(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電気自動車の車体下部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/20 20060101AFI20241008BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
B62D25/20 E
B60K1/04 Z
(21)【出願番号】P 2023116394
(22)【出願日】2023-07-18
【審査請求日】2024-07-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 孝信
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-121483(JP,A)
【文献】特開2023-38190(JP,A)
【文献】特開2020-142612(JP,A)
【文献】特開2023-30757(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114571976(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体幅方向の車外側に配設されて車体前後方向に延在する左右一対のサイドシルと、
該左右一対のサイドシルの間に配設されたバッテリーパックと、
該バッテリーパックの上面側に設置され、車体幅方向に延在するフロアクロスメンバと、
前記バッテリーパックの下面における車体幅方向の両端部に設置され、該両端部から車外側に延出する溝形状を有する左右一組の地面側クロスメンバと、を備えた電気自動車の車体下部構造であって、
前記フロアクロスメンバは、車体下方側に向かって開口し、両先端が閉じた
車両幅方向に湾曲した起伏のない直線状の溝形状
で、車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、前記両先端が左右の前記サイドシルの側面に当接し、
前
記地面側クロスメンバは、前記溝形状が直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状
車外側の端部を含む車体幅方向に沿って略一定であり、車内側の端部が前記バッテリーパックの下面に接続し、車外側の端部が前記サイドシルの下面に接続し
、
前記フロアクロスメンバ及び前記地面側クロスメンバは鋼板を用いて形成され、前記地面側クロスメンバは、前記フロアクロスメンバに用いる鋼板よりも延性の高い鋼板を用いて形成されている、ことを特徴とする電気自動車の車体下部構造。
【請求項2】
前記地面側クロスメンバは、
車体幅方向に直交する断面においてハット断面形状が少なくとも3つ連続する連続ハット断面形状部材と、
該連続ハット断面形状部材の上面を覆う上部金属板と、
前記連続ハット断面形状部材の下面を覆う下部金属板と、を備えて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の車体下部構造。
【請求項3】
前記フロアクロスメンバは、前記溝形状の前記両先端において端板が溶接又は接着されて前記閉じた形状が形成されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気自動車の車体下部構造。
【請求項4】
前記サイドシル及び前記フロアクロスメンバは、引張強度980MPa級以上の鋼板を用いて形成され、
前記地面側クロスメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板を用いて形成されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気自動車の車体下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体下部のフロア部にバッテリーが配設された電気自動車の車体下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に自動車産業においては環境問題に起因して、エンジン車から電気自動車等への置換が進みつつある。電気自動車等は車体下部のフロア部に大きな電池(バッテリー)を収容したバッテリーパックを配置している。そして、バッテリーにはLi系の材料を用いることが多く、衝突時にバッテリーパックが破損してバッテリーから液漏れすると発火の危険性があるので、バッテリーパックを守る構造が必要となる。
