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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電子調光デバイス
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/163 20060101AFI20241008BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20241008BHJP
【FI】
G02F1/163
G02F1/15 503
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024046086
(22)【出願日】2024-03-22
【審査請求日】2024-07-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】西野 哲史
(72)【発明者】
【氏名】松井 智紀
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0221148(US,A1)
【文献】特開2016-218357(JP,A)
【文献】国際公開第2021/157247(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/163
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有するとともに発色動作期間に印加される電圧により透過率が変化する第1エレクトロクロミック素子および第2エレクトロクロミック素子と、
前記発色動作期間が終了した後の前記第1エレクトロクロミック素子の第1開放電圧および前記第2エレクトロクロミック素子の第2開放電圧を測定する電圧測定部と、
前記第1開放電圧と前記第2開放電圧との比較結果に基づいて、次回の前記発色動作期間における前記第1エレクトロクロミック素子の透過率と前記第2エレクトロクロミック素子の透過率との差が小さくなるように、前記第1エレクトロクロミック素子に印加する第1発色動作電圧および前記第2エレクトロクロミック素子に印加する第2発色動作電圧を決定する電圧決定部と、
前記第1発色動作電圧および前記第2発色動作電圧を次回の前記発色動作期間において前記第1エレクトロクロミック素子および前記第2エレクトロクロミック素子に印加する電圧印加部と、
を備えることを特徴とする電子調光デバイス。
【請求項2】
前記比較結果は、前記第1開放電圧と前記第2開放電圧との差であり、
前記電圧決定部は、前記第1開放電圧と前記第2開放電圧との差が小さくなるように前記第1発色動作電圧および前記第2発色動作電圧を決定する請求項1に記載の電子調光デバイス。
【請求項3】
前記電圧測定部は、前記発色動作期間が終了した後、所定時間経過後に、前記第1開放電圧および前記第2開放電圧を取得する請求項1または2に記載の電子調光デバイス。
【請求項4】
前記電圧決定部は、
前記第1発色動作電圧と、前記第1開放電圧と、前記第1エレクトロクロミック素子の透過率と、の第1相関関係、および、
前記第2発色動作電圧と、前記第2開放電圧と、前記第2エレクトロクロミック素子の透過率と、の第2相関関係、
を記憶し、
前記電圧決定部は、前記第1相関関係に基づいて次回の前記第1発色動作電圧を決定し、前記第2相関関係に基づいて次回の前記第2発色動作電圧を決定する請求項1または2に記載の電子調光デバイス。
【請求項5】
前記電圧決定部は、累積駆動時間に応じて、前記第1相関関係および前記第2相関関係を変化させる機能を有する請求項4に記載の電子調光デバイス。
【請求項6】
眼鏡として用いられる請求項1または2に記載の電子調光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子調光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2枚の保護シートとそれらに挟持された偏光子シートとからなり、光学レンズとしての機能を有する偏光性積層体が開示されている。このような偏光性積層体によれば、光学レンズとしての機能に、偏光子シートによる防眩機能を付加することができる。このため、偏光性積層体は、例えば、ゴーグル、サングラスのような眼鏡類に用いられる。
【0003】
特許文献2には、一対の基板と、これらの間に配置されているエレクトロクロミック媒体と、を有するエレクトロクロミック素子が開示されている。一対の基板に設けられた電極に電圧を印加すると、エレクトロクロミック媒体内の化合物の透過率が変化する。これにより、エレクトロクロミック素子を通過する光の光量を調整することができる。
【0004】
特許文献2に記載されているエレクトロクロミック素子を特許文献1に記載されている偏光性積層体に適用し、眼鏡類を作製した場合、右眼用のエレクトロクロミック素子と左眼用のエレクトロクロミック素子とで、調光特性が揃っていることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-294445号公報
【文献】特開2017-167317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、各エレクトロクロミック素子の初期特性の違いや経時劣化の進度の違いにより、左右で調光特性がずれることがある。調光特性とは、所定の電圧を印加したとき、透過率が低下する速度を指す。調光特性がずれると、眼鏡類の品質や使い勝手が低下する。
【0007】
本発明の目的は、複数のエレクトロクロミック素子において発色動作期間における調光特性のバラつきを抑制し得る電子調光デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)~(7)に記載の本発明により達成される。
(1) 光透過性を有するとともに発色動作期間に印加される電圧により透過率が変化する第1エレクトロクロミック素子および第2エレクトロクロミック素子と、
前記発色動作期間が終了した後の前記第1エレクトロクロミック素子の第1開放電圧および前記第2エレクトロクロミック素子の第2開放電圧を測定する電圧測定部と、
