(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】アセスメントシステム及び通報システム
(51)【国際特許分類】
A61G 12/00 20060101AFI20241008BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20241008BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20241008BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20241008BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20241008BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A61G12/00 E
G08B21/02
G08B31/00 A
G08B25/04 K
A61B5/107 300
A61B5/00 102C
(21)【出願番号】P 2021008414
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-11-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載日令和2年11月5日、掲載アドレス https://search.ieice.org/bin/summary_advpub.php?id=2020JDP7046&category=D&lang=J&abst=
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502162882
【氏名又は名称】株式会社ケイズ
(74)【代理人】
【識別番号】100118393
【氏名又は名称】中西 康裕
(72)【発明者】
【氏名】櫛田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】神庭 公祐
(72)【発明者】
【氏名】小谷 悠太
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-103042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 12/00
G08B 21/02
G08B 31/00
G08B 25/04
A61B 5/107
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臨床現場における患者の転倒・転落のアセスメントを行うために複数の評価項目に対する回答を入力する入力部と、
前記入力部からの回答を基に解析を行う解析部と、
前記解析部による解析により前記
臨床現場における患者の転倒・転落のアセスメントの結果を出力する出力部と、からなるアセスメントシステムであり、
前記出力部による出力は、曖昧な範囲を含んだ結果であ
り、
前記曖昧な範囲を含んだ結果とは、
結果の中心y
中心yからの幅e
の出力であることを特徴とするアセスメントシステム。
【請求項2】
前記出力部による曖昧な範囲を含んだ結果
の出力は、ファジィ数Yであり、
前記解析部は、ファジィ線形回帰式からなる推定モデルにより解析を行うことを特徴とする請求項1に記載のアセスメントシステム。
【請求項3】
臨床現場における患者の姿勢情報を取得する姿勢情報取得部と、
前記
患者の転倒・転落アセスメントを行うために複数の評価項目に対する回答を入力する入力部と、
前記姿勢情報取得部からの前記姿勢情報と、前記入力部からの前記回答を基に、前記
患者の転倒・転落の解析を行う解析部と、
前記解析部による解析結果を出力する出力部と、
前記出力部からの出力に基づいて通報内容を選択する通報選択部と、
前記通報選択部の選択に基づいて通報を行う通報部と、
からなる通報システムであって、
前記出力部による出力は、曖昧な範囲を含んだ解析結果であり、
前記通報選択部における通報内容は、前記曖昧な範囲を含んだ解析結果に基づいて選択され
たものであり、
前記曖昧な範囲を含んだ解析結果とは、
結果の中心y
中心yからの幅e
の出力であることを特徴とする通報システム。
【請求項4】
前記通報選択部における通報内容は、基準値Mに対して、
y+e<M では通報なし
y+e≧M では通報ありであり、かつ、yとeにより通報内容が異なることを特徴とする請求項
3に記載の通報システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセスメントスコアシートに関するアセスメントシステム及びその評価結果を用いた通報システムに関し、より詳しくは曖昧さが含まれるアセスメント結果を得ることができるアセスメントシステム及びその曖昧さが含まれるアセスメント結果を考慮した通報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、臨床現場においては転倒・転落アセスメントスコアシート(以下、FASと適宜記載する)を用いて、患者の転倒・転落に関する危険性を判断し、その予防策を立案し、実施している。その際に、看護師はFASの評価項目を総合的に勘案した上で、転倒・転落の危険性を判断する必要があるが、この判断は看護師自身の知識や経験に大きく依存するため、看護師が変わるとその判断も変わることがある。また、同じ看護師であっても危険性の判断には迷いが生じることもある。また、FASにチェックを付けるにあたり、看護師の主観でチェックを付けていいのか迷うような曖昧な項目も多い。
このような理由から、臨床現場におけるFASを用いた看護師によるアセスメント結果には曖昧さが含まれている。
【0003】
この曖昧さは、模範となるような看護師(例えば、ベテランの看護師)と、経験の浅いような看護師とによっても異なっているが、現実の臨床現場で転倒・転落の危険を防いでいくためには、経験の浅いような看護師が如何に早く模範看護師の域に達するかということが当然ながら望まれる。
【0004】
