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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】分析システム及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20241008BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20241008BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241008BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20241008BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20241008BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241008BHJP
【FI】
G01N21/65
H01M8/02
H01M8/04 Z
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M8/10 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020089734
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021183949
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 潤治
(72)【発明者】
【氏名】押川 克彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 力矢
(72)【発明者】
【氏名】西山 博通
(72)【発明者】
【氏名】高椋 庄吾
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-035669(JP,A)
【文献】特開2019-035859(JP,A)
【文献】特開平01-102342(JP,A)
【文献】特表2013-517490(JP,A)
【文献】特表2013-517491(JP,A)
【文献】特表2016-535855(JP,A)
【文献】特表2018-515744(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142907(WO,A1)
【文献】特開2011-170212(JP,A)
【文献】特開2010-066239(JP,A)
【文献】特開2011-257691(JP,A)
【文献】特開平05-090368(JP,A)
【文献】特表2014-501915(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046423(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62-G01N 21/74
A61B 3/00-A61B 5/398
G02B 21/00-G02B 21/36
H01M 4/00-H01M 4/98
H01M 8/00-H01M 8/2495
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
KAKEN
ACS PUBLICATIONS
APS Journals
SPIE DigitalLibrary
IEEE Xplore
Optica
Scitation
Science Direct
Oxford Journals
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定用の光をサンプルに照射し、前記サンプルにおける発光強度を測定する分光計(30)と、
前記発光強度の測定結果に基づいて、前記サンプルの分析を行う診断装置(50)と、
を備え、
前記診断装置(50)は、前記発光強度の測定結果と、前記サンプルへの照射光の強度分布と、に基づいて、前記サンプルに含まれる分析対象の物質の連続的な濃度分布を計算する、
分析システム(100)。
【請求項2】
前記分光計(30)は、前記サンプルの厚さ方向又は面内方向において、前記照射光の位置を移動させて、前記発光強度の測定を複数回繰り返し、
前記診断装置(50)は、前記発光強度の複数回の測定結果と、前記サンプルへの照射光の強度分布と、に基づいて、前記サンプルに含まれる分析対象の物質の連続的な濃度分布を計算する、
請求項1に記載の分析システム(100)。
【請求項3】
前記診断装置(50)は、前記物質の3次元領域における濃度分布を計算する、
請求項1又は2に記載の分析システム(100)。
【請求項4】
前記測定用の光は、角振動数が異なる2つのレーザー光であり、
