(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20241008BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20241008BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20241008BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20241008BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241008BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20241008BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20241008BHJP
F01N 3/023 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/06 900
B60W20/16
B60L50/61
F02D29/02 Z
F02D29/06 D
F01N3/023 A
(21)【出願番号】P 2023546603
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2021032915
(87)【国際公開番号】W WO2023037420
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星 聖
(72)【発明者】
【氏名】三竿 善彦
(72)【発明者】
【氏名】宮内 啓史
(72)【発明者】
【氏名】小林 梓
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111164(JP,A)
【文献】特開2020-104668(JP,A)
【文献】特開2021-54331(JP,A)
【文献】特開2004-225564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/46
B60W 10/06
B60W 20/16
B60L 50/61
F02D 29/02
F02D 29/06
F01N 3/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと発電機と駆動モータとを備え、前記エンジンで前記発電機を駆動して発電し、前記発電機により発電した電力で前記駆動モータを駆動するとともに、前記エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを備える車両の制御方法であって、
運転停止状態の前記エンジンを前記発電機により駆動することでモータリングを行い、これにより前記エンジンの燃料カットを行うとともに電力を消費することと、
前記フィルタの温度に基づき前記エンジンの燃料カット禁止を行うことと、
前記エンジンの燃料カット禁止中に放電要求があった場合は、前記エンジンで燃焼を行いつつ前記発電機で前記エンジンを駆動して前記エンジンに負のエンジントルクを発生させる電力消費運転を行うことと、
を含む車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記負のエンジントルクとは、フリクショントルクよりも小さいエンジントルクを意味する、
車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の車両の制御方法であって、
前記エンジンのアイドルスピードコントロール要求があった場合でも、バッテリの許可出力電力が所定値より大きい場合は、前記電力消費運転を優先して行う、
車両の制御方法。
【請求項4】
請求項
1から3いずれか1項に記載の車両の制御方法であって、
前記電力消費運転から前記エンジンのモータリングへの遷移時には、前記電力消費運転により得られる消費電力の推定値から前記モータリングにより得られる消費電力の推定値に消費電力推定値を徐々に変化させる、
車両の制御方法。
【請求項5】
請求項1から
4いずれか1項に記載の車両の制御方法であって、
前記電力消費運転中の消費電力特性に基づき、前記エンジンの目標回転速度を演算するとともに、前記エンジンの油温に応じて前記目標回転速度を補正する、
車両の制御方法。
【請求項6】
請求項1から
5いずれか1項に記載の車両の制御方法であって、
前記電力消費運転による消費電力に応じて前記駆動モータの回生トルクを制限する、
車両の制御方法。
【請求項7】
エンジンと発電機と駆動モータとを備え、前記エンジンで前記発電機を駆動して発電し、前記発電機により発電した電力で前記駆動モータを駆動するとともに、前記エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを備える車両であって、
前記エンジンは、運転停止状態で前記発電機により駆動されることでモータリングが行われ、これにより燃料カットが行われるとともに電力が消費される一方、前記フィルタの温度に基づき燃料カット禁止が行われ、
前記エンジンの燃料カット禁止中にバッテリの放電要求があった場合は、前記エンジンで燃焼を行いつつ前記発電機で前記エンジンを駆動して前記エンジンに負の
エンジントルクを発生させる電力消費運転を実行する制御部、
を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両の制御方法及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
JP2018-065448Aには、排気系に粒子状物質を除去するフィルタが取り付けられたエンジンを備えるハイブリッド自動車が開示されている。この技術では、フィルタの粒子状物質の堆積量が所定堆積量以上のときにフィルタの温度が所定温度以上のときには、エンジンの燃料カットを禁止する。これにより、エンジンの運転(燃料噴射)が継続されるので、酸素が供給されることにより粒子状物質が燃焼しフィルタが過熱することが抑制される。