従来、経験の浅いような看護師が模範看護師の域に達するには経験を積む他になかったが、自分で行ったFASを用いたアセスメント結果と、模範看護師の行ったFASのアセスメント結果を比較することができれば、その比較によってより早く模範看護師の知識を吸収することができる。また、看護学校等でも、学生の学習に役立てることもできる。
【0005】
したがって、模範看護師が行ったようなアセスメント結果が得られるような評価システムがあれば、経験の浅いような看護師が知識を吸収する上で、また学生が学習する上で非常に便利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようにFASを用いたアセスメント結果にはかなりの曖昧さが実際には含まれている。つまり、単に模範看護師が行ったようなアセスメント結果だけを得ることができたとしても、その結果に含まれているこの曖昧さまでは知ることができない。
【0008】
したがって、曖昧さが含まれているアセスメント結果においては、看護師が知識を吸収したり、学生が学習に活用したりしようとすると、単にその評価結果だけを得るのではなく、その結果にどのような曖昧さが含まれているのかも知ることができることがより望ましい。何故ならば、曖昧さを知ることの意味として、模範看護師が判断を行う際に、何にどの程度迷っているのかを経験の浅いような看護師や学生が知ることは、教育効果を高める上で効果的だからである。
【0009】
また、看護師や学生だけでなく、病院運営側にとっても、そういった現場における判断の迷いを知っておくことは、リスクヘッジをしていく意味でも価値があると思われる。
【0010】
また、実際にFASを活用し、対象者がベッドから転落する危険度を算出する転落危険度算出システム及び通報システムを本発明の発明者は先に行っており、特許文献1にその内容が開示されている。この通報システムにおいては、危険度を算出し、その危険度に応じて通報を行うシステムとなっている。
【0011】
しかしながら、上記のようにアセスメント結果には、曖昧さが含まれている。このため、通報システムとしては通報を必要としない危険度においても、この曖昧さを考慮して人間が判断すると、実際に転落等する危険性は低いかもしれないが、注意しておいた方がよい、というような判断が行われることも多分にある。
【0012】
具体的には、例えば、仮に危険度90%のような場合であれば通報システムでは通報が必要ということになるが、危険度30%のような場合であれば通報システムでは通報は必要ない、ということになる。しかし、人間である模範看護師であれば、FASの評価項目の中である項目が高い場合には、例えば転倒の危険性が低くても、実際には注意しておいた方がよい、と考えることもある。
【0013】
従って、転落の危険度を通報する通報システムにおいても、曖昧さが含まれるアセスメント結果を考慮した通報システムであることが望ましい。特に、夜勤のような夜中の勤務においては、看護師の数も限られてしまう。このような状況において、転落の危険が低くても、注意しておい方がいいような患者の場合、模範看護師であれば手が空いた際や巡回中にその患者を念のため観察しておこうと考えるが、経験の浅いような看護師はそこまで注意を払うことは難しい。
【0014】
そこで本発明は、曖昧さが含まれるアセスメント結果を得ることができるアセスメントシステムを提供することを目的とする。また、本発明は、曖昧さが含まれるアセスメント結果を考慮した通報システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明のアセスメントシステムは、特定のアセスメントを行うために複数の評価項目に対する回答を入力する入力部と、前記入力部からの回答を基に解析を行う解析部と、前記解析部による解析により前記特定のアセスメントの結果を出力する出力部と、からなるアセスメントシステムであり、前記出力部による出力は、曖昧な範囲を含んだ結果であることを特徴とする。
【0016】
本発明のアセスメントシステムによると、出力部による出力が曖昧な範囲を含んだ結果となることから、アセスメント結果に含まれる曖昧さについてまで知ることができる。したがって、例えば、模範者がアセスメントを行う際にどの程度迷っているのかを知ることができるので、経験の浅いような者が効率よく、模範者の判断を学ぶことができるようになる。
【0017】
また、本発明のアセスメントシステムにおいては、前記出力部による曖昧な範囲を含んだ結果は、結果の中心y、中心yからの幅e、の出力であることを特徴とする。
このような出力により、アセスメント結果に含まれる曖昧さを視覚を通じて知ることができる。
【0018】
また、本発明のアセスメントシステムにおいては、前記出力部による曖昧な範囲を含んだ結果は、結果の中心y、中心yからの幅e、のファジィ数Yの出力からなり、前記解析部は、ファジィ線形回帰式からなる推定モデルにより解析を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明のアセスメントシステムは、ファジィ線形回帰式からなる推定モデルを用いることにより、アセスメントにおける評価項目毎の曖昧さも知ることができる。つまり、ファジィ線形回帰分析は、ファジィ係数の解釈が容易な解析手法であるため、看護師が重視する項目や曖昧さを感じる項目を明らかにすることもできる。したがって、評価項目毎の曖昧さを利用して、アセスメントにおける評価項目の見直しや改善を行うことができる。
【0020】
また、本発明のアセスメントシステムにおいては、前記特定のアセスメントとは、臨床現場における転倒・転落アセスメントであることを特徴とするものである。
【0021】
本発明のアセスメントシステムは、転倒・転落アセスメントに利用することで、転倒・転落アセスメントスコアシートを用いる臨床現場において、上記した効果を奏することができる。
【0022】
また、上記課題を解決するため、本発明の通報システムは、対象者の姿勢情報を取得する姿勢情報取得部と、前記対象者の転倒・転落アセスメントを行うために複数の評価項目に対する回答を入力する入力部と、前記姿勢情報取得部からの前記姿勢情報と、前記入力部からの前記回答を基に、前記対象者の転倒・転落の解析を行う解析部と、前記解析部による解析結果を出力する出力部と、前記出力部からの出力に基づいて通報内容を選択する通報選択部と、前記通報選択部の選択に基づいて通報を行う通報部と、からなる通報システムであって、前記出力部による出力は、曖昧な範囲を含んだ解析結果であり、前記通報選択部における通報内容は、前記曖昧な範囲を含んだ解析結果に基づいて選択されることを特徴とする。