前記第1開放電圧と前記第2開放電圧との比較結果に基づいて、次回の前記発色動作期間における前記第1エレクトロクロミック素子の透過率と前記第2エレクトロクロミック素子の透過率との差が小さくなるように、前記第1エレクトロクロミック素子に印加する第1発色動作電圧および前記第2エレクトロクロミック素子に印加する第2発色動作電圧を決定する電圧決定部と、
前記第1発色動作電圧および前記第2発色動作電圧を次回の前記発色動作期間において前記第1エレクトロクロミック素子および前記第2エレクトロクロミック素子に印加する電圧印加部と、
を備えることを特徴とする電子調光デバイス。
【0009】
(2) 前記比較結果は、前記第1開放電圧と前記第2開放電圧との差であり、
前記電圧決定部は、前記第1開放電圧と前記第2開放電圧との差が小さくなるように前記第1発色動作電圧および前記第2発色動作電圧を決定する上記(1)に記載の電子調光デバイス。
【0010】
(3) 前記電圧測定部は、前記発色動作期間が終了した後、所定時間経過後に、前記第1開放電圧および前記第2開放電圧を取得する上記(1)または(2)に記載の電子調光デバイス。
【0011】
(4) 前記電圧決定部は、
前記第1発色動作電圧と、前記第1開放電圧と、前記第1エレクトロクロミック素子の透過率と、の第1相関関係、および、
前記第2発色動作電圧と、前記第2開放電圧と、前記第2エレクトロクロミック素子の透過率と、の第2相関関係、
を記憶し、
前記電圧決定部は、前記第1相関関係に基づいて次回の前記第1発色動作電圧を決定し、前記第2相関関係に基づいて次回の前記第2発色動作電圧を決定する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の電子調光デバイス。
【0012】
(5) 前記電圧決定部は、累積駆動時間に応じて、前記第1相関関係および前記第2相関関係を変化させる機能を有する上記(4)に記載の電子調光デバイス。
【0013】
(6) 眼鏡として用いられる上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の電子調光デバイス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数のエレクトロクロミック素子において発色動作期間における調光特性のバラつきを抑制し得る電子調光デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る電子調光デバイスが適用されたサングラス(眼鏡)を示す斜視図である。
図2図1に示す第1レンズの斜視図である。
図3図2に示す第1レンズの断面図である。
図4図3に示すEC機能部の部分拡大図である。
図5図1に示す制御部の機能ブロック図である。
図6】発色動作期間において第1エレクトロクロミック素子に印加した電圧(第1発色動作電圧)および第2エレクトロクロミック素子に印加した電圧(第2発色動作電圧)、ならびに、発色保持期間において第1エレクトロクロミック素子で測定された電圧および第2エレクトロクロミック素子で測定された電圧の一例を示すグラフである。
図7図6に示す発色動作期間および発色保持期間において第1エレクトロクロミック素子および第2エレクトロクロミック素子の透過率の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電子調光デバイスについて添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0017】
1.電子調光デバイスの構成
図1は、実施形態に係る電子調光デバイスが適用されたサングラス100(眼鏡)を示す斜視図である。
【0018】
図1に示すサングラス100は、フレーム20と、第1レンズ31および第2レンズ32と、制御部40と、を備える。なお、以下の説明では、サングラス100が使用者の頭部に装着されたとき、第1レンズ31および第2レンズ32の使用者側を「裏」といい、その反対側を「表」という。また、以下の説明において「レンズ」には、光の集束や発散の機能を有する光学要素だけでなく、単に光を透過させる機能を有する光学要素も含む。
【0019】
1.1.フレーム
図1に示すフレーム20は、2つのリム部21、21と、ブリッジ部22と、2本のテンプル部23、23と、2つのノーズパッド部24、24と、を有する。
【0020】
フレーム20は、使用者の頭部に装着され、第1レンズ31および第2レンズ32を使用者の目の近くに配置する。
【0021】
各リム部21は、リング状をなしている。一方のリム部21の内側には第1レンズ31がはめ込まれ、他方のリム部21の内側には第2レンズ32がはめ込まれている。
【0022】
ブリッジ部22は、棒状をなし、リム部21同士を連結している。
各テンプル部23は、つる状をなし、一端が各リム部21に接続され、他端は自由端になっている。
【0023】
また、テンプル部23には、制御部40が設けられている。制御部40は、第1レンズ31および第2レンズ32に電圧を印加し、その作動を制御する。
【0024】
ノーズパッド部24は、各リム部21の縁部に設けられ、サングラス100の使用者の鼻に支持される。
【0025】
フレーム20の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、各種金属材料、各種樹脂材料等が挙げられる。また、これらを含む複合材料であってもよい。
【0026】
フレーム20の形状は、使用者の頭部に装着可能な形状であれば、図示の形状に限定されない。例えば、リム部21やテンプル部23が省略されていてもよい。また、フレーム20全体が省略され、第1レンズ31および第2レンズ32が単独で用いられるようになっていてもよい。
【0027】
さらに、本発明に係る電子調光デバイスは、サングラス以外の眼鏡、例えば、度付き眼鏡、伊達メガネ、ゴーグル等に適用されていてもよい。また、本発明に係る電子調光デバイスには、第1レンズ31や第2レンズ32と同様のレンズが1つ以上追加されていてもよい。
【0028】
1.2.第1レンズおよび第2レンズ
次に、第1レンズ31および第2レンズ32について説明する。
【0029】
図1に示すように、第1レンズ31は、第1エレクトロクロミック素子1を有する。また、第2レンズ32は、第1エレクトロクロミック素子1とは別の第2エレクトロクロミック素子2を有する。なお、第2レンズ32の構成および第2エレクトロクロミック素子2の構成は、第1レンズ31の構成および第1エレクトロクロミック素子1の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0030】
