(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】超音波トランスデューサおよびこれを備えるパラメリックスピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20241008BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20241008BHJP
H04R 1/40 20060101ALI20241008BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
H04R1/28 330
H04R3/00 310
H04R1/40 330
H04R17/00 330K
H04R17/00 332A
(21)【出願番号】P 2023574620
(86)(22)【出願日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2023026362
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2022192879
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩誠
【審査官】佐久 聖子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第115103280(CN,A)
【文献】国際公開第2016/104414(WO,A1)
【文献】特開2006-025106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/28、1/40
H04R 3/00
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
長手方向に延在し、前記振動板に接合された少なくとも一つの枠体と、
前記少なくとも一つの枠体にそれぞれ取り付けられており、前記振動板に間隔をあけて対向する少なくとも一つの超音波振動子と、
前記振動板に関して前記少なくとも一つの枠体とは反対側において前記振動板に隙間をあけて対向しつつ、前記長手方向に沿って延在する少なくとも一つの共鳴板とを備え、
前記振動板は、前記振動板に直交する方向において前記少なくとも一つの超音波振動子とは逆位相で共振振動し、
前記少なくとも一つの枠体の内側における前記長手方向の寸法は、前記少なくとも一つの枠体の内側における前記長手方向と直交する短手方向の寸法より大きく、
前記少なくとも一つの超音波振動子の駆動周波数から変換された波長をλとすると、前記隙間において前記短手方向にλ/2の空気共鳴を発生可能である、超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記少なくとも一つの枠体の内側における前記長手方向の寸法は、前記少なくとも一つの枠体の内側における前記短手方向の寸法の4倍以上である、請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記空気共鳴の周波数は、前記振動板および前記少なくとも一つの超音波振動子の共振周波数の±10%以内である、請求項
2に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記少なくとも一つの共鳴板の前記短手方向の寸法は、前記振動板に直交する方向における前記隙間の寸法より大きい、請求項
3に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項5】
前記少なくとも一つの共鳴板の前記短手方向の寸法は、前記振動板に直交する方向における前記隙間の寸法の2.5倍以上5倍以下である、請求項4に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
前記少なくとも一つの共鳴板の厚みが0.3mm以下である、請求項
3に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項7】
前記少なくとも一つの枠体が前記短手方向に並ぶように複数配置されて前記振動板に接合されており、
前記少なくとも一つの枠体において前記短手方向に隣り合う枠体同士は、互いの前記長手方向における両端部にて繋がっており、
前記少なくとも一つの共鳴板が前記短手方向に並ぶように複数配置されており、
前記少なくとも一つの共鳴板において前記短手方向に隣り合う共鳴板同士は、互いの前記長手方向における両端部にて繋がっている、請求項
1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項8】
前記少なくとも一つの共鳴板の前記短手方向の寸法をDsとし、空気中の超音波の波長をλaとし、前記短手方向における前記少なくとも一つの超音波振動子の配置ピッチをPAとすると、
Ds+3λa/4≦PA≦Ds+5λa/4の関係を満たす、請求項7に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の前記超音波トランスデューサを備え、
前記超音波トランスデューサの変調駆動により可聴音を再生する、パラメ
トリックスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサおよびこれを備えるパラメリックスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
空気共鳴を利用して音圧レベルを高くした超音波トランスデューサを開示した先行文献として、国際公開第2012/026319号(特許文献1)および国際公開第2013/018579号(特許文献2)がある。特許文献1および特許文献2に記載された超音波トランスデューサは、超音波発生素子と、ケースとを備える。超音波発生素子は、圧電振動子を有する。ケースは、超音波放出孔を有し、超音波発生素子を収容する。超音波発生素子とケースとにより、圧電振動子から超音波放出孔に至る、空気を媒質とする音響経路が形成されている。音響経路において、圧電振動子で発生した超音波により、超音波放出孔を開放端として空気共鳴が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/026319号
【文献】国際公開第2013/018579号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2に記載された超音波トランスデューサにおいては、さらに小型化された構成で音圧レベルを高くできる余地がある。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、小型化された構成で音圧レベルを高くすることができる、超音波トランスデューサおよびこれを備えるパラメリックスピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づく超音波トランスデューサは、振動板と、少なくとも一つの枠体と、少なくとも一つの超音波振動子と、少なくとも一つの共鳴板とを備える。上記少なくとも一つの枠体は、長手方向に延在し、振動板に接合されている。上記少なくとも一つの超音波振動子は、上記少なくとも一つの枠体にそれぞれ取り付けられており、振動板に間隔をあけて対向する。上記少なくとも一つの共鳴板は、振動板に関して上記少なくとも一つの枠体とは反対側において振動板に隙間をあけて対向しつつ、上記長手方向に沿って延在する。振動板は、振動板に直交する方向において上記少なくとも一つの超音波振動子とは逆位相で共振振動する。上記少なくとも一つの枠体の内側における上記長手方向の寸法は、上記少なくとも一つの枠体の内側における上記長手方向と直交する短手方向の寸法より大きい。上記少なくとも一つの超音波振動子の駆動周波数から変換された波長をλとすると、上記隙間において上記短手方向にλ/2の空気共鳴を発生可能である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、超音波トランスデューサにおいて小型化された構成で音圧レベルを高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサの構成を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す超音波トランスデューサをII-II線矢印方向から見た断面図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサの構成を示す分解斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサが備える枠体の構成を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサが備える超音波振動子の構成を示す断面図である。
【
