(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/16 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H02K1/16 C
(21)【出願番号】P 2024505793
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010825
(87)【国際公開番号】W WO2023170903
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109612
【氏名又は名称】倉谷 泰孝
(74)【代理人】
【識別番号】100116643
【氏名又は名称】伊達 研郎
(74)【代理人】
【識別番号】100184022
【氏名又は名称】前田 美保
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健次
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-222958(JP,A)
【文献】特開2003-032935(JP,A)
【文献】実開平04-043372(JP,U)
【文献】特開2020-025373(JP,A)
【文献】特開昭57-180339(JP,A)
【文献】特開2002-325382(JP,A)
【文献】特開2005-237051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石が設けられた円柱形状の回転子と、
周方向の長さが異なる一対の凹部を有した電磁鋼板を軸方向に積層し、前記軸方向において前記電磁鋼板の向きを反転して設けられ、一対の前記凹部に巻線が巻回された固定子コアが前記回転子の外径側に環状に複数配置された固定子と、
を備え、
前記固定子コアに設けられた一対の前記凹部は、第一の凹部と第二の凹部とを有し、
前記周方向において前記巻線を巻回する向きの前方に位置する前記第一の凹部が後方に位置する前記第二の凹部よりも前記長さが短く、
前記固定子コアの前記軸方向の端部に設けられた一対のインシュレーターは、前記固定子コアと共に前記巻線に巻回される巻回部が前記固定子コアとは反対方向に突出し、
前記巻回部は前記固定子コアとは反対方向に突出した山型形状を有し、前記周方向において中央よりも前記第一の凹部側に頂部が設けられていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記固定子コアは前記軸方向の中央にて前記電磁鋼板の向きを反転していることを特徴とする請求項1に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータのコイルは、磁心となる固定子コアのティースの周りに絶縁体であるインシュレーターを介して巻線を巻回することにより形成される。また、従来の固定子コアは軸方向に長く、周方向に短い形状を有していることが一般的である。
【0003】
そのため、固定子コアのティースの周りに巻線を巻回する際に巻き膨らみが生じてしまう。そこで巻き膨らみによる巻線と固定子コアとの空隙を小さくする技術として例えば、ロータ回転方向の幅がロータ軸方向の中央部から両端に向かって段階的に狭くなる積層コアを備える磁石式発電機が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記発電機は、巻線の巻き膨らみが積層コアの軸方向の中央付近に発生する場合において空隙を小さくする。一方で軸方向の中央部から両端に向かうほど積層コアのロータ回転方向の幅が狭くなるため、軸方向の両端側には空隙が生じてしまう。
【0006】
本開示は上述のような課題を解決するためになされたものであり、巻線の巻回時に積層コアの軸方向の両端側において生じる空隙を小さくし、巻き膨らみを抑制することができるモータを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかるモータは、磁石が設けられた円柱形状の回転子と、周方向の長さが異なる一対の凹部を有した電磁鋼板を軸方向に積層し、軸方向において電磁鋼板の向きを反転して設けられ、一対の凹部に巻線が巻回された固定子コアが回転子の外径側に環状に複数配置された固定子とを備え、固定子コアに設けられた一対の凹部は、第一の凹部と第二の凹部とを有し、周方向において巻線を巻回する向きの前方に位置する第一の凹部が後方に位置する第二の凹部よりも長さが短く、固定子コアの軸方向の端部に設けられた一対のインシュレーターは、固定子コアと共に巻線に巻回される巻回部が固定子コアとは反対方向に突出し、巻回部は固定子コアとは反対方向に突出した山型形状を有し、周方向において中央よりも第一の凹部側に頂部が設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示のモータによれば、固定子コアが周方向の長さが異なる一対の凹部を有した電磁鋼板を軸方向に積層し、軸方向において電磁鋼板の向きを反転して設けられているため、固定子コアの軸方向の中央付近に発生する空隙を小さくしつつ両端側に発生する空隙も小さくし、巻き膨らみを抑制する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1にかかるモータの概略図である。
【
図5】実施の形態1にかかるモータの固定子コアにおける
図3の断面Bを示す図である。
【
図6】実施の形態2にかかるモータの固定子コアにおける
図3の断面Bを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は例示である。また、各実施の形態は、適宜組み合わせて実行することができる。
【0011】
また、図面にも図示したように軸方向および周方向を定義して説明を行う。軸方向は、シャフトが延在する方向である。径方向は、シャフトの半径方向である。周方向は、シャフトが回転する方向である。
【0012】
実施の形態1.
