(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】発振器
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20241008BHJP
H03L 1/02 20060101ALI20241008BHJP
H03L 7/197 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H03B5/32 A
H03L1/02
H03L7/197 140
(21)【出願番号】P 2023141948
(22)【出願日】2023-09-01
(62)【分割の表示】P 2019029113の分割
【原出願日】2019-02-21
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100166523
【氏名又は名称】西河 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】上原 純
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-208584(JP,A)
【文献】特開2017-220770(JP,A)
【文献】特開2012-227870(JP,A)
【文献】特表2007-518351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30-5/42
H03L 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、
前記振動子に電気的に接続される第1回路装置と、
第2回路装置と、
を含み、
前記第1回路装置は、前記振動子を発振させることで第1クロック信号を生成すると共に、前記第1回路装置内の第1温度センサー、及び前記第1回路装置と前記第2回路装置の外部の外部温度センサーの少なくとも1つによる温度検出信号に基づいて、前記第1クロック信号の周波数
に対する粗調整の温度補償
であるアナログ方式の第1温度補償処理を行い、
前記第2回路装置は、前記第1回路装置からの前記第1クロック信号が入力され、前記第1クロック信号に基づいて第2クロック信号を生成すると共に、前記第1温度センサー、前記第2回路装置内の第2温度センサー、及び前記外部温度センサーの少なくとも1つによる温度検出信号に基づいて、前記第2クロック信号の周波数
に対する微調整の温度補償
であるデジタル方式の第2温度補償処理を行い、
温度補償が行われる温度範囲における前記第1クロック信号の前記第1温度補償処理後の周波数偏差の絶対値は、第1の値以下であり、且つ、前記第1の値よりも小さい第2の値よりも大きく、前記温度範囲における前記第2クロック信号の前記第2温度補償処理後の周波数偏差の絶対値は、前記第2の値以下であることを特徴とする発振器。
【請求項2】
請求項1に記載の発振器において、
前記第1回路装置は、前記外部温度センサーによる前記温度検出信号に基づいて前記第1温度補償処理を行い、
前記第2回路装置は、前記外部温度センサーによる前記温度検出信号に基づいて前記第2温度補償処理を行うことを特徴とする発振器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発振器において、
前記第1回路装置及び前記第2回路装置は、1つの半導体チップにより構成されることを特徴とする発振器。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の発振器において、
前記振動子は、シリコン基板を用いて形成されたMEMS振動子であることを特徴とする発振器。
【請求項5】
請求項2に記載の発振器において、
前記外部温度センサーと前記振動子との距離は、前記外部温度センサーと前記第2回路装置との距離よりも短いことを特徴とする発振器。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の発振器において、
温度変動による前記第1クロック信号の周波数偏差の絶対値は、-40℃以上105℃以下の温度範囲において1ppm以下であることを特徴とする発振器。
【請求項7】
請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の発振器において、
前記第1回路装置は、
前記振動子を発振させることで、前記第1クロック信号を生成する発振回路と、
前記第1温度補償処理を行う第1処理回路と、
を含み、
前記第2回路装置は、
前記第1回路装置からの前記第1クロック信号に基づいて、周波数設定信号により設定される周波数の前記第2クロック信号を生成するクロック信号生成回路と、
前記周波数設定信号を出力する第2処理回路と、
を含むことを特徴とする発振器。
【請求項8】
請求項
7に記載の発振器において、
前記第1処理回路は、
前記第1温度補償処理として、前記振動子の周波数温度特性を補償する温度補償用の制御電圧を生成し、前記制御電圧を前記発振回路に出力して前記発振回路の発振周波数を制御することで、前記第1クロック信号の周波数を制御する処理を行い、
前記第2処理回路は、
前記第2温度補償処理として、デジタル信号である前記周波数設定信号を前記クロック信号生成回路に出力することで、前記第2クロック信号の周波数を制御する処理を行うことを特徴とする発振器。
【請求項9】
請求項
7又は8に記載の発振器において、
前記第2回路装置は、学習済みモデルの情報を記憶する記憶部を含み、
前記第2処理回路は、前記学習済みモデルの情報に基づいて前記第2温度補償処理を行い、
前記記憶部は、
前記学習済みモデルの情報として、ニューラルネットワーク演算の重み付け係数の情報を記憶し、
前記第2処理回路は、温度検出信号に対応する温度検出データに基づいて、前記重み付け係数の情報を前記記憶部から読み出して、前記ニューラルネットワーク演算を行うことで、前記温度範囲の複数の温度の各温度に対応する温度補償値を求める前記第2温度補償処理を実行することを特徴とする発振器。
【請求項10】
請求項
7乃至9のいずれか一項に記載の発振器において、
前記クロック信号生成回路は、
前記第1クロック信号が基準クロック信号として入力されるフラクショナル-N型のPLL回路を含み、
前記周波数設定信号は、前記PLL回路が有する分周回路の分周比データであることを特徴とする発振器。
【請求項11】
請求項
10に記載の発振器において、
前記PLL回路は、
前記基準クロック信号である前記第1クロック信号と前記分周回路からのフィードバッククロック信号との位相比較を行う位相比較回路と、
前記位相比較の結果に基づいて、制御電圧を生成する制御電圧生成回路と、
前記制御電圧に対応する周波数のクロック信号を生成する電圧制御発振回路と、
を含むことを特徴とする発振器。
【請求項12】
請求項
7乃至9のいずれか一項に記載の発振器において、
前記クロック信号生成回路は、
前記第1クロック信号を基準クロック信号として、前記周波数設定信号により設定される周波数の前記第2クロック信号を生成するダイレクトデジタルシンセサイザーを含むことを特徴とする発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、温度検出結果に基づき温度補償を行う温度補償型の発振器が知られている。このような温度補償型の発振器としては例えば特許文献1に開示される従来技術が知られている。この従来技術の発振器では、振動子の発振信号の周波数を逓倍するフラクショナル-N型のPLL回路を用いてクロック信号を生成する。そしてこの発振器は、温度計測部と、温度補正テーブルが記憶される記憶部を含み、フラクショナル-N型のPLL回路の分周比を、温度計測部による温度計測値と温度補正テーブルに基づき設定することで、デジタル方式の温度補償処理を実現する。具体的には温度補正テーブルは、デジタルの温度検出データである温度計測値と分周比とを対応づけて記憶しており、温度計測値に基づき温度補正テーブルから読み出された分周比のデータに基づいて、フラクショナル-N型のPLL回路の分周比が設定される。これにより、振動子の発振信号の周波数を逓倍したクロック信号が発振器から出力されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているようなデジタル方式の温度補償処理では、温度計測結果の揺らぎなどを原因として、周波数のマイクロジャンプが生じる。この場合、温度補償のゲインが大きくなると、マイクロジャンプも大きくなるなどの問題が生じる。このような問題が発生すると、発振器のクロック周波数の高精度化の実現が困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、振動子と、前記振動子に電気的に接続される第1回路装置と、第2回路装置と、を含み、前記第1回路装置は、前記振動子を発振させることで、第1クロック信号を生成すると共に、前記第1クロック信号の周波数を温度補償する第1温度補償処理を行い、前記第2回路装置は、前記第1回路装置からの前記第1クロック信号が入力され、前記第1クロック信号に基づいて第2クロック信号を生成すると共に、前記第2クロック信号の周波数を温度補償する第2温度補償処理を行う発振器に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図5】周波数のマイクロジャンプやヒステリシス誤差の問題を説明する周波数温度特性の例。
【
図6】周波数のマイクロジャンプが発生した場合の周波数温度特性の例。
【
図7】周波数のマイクロジャンプを抑制した場合の周波数温度特性の例。
【
図9】本実施形態の温度補償手法による周波数偏差の改善の説明図。
【
図10】本実施形態の温度補償手法によるヒステリシス特性の改善の説明図。
【
図19】振動子及び回路装置が収容される発振器の構造例。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲の記載内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが必須構成要件であるとは限らない。
【0008】
1.発振器
図1に本実施形態の発振器4の基本的な構成例を示す。発振器4は、温度補償型発振器であり、振動子10と回路装置20と回路装置30を含む。発振器4は、恒温槽を備えない温度補償型水晶発振器(TCXO)であってもよいし、恒温槽を備える恒温槽型水晶発振器(OCXO)であってもよい。回路装置20は第1回路装置であり、回路装置30は第2回路装置である。回路装置20は振動子10に電気的に接続されている。例えばボンディグワイヤー、金属バンプ或いはパッケージの内部配線等を介して、振動子10と回路装置20は電気的に接続されている。また
