(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電気特性測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20241008BHJP
G01R 27/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01R27/26 C
G01R27/02 E
(21)【出願番号】P 2020194859
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2023-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019212138
(32)【優先日】2019-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2020年第44回静電気学会全国大会 令和2年9月25日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】000183738
【氏名又は名称】春日電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504268744
【氏名又は名称】独立行政法人労働者健康安全機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】弁理士法人アイリンク国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】崔 光石
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】長田 裕生
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-230983(JP,A)
【文献】特開平6-242159(JP,A)
【文献】特開2009-228294(JP,A)
【文献】特開2007-292686(JP,A)
【文献】特開2005-207926(JP,A)
【文献】特開2009-180159(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108527(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/00
G01N 27/00
H05F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象に接触させるための検出端子と、
この検出端子に接続したキャパシタと、
このキャパシタの電位を検知する電圧検知手段と、
この電圧検知手段が検知した電位を演算する演算手段と
を備え、
上記検出端子を測定対象に接触させる一方、
上記演算手段は、
上記検出端子を測定対象に接触させる前に上記電圧検知手段が検知したキャパシタの電位を初期電位とし、上記検出端子を測定対象に接触させた後に電圧検知手段が検知したキャパシタの電位を接触後電位として、
上記初期電位と接触後電位と
の比率に基づいて、上記測定対象の
静電容量を演算する
電気特性測定装置。
【請求項2】
測定対象に接触させるための検出端子と、
この検出端子に接続したキャパシタと、
このキャパシタの電位を検知する電圧検知手段と、
この電圧検知手段が検知した電位を演算する演算手段と
を備え、
上記検出端子を測定対象に接触させる一方、
上記演算手段は、
上記検出端子を測定対象に接触させる前に上記電圧検知手段が検知したキャパシタの電位を初期電位とし、上記検出端子を測定対象に接触させた後に電圧検知手段が検知したキャパシタの電位を接触後電位として、
上記接触後電位の減衰時間に基づいて、上記測定対象の
漏洩抵抗値を演算する電気特性測定装置。
【請求項3】
上記キャパシタを可変容量型にした請求項1または2に記載された電気特性測定装置。
【請求項4】
静電容量が異なる複数のキャパシタを並列に接続し、それらキャパシタから1つを上記キャパシタとして選択する選択手段を備えた請求項1~3のいずれか1項に記載された電気特性測定装置。
【請求項5】
常時接地状態を保つ接地素子を備える一方、
通常は上記検出端子を上記接地素子に接続し、上記検出端子を測定対象に押し付けて当該検出端子に押圧力が作用したとき、上記検出端子を上記接地素子から切り離すとともに、当該検出端子を上記キャパシタに接続する切換え機構を設けた請求項1~4のいずれか1項に記載された電気特性測定装置。
