(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の回生制御方法および回生制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/14 20160101AFI20241008BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20241008BHJP
B60W 20/12 20160101ALI20241008BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20241008BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20241008BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20241008BHJP
B60L 7/18 20060101ALI20241008BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20241008BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241008BHJP
B60L 58/13 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
B60W20/14
B60K6/46 ZHV
B60W20/12
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60T8/17 C
B60L7/18
B60L7/24 D
B60L50/61
B60L58/13
(21)【出願番号】P 2023537739
(86)(22)【出願日】2021-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2021027468
(87)【国際公開番号】W WO2023007529
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】平田 武司
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-279803(JP,A)
【文献】国際公開第2013/136483(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0290421(US,A1)
【文献】特開2009-274610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 20/50
B60K 6/20 - 6/547
B60T 8/17
B60L 7/18
B60L 7/24
B60L 50/61
B60L 58/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪に接続されたモータジェネレータと、バッテリと、を備えたハイブリッド車両の回生制御方法であって、車両の走行経路にある降坂路を予め検出し、降坂路の開始前に降坂路での回生に備えてバッテリのSOCを予め低下させるSOC低下制御を行う回生制御方法において、
降坂路での回生量に影響する複数の走行モードの中で運転者が選択した走行モードに応じて、上記SOC低下制御を実行するか否かを切り換えるとともに、
少なくとも降坂路走行における運転者の運転傾向を予め求めておき、
上記SOC低下制御を実行するときには、降坂路での走行中に期待される回生量を予め求め、この期待される回生量が大であるほどSOC低下量を大きく設定するとともに、
運転者の運転傾向から相対的に大きな回生量が期待できる場合はSOC低下量を相対的に大きく設定する、
ハイブリッド車両の回生制御方法。
【請求項2】
降坂路での回生量に影響する走行モードとして、制動時に回生制動を行う回生制動モードと、制動時に主に摩擦制動を行う通常制動モードと、を含み、回生制動モードではSOC低下制御を実行し、通常制動モードではSOC低下制御を行わない、
請求項1に記載のハイブリッド車両の回生制御方法。
【請求項3】
降坂路での回生量に影響する走行モードとして、セレクトレバーで選択される通常走行用のDポジションと、このDポジションでの走行よりも回生制動の減速度を強めた少なくとも1つの第2のシフトポジションと、を含み、第2のシフトポジションではSOC低下制御を実行する、
請求項1に記載のハイブリッド車両の回生制御方法。
【請求項4】
上記SOC低下制御を実行するときに、降坂路で発生する回生制動の減速度が大きい条件であるほどSOC低下量を大きく設定する、
請求項1~3のいずれかに記載のハイブリッド車両の回生制御方法。
【請求項7】