図1では回路装置30は回路装置20に電気的に接続されている。例えばボンディグワイヤー、金属バンプ或いはパッケージの内部配線等を介して、回路装置20と回路装置30は電気的に接続されている。
【0009】
振動子10は、電気的な信号により機械的な振動を発生する素子である。振動子10は、例えば水晶振動片などの振動片により実現できる。例えば振動子10は、カット角がATカットやSCカットなどの厚みすべり振動する水晶振動片などにより実現できる。なお本実施形態の振動子10は、例えば厚みすべり振動型以外の振動片や、水晶以外の材料で形成された圧電振動片などの種々の振動片により実現できる。例えば振動子10として、SAW(Surface Acoustic Wave)共振子や、シリコン基板を用いて形成されたシリコン製振動子としてのMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子等を採用してもよい。
【0010】
回路装置20、30は、IC(Integrated Circuit)と呼ばれる集積回路装置である。例えば回路装置20、30は、半導体プロセスにより製造されるICであり、半導体基板上に回路素子が形成された半導体チップである。
【0011】
第1回路装置である回路装置20は、振動子10を発振させることで、クロック信号CK1を生成すると共に、クロック信号CK1の周波数を温度補償する第1温度補償処理を行う。そして回路装置20は、第1温度補償処理が行われたクロック信号CK1を出力する。クロック信号CK1は第1クロック信号である。第1温度補償処理は、温度変動によるクロック信号CK1の周波数変動を抑制して補償する処理である。
【0012】
第2回路装置である回路装置30は、回路装置20からのクロック信号CK1が入力され、クロック信号CK1に基づいてクロック信号CK2を生成すると共に、クロック信号CK2の周波数を温度補償する第2温度補償処理を行う。そして回路装置30は、第2温度補償処理が行われたクロック信号CK2を出力する。クロック信号CK2は第2クロック信号である。第2温度補償処理は、温度変動によるクロック信号CK2の周波数変動を抑制して補償する処理である。なお、以下では第1温度補償処理、第2温度補償処理を、適宜、温度補償処理と総称して記載する場合がある。
【0013】
具体的には
図1に示すように回路装置20は、発振回路22と処理回路24を含む。発振回路22は、振動子10を発振させることで、クロック信号CK1を生成する。処理回路24は、クロック信号CK1の周波数を温度補償する第1温度補償処理を行う。処理回路24は第1処理回路である。
【0014】
例えば回路装置20は、第1振動子用端子と第2振動子用端子を含む。回路装置20の外部に設けられる振動子10の一端である第1端子電極が、第1振動子用端子に電気的に接続される。また振動子10の他端である第2端子電極が、第2振動子用端子に電気的に接続される。また発振回路22による振動子10の発振動作により生成されたクロック信号CK1は、回路装置20のクロック出力端子を介して外部に出力される。例えば発振回路22からの発振信号が、不図示の出力回路によりバッファリングされて、クロック信号CK1としてクロック出力端子から出力される。第1振動子用端子、第2振動子用端子、クロック出力端子は、例えば回路装置20のパッドである。なお本実施形態における接続は電気的な接続である。電気的な接続は、電気信号が伝達可能に接続されていることであり、電気信号による情報の伝達が可能となる接続である。電気的な接続は能動素子等を介した接続であってもよい。
【0015】
発振回路22は、第1振動子用端子と第2振動子用端子の間に設けられた発振用の駆動回路などを含む。例えば発振回路22は、駆動回路を実現するバイポーラートランジスターなどのトランジスターと、キャパシターや抵抗などの能動素子により実現できる。発振回路22としては、例えばピアース型、コルピッツ型、インバーター型又はハートレー型などの種々のタイプの発振回路を用いることができる。また発振回路22には、可変容量回路が設けられており、この可変容量回路の容量値の調整により、発振周波数を調整できるようになっている。可変容量回路は、バラクターなどの電圧可変容量素子により実現できる。可変容量回路は、振動子10の一端に電気的に接続される。なお振動子10の一端に接続される第1可変容量回路と振動子10の他端に電気的に接続される第2可変容量回路を設けてもよい。
【0016】
処理回路24は、第1温度補償処理を行って、振動子10の発振を制御する制御電圧VCを出力する。例えば処理回路24は、第1温度補償処理として、振動子10の周波数温度特性を補償する温度補償用の制御電圧VCを生成して、制御電圧VCを発振回路22に出力する。この制御電圧VCに基づいて、発振回路22の可変容量回路のバラクター等の可変容量素子の容量値が調整されることで、発振回路22の発振の周波数が制御され、これによりクロック信号CK1の周波数が制御され、クロック信号CK1の第1温度補償処理が実現される。例えば温度変化に対するクロック信号CK1の周波数変化を一定にする第1温度補償処理が実現される。処理回路24は、例えばゲートアレイ等の自動配置配線によるASIC(Application Specific Integrated Circuit)の回路により実現できる。或いは処理回路24を、DSP(Digital Signal Processor)、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサーにより実現してもよい。
【0017】
回路装置30は、クロック信号生成回路32と処理回路34を含む。クロック信号生成回路32は、回路装置20からのクロック信号CK1に基づいて、周波数設定信号FSDにより設定される周波数のクロック信号CK2を生成する。例えばクロック信号生成回路32は、第1温度補償処理が行われたクロック信号CK1を基準クロック信号として、クロック信号CK1の周波数を逓倍した周波数のクロック信号CK2を生成する。クロック信号生成回路32は、後述するように例えばフラクショナル-N型のPLL回路やDDSと呼ばれるダイレクトデジタルシンセサイザーなどにより実現できる。クロック信号CK1は、回路装置30のクロック入力端子を介して回路装置30に入力される。クロック信号生成回路32により生成されたクロック信号CK2は、回路装置30のクロック出力端子を介して外部に出力される。例えばクロック信号生成回路32で生成されたクロック信号CK2は不図示の出力回路を介してクロック出力端子から出力され、発振器4の外部接続用の外部端子を介して外部に出力される。クロック入力端子、クロック出力端子は、例えば回路装置30のパッドである。
【0018】
処理回路34は、周波数設定信号FSDを出力する。この周波数設定信号FSDによりクロック信号CK2の周波数が制御されることで、第2温度補償処理が実現される。例えば温度変化に対するクロック信号CK2の周波数変化を一定にする第2温度補償処理が実現される。処理回路34は、例えばゲートアレイ等の自動配置配線によるASICの回路により実現できる。或いは処理回路34を、DSP、CPUなどのプロセッサーにより実現してもよい。
【0019】
例えば後述の
図8で説明するように、振動子10は、周波数温度特性において、温度に対する周波数の変動量である周波数変動量が大きい。従って、振動子10の発振によるクロック信号をそのまま用いて、例えばデジタル方式の温度補償処理を行うと、温度計測結果の揺らぎなどを原因とする周波数のマイクロジャンプが大きくなってしまい、発振器4のクロック周波数の高精度化の実現が困難になる。例えば温度検出データの量子化誤差などに起因する周波数のマイクロジャンプにより、クロック周波数の高精度化が難しくなる。なお、本実施形態におけるマイクロジャンプとは、温度変化に対する細かく急峻な周波数変化をいい、温度補償範囲全体に亘って生じるものを指す。後述の
図5において、具体的な例を示す。
【0020】
この点、本実施形態では、振動子10を発振させる回路装置20において、粗調整の温度補償処理である第1温度補償処理を行う。これにより回路装置20から出力されるクロック信号CK1の周波数温度特性での周波数変動量は小さくなる。そして回路装置30が、回路装置20からのクロック信号CK1に基づいてクロック信号CK2を生成する際に、微調整の温度補償処理である第2温度補償処理を行う。このように回路装置20により粗調整の第1温度補償処理を行った後に、回路装置30により微調整の第2温度補償処理を行うことで、温度計測結果の揺らぎなどを原因とする周波数のマイクロジャンプを小さくすることが可能になり、発振器4のクロック周波数の高精度化等を実現できる。例えば本実施形態では、温度変動によるクロック信号CK2の周波数偏差の絶対値は、温度変動によるクロック信号CK1の周波数偏差の絶対値よりも小さくなっており、クロック信号CK2の周波数温度特性での周波数変動量を非常に小さくすることが可能になる。例えば後述の
図8で説明するように、回路装置20により第1温度補償処理を行うことで、温度変動によるクロック信号CK1の周波数偏差の絶対値を、-40℃以上105℃以下の温度範囲において例えば1ppm以下とすることができる。そして本実施形態では、このように周波数偏差の絶対値が例えば1ppm以下となる粗調整の第1温度補償処理が行われたクロック信号CK1を回路装置30に入力し、回路装置30において第2温度補償処理を行ってクロック信号CK2を生成する。このようにすることで、クロック信号CK2の周波数偏差の絶対値を、例えば100ppb以下にすることが可能になり、更に望ましくは10ppb以下にすることが可能になり、クロック周波数の高精度化を実現できるようになる。なお、ここでいう周波数偏差とは、公称周波数と実際の周波数の差を、公称周波数で除算した値を言う。
【0021】
また本実施形態では、回路装置20は、振動子10を発振させることで、クロック信号CK1を生成する発振回路22と、第1温度補償処理を行う処理回路24を含む。そして回路装置30は、回路装置20からのクロック信号CK1に基づいて、周波数設定信号FSDにより設定される周波数のクロック信号CK2を生成するクロック信号生成回路32と、第2温度補償処理を行って、周波数設定信号FSDを出力する処理回路34を含む。このように、回路装置20に発振回路22と処理回路24を設けることで、振動子10を発振させてクロック信号CK1を生成する処理と、クロック信号CK1の周波数を温度補償する第1温度補償処理を、回路装置20に行わせることが可能になる。また回路装置30にクロック信号生成回路32と処理回路34を設けることで、クロック信号CK1に基づきクロック信号CK2を生成する処理と、クロック信号CK2の周波数を温度補償する第2温度補償処理を、回路装置30に行わせる可能になる。
