(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20241008BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241008BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
H02J7/00 X
H02J7/00 301B
(21)【出願番号】P 2023199386
(22)【出願日】2023-11-24
(62)【分割の表示】P 2019180611の分割
【原出願日】2019-09-30
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】竹花 諒介
(72)【発明者】
【氏名】鵜久森 南
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-93066(JP,A)
【文献】特開2016-126943(JP,A)
【文献】特開2018-85781(JP,A)
【文献】特開2018-169393(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0200266(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子の想定される負荷パターンを取得する取得部と、
前記
負荷パターンに基づいて、前記蓄電素子のSOCの
時系列データにおける変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOC代表値とを特定する特定部と、
特定した前記変動幅及び前記SOC代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する推定部と
を備える、推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記変動幅、前記SOC代表値に基づいて、前記蓄電素子の通電時の形状変化を算出し、
算出した形状変化と、前記蓄電素子の経時的な形状変化とを用いて、形状変化を推定する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推定部が推定する形状変化に基づいて、前記蓄電素子の残寿命を予測する予測部を
さらに備える、請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記SOC領域に対応する区間の前記蓄電素子の温度を取得し、
前記特定部は、前記区間における温度を代表する温度代表値を特定し、
前記推定部は、前記温度代表値に基づいて、前記形状変化を推定する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項5】
コンピュータが、
蓄電素子の想定される負荷パターンを取得し、
前記負荷パターンに基づいて、前記蓄電素子のSOCの時系列データにおける変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOC代表値とを特定し、
特定した前記変動幅及び前記SOC代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する、推定方法。
【請求項6】
蓄電素子の想定される負荷パターンを取得し、
前記負荷パターンに基づいて、前記蓄電素子のSOCの時系列データにおける変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOC代表値とを特定し、
特定した前記変動幅及び前記SOC代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する
処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【請求項7】
推定した形状変化に基づいて、前記蓄電素子を設計する
処理をコンピュータに実行させる請求項
6に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電素子の形状変化を推定する推定装置、推定方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーを蓄積し、必要な時に動力源としてエネルギーを供給できる蓄電素子が利用されている。蓄電素子は、携帯機器、電源装置、自動車や鉄道を含む輸送機器、航空・宇宙・建設用を含む産業用機器等に適用されている。
リチウムイオン二次電池等の蓄電素子(以下、電池という)は、充放電が繰り返されることで徐々に劣化する。この劣化の一つに、電池内部でのガスの発生による内圧の上昇、電極群の膨張等に基づく、エレメントを収容したケースの厚みの増加がある。
【0003】
電池を複数直列に接続して電池モジュールを構成し、機器に搭載することが多い。ケースの厚み増加量を考慮し、最適の電池モジュールの設計を行うことは、コスト、電池性能の観点から重要であり、電池モジュールを搭載する機器の設計においても重要な課題である。即ち電池の性能を最大限に引き出すように電池モジュールの設計を行い、また、電池モジュールを搭載する機器に対しモデルベース開発を適用するために、電池の形状変化を精度良く予測することが必要である。
【0004】
特許文献1には、二次電池の状態を履歴として記憶し、記憶した履歴に基づいて電池ケース内でのガス発生量に相関した係数を取得し、取得した係数と履歴とから二次電池の劣化量を算出する、二次電池の制御装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1等の従来の方法では、電池の厚み増加量の推定の精度が不十分であった。SOC(State Of Charge)の変動パターンが複雑である場合を含め、推定の精度の向上が望まれている。
【0007】
本発明の目的は、蓄電素子の形状変化を精度良く推定することが可能な推定装置、推定方法、及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る推定装置は、蓄電素子におけるSOCの時系列データを取得する取得部と、前記時系列データにおける前記SOCの変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOC代表値とを特定する特定部と、特定した前記変動幅及び前記SOC代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する推定部とを備える。
【0009】
本発明の一態様に係る推定方法は、蓄電素子におけるSOCの時系列データを取得し、前記時系列データにおける前記SOCの変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOCの代表値とを特定し、特定した前記変動幅及び前記代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する。
【0010】
本発明の一態様に係るコンピュータプログラムは、蓄電素子におけるSOCの時系列データを取得し、前記時系列データにおける前記SOCの変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOCの代表値とを特定し、特定した前記変動幅及び前記代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、蓄電素子の劣化を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】ΔSOCは25%、充放電電流は同一であり、中心SOCを37.5%、62.5%、87.5%に変えた場合の、時間と厚み増加量との関係を示すグラフである。