【発明の概要】
【0003】
シリーズハイブリッド車両は、エンジンと発電機と駆動モータとを備え、エンジンで発電機を駆動して発電し、発電機により発電した電力で駆動モータを駆動する。このような車両では、減速時に駆動モータにより回生を行うことで減速度を得ることができる。回生は車両の電力収支上、回生の余地がある場合つまり最大限受け入れ可能な電力に余裕がある場合に行うことができる。
【0004】
従って、例えばバッテリが満充電になり回生の余地がなくなった場合は回生が行えなくなるので、減速度を確保できなくなる。この場合、放電要求を行い、放電要求に基づき燃料供給を停止した状態でエンジンのモータリングを行うことで、電力を消費し回生の余地を大きくすることができる。結果、回生により減速度を確保することができる。
【0005】
しかしながら、フィルタの過熱を抑制すべく燃料カットを禁止している場合はモータリングを利用して減速度を確保することができない。このため、燃料カット禁止中に回生減速する場面で回生の余地がなくなると、回生により減速度を確保できなくなる虞がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、燃料カット禁止中に回生減速する場面でフィルタを保護しつつ減速度を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の車両の制御方法は、エンジンの排気中の粒子状物質を捕集するフィルタを備えるシリーズハイブリッド車両でエンジンの燃料カット禁止中に放電要求があった場合は、エンジンで燃焼を行いつつ発電機でエンジンを駆動してエンジンに負のエンジントルクを発生させる電力消費運転を行うことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、燃料カット禁止の実行領域を示す図である。
【
図3】
図3は、シフトポジション及びドライブモードの説明図である。
【
図4】
図4は、車両コントローラの処理を示すブロック図の第1図である。
【
図5】
図5は、車両コントローラの処理を示すブロック図の第2図である。
【
図6】
図6は、目標ENG回転速度のマップデータを示す図である。
【
図7】
図7は、車速に応じた電力変化レートを示す図である。
【
図8】
図8は、放電制御の一例をフローチャートで示す図である。
【
図9】
図9は、
図8に対応するタイミングチャートの第1の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は車両100の概略構成図を示す図である。車両100はエンジン1と発電機2と駆動モータ3とギア4と駆動輪5とバッテリ6とGPF(Gasoline Particulate Filter)システム7とマフラー8とを備える。車両100はシリーズハイブリッド車両であり、走行モードとしてシリーズハイブリッドモードを有する。走行モードがシリーズハイブリッドモードの場合、車両100はエンジン1で発電機2を駆動して発電し、発電機2により発電した電力で駆動モータ3を駆動する。
【0011】
エンジン1は内燃機関であり、ガソリンエンジンとされる。エンジン1は発電機2と動力伝達可能に接続される。発電機2は発電用モータジェネレータであり、発電のほかエンジン1のモータリングも行う。モータリングは運転停止状態のエンジン1を発電機2により駆動することで行われる。駆動モータ3は駆動用モータジェネレータであり、車両100の駆動力DPを発生させる。駆動モータ3が発生させた駆動力DPは減速ギアであるギア4を介して駆動輪5に伝達される。駆動モータ3は駆動輪5からの動力により駆動されることで、エネルギの回生も行う。駆動モータ3が電力として回生したエネルギはバッテリ6に充電することができる。
【0012】
バッテリ6は発電機2が発電した電力や駆動モータ3が回生した電力を蓄える。バッテリ6には放電要求SOC(State Of Charge)が設定される。SOCはバッテリ6の充電状態を指標するパラメータであり、放電要求SOCはバッテリ6の満充電を規定するための値として予め設定される。換言すれば、バッテリ6の満充電は放電要求SOCにより規定され、例えば充電率としてのSOCが90%の場合が満充電とされる。
【0013】
GPFシステム7は排気浄化系であり、エンジン1の排気通路に設けられる。GPFシステム7はGPFつまりガソリンパティキュレートフィルタを有し、エンジン1の排気中の粒子状物質である煤はGPFにより捕集される。GPFシステム7はGPF温度センサとGPF差圧センサとを含む。GPF温度センサはGPF温度Tを検出する。GPF温度TはGPFの床温であり、GPF温度センサは例えばGPFの出口排気温をGPF温度Tの実温として検出する。GPF差圧センサはGPFの入口排気圧及び出口排気圧の差圧を検出する。当該差圧に基づきGPFに堆積した煤の量であるGPF煤堆積量Sが推定される。GPFシステム7はGPFのほか三元触媒等の触媒を含んでよい。マフラー8はGPFシステム7より下流の部分のエンジン1の排気通路に設けられ、排気音を低減する。
【0014】
車両100はさらにモータコントローラ10とエンジンコントローラ20と車両コントローラ30とを備える。モータコントローラ10、エンジンコントローラ20及び車両コントローラ30は相互通信可能に接続される。モータコントローラ10は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えた1又は複数のマイクロコンピュータで構成される。モータコントローラ10では、ROM又はRAMに格納されたプログラムをCPUによって実行することで各種の制御が行われる。エンジンコントローラ20及び車両コントローラ30についても同様である。
【0015】
モータコントローラ10は発電機2と駆動モータ3とを制御する。モータコントローラ10は、発電機2用のインバータである第1インバータと、駆動モータ3用のインバータである第2インバータとをさらに含む。これらのインバータはモータコントローラ10とは別の構成として把握されてもよい。モータコントローラ10は第1インバータや第2インバータを制御することにより、発電機2や駆動モータ3を制御する。