図2は、図1に示す第1レンズ31の斜視図である。
図2に示す第1レンズ31は、第1エレクトロクロミック素子1と、その裏面に設けられた樹脂層35と、を有する。
【0031】
第1エレクトロクロミック素子1は、光透過性を有するとともに、電圧が印加されることにより、発色する機能を有する。また、電圧の印加状態を切り替えることにより、発色と消色とを可逆的に切り替えることができる。第1エレクトロクロミック素子1が作動するのに必要な電力は、制御部40から供給される。また、制御部40は、電圧の印加状態の切り替えも担う。
【0032】
例えば、サングラス100が使用されるとき、第1エレクトロクロミック素子1の発色や消色を切り替えたり、発色濃度を変化させたりすることにより、第1レンズ31を通過する光の量(透過率)を制御できる。第1エレクトロクロミック素子1に電圧を印加して発色濃度を変化させる期間を「発色動作期間」という。また、発色動作期間が終了すると、電圧の印加を停止し、第1エレクトロクロミック素子1が備えるエレクトロクロミック回路を開放する。なお、以下の説明では、エレクトロクロミック回路を開放することを「素子を開放」ということがある。また、エレクトロクロミック回路を短絡させることを「素子を短絡」ということがある。
【0033】
発色動作期間の終了後は、第1エレクトロクロミック素子1のメモリー効果によって発色濃度が維持される。この期間を「発色保持期間」という。その後、必要に応じて、第1エレクトロクロミック素子1を短絡させることにより、発色状態が解消され、消色される。消色されている期間を「消色期間」という。
【0034】
なお、本実施形態としてサングラス100を例示したが、本発明に係る電子調光デバイスは、例えば、度付き眼鏡、伊達メガネ、風雨、塵芥、薬品等から眼を保護するゴーグル等の各種眼鏡に適用されていてもよい。
【0035】
図3は、図2に示す第1レンズ31の断面図である。
図3に示す第1エレクトロクロミック素子1は、第1基板11と、第2基板12と、第1電極13と、第2電極14と、EC機能部60と、封止部55と、第1補助電極15と、第2補助電極16と、を備える。
【0036】
1.2.1.第1基板
第1基板11は、EC機能部60等、他の部材を支持する。また、第1基板11は、第1エレクトロクロミック素子1の最外層となり、EC機能部60等を保護する。
【0037】
第1基板11の構成材料は、透明な樹脂材料であれば、特に限定されないが、熱可塑性を有する透明樹脂を含む材料が好ましい。
【0038】
透明樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等)、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上の混合物が用いられる。これらの中でも、透明樹脂は、ポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂であるのが好ましく、特にポリカーボネート系樹脂であるのがより好ましい。これらは、透明性(透光性)や機械的特性に優れ、さらに耐熱性および成形性に優れる。このため、第1基板11の透明性や形状精度および第1基板11の耐衝撃性や耐熱性を向上させることができる。
【0039】
また、ポリカーボネート系樹脂は、特に、芳香族系ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、主鎖に芳香環を有し、第1基板11の機械的強度の向上に寄与する。
【0040】
第1基板11は、必要に応じて、染料、顔料、酸化防止剤、フィラー、可塑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱線吸収剤、難燃剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0041】
第1基板11の厚さは、好ましくは0.1mm以上10.0mm以下とされ、より好ましくは0.3mm以上5.0mm以下とされる。第1基板11の厚さが前記範囲内であれば、第1エレクトロクロミック素子1の薄型化と機械的強度との両立を図ることができる。
【0042】
1.2.2.第2基板
第2基板12は、EC機能部60を介して第1基板11に対向配置され、EC機能部60等、他の部材を支持する。また、第2基板12は、第1エレクトロクロミック素子1の最外層となり、EC機能部60等を保護する。なお、以下の説明では、第1基板11と第2基板12との間を「内側」ともいう。
【0043】
第2基板12の構成材料は、透明な構成材料であれば、特に限定されないが、熱可塑性を有する透明樹脂を含む材料が好ましい。透明樹脂としては、第1基板11の構成材料と同様である。
【0044】
第2基板12の厚さは、第1基板11の厚さと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0045】
第2基板12の厚さは、好ましくは0.1mm以上10.0mm以下とされ、より好ましくは0.3mm以上5.0mm以下とされる。第2基板12の厚さが前記範囲内であれば、第1エレクトロクロミック素子1の薄型化と機械的強度との両立を図ることができる。
【0046】
1.2.3.EC機能部
図4は、図3に示すEC機能部60の部分拡大図である。
【0047】
図4に示すEC機能部60(エレクトロクロミック回路)は、第1基板11の内側に順次積層されている第1電極13および第1エレクトロクロミック層63と、第2基板12の内側に順次積層されている第2電極14および第2エレクトロクロミック層64と、第1エレクトロクロミック層63と第2エレクトロクロミック層64との間に充填された電解質層65と、を有する。
【0048】
第1電極13および第2電極14は、制御部40と電気的に接続されている。制御部40により、第1電極13および第2電極14の各電位が制御され、第1エレクトロクロミック層63および第2エレクトロクロミック層64に対する電荷の注入や取り出しが行われる。これにより、EC機能部60は、発色動作、保持動作および消色動作を行うことができる。
【0049】