【
図3】
図2の合計厚み増加量から経時的厚み増加量を減じた場合の、時間と厚み増加量との関係を示すグラフである。
【
図4】中心SOCは60%、充放電電流は同一であり、ΔSOCを10%、80%に変えた場合の、合計SOCと厚み増加量との関係を示すグラフである。
【
図5】
図4の合計厚み増加量から経時的厚み増加量を減じた場合の、合計SOCと厚み増加量との関係を示すグラフである。
【
図6】中心SOC及びΔSOCは同一であり、温度が25℃、45℃である場合の、合計SOCと厚み増加量との関係を示すグラフである。
【
図7】実施形態1に係る充放電システム及びサーバの構成を示すブロック図である。
【
図10】制御部による厚み増加量の算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図12】第1膨張係数テーブルの一例を示す図である。
【
図13】SOCの変動データの充放電の開始点からΔSOC及び中心SOCを特定する方法の説明図である。
【
図14】SOCの変動データに基づき、起点からSOCが閾値に達する都度、カウントし、ΔSOC及び中心SOCを特定する方法の説明図である。
【
図16】SOCの標準偏差と平均値とを算出する方法の説明図である。
【
図17】第1膨張係数テーブルに記憶している、標準偏差、平均SOC、及び第1膨張係数の関係を示すグラフである。
【
図18】特定した第1膨張係数及び時間に基づいて、厚み増加量を算出する方法の説明図である。
【
図19】SOCをΔ0.5%、Δ1.5%、Δ5%、Δ20%、Δ30%で変動させた場合の時間とSOCとの関係を示すグラフである。
【
図20】
図19の波形をフーリエ変換し、複数の周波数領域の波形成分に分解したグラフである。
【
図21】振幅スペクトルと周波数と第1膨張係数との関係を示すグラフである。
【
図22】時間と厚み増加量との関係を示すグラフである。
【
図23】ΔSOCが同一であり、中心SOCが異なる場合に、合計SOCと厚み増加量との関係を求めた結果を示すグラフである。
【
図24】中心SOCが同一であり、ΔSOCが異なる場合に、合計SOCと厚み増加量との関係を求めた結果を示すグラフである。
【
図25】短時間に充放電を繰り返し、ΔSOC、中心SOCも異なる複雑な変動パターンを有する場合の、時間と厚み増加量との関係を算出した結果を示すグラフである。
【
図26】複雑な変動パターンを有する場合の、時間と厚み増加量との関係を求めた結果を示すグラフである。
【
図27】制御部により、電池モジュールの残寿命を予測する場合の処理手順を示すフローチャートである。
【
図28】実施形態3に係る電池モジュールの斜視図である。
【
図29】制御部による圧迫力増加量の算出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図30】実施形態4に係る情報処理システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図31】制御部による厚み増加量の算出処理の手順、及び制御部による電池モジュールの設計処理の手順を示すフローチャートである。
【
図32】実施形態5に係る情報処理システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図33】制御部による電池モジュールの厚み増加量算出処理及び設計処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態の概要)
実施形態に係る推定装置は、蓄電素子におけるSOCの時系列データを取得する取得部と、前記時系列データにおける前記SOCの変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOC代表値とを特定する特定部と、特定した前記変動幅及び前記SOC代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する推定部とを備える。
【0014】
後述するように、本発明者等は、SOCの変動幅が同一であっても、この変動幅におけるSOC領域を代表するSOC代表値、例えば中心のSOCが異なると、蓄電素子の厚み増加量が大きく異なることを見出した。SOC代表値が同一であっても、SOCの変動幅が異なると、蓄電素子の厚み増加量が大きく異なることを見出した。さらに、SOCの変動値及び代表値が同一であっても、蓄電素子の温度が異なると、蓄電素子の厚み増加量が異なることを見出した。即ち蓄電素子の形状変化を推定するに際し、蓄電素子が使用されたSOCの経路情報(SOC使用範囲)と、この経路の期間の温度代表値とを考慮する必要があることを見出した。SOC代表値としては、経路の期間のSOCの中心値以外に、平均のSOC、最頻値、最小値、及び最大値も挙げられる。温度代表値としては、変動幅の区間の平均値、最頻値、中央値等が挙げられる。
なお、蓄電素子の負荷パターン(使用パターン)等から蓄電素子の温度代表値が一定であると推定される場合は、該温度を温度代表値とすることができる。
【0015】
ここで、形状変化とは、電極体若しくはエレメントの膨れ等の変位量、電極体若しくはエレメントを収容するケース(密閉型、開放型のいずれでもよい)の変位量、外側に広がる力(反力)の変化、若しくは蓄電素子の少なくとも一面に印加されている圧力の変化、又はこれらの組み合わせをいう。
収容するケースとは、例えば角型ケースや円筒形ケース、パウチラミネートフィルム等が挙げられる。
蓄電素子が完全に拘束されている状態、フリーな状態、及びその中間の状態のいずれであっても、形状変化を推定できる。
【0016】
上記構成によれば、特定した前記変動幅及び前記SOC代表値に基づいて蓄電素子の形状変化を推定し、即ちSOC使用範囲を加味して推定するので、SOCの変動パターンが複雑である場合を含め、推定の精度が良好である。
電池の形状変化を精度良く推定できるので、適切な電池モジュールの設計を行うことができる。
【0017】
SOC代表値等の特定方法として、以下の4つの例が挙げられる。夫々特定の精度を上げるために指標(形状変化を推定する区間、閾値等の設定)が異なり、指標に応じて特定方法を使い分けることができる。
上述の推定装置において、第1特定方法として、前記特定部は、前記時系列データに基づいて、充電開始点と放電開始点とを取得し、取得した充電開始点と放電開始点とに基づいて、前記変動幅及び前記SOC代表値を特定してもよい。
【0018】
第1特定方法は、区間、閾値を設定する必要はない。
上記構成によれば、充電を開始し、放電を開始したタイミングで、SOCの変動幅及び代表値を容易に特定できる。充放電が不規則であり、SOCが複雑に変動する場合においても、良好に変動幅及び代表値を特定できる。
【0019】
上述の推定装置において、第2特定方法として、前記特定部は、前記時系列データに基づいて、起点からSOCが閾値に達する都度、変動幅及びSOC代表値を算出し、前記起点から算出の時点まで算出した変動幅及びSOC代表値を特定してもよい。
【0020】
第2特定方法は、閾値を設定する必要がある。
上記構成によれば、起点からSOCが閾値に達する都度、合算してSOCの変動幅を容易に特定でき、特定した変動幅におけるSOC代表値を特定する。充放電が不規則であり、SOCが複雑に変動する場合においても、良好に変動幅及びSOC代表値を特定できる。
【0021】
上述の推定装置において、第3特定方法として、前記特定部は、前記時系列データに基づいて、SOCの標準偏差及び平均値を算出し、算出した標準偏差及び平均値を前記変動幅及び前記SOC代表値として特定してもよい。
