(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】変性オレフィン系共重合体、樹脂組成物、積層シート、プリプレグ、硬化物、硬化物付基板および電子機器
(51)【国際特許分類】
C08F 8/00 20060101AFI20241008BHJP
C08F 290/04 20060101ALI20241008BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20241008BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241008BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20241008BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08F8/00
C08F290/04
C08F290/06
B32B27/32 E
C08J5/04 CES
C08J5/04 CET
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2023202239
(22)【出願日】2023-11-29
【審査請求日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2023028746
(32)【優先日】2023-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100124936
【氏名又は名称】秦 恵子
(72)【発明者】
【氏名】大島 健司
(72)【発明者】
【氏名】阪口 豪
(72)【発明者】
【氏名】石川 崇
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/098331(WO,A1)
【文献】特表2010-514852(JP,A)
【文献】特開2018-168347(JP,A)
【文献】特開2021-188027(JP,A)
【文献】特開2015-174898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00、290/04、290/06
B32B 27/32
C08J 5/04
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖が、共役ジエン化合物由来の構造単位、および/又は脂環又は鎖状の非共役オレフィン化合物由来の構造単位を含む変性オレフィン系共重合体であって、
側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかに単環式構造および/又は多環式構造を有し、
前記単環式構造の環および/又は前記多環式構造のいずれかの環が、炭素原子からなる脂環式骨格および炭素原子とヘテロ原子からなる脂環式骨格の少なくともいずれかであって、且つ以下の(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす変性オレフィン系共重合体。
(i)前記脂環式骨格に、ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合を有する。
(ii)前記脂環式骨格を構成する炭素原子と、当該炭素原子と結合する前記環を構成しない炭素原子とがラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合により結合されている。
【請求項2】
前記主鎖に、分子鎖末端を除き、不飽和結合を有しない請求項1に記載の変性オレフィン系共重合体。
【請求項3】
前記主鎖に、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含む請求項1に記載の変性オレフィン系共重合体。
【請求項4】
芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなるブロックと、共役ジエン化合物由来の構造単位を含むブロックとを含む請求項1に記載の変性オレフィン系共重合体。
【請求項5】
前記共役ジエン化合物由来の構造単位を含むブロックは、更に、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含む請求項
4に記載の変性オレフィン系共重合体。
【請求項6】
水添スチレン系エラストマーである、
スチレン-エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン・スチレン-スチレンブロック共重合体(SEBSS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、およびスチレン-エチレン-エチレン・プロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)のいずれかの変性物である請求項1に記載の変性オレフィン系共重合体。
【請求項7】
請求項1に記載の変性オレフィン系共重合体を含む樹脂組成物。
【請求項8】
硬化性化合物をさらに含み、前記硬化性化合物は、エポキシ化合物(b1)、シアネートエステル化合物(b2)、マレイミド化合物(b3)、アリル基含有化合物(b4)、ビニル基含有化合物(b5)
、(メタ)アクリレート基含有化合物(b6)、
およびベンゾオキサジン化合物(b7)から選択される少なくとも一種を含む請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、無機フィラーを含有する請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
基材と、前記基材上に形成された、請求項7~9のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて形成された樹脂組成物層とを含む、積層シート。
【請求項11】
基材に請求項7~9のいずれかに記載の樹脂組成物を含浸させたプリプレグ。
【請求項12】
請求項7~9のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる硬化物。
【請求項13】
請求項7~9のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化して形成される硬化物を含む、硬化物付基板。
【請求項14】
請求項13に記載の硬化物付基板を搭載した電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変性オレフィン系共重合体、樹脂組成物、積層シートおよびプリプレグに関する。更に、前記樹脂組成物から得られる硬化物、前記樹脂組成物を硬化して形成される硬化物を含む硬化物付基板、前記硬化物付基板を搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の様々な部材に、樹脂組成物、或いは樹脂組成物の硬化物が用いられている。例えば、多層プリント配線板の導体層間の層間絶縁層として、樹脂組成物またはその硬化物が用いられている。また、プリント配線板の導体層上の絶縁層として、ガラスクロス等に樹脂組成物を含浸させたプリプレグが用いられている。また、半導体パッケージに絶縁性の樹脂組成物またはその硬化物が封止樹脂として用いられている。
【0003】
このような樹脂組成物として、例えば、特許文献1には、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物(A)と、ポリフェニレンエーテル(B)と、スチレン系化合物由来の構造単位、無水マレイン酸由来の構造単位およびN-置換マレイミド由来の構造単位を有する共重合体(C)とを含む樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、(A)スチレン系エラストマー、(B)特定の構造を有する環状イミド化合物、(C)エポキシ樹脂および(D)反応促進剤を、特定割合含む熱硬化性環状イミド樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、特定の構造を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖と、共有結合性架橋部位を含有する他の側鎖とを有する熱可塑性エラストマーが開示されている。特許文献4には、特定の構造を有する水素結合性架橋部位を含有する側鎖(a)を有し、Tgが25℃以下であるエラストマー性ポリマー(A)、並びに、側鎖に水素結合性架橋部位および共有結合性架橋部位が含有されており、かつTgが25℃以下であるエラストマー性ポリマー(B)からなる群から選択される少なくとも1種のエラストマー成分と、クレイと、化学結合性の架橋部位を有さないα-オレフィン系樹脂とを特定割合含有してなる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-169276号公報
【文献】特開2022-111423号公報
【文献】特開2006-131663号公報
【文献】国際公開第2017/047274号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子機器の高機能化がすすみ、機器に内蔵される電子部品の信頼性が益々求められている。樹脂組成物およびその硬化物においても、優れた耐熱性のみならず、ヒートサイクル試験後の優れたクラック耐性が得られる材料が求められている。更に、電子機器、通信機器等に用いられるプリント配線板に使用される信号の周波数帯としてギガHz帯にも対応可能な、低誘電率、低誘電正接の材料が必要とされている。市場では、誘電特性および耐熱性の両特性を満足しながら、ヒートサイクル試験後のクラック耐性の向上を図ることができる樹脂および樹脂組成物が求められている。
【0006】
本開示は上記背景に鑑みてなされたものであり、誘電特性および耐熱性に優れ、更にヒートサイクル試験後のクラック耐性に優れる変性オレフィン系共重合体、樹脂組成物、並びに前記樹脂組成物を用いて形成される積層シート、プリプレグ、硬化物、硬化物付基板および電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本開示の課題を解決し得ることを見出し、本開示を完成するに至った。
[1]: 主鎖が、共役ジエン化合物由来の構造単位、および/又は脂環又は鎖状の非共役オレフィン化合物由来の構造単位を含む変性オレフィン系共重合体であって、
側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかに単環式構造および/又は多環式構造を有し、
前記単環式構造の環および/又は前記多環式構造のいずれかの環が、炭素原子からなる脂環式骨格および炭素原子とヘテロ原子からなる脂環式骨格の少なくともいずれかであって、且つ以下の(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす変性オレフィン系共重合体。
(i)前記脂環式骨格に、ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合を有する。
(ii)前記脂環式骨格を構成する炭素原子と、当該炭素原子と結合する前記環を構成しない炭素原子とがラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合により結合されている。
[2]: 前記主鎖に、分子鎖末端を除き、実質的に不飽和結合を有しない[1]に記載の変性オレフィン系共重合体。
[3]: 前記主鎖に、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含む[1]または[2]に記載の変性オレフィン系共重合体。
[4]: 芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなるブロックと、共役ジエン化合物由来の構造単位を含むブロックとを含む[1]~[3]のいずれかに記載の変性オレフィン系共重合体。
[5]: 前記共役ジエン化合物由来の構造単位を含むブロックは、更に、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含む[4]に記載の変性オレフィン系共重合体。
[6]: 水添スチレン系エラストマーである、
スチレン-エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン・スチレン-スチレンブロック共重合体(SEBSS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、およびスチレン-エチレン-エチレン・プロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)のいずれかの変性物である[1]~[5]のいずれかに記載の変性オレフィン系共重合体。
[7]: [1]~[6]のいずれかに記載の変性オレフィン系共重合体を含む樹脂組成物。
[8]: 硬化性化合物をさらに含み、前記硬化性化合物は、エポキシ化合物(b1)、シアネートエステル化合物(b2)、マレイミド化合物(b3)、アリル基含有化合物(b4)、ビニル基含有化合物(b5)および(メタ)アクリレート基含有化合物(b6)、ベンゾオキサジン化合物(b7)から選択される少なくとも一種を含む[7]に記載の樹脂組成物。
[9]: さらに、無機フィラーを含有する[7]または[8]に記載の樹脂組成物。
[10]: 基材と、前記基材上に形成された、[7]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物を用いて形成された樹脂組成物層とを含む、積層シート。
[11]: 基材に[7]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物を含浸させたプリプレグ。
[12]: [7]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物から得られる硬化物。
[13]: [7]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化して形成される硬化物を含む、硬化物付基板。