過去の降坂路での運転の操作量および車両の加速度から運転者の運転傾向を学習する、
請求項1~4のいずれかに記載のハイブリッド車両の回生制御方法。
【請求項8】
過去の降坂路での回生量のデータから運転者の運転傾向を学習する、
請求項1~4のいずれかに記載のハイブリッド車両の回生制御方法。
【請求項9】
車両の駆動輪に接続されたモータジェネレータと、バッテリと、を備えたハイブリッド車両の回生制御装置であって、
車両の走行経路にある降坂路を予め検出する降坂路検出部と、
複数の走行モードの中で運転者が選択を行う走行モード選択部と、ここで、上記複数の走行モードは、降坂路での回生量が異なる走行モードを含み、
降坂路の開始前に降坂路での回生に備えてバッテリのSOCを予め低下させるSOC低下制御を、運転者が選択した走行モードに応じて選択的に実行する制御部と、
を備え、
上記制御部は、
少なくとも降坂路走行における運転者の運転傾向を予め求めておき、
上記SOC低下制御を実行するときには、降坂路での走行中に期待される回生量を予め求め、この期待される回生量が大であるほどSOC低下量を大きく設定するとともに、
運転者の運転傾向から相対的に大きな回生量が期待できる場合はSOC低下量を相対的に大きく設定する、
ハイブリッド車両の回生制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、降坂路において効率よく電力回生を行うハイブリッド車両の回生制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動輪をモータジェネレータによって駆動するハイブリッド車両においては、降坂路を走行する際に電力の回生が行われ、バッテリに充電される。バッテリには過充電による劣化を回避するために使用上限となるSOC(state of charge)が定められており、回生中にSOCが使用上限に達すると、それ以上の充電はなされず、何らかの形で回生電力が消費される。
【0003】
特許文献1には、降坂路走行によるエネルギ回収をできるだけ大きくするために、予定される経路上に降坂路がある場合に、降坂路にさしかかる前にモータ走行等を行ってSOCを積極的に低下させておく技術が開示されている。SOCを予め低下させておくことで、使用上限までの余裕が大となり、降坂路での効率的なエネルギ回収が図れる。
【0004】
しかし、特許文献1では、降坂路での回生量が大小異なるものとなる走行モードの相違が考慮されておらず、一律に事前のSOCの低下を行うので、例えば降坂路での実際の回生量が小さいときに降坂路終了時点のSOCが比較的低くなってしまうような現象が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
この発明のハイブリッド車両の回生制御は、車両の走行経路にある降坂路を予め検出し、降坂路の開始前に降坂路での回生に備えてバッテリのSOCを予め低下させるSOC低下制御を行う回生制御方法において、降坂路での回生量に影響する複数の走行モードの中で運転者が選択した走行モードに応じて、上記SOC低下制御を実行するか否かを切り換える。
【0007】
このように走行モードを考慮することで、ある走行モードの下では不必要となる事前のSOC低下制御を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】降坂路走行に関する回生制御の処理の流れを示すフローチャート。
【
図3】一実施例の動作を説明するためのタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、この発明が適用されるハイブリッド車両の一例としてシリーズハイブリッド車両の構成を概略的に示している。シリーズハイブリッド車両は、主に発電機として動作する発電用モータジェネレータ1と、この発電用モータジェネレータ1を電力要求に応じて駆動する発電用内燃機関として用いられる内燃機関2と、主にモータとして動作して駆動輪3を駆動する走行用モータジェネレータ4と、発電した電力を一時的に蓄えるバッテリ5と、を備えて構成されている。一実施例では、発電用モータジェネレータ1はギヤ列10を介して内燃機関2によって駆動される。また駆動輪3はギヤ列11を介して走行用モータジェネレータ4によって駆動される。内燃機関2が発電用モータジェネレータ1を駆動することによって得られた電力は、図示しないインバータ装置を介してバッテリ5に蓄えられる。走行用モータジェネレータ4は、バッテリ5の電力を用いて駆動制御される。走行用モータジェネレータ4の回生時の電力は、やはり図示しないインバータ装置を介してバッテリ5に蓄えられる。
【0010】