【0022】
第3特定方法は、区間を設定する必要がある。
上記構成によれば、統計処理により容易に変動幅及び代表値を特定できる。充放電が不規則であり、SOCが複雑に変動する場合においても、良好に変動幅及びSOC代表値を特定できる。
【0023】
上述の推定装置において、第4特定方法として、前記特定部は、前記時系列データにおける前記SOCの変動の波形を周波数成分に変換し、変換した周波数成分の振幅を前記変動幅、周波数をSOCの変動量として特定してもよい。
【0024】
第4特定方法は、区間を設定する必要がある。ここで、SOCの変動量とは、積算したSOC変動量であり、サイクル数に対応する。
上記構成によれば、SOCの変動の波形を周波数成分に変換するので、変動が大きいが周期(変動時間)が長い波形、及び変動が小さいが周期が短い波形も検出することができる。変動が大きいが周期が長い波形は強度(スペクトル強度、フーリエ変換の場合は振幅スペクトル)が大きく、周波数が低い波形成分となる。変動が小さいが周期が短い波形は強度が小さく、周波数が高い波形成分となる。変動が大きくても周期が非常に長い場合、蓄電素子の形状変化は小さい。変動が小さくても周期が非常に短い場合、形状変化が大きい。蓄電素子の特性とユーザの使い方により、SOCの変動の波形は異なるが、上記の構成によれば、いずれの波形も検出して、良好に蓄電素子の形状変化を推定できる。
【0025】
上述の推定装置において、前記推定部は、変動幅、SOC代表値、及び膨張係数の関係を参照し、特定した前記変動幅及び前記SOC代表値に基づいて、膨張係数を特定し、特定した膨張係数と、SOCの変動量又は時間とに基づいて、前記形状変化を推定してもよい。
【0026】
上記構成によれば、予め実験等により得られた変動幅、SOC代表値、及び膨張係数の関係を参照し、特定した変動幅、及びSOC代表値に基づき膨張係数を特定して、形状変化を推定するので、推定の精度が良好である。
【0027】
上述の推定装置において、前記推定部は、前記変動幅、前記SOC代表値に基づいて、前記蓄電素子の通電時の形状変化を算出し、算出した形状変化に、前記蓄電素子の経時的な形状変化を加味して、形状変化を推定してもよい。
【0028】
上記構成によれば、非通電時の経時的な形状変化を考慮して、精度良く蓄電素子の形状変化を推定できる。一例として、通電時の形状変化に経時的な形状変化を加算する。なた、通電時には通電時の形状変化のみを推定し、休止時には経時的な形状変化のみを推定してもよい。
【0029】
上述の推定装置において、前記推定部が推定する形状変化に基づいて、前記蓄電素子の残寿命を予測する予測部をさらに備えてもよい。
【0030】
上記構成によれば、形状変化のグラフにおいて、形状変化が閾値を超える時期を寿命とし、残寿命を予測することができる。
【0031】
上述の推定装置において、前記形状変化は、前記蓄電素子の少なくとも一面に印加されている圧力に係る情報を含んでもよい。
【0032】
上記構成によれば、圧力の変化により蓄電素子の形状変化を推定できる。例えば複数の蓄電素子を直列に接続して挟み込むエンドプレートの圧迫力を推定することで、電池モジュールの設計を良好に行うことができる。蓄電素子が拘束されていない場合、反力の変化、一面に印加されている圧力の変化を形状変化とすることができる。
【0033】
上述の推定装置において、前記取得部は、前記SOC領域に対応する区間の前記蓄電素子の温度を取得し、前記特定部は、前記区間の温度を代表する温度代表値を特定し、前記推定部は、前記温度代表値に基づいて、前記形状変化を推定してもよい。
【0034】
上述したように、SOCの変動値及びSOC代表値が同一であっても、蓄電素子の温度が異なると、蓄電素子の厚み増加量が異なる。
上記構成によれば、蓄電素子の温度代表値も加味して、良好に蓄電素子の形状変化を推定できる。
【0035】
実施形態に係る推定方法は、コンピュータが、蓄電素子におけるSOCの時系列データを取得し、前記時系列データにおける前記SOCの変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOCの代表値とを特定し、特定した前記変動幅及び前記代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する。
【0036】
上記構成によれば、蓄電素子のSOC使用範囲を加味して推定するので、SOCの変動パターンが複雑である場合を含め、推定の精度が良好である。
【0037】
実施形態に係るコンピュータプログラムは、蓄電素子におけるSOCの時系列データを取得し、前記時系列データにおける前記SOCの変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOCの代表値とを特定し、特定した前記変動幅及び前記代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【0038】
上記構成によれば、蓄電素子のSOCの使用範囲を加味して推定するので、SOCの変動パターンが複雑である場合を含め、推定の精度が良好である。
【0039】
実施形態に係るコンピュータプログラムは、蓄電素子におけるSOCの時系列データを推定し、推定した時系列データにおける前記SOCの変動幅と、該変動幅におけるSOC領域を代表するSOCの代表値とを特定し、特定した前記変動幅及び前記代表値に基づいて、前記蓄電素子の形状変化を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【0040】
上記構成によれば、蓄電素子の使用方法を想定した時系列データに基づいてSOCの変動幅、SOC代表値を特定することで、所定期間経過した場合の蓄電素子の形状変化を予測できる。
【0041】
上述のコンピュータプログラムにおいて、推定した形状変化に基づいて、前記蓄電素子を設計する処理をコンピュータに実行させてもよい。
【0042】
上記構成によれば、所定期間経過した場合の蓄電素子の形状変化を予測し、複数の蓄電素子間に配置するスペーサの形状、配置間隔、複数の蓄電素子を挟み込むエンドプレートの圧迫力等の設計を良好に行うことができる。従って、蓄電素子の性能を最大限に引き出し、電池モジュールの過度の大型化を回避でき、低コスト化を図ることができる。
【0043】
以下、具体的に蓄電素子の形状変化の推定方法について説明する。
図1は、厚み増加量の時間変化を示すグラフである。横軸は時間(日)、縦軸は厚み増加量(%)である。厚み増加量は通電による厚み増加量と、非通電時の経時的厚み増加量との和により算出される。経時的厚み増加量は所定の係数を因子とする時間の関数で表され、通電による厚み増加量は、所定の係数を因子とする時間又は合計SOC(SOCの総変動量)の関数で表される。
【0044】
図2は、ΔSOC(SOC変動幅)は25%、充放電電流は同一であり、中心SOCを37.5%(○)、62.5%(△)、87.5%(□)に変えた場合の、時間と厚み増加量との関係を示すグラフである。横軸は時間(日)、縦軸は厚み増加量(%)である。厚み増加量は通電による厚み増加量と、非通電時の経時的厚み増加量との和である。
【0045】
図3は、
図2の合計厚み増加量から経時的厚み増加量を減じた場合の、時間と厚み増加量との関係を示すグラフである。横軸は時間(日)、縦軸は厚み増加量(%)である。
図2及び
図3より、ΔSOCが同一であっても中心SOCが異なる場合、通電による厚み増加量が変化する。通電による厚み増加量は、中心SOCの大きさに応じて大きくなる。
【0046】