図1は実施の形態1にかかるモータの概略図である。
図2は
図1の断面A―Aの一部を示す図である。
図3は
図2の固定子コアを一部拡大した拡大図である。
図4は電磁鋼板の外観図である。
図5は実施の形態1にかかるモータの固定子コアにおける
図3の断面Bを示す図である。
【0013】
図1に示すモータ1は、回転子2、固定子3、フレーム4、エンコーダ5およびブラケット6を備えている。
【0014】
以下、
図1および
図2を用いて説明をする。回転子2は、円柱形状を有し磁石21およびシャフト22を備えている。
図2に示すように磁石21は、シャフト22の外径側に複数設けられている。なお
図2に示す例は一例であり、磁石21の配置位置および配置方法は特に問わない。例えばシャフト22の外周面に接着剤などを用いて固定するようにしてもよい。また、シャフト22の外径側において固定子3と対向するようにシャフト22に埋め込まれていてもよい。
【0015】
シャフト22は、固定子3およびブラケット6を貫通して設けられ、周方向に回転自在である。ブラケット6は固定子3の軸方向両端において、シャフト22の回転を阻害することなく、フレーム4に密接して支持するように設けられている。なお
図1に示すようにフレーム4の両端に設けられたブラケット6は、ブラケット6aおよびブラケット6bからなる。ブラケット6aおよびブラケット6bは固定子3を隔てて反対側に設けられている。
【0016】
エンコーダ5は軸方向において、ブラケット6bのフレーム4とは反対側の端部に設けられている。エンコーダ5はセンサを内装しており、回転子2の回転速度および回転角などを測定する。なお、エンコーダ5が内装するセンサには例えば加速度センサなどを用いればよいがこれに限らない。
【0017】
フレーム4は筒状の形状を有しており、内周面が固定子3の外周面を保持するように密着して設けられている。また、フレーム4は固定子3と同様、軸方向両端においてブラケット6aおよびブラケット6bが密着するように備わっている。
【0018】
固定子3は固定子コア31が回転子2の外径側に環状に複数配置された筒状の形状を有しており、回転子2の外周面を覆うように設けられている。なお、回転子2、固定子3およびフレーム4は同心である。
【0019】
次に
図3から
図5を用いて固定子コア31について説明をする。回転子2の外径側において円形状に複数配置された固定子コア31は、巻線32、絶縁紙33およびインシュレーター7を備えている。
【0020】
図3に示すように固定子コア31は、巻線32が絶縁紙33を介して巻回されるティース部35を備えている。絶縁紙33はティース部35と巻線32との間に挟み込むように設けられており、巻線32を流れる電流がティース部35側へ流れるのを防ぐ役割がある。なお巻線32が巻回されるティース部35は、固定子コア31の周方向中央からの距離が非対称に設けられている。
【0021】
また巻線32は、固定子コア31のティース部35に巻回して設けられている。巻線32は材質などを特に問わないが、例えば銅を用いるとよい。また一対のインシュレーター7は、固定子コア31の軸方向の両端部に各々設けられている。
【0022】
固定子コア31は
図4に示す電磁鋼板34を軸方向に積層して構成されている。電磁鋼板34は周方向の長さが異なる一対の凹部8を有している。すなわち、第一の凹部81は第二の凹部82よりも周方向の長さが短く、第一の凹部81および第二の凹部82は電磁鋼板34の周方向中央からの距離が非対称に設けられている。なお本実施の形態において、凹部8の長さとは凹部8の周方向の深さを表す。
【0023】
また、固定子コア31は軸方向において電磁鋼板34の向きを反転して積層し構成されている。例えば
図4に示す電磁鋼板34を表とすると、ここでいう反転とは表裏をひっくり返すことを指している。つまり固定子コア31は軸方向に電磁鋼板34を積層する際、積層する途中において電磁鋼板34の向きを反転すなわち電磁鋼板34の表裏をひっくり返して構成されている。具体的に
図5を用いて説明をする。
【0024】
図5はティース部35における
図3の断面Bを示している。矢印は巻線32を巻回する向きを示している。
図5に示すように固定子コア31のティース部35は、電磁鋼板34を軸方向に積層し、軸方向において電磁鋼板34の向きを反転して設けられている。すなわち固定子コア31は、同一幅のティース部35が周方向にずれて構成されている。
【0025】
なお、電磁鋼板34の向きを反転させる位置および反転回数については問わないが、
図5に示すように固定子コア31の軸方向の中央において電磁鋼板34の向きを反転し積層するとよい。このように固定子コア31は、電磁鋼板34を軸方向の中央にて向きを反転し積層して設けられることにより、電磁鋼板34を作成するための抜型の形状は1つで済むことになる。そのため、形状の異なる電磁鋼板34を準備する必要がなく、製造コストを低減できる。
【0026】
また、ティース部35に巻線32を巻回する際、巻き膨らみは巻線32を巻回する向きによって生じる位置が異なる。具体的には
図5に示すように巻線32を周方向において第二の凹部82から第一の凹部81の向きすなわち左回りに巻回する際には第一の凹部81側に巻き膨らみが生じ、巻線32と固定子コア31のティース部35との空隙が大きくなる。同様に巻線32を巻回する向きを反対にすると、
図5に示す第二の凹部82側に巻き膨らみが生じる。
【0027】
