(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】サーマルリレー
(51)【国際特許分類】
H01H 61/013 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H01H61/013 A
(21)【出願番号】P 2023573848
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2022039319
(87)【国際公開番号】W WO2023135887
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2024-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2022004981
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】三浦 颯斗
(72)【発明者】
【氏名】鴨崎 武雄
(72)【発明者】
【氏名】小野木 悠真
(72)【発明者】
【氏名】李 守連
【審査官】荒木 崇志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-034945(JP,U)
【文献】特開2001-014999(JP,A)
【文献】実開昭52-110374(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 61/00 - 61/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に、主回路の各相に対応したヒートエレメントと、前記ヒートエレメントの操作部に係合してスライド可能とされたシフタと、前記シフタのスライドに連動して接点を切り換える接点反転機構と、を備え、
前記ヒートエレメントは、
前記主回路の通電経路とはされておらず、長手方向の端部に前記シフタに係合する前記操作部を設けた長尺板状のバイメタルと、
前記通電経路とされており、前記バイメタルの側面に面接触した状態で長手方向に延在している第1ヒータ部を有し、過負荷電流の通電により前記第1ヒータ部が前記バイメタルに熱を伝達するヒータと、を備え
、
前記ヒータは、前記第1ヒータ部に折り返し部を介して連続し、前記第1ヒータ部の幅方向縁部に近接して延在する第2ヒータ部を備えており、
前記ヒータは、直線状に延在する帯状部材であり、当該帯状部材の一端から所定長さで形成した前記第1ヒータ部の端部を略直角に折り曲げて三角形状の第1折曲部を形成し、前記第1折曲部に隣接する部分を略直角に折り曲げて三角形状の第2折曲部を形成して前記折り返し部を形成するとともに、前記第2折曲部から連続して前記第1ヒータ部の幅方向縁部に対して所定の隙間を設けて近接して同一平面で延在する前記第2ヒータ部を形成していることを特徴とするサーマルリレー
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線用遮断器,電磁接触器などに接続して負荷(例えば電動機)の過電流保護を行うサーマルリレーに関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルリレーは、絶縁ケース内に、主回路の各相に対応して配置されたヒートエレメントと、各相のヒートエレメントの操作部に係合してスライド可能とされているシフタと、シフタのスライドに連動して接点を切り換える接点反転機構とが収納されている。
【0003】
ヒートエレメントとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1のヒートエレメントは、一端が負荷側端子に接続され、他端に設けた操作部がシフタに係合している板状のバイメタルと、バイメタルの外周にコイル状に巻き付けたヒータ線とを備え、ヒータ線の巻始め端部が電源側端子に接続され、ヒータ線の巻終わり端部がバイメタルの他端側に接続され、直列に接続したバイメタル及びヒータ線が通電経路とされている。上記構成のサーマルリレーは、電動機の電流路に配置した電磁接触器に直列に接続することで、電動機の過電流保護装置として使用される。そして、ヒートエレメントのバイメタル及びヒータ線に過負荷電流が流れると、ヒータ線及びバイメタルの発熱でバイメタルが湾曲していき、操作部が変位することでシフタがスライドする。そして、シフタのスライドに連動した接点反転機構が接点を切り換えることで、接点の切替え情報に基づいて電磁接触器が開極動作し、電動機への過負荷電流の流れが遮断されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のヒートエレメントは、バイメタル及びヒータ線が通電経路とされているので、ヒートエレメント全体の端子間抵抗値に占めるバイメタル抵抗値の割合が高い。このため、上位定格(例えば13A以上)のサーマルリレーでは抵抗値が低いバイメタルを使用しないとサーマルリレーの切換え動作時間が速くなってしまう。したがって、上位定格(例えば13A以上)及び下位定格(13A未満)のサーマルリレーを製造する場合には抵抗値が異なる複数のバイメタルを部品として準備しなければならず、バイメタルの部品管理の面で課題があった。