前記分光計(30)は、前記角振動数が異なる2つのレーザー光を前記サンプルに照射し、前記サンプルから発生したCARS光の強度を測定するCARS分光計である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の分析システム(100)。
【請求項5】
前記発光強度は、前記角振動数が高い方の照射光の強度の二乗と、前記角振動数が低い方の照射光の強度の積に比例する、
請求項4に記載の分析システム(100)。
【請求項6】
前記サンプルは、燃料電池(10)が備える電解質膜(1)か、又は前記電解質膜(1)の両側に配置される1対の電極(2)であり、
前記分析対象は、前記電解質膜(1)又は前記電極(2)に含まれる金属、金属化合物又は水である
請求項1~5のいずれか一項に記載の分析システム(100)。
【請求項7】
測定用の光をサンプルに照射し、前記サンプルにおける発光強度に基づいて、前記サンプルの分析を行う分析方法であって、
前記発光強度の測定結果と、前記サンプルへの照射光の強度分布と、に基づいて、前記サンプルに含まれる分析対象の物質の連続的な濃度分布を計算するステップを含む、
分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析システム及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サンプルの定性分析又は定量分析のため、分光法を用いた測定が行われている。例えば、燃料電池に使用される電解質膜中の水分子の測定に、分光法の1つであるコヒーレント反ストークスマン散乱法が用いられている(特許文献1参照)。分光法は、非破壊及び非接触で測定が可能であり、製品の評価に特に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-156813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分光計の空間分解能を上げるには、通常、照射光の焦点を絞る。また、光の照射位置を変えることによって複数の位置での発光強度を測定する。照射光を絞るほど、また照射位置を細かく変えるほど、空間分解能は上がる。
【0005】
しかしながら、照射光を絞るにも限界がある。照射光を絞りすぎるとサンプルがダメージを受ける可能性もある。また、測定回数が増えるほど測定にもその測定結果の解析にも時間を要する。
【0006】
本発明は、物質の連続的な分布を簡易な測定により得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の分析システム(100)は、測定用の光をサンプルに照射し、前記サンプルにおける発光強度を測定する分光計(30)と、前記発光強度の測定結果に基づいて、前記サンプルの分析を行う診断装置(50)と、を備え、前記診断装置(50)は、前記発光強度の測定結果と、前記照射光の強度分布と、に基づいて、前記サンプルに含まれる分析対象の物質の連続的な濃度分布を計算する。
【0008】
本発明の他の一態様の分析方法は、測定用の光をサンプルに照射し、前記サンプルにおける発光強度に基づいて、前記サンプルの分析を行う分析方法であって、前記発光強度の測定結果と、前記照射光の強度分布と、に基づいて、前記サンプルに含まれる分析対象の物質の連続的な濃度分布を計算するステップを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、物質の連続的な分布を簡易な測定により得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の分析システムの構成例を示す模式図である。
図2】燃料電池の斜視図である。
図3】セルの構成を示す断面図である。
図4】CARS分光計の構成例を示す模式図である。
図5】測定用の光の強度分布の測定方法を説明する模式図である。
図6】一定領域の物質の発光強度の計算方法を説明する模式図である。
図7】電解質膜に含まれる水の連続的な分布を表すプロファイルの一例を示すグラフである。
図8】燃料電池の出力電圧と電解質膜中の水由来の光の強度との相関を表すプロファイルの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の分析システム及び分析方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。以下に説明する構成は、本発明の一例(代表例)であり、この構成に限定されない。
【0012】
下記実施形態では、車両に搭載され、車両の駆動電力を供給する燃料電池の分析を行う例を説明するが、車両以外にも、電車等の他の移動体の発電システム、定置式発電システム等の燃料電池の分析にも本発明を適用できる。また、本発明は、燃料電池に限られず、他のサンプルの分析にも適用可能である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態の分析システム100の構成例を示す。
図1に示すように、分析システム100は、分光計30及び診断装置50を備える。
【0014】
