(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】評価システム
(51)【国際特許分類】
G09B 19/00 20060101AFI20241008BHJP
G06F 3/03 20060101ALI20241008BHJP
B43K 29/08 20060101ALI20241008BHJP
G06Q 50/20 20120101ALI20241008BHJP
【FI】
G09B19/00 G
G06F3/03 400Z
B43K29/08 Z
G06Q50/20
(21)【出願番号】P 2023066380
(22)【出願日】2023-04-14
(62)【分割の表示】P 2018106808の分割
【原出願日】2018-06-04
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(72)【発明者】
【氏名】中井 信彦
(72)【発明者】
【氏名】山形 潤
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-199591(JP,A)
【文献】特開2000-268130(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168784(WO,A1)
【文献】特開2018-001721(JP,A)
【文献】特開2006-007569(JP,A)
【文献】特開2009-031614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0109566(US,A1)
【文献】江木 啓訓,学習者センシングシステムのための筆記行為の検知手法,情報処理学会 インタラクション2012[DVD-ROM],日本,一般社団法人情報処理学会,2013年04月19日,第275~280頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00 - 9/56
G09B 17/00 - 19/26
G06F 3/01
G06F 3/03
B43K 29/08
G06Q 50/20
A63F 13/00 - 13/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具の筆先の移動の加速度を計測する加速度センサを有する検出部と、
前記検出部を介して検出した前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間の数量に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部と
を具備し
、前記検出部を介して検出した加速度が前記判定閾値を超えていたとしても、その加速度が上限値をも上回っている場合、その時間は前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間にカウントしない評価システム。
【請求項2】
前記情報出力部は画像をディスプレイの画面に表示させるものであり、前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間の数量に応じて、表示させる画像を変化させる請求項1記載の評価システム。
【請求項3】
筆記具に付帯し前記検出部を備える筆記具側装置と、当該筆記具側装置との間でデータを授受でき前記情報出力部を備える情報処理端末とを要素とし、
前記筆記具側装置が、前記検出部を介して検出した前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間を記憶し、その記憶している時間を前記情報処理端末と通信可能な状況下で当該情報処理端末に向けて送信し、
これを受信した情報処理端末が、前記情報出力部において当該時間の数量に基づき前記情報を出力する請求項1記載の記載の評価システム。
【請求項4】
請求項1記載の評価システムを構成するために用いられるものであって、
筆記具の筆先の移動の加速度を計測する加速度センサを有し、前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間をカウントして記憶する検出部と、
前記検出部で検出し記憶している時間を情報処理端末と通信可能な状況下で当該情報処理端末に向けて送信する送信部と
を備え、
前記検出部を介して検出した加速度が前記判定閾値を超えていたとしても、その加速度が上限値をも上回っている場合、その時間は前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間にカウントしない筆記具側装置。
【請求項5】
筆記行為に使用される筆記具に対して着脱可能である請求項
4記載の筆記具側装置。
【請求項6】
請求項1記載の評価システムを構成するために用いられるものであって、
筆記具に付帯する筆記具側装置から送信される、筆記具の筆先の加速度が判定閾値を超えている時間
(但し、前記筆先の加速度が前記判定閾値を超えていたとしても、その加速度が上限値をも上回っている場合、その時間は前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間にカウントされない)を受信する受信部、並びに、
前記受信部で受信した時間の数量に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部
として情報処理端末を機能させるプログラム。
【請求項7】
筆記具の筆先の移動の加速度を計測する加速度センサを有し、筆記具を使用した筆記行為における筆記量、及び同筆記行為における筆記の速さを検出する検出部と、
前記検出部を介して検出した筆記行為における筆記量に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力し、なおかつ同筆記行為における筆記の速さに応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部と
を具備し、前記情報出力部は、前記検出部を介して検出した筆記行為における筆記量が所定の閾値に到達したことを条件として、同筆記行為中に検出部を介して検出した筆記の速さに応じた情報を出力する評価システム。
【請求項8】
請求項
7記載の評価システムを構成するために用いられるものであって、
筆記具に付帯する筆記具側装置から送信される、筆記具の筆先の加速度が判定閾値を超えている時間を受信する受信部、並びに、
前記受信部で受信した時間に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部
として情報処理端末を機能させ、
前記情報出力部は、前記検出部を介して検出した筆記行為における筆記量が所定の閾値に到達したことを条件として、同筆記行為中に検出部を介して検出した筆記の速さに応じた情報を出力するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザ、特に教育を受け勉学に励む子供等を評価するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