図6】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサが超音波を送信または受信しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した振動板および超音波振動子の変位状態を示す斜視図である。
【
図7】
図6の超音波トランスデューサをVII-VII線矢印方向から見た断面図である。
【
図8】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいて超音波を送信しつつλ/2の空気共鳴を発生させているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した振動板および超音波振動子の変位状態を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいてλ/2の空気共鳴が発生しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいて発生するλ/2の空気共鳴を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいてλ/2の空気共鳴が発生しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した粒子速度を示す図である。
【
図12】振動板と共鳴板との隙間で発生する空気共鳴の周波数と共鳴板の幅の寸法との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図13】振動板および超音波振動子の周波数と振動板の変位との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図14】共振周波数が150kHzである振動板および超音波振動子に、空気共鳴の周波数が150kHzである共鳴板を組み合わせた超音波トランスデューサにおける、超音波トランスデューサから送信される超音波の音圧と、振動板および超音波振動子の周波数との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図15】振動板と共鳴板との隙間で発生する空気共鳴の周波数と、振動板と共鳴板との隙間の寸法との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図16】振動板と共鳴板との隙間の寸法と共鳴板の幅の寸法との比と、音圧増幅比との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図17】振動板と共鳴板との隙間の寸法と、音圧増幅比との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図18】超音波トランスデューサから送信される超音波の音圧と共鳴板の厚みの寸法との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図19】共鳴板の厚みの寸法が0.1mmである超音波トランスデューサにおいてλ/2の空気共鳴が発生しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【
図20】共鳴板の厚みの寸法が0.6mmである超音波トランスデューサにおいてλ/2の空気共鳴が発生しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【
図21】本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサの構成を示す斜視図である。
【
図22】本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサの構成を示す分解斜視図である。
【
図23】シミュレーション解析した超音波トランスデューサのFEMモデルを示す模式図である。
【
図24】超音波トランスデューサから送信される超音波の音圧とアレイピッチとの関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図25】アレイピッチが2.2mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【
図26】アレイピッチが2.6mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【
図27】アレイピッチが3.0mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【
図28】アレイピッチが3.6mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【
図29】アレイピッチが4.4mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【
図30】超音波トランスデューサから送信される超音波の指向性とアレイピッチとの関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
【
図31】共鳴板の幅の寸法を変えて超音波トランスデューサから放射される超音波の出力を実測した結果を示すグラフである。
【
図32】本発明の実施形態3に係る超音波トランスデューサの構成を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態に係る超音波トランスデューサについて図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。本発明は、パラメトリックスピーカ用の超音波トランスデューサ、超音波センサまたは非接触ハプティクスなどの高音圧の超音波が必要なアプリケーションについて適用可能である。以下の実施形態においては、パラメトリックスピーカ用の超音波トランスデューサについて例示して説明するが、超音波トランスデューサの用途はこれに限られない。
【0010】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサの構成を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す超音波トランスデューサをII-II線矢印方向から見た断面図である。
図3は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサの構成を示す分解斜視図である。
図1~
図3に示すように、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100は、振動板110と、枠体120と、超音波振動子130と、共鳴板140と、スペーサ150とを備える。
【0011】
振動板110は、平板状の形状を有している。振動板110は、アルミニウムを含むジェラルミンなどのアルミニウム合金、または、ステンレス鋼などの金属で構成されている。本実施形態においては、振動板110は、ステンレス鋼で構成されている。振動板110の厚みは、たとえば、0.1mm以上0.2mm以下である。
【0012】
枠体120は、矩形環状の形状を有している。枠体120は、第1方向(X軸方向)に沿う短手方向を有し、第2方向(Y軸方向)に沿う長手方向を有している。枠体120は、第2方向(Y軸方向)に延在している。枠体120の軸方向は、第3方向(Z軸方向)に沿っている。枠体120の第3方向(Z軸方向)の一端が、エポキシ樹脂などからなる接合剤によって振動板110に接合されている。
【0013】
枠体120は、アルミニウム合金もしくはステンレス鋼などの金属、ガラスエポキシまたは樹脂などから形成されている。超音波トランスデューサ100の温度変化による特性変化を抑制する観点では、枠体120は金属で構成されていることが好ましい。一方、超音波トランスデューサ100が送信または受信する超音波を低周波数化する観点、および、超音波トランスデューサ100を小型化する観点では、枠体120は樹脂で構成されていることが好ましい。本実施形態においては、枠体120は、ステンレス鋼で構成されている。枠体120の厚みは、たとえば、0.2mm以上0.8mm以下である。
【0014】
図4は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサが備える枠体の構成を示す斜視図である。
図4に示すように、枠体120は、第2方向(Y軸方向)に延在する1対の長辺部121と、第1方向(X軸方向)に延在する1対の短辺部122とを有している。短辺部122同士の平均間隔は、長辺部121同士の最短間隔の4倍以上である。すなわち、枠体120の内側における第2方向(Y軸方向)の長手寸法L1は、枠体120の内側における第1方向(X軸方向)の短手寸法L2の4倍以上である。ただし、長手寸法L1は、短手寸法L2の4倍以上に限られず、短手寸法L2より大きければよい。
【0015】
なお、長辺部121と短辺部122とに挟まれた角部は、面取りされていてもよい。また、短辺部122は、第3方向(Z軸方向)から見て、直線状に限られず、枠体120の内側に凸状の円弧状、または、枠体120の外側に凸状の円弧状であってもよい。