【請求項6】
上記検出端子に高抵抗素子を接続し、
上記検出端子は、上記高抵抗素子を介して上記接地素子または上記キャパシタと接続される請求項
5に記載された電気特性測定装置。
【請求項7】
上記切換え機構は、
上記検出端子と一体的に移動するとともにこの検出端子と電気的に接続された切換え素子と、
常時接地状態を保つ上記接地素子と、
上記切換え素子にばね力を作用させ、そのばね力の作用で上記切換え素子を上記接地素子に接触させるばね部材と
を備え、
通常は、上記ばね部材のばね力で上記切換え素子を接地素子に接触させて上記検出端子を接地させる請求項
5または6に記載された電気特性測定装置。
【請求項8】
上記切換え機構は、
上記検出端子の軸線方向にこの検出端子と一体的に移動する切換え素子と、
一方の端部が上記切換え素子と間隔を保つとともに他方の端部が上記キャパシタに電気的に接続された導体連結素子とを備え、
上記切換え素子が上記ばね部材のばね力に抗して上記間隔分移動したとき、切換え素子とキャパシタとを、上記導体連結素子を介して接続する請求項
5~7のいずれか1項に記載された電気特性測定装置。
【請求項9】
上記キャパシタと当該キャパシタを充電させるための電源との間に設けた連動スイッチと、
この連動スイッチと上記切換え素子とを連動させる連動手段とを備え、
上記切換え素子が上記接地素子に接触するとともに、上記切換え素子が上記キャパシタから切り離されている位置関係において上記連動手段が上記連動スイッチを閉じ、上記切換え素子が上記接地素子から切り離されて上記切換え素子が上記キャパシタに電気的に接続された位置関係において上記連動手段が上記連動スイッチを開く構成にした請求項
7または8に記載された電気特性測定装置。
【請求項10】
測定対象が存在する雰囲気における可燃性物質の最小着火エネルギーを基準にして、その着火エネルギー以下の基準放電エネルギーを特定する一方、
上記検出端子の先端から上記高抵抗素子までの長さに応じて静電容量が決まる浮遊容量が生成される構成にし、
上記浮遊容量に蓄電される電荷量に対応した放電エネルギーが、上記基準放電エネルギー以下になるように上記長さを特定した請求項
6に記載された電気特性測定装置。
【請求項11】
上記検出端子の先端から上記高抵抗素子までの長さは、その長さに応じて決まる上記浮遊容量が、0.1pF~5pFになる長さを保ち、かつ、上記高抵抗素子を100MΩ~600MΩにした請求項
10に記載された電気特性測定装置。
【請求項12】
上記検出端子の先端から上記高抵抗素子までの長さは、上記浮遊容量が、3pFになる長さを保ち、かつ、高抵抗素子を100MΩにした請求項
10に記載された電気特性測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測定対象の属性としての電気特性を測定する静電容量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性溶剤や粉体などを取り扱う危険な場所に置かれる金属製容器などは、その属性としての静電容量が大きければ、そこに蓄積された電荷が放電したときの放電エネルギーも大きくなる。
また、放電エネルギーが大きければ、当該測定対象(上記金属容器など)が置かれる雰囲気における可燃性物質の最小着火エネルギーを上回りやすくなる。
もし、測定対象からの放電のエネルギーが上記最小着火エネルギーを上回れば、このエネルギーを上回った放電が着火事故の要因になってしまう。
【0003】
また、上記測定対象が確実に接地されれば、静電気が蓄積されることもなく、上記のように危険な放電が発生する心配はない。しかし、測定対象の材質や設置状況によって、当該測定対象の漏洩抵抗値も変わり、その抵抗値が大きい場合には接地対策をとったつもりでも、上記測定対象を確実に接地できないこともある。そのような場合には、静電気が着火放電の原因となることもあった。
【0004】
そこで、当該測定対象の属性としての静電容量や漏洩抵抗値などを事前に把握できれば、防爆対策も施しやすくなり、着火事故を未然に防ぐことができると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように測定対象の電気特性値である静電容量や漏洩抵抗値を事前にしかも簡単に把握して防爆対策を万全にしたいという要望が多いにもかかわらず、これまでにその要望に応える装置は存在しなかった。また、特許情報を検索したが、上記の要望に応えるものはなかった。
【0007】