図4は、中心SOCは60%、充放電電流は同一であり、ΔSOCを10%(○)、80%(△)に変えた場合の、合計SOCと厚み増加量との関係を示すグラフである。横軸は合計SOC(%)、縦軸は厚み増加量(%)である。厚み増加量は通電による厚み増加量と、非通電時の経時的厚み増加量との和である。
【0047】
図5は、
図4の合計厚み増加量から経時的厚み増加量を減じた場合の、時間と厚み増加量との関係を示すグラフである。横軸は合計SOC(%)、縦軸は厚み増加量(%)である。
図4及び
図5より、中心SOCが同一であってもSOCの変動幅(ΔSOC)が異なる場合、通電による厚み増加量が変化することが分かる。通電による厚み増加量が、ΔSOCの変動の大きさに応じて大きくなる。
【0048】
図6は、中心SOC及びΔSOCは同一であり、蓄電素子の温度が25℃(○)、45℃(△)である場合の、合計SOCと厚み増加量との関係を示すグラフである。横軸は合計SOC(%)、縦軸は厚み増加量(%)である。厚み増加量は合計厚み増加量から経時的厚み増加量を減じた、通電による厚み増加量を示す。
図6より、中心SOC及びΔSOCが同一であっても温度が異なる場合、通電による厚み増加量が変化することが分かる。通電による厚み増加量は、温度が高くなるのに従い、大きくなる。
【0049】
以上より、厚み増加量は、合計SOC又は時間のみではなく、ΔSOC、中心SOC、及び温度を考慮して推定する必要があることが分かる。なお、充放電電流を変え、同一のSOCの変動範囲でサイクル試験を行った場合、通電電流によって、厚み増加の速度に差があることが実験により確認されている。即ち通電電流によっては、厚み増加量を求めるための係数の補正が必要である。
【0050】
本願発明者は、ΔSOC、並びに変動幅におけるSOC領域の代表SOC、及び温度代表値に基づいて、蓄電素子の形状変化を推定する推定装置を開発した。蓄電素子の形状変化としては、厚み増加量、蓄電素子の少なくとも一面に印加されている圧力等が挙げられる。厚み増加量は、蓄電素子の長側面の中央部の厚み、又は両側の厚みの増加量をいう。代表SOCとしては、前記SOC領域の中心SOC、平均SOC、最低SOC、又は最高SOCが挙げられる。以下、厚み増加量は、蓄電素子の長側面の中央部の厚みとして説明する。
【0051】
本実施形態に係る推定方法は、蓄電素子におけるSOCの時系列データを取得し、時系列データにおけるΔSOCと、ΔSOCにおけるSOC領域を代表する中心SOC等のSOC代表値及び温度代表値とを特定する。特定したΔSOC、SOC代表値、及び温度代表値に基づいて、蓄電素子の厚み増加量等の形状変化を推定する。
【0052】
(実施形態1)
以下、蓄電素子がリチウムイオン二次電池である場合を説明する。
図7は、実施形態1に係る充放電システム1及びサーバ9の構成を示すブロック図である。
充放電システム1は、電池モジュール3と、BMU(Battery Management Unit )4と、電圧センサ5と、電流センサ6と、制御装置7、温度センサ8とを備える。
【0053】
電池モジュール3は、複数の蓄電素子としてのリチウムイオン二次電池(以下、セルという)2が直列に接続されている。制御装置7は、充放電システム1全体を制御する。
サーバ9は、制御部91、及び通信部92を備える。
制御装置7は、制御部71、表示部72、及び通信部73を備える。
制御装置7の制御部71は、通信部73、ネットワーク10、及び通信部92を介し、制御部91と接続されている。
負荷13は、端子11,12を介し電池モジュール3に接続されている。充電する場合は電池モジュール3に充電器が接続される。
【0054】
制御部71、91は、例えばCPU(Central Processing Unit )、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等により構成され、制御装置7、及びサーバ9の動作を夫々制御する。
通信部73、92は、ネットワーク10を介して他の装置との間で通信を行う機能を有し、所要の情報の送受信を行うことができる。
制御装置7の表示部72は、液晶パネル又は有機EL(Electro Luminescence)表示パネル等で構成することができる。制御部71は、表示部72に所要の情報を表示するための制御を行う。
【0055】
本実施形態においては、BMU4、制御装置7、及びサーバ9のいずれかが、本発明の推定装置として機能する。なお、サーバ9が推定装置として機能しない場合、充放電システム1がサーバ9に接続されていなくてもよい。
図7においては、電池モジュール3を一組備える場合を示しているが、電池モジュール3は、複数組、直列に接続してもよい。
BMU4は、電池ECUであってもよい。
【0056】
電圧センサ5は、電池モジュール3に並列に接続されており、電池モジュール3の全体の電圧に応じた検出結果を出力する。電圧センサ5は、各セル2の後述する正極の端子23,負極の端子26に接続されており、各セル2の端子23,26間の電圧V1 を測定し、各セル2のV1 の合計値である電池モジュール3の後述する負極のリード33,正極のリード34間の電圧Vを検出する。
電流センサ6は、電池モジュール3に直列に接続されており、電池モジュール3の電流に応じた検出結果を出力する。
温度センサ8は、電池モジュール3の付近に設けられており、電池モジュール3の温度に応じた検出結果を出力する。
【0057】
図8は、電池モジュール3の斜視図である。
電池モジュール3は、直方体状のケース31と、ケース31に収容された複数の前記セル2とを備える。
【0058】
セル2は、直方体状のケース本体21と、蓋板22と、蓋板22に設けられた、端子23,26と、破裂弁24と、電極体25とを備える。電極体25は正極板、セパレータ、及び負極板を積層してなり、ケース本体21に収容されている。
電極体25は、正極板と負極板とをセパレータを介して扁平状に巻回して得られるものであってもよい。
【0059】
正極板は、アルミニウムやアルミニウム合金等からなる板状(シート状)又は長尺帯状の金属箔である正極基材箔上に活物質層が形成されたものである。負極板は、銅及び銅合金等からなる板状(シート状)又は長尺帯状の金属箔である負極基材箔上に活物質層が形成されたものである。セパレータは、合成樹脂からなる微多孔性のシートである。
【0060】
正極の活物質層に用いられる正極活物質は、例えばLix (Nia Mnb Coc Md )O2 (MはLi,Ni,Mn,Co以外の金属元素、0≦a<1、0≦b<1、0≦c<1、a+b+c+d=1、0<x≦1.1、a,cは同時に0でない)で表される層状酸化物である。正極活物質は層状岩塩型の結晶構造を有する。前記aは0.5≦a≦1を満たすものであってもよい。この場合、遷移金属サイトにNiを多く含有する。
正極活物質は、d=0であり、Lix (Nia Coc Mnb )O2 (a+b+c=1)で表されるNCMであるのが好ましい。NCMとしては、NCM111(a:b:c=1:1:1)でもよく、Ni含有量が高いNCM523(a:b:c=5:2:3)等でもよい。
正極活物質は、MがAl、b=0であり、Lix (Nia Coc Ald )O2 で表されるNCAであってもよい(a+c+d=1)。
なお、NCM又はNCAにおいて、Li、Ni以外の金属が夫々2種類の金属からなる場合に限定されず、3種類以上の金属からなるものでもよい。例えば、少量のTi、Nb、B、W、Zr、Ti、Mgなどが含まれてもよい。
【0061】
正極活物質としては、例えばLiMeO2 -Li2 MnO3 固溶体、Li2O-LiMeO2 固溶体、Li3 NbO4 -LiMeO2 固溶体、Li4 WO5 -LiMeO2 固溶体、Li4 TeO5 -LiMeO2 固溶体、Li3 SbO4 -LiFeO2 固溶体、Li2 RuO3 -LiMeO2 固溶体、Li2 RuO3 -Li2 MeO3 固溶体等のLi過剰型活物質であってもよい。