【0016】
枠体120の内側における第1方向(X軸方向)の短手寸法L2を変更することによって、振動板110の共振周波数を調整可能である。たとえば、振動板110の共振周波数を100kHz以上とする場合、上記短手寸法L2は、1.5mm以上3mm以下となる。
【0017】
枠体120の内側における第2方向(Y軸方向)の長手寸法L1は、上記短手寸法L2の4倍以上であり、超音波トランスデューサ100が送信する超音波の音圧レベルを高くする観点から、上記長手寸法L1は、たとえば20mm以上である。
【0018】
図5は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサが備える超音波振動子の構成を示す断面図である。
図1に示すように、超音波振動子130は、枠体120に取り付けられており、振動板110に間隔をあけて対向する。具体的には、超音波振動子130は、枠体120の第3方向(Z軸方向)の他端に取り付けられており、枠体120の内側空間を間に挟んで振動板110と対向している。
【0019】
図1、
図2および
図5に示すように、超音波振動子130は、圧電体131を含む圧電素子である。
図5に示すように、本実施形態においては、超音波振動子130は、積層された2つの圧電体131を含む。2つの圧電体131の分極方向Dpは、互いに異なっている。具体的には、2つの圧電体131の分極方向Dpは、第3方向(Z軸方向)において互いに向かい合っている。2つの圧電体131は、第1電極132および第2電極133に挟まれており、2つの圧電体131の間に中間電極134が配置されている。第1電極132および第2電極133は交流電圧を印加可能な処理回路160と電気的に接続されている。超音波振動子130は、いわゆる、シリーズ型のバイモルフ型圧電振動子である。2つの圧電体131の厚みの合計は、たとえば、0.5mm以上0.85mm以下である。なお、超音波振動子130は、シリーズ型のバイモルフ型圧電振動子に限られず、パラレル型のバイモルフ型圧電振動子、マルチモルフ型圧電振動子またはユニモルフ型圧電振動子であってもよい。
【0020】
図6は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサが超音波を送信または受信しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した振動板および超音波振動子の変位状態を示す斜視図である。
図7は、
図6の超音波トランスデューサをVII-VII線矢印方向から見た断面図である。
図6および
図7においては、共鳴板140を図示していない。シミュレーション解析条件として、振動板110の厚みを0.1mm、2つの圧電体131を合わせた厚みを0.8mm、枠体120の内側における長手寸法L1を20mm、短手寸法L2を2mm、枠体120の第3方向(Z軸方向)の厚みを0.4mmとした。
【0021】
図6および
図7に示すように、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100の振動モードにおいて、振動板110は、振動板110に直交する第3方向(Z軸方向)において超音波振動子130とは逆位相で共振振動する。すなわち、
図7に示すように、振動板110の共振振動Bmの変位方向と、超音波振動子130の共振振動Bpの変位方向とは、第3方向(Z軸方向)において互いに反対向きである。本実施形態においては、振動板110および超音波振動子130の共振周波数は、100kHz以上である。
【0022】
振動板110において、枠体120の内側における長手方向の中間上に位置する中間部110cが共振振動の腹となり、枠体120の内側における長手方向の両端上に位置する端部110eが共振振動の節となる。すなわち、振動板110において枠体120の内側空間の上方に位置する部分が、共振振動する振動領域となる。振動板110の振動領域の長手寸法は、枠体120の内側における長手寸法L1と同一となり、振動板110の振動領域の短手寸法は、枠体120の内側における短手寸法L2と同一となる。
【0023】
振動板110の共振周波数は、振動板110の音速と、枠体120を固定端とした振動の反射とによって決まるが、枠体120の内側における長手寸法L1が短手寸法L2の4倍を超えたときから、振動の反射に関して短手寸法L2の影響が支配的になり、長手寸法L1が短手寸法L2の4倍よりさらに大きくなっても振動の反射の状態が変わらない。
【0024】
枠体120の内側における長手寸法L1が大きくなるにしたがって、超音波トランスデューサ100から送信される超音波の音圧が大きくなる。これは、振動板110の振動領域の長手寸法を大きくした場合においても、両端部110eの間の振動板110の振動領域の全体が振動していることを意味する。すなわち、振動板110の振動領域が長くなった分だけ振動領域の面積を増加させることができ、その結果、振動板110の振動による空気の圧力変化を大きくして高い音圧を得ることができる。
【0025】
本実施形態に係る超音波トランスデューサ100は、振動板110の振動領域の長手寸法を大きくすることにより、共振周波数と略一定に維持しつつ音圧を高くすることができる。また、長手方向の両端部にノード点があるため、当該両端部を支持または固定することができるため、超音波トランスデューサ100の実装が容易である。
【0026】
図1および
図3に示すように、2つのスペーサ150は、振動板110において振動の少ないノード点上にそれぞれ配置されている。本実施形態においては、2つのスペーサ150は、振動板110における第2方向(Y軸方向)の端部上にそれぞれ配置されているが、振動板110および超音波振動子130の共振周波数がたとえば40kHz程度の低周波数である場合は、2つのスペーサ150は、振動板110における第1方向(X軸方向)の端部上にそれぞれ配置されていてもよい。
【0027】
2つのスペーサ150上に、共鳴板140が配置されている。共鳴板140は、振動板110に関して枠体120とは反対側において振動板110に隙間をあけて対向しつつ、第2方向(Y軸方向)に沿って延在している。共鳴板140における第2方向(Y軸方向)に延在する中心軸は、振動板110の振動領域における第2方向(Y軸方向)に延在する中心軸に沿っている。理想的には、第3方向(Z軸方向)から見て、共鳴板140における第2方向(Y軸方向)に延在する中心軸は、振動板110の振動領域における第2方向(Y軸方向)に延在する中心軸と重なっている。
【0028】
振動板110と共鳴板140との間の隙間の第3方向(Z軸方向)の寸法は、スペーサ150によって規定される。スペーサ150は、両面に接着材が塗布された金属板で構成されていてもよいし、両面テープで構成されていてもよい。スペーサ150の厚みの寸法は、後述するように振動板110と共鳴板140との隙間で発生させる空気共鳴の周波数に応じて決定される。スペーサ150の厚みの寸法は、空気共鳴の周波数が150kHzのときは約0.1mm、空気共鳴の周波数が100kHzのときは0.1mm以上0.2mm以下である。
【0029】
共鳴板140の第2方向(Y軸方向)の長さは、振動板110の第2方向(Y軸方向)の長さと略同一である。共鳴板140の厚みが薄いほど、振動板110と共鳴板140との隙間で空気共鳴が起きやすくなる。本実施形態においては、共鳴板140は、ステンレス鋼で構成されている。共鳴板140の材質は、ステンレス鋼に限られず、アルミニウム合金または剛性の高い樹脂でもよい。共鳴板140の厚みは、たとえば、0.1mm以上0.2mm以下である。共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅は、空気共鳴の周波数が150kHzのときは0.7mm以上0.9mm以下、空気共鳴の周波数が100kHzのときは1.1mm以上1.4mm以下である。
【0030】
本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいては、超音波振動子130の駆動周波数から変換された波長をλとすると、振動板110と共鳴板140との隙間において第1方向(X軸方向)にλ/2の空気共鳴を発生可能である。振動板110と共鳴板140との隙間で発生する空気共鳴の周波数が、振動板110および超音波振動子130の共振周波数の±10%以内となるように、超音波トランスデューサ100の各構成が設計されている。
【0031】
図8は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいて超音波を送信しつつλ/2の空気共鳴を発生させているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した振動板および超音波振動子の変位状態を示す図である。
図8に示すように、超音波振動子130の共振振動の変位に比較して、振動板110の共振振動の変位の方が大きいため、メインの超音波は、振動板110に垂直な第3方向(Z軸方向)に放射される。
【0032】