筆記行為の最中における筆記具の筆先の移動の軌跡である筆跡を計測するシステムが公知である(下記特許文献1ないし3を参照)。この種のシステムは、主にオフィス等で、筆記された文字や描画された図形等をディジタルデータ化してスマートフォンやパーソナルコンピュータ等の情報処理端末に取り込む用途に供される。
【0003】
また、筆記具に装着可能であり、子供等が当該筆記具を使用して筆記や勉強を行っている時間を計測する計時装置(ストップウォッチ)も既存である(下記特許文献4を参照)。
【0004】
ところで、近時、子供等の教育において、書く力を育むことに焦点が当てられようとしている。とりわけ、書写または習字と作文との中間に位置する、文字を書くことを意識せずに実行できる力、算数の掛け算の九九に相当するような思考の基礎となる力が重視され、ここではこれを「書き出す力」と呼称する。書き出す力が高ければ、思考しながら書き、書きながら思考することが可能となる。また、書き出す力の向上は、読解力の向上にも通ずると期待される。従って、日々の勉強や訓練を通じて、子供達の頭脳を、文字を書くことに気をとられる(書く作業の認知負荷が重い)状態から、書きたいことをすらすらと文字として書くことができ思考に集中できる(書く作業の認知負荷が軽い)状態へと進化させることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-024504号公報
【文献】特開2004-274518号公報
【文献】特開2004-029915号公報
【文献】特許第5176046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ユーザが筆記具を使用した時間の量を的確に可視化することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、筆記具の筆先の移動の加速度を計測する加速度センサを有する検出部と、前記検出部を介して検出した前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間の数量に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部とを具備する評価システムを構成した。
【0008】
なお、前記検出部を介して検出した加速度が前記判定閾値を超えていたとしても、その加速度が上限値をも上回っている場合、その時間は前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間にカウントしないことが好ましい。
【0009】
前記情報出力部は、例えば画像をディスプレイの画面に表示させるものであり、前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間の数量に応じて、表示させる画像を変化させるものとする。
【0010】
本発明に係る評価システムは、典型的には、筆記具に付帯し前記検出部を備える筆記具側装置と、当該筆記具側装置との間でデータを授受でき前記情報出力部を備える情報処理端末とを要素とする。その上で、前記筆記具側装置が、前記検出部を介して検出した前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間を記憶し、その記憶している時間を前記情報処理端末と通信可能な状況下で当該情報処理端末に向けて送信し、これを受信した情報処理端末が、前記情報出力部において当該時間の数量に基づき前記情報を出力する。
【0011】
本評価システムを構成するために用いられる筆記具側装置は、筆記具の筆先の移動の加速度を計測する加速度センサを有し、前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間をカウントして記憶する検出部と、前記検出部で検出し記憶している時間を情報処理端末と通信可能な状況下で当該情報処理端末に向けて送信する送信部とを備える。
【0012】
筆記具側装置は、筆記行為に使用される筆記具に対して着脱可能であることが好ましい。
【0013】
本評価システムを構成するために用いられるプログラムは、情報処理端末を、筆記具に付帯する筆記具側装置から送信される、筆記具の筆先の加速度が判定閾値を超えている時間を受信する受信部、並びに、前記受信部で受信した時間の数量に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部として機能させる。
【0014】
また、本発明では、筆記具の筆先の移動の加速度を計測する加速度センサを有し、筆記具を使用した筆記行為における筆記量、及び同筆記行為における筆記の速さを検出する検出部と、前記検出部を介して検出した筆記行為における筆記量に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力し、なおかつ同筆記行為における筆記の速さに応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部とを具備し、前記情報出力部は、前記検出部を介して検出した筆記行為における筆記量が所定の閾値に到達したことを条件として、同筆記行為中に検出部を介して検出した筆記の速さに応じた情報を出力する評価システムを構成した。
【0015】
本評価システムを構成するために用いられるプログラムは、情報処理端末を、筆記具に付帯する筆記具側装置から送信される、筆記具の筆先の加速度が判定閾値を超えている時間を受信する受信部、並びに、前記受信部で受信した時間に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部として機能させ、前記情報出力部は、前記検出部を介して検出した筆記行為における筆記量が所定の閾値に到達したことを条件として、同筆記行為中に検出部を介して検出した筆記の速さに応じた情報を出力する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ユーザが筆記具を使用した時間の量を的確に可視化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態の評価システムの要素である筆記具側装置及び情報処理端末を示す斜視図。
【
図2】同実施形態の筆記具側装置が備えるハードウェア資源を示す図。
【
図3】同実施形態の評価システムの機能ブロック図。
【
図4】同実施形態の情報処理端末が備えるハードウェア資源を示す図。
【
図5】同実施形態の筆記具側装置が筆記行為に関するデータを取得するために実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図6】同実施形態の筆記具側装置から情報処理端末への筆記行為に関するデータの送受信の実行開始条件としてユーザが行う操作を示す図。
【
図7】同実施形態の筆記具側装置及び情報処理端末が筆記行為に関するデータを送受信するために実行する処理の手順例を示すフロー図。
【
図8】同実施形態の情報処理端末が筆記量(「書いている時間」のピリオド数)及び筆記の速さに応じて異なる情報を出力する例を示す図。