本実施形態の分析システム100は、分析対象の燃料電池10及びその制御装置60とともに車両200に搭載される。制御装置60は、車両200に搭載された各種センサーからの信号に基づいて、燃料電池10の出力電圧を制御する。制御装置60は、例えば電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)等である。
【0015】
(燃料電池)
図2は、燃料電池10の斜視図である。
図2に示すように、燃料電池10は、スタック10a及びケーシング10bを備える。
スタック10aの周囲は、ケーシング10bに覆われ、封止される。
【0016】
スタック10aは、一列に重ねられたプレート状の複数のセル11からなる。セル11の周囲は、シーリングゴム12によって覆われ、封止される。
【0017】
図3は、セル11の構成例を示す。
図3に示すように、セル11は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)3、1対のセパレータ4及びサブガスケット5を備える。MEA3は、電解質膜1及び1対の電極2を備える。1対の電極2及び1対のセパレータ4は電解質膜1を挟むように配置され、電解質膜1の両側にそれぞれ電極2及びセパレータ4が積層されている。
【0018】
電解質膜1、電極2及びセパレータ4は、z方向に積層される。電解質膜1及び電極2のセパレータ4で覆われない周縁部は、シーリングゴム12によって覆われ、封止される。
【0019】
スタック10aにおいて、複数のセル11は電解質膜1、電極2及びセパレータ4の積層方向と同じz方向に重ねられる。x方向及びy方向は、セル11の面内で互いにz方向に直交する方向である。
【0020】
電解質膜1は、イオン伝導性の高分子電解質の膜である。電解質膜1としては、例えばナフィオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー;スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリイミド等の芳香族系ポリマー;ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸等の脂肪族系ポリマー等が挙げられる。
【0021】
電解質膜1は、耐久性向上の観点から、多孔質基材1aに高分子電解質を含浸させた複合膜であってもよい。多孔質基材1aとしては、高分子電解質を担持できるのであれば特に限定されず、多孔質、織布状、不織布状、フィブリル状等の膜を用いることができる。多孔質基材1aの材料としても特に限定されないが、イオン伝導性を高める観点から、上述したような高分子電解質を用いることができる。なかでも、フッ素系ポリマーであるポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン等は、強度及び形状安定性に優れる。
【0022】
1対の電極2のうち、一方の電極2はアノードであり、燃料極とも呼ばれる。他方の電極2はカソードであり、空気極とも呼ばれる。燃料ガスとして、アノードには水素ガスが供給され、カソードには酸素ガス又は酸素ガスを含む空気が供給される。
【0023】
アノードでは、水素ガス(H)が供給され、当該水素ガス(H)から電子(e)とプロトン(H)を生成する反応が生じる。電子は、図示しない外部回路を経由してカソードへ移動する。この電子の移動により外部回路では電流が発生する。プロトンは電解質膜1を経由してカソードへ移動する。
【0024】
カソードでは、酸素ガス(O)が供給され、外部回路から移動してきた電子により酸素イオン(O )が生成される。酸素イオンは、電解質膜1から移動してきたプロトン(2H)と結合して、水(HO)になる。
【0025】
電極2は、触媒層21を備える。本実施形態の電極2は、燃料ガスの拡散性向上のため、さらにガス拡散層22を備える。
【0026】
触媒層21は、触媒によって水素ガス及び酸素ガスの反応を促進する。触媒層21は、触媒と、触媒を担持する担体及びこれらを被覆するアイオノマーを含む。
触媒としては、例えば白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、コバルト(Co)、タングステン(W)等の金属、これら金属の混合物、合金等が挙げられる。なかでも、触媒活性、一酸化炭素に対する耐被毒性、耐熱性等の観点から、白金、白金を含む混合物、合金等が好ましい。
【0027】
担体としてはメソポーラスカーボンや酸化チタン等の導電性の金属化合物が挙げられる。分散性が良好で表面積が大きく、触媒の担持量が多い場合でも高温での粒子成長が少ない観点からは、メソポーラスカーボンが好ましい。
アイオノマーとしては、電解質膜1と同様のイオン伝導性の高分子電解質を使用することができる。
【0028】
ガス拡散層22は、供給された燃料ガスを触媒層21に均一に拡散することができる。ガス拡散層22としては、例えば導電性、ガス透過性及びガス拡散性を有するカーボン繊維等の多孔性繊維シートの他、発泡金属、エキスパンドメタル等の金属板等を用いることができる。
