(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2021562520
(86)(22)【出願日】2020-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2020041635
(87)【国際公開番号】W WO2021111808
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019218220
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228730
【氏名又は名称】ニデックアドバンスドモータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138689
【氏名又は名称】梶原 慶
(72)【発明者】
【氏名】水上 浩二
(72)【発明者】
【氏名】金子 純也
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-41944(JP,A)
【文献】特開2019-134562(JP,A)
【文献】国際公開第2011/155160(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動するモータ駆動装置であって、
前記モータを回転させる回転数を取得する回転数取得部と、
前記回転数取得部で取得した回転数に応じて、前記モータを駆動するPWM信号のデューティ比を設定するデューティ比設定部と、
前記デューティ比設定部で設定したデューティ比のPWM信号を出力するPWM信号出力部と、
前記PWM信号出力部が出力するPWM信号に基づき前記モータを駆動するドライバと、
前記モータに流れる電流を検出する電流検出部と、
を備え、
前記デューティ比設定部は、
前記電流検出部で検出した電流が第1閾値に達したときに、前記デューティ比を、前記モータを駆動開始する際
の初期値よりも大きな所定値に設定する第1制御と、
前記電流検出部で検出した電流が
前記第1閾値よりも大きな第2閾値に達したときに、前記デューティ比を、前記初期値に設定する第2制御と、を実行し、
前記デューティ比設定部は、前記第1閾値及び前記第2閾値の少なくともひとつを、前記回転数取得部で取得した回転数に応じて変更する、
モータ駆動装置。
【請求項2】
前記デューティ比設定部は、前記電流検出部で検出した電流が第3閾値に達したときに、所定時間の間、前記デューティ比を0パーセントに設定する第3制御をさらに有し、
前記第3閾値は、前記第2閾値よりも大きく、
前記第2閾値は、前記第1閾値よりも大きい、
請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記デューティ比設定部は、前記第1制御を第1周期で実行し、前記第2制御を前記第1周期よりも短い第2周期で実行する、
請求項1又は2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記デューティ比設定部は、
前記モータの回転数N1をN2に変更する場合に、
前記第1閾値X1を、
X2=(N1/N2)*X1(但し、/は除算の演算子であり、*は乗算の演算子である。)
で表されるX2に変更する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記N1は初期設定時のモータ回転数であり、
前記X1は初期設定時の前記第1閾値である、
請求項4に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記デューティ比設定部は、
前記モータの回転数N1をN2に変更する場合に、
前記第2閾値Y1を、
Y2=(N1/N2)*Y1(但し、/は除算の演算子であり、*は乗算の演算子である。)
で表されるY2に変更する、
請求項1から5のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記N1は初期設定時のモータ回転数であり、
前記Y1は初期設定時の前記第2閾値である、
請求項6に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記モータを回転させる回転数を設定する回転数設定部を更に備え、
前記回転数取得部は、前記回転数設定部で設定された回転数を取得する、
請求項1から7のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記回転数設定部は、回路基板上のスイッチである、