この発明の目的は、測定対象の静電容量や漏洩抵抗値などの電気特性値を簡単に把握できる電気特性測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の静電容量測定装置は、測定対象に接触させるための検出端子と、この検出端子に接続したキャパシタと、このキャパシタの電位を検知する電圧検知手段と、この電圧検知手段が検知した電位を演算する演算手段とを備え、上記検出端子を測定対象に接触させる一方、上記演算手段は、上記検出端子を測定対象に接触させる前に上記電圧検知手段が検知したキャパシタの電位を初期電位とし、上記検出端子を測定対象に接触させた後に電圧検知手段が検知したキャパシタの電位を接触後電位として、上記初期電位と接触後電位との比率に基づいて、上記測定対象の静電容量を演算する。
【0010】
第2の発明は、測定対象に接触させるための検出端子と、この検出端子に接続したキャパシタと、このキャパシタの電位を検知する電圧検知手段と、この電圧検知手段が検知した電位を演算する演算手段とを備え、上記検出端子を測定対象に接触させる一方、上記演算手段が、上記検出端子を測定対象に接触させる前に上記電圧検知手段が検知したキャパシタの電位を初期電位とし、上記検出端子を測定対象に接触させた後に電圧検知手段が検知したキャパシタの電位を接触後電位として、上記接触後電位の減衰時間に基づいて、上記測定対象の漏洩抵抗値を演算する。
【0011】
第3の発明は、上記キャパシタを可変容量型にした。
【0012】
第4の発明は、静電容量が異なる複数のキャパシタを並列に接続し、それらキャパシタから1つを上記キャパシタとして選択する選択手段を備えた。
【0013】
第5の発明は、常時接地状態を保つ接地素子を備える一方、通常は上記検出端子を上記接地素子に接続し、上記検出端子を測定対象に押し付けて当該検出端子に押圧力が作用したとき、上記検出端子を上記接地素子から切り離すとともに、当該検出端子を上記キャパシタに接続する切換え機構を設けた。
【0014】
第6の発明は、上記検出端子に高抵抗素子を接続し、上記検出端子は、上記高抵抗素子を介して上記接地素子または上記キャパシタと接続される。
【0015】
第7の発明は、上記切換え機構が、上記検出端子と一体的に移動するとともにこの検出端子と電気的に接続された切換え素子と、常時接地状態を保つ上記接地素子と、上記切換え素子にばね力を作用させ、そのばね力の作用で上記切換え素子を上記接地素子に接触させるばね部材とを備え、通常は、上記ばね部材のばね力で上記切換え素子を接地素子に接触させて上記検出端子を接地させる。
【0016】
第8の発明は、上記切換え機構が、上記検出端子の軸線方向にこの検出端子と一体的に移動する切換え素子と、一方の端部が上記切換え素子と間隔を保つとともに他方の端部が上記キャパシタに電気的に接続された導体連結素子とを備え、上記切換え素子が上記ばね部材のばね力に抗して上記間隔分移動したとき、切換え素子とキャパシタとを、上記導体連結素子を介して接続する。
【0017】
第9の発明は、上記キャパシタと当該キャパシタを充電させるための電源との間に設けた連動スイッチと、この連動スイッチと上記切換え素子とを連動させる連動手段とを備え、上記切換え素子が上記接地素子に接触するとともに、上記切換え素子が上記キャパシタから切り離されている位置関係において上記連動手段が上記連動スイッチを閉じ、上記切換え素子が上記接地素子から切り離されて上記切換え素子が上記キャパシタに電気的に接続された位置関係において上記連動手段が上記連動スイッチを開く構成にした。
【0018】
第10の発明は、測定対象が存在する雰囲気における可燃性物質の最小着火エネルギーを基準にして、その着火エネルギー以下の基準放電エネルギーを特定する一方、上記検出端子の先端から上記高抵抗素子までの長さに応じて静電容量が決まる浮遊容量が生成される構成にし、上記浮遊容量に蓄電される電荷量に対応した放電エネルギーが、上記基準放電エネルギー以下になるように上記長さを特定した。
【0019】
第11の発明は、上記検出端子の先端から上記高抵抗素子までの長さが、その長さに応じて決まる上記浮遊容量が、0.1pF~5pFになる長さを保ち、かつ、上記高抵抗素子を100MΩ~600MΩにした。
【0020】
第12の発明は、上記検出端子の先端から上記高抵抗素子までの長さが、上記浮遊容量が、3pFになる長さを保ち、かつ、高抵抗素子を100MΩにした。
【発明の効果】
【0021】