【0022】
また本実施形態では、回路装置20の処理回路24は、第1温度補償処理として、振動子10の周波数温度特性を補償する温度補償用の制御電圧VCを生成して、制御電圧VCを発振回路22に出力する。一方、回路装置30の処理回路34は、温度検出データに基づいて第2温度補償処理を行って、デジタル信号である周波数設定信号FSDをクロック信号生成回路32に出力する。
【0023】
このようにすれば、第1温度補償処理により生成された制御電圧VCに基づいて、発振回路22の発振周波数が制御されることで、振動子10の周波数温度特性を補償する第1温度補償処理が行われたクロック信号CK1を生成できるようになる。そして、このクロック信号CK1と、第2温度補償処理により生成された周波数設定信号FSDがクロック信号生成回路32に入力されることで、第2温度補償処理が行われたクロック信号CK2を生成できるようになる。これにより、粗調整の第1温度補償処理を行った後に、微調整の第2温度補償処理を行うことが可能になり、発振器4のクロック周波数の高精度化を実現できるようになる。
【0024】
図2に本実施形態の発振器4の第1の構成例を示す。
図2では回路装置20は、温度センサー26を有し、温度センサー26による温度検出信号STに基づいて第1温度補償処理を行う。温度検出信号STは例えば温度検出電圧である。例えば温度センサー26は温度検出信号STを処理回路24に出力する。処理回路24は、温度センサー26からの温度検出信号STに基づいて第1温度補償処理を行う。例えば処理回路24は、温度センサー26からの温度検出信号STを、不図示のA/D変換回路によりA/D変換した温度検出データに基づいて第1温度補償処理を行う。このA/D変換回路は、処理回路24の外部に設けられていてもよいし、処理回路24の内部に設けられていてもよい。
【0025】
温度センサー26は、環境の温度に応じて変化する温度依存電圧を、温度検出信号STとして出力する。環境の温度は例えば振動子10や回路装置20等の周囲の環境の温度である。例えば温度センサー26は、温度依存性を有する回路素子を利用して温度依存電圧を生成し、温度に非依存の電圧を基準として温度依存電圧を出力する。例えば温度センサー26は、PN接合の順方向電圧を温度依存電圧として出力する。例えばバイポーラートランジスターのベース・エミッター間電圧を温度依存電圧として出力する。温度に非依存の電圧は例えばバンドギャップリファレンス電圧などである。
【0026】
処理回路24は、温度センサー26からの温度検出信号STにより、環境の温度を計測し、温度変動による振動子10の発振の周波数変動を抑制して、振動子10の周波数温度特性を補償する第1温度補償処理を行って、制御電圧VCを出力する。この制御電圧VCに基づいて、発振回路22が有する可変容量回路の容量値が制御されることで、温度変動による振動子10の発振の周波数変動を抑制して一定にする第1温度補償処理が実現される。例えばクロック信号CK1の周波数偏差の絶対値が例えば1ppm以下となる第1温度補償処理が実現される。
【0027】
このように回路装置20に内蔵される温度センサー26を用いて第1温度補償処理を行うことで、振動子10の周波数温度特性の適正な温度補償が可能になる。例えば回路装置20に内蔵される温度センサー26を用いることで、振動子10からそれほど距離が離れていない場所での温度を計測できるようになる。これにより、振動子10の実際の温度と、温度センサー26により計測された温度の差異を小さくできるため、より適切な第1温度補償処理を実現できる。例えば温度特性のヒステリシス誤差を低減することが可能になる。
【0028】
また
図2では回路装置30は、回路装置20の温度センサー26による温度検出信号STが入力され、温度検出信号STに基づいて第2温度補償処理を行う。例えば温度検出信号STは、回路装置20の信号出力端子を介して出力され、回路装置30の信号入力端子を介して回路装置30に入力される。信号出力端子は回路装置20の例えばパッドであり、信号入力端子は回路装置30の例えばパッドである。例えば回路装置20からの温度検出信号STは、回路装置30の処理回路34に入力される。そして処理回路34は、温度検出信号STに基づいて第2温度補償処理を行って、周波数設定信号FSDをクロック信号生成回路32に出力する。クロック信号生成回路32は、回路装置20からのクロック信号CK1に基づいて、周波数設定信号FSDにより設定される周波数のクロック信号CK2を生成する。例えばクロック信号生成回路32は、クロック信号CK1を基準クロック信号として、周波数設定信号FSDにより設定される周波数のクロック信号CK2を生成する。そして生成されたクロック信号CK2が発振器4から出力される。
【0029】
このように
図2では、回路装置30は、回路装置20の温度センサー26による温度検出信号STに基づいて、第2温度補償処理を行う。このようにすれば、回路装置20での第1温度補償処理と、回路装置30での第2温度補償処理を、同じ温度センサー26からの温度検出信号STに基づいて行うことができるため、より適正な温度補償処理を実現できる。また回路装置20に内蔵される温度センサー26を用いることで、温度センサー26と回路装置30との距離を離すことが可能になる。例えば温度センサー26と振動子10との距離を、温度センサー26と回路装置30との距離よりも近い距離にできる。例えば回路装置30は、デジタル方式の温度補償処理を行うため、デジタル処理により発生する熱量が高くなる。このような熱源となる回路装置30と温度センサー26との距離を、振動子10と温度センサー26との距離に比べて遠くすることで、回路装置30が発生する熱による悪影響を低減できる。具体的には、後述するような温度特性のヒステリシス誤差を大幅に低減することが可能になり、発振器4のクロック周波数の高精度化を実現できる。
【0030】
図3に本実施形態の発振器4の第2の構成例を示す。
図3では、回路装置30は、回路装置20及び回路装置30の外部に設けられた外部温度センサー27による温度検出信号STが入力され、温度検出信号STに基づいて第2温度補償処理を行う。例えば外部温度センサー27からの温度検出信号STは、回路装置30の信号入力端子を介して回路装置30に入力される。例えば外部温度センサー27からの温度検出信号STは、回路装置30の処理回路34に入力される。そして処理回路34は、温度検出信号STに基づいて第2温度補償処理を行って、周波数設定信号FSDをクロック信号生成回路32に出力する。例えば処理回路34は、外部温度センサー27からの温度検出信号を、不図示のA/D変換回路によりA/D変換した温度検出データに基づいて第2温度補償処理を行う。クロック信号生成回路32は、回路装置20からのクロック信号CK1に基づいて、周波数設定信号FSDにより設定される周波数のクロック信号CK2を生成する。
【0031】
外部温度センサー27は、例えば発振器4のパッケージの内部に実装される。外部温度センサー27としては、例えばサーミスターなどの回路部品により実現される種々の温度検出素子を用いることができる。また回路装置20は、外部温度センサー27からの温度検出信号STに基づいて第1温度補償処理を行ってもよいし、回路装置20に内蔵される温度センサー26から温度検出信号STに基づいて第1温度補償処理を行ってもよい。また回路装置20は、内蔵される温度センサー26と外部温度センサー27の両方を用いて、第1温度補償処理を行ってもよい。回路装置30も、回路装置20に内蔵される温度センサー26と外部温度センサー27の両方を用いて、第2温度補償処理を行ってもよい。或いは回路装置30は、回路装置30に内蔵される温度センサーを用いて第2温度補償処理を行うようにしてもよい。また外部温度センサー27として複数の温度センサーを設け、これらの複数の温度センサーを用いて、第1温度補償処理や第2温度補償処理を行うようにしてもよい。或いは回路装置20や回路装置30に複数の温度センサーを設け、これらの複数の温度センサーを用いて、第1温度補償処理や第2温度補償処理を行うようにしてもよい。
【0032】
このように
図3では、外部温度センサー27からの温度検出信号STに基づいて、第2温度補償処理などの温度補償処理が行われる。このようにすれば、例えば外部温度センサー27を振動子10の近くに配置することなどにより、振動子10の周囲での温度を、より適正に計測することが可能になる。これにより、より適切で高精度な温度補償処理を実現することが可能になる。例えば外部温度センサー27として、複数の温度センサーを発振器4のパッケージ内に設けることで、更に高精度な温度補償処理を実現することも可能になる。
【0033】
図4に本実施形態の発振器4の第3の構成例を示す。
図4では、回路装置30は、学習済みモデルの情報を記憶する記憶部35を含む。そして処理回路34は、学習済みモデルの情報に基づいて第2温度補償処理を行う。例えば処理回路34は、温度検出信号STと、記憶部35に記憶される学習済みモデルの情報とに基づいて、第2温度補償処理を行う。そして温度補償処理が行われた周波数設定信号FSDを出力する。記憶部35は、例えば不揮発性メモリーなどの半導体のメモリーにより実現できる。不揮発性メモリーとしては、例えばデータの電気的な消去が可能なEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)や、FAMOS(Floating gate Avalanche injection MOS)などを用いたOTP(One Time Programmable)のメモリーなどを用いることができる。
【0034】
温度検出信号STは、回路装置20が内蔵する温度センサー26からの温度検出信号であってもよいし、外部温度センサー27からの温度検出信号であってもよい。或いは温度検出信号STは、回路装置30が内蔵する不図示の温度センサーからの温度検出信号であってもよい。或いは、処理回路34は、温度センサー26、外部温度センサー27などの複数の温度センサーからの温度検出信号STと、記憶部35に記憶される学習済みモデルの情報とに基づいて、第2温度補償処理を行ってもよい。例えば記憶部35は、温度計測結果に対して、対応する温度補償値が得られるように機械学習させた学習済みモデルの情報を記憶する。処理回路34は、温度検出信号STと記憶部35の学習済みモデルの情報とに基づいて、各温度に対応する温度補償値を求める第2温度補償処理を行う。処理回路34がニューラルネットワーク演算を行う場合には、記憶部35は、学習済みモデルの情報として、ニューラルネットワーク演算の重み付け係数の情報を記憶する。処理回路34は、例えば温度検出信号STに対応する温度検出データに基づいて、重み付け係数の情報を記憶部35から読み出して、ニューラルネットワーク演算を行うことで、各温度に対応する温度補償値を求める第2温度補償処理を実行する。