【0023】
本発明の通報システムによると、臨床現場において、アセスメント結果に含まれる曖昧さを考慮した通報を行うことができる。また、その通報を受けることにより、通報を受けた者、具体的には看護師が曖昧さに基づく判断を行うことができる。
【0024】
また、本発明の通報システムにおいては、前記出力部による曖昧な範囲を含んだ解析結果は、結果の中心y、中心yからの幅e、の出力からなり、前記通報選択部における通報内容は、基準値Mに対して、y+e<Mでは通報なし、y+e≧Mでは通報ありであり、かつ、yとeにより通報内容が異なることを特徴とする。
本発明の通報システムは、模範看護師が行うような判断による通報を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明のために行ったアンケートに用いたアンケート用紙である。
【
図2】転倒・転落リスクの「臨床判断」プロセスの参考図である。
【
図3】
図3Aは看護師の離床判断のイメージ図であり、
図3Bは本実施形態のアセスメントシステムの機能ブロック図である。
【
図4】本実施形態のアセスメントシステムの入力部と出力部における入出力データの概要を示した図である。
【
図5】本実施形態のアセスメントシステムの入力部における入力例を示した図である。
【
図6】本実施形態のアセスメントシステムの出力部における出力例を示した図である。
【
図7】
図7Aは本発明に際して行ったアンケートにおけるFASであり、
図7Bは看護師による回答欄である。
【
図9】本実施形態のアセスメントシステムにおける入力x
i、出力Y
i、ファジィ係数Aの関係を表した図である。
【
図10】二目的ファジィ回帰分析(BOFR)の概要を示す説明図である。
【
図11】ファジィ最小二乗法(FLS)の概要を示す説明図である。
【
図12】ハイパーパラメータと目的関数の傾きとの関係、並びに相関係数との関係を示した図である。
【
図13】本実施形態の通報システムの概念図及び機能ブロック図である。
【
図14】
図14Aは本実施形態の通報システムの出力部における出力結果の概念図であり、
図14Bは通報選択部における通報内容の具体例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、実施形態及び図面を参照にして本発明を実施するための形態を説明するが、以下に示す実施形態は、本発明をここに記載したものに限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。なお、この明細書における説明のために用いられた各図面においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて表示しており、必ずしも実際の寸法に比例して表示されているものではない。
【0027】
まず、本発明者が、本発明のアセスメントシステムを検討した経緯について説明する。医療現場における転倒・転落事故は重要なインシデントの一つであり、医療事故全体の約30%を占めることから、医療従事者は転倒・転落事故を防止するため、入院患者の正確なアセスメントを行う必要がある。そのため、日本の多くの病院でFAS(転倒・転落アセスメントスコアシート)が導入されている。FASとは、転倒・転落に関するリスクをスコア化するためのチェックシートであり、多いものでは50個程度のチェック項目を有する。看護師はFASの記入後に、スコア化された点数や病院で決められたルールに基づき、患者の転倒・転落予防策について立案及び実施を行う。
【0028】
しかし、実際には患者の様態は多様であるため、杓子定規に扱うことは難しく、看護師の判断によって立案の変更やより適切な対処を行っている。この看護師の判断は、患者を担当する看護師がFASや患者の様子を観察し、看護師個人が感じる患者の転倒・転落の危険性に基づいている。このような看護師が患者の状態を熟考して看護ケアを行うための一連の意思決定のことを「臨床判断」という。
【0029】
一方、FASのチェック項目には主観に基づく曖昧な項目も多く、また、多数のチェック項目を総合的に勘案した上で患者を観察し、転倒・転落の危険性を判断しなければならない。この「臨床判断」は、看護師自身の知識や経験に大きく依存するため、看護師が変わるとその危険性の判断も変わることがある。更に、同じ看護師であっても危険性の判断には迷いが生じることもある。これは、FASの各チェック項目が持つ転倒・転落の危険性に関する重みについて看護師間の統一が取れていないことや、一人の看護師の中においても、重みにゆらぎがあるためであると推察できる。そのため、臨床現場の質を保つ上で、看護師が実際に行う転倒・転落の危険性に関する判断を定量化し、また、それを看護師間で共有することは重要である。
【0030】
そこで、本発明者は、看護師の判断基準を定量化するため、最初に看護師に対して転倒・転落リスクに関するアンケート調査を行い、看護師の判断を取得した。ここで、転倒・転落リスクとは、「看護師個人が感じる患者の転倒・転落の危険性」とする。看護師が転倒・転落リスクを判断する際は、看護師自身の知識や経験を含む心理的な側面も影響している。通常、こうした判断問題は心理量の測定法である評定尺度法により回答を収集する。
【0031】
しかし、この評定尺度法は、判断の際に迷いが生じた場合であっても、回答を必ず一箇所に定めなければならない。一般的に、アンケートを行う際は、回答者の自然な思考をそのまま回答に反映できる形式にすべきである。そのため、迷いの発生時は回答箇所を無理に一つに決めさせるのではなく、迷っている部分を回答させる方が、回答者の判断をより正確に取得できる。
【0032】
このため、本発明者は、
図1に示すアンケート用紙を用いたアンケートを行った。