正極活物質は上述の場合に限定されない。
【0062】
負極活物質層に用いられる負極活物質としては、ハードカーボン、Si、Sn、Cd、Zn、Al、Bi、Pb、Ge、Ag等の金属若しくは合金、又はこれらを含むカルコゲン化物等が挙げられる。カルコゲン化物の一例として、SiOが挙げられる。
【0063】
電池モジュール3の隣り合うセル2の隣り合う端子23,26がバスバー32により電気的に接続されることで、複数のセル2が直列に接続されている。
電池モジュール3の両端のセル2の、端子23,26には、電力を取り出すためのリード34,33が設けられている。
【0064】
図9は、BMU4の構成を示すブロック図である。BMU4は、制御部41と、記憶部42と、計時部47と、入力部48と、通信部49とを備える。これらの各部は、バスを介して互いに通信可能に接続されている。
【0065】
制御部41は制御部71と同様の構成を有する。
制御部41は、後述する厚み増加量算出プログラム43を読み出して実行することにより、厚み増加量算出の処理を実行する処理部として機能する。
計時部47は経過時間をカウントする。
入力部48は、電圧センサ5、電流センサ6、及び温度センサ8からの検出結果の入力を受け付ける。
通信部49は、ネットワーク10を介して他の装置との間で通信を行う機能を有し、所要の情報の送受信を行うことができる。
【0066】
記憶部42は、例えばハードディスクドライブ(HDD)等により構成され、各種のプログラム及びデータを記憶する。記憶部42には、厚み増加量算出プログラム43が格納されている。厚み増加量算出プログラム43は、例えばCD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体50に格納された状態で提供され、BMU4にインストールすることにより記憶部42に格納される。また、通信網に接続されている図示しない外部コンピュータから厚み増加量算出プログラム43を取得し、記憶部42に記憶させることにしてもよい。
【0067】
記憶部42には充放電の履歴データ44も記憶されている。充放電の履歴とは、電池モジュール3の運転履歴であり、電池モジュール3が充電又は放電を行った期間(使用期間)を示す情報、使用期間において電池モジュール3が行った充電又は放電に関する情報等を含む情報である。電池モジュール3の使用期間を示す情報とは、充電又は放電の開始及び終了の時点を示す情報、電池モジュール3が使用された累積使用期間等を含む情報である。電池モジュール3が行った充電又は放電に関する情報とは、電池モジュール3が行った充電時又は放電時の電圧、レート等を示す情報である。
【0068】
記憶部42には第1膨張係数テーブル45及び第2膨張係数テーブル46も記憶されている。
予め、電池モジュール3の温度別に、複数のΔSOC及び中心SOC毎に、
図5に示すように、合計SOCと厚み増加量との関係を実験により求めておき、制御部41は、該関係の近似曲線の係数を第1膨張係数として算出する。第1膨張係数テーブル45は、温度毎に、複数のΔSOC及び中心SOCと、対応する第1膨張係数とを記憶している。この場合、特定した温度代表値に該当する温度のテーブルを選択し、SOCの時系列データに基づき特定したΔSOC及び中心SOCに基づいて、第1膨張係数を特定する。該当する温度のテーブルがない場合、テーブル間で内挿計算を行う。
第1膨張係数がアレニウスプロットにより表せる場合、所定の温度の第1膨張係数テーブルとアレニウスプロットとを第1膨張係数テーブル45に記憶しておく。特定したΔSOC及び中心SOCに基づいて、第1膨張係数を特定し、アレニウスプロットにより温度補正した第1膨張係数(T)を求める。
なお、電池モジュール3の負荷パターン(使用パターン)等から電池モジュール3の温度代表値が一定であると推定される場合は、該温度代表値に対応する第1膨張係数テーブを記憶すればよい。
【0069】
第1膨張係数テーブル45は、第1膨張係数を、ΔSOC及び中心SOCの関数として記憶してもよい。
予め複数のΔSOC及び中心SOC毎に、
図3に示すように、時間と厚み増加量との関係を実験により求めておき、該関係の近似曲線の係数を第1膨張係数として求め、第1膨張係数テーブル45に記憶してもよい。
第1膨張係数は、内挿計算により補間することができる。
【0070】
予め複数の温度、放置時のSOC毎に、時間と厚み増加量との関係を実験により求めておき、制御部41は、該関係の近似曲線の係数を第2膨張係数として算出する。第2膨張係数テーブル46は、複数の温度及び放置時のSOCと、対応する第2膨張係数とを記憶している。
【0071】
図10は、制御部41による厚み増加量の算出処理の手順を示すフローチャートである。
制御部41は、所定期間のSOCの時系列データ及び電池モジュール3の温度を取得する(S1)。温度は時系列データとして取得してもよい。
制御部41は、ΔSOC、代表SOCとしての中心SOC、及び温度代表値としての平均温度を特定する(S2)。ΔSOC及び中心SOCの特定の方法は後述する。
【0072】
制御部41は、平均温度に対応する第1膨張係数テーブル45を読み出し、特定したΔSOC、及び中心SOCに基づいて、第1膨張係数を特定する(S3)。平均温度毎に第1膨張係数テーブルを記憶する代わりにアレニウスプロットを記憶している場合、制御部41は、特定した第1膨張係数に対しアレニウスプロットにより、算出時点の温度に補正した第1膨張係数(T)を求める。
【0073】
第1膨張係数の特定の一例を示す。
図11はSOCの変動データを示すグラフである。横軸は時間(秒)、縦軸はSOC(%)である。
図11より中心SOCは40%、ΔSOCは25%である。
図12に第1膨張係数テーブル45の一例を示す。中心SOCが40%、ΔSOCが25%である場合、第1膨張係数テーブル45より、第1膨張係数k7d を特定する。ここで、ΔSOCは、充電時又は放電時の変動量をいう。
【0074】
制御部41は、特定した第1膨張係数、及び合計SOCに基づいて、第1厚み増加量を算出する(S4)。
第1厚み増加量は、第1膨張係数を因子とする、合計SOCの関数で表される。温度別に、複数のΔSOC及び中心SOC毎に求めた、時間と厚み増加量との関係の近似曲線の係数を第1膨張係数として求め、第1膨張係数テーブル45に記憶している場合、第1厚み増加量は、第1膨張係数を因子とする、時間の関数で表される。
【0075】
制御部41は、第2膨張係数テーブル46を読み出し、平均温度、及び放置時のSOCに基づいて第2膨張係数を特定する(S5)。
制御部41は、特定した第2膨張係数、及び時間に基づいて、第2厚み増加量を算出する(S6)。第2厚み増加量は、第2膨張係数を因子とする時間(又は√時間)の関数で表される。
制御部41は第1厚み増加量に第2厚み増加量を加算して合計厚み増加量を算出し(S7)、処理を終了する。
【0076】
以下、ΔSOC及び中心SOCの特定方法について、具体的に説明する。
図13は、SOCの変動データの充放電の開始点からΔSOC及び中心SOCを特定する方法を示す説明図である。横軸は時間、縦軸はSOC(%)である。
制御部41はSOCの変動データから充電開始点及び放電開始点を取得する。
制御部41は充電開始点及び放電開始点のSOCの差をΔSOCとして特定する。
制御部41は充電開始点及び放電開始点間の平均のSOCを中心SOCとして特定し、平均温度を温度代表値として特定する。
【0077】
図14は、SOCの変動データに基づき、起点からSOCが閾値に達する都度、カウントしてΔSOC及び中心SOCを特定する方法を示す説明図である。横軸は時間、縦軸はSOC(%)である。
制御部41はSOCの変化量が2%増減する都度、ΔSOC及び中心SOCを算出する。