【0035】
このように学習済みモデルの情報を用いて、第2温度補償処理を行うことで、より正確で適切な第2温度補償処理の実現が可能になる。例えば発振器4の製造時や出荷時において、当該発振器4の周波数温度特性を計測することで得られた学習済みモデルの情報を、不揮発性メモリーなどにより実現される記憶部35に書き込んで記憶させる。例えば発振器4の製造時や出荷時において、恒温槽などを用いて環境温度を変化させながら、各温度でのクロック信号の周波数特性を計測する。そして計測結果に基づき求められた学習済みモデルの情報を、記憶部35に書き込んで記憶させる。例えば各温度でのクロック周波数と温度検出信号をモニターし、各温度での温度検出信号の値に対応する適正な温度補償値が得られるように機械学習させた学習済みモデルの情報を、記憶部35に書き込んで記憶させる。このようにすることで、発振器4の実動作時において、処理回路34は、温度センサーからの温度検出信号に対応する温度補償データを求める第2温度補償処理を実行できるようになる。これにより、製造のプロセス変動や回路特性の変動などの影響を抑制してキャンセルした第2温度補償処理を実現することが可能になる。なお本実施形態の発振器4は
図1~
図4で説明した構成に限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば回路装置20と回路装置30を1つの半導体チップにより実現するような変形実施も可能である。また回路装置20に複数の温度センサーを設けたり、回路装置30に1又は複数の温度センサーを設けたり、ディスクリート部品で実現される複数の外部温度センサーを発振器4に設けてもよい。また、学習済みモデルの情報は発振器4の出荷後に更新されてもよい。また、学習済みモデルの情報に基づく第2温度補償処理は、発振器4が実装された状態で動作するものであればよい。第2温度補償処理を行うための構成は必ずしも他の回路要素と同一のパッケージに収容されているものに限らず、発振器4のパッケージの外部に設けられていてもよい。
【0036】
2.温度補償処理
次に本実施形態の温度補償処理について詳細に説明する。例えば
図5の周波数温度特性において、横軸は温度であり、例えば-40℃以上80℃以下、-40℃以上105℃以下、又は-40℃以上125℃以下というような温度範囲で温度を変化させている。また縦軸はppbなどの単位で表される周波数偏差である。以降の図面においても同様である。
【0037】
図5のA1は、従来の発振器において低い温度から高い温度に上げたときの周波数温度特性であり、A2は、高い温度から低い温度に下げたときの周波数温度特性である。
図5のA1のように温度を上昇させているときには、温度変動による周波数変動は比較的、少ない。しかしながら、A2のように、温度上昇後に温度を低下させたときには、ヒステリシス誤差HYSが発生してしまう。即ち、温度上昇により、回路装置のICの温度が上昇すると、その後に温度を低下させても、回路装置の温度は直ぐには下がらず、高いままになる。このため回路装置に内蔵する温度センサーを用いて温度補償処理を行うと、実際の振動子の温度や環境の温度とは異なる温度検出信号で温度補償処理が行われてしまうため、
図5に示すようなヒステリシス誤差HYSが発生してしまう。また
図5では、温度計測結果の揺らぎなどに起因する周波数のマイクロジャンプFJPも発生している。このようなマイクロジャンプFJPやヒステリシス誤差HYSが発生すると、温度変動による周波数偏差を、発振器の仕様である周波数許容誤差内に収めることが困難になる。
【0038】
図6は周波数のマイクロジャンプが発生している場合の周波数温度特性の例である。
図6のように大きなマイクロジャンプが発生すると周波数温度特性のスロープが悪化し、発振器の性能が悪化する。一方、
図7に示すようにマイクロジャンプを抑制することで、発振器のクロック周波数の高精度化を実現できる。
【0039】
図8のB1は、水晶振動子等の振動子10の周波数温度特性である。温度補償処理では、B1に示す振動子10の周波数温度特性をキャンセルする補償処理が行われる。このためB2に示すように、例えば20ppm~40ppmというような広い補正範囲で温度補償処理を行う必要がある。一方、温度センサーを用いた温度計測結果には揺らぎがある。例えば
図8のTTは、真値の温度であり、温度計測結果には、TL~THに示すような揺らぎがある。この揺らぎは、外気温の揺らぎや、温度センサーの検出バラツキや、振動子10への熱伝達の時間差のバラツキや、温度検出信号のA/D変換のバラツキなどによって発生する。そしてTL~THに示すような温度検出結果の揺らぎが発生すると、この揺らぎに起因する補正誤差ΔE1が大きくなる。例えばB1に示すような振動子10の周波数温度特性を、B2に示すような広い補正範囲で、1回の温度補償処理で補償しようとすると、補正誤差ΔE1が起因となって、
図5、
図6に示すような周波数のマイクロジャンプFJPが発生してしまう。例えばデジタル方式の温度補償処理である第2温度補償処理は、温度検出信号をA/D変換することで得られたデジタルの温度検出データに基づき行われる。このため温度検出信号のA/D変換における量子化誤差があり、
図8のB1の周波数温度特性に対して直接に第2温度補償処理を行ってしまうと、この量子化誤差による補正誤差が、
図8のΔE1のように大きくなってしまう。
【0040】
この点、本実施形態では、回路装置20により粗調整の第1温度補償処理を行う。このような第1温度補償処理を行うことで、
図8のB3に示すように、温度変動によるクロック信号CK1の周波数偏差の絶対値を、-40℃以上105℃以下の温度範囲において例えば1ppm以下にすることができる。従って、TL~THに示すような温度計測結果の揺らぎが発生した場合にも、補正誤差ΔE2を非常に小さくすることが可能になる。即ち本実施形態では、粗調整の第1温度補償処理が行われたクロック信号CK1を回路装置30に入力し、回路装置30において微調整の第2温度補償処理を行って、クロック信号CK2を生成する。従って、回路装置30には、
図8のB3に示すような周波数温度特性のクロック信号CK1が入力されるため、回路装置30は、B2に示すような広い補正範囲で温度補償処理を行う必要がなく、狭い補正範囲で温度補償処理を行えば済むようになる。従って、温度計測結果に揺らぎが発生した場合にも、補正誤差ΔE2を小さくできる。例えば温度検出信号のA/D変換における量子化誤差による補正誤差を、
図8のΔE2のように小さくできるため、クロック周波数の高精度化を図れる。例えば温度変動によるクロック信号CK2の周波数偏差の絶対値を、温度変動によるクロック信号CK1の周波数偏差の絶対値よりも十分に小さくすることができる。これにより、クロック信号CK2の周波数偏差の絶対値を、例えば100ppb以下にすることが可能になる。具体的には
図9に示すように、クロック信号CK2の周波数偏差の絶対値を10ppb以下にすることが可能になり、クロック周波数の高精度化を実現できる。
【0041】
また本実施形態では
図2に示すように、回路装置30は、回路装置20の温度センサー26による温度検出信号STに基づいて、第2温度補償処理を行う。このようにすれば、例えばデジタル方式の第2温度補償処理を行うことで、回路装置30が発熱した場合にも、この発熱の悪影響が温度センサー26の温度検出結果に及ぶのを抑制できるようになる。例えば温度センサー26と振動子10との距離を、温度センサー26と回路装置30との距離よりも近くすることが可能になり、振動子10の温度を、温度センサー26を用いて、より適正に計測できるようになる。例えば温度センサー26と回路装置30との距離を遠くすることができるため、回路装置30の発熱の悪影響が温度センサー26の温度検出結果に及ぶのを抑制できるようになる。この結果、
図5で説明したヒステリシス誤差HYSを大幅に低減できるようになる。例えば
図10のC1は、本実施形態の発振器4において、低い温度から高い温度に上げたときの周波数温度特性であり、C2は、高い温度から低い温度に下げたときの周波数温度特性である。
図10に示すように、本実施形態の発振器4によれば、
図5に比べてヒステリシス誤差を大幅に低減できるようになり、発振器4のクロック周波数の高精度化の実現が可能になる。
【0042】
3.回路装置
図11に、第1回路装置である回路装置20の第1の構成例を示す。
図11に示すように回路装置20は、振動子10を発振させることでクロック信号CK1を生成する発振回路22と、第1温度補償処理を行う処理回路24を含む。また
図11では回路装置20は、温度センサー26と記憶部50を含む。記憶部50は、例えば不揮発性メモリーなどのメモリーにより実現できる。
【0043】
そして
図11では、処理回路24は、第1温度補償処理として、振動子10の周波数温度特性を補償する温度補償用の制御電圧VCを生成して、制御電圧VCを発振回路に出力する。例えば振動子10の周波数温度特性を多項式近似により補償するための関数の発生処理を、第1温度補償処理として行って、温度補償用の制御電圧VCを発振回路22に出力する。そして発振回路22は、例えば振動子10の一端に電気的に接続される可変容量回路を含み、この可変容量回路の容量値が、制御電圧VCに基づいて制御される。これにより第1温度補償処理が行われたクロック信号CK1が回路装置20から出力されるようになる。即ち
図8のB3に示すように、温度変動による周波数偏差の絶対値が、-40℃以上105℃以下の温度範囲において1ppm以下となるようなクロック信号CK1が出力されるようになる。
【0044】
具体的には処理回路24は、温度補償回路28と制御回路29を含み、温度補償回路28は関数発生回路52を含む。制御回路29は、記憶部50からのデータの読み出し制御や、温度補償回路28の制御を行う。関数発生回路52は、振動子10の周波数温度特性を多項式近似により補償するための関数の発生処理を行う。記憶部50は、多項式近似における多項式の係数データを記憶する。例えば関数発生回路52は、0次成分発生回路、1次成分発生回路、3次成分発生回路を含む。また関数発生回路52は高次成分発生回路を含むことができる。高次成分は4次以上の成分である。0次成分発生回路は、記憶部50から読み出された0次成分用の係数データに基づいて、振動子10の周波数温度特性の0次成分を近似する0次成分信号を出力する。1次成分発生回路、3次成分発生回路、高次成分発生回路は、各々、記憶部50から読み出された1次成分用、3次成分用、高次成分用の係数データに基づいて、振動子10の周波数温度特性の1次成分を近似する1次成分信号、3次成分を近似する3次成分信号、高次成分を近似する高次成分信号を出力する。そして温度補償回路28は、これらの0次成分信号、1次成分信号、3次成分信号、高次成分信号の加算処理を行うことで、振動子10の周波数温度特性の補償用の制御電圧VCを生成する。このような構成の