図9は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいてλ/2の空気共鳴が発生しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
図9においては、空気が存在している部分において、黒色から白色になるにしたがって、音圧が高くなっていることを示している。
図9に示す状態においては、振動板110と共鳴板140との隙間Rgにおいて音圧が高くなっており、共鳴板140の直上の領域Rfにおいて音圧が低くなっている。
【0033】
図10は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいて発生するλ/2の空気共鳴を示す図である。振動板110の振動領域における第2方向(Y軸方向)に延在する中心軸上の領域は、振動板110が上方に変位した際に共鳴板140との間で圧縮されて音圧が高まり、
図10に示すように空気共鳴Wrの腹となる。振動板110と共鳴板140との隙間Rgの外側の領域は、空気が開放されているため、
図10に示すように空気共鳴Wrの節となる。すなわち、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの外側の領域は、空気共鳴Wrの開放端となる。
【0034】
図11は、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサにおいてλ/2の空気共鳴が発生しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した粒子速度を示す図である。粒子速度は、空気の流れを示している。
図11においては、振動板110が下方に変位している状態を示している。
図11に示すように、振動板110が下方に変位している状態においては、共鳴板140の直上の領域Rfの空気が、振動板110と共鳴板140との隙間Rgに吸い込まれている。逆に、振動板110が上方に変位している状態においては、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの空気が、共鳴板140の直上の領域Rfに放出される。
【0035】
このように、λ/2の空気共鳴が発生しているときには、共鳴板140の直上の領域Rfを中心とした空気の出入りによって、共鳴板140の直上の領域Rfにおいて音圧が高くなったり低くなったりする仮想音源が形成される。これにより、λ/2の空気共鳴が発生しているときの超音波トランスデューサ100においては、仮想音源による音圧が重畳されて高い音圧レベルの超音波が放射される。
【0036】
図12は、振動板と共鳴板との隙間で発生する空気共鳴の周波数と共鳴板の幅の寸法との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図12においては、縦軸に、振動板110と共鳴板140との隙間Rgで発生する空気共鳴の周波数(kHz)、横軸に、共鳴板140の幅の寸法(mm)を示している。
【0037】
図12に示すように、空気共鳴の周波数は、共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅が広くなるにしたがって低くなる。これは、共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅が広くなるにしたがって、空気共鳴のλ/2の長さが長くなるため、空気の音速をλ/2で除して求められる空気共鳴の周波数の値が小さくなるためである。
【0038】
図13は、振動板および超音波振動子の周波数と振動板の変位との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図13においては、縦軸に、振動板110の変位(nm)、横軸に、振動板110および超音波振動子130の周波数(kHz)を示している。
図13に示す例では、振動板110および超音波振動子130の周波数が150kHzのとき、振動板110の変位が最も大きくなっており、振動板110および超音波振動子130の共振周波数が150kHzであることを示している。振動板110および超音波振動子130の共振周波数は、振動板110の厚みおよび振動板110の第1方向(X軸方向)の幅によって変化する。
【0039】
図14は、共振周波数が150kHzである振動板および超音波振動子に、空気共鳴の周波数が150kHzである共鳴板を組み合わせた超音波トランスデューサにおける、超音波トランスデューサから送信される超音波の音圧と、振動板および超音波振動子の周波数との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図14においては、縦軸に、超音波トランスデューサ100から送信される超音波の音圧(Pa)、横軸に、振動板110および超音波振動子130の周波数(kHz)を示している。
図14においては、共鳴板を配置した超音波トランスデューサのデータを実線、共鳴板を配置していない超音波トランスデューサのデータを点線で示している。音圧は、超音波トランスデューサの正面から第3方向(Z軸方向)に30cm離れた地点における音圧の値を示している。
【0040】
図14に示すように、振動板110および超音波振動子130の共振周波数と略同一の周波数の空気共鳴を発生させる共鳴板140を配置された超音波トランスデューサは、共鳴板を配置されていない超音波トランスデューサに比較して、高い音圧の超音波を放射することができる。
【0041】
図15は、振動板と共鳴板との隙間で発生する空気共鳴の周波数と、振動板と共鳴板との隙間の寸法との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図12においては、縦軸に、振動板110と共鳴板140との隙間Rgで発生する空気共鳴の周波数(kHz)、横軸に、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法(mm)を示している。
【0042】
図15に示すように、空気共鳴の周波数は、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が小さくなるにしたがって高くなる。この理由を以下に説明する。振動板110と共鳴板140との隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が小さくなるほど隙間Rgの体積が小さくなる。ボイルシャルルの法則により、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの体積が小さくなるほど、振動板110の変位に対する圧力の変化が大きくなる。振動板110と共鳴板140との隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が小さいとき、振動板110の変位によって振動板110と共鳴板140との間で圧縮された空気は硬くなり、当該空気における音速が上昇する。そのため、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が小さくなるほど、隙間Rgに位置する空気の音速が高くなって、空気共鳴のλ/2の長さは一定であっても空気共鳴の周波数が高くなる。
【0043】
次に、第1方向(X軸方向)にλ/2の空気共鳴が有効に発生する条件について詳細に説明する。
図16は、振動板と共鳴板との隙間の寸法と共鳴板の幅の寸法との比と、音圧増幅比との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図16においては、縦軸に音圧増幅比、横軸に、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法(mm)と共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅の寸法との比を示している。
図16においては、振動板110および超音波振動子130の共振周波数、および、振動板110と共鳴板140との隙間で発生する空気共鳴の周波数の各々が、150kHzのときのデータを実線、100kHzのときのデータを点線、80kHzのときのデータを一点鎖線で示している。
【0044】
たとえば、振動板110と共鳴板140との隙間で発生する空気共鳴の周波数が80kHzのとき、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が0.1mmのときに共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅の寸法が1.8mmであるため、隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法と共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅の寸法との比は、0.1/1.8=0.056となる。振動板110および超音波振動子130の共振周波数が80kHzのとき、共鳴板140が配置されていない超音波トランスデューサの正面から第3方向(Z軸方向)に30cm離れた地点における音圧の値は、0.276Paであり、上記の隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法と共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅の寸法との比が0.056である共鳴板140が配置された超音波トランスデューサの正面から第3方向(Z軸方向)に30cm離れた地点における音圧の値は、0.522Paである。よって、音圧増幅比は、0.522/0.276=1.89となる。
