(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】エレベータの脱レール検出システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20241008BHJP
B66B 7/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B66B5/02 A
B66B7/02 K
(21)【出願番号】P 2024510852
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015832
(87)【国際公開番号】W WO2023188067
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 由子
【審査官】山田 拓実
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0206515(US,A1)
【文献】国際公開第2017/183084(WO,A1)
【文献】実開昭62-168418(JP,U)
【文献】特開2022-36525(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198243(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00-7/12;
11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路に設置されたレールに沿って昇降する釣合おもりと、前記釣合おもりに設置され、前記昇降路の壁面と前記釣合おもりとの間の距離と、前記レールと前記釣合おもりとの間の距離と、の少なくとも一方を検出する距離計測手段と、前記距離計測手段から送信された前記距離に基いて距離検知信号を出力する距離判定手段と、を備え、
前記距離判定手段は、前記距離が第1距離以上、かつ前記第1距離より大きい第2距離未満の場合に前記距離検知信号としてONを出力し、前記距離が前記第1距離未満または前記第2距離以上の場合に、前記距離検知信号としてOFFを出力することを特徴とするエレベータの脱レール検出システム。
【請求項2】
かごと前記釣合おもりとが主ロープによって接続され、前記かごと前記釣合おもりとを相反する方向に昇降させる制御を行う昇降制御手段を備え、
前記昇降制御手段は、前記距離検知信号のOFFを受信したときに、前記かごと前記釣合おもりとを停止させることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの脱レール検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地震等によりエレベータの釣合おもりがレールから外れたことを検出するエレベータの脱レール検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータの脱レール検出システムは光電センサを利用し、釣合おもりのレールと平行に吊り下げられるワイヤの下端にある被検出体との距離を測定する。その光電センサによる脱レール検出の方法は、釣合おもりが外れてワイヤが引っ張られたときに、ワイヤの下端に接続された被検出体との距離が変化したことを検出する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のエレベータの脱レール検出システムには、昇降路内を移動するかご、釣合おもりなどの昇降体と移動空間が干渉しないようにし、かつ釣合おもりのレールと平行に吊り下げられるワイヤ線が必要となるといった課題がある。
【0005】
本開示は、上記した問題点を解決するためになされたものであり、昇降路内を移動するかご、釣合おもりなどの昇降体との干渉の可能性が有り、釣合おもりのレールと平行に吊り下げが必要となるワイヤ線を使用すること無しに、脱レールの検出が可能なエレベータの脱レール検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベータの脱レール検出システムは、エレベータの昇降路に設置されたレールに沿って昇降する釣合おもりと、釣合おもりに設置され、昇降路の壁面と釣合おもりとの間の距離と、レールと釣合おもりとの間の距離と、の少なくとも一方を検出する距離計測手段と、距離計測手段から送信された距離に基いて距離検知信号を出力する距離判定手段と、を備え、距離判定手段は、距離が第1距離以上、かつ第1距離より大きい第2距離未満の場合に距離検知信号としてONを出力し、距離が第1距離未満または第2距離以上の場合に、距離検知信号としてOFFを出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、昇降路内を移動するかご、釣合おもりなどの昇降体との干渉の可能性が有り、釣合おもりのレールと平行に吊り下げが必要となるワイヤ線を使用すること無しに、脱レールの検出が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施の形態1におけるエレベータの昇降路上部側から釣合おもりを見た図である。
【
図3】実施の形態1におけるエレベータの脱レール検出システムのブロック図である。
【
図4】実施の形態1におけるエレベータの脱レール検出システムのフローチャートである。
【