図1の左側はFASであり、右側は各姿勢における看護師の回答欄である。より詳しくは、左側の欄は、鳥取大学医学部附属病院で使用されているFASの記入欄である。右側の欄は、FASの記入結果を基にして、ベッド上での患者の7つの各姿勢に対する危険性を楕円により回答する欄である。右側の回答は、回答に迷いがある場合、迷いの範囲を楕円で記入するようになっている。なお、右側の回答欄は、評定尺度法の一種であるVAS(Visual Analogue Scale)をベースとしたものである。ここで、VASは一定の長さの線分上の両端に記された内容を基準として、回答者が感じる主観的な程度を記入するアンケート手法である。従来のVASは任意の一点に縦棒を記入することで回答を行うが、ここでは楕円を用いた回答によって判断の迷いを同時に取得する。このようなアンケートは、ファジィ評定法と呼ばれる。
ここで、
図1は、実際のアンケート結果が記されたものを示しいている。そして、本発明者は、このファジィ評定法によって看護師の「臨床判断」を収集した。
【0033】
そして本発明者が想定する転倒・転落リスクの「臨床判断」プロセスについて
図2を用いて説明する。なお、
図2のxはチェックマークの有無、y
-及びy
+は看護師の回答の最小値及び最大値、aは潜在的な重要度の中心、cは潜在的な重要度の幅(曖昧さ)、w
-~w
+は一時的な重要度である。
【0034】
看護師はFASのチェック項目を見たとき、そのチェック項目に対する重要度a-c~a+c(c≧0)を潜在的に感じる。人間はコンピュータと違い、明確な数値として判断基準を持っていないため、ここでcを付与することで曖昧な重要度を表現する。
一方、看護師は、転倒・転落リスクを一意に決められないことがあるが、これは曖昧さcにより生じるものである。
【0035】
転倒・転落リスクの回答時、看護師は臨床判断の中で曖昧な重要度w-~w+(a-c≦w-≦w+≦a+c)が一時的に生じる。看護師は、w-~w+に基づき、転倒・転落リスクy-~y+を回答する。ただし、一時的な重要度w-、w+は常に一定の値ではなく、回答の度に変化する。そして、本発明者は、看護師の迷いを含んだ回答y-~y+は、このようなプロセスを経て決定されると想定している。
[アセスメントシステム]
【0036】
本発明は、このような看護師の迷いを含んだ回答、つまり曖昧さが含まれるアセスメント結果を得ることができるアセスメントシステムである。
図3はこのことを示すイメージ図である。具体的には、
図3Aは、看護師の臨床判断のイメージであり、
図3Bはこのイメージを具体化した本実施形態のアセスメントシステムの機能ブロック図である。
【0037】
上述した看護師の「臨床判断」のプロセスは
図3Aに示すとおりである。つまり、看護師は、ある患者の電子カルテ等により入力済みのFASのチェック項目を確認し、看護師自身が経験等に基づいて、ある姿勢におけるその患者の曖昧さを含んだ危険性を回答する。
【0038】
本実施形態のアセスメントシステム1は、このよう看護師の「臨床判断」のプロセスをシステム化したものである。アセスメントシステム1の基本的な構成は、
図3Bに示す通り、入力部10、解析部20、出力部30で構成される。そして、アセスメントシステム1は、例えばパーソナルコンピュータやタブレットPCのような携帯端末を用いて実現することができる。
【0039】
入力部10は、キーボードやタッチパネル等の入力装置と、LCD等の表示装置で構成される。そして、表示装置に表示されるFASのチェック項目に対して、入力装置を介して入力を行う。
【0040】
解析部20は、CPU、RAM、ROM等の演算処理装置や記憶装置で構成される。そして、入力部10からの入力を基にして、記憶装置に記憶されている後述の推定モデルに基づいてアセスメントの結果を算出する。
【0041】
出力部30は、主としてLCD等の表示装置で構成され、スピーカー等の音響装置を補助的に用いることができる。そして、解析部20で算出されたアセスメント結果を表示装置により視覚的に出力する。本実施形態のアセスメントシステム1は、この出力部30の出力において、単なるアセスメント結果を表示するのではなく、曖昧な範囲を含んだ結果を出力することを特徴としている。
【0042】
次にこの点について具体的に説明する。
図4は、アセスメントシステム1の入力部10、出力部30における入出力データの概要を示している。入力(Input)X
iは、入力部10におけるFASのチェック項目に相当し、アセスメントシステム1ではチェック項目ありを1、チェック項目なしを0として解析部20での解析が行われる。なお、この解析部20での解析は詳細を後述する。
【0043】
出力(Output)Yiは、出力部30における出力に相当し、解析部20での解析結果が楕円で示した数値情報として出力される。この時、線分の左端を原点として、楕円の中央をyi、中央から両端(yi
-、yi
+)までの長さはeiとする。つまり、本実施形態のアセスメントシステム1における出力部30の曖昧な範囲を含んだ結果の出力は、結果の中心y、中心yからの幅eの出力(yi
-~yi
+)となっている。
【0044】
このようなアセスメントシステム1の入力部10における入力例を
図5に、出力部30における出力例を
図6に示す。
図5に示すように、入力部10の表示装置にFASが表示され、利用者は特定の患者に対するFASのチェック項目について該当する項目にチェックを入力する(
図5においては、項目「足腰の弱り、筋力の低下がある」等)。なお、
図5の転倒日の入力については、入力部10を介して数値を直接入力することができる。
【0045】
入力部10での入力が完了すると、アセスメントシステム1は、解析部20での解析を行い、その結果を
図6に示すように出力部30の表示装置に表示を行う。具体的には、ベッド上での姿勢1~7の各姿勢における危険度について、曖昧な範囲を含んで結果(
図6に示すように楕円形)として出力する。そして、楕円が大きければ大きな曖昧さが含まれている結果ということになり、楕円が小さければ略明確な結果ということになる。なお、姿勢1~7については、あらかじめ解析部20の記憶装置に記憶しておけばよい。また、姿勢についてもこの実施形態のように姿勢1~7に限定されるわけではなく、他の姿勢を用いても構わない。
【0046】