モータジェネレータ1,4の動作やバッテリ5の充放電および内燃機関2の運転は、コントローラ6によって制御される。コントローラ6は、モータジェネレータ1,4を制御するモータコントローラ7や、内燃機関2を制御するエンジンコントローラ8、バッテリ5を管理するバッテリコントローラ9など、互いに通信可能なように接続された複数のコントローラによって構成されている。コントローラ6には、アクセルペダル13の開度(踏込量)やブレーキペダル14の操作量、車速検出手段15により検出される車速、等の情報が入力される。またバッテリコントローラ9は、バッテリ5の電圧・電流に基づいてバッテリ5のSOCを求める。基本的には、このSOCの低下に基づいてエンジンコントローラ8に内燃機関2の始動が要求される。なお、シリーズハイブリッド車両においては、内燃機関2の燃焼運転を伴わずにバッテリ5の電力でもって走行する状態をEVモードと呼び、内燃機関2の燃焼運転による発電を行いながら走行を行う状態をHEVモードと呼ぶが、これらのEVモードおよびHEVモードは請求項における「走行モード」とは異なる概念である。
【0011】
一実施例のシリーズハイブリッド車両は、車両の挙動ないし操作性に関し、基本的な走行モードとして、「Sモード」、「ECOモード」、「NORMALモード」の3つのモードを備えている。これらのモードは、モード切換スイッチ16によって切換が可能である。Sモードは、アクセルペダル13の操作に対する車両の応答性を高く得るようにしたモードであり、アクセルペダル13の踏込時におけるトルクの立ち上がりが比較的高く与えられるとともに、アクセルペダル13のオフ時(ペダル解放時)に強い回生制動が与えられる。ECOモードは、Sモードに比較して燃費を重視したモードであり、アクセルペダル13の踏込時のトルクの立ち上がりが相対的に緩やかであるとともに、アクセルペダル13のオフ時の回生制動が相対的に緩やかとなる。SモードおよびECOモードでは、アクセルペダル13のみで車両の加速・減速操作が可能となる。また、ブレーキペダル14の踏込時には、必要な制動力の一部を回生制動で与え、不足分を各輪の摩擦ブレーキ機構で与える、いわゆる協調回生制動制御が実行される。
【0012】
NORMALモードは、ハイブリッドではないガソリンエンジン車と同様の運転感覚が得られるようにしたモードであり、適度な加速感を与える一方で、アクセルペダル13のオフ時に積極的な回生制動は行わない(例えば、いわゆるエンジンブレーキ相当の弱い回生制動とする)。またブレーキペダル14の踏込時に協調回生制動制御は行わず、摩擦ブレーキ機構による制動となる。これらの3つのモードは、運転者の嗜好に合わせて選択が可能であり、通常は、車両の走行を開始する前に切り換えがなされるものである。
【0013】
上記の3つのモードの中で、SモードおよびECOモードが請求項における「降坂路で発生する回生制動の減速度が大きい条件」に相当する。さらに、SモードおよびECOモードは「回生制動モード」に相当し、NORMALモードは「通常制動モード」に相当する。
【0014】
また、一実施例のシリーズハイブリッド車両は、変速機構は具備していないが、自動変速機を備えた車両に類似した形で、複数のシフトポジションの中の一つをレバー操作で選択するためのセレクトレバー17を備えている。シフトポジションとしては、例えば、前進用の「D」、後進用の「R」、停車中および始動時に選択される「P」、動力遮断状態とするための「N」、降坂路などで一時的に強い回生制動を行うための「B」、を備えている。DポジションとBポジションとの間は走行中も切り換えが可能である。運転者が例えば降坂路等でBポジションを選択すると、そのときの基本的な走行モードがNORMALモードであってもアクセルペダル13のオフ時に強い回生制動が与えられる。基本的な走行モードがSモードおよびECOモードである場合、セレクトレバー17によりBポジションが選択されると、Dポジションの場合よりも相対的に強い回生制動が与えられる。従って、Bポジションは、請求項における「降坂路で発生する回生制動の減速度が大きい条件」に相当する。
【0015】
また、一実施例の車両は、比較的に高精度な地図情報およびGPSシステムを用いたナビゲーションシステム19を備えている。このナビゲーションシステム19の地図情報は、道路の三次元的な情報つまり道路の勾配情報を含んでいる。この地図情報は、ナビゲーションシステム19のハードディスク等の記憶装置に格納されているものであってもよく、例えば5G通信等を介して車両の外部から走行中にナビゲーションシステム19に与えられるものであってもよい。このナビゲーションシステム19により、車両の走行経路にある降坂路を予め検出することが可能であり、さらには、その降坂路の勾配や降坂路の長さ等の情報を取得することができる。なお、ナビゲーションシステム19に目的地が登録されていない場合であっても、現在走行中の走行経路の先にある降坂路の検出ないし予測は可能である。
【0016】