[14]: [13]に記載の硬化物付基板を搭載した電子機器。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、誘電特性および耐熱性に優れ、更にヒートサイクル試験後のクラック耐性に優れる変性オレフィン系共重合体、樹脂組成物、並びに前記樹脂組成物を用いて形成される積層シート、プリプレグ、硬化物、硬化物付基板および電子機器を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】樹脂R-5、合成例5および比較合成例5のIRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示について詳細に説明する。なお、本開示の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本開示の範疇に含まれる。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値の範囲として含む。また、本明細書において「フィルム」や「シート」は同義であり、厚みによって区別されない。また、本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。本明細書に記載する数値は、後述する[実施例]に記載の方法にて得られる値をいう。
【0011】
1.変性オレフィン系共重合体
本開示の変性オレフィン系共重合体(以下、本共重合体ともいう)は、主鎖が、共役ジエン化合物由来の構造単位、および/又は脂環又は鎖状の非共役オレフィン化合物由来の構造単位を含む。誘電特性および耐熱性をより向上させる観点からは、前記主鎖には、分子鎖末端を除き、実質的に不飽和結合を有しないことが好ましい。なお、ここでいう「実質的に含まない」とは、不可避的に含まれる以外は不飽和結合を有しないことを意味する。本共重合体の側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかに、単環式構造および/又は多環式構造を有する。そして、この単環式構造の環および/又は多環式構造のいずれかの環が、炭素原子からなる脂環式骨格および炭素原子とヘテロ原子からなる脂環式骨格の少なくともいずれかであって、且つ以下の(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす。なお、骨格とは、環を直接形成する原子により形成された構造をいう。例えば、シクロアルケニル基の場合には環を直接形成する原子は炭素原子であり、水素は含まない。また、マレイミド基の場合には環を直接形成する原子は炭素原子とヘテロ原子(窒素原子)である。
(i)前記脂環式骨格に、ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合を有する。
(ii)前記脂環式骨格を構成する炭素原子と、当該炭素原子と結合する前記環を構成しない炭素原子とがラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合により結合されている。
【0012】
前述の主鎖における「脂環又は鎖状の非共役オレフィン化合物由来の構造単位」とは、芳香族性(つまり、π電子共役系)を有さない、脂肪族炭化水素により主鎖が構成されている構造をいう。脂環の非共役オレフィン化合物由来の構造単位を有する本共重合体は、主鎖に環構造を有する。なお、主鎖とは、樹脂を構成するポリマーにおいて幹となる線状分子鎖であり、炭素原子の連なる鎖をいう。主鎖に炭化水素からなる脂環構造を構成する炭素原子が含まれていてもよい。誘電特性の観点からは、主鎖に、ヘテロ原子を含む環を有する(例えばマレイミド基に由来する環を有する)共重合体は、本共重合体に含まないことが好ましい。また、ヒートサイクル試験後のクラック耐性の観点からは、本共重合体の主鎖骨格は、脂環構造よりも鎖状構造がより好ましい。
【0013】
側鎖、側基または分子鎖末端の単環式構造および/又は多環式構造にある「脂環式骨格」は、芳香族性(つまり、π電子共役系)を有さない、例えば、環状の脂肪族炭化水素基等の環構造をいい、単環式構造および/又は多環式構造は、マレイミド基、カルボニル基等の官能基および/又は置換基を有していてもよい。「単環式構造」とは、単環を有する構造をいう。単環を1又は2以上有する。「多環式構造」とは、橋かけ構造(橋頭位構造)、2以上の単環がそれぞれの環の辺を互いに1つだけ共有(縮合)してできる縮合環構造、またはこれらを組み合わせた構造をいう。脂環式骨格を有する環を有していればよく、単環式構造の一部、多環式構造の一部に芳香環が含まれていてもよい。ヘテロ環を含まないことが好ましい。
【0014】
(i)および(ii)における「ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合」とは、ラジカル反応により、他の変性オレフィン系共重合体および/又は硬化性化合物と共有結合し得る結合をいう。ラジカル反応は、例えば、加熱、光照射、電子線照射により誘起される。
【0015】
本共重合体は上記構成を有しているので、耐熱性に優れる。その主たる理由は、側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかに本脂環式骨格を有し、ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合により結合されていることにより、硬化処理による架橋構造を形成して、硬化性を高められたことによると考えられる。特に、側鎖および/又は側基に本脂環式骨格を有することで、立体障害を抑制して反応性の向上を図り、硬化性を高めることができる。
【0016】
また、本共重合体を含む樹脂組成物の硬化物は、誘電特性に優れる。その主たる理由は、側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかに本脂環式骨格を有し、且つ共役ジエン化合物由来の構造単位および/又は脂環又は鎖状の非共役オレフィン化合物由来の構造単位を含むことにより、酸素原子や窒素原子を介して架橋させる場合に比べて(例えば、エポキシ化合物を用いて硬化する場合に比べて)、架橋部位を炭素-炭素結合とすることにより分極を少なくして誘電緩和を抑えられたことによると考えられる。また、側鎖および/又は側基に本脂環式骨格を有しているため立体障害が少なく、反応性に富むので硬化反応後に残留する非共役炭素-炭素不飽和結合を低減できる。その結果、酸化による水酸基の生成およびそれにともなう誘電特性の低下を抑えることができる。
【0017】
また、本共重合体を含む樹脂組成物の硬化物は、上記構成を有しているので、ヒートサイクル試験後のクラック耐性に優れる。その主たる理由は、主鎖を、共役ジエン化合物由来の構造単位および/又は脂環又は鎖状の非共役オレフィン系骨格とすることにより柔軟性を高めつつ、側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかの本脂環式骨格の炭素-炭素不飽和結合により架橋性構造を構築する構造によると考えられる。柔軟性をより効果的に高める観点からは、主鎖に不飽和結合を実質的に有しない共役ジエン化合物由来の構造単位および/又は脂環又は鎖状の非共役オレフィン系骨格を主鎖骨格とすることが好ましい。
【0018】
1-1.主鎖骨格
本共重合体は、主鎖が、共役ジエン化合物由来の構造単位および/又は脂環又は鎖状の非共役オレフィン化合物由来の構造単位を含む。誘電特性および耐熱性をより向上させる観点からは、前記主鎖には、分子鎖末端を除き、実質的に不飽和結合を有しないことが好ましい。この場合において、主鎖骨格に不飽和結合が残存している場合には、水素添加反応(水添反応)により実質的に不飽和結合を有しない共重合体が得られる。
【0019】
本共重合体の主鎖を構成する共役ジエン化合物由来の構造単位を得るための単量体(以下、単量体Aともいう)は、公知の単量体から適宜選択できる。好適例としてブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-ブタジエン、2-フェニル-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、ミルセン、ファルネセン、クロロプレンおよびこれらの混合物が挙げられる。この中でも、ブタジエン、イソプレンがより好ましい。
【0020】
本共重合体の主鎖を構成する脂環又は鎖状の非共役オレフィン化合物由来の構造単位を得るための単量体(以下、単量体Bともいう)は、公知の単量体から適宜選択できる。好適例としてエチレン、プロピレン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等のα-オレフィン、N-ビニルピロリドン等のヘテロ原子置換アルケン化合物、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体、ジシクロペンタジエンやジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体、テトラシクロドデセン等の四環体、トリシクロペンタジエン等の五環体、テトラシクロペンタジエン等の七環体、これらの誘導体等のノルボルネン系モノマーが例示できる。これらの中でも、エチレン、プロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
【0021】
機械的強度および耐熱性を優れたものとする観点から、本共重合体は、主鎖に、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を有することが好ましい。本共重合体の主鎖を構成する芳香族ビニル化合物由来の構造単位を得るための単量体(以下、単量体Cともいう)は、公知の単量体から適宜選択できる。好適例としてスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等のメチルスチレン類;2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、インデン、ビニルナフタレン、N-ビニルカルバゾールが挙げられる。製造コストと物性バランスの観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンおよびこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0022】
本共重合体は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において前述の単量体Aおよび単量体Bと共重合可能なその他の単量体(以下、単量体Dともいう)を用いてもよい。誘電特性を良好に保ち、ヒートサイクル後のクラック耐性を良好に保つ観点から、主鎖骨格となる脂環構造にヘテロ環を含まないことが好ましい。単量体Dの具体例として、N-ビニルカルバゾール、ビニルナフタレンおよびビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテンが例示できる。
【0023】
本共重合体はランダム共重合、ブロック共重合、グラジェント共重合体のいずれでもよいが、耐熱性と応力緩和の両立の観点からはブロック共重合体が好ましい。好適例として、耐熱性と応力緩和の両立の観点から、芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなるブロックと、共役ジエン化合物由来の構造単位を含むブロック共重合体が例示できる。前記ブロック共重合体は、耐熱性と応力緩和の両立の観点から、共役ジエン化合物由来の構成単位を含むブロックの両末端に芳香族ビニル化合物由来の構成単位を含むことがより好ましいまた、本共重合体の主鎖は、芳香族ビニル化合物由来の構成単位からなるブロックとして、スチレン由来の構成単位を含み、共役ジエン化合物由来の構成単位を含むブロックとして、ブタジエン、イソプレン由来の構成単位を含むことが好ましい。A-B-A型トリブロック共重合体、A-B型ジブロック共重合体が好ましく、A-B-A型トリブロック共重合体がより好ましい。ブロックAの好適例としてスチレン系由来の単量体、ブロックBとしてブタジエン、イソプレン由来の単量体が例示できる。
【0024】
本共重合体の好適例として、水添スチレン系エラストマーである、スチレン-エチレン・ブチレンブロック共重合体(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン・ブチレン・スチレン-スチレンブロック共重合体(SEBSS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン-エチレン・プロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)のいずれかの変性物が例示できる。
【0025】
単量体A~Dはそれぞれ独立に、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。本共重合体を構成する単量体A由来の構造単位および単量体B由来の構造単位の合計(どちらか一方のみを有する場合も含む)は、応力緩和の観点から、本共重合体100質量%中、30~90質量%含有することが好ましく、40~80質量%含有することがより好ましく、55~75質量%含有することが更に好ましい。本共重合体を構成する単量体C由来の構造単位は、耐熱性の観点から、本共重合体100質量%中、10~70質量%含有することが好ましく、15~60質量%含有することがより好ましく、20~45質量%含有することが更に好ましく、25~45質量%が特に好ましい。また、本共重合体を構成する単量体A~C由来の構造単位の合計は、本共重合体100質量%中、90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上であることが好ましく、100質量%であってもよい。なお、上記範囲は、変性前のオレフィン系共重合体における質量%である。
【0026】
1-2.側基、側鎖および分子鎖末端
本共重合体の側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかに、(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす、脂環式骨格を有する単環式構造および/又は多環式構造(以下、非共役C=C結合含有環ともいう)を有する。これにより、本共重合体に架橋性を付与できる。本共重合体を架橋せしめることにより、優れた耐熱性に加え、ヒートサイクル試験後のクラック耐性を高められる。