この発明の静電容量測定装置によれば、当該測定対象の電気特性である静電容量や漏洩抵抗値を、検出端子を測定対象に接触させるだけで簡単に把握できる。したがって、測定対象に応じた防爆などの対策を事前に施すことができる。
【0022】
第3,4の発明によれば、測定対象に合わせて測定装置が備えているキャパシタの大きさを適切に設定することができ、電気特性値の測定精度を上げることができる。
【0023】
第5の発明によれば、測定対象の電気特性値を測定する前に測定対象を除電でき、当該測定対象の帯電の影響を排除できる。
【0024】
第6の発明によれば、測定対象と対向する検出端子側の浮遊容量を小さく設定することができ、測定対象と検出端子との間で放電が発生しても、その際の放電エネルギーを小さく抑えることができる。したがって、測定対象と検出端子との間の放電が着火原因となることを防止できる。
【0025】
第7,8の発明によれば、測定対象の除電と電気特性値の測定とを、一連の動作で行うことができる。
【0026】
第9の発明によれば、キャパシタの充電と、電気特性の測定との切り替えを自動的に行なうことができる。
【0027】
第10,11,12の発明によれば、帯電した測定対象と検出端子との間で放電が起こっても、その放電が着火原因になることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は第1実施形態の電気特性測定装置の断面図である。
【
図2】
図2は第1実施形態の電気特性測定装置の回路図である。
【
図3】
図3は第1実施形態の電圧検知手段が検知するキャパシタの電位を示したグラフで、測定対象が接地されていない場合の例である。
【
図4】
図4は第2実施形態の電圧検知手段が検知するキャパシタの電位を示したグラフで、測定対象から電荷が漏洩する場合の例である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1実施形態]
図1,2に示した第1実施形態は、接地されたケーシングAを備え、このケーシングAの開口部分から検出端子1の先端を突出させている。この検出端子1は高抵抗素子2を介して導電棒状体3に接続するとともに、この導電棒状体3を絶縁体4で被覆している。さらに、この導電棒状体3の端部、すなわち検出端子1とは反対側における端部に板状の切換え素子5を固定している。
上記のようにした検出端子1、高抵抗素子2及び導電棒状体3のそれぞれは軸線方向に一体的に移動可能である。
【0030】
さらに、上記ケーシングAには、板状の接地素子6を固定しているが、この接地素子6はケーシングAを介して常時接地されている。上記した絶縁体4と一体の導電棒状体3はこの接地素子6を貫通して検出端子1とは反対側に突出させるとともに、その突出端に上記切換え素子5を固定して、導電棒状体3と切換え素子5とを電気的に導通させている。
そして、上記接地素子6と対向して絶縁材料からなるばね受板7をケーシングA内に固定するとともに、このばね受板7と上記切換え素子5との間にばね部材8を介在させている。
【0031】
したがって、上記ばね部材8のばね力で通常は切換え素子5を接地素子6に接触させ、これら切換え素子5及び接地素子6を介して検出端子1を接地側に導通させている。
また、上記ばね受板7を境にして接地素子6とは反対側にキャパシタCを主要素とする測定電源回路9を設け、この測定電源回路9と電気的に接続された導体連結素子10を設けている。この導体連結素子10の先端は、接地素子6に接触した切換え素子5との間で間隔を保って対向している。
【0032】
上記のように構成したので、切換え素子5は通常はばね部材8のばね力の作用で接地素子6に接触して、検出端子1を接地側に導通している。したがって、検出端子1を図示の測定対象11に接触させれば、この測定対象11は接地側に接続されて除電される。
【0033】
上記の状態から、検出端子1を測定対象11にさらに強く押し付ければ、検出端子1と一体的に移動する切換え素子5がばね部材8のばね力に抗して移動し、接地素子6から切り離されるとともに、切換え素子5が導体連結素子10に接触し、検出端子1を測定電源回路9に接続する。
【0034】
したがって、検出端子1を測定対象11に接触させて除電するプロセスと、検出端子1を接地から切り離して測定電源回路9に接続するプロセスとを一連の動作で実現できる。
なお、上記のことからも明らかなように、切換え素子5、接地素子6、ばね部材8及び導体連結素子10のそれぞれが相まって、この発明の切換え機構を構成する。
【0035】
一方、上記測定電源回路9は、