請求項8に記載のモータ駆動装置。
【請求項10】
前記回転数取得部は、外部から通信によって前記モータを回転させる回転数を取得する、
請求項1から7のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【請求項11】
前記モータは軸流ファンを回転させるモータである、
請求項1から10のいずれか1項に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを所望の速度で回転させるための様々な駆動制御が実施されている。モータの駆動制御においては、外乱などの異常の場合であっても、モータに異常電流が流れるのを防ぎ、回路やモータの保護や安定した駆動を行うことが重要である。
例えば、ベクトル制御によるモータの駆動制御において、モータに流れる電流が閾値を超えたことを検出した場合に、d軸電圧指令値又はq軸電圧指令値を補正することにより、制御を安定化するように構成したものが知られている。例えば特許文献1に開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、モータに流れる電流を閾値と比較することで、モータを安定して駆動しようとしているが、閾値が適切でないとモータを効率よく駆動することが出来ず、非効率な運転になってしまうおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、モータを効率よく駆動するモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の例示的な第1発明は、モータを駆動するモータ駆動装置であって、前記モータを回転させる回転数を取得する回転数取得部と、前記回転数取得部で取得した回転数に応じて、前記モータを駆動するPWM信号のデューティ比を設定するデューティ比設定部と、前記デューティ比設定部で設定したデューティ比のPWM信号を出力するPWM信号出力部と、前記PWM信号出力部が出力するPWM信号に基づき前記モータを駆動するドライバと、前記モータに流れる電流を検出する電流検出部と、を備え、前記デューティ比設定部は、前記電流検出部で検出した電流が第1閾値に達したときに、前記デューティ比を、前記モータを駆動開始する際の初期値よりも大きな所定値に設定する第1制御と、前記電流検出部で検出した電流が前記第1閾値よりも大きな第2閾値に達したときに、前記デューティ比を、前記初期値に設定する第2制御と、を実行し、前記デューティ比設定部は、前記第1閾値及び前記第2閾値の少なくともひとつを、前記回転数取得部で取得した回転数に応じて変更する。
【発明の効果】
【0007】
本願の例示的な第1発明によれば、モータを効率よく駆動することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るモータ駆動装置によって駆動するモータを、Y軸と直交し中心軸Jを通る面で切断して示す断面図である。
【
図3】
図2のモータ10からモータハウジング23を外して上から見た平面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るモータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】モータ駆動装置100によるモータ駆動処理を示すフローチャートである。
【
図6】モータ駆動装置100によるデューティ比設定処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図6に示した第1制御を示すフローチャートである。
【
図8】
図6に示した第2制御を示すフローチャートである。
【
図9】
図6に示した第3制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係るモータ駆動装置について説明する。なお、以下の図面においては、各構成をわかり易くするために、実際の構造と各構造における縮尺及び数等を異ならせる場合がある。
【0010】
また、図面においては、適宜3次元直交座標系としてXYZ座標系を示す。XYZ座標系において、Z軸方向は、
図1に示す中心軸Jの軸方向と平行な方向とする。X軸方向は、中心軸Jに対する径方向とする。Y軸方向は、X軸方向とZ軸方向との両方と直交する方向とする。X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向のいずれにおいても、図中に示す矢印が指す側を+側、反対側を-側とする。