【0027】
上記(i)を満たす脂環式骨格を有する単環式構造、多環式構造として下記化学式(1)が挙げられる。
【化1】
式中のR
1は直接結合またはメチレン基であり、R
2は水素またはメチル基である。式中の*は変性オレフィン系共重合体の主鎖若しくは側鎖との結合部位を示す。環の炭素と結合する水素原子は置換基によって置換されていてもよい。係る置換基としては、炭素数1~18のアルキル基(メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等)、炭素数1~18のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アリール基(フェニル基、ナフチル基等)、複素芳香族基(チエニル基等)、ハロアリール基(ペンタフルオロフェニル基、3-フルオロフェニル基、3,4,5-トリフルオロフェニル基等)、ビニリデン基などのアルケニル基、アルキニル基、アミド基、アシル基、ハロアルキル基(パーフルオロアルキル基等)、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、ハロゲン基(フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等)が例示できる。
【0028】
上記(ii)の具体例として下記化学式(2)の基が挙げられる。
【化2】
式中のR
1、R
2および式中の*は化学式(1)で説明した通りである。また、環の炭素と結合する水素原子は置換基によって置換されていてもよく、係る置換基の好適例として化学式(1)で例示した置換基が挙げられる。
【0029】
誘電特性の観点からは、上記(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たすラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合を有する脂環式骨格に、マレイミド基などのヘテロ原子を含まないことが好ましい。誘電特性の観点から、非共役炭素-炭素不飽和結合を有する脂環式骨格の好適例としてノルボルネン、テルペン(例えば、α-ピネンやリモネン等)が例示できる。ノルボルネン基を有すると、脂環構造にヘテロ原子が含まれないため、誘電特性を高められる。
【0030】
本共重合体の分子鎖末端が、実質的に全て、本脂環式骨格を有する構造であってもよい。また、分子鎖末端の一部が、本脂環式骨格以外の官能基を含んでいてもよい。更に、分子鎖末端の一部が、官能基を有しない封鎖末端でもよい。本共重合体の分子鎖末端には本脂環式骨格を有さず、本共重合体の側鎖および/又は側基に本脂環式骨格を有していてもよい。本脂環式骨格を、分子鎖末端、側鎖および側基の少なくともいずれかに有していればよい。
【0031】
1-3.共重合形式、重量平均分子量等
本共重合体は、耐熱性とヒートサイクル試験後のクラック耐性の観点からはブロック共重合体が好ましい。好適な例として、芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなるブロックと、共役ジエン化合物由来の構造単位を含むブロックとを含むブロック共重合体が例示できる。また、共役ジエン化合物由来の構造単位を含むブロックに、更に、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含む変性ブロック共重合体も好適である。
【0032】
本共重合体の重量平均分子量(以下、Mwともいう)は特に限定されないが、ヒートサイクル試験後のクラック耐性をより良好なものとする観点からは、Mwは20,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、70,000以上であることが更に好ましい。本共重合体と硬化性化合物の相溶性の観点から、本共重合体のMwは400,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましく、200,000以下が更に好ましい。
【0033】
本共重合体の非共役C=C結合含有環の位置は、側基、側鎖および分子鎖末端のいずれかにあればよいが、製造工程の観点からは側基または側鎖が好ましい。本共重合体のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合の量は特に限定されないが、耐熱性をより良好なものとする観点からは(i)および(ii)のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合価は1~50mgKOH/gが好ましく、2~35mgKOH/gがより好ましく、5~25mgKOH/gが更に好ましい。
【0034】
芳香族ビニル化合物由来の構造単位からなるブロックの含有率は、耐熱性とヒートサイクル試験後のクラック耐性の観点から、本共重合体100質量%に対して、10~70質量%含有することが好ましい。より好ましくは20~60質量%であり、更に好ましくは25~45質量%である。
【0035】
1-4.製造方法
本共重合体の製造方法の一例について説明する。本共重合体の製造方法として、例えば、共役ジエン化合物および/又は脂環又は鎖状の非共役オレフィン化合物を少なくとも含む単量体を重合させることにより変性前の樹脂(未変性共重合体)を得る。重合方法は、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、リビング重合のいずれでもよく、公知の方法を適用できる。未変性ブロック共重合体は、逐次単量体を添加することにより得られる。未変性ブロック共重合体の主鎖の不飽和二重結合を実質的に含まないようにする場合には、重合後に、触媒存在下で加圧水素と反応させるなどの公知の方法で水添反応を行えばよい。
【0036】
非共役C=C結合含有環を側鎖、側基および分子鎖末端の少なくともいずれかに導入(変性)する方法は、非共役C=C結合含有環を導入し得る化合物を、未変性共重合体と反応させる反応工程を経て製造する方法が好適である。また、オレフィン系共重合体を重合する際に、本非共役C=C結合含有環を有する単量体を一部に用いることにより、側基にC=C結合含有環を有する共重合体を得てもよい。
【0037】
非共役C=C結合含有環の分子鎖末端への導入は、未変性のオレフィン系共重合体を重合後、必要に応じて水添反応を行い、非共役C=C結合含有環を有する化合物を反応させることにより得られる。未変性のオレフィン系共重合体の分子鎖末端に官能基を有する化合物を導入し、その官能基と非共役C=C結合含有環を有する化合物を反応させてもよい。例えば、分子鎖末端にアクリル酸を導入する。その後、カルボキシ基と反応する官能基(例えばアミノ基、エポキシ基、ヒドロキシ基)を有する、(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす脂環式骨格を有する単環式構造および/又は多環式構造を有する化合物を反応させることにより、分子鎖末端に非共役C=C結合含有環を導入できる。
【0038】
非共役C=C結合含有環の側鎖への導入は、未変性のオレフィン系共重合体に、例えば、加熱下、ラジカル開始剤を添加し、酸無水物をグラフト重合させる方法により製造できる。酸無水物基を導入し得る化合物としては、例えば、無水マレイン酸、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物が例示できる。これらが導入された市販品を用いてもよい。
【0039】
本共重合体の前駆体である未変性のオレフィン系共重合体に酸無水物を導入後、この酸無水物の全部または一部と、(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす、脂環式骨格を有する単環式構造および/又は多環式構造を有する化合物とを反応せしめることにより、側鎖に非共役C=C結合含有環を有する本共重合体が得られる。
【0040】
(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす、脂環式骨格を有する単環式構造および/又は多環式構造を有する化合物として、カルボン酸と反応する官能基を置換基として有する下記化合物が例示できる。即ち、カルボン酸と反応する官能基(アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシ基等)を置換基として有するインデン環;シクロヘキセン等のシクロアルケン環;5-メチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-エチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-ブチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-ヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-デシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-シクロヘキシル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-シクロペンチル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン等のアルキル置換体;5-エチリデン-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(5-エチリデン-2-ノルボルネン)、5-ビニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-プロペニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-シクロヘキセニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-シクロペンテニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン等のアルケニル置換体;5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(5-フェニル-2-ノルボルネン)、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ-4,6,8,13-テトラエン等のノルボルネンを含む環を例示できる。また、テトラシクロドデセン、8-メチルテトラシクロドデセン、8-エチルテトラシクロドデセン、8-シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8-シクロペンチルテトラシクロドデセン等の無置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8-メチリデンテトラシクロドデセン、8-エチリデンテトラシクロドデセン、8-ビニルテトラシクロドデセン、8-プロペニルテトラシクロドデセン、8-シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8-シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;8-フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類が例示できる。また、カルボン酸と反応する官能基(アミノ基、エポキシ基、ヒドロキシ基等)を置換基として有する、8-メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8-ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8-カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン-8,9-ジカルボン酸、テトラシクロドデセン-8,9-ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類が例示できる。
【0041】
アミノ基を有する、(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす脂環式骨格を有する単環式構造および/又は多環式構造を有する化合物として、例えば以下の化合物(3)が例示できる。
【化3】
式中のR
1、R
2は化学式(1)で説明した通りである。R
3は直接結合または炭素数1~20のアルキル基である。R
3は直接結合または炭素数1~6のアルキル基が好ましく、R
3は直接結合または炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。また、環の炭素と結合する水素原子は置換基によって置換されていてもよい。係る置換基としては、化学式(1)の説明で例示した置換基が例示できる。特に好ましい化合物として、5-ノルボルネン-2
-メチルアミンが例示できる。
【0042】
未変性のオレフィン系共重合体に酸無水物を導入後、酸無水物の全部または一部と、アミノ基を有する(i)および(ii)の少なくともいずれかを満たす脂環式骨格を有する単環式構造および/又は多環式構造を有する化合物とを反応せしめることにより、イミド結合が形成される。このイミド結合により、後述する硬化性化合物のマレイミド化合物(b3)との相溶性が向上するため架橋性が上がり、硬化物の耐熱性が向上する。即ち、硬化物の耐熱性の観点からは、本共重合体の側鎖、側基および分子鎖末端のいずれかにイミド結合を導入し、且つ硬化性化合物としてマレイミド化合物(b3)を組み合わせる樹脂組成物が好適である。
【0043】
未変性のオレフィン系共重合体に酸無水物基を導入させる反応における温度は50~200℃が好ましく、100~180℃がより好ましい。酸無水物を導入後、脂環式骨格を有する単環式構造および/又は多環式構造を有する化合物とを反応させる温度は80~250℃が好ましく、100~200℃がより好ましい。
未変性のオレフィン系共重合体に酸無水物基を導入させる反応における時間は1~240分が好ましく、10~180分がより好ましい。酸無水物を導入後、脂環式骨格を有する単環式構造および/又は多環式構造を有する化合物とを反応させる時間は30~240分が好ましく、60~180分がより好ましい。
【0044】