このように出力部30による出力において曖昧な範囲を含んだ結果を出力することにより、例えば、利用者は模範看護師の判断を効率良く学ぶことができる。つまり、出力部30において、単にアセスメント結果だけが表示されるだけでは(例えば、危険度50%というような出力)、背景技術で述べたような模範看護師が持っているアセスメント結果に含まれる曖昧さまでは利用者は知ることができない。しかし、本実施形態のように、出力部30において曖昧な範囲を含んだ結果を出力することで、利用者は模範看護師が持っているアセスメント結果に含まれる曖昧さを知ることができる。例えば、
図6の出力において、姿勢3のように原点(危険がないと判断し訪問しない)に近いとしても、この患者のアセスメント結果においては、模範看護師はかなりの曖昧さを感じていることを利用者は知ることができる。したがって、念のため注意しておいた方がよいことを利用者は学ぶことができる。
【0047】
また、このような出力を得られることにより、経験の浅いような看護師や学生は、自分自身の判断結果と、アセスメントシステム1による出力結果とを比較することで効率よく模範看護師の考えを学ぶことができる。
【0048】
[推定モデルについて]
次に、本実施形態のアセスメントシステム1における解析部20で用いた推定モデルについて説明する。本発明者は、本実施形態の推定モデルを作成するにあたり、
図1に示したファジィ評定法によって収集したアンケート結果のデータを教師データとして、アセスメントにおける意思決定の推定モデルを作成した。
【0049】
ところでこの取得したデータは、楕円を用いた回答からなるため、通常の数値データと違い曖昧さを持つ特殊な値からなるデータである。このようなデータを解析する方法として、本発明者は、ファジィ線形回帰分析を用いた。このファジィ線形回帰分析とは、ファジィ数の分析手法の一つであり、データの入出力関係を表すシステムの重み係数が曖昧だと考え、重み係数をファジィ数とした解析手法である。そして、主に人間特有の曖昧性を含むデータを解析する際に用いられる。今回取得したデータは、看護師により取得するため、必然的に曖昧さが生じる。加えて、データの入出力関係を表すシステムは、看護師に当たる。したがって、曖昧さを含む本実施形態のアセスメントシステム1においては、ファジィ線形回帰分析を用いたデータの解析が適している。また、ファジィ線形回帰分析は、ファジィ係数の解釈が容易な解析手法であるため、看護師が重視する項目や曖昧さを感じる項目を明らかにすることもできる。
【0050】
図7には、
図1に示したアンケート用紙の一例をあらためて示したものである。そして、
図7AはFAS、
図7Bは看護師の回答欄である。
図7Aのiはデータ内の個々のFASの識別番号、x
iはFASのチェックマークの有無を表すベクトルである。また、
図7Bのy
-及びy
+は、ファジィ評定法による回答の最小値及び最大値である。そして、第i番目のFASにおいて、チェックマークの有無を表すベクトルx
iを説明変数、看護師の回答Y
iを目的変数と定義し、式(1)のように表すことができる。
【0051】
【0052】
ここで、x
iの各要素x
i,jは、項目jのチェックマークの有無を表す。Y
iはファジィ数と呼ばれる。このファジィ数は、
図8にも示すように、通常の数値(中心値)y
iに幅e
iが設けられる。なお、各要素x
i,jは、チェックマークありを1、なしを0の質的データとする。一方、Y
iは線分の左端から回答までの長さとし、式(2)により中心y
i及び幅e
iのファジィ数へと変換する。
【0053】
【数2】
そして、取得したデータから、看護師の転倒・転落リスク判断を、ファジィ線形回帰分析により定量化する。
【0054】
ファジィ線形回帰分析では、説明変数xiと目的変数の推定値Yi=(yi,ei)L(※Y、y、eの上には式(3)のように記号ハットあり)との関係式を式(3)のように表す。
【0055】
【数3】
A
0、A
1、・・・、A
nは、ファジィ係数と呼ばれ、式(4)で表される。
【0056】
【0057】
a
jはファジィ係数の中心、c
jはファジィ係数の幅である。ここでは、a
jは看護師がチェック項目jを重視する程度、c
jはチェック項目jにより生じる曖昧さの程度と解釈できる。そして、ファジィ線形回帰分析では、ファジィ係数の各値を導出する。
図9には、この入力x
i、出力Y
i、ファジィ係数Aの関係を図で表したものを示す。
【0058】
ところで、ファジィ線形回帰分析は、ファジィ線形計画問題(FLP:Fuzzy Linear Programming)と、ファジィ最小二乗法(FLS:Fuzzy Least Squares)の二つに分類される。FLPは一般式が簡潔なため、実装及び計算コストが低い。一方、FLSは観測値に適合した結果を得られやすいが、解の探索がFLPよりも難しく、計算コストも高い。そこで、本発明者は、リスク判断を定量化する際、FLPにより外れ値を除外した後、FLSによりファジィ係数を求めることとした。この点について詳しく述べる。
【0059】
ファジィ線形回帰式の作成にあたり、区間増加問題(SIP:Spreads Increasing Problem)への対策が必要となる。SIPとは、説明変数xi,jの増加につれ、目的変数の幅eiが単調増加するという問題である。
【0060】
そこで、xi,jがカテゴリ総数2の質的データ(xi,jの値が1と0の二通り)であることを利用し、SIPの解消を図った。一般的なファジィ線形回帰式は式(3)と表されるが、式(5)へと改めた。
【0061】
【数5】
x
i,j(※xの上には式(6)のように記号バーあり)はx
i,jの否定(NOT演算)であり、式(6)となる。
【0062】
【数6】
また、A
j(※Aの上に記号バーあり)はx
i,j(※xの上に記号バーあり)のファジィ係数を表す。そして、次の項、
【0063】
【0064】
を追加することで、FASのチェック項目にマークがない時に生じる曖昧さを表現することが可能になり、SIPの影響を軽減できる。なお、式(5)のファジィ係数の中心と幅、並びに説明変数をそれぞれ、次のように置くと、
【0065】
【数8】
目的変数Y
i(※Yの上に記号ハットあり)の中心y
i(※yの上に記号ハットあり)及び幅e
i(※eの上に記号ハットあり)は、式(7)により求められる。