次に、上記のように構成されたシリーズハイブリッド車両の降坂路に対する回生制御について説明する。降坂路においては、走行用モータジェネレータ4が駆動輪3によって駆動されることで、回生がなされる。回生中にバッテリ5のSOCが許容される使用上限を越えることは望ましくないので、降坂路走行によるエネルギ回収をできるだけ大きくするために、予定される経路上に降坂路がある場合には、降坂路にさしかかる前にEVモード走行等を行ってSOCを積極的に低下させておくSOC低下制御が実行される。
【0017】
ここで、本実施例では、降坂路での回生量に影響する複数の走行モードの中で運転者が選択した走行モードに応じて、SOC低下制御を実行するか否かを切り換える。つまり、降坂路での回生量が多く見込める走行モードであれば予めSOC低下制御を実行し、降坂路での回生量がそれほど多くない走行モードであればSOC低下制御は実行しない。
【0018】
図2は、降坂路が予測されたときにコントローラ6によって実行される処理の流れを示したフローチャートである。降坂路が予測されたときにルーチンが開始し、最初のステップ1では、予測された降坂路に対して予めSOC低下制御を実行すべき走行モードであるか否かを判定する。一実施例においては、基本的な走行モードがSモードおよびECOモードである場合、および、基本的な走行モードがNORMALモードであるがシフトポジションがBポジションである場合、に予めSOC低下制御を実行すべき走行モードであると判断する。NORMALモードでDポジションである場合は、降坂路での回生量が少ないことから、ステップ1でNOと判定する。この場合は、ステップ1からステップ2へ進んで、事前のSOC低下制御は行わない。つまり、通常の目標SOCに沿って走行を継続する。
【0019】
ステップ1でYESと判定したらステップ3へ進み、SOC低下制御を実行することを示すフラグをセットする。なお、適当なタイミングとなるのを待ってSOC低下制御を開始するようにしてもよく、あるいは、直ちにSOC低下制御を開始するようにしてもよい。
【0020】
次にステップ4へ進み、降坂路直前位置での目標SOCを演算する。つまり、SOC低下制御によってどこまでSOCを低下させておくかの目標値を求める。これは、基本的には、同一の降坂路条件の下での回生量が大小異なることとなる走行モードと、予測される降坂路の条件、とによって求められる。換言すれば、降坂路走行によりバッテリ5に供給されるものと期待される回生量に応じて目標SOCが求められる。
【0021】
例えば、SモードでかつBポジションであれば回生制動を強く生じさせるために同一の降坂路に対する回生量が最も大きく、ECOモードでかつDポジションであれば回生制動が相対的に弱く求められることから同一の降坂路に対する回生量が相対的に小さいので、それぞれで目標SOCは異なるものとなる。また降坂路の条件として、降坂路の勾配および降坂路の長さが入力される。なお、降坂路の始点と終点との標高差を降坂路の条件としてもよい。また、車両の重量が大であるほど回生制動に伴う回生量が大となるので、適当な手段で乗員を含む車両の重量を検出ないし推定し、この重量を考慮して降坂路走行により期待される回生量を推定するようにしてもよい。このステップ4で求めた目標SOCは、運転者の運転傾向を考慮していない基本の目標SOCとなる。
【0022】
なお、降坂路走行で期待される回生量は、実際には、降坂路走行中における消費電力を差し引いたものとなるので、車室空調装置、車両の灯火、ワイパー、オーディオ装置、ナビゲーションシステム19、等による現時点の消費電力の大小をさらに考慮して基本の目標SOCを求めるようにしてもよい。
【0023】
次に、ステップ5~7において、運転者の運転傾向によって基本の目標SOCをさらに適切なものに補正する。過去の降坂路での回生量のデータや、過去の降坂路での運転の操作量および車両の加速度等のデータから運転者の運転傾向を学習することができる。まずステップ5で、運転者の運転傾向を判別済み(換言すれば学習済み)であるか否かを判断する。一実施例では、運転者の運転傾向として、比較的穏やかな運転を行う傾向にあるか、あるいは、比較的積極的な運転を行う傾向にあるか、の2通りに大別することに加え、その程度についても学習するものとする。例えば、過去の運転中のデータに基づき、アクセルペダル13やブレーキペダル14を頻繁に踏み換える傾向や、これらの操作が急激である場合、あるいは車両の加速・減速が頻繁な場合、車両の急加速・急減速が多い場合、などは、積極的な運転を行う傾向にあるものと判定される。逆に、これらが少ない場合は、穏やかな運転であると判定され得る。また、降坂路での回生量に関係する運転傾向として、降坂路の途中でDポジションからBポジションに切り換えることが多いかどうかの傾向を加えてもよい。さらに、過去の降坂路での回生量のデータから、実際に回生量が多いものとなる運転傾向であるか、回生量が少ないものとなる運転傾向であるか、を求めることもできる。このような運転傾向が既に判別されかつ記憶されていれば、ステップ5でYESと判定し、そうでなければNOと判定する。NOつまり運転傾向が不明であればステップ5からステップ8へ進み、程度が異なる運転傾向とこれに対し適切な目標SOC(換言すれば基本の目標SOCに対し運転傾向によって補正した後の目標SOC)とを対応付けた多数のデータの中から運転傾向の中央値に対応する値を最終的な目標SOCとして決定する。代替として、ステップ4で求めた基本の目標SOCをそのまま用いてもよい。