酸無水物基を導入し、側鎖および/又は側基に本脂環式骨格を導入するときに酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤としては、例えば、公知の酸化防止剤を使用できる。酸化防止剤の具体例としては、例えば、フェノチアジン、ビス-(1-ジメチルベンジル)フェノチアジンおよび3,7-ジオクチルフェノチアジン等のフェノチアジン系化合物;ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]2,4-ビス〔(ラウリルチオ)メチル〕-o-クレゾール、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、およびペンタエリスリトールテトラキス3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のヒンダードフェノール系化合物;フェノキサジン等のフェノキサジン系化合物;4-ニトロソフェノール、N-ニトロソジフェニルアミン、N-ニトロソシクロヘキシルヒドロキシルアミン、およびN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン等のニトロソ化合物又はその塩;メチルハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、および4-ベンゾキノン等のキノン化合物;4-メトキシフェノール、4-メトキシ-1-ナフトール、およびt-ブチルカテコール等のフェノール化合物が挙げられる。
なかでも、本開示の効果がより優れる点で、酸化防止剤としては、フェノチアジン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、およびフェノキサジン系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0045】
触媒として、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類等が例示できる。また、脱水剤としては、例えば無水酢酸等の脂肪族酸無水物、無水安息香酸等の芳香族酸無水物が例示できる。ラジカル開始剤は後述する化合物が好適例として挙げられる。
【0046】
重合に用いる有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾールが例示できる。溶媒は単独若しくは二種以上を併用して用いられる。キシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。
【0047】
2.樹脂組成物
本実施形態に係る樹脂組成物(以下、本組成物ともいう)は、本共重合体を少なくとも含む。本組成物によれば、本共重合体の分子間の非共役C=C結合含有環同士をラジカル開始剤により架橋させることができる。また、本組成物は、更に、硬化性化合物を含んでいてもよい。硬化性化合物を含むことにより、本共重合体の非共役C=C結合含有環と、硬化性化合物との架橋を形成できる。硬化性化合物を含むことにより、硬化物の架橋密度を制御することが容易になる。
【0048】
本組成物は上記構成を有しているので、その硬化物の耐熱性に優れる。その主たる理由は、側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかに、反応性が比較的穏やかな適度な反応性を有する脂環式骨格の非共役炭素-炭素不飽和結合、あるいは脂環式骨格に直結した非共役炭素-炭素不飽和結合を起点とした架橋構造を構築できること、および主鎖中の比較的柔軟で強靱な鎖状の炭化水素骨格により、硬化処理後の本共重合体の運動性低下を抑制し、応力緩和性・分散性が向上できたことによると考えられる。また、主鎖の鎖状の炭化水素骨格と、比較的反応性の低い「脂環式構造由来のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合」を有する本共重合体を、硬化性化合物と組み合わせることにより、架橋構造の疎の部分と密のコントラストがつきやすく、耐熱性が向上できたと考えられる。耐熱性をより向上させる観点からは、主鎖の鎖状の炭化水素骨格を飽和炭化水素骨格とすることが好ましい。
【0049】
また、本組成物は上記構成を有しているので、誘電特性に優れる樹脂組成物を提供できる。側基、側鎖および分子鎖末端の少なくともいずれかに本脂環式骨格を有し、且つ主鎖に鎖状の炭化水素骨格を有する本共重合体を用いることにより、側鎖および/又は側基に本脂環式骨格を有しているため立体障害が少なく、反応性に富むので硬化反応後に残留する非共役炭素-炭素不飽和結合を低減できる。その結果、酸化による水酸基の生成およびそれに伴う誘電特性の低下を抑えることができるため誘電特性が優れると考えられる。以下、本組成物の各成分および製造方法について詳細に説明する。
【0050】
2-1.硬化性化合物
硬化性化合物は、加熱、光照射、電子線照射などにより架橋、硬化する化合物をいい、その種類は特に限定されない。硬化性化合物は、一種単独で用いる他、同種および異種を問わず、二種以上を組み合わせることができる。
【0051】
硬化性化合物の好適例として、エポキシ化合物(b1)、シアネートエステル化合物(b2)、マレイミド化合物(b3)、アリル基含有化合物(b4)、ビニル基含有化合物(b5)、(メタ)アクリレート基含有化合物(b6)、ベンゾオキサジン化合物(b7)が例示できる(以下、成分(b1)~(b7)ともいう)。硬化性化合物として、成分(b1)~(b7)からなる群から選択される一種以上を有することが好ましい。
【0052】
硬化性化合物は、ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合を有する硬化性化合物(B1)(以下、単に硬化性化合物(B1)ともいう)を含むことが好ましい。ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合とは、他の硬化性化合物と反応して架橋構造を形成および/又は本共重合体のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合と反応して結合を形成し得る結合をいう。ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合により結合されている硬化性化合物(B1)の好適例として、マレイミド化合物(b3)、アリル基含有化合物(b4)、ビニル基含有化合物(b5)、(メタ)アクリレート基含有化合物(b6)が挙げられる。
【0053】
耐熱性をより向上させる観点からは、硬化性化合物としてマレイミド化合物(b3)を含むことが好ましい。マレイミド化合物(b3)単独で用いてもよいし、マレイミド化合物(b3)と成分(b1)、(b2)、(b4)~(b7)の一種または二種以上と組み合わせて用いてもよい。好適な組合せとして、シアネートエステル化合物(b2)とマレイミド化合物(b3)の併用系、マレイミド化合物(b3)と成分(b4)~(b7)の少なくともいずれかとの併用系が好適である。これらの中でも、マレイミド化合物(b3)とアリル基含有化合物(b4)の併用系がより好適である。また、マレイミド化合物(b3)と、ベンゾオキサジン化合物(b7)とを加熱反応させて架橋して使用する場合も、マレイミドの反応性が向上し、誘電特性も優れるために特に好ましい。
【0054】
炭素-炭素不飽和結合同士の反応でより強固な架橋を形成する観点から、マレイミド化合物(b3)とアリル基含有化合物(b4)、マレイミド化合物(b3)とビニル基含有化合物(b5)、マレイミド化合物(b3)と(メタ)アクリレート基含有化合物(b6)の組み合わせが好適である。
【0055】
強靭性が向上する観点から、(b1)~(b7)においてポリフェニレンエーテル構造を有する硬化性化合物を用いることが好ましい。より好ましくは、アリル基含有化合物(b4)、ビニル基含有化合物(b5)、(メタ)アクリレート基含有化合物(b6)およびベンゾオキサジン化合物(b7)において、下記一般式(4)を構造の一部に有するポリフェニレンエーテル化合物である。
【化4】
R
11、R
12、R
13およびR
14は、繰り返し単位毎にそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)、置換基を有していてもよいアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘプチル基等の炭素数1~6の直鎖状もしくは分岐状の
アルキル基、シクロヘキシル基等の
シクロアルキル基)、置換基を有していてもよいアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基)、置換基を有していてもよいアリール基(フェニル基、ナフチル基等)、置換基を有していてもよいアミノ基、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基などが例示できる。
【0056】
耐熱性、特に長期耐熱性の観点からポリフェニレンエーテル化合物の平均硬化性官能基数は1~10であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。
【0057】
ポリフェニレンエーテル構造を有する成分(b4)~(b7)のMwは特に限定されないが、ヒートサイクル試験後のクラック耐性を高める観点から200以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましい。Mwの上限値は特に限定されないが、入手容易性等を考慮すると1万以下である。
【0058】
本組成物中のフィラーおよび溶剤を除く成分100質量%中、硬化性化合物を10~98質量%用いることが好ましく、30~90質量%用いることがより好ましく、45~85質量%用いることが更に好ましい。
【0059】
耐熱性の観点から、硬化性化合物の分子量が100以上、10,000未満であり、且つラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合により結合されている硬化性化合物(B1)を含む態様が好ましい。更に、前記態様に加え、本共重合体と硬化性化合物(B1)との合計100質量%に対し、本共重合体の含有率を5~40質量%とすることにより、耐熱性がより優れたものとなる。
【0060】
なお、硬化性化合物の分子量とは、低分子化合物の場合はその分子量であり、単量体を重合して得られる化合物の場合には数平均分子量をいう。硬化性化合物を2種以上用いる場合の硬化性化合物の分子量は、それぞれの硬化性化合物の分子量×その硬化性化合物の含有率(質量%)の総和をいう。
【0061】
エポキシ化合物(b1)は、エポキシ基を有する硬化性化合物をいう。エポキシ化合物(b1)は、活性エステル化合物を併用して用いることが好ましい。活性エステル化合物とは、エポキシ基と反応するエステル基を1分子中に1個以上有し、エポキシ樹脂を硬化せしめる化合物をいう。活性エステル化合物の市販品として、DIC社製「HPC-8000-65T」、「EXB9416-70BK」および「EXB8100-65T」等が例示できる。
【0062】
活性エステル化合物を用いることにより、エポキシ化合物(b1)と活性エステル化合物との反応によりエステル基が生じる。このため、フェノール系硬化剤を用いる場合に比べて極性を低くできる。その結果、誘電特性をより効果的に高めることができる。
【0063】
エポキシ化合物(b1)の具体例として、グリジシルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、又はテトラグリシジルメタキシリレンジアミン、ソルビトールポリグリシジルエーテル等のグリジシルアミン型エポキシ樹脂;ジグリシジルフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、又はジグリシジルテトラヒドロフタレート等のグリシジルエステル型エポキシ樹脂、;エポキシシクロヘキシルメチル-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、又はビス(エポキシシクロヘキシル)アジペートなどの環状脂肪族(脂環型)エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂が例示できる。また、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、α-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、テトラブロムビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂が例示できる。
【0064】
シアネートエステル化合物(b2)は、シアネート基を有する硬化性樹脂をいう。シアネートエステル化合物(b2)として、ビスフェノールA型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールA型シアン酸エステル、ビスフェノールF型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールE型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールS型シアネートエステル樹脂、ビスフェノールスルフィド型シアネートエステル樹脂、フェニレンエーテル型シアネートエステル樹脂、ナフチレンエーテル型シアネートエステル樹脂、ビフェニル型シアネートエステル樹脂、テトラメチルビフェニル型シアネートエステル樹脂、ポリヒドロキシナフタレン型シアネートエステル樹脂、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂、クレゾールノボラック型シアネートエステル樹脂、トリフェニルメタン型シアネートエステル樹脂、テトラフェニルエタン型シアネートエステル樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型シアネートエステル樹脂、フェノールアラルキル型シアネートエステル樹脂、ナフトールノボラック型シアネートエステル樹脂、ナフトールアラルキル型シアネートエステル樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型シアネートエステル樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型シアネートエステル樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型シアネートエステル樹脂、ビフェニル変性ノボラック型シアネートエステル樹脂、アントラセン型シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0065】