【0029】
セパレータ4は、複数のリブ4bが表面に設けられたプレートであり、バイポーラプレートとも呼ばれる。各リブ4bによってセパレータ4の表面に凹部4aが設けられる。凹部4aは、セパレータ4とMEA3との間に燃料ガスの流路を形成する。この流路は、燃料ガスの反応によって生じた水の排出路でもある。
【0030】
セパレータ4の材料としては、例えばカーボンの他、ステンレス鋼等の金属が用いられる。
【0031】
サブガスケット5は、MEA3の外周縁を囲むフィルム又はプレートであり、MEA3の支持体として機能する。サブガスケット5の材料としては、導電性が低い樹脂を用いることができる。樹脂材料としては特に限定されず、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)、ガラス入りポリプロピレン(PP-G)、ポリスチレン(PS)、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0032】
サブガスケット5は、外周縁部においてセパレータ4と当接することにより、セル11内部を封止する。
【0033】
(窓)
燃料電池10は、燃料電池10の外部から内部のMEA3に通じる窓B1~B3を備える。窓B1はケーシング10bに設けられ、窓B2はシーリングゴム12に設けられる。窓B3は、セパレータ4、ガス拡散層22及び触媒層21に設けられる。
【0034】
窓B1及びB2は、x方向、y方向及びz方向のいずれの方向に開口してもよい。窓B3はz方向に開口し、同じくz方向に開口する窓B1に通じる。
窓B1~B3は、単なる開口部であってもよいが、封止の観点からは、ガラスプレート又はガラス以外の光を通す素材で構成されるプレートが設けられた開口部であってもよい。
【0035】
分光計30は、これらの窓B1~B3を介して、セパレータ4が配置されていない周縁部側から、又はセパレータ4側から、燃料電池10内部のMEA3にレーザー光を照射し、当該MEA3からの光を受光することができる。分光計30とMEA3との間の光路は、ミラー等の光学系、光ファイバー、導波路等によって形成され得る。
【0036】
(分光計)
分光計30は、サンプルに測定用の光、例えばレーザー光を照射する。分光計30は、レーザー光の照射によってサンプルから発生した反射光、散乱光、及び発光等の光(以下、これらを発光と総称する)を受光し、当該発光の強度を測定する。
【0037】
分光計30の分光分析法としては、例えばコヒーレント反ストークスラマン散乱 (CARS:Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)法、ラマン分光法、赤外分光法(IR:Infrared Spectroscopy)、及びFT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)法等が挙げられる。
【0038】
なかでも、分光計30は、CARS法により測定を行うCARS分光計であることが好ましい。CARS分光計は、ラマン分光法等の他の分光分析法に比べて時間分解能が高い。例えば、中性子検出器の時間分解能では検出に10秒以上を要するが、CARS分光計は1秒未満で検出が可能であり、燃料電池10の内部の状態をリアルタイムに分析することが可能になる。
【0039】
CARS分光計は、角振動数が異なる2つのレーザー光をサンプルに照射し、当該サンプルから発生するCARS光の強度を測定する。
【0040】
図4は、CARS分光計30Aの構成例を示す。
図4に示すように、CARS分光計30Aは、光源31、光分岐器32、変換器33、34、遅延回路35、検出器36及びプローブ38を備える。CARS分光計30Aにおける光路は、図示しないミラー等の光学系によって形成されるが、光ファイバー、導波路等によって形成されてもよい。
【0041】
CARS分光計30Aでは、光源31から出射されたレーザー光が、光分岐器32により2つのレーザー光に分岐する。光源31としては、例えばチタンサファイヤレーザー、パルスレーザー光源等が挙げられる。光分岐器32としては、例えばダイクロックミラー、ハーフミラー等の光学系の他、分岐を有する導波路、光ファイバー等が挙げられる。
【0042】
分岐した一方のレーザー光は、変換器33により角振動数ω2のストークス光L2に変換される。変換器33としては、例えばフォトニック結晶ファイバー、光パラメトリック発振器等が挙げられる。ストークス光L2は、異なる波長の光を含む白色光であってもよい。広波長域のストークス光L2を用いることにより、様々な振動モードを広く検出することができる。
【0043】
分岐したもう一方のレーザー光は、変換器34により角振動数ω1のポンプ光L1に変換される。変換器34としては、例えばフォトニック結晶ファイバー、光パラメトリック発振器等が挙げられる。ポンプ光L1の角振動数ω1は、ストークス光L2の角振動数ω2よりも高い。ポンプ光L1は、遅延回路35を経由してストークス光L2と同じ光路に導かれる。
【0044】