図11の回路装置20によれば、多項式近似を用いたアナログ方式の第1温度補償処理を実現できるようになる。
【0045】
図12に、回路装置20の第2の構成例を示す。
図12に示すように回路装置20は、振動子10を発振させることでクロック信号CK1を生成する発振回路22と、第1温度補償処理を行う処理回路24を含む。また
図12では回路装置20は、温度センサー26と記憶部57とA/D変換回路58を含む。記憶部57は、例えば不揮発性メモリーなどのメモリーにより実現できる。A/D変換回路58は、温度センサー26からの温度検出信号STである温度検出電圧のA/D変換を行って、温度検出データDTを処理回路24に出力する。そして処理回路24は、第1温度補償処理として、振動子10の周波数温度特性を補償する温度補償用の制御電圧VCを生成して、制御電圧VCを発振回路に出力する。そして発振回路22の可変容量回路の容量値が、制御電圧VCに基づいて制御されることで、第1温度補償処理が行われたクロック信号CK1が回路装置20から出力されるようになる。
【0046】
具体的には処理回路24は、デジタル信号処理回路56とD/A変換回路54を含む。デジタル信号処理回路56は、記憶部57から読み出された温度補償処理用の係数データに基づいて、第1温度補償処理を行う。例えばデジタル信号処理回路56は、温度に応じて変化する温度検出データDTと、多項式近似における多項式の係数データとに基づいて、温度変化があった場合にも振動子10の発振周波数を一定にするための第1温度補償処理を行って、周波数制御データを生成する。そしてD/A変換回路54は、デジタル信号処理回路56からの周波数制御データのD/A変換を行って、温度補償用の制御電圧VCを発振回路22に出力する。これにより、第1温度補償処理が行われたクロック信号CK1が回路装置20から出力されるようになる。
【0047】
図13に、第2回路装置である回路装置30の第1の構成例を示す。
図13では回路装置30は、クロック信号生成回路32と処理回路34とA/D変換回路60とレジスター62を含む。A/D変換回路60は、温度検出信号STのA/D変換を行って、デジタルの温度検出データDTを出力する。レジスター62は、分周比設定値VDIVを記憶する。レジスター62は、例えばフリップフロップ回路などにより実現できる。或いはレジスター62をRAMなどのメモリーにより実現してもよい。処理回路34は、温度検出データDTに基づいて第2温度補償処理を行って、
図1~
図4で説明したデジタル信号の周波数設定信号FSDとして、分周比設定信号SDIVをクロック信号生成回路32に出力する。例えば処理回路34は、A/D変換回路60からの温度検出データDTと、レジスター62からの分周比設定値VDIVとに基づいて、第2温度補償処理が行われたクロック信号CK2を生成させる分周比設定信号SDIVを、クロック信号生成回路32に出力する。
【0048】
クロック信号生成回路32は、クロック信号CK1が基準クロック信号として入力されるPLL回路40を含む。PLL回路40は例えばフラクショナル-N型のPLL回路である。そして
図1~
図4で説明した周波数設定信号FSDは、PLL回路40が有する分周回路48の分周比設定信号SDIVである。分周回路48は、分周比設定信号SDIVで設定される分周比で分周処理を行う。
【0049】
このように
図13では、クロック信号生成回路32は、クロック信号CK1が基準クロック信号として入力されるフラクショナル-N型のPLL回路40を含み、周波数設定信号FSDとして、分周比設定信号SDIVが、PLL回路40の分周回路48に入力される。このようにすれば第2温度補償処理が行われた分周比設定信号SDIVをPLL回路40の分周回路48に入力して、クロック信号CK1の周波数を逓倍するPLL動作を実現し、クロック信号CK1の周波数を逓倍した信号に基づくクロック信号CK2を生成できるようになる。これによりクロック信号CK1に基づいて、第2温度補償処理が行われたクロック信号CK2を生成できるようになる。またフラクショナル-N型のPLL回路40を用いることで、PLL回路40の分周比として整数のみならず分数の設定も可能になり、任意の周波数のクロック信号CK2を生成することが可能になる。
【0050】
次に
図13の回路装置30の構成について更に詳細に説明する。
図13では、クロック信号生成回路32は、PLL回路40と出力回路33を含む。
【0051】
出力回路33は、PLL回路40が出力するクロック信号CKQに基づいてクロック信号CK2を出力する。例えば出力回路33は、不図示の分周回路を含み、この分周回路によりクロック信号CKQの分周を行うことで、クロック信号CK2の周波数を可変に設定できるようになっている。これにより、クロック信号CK2の周波数をユーザーが所望する周波数に設定できる。また出力回路33は、例えばLVDS(Low Voltage Differential Signaling)、PECL(Positive Emitter Coupled Logic)、HCSL(High Speed Current Steering Logic)、又は差動のCMOS(Complementary MOS)などの信号形式で、クロック信号CK2を外部に出力する。例えば出力回路33は、LVDS、PECL、HCSL及び差動のCMOSのうちの少なくとも2つの信号形式でクロック信号CK2を出力可能な回路であってもよい。この場合には出力回路33は、処理回路34により設定された信号形式でクロック信号CK2を出力することになる。
【0052】
PLL回路40は、クロック信号CK1が基準クロック信号として入力され、PLL(Phase Locked Loop)の動作を行う。例えばPLL回路40は、クロック信号CK1の周波数を逓倍した周波数のクロック信号CKQを生成する。即ちクロック信号CK1に位相同期した高精度のクロック信号CKQを生成する。PLL回路40は、位相比較回路42と制御電圧生成回路44と電圧制御発振回路46と分周回路48を含む。
【0053】
位相比較回路42は、基準クロック信号であるクロック信号CK1とフィードバッククロック信号FBCKとの間の位相比較を行う。例えば位相比較回路42は、クロック信号CK1とフィードバッククロック信号FBCKの位相を比較し、クロック信号CK1とフィードバッククロック信号FBCKの位相差に応じた信号CQを位相比較結果の信号として出力する。位相差に応じた信号CQは、例えば位相差に比例したパルス幅のパルス信号である。
【0054】
制御電圧生成回路44は、位相比較回路42での位相比較の結果に基づいて、制御電圧VC2を生成する。例えば制御電圧生成回路44は、位相比較回路42からの位相比較結果の信号CQに基づいて、チャージポンプ動作やフィルター処理を行って、電圧制御発振回路46の発振を制御する制御電圧VC2を生成する。
【0055】
VCO(Voltage controlled oscillator)である電圧制御発振回路46は、制御電圧VC2に対応する周波数のクロック信号CKQを生成する。例えば制御電圧生成回路44からの制御電圧VC2に基づいて発振動作を行って、クロック信号CKQを生成する。例えば電圧制御発振回路46は、制御電圧VC2に応じて変化する周波数のクロック信号CKQを発振動作により生成する。一例としては、電圧制御発振回路46は、バラクターなどの可変容量素子を有し、この可変容量素子の容量が制御電圧VC2に基づいて変化することで、電圧制御発振回路46の発振動作により生成される発振信号であるクロック信号CKQの周波数が変化する。なお電圧制御発振回路46としては、例えばインダクターを用いるLC発振回路などを用いることができる。
【0056】
分周回路48は、クロック信号CKQを分周してフィードバッククロック信号FBCKを出力する。例えば分周回路48は、クロック信号CKQの周波数を、分周比設定信号SDIVにより設定される分周比で分周した周波数の信号を、フィードバッククロック信号FBCKとして出力する。例えば電圧制御発振回路46の発振の周波数をfvcoとし、分周回路48の分周動作の分周比をDIVとした場合に、フィードバッククロック信号FBCKの周波数は、fvco/DIVになる。そして位相比較回路42は、前述のように、クロック信号CK1と、分周回路48からのフィードバッククロック信号FBCKの位相比較を行う。
【0057】
このような位相比較回路42、制御電圧生成回路44、電圧制御発振回路46、分周回路48を有する構成のPLL回路40を用いることで、クロック信号CK1に位相同期したクロック信号CKQを生成し、クロック信号CKQに基づく高精度のクロック信号CK2を生成して出力できるようになる。
【0058】
また本実施形態では、処理回路34は、デルタシグマ変調回路36と演算回路38を含む。このデルタシグマ変調回路36によりデルタシグマ変調を行うことで、PLL回路40がフラクショナル-N型のPLL回路として動作するようになる。また演算回路38は、A/D変換回路60からの温度検出データDTと、レジスター62からの分周比設定値VDIVに基づいて、第2温度補償処理を行う。分周比設定値VDIVはPLL回路40の分周比を設定するためのデータである。デルタシグマ変調回路36は、演算回路38の演算結果である演算値に対して、デルタシグマ変調を行い、分周回路48の分周比を設定する分周比設定信号SDIVを出力する。
【0059】
例えば
図13では、分周回路48とデルタシグマ変調回路36とによりフラクショナル分周器が構成される。フラクショナル分周器は、PLL回路40の逓倍率の逆数を分周比としてクロック信号CKQを分周し、分周後のクロック信号をフィードバッククロック信号FBCKとして位相比較回路42に出力する。デルタシグマ変調回路36は、分周比の小数部の値をデルタシグマ変調して、整数である変調値を生成する。例えばデルタシグマ変調回路36は3次や4次のデルタシグマ変調処理を行う。そして分周比の整数部の値と変調値の加算値が、分周比設定信号SDIVとして分周回路48に設定される。これによりフラクショナル-N型のPLL回路40が実現される。
【0060】
具体的には、デルタシグマ変調回路36は、分数分周比L/Mを積分して量子化するデルタシグマ変調を行い、デルタシグマ変調信号を生成する。そしてデルタシグマ変調回路36は、デルタシグマ変調信号と整数分周比Nとを加減算する処理を行い、加減算後の出力信号が分周回路48に入力される。この加減算後の出力信号は、整数分周比Nの付近の範囲の複数の整数分周比が時系列に変化し、その時間平均値はN+L/Mに一致する。このN+L/Mが、処理回路34からの分周比設定信号SDIVにより設定される。例えば前述したように、クロック信号CKQの周波数をfvcoとし、クロック信号CK1及びフィードバッククロック信号FBCKの周波数である位相比較周波数をfpfdとする。この場合に、基準クロック信号であるクロック信号CK1の位相とフィードバッククロック信号FBCKの位相が同期した定常状態では、fvco=(N+L/M)×fpfdの関係式が成り立つ。このような構成のフラクショナル-N型のPLL回路40を用いることで、N+L/Mで表される分周比でクロック信号CK1を逓倍したクロック信号CKQを生成できるようになる。