シアネートエステル化合物(b2)の市販品、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(ロンザジャパン社製「PT-30」および「PT-60」)、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂が三量化されたプレポリマー(ロンザジャパン社製「BA-230S」、「BA-3000S」、「BTP-1000S」および「BTP-6020S」)等を用いてもよい。
【0066】
耐熱性とヒートサイクル試験後のクラック耐性を向上させる観点から、分子量が100以上、10,000未満のマレイミド化合物(b3)を含むことが好ましい。このような比較的分子量の低い、反応性の高いマレイミド化合物(b3)と、比較的分子量の高い、比較的反応性の低い、脂環式構造由来のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合により結合されている本共重合体とを組み合わせることで、架橋構造の疎の部分と密な部分が生じやすく、効果的に耐熱性とヒートサイクル試験後のクラック耐性を向上させることができたと考えられる。
【0067】
マレイミド化合物(b3)は、多官能アミンと無水マレイン酸を反応させて得られる多官能マレイミドを挙げることができる。多官能アミンとしては、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4′-ジアミン、ハンツマン・コーポレーション社製の、末端アミノ化ポリプロピレングリコール骨格を有するジェファーミンD-230、HK-511、D-400、XTJ-582、D-2000、XTJ-578、XTJ-509、XTJ-510、T-403、T-5000、末端アミノ化エチレングリコール骨格を有するXTJ-500、XTJ-501、XTJ-502、XTJ-504、XTJ-511、XTJ-512、XTJ-590末端アミノ化ポリテトラメチレングリコール骨格を有するXTJ-542、XTJ-533、XTJ-536、XTJ-548、XTJ-559などが挙げられる。
【0068】
マレイミド化合物(b3)として、4,4'-ジフェニルメタンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、p-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、N,N'-エチレンジマレイミド、N,N'-ヘキサメチレンジマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド等の分子内に2つのマレイミド基を有する樹脂、ビフェニルアラルキル型マレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド(CASNO:67784-74-1、ホルムアルデヒドとアニリンからなるポリマーと無水マレイン酸の反応物)、N,N’-(トルエン-2,6-ジイル)ビスマレイミド)、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、N,N’-エチレンビスマレイミド、N,N’-トリメチレンビスマレイミド、N,N’-プロピレンビスマレイミド、N,N’-テトラメチレンビスマレイミド、N,N’-ペンタメチレンビスマレイミド、N,N’-(1,3-ペンタンジイル)ビス(マレインイミド)、N,N’-ヘキサメチレンビスマレイミド、N,N’-(1,7-ヘプタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,8-オクタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,9-ノタンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,10-デカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,11-ウンデカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-(1,12-ドデカンジイル)ビスマレイミド、N,N’-[(1,4-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、N,N’-[(1,2-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスメチレン]ビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、N,N′‐[(メチルイミノ)ビス(4,1‐フェニレン)]ビスマレイミド、N,N′‐(2‐ヒドロキシプロパン‐1,3‐ジイルビスイミノビスカルボニルビスエチレン)ビスマレイミド、N,N′‐(ジチオビスエチレン)ビスマレイミド、N,N′‐[ヘキサメチレンビス(イミノカルボニルメチレン)]ビスマレイミド、N,N′‐カルボニルビス(1,4‐フェニレン)ビスマレイミド、N,N′,N′′‐[ニトリロトリス(エチレン)]トリスマレイミド、N,N’,N’’-[ニトリロトリス(4,1-フェニレン)]トリスマレイミド、N,N′‐[p‐フェニレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N′‐[メチレンビス(オキシ)ビス(2-メチル-1,4-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビス(マレインイミド)N,N′‐[ジメチルシリレンビス[(4,1-フェニレン)(1,3,4,-オキサジアゾール-5,2-ジイル)(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスオキシビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、1,1’-[3’-オキソスピロ[9H-キサンテン-9,1’(3’H)-イソベンゾフラン]-3,6-ジイル]ビス(1H-ピロール-2,5-ジオン)、N,N’-(3,3’-ジクロロビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(3,3’-ジメトキシビフェニル-4,4’-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-エチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2,6-ジエチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-ブロモ-6-エチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(2-メチル-4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[エチレンビス(オキシエチレン)]ビスマレイミド、N,N’-[スルホニルビス(4,1-フェニレン)ビス(オキシ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ナフタレン-2,7-ジイルビス(オキシ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[p-フェニレンビス(オキシ-p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[(1,3-フェニレン)ビスオキシビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-(3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(m-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[イソプロピリデンビス[(2,6-ジクロロベンゼン-4,1-ジイル)オキシカルボニル(p-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[(フェニルイミノ)ビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[アゾビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイルビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、2,6-ビス[4-(マレインイミド-N-イル)フェノキシ]ベンゾニトリル、N,N’-[1,3,4-オキサジアゾール-2,5-ジイルビス(3,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ビス[9-オキソ-9H-9-ホスファ(V)-10-オキサフェナントレン-9-イル]メチレンビス(p-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[ヘキサフルオロイソプロピリデンビス[p-フェニレンオキシカルボニル(m-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[カルボニルビス[(4,1-フェニレン)チオ(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-カルボニルビス(p-フェニレンオキシp-フェニレン)ビスマレイミド、N,N’-[5-tert-ブチル-1,3-フェニレンビス[(1,3,4-オキサジアゾール-5,2-ジイル)(4,1-フェニレン)]]ビスマレイミド、N,N’-[シクロヘキシリデンビス(4,1-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[メチレンビス(オキシ)ビス(2-メチル-1,4-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-[5-[2-[5-(ジメチルアミノ)-1-ナフチルスルホニルアミノ]エチルカルバモイル]-1,3-フェニレン]ビスマレイミド、N,N’-(オキシビスエチレン)ビスマレイミド、N,N’-[ジチオビス(m-フェニレン)]ビスマレイミド、N,N’-(3,6,9-トリオキサウンデカン-1,11-ジイル)ビスマレイミド、N,N’-(エチレンビス-p-フェニレン)ビスマレイミド、DesignerMolecules社製のBMI-689、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000、BMI-5000、BMI-9000、JFEケミカル社製のODA-BMI、BAFBMIなどの多官能マレイミドを挙げることができる。
【0069】
マレイミド化合物(b3)をラジカルにより架橋させる場合には、ラジカル重合開始剤を添加すればよい。具体的にはアゾ系化合物、有機過酸化物が例示できる。重合開始剤は一種もしくは二種以上を組み合わせて用いられる。
アゾ系化合物としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2’-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]が例示できる。
有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシドが例示できる。
【0070】
アリル基含有化合物(b4)は、単官能、多官能のいずれでもよい。単官能アリル化合物として(メタ)アリルアルコールが例示できる。多官能アリル化合物としては、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース、ジ(メタ)アリルフタレート、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレートが例示できる。また、以下の化合物が挙げられる。
【化5】
【0071】
ビニル基含有化合物(b5)は、単官能でも多官能でもよい。単官能ビニル化合物として、スチレン、ビニルトルエン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、ビニルイミダゾール、ビニルピリジンが例示できる。多官能ビニル化合物として、ヘキサンジオールジノルボルネンカルボキシレート、ビニルベンジル変性ポリフェニレンエーテル、ペンタエリスリトールテトラノルボルネンカルボキシレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル等のビニルエーテル、ジビニルベンゼンが例示できる。これらのうちでも、ビニル基含有ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。
【0072】
(メタ)アクリレート基含有化合物(b6)は、単官能でも多官能でもよい。例えば、単官能(メタ)アクリルアミド化合物、多官能(メタ)アクリルアミド化合物、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0073】
単官能(メタ)アクリルアミド化合物として、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、t-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミドが例示できる。
多官能(メタ)アクリルアミド化合物として、N,N’-ジアクリロイル-4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミン、N,N’,N’’-トリアクリロイルジエチレントリアミン、N,N’,N’’,N’’’-テトラアクリロイルトリエチレンテトラミン、N,N’-{[2-アクリルアミド-2-[(3-アクリルアミドプロポキシ)メチル]プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)]ビス(プロパン-1,3-ジイル)}ジアクリルアミドが例示できる。