ストークス光L2及びポンプ光L1は、プローブ38により集光されてサンプルSに照射される。ポンプ光L1は遅延回路35を経由するため、ストークス光L2よりも遅延してサンプルSに照射される。ポンプ光L1とストークス光L2の角振動数の差(ω1-ω2)がサンプルS中の物質固有の振動モードと一致すると、分子の双極子モーメントが共鳴的に誘起され、角振動数が2ω1-ω2のCARS光L3が発生する。
【0045】
検出器36は、ストークス光L2及びポンプ光L1の照射によってサンプルSから発生した、角振動数が2ω1-ω2のCARS光Lcの強度を検出する。検出器36は、例えば分光器、CCD(Charge Coupled Device)、ICCD(Intensified CCD)等の光電変換素子により構成されるが、各波長の光の強度が計測できるのであればこれらに限定されない。
【0046】
なお、窓B1及びB3を介してセパレータ4側からレーザー光を照射する場合、分光計30のレーザー光の焦点位置をx方向及びy方向(面内方向)に変更するか、又はz方向(厚み方向)に変更することによって、レーザー光を照射するx、y又はz方向の位置を変更できる。また、窓B1及びB2を介して電解質膜1の周縁部側からレーザー光を照射する場合、プローブ38の位置又は姿勢を変更する等してレーザー光を照射する面内方向の位置を変更できる。照射位置の変更により、サンプルSを電解質膜1又は電極2に切り替えることも可能である。
【0047】
(診断装置)
診断装置50は、分光計30による測定結果に基づいて、燃料電池10内の分析対象の定性分析又は定量分析を行う。診断装置50としては、例えばCPU、CPUが実行するプログラムを記憶するメモリ等を備えたコンピュータ、マイクロコンピュータ等を使用できる。
【0048】
定性分析は、分光計30によって得られる光の強度のスペクトルにおいて、分析対象の物質を含む原子間の振動モードに起因するピークを同定することによって行うことができる。例えば、200cm-1付近にPt-Pt分子に起因するピークが現れ、3500cm-1付近に水分子に起因するピークが現れる。
【0049】
定量分析の方法は特に限定されないが、例えばリファレンスデータを用いて分析対象の物質の量を計算することができる。リファレンスデータは、存在量が既知の分析対象に対し、分光計30により検出された光の強度が関連付けられたデータである。光の強度は、分析対象を含む物質の振動モードに起因するピークの強度又は面積として求めることができる。
【0050】
分析対象としては、電解質膜1、電解質膜1に含まれる白金、白金酸化物等の白金化合物又は水が挙げられる。例えば、診断装置50は、分光計30による電解質膜1の厚み方向(z方向)又は面内方向(x-y平面)の測定結果に基づいて、電解質膜1、電解質膜1中の白金、白金化合物又は水の分析を行うことにより、電解質膜1の厚み方向又は面内方向に分布する白金又は水のプロファイル等を作成することができる。このような電解質膜1の分解プロファイルにより、電解質膜1の分解過程を把握することができる。また、白金又は水のプロファイルにより、触媒層21から電解質膜1へ白金が溶出するプラチナバンド形成の現象を把握することができる。
【0051】
分析対象は、電解質膜1だけでなく、電極2又はサブガスケット5中の白金又は白金化合物であってもよい。このような分析により、電極2からの白金の溶出量又はサブガスケット5への白金の溶出量等を把握することができる。
【0052】
分析対象は、電解質膜1、電極2又はサブガスケット5中のニッケル、クロム等の白金以外の金属又は金属化合物であってもよい。このような分析により、金属不純物の混入を把握することができる。
【0053】
(分析システムの分析方法)
上記分析システム100は、サンプルS中の分析対象の物質の連続的な濃度分布を、分光計30による発光強度の測定結果と、分光計30の照射光の強度分布とに基づいて、診断装置50により計算する。以下、具体的に説明する。
【0054】
最初に、分光計30において測定用に照射される光の3次元強度分布が測定される。強度分布の変動を減らすため、測定時の温度、湿度等の環境条件は一定とする。
【0055】
図5は、測定用の照射光の強度分布の測定方法の一例を示す。
図5に示すように、分光計30からz方向に照射された光L0は、x-y平面で切り出され、x-y平面上の各位置(x,y)での光強度が測定される。測定には、例えばCCD等が使用され得る。この測定がz方向の位置を変更して繰り返され、3次元の複数の位置(x,y,z)での光強度が求められる。実測値を補間することにより連続的な光強度分布が求められてもよい。なお、照射光L0の光径は焦点位置に近づくほど小さい。
【0056】
次に、分光計30によりサンプルSに光L0が照射され、サンプルSからの発光L3の強度が測定される。このときの環境条件は、照射光L0の強度分布の測定時と同じであることが好ましい。診断装置50は、この測定結果を用いて物質の濃度分布を計算する。
以下、図6に示すように、サンプルS中の立方体の領域Vに含まれる物質の3次元の濃度分布を計算する例を説明する。
【0057】