【0016】
第1インバータは、発電機2とバッテリ6とに接続する。第1インバータは、発電機2から供給される交流電流を直流電流に変換してバッテリ6に供給する。これにより、発電機2が発電した電力がバッテリ6に充電される。第1インバータはさらに、バッテリ6から供給される直流電流を交流電流に変換して発電機2に供給する。これにより、バッテリ6の電力で発電機2が駆動する。第2インバータ、駆動モータ3及びバッテリ6についても同様である。モータコントローラ10には発電機2、駆動モータ3、バッテリ6から電流、電圧、SOC等の信号も入力される。
【0017】
エンジンコントローラ20はエンジン1を制御する。エンジンコントローラ20にはGPF温度センサやGPF差圧センサからの信号が入力される。これらの信号はエンジンコントローラ20を介してさらに車両コントローラ30に入力することができる。エンジンコントローラ20はGPF温度T及びGPF煤堆積量Sに基づき(換言すれば、GPF煤堆積量Sに応じたGPF温度Tに基づき)エンジン1の燃料カット禁止を行う。
【0018】
図2は燃料カット禁止領域Rを示す図である。
図2に示すように燃料カット禁止領域RはGPF煤堆積量SとGPF温度Tとに応じてマップデータで予め設定される。燃料カット禁止領域RはGPF温度Tが閾値Trefより高い領域とされる。閾値Trefは燃料カット禁止領域Rを規定するための値であり、GPF煤堆積量Sに応じて予め設定される。GPF煤堆積量Sが大きいほど煤の燃焼によりGPFが過熱し易くなる。このため、閾値TrefはGPF煤堆積量Sが大きいほど小さくなるように設定される。
【0019】
図1に戻り、車両コントローラ30はエンジン1や発電機2や駆動モータ3を統合的に制御する。車両コントローラ30には大気圧を検出するための大気圧センサ61、アクセル開度APOを検出するためのアクセル開度センサ62、ドライバ操作によりドライブモードを選択するためのモードSW63、ドライバ操作により選択されたシフトポジション(レンジ)を検出するためのシフトポジションセンサ64からの信号が入力される。車両コントローラ30はモータコントローラ10及びエンジンコントローラ20とともにコントローラ50を構成する。
【0020】
図3はシフトポジション及びドライブモードの説明図である。車両100はシフター9をさらに有する。シフター9はドライバ操作によりシフトポジションを選択するための装置であり、ドライバ操作は各シフトポジションに対応するゲートへのシフトレバー操作やスイッチ操作により行われる。シフター9はモーメンタリ式のシフターとされる。モーメンタリ式のシフター9では、ドライバ操作から解放されたシフトレバーが自律的に中立位置であるホームポジションに戻る。
【0021】
シフター9により選択可能なシフトポジションはPレンジ(駐車レンジ)、Rレンジ(後進レンジ)、Nレンジ(ニュートラルレンジ)のほか、第1前進レンジであるDレンジと第2前進レンジであるBレンジとを含む。DレンジとBレンジとはこれらに共通のD/Bゲートへのシフトレバー操作により選択される。D/Bゲートへのシフトレバー操作により、Dレンジが選択されている場合はBレンジが、Bレンジが選択されている場合はDレンジが選択される。Dレンジ及びBレンジ以外のレンジが選択されている場合、D/Bゲートへのシフトレバー操作によりDレンジが選択される。
【0022】
モードSW63により選択可能なドライブモードは、NモードとSモードとECOモードとを含む。Nモードはアクセルペダル操作で加速が行われるモード(通常モード)とされる。このため、Nモードではアクセルペダル操作で強い回生減速は行われない。SモードとECOモードとはアクセルペダル操作で加速及び回生減速が行われるモード(1ペダルモード)とされ、ECOモードはSモードよりも燃費運転に適したモードとされる。ドライブモードはモードSW63を押す度にNモード、Sモード、ECOモードの順で変更され、ECOモードの次はNモードに戻る。
【0023】
SモードやECOモードでは、駆動モータ3で回生を行うことで減速度を発生させる。減速度は換言すれば負の加速度であり負の値で示される。SモードではECOモードより回生限界量(回生限界の大きさ)が大きく設定される。換言すれば、SモードではECOモードより回生が抑制されない。従って、SモードのほうがECOモードよりも回生で得られる電力は大きく、発生する減速度の大きさも大きい。ECOモードは第1ドライブモードを構成し、Sモードは第2ドライブモードを構成する。
【0024】
車両100では、減速時に駆動モータ3により回生を行うことで減速度を得ることができる。回生は車両100の電力収支上、回生の余地がある場合つまり最大限受け入れ可能な電力に余裕がある場合に行うことができる。
【0025】
従って、例えばバッテリ6が満充電になった結果、回生の余地がなくなった場合は回生が行えなくなるので、減速度を確保できなくなる。この場合、放電要求を行い、放電要求に基づきエンジン1のモータリングを行うことで、電力を消費して回生の余地を大きくすることができる。結果、回生により減速度を確保することができる。
【0026】
しかしながら、GPFの過熱を抑制すべく燃料カットを禁止している場合はモータリングを利用して減速度を確保することができない。このため、燃料カット禁止中に減速する場面で回生の余地がなくなると、回生により減速度を確保できなくなる結果、意図しない減速度の変化が発生し、ドライバに違和感を与えることが懸念される。
【0027】
このような事情に鑑み、車両100はさらに以下のように構成される。
【0028】
図4、
図5は車両コントローラ30の処理を示すブロック図である。車両コントローラ30は、目標駆動トルク演算部31と、目標駆動電力演算部32と、目標電力演算部33と、GPF状態判定部34と、リタード放電要求判定部35と、ENG動作点演算部36と、ENG動作モード判定部37と、ENG消費電力演算部38と、回生トルク制限演算部39と、回生トルク制限部40とを備える。
【0029】