【0074】
単官能(メタ)アクリレートとして、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノールアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、p-クミルフェノールアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノールアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、ノニルフェノールアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアルコールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-エチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(2-イソブチル-2-メチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(1,4-ジオキサスピロ[4,5]デカン-2-イル)メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、アリル(メタ)アクリレート、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、N-(メタ)アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタルイミド、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、2-(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェートが例示できる。
前記アルキレンオキサイド付加物において、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが例示できる。
【0075】
多官能(メタ)アクリレートとして、メタクリレート基含有ポリフェニレンエーテル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレートおよび1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート等の脂肪族ジオールのジ(メタ)アクリレート;
シクロヘキサンジメチロールジ(メタ)アクリレートおよびトリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート等の脂環族ジオールのジ(メタ)アクリレート;
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;
ネオペンチルグリコールとヒドロキシピバリン酸と(メタ)アクリル酸のエステル化反応生成物(以下、「ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート」という。)、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート;
ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等のビスフェノール系化合物のアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート;
水素添加ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート等の水素添加ビスフェノール系化合物のジ(メタ)アクリレート;
イソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性イソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性イソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート等のイソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ又はヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート;
トリメチロールプロパンアルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンアルキレンオキサイド付加物のテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアルキレンオキサイド付加物のトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールアルキレンオキサイド付加物のペンタ又はヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート:
ウレタン(メタ)アクリレート;エポキシ(メタ)アクリレート;並びに
ポリエステル(メタ)アクリレートが例示できる。
前記アルキレンオキサイド付加物において、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが例示できる。
【0076】
ベンゾオキサジン化合物(b7)は、ベンゾオキサジン骨格を有する化合物であり、具体的には、o-クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、m-クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、p-クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール-メチルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール-シクロヘキシルアミン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール-m-トルイジン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール-3,5-ジメチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA-アミン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールF-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールS-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ジヒドロキシジフェニルスルホン-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ジヒドロキシジフェニルエーテル-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾフェノン型ベンゾオキサジン樹脂、ビフェニル型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールAF-アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ビスフェノールA-メチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール-ジアミノジフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、トリフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、およびフェノールフタレイン型ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。
【0077】
成分(b1)~(b7)以外の硬化性化合物として、フェノール樹脂、イソシアネート基含有化合物を用いてもよい。
【0078】
2-2.その他の成分
本組成物は、更に本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、他の化合物を含むことができる。例えば、本共重合体に該当しない共重合体を用いてもよい。また、任意の熱可塑性樹脂を用いてもよい。ラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合の架橋反応を促進する目的でラジカル重合開始剤を添加してもよい。また、触媒を用いることにより効率的に硬化処理を促進できる。そのような触媒の好適例として、イミダゾール系、アミン系、リン系が例示できる。
【0079】
ラジカル重合開始剤は公知の化合物を用いることができる。例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、ジ-t-アミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等の過酸化物が例示できる。また、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタンもラジカル重合開始剤として好適である。
【0080】
ラジカル重合開始剤の配合量は、本共重合体100質量部に対し、0.01~10質量部の範囲、好ましくは0.1~8質量部の範囲である。この範囲であれば、硬化反応を阻害することなく良好に反応が進行する。
【0081】
更に、無機フィラー、熱安定剤、染料、顔料(例えば、カーボンブラック)、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、イオン捕集剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、電磁波シールド剤等が挙げられる。
【0082】
本組成物は、無溶剤であっても溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、N-メチル-ピロリドン、アセトン、メタノール、エタノール、ブタノール、2-プロパノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2- プロパノール、2-アセトキシ-1-メトキシプロパン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノンおよびこれらの混合物が例示できる。
【0083】
低誘電率化をより効果的に発揮させる観点から、フッ素系フィラーを用いることが好ましい。フッ素系フィラーとしては、PTFE、PVDF(CF2とCH2が交互に結合した直鎖状構造を持つフッ化ビニリデン重合体)、ネオフロンFEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体:四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体:パーフルオロアルコキシ樹脂)、ネオフロンETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体)、ECTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン:三フッ化塩化エチレン樹脂)等が例示できる。
【0084】
無機フィラーの種類は特に限定されない。無機フィラーを用いることにより、ヒートサイクル試験後のクラック耐性がより優れたものとなる。
【0085】
無機フィラーの具体例としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化アンチモン、酸化ニッケル、ケイ酸カルシウム、ベリリア、チタン酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、チタンホワイト、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウムなどの金属化合物;タルク;クレー;マイカ;ガラス繊維、カオリン、ハイドロタルサイト、ウォラストナイト、ゾノトライト、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ガラスフレーク、水和ガラス、セピオライトなどの金属酸化物や金属窒化物;水和金属化合物;溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、2次凝集シリカ、微粉シリカ、中空シリカ、多孔質シリカなどのシリカ系;炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化チタン、ダイヤモンドなどの窒化系や炭素系フィラーが例示できる。
これらの中でもシリカ系、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素がより好ましく、シリカ系、アルミナ、窒化ホウ素がクラック耐性を効果的に高める観点から特に好ましい。
【0086】
2-3.樹脂組成物および硬化物の特性
本組成物を硬化せしめることにより硬化物が得られる。ここで、硬化物とは、硬化処理により三次元架橋構造を形成して硬化することをいい、更に硬化処理しても実質的に硬化反応が進行しない程度に硬化された状態をいう。硬化処理により、硬化性化合物同士が架橋する態様、硬化性化合物と本共重合体とが架橋する態様、および硬化性化合物と他の成分とが架橋する態様、並びにこれらを任意に組み合わせた態様が挙げられる。硬化処理は、ラジカル反応等により行う。必要に応じて加熱してもよい。なお、本組成物をシート等の所望の形状に成形する際に、その一部が硬化反応し得るが、更に硬化処理すれば硬化し得る状態は、ここでいう硬化物には含まない。樹脂組成物の段階で、成分の一部が半硬化したBステージの状態であってもよい。
【0087】
3.樹脂組成物の製造方法
本組成物は、各配合成分を配合することにより得られる。配合に際して、適宜、溶媒を用いることができる。固形分濃度は、例えば20~60質量%である。本組成物は、例えば粉末状、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、ペースト状または液状である。液状またはペースト状の樹脂組成物は、溶剤を用いて粘度を調整することにより容易に得ることができる。また、フィルム状、シート状、板状の樹脂組成物は、例えば、液状またはペースト状の樹脂組成物を塗工して乾燥することにより形成できる。また、粉末状、ペレット状の樹脂組成物は、例えば、前記フィルム状等の樹脂組成物を所望のサイズに粉砕または分断することにより得られる。