【
図9】同実施形態の情報処理端末が筆記の速さに応じて異なる情報を出力する例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態における評価システムは、筆記行為に使用される筆記具0に付帯する筆記具側装置1と、この筆記具側装置1と通信が可能な情報処理端末2とを主たる構成要素とする。筆記具側装置1は、筆記具0を使用した筆記行為に関する定量化されたデータ、例えば筆記行為における筆記量や筆記の速さを取得する役割を担う。情報処理端末2は、筆記具側装置1が取得した筆記行為に関するデータを筆記具側装置1から受信するとともに、そのデータに応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する。
【0019】
筆記具側装置1は、鉛筆やシャープペンシル、ボールペン等といった既製の筆記具0に後付けすることが可能である。そのために、筆記具側装置1の筐体に、筆記具0を保持する保持部11を設けている。保持部11は、例えば筆記具0を挿通して保持することのできる挿通孔であるが、筆記具0をくわえ込み挟持する、または筆記具0の外周に嵌合するクリップやクランプのようなものであっても構わない。筆記具側装置1の筐体は、筆記具0を使用して筆記行為を行うユーザの手指に把持される把持部12を有することがある。本実施形態では、筆記具側装置1を筆記具0に対して着脱可能としており、幾つもの筆記具0に対して当該筆記具側装置1を共通に使用可能としている。だが、筆記具側装置1が、筆記具0と一体化し筆記具0から脱離不能である、または筆記具0に内蔵されている態様を妨げるものではない。
【0020】
図2に示すように、筆記具側装置1は、プロセッサ1a、メインメモリ1b、補助記憶デバイス1c、加速度センサ1d、通信インタフェース1e、バッテリ1f等のハードウェア資源を備えるマイクロコンピュータシステムである。補助記憶デバイス1cは、例えばフラッシュメモリである。加速度センサ1dは、例えば、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の三軸のそれぞれの方向に沿った加速度を計測する三軸加速度センサの機能と、X軸回りのθ方向、Y軸回りのφ方向及びZ軸回りのΨ方向のそれぞれの回転方向に沿った角速度を計測する三軸回転角速度センサ(ジャイロセンサ)の機能とを兼ね備えた、いわゆる六軸加速度センサまたは九軸加速度センサである。加速度センサ1dにより、筆記具0(の筆先)の運動の加速度を検出でき、加速度の時間積分または反復的に計測した加速度の時系列の積算を通じて筆記具0の運動の速度を算出でき、速度の時間積分または反復的に演算した速度の時系列の積算を通じて筆記具0の運動の変位量を算出できる。因みに、九軸加速度センサは、東西南北の方位を知るための三軸地磁気センサ(電子コンパス)の機能をも有しているが、この地磁気センサの機能は必ずしも必要ではない。
【0021】
通信インタフェース1eは、当該筆記具側装置1と外部の情報処理端末2との間でデータ通信を行うためのデバイスであって、例えばBluetooth(登録商標)や無線LAN(Local Area Network)、携帯電話網、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)網等を介した無線通信を実施するための無線トランシーバ、またはRFID(Radio Frequency IDentification)カード若しくはチップを含む。バッテリ1fは、上記ハードウェア資源に必要な電力を供給する。なお、バッテリ1fに代えて、またはバッテリ1fとともに、筆記具側装置1に加わる運動(振動)または把持部12を把持するユーザの体温等を利用して発電し電力供給または充電を行う発電装置を、筆記具側装置1に実装することも考えられる。
【0022】
筆記具側装置1にあって、プロセッサ1aにより実行されるべきプログラムは補助記憶デバイス1cに格納されており、プログラムの実行の際には補助記憶デバイス1cからメインメモリ1bに読み込まれ、プロセッサ1aによって解読される。筆記具側装置1は、プログラムに従って上記ハードウェア資源を作動させ、
図3に示す検出部101及び送信部102としての機能を発揮する。
【0023】
情報処理端末2は、例えば汎用的な携帯電話端末、特にスマートフォンや、パーソナルコンピュータ、ビデオゲーム機等である。
図4に示すように、情報処理端末2は、プロセッサ2a、メインメモリ2b、補助記憶デバイス2c、ビデオコーデック2d、オーディオコーデック2e、通信インタフェース2f、入力デバイス2g、ディスプレイ2h、音声出力デバイス2i、バッテリ2j等のハードウェア資源を備え、これらがコントローラ(システムコントローラ、I/Oコントローラ等)2kにより制御されて連携動作するものである。補助記憶デバイス2cは、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、光学ディスクドライブ、その他である。ビデオコーデック2dは、プロセッサ2aより受けた描画指示をもとに表示させるべき画面を生成しその画面信号をディスプレイ2hに向けて送出するGPU(Graphics Processing Unit)、画面や画像のデータを一時的に格納しておくビデオメモリ等を要素とする。オーディオコーデック2eは、符号化されている音声データを復号化して音声出力デバイス2iから音声出力する。ビデオコーデック2d及びオーディオコーデック2eはそれぞれ、ハードウェアでなくソフトウェアとして実装することも可能である。
【0024】
通信インタフェース2fは、当該情報処理端末2が筆記具側装置1を含む外部の装置またはコンピュータとの間でデータ通信を行うためのデバイスであって、例えばBluetooth(登録商標)や無線LAN、携帯電話網、WiMAX網等を介した無線通信を実施するための無線トランシーバ、またはRFIDカードリーダを含む。入力デバイス2gは、ユーザが手指で操作するタッチパネル(ディスプレイ2hに重ね合わされたものであることがある)、押下ボタン、マウス、キーボード等、またはユーザが肉声により指令を入力する音声入力デバイス等である。バッテリ2jは、上記ハードウェア資源に必要な電力を供給する。
【0025】
情報処理端末2にあって、プロセッサ2aにより実行されるべきプログラムは補助記憶デバイス2cに格納されており、プログラムの実行の際には補助記憶デバイス2cからメインメモリ2bに読み込まれ、プロセッサ2aによって解読される。情報処理端末2は、プログラムに従って上記ハードウェア資源を作動させ、
図3に示す受信部201及び情報出力部202としての機能を発揮する。
【0026】
以降、本システムの各部の機能について詳述する。筆記具側装置1の検出部101は、加速度センサ1dを利用して、ユーザによる筆記具0を使用した筆記行為に関する定量化されたデータを取得する。そして、そのデータを、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cの所要の記憶領域に記憶して保持する。