目標駆動トルク演算部31はアクセル開度APOと車速VSPとに基づき駆動モータ3の目標駆動トルクTQMOT_Tを演算する。目標駆動トルクTQMOT_Tはアクセル開度APOと車速VSPとに応じてマップデータで予め設定できる。目標駆動トルク演算部31では、回生時には負の目標駆動トルクTQMOT_Tつまり目標回生トルクが演算される。演算された目標駆動トルクTQMOT_Tは、回生トルク制限部40に入力される。
【0030】
目標駆動電力演算部32は、目標駆動トルクTQMOT_Tと駆動モータ3の回転速度NMOTと補機消費電力とに基づき駆動モータ3の目標駆動電力EPMOT_Tを演算する。目標駆動電力演算部32には、後述する回生トルク制限部40での制限の適用を受けた目標駆動トルクTQMOT_Tが入力される。補機消費電力はエアコン装置や電動パワーステアリング装置等の電力消費を行う補機の消費電力である。演算された目標駆動電力EPMOT_Tは目標電力演算部33に入力される。
【0031】
目標電力演算部33にはこのほか、SOC制御電力要求とその他発電・放電要求とが入力される。SOC制御電力要求はSOCに応じた発電・放電要求であり、バッテリ6が満充電の場合に行われる放電要求と、SOCが所定値以下の場合つまりバッテリ6の充電量が少なくなった場合に行われる発電要求を含む。その他発電・放電要求はSOC制御電力要求以外の発電・放電要求であり、例えば要求駆動パワーを実現するための発電電力など性能を実現するための下限の発電要求や、発電機2やバッテリ6等の発電に関係する部品を保護するための上限の発電要求(発電停止要求)や、回生による減速度を実現するための回生電力であってバッテリ6に充電できない余剰の回生電力の放電要求を含む。
【0032】
目標電力演算部33は、入力に基づきエンジン1による発電又は放電のための目標電力EPICE_Tを演算する。目標電力演算部33では、上述した種々の要求に対して優先順位を付けて種々の要求に応じた電力の調停を行った上で目標駆動電力EPMOT_Tに反映されることで、最終的な目標電力EPICE_Tが演算される。演算された目標電力EPICE_Tは、ENG動作点演算部36とENG動作モード判定部37とに入力される。
【0033】
GPF状態判定部34は、GPF煤堆積量SとGPF温度Tとに基づきGPFの状態を判定する。GPF状態判定部34では
図2に示すマップデータが参照され、GPF煤堆積量SとGPF温度Tとに基づくGPFの状態が燃料カット禁止領域Rに含まれるか否かが判定される。
【0034】
GPF状態判定部34はGPFの状態が燃料カット禁止領域Rに含まれる場合、つまり燃料カット禁止条件が成立した場合にGPF状態フラグをON(燃料カット禁止要求)にする。燃料カット禁止条件はGPF温度Tに基づき判定される条件であり、GPF温度Tが閾値Trefより高い場合に成立する。GPF状態判定部34はGPFの状態が燃料カット禁止領域Rに含まれない場合、つまり燃料カット禁止条件が成立していない場合にGPF状態フラグをOFF(燃料カット許可)にする。
【0035】
GPF状態フラグはGPF状態判定部34からリタード放電要求判定部35に入力される。リタード放電要求判定部35にはこのほか、その他発電・放電要求とSOC制御電力要求とが入力される。
【0036】
リタード放電要求判定部35は、入力に基づきリタード放電要求の有無を判定する。リタード放電は、エンジン1で燃焼を行いつつ発電機2でエンジン1を駆動してエンジン1に負のENGトルクTQICEを発生させる電力消費運転の一例である。電力消費運転では、エンジン1と発電機2とでENGトルクTQICE<フリクショントルクという状態を作り出すことで、エンジン1で燃焼を行いつつバッテリ6を放電させる。リタード放電ではこの際に点火時期をリタードさせてエンジン1で燃焼を行う。この場合、燃焼が緩慢になりENGトルクTQICEが低下するので、ENGトルクTQICE<フリクショントルクという状態が作り出し易い。
【0037】
リタード放電要求判定部35は、放電要求があり、且つGPF状態フラグがONの場合(つまり、燃料カット禁止要求がある場合)にリタード放電フラグをONにする。GPF状態フラグがOFFの場合(つまり、燃料カット許可の場合)、リタード放電フラグはOFFにされる。
【0038】
SOC制御電力要求に含まれる放電要求と、その他発電・放電要求に含まれる上述した余剰の回生電力の放電要求とが重なった場合も放電要求がある場合に含まれる。このためこの場合も、GPF状態フラグがONであれば、リタード放電フラグはONにされる。これにより、GPFの状態に照らして最適なやり方で放電を行わせる放電要求を実現できる。
【0039】
リタード放電フラグは、リタード放電要求判定部35からENG動作点演算部36とENG動作モード判定部37とENG消費電力演算部38とに入力される。ENG動作点演算部36には目標電力EPICE_T、リタード放電フラグのほか、車速VSPとENG油温TOILとがさらに入力される。
【0040】
ENG動作点演算部36は、入力に基づきエンジン1の目標動作点を演算する。目標動作点は目標電力EPICE_Tに応じてマップデータで予め設定できる。目標電力EPICE_Tが正の場合、発電を行うことになる。この場合、目標ENGトルクTQICE_Tでエンジン1を発電運転するために目標ENGトルクTQICE_Tが目標動作点として演算される。目標電力EPICE_Tが負の場合、モータリング又はリタード放電を行うことになる。負の目標電力EPICE_Tはモータリング又はリタード放電により放電を行うための放電要求に相当する。
【0041】
モータリングはリタード放電フラグがOFFの場合に行われる。モータリングを行う場合、目標ENG回転速度NICE_Tで発電機2を駆動するために目標ENG回転速度NICE_Tが目標動作点として演算される。
【0042】
リタード放電はリタード放電フラグがONの場合に行われる。リタード放電を行う場合、目標ENG回転速度NICE_T及び目標ENGトルクTQICE_Tが目標動作点として演算される。目標ENGトルクTQICE_Tでエンジン1を運転するとともに目標ENG回転速度NICE_Tで発電機2を駆動して放電を行うためである。目標ENG回転速度NICE_Tは負の目標電力EPICE_Tである要求放電電力に応じて次のように予め設定される。
【0043】
図6は、要求放電電力に応じた目標ENG回転速度N