【0003】
一般に、電気自動車等は、車体両側に配設された左右一対のサイドシルと、バッテリーパックの上方に設けられて左右のサイドシルに接続するフロアクロスメンバと、によりバッテリーパックが囲まれた構造を備えている。そして、側面衝突時においては、車両の側面に入力した衝突荷重によってサイドシル等が変形して衝突エネルギーを吸収することで、バッテリーパックに入力する荷重を低減してその変形を抑制することが重要である。
そこで、例えば特許文献1~7に開示されているように、側面衝突時にバッテリーパックを保護する構造がこれまでに提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-83033号公報
【文献】特許6889419号公報
【文献】特開2020-189567号公報
【文献】特開2021-88364号公報
【文献】特開2022-77194号公報
【文献】特許6734709号公報
【文献】特許6887469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3の構造は、断面ハット状のフロアクロスメンバ(特許文献2ではクロスメンバ、特許文献3では第1、第2クロスメンバ)の端部に形成されたフランジ部がサイドシル(特許文献1ではロッカ)の側面に接続されたものである。しかしながら、これらの構造では、側面衝突時に入力した衝突荷重に対して断面ハット状のフロアクロスメンバが開口する変形が生じやすいため、衝突エネルギーを十分に吸収することができなかった。
【0006】
また、特許文献4の構造は、アウタ部とインナ部が一体成形されたサイドシル(特許文献4ではロッカ)を備え、インナ部は、車体幅方向に沿って切断された断面形状がL字の異形である。そのため、このような断面形状を有するサイドシルをプレス成形により製造することが困難であり、生産性の低下や製造コストの増加が問題であった。
その上、特許文献4の構造は、側突時に入力した衝突エネルギーを吸収するため、サイドシル内に一体形成された梯子状の衝撃吸収部(衝突エネルギー吸収部材)が設けられたものであるが、車体重量の増加を招くものであった。
【0007】
さらに、特許文献5~7の構造は、フロアクロスメンバの端部がサイドシルの上部に位置するものである。そのため、側面衝突時においてフロアクロスメンバに伝達した衝突荷重の反力によりサイドシルを十分に潰すことができず、衝突エネルギーを十分に吸収することができなかった。
【0008】
このように、側面衝突時にバッテリーパックを保護する従来の構造は、衝突エネルギーを十分に吸収することができないため、バッテリーパックに入力する荷重を低減して変形を抑制することができないという問題があった。さらに、衝突エネルギーを十分に吸収するためには衝撃吸収部(衝突エネルギー吸収部材)を別途設けることを要し、車体重量が増加するものであった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、車体重量を増加させず、側面衝突時においてバッテリーパックに入力する荷重の低減と変形の抑制をすることができる電気自動車の車体下部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る電気自動車の車体下部構造は、車体幅方向の車外側に配設されて車体前後方向に延在する左右一対のサイドシルと、
該左右一対のサイドシルの間に配設されたバッテリーパックと、
該バッテリーパックの上面側に設置され、車体幅方向に延在するフロアクロスメンバと、
前記バッテリーパックの下面における車体幅方向の両端部に設置され、該両端部から車外側に延出する溝形状を有する左右一組の地面側クロスメンバと、を備えたものであって、
前記フロアクロスメンバは、車体下方側に向かって開口し、両先端が閉じた直線状の溝形状であり、前記両先端が左右の前記サイドシルの側面に当接し、
前記各地面側クロスメンバは、前記溝形状が直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、車内側の端部が前記バッテリーパックの下面に接続し、車外側の端部が前記サイドシルの下面に接続している、ことを特徴とするものである。
【0011】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記各地面側クロスメンバは、
車体幅方向に直交する断面においてハット断面形状が少なくとも3つ連続する連続ハット断面形状部材と、
該連続ハット断面形状部材の上面を覆う上部金属板と、