【0066】
【0067】
FLPとは、目的変数の推定値Y
i(※Yの上に記号ハットあり)が観測値Y
iを包含するという制約の下、Y
i(※Yの上に記号ハットあり)の幅の総和が最小となるファジィ係数を探索する最適化問題である。一方、FLPでは観測値の中に外れ値が存在すると、回帰式の形状が大きく歪む。そのため、二目的ファジィ回帰分析(BOFR:Bi-Objective Fuzzy Regression)により外れ値の影響を軽減した。
図10にBOFRの概要を示す。また、その一般式を式(8)に記載する。
【0068】
【0069】
ここで、aLP(※aの上には式(7)のように記号ブリーブあり)、cLP(※cの上に記号ブリーブあり)は、BOFRより求まるファジィ係数の中心と幅を表す。BOFRは通常のFLPに緩和制約項ξiを追加し、観測値yi-ei~yi+eiが推定値aT
LPxi-cT
LPxi~aT
LPxi-cT
LPxi(※a、c、xの上に記号ブリーブあり)から外れた位置に存在する場合、ξiによって回帰式の形状が歪むのを防ぐ。ξiの比重は、ハイパーパラメータK(0<K<1)により調整され、1に近づくほど比重が大きくなる。
【0070】
更に、BOFRは観測値が外れた位置に存在する時、ξiが増加するという性質を持つ。そのため、全データセットをIとすると、外れ値を除外した新たなデータセットI´は次の条件を満たす集合となる。
【0071】
【0072】
FLSとは、ファジィ数に距離概念を導入し、目的変数の推定値Y
i(※Yの上に記号ハットあり)と観測値Y
iとの誤差の総和が最小となるファジィ係数を探索する最適化問題である。
図11に概要を示す。また、その一般式を式(9)に示す。a
LS(※aの上に記号ブリーブあり)、c
LS(※cの上に記号ブリーブあり)は、FLSにより求めるファジィ係数の中心と幅である。
【0073】
【0074】
以上のように、FLPの後にFLSを実行することで、看護師の誤判断と迷いを考慮した定量化を行うことで、本実施形態におけるファジィ線形回帰式から推定モデルを作成した。
【0075】
[推定モデルの検証]
本発明者は、上記手法による推定モデルの有効性を確認するため、ダミーデータによる検証も行った。使用したダミーデータは、
図2の臨床判断プロセスに基づき生成した。生成手順の詳細は、
【0076】
(A) FASの各チェック項目に対して、ファジィ係数の中心及び幅の真値at(※aの上に記号ブリーブあり)、ct(※cの上に記号ブリーブあり)を次のように設定する。
【0077】
【0078】
(B) チェック項目j(=0,1,2,・・・,n)毎に、[at
j-ct
j,at
j+ct
j](又は[at
j-ct
j(※a、cの上に記号バーあり),at
j+ct
j(※a、cの上に記号バーあり)])の範囲で一時的な重要度wi,j
-、wi,j
+(又はwi,j
-(※wの上に記号バーあり)、wi,j
+(※wの上に記号バーあり))をランダムに生成する。これらの重要度は、FASの識別番号i(=1,2,・・・,k)ごとに生成される。
(C) 式(10)により、回答データyi
-を算出する。
【0079】
【0080】
っこで、wi
-(※wの上に記号ブリーブあり)は一時的な重要度wi,j
-、wi,j
-(※wの上に記号バーあり)のベクトルである。そして、同様に回答データyi
+を算出する。この時、一定確率で外れ値εi
-、εi
+を発生させる。
(D) 回答データyi
-、yi
+より、式(2)を用いて観測値Yi=(yi,ei)Lを算出する。
【0081】
そしてダミーデータの生成条件を表1に記す。ここでは全データ数、ファジィ係数の中心及び生成範囲、ハイパーパラメータが異なるデータセットを生成した。そして、中心の生成範囲が、幅の生成範囲と等しいデータ群(条件A~D,I~L)と幅の生成範囲より広いデータ群(条件E~H,M~P)を用いる。この時、切片項のファジィ係数A0の値が、他のファジィ係数の中に混在しないよう、aj
t(※aの上に記号バーあり)は常に0とする。また、cj
tとcj
t(※cの上に記号バーあり)については、0以上となるのを何れか一方のみとする。なお、条件I~Pは[ct(※cの上に記号ブリーブあり)]に負値が存在しているが、負値は真値cj
t(※cの上に記号バーあり)の符号が反転されたものである。
【0082】
一方、本検証では一般的な無作為性と曖昧さを区別するため、wi,0
-、wi,0
+を定数とする。ただし、発生率5%、大きさ[-30,30]として、外れ値εi
-、εi
+を生じさせる。また、チェック項目の個数n(次元数)を50、回答データyi
-、yi
+の分解能を1とした。
【0083】
【0084】
そして、表1の各条件に対し、本手法を実施した結果を表2に示す。表中のCor(at(※aの上に記号ブリーブあり),a(※aの上に記号ブリーブあり))はファジィ係数の中心の真値と推定値との相関関数、Cor(ct(※cの上に記号ブリーブあり),c(※cの上に記号ブリーブあり))は幅の真値と推定値との相関関数、card(I´)はFLSに使用したデータ数(集合I´の濃度)を表す。
【0085】
【0086】
結果を見ると、中心の相関関数Cor(at(※aの上に記号ブリーブあり),a(※aの上に記号ブリーブあり))が全て0.7以上となっていることがわかる。ajはチェック項目jを重視する程度と定義していたため、これらの結果は、[at(※aの上に記号ブリーブあり)]が[ct(※cの上に記号ブリーブあり)]より同等以上に広い場合、看護師が重視するFASのチェック項目を抽出できることを示唆するものである。更に、ハイパーパラメータKの値のみが異なる条件同士(条件AとB、CとD、EとF、GとH、IとJ、KとL、MとN、OとP)を比較すると、基本的にKが0.2となる方(条件B、D、F、J、L、N、P)が、相関係数Cor(at(※aの上に記号ブリーブあり),a(※aの上に記号ブリーブあり))が強くなることが確認できた。これにより、本手法はBOFRによって外れ値を除去し、重要なチェック項目の抽出制度を向上させることが可能といえる。
【0087】