ICE_Tのマップデータを示す図である。
図6ではリタード放電時の目標ENG回転速度N
ICE_Tのマップデータを示す。
図6では要求放電電力を絶対値で示す。リタード放電時のマップデータは、ENG回転速度N
ICEごとに発生可能なENGトルクTQ
ICEのトルク特性に基づき設定される。リタード放電時のトルク特性は、一般的なエンジンフリクショントルク特性と同様にENG回転速度N
ICEが高いほどENGトルクTQ
ICEの絶対値が高くなる傾向があり、電力はENG回転速度N
ICEとENGトルクTQ
ICEとに比例する。このため、リタード放電時のマップデータは、要求放電電力が絶対値で大きいほど目標ENG回転速度N
ICE_Tが高くなる特性を有する。
図6では、リタード放電時のENGトルクTQ
ICEの絶対値が最も小さい条件でマップデータが設定されている。
【0044】
リタード放電時のマップデータはリタード放電中の消費電力特性が反映された結果、このような特性を有し、リタード放電時のマップデータとモータリング時のマップデータとは別々に準備される。従って、ENG動作点演算部36では
図6に示すマップデータを参照することにより、リタード放電中の消費電力特性に基づき目標ENG回転速度N
ICE_Tが演算される。
【0045】
目標ENG回転速度NICE_TのマップデータはENG油温TOILに応じて補正され、ENG油温TOILが低いほどエンジン1のフリクションは大きくなる。従って、ENG油温TOILが低いほど同じ要求放電電力に対する目標ENG回転速度NICE_Tは低くて済む。このため、ENG動作点演算部36では、ENG油温TOILが低いほど同じ要求放電電力に対する目標ENG回転速度NICE_Tが低く補正される。
【0046】
このように、リタード放電時のマップデータはさらに、ENG油温TOILなどENGトルクTQICEの変動要因を表すパラメータに応じて設定されてもよい。ENGトルクTQICEの変動要因を考慮することにより、実際の特性により近いトルク特性に基づいた目標ENG回転速度NICE_Tを演算できる。このため、無駄に目標ENG回転速度NICE_Tを高くすることを防止できる。
【0047】
目標ENG回転速度NICE_Tにはさらに、音振の観点から音振上限回転速度NICE_Lによる制限が設けられる。音振上限回転速度NICE_Lは車速VSPに応じて予め設定され、車速VSPが高いほど高くなる。
【0048】
図6に示す例では要求放電電力が絶対値で所定値αの場合に車速VSPが第1車速VSP1のときには、目標ENG回転速度N
ICE_Tが第1車速VSP1時の音振上限回転速度N
ICE_L1と一致する。結果、目標ENG回転速度N
ICE_Tが音振上限回転速度N
ICE_L1を超えないので、音振上限回転速度N
ICE_L1により制限されない。要求放電電力の大きさが所定値αの場合に車速VSPが第1車速VSP1より低い第2車速VSP2のときには、目標ENG回転速度N
ICE_Tが第2車速VSP2時の音振上限回転速度N
ICE_L2を超える。このためこの場合は、目標ENG回転速度N
ICE_Tが音振上限回転速度N
ICE_L2に制限される。
【0049】
図5に戻り、ENG動作点演算部36では、ENG油温T
OILによる補正及び音振上限回転速度N
ICE_Lによる制限が適用された目標ENG回転速度N
ICE_Tが、最終的な目標ENG回転速度N
ICE_Tとして演算される。
【0050】
発電機コントローラ12にはENG動作点演算部36で演算された目標ENG回転速度NICE_Tが入力される。発電機コントローラ12は、入力された目標ENG回転速度NICE_Tに基づき発電機2を制御する。これにより、エンジン1のモータリングやリタード放電による電力消費つまり放電が行われる。発電機コントローラ12は駆動モータコントローラ11とともにモータコントローラ10を構成する。
【0051】
ENG動作モード判定部37は、入力に基づきエンジン1の動作モードを判定する。ENG動作モード判定部37は、目標電力EPICE_Tが負でリタード放電フラグがONの場合にENG動作モードフラグをリタード放電に設定する。ENG動作モード判定部37ではこのほか、目標電力EPICE_Tが正の場合にENG動作モードフラグが発電運転に設定され、目標電力EPICE_Tが負で且つリタード放電フラグがOFFの場合にENG動作モードフラグがモータリングに設定される。
【0052】
ENG動作モード判定部37には目標電力EPICE_T、リタード放電フラグのほか、バッテリ6の許可出力電力POUTがさらに入力される。許可出力電力POUTはバッテリ6が出力可能な電力であり、ENG動作モードフラグは、さらに許可出力電力POUTが所定値POUT1より大きい場合にリタード放電に設定される。
【0053】
所定値POUT1は環境要因などSOC以外の要因に起因したバッテリ6の過放電状態を防止するための値であり、予め設定される。許可出力電力POUTは、SOCが発電要求を行うSOCより大きい場合であっても、例えばバッテリ6の温度が極端に高い場合や極端に低い場合に小さくなる。
【0054】
許可出力電力POUTが所定値POUT1以下の場合は、バッテリ6が過放電状態の場合に対応する。このためこの場合は、エンジン1の動作モードフラグを発電運転に設定することができる。
【0055】
ENG動作モードフラグはENG動作モード判定部37からエンジンコントローラ20に入力される。エンジンコントローラ20にはENG動作点演算部36で演算された目標ENGトルクTQICE_Tも入力される。
【0056】
エンジンコントローラ20は、入力された目標ENGトルクTQICE_TとENG動作モードフラグとに基づきエンジン1を制御する。これにより、発電を行う場合にはエンジン1により発電機2が駆動される。また、リタード放電を行う場合には点火時期をリタードさせた燃焼がエンジン1で行われる。
【0057】
前述の通り、ENG動作モードフラグは許可出力電力POUTが所定値POUT1より大きい場合はリタード放電に設定される。このため、許可出力電力POUTが所定値POUT1より大きい場合は、エンジン1のISC(Idol Speed Cotrol)要求があった場合でも、ISC要求に優先してリタード放電が行われる。