また、特許文献1のヒートエレメントは、バイメタルの外周にヒータ線を巻き付けているので、バイメタルの湾曲量が少なくなるなどバイメタル動作に影響を与えるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、上位定格或いは下位定格のサーマルリレーを製造する場合に同一抵抗のバイメタルを共用することができるので、製造コストの低減化を図ることができるとともに、バイメタルの湾曲動作に影響を与えないヒータの配置構造を備えたサーマルリレーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るサーマルリレーは、ケース内に、主回路の各相に対応したヒートエレメントと、ヒートエレメントの操作部に係合してスライド可能とされたシフタと、シフタのスライドに連動して接点を切り換える接点反転機構と、を備えている。ヒートエレメントは、主回路の通電経路とはされておらず、長手方向の端部にシフタに係合するシフタ係合部を設けた長尺板状のバイメタルと、通電経路とされており、バイメタルの側面に面接触した状態で長手方向に延在している第1ヒータ部を有し、過負荷電流の通電により前記第1ヒータ部が前記バイメタルに熱を伝達するヒータと、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るサーマルリレーによれば、バイメタルは主回路の通電経路とはされておらず、上位定格或いは下位定格のサーマルリレーを製造する場合には同一抵抗のバイメタルを使用することができる。したがって、上位定格或いは下位定格のサーマルリレーを製造する場合にはバイメタルを共用することができるので、製造コストの低減化を図ることができる。また、本発明に係るサーマルリレーは、主回路の通電経路とされているヒータの第1ヒータ部がバイメタルの側面に面接触した状態で長手方向に延在しているので、バイメタルの湾曲動作に影響を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係るサーマルリレーの外観を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係るサーマルリレーの内部構造を示す図である。
【
図3】本発明に係るサーマルリレーに内蔵され、主回路の3相に対応する3組のヒートエレメントの一組を示す図である。
【
図4】
図3で示した一組のヒートエレメントを裏側から示した図である。
【
図5】本発明に係るヒートエレメントを構成する帯状のヒータを折曲した構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0011】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
なお、以下の説明で記載されている「上」、「下」、「左」、「右」、「前」、「後」、「長尺方向」、「短尺方向」等の方向を示す用語は、添付図面の方向を参照して用いられている。
【0012】
図1は、本発明に係る1実施形態のサーマルリレー1の外観を示している。サーマルリレー1の絶縁性を有するケースは、上ケース2a、下ケース2b及び側部ケース2cで構成され、上ケース2aの上部に、ヒンジ部3aによって開閉自在な開閉カバー3が配置されている。上ケース22aには、主端子4a~4c及び補助端子5a~5dが配置されており、側部ケース2cから外部にロッド端子6a~6cが突出している。
【0013】
図2は、下ケース2b及び側部ケース2cを取り外した状態でサーマルリレー1の内部を示したものである。サーマルリレー1の内部には、主回路の3相に対応する3組のヒートエレメント8a~8cと、これらヒートエレメント8a~8cの後述するバイメタル16に係合して
図2の左右方向にスライド自在に配置されているシフタ9と、シフタ9のスライドに従動する調整機構12と、調整機構12の動作により接点13の開閉状態を切り替える接点反転機構14と、を備えている。接点13は、調整機構12が動作しない場合には固定接点13a及び可動接点13bが開離した常開接点(a接点)13である。また、図示しないが、接点反転機構14の裏側位置には、調整機構12が動作しない場合に固定接点及び可動接点が接触する常閉接点(b接点)が配置されている。そして、補助端子5a,5bの間に、a接点13が接続し、補助端子5c,5dの間に、b接点が接続されている。
【0014】
次に、
図3は、
図2で示した3組のヒートエレメント8a~8cのうちの1組のヒートエレメント8aを
図2の左側から見た図であり、
図4は、ヒートエレメント8aを
図2の右側から見た図である。
ヒートエレメント8aは、主端子4aを設けた端子部材15と、端子部材15に接続している長尺な平板形状のバイメタル16と、両端が端子部材15及びロッド端子6aに接続し、バイメタル16に沿って配置されている帯状の導電材料からなるヒータ17と、を備えている。
【0015】
端子部材15は、板状の端子本体15aと、端子本体15aの一端から直角に折曲されて形成された主端子4aと、端子本体15aの他端から直角に折曲されて主端子4aに対して逆側に平行に延在する板状の接続部15bと、を備えている。
バイメタル16は、長尺な板状部材であり、一端16a(
図4参照)が端子部材15の接続部15bの一方の面15b1に接続され、他端にシフタ9に係合する操作部16bが形成されている。バイメタル16には一端16a及び操作部16b以外の全周に絶縁紙18が巻き付けられている。
【0016】
ヒータ17は、一端17a(
図3参照)が端子部材15の接続部15bの他方の面15b2に接続され、他端17bがロッド端子6aに接続されている。また、ヒータ17には、一端17aに連続して直線状に延在する第1ヒータ部17cと、第1ヒータ部17cから連続して形成された折り返し部17dと、折り返し部17dから連続して形成され、第1ヒータ部17cの幅方向縁部に沿って平行に延在する第2ヒータ部17eと、を備えている。
そして、バイメタル16の長手方向中央部とヒータ17の第1ヒータ部17cとの周囲に帯状の締め金19を巻くことで、第1ヒータ部17cが絶縁紙18を介してバイメタル16の一方の側面に面接触した状態で固定され、第2ヒータ部17eがバイメタル16の幅方向縁部に近接して延在する。