立方体の領域Vは、さらに小さな立方体の領域に分割される。この例では、10個の領域に分割される。各分割領域の位置(x,y,z)は、(0,0,0)~(10,10,10)で表される。各分割領域での発光L3の光強度は、光L0の強度が増加するほど単調増加する(例えば比例する)。照射光L0は広がりを有するため、診断装置50は、照射光L0のすべてが領域V全体に照射されると仮定して下記計算を行う。
【0058】
診断装置50は、照射光L0の各位置(x,y,z)の光強度の測定結果から、各分割領域(0,0,0)~(10,10,10)に照射される光L0の光強度の割合を計算し、各分割領域(0,0,0)~(10,10,10)における係数m(x,y,z)(%)とする。各分割領域の係数m(x,y,z)の合計は100%である。なお、光L0が照射される範囲に限りがあると仮定する場合、診断装置50は、領域V中の光L0が照射されない分割領域の係数をm(x,y,z)=0に設定すればよい。
【0059】
診断装置50は、i個のパラメータを用いて物質の3次元の濃度分布を表す関数F(x,y,z)を定義する。iは、自然数である。例えば、関数F(x,y,z)は、5個のパラメータa~eを用いて、下記多項式(1)で表される。
(1) F(x,y,z)
=a×x+b×y+c×x+d×y+e×z
【0060】
なお、関数F(x,y,z)は式(1)に限定されず、適宜設計された式を使用できる。例えば、より高次元化された多項式を使用することにより、濃度分布の精度を高めることができる。また、物質の特性に応じた式に設計することにより、濃度分布の精度が高まる。例えば水の場合、重力方向に水が多く存在することが予想されるため、重力方向に重み付けした式であってもよい。
【0061】
各分割領域において対象物質から得られる発光L3の強度I(x,y,z)が、物質の濃度Dに比例する場合、I=R×Dの関係式が成り立つ。Rは、濃度と発光との関係を表す係数である。また、強度I(x,y,z)は、照射光L0の強度にも比例するため、濃度Dとして関数F(x,y,z)を用いると次のように表される。
I(0,0,0)
={a×0+b×0+c×0+d×0+e×0}×R×m(0,0,0)
I(0,0,1)
={a×0+b×0+c×0+d×0+e×1}×R×m(0,0,1)
・・・
I(10,10,10
={a×(10+b×(10+c×(10)+d×(10
+e×(10)}×R×m(10,10,10
【0062】
発光L3の光強度は、各分割領域の強度I(x,y,z)の合計に等しいため、下記式(2)が成り立つ。診断装置50は、式(2)の左辺として分光計30による発光強度の測定結果を入力し、パラメータa~eの関係式を得る。ここで入力される測定結果は、分析対象の物質から得られる発光強度の測定結果である。例えば、分析対象の物質が水である場合、水由来のピーク強度等が入力される。
【数1】
【0063】
一方、分光計30は、サンプルSにおける照射光L0の照射位置をz方向に異ならせて、発光L3の強度を測定する。診断装置50は、z方向の位置が異なる一定領域において上記と同様に式(2)からパラメータa~eの関係式を計算する。位置が異なる一定領域では、各分割領域の光強度I(x,y,z)が異なるため、前回の測定時とは異なる関係式が得られる。
【0064】
上記発光L3の光強度Iの測定と式(2)の計算は、少なくともパラメータの数と同じi回行われる。パラメータa~eの場合は、5回の測定により式(2)から5元連立方程式が得られる。診断装置50は、この連立方程式を解くことによりパラメータa~eを計算する。診断装置50は、計算されたパラメータa~eを式(1)に入力することにより、物質の濃度分布を表す関数F(x,y,z)を得る。この濃度分布は、5回の測定で照射された光L0の照射位置を含む3次元領域における分布である。
【0065】
i回の測定において、光L0の照射範囲は重複していても重複していなくてもよい。重複する場合、濃度分布の計算の精度が向上しやすい。重複しない場合は、広い範囲の濃度分布を計算することができる。濃度分布の計算にはi回の測定が必要だが、i回以上の測定により計算の精度をより向上させることもできる。
【0066】
分光計30がCARS用分光計30Aである場合、角振動数ω1のポンプ光L1と角振動数ω2のストークス光L2の照射により発生するCARS光L3の強度は、ω1×ω2に比例する。角振動数ω1及びω2は、それぞれポンプ光L1及びストークス光L2の強度を含む。診断装置50は、ポンプ光L1とストークス光L2の強度分布からω1×ω2の分布を計算する。診断装置50は、ω1×ω2の分布から各分割領域(x,y,z)の係数m(x,y,z)を計算し、式(2)の計算に用いる。
【0067】
なお、照射光L0の強度分布は、サンプルSの分析を行うごとに測定されてもよい。または、一度測定された強度分布が診断装置50に保存されて、その後のサンプルSの分析に繰り返し用いられてもよい。
【0068】
図7は、診断装置50により作成された水の分布を表すプロファイルの一例を示す。