【0027】
本実施形態にあって、筆記行為に関するデータとは、ユーザの筆記行為における筆記量、及び同筆記行為における筆記の速さを含む。筆記量は、ユーザが筆記行為を行った量を示す。より具体的には、筆記行為を行った時間の積算値、筆記行為において筆記具0の筆先が移動した距離である変位量の積算値、筆記した画数または筆記した文字数である。筆記量が増えるほど、ユーザが書くことに慣れる、または学習や訓練の達成度が上がると言える。筆記の速さは、筆記行為における筆運びの速さ、一定の時間内にユーザが筆記した画数や文字数を示す。より具体的には、筆記行為中の筆記具0の筆先の移動の角速度または速度である。筆記が速いほど、つまり速く書けるほど、ユーザの書き出す力が高く、勉強その他の筆記を伴う作業に集中できていると言える。
【0028】
筆記具側装置1による筆記行為に関するデータの収集それ自体には、情報処理端末2は関与せず、情報処理端末2の存在及び筆記具側装置1と情報処理端末2との通信は必要ではない。
【0029】
図5に、筆記具側装置1の検出部101における筆記行為に関するデータの取得のための処理の手順を示す。筆記具側装置1の検出部101は、所定時間毎、例えば一フレーム(一フレームは、1/30秒または1/60秒)毎に、加速度センサ1dを介して三軸の加速度[X,Y,Z]及び三軸回りの回転の角速度[θ,φ,Ψ]を知得する(ステップS1)。筆記具側装置1はユーザが用いる筆記具0に固定されており、加速度センサ1dが計測する加速度及び角速度は当該筆記具0(の筆先)の運動の加速度及び角速度を示唆する。このとき、加速度センサ1dの所定の軸、例えばZ軸が、筆記具0の軸線方向、換言すれば筆記具0が伸長する方向に平行または略平行となるよう、予め設定されている。
【0030】
ステップS1にて取得する加速度及び角速度は、加速度センサ1dが出力する生の値であってもよいし、加速度センサ1dの出力値を基に演算して得た算出値、即ち加速度センサ1dの出力する生の値を所定の関数式に代入する等して算出した値であってもよい。例えば、加速度センサ1dのZ軸を筆記具0の軸の伸長する方向に合わせている場合、当該筆記具0を用いた筆記行為において筆記が行われる筆記面(筆記される紙等の面)に対してZ軸が概ね直交し、当該筆記具0の筆先が筆記中にX軸方向及びY軸方向に変位することが想定される。しかしながら、Z軸と筆記面とが恒常的に直交することは保証されておらず、Z軸が筆記面に対して傾斜することは当然にあり得る。従って、筆記面上での筆先の移動の加速度、速度または変位量を精確に知得するためには、加速度センサ1dに作用する重力に基づいてZ軸の筆記面即ち水平面に対する傾きを検出した上、加速度センサ1dの生の出力値[X,Y,Z]を傾き補正後の加速度値[X’,Y’,Z’]に変換することが必要となる。筆記中に筆記具0の軸であるZ軸の筆記面に対する角度が一定であれば、この傾き補正後の加速度値[X’,Y’]が、筆記面上での筆先の移動の加速度、つまりは筆記面に平行で互いに直交する二軸の方向に沿った加速度となる。並びに、Z’軸方向に沿った加速度値は、筆先が筆記面に対して接近または離間しない限りは0となる(Z’軸方向は筆記面と直交する方向。勿論、一筆書きをしない限り、筆先がZ’方向に変位することは当然にある)。
【0031】
尤も、筆記行為の最中に筆記具0の軸の角度は変化し得るので、加速度センサ1dの角速度センサとしての機能を利用してその角度変化即ち回転を検出し、傾き補正後の加速度値[X’,Y’,Z’]にさらに筆記具0の回転を打ち消すような回転行列を適用することで、さらに精度よく筆記面上での筆先の移動の加速度を算出することが可能となる。
【0032】
とは言え、筆記行為に関するデータの精度に対する要求は必ずしも顕著に高くはない。しかも、現実の筆記面は常に水平であるとは限らず、大学の講義室の机のように天板がやや傾いていたり、ホワイトボードに書く場合のように筆記面が鉛直面であったりすることも可能性としてある。よって、加速度センサ1dの出力値に上述の補正を施すことは必須ではない。
【0033】
ステップS1にて取得する加速度及び角速度は、加速度センサ1dが出力する生の値に何らかのフィルタ処理を施したものであることがある。加速度センサ1dの出力値が頻々に変動または脈動する場合には、加速度センサ1dの出力値の移動平均を算出し、または加速度センサ1dの出力値をローパスフィルタ処理することで、変動または脈動を抑制した適正な加速度及び角速度を得ることができる。
【0034】
次いで、検出部101は、連続した所定数のフレーム、例えば十フレームを一ピリオドとし、その各ピリオド毎に、当該ピリオドに含まれる各フレームの加速度の絶対値(例えば、√(X2+Y2)または√(X’2+Y’2))の合算(十個の加速度の絶対値の総和)を算出する。そして、当該合算値が判定閾値を超えている(ステップS2)ことを条件として、当該ピリオドをユーザが筆記行為を行っている「書いている時間」にカウントする(ステップS4)。さもなくば、当該ピリオドをユーザが筆記行為を行っていない「書いていない時間」にカウントする(ステップS5)。
【0035】
但し、あるピリオドにおける各フレームの加速度の絶対値の合算が判定閾値を超えていたとしても、そのピリオドが「書いている時間」であると直ちに断定はできない。筆記行為以外の要因により、加速度センサ1dが検出する筆記具0の運動の加速度が大きくなることがあり得るからである。ユーザが子供等である場合、筆記具0を振ったり、回したり、転がしたりして遊ぶことは想像に難くない。それ故、検出部101は、ステップS2の判定結果が真であったとしても、当該ピリオドまたは当該ピリオドに含まれるフレームにおいて加速度センサ1dを介して検出した筆記具0の運動の加速度または角速度の絶対値が所定の上限値以上またはこれを超えている(ステップS3)ときには、その大きな運動は筆記行為によるものではないとして、当該ピリオドをユーザが筆記行為を行っていない「書いていない時間」にカウントする(ステップS5)。
【0036】
ステップS3で参照する(上限値と比較する)加速度または角速度の値は、加速度センサ1dの生の出力値であってもよいし、加速度センサ1dの出力値を基に演算して得た算出値、特に上述の補正やフィルタ処理等を施した値であってもよい。また、X軸、Y軸、Z軸の何れの方向の加速度を参照するのか、θ方向、φ方向、Ψ方向の何れの回転方向の角速度を参照するのかも、任意である。加速度センサ1dのZ軸を筆記具0の軸の伸長する方向に合わせている場合において、ユーザが筆記具0を上下に振るときにはZ軸方向の加速度の絶対値が過大化し、筆記具0を左右に振るときにはX軸またはY軸方向の加速度の絶対値が過大化すると予想される。並びに、ユーザが筆記具0を回すときにはθ方向またはφ方向の角速度の絶対値が過大化し、筆記具0を軸回りに転がすときにはΨ方向の角速度の絶対値が過大化すると予想される。検出部101は、対象のピリオド中の各フレームに計測したX軸方向加速度、Y軸方向加速度、Z軸方向加速度、θ方向角速度、φ方向角速度、Ψ方向角速度の絶対値をそれぞれ対応する上限値と比較し、何れかが上限値以上またはこれを上回るのであれば当該ピリオドを「書いていない時間」にカウントする。または、当該ピリオドに含まれる各フレームのX軸方向加速度の絶対値の合算値(十個の絶対値の総和)、Y軸方向加速度の絶対値の合算値、Z軸方向加速度の絶対値の合算値、θ方向角速度の絶対値の合算値、φ方向角速度の絶対値の合算値、Ψ方向角速度の絶対値の合算値をそれぞれ対応する上限値と比較して、何れかが上限値以上またはこれを上回るのであれば当該ピリオドを「書いていない時間」にカウントすることとしてもよい。上限値は、軸方向や回転方向毎に個別に設定してもよいし、三軸方向で同値でもよいし、全回転方向で同値でもよい。