【0024】
運転傾向が学習済みであれば、ステップ6へ進み、運転傾向を考慮して基本の目標SOCを補正することで、最終的な目標SOCを決定する。ここでは、運転傾向として穏やかな運転を行う傾向にあれば、その程度が高いほど、最終的な目標SOCを低く設定する。穏やかな運転を行う傾向にある場合、一般に、降坂路での不必要なブレーキペダル14の操作やアクセルペダル13踏込による再加速が少なく、降坂路の標高差に対応したエネルギの多くの回収が可能である。また降坂路の途中でBポジションに切り換える傾向があれば、やはり最終的な目標SOCを低くすることが好ましい。他方、積極的な運転を行う傾向にある場合、降坂路の途中でブレーキ操作により摩擦ブレーキ機構の動作が生じたり、不必要な再加速が行われたりすることで、エネルギ回収が少なくなる可能性がある。従って、運転傾向が積極的な運転を行う傾向にあれば、降坂路直前位置での目標SOCを高く設定する。つまり、SOC低下制御での低下量が小さくなる。
【0025】
次のステップ7では、運転傾向を考慮して決定した目標SOCを所定の下限閾値よりも高い範囲内に制限する。つまり、ステップ6で決定した目標SOCを下限閾値と比較し、下限閾値未満である場合には、下限閾値を目標SOCとする。これにより過度のSOC低下が回避される。
【0026】
このようにして決定された目標SOCに沿って、例えば車両のEVモードでの走行や適当な補機の駆動などによりバッテリ5のSOCの低下を行うことで、降坂路直前位置では、バッテリ5のSOCが目標SOC付近まで低下していることとなる。そのため、その後の降坂路走行では、バッテリ5の使用上限SOCを越えることなく最大限のエネルギ回収が図れる。
【0027】
図3は、(a)走行経路の標高変化、(b)走行用モータジェネレータ4の電力消費量/回生量、(c)バッテリ5のSOCの変化、について、(A)降坂路での回生量が相対的に大きい走行モード(例えばSモードでのDポジション)の場合と、(B)降坂路での回生量が相対的に小さい走行モード(例えばECOモードでのDポジション)の場合と、で対比して示した特性図である。
【0028】
降坂路の条件つまり勾配や長さは(A),(B)のいずれも同じである。(A)の場合は、(b)に示すように降坂路での回生量が比較的大きい。従って、(c)に示すように降坂路直前の目標SOCが低く設定される。このように十分にSOCを低下させておくことで、降坂路において最大限のエネルギ回収が可能である。一方、(B)の場合は、(b)に示すように降坂路での回生量が比較的小さい。従って、(c)に示すように降坂路直前の目標SOCが相対的に高く設定される。このように降坂前に過度にSOCを低下させないことで、降坂路前後で適当なレベルにSOCを保つことができる。
【0029】
このように、上記実施例では、降坂路での回生量が大きい走行モードであるか降坂路での回生量が小さい走行モードであるかによって、降坂路での回生に備えてバッテリのSOCを予め低下させるSOC低下制御を行うか否かが決定され、さらにSOC低下制御を行う場合でも、走行モードや運転者の運転傾向によって降坂路直前での目標SOCが適当に設定される。従って、SOCの過度の上昇や過度の低下を回避しつつ効率のよいエネルギ回収が可能となる。
【0030】
以上、この発明の一実施例を詳細に説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、この発明はシリーズハイブリッド車に限らず、シリーズ・パラレルハイブリッド車やプラグインハイブリッド車など、降坂路での回生が可能なハイブリッド車両に広く適用が可能である。
【0031】
また、上記実施例では、走行モードとしてSモードやECOモードなどの具体的な一例を説明したが、本発明の走行モードは、これらの特定の名称に拘わらず、降坂路での回生量が異なる複数の走行モードを広く包含するものである。
【0032】
また、上記実施例では、アクセルペダル13のオフ時に回生制動を行うSモードおよびECOモードにおいて、ブレーキペダル14の踏込時の協調回生制動制御が行われるものとなっているが、アクセルペダル13のオフ時の回生制動とブレーキペダル14の踏込時の協調回生制動制御とが個々にオン・オフ切換可能なものであってもよい。
【0033】
なお、本発明においては、ブレーキペダル操作時の協調回生制動制御は必ずしも必須ではなく、協調回生制動制御の機構を具備しない車両であっても適用が可能である。