前記連続ハット断面形状部材の下面を覆う下部金属板と、を備えて構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記フロアクロスメンバは、前記溝形状の前記両先端において端板が溶接又は接着されて前記閉じた形状が形成されている、ことを特徴とするものである。
【0013】
(4)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記フロアクロスメンバは、車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定である、ことを特徴とするものである。
【0014】
(5)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記サイドシル及び前記フロアクロスメンバは、引張強度980MPa級以上の鋼板を用いて形成され、
前記地面側クロスメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板を用いて形成されている、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、側面衝突時にバッテリーパックに入力する荷重を低減してバッテリーパックの変形を抑制することで、バッテリーの損傷を防いで保護することが出来る。これにより、側面衝突時にバッテリーパックを守る安全な電気自動車を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造における地面側クロスメンバを説明する図である((a)車体前後方向の直交断面、(b)車体幅方向の直交断面)。
【
図3】実施例における側面衝突解析を説明する図である。
【
図4】実施例において、側面衝突試験解析の対象とした車体下部構造を示す図である((a)車体上方からの斜視図、(b)車体下方からの平面図)。
【
図5】実施例において、電気自動車の車体下部構造における地面側クロスメンバを説明する図である((a)バッテリーパックと地面側クロスメンバの車体幅方向の直交断面、(b)地面側クロスメンバの車体幅方向の直交断面)。
【
図6】実施例において、試験対象とした電気自動車の側面にポールが衝突する車体前後方向(TL)の位置を示す図である。
【
図7】実施例において、側面衝突性能の評価項目を説明する図である((a)バッテリーパックへの入力荷重、(b)バッテリーパックの変形量)。
【
図8】実施例において、(a)発明例に係る車体下部構造における地面側クロスメンバの長さ、(b)参考例に係る車体下部構造における地面側クロスメンバ、を示す図である。
【
図9】実施例において、参考例に係る車体下部構造における地面側クロスメンバを示す図である((a)車体前後方向の直交断面、(b)車体幅方向の直交断面)。
【
図10】実施例において、発明例に係る車体下部構造を備えた車両の側面衝突過程における変形の様子を示す図である((a)車体下方からの平面図、(b)衝突開始時における車体下部構造の断面図、(c)衝突後の車体下部構造の断面図)。
【
図11】実施例において、地面側クロスメンバの長さの異なる車体下部構造を備えた車両の側面衝突過程における変形の様子を示す図である((a)地面側クロスメンバ長さ:245mm、(b)地面側クロスメンバ長さ:165mm)。
【
図12】実施例において、側面衝突試験で得られた評価項目の結果を示すグラフである((a)バッテリーパックへの入力荷重、(b)バッテリーパックの変形量)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造1(以下、単に「車体下部構造1」という)は、
図1に一例として示すように、サイドシル10と、バッテリーパック20と、フロアクロスメンバ30と、地面側クロスメンバ40と、を備えたものである。
以下、
図1及び
図2に基づいて、本実施の形態に係る車体下部構造1を説明する。
なお、本明細書及び図面において、同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を割愛する。
【0018】
<サイドシル>
サイドシル10は、車体幅方向の車外側に配設されて車体前後方向に延在する左右一対のものであり、
図1に示すように、サイドシルインナ11と、サイドシルアウタ13と、を有する。
【0019】
サイドシルインナ11は、車幅方向の車外側に向かって開口するハット断面形状であり、天板部11aと、天板部11aの上辺と下辺のそれぞれから延出する一対の縦壁部11bと、各縦壁部11bから延出するフランジ部11cと、を有する。