【0037】
あるいは、ステップS3にて、対象のピリオド中の筆記具0の運動の速度(の絶対値)または変位量(の絶対値)の平均値、中央値若しくは最大値等を所定の上限値と比較し、前者が後者以上または後者を上回っているときに、当該ピリオドをユーザが筆記行為を行っていない「書いていない時間」にカウントすることとしても構わない。ピリオド中の筆記具0の運動の速度または変位量は、同ピリオド中に加速度センサ1dを介して検出した加速度及び/または角速度を基に算出することができる。
【0038】
ステップS1ないしS5を通じてカウントした「書いている時間」のピリオド数は、ユーザが筆記具0を使用して行った筆記行為の筆記量に相当する。そして、カウントした「書いている時間」のピリオド数と「書いていない時間」のピリオド数との合算値は、筆記行為以外の時間を含めた、ユーザが筆記具0を手にしていた時間の総体の長さに相当する。筆記具側装置1の検出部101は、少なくとも筆記量に相当する「書いている時間」のピリオド数を、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶する。並びに、「書いていない時間」のピリオド数、及び/または、「書いている時間」のピリオド数と「書いていない時間」のピリオド数との合算値を、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶する。
【0039】
加えて、検出部101は、「書いている時間」と判定した各ピリオドについて、そのピリオドに含まれる各フレームの加速度の絶対値(例えば、√(X2+Y2)または√(X’2+Y’2))の合算(十個の加速度の絶対値の総和)の大きさを段階評価、例えば五段階で評価する(ステップS6)。即ち、ステップS3における判定閾値を上回る加速度の絶対値の合算が、五段階のランク区分のうちの何れの範囲内に位置するのかを判断する。これは、当該ピリオドにおける筆運びの速さを五段階評価することを意味する。その上で、その五段階評価の発生頻度をカウントする(ステップS7)。例えば、あるピリオドの加速度の絶対値の合算がCランクの範囲内にあるとしたら、Cランクの発生頻度の値を1加増する。
【0040】
ステップS6及びS7を通じてカウントした各ランクの発生頻度は、ユーザが筆記具0を使用して行った筆記行為における筆記の速さを示唆する。筆記具側装置1の検出部101は、各ランクの発生頻度のヒストグラム、即ちAランクの発生頻度、Bランクの発生頻度、……、Eランクの発生頻度の各々の値を、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶する。「書いている時間」にカウントしたピリオド数が500だとすれば、Aランクの発生頻度、Bランクの発生頻度、……、Eランクの発生頻度の合計値が500になる。ユーザの筆記の速さを評価する際には、最も発生頻度の多かったランク、または各ランクの発生頻度とランクのスコア値(例えば、Aランクなら5、Bランクなら4、……、Eランクなら1)との積を全ランクについて合算したものの平均値若しくは中央値等を、その評価のための指標として用いることができる。
【0041】
検出部101は、上記ステップS1ないしS7を反復的に実行することにより、ユーザの筆記具0を使用した筆記行為に関するデータ、即ち筆記行為における筆記量及び筆記の速さを取得してメインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶保持する。ステップS2またはS3において「書いていない時間」と判定したピリオド中に得た加速度センサ1dの出力値、及びそれを基に算出される筆記量や筆記の速さは、筆記行為に関するデータとして取得せず(即ち、「書いている時間」にカウントせず、筆記の速さの五段階評価の対象にもしない。「書いていない時間」のカウントは、筆記量ではなく、筆記行為に関するデータに該当しない)、これを記憶保持しない。
【0042】
なお、検出部101が、筆記行為における筆記量として、「書いている時間」と判定したピリオド中の筆記具0の筆先の変位量の積算値を算出して記憶保持することとしてもよい。並びに、検出部101が、同筆記行為における筆記の速さとして、「書いている時間」と判定したピリオド中の筆記具0の筆先の運動の速度の平均値若しくは中央値、「書いている時間」と判定したピリオド中の筆記具0の筆先の変位量の積算値を「書いている時間」のピリオド数で除したもの(結局、単位時間あたりの筆先の変位量)、またはそれらの何れかを段階評価したときの各ランクの発生頻度を算出して記憶保持することとしてもよい。
【0043】
筆記具側装置1の送信部102は、通信インタフェース1eを利用して、検出部101が検出しメインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶保持している、ユーザによる筆記具0を使用した筆記行為に関するデータを情報処理端末2に向けて送信する。情報処理端末2の受信部201は、通信インタフェース2fを利用して、筆記具側装置1から送信される、筆記行為に関するデータを受信して、それをメインメモリ2bまたは補助記憶デバイス2cの所要の記憶領域に記憶して保持する。
【0044】
本実施形態では、
図6に示すように、ユーザが、筆記具側装置1の付帯する筆記具0の端部(筆先を有する前端部、または筆先と反対側にある後端部。何れでもよい)を、置かれている情報処理端末2に向けて上方から下方に傾ける操作(筆記具0を寝かせた(より水平に近い)姿勢から筆記具0を立てる(より鉛直に近い)姿勢へと変化させる操作)、あたかも筆記具0内に蓄えた水を筆記具0の端部から情報処理端末2に注ぎ入れるかのような操作を行ったことをきっかけとして、筆記具側装置1と情報処理端末2との間でのデータの授受を開始する。この操作は、ユーザが筆記具0を使用して行った筆記行為の筆記量をある種のエネルギまたはパワーに見立て、ユーザが筆記行為を通じて筆記具0に溜めたそのエネルギまたはパワーを情報処理端末2に流し込む行動を模している。
【0045】
図7に、筆記具側装置1の送信部102及び情報処理端末2の受信部201による、筆記行為に関するデータの送受信のための処理の手順を示す。筆記具側装置1の送信部102は、データの送受信の前段階の準備が整って以後(ステップS8)、所定時間毎、即ち一フレーム毎に、加速度センサ1dを介して筆記具0の三軸回りの回転の角速度[θ,φ,Ψ]を知得する(ステップS9)。
【0046】