図2に示すように、測定用電源であるキャパシタC、このキャパシタCの電圧を検知する電圧検知手段V、上記キャパシタCに蓄電させるための直流電源12、この電源12とキャパシタCとの間で開閉する連動スイッチ13及びこの連動スイッチ13とキャパシタCとの間を開閉する手動スイッチ15を設けている。
【0036】
そして、上記連動スイッチ13は連動手段14を介して切換え素子5と連動するようにしている。つまり、切換え素子5が接地素子6と接触しているときには、当該連動スイッチ13がオンに保たれ、キャパシタCが電源12に接続され、キャパシタCはチャージされる。
【0037】
また、切換え素子5がばね部材8に抗して移動すると、切換え素子5と接地素子6とが切り離されるとともに、切換え素子5と導体連結素子10とが接触状態を保つ。この接触状態では連動スイッチ13がオフになって、電源12によるキャパシタCのチャージは中断するとともに、キャパシタCに蓄えられた電荷が検出端子1を介して測定対象11に流れることになる。
【0038】
上記のようにした電気特性測定装置は、検出端子1を測定対象11に接触させただけのときには、切換え素子5がばね部材8のばね力の作用で接地素子6に接触して検出端子1を接地側に接続するとともに、連動スイッチ13を
図2に示すようにオンにしてキャパシタCをチャージする。
【0039】
検出端子1を上記のように測定対象11に接触させてから、当該検出端子1を測定対象11に押圧すると、検出端子1は導電棒状体3を介して切換え素子5をばね部材8のばね力に抗して押し、切換え素子5を接地素子6から切り離すとともに、切換え素子5を導体連結素子10に接触させる。
【0040】
また、上記のように切換え素子5が導体連結素子10に接触する過程では、連動手段14が連動スイッチ13を押し開くので、キャパシタCに対するチャージは中断されるとともに、このキャパシタCに蓄えられた電荷が、導体連結素子10、切換え素子5、導電棒状体3及び高抵抗素子2を介して検出端子1に導かれる。そして、このときのキャパシタCの電位Vcを電圧検知手段Vで検知する。
【0041】
そして、上記電圧検知手段Vには演算手段OPを接続し、電圧検知手段Vで検知した電位が上記演算手段OPに入力されるようにしている。
上記演算手段OPは、検出端子1を測定対象11に接触させる前に上記電圧検知手段Vが検知したキャパシタCの電位を初期電位V1とし、検出端子1を測定対象11に接触した後に電圧検知手段Vが検知したキャパシタCの電位を接触後電位V2として把握する。
なお、測定電源回路9及び演算手段OPは、ケーシングA内に一体的に組み込んでもよいし、ケーシングAの外に設けてもよい。
【0042】
上記のように初期電位V1と接触後電位V2を把握した演算手段OPは、
下記演算式
V2=(Co・V1)/(Co+Cx)・・・(1)
に基づいて、測定対象11の静電容量Cxを演算する。
なお、上記式において、CoはケーシングA内に設けられたキャパシタCの静電容量である。上記演算式(1)は、上記キャパシタCと測定対象11とが並列に接続された回路のもので、静電容量Cxが初期電位V1と接触後電位V2の比率に依存することがわかる。
【0043】
また、検出端子1を測定対象11に近づけていく過程で、もし、測定対象11が高い電位に帯電していると、この測定対象11と検出端子1との間で放電が起こり、着火性放電が発生することがある。このような着火性放電を防止するためにこの実施形態では検出端子1側に生成される浮遊容量SCを積極的に利用している。
【0044】
つまり、上記検出端子1に電圧が作用すると、検出端子1の先端から高抵抗素子2までの長さLと、この長さLに対向するケーシングAとの間で浮遊容量SCが生成される。そして、この浮遊容量SCの大きさは、上記長さLが長くなればなるほど大きくなる。
なお、この実施形態では、検出端子1とケーシングAとを対向させて、それらの間で浮遊容量SCが生成されるようにしたが、例えば検出端子1の対向相手としては、床面や接地電位を保った他の部材等を用いても良い。
【0045】
そして、上記浮遊容量SCは、検出端子1とケーシングAとの長さLに比例して容量が決まるが、その大きさをできるだけ小さくすることが望ましい。
このように浮遊容量SCの容量が微小であれば、検出端子1の先端と測定対象11との間で放電が発生したとしても、測定対象11と検出端子1との間には、浮遊容量の蓄電量に相当する電流しか流れないので、上記検出端子1と測定対象11とが瞬時に同電位になる。
また、浮遊容量SCの容量が小さいと、短い時間で充放電を繰り返すが、このように繰り返される充放電によって流れる電流も十分に少ないので、放電エネルギーも小さくなる。