【0058】
ENG消費電力演算部38にはリタード放電フラグのほか、ENG動作モード判定部37で設定されたENG動作モードフラグ、ENG回転速度NICE、ENG油温TOIL及び車速VSPが入力される。ENG消費電力演算部38はENG動作モードがモータリング又はリタード放電の場合に、モータリング又はリタード放電により得られる消費電力であるENG消費電力を演算する。ENG消費電力は換言すれば、エンジン1及び発電機2からなる発電ユニットの消費電力である。
【0059】
リタード放電フラグがONの場合、リタード放電により得られる消費電力がENG消費電力として演算される。リタード放電フラグがOFFの場合、モータリングにより得られる消費電力がENG消費電力として演算される。演算されたENG消費電力は、リタード放電又はモータリングにより得られる消費電力の演算値であり、消費電力推定値に相当する。
【0060】
ENG消費電力はENG回転速度NICEに基づき演算される。ENG消費電力は負であり、ENG回転速度NICEが高いほど絶対値で大きく演算される。ENG消費電力はENG回転速度NICEに応じてマップデータで予め設定される。マップデータとしては、モータリング時に参照されるマップデータとリタード放電時に参照されるマップデータとが別々に準備される。
【0061】
リタード放電時のENG消費電力のマップデータは、
図6に示すマップデータで目標ENG回転速度N
ICE_TをENG回転速度N
ICEに置き換えるとともに、要求放電電力をENG消費電力に置き換えたものになる。従って、ENG消費電力演算部38では、リタード放電時のENG消費電力のマップデータを参照することにより、ENG回転速度N
ICEに応じたリタード放電中の消費電力特性に基づきENG消費電力が演算される。また、ENG消費電力はENG油温T
OILに基づき補正され、補正後のENG消費電力が最終的なENG消費電力として演算される。ENG消費電力は同じENG回転速度N
ICEに対し、ENG油温T
OILが低いほど絶対値で大きく補正される。
【0062】
リタード放電からモータリングへの遷移時に、ENG消費電力演算部38は、リタード放電により得られるENG消費電力からモータリングにより得られるENG消費電力にENG消費電力を徐々に変化させる。モータリングにより定常的に得られるENG消費電力はリタード放電により定常的に得られるENG消費電力より絶対値で大きい。このため、ENG消費電力演算部38は遷移の際にENG消費電力を絶対値で次第に大きくする。ENG消費電力演算部38は遷移の際にさらに、次に説明するように車速VSPに応じて電力変化レートを変化させる。
【0063】
図7は車速VSPに応じた電力変化レートを示す図である。電力変化レートはリタード放電からモータリングへの遷移時のENG消費電力の変化レートであり、車速VSPが高いほど電力変化レートは大きくなる。これにより、車速VSPが高いほどリタード放電からモータリングへの遷移が素早く行われる。
【0064】
図5に戻り、回生トルク制限演算部39にはENG消費電力演算部38で演算されたENG消費電力のほか、補機消費電力と許可入力電力PINとが入力される。許可入力電力PINはバッテリ6に入力可能な電力であり、ゼロ又は負の値とされる。回生トルク制限演算部39は、ENG消費電力と補機消費電力と許可入力電力PINとの和に基づき、駆動モータ3の回生可能トルクTQ
MOT_Lを演算する。
【0065】
ENG消費電力と補機消費電力と許可入力電力PINとの和は、システム回生最大電力PMAXを構成する。システム回生最大電力PMAXは車両100で回生可能な絶対値で最大の電力であり、車両100で最大限受け入れ可能な電力を示す。回生トルク制限演算部39では、システム回生最大電力PMAXに応じた回生トルクが回生可能トルクTQMOT_Lとして演算される。回生可能トルクTQMOT_Lより絶対値で大きな駆動トルクQMOTでは、回生を行うことはできない。従って、回生可能トルクとは換言すれば回生制限トルクといえる。演算された回生可能トルクTQMOT_Lは回生トルク制限部40に入力される。
【0066】
回生トルク制限部40は入力された回生可能トルクTQMOT_Lにより駆動モータ3の目標駆動トルクTQMOT_Tを制限する。目標駆動トルクTQMOT_Tは負の場合に目標回生トルクを表す。負の目標駆動トルクTQMOT_Tは回生可能トルクTQMOT_L以下になる場合に、回生可能トルクTQMOT_Lに制限される。回生トルク制限部40では目標駆動トルクTQMOT_Tがリタード放電時の回生可能トルクTQMOT_Lrによって制限されることで、回生トルクがリタード放電によるENG消費電力に応じて制限される。
【0067】
制限が適用された後の目標駆動トルクTQMOT_Tは、最終的な目標駆動トルクTQMOT_Tとして駆動モータコントローラ11に入力され、駆動モータコントローラ11は入力された目標駆動トルクTQMOT_Tに基づき駆動モータ3を駆動する。目標駆動トルクTQMOT_Tが負の場合、回生が行われる。制限が適用された後の目標駆動トルクTQMOT_Tは、目標駆動電力演算部32にも入力される。
【0068】
図8はコントローラ50が行う放電制御の一例をフローチャートで示す。
図8ではドライブモードがSモードの場合を示す。コントローラ50では
図8に示すフローチャートの処理を行うことで、制御部が機能的に実現される。
図8に示すフローチャートの処理は繰り返し実行することができる。
【0069】
ステップS1で、コントローラ50は目標電力EPICE_Tがゼロ未満か否かを判定する。ステップS1で肯定判定であれば、目標電力EPICE_Tは目標放電電力なので放電要求があると判断される。放電要求は発電機2に放電を行わせるための放電要求であり、発電機2ではこのような放電要求に基づきエンジン1を駆動することで放電が行われる。目標電力EPICE_Tは例えば目標駆動電力EPMOT_Tが負になり、且つ目標駆動電力EPMOT_Tよりも優先度が高い発電要求もしくは放電禁止要求がない場合は負になる。従って、放電要求がある場合は例えば回生開始時を含む回生時となる。