ステップS8の分岐判断は、例えば、ユーザが筆記具側装置1自体に実装されている所定のボタンまたはスイッチ等を操作したときに真となる。または、ユーザが情報処理端末2の入力デバイス2gを介して特定の操作を行い、その旨を示す信号または情報が当該情報処理端末2から筆記具側装置1に送信されて、これを筆記具側装置1が受信したときに真となる。当然ながら、筆記具0の端部を下方に向ける操作は筆記中にも行われる。従って、ステップS8は、ユーザが意図していないにもかかわらず筆記中に筆記具側装置1から情報処理端末2に向けたデータの送信が実行開始されるのを防止することを目的としている。
【0047】
ステップS9にて取得する角速度は、加速度センサ1dが出力する生の値であってもよく、加速度センサ1dが出力する生の値に何らかのフィルタ処理を施したものであってもよい。
【0048】
しかして、筆記具側装置1の送信部102は、所定時間毎に加速度センサ1dを介して検出した筆記具0の回転の角速度[θ,φ,Ψ]の時系列を、オイラー角またはクォータニオン(四元数)等の任意の数値形式で、情報処理端末2に向けて送信する(ステップS10)。
【0049】
情報処理端末2の受信部201は、筆記具側装置1からもたらされる、所定時間毎の筆記具0の回転の角速度の時系列を受信する(ステップS11)。そして、これに基づき、ユーザが筆記具0の端部を情報処理端末2に向けて傾ける操作を行ったか否かを判定する(ステップS12)。ユーザが筆記具0の端部を情報処理端末2に向けて傾ける操作を行ったと判定した場合には、その旨を示す信号または情報を筆記具側装置1に向けて送信する(ステップS13)。
【0050】
筆記具側装置1の送信部102は、情報処理端末2からもたらされる上記の信号または情報を受信したことを条件として(ステップS14)、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶保持しているデータの情報処理端末2に向けた送信を実行開始する(ステップS15)。
【0051】
上述のステップS10ないしS14は、ユーザの手により筆記具0の端部を情報処理端末2に向けて傾ける操作が行われたことを、情報処理端末2の側で判断し確認するものであった。だが、筆記具側装置1において、所定時間毎の筆記具0の回転の角速度の時系列に基づき、そのような操作が行われたか否かを判断し、当該操作が行われたことを条件として、データの情報処理端末2に向けた送信を実行(ステップS15)するようにしても構わない。筆記具側装置1において当該操作の有無を判断するのであれば、ステップS10ないしS14の手順を省略することができる。
【0052】
ステップS15にて筆記具側装置1が情報処理端末2に向けて送信するデータは、ユーザの筆記行為に関するデータである、筆記量を示す「書いている時間」のピリオド数、及び筆記の速さを示す五段階評価の各ランクの発生頻度、並びに、「書いていない時間」のピリオド数、及び/または、「書いている時間」のピリオド数と「書いていない時間」のピリオド数との合算値を含む。
【0053】
情報処理端末2の受信部201は、筆記具側装置1からもたらされるデータを受信し(ステップS16)、これをメインメモリ2bまたは補助記憶デバイス2cに記憶する。このとき、情報処理端末2では、過去に受信してメインメモリ2bまたは補助記憶デバイス2cに記憶保持している「書いている時間」のピリオド数に、今般新たに受信した「書いている時間」のピリオド数を加算することがある。また、過去に受信して記憶保持している筆記の速さの五段階評価の各ランクの発生頻度のヒストグラムに、今般新たに受信した各ランクの発生頻度のヒストグラムを加算することがある。並びに、過去に受信して記憶保持している「書いていない時間」のピリオド数、または「書いている時間」のピリオド数と「書いていない時間」のピリオド数との合算値に、今般新たに受信した「書いていない時間」のピリオド数、または「書いている時間」のピリオド数と「書いていない時間」のピリオド数との合算値を加算することがある。
【0054】
ステップS15及びS16のデータの送受信は、可能な限り速やかに完遂してもよいが、筆記具側装置1において記憶保持しているデータの値が大きいほど、またはデータの量が多いほど、データの送受信が完了するまでに要する時間が長くなるような演出を施すこともできる。より詳しく述べると、筆記具側装置1の送信部102及び情報処理端末2の受信部201が、ユーザが筆記具0の端部を前記情報処理端末2に向けて傾けた状態を保っている時間の長さが閾値を超えたことを条件としてデータの送受信を完了することとし、その閾値を、筆記具側装置1が記憶保持する「書いている時間」のピリオド数が多いほど大きく(長く)設定し、または筆記具側装置1が記憶保持する筆記の速さの五段階評価の各ランクの発生頻度が多いほど大きく設定する。つまり、ユーザが筆記行為を通じて筆記具0に溜めたエネルギまたはパワーが多いほど、そのエネルギまたはパワーを全て情報処理端末2に流し込むのに長い時間を要するということである。
【0055】
データの送受信が完了するまでの間、即ちユーザが筆記具0の端部を情報処理端末2に向けて傾けた状態を保っている間(その状態を保っている時間の長さが閾値に達していない時点において)、情報処理端末2の受信部201の機能として、送受信処理の中途であることをユーザに意識させる、換言すればその状態を依然として維持するべきことをユーザに認識させるための情報を、ユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力することも好ましい。例えば、送受信の最中に、水が注がれるような動画像をディスプレイ2hの画面に表示させてもよいし、水の注がれる音のような効果音を音声出力デバイス2iから出力してもよい。
【0056】
また、このように、データの送受信を即時的に完了しない場合においては、その送受信の最中に、筆記具側装置1のメインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶するデータ値、特に「書いている時間」のピリオド数や筆記の速さの五段階評価の各ランクの発生頻度の値を徐変(徐々に減少)させつつ、情報処理端末2のメインメモリ2bまたは補助記憶デバイス2cに記憶するデータ値、特に「書いている時間」のピリオド数や筆記の速さの五段階評価の各ランクの発生頻度の値を徐変(徐々に加増)するように処理することも可能である。
【0057】
ユーザが筆記具0の端部を情報処理端末2に向けて傾けた状態を保っている時間の長さが閾値を超える前に、ユーザがその状態を維持することを止めたときには、データの送受信そのものをキャンセルする、即ち筆記具側装置1及び情報処理端末2の各々が記憶するデータを送受信開始前のものとする(または、送受信前のデータに回復させる)ようにしてもよい。あるいは、送受信の最中に筆記具側装置1及び情報処理端末2の各々が記憶するデータ値を徐変させる処理を実施しているのであれば、ユーザが上記の状態を維持することを止めた時点でのデータ値を筆記具側装置1及び情報処理端末2に記憶保持させるようにしてもよい。送受信の最中にユーザが筆記具0の端部を情報処理端末2に向けて傾けた状態を保っているか否かの判断は、送受信の開始条件としてユーザが筆記具0の端部を情報処理端末2に向けて傾ける操作を行ったか否かを判断するのと同様の手順により、情報処理端末2側で実行した上で情報処理端末2から筆記具側装置1に向けてその判断結果を通知(送信)してもよく、筆記具側装置1自身で判断してもよい。