そのため固定子コア31は、周方向において巻線32を巻回する向きの前方に第一の凹部81、後方に第二の凹部82となるように、軸方向において電磁鋼板34の向きを反転し積層して構成する。つまり固定子コア31は、周方向において巻線32を巻回する向きの前方に位置する第一の凹部81が後方に位置する第二の凹部82よりも長さが短い構成とする。この構成により、巻線32を巻回する際に生じる巻き膨らみによる空隙を小さくできる。
【0028】
図5には、巻線32を左回りに巻回した例を示しているが、同様に巻線32を右回りに巻回する際には周方向において前方に第二の凹部82よりも長さの短い第一の凹部81、後方に第二の凹部82となるように、固定子コア31は軸方向において電磁鋼板34の向きを反転し積層して設けられている。
【0029】
次にモータ1の動作について説明する。回転子2が巻線32に入力された電流により回転し、シャフト22から外部へ動力を伝える。このときエンコーダ5より、回転子2の回転速度および回転角などを検出し、図示を省略する制御装置へ信号を送信する。
【0030】
また巻線32に電流が流れることにより、巻線32において銅損が発生し、発生した損失は熱となってモータ1の内部を移動し、各部の温度を上昇させる。各部を通った熱は、フレーム4、シャフト22、ブラケット6aおよびブラケット6bなどからモータ1の外部へ熱伝導、対流および輻射などによって放熱される。なお、フレーム4の冷却方法は特に問わず、空冷および液冷のどちらでもよい。
【0031】
このとき、巻線32において銅損により生じた熱は、絶縁紙33およびインシュレーター7を介して固定子コア31に伝わる。一方、巻線32と固定子コア31との間には絶縁紙33とインシュレーター7以外にも空気の隙間すなわち空隙がある。空気の熱伝導率は絶縁紙33およびインシュレーター7より小さいため、空隙が大きいほど巻線32と固定子コア31との間の熱抵抗が大きくなり、巻線32の温度が上昇してしまう。
【0032】
しかしながら、本実施の形態のモータ1は、周方向の長さが異なる一対の凹部8を有した電磁鋼板34を軸方向に積層し、軸方向において電磁鋼板34の向きを反転して設けられた固定子コア31を構成している。この構成により、巻き膨らみによって発生する軸方向の中央付近の空隙を小さくしつつ、軸方向の両端側に発生する空隙も小さくできる。これにより固定子コア31と巻線32との間の熱抵抗が小さくなり、巻線32の温度が低減し、モータ1のエネルギー効率を向上できる。
【0033】
また、固定子コア31が軸方向の中央において電磁鋼板34の向きを反転して積層し構成することにより、形状の異なる電磁鋼板34を作成する必要がなく、製造コストを低減できる。
【0034】
実施の形態2.
本実施の形態は
図6を用いて説明をする。
図6は本実施の形態にかかるモータの固定子コアにおける
図3の断面Bを示す図である。
【0035】
実施の形態1では、周方向の長さが異なる一対の凹部を有した電磁鋼板を軸方向に積層し、軸方向において電磁鋼板の向きを反転して設けられた固定子コアを備えたモータを示した。実施の形態2では、固定子コアと共に巻線に巻回される巻回部が固定子コアとは反対方向に突出しているインシュレーターを備えたモータを示す。それ以外の構成は実施の形態1と同様であり、実施の形態1と同じ構成には同じ番号を付し、説明は省略する。
【0036】
図6に示すように一対のインシュレーター71において、絶縁紙33を介して固定子コア31と共に巻線32に巻回される巻回部74は、固定子コア31とは反対方向に突出した山型の形状を有している。なお
図6では巻回部74が山型の形状を有している例を示しているがこれに限らず、固定子コア31とは反対方向に突出している形状であればよい。
【0037】
また、山型の形状を有した一対のインシュレーター71の巻回部74は、頂部72を周方向において中央よりも第一の凹部81側に設けられている。なお頂部72とは、巻回部74において最も固定子コア31とは反対方向に突出した突出部のことである。
【0038】
図6を用いて説明をする。
図6に示す矢印の向きは巻線32を巻回する向きを示している。巻線32を左向きに巻回する場合、
図6に示す第一の凹部81側に巻き膨らみが生じやすくなるため、巻回部74の頂部72は周方向において巻回部74の中央よりも第一の凹部81側に設けられている。同様に巻線32を右向きに巻回する場合は、
図6に示す第二の凹部82側に巻き膨らみが生じやすくなるため、巻回部74の頂部72は周方向において巻回部74の中央よりも
図6に示す第二の凹部82側に設けられている。つまり、巻回部74の頂部72は、巻回部74の周方向において中央よりも巻線32を巻回する向きの前方に位置する第一の凹部81側に設けられている。
【0039】
巻回部74の頂部72は、周方向において中央よりも第一の凹部81側に設けられていることにより、実施の形態1にかかるモータよりも固定子コア31の両端側において、巻線32を巻回する際に生じる巻き膨らみによる固定子コア31と巻線32との間の空隙を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1、11 モータ、2 回転子、21 磁石、22 シャフト、3 固定子、31 固定子コア、32 巻線、33 絶縁紙、34 電磁鋼板、35 ティース部、4 フレーム、5 エンコーダ、6、6a、6b ブラケット、7、71 インシュレーター、72 頂部、73、74 巻回部、8 凹部、81 第一の凹部、82 第二の凹部