【0070】
目標電力EPICE_Tがゼロ未満の場合は、バッテリ6が満充電の場合を含む。バッテリ6が満充電の場合、SOC制御電力要求に応じた電力として負の電力が負の目標駆動電力EPMOT_Tに加算される結果、目標電力EPICE_Tがゼロ未満になる。ステップS1で肯定判定であれば、処理はステップS2に進む。
【0071】
ステップS2で、コントローラ50はGPF温度Tが閾値Trefより高いか否かを判定する。つまり、燃料カット禁止条件が成立したか否かが判定される。ステップS2で肯定判定であれば、GPF状態フラグがONとされ、コントローラ50はステップS3で燃料カットを禁止する。
【0072】
ステップS4で、コントローラ50はバッテリ6の許可出力電力POUTが所定値POUT1より大きいか否かを判定する。ステップS4で否定判定の場合、処理は一旦終了する。この場合はバッテリ6が過放電状態と判断されるので、エンジン1の発電運転を行うことができる。ステップS4で肯定判定であれば、バッテリ6は過放電状態でないと判断され、処理はステップS5に進む。
【0073】
ステップS5で、コントローラ50はリタード放電を実行する。これにより、GPFの過熱を抑制しつつバッテリ6を放電させることができるので、回生の余地が大きくなる。従って、燃料カットが禁止され且つバッテリ6が満充電の場合でも、回生により減速度を得ることができる。
【0074】
ステップS2で否定判定の場合、GPF状態フラグはOFFであり、コントローラ50はステップS6でエンジン1の燃料カットを実行するとともに、ステップS7でモータリングを実行する。つまりこの場合は、モータリングを行ってもGPFが過熱しないので、モータリングによりバッテリ6の放電が行われる。この場合、モータリングによる放電量に見合った回生を行えるので、リタード放電を行う場合より絶対値で大きな減速度が確保される。
【0075】
前回のルーチンでリタード放電が行われていた場合、ステップS7ではリタード放電からモータリングへの遷移が開始される。この際、コントローラ50はENG消費電力の徐変を行う。コントローラ50は、リタード放電により得られるENG消費電力からモータリングにより得られるENG消費電力にENG消費電力を徐々に変化させる。ENG消費電力の徐変はENG消費電力がモータリングにより得られるENG消費電力になるまで継続的に行われる。ステップS7の後には処理は一旦終了する。
【0076】
ステップS1で否定判定の場合は放電要求がなくなる。このため、リタード放電やモータリングは停止される。ステップS1で否定判定の場合、ステップS8ではGPF温度Tが閾値Trefより高いか否かが判定される。そして、ステップS8で肯定判定であればステップS9で燃料カットが禁止される。この場合、エンジン1の発電運転を行うことができる。ステップS8で否定判定であれば処理は一旦終了する。この場合、GPF状態フラグはOFFであり、燃料カットが許可されるので、エンジン1の発電運転や運転停止を行うことができる。
【0077】
ステップS1からステップS4、ステップS8、及びステップS9の処理は車両コントローラ30で行うことができる。ステップS5の処理はモータコントローラ10及びエンジンコントローラ20で行うことができる。ステップS6の処理はエンジンコントローラ20で行うことができ、ステップS7の処理はモータコントローラ10で行うことができる。
【0078】
図9は、
図8に対応するタイミングチャートの第1の例を示す図である。
図9では、リタード放電が行われる場合を示す。タイミングT1より前では、車両100は上り坂を一定の車速VSPで走行している。アクセル開度APOはゼロより大きく、駆動モータ3の目標駆動トルクTQ
MOT_T、及び目標駆動トルクTQ
MOT_Tに応じた目標駆動電力EP
MOT_Tは正になっている。GPF状態フラグはONであり、エンジン1の運転状態は燃焼により正のトルクを発生させる正トルク運転になっている。このため、エンジン1の実ENGトルクTQ
ICE_Aは正、発電機2の実GENトルクTQ
GEN_Aは負になっている。エンジン1が発電機2を駆動する結果、発電機2のGEN回転速度N
GENはゼロより大きくなっている。
【0079】
タイミングT1の手前では、車両100が下り坂に差し掛かる。このため、一定だったアクセル開度APOが減少し始め、これに応じて目標駆動トルクTQMOT_T及び目標駆動電力EPMOT_Tも減少し始める。アクセル開度APOはタイミングT1の手前でゼロになり、これに応じて目標駆動トルクTQMOT_Tが負になることで、目標駆動電力EPMOT_TがタイミングT1で負になる。
【0080】
結果、回生が開始されるとともに、燃料カット禁止状態で放電要求が行われる。このため、リタード放電も開始され、エンジン1の運転状態は燃焼状態で負のトルクを発生させる負トルク運転になる。また、回生が開始されるので、バッテリ6の許可入力電力PINが絶対値で次第に減少し始める。
【0081】
リタード放電が開始されると、エンジン1の点火時期が遅角されるとともにGEN回転速度NGENが高められる。このため、実ENGトルクTQICE_Aが低下するとともに実GENトルクTQGEN_Aが上昇する。結果、実ENGトルクTQICE_Aは負になり、実GENトルクTQGEN_Aは正になる。そして、タイミングT2で実ENGトルクTQICE_Aが一定になると、GEN回転速度NGEN及び実GENトルクTQGEN_Aも一定になる。ハッチングは発電機2による放電電力の大きさを表す。
【0082】
リタード放電が開始されると、回生可能トルクTQMOT_L及びシステム回生最大電力PMAXはリタード放電による放電分、低下(絶対値で増加)する。目標駆動トルクTQMOT_Tは回生可能トルクTQMOT_Lにより制限されるので、回生可能トルクTQMOT_Lまで低下する。目標駆動電力EPMOT_Tはシステム回生最大電力PMAXまで低下する。結果、リタード放電による放電分、回生量が増加する。
【0083】
これにより、リタード放電を行わない場合より絶対値で大きな減速度が確保される。また、リタード放電による放電分、回生の余地が大きくなるので、タイミングT3でバッテリ6の許可入力電力PINがゼロになり満充電になっても、回生可能トルクTQMOT_L及び目標駆動電力EPMOT_Tはゼロにならず、減速度が確保される。