【0088】
4.樹脂組成物層、積層シートおよびプリプレグ
本組成物は、樹脂組成物層として好適に用いることができる。また、本組成物は、基材と、この基材上に設けられた本組成物で形成された樹脂組成物層とを含む、積層シート用途に好適に用いることができる。樹脂組成物層は、硬化処理後に優れた接着性を示すので、各種材料(樹脂層、金属層、ITO等の無機層、複合層など)との接合用途として好適である。例えば、銅張積層板(CCL:Copper Clad Laminate)の接着シート、電子回路基板と電子部品等との部品同士の接合材料に好適である。
【0089】
例えば、溶剤を含む本組成物の塗布液(ワニス)を剥離フィルムの片面に塗布し、有機溶剤等の液状媒体を例えば40~150℃で除去・乾燥することにより、樹脂組成物層(接着シート)を有する積層シートが得られる。得られた接着シートの表面に別の剥離フィルムを積層することにより、両面剥離フィルム付き接着シートである積層シートが得られる。両面を剥離フィルムで積層することにより、接着シートの表面汚染を予防できる。剥離フィルムを剥がすことによって、接着シートを単離できる。2つの剥離フィルムは、同種または異種のいずれも用いることができる。剥離性の異なる剥離フィルムを用いることによって、剥離力に強弱をつけることができるので順番に剥がしやすくなる。また、剥離性基材以外の基材に塗布液を塗工して接着シート(樹脂組成物層)を有する積層シートを得てもよい。
【0090】
基材は、ポリイミドフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネート、ポリエチレン、液晶ポリマー、フェノール樹脂、アラミド樹脂などの樹脂材料;銅、アルミニウム、ステンレス等の金属材料;ITO、ガラス、シリコン、シリコンカーバイト等の無機材料およびこれらを任意に組み合わせた複合材料が例示できる。本組成物によれば、側鎖、側基または分子鎖末端の少なくともいずれかに本脂環式構造を有し、非共役C=C結合含有環を有する本共重合体を用いることにより各種基材への耐熱性に優れるのみならず、成形加工性に優れる。
【0091】
塗布方法としては、例えば、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、ディップコート、スプレーコート、スピンコート等、公知の方法を選択できる。接着シートの乾燥後の厚みは十分な接着性を発揮させるため、また、取り扱い易さの点から、5~500μmであることが好ましく、10~100μmであることが更に好ましい。
【0092】
本組成物は、基材に本組成物を含浸させることにより得られるプリプレグ形成用の材料として好適に用いることができる。プリプレグは、例えば、繊維基材に本組成物を含浸させ、続いて、樹脂組成物を加熱乾燥せしめて半硬化(Bステージ化)することにより製造できる。樹脂組成物の繊維基材に対する固形分付着量は、プリプレグに対して乾燥後の樹脂組成物の含有率は20~90質量%が好ましい。より好ましくは、30~80質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。例えば、プリプレグ中の樹脂組成物の固形分付着量が20~90質量%となるように、本組成物を繊維基材に含浸または塗工した後、例えば40~250℃の温度で1~30分加熱乾燥し、半硬化(Bステージ化)させることにより製造できる。
【0093】
繊維基材としては、公知の材料を制限なく利用できるが、有機繊維、無機繊維およびガラス繊維が例示できる。有機繊維としては、ポリイミド、ポリエステル、テトラフルオロエチレン、全芳香族ポリアミドなどが例示できる。無機繊維としては、炭素繊維が例示できる。ガラス繊維としては、Eガラスクロス、Dガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス、NEガラスクロス、Lガラスクロス、Tガラスクロス、球状ガラスクロス、低誘電ガラスクロスなどが例示できる。これらのなかでも低熱膨張率の観点からは、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロスおよび有機繊維が好適である。繊維基材は一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0094】
繊維基材の形状は、目的とする用途および性能に応じて適宜選択できる。具体例としては、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマットおよびサーフェシングマットが例示できる。織布の織り方としては、平織り、ななこ織り、綾織りが例示できる。所望の特性に応じて、任意に選択・設計できる。繊維基材の厚さは、例えば、約0.01~1.0mmの範囲である。薄膜化の観点からは500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましい。
【0095】
繊維基材は、必要に応じて、所望の特性を引き出すためにシランカップリング剤などで表面処理を施したり、機械的に開繊処理を施したりしてもよい。その他、コロナ処理やプラズマ処理を行ってもよい。シランカップリング剤の表面処理は、アミノシランカップリング処理、ビニルシランカップリング処理、カチオニックシランカップリング処理、エポキシシランカップリング処理等がある。
【0096】
繊維基材に樹脂組成物を含浸させる方法は特に限定されないが、例えば、アルコール類、エーテル類、アセタール類、ケトン類、エステル類、アルコールエステル類、ケトンアルコール類、エーテルアルコール類、ケトンエーテル類、ケトンエステル類、或いはエステルエーテル類などの有機溶媒を用いてワニス状の樹脂組成物を調製し、ワニス中に繊維基材を浸漬する方法、繊維基材にワニスを塗布またはスプレー等により散布する方法、繊維基材の両面を樹脂組成物からなる膜でラミネートする方法が挙げられる。
【0097】
更に、本組成物より形成されてなる樹脂組成物層、その硬化物層等は、半導体チップパッケージの絶縁層、アンダーフィル材、接着材等に好適である。また、銅張積層板用の組成物、配線板形成用ボンディングシート、フレキシブル基板のカバーコートにも好適である。
【0098】
5.硬化物の製造方法
本組成物を硬化処理することにより硬化物が得られる。熱硬化性化合物を含む場合には熱硬化処理により、光硬化性化合物を含む場合には光照射処理により硬化する。例えば、樹脂組成物をシート等の所望の形状に成形し、硬化処理する方法が例示できる。溶剤を含む樹脂組成物を塗布、乾燥することにより簡便に樹脂組成物のシートなどの成形体を得、硬化することにより硬化物を形成してもよい。硬化のタイミングは成形前、成形時でも成形後でもよい。なお、硬化物のうちシート状のものを硬化層ともいう。
【0099】
熱硬化処理する場合の温度は、硬化性化合物の種類に応じて適宜選定すればよい。例えば、150~300℃の温度で30~180分加熱処理する方法が例示できる。光硬化処理する場合、硬化する強度で活性光線を照射すればよい。硬化時に、必要に応じて圧をかけて熱圧着(例えば、2MPa)できる。硬化処理により、本組成物に架橋構造が形成され、3次元架橋した硬化物が得られる。
【0100】
6.硬化物および硬化物付基板
本組成物から得られる硬化物は、耐熱性に優れると共にヒートサイクル試験後のクラック耐性に優れ、製造工程中の基板加工適性にも優れるので、金属張積層板、プリント配線板をはじめとする各種部品の硬化物、或いはこの硬化物を含む硬化物付基板として好適である。
【0101】
金属張積層板は、例えば、本組成物を用いて絶縁層を形成し、絶縁層と金属層を積層するプロセス等を経て得られる。この絶縁層には、本組成物から形成された接着シート、プリプレグが好適に用いられる。例えば、金属層と本組成物を用いて形成したプリプレグを積層した後、加熱圧着により硬化処理工程を行うことにより、金属張積層板が得られる。加熱圧着工程は、公知の方法を利用できる。例えば、120~250℃の温度で0.5~10MPaの圧力で、0.5~5時間熱プレスすることにより行われる。
【0102】
金属張積層板の積層構成としては、金属層/硬化層の2層の積層体、金属層/硬化層/金属層の複層からなる積層体、或いは金属層/硬化層/金属層/硬化層/金属層等の交互に積層された多層構造を有する金属張積層板が例示できる。また、本組成物より形成した硬化層以外の絶縁層が積層体に含まれていてもよい。また、硬化層の厚みを調整するためにプリプレグ等を複数枚重ねて硬化させてもよい。また、金属層以外の導電層が積層されていてもよい。
【0103】
例えば、金属層/硬化層/金属層の層構成を有する金属張積層板の金属層に回路パターンを形成することにより、回路パターン層を有する回路基板を得ることができる。硬化層には、レーザー等によりスルーホールやビアを形成してもよい。コア基板にビルドアッププロセスによって、絶縁硬化層を重ね合わせてビアを形成し、多層化してもよい。回路基板は、例えば、サブトラクティブ法により金属張積層板の金属層を所望の回路パターンに形成する方法や、アディティブ法により絶縁層の片面または両面に所望の回路パターンを形成することにより得ることができる。
【0104】
金属層としては銅箔などが用いられる。銅張積層板では、銅箔面に電解銅めっきを行い、レジスト層を除去した後にアルカリ性等のめっき液でエッチングする工程がある。本組成物は、めっき液耐性等の基板加工適性に優れるので銅張積層板用途に好適である。更に、本硬化物はヒートサイクル試験後のクラック耐性および耐熱性に優れるので、本組成物を硬化して形成される硬化物を含む硬化物付基板は様々な環境下で幅広い用途に利用できる。
【0105】
プリント配線板は、例えば、銅張積層板における銅箔をエッチング等によって加工し、信号回路等を形成して得た基板とカバーフィルムとを接着シートを介して貼り合わせ、硬化処理工程等を経て製造できる。また、例えば、絶縁性のフレキシブルフィルム上に導体パターンを形成し、その上に本接着シートを介して保護膜を形成し、熱圧着する工程等を経てフレキシブルプリント配線板を製造できる。前記フレキシブルフィルムとしては、ポリエステル、ポリイミド、液晶ポリマー、PTFEフィルムが例示できる。導体パターンは、プリント技術により形成する方法、スパッタリングおよびめっきによる方法が例示できる。
【0106】
プリント配線板の片面または両面に形成された本組成物の硬化層に対し、ドリル加工あるいはレーザー加工などにより開口部を設け、導電剤を充填してビアを形成してもよい。また、本組成物の硬化層上に回路層を形成することもできる。本組成物の硬化物はめっき液耐性に優れるので多層プリント配線板の製造に好適である。本組成物を用いて形成されたプリント配線板は、優れた加工適性を有し、耐熱性およびヒートサイクル試験後のクラック耐性に優れるので、スマートフォンやタブレット端末等の各種電子機器に好適である。
【0107】
本共重合体は電気絶縁性に優れるので、本組成物に更に絶縁性の硬化性化合物を用いることで、絶縁性に優れた硬化物を提供できる。例えば、回路基板上の絶縁層形成材料(プリント配線板のカバーレイ層、ビルトアップ基板等の層間絶縁層、ボンディングシート等を含む)等として好適に用いられる。また、熱伝導性フィラーなどのフィラーにおいて導電性材料を用いることにより、電子部品の導電性部材に利用することも可能である。電子部品は、例えば、パワー半導体装置、LED、インバーター装置等のパワーモジュールが例示できる。
【0108】
更に、本組成物の硬化物に、無機フィラーとして例えば熱伝導性フィラーを配合することにより、放熱性が求められる用途全般に適用できる。例えば、樹脂組成物の成形性を利用して、所望の形状の放熱部品として好適に利用できる。特に、軽薄短小化のために、ファンやヒートシンクを設置できない電子機器(スマートフォン、ダブレット端末等)、電池用外装材の放熱性接着材や放熱性シートとして有用である。また、本組成物の硬化物は、発熱体とヒートシンクとの接着層、或いはヒートスプレッダーとして好適である。また、基板上に搭載された一種または複数の電子部品を被覆する放熱層として適用できる。
【0109】
本共重合体の配合量は任意であるが、硬化物の耐熱性を高め、また、ヒートサイクル試験後のクラック耐性をより優れたものとするために、本組成物の不揮発分(固形分)100質量%に対し1~50質量%含まれていることが好ましい。前記範囲は4~44質量%がより好ましく、6~38質量%が更に好ましい。
【実施例】
【0110】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明する。本開示は以下の実施例に限定されない。特に断りのない限り、「%」および「部」は質量基準とする。
【0111】
7.測定方法
7-1.酸無水物価の測定
共栓三角フラスコ中に試料(各合成例の樹脂)約1gを精密に量り採り、1,4-ジオキサン溶媒100mLを加えて溶解した。試料中の酸無水物基の量よりも多いオクチルアミン、1,4-ジオキサン、水の混合溶液(質量の混合比は1.49/800/80)を10mL加えて15分攪拌し、酸無水物基と反応させた。その後、過剰のオクチルアミンを0.02M過塩素酸、1,4-ジオキサンの混合溶液で滴定した。また、試料を加えていない、オクチルアミン、1,4-ジオキサン、水の混合溶液(質量の混合比は1.49/800/80)10mLもブランクとして測定を実施した。酸無水物価は次式により求めた(単位:mgKOH/g)
酸無水物価(mgKOH/g)=0.02×(B-A)×F×56.11/S
B:ブランクの滴定量(mL)
A:試料の滴定量(mL)
S:試料の採取量(g)
F:0.02mol/L過塩素酸の力価
【0112】
7-2.アミン価の測定
共栓三角フラスコ中に試料(各合成例の樹脂)約1gを精密に量り採り、シクロヘキサノン溶媒100mLを加えて溶解した。これに、別途0.20gのMethyl Orangeを蒸溜水50mLに溶解した液と、0.28gのXylene Cyanol FFをメタノール50mLに溶解した液とを混合して調製した指示薬を2、3滴加え、30秒間保持した。その後、溶液が青灰色を呈するまで0.1Nアルコール性塩酸溶液で滴定した。アミン価は次式により求めた。
アミン価(mgKOH/g)=(5.611×a×F)/S
但し、
