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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】歯科矯正用拡大装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 7/10 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
A61C7/10
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020186665
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076306
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日は令和2年10月4日で、開催アドレスはhttp://www.wfo2020yokohama.org/である。 配信日は令和2年10月7日で、配信アドレスはhttp://www.wfo2020yokohama.org/contents/virtual_session.htmlである。
(73)【特許権者】
【識別番号】520438925
【氏名又は名称】医療法人くろえクリニック
(74)【代理人】
【識別番号】100133271
【弁理士】
【氏名又は名称】東 和博
(72)【発明者】
【氏名】黒江 和斗
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0078340(US,A1)
【文献】特開2019-042297(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0270884(US,A1)
【文献】西独国実用新案公開第01830110(DE,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/00-36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科矯正治療に用いられ、上顎骨と上顎歯列を扇状に拡