【0046】
なお、上記浮遊容量SCは上記のように検出端子1と浮遊容量生成手段であるケーシングAとの長さLによって決まるが、この長さLも上記検出端子1の断面形状に応じて変化する。例えば、断面が平板状の導体あるいは大径の導体など、対向面積が大きなものであれば、その長さを相対的に短くできる。また、上記浮遊容量SCを形成する部分と外部の接地体との距離が小さくなるほど、容量が大きくなる。このように、浮遊容量SCの容量は上記長さLのみで決まるものではないが、上記長さLが短ければ短いほど小さくなることに変わりはない。したがって、この実施形態では、上記長さLを管理して浮遊容量SCの容量を管理するようにしている。
【0047】
また、上記高抵抗素子2は、検出端子1の先端から測定電源回路9までの導体部分から上記浮遊容量SC部分を区画し、上記放電時の電流の流れを抑えて浮遊容量SCに蓄電させるとともに、検出端子1の先端が測定対象11に接触した後は、測定対象11の静電気を接地素子6にスムーズに流せる抵抗値を保てばよい。
【0048】
例えば、浮遊容量SCを微小な3pF程度に設定するとともに、高抵抗素子2の抵抗値を100MΩ程度としたとき、時定数τは0.3msとなるので、3pF及び100MΩは十分に許容できるものである。
ただし、浮遊容量SCは小さければ小さいほどよい。なぜなら、浮遊容量SCが小さければ放電時の放電エネルギーを小さくできるからである。しかし、可燃性物質の最小着火エネルギーが大きい場合はそれに応じて浮遊容量SCの容量を大きくしても良い。実際には0.1pF~5pFの範囲であれば許容限度内といえる。
【0049】
また、高抵抗素子2の抵抗値は、放電時に、測定対象11から放電された電荷を浮遊容量SCに蓄電させるためには大きければ大きいほど良い。しかし、測定対象11の除電を考慮すると、その大きさにも限界がある。その上限は、時定数τを考慮すると500~600MΩ程度である。
【0050】
上記のようにした除電機構は、ケーシングAとともに検出端子1の先端を測定対象11に接近させる。この接近過程で検出端子1の先端と測定対象11との間で放電が起こると、両者の間に電流が流れる。このとき高抵抗素子2の抵抗値が大きいので、測定対象11からの放電電流は一気に検出端子1を流れることはなく、浮遊容量SCに測定対象11と同電位になるまで電荷が蓄電される。上記浮遊容量SCは、容量が小さいので瞬時にフル充電され、検出端子1の先端の電位が測定対象11と同電位になる。
【0051】
検出端子1の先端と測定対象11とが瞬時に同電位になるので、放電は停止し、放電によって流れる電流はきわめて小さいものになる。
また、放電によって浮遊容量SCにおける電位がゼロになれば、再び放電が起こり、浮遊容量の電位がゼロになるたびに放電が繰り返されるが、繰り返される放電による電流も小さいので、着火放電になることはない。
【0052】
上記のようにした第1実施形態を用いて測定対象11の電気特性である静電容量を測定する方法を次に説明する。
なお、この実施形態で静電容量を測定する測定対象11は、電気的に浮いているものである。
【0053】
検出端子1を測定対象11から離しているときには、切換え素子5と導体連結素子10の先端とが離れているので、連動スイッチ13はオンの状態を保つ。なお、この場合には手動スイッチ15もオンにしておく。
したがって、キャパシタCには電源12からチャージされるとともに、キャパシタCをフル充電させる。
【0054】
そして、このフル充電時のキャパシタCの電位を電圧検知手段Vで検知して、その電位に関するデータを演算手段OPに入力するとともに、演算手段OPはそれを初期電位V1として把握する。
キャパシタCが上記のように充電されたら、検出端子1を測定対象11に接触させる。なお、その接触させる過程で、検出端子1と測定対象11との間に放電が発生しても、上記したように放電エネルギーが小さいので着火事故はほとんど発生しない。
【0055】
そして、検出端子1が測定対象11に接触すれば、先ず、測定対象11が接地素子6に接続するので、測定対象11は除電される。このように測定対象11を除電するのは次の理由からである。すなわち、測定対象11がもし帯電していれば、キャパシタCからの電荷が、測定対象11が保持している電荷に上乗せさせられるので、当該測定対象11の属性である静電容量を測定することができなくなるからである。
【0056】