制御部41は起点からカウント点までのSOCの変化量をΔSOCとして特定する。
制御部41は起点からカウント点までの平均のSOCを中心SOCとして特定し、平均温度を温度代表値として特定する。
【0078】
次に、時系列データに基づいて、SOCの標準偏差及び平均値を算出し、算出した標準偏差及び平均値をΔSOC及び中心SOCとして特定する場合につき説明する。
図15は、SOCの変動データを示すグラフであり、横軸は時間(日)、縦軸はSOC(%)である。
制御部41は、SOCの変動データから厚み増加量を算出する期間のデータを取り出す。
【0079】
図16は、SOCの標準偏差と平均値とを算出する方法を説明するための説明図である。
制御部41は、SOCの標準偏差と平均値とを算出する。
【0080】
制御部41は第1膨張係数テーブル45を読み出し、第1膨張係数を特定する。
図17は、温度別に第1膨張係数テーブル45に記憶している、標準偏差、平均SOC、及び第1膨張係数の関係を示すグラフである。横軸は標準偏差(%)、縦軸は第1膨張係数(%/√SOC)である。平均SOCが12.5%、37.5%、62.5%、87.5%、100%である、a、b、c、d、e夫々の場合につき、標準偏差と第1膨張係数との関係を求めてある。制御部41は平均温度に対応する第1膨張係数テーブル45を参照し、
図16に示すようにして特定した標準偏差及び平均SOCに基づいて、第1膨張係数を特定する。制御部41はアレニウスプロットにより、第1膨張係数を温度補正してもよい。
【0081】
図18は、特定した第1膨張係数、及び時間に基づいて、厚み増加量を算出する方法の説明図である。横軸は時間(日)、縦軸は厚み増加量(%)である。
厚み増加量の計算値をグラフで示す。合わせて実測値も示してある。
図18より、計算値が実測値と一致していることが分かる。
【0082】
次に、時系列データにおける前記SOCの変動の波形を周波数成分に変換し、変換した周波数成分の振幅を変動幅、周波数を合計SOCとして特定する場合につき説明する。
図19は、所定温度で、SOCをΔ0.5%、Δ1.5%、Δ5%、Δ20%、Δ30%で変動させた場合の時間とSOCとの関係を示すグラフである。横軸は時間[秒]、縦軸はSOC[%]である。
図19中、SOCをΔ0.5%、Δ1.5%、Δ5%、Δ20%、Δ30%で変動させた場合のグラフをa、b、c、d、eで示す。
図19には、蓄電素子を実使用した場合のSOCの変動(実施例)も示す。
【0083】
図20は、
図19の波形をフーリエ変換し、複数の周波数領域の波形成分に変換したグラフである。横軸は周波数[Hz]、縦軸は振幅スペクトル[%]である。
図19のb、c、d、eの波形に対応する波形成分が示され、実施例の波形を変換して得られた波形成分も示されている。
図19のaの波形に対応する波形成分のうちピーク成分は、周波数が略0.013、振幅が略0.133であり、
図20には示していない。
【0084】
第1膨張係数テーブル45は、温度別に、周波数成分のメインピークの振幅スペクトル及び周波数と第1膨張係数との関係を記憶している。まず、
図19のa、b、c、d、eのパターンでSOCが変動した場合の、時間(日数)と厚み増加量との第1関係を求めておく。
図21は、振幅スペクトルと周波数と第1膨張係数との第2関係を示すグラフである。
図21において、x軸は振幅スペクトル[%]、y軸は周波数[Hz]、z軸は第1膨張係数である。第2関係は、
図20のa、b、c、d、eの各波形のピークトップの周波数及び振幅スペクトルと、前記第1関係の近似曲線により求めた第1膨張係数とを対応付けて示してある。
図21において、振幅スペクトルが略10.2%であり、振幅が略2×10
-4である場合、第1膨張係数は略0.94である。
図21のグラフは、内挿計算により補間した場合を示す。
図21の場合、
図20のa、b、c、d、eの各波形以外の波形について、該波形の振幅スペクトル及び周波数に対応するz軸上の値を読み取ることで、第1膨張係数を求めることができる。
図20の実施例の場合、メインピークは振幅スペクトルが8.02%、振幅が略8.4×10
-5であり、点○のz座標を読み取ることで、第1膨張係数を略0.19と特定する。第1膨張係数を求める場合、強度が小さい波形成分と比較し、強度が大きい波形成分に対し重み付けを行ってもよい。
【0085】
図22は、前記所定温度における、時間と厚み増加量との関係を示すグラフである。
図22において、横軸は時間(日)、縦軸は厚み増加量(%)である。計算値は、第1膨張係数が0.19である場合の時間と厚み増加量との関係を示している。
実験値は、複数の測定時点において、各時点の厚み増加量をプロットしている。
図22より、本実施形態の推定方法により良好に推定できることが確認された。
以上のように、SOCの変動の波形を複数の周波数領域の波形成分に変換し、各波形成分と第1膨張係数とに基づいて蓄電素子の厚み増加量を精度良く推定できることが確認された。
【0086】
以下、通電的な厚み増加量の推移を求めた結果を示す。
図23は、ΔSOCが同一であり、中心SOCが異なる場合に、合計SOCと厚み増加量との関係を求めた結果を示すグラフである。SOCが25-50%で変動する場合、50-75%で変動する場合、75-100%で変動する場合夫々につき、本実施形態の方法により厚み増加量を算出した(実施例a、実施例b、実施例c)。上記の各場合につき、前記特許文献1の従来の方法により厚み増加量を算出した(比較例d、比較例e、比較例f)。
図23において、実測値は、複数の測定点における厚み増加量をプロットしている。
図23より、比較例d、e、fの場合、中心SOCが異なっていても厚み増加量は略同一値として算出されるのに対し、実施例a、b、cの場合、各中心SOCに対応し、実測値に近似した厚み増加量が算出され、算出の精度が高いことが分かる。
【0087】
図24は、中心SOCが同一であり、ΔSOCが異なる場合に、合計SOCと厚み増加量との関係を求めた結果を示すグラフである。SOCが55-65%で変動する場合、20-100%で変動する場合夫々につき、本実施形態により厚み増加量を算出した(実施例g、実施例h)。上記の各場合につき、前記特許文献1の方法により厚み増加量を算出した(比較例i、比較例j)。
図24において、実測値は、複数の測定点における厚み増加量をプロットしている。
図24より、比較例i、jの場合、ΔSOCが異なっていても厚み増加量は略同一値として算出されるのに対し、実施例g、hの場合、各ΔSOCに対応し、実測値に近似した厚み増加量が算出され、算出の精度が高いことが分かる。
【0088】
図25は、短時間に充放電を繰り返し、ΔSOC、中心SOCも異なる複雑な変動パターンを有する場合の、時間と厚み増加量との関係を算出した結果を示すグラフである。横軸は時間(日)、縦軸は厚み増加量(%)である。環境温度は20℃である。
図25において、実測値は、複数の測定時点における厚み増加量をプロットしている。
図25より、本実施形態の方法により、精度良く、厚み増加量を算出できることが分かる。
【0089】
図26は、上記のように複雑な変動パターンを有する場合の、時間と厚み増加量との関係を求めた結果を示すグラフである。横軸は時間(日)、縦軸は厚み増加量(%)である。環境温度は25℃である。
図26において、実測値は、複数の測定時点における厚み増加量をプロットしている。
図26より、本実施形態の方法により、精度良く、厚み増加量を算出できることが分かる。
【0090】
以上のように、本実施形態によれば、特定したΔSOC及び中心SOCに基づいて電池モジュール3の厚み増加量を推定し、即ち電池モジュール3が使用されたSOCの使用範囲を加味して推定するので、SOCの変動パターンが複雑である場合を含め、推定の精度が良好である。