【0011】
また、以下の説明においては、Z軸方向の正の側(+Z側)を「フロント側」又は「一方側」と呼び、Z軸方向の負の側(-Z側)を「リア側」又は「他方側」と呼ぶ。なお、リア側(他方側)及びフロント側(一方側)とは、単に説明のために用いられる名称であって、実際の位置関係及び方向を限定しない。また、特に断りのない限り、中心軸Jに平行な方向(Z軸方向)を単に「軸方向」と呼び、中心軸Jを中心とする径方向を単に「径方向」と呼び、中心軸Jを中心とする周方向、すなわち、中心軸Jの軸周りを単に「周方向」と呼ぶ。径方向において中心軸Jに近づく側を「径方向内側」と呼び、中心軸Jから遠ざかる側を「径方向外側」と呼ぶ。
【0012】
なお、本明細書において、「軸方向に延びる」とは、厳密に軸方向(Z軸方向)に延びる場合に加えて、軸方向に対して、45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。
また、本明細書において、「径方向に延びる」とは、厳密に径方向、すなわち、軸方向(Z軸方向)に対して垂直な方向に延びる場合に加えて、径方向に対して、45°未満の範囲で傾いた方向に延びる場合も含む。また「平行」とは、厳密に平行な場合に加えて、互いに成す角が45°未満の範囲で傾いた場合も含む。
【0013】
なお、本明細書において、単に「回転数」という場合は、単位時間当たりの回転数をいい、例えば、回転数が1300という場合には、1分間当たりの回転数が1300回転、すなわち1300[rpm]であることを示す。
【0014】
[第1実施形態]
<モータの構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係るモータ駆動装置によって駆動するモータを、Y軸と直交し中心軸Jを通る面で切断して示す断面図である。
図2は、
図1のモータ10の斜視図である。
本実施形態において、モータ10は、ブラシレスDCモータである。モータ10は、軸方向に延びる中心軸Jに沿って配置されるモータシャフト41を有するロータ50と、ロータ50と径方向に隙間を介して対向するステータ40と、を備えるモータ部30と、モータ部30の駆動を行う駆動回路81等を実装した回路基板80とを収容するモータハウジング21及び23と、を備える。モータハウジング21及び23は、軸方向一方側から軸方向他方側に向けて回路基板80及びロータ50の順に配置して収容する。
【0015】
モータ10は、ステータ40を備え、ステータ40は、ステータヨーク42を備える。モータ10は、ステータヨーク42の軸方向一方側に回路基板80を有する。回路基板80は、軸方向に貫通する貫通孔80aを有する。モータシャフト41は、貫通孔80aを貫通する。モータ10は、軸受55a及び55bを備える。軸受55aは、モータハウジング23の軸方向他方側に配置される。軸受55bは、モータハウジング21の軸方向一方側に配置される。また、軸受55aは、モータシャフト41の軸方向一方側端部に配置される。軸受55bは、モータシャフト41の軸方向他方側端部に配置される。軸受55a及び55bは、モータシャフト41を回転可能に支持する。軸受55a及び55bの形状、構造等は、特に限定されず、いかなる公知の軸受も用いることが出来る。
【0016】
ロータ50は、ロータマグネット51を備える。ロータマグネット51は、モータシャフト41を軸周りに囲んで、モータシャフト41に固定される。
【0017】
モータ10は、有底筒状のモータハウジング21を有する。モータハウジング21の径方向内側にはモータ部30が収容される。モータハウジング21は、円筒形状でもよいし、角筒形状であってもよい。モータハウジング21は、例えばアルミダイキャスト製である。モータ10は、回路基板80の軸方向一方側に、有底筒状のモータハウジング23を有する。モータハウジング23は、円筒形状でもよいし、角筒形状であってもよい。モータハウジング23は、例えばアルミダイキャスト製である。モータハウジング21は軸方向一方側に開口し、モータハウジング23は軸方向他方側に開口する。モータハウジング21の軸方向一方側の開口は、モータハウジング23によって塞がれ、モータハウジング23の軸方向他方側の開口は、モータハウジング21によって塞がれる。
【0018】