上記のようにして測定対象11を除電してその帯電量をゼロにしたら、測定対象11に接触させていた検出端子1をさらに押し込む。検出端子1がさらに押し込まれると、その押込み力が導電棒状体3を介して切換え素子5に伝達され、切換え素子5が接地素子6から切り離され、測定対象11を電気的に浮いた状態に保つ。
また、切換え素子5が接地素子6から切り離されたとき、この切換え素子5は導体連結素子10に接触し、測定対象11とキャパシタCとを連通させる。
なお、上記のように切換え素子5が接地素子6から切り離されたときには、その切換え素子5に連動して連動手段14が移動し、連動スイッチ13をオフにする。
【0057】
連動スイッチ13がオフの状態で、検出端子1が測定対象11に接触すれば、上記キャパシタCの蓄電された電荷の一部が検出端子1から測定対象11に流れる。
この状態で測定対象11の電荷量が飽和して、当該測定対象11の電位とキャパシタCの電位とが同電位になるが、電圧検知手段Vは、同電位になったときのキャパシタCの電位を接触後電位V2として検知してそれを演算手段OPに入力する。
演算手段OPは上記した演算式(1)を用いて、上記初期電位V1、上記接触後電位V2、当該キャパシタCの静電容量Coから、測定対象11の静電容量Cxを算出する。
【0058】
なお、
図3は、電圧検知手段Vが検出するキャパシタCの電位Vcの時間変化を示したグラフであり、検出端子1を測定対象11に押し付け、検出端子1がキャパシタCに接続された時点を、時間を示す横軸の0点としている。そして、この
図3は、測定対象11が電気的に浮いた状態を維持している場合で、キャパシタCの電荷が測定対象11に流れてキャパシタCの電位が瞬時に初期電位V1から接触後電位V2に変化した後、接触後電位V2がほぼ一定に維持される例を示したものである。
このように、第1実施形態の測定装置では、上記初期電位V1と接触後電位V2を検出することで、測定対象11の静電容量Cxを演算することができる。
【0059】
上記第1実施形態では、除電機構を装置に一体的に組み込んでいるが、まったく別個の除電装置を用いて測定対象11をあらかじめ除電するようにしてもよい。
【0060】
また、上記キャパシタCの静電容量は、測定対象11の想定される静電容量に応じて決めるのが理想的である。
例えば、測定対象11の想定静電容量が小さいにもかかわらず、キャパシタCの静電容量を極端に大きくすれば、上記初期電位V1と接触後電位V2との差が小さくなって、その変化の割合が読みづらくなる。
反対に、測定対象11の想定静電容量が大きにもかかわらず、キャパシタCの静電容量が小さければ、キャパシタCの静電容量だけでは測定対象11の静電容量を検出することができなくなる。
【0061】
上記のようなことから、キャパシタCを可変容量型にしたり、あるいはその静電容量を異にした複数のキャパシタを接続し、図示していない選択手段を用いて、適切な静電容量を有するキャパシタを選択したりしても良い。
なお、上記演算手段OPに図示していないディスプレイを接続し、演算手段OPの演算結果を可視化してもよい。
【0062】
また、図中符号16は、ケーシングAの先端を覆う絶縁素子で、電気を通しにくい高抵抗物質、あるいは電気を通さない絶縁物質からなっている。
上記のようにケーシングAの先端を覆ったのは、ケーシングAと測定対象11との間で異常放電が発生するのを防ぐためである。
【0063】
[第2実施形態]
次に、測定対象11の漏洩抵抗値を測定する第2実施形態を説明する。
漏洩抵抗値が測定される測定対象11は、電気的に完全に浮いているものではなく、当該測定対象11から接地に電荷を流すことが可能なものである。
また、この第2実施形態では、上記演算手段OPが測定対象11の漏洩抵抗値Rxを演算する機能を備えているが、その他の構成は、
図1,2に示す第1実施形態と同じである。
【0064】
なお、
図4は、電圧検知手段Vが検知するキャパシタCの電位Vcの例を示したグラフである。この
図4のグラフにおいても、時間を示す横軸の0点が、検出端子1を介して測定対象11と上記キャパシタCとが接続された時点である。そして、検出端子1が測定対象11に接触する前のキャパシタCの電位は初期電位V1、検出端子1が測定対象11に接触した後のキャパシタCの電位が接触後電位V2である。ただし、この第2実施形態では、測定対象11を介してキャパシタCの電荷が接地へ漏洩するため、接触後電位V2は時間とともに指数関数的に減衰する。
【0065】
また、第2実施形態の演算手段OPは、電圧検知手段Vが検知した接触後電位V2の減衰時間τmから測定対象11の漏洩抵抗値Rxを演算する機能を備えている。具体的には、演算手段OPは、接触後電位V2が初期電位V1の37%である電位V2(τm)になるまでの減衰時間τmを特定し(