【0045】
図16に示すように、隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法と共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅の寸法との比が1以下、すなわち、共鳴板140の短手方向の寸法が振動板110に直交する方向における隙間Rgの寸法より大きいとき、上記3つのいずれの周波数においても超音波トランスデューサから放射される超音波の音圧が大きくなる効果が得られる。共鳴板140の短手方向の寸法が振動板110に直交する方向における隙間Rgの寸法の2.5倍以上5倍以下のとき、超音波トランスデューサから放射される超音波の音圧を2倍以上大きくできる効果が得られる。
【0046】
一方、隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が小さくなりすぎると、振動板110が変位する際に空気共鳴と空気の圧縮による押し返し力が大きくなり、振動板110の変位が小さくなる。そのため、
図16に示すように、隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法と共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅の寸法との比が0.1以下の範囲においては、音圧増幅比が低くなっている。
【0047】
なお、振動板110が変位する際に空気共鳴と空気の圧縮による押し返し力を適度に発生させることにより、振動板110の振幅を低減して、放射音圧に対する超音波トランスデューサ100内に生ずる第3方向(Z軸方向)の内部応力を小さくすることができる。すなわち、超音波トランスデューサ100から放射される超音波の音圧を維持しつつ超音波トランスデューサ100内に生ずる第3方向(Z軸方向)の内部応力を低減することができる。
【0048】
図17は、振動板と共鳴板との隙間の寸法と、音圧増幅比との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図17においては、縦軸に音圧増幅比、横軸に、振動板110と共鳴板140との隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法(mm)を示している。
図17においては、振動板110および超音波振動子130の共振周波数、および、振動板110と共鳴板140との隙間で発生する空気共鳴の周波数の各々が、150kHzのときのデータを実線、100kHzのときのデータを点線、80kHzのときのデータを一点鎖線で示している。
【0049】
図17に示すように、振動板110および超音波振動子130の共振周波数および空気共鳴の周波数の各々が高くなるほど、隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が小さい方に音圧増幅比のピークがシフトしている。具体的には、振動板110および超音波振動子130の共振周波数および空気共鳴の周波数の各々が、80kHzのとき隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が0.2mm付近において、100kHzのとき隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が0.15mm付近において、150kHzのとき隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法が0.07mm付近において、音圧増幅比がピークとなっている。この結果から、振動板110および超音波振動子130の共振周波数および空気共鳴の周波数に応じて、隙間Rgの第3方向(Z軸方向)の寸法を変更することにより、音圧増幅比をピーク値に近づけることが可能である。
【0050】
以下、本発明の一形態に係る超音波トランスデューサ100が備える共鳴板140の厚みについて説明する。
図18は、超音波トランスデューサから送信される超音波の音圧と共鳴板の厚みの寸法との関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図18においては、縦軸に、超音波トランスデューサ100から送信される超音波の音圧(Pa)、横軸に、共鳴板140の厚みの寸法(mm)を示している。音圧は、超音波トランスデューサの正面から第3方向(Z軸方向)に30cm離れた地点における音圧の値を示している。
図18に示すように、共鳴板140が厚くなるにしたがって超音波トランスデューサ100から送信される超音波の音圧が低下する。
【0051】
図19は、共鳴板の厚みの寸法が0.1mmである超音波トランスデューサにおいてλ/2の空気共鳴が発生しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
図20は、共鳴板の厚みの寸法が0.6mmである超音波トランスデューサにおいてλ/2の空気共鳴が発生しているときの、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【0052】
図19に示すように、共鳴板の厚みの寸法が0.1mmであるときは、共鳴板140の直上の領域Rfに集中して仮想音源が形成されているが、
図20に示すように、共鳴板140の厚みの寸法が0.6mmであるときは、共鳴板140の上部に仮想音源が分散しており正面音圧が小さくなっている。すなわち、共鳴板140が厚くなるにしたがって、λ/2の空気共鳴が発生しているときの共鳴板140の直上の領域Rfを中心とした空気の出入りが弱くなり、仮想音源による音圧を重畳する効果が低くなってくる。よって、共鳴板140の厚みの寸法は、0.3mm以下であることが好ましい。なお、共鳴板140の厚みの寸法が0.05mm未満になると、ステンレス鋼などの剛性の高い金属からなる共鳴板140であっても剛性が小さくなり、共鳴板140に反りなどが発生して振動板110と共鳴板との隙間を精度よく確保することが難しくなるとともに、共鳴による空気の押し返しによって不要な振動が発生する可能性が高くなるため、共鳴板140の厚みの寸法は、0.05mm以上0.3mm以下であることがより好ましい。
【0053】
本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100においては、振動板110と、少なくとも一つの枠体120と、少なくとも一つの超音波振動子130と、少なくとも一つの共鳴板140を備える。上記少なくとも一つの枠体120は、長手方向に延在し、振動板110に接合されている。上記少なくとも一つの超音波振動子130は、上記少なくとも一つの枠体120にそれぞれ取り付けられており、振動板110に間隔をあけて対向する。上記少なくとも一つの共鳴板140は、振動板110に関して上記少なくとも一つの枠体120とは反対側において振動板110に隙間Rgをあけて対向しつつ、上記長手方向に沿って延在する。振動板110は、振動板110に直交する方向において上記少なくとも一つの超音波振動子130とは逆位相で共振振動する。上記少なくとも一つの枠体の内側における上記長手方向の寸法は、上記少なくとも一つの枠体120の内側における上記長手方向の寸法L1は、上記少なくとも一つの枠体120の内側における上記長手方向と直交する短手方向の寸法L2より大きい。上記少なくとも一つの超音波振動子130の駆動周波数から変換された波長をλとすると、上記隙間Rgにおいて上記短手方向にλ/2の空気共鳴を発生可能である。これにより、超音波トランスデューサ100において、小型化された構成で音圧レベルを高くすることができる。
【0054】
本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100においては、上記少なくとも一つの枠体120の内側における上記長手方向の寸法L1は、上記少なくとも一つの枠体120の内側における上記長手方向と直交する短手方向の寸法L2の4倍以上である。これにより、超音波トランスデューサ100において、簡易で小型化された構成で音圧レベルを高くすることができる。
【0055】
本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100においては、空気共鳴の周波数は、振動板110および少なくとも一つの超音波振動子130の共振周波数の±10%以内である。これにより、振動板110および超音波振動子130の共振により放射される超音波の音圧に、空気共鳴による音圧を重畳させて、超音波トランスデューサ100から高い音圧の超音波を放射することができる。