モータハウジング21は、軸方向一方側の端部に、径方向外側に延びるフランジ部21aを有する。フランジ部21aは、軸方向に貫通する貫通孔21aaを有する。モータハウジング23は、軸方向他方側の端部に、径方向外側に延びるフランジ部23aを有する。フランジ部23aは、軸方向に貫通する貫通孔23aaを有する。貫通孔21aaと貫通孔23aaとは、軸方向位置及び周方向位置が一致し、貫通孔21aaと貫通孔23aaとが連続した貫通孔となる。貫通孔21aaと貫通孔23aaとに貫通するようにねじ止めを行うことで、モータハウジング21とモータハウジング23とを固定することが出来る。
【0019】
図3は、
図2のモータ10からモータハウジング23を外して示す斜視図である。
回路基板80は、モータハウジング21の筒穴の形状に応じた形状である。本実施形態では、回路基板80は円形である。駆動回路81は、複数の電子部品で構成される。駆動回路81は、例えば、IGBT、ブリッジダイオード、MOSFET,IPM、DC/DCコンバータのうちの少なくとも一つを含む。IGBTは、Insulated Gate Bipolar Transistorの略称である。MOSFETは、metal-oxide-semiconductor field-effect transistorの略称である。IPMは、Intelligent Power Moduleの略称である。駆動回路81は、コネクタ82に接続された配線を介してモータ10の外部と接続される。コネクタ82に接続された配線は、モータハウジング21及び23に設けられた貫通孔83を通る。
【0020】
<モータ駆動装置の構成>
図4は、本発明の実施形態に係るモータ駆動装置の構成を示すブロック図である。
モータ駆動装置100は、モータ300を駆動する装置である。
図1のモータ30は、
図4のモータ300の一例である。モータ駆動装置100は、マイコン101と、ドライバ102と、電流検出部103と、を備える。マイコン101は、モータ300を回転させる回転数を取得する回転数取得部104と、回転数取得部104で取得した回転数に応じて、モータ300を駆動するPWM信号のデューティ比を設定するデューティ比設定部105と、デューティ比設定部105で設定したデューティ比のPWM信号を出力するPWM信号出力部106と、を有する。ドライバ102は、PWM信号出力部106が出力するPWM信号に基づきモータ300を駆動する。電流検出部103は、例えばシャント抵抗で構成され、モータ300に流れる電流を検出する。本実施形態では、回転数取得部104、デューティ比設定部105及びPWM信号出力部106は、プログラムをマイコン101で実行することによって実現される。モータ駆動装置100は、マイコン101で実行されるプログラムを記憶する記憶部を有する。回転数取得部104、デューティ比設定部105及びPWM信号出力部106は、ハードウェアで実現されるものであってもよい。
図1の駆動回路81は、
図4のマイコン101、ドライバ102及び電流検出部103の一例である。
図4のモータ駆動装置100の構成の一部を、
図1の駆動回路81の外部に設けてもよい。
【0021】
モータ駆動装置100は、モータ300の回転位置を検出するセンサを有してそのセンサによる検出結果に基づいてモータ300の回転位置を検出するものであってもよい。モータ駆動装置100は、モータ300の回転位置を検出するセンサを有しないでセンサレス制御を行うものであってもよい。
【0022】
回転数設定部200は、モータ駆動装置100によってモータ300を回転させる回転数を設定する。回転数取得部104は、回転数設定部200で設定された、モータ300を回転させる回転数を取得する。モータ駆動装置100は、回転数設定部200で設定された回転数でモータ300を回転させる。モータ駆動装置100は、回転数設定部200を含むものであってもよい。回転数設定部200は、例えば、回路基板80に搭載されたディップスイッチである。回転数設定部200がディップスイッチの場合、操作者は、ディップスイッチのオン/オフパターンでモータ300の回転数を設定することが出来る。回転数設定部200は、ディップスイッチやロータリースイッチの他、回路基板80上に設けた抵抗、ジャンパー線、半田などでスイッチを構成し、モータ300を回転させる回転数を設定するものであってもよい。また、回転数取得部104は、外部から通信によって前記モータを回転させる回転数を取得するものであってもよい。
【0023】
<モータ駆動装置の動作>