電池モジュール3の形状変化を精度良く推定できるので、セル2の性能を最大限に引き出すように電池モジュール3の設計を行い、電池モジュール3を搭載する機器に対しモデルベース開発を適用することも可能である。
【0091】
(実施形態2)
実施形態2においては、制御部41は、推定した厚み増加量に基づいて、電池モジュール3の残寿命を推定する。
図27は、制御部41により、電池モジュール3の残寿命を予測する場合の処理手順を示すフローチャートである。
【0092】
制御部41は、上述のようにして厚み増加量を算出する(S11)。制御部41は、ΔSOC、中心SOC、及び時間に基づいて、例えば
図26に示すように、第1膨張係数を因子とする、時間の関数である厚み増加量のグラフを生成する。
制御部41は、電池モジュール3の残寿命を算出する(S12)。制御部41は、例えば
図26の曲線において、厚み増加量が閾値を超えるときの時間を読み取り、読み取った時間から現在までの時間を減じ、残寿命を求める。
【0093】
本実施形態においては、厚み増加量の推定のグラフに基づいて、将来の厚み増加量を予測し、残寿命を予測して、電池モジュール3の交換等の管理を行うことができる。
【0094】
(実施形態3)
実施形態3においては、蓄電素子の形状変化として、蓄電素子を圧迫する圧迫力の増加量を推定する。
図28は、実施形態3に係る電池モジュール3の斜視図である。
実施形態3に係る電池モジュール3のセル2の並設方向の両端側には、エンドプレート15,15が配置されている。セル2,2の間、セル2とエンドプレート15との間には、合成樹脂製のスペーサ19が配置されている。スペーサ19は波板状であってもよい。エンドプレート15,15は複数のセル2及びスペーサ19を前記並設方向から挟み込むためのものである。エンドプレート15は強度の観点からステンレス等の金属製であるのが好ましい。低圧迫タイプの場合、エンドプレート15は合成樹脂で形成されていてもよい。
【0095】
連結部材16,16はエンドプレート15同士を連結して複数のセル2及び複数のスペーサ19を圧迫した状態で拘束する金属製の部材である。連結部材16は前記並設方向に長い矩形枠状をなす。連結部材16は複数のセル2及びスペーサ19がエンドプレート15,15によって並設方向に圧迫されている状態で、並設方向の両側がエンドプレート15にボルト17によって締結されることにより複数のセル2を圧迫した状態で拘束する。
セル2の内圧が劣化により増大した場合、スペーサ19が変形し、エンドプレート15,15間の圧迫力が増大する。
【0096】
実施形態3においては、BMU4の記憶部42は、第1膨張係数テーブル45に代えて、第1圧迫力係数テーブルを記憶している。複数のΔSOC及び中心SOC毎に、合計SOCと、圧迫力増加量との関係を実験により求めておき、制御部41は、近似曲線の係数を第1圧迫力係数として算出する。第1圧迫力係数テーブルは、複数のΔSOC及び中心SOCと、対応する第1圧迫力係数とを記憶している。この場合、SOCの時系列データに基づき特定したΔSOC及び中心SOCに基づいて、第1圧迫力係数テーブルを参照し、第1圧迫力係数を特定した後、アレニウスプロットにより温度補正した第1圧迫力係数(T)を求める。第1圧迫力係数テーブルは、複数のΔSOC及び中心SOC、並びに温度と対応付けて、第1圧迫力係数を記憶してもよい。また、予め複数のΔSOC及び中心SOC毎に、時間と、圧迫力増加量との関係を実験により求めておき、該関係の近似曲線の係数を第1圧迫力係数として求め、第1圧迫力係数テーブルに記憶してもよい。
第1圧迫力係数は、内挿計算により補間することができる。
【0097】
予め複数の温度、放置時のSOC毎に、時間と圧迫力増加量との関係を実験により求めておき、制御部41は、該関係の近似曲線の係数を第2圧迫力係数として算出する。第2圧迫力係数テーブルは、複数の温度及び放置時のSOCと、対応する第2圧迫力係数とを記憶している。
【0098】
図29は、制御部41による圧迫力増加量の算出処理の手順を示すフローチャートである。
制御部41は、所定期間のSOCの変動データ、及び電池モジュール3の温度を取得する(S21)。
制御部41は、ΔSOC、SOCの代表SOCとしての中心SOC、及び温度代表値としての平均温度を特定する(S22)。
制御部41は、平均温度に対応する第1圧迫力係数テーブルを読み出し、特定したΔSOC、中心SOC、及び平均温度に基づいて、第1圧迫力係数を特定する(S23)。制御部41は、特定した第1圧迫力係数に対しアレニウスプロットにより、算出時点の温度に補正した第1圧迫力係数(T)を求めてもよい。
【0099】
制御部41は、特定した第1圧迫力係数、及び合計のSOC変動量に基づいて、第1圧迫力増加量を算出する(S24)。第1圧迫力増加量は、第1圧迫力係数を因子とする、合計SOCの関数で表される。複数のΔSOC及び中心SOC毎に求めた、時間と圧迫力との関係の近似曲線の係数を第1圧迫力係数として求め、第1圧迫力係数テーブルに記憶している場合、第1圧迫力増加量は、第1圧迫力係数を因子とする、時間の関数で表される。
制御部41は、第2圧迫力係数テーブルを読み出し、平均温度、放置時のSOCに基づいて、第2圧迫力係数を特定する(S25)。
制御部41は、特定した第2圧迫力係数、及び時間に基づいて、第2圧迫力増加量を算出する(S26)。
制御部41は第1圧迫力増加量に第2圧迫力増加量を加算して合計圧迫力増加量を算出し(S27)、処理を終了する。
【0100】
本実施形態によれば、圧迫力の変化により電池モジュール3の形状変化を推定できる。電池モジュール3のエンドプレート15の圧迫力を推定することで、電池モジュール3の設計を良好に行うことができる。
【0101】
(実施形態4)
図30は、実施形態4に係る情報処理システム81の構成の一例を示すブロック図である。情報処理システム81においては、情報管理会社のサーバ9、セル2及び電池モジュール3等の設計者、車両等の電池モジュール3を搭載する機器の設計者等の使用者の端末61,62がインターネット等のネットワーク10を介して接続されている。端末の数は2個に限定されない。端末61,62は、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型パーソナルコンピュータ、タブレット、スマートフォン等で構成することができる。
【0102】
サーバ9は、制御部91と、記憶部93と、計時部97と、入力部98と、通信部92とを備える。これらの各部は、バスを介して互いに通信可能に接続されている。
制御部91は、厚み増加量算出プログラム94を読み出して実行することにより、厚み増加量算出の処理を実行する処理部として機能する。
計時部97は、計時を行う。
入力部98は、端末61,62から負荷パターンの情報の入力を受け付ける。
通信部92は、ネットワーク10を介して端末61,62との間で通信を行う機能を有し、所要の情報の送受信を行うことができる。
【0103】
記憶部93、第1膨張係数テーブル95、及び第2膨張係数テーブル96は、記憶部42、第1膨張係数テーブル45、及び第2膨張係数テーブル46と同様の構成を有する。厚み増加量算出プログラム94は、例えばCD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体51に格納された状態で提供され、サーバ9にインストールすることにより記憶部93に格納される。また、通信網に接続されている図示しない外部コンピュータから厚み増加量算出プログラム94を取得し、記憶部93に記憶させることにしてもよい。
【0104】