一方、重要度ajに曖昧さcjが内在するという想定の下で検証を行った。ここで、表2を確認すると、全データ数kを500個、かつ、ハイパーパラメータKを0.2としたとき(条件D、H、L、P)、幅の相関係数Cor(ct(※cの上に記号ブリーブあり),c(※cの上に記号ブリーブあり))が全て0.75以上となっており、真値との強い相関を示した。更に、今回の検証では説明変数xi,jが0の時にも曖昧さが生じるデータ群を8つ用意した(条件I~P)。そのため条件L、Pは従来の回帰式を用いると、SIPが原因でファジィ係数を適切に表現できなかった。しかし、これらの条件に対しても強い相関を保てていることから、本手法はSIPによる影響が少ないといえる。
【0088】
また、本手法はハイパーパラメータKの値によって結果に違いが生じる。そのため、より正確な結果を得るには、ハイパーパラメータKの調整が必要である。条件Pのデータ群に関して、ハイパーパラメータK(又は解析データ数card(I´))と目的関数J
LPの傾きdj
LP/dcard(I´)との関係、並びに相関係数Cor(a
t(※aの上に記号ブリーブあり),a(※aの上に記号ブリーブあり))、Cor(c
t(※cの上に記号ブリーブあり),c(※cの上に記号ブリーブあり))との関係を
図12に示す。
【0089】
図12より、K=0.1のときCor(a
t(※aの上に記号ブリーブあり),a(※aの上に記号ブリーブあり))及びCor(c
t(※cの上に記号ブリーブあり),c(※cの上に記号ブリーブあり))が強くなっていることがわかる。また、今回使用したダミーデータは正常なデータ数の期待値が475個となるが、条件PはK=0.1とした際に479個のデータが使用されており、期待値に近しい値となったことからこの指標により正常値と外れ値を適切なバランスで分離できているといえる。
このような検討、検証により、本実施形態のアセスメントシステム1における解析部20では、ファジィ線形回帰式からなる推定モデルにより解析を行った。
【0090】
なお、解析部20のおける推定モデルは本実施形態のようなファジィ線形回帰式からなる推定モデルに限定されるわけではない。具体的には、例えばべき乗を伴うようなファジィ非線形回帰式からなる推定モデルを用いることもできる。一方、本実施形態のようにファジィ線形回帰式を用いることによって、
図7Aに示したFASの約50のチェック項目に対して個々に重み付けされるため、どのチェック項目が重要か否かを知ることができる。したがって、本実施形態のようにファジィ線形回帰式を用いることでFASのチェック項目毎の曖昧さを知ることができる。そして、このようなチェック項目毎の曖昧さがわかることで、FASの改善に活かしていくこともできる。
【0091】
また、本実施形態のアセスメントシステム1における具体的なアセスメントとして、臨床現場において用いられる転倒・転落アセスメントスコアシートを用いた例を説明したが、例えば、人材の評価においても複数の評価項目からなるアセスメントが行われている。したがって、本発明のアセスメントシステムは、このような人材の評価におけるアセスメント等、他のアセスメントに用いても構わない。
【0092】
[通報システム]
次に本発明の通報システムの具体的な実施形態について図と共に説明する。本実施形態の通報システム2は、看護師の「臨床判断」のプロセスをシステム化したアセスメントシステム1を利用したものである。
図13は、通報システム2の概念及び基本的な構成を示す。
【0093】
通報システム2は、対象者Pの姿勢情報を取得する姿勢情報取得部100と、対象者Pの転倒・転落アセスメントを行うために複数の評価項目に対する回答を入力する入力部200と、姿勢情報取得部100からの姿勢情報と、入力部200からの回答を基に、対象者Pの転倒・転落の解析を行う解析部300と、解析部300による解析結果を出力する出力部400と、出力部400からの出力に基づいて通報内容を選択する通報選択部500と、通報選択部500の選択に基づいて通報を行う通報部600と、からなり、出力部400による出力は、曖昧な範囲を含んだ解析結果であり、通報選択部500における通報内容は、この曖昧な範囲を含んだ解析結果に基づいて選択される。
【0094】
このような通報システム2は、主に病院内で使用され、例えば、ナースセンターに設置されているパーソナルコンピュータ、また、各看護師が所持し、院内の無線ネットワークを介してこのパーソナルコンピュータと接続するタブレットPCやスマートフォンのような携帯端末を用いて実現することができる。
【0095】
姿勢情報取得部100は、映像撮影装置であるカメラで構成される。姿勢情報取得部100は、病室内のベッド上の対象者P(患者)を撮影することで、動画或いは静止画による対象者Pのベッド上での姿勢情報を取得する。
【0096】
入力部200は、キーボードやタッチパネル等の入力装置と、LCD等の表示装置で構成される。そして、表示装置に表示されるFASのチェック項目に対して、入力装置を介して対象者Pに対しての入力を行う。入力部200に関しては、アセスメントシステム1の入力部10と同様である。また、姿勢情報取得部100は、適宜対象者Pの姿勢情報の取得を行うが、入力部200による対象者Pに対するFASに関する入力は一度だけ、或いはチェック項目に変更が生じた場合だけとなる。
【0097】
解析部300は、CPU、RAM、ROM等の演算処理装置や記憶装置で構成される。そして、姿勢情報取得部100から取得した姿勢情報と、入力部200からの入力を基にして、記憶装置に記憶されている推定モデルに基づいてアセスメントの結果を算出する。
【0098】
なお、解析部300での解析は、常に行う必要はなく、例えば、姿勢情報取得部100から取得した姿勢情報を基にした画像認識により、アセスメントシステム1で説明した
図7の姿勢1~7に該当する姿勢の何れかが検出された場合に解析を行う構成で構わない。また、ここで用いる推定モデルは、アセスメントシステム1と同様である。
【0099】
出力部400は、アセスメントシステム1の出力部30とは異なり、解析部300によるアセスメント結果を表示して出力する必要はなく、解析部300によるアセスメント結果を一時的に記憶装置に記憶する形で出力しておけばよい。
【0100】