デューティ比設定部105は、電流検出部103で検出した電流が第1閾値に達したときに、デューティ比を、モータ300を駆動開始する際の初期値よりも大きな所定値に設定する第1制御と、電流検出部103で検出した電流が前記第1閾値よりも大きな第2閾値に達したときに、デューティ比を、初期値に設定する第2制御と、を実行する。また、デューティ比設定部105は、第1閾値及び第2閾値の少なくともひとつを、回転数取得部104で取得した回転数に応じて変更する。また、デューティ比設定部105は、電流検出部103で検出した電流が第3閾値に達したときに、所定時間の間、デューティ比を0パーセントに設定する第3制御をさらに有する。第3閾値は、第2閾値よりも大きく、第2閾値は、前記第1閾値よりも大きい。
【0024】
図5は、モータ駆動装置100によるモータ駆動処理を示すフローチャートである。
モータ駆動装置100は、ステップS501において、操作者によるモータ駆動開始の指示を待つ。モータ駆動開始の指示は、例えば電源投入やスイッチ操作である。モータ駆動装置100は、操作者によるモータ駆動開始の指示を受け付けると(ステップS501:Yes)、ステップS502の回転数取得処理、ステップS503のデューティ比設定処理、及びステップS504のPWM信号出力処理を、操作者によるモータ停止の指示(ステップS505:Yes)を受け付けるまで繰り返す。
【0025】
ステップS502の回転数取得処理は、回転数設定部200によって設定された回転数を回転数取得部104が取得する処理である。回転数取得処理で取得した回転数は、デューティ比設定処理に引き渡される。ステップS503のデューティ比設定処理は、
図6~
図9を参照して後述するように、デューティ比設定部105によってデューティ比を設定する。デューティ比設定処理で設定したデューティ比は、PWM信号出力処理に引き渡される。ステップS504のPWM信号出力処理は、デューティ比設定処理で設定したデューティ比のPWM信号を生成し、そのPWM信号をドライバ102に出力する。
【0026】
図6は、モータ駆動装置100によるデューティ比設定処理を示すフローチャートである。
まず、デューティ比設定部105は、ステップS601において、デューティ比を初期値に設定する。この初期値は、駆動するモータ300の特性に応じて予め定めた値であり、停止状態のモータ300をスムーズかつ効率的に動き出させるためのデューティ比である。この初期値は、例えば1%である。
【0027】
続いて、デューティ比設定部105は、ステップS602において、回転数に応じて閾値を変更する。ここで変更する閾値は、第1制御で用いる第1閾値、及び第2制御で用いる第2閾値である。デューティ比設定部105は、第1閾値、及び第2閾値のいずれか一方のみを変更してもよい。
【0028】
まず、第1閾値の変更について説明する。デューティ比設定部105は、モータ300を回転させる回転数に応じた第1閾値を算出する。例えばモータ駆動装置100の製造者や運用者は、モータ300を回転させる回転数を初期設定時の回転数としてひとつ決め、その初期設定時の回転数でモータ300を回転させたときにモータ300を高効率で駆動出来る第1閾値を初期設定時の第1閾値として求める。この初期設定時の第1閾値は、例えばモータ300を実際に駆動したときの効率を実測することで求めることが出来る。例えばモータ駆動装置100の製造者や運用者は、初期設定時の回転数及びそれに対応した初期設定時の第1閾値をモータ駆動装置100の記憶部に記憶しておく。デューティ比設定部105は、記憶部に記憶してある初期設定時の回転数及び初期設定時の第1閾値を用いて、回転数取得部104から引き渡された回転数が初期設定時の回転数と異なる場合の第1閾値を算出する。
【0029】
例えば、初期設定時の回転数をN1とし、初期設定時の第1閾値をX1とし、回転数取得部104から引き渡された回転数をN2としたとき、回転数取得部104から引き渡された回転数N2でモータ300を駆動しているときに用いる第1閾値X2は式(1)で算
出される。
X2=(N1/N2)*X1(但し、/は除算の演算子であり、*は乗算の演算子である。)・・・式(1)
すなわち、デューティ比設定部105は、モータ300の回転数をN1からN2に変更する場合に、第1閾値をX1から、式(1)で算出したX2に変更する。
【0030】
デューティ比設定部105は、回転数取得部104から回転数を引き渡される都度、式(1)で第1閾値を算出してもよい。また、モータ300を駆動し得る回転数ごとに、式(1)により第1閾値を予め算出しておき、これを例えばテーブル形式で対応付けて記憶し、回転数取得部104から引き渡された回転数に対応する第1閾値をテーブルから読み出して第1制御で用いるようにしてもよい。デューティ比設定部105は、例えば、回転数が1300[rpm]の場合は、第1閾値を0.63A(アンペア)にし、回転数が1550[rpm]の場合は、第1閾値を0.52A(アンペア)にし、回転数が1800[rpm]の場合は、第1閾値を0.45A(アンペア)にする。