【0020】
サイドシルアウタ13は、車体幅方向の車内側に向かって開口するハット断面形状であり、車体上方側と車体下方側それぞれの端部にフランジ部13cを有する。
【0021】
サイドシル10は、車体上方側においてサイドシルインナ11のフランジ部11cとサイドシルアウタ13のフランジ部13cが接合され、車体下方側においてサイドシルインナ11のフランジ部11cとサイドシルアウタ13のフランジ部13cが接合されている。これにより、サイドシル10においては、サイドシルインナ11とサイドシルアウタ13とにより閉断面構造が形成されている。
【0022】
<バッテリーパック>
バッテリーパック20は、
図1に示すように、左右一対のサイドシル10の間に配設されたものであり、内部にバッテリーセル21が搭載されている。
本実施の形態において、バッテリーパック20は、車体幅方向外周側に配設されたバッテリーフレーム23により支持されている。
【0023】
<フロアクロスメンバ>
フロアクロスメンバ30は、
図1に示すように、バッテリーパック20の上面側に設置され、車体幅方向に延在するものである。そして、フロアクロスメンバ30は、車体下方側に向かって開口し、車体幅方向の両先端30aが閉じた直線状の溝形状であり、両先端30aが左右のサイドシル10の側面に当接している。
図1に示す車体下部構造1において、フロアクロスメンバ30の両先端30aは、サイドシル10の側面であるサイドシルインナ11の天板部11aに当接している。
なお、車体剛性を向上させるため、フロアクロスメンバ30の両端部とサイドシルインナ11の天板部11aをブラケット等で接合してもよい。
【0024】
<地面側クロスメンバ>
地面側クロスメンバ40は、
図1に示すように、バッテリーパック20の下面における車体幅方向の両端部20aに設置され、両端部20aから車外側へと延出する溝形状を有する左右一組のものである。
【0025】
各地面側クロスメンバ40は、溝形状が車体幅方向に沿って直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、車内側の端部40aがバッテリーパック20の下面に接続し、車外側の端部40bがサイドシル10の下面に接続している。
図1に示す車体下部構造1において、各地面側クロスメンバ40の車外側の端部40bは、サイドシル10の下面であるサイドシルインナ11の下方側の縦壁部11bに接続している。
【0026】
なお、地面側クロスメンバ40の車外側の端部40bとサイドシル10の下面との接続方法は特に問わない。例えば、地面側クロスメンバ40の車内側の端部40aの上面(
図2(b)に示す上部金属板43)とサイドシルインナ11の下方側の縦壁部11bを固定用ボルトで締結するか、溶接により接続するとよい。
また、地面側クロスメンバ40の車外側の端部40bとサイドシルインナ11の車体下方側のフランジ部11cとの間に所定の間隔を確保するとよい。側面衝突時において、サイドシルアウタ13が圧壊する前に、車体に入力した衝突荷重の荷重伝達経路が地面側クロスメンバ40に形成されないようにするためである。
【0027】
本実施の形態に係る車体下部構造1において、バッテリーパック20に入力する荷重を低減することでバッテリーパック20の変形を抑制し、バッテリーパック20を保護することができる理由を以下に説明する。
【0028】
車体下部構造1において、フロアクロスメンバ30は、溝形状の両先端30aが閉じた形状であり、サイドシル10の側面(サイドシルインナ11の天板部11a)に当接している。これにより、側面衝突時にサイドシル10が変形してフロアクロスメンバ30の先端30aに荷重が入力しても、先端30aの溝形状が開くような形状崩れに起因する耐力の低減を押さえることができる。
【0029】
また、バッテリーパック20の下面側に左右一組の地面側クロスメンバ40が設置されていることにより、車体下部構造1の側面に入力した荷重をフロアクロスメンバ30と地面側クロスメンバ40に分散して伝達することができる。これにより、バッテリーパック20の保護性能をより有効に向上することができる。
【0030】
その上、左右一組の地面側クロスメンバ40は、バッテリーパック20の下面側における車体幅方向の両端部20aに分離して接続されているため、地面側クロスメンバ40を設置することによる車体重量の大幅な増加を防ぐことができる。バッテリーパック20の下面側の両端部20aに接続されている各地面側クロスメンバ40の車内側の端部40aの範囲(長さ)は、車体幅方向に少なくとも50mm以上とするとよい。