同様に、端末61,62は、制御部61a,62aと、記憶部61b,62bと、計時部61c,62cと、入力部61d,62dと、通信部61e,62eとを備える。
【0105】
図31は、制御部91による厚み増加量の算出処理の手順、及び制御部61aによる電池モジュール3の設計処理の手順を示すフローチャートである。
端末61の制御部61aは、電池モジュール3の負荷パターンをサーバ9へ送信する(S41)。負荷パターンとしては、電池モジュール3の使用方法を推定した場合の温度、時間、電圧、電流等が挙げられる。
サーバ9の制御部91は、端末61から電池モジュール3の負荷パターンを受信する(S31)。
【0106】
制御部91は、負荷パターンに基づいて、ΔSOC、SOCの代表SOCとしての中心SOC、温度代表値としての平均温度を特定する(S32)。
制御部91は、平均温度に対応する第1膨張係数テーブル95を読み出し、特定したΔSOC及び中心SOCに基づいて、第1膨張係数を特定する(S33)。制御部91は、特定した第1圧迫力係数に対しアレニウスプロットにより、想定の温度に補正した第1圧迫力係数(T)を求めてもよい。第1膨張係数テーブル95が想定の温度に対応した第1膨張係数を記憶している場合、温度補正は不要である。
【0107】
制御部91は、特定した第1膨張係数、及び合計SOCに基づいて、第1厚み増加量を算出する(S34)。
制御部91は、第2膨張係数テーブル96を読み出し、想定の温度、放置時のSOCに基づいて、第2膨張係数を特定する(S35)。
制御部91は、特定した第2膨張係数、及び時間に基づいて、第2厚み増加量を算出する(S36)。
制御部91は、第1厚み増加量に第2厚み増加量を加算して合計厚み増加量を算出する(S37)。
制御部91は、合計厚み増加量のデータを端末61へ送信する(S38)。
【0108】
制御部61aは、サーバ9から合計厚み増加量のデータを受信する(S42)。
制御部61aは、電池モジュール3の設計を行い(S43)、処理を終了する。制御部61aは、複数のセル2間に配置するスペーサ19の形状、配置間隔、複数のセル2を挟み込むエンドプレート15の圧迫力等の設計を良好に行うことができる。従って、セル2の性能を最大限に引き出し、電池モジュール3の過度の大型化を回避でき、低コスト化を図ることができる。
【0109】
端末61が電池モジュール3を搭載する車両等の機器の設計者の端末である場合、制御部61aは合計厚み増加量のデータを取得し、前記機器における電池モジュール3の収納スペース等の設計を行うことができる。電池モジュール3の性能、寿命に基づいた機器の設計も行うことができる。
端末62においても、上記と同様の処理が行われる。
【0110】
(実施形態5)
図32は、実施形態5に係る情報処理システム82の構成の一例を示すブロック図である。図中、
図30と同一部分は同一符号を付して詳細な説明は省略する。
実施形態5の情報処理システム82においては、サーバ9から、端末61,62の記憶部61b,62bに、厚み増加量算出プログラム61f,62f、第1膨張係数テーブル61g,62g、及び第2膨張係数テーブル61h,62hがインストールされている。厚み増加量算出プログラム61f,62f等は記録媒体を介し、記憶部61b,62bにインストールしてもよい。
【0111】
実施形態5においては、制御部61a又は62aが、電池モジュール3の厚み増加量を推定し、推定した厚み増加量に基づいて電池モジュール3の設計を行う。実施形態5の厚み増加量算出プログラム61f,62fは、負荷パターンの取得の処理と、電池モジュール3の設計を行う処理とを含み、負荷パターンの受信処理及び合計厚み増加量の送信処理を含まない点が、厚み増加量算出プログラム94と異なる。
【0112】
図33は、制御部61aによる電池モジュール3の厚み増加量算出処理及び設計処理の手順を示すフローチャートである。制御部61aは、厚み増加量算出プログラム61fを読み出して、電池モジュール3の厚み増加量算出処理及び設計処理を実行する。
端末61の制御部61aは、電池モジュール3の負荷パターンを取得する(S51)。負荷パターンとしては、電池モジュール3の使用方法を推定した場合の温度、時間、電圧、電流等が挙げられる。
【0113】
制御部61aは、負荷パターンに基づいて、ΔSOC、及びSOCの代表SOCとしての中心SOC、及び温度代表値としての平均温度を特定する(S52)。
制御部61aは、平均温度に対応する第1膨張係数テーブル61gを読み出し、特定したΔSOC及び中心SOCに基づいて、第1膨張係数を特定する(S53)。制御部61aは、特定した第1圧迫力係数に対しアレニウスプロットにより、算出時点の温度に補正した第1圧迫力係数(T)を求めてもよい。第1膨張係数テーブル61gが想定の温度に対応した第1膨張係数を記憶している場合、温度補正は不要である。
【0114】
制御部61aは、特定した第1膨張係数、及び合計SOCに基づいて、第1厚み増加量を算出する(S54)。
制御部61aは、第2膨張係数テーブル61hを読み出し、想定の温度、放置時のSOCに基づいて、第2膨張係数を特定する(S55)。
制御部61aは、特定した第2膨張係数及び時間に基づいて、第2厚み増加量を算出する(S56)。
制御部61aは、第1厚み増加量に第2厚み増加量を加算して合計厚み増加量を算出する(S57)。
【0115】
制御部61aは、電池モジュール3の設計を行い(S58)、処理を終了する。制御部61aは、複数のセル2間に配置するスペーサ19の形状、配置間隔、複数のセル2を挟み込むエンドプレート15の圧迫力等の設計を良好に行うことができる。従って、セル2の性能を最大限に引き出し、電池モジュール3の過度の大型化を回避でき、低コスト化を図ることができる。
【0116】
端末61が電池モジュール3を搭載する機器の設計者の端末である場合、制御部61aは合計厚み増加量のデータに基づいて、前記機器における電池モジュール3の収納スペース等の設計を行うことができる。電池モジュール3の性能、寿命に基づいた機器の設計も行うことができる。電池モジュール3の形状変化を精度良く予測できるので、電池モジュール3を搭載する機器に対しモデルベース開発を適用することができる。
端末62においても、上記と同様の処理が行われる。
【0117】
前記実施形態は、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
電池モジュール3の形状変化を推定する場合に限定されず、セル2の形状変化を推定してもよい。
電池モジュール3が完全に拘束されている状態において、圧迫力の変化を形状変化として推定する場合に限定されない。セル2はフリーな状態であってもよく、その中間の状態であってもよい。セル2の外側に広がる力(反力)の変化、セル2の少なくとも一面に印加されている圧力の変化を形状変化としてもよい。
SOC代表値は中心SOCに限定されず、温度代表値は平均温度に限定されない。
【0118】
本発明に係る推定方法は、移動体、モバイル機器、発電設備、電力需要設備、鉄道用回生電力貯蔵装置等の充放電システムにも適用できる。
蓄電素子はリチウムイオン二次電池には限定されない。蓄電素子は、他の二次電池であってもよいし、一次電池であってもよいし、キャパシタ等の電気化学セルであってもよい。
【符号の説明】
【0119】
1 充放電システム
2 電池(蓄電素子)
3 電池モジュール(蓄電素子)
4 BMU
41 制御部(特定部、推定部、予測部)
42、93 記憶部
43、94 厚み増加量算出プログラム
44 履歴データ
45、95 第1膨張係数テーブル
46、96 第2膨張係数テーブル
47、97 計時部
48、98 入力部
49、92 通信部
5 電圧センサ
6 電流センサ
7 制御装置
8 温度センサ
9 サーバ
91 制御部
10 ネットワーク
61、62 端末