【0061】
演算回路38は、温度検出データDTに基づいて第2温度補償処理を行って、温度補償値を生成する。そして演算回路38は、分周比設定値VDIVと温度補償値の加算処理を行って、演算値を求め、求められた演算値を演算結果としてデルタシグマ変調回路36に出力する。デルタシグマ変調回路36は、この演算値に対してデルタシグマ変調を行って、分周比設定信号SDIVを生成し、分周回路48に出力する。
【0062】
このようにすれば、フラクショナル分周器を実現できると共に、温度変化によるクロック信号CK2の周波数の変動を抑制する第2温度補償処理を実現できるようになる。しかも本実施形態によれば、フラクショナル分周器を実現するフラクショナル分周処理と、温度補償処理とを、処理回路34におけるデジタル演算処理により一括して実行できる。従って、回路装置30の回路規模の増加等の抑制を図りながら、フラクショナル分周処理と温度補償処理を実現できるようになる。
【0063】
図14に回路装置30の第2の構成例を示す。
図14が
図13と異なるのは、
図14では処理回路34がニューラルネットワーク演算回路39を有し、記憶部35がニューラルネットワーク演算用の学習済みモデルの情報を記憶する点である。即ち
図14は
図4で説明した構成例に対応するものであり、回路装置30は、学習済みモデルの情報を記憶する記憶部35を含み、処理回路34は、学習済みモデルに基づいて第2温度補償処理を行う。なお学習済みモデルに基づいて第2温度補償処理を行う場合には、複数の温度センサーからの温度検出信号に基づいてニューラルネットワーク演算を行うことが望ましい。例えば回路装置20に設けられる1又は複数の温度センサー26や、1又は複数の外部温度センサー27や、或いは回路装置30に設けられる1又は複数の温度センサーなどからの温度検出信号に基づいてニューラルネットワーク演算を行う。
【0064】
ニューラルネットワークは、脳機能を計算機上でシミュレーションする数学モデルであり、入力層と中間層と出力層を有する。入力層は、入力値を出力するニューロンである。中間層以降の各ニューロンでは、脳の中で電気信号として情報が伝達される様子を模した演算が行われる。脳では、シナプスの結合強度に応じて情報の伝わりやすさが変わるため、ニューラルネットワークでは当該結合強度を重みで表現する。またニューロンでの演算では、非線形関数である活性化関数が用いられる。活性化関数としては例えばReLU関数やシグモイド関数などが用いられる。そして、それぞれのニューロンでは、当該ニューロンに接続される1つ前の層の各ニューロンの出力を重みを用いて積和する演算を行い、バイアスを加算し、活性化関数を適用する演算を行う。そして出力層での演算結果が、当該ニューラルネットワークの出力になる。
【0065】
ニューラルネットワークにおいて、入力から所望の出力を得るためには、適切な重みとバイアスを設定する必要がある。なお、以下では重みを重み付け係数とも表記する。重み付け係数にはバイアスが含まれてもよいものとする。学習では、入力と、当該入力での正しい出力とを対応付けたデータセットを用意しておく。正しい出力は教師データである。ニューラルネットワークの学習処理とは、当該データセットに基づいて、最も確からしい重み付け係数を求める処理と考えることが可能である。ニューラルネットワークの学習処理としては、例えば誤差逆伝播法などを用いることができる。誤差逆伝播法では、フォワードパスとバックワードパスを繰り返すことで、パラメーターを更新して行く。ここでのパラメーターとは、重み付け係数である。
【0066】
そして本実施形態において、ニューラルネットワークの入力は、温度検出データである。この場合に、複数の温度センサーによる複数の温度検出データを、入力とすることが望ましい。また記憶部35には、学習済みモデルの情報として、例えばニューラルネットワークの重み付け係数の情報が記憶されている。学習済みモデルは、入力層と中間層と出力層とを有し、温度検出データと温度補償値とを対応付けたデータセットに基づき、重み付け係数の情報が設定されている。ニューラルネットワーク演算回路39は、温度検出データを学習済モデルの入力層の入力として、記憶部35に記憶される重み付け係数の情報に基づく演算を行い、学習済みモデルの出力層の出力として温度補償値が出力されるように、ニューラルネットワーク演算を行う。この場合に例えば製造、出荷時における学習段階においては、各温度におけるクロック周波数を測定し、測定されたクロック周波数に基づいて、温度変化に対してクロック周波数を一定にするための温度補償値を求める。そして温度補償値と、各温度に対応する温度検出データとを対応づけたデータセットに基づいて、重み付け係数の情報を設定して、学習済みモデルの情報として、記憶部35に書き込む。こうすることで、学習済みモデルに基づく第2温度補償処理を実現できるようになる。なお、本実施形態における機械学習はニューラルネットワークを用いる手法に限定されず、例えばSVM(support vector machine)などの広く知られた種々の方式の機械学習、或いはそれらの方式を発展させた方式の機械学習を適用することが可能である。
【0067】
図14のように学習済みモデルに基づくニューラルネットワーク演算により第2温度補償処理を行うことで、より正確で適切な第2温度補償処理の実現が可能になる。例えば製造のプロセス変動や回路特性の変動による悪影響を抑制した第2温度補償処理の実現が可能になる。
【0068】
図15に回路装置30の第3の構成例を示す。
図15では、クロック信号生成回路32はダイレクトデジタルシンセサイザー68を含む。ダイレクトデジタルシンセサイザー68は、クロック信号CK1を基準クロック信号として、周波数設定信号FSDにより設定される周波数のクロック信号CK2を生成する。
【0069】
具体的には
図15では処理回路34は演算回路64と加算器66を含む。演算回路64には、温度検出信号STをA/D変換回路60によりA/D変換することで得られた温度検出データDTが入力される。そして演算回路64は、温度検出データDTに基づいて温度補償値を求める演算処理を行って、温度補償値を加算器66に出力する。この場合の温度補償値の演算処理は、
図4、
図14で説明した学習済みモデルに基づくニューラルネットワーク演算などの演算処理により実現してもよい。そして加算器66は、周波数設定値VFSDに対して温度補償値を加算する処理を行って、周波数設定信号FSDをクロック信号生成回路32に出力する。クロック信号生成回路32のダイレクトデジタルシンセサイザー68は、周波数設定信号FSDにより設定される周波数のクロック信号CK2を生成する。出力回路33は、生成されたクロック信号CK2を、LVDS、PECL、HCSL又は差動のCMOSなどの信号形式で外部に出力する。
【0070】
ダイレクトデジタルシンセサイザー68は、基準クロック信号に基づいて、任意の周波数のクロック信号をデジタル的に生成する回路である。ここでは基準クロック信号はクロック信号CK1である。ダイレクトデジタルシンセサイザー68は、例えば積算ブロックである位相アキュムレーターと波形信号生成回路を含む。位相アキュムレーターは、1サイクル分の動作として、基準クロック信号に同期して積算設定値を積算して行く。この積算設定値によりクロック周波数が設定される。波形信号生成回路は、例えば波形メモリーとD/A変換回路を含むことができる。位相アキュムレーターでの積算結果が、波形メモリーのアドレスとなり、これにより周波数設定信号FSDに対応するクロック周波数のクロック波形が生成されるようになる。
【0071】
図15のようなダイレクトデジタルシンセサイザー68を用いることで、周波数設定値VFSDで設定される任意の周波数のクロック信号CK2を生成できるようになる。そして処理回路34が第2温度補償処理を行うことで、温度補償された高精度のクロック信号CK2を生成することが可能になる。
【0072】
4.発振器の構造例
次に発振器4の構造例について説明する。
図16に発振器4の第1の構造例を示す。
図16は発振器4の構造を模式的に示す断面図である。本実施形態では発振器4は、振動子10と回路装置20と回路装置30を含む。また発振器4は、振動子10及び回路装置20を収容するパッケージ15と、パッケージ15及び回路装置30を収容するパッケージ5を含む。パッケージ15、パッケージ5は、各々、第1パッケージ、第2パッケージである。第1パッケージ、第2パッケージは第1容器、第2容器と言うこともできる。
【0073】
そして本実施形態では、パッケージ15に収容される回路装置20が第1温度補償処理を行い、パッケージ5に収容される回路装置30が第2温度補償処理を行う。例えば振動子10及び回路装置20がパッケージ15に収容されることで、例えばアナログ方式の第1温度補償処理を行う温度補償型の発振器14が構成される。そして、アナログ方式の第1温度補償処理を行う発振器14と、デジタル方式の第2温度補償処理を行う回路装置30とがパッケージ5に収容されることで、高精度のクロック信号を生成する発振器4が構成される。回路装置30は、デジタル方式で微調整の第2温度補償処理を行う補正ICと呼ぶこともできる。
【0074】
具体的にはパッケージ5は、例えばセラミック等により形成され、その内側に収容空間を有している。この収容空間に、振動子10及び回路装置20がパッケージ15に収容された発振器14と、回路装置30とが収容されている。収容空間は気密封止されており、望ましくは真空に近い状態である減圧状態になっている。パッケージ5により、回路装置30及び発振器14を衝撃、埃、熱、湿気等から好適に保護することができる。
【0075】
パッケージ5はベース6とリッド7を有する。具体的にはパッケージ5は、発振器14及び回路装置30を支持するベース6と、ベース6との間に収容空間を形成するようにベース6の上面に接合されたリッド7とにより構成されている。ベース6は、その内側に、上面に開口する第1凹部と、第1凹部の底面に開口する第2凹部を有する。回路装置30は、第1凹部の底面に支持されている。例えば回路装置30は、端子電極を介して底面の段差部に支持されている。また発振器14は、第2凹部の底面に支持されている。例えば発振器14は、端子電極を介して底面の段差部に支持されている。またベース6は、第2凹部の底面に開口する第3凹部を有しており、この第3凹部に回路部品12が配置される。配置される回路部品12としては、例えばコンデンサーや、