【0056】
本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100においては、少なくとも一つの共鳴板140の上記短手方向の寸法は、振動板110に直交する方向における隙間Rgの寸法より大きい。これにより、超音波トランスデューサ100から放射される超音波の音圧を高めつつ、放射音圧に対する超音波トランスデューサ100内に生ずる第3方向(Z軸方向)の内部応力を小さくすることができる。
【0057】
本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100においては、少なくとも一つの共鳴板140の上記短手方向の寸法は、振動板110に直交する方向における隙間Rgの寸法の2.5倍以上5倍以下である。これにより、共鳴板140が設けられない超音波トランスデューサに比較して超音波トランスデューサ100から放射される超音波の音圧を2倍以上高めつつ、放射音圧に対する超音波トランスデューサ100内に生ずる第3方向(Z軸方向)の内部応力を小さくすることができる。
【0058】
本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100においては、少なくとも一つの共鳴板140の厚みが0.3mm以下である。これにより、振動板110および超音波振動子130の共振により放射される超音波の音圧に、空気共鳴による音圧を効果的に重畳させて、超音波トランスデューサ100から高い音圧の超音波を放射することができる。
【0059】
本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサ100を備えるパラメトリックスピーカにおいては、超音波トランスデューサ100の変調駆動により、超音波トランスデューサ100から放射された超音波を変調させて可聴音を再生することが可能である。変調方式として、AM変調方式(振幅変調方式)およびFM変調方式(周波数変調方式)がある。
【0060】
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサについて図を参照して説明する。本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサは、複数の超音波振動子がアレイ状に配置されている点が本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサと異なるため、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサと同様である構成については説明を繰り返さない。
【0061】
図21は、本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサの構成を示す斜視図である。
図22は、本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサの構成を示す分解斜視図である。
図21および
図22に示すように、本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサ200においては、第1方向(X軸方向)に並んでアレイ状に配置された実施形態1に係る超音波トランスデューサ100が一体に構成されている。超音波トランスデューサ200は、振動板210と、複数の枠体220と、複数の超音波振動子130と、複数の共鳴板240とを備える。振動板210に複数の枠体220が接合されており、複数の枠体220に複数の超音波振動子130がそれぞれに接合されている。
【0062】
振動板210は、平板状の形状を有しており、第2方向(Y軸方向)に延在する複数のスリット211が第1方向(X軸方向)に間隔をあけて形成されている。振動板210は、アルミニウムを含むジェラルミンなどのアルミニウム合金、または、ステンレス鋼などの金属で構成されている。本実施形態においては、振動板210は、ステンレス鋼で構成されている。複数のスリット211は、エッチングまたは切削などにより形成されている。
【0063】
複数の枠体220の各々は、矩形環状の形状を有している。複数の枠体220の各々は、第1方向(X軸方向)に沿う短手方向を有し、第2方向(Y軸方向)に沿う長手方向を有している。複数の枠体220の各々は、第2方向(Y軸方向)に延在している。複数の枠体220の各々の軸方向は、第3方向(Z軸方向)に沿っている。複数の枠体220の各々は、第2方向(Y軸方向)に延在する1対の長辺部221と、第1方向(X軸方向)に延在する1対の短辺部222とを有している。長辺部221同士の最短間隔は、短辺部222同士の最短間隔の4倍以上である。ただし、長辺部221同士の最短間隔は、短辺部222同士の最短間隔の4倍以上に限られず、短辺部222同士の最短間隔より広ければよい。
【0064】
複数の枠体220は、第1方向(X軸方向)に並んで配置されている。第1方向(X軸方向)において隣り合う枠体220同士の間に、スリット223が形成されている。複数のスリット223は、エッチングまたは切削などにより形成されている。第1方向(X軸方向)において隣り合う枠体220において互いに隣り合う長辺部221同士は、スリット223によって互いに分離されている。
【0065】
第1方向(X軸方向)において隣り合う枠体220同士は、短辺部222にて繋がっている。すなわち、複数の枠体220において上記短手方向に隣り合う枠体220同士は、互いの長手方向における両端部にて繋がっている。
【0066】
複数の枠体220の各々は、アルミニウム合金もしくはステンレス鋼などの金属、ガラスエポキシまたは樹脂などから形成されている。本実施形態においては、複数の枠体220は、1枚の薄板から形成されているが、これに限られず、複数の薄板からそれぞれ形成された複数の枠体220の短辺部222が互いに接合されることにより一体にされていてもよい。
【0067】
本実施形態においては、複数の超音波振動子130の各々は、積層された2つの圧電体131を含む。複数の超音波振動子130を構成する2つの圧電体131は、2枚の薄板の状態で積層されて接合される。
【0068】
図22に示すように、スリット211とスリット223とは、第3方向(Z軸方向)において互いに重なるように、第1方向(X軸方向)において同じ位置に配置される。圧電体131は、スリット211およびスリット223と第3方向(Z軸方向)において重なるように第2方向(Y軸方向)に延在する複数のカットラインLCにてダイサーなどによって切断されて分割されている。
【0069】
図21および
図22に示すように、2つのスペーサ250は、振動板210において振動の少ないノード点上にそれぞれ配置されている。本実施形態においては、2つのスペーサ250は、振動板210における第2方向(Y軸方向)の端部上にそれぞれ配置されている。
【0070】
複数の共鳴板240は、第1方向(X軸方向)に並ぶように互いに間隔をあけて配置されている。複数の共鳴板240において第1方向(X軸方向)に隣り合う共鳴板240同士は、互いの第2方向(Y軸方向)における両端部にて連結部241によって繋がっている。2つの連結部241の各々は、第1方向(X軸方向)に延在しており、スペーサ250上に配置されている。
【0071】
ここで、複数の超音波トランスデューサ100の配置間隔であるアレイピッチと空気共鳴との関係について有限要素法を用いてシミュレーション解析した結果について説明する。
図23は、シミュレーション解析した超音波トランスデューサのFEMモデルを示す模式図である。シミュレーション解析条件としては、振動板210と共鳴板240との隙間において振動板210の空気との界面に位置する振動源VSが1m/sの速さで第3方向(Z軸方向)に振動している状態において、第1方向(X軸方向)に隣り合う超音波トランスデューサ100同士の間隔である
図23に示すアレイピッチPAを変化させたときの、5個の超音波トランスデューサ100を含む超音波トランスデューサ200の正面から第3方向(Z軸方向)に30cm離れた地点における音圧、および、超音波トランスデューサ200の周囲の音圧分布について、有限要素法を用いてシミュレーション解析した。空気共鳴の周波数を150kHz、共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅を0.9mmとした。
【0072】
図24は、超音波トランスデューサから送信される超音波の音圧とアレイピッチとの関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図24においては、縦軸に、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧(Pa)、横軸に、アレイピッチ(mm)を示している。音圧は、超音波トランスデューサ200の正面から第3方向(Z軸方向)に30cm離れた地点における音圧の値を示している。