【0031】
第2閾値の変更について説明する。デューティ比設定部105は、モータ300を回転させる回転数に応じた第2閾値を算出する。例えばモータ駆動装置100の製造者や運用者は、モータ300を回転させる回転数を初期設定時の回転数としてひとつ決め、その初期設定時の回転数でモータ300を回転させたときにモータ300を高効率で駆動出来る第2閾値を初期設定時の第2閾値として求める。この初期設定時の第2閾値は、例えばモータ300を実際に駆動したときの効率を実測することで求めることが出来る。例えばモータ駆動装置100の製造者や運用者は、初期設定時の回転数及びそれに対応した初期設定時の第2閾値をモータ駆動装置100の記憶部に記憶しておく。デューティ比設定部105は、記憶部に記憶してある初期設定時の回転数及び初期設定時の第2閾値を用いて、回転数取得部104から引き渡された回転数が初期設定時の回転数と異なる場合の第2閾値を算出する。
【0032】
例えば、初期設定時の回転数をN1とし、初期設定時の第2閾値をY1とし、回転数取得部104から引き渡された回転数をN2としたとき、回転数取得部104から引き渡された回転数N2でモータ300を駆動しているときに用いる第2閾値Y2は式(2)で算出される。
Y2=(N1/N2)*Y1(但し、/は除算の演算子であり、*は乗算の演算子である。)・・・式(2)
すなわち、デューティ比設定部105は、モータ300の回転数をN1からN2に変更する場合に、第2閾値をY1から、式(2)で算出したY2に変更する。
【0033】
デューティ比設定部105は、回転数取得部104から回転数を引き渡される都度、式(2)で第2閾値を算出してもよい。また、モータ300を駆動し得る回転数ごとに、式(2)により第2閾値を予め算出しておき、これを例えばテーブル形式で対応付けて記憶し、回転数取得部104から引き渡された回転数に対応する第2閾値をテーブルから読み出して第2制御で用いるようにしてもよい。デューティ比設定部105は、例えば、回転数が1300[rpm]の場合は、第2閾値を0.80A(アンペア)にし、回転数が1550[rpm]の場合は、第2閾値を0.67A(アンペア)にし、回転数が1800[rpm]の場合は、第2閾値を0.58A(アンペア)にする。
【0034】
デューティ比設定部105は、ステップS603において第1制御を実行し、ステップS604において第2制御を実行し、ステップS605において第3制御を実行する。第1制御及び第2制御では、ステップS602で変更した第1閾値及び第2閾値を用いる。なお、第1制御、第2制御及び第3制御は、モータ駆動装置100によるモータ300の駆動中に、例えばタイマー割込みにより予め定めた周期で実行される。第1制御、第2制御及び第3制御の詳細については、
図7、
図8及び
図9を参照して後述する。
【0035】
デューティ比設定部105は、モータ300の駆動において、モータ300の回転し始めにステップS601で設定した初期値のデューティ比から、回転数取得部104から引き渡された回転数に対応したデューティ比に達するまで、デューティ比を徐々に増加させて更新する。ステップS606及びステップS607では、このデューティ比を更新する処理を実行する。デューティ比設定部105は、ステップS606において、現在のデューティが、回転数取得部104から引き渡された回転数に対応したデューティ比であるかを判定する。デューティ比設定部105は、現在のデューティが、回転数取得部104から引き渡された回転数に対応したデューティ比である場合には(ステップS606:Yes)、ステップS602に戻る。デューティ比設定部105は、現在のデューティが、回転数取得部104から引き渡された回転数に対応したデューティ比ではない場合には(ステップS606:No)、ステップS607に進む。デューティ比設定部105は、ステップS607において、デューティ比を予め定めた量(例えば2%)だけ増加させて更新する。デューティ比設定部105は、ステップS607の後、ステップS602に戻る。
【0036】
図7は、
図6に示した第1制御を示すフローチャートである。第1制御は、閾値をオーバーした後、所定時間(例えば0.1秒)の間にオーバー回数が所定回数(例えば30回)に達したら、ステップS701の判定を実行する。第1制御は、例えば、約350マイクロ秒毎に実行される。