図3で説明した外部温度センサー27などを想定できる。
【0076】
回路装置30は、例えばボンディングワイヤーBWや、段差部に形成された端子電極や、パッケージ5の内部配線を介して、発振器14の端子に電気的に接続される。これにより発振器14からのクロック信号CK1や温度検出信号STを回路装置30に入力できるようになる。また回路装置30は、ボンディングワイヤーBWや、段差部に形成された端子電極や、パッケージ5の内部配線を介して、発振器4の外部端子8、9に電気的に接続される。外部端子8、9は、パッケージ5の外側底面に形成されている。外部端子8、9は、外部配線を介して外部デバイスに接続される。外部配線は、例えば外部デバイスが実装される回路基板に形成される配線などである。これにより回路装置30と外部デバイスの間の電気的な接続が可能になり、外部デバイスに対してクロック信号CK2などを出力できるようになる。なお発振器14の端子と外部端子8、9を電気的に接続するようにしてもよい。
【0077】
図16では、発振器14は回路装置30の下方に配置されている。例えば回路装置30の基板に直交しパッケージ5の底面に向かう方向をDA1とし、方向DA1に直交する方向を方向DA2とする。回路装置30の基板は半導体基板である。この場合に、発振器14は回路装置30の方向DA1に配置される。回路部品12は発振器14の方向DA1に配置される。回路装置30は、方向DA2を基板の長手方向として配置される。
【0078】
そして
図15では、回路装置30は、温度センサー26による温度検出信号STに基づいて第1温度補償処理を行い、温度センサー26と振動子10との距離L1は、温度センサー26と回路装置30との距離L2よりも近くなっている。例えば温度センサー26は、半導体チップである回路装置20に形成され、振動子10は、その主面が回路装置20の主面に対向するように配置されている。そして距離L1は、方向DA1での温度センサー26と振動子10との距離であり、例えば方向DA1での温度センサー26と振動子10の最短距離である。また距離L2は、方向DA1での温度センサー26と回路装置30との距離であり、例えば方向DA1での温度センサー26と回路装置30の最短距離である。
【0079】
このように距離L1を距離L2よりも短くすることで、温度センサー26により振動子10の温度を、より正確に計測することが可能になる。例えば回路装置30は、デジタル方式の第2温度補償処理を行ったり、PLL回路40やダイレクトデジタルシンセサイザー68により高速なクロック信号を生成するため、高い熱を発生する発熱源になる。従って、回路装置30と温度センサー26との距離L2が短いと、発熱源である回路装置30からの熱が、温度センサー26による振動子10の温度計測に悪影響を及ぼす。
【0080】
この点、本実施形態では、距離L1が短く、距離L2が長くなるため、回路装置30の発熱が温度計測に与える悪影響を低減できる。更に本実施形態では、振動子10及び回路装置20がパッケージ15に収容されることで、回路装置30からの熱の伝達を、パッケージ15により熱遮断することが可能になる。従って、回路装置30の発熱が温度計測に与える悪影響を更に低減することが可能になる。これにより、
図10に示すようにヒステリシス誤差を大幅に低減できる。
【0081】
図17に発振器4の第2の構造例を示す。
図17では、パッケージ5の底面に補正用の回路装置30が配置され、回路装置30の上方に発振器14が配置されている。例えば
図16では、回路装置30の下方である方向DA1に発振器14が配置されていたが、
図17では、方向DA1の反対方向に発振器14が配置されている。また
図17では発振器14は、
図16とは上下方向が逆になるように配置されており、発振器14の底面の端子がボンディングワイヤーBWを介して回路装置30のパッドである端子に電気的に接続されている。また回路装置30の端子は、ボンディングワイヤーBWや端子電極やパッケージ5の内部配線を介して外部端子8、9に電気的に接続される。そして
図17の第2の構造例においても、温度センサー26と振動子10との距離L1は、温度センサー26と回路装置30との距離L2よりも近くなっている。これにより、温度センサー26による振動子10の正確な温度計測が可能になる。
【0082】
図18に発振器4の第3の構造例を示す。
図18では、発振器14の方向DA2に回路装置30が配置されている。例えば発振器4の上面視において発振器14と回路装置30が方向DA2に並ぶように配置されている。そして
図18の第3の構造例においても、温度センサー26と振動子10との距離L1は、温度センサー26と回路装置30との距離L2よりも近くなっており、温度センサー26による振動子10の正確な温度計測が可能になっている。なお発振器4のコンパクト化という観点では、
図18の第3の構造例よりも
図16、
図17の第1、第2の構造例の方が望ましい。
【0083】
図19に発振器14の構造例を示す。発振器14は、振動子10と、回路装置20と、振動子10及び回路装置20を収容するパッケージ15を有する。パッケージ15は、例えばセラミック等により形成され、その内側に収容空間を有しており、この収容空間に振動子10及び回路装置20が収容されている。収容空間は気密封止されており、望ましくは真空に近い状態である減圧状態になっている。パッケージ15により、振動子10及び回路装置20を衝撃、埃、熱、湿気等から好適に保護することができる。
【0084】
パッケージ15はベース16とリッド17を有する。具体的にはパッケージ15は、振動子10及び回路装置20を支持するベース16と、ベース16との間に収容空間を形成するようにベース16の上面に接合されたリッド17とにより構成されている。そして振動子10は、ベース16の内側に設けられた段差部に端子電極を介して支持されている。また回路装置20は、ベース16の内側底面に配置されている。具体的には回路装置20は、能動面がベース16の内側底面に向くように配置されている。能動面は回路装置20の回路素子が形成される面である。また回路装置20のパッドである端子にバンプBMPが形成されている。そして回路装置20は、導電性のバンプBMPを介してベース16の内側底面に支持される。導電性のバンプBMPは例えば金属バンプであり、このバンプBMPやパッケージ15の内部配線や端子電極などを介して、振動子10と回路装置20が電気的な接続される。また回路装置20は、バンプBMPやパッケージ15の内部配線を介して、発振器14の外部端子18、19に電気的に接続される。外部端子18、19は、パッケージ15の外側底面に形成されている。そして
図16、
図17、
図18に示すように、発振器14の外部端子18、19は、ボンディングワイヤーBWや内部配線や端子電極を介して回路装置30に電気的に接続される。これにより発振器14からのクロック信号CK1や温度検出信号STを回路装置30に入力できるようになる。
【0085】
なお
図19では、回路装置20の能動面が下方に向くように回路装置20がフリップ実装されているが、本実施形態はこのような実装には限定されない。例えば回路装置20の能動面が上方に向くように回路装置20を実装してもよい。即ち能動面が振動子10に対向するように回路装置20を実装する。この実装によれば、
図16、
図17、
図18に示すように回路装置20の能動面に形成された温度センサー26が振動子10に対向するようになる。また以上では、振動子10及び回路装置20を発振器14のパッケージ15に収容し、発振器14及び回路装置30をパッケージ5に収容するダブルシールド構造について説明した。しかしながら本実施形態の発振器4の構造はこれに限定されず、種々の変形実施が可能である。例えば振動子10と回路装置20と回路装置30を1つのパッケージ5に収容するシングルシールド構造を採用するようにしてもよい。
【0086】
5.電子機器、移動体
図20に、本実施形態の発振器4を含む電子機器500の構成例を示す。電子機器500は、発振器4と、発振器4からのクロック信号CK2に基づいて動作する処理装置520を含む。また電子機器500は、アンテナANT、通信インターフェース510、操作インターフェース530、表示部540、メモリー550を含むことができる。なお電子機器500は
図20の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
【0087】
電子機器500は、例えば基地局又はルーター等のネットワーク関連機器、距離、時間、流速又は流量等の物理量を計測する高精度の計測機器、生体情報を測定する生体情報測定機器、或いは車載機器などである。生体情報測定機器は例えば超音波測定装置、脈波計又は血圧測定装置等である。車載機器は自動運転用の機器等である。また電子機器500は、頭部装着型表示装置や時計関連機器などのウェアラブル機器、ロボット、印刷装置、投影装置、スマートフォン等の携帯情報端末、コンテンツを配信するコンテンツ提供機器、或いはデジタルカメラ又はビデオカメラ等の映像機器などであってもよい。
【0088】
また電子機器500としては、5Gなどの次世代移動通信システムに用いられる機器がある。例えば次世代移動通信システムの基地局、リモートレディオヘッド(RRH)又は携帯通信端末などの種々の機器に本実施形態の発振器4を用いることができる。次世代移動通信システムでは、時刻同期等のために高精度のクロック周波数が要望されており、例えば10ppb以下の周波数偏差を実現できる本実施形態の発振器4の適用例として好適である。
【0089】
通信インターフェース510は、アンテナANTを介して外部からデータを受信したり、外部にデータを送信する処理を行う。プロセッサーである処理装置520は、電子機器500の制御処理や、通信インターフェース510を介して送受信されるデータの種々のデジタル処理などを行う。処理装置520の機能は、例えばマイクロコンピューターなどのプロセッサーにより実現できる。操作インターフェース530は、ユーザーが入力操作を行うためのものであり、操作ボタンやタッチパネルディスプレイなどにより実現できる。表示部540は、各種の情報を表示するものであり、液晶や有機ELなどのディスプレイにより実現できる。メモリー550は、データを記憶するものであり、その機能はRAMやROMなどの半導体メモリーにより実現できる。
【0090】
図21に、本実施形態の発振器4を含む移動体の例を示す。移動体は、発振器4と、発振器4からのクロック信号CK2に基づき動作する処理装置220を含む。本実施形態の発振器4は、例えば、車、飛行機、バイク、自転車、或いは船舶等の種々の移動体に組み込むことができる。移動体は、例えばエンジンやモーター等の駆動機構、ハンドルや舵等の操舵機構、各種の電子機器を備えて、地上や空や海上を移動する機器・装置である。