図5】実施の形態1における釣合おもりの昇降路底面からの高さと壁面距離とを記憶した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1を用いて一般的なエレベータの全体構成図を説明する。
図1は、一般的なエレベータの全体構成図である。
【0010】
エレベータは、かご1、主ロープ2、釣合おもり3、巻上機4、回転検出器5、制御盤7、及び通信ケーブル8を備える。
かご1の上端には、主ロープ2の一端が接続され、主ロープ2の他端には、釣合おもり3が接続されている。巻上機4は、かご1と釣合おもり3が互いに相反する方向に昇降するよう主ロープ2の中間部に設置されている。
釣合おもり3は、昇降路の昇降路壁12に沿って移動する。
昇降路壁12は、昇降路の壁面と定義する。
【0011】
制御盤7は、巻上機4を駆動し、かご1の昇降制御を行うとともに、巻上機4の回転軸に取り付けられた回転検出器5からの信号により、かご1と釣合おもり3との昇降路内での昇降路底面からの位置(高さ)を算出する。
制御盤7は、通信ケーブル8により釣合おもり3に設置された機器からの信号を受信する。
【0012】
図2を用いて実施の形態1に係る釣合おもり3に設置された機器を、エレベータの昇降路上部側から釣合おもりを見た図で説明する。
図2は、実施の形態1に係るエレベータの昇降路上部側から釣合おもりを見た図である。
【0013】
釣合おもり3は、レール13、13aに沿って昇降路内を昇降する。また、釣合おもり3は、距離計測手段21、21aを備える。
距離計測手段21は、昇降路壁12までの距離である左壁面距離(
図2のD1)や、レール13までの距離である左レール距離(
図2のL1)をそれぞれ計測し、通信ケーブル8を経由して制御盤7に左壁面距離と左レール距離とを送信する。
同様に、距離計測手段21aは、昇降路壁12までの距離である右壁面距離(
図2のD2)や、レール13aまでの距離である右レール距離(
図2のL2)をそれぞれ計測し、通信ケーブル8を経由して制御盤7に右壁面距離と右レール距離とを送信する。
【0014】
例えば、距離計測手段21、21aとしては、レーザ距離計や超音波距離計のような、光や音などが物体に反射して帰ってくるまでの時間を利用した距離計を利用する。
距離計測手段21、21aは、釣合おもり3の上部に設置された状態を図示したが、釣合おもり3の下部に設置されてもよし、釣合おもり3の上部の2箇所と下部の2箇所に、それぞれ設置してもよい。
【0015】
図3を用いて実施の形態1に係るエレベータの脱レール検出システムのブロック図を説明する。
図3は、実施の形態1に係るエレベータの脱レール検出システムのブロック図である。
【0016】
エレベータの脱レール検出システムの制御盤7は、I/F手段31、CPU32、記憶手段33、及び昇降制御手段34を備える。
制御盤7のI/F手段31は、釣合おもり3に設置された距離計測手段21、21aから送信される左壁面距離、右壁面距離、左レール距離、及び右レール距離を受信して、その受信したそれぞれの距離の距離情報をCPU32に送信する。
【0017】
CPU32は、昇降制御手段34を経由して巻上機4に取付けられた回転検出器5からの回転検出信号を受信し、昇降路の床面からの釣合おもり3の釣合おもり高さを算出する。
CPU32は、距離計測手段21、21aからの距離情報の受信と、昇降制御手段34を経由して回転検出器5からの回転検出信号とを受信し、釣合おもり3がレール13,13aから外れたか否かを判定する。
CPU32は、距離判定手段の機能を備える。
【0018】
記憶手段33は、CPU部32の制御プログラムの格納、制御演算のデータの保存、釣合おもり高さと距離情報の判定値とを関連づけした値などの保存を行う。
記憶手段32は、SRAM(Static Random access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memorey)などを使用し、データを記憶し、その記憶したデータを読み出せる手段であれば何でもよい。
昇降制御手段34は、CPU32から送信された信号を受信し、かご1の運転と停止とを行う。
【0019】
図4と
図5とを用いて実施の形態1に係るエレベータの脱レール検出システムのフローチャートを説明する。
図4は、実施の形態1に係るエレベータの脱レール検出システムのフローチャートである。
図5は、脱レール検出システムの釣合おもり高さと、壁面及びレールとのそれぞれの第1距離と第2距離とを記憶した構成図である。
【0020】
ステップS1において、エレベータの制御盤7のCPU32は、距離計測手段21、21aから送信される左壁面距離、右壁面距離、左レール距離、及び右レール距離を受信する。
ステップS2において、CPU32は、昇降制御手段34を経由して巻上機4に取付けられた回転検出器5からの回転検出信号を受信し、昇降路内の床面から釣合おもり3の釣合おもり高さを算出する。
【0021】
ステップS3において、CPU32は、釣合おもり3の釣合おもり高さに関連付けられた左壁面距離の第1距離と第2距離、右壁面距離の第1距離と第2距離、左レール距離の第1距離と第2距離、及び右レール距離の第1距離と第2距離を記憶手段33から読み出す。
【0022】
ここで、
図5を用いて脱レール検出システムの釣合おもり3の釣合おもり高さと、昇降路壁12までの距離情報及びレールまでの距離情報とを記憶した構成図について説明する。
図5の構成図では、釣合おもり3の釣合おもり高さが5.3mの時に、左壁面距離の第1距離と第2距離とは、それぞれ240mm、260mmが記憶手段33に記憶されている。