第1電極13および第2電極14の各構成材料としては、透明性を有する導電材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、FTO(F-doped Tin Oxide)、ATO(Antimony Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
第1電極13および第2電極14の各厚さは、必要な導電率に応じて適宜設定されるが、例えば、第1電極13および第2電極14の各構成材料としてITOを用いた場合には、好ましくは50nm以上200nm以下程度とされ、より好ましくは100nm以上150nm以下程度とされる。
【0051】
第1エレクトロクロミック層63は、酸化反応によって発色する材料を含有する。
酸化反応によって発色する材料としては、特に限定されないが、例えば、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物、トリフェニルアミンのようなトリアリールアミン誘導体、ビスアクリダン化合物、プルシアンブルー型錯体、ベンジジン、酸化ニッケル等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
プルシアンブルー型錯体としては、例えば、Fe(III)[Fe(II)(CN)からなる材料が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、定電圧で動作可能であり、繰返し耐久性に優れ、高コントラストなエレクトロクロミック素子が得られる点から、特に、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物が好ましく用いられる。
【0054】
なお、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物は、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物を含み、かかる組成物を重合した重合物は、これらのラジカル重合性化合物が架橋した架橋物で構成されていてもよい。
【0055】
第1エレクトロクロミック層63の厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上30μm以下程度であるのが好ましく、0.4μm以上10μm以下程度であるのがより好ましい。
【0056】
第2エレクトロクロミック層64は、還元反応によって発色する材料を含有する。
還元反応によって発色する材料としては、特に限定されないが、例えば、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物、導電性ポリマー等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
無機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタン等が挙げられ、特に、酸化タングステンが好ましく用いられる。酸化タングステンは、還元電位が低いため、発消色電位が低く、さらに、無機材料であるため耐久性に優れる。
【0058】
有機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系のような低分子系有機エレクトロクロミック化合物等が挙げられるが、特に、ビオロゲン系化合物またはジピリジン系化合物が好ましく用いられる。これらの化合物は、発消色電位が低く、良好な色値を示す。
【0059】
ビオロゲン系化合物としては、例えば、特許第3955641号公報、特開2007-171781号公報等に記載された化合物が挙げられる。
【0060】
ジピリジン系化合物としては、例えば、特開2007-171781号公報、特開2008-116718号公報等に記載された化合物が挙げられる。
【0061】
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、またはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0062】
また、還元反応によって発色する材料には、前述した酸化反応によって発色する材料と同じ色調で発色する材料が好ましく用いられる。これにより、最大発色濃度の向上が図られ、その結果、発色時のコントラストを改善することできる。
【0063】
一方、酸化反応によって発色する材料と還元反応によって発色する材料とで、互いに色調が異なる材料を用いた場合には、混色による発色の制御が可能になる。
【0064】
また、第1エレクトロクロミック層63および第2エレクトロクロミック層64のいずれか一方は、発色しないように設定されていてもよいが、双方が発色することにより、発色濃度を高められる。これにより、EC機能部60に印加される駆動電圧を低下させることもでき、発色動作を繰り返すことに伴う第1エレクトロクロミック素子1の耐久性を高めることができる。
【0065】
第2エレクトロクロミック層64の厚さは、特に限定されないが、0.2μm以上5.0μm以下程度であるのが好ましく、1.0μm以上4.0μm以下程度であるのがより好ましい。
【0066】
電解質層65は、第1エレクトロクロミック層63と第2エレクトロクロミック層64との間に充填され、イオン伝導性を有する電解質を含有する。
【0067】
電解質としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩等が挙げられる。具体的には、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、LiCFCOO、KCl、NaClO、NaCl、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
また、電解質の材料には、イオン性液体を用いることもできる。イオン性液体の中でも、有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示すことから、取り扱いが容易である。
【0069】
有機のイオン性液体の分子構造として、カチオン成分としては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等の脂肪族4級アンモニウム系等が挙げられる。また、アニオン成分としては、大気中での安定性を考慮して、フッ素を含んだ化合物を用いることが好ましく、例えば、BF 、CFSO 、PF 、(CFSO、(SOF)等が挙げられる。