図21は移動体の具体例としての自動車206を概略的に示している。自動車206には、本実施形態の発振器4が組み込まれる。制御装置208は、発振器4と、発振器4により生成されたクロック信号CK2に基づき動作する処理装置220を含む。制御装置208は、例えば車体207の姿勢に応じてサスペンションの硬軟を制御したり、個々の車輪209のブレーキを制御する。例えば制御装置208により、自動車206の自動運転を実現してもよい。なお本実施形態の発振器4が組み込まれる機器は、このような制御装置208には限定されず、自動車206等の移動体に設けられるメーターパネル機器やナビゲーション機器などの種々の車載機器に組み込むことが可能である。
【0091】
以上に説明したように本実施形態の発振器は、振動子と、振動子に電気的に接続される第1回路装置と、第2回路装置を含む。第1回路装置は、振動子を発振させることで、第1クロック信号を生成すると共に、第1クロック信号の周波数を温度補償する第1温度補償処理を行う。第2回路装置は、第1回路装置からの第1クロック信号が入力され、第1クロック信号に基づいて第2クロック信号を生成すると共に、第2クロック信号の周波数を温度補償する第2温度補償処理を行う。
【0092】
本実施形態によれば、振動子を発振させる第1回路装置が第1温度補償処理を行うことで、第1回路装置から出力される第1クロック信号の周波数温度特性での周波数変動量を小さくできる。そして第2回路装置が、第1回路装置からの第1クロック信号に基づいて第2クロック信号を生成する際に第2温度補償処理を行う。このように第1回路装置により第1温度補償処理を行った後に、第2回路装置により第2温度補償処理を行うことで、温度計測結果の揺らぎなどを原因とする周波数のマイクロジャンプを小さくすることなどが可能になり、発振器のクロック周波数の高精度化等を実現できるようになる。
【0093】
また第1回路装置は、温度センサーを有し、温度センサーによる温度検出信号に基づいて第1温度補償処理を行ってもよい。
【0094】
このように第1回路装置に内蔵される温度センサーを用いて第1温度補償処理を行うことで、振動子の周波数温度特性の適正な温度補償が可能になる。
【0095】
また本実施形態では、温度センサーと振動子との距離は、温度センサーと第2回路装置との距離よりも短くてもよい。
【0096】
このように、温度センサーと振動子との距離を、温度センサーと第2回路装置との距離よりも近くすることで、振動子についての温度を、温度センサーを用いて、より正確に計測することが可能になる。
【0097】
また本実施形態では第2回路装置は、温度センサーによる温度検出信号が入力され、温度検出信号に基づいて第2温度補償処理を行ってもよい。
【0098】
このようにすれば、第1回路装置での第1温度補償処理と、第2回路装置での第2温度補償処理を、同じ温度センサーからの温度検出信号に基づいて行うことが可能になるため、より適正な温度補償処理を実現できる。
【0099】
また本実施形態では第2回路装置は、第1回路装置及び第2回路装置の外部に設けられた外部温度センサーによる温度検出信号が入力され、温度検出信号に基づいて第2温度補償処理を行ってもよい。
【0100】
このようにすれば、外部温度センサーを温度計測に適切な場所に配置することなどにより、適切な温度計測が可能になる。
【0101】
また本実施形態では、温度変動による第2クロック信号の周波数偏差の絶対値は、温度変動による第1クロック信号の周波数偏差の絶対値よりも小さくてもよい。
【0102】
このようにすれば、粗調整の第1温度補償処理の後に微調整の第2温度補償処理を行って、周波数偏差の絶対値が小さい高精度の第2クロック信号を、発振器から出力できるようになる。
【0103】
また本実施形態では、温度変動による第1クロック信号の周波数偏差の絶対値は、-40℃以上105℃以下の温度範囲において1ppm以下であってもよい。
【0104】
このようにすれば、周波数偏差の絶対値が例えば1ppm以下となる粗調整の第1温度補償処理が行われた第1クロック信号を第2回路装置に入力し、第2回路装置において第2温度補償処理を行って、高精度の第2クロック信号を生成できるようになる。
【0105】
また本実施形態では、第1回路装置は、振動子を発振させることで、第1クロック信号を生成する発振回路と、第1温度補償処理を行う第1処理回路を含んでもよい。また第2回路装置は、第1回路装置からの第1クロック信号に基づいて、周波数設定信号により設定される周波数の第2クロック信号を生成するクロック信号生成回路と、周波数設定信号を出力する第2処理回路を含んでもよい。
【0106】
このような構成にすることで、振動子を発振させて第1クロック信号を生成する処理と第1クロック信号の周波数を温度補償する第1温度補償処理を、第1回路装置に行わせることが可能になる。また第1クロック信号に基づき第2クロック信号を生成する処理と、第2クロック信号の周波数を温度補償する第2温度補償処理を、第2回路装置に行わせる可能になる。
【0107】
また本実施形態では、第1処理回路は、第1温度補償処理として、振動子の周波数温度特性を補償する温度補償用の制御電圧を生成して、制御電圧を発振回路に出力してもよい。また第2処理回路は、第2温度補償処理として、デジタル信号である周波数設定信号をクロック信号生成回路に出力してもよい。
【0108】
このようにすれば、第1温度補償処理により生成された制御電圧に基づいて、発振回路の発振周波数が制御されることで、振動子の周波数温度特性を補償する第1温度補償処理が行われた第1クロック信号を生成できるようになる。そして、この第1クロック信号と、第2温度補償処理により生成された周波数設定信号がクロック信号生成回路に入力されることで、第2温度補償処理が行われた第2クロック信号を生成できるようになる。
【0109】
また本実施形態では、第2回路装置は、学習済みモデルの情報を記憶する記憶部を含み、第2処理回路は、学習済みモデルの情報に基づいて第2温度補償処理を行ってもよい。
【0110】
このように学習済みモデルの情報を用いて、第2温度補償処理を行うことで、より正確で適切な第2温度補償処理の実現が可能になる。
【0111】
また本実施形態では、クロック信号生成回路は、第1クロック信号が基準クロック信号として入力されるフラクショナル-N型のPLL回路を含み、周波数設定信号は、PLL回路が有する分周回路の分周比データであってもよい。
【0112】
このようにすれば、第2温度補償処理が行われた分周比設定信号をPLL回路の分周回路に設定して、第1クロック信号の周波数を逓倍した信号に基づく第2クロック信号を生成できるようになり、第1クロック信号に基づいて、第2温度補償処理が行われた第2クロック信号を生成できるようになる。
【0113】
また本実施形態では、PLL回路は、基準クロック信号である第1クロック信号と分周回路からのフィードバッククロック信号との位相比較を行う位相比較回路と、位相比較の結果に基づいて、制御電圧を生成する制御電圧生成回路と、制御電圧に対応する周波数のクロック信号を生成する電圧制御発振回路を含んでもよい。
【0114】
このような構成のPLL回路を用いることで、第1クロック信号に位相同期したPLLのクロック信号を生成し、このPLLのクロック信号に基づく高精度の第2クロック信号を生成できるようになる。
【0115】
また本実施形態では、クロック信号生成回路は、第1クロック信号を基準クロック信号として、周波数設定信号により設定される周波数の第2クロック信号を生成するダイレクトデジタルシンセサイザーを含んでもよい。
【0116】
このようなダイレクトデジタルシンセサイザーを用いることで、周波数設定信号により設定される任意の周波数の第2クロック信号を生成できるようになる。そして処理回路が第2温度補償処理を行うことで、温度補償された高精度の第2クロック信号を生成することが可能になる。
【0117】
また本実施形態では、振動子及び第1回路装置を収容する第1パッケージと、第1パッケージ及び第2回路装置を収容する第2パッケージを含んでもよい。
【0118】
このように、振動子及び第1回路装置が第1パッケージに収容されることで、例えば第2回路装置などの、第1パッケージの外部の熱源からの熱の伝達を、第1パッケージにより熱遮断することが可能になり、第1パッケージの外部の熱源からの熱が温度計測に与える悪影響を低減できる。
【0119】
また本実施形態は、上記に記載の発振器と、発振器からの第2クロック信号に基づいて動作する処理装置とを含む電子機器に関係する。
【0120】
また本実施形態は、上記に記載の発振器と、発振器からの第2クロック信号に基づいて動作する処理装置とを含む移動体に関係する。
【0121】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また発振器、振動子、第1回路装置、第2回路装置、発振回路、第1処理回路、クロック信号生成回路、第2処理回路、電子機器、移動体の構成・動作等も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0122】
CK1、CK2…クロック信号、VC、VC2…制御電圧、FSD…周波数設定信号、
ST…温度検出信号、DT…温度検出データ、SDIV…分周比設定信号、
VDIV…分周比設定値、VFSD…周波数設定値、
FBCK…フィードバッククロック信号、CKQ…クロック信号、L1、L2…距離、
BW…ボンディングワイヤー、BMP…バンプ、ANT…アンテナ、
4…発振器、5…パッケージ、6…ベース、7…リッド、8、9…外部端子、
10…振動子、12…回路部品、14…発振器、15…パッケージ、
16…ベース、17…リッド、18、19…外部端子、
20…回路装置、22…発振回路、24…処理回路、26…温度センサー、
27…外部温度センサー、28…温度補償回路、29…制御回路、
30…回路装置、32…クロック信号生成回路、33…出力回路、
34…処理回路、35…記憶部、36…デルタシグマ変調回路、38…演算回路、
39…ニューラルネットワーク演算回路、40…PLL回路、42…位相比較回路、
44…制御電圧生成回路、46…電圧制御発振回路、48…分周回路、
50…記憶部、52…関数発生回路、54…D/A変換回路、
56…デジタル信号処理回路、57…記憶部、58…A/D変換回路、
60…A/D変換回路、62…レジスター、64…演算回路、66…加算器、
68…ダイレクトデジタルシンセサイザー、
206…自動車、207…車体、208…制御装置、
209…車輪、220…処理装置、
500…電子機器、510…通信インターフェース、520…処理装置、
530…操作インターフェース、540…表示部、550…メモリー