【0031】
以上、本実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造1によれば、側面衝突時にバッテリーパック20に入力する荷重を低減し、バッテリーパック20の変形を抑制することが出来る。これにより、側面衝突時においてもバッテリーを保護する安全な電気自動車を製造することができる。
さらに、本実施の形態に係る車体下部構造1においては、バッテリーパック20の下面における車体幅方向の両端部20aに左右一組の地面側クロスメンバ40を設置することにより、側面衝突性能を低下させずに車体を軽量化することができる。
【0032】
なお、本発明において、各地面側クロスメンバ40は、車体幅方向に延在する溝形状を有するものとして、
図2に示すように、連続ハット断面形状部材41と、上部金属板43と、下部金属板45と、を備えて構成されたものであることが好ましい。
【0033】
連続ハット断面形状部材41は、車体幅方向に直交する断面においてハット断面形状が3つ連続するように形成された部材である。
図2(b)に示す連続ハット断面形状部材41は、車体上方側に向かって開口した2つのハット断面形状と、該2つのハット断面形状の間において車体下方側に向かって開口した1つのハット断面形状と、が車体前後方向に沿って連続して形成されたものである。
【0034】
上部金属板43は、連続ハット断面形状部材41の上面を覆うものであり、連続ハット断面形状部材41において車体上方側に開口した2つのハット断面形状の開口を塞ぐように設けられている。上部金属板43と連続ハット断面形状部材41を片側溶接またはボルトで接続するとよい。
【0035】
下部金属板45は、連続ハット断面形状部材41の下面を覆うものであり、車体上方側に開口した2つのハット断面形状の天板部41aを繋ぐように設けられている。下部金属板45と連続ハット断面形状部材41を片側溶接またはボルトで接続するとよい。
【0036】
このように、連続ハット断面形状部材41を上部金属板43と下部金属板45とにより挟んで車体幅方向に沿って直線状とすることで、側突荷重に対する曲げ剛性を高め、地面側クロスメンバ40の変形を抑制することができる。これにより、側面衝突時において、サイドシル10の下部側が十分に潰され、衝突エネルギーをより吸収することが出来る。
【0037】
なお、
図2(b)に示す連続ハット断面形状部材41はハット断面形状が3つ連続するように形成されたものであったが、本発明において、連続ハット断面形状部材は、ハット断面形状が少なくとも3つ連続するように形成されたものであればよい。
【0038】
また、本発明において、連続ハット断面形状部材は、外側の2つのハット断面形状の開口が車体下方側に向かい、真ん中のハット断面形状の開口が車体上方側に向かうように配置されたものであってもよい。
この場合、上部金属板は、連続ハット断面形状部材の外側の2つのハット断面形状の天板部41aを繋ぐように設けることで連続ハット断面形状部材の上面を覆うものとすればよい。さらに、下部金属板は、連続ハット断面形状部材の真ん中のハット断面形状の開口を塞ぐように設けることで、連続ハット断面形状部材の下面を覆うものとすればよい。
【0039】
本発明において、フロアクロスメンバは、車体幅方向に延在する溝形状の両先端が閉じた形状であればよく、溝形状の両先端において端板が溶接又は接着されて閉じた形状が形成されたものが好ましい。ここで、端板の溶接は、スポット溶接、レーザー溶接又はアーク溶接のいずれであってもよい。
【0040】
もっとも、フロアクロスメンバは、直線状の溝形状と両先端の閉じた形状とが絞り成形により一体形成されたものであってもよい。
【0041】
さらに、本発明において、フロアクロスメンバは、車体幅方向に湾曲した起伏のない直線状の溝形状とし、車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であることが好ましい。ここで、断面形状が略一定であるとは、車体幅方向の断面形状の溝高さの変化が、フロアクロスメンバの車体幅方向の溝高さの平均値に対し±10%以内とするとよい。
【0042】
このように、フロアクロスメンバの断面形状が車体幅方向に湾曲した起伏のない直線状であり車体幅方向に沿って略一定であることにより、側面衝突時においてフロアクロスメンバの折れ変形(座屈変形)しにくい構造とすることができる。これにより、サイドシルの上部側を十分に潰すことができ、高い衝突吸収エネルギーを稼ぐことが出来る。