【0070】
このような電解質の材料としては、カチオン成分とアニオン成分とを任意に組み合わせたイオン性液体であってもよい。
【0071】
イオン性液体は、光重合性モノマー、オリゴマーおよび液晶材料のいずれかに直接溶解させてもよい。なお、これらの材料に対する溶解性が悪い場合には、少量の溶媒に溶解させた溶液を得た後に、この溶液を光重合性モノマー、オリゴマーおよび液晶材料のいずれかと混合することで溶解させてもよい。
【0072】
溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類等、またはこれらの2種以上を含む混合溶媒が挙げられる。
【0073】
また、電解質の形態には、低粘性の液体の他、例えば、ゲル状、高分子架橋型、液晶分散型等が挙げられる。このうち、電解質の形態は、ゲル状または固体状であることが好ましい。これにより、EC機能部60の機械的強度や信頼性を高められる。
【0074】
電解質層65の厚さは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上100μm以下程度、より好ましくは20μm以上80μm以下程度に設定される。
【0075】
なお、第1電極13と第2電極14との間には、必要に応じて、例えば、絶縁性多孔質層、保護層等の中間層が設けられていてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、EC機能部60が第1エレクトロクロミック層63および第2エレクトロクロミック層64を有するが、これらのうち、いずれか一方が省略されていてもよい。
【0077】
1.2.4.封止部
封止部55は、図3に示すように、第1基板11と第2基板12との間に配置され、着色領域70を画定している。これにより、着色領域70にEC機能部60を封入することができる。図3に示す第1電極13および第2電極14は、封止部55を超えて着色領域70の外側まで延在している。
【0078】
封止部55の構成材料としては、透明性を有する絶縁材料であれば、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂材料、シリコン酸化物(SiO)、シリコン酸窒化物(SiON)、アルミニウム酸化物(Al)等の無機酸化物等が挙げられる。
【0079】
封止部55の厚さが、EC機能部60の厚さに応じて調整されるが、例えば、20μm以上100μm以下程度であることが好ましく、40μm以上80μm以下程度であることがより好ましい。
【0080】
1.2.5.第1補助電極
第1補助電極15は、着色領域70の外側まで延在している第1電極13に積層して設けられている。第1補助電極15の構成材料には、第1電極13よりも導電率が高い材料が用いられる。これにより、第1電極13の電位を制御する効率を高められる。
【0081】
第1補助電極15の構成材料としては、第1電極13よりも導電率が高い材料であれば、特に限定されないが、例えば、銀、アルミニウム、銅、クロム、モリブデン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、第1補助電極15は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0082】
1.2.6.第2補助電極
第2補助電極16は、着色領域70の外側まで延在している第2電極14に積層して設けられている。第2補助電極16の構成材料には、第2電極14よりも導電率が高い材料が用いられる。これにより、第2電極14の電位を制御する効率を高められる。
【0083】
第2補助電極16の構成材料としては、第2電極14よりも導電率が高い材料であれば、特に限定されないが、例えば、銀、アルミニウム、銅、クロム、モリブデン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、第2補助電極16は、必要に応じて設けられればよく、省略されていてもよい。
【0084】
1.3.制御部
制御部40は、テンプル部23に設けられ、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2の各作動を制御する。
【0085】
図5は、図1に示す制御部40の機能ブロック図である。
図5に示す制御部40は、機能部として、電圧測定部42、電圧決定部44および電圧印加部46を有する。
【0086】
電圧測定部42は、第1エレクトロクロミック素子1の開放電圧(第1開放電圧)、および、第2エレクトロクロミック素子2の開放電圧(第2開放電圧)を測定する。第1開放電圧および第2開放電圧は、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2がそれぞれ開放されたときに測定される、第1電極13と第2電極14との間の電圧(開回路電圧)である。
【0087】
電圧決定部44は、第1開放電圧と第2開放電圧との比較結果に基づいて、発色動作期間で第1エレクトロクロミック素子1に印加する電圧(第1発色動作電圧)および第2エレクトロクロミック素子2に印加する電圧(第2発色動作電圧)を決定する。
【0088】
なお、電圧決定部44の機能は、例えば、CPU、メモリーおよびインターフェースを備えるハードウェアによって実現される。かかるハードウェアとして、例えばマイコンが挙げられる。CPUは、Central Processing Unitである。メモリーとしては、例えば任意の不揮発性記憶素子(ROM)、任意の揮発性記憶素子(RAM)、着脱式の外部記憶素子等が挙げられる。インターフェースとしては、例えばUSB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート等が挙げられる。あらかじめメモリーに展開されているプログラムをCPUが実行することにより、電圧決定部44の機能が実現される。なお、CPUがプログラムを実行して上記機能を実現する方式に代えて、または、その方式とともに、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアが上記機能を実現する方式が用いられていてもよい。
【0089】