図24において、2点鎖線で示す基準音圧は、1個の超音波トランスデューサ100の正面から第3方向(Z軸方向)に30cm離れた地点における音圧を5倍した音圧である。
【0073】
超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧が基準音圧より高いときは、超音波トランスデューサ100のアレイ化によって音圧を強め合っていることになり、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧が基準音圧より低いときは、超音波トランスデューサ100のアレイ化によって音圧を弱め合っていることになる。
【0074】
図25は、アレイピッチが2.2mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
図26は、アレイピッチが2.6mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
図27は、アレイピッチが3.0mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
図28は、アレイピッチが3.6mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
図29は、アレイピッチが4.4mmであるときの超音波トランスデューサの周囲における、有限要素法を用いてシミュレーション解析した音圧分布を示す図である。
【0075】
図25に示すように、アレイピッチが2.2mmで狭すぎる場合、振動板210と共鳴板240との隙間Rgでの音圧の腹が第1方向(X軸方向)に延びて潰れたようになり、空気共鳴が発生していないため、互いに隣り合う共鳴板240同士の隙間の領域Rsおよび隙間Rgが略白色になっている。そのため、
図24に示すように、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧が基準音圧より低くなっている。
【0076】
図26に示すように、アレイピッチが2.6mmである場合、隙間Rgが白色になって領域Rsが黒色になっており、空気共鳴が発生しはじめている。そのため、
図24に示すように、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧が基準音圧より僅かに高くなっている。
【0077】
図27に示すように、アレイピッチが3.0mmである場合、隙間Rgが白色になって領域Rsが黒色になっており、共鳴板140の直上の領域Rfも黒色になっており、領域Rfに仮想音源が形成されている。そのため、
図24に示すように、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧がピーク付近まで高くなっている。
【0078】
図28に示すように、アレイピッチが3.6mmである場合、それぞれの超音波トランスデューサ100における空気共鳴がほとんど互いに影響し合わない状態になっている。そのため、
図24に示すように、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧は、基準音圧より僅かに高くなっている。
【0079】
図29に示すように、アレイピッチが4.4mmである場合、隙間Rgおよび領域Rsが白色になっており、隙間Rgと領域Rsとの間が黒色になっており、互いに隣り合う超音波トランスデューサ100から送信される超音波の音圧が打ち消し合って正面音圧が小さくなる空気共鳴が起きている。そのため、
図24に示すように、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧は、基準音圧より低くなっている。
【0080】
図30は、超音波トランスデューサから送信される超音波の指向性とアレイピッチとの関係について、有限要素法を用いてシミュレーション解析したグラフである。
図30においては、縦軸に、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧レベル(dB)、半円状に、指向角を示している。アレイピッチが、2.2mmのデータを線A、3.0mmのデータを線B、4.8mmのデータを線Cで示している。
【0081】
図30に示すように、アレイピッチが大きくなるほど、サイドローブが大きくなりつつ正面側に出てきている。すなわち、アレイピッチが大きくなりすぎると、超音波トランスデューサ200の正面への超音波の放射効率が低下する。
【0082】
これらのことから、超音波トランスデューサ200の正面への超音波の放射効率の低下を抑制しつつ、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧が基準音圧より高くなる範囲として、
図24に示す点線L11と点線L13とに囲まれた範囲が好適である。この好適な範囲に入るためには、共鳴板240の第1方向(X軸方向)の寸法をDsとし、空気中の超音波の波長をλaとし、第1方向(X軸方向)における超音波振動子130の配置ピッチであるアレイピッチをPAとすると、Ds+3λa/4≦PA≦Ds+5λa/4の関係を満たす必要がある。
【0083】
たとえば、空気共鳴の周波数を150kHz、共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅を0.9mmとしたとき、アレイピッチPA=Ds+λa=3.16mmである
図24に示す一点鎖線L12を中心に、アレイピッチPA=Ds+λa-λa/4=Ds+3λa/4=2.6mmである
図24に示す点線L11を下限とし、アレイピッチPA=Ds+λa+λa/4=Ds+5λa/4=3.7mmである
図24に示す点線L13を上限とする範囲内が好適である。振動板110と共鳴板240との間の隙間の第3方向(Z軸方向)の寸法を2倍にした場合、および、共鳴板140の第1方向(X軸方向)の幅を変えて共鳴周波数を変更した場合においても、Ds+3λa/4≦PA≦Ds+5λa/4の関係を満たすことにより、超音波トランスデューサ200の正面への超音波の放射効率の低下を抑制しつつ、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧を基準音圧より高くできることを確認済である。
【0084】
図31は、共鳴板の幅の寸法を変えて超音波トランスデューサから放射される超音波の出力を実測した結果を示すグラフである。
図31においては、縦軸に、出力、横軸に、共鳴板の幅の寸法(mm)を示している。
図31において、共鳴板の幅の寸法が0は、共鳴板を配置していないときのデータである。振動板110および超音波振動子130の共振周波数を141kHz、振動板110と共鳴板240との間の隙間の第3方向(Z軸方向)の寸法を0.2mm、アレイピッチを2.8mmとした。
【0085】
図31に示すように、共鳴板240の第1方向(X軸方向)の幅の寸法が0.8mmのときは、共鳴板を配置していないときに比較して、約2倍の出力が得られた。この結果から、本実施形態に係る超音波トランスデューサ200においては、共鳴板が設けられていない超音波トランスデューサに比較して、高出力で超音波を放射できることが確認できた。
【0086】
本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサ200を備えるパラメトリックスピーカにおいては、超音波トランスデューサ200の変調駆動により、超音波トランスデューサ200から放射された超音波を変調させて可聴音を再生することが可能である。
【0087】
100kHz以上の高周波の超音波を送信する本実施形態に係る超音波トランスデューサ200を備えるパラメトリックスピーカにおいては、不必要に遠くまで音が届くこと、および、不要な反射による音漏れを抑制して、限られた空間のみに可聴音を再生することができる。100kHz以上の高周波の超音波は、犬または猫などの動物の可聴領域外であるため、これらの動物に与える影響を抑制することができる。
【0088】
伝搬距離が30cm以降で可聴音が減衰するようにするためには、レイリー距離を30cm以内にする必要がある。レイリー距離R0は、R0=(k×a2)/2の関係を満たす。kは、波数であり、aは、音源の半径である。よって、空気の音速を340m/sとすると、超音波の周波数が100kHzである場合、振動板210の振動領域の長手寸法は36mm以下であり、超音波の周波数が150kHzである場合、振動板210の振動領域の長手寸法は29.4mm以下であり、超音波の周波数が200kHzである場合、振動板210の振動領域の長手寸法は25.5mm以下である。超音波の周波数が100kHz以上である場合、長手寸法L1は、短手寸法L2の4倍以上24倍以下である。
【0089】