通報選択部500は、演算処理装置や記憶装置で構成され、出力部400からの出力、つまり、解析部300による解析結果を基にして通報内容を選択する。なお、通報選択部500における通報内容の具体例は後述する。
【0101】
通報部600は、看護師が所持する携帯端末の表示装置やスピーカーである音響装置によって構成される。通報選択部500で選択された通報内容データを看護師が所持する携帯端末で受信し、携帯端末を介してその通報が行われる。そして、本実施形態においては、通報はスピーカーから発せられるアラーム音で行われる。
【0102】
次に、出力部400における出力例、つまり解析部300におけるアセスメント結果の具体例について説明する。
図14Aは出力部400における出力結果の概念を示した概念図であり、
図14Bは通報選択部500における通報内容の具体例を示した図である。
【0103】
本実施形態の通報システム2は、アセスメントシステム1でも説明したように、まず出力において曖昧な範囲を含んだ結果を出力する。具体的には、
図14Aに示すように結果の中心y(判断の中央値)、中心yからの幅e(曖昧さの範囲)の出力からなる。このような出力を行うことで、例えば、模範看護師が持っているアセスメント結果に含まれる曖昧さを再現している。
【0104】
一方、背景技術においても説明したように、従来から知られている通報システムは、対象者Pの危険度を算出し、その危険度で通報を行うというものであった。しかしながら、模範看護師のようなベテランの看護師は、アセスメント結果に含まれる曖昧さを考慮して判断している。したがって、従来の通報システムとしては通報を必要としない危険度においても、この曖昧さを考慮して看護師が判断すると、実際に転落等する危険性は低いかもしれないが、注意しておいた方がよい、というような判断が行われることもある。
【0105】
通報システム2は、出力部400における出力結果を用いて、模範看護師のような判断に基づく通報を実現しており、
図14Bはその通報内容の具体例である。まず、
図14Aにも示した出力結果を基に基準値Mに基づいて通報内容について選択を行う。本実施形態においては、基準値M=75として設定している。そして、
(1)y+e<M では通報なし(アラームなし)
(2)y+e≧M では通報あり(アラーム鳴動)
としている。また、この時yとeの値により通報内容であるアラーム音が異なる(2a~2d)。
【0106】
ここで、(1)のように通報なしとしたのは曖昧さを含んだ判断(y+e)においても、転倒リスクが低ければ模範看護師が判断したとしても転倒リスクは低いので、アラームなしとした。また、(2)のように通報ありとしたのは曖昧さを含んだ判断(y+e)においては、模範看護師が判断した場合に転落の危険性は低いかもしれないが、対象者Pに対しては注意しておいた方がよい、と判断することがあるからである。
【0107】
この時、(2a)のようにy<25であれば、曖昧さが大きいので、転倒リスクはかなり低いが注意しておく必要あることから、アラームを小として看護師に注意を促しておく。このことを認識した看護師は、例えば、手が空いたような時に対象者Pを観察しに行った方がよいと認識することができる。
【0108】
また、(2b)のようにy<50であれば、曖昧さがやや大きいので、転倒リスクは低いが注意しておく必要があることから、アラームを中として看護師に注意を促しておく。このことを認識した看護師は、例えば、時々対象者Pを観察しに行った方がよいと認識することができる。
【0109】
また、(2c)のようにy<75であれば、曖昧さは中程度であり、危険性も中程度であるため注意しておく必要があることから、アラームを大として看護師に注意を促しておく。このことを認識した看護師は、例えば、念のため対象者Pを観察しに行った方がよいと認識することができる。
【0110】
また、(2d)のようにy≧75であれば、曖昧さは小さいが、危険性が高く緊急性があることから、アラームを特大として看護師に注意を促しておく。このことを認識した看護師は、例えば、至急対象者Pを観察しに行った方がよいと認識することができる。
【0111】
このように本実施形態の通報システム2は、出力部400における出力が曖昧な範囲を含んだ解析結果となっており、通報選択部500ではこの曖昧な範囲を含んだ解析結果に基づいて通報の選択が行われる構成となっている。従って、FASのアセスメント結果に含まれる曖昧さを考慮した、通報を行うことができるので、経験の浅いような看護師であっても模範看護師のような注意を払うことができる。
【0112】
また、本実施形態のような通報システム2は、夜間や緊急事態の際等、看護師の人数が少ない状況でより効果的である。日中であれば多くの看護師がいるため、看護師個々での対象者Pの診回りの負担も比較的少ないといえる。しかし、夜勤になると看護師の数が限られるため、対象者Pの診回りも個々の看護師の負担が増すことになる。このような場合に通報システム2を用いることで、経験の浅い看護師も対象者P毎に注意に軽重を付けることができるので、看護師の負担軽減や、診回り時の質の向上にもつながる。
【0113】
また、本実施形態では、通報部600については、具体的には携帯端末を介したアラーム音についてのみ説明した。しかしながら、通報システム2は姿勢情報取得部100を備えているため、対象者Pの姿勢情報も携帯端末に送信することができる。したがって、看護師が携帯端末を介してアラーム音発生時の対象者Pの姿勢情報も通報部600の表示装置で確認できるようにしても構わない。
【0114】
このような構成の場合、アラーム音が小となる(2a)のような場合にまで、姿勢情報を常に表示する構成としてしまうと、看護師が煩わしさを感じるおそれもある。したがって、アラーム小の場合には携帯端末の表示画面上のボタンを押した場合にのみ姿勢情報を表示し、アラーム大や特大の場合には常に姿勢情報を表示する構成とすることもできる。
また、通報部600での通報は、アラーム音の音量の大小や画像の表示の他に、アラーム音のテンポの変化や光の点滅等を用いることもできる。
【符号の説明】
【0115】
1 アセスメントシステム
2 通報システム
10、200 入力部
20、300 解析部
30、400 出力部
100 姿勢情報取得部
500 通報選択部
600 通報部