電圧印加部46は、決定された第1発色動作電圧および第2発色動作電圧を、次回の発色動作期間において第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2に印加する。電圧印加部46は、例えば、直流電源と、電圧変換器と、スイッチと、を有する。直流電源は、所定の直流電圧を発生させる電源であって、例えば、一次電池、二次電池、外部電源等で構成される。電圧変換器は、直流電源が発生させた直流電圧を目的とする値に変換する。なお、電圧変換器は、直流電圧からパルス幅変調電圧を生成するとともに、そのデューティー比を変化させて実効電圧を目的とする値に近づける機能を有していてもよい。スイッチは、使用者の操作を受けて、発色動作期間、発色保持期間および消色期間を切り替える。
【0090】
2.電子調光デバイスの作動
図6は、発色動作期間T1において第1エレクトロクロミック素子1に印加した電圧V1(第1発色動作電圧SV1)および第2エレクトロクロミック素子2に印加した電圧V2(第2発色動作電圧SV2)、ならびに、発色保持期間T2において第1エレクトロクロミック素子1で測定された電圧V1および第2エレクトロクロミック素子2で測定された電圧V2の一例を示すグラフである。図6の横軸は時間であり、縦軸は電圧である。
【0091】
図7は、図6に示す発色動作期間T1および発色保持期間T2において第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2の透過率TR1、TR2の変化を表すグラフである。図7の横軸は時間であり、縦軸は透過率である。
【0092】
図6に示す発色動作期間T1では、それぞれ1.6Vの電圧V1、V2が、約15秒間印加されている。このような電圧V1、V2の印加に伴って、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2には、それぞれ電荷が注入される。また、図6に示す発色保持期間T2では、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2が開放されたときの電圧V1、V2が測定される。図6に示す例では、発色保持期間T2の開始から5秒後の電圧V1、V2値を、第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2としている。
【0093】
また、図7に示す発色動作期間T1では、電荷の注入に伴って発色濃度が上昇し、第1エレクトロクロミック素子1の透過率TR1および第2エレクトロクロミック素子2の透過率TR2が徐々に低下している。また、図7に示す発色保持期間T2では、メモリー効果により、透過率TR1、TR2が保持されている。
【0094】
図7に示す例では、第1エレクトロクロミック素子1と第2エレクトロクロミック素子2とで、発色動作期間T1の終了時における透過率TR1、TR2に差が生じている。この差は、各素子の調光特性のずれによるものであり、サングラス100の品質や使い勝手を低下させる原因となる。
【0095】
そこで、本実施形態では、制御部40が次のように作動することで、上記の課題を解決する。
【0096】
まず、電圧測定部42が第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2を測定する。本発明者の検討により、第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2には、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2の各調光特性が反映されていることが見出された。そこで、電圧測定部42は、調光特性を表す指標として第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2を取得する。
【0097】
第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2は、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2が開放されているとき、つまり、発色保持期間T2において、電圧測定部42で測定される電圧V1、V2である。ただし、開放直後は、電圧V1、V2が安定しない場合がある。そこで、電圧測定部42は、発色動作期間T1が終了(発色保持期間T2が開始)した後、所定時間経過後に電圧V1、V2(開放電圧)を測定し、その測定値を第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2とするように動作してもよい。これにより、異常値の少ない第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2を取得することができる。
【0098】
なお、所定時間とは、例えば、1秒以上500秒以下が好ましく、5秒以上300秒以下がより好ましい。これにより、異常値が特に少なく、かつ、経時的な変化による不安定性が抑えられた測定値を取得できる。
【0099】
次に、電圧決定部44が、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2とを比較する。そして、比較結果に基づいて、次回の発色動作期間T1で印加する第1発色動作電圧SV1および第2発色動作電圧SV2を決定する。本発明者の検討により、各エレクトロクロミック素子の開放電圧は、透過率TR1、TR2の低下速度に対して正の相関関係を有することが見出された。例えば、図6に示す第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2とを比較すると、第1開放電圧OCV1が相対的に低くなっている。図6に示す例では、第1開放電圧OCV1が1.15Vであり、第2開放電圧OCV2が1.20Vである。一方、図7に示す例では、透過率TR1の低下速度が透過率TR2の低下速度に比べて小さくなっている。その結果、透過率TR1が所定時間で到達する最小値は13.1%であり、透過率TR2が所定時間で到達する最小値11.3%よりも高くなっている。これは、第1エレクトロクロミック素子1の方が第2エレクトロクロミック素子2に比べて劣化が進み、透過率TR1の低下速度が相対的に小さくなった結果、所定時間内で十分な発色濃度に到達できなかったことを示している。
【0100】