【0058】
筆記具側装置1と情報処理端末2との間でのデータの送受信(ステップS15及びS16)が完了した後、筆記具側装置1では、それまでメインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cに記憶保持していた送信済みのデータを、メインメモリ1bまたは補助記憶デバイス1cから消去する、換言すれば、「書いている時間」のピリオド数、「書いていない時間」のピリオド数、及び筆記の速さの五段階評価の各ランクの発生頻度を、それぞれ0にリセットする(ステップS17)。
【0059】
筆記具側装置1の送信部102及び情報処理端末2の受信部201は、上述したステップS8ないしS17のデータの送受信を行うとき以外の期間において、両者の間の通信を遮断、即ち互いに向けた無線信号の送出を停止し、以て電力消費を抑制する。
【0060】
情報処理端末2の情報出力部202は、筆記具側装置1から受信してメインメモリ2bまたは補助記憶デバイス2cに記憶した、ユーザが筆記具0を使用して行った筆記行為に関するデータに応じた情報を、ユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する。
【0061】
例えば、
図8に示すように、ユーザがこれまで行った筆記行為における筆記量(の累積値)を基に、その筆記量を視覚的に示す情報として、筆記量が多くなるほど大きく伸びる樹木21のような画像を生成または選択し、ディスプレイ2hの画面に表示させる。このとき、ユーザがこれまで行った筆記量に応じて音色や旋律、音の大きさ等の異なる音声の情報を生成または選択し、音声出力デバイス2iから出力してもよい。
【0062】
筆記量は、ユーザのこれまでの勉強または訓練等の成果であると言え、これを適時ユーザに向けて提示することで、筆記具0を使用した筆記行為にゲーム性を持たせ、特に子供等のユーザの自発的な勉学への意欲を引き出す。
【0063】
加えて、情報処理端末2の情報出力部202は、
図8及び
図9に示すように、ユーザがこれまで行った筆記行為における筆記の速さ(の五段階評価の各ランクの発生頻度のヒストグラム)を基に、その筆記の速さを視覚的に示す情報として、筆記の速さに応じて種類の異なる果実22が樹木21に実るような画像を生成または選択し、ディスプレイ2hの画面に表示させる。例えば、筆記の速さがある低位のランクまたはある低位値よりも低い場合には
図9(a)に示しているようにチェリー22が実り、筆記の速さがある高位のランクまたはある高位値よりも高い場合には
図9(c)に示しているようにバナナ22が実り、筆記の速さがそれらの中間にある場合には
図9(b)に示しているようにリンゴ22が実る、というような態様である。このとき、ユーザがこれまで行った筆記行為の筆記の速さに応じて音色や旋律、音の大きさ等の異なる音声の情報を生成または選択し、音声出力デバイス2iから出力してもよい。既述の通り、ユーザの過去の筆記行為における筆記の速さは、五段階評価の各ランクの発生頻度のうちの最も発生頻度の多かったランクや、各ランクの発生頻度と当該ランクのスコア値との積を全ランクについて合算したものの平均値若しくは中央値等から評価することができる。Dランクの発生頻度が最も多かったのであれば、ユーザの筆記の速さは中程度よりもやや遅く成長または改善の余地があると評価でき、Aランクの発生頻度が最も多かったのであれば、ユーザの筆記が相当に速くなっており書き出す力が高まっていると評価できる。ランクの発生頻度とランクのスコア値との積の平均値若しくは中央値等を参照するのであれば、その値が高いほどユーザの筆記が速いと評価できる。
【0064】
情報処理端末2が、ユーザのこれまでの筆記量だけでなく、筆記行為における筆記の速さをも提示することが、特に子供等のユーザに筆記の速さを意識させることに繋がり、書き出す力の涵養に資するものと期待される。小学校低学年であれば一分間に十五文字ないし二十文字、中学年であれば一分間に二十文字ないし二十五文字、高学年であれば一分間に二十五文字ないし三十文字を書くことができる速さが、目標の一つの目安となろう。まともな文字でコンスタントに一分間あたり三十文字書くことができる力があれば、それは書くことに事欠かない大人並みの筆力であり、ノートやメモ、日記や葉書、手紙等を書こうとしたときにすぐに筆が動いてくれるであろう。
【0065】
本実施形態では、筆記具0の筆先の移動の加速度を計測する加速度センサ1dを有する検出部101と、前記検出部101を介して検出した前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間の数量即ち「書いている時間」のピリオド数に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部202とを具備する評価システムを構成した。なお、前記検出部101を介して検出した加速度が前記判定閾値を超えていたとしても、その加速度が上限値をも上回っている場合、その時間は前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間にカウントしない。
【0066】
本実施形態の評価システムは、筆記具0に付帯し前記検出部101を備える筆記具側装置1と、当該筆記具側装置1との間でデータを授受でき前記情報出力部202を備える情報処理端末2とを要素とし、前記筆記具側装置1が、前記検出部101を介して検出した前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間を記憶し、その記憶している時間を前記情報処理端末2と通信可能な状況下で当該情報処理端末2に向けて送信し、これを受信した情報処理端末2が、前記情報出力部202において当該時間の数量に基づき前記情報を出力する。
【0067】
本実施形態の評価システムによれば、ユーザが筆記具0を使用した時間の量を的確に出力し提示することができる。ひいては、筆記行為を通じたユーザの学習の達成度とともに、ユーザの書き出す力の向上の度合いを的確に可視化して評価に供することが可能となる。
【0068】
前記情報出力部202は、画像をディスプレイ2hの画面に表示させるものであり、前記筆先の加速度が判定閾値を超えている時間の数量に応じて、表示させる画像を変化させることができる。
【0069】