まず、デューティ比設定部105は、ステップS701において、電流検出部103で検出した電流が第1閾値に達したか、すなわち電流検出部103で検出した電流が第1閾値以上であるかを判定する。電流検出部103で検出した電流が第1閾値以上でなければ(ステップS701:No)、ステップS701に留まる。電流検出部103で検出した
電流が第1閾値以上の場合(ステップS701:Yes)、ステップS702に進む。
【0037】
デューティ比設定部105は、ステップS702において、デューティ比を所定値に設定する。この所定値は、予め定めた一定値でもよいし、現在のデューティ比ごとに予め定めた値でもよいし、現在のデューティ比から予め定めた比率(例えば5%)を減算した値でもよい。例えば、デューティ比50%でモータ300を駆動していたときに、電流検出部103で検出した電流が第1閾値以上になった場合、デューティ比を45%に設定する。このステップS702で設定する所定値は、ステップS601で設定したデューティ比の初期値よりも大きい値である。デューティ比設定部105は、ステップS702に続いて、ステップS701に戻る。なお、第1制御は一連の処理が終了したら、すなわちステップS701でNoの場合及びステップS702が終了したら、
図6のS604へ進む。
【0038】
図8は、
図6に示した第2制御を示すフローチャートである。第2制御は、閾値をオーバーしたら、即座にステップS801の判定を実行する。第2制御は、例えば、PWM周期毎に数ナノ秒で実行される。
まず、デューティ比設定部105は、ステップS801において、電流検出部103で検出した電流が第2閾値に達したか、すなわち電流検出部103で検出した電流が第2閾値以上であるかを判定する。電流検出部103で検出した電流が第2閾値以上でなければ(ステップS801:No)、ステップS801に留まる。電流検出部103で検出した電流が第2閾値以上の場合(ステップS801:Yes)、ステップS802に進む。
【0039】
デューティ比設定部105は、ステップS802において、デューティ比を初期値に設定する。この初期値は、ステップS601で設定したデューティ比の初期値である。この初期値は、例えば1%である。デューティ比設定部105は、ステップS802に続いて、ステップS801に戻る。なお、第2制御は一連の処理が終了したら、すなわちステップS801でNoの場合及びステップS802が終了したら、
図6のS605へ進む。
【0040】
図9は、
図6に示した第3制御を示すフローチャートである。第3制御は、閾値をオーバーしたら、即座にステップS901の判定を実行する。第3制御は、例えば、約350マイクロ秒毎に実行される。
まず、デューティ比設定部105は、ステップS901において、電流検出部103で検出した電流が第3閾値に達したか、すなわち電流検出部103で検出した電流が第3閾値以上であるかを判定する。電流検出部103で検出した電流が第3閾値以上でなければ(ステップS901:No)、ステップS901に留まる。なお、第3制御は、電流検出部103で検出した電流が第3閾値未満の場合、すなわちステップS901でNoの場合、
図6のS606へ進む。電流検出部103で検出した電流が第3閾値以上の場合(ステップS901:Yes)、ステップS902に進む。第3閾値は、モータ駆動装置100やモータ300を過電流による焼損等から保護するための閾値であり、回転数取得部104から引き渡された回転数によらずに一定の値であって、例えば1A(アンペア)である。
【0041】
デューティ比設定部105は、ステップS902において、デューティ比を0%に設定する。すなわちモータ300を停止させる。その後、デューティ比設定部105は、ステップS903において、所定時間(例えば6秒)の経過を待つ。所定時間が経過したならば(ステップS903:Yes)、マイコン101は、処理をリセットし、ステップS501から処理を再スタートする。
【0042】
<モータ駆動装置100の作用・効果>
次に、モータ駆動装置100の作用・効果について説明する。
【0043】
上述の実施形態に係る発明においては、モータを駆動するモータ駆動装置であって、前記モータを回転させる回転数を取得する回転数取得部と、前記回転数取得部で取得した回転数に応じて、前記モータを駆動するPWM信号のデューティ比を設定するデューティ比設定部と、前記デューティ比設定部で設定したデューティ比のPWM信号を出力するPWM信号出力部と、前記PWM信号出力部が出力するPWM信号に基づき前記モータを駆動するドライバと、前記モータに流れる電流を検出する電流検出部と、を備え、前記デューティ比設定部は、前記電流検出部で検出した電流が第1閾値に達したときに、前記デューティ比を、前記モータを駆動開始する際の初期値よりも大きな所定値に設定する第1制御と、前記電流検出部で検出した電流が前記第1閾値よりも大きな第2閾値に達したときに、前記デューティ比を、前記初期値に設定する第2制御と、を実行し、前記デューティ比設定部は、前記第1閾値及び前記第2閾値の少なくともひとつを、前記回転数取得部で取得した回転数に応じて変更する。