【0084】
図10は、
図8に対応するタイミングチャートの第2の例を示す図である。
図10では、モータリングが行われる場合を示す。タイミングT11より前の状態は、GPF状態フラグがOFFであることを除き、
図9の場合と同じである。タイミングT11では、燃料カットが禁止されていない状態で放電要求が行われる。結果、これに応じてモータリングが開始され、エンジン1の運転状態が燃料カットつまり運転停止になる。
【0085】
モータリングでは運転停止状態のエンジン1を発電機2で駆動するので、リタード放電よりも電力を消費する。このため、ハッチングで表される発電機2の放電電力は
図9の場合より大きくなり、回生可能トルクTQ
MOT_L及びシステム回生最大電力PMAXも
図9の場合より絶対値で大きくなる。結果、タイミングT13で許可入力電力PINがゼロになった場合を含め、目標駆動トルクTQ
MOT_T及び目標駆動電力EP
MOT_Tも
図9の場合より絶対値で大きくなる。従って、リタード放電の場合より絶対値で大きな減速度が確保される。
【0086】
図11は、
図8に対応するタイミングチャートの第3の例を示す図である。
図11では、リタード放電からモータリングへの遷移時を示す。タイミングT21より前ではエンジン1の燃料カットが禁止され、負トルク運転としてリタード放電が行われている。リタード放電では燃焼が行われているエンジン1を発電機2で駆動する。このため、発電機2のGENトルクTQ
GENはゼロより大きくなっている。車両100は車速VSP一定で下り坂を走行しており、回生を行っている。このため、アクセル開度APOはゼロで、目標駆動トルクTQ
MOT_T及び目標駆動電力EP
MOT_Tは負になっている。目標駆動トルクTQ
MOT_Tは回生可能トルクTQ
MOT_Lに制限されている。
【0087】
タイミングT21ではGPF状態フラグがONからOFFに変わる。このため、エンジン1の燃料カットが行われるとともにモータリングが開始される。結果、リタード放電からモータリングへの遷移が行われる。これにより、目標駆動トルクTQMOT_T及び目標駆動電力EPMOT_Tが低下し絶対値で大きくなるので、GENトルクTQGENも大きくなる。
【0088】
この際には、リタード放電により得られるENG消費電力からモータリングにより得られるENG消費電力にENG消費電力を徐々に変化させるENG消費電力の徐変が行われる。これにより、回生可能トルクTQMOT_Lが次第に低下する結果、目標駆動トルクTQMOT_Tが回生可能トルクTQMOT_Lに制限されながら次第に低下する。結果、ドライバに違和感を与えることを抑制しつつモータリングにより可能となる最大ポテンシャルの減速度が得られる。
【0089】
次に、本実施形態の主な作用効果について説明する。
【0090】
本実施形態では、エンジン1と発電機2と駆動モータ3とを備え、エンジン1で発電機2を駆動して発電し、発電機2により発電した電力で駆動モータ3を駆動するとともに、エンジン1の排気中の粒子状物質である煤を捕集するGPFシステム7を備える車両100の制御方法が、運転停止状態のエンジン1を発電機2により駆動することでモータリングを行い、これによりエンジン1の燃料カットを行うとともに電力を消費することと、その一方で、GPF温度Tに基づきエンジン1の燃料カット禁止を行うことと、エンジン1の燃料カット禁止中に放電要求があった場合は、エンジン1で燃焼を行いつつ発電機2でエンジン1を駆動してエンジン1に負のENGトルクTQICEを発生させる電力消費運転であるリタード放電を行うことを含む。
【0091】
このような方法によれば、放電要求に応じてリタード放電を行うことにより、酸素供給によりGPFが過熱し得る燃料カット禁止中でも放電を行うことができる。このため、GPFを保護しつつ放電を行うことができる。結果、燃料カット禁止中であっても回生時に回生の余地を大きくすることができ、減速度を確保できる。
【0092】
本実施形態では、エンジン1のISC要求があった場合でもバッテリ6の許可出力電力POUTが所定値POUT1より大きい場合は、リタード放電を優先して行う。このような方法によれば、バッテリ6がSOC以外の要因で過放電状態になることを防止しつつリタード燃焼を行うことができる。このため、バッテリ6がSOC以外の要因で過放電状態になり得る場合でも、エンジン1を次回始動する際の電力を確保でき、また、バッテリ6から供給する駆動アシスト電力が低下することを防止できる。
【0093】
本実施形態では、リタード放電からエンジン1のモータリングへの遷移時には、リタード放電により得られるENG消費電力からモータリングにより得られるENG消費電力にENG消費電力を徐々に変化させる。このような方法によれば、リタード放電からエンジン1のモータリングへの遷移時にドライバに違和感を与えることを抑制しつつ、モータリングにより可能になる最大ポテンシャルの減速度を得ることができる。
【0094】
本実施形態では、
図6に示すリタード放電時の目標ENG回転速度N
ICE_Tのマップデータを参照することにより、リタード放電中の消費電力特性に基づき目標ENG回転速度N
ICE_Tが演算される。また、目標ENG回転速度N
ICE_TはENG油温T
OILに応じて補正される。このような方法によれば、リタード放電中に要求される放電電力を満足させつつ減速度を確保できる。
【0095】
本実施形態では、負の目標駆動トルクTQMOT_Tが回生可能トルクTQMOT_Lによって制限される結果、駆動モータ3の回生トルクがリタード放電によるENG消費電力に応じて制限される。このような方法によれば、リタード放電によるENG消費電力に応じて回生電力を制限できるので、バッテリ6が満充電になることを防止しつつ減速度を発生させ続けることが可能になる。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0097】
例えば、電力消費運転はアイドル運転中のエンジン1を発電機2で駆動してエンジン1に負のトルクを発生させる負トルク運転であってもよい。