圧10kPa(abs))を受容することにより、オゾン濃度が約300ppmのオゾン水を生成し、濃度調整ガスは加えないものとした。
【0096】
吐出ノズル32は、オゾン水の吐出方向が被覆層S1aの中央部に位置し、オゾン水吐出角度が約90°となるように、設定した。吐出ノズル42は、昇温可能液体の吐出方向が被覆層S1aにおける対角方向の一方側に位置(吐出後の昇温可能液体が被覆層S1aにおける対角方向の一方側から他方側に向かって流れるように位置)し、昇温可能液体吐出角度が約10°となるように、設定した。
【0097】
そして、角型チップの被覆層S1aに対して、まず、吐出ノズル42から温度80℃の昇温可能液体を流量300cc/分で吐出することを開始してから、それから30秒経過後、吐出ノズル32から温度4℃のオゾン水を流量300cc/分で吐出することを開始して、当該被覆層S1aの表面状態を観察した。その結果、オゾン水の吐出開始から1分以内(例えば数十秒後)で、被覆層S1aの中央部付近(例えば図4に示したような領域R3付近)が剥離し始めて除去され、その除去速度は3.5μm/分であることが観察された。
【0098】
一方、比較例の吐出構成(以下、単に比較例吐出構成と適宜称する)として、角型チップの被覆層S1aに対し、単に、吐出ノズル32から温度80℃のオゾン水を流量300cc/分で吐出するようにして、当該被覆層S1aの表面状態を観察したところ、オゾン水の吐出開始から数分経過後に、被覆層S1aの中央部付近が剥離し始めて除去され、その除去速度は0.7μm/分であった。
【0099】
したがって、実施例1吐出構成の観察結果と比較例吐出構成の観察結果とにより、以下に示すことが言える。まず、比較例吐出構成におけるオゾン水は、吐出する前の段階で高温状態(80℃)であり、当該吐出時には既にオゾン濃度が低減(例えば半減)し、これにより除去速度が低くなってしまったことが読み取れる。
【0100】
一方、実施例1吐出構成におけるオゾン水は、被覆層S1aの中央部にて昇温可能液体と混和して希釈し、比較例吐出構成におけるオゾン水と同様にオゾン濃度が低減することから、オゾン水濃度の観点によれば、比較例吐出構成のオゾン水と同様の除去速度になるものと予想され得るが、実際の観察結果では良好な除去速度になっていた。これは、実施例1吐出構成におけるオゾン水の場合、被覆層S1aにて昇温可能液体の熱を吸熱して昇温(例えば約50℃に昇温)し、OHラジカルの発生によって反応速度常数が増加していることが読み取れる。すなわち、実施例1吐出構成におけるオゾン水は、被覆層S1aにて、十分な量のOHラジカルによる促進酸化効果が得られ、これにより高い酸化力を発揮することを確認できた。
【0101】
≪検証例2≫
本検証例2では、まず、検証例1で用いた角型チップに対し、厚さ方向の一端側にKrFレーザー光用フォトレジストを塗布して厚さ0.5μmの被覆層S1aを形成してから、当該被覆層S1aの表面にイオン種(リン)をイオン注入(加速電圧150kV,注入量5×1014個/cmでイオン注入)することにより、当該被覆層S1aの表面側に硬化層を形成した。
【0102】
そして、検証例1と同様の検証条件により、角型チップの被覆層S1a(硬化層側)に対して、まず、吐出ノズル42から温度80℃の昇温可能液体を流量300cc/分で吐出することを開始してから、それから30秒経過後、吐出ノズル32から温度4℃のオゾン水を流量300cc/分で吐出することを開始して、当該被覆層S1aの表面状態を観察した。その結果、検証例1と同様に、オゾン水の吐出開始から1分以内(例えば数十秒後)で、被覆層S1aの中央部付近(例えば図4に示したような領域R3付近)が剥離し始めて除去され、その除去速度は0.5μm/分であった。
【0103】
同様に、比較例吐出構成により、角型チップの被覆層S1aに対し、単に、吐出ノズル32から温度80℃のオゾン水を流量300cc/分で吐出するようにして、当該被覆層S1aの表面状態を観察したが、オゾン水の吐出開始から数分経過(10分経過)しても、被覆層S1aの剥離は起こらなかった。
【0104】
したがって、実施例1吐出構成におけるオゾン水によれば、たとえ被覆層S1aの表面側に硬化層が形成されている場合であっても、当該被覆層S1aにて、十分な量のOHラジカルによる促進酸化効果が得られ、高い酸化力を発揮することを確認できた。
【0105】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0106】
例えば、図3図5図8に示す基板Sの場合、容器5内において水平方向に延在した姿勢で支持された構成となっているが、これに限定されるものではなく、種々の姿勢で支持してもよい。例えば、容器5内において、基板Sを垂直方向に延在した姿勢で支持することが挙げられるが、この場合、吐出ノズル32,42の吐出方向やシャワーヘッドH,Ha,Hbの吐出方向がそれぞれ水平方向となるように(すなわち、オゾン水および昇温可能液体の各吐出方向に被吐出側部S1が位置するように)、装置1を適宜設計変更することが挙げられる。
【符号の説明】
【0107】
1…洗浄装置
2…オゾン水生成部
21…気液混合器
3…オゾン水供給部
30,40…吐出部
32,42…吐出ノズル
33,43…吐出口
4…混和性液体供給部
5…容器
6…支持部
H,Ha,Hb…シャワーヘッド
H1,H11,H12…シャワーヘッド供給面
S…基板
S1…被吐出側部
S1a,S1b…被覆層
R1~R3…領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8