【0017】
ヒータ17の折り返し部17dを形成する手順は、先ず、
図5(a)に示すように、ヒータ17の一端17aに連続する直線状の帯状部に対して、他端17bに連続する直線状の帯状部を略直角に折り曲げることで、第1ヒータ部17cと、三角形状の第1折曲部17d1とを形成する。次いで、
図5(b)に示すように、他端17bに連続する直線状の帯状部が第1ヒータ部17cに沿って延在するように、第1折曲部17d1に近接する位置に、三角形状の第2折曲部17d2を形成する。これら第1折曲部17d1及び第2折曲部17d2からなる折り返し部17dを形成することで、第1ヒータ部17cとの間に所定の隙間Sを設けた状態で平行に延在する第2ヒータ部17eが設けられる。
【0018】
本実施形態のヒートエレメント8aは、ヒータ17の一端17aが端子部材15の接続部15bに接続し、他端17bがロッド端子6aに接続することで通電経路とされ、過負荷電流が流れることで発熱する。また、本実施形態のバイメタル16は、従来装置のような通電経路の一部を構成しておらず、通常電流や過負荷電流が流れない。
ヒートエレメント8aのヒータ17に過負荷電流が流れて発熱すると、バイメタル16に面接触している第1ヒータ部17cがバイメタル16に熱を伝達し、バイメタル16に近接して延在している第2ヒータ部17eもバイメタル16に熱を伝達する。このように、第1ヒータ部17c及び第2ヒータ部17eから熱が伝達されたバイメタル16は、
図2の下側が矢印方向に湾曲して操作部16bが変位する。
また、他の2組のヒートエレメント8b,8cも、上述した主端子4b,4cを設けた各々の端子部材15を有するとともに、ヒートエレメント8aと同一の構造である。
【0019】
次に、本実施形態のサーマルリレー1の動作について説明する。
上記構成のサーマルリレー1は、電動機(不図示)の電流路に配置した電磁接触器(不図示)に直列に接続されることで、電動機の過電流保護装置として使用される。
サーマルリレー1に内蔵されている3組のヒートエレメント8a~8cのヒータ17に過負荷電流が流れると、各組のヒートエレメント8a~8cのバイメタル16に面接触している第1ヒータ部17cからバイメタル16に熱が伝達され、バイメタル16に近接して延在している第2ヒータ部17eからバイメタル16に熱が伝達される。そして、第1ヒータ部17c及び第2ヒータ部17eから熱が伝達された各組のヒートエレメント8a~8cのバイメタル16は、
図2に示す矢印方向に湾曲していくことで操作部16bが変位し、シフタ9が
図2の左側にスライドしていく。そして、シフタ9のスライドに連動した接点反転機構14が接点を切り換えることで、接点の切替え情報に基づいて電磁接触器が開極動作し、電動機への過負荷電流の流れが遮断される。
【0020】
次に、本実施形態のサーマルリレー1の効果について説明する。
ヒートエレメント8a~8cを構成するバイメタル16は、従来装置のような通電経路とされていないので、サーマルリレー1の切換え動作時間に寄与するバイメタル16の抵抗値の影響が無くなる。このため、上位定格(例えば13A以上)、或いは下位定格(13A未満)のサーマルリレー1を製造する場合であっても同一抵抗値のバイメタルを使用することができる。したがって、上位定格或いは下位定格のサーマルリレー1バイメタルを製造する際に一種類のバイメタル16が共用できるので、バイメタルの部品管理が不要となり、製造コストの低減化を図ることができる。
【0021】
また、ヒートエレメント8a~8cのヒータ17は、第1ヒータ部17cがバイメタル16に面接触した状態で熱を伝達しており、従来装置のようにバイメタルの外周にヒータ線を巻き付けた構成と比較して、バイメタル16の湾曲量が減少するなどのバイメタル動作に影響を与えるおそれがない。
また、ヒートエレメント8a~8cのヒータ17は、バイメタル16に面接触する第1ヒータ部17cに加えて、バイメタル16の幅方向縁部に近接して配置された第2ヒータ部17eを設けたことで、ヒータ17の熱を効率良くバイメタル16に伝達することができ、バイメタル16の安定した湾曲動作特性を確保することができる。
【0022】
さらに、ヒートエレメント8a~8cのヒータ17は、第1ヒータ部17cとの間に所定の隙間Sを設けた状態で第2ヒータ部17eが平行に延在しているので、第1ヒータ部17c及び第2ヒータ部17eの一部が接触して短絡するなどのおそれがなく、過負荷電流が流れた際にバイメタル16に熱を効率良く伝達することができる。
さらにまた、帯状の導電材料に2箇所の折曲部(第1折曲部17d1及び第2折曲部17d2)を形成して折り返し部17dを設けるだけで、互いに平行な第1ヒータ部17c及び第2ヒータ部17eを形成していることから、例えば平板である導電板の打ち抜き加工により略U字状に打ち抜いて互いに平行なヒータ部を設けるヒータと比較して、製造コストを大幅に削減することができる。
【符号の説明】
【0023】
1 サーマルリレー
2a 上ケース
2b 下ケース
2c 側部ケース
3 開閉カバー
3a ヒンジ部
4a~4c 主端子
5a~5d 補助端子
6a~6c ロッド端子
8a~8c ヒートエレメント
9 シフタ
12 調整機構
13 常開接点(a接点)
14 接点反転機構
15 端子部材
15a 端子本体
15b 接続部
15b1 接続部の一方の面
15b2 接続部の他方の面
16 バイメタル
16a バイメタルの一端
16b 操作部
17 ヒータ
17a ヒータの一端
17b ヒータの他端
17c 第1ヒータ部
17d 折り返し部
17d1 第1折曲部
17d2 第2折曲部
17e 第2ヒータ部
18 絶縁紙
S 隙間