【0043】
また、地面側クロスメンバの直線状の溝形状についても、フロアクロスメンバと同様、車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であることをいい、車体幅方向の断面形状の変化が、地面側クロスメンバの車体幅方向の溝高さの平均値に対し±10%以内であることが好ましい。
【0044】
本発明に係る車体下部構造においては、電気自動車の側面に衝突荷重が入力する位置によらず当該衝突荷重を受け止めてバッテリーパックをより効果的に保護することができるように、フロアクロスメンバを設置する位置と本数を適宜設定すればよい。
【0045】
そして、左右一組の地面側クロスメンバを設置する位置と数についても、フロアクロスメンバと同様に適宜設定すればよい。好ましくは、フロアクロスメンバと車体前後方向にオーバーラップする位置に地面側クロスメンバを設置するとよい。これにより、衝突荷重をフロアクロスメンバと地面側クロスメンバに効率良く分散することができ、バッテリーパックの保護性能をより向上させることができる。
【0046】
本発明において、サイドシル及びフロアクロスメンバは、引張強度980MPa級以上の鋼板を用いて形成されていることが好ましい。引張強度980MPa級以上の鋼板としては、980MPa級、1180MPa級、1370MPa級、1470MPa級、1760MPa級、1960MPa級の鋼板が例示できる。
【0047】
また、地面側クロスメンバの車外側の端部40bは、サイドシルインナ11の車体下方側のフランジ部11cに対向しているため、側面衝突によりサイドシルアウタ13の圧壊後、車体に入力した衝突荷重が地面側クロスメンバ40に直接伝達される(
図1参照)。しかしながら、地面側クロスメンバ40は、フロアクロスメンバ30よりも折れ変形が生じやすく、地面側クロスメンバ40に折れ変形により破断が生じると、衝突エネルギー吸収性能が大幅に低下してしまう。そのため、本発明において、地面側クロスメンバは、サイドシル及びフロアクロスメンバに用いる鋼板と同等、若しくは、より延性の高い鋼板を用いて形成されていることが好まい。特に、フロアクロスメンバよりも引張強度が低く延性の高い引張強度590MPa級以上の鋼板を用いて形成されるのが好ましい。
【0048】
これらの引張強度の鋼板を用いてサイドシル、フロアクロスメンバ及び地面側クロスメンバを製作することにより、側面衝突時にサイドシルの上部と下部を十分に潰すことで衝突エネルギーを効率的に吸収することができる。
【実施例】
【0049】
本発明に係る車体下部構造の作用効果について検証するための具体的な解析を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0050】
本実施例では、前述した実施の形態で
図1に示した車体下部構造1を備えた車両101の側面に対して、
図3に示すように、車体幅方向車外側からポール103に衝突させるポール側面衝突試験の衝突解析を行った(発明例)。
【0051】
車体下部構造1は、実施の形態で述べたように、サイドシル10と、バッテリーパック20と、フロアクロスメンバ30と、地面側クロスメンバ40と、を備えたものである。
【0052】
フロアクロスメンバ30は、フロントシート(図示無し)の締結用に設けられたものであり、
図4(a)に示すように、車体前後方向に間隔を空けて2本設置した。
2本のフロアクロスメンバ30は、いずれも、車体幅方向に延在する溝形状の両先端30aを閉じた形状とし、左右のサイドシル10の側面(サイドシルインナ11の天板部11a)に当接させた。
【0053】
地面側クロスメンバ40は、
図4(b)に示すように、バッテリーパック20の下面における車体幅方向の両端部20aから車外側へと延出するように設置され、車体幅方向に延在する溝形状を有する左右一組のものである。車体下部構造1において、地面側クロスメンバ40は、車体前後方向に間隔を空けて4組設置した。
【0054】
各地面側クロスメンバ40は、
図5に示すように、連続ハット断面形状部材41と、上部金属板43と、下部金属板45と、を備えて構成されたものとした。そして、各地面側クロスメンバ40は、溝形状が直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、溝高さを12.6mmとした。
【0055】