本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサ200においては、少なくとも一つの枠体220が上記短手方向に並ぶように複数配置されて振動板210に接合されている。少なくとも一つの枠体220において上記短手方向に隣り合う枠体220同士は、互いの上記長手方向における両端部にて繋がっている。少なくとも一つの共鳴板240が上記短手方向に並ぶように複数配置されている。少なくとも一つの共鳴板240において上記短手方向に隣り合う共鳴板240同士は、互いの上記長手方向における両端部にて繋がっている。これにより、容易に音圧レベルを高くすることができる。
【0090】
本発明の実施形態2に係る超音波トランスデューサ200においては、少なくとも一つの共鳴板240の上記短手方向の寸法をDsとし、空気中の超音波の波長をλaとし、上記短手方向における少なくとも一つの超音波振動子130の配置ピッチをPAとすると、Ds+3λa/4≦PA≦Ds+5λa/4の関係を満たす。これにより、超音波トランスデューサ200の正面への超音波の放射効率の低下を抑制しつつ、超音波トランスデューサ200から送信される超音波の音圧を高くすることができる。
【0091】
(実施形態3)
以下、本発明の実施形態3に係る超音波トランスデューサについて図を参照して説明する。本発明の実施形態3に係る超音波トランスデューサは、振動板にスリットが形成されている点が本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサと異なるため、本発明の実施形態1に係る超音波トランスデューサと同様である構成については説明を繰り返さない。
【0092】
図32は、本発明の実施形態3に係る超音波トランスデューサの構成を示す分解斜視図である。
図32に示すように、本発明の実施形態3に係る超音波トランスデューサ300は、振動板310と、枠体120と、超音波振動子130と、共鳴板140と、スペーサ150とを備える。振動板310には、第1方向(X軸方向)に延在する少なくとも1つのスリット310sが形成されている。本実施形態においては、枠体120の内周面における第2方向(Y軸方向)の端縁上の位置に、2つのスリット310sが形成されている。
【0093】
2つのスリット310sの各々は、枠体120の内側における第1方向(X軸方向)の短手寸法L2以上延在している。本実施形態においては、スリット310sの第1方向(X軸方向)の長さ寸法は、枠体120の内側における第1方向(X軸方向)の短手寸法L2と同一である。スリット310sの第2方向(Y軸方向)の幅寸法は、0.4mm以上0.6mm以下である。スリット310sは、枠体120の内周面における第2方向(Y軸方向)の端縁上の位置から第2方向(Y軸方向)に上記幅寸法だけ内側の位置まで形成されている。2つのスリット310sは、枠体120の内側における第2方向(Y軸方向)の両端部にそれぞれ開口している。
【0094】
振動板110において枠体120の内側の内部空間の上方に位置しつつ第2方向(Y軸方向)においてスリット310s同士の間に位置する部分が、共振振動する振動領域となる。振動板110の振動領域の長手寸法は、スリット310s同士の間の寸法となり、振動板110の振動領域の短手寸法は、枠体120の内側における短手寸法L2と同一となる。振動板110において、枠体120の内側における長手方向の中間上に位置する中間部は大きく変位し、第2方向(Y軸方向)においてスリット310sの外側に位置する端部はほとんど変位しない。
【0095】
本発明の実施形態3に係る超音波トランスデューサ300においては、スリット310sを通じて枠体120の内側の内部空間と枠体の外側の外部空間とが連通しているため、たとえば、振動板110と枠体120とを接合する接着材を加熱して硬化させる際の内部空間内の圧力変化を低減して超音波トランスデューサ300内の内部応力が高くなることを抑制することができる。また、スリット310sに隣接している箇所は共振振動している振動板110の自由端となって変位しやすくなるため、共振振動している振動板110内に生ずる内部応力を低減することができる。よって、超音波トランスデューサ300において、簡易で小型化された構成で内部応力を低減しつつ音圧レベルを高くすることができる。
【0096】
(付記)
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0097】
<1>
振動板と、
長手方向に延在し、前記振動板に接合された少なくとも一つの枠体と、
前記少なくとも一つの枠体にそれぞれ取り付けられており、前記振動板に間隔をあけて対向する少なくとも一つの超音波振動子と、
前記振動板に関して前記少なくとも一つの枠体とは反対側において前記振動板に隙間をあけて対向しつつ、前記長手方向に沿って延在する少なくとも一つの共鳴板とを備え、
前記振動板は、前記振動板に直交する方向において前記少なくとも一つの超音波振動子とは逆位相で共振振動し、
前記少なくとも一つの枠体の内側における前記長手方向の寸法は、前記少なくとも一つの枠体の内側における前記長手方向と直交する短手方向の寸法より大きく、
前記少なくとも一つの超音波振動子の駆動周波数から変換された波長をλとすると、前記隙間において前記短手方向にλ/2の空気共鳴を発生可能である、超音波トランスデューサ。
【0098】
<2>
前記少なくとも一つの枠体の内側における前記長手方向の寸法は、前記少なくとも一つの枠体の内側における前記短手方向の寸法の4倍以上である、<1>に記載の超音波トランスデューサ。
【0099】
<3>
前記空気共鳴の周波数は、前記振動板および前記少なくとも一つの超音波振動子の共振周波数の±10%以内である、<1>または<2>に記載の超音波トランスデューサ。
【0100】
<4>
前記少なくとも一つの共鳴板の前記短手方向の寸法は、前記振動板に直交する方向における前記隙間の寸法より大きい、<1>から<3>のいずれか1つに記載の超音波トランスデューサ。
【0101】
<5>
前記少なくとも一つの共鳴板の前記短手方向の寸法は、前記振動板に直交する方向における前記隙間の寸法の2.5倍以上5倍以下である、<4>に記載の超音波トランスデューサ。
【0102】
<6>
前記少なくとも一つの共鳴板の厚みが0.3mm以下である、<1>から<5>のいずれか1つに記載の超音波トランスデューサ。
【0103】
<7>
前記少なくとも一つの枠体が前記短手方向に並ぶように複数配置されて前記振動板に接合されており、
前記少なくとも一つの枠体において前記短手方向に隣り合う枠体同士は、互いの前記長手方向における両端部にて繋がっており、
前記少なくとも一つの共鳴板が前記短手方向に並ぶように複数配置されており、
前記少なくとも一つの共鳴板において前記短手方向に隣り合う共鳴板同士は、互いの前記長手方向における両端部にて繋がっている、<1>から<6>のいずれか1つに記載の超音波トランスデューサ。
【0104】
<8>
前記少なくとも一つの共鳴板の前記短手方向の寸法をDsとし、空気中の超音波の波長をλaとし、前記短手方向における前記少なくとも一つの超音波振動子の配置ピッチをPAとすると、
Ds+3λa/4≦PA≦Ds+5λa/4の関係を満たす、<7>に記載の超音波トランスデューサ。
【0105】
上述した実施形態の説明において、組み合わせ可能な構成を相互に組み合わせてもよい。
【0106】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
100,200 超音波トランスデューサ、110,210 振動板、110c 中間部、110e 端部、120,220 枠体、121,221 長辺部、122,222 短辺部、130 超音波振動子、131 圧電体、132 第1電極、133 第2電極、134 中間電極、140,240 共鳴板、150,250 スペーサ、160 処理回路、211,223 スリット、241 連結部、A,B,C 線、Bm,Bp 共振振動、Dp 分極方向、L1 長手寸法、L2 短手寸法、LC カットライン、PA アレイピッチ、Rg 隙間、VS 振動源、Wr 空気共鳴。
【要約】
振動板(110)と、少なくとも一つの枠体(120)と、少なくとも一つの超音波振動子(130)と、少なくとも一つの共鳴板(140)とを備える。上記少なくとも一つの枠体(120)は、長手方向に延在し、振動板(110)に接合されている。上記少なくとも一つの超音波振動子(130)は、上記少なくとも一つの枠体(120)にそれぞれ取り付けられており、振動板(110)に間隔をあけて対向する。上記少なくとも一つの共鳴板(140)は、振動板(110)に関して上記少なくとも一つの枠体(120)とは反対側において振動板(110)に隙間をあけて対向しつつ、上記長手方向に沿って延在する。振動板(110)は、振動板(110)に直交する方向において上記少なくとも一つの超音波振動子(130)とは逆位相で共振振動する。上記少なくとも一つの枠体(120)の内側における上記長手方向の寸法は、上記少なくとも一つの枠体(120)の内側における上記長手方向と直交する短手方向の寸法より大きい。上記少なくとも一つの超音波振動子(130)の駆動周波数から変換された波長をλとすると、上記隙間において上記短手方向にλ/2の空気共鳴を発生可能である。