図7に示すプロファイルにおいて、横軸は、カソードに接する0μmから10μmまでのz方向の位置を表す。縦軸は、分光計30により測定された水由来の発光の強度Kを表す。強度Kが大きい位置ほど水が多く存在する。このプロファイルは、z方向の各位置での発光の強度Kが連続しており、水の連続的な濃度分布を表す。
【0069】
なお、分析システム100は、上記分析対象の連続的な分布を表すプロファイル以外のプロファイルも作成することができる。例えば、分析システム100は、燃料電池10の出力電圧と、電解質膜1中の水又は白金由来の発光の強度との相関を表すプロファイルを作成することにより、運転中の水輸送又は白金の溶出等の現象をより正確に測定することができる。
【0070】
図8は、燃料電池10の出力電圧と、電解質膜1の厚み方向において測定された水由来の発光の強度Kとの相関を表すプロファイルの一例を示す。
このプロファイルにおいて、カソードからの厚み方向(z方向)の距離が0、5、10、15及び20μmの地点において一定時間ごとに測定された発光の強度Kがそれぞれプロットされている。
【0071】
0.1A/cmの出力電圧で燃料電池10を発電させている間、強度Kの変化は少なく、カソードから遠いほど強度Kも小さい。しかし、時間T1において出力電圧を0.1A/cmから1.0A/cmに引き上げると、急激な出力電圧の上昇により強度Kも全体的に上昇し、水が多く発生していることが分析できる。カソードに近いほど強度Kは大きく、カソードに接する0μmの地点では特に急激な水の上昇が観察される。
【0072】
(燃料電池の物性決定)
診断装置50は、燃料電池10の分析結果に基づいて、燃料電池10の各種物性を決定することができる。例えば、診断装置50は、電解質膜1に含まれる水のプロファイルに基づいて、電解質膜1の水の透過係数、電気浸透係数、厚さ、ガス拡散層22の水の拡散係数等の物性を決定することができる。
【0073】
通常は、電解質膜1に用いられた材料の物性から計算によりシミュレーションが行われ、その結果によって水拡散係数、電気振動係数、厚さ等の最適な膜物性が決定される。しかし、計算によるシミュレーション結果は、実際の最適な膜物性とは乖離することがある。
【0074】
これに対し、本実施形態によれば、実際に製品として稼働する燃料電池10を分析してプロファイルを作成することができる。計算ではなく、燃料電池10における水の輸送現象が実測されるため、より最適な膜物性の選択が可能である。
【0075】
なお、シミュレーション時に実際の最適な膜物性との差を埋めるために、実測値が補助的に用いられることがあるが、この実測値として本実施形態において実測されたプロファイルが用いられてもよい。シミュレーションとの組み合わせによってより有用な膜物性の選択が可能となる。
【0076】
以上のように、本実施形態によれば、診断装置50が、i個のパラメータを用いて光L0が照射された一定領域中の物質の濃度分布を表す関数F(x,y,z)を定義する。分光計30は、光L0の照射位置を異ならせて発光の強度の測定をi回繰り返す。診断装置50は、光L0の強度分布と物質の濃度を表す関数F(x,y,z)とから計算される発光L3の強度I(x,y,z)と、分光計30による発光L3の強度Iの測定結果との関係式(例えば式(2))を計算する。診断装置50は、i回の測定により得られるi個の関係式に基づいてi個のパラメータを計算し、パラメータが特定された関係式F(x,y,z)を得る。
【0077】
これにより、分光計30から照射する測定用の光を絞ることなく、物質の連続的な濃度分布を計算することができる。少なくともパラメータの数と同じi回の測定により濃度分布を計算できるため、簡易な測定により広い範囲の濃度分布も少ない測定回数で得ることができる。また、光の絞りすぎによるサンプルSのダメージを減らすことができる。
【0078】
なお、上記実施形態では計算の精度を高めるため、複数回の測定により濃度分布を計算したが、照射光L0の強度分布を計算に用いるのであれば、1回の測定により濃度分布を求めてもよい。
【0079】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されない。
【0080】
例えば、上記実施形態において分析システム100は、車両200上で発電中の燃料電池200の分析を行うが、車両200ではなく、実験用の負荷に接続された燃料電池200を対象に分析を行ってもよい。
【0081】
また、サンプルは燃料電池10に限られず、細胞内の生体分子等の様々なサンプルに本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0082】
100・・・分析システム、30・・・分光計、31・・・光源、33,34・・・変換器、36・・・検出器、50・・・診断装置、10・・・燃料電池、1・・・電解質膜、2・・・電極、21・・・触媒層、22・・・ガス拡散層、3・・・MEA、4・・・セパレータ、5・・・サブガスケット、B1~B3・・・窓

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8