また、エレクトロクロミック素子の調光特性では、発色動作期間T1に印加される電圧が高いほど、発色濃度が高くなる。したがって、第1発色動作電圧SV1は、透過率TR1の低下速度に対して正の相関関係があるといえる。また、第2発色動作電圧SV2も、透過率TR2の低下速度に対して正の相関関係があるといえる。
【0101】
そこで、電圧決定部44は、上記の相関関係に基づいて、第1エレクトロクロミック素子1の透過率TR1と第2エレクトロクロミック素子2の透過率TR2との差が小さくなるように、次回の発色動作期間T1で印加する第1発色動作電圧SV1および第2発色動作電圧SV2を決定する。
【0102】
決定方法は、特に限定されないが、例えば、電圧決定部44は、上記の相関関係を計算式やデータベース等の形式であらかじめ記憶していてもよい。この場合、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との比較結果を、記憶している相関関係に照らして、第1発色動作電圧SV1および第2発色動作電圧SV2を決定することができる。
【0103】
例えば、図6に示す例では、差(OCV2-OCV1)が0.05Vである。この場合、電圧測定部42が、第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2を取得し、電圧決定部44が、それらを比較する。ここでは、比較結果の一例として、差(OCV2-OCV1)を算出する。次に、電圧決定部44は、第1開放電圧OCV1と透過率TR1との相関関係および第2開放電圧OCV2と透過率TR2との相関関係に基づいて、透過率TR1と透過率TR2との差(TR1-TR2)を推定する。そして、第1発色動作電圧SV1と透過率TR1との相関関係に基づいて、この透過率の差が小さくなるように、次回の第1発色動作電圧SV1を決定する。なお、この例では、第2エレクトロクロミック素子2は、劣化が進んでいないとみなし、前回と同じ第2発色動作電圧SV2を維持するものとする。
【0104】
なお、上記の比較結果としては、例えば、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との差(OCV2-OCV1)の他、第2開放電圧OCV2に対する第1開放電圧OCV1の比(OCV1/OCV2)、基準値OCV0と第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2との差(OCV1-OCV0、OCV2-OCV0)、基準値OCV0に対する第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2の比(OCV1/OCV0、OCV2/OCV0)、その他の演算等が挙げられる。
【0105】
このうち、比較結果には、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との差(OCV2-OCV1)が好ましく用いられる。これにより、簡単な計算で調光特性を揃えることができる。また、例えば、上記の例では、相対的に劣化が進んでいると考えられる第1エレクトロクロミック素子1に印加する第1発色動作電圧SV1のみを求めればよいので、計算量を抑えることができる。
【0106】
次に、電圧印加部46は、決定された第1発色動作電圧SV1および第2発色動作電圧SV2を、次回の発色動作期間T1において、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2に印加する。これにより、次回の発色動作期間T1では、透過率TR1、TR2の低下速度の差を低減でき、到達する透過率TR1、TR2の最小値の差を小さくできる。その結果、調光特性を揃えることができ、サングラス100の品質や使い勝手を向上させることができる。また、サングラス100を使用者が掛けたとき、調光特性のずれに伴う違和感を軽減できる。
【0107】
また、第1エレクトロクロミック素子1における上記の相関関係、および、第2エレクトロクロミック素子2における上記の相関関係は、同一(互いに共通)であってもよいが、異なっていてもよい。例えば、個体差により、両者の相関関係が当初から異なっている場合もある。第1エレクトロクロミック素子1における上記の相関関係、および、第2エレクトロクロミック素子2における上記の相関関係、は互いに独立であることが好ましい。そこで、電圧決定部44は、第1開放電圧OCV1と透過率TR1と第1発色動作電圧SV1との相関関係を「第1相関関係」として記憶し、第2開放電圧OCV2と透過率TR2と第2発色動作電圧SV2との相関関係を「第2相関関係」として記憶していてもよい。そして、電圧決定部44は、第1相関関係に基づいて第1発色動作電圧SV1を決定し、第2相関関係に基づいて第2発色動作電圧SV2を決定するように構成されていてもよい。これにより、例えば、個体差による調光特性のずれをより的確に抑制可能なサングラス100を実現できる。
【0108】
なお、相関関係の形態は、上記に限定されない。例えば、開放電圧と発色動作電圧との相関関係のみに基づいて、次回の発色動作電圧を決定するようにしてもよい。この場合、結果的に透過率の差(透過率が到達する最小値の差)が小さくなるように決定されていればよい。
【0109】
また、電圧決定部44は、各種の要素に応じて、第1相関関係および第2相関関係を逐次変更する機能を有していてもよい。各種の要素としては、例えば、気温、累積気温、連続駆動時間、累積駆動時間等が挙げられる。これらの要素は、上記の相関関係を乱す原因となり得る。この場合、電圧決定部44が、これらの要素を取得し、取得結果を相関関係に反映させる(相関関係を変化させる)ように構成されていれば、仮に、上記の相関関係が実態から乖離した場合でも、相関関係を修正することができる。これにより、上記の要素に伴う調光特性のずれを低減できる。
【0110】
3.前記実施形態が奏する効果