図4参照)、下記演算式
τm=Co・(Rc+Rx)・・・(2)
に基づいて測定対象11の漏洩抵抗値Rxを演算する。
【0066】
なお、上記演算式(2)においてRcは上記高抵抗素子2の抵抗値である。そして、この演算式(2)は、キャパシタと抵抗とを直列に接続したRC回路の時定数を示したもので、測定対象11の漏洩抵抗値Rxが小さいほど上記キャパシタCの電位の減衰時間が小さくなることを示している。
【0067】
この第2実施形態で、測定対象11の漏洩抵抗値Rxを測定する手順は、上記第1実施形態で静電容量Cxを測定する場合とほぼ同じである。
すなわち、検出端子1を測定対象11から離しているときに、手動スイッチ15をオンにして、電源12によってキャパシタCをフル充電させる。
【0068】
このフル充電時のキャパシタCの電位を電圧検知手段Vで検知して、初期電位V1として演算手段OPが把握する。
その後、検出端子1を測定対象11に接触させ、さらに検出端子1を押し込んで、キャパシタCと検出端子1とを接続させる。
キャパシタCが、測定対象11に接触した検出端子に接続すると、キャパシタCに充電された電荷が測定対象11へ流れ、電圧検知手段VはキャパシタCの接触後電位V2を検出してそのデータを演算手段OPへ入力する。
【0069】
この第2実施形態では、キャパシタCからの電荷が測定対象11を介して接地へ漏洩するので、上記接触後電位V2はキャパシタCの電荷量とともに減衰する。このように減衰する接触後電位V2が演算手段OPに入力されたら、演算手段OPはこの接触後電位V2から上記減衰時間τmを検出する。なお、演算手段OPは、電圧検知手段Vから入力される接触後電位V2が初期電位V1の37%である電位V2(τm)となるまでの時間を計測して減衰時間τmを特定しても良いし、接触後電位V2が実際に電位V2(τm)まで減衰しなくても、電圧検知手段Vから入力された接触後電位V2の変化からその減衰曲線の近似式を演算して、減衰時間τmを演算によって特定するようにしてもよい。
【0070】
演算手段OPは、上記減衰時間τmと、上記した演算式(2)とに基づいて測定対象11の漏洩抵抗値Rxを演算する。
このように測定対象11の漏洩抵抗値Rxを測定することによって、測定対象の接地状況や、接地しやすさを把握することができる。
なお、測定対象11が電気的に浮いた状態であれば、接触後電位V2は
図3に示すようにほとんど減衰しないので、減衰時間τmを実際に計測することはほとんど不可能であるが、漏洩抵抗値Rxが十分に高いことが確認できる。
また、この第2実施形態においても、測定前の測定対象11が帯電していて、検出端子1を近づけた際に、検出端子1と測定対象11との間に放電が発生したとしても、上記した第1実施形態と同様に放電エネルギーを小さくできるので、着火事故の心配はほとんどない。
【0071】
上記第1,2実施形態はそれぞれ、測定対象11の静電容量Cxと、漏洩抵抗値Rxを測定する場合を説明したが、上記演算手段OPは静電容量Cxと漏洩抵抗値Rxとの両者を演算する機能を同時に備えて、どちらの電気特性値を測定するかによって、測定者が演算手段OPの機能を選択できるようにしてもよい。
【0072】
なお、上記漏洩抵抗値Rxを測定する測定装置としては、上記高抵抗素子2を介在させないか、上記高抵抗素子2の抵抗値Rcの値をあまり大きくしないほうが好ましい。なぜなら、上記演算式(2)において、上記高抵抗素子2の抵抗値Rcが測定対象11の漏洩抵抗値Rxに比べて大きすぎる場合には、減衰時間τmに対する抵抗値Rcの影響が大きくなって、漏洩抵抗値Rxを正確に検出できない可能性があるからである。
また、測定対象11を除電する際には上記高抵抗素子2を介して行い、抵抗値を測定する際には、高抵抗素子2を回避して検出端子1が直接キャパシタCに接続されるように構成すれば、上記抵抗値Rcの影響を排除することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
可燃性溶剤や粉体などを取り扱う危険な場所での着火事故対策を施すために、測定対象の静電容量や漏洩抵抗値を測定するのに便利である。
【符号の説明】
【0074】
1…検出端子、2…高抵抗素子、5…切換え素子、6…接地素子、8…ばね部材、10…導体連結素子、11…測定対象、12…電源、L…長さ、SC…浮遊容量、C…キャパシタ、V…電圧検知手段、13…連動スイッチ、14…連動手段、Vc…キャパシタCの電位、SC…浮遊容量、OP…演算手段