このため、モータを効率よく駆動することが出来る。
また、簡易な方法で、トルク制御が可能となり、モータの温度上昇を抑制することが出来る。
【0044】
また、前記デューティ比設定部は、前記電流検出部で検出した電流が第3閾値に達したときに、所定時間の間、前記デューティ比を0パーセントに設定する第3制御をさらに有し、前記第3閾値は、前記第2閾値よりも大きく、前記第2閾値は、前記第1閾値よりも
大きい。
このため、電流検出部で検出した電流を第1閾値で制限出来ずに、電流がさらに上昇した場合であっても第2閾値に達したことにより電流を制限することが出来、モータを安定して駆動することが出来る。また、電流検出部で検出した電流が第3閾値に達してモータを停止することになる前に、電流が第2閾値に達したことにより制限することが出来、モータを安定して駆動することが出来る。
【0045】
また、前記デューティ比設定部は、前記第1制御を第1周期で実行し、前記第2制御を前記第1周期よりも短い第2周期で実行する。
このため、電流検出部で検出した電流を第1閾値と比較する第1制御を実行する頻度よりも、第2閾値と比較する第2制御を実行する頻度が高いことで、電流が第2閾値に達した場合をより確実に検出することが出来、モータを安定して駆動することが出来る。
【0046】
また、前記デューティ比設定部は、前記モータの回転数N1をN2に変更する場合に、前記第1閾値X1を、X2=(N1/N2)*X1(但し、/は除算の演算子であり、*は乗算の演算子である。)で表されるX2に変更する。
このため、簡単な数式によって変更後の第1閾値を求めることが出来る。
【0047】
また、前記N1は初期設定時のモータ回転数であり、前記X1は初期設定時の前記第1閾値である。
このため、変更後の第1閾値は、信頼の高い初期設定値に基づいて求めるので信頼できる値を求めることが出来る。
【0048】
また、前記デューティ比設定部は、前記モータの回転数N1をN2に変更する場合に、前記第2閾値Y1を、Y2=(N1/N2)*Y1(但し、/は除算の演算子であり、*
は乗算の演算子である。)で表されるY2に変更する。
このため、簡単な数式によって変更後の第2閾値を求めることが出来る。
【0049】
また、前記N1は初期設定時のモータ回転数であり、前記Y1は初期設定時の前記第2閾値である。
このため、変更後の第2閾値は、信頼の高い初期設定値に基づいて求めるので信頼できる値を求めることが出来る。
【0050】
また、前記モータを回転させる回転数を設定する回転数設定部を更に備え、前記回転数取得部は、前記回転数設定部で設定された回転数を取得する。
このため、回転数設定部によってモータの回転数を設定することが出来る。
【0051】
また、前記回転数設定部は、回路基板上のスイッチである。
このため、回路基板上のスイッチによりモータの回転数を簡単に設定することが出来る。
【0052】
また、前記回転数取得部は、外部から通信によって前記モータを回転させる回転数を取得する。
このため、外部から通信によってモータの回転数を簡単に設定することが出来る。
【0053】
また、前記モータは軸流ファンを回転させるモータである。
このため、軸流ファン用のモータにおいて、回転数に応じた適切な閾値を設定することが出来、モータの温度上昇を抑制することができる。
【0054】
上述した実施形態のモータ駆動装置で駆動するモータの用途は、特に限定されない。上述した実施形態のモータは、例えば、軸流ファンを回転させるモータである。また、上述した各構成は、相互に矛盾しない範囲内において、適宜組み合わせることが出来る。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲及び要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10 モータ
21 モータハウジング
30 モータ部
40 ステータ
50 ロータ
80 回路基板
81 駆動回路
100 モータ駆動装置
101 マイコン
102 ドライバ
103 電流検出部
104 回転数取得部
105 デューティ比設定部
106 PWM信号出力部
200 回転数設定部
300 モータ