前記実施形態に係る電子調光デバイスが適用されたサングラス100は、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2と、電圧測定部42と、電圧決定部44と、電圧印加部46と、を備える。第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2は、光透過性を有するとともに、発色動作期間T1に印加される電圧(第1発色動作電圧SV1および第2発色動作電圧SV2)により透過率TR1、TR2が変化する。電圧測定部42は、発色動作期間T1が終了した後の第1エレクトロクロミック素子1の第1開放電圧OCV1および第2エレクトロクロミック素子2の第2開放電圧OCV2を測定する。電圧決定部44は、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との比較結果に基づいて、次回の発色動作期間T1における第1エレクトロクロミック素子1の透過率TR1と第2エレクトロクロミック素子2の透過率TR2との差が小さくなるように、第1エレクトロクロミック素子1に印加する第1発色動作電圧SV1および第2エレクトロクロミック素子2に印加する第2発色動作電圧SV2を決定する。電圧印加部46は、第1発色動作電圧SV1および第2発色動作電圧SV2を次回の発色動作期間T1において第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2に印加する。
【0111】
このような構成によれば、次回の発色動作期間T1において、第1エレクトロクロミック素子1および第2エレクトロクロミック素子2(複数のエレクトロクロミック素子)に印加すべき第1発色動作電圧SV1および第2発色動作電圧SV2を的確に決定することができる。これにより、次回の発色動作期間T1における調光特性のバラつきを抑制することができ、品質や使い勝手が良好なサングラス100(電子調光デバイス)を実現できる。
【0112】
また、前記実施形態に係る電子調光デバイスが適用されたサングラス100では、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との比較結果は、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との差である。そして、電圧決定部44は、第1開放電圧OCV1と第2開放電圧OCV2との差が小さくなるように第1発色動作電圧SV1および第2発色動作電圧SV2を決定する。
このような構成によれば、簡単な計算で調光特性を揃えることができる。
【0113】
また、前記実施形態に係る電子調光デバイスが適用されたサングラス100では、電圧測定部42は、発色動作期間T1が終了した後、所定時間経過後に、第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2を取得する。
【0114】
このような構成によれば、異常値の少ない第1開放電圧OCV1および第2開放電圧OCV2を取得することができる。
【0115】
また、前記実施形態に係る電子調光デバイスが適用されたサングラス100では、電圧決定部44は、第1発色動作電圧SV1と、第1開放電圧OCV1と、第1エレクトロクロミック素子1の透過率TR1と、の第1相関関係、および、第2発色動作電圧SV2と、第2開放電圧OCV2と、第2エレクトロクロミック素子2の透過率TR2と、の第2相関関係、を記憶する。そして、電圧決定部44は、第1相関関係に基づいて次回の第1発色動作電圧SV1を決定し、第2相関関係に基づいて次回の第2発色動作電圧SV2を決定する。
【0116】
このような構成によれば、第1相関関係および第2相関関係が互いに独立したものとなるため、例えば、個体差による相関関係のずれを抑制し、調光特性のずれをより的確に抑制可能なサングラス100を実現できる。
【0117】
また、前記実施形態に係る電子調光デバイスが適用されたサングラス100では、電圧決定部44は、累積駆動時間に応じて、第1相関関係および第2相関関係を変化させる機能を有する。
【0118】
このような構成によれば、仮に、上記の相関関係が実態から乖離した場合でも、相関関係を修正することができる。これにより、累積駆動時間に伴う調光特性のずれを低減できる。
【0119】
また、前記実施形態に係る電子調光デバイスが適用されたサングラス100は、眼鏡として用いられる。
【0120】
このような構成によれば、調光特性のずれに伴う違和感を使用者に与えにくい眼鏡を実現できる。
【0121】
以上、本発明の電子調光デバイスについて説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではない。
【0122】
例えば、本発明の電子調光デバイスには、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成物で置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0123】
1 第1エレクトロクロミック素子
2 第2エレクトロクロミック素子
11 第1基板
12 第2基板
13 第1電極
14 第2電極
15 第1補助電極
16 第2補助電極
20 フレーム
21 リム部
22 ブリッジ部
23 テンプル部
24 ノーズパッド部
31 第1レンズ
32 第2レンズ
35 樹脂層
40 制御部
42 電圧測定部
44 電圧決定部
46 電圧印加部
55 封止部
60 EC機能部
63 第1エレクトロクロミック層
64 第2エレクトロクロミック層
65 電解質層
70 着色領域
100 サングラス
OCV1 第1開放電圧
OCV2 第2開放電圧
SV1 第1発色動作電圧
SV2 第2発色動作電圧
T1 発色動作期間
T2 発色保持期間
TR1 透過率
TR2 透過率
V1 電圧
V2 電圧
【要約】
【課題】複数のエレクトロクロミック素子において発色動作期間における調光特性のバラつきを抑制し得る電子調光デバイスを提供すること。
【解決手段】本発明の電子調光デバイスは、第1エレクトロクロミック素子および第2エレクトロクロミック素子と、発色動作期間が終了した後の第1開放電圧および第2開放電圧を測定する電圧測定部と、第1開放電圧と第2開放電圧との比較結果に基づいて、次回の発色動作期間における第1エレクトロクロミック素子の透過率と第2エレクトロクロミック素子の透過率との差が小さくなるように、第1エレクトロクロミック素子に印加する第1発色動作電圧および第2エレクトロクロミック素子に印加する第2発色動作電圧を決定する電圧決定部と、第1発色動作電圧および第2発色動作電圧を次回の前記発色動作期間において第1エレクトロクロミック素子および第2エレクトロクロミック素子に印加する電圧印加部と、を備える。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7