同様に、右壁面距離の第1距離と第2距離とは、それぞれ490mm、510mmが記憶手段33に記憶されている。
左レール距離の第1距離と第2距離とは、それぞれ90mm、110mmが記憶手段33に記憶されている。
右レール距離の第1距離と第2距離とは、それぞれ100mm、120mmが記憶手段33に記憶されている。
【0023】
この左壁面距離と右壁面距離との違いは、昇降路の昇降路壁12に凹凸があったり、建物梁が突出していたりする場合による。
左レール距離と右レール距離との違いは、レール13に取付腕を介して機器を固定する際に使用するレールクリップの凹凸による。
【0024】
図5の構成図では、釣合おもり高さが4種類であるが、細かく設定してもよい。
例えば、釣合おもり高さは100mmステップごとに、昇降路の全行程にわたって設定してもよい。また、釣合おもり高さに対する左壁面距離、右壁面距離、左レール距離、及び右レール距離は、あらかじめエレベータのかご1が設置される建物や昇降路などの構造の情報を利用して設定してもよいし、エレベータを据付完了した後に、釣合おもり3を最下位置から最上位置まで昇降させながら、釣合おもり高さに対する左壁面距離、右壁面距離、左レール距離、及び右レール距離における第1距離と第2距離とを記憶手段33に記憶させてもよい。
【0025】
ステップS4において、CPU32は、左壁面距離、右壁面距離、左レール距離、及び右レール距離の距離が全て第1距離以上、かつ第1距離より大きい第2距離未満か否かを判定する。
CPU32は、左壁面距離、右壁面距離、左レール距離、及び右レール距離の距離が全て第1距離以上、かつ第1距離より大きい第2距離未満の場合は、ステップS5に移行する(ステップS4のYES)。一方、左壁面距離、右壁面距離、左レール距離、及び右レール距離の内、少なくともひとつの距離が第1距離未満、または第2距離以上の場合は、ステップS7に移行する(ステップS4のNO)。
【0026】
ステップS5において、CPU32は、距離検知信号がONを出力する。
ステップS6において、昇降制御手段34は、CPU32から送信された距離検知信号のONを受信し、かご1の運転を継続させる。
【0027】
ステップS7において、CPU32は、距離検知信号がOFFを出力する。
ステップS8において、昇降制御手段34は、CPU32から送信された距離検知信号のOFFを受信し、かご1の運転を停止させる。
【0028】
図4と
図5のフローチャートの説明において、釣合おもり高さに関連付けられた左壁面距離の第1距離と第2距離、右壁面距離の第1距離と第2距離、左レール距離の第1距離と第2距離、及び右レール距離の第1距離と第2距離を記憶手段33から読み出すとしたが、昇降路壁12やレールとの距離に変化がない場合は、第1距離と第2距離は、釣合おもり高さに関係なく一定値としてもよい。
【0029】
また、距離計測手段21、21aは、釣合おもり3に2個を備える内容で説明したが、距離計測手段21が1個でもよい。
距離計測手段21は、昇降路壁12までの壁面距離とレール13とのレール距離とをそれぞれ計測する内容で説明したが、壁面距離とレール距離との少なくとも一方であってもよい。
距離計測手段21を複数設置することは、脱レール検出の信頼性が向上する。
【0030】
以上のように構成された本開示のエレベータの脱レール検出システムは、エレベータの昇降路に設置されたレール13,13aに沿って昇降する釣合おもり3と、釣合おもり3に設置され、昇降路の壁面と釣合おもり3との間の距離と、レール13,13aと釣合おもり3との間の距離と、の少なくとも一方を検出する距離計測手段21と、距離計測手段21から送信された距離に基いて距離検知信号を出力する距離判定手段と、を備え、距離判定手段は、距離が第1距離以上、かつ第1距離より大きい第2距離未満の場合に距離検知信号としてONを出力し、距離が第1距離未満または第2距離以上の場合に、距離検知信号としてOFFを出力することを特徴とする。
【0031】
これにより、昇降路内を移動するかご、釣合おもりなどの昇降体との干渉の可能性が有り、釣合おもりのレールと平行に吊り下げが必要となるワイヤ線を使用すること無しに、脱レールの検出が可能になるという効果を奏する。
さらに、昇降路壁12が平面ではなく、凹凸があったり、建物梁が突出していたりする場合でも、脱レールの検出が可能なエレベータの脱レール検出システムを提供できるという効果を奏する。
【0032】
また、エレベータの脱レール検出システムは、かご1と釣合おもり3とが主ロープ2によって接続され、かご1と釣合おもり3とを相反する方向に昇降させる制御を行う昇降制御手段34を備え、昇降制御手段34は、距離検知信号のOFFを受信したときに、かご1と釣合おもり3とを停止させることを特徴とする。
【0033】
これにより、釣合おもりが何らかの理由によりレールから外れた場合に、エレベータの脱レール検出システムからの距離検知信号に基いて、すぐにかごと釣合おもりとを停止させるこが可能となるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0034】
1 かご1、 2 主ロープ、 3 釣合おもり、 4 巻上機、 5 回転検出器、 7 制御盤、 8 通信ケーブル、 11 乗場の戸、 12、12a 昇降路壁、 13、13a レール、 21、21a 距離計測手段、 31 I/F手段、 32 CPU、 33 記憶手段、 34 昇降制御手段