本実施例に係る車体下部構造1において、サイドシル10及びフロアクロスメンバ30は、引張強度980MPa級の鋼板を用いて形成し、地面側クロスメンバ40は、引張強度980MPa級の鋼板を用いて形成した。
【0056】
本実施例では、32km/hまで加速した車両101の側面に対して衝突角度75°でポール103に衝突させるポール側面衝突試験の衝突解析を行った(
図3)。
【0057】
電気自動車においては、車両101の側面におけるポール103の衝突位置によらずバッテリーパック20を保護することができるエニーウェア要件が厳しく求められる。そこで、本実施例では、
図6に示すように、車体前後方向(TL)におけるNo.1~No.5の5箇所をポール103の衝突位置とした(No.1:TL=520mm、No.2:TL=905mm、No.3:TL=1080mm、No.4:TL=1260mm、No.5:TL=1605mm)。
そして、No.1~No.5の各衝突位置についてポール側面衝突の衝突解析を行い、バッテリーパック20側に入力する荷重(バッテリーパックへの入力荷重)と、バッテリーパック20の変形量(バッテリーパックの変形量)を評価した。
【0058】
バッテリーパックへの入力荷重については、
図7(a)に示すように、衝突過程におけるサイドシルインナ11の接触によりバッテリーフレーム23に生じる反力(接触反力)とした。
【0059】
電気自動車等に搭載される電池に関しては、国連協定規則「UN ECE R100-0.2.Part.II」に適合することが要求され、車両衝突時における電池の安全性評価に関する試験項目として圧壊試験(衝撃試験)が規定されている。この圧壊試験では、100kN以上105kN以下の力で、3分未満の開始期間、100ms以上10s以下の保持期間で、試験対象装置(バッテリーパック)を押しつぶし、電池の破砕や電解液漏れ、火災又は爆発の兆候の有無を評価する(インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/jidosha/un/UN_R100.pdf>[令和5年6月21日検索]参照)。
そこで、本実施例では、バッテリーパックへの入力荷重の目標値を、国連協定規則「UN ECE R100-0.2.Part.II」の圧壊試験において電池に加える荷重である105kN以下とした。
【0060】
一方、バッテリーパックの変形量については、
図7(b)に示すように、車体前後方向の12か所においてバッテリーパック20の変形前と変形後それぞれの車体幅方向の長さを測定し、変形前後の差分を求めた。ここで、変形前のバッテリーパック20の内面とバッテリーセル21の最小間隔は、バッテリーパック20の板厚を考慮すると11mmであった。そこで本実施例では、ポール側面衝突時にバッテリーパック20とバッテリーセル21が接触しない条件として、バッテリーパックの変形量10mm未満を目標とした。
【0061】
本実施例では、
図8(a)(i)~(iii)に示すように、各地面側クロスメンバ40の長さを245mm、165mm及び85mmとした3ケースの車体下部構造1について衝突解析を行い、地面側クロスメンバ40の長さの影響を検討した。
【0062】
さらに、本実施例では、
図8(b)に示すように、車体幅方向に延在して両端部60aが左右のサイドシル10に接続する地面側クロスメンバ60を備えた車体下部構造51を参考例とし、発明例に係る車体下部構造1と同様にポール側面衝突の衝突解析を行った。
【0063】
参考例における地面側クロスメンバ60は、
図9(a)に示すように、バッテリーパック20の下面側に設置され、車体幅方向に延在する溝形状を有するものである。そして、地面側クロスメンバ60は、溝形状が直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、端部60aがサイドシル10の下面(サイドシルインナ11の下方側の縦壁部11b)に接続している。
【0064】
さらに、参考例の地面側クロスメンバ60は、発明例の地面側クロスメンバ40と同様、
図9に示すように、連続ハット断面形状部材61と、上部金属板63と、下部金属板65と、を備えて構成されたものとした。そして、地面側クロスメンバ60は、
図9(c)に示すように、溝高さを12.6mmとした。
また、参考例に係る車体下部構造51において、地面側クロスメンバ60は、車体前後方向に等間隔で4本設置した。
【0065】
図10に、発明例に係る地面側クロスメンバ40の長さを165mmとした車両101の側面に対して車体前後方向TL=905mmの位置(
図6(b))にポール103を衝突させたポール側面衝突過程における車体下部構造1の変形前後の様子を示す(変形前:
図10(b)、変形後:
図10(c))。なお、
図10(b)及び図(c)は、ポール103の衝突位置(TL=905mm)における車体下部構造1の断面図である。
【0066】
図10(c)に示すように、フロアクロスメンバ30の車外側の先端30aが変形し、地面側クロスメンバ40の車外側の端部40bに曲げ変形は生じているものの圧壊には至っていない。一方、サイドシル10は完全に潰れ切っていることから衝突エネルギーを十分に吸収していることが分かる。特に、サイドシルアウタ13が潰れた後、地面側クロスメンバ40の車外側の端部40bがサイドシル10の下面(サイドシルインナ11の縦壁部11b)に接続されていることにより、サイドシル10の下部が十分に潰れている。
そして、
図10(c)に示すように、サイドシル10が完全に潰れきっても、バッテリーパック20とバッテリーセル21の間には隙間が存在している。このことから、バッテリーセル21はバッテリーパック20の変形によって損傷されずに保護されていることがわかる。
【0067】
図11に、各地面側クロスメンバ40の長さを245mm、165mmとした車両101のそれぞれに対し、車体前後方向TL=1605mmの位置(
図6(e))にポールを側面衝突させる衝突解析により求めた車体下部構造1の変形の様子を示す。
【0068】
各地面側クロスメンバ40の長さを245mmとした場合と比べると、各地面側クロスメンバ40の長さを165mmとした場合においては、
図11(b)に示すように、サイドシル10が車内側へと大きく変形する結果となった。
【0069】
図12に、ポール103が衝突する車体前後方向の各位置について求めたバッテリーパックへの入力荷重とバッテリーパックの変形量の評価結果を示す。
バッテリーパックへの入力荷重は、地面側クロスメンバ40の長さによる大きな差異はなく、いずれも、目標であった105kN以下であった。
【0070】
バッテリーパックの変形量は、地面側クロスメンバ40の長さが短くなるに伴って増加し、長さ85mmと165mmの場合、No.5の衝突位置(
図6(e)、TL=1605mm)では目標である10mmを超えた結果となった。しかしながら、他の衝突位置(No.1~No.4)や、長さ245mmの地面側クロスメンバ40では、参考例と同程度の結果であり、目標とした10mm未満であった。
【0071】
電気自動車のポール側面衝突におけるエニーウェア要件は非常に難しい条件であるが、本発明に係る車体下部構造1によれば、地面側クロスメンバ40の長さを適切に選択すれば(実施例では、少なくとも245mm以上)、ポール衝突位置によらずバッテリーパックの変形量の目標を達成し、バッテリーを保護できることが実証された。
【符号の説明】
【0072】
1 車体下部構造
10 サイドシル
11 サイドシルインナ
11a 天板部
11b 縦壁部
11c フランジ部
13 サイドシルアウタ
13c フランジ部
20 バッテリーパック
20a 端部
21 バッテリーセル
23 バッテリーフレーム
30 フロアクロスメンバ
30a 先端
40 地面側クロスメンバ
40a 車内側の端部
40b 車外側の端部
41 連続ハット断面形状部材
41a 天板部
43 上部金属板
45 下部金属板
51 車体下部構造
60 地面側クロスメンバ
60a 端部
61 連続ハット断面形状部材
63 上部金属板
65 下部金属板
101 車両
103 ポール
【要約】
【課題】側面衝突時にバッテリーを保護する電気自動車の車体下部構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る電気自動車の車体下部構造1は、左右一対のサイドシル10と、サイドシル10の間に配設されたバッテリーパック20と、バッテリーパック20の上面側に設置され、車体幅方向に延在するフロアクロスメンバ30と、バッテリーパック20の下面における車体幅方向の両端部20aに設置されて車外側に延出する溝形状を有する左右一組の地面側クロスメンバ40と、を備え、フロアクロスメンバ30は、車体下方側に向かって開口して両先端30aが閉じた直線状の溝形状であり、先端30aがサイドシル10の側面に当接し、各地面側クロスメンバ40は、溝形状が直線状かつ断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、車内側の端部40aがバッテリーパック20の下面に接続し、車外側の端部40bがサイドシル10の下面に接続している。
【選択図】
図1