S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性塩酸溶液の消費量(mL)
F:0.1Nアルコール性塩酸溶液の力価
【0113】
7-3.重量平均分子量(Mw)の測定
Mwの測定は、昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「GPC-101」を用いた。溶媒はTHF(テトラヒドロフラン)とし、カラムとして「KF-805L」(昭和電工社製:GPCカラム:8mmID×300mmサイズ)を直列に2本接続したものを用いた。試料濃度1質量%、流量1.0mL/min、圧力3.8MPa、カラム温度40℃の条件で行い、Mwの決定はポリスチレン換算で行った。データ解析はメーカー内蔵ソフトを使用して検量線、分子量およびピーク面積を算出し、保持時間17.9~30.0分の範囲を分析対象としてMwを求めた。
【0114】
7-4.(i)および(ii)のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合価
(i)および(ii)のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合価は、本共重合体を重合するときの原料の設計値から求めた。即ち、本共重合体の合成に用いる原料の仕込み量に対する、(i)および(ii)のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合により結合されている化合物の仕込み量から算出した。
【0115】
7-5.全官能基価の算出
酸無水物基価と、アミン価と、(i)~(ii)のラジカル反応性の非共役炭素-炭素不飽和結合価の合計(mgKOH/g)を全官能基価とした。
【0116】
8.本共重合体の合成
[合成例1]
LICOCENE PP 1602(ポリプロピレンポリエチレン共重合体、(クラリアント社製)、Mw57000、St0%)48部をキシレン50部に溶解し、酸無水物として無水マレイン酸を20部、ラジカル開始剤としてルぺロックスDTA(ジ-t-アミルパーオキサイド、アルケマ吉富社製)を1.7部加え、140℃で還流しながら2時間撹拌した。反応の終点は、FT-IRによりカルボキシ基由来のピーク(1711cm-1付近)の生成により確認し、無水マレイン酸変性ポリエチレンポリプロピレン共重合体を得た。その後、K-NOX 1010(ペンタエリスリトールテトラキス3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、Kuo Ching Chemical社製)を0.5部加え、温度を100℃にし、5-ノルボルネン-2-メチルアミンを2.8部、触媒としてジメチルベンジルアミンを0.08部加え100℃で2時間撹拌後、キシレンおよび反応により発生する水を共沸させながら170℃で2時間撹拌することでイミド化を行った。反応の終点は、FT-IRによりカルボキシ基由来のピーク(1711cm-1付近)がイミド基由来のピーク(1704cm-1付近)にシフトし、アルカン由来のピーク(1397cm-1付近)の生成により確認した。その後トルエンを200部加えて希釈し、メタノール225部を添加することで沈殿物を得た。ろ過により沈殿物を回収し、沈殿物に再度トルエンを200部加え溶解し、メタノール225部を添加することで沈殿物を得た。ろ過により沈殿物を回収し、100℃の真空オーブンで2時間乾燥させることで側鎖に非共役炭素-炭素不飽和結合を有する樹脂を得た。ラジカル反応性の炭素-炭素不飽和結合価は10mgKOH/gである。
【0117】
[合成例2~8]
表1に記載の単量体および配合量に変更した以外は、合成例1と同様の方法により共重合体の合成例2~8を得た。
【0118】
[比較合成例1]
LICOCENE PP 1602 48部をキシレン50部に溶解し、酸無水物として無水マレイン酸を20部、ラジカル開始剤としてルぺロックスDTAを1.7部加え、140℃で還流しながら2時間撹拌した。その後トルエンを200部加えて希釈し、メタノール225部を添加することで沈殿物を得た。ろ過により沈殿物を回収し、沈殿物に再度トルエンを200部加え溶解し、メタノール225部を添加することで沈殿物を得た。ろ過により沈殿物を回収し、100℃の真空オーブンで2時間乾燥させることで側鎖に酸無水物を有する樹脂を得た。酸無水物価は10mgKOH/gである。
【0119】
[比較合成例2~7]
表1に記載の単量体および配合量に変更した以外は、比較合成例1と同様の方法により共重合体の比較合成例2~7を得た。
【0120】
表1の略称を以下に示す。
(変性前の樹脂)
R-1:ポリプロピレン(LICOCENE PP 1602、Mw57,000、St0%)
R-2:水添スチレン・ブタジエンゴム(ダイナロン2324P、Mw170,000、St16%)
R-3:SEP(G1702、Mw150,000、St28%)
R-4:SEBS(G1652、Mw72,000、St30%)
R-5:SEBSS(A1536、Mw130,000、St40%)
(非共役炭素-炭素不飽和結合含有化合物)
T-1:5-ノルボルネン-2-メチルアミン
T-2:N-(4-アミノフェニル)マレイミド
【0121】
図1に、変性前の樹脂R-5、比較合成例5および合成例5のIRスペクトル図を示す。同図に示すように、比較合成例5においてはカルボキシ基由来のピーク(1711cm
-1付近)を確認した。一方、合成例5においては、カルボン酸のC=O由来のピーク(1711cm
-1付近)がイミド基のC=O由来のピーク(1704cm
-1付近)にシフトしていることを確認した。また、アルカン由来のピーク(1397cm
-1付近)を確認した。
【0122】
【0123】
9.樹脂組成物(ワニス)の調製
[実施例1]
固形分換算で合成例1の本共重合体(P1)を100部、開始剤として(C)-1を1部、容器に仕込み、不揮発分濃度が25%になるように混合溶剤(トルエン:MEK=1:1(質量比))を加え、ディスパーで10分攪拌して実施例1に係るワニスを調製した。
【0124】
[実施例2~31、比較例1~22]
表2~3に記載の配合成分および配合量に変更する以外は実施例1と同様の方法により、実施例2~31、比較例1~22に係るワニスを調製した。
【0125】
実施例および比較例で使用した材料を以下に示す。
(硬化性化合物)
(B)-1:エポキシ化合物(b1)、XD-1000(日本化薬社製、ジシクロペンタジエン型エポキシ、多官能、官能基当量252g/eq)
(B)-2:シアネートエステル化合物(b2)、BAD(三菱ガス化学社製、ビスフェノールA型シアン酸エステル、2官能、官能基当量 139g/eq、分子量278)
(B)-3:マレイミド化合物(b3)、BMI‐4000大和化成工業社製、ビスフェノール A ジフェニルエーテルビスマレイミド、2官能、官能基当量285.3g/eq、分子量570.6)
(B)-4:アリル基含有化合物(b4)、タイク(新菱社製、トリアリルイソシアヌレート、3官能、分子量249.3)
(B)-5:ビニル基含有化合物(b5)、OPE-2St 1200(三菱ガス化学社製、ビニルベンジル変性ポリフェニレンエーテル、2官能、官能基当量:590g/eq、数平均分子量1180)
(B)-6:(メタ)アクリレート基含有化合物(b6)、Noryl SA9000(SABIC社製、メタクリレート基含有ポリフェニレンエーテル、2官能、官能基当量 :850g/eq、数平均分子量1700)
(B)-7:ベンゾオキサジン化合物(b7)、3,3’-(メチレン-1,4-ジフェニレン)ビス(3,4-ジヒドロ-2H-1,3-ベンゾオキサジン)(四国化成工業株式会社製、P-d型ベンゾオキサジン)、2官能、オキサジン当量217)
(開始剤(C))
(C)-1:ラジカル開始剤(c1)、パーミクルD(日油社製、ジクミルペルオキシド、分子量270.4)
(C)-2:エポキシ開始剤(c2)、TETRAD-X(三菱ガス化学社製、多官能エポキシ樹脂、分子量360.5)
なお、エポキシ開始剤(c2)は、エポキシ基を有する点においてエポキシ化合物(b1)に分類できるが、本実施例では主としてアミン構造によるエポキシを開環させる開始剤として用いているので、開始剤(C)に分類した。
(フィラー(D))
(D)-1:SO-C2(平均粒子径0.4~0.6μm、アドマテックス社製、シリカ)
(D)-2:AO-509(平均粒子径7~13μm、アドマテックス社製、アルミナ)
(D)-3:SP-2(平均粒子径D50 4μm、デンカ社製、窒化ホウ素)
(D)-4:HF-01(平均粒子径D50 1.1μm、株式会社トクヤマ社製、窒化アルミニウム)
(側鎖にラジカル反応性の炭素-炭素不飽和結合を含むオレフィン系重合体(E))
(E)-1:スチレン-ブタジエン-スチレン樹脂(タフプレン126S、旭化成株式会社製)
(E)-2:ポリブタジエン樹脂(PB B-3000、日本曹達社製)
【0126】
10.評価サンプルの作製
10-1.接着シートの作製
各例の樹脂ワニスを、ドクターブレードを使用して乾燥後の厚さが50μmとなるように、厚さ50μmの重剥離フィルム(重離型剤がコーティングされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)上に均一塗工して100℃で2分乾燥させた。その後、室温まで冷却し、片面剥離フィルム付き接着シートを得た。次いで、得られた片面剥離フィルム付き接着シートの接着シート面を厚さ50μmの軽剥離フィルム(軽離型剤がコーティングされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)に重ね合わせ、重剥離フィルム/接着シート/軽剥離フィルムからなる両面剥離フィルム付き接着シートを得た。
【0127】
10-2.銅張り積層板の製造
上記方法で得た両面剥離フィルム付き接着シートから軽剥離フィルムを剥がし、露出した接着シート面を、50μmのポリイミドフィルムと12μmの銅箔とが積層されてなる片面銅張積層板の銅箔側に真空ラミネーター(ニチゴーモートン社製、小型加圧式真空ラミネーターV-130)で仮接着した。なお、真空ラミネート条件は加熱温度100℃、真空時間60秒、真空到達圧2hPa、圧力0.4MPa、加圧時間60秒とした。
次いで、重剥離フィルムを剥がし、露出した接着シート面に、2枚目の片面銅張積層板のポリイミドフィルム側を同様に真空ラミネーターにて仮接着した後、真空熱プレスにて200℃、2時間、2MPaで、接着シートを熱硬化させ、ポリイミドフィルム/銅箔/接着シートの硬化物/ポリイミドフィルム/銅箔フィルムという積層構成の評価用サンプルを作製した。
【0128】
11.評価
α.耐熱性
各例で作製した銅張り積層板を、幅10mm、長さ65mmに切り出してから、試験片を各種条件で保管し、その後、各種温度にて溶融半田に銅箔面を接触させて1分間浮かべた。その後、試験片の外観を目視で観察し、硬化後の接着層の発泡、浮き、剥がれ等の接着異常の有無を評価した。この試験は、半田接触時における硬化後の接着層の熱安定性を外観で評価するものである。耐熱性の良好なものは外観が変化しないのに対して、耐熱性の悪いものは、半田処理後に発泡や剥がれが発生する。これらの評価結果を次の基準で判断した。
AA:85℃相対湿度85%の雰囲気下で24時間保管後、300℃の溶融半田に浮かべても外観変化なし。
A:上記AAを満たさない。40℃90%の雰囲気下で24時間保管後、300℃の溶融半田に浮かべても外観変化なし。
B:上記Aを満たさない。40℃90%の雰囲気下で24時間保管した試験片を、280℃の溶融半田に浮かべた際には外観変化なし。
C:上記A、Bを満たさない。23℃50%の雰囲気下で24時間保管した試験片を、280℃の溶融半田に浮かべた際には外観変化なし。
D:上記A~Cを満たさない。23℃50%の雰囲気下で24時間保管した試験片を、260℃の溶融半田に浮かべた際には外観変化なし。
E:上記A~Dを満たさない。23℃50%の雰囲気下で24時間保管した試験片を、240℃の溶融半田に浮かべた際には外観変化なし。
F:23℃50%の雰囲気下で24時間保管した試験片を、240℃の溶融半田に浮かべたときに外観変化がある。実用上問題がある。
【0129】
β.誘電特性
両面剥離フィルム付き接着シートを、23℃相対湿度50%の雰囲気下で24時間以上保管後、剥離フィルムを剥がし同温湿度環境下、エー・イー・ティー社製の誘電率測定装置を用い、空洞共振器法により、測定周波数10GHzにおける誘電正接(Df)を求めた。
AA:Dfが0.0004未満
A:Dfが0.0004以上、0.0005未満
B:Dfが0.0005以上、0.0010未満
C:Dfが0.0010以上、0.0020未満
D:Dfが0.0020以上、0.0030未満
E:Dfが0.0030以上、0.0035未満
F:Dfが0.0035以上。実用上問題がある。
【0130】
γ.応力緩和性(クラック耐性)の特性評価
L/S=25μm/25μmであり、銅の厚みがそれぞれ25μmと50μmである回路パターンが形成されたガラス布基材エポキシ樹脂銅張積層板を内層回路基板として用意した。その両面に、上記方法により作製した各例の樹脂シートを200℃、3.0MPa、2時間の条件で真空加熱プレスし、最後に両側の最外層に銅箔を配置することで評価用プリント配線板を得た。
そして、評価用プリント配線板を冷熱衝撃装置(「TSE‐11‐A」、エスペック社製)に投入し、高温さらし:125℃、15分、低温さらし:-50℃、15分の曝露条件にて交互曝露を所定回数実施した。評価用プリント配線板を切断し、露出した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により5000倍の倍率でクラックの有無を観察した。なお、クラックとは0.1μm以上のサイズの罅をいうものとする。評価基準は以下の通りである。
AA:4000回のヒートサイクル試験後、クラックが発生しない。極々良好な結果である。
A:上記AAを満たさない。3000回のヒートサイクル試験後、クラックが発生しない。極めて良好な結果である。
B:上記Aを満たさない。1000回のヒートサイクル試験後、クラックが発生しない。とても良好な結果である。
C:上記A、Bを満たさない。200回のヒートサイクル試験後、クラックが発生しない。良好な結果である。
D:上記A~Cを満たさない。100回のヒートサイクル試験後、クラックが発生しない。実用上課題がある。
E:クラックが100回のヒートサイクル試験前に発生する。実用上問題がある。
【0131】