特に、本実施形態では、筆記具0を使用した筆記行為における筆記量、及び同筆記行為における筆記の速さを検出する検出部101と、前記検出部101を介して検出した筆記行為における筆記量に応じた情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力し、なおかつ同筆記行為における筆記の速さによって異なる情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部202とを具備する評価システムを構成した。本実施形態によれば、ユーザの筆記行為における筆記量と、筆記の速さとの両方をそれぞれ出力してユーザに提示することができる。ひいては、筆記行為を通じたユーザの学習の達成度とともに、ユーザの書き出す力の向上の度合いを的確に可視化して評価に供することが可能となる。
【0070】
前記情報出力部202は、前記検出部101を介して検出した筆記行為の筆記量が所定の閾値に到達したことを条件として、同筆記行為中に検出部101を介して検出した筆記の速さに応じて異なる情報を出力する。
図8に示した例に則して述べると、筆記の速さを表示する果実22は、筆記量に応じて伸びる樹木21がある大きさまで生長しないと、つまり樹木21がその大きさに生長するのに必要な量即ち閾値まで情報処理端末2に記憶している筆記量が増加しないと、実らない。筆記の速さに応じた音声情報の出力も、同様である。
【0071】
本実施形態の評価システムは、筆記具0に付帯し前記検出部101を備える筆記具側装置1と、当該筆記具側装置1との間でデータを授受でき前記情報出力部202を備える情報処理端末2とを要素とし、前記筆記具側装置1が、前記検出部101で取得した筆記行為の筆記量及び同筆記行為における筆記の速さを記憶し、その記憶している筆記量及び筆記の速さを前記情報処理端末2と通信可能な状況下で当該情報処理端末2に向けて送信し、これを受信した情報処理端末2が、前記情報出力部202において当該筆記量及び筆記の速さに基づき前記情報を出力する。本実施形態では、筆記具側装置1において予め筆記の速さを示唆する値、即ち五段階評価の発生頻度のヒストグラムを算出して記憶保持しておき、筆記具側装置1と情報処理端末2との交信が可能なときにそれを送受信する。従って、筆記行為の最中に、恒常的かつ長時間に亘って継続的に、筆記具0の筆先の加速度、速度、変位量、位置座標等を筆記具側装置1から情報処理端末2に送信し続ける必要がない。つまり、筆記具側装置1と情報処理端末2との間の通信の機会を適切に制限して省電力を実現できる。さらには、筆記行為に関するデータの収集を情報処理端末2を必要とせずに(情報処理端末2が不在であっても)遂行することができ、情報処理端末2の存在が筆記行為の妨げとならない。
【0072】
前記検出部101は、筆記具0の筆先の移動の加速度を計測する加速度センサ1dを有しており、当該加速度センサ1dを利用して簡便に筆記行為の筆記量及び同筆記行為における筆記の速さを算定し取得することができる。
【0073】
また、本実施形態では、筆記行為に使用される筆記具0に付帯する筆記具側装置1と、当該筆記具側装置1との間でデータを授受できる情報処理端末2とを要素とし、前記筆記具側装置1が、筆記具0を使用した筆記行為に関して定量化されたデータを取得して記憶する検出部101と、筆記具0の端部を前記情報処理端末2に向けて傾ける操作が行われたことを条件として、前記検出部101で取得し記憶しているデータを情報処理端末2に向けて送信する送信部102とを備え、前記情報処理端末2が、前記筆記具側装置1から送信されるデータを受信する受信部201を備える送受信システムを構成した。本実施形態によれば、筆記具側装置1と情報処理端末2との間でのデータの授受に際して、筆記具0という物と、情報処理端末2上のアプリケーションプログラムとの連動体験を提供でき、面白みやゲーム性が増進される。
【0074】
前記情報処理端末2が、前記受信部201で受信したデータに応じて情報をユーザの視覚または聴覚に訴えかける態様で出力する情報出力部202を備える。
【0075】
前記送信部102及び前記受信部201は、筆記具0の端部を前記情報処理端末2に向けて傾けた状態を保っている時間の長さが閾値を超えたことを条件として送受信を完了するものであり、前記検出部101で取得し記憶しているデータの値の大きさまたはデータの量に応じて前記閾値が変動する。これにより、筆記具0に蓄えられた筆記量のデータに応じて、ユーザが筆記具0を情報処理端末2に向けて傾ける操作を行う時間が変化し、筆記具0に溜めたエネルギまたはパワーが多いほど、そのエネルギまたはパワーを全て情報処理端末2に流し込むのに時間を要するというヴァーチャルリアルな体験をユーザに提供できる。
【0076】
前記送信部102及び前記受信部201は、前記データの送受信を行うとき以外の期間において、両者の間の通信を遮断して消費電力の低減を図る。
【0077】
さらに、本実施形態では、筆記具0に付帯し、筆記具0の運動の加速度、速度または変位を計測するセンサ1dの出力値または当該出力値を基に演算して得た算出値を筆記行為に関するデータとして取得する検出部101を備えるものであって、前記検出部101は、前記センサ1dの出力値または当該出力値を基に演算して得た算出値が所定の上限値以上またはこれを超えているとき、その上限値以上またはこれを超えた出力値または算出値を筆記行為に関するデータとして取得しない筆記具側装置1を構成した。本実施形態によれば、前記センサ1d以外のセンサやスイッチ類を別途実装せずとも、筆記行為に起因する筆記具0の運動と、筆記行為以外の行為に起因する筆記具0の運動等を切り分けて特定することができる。そして、センサ1dを介して取得する筆記行為に関するデータに誤差が混入することを効果的に抑制できる。
【0078】
前記センサ1dは、筆記具0に対して不動に設定され互いに直交する三軸のうちの少なくとも一つの軸の方向に沿った筆記具0の運動の加速度、速度または変位を計測するものであり、前記検出部101は、前記センサ1dの出力値または当該出力値を基に演算して得た算出値が所定の上限値以上またはこれを超えているとき、その上限値以上またはこれを超えた出力値または算出値を筆記行為に関するデータとして取得しない。
【0079】
前記センサ1dは、筆記具0に対して不動に設定され互いに直交する三軸のうちの少なくとも一つの軸を中心とする筆記具0の回転運動の加速度、速度または変位を計測するものであり、前記検出部101は、前記センサ1dの出力値または当該出力値を基に演算して得た算出値が所定の上限値以上またはこれを超えているとき、その上限値以上またはこれを超えた出力値または算出値を筆記行為に関するデータとして取得しない。
【0080】
前記センサ1dは、三軸加速度センサ及び三軸ジャイロセンサの機能を有するものである。
【0081】
前記検出部101は、筆記行為に関するデータとして、筆記行為の筆記量及び同筆記行為における筆記の速さをともに取得する。
【0082】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的な構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0083】
0…筆記具
1…筆記具側装置
1d…加速度センサ
101…検出部
102…送信部
2…情報処理端末
201…受信部
202…情報出力部
21…筆記行為における筆記量(「書いている時間」のピリオド数)に応じて異なる情報(樹木)
22…筆記行為における筆記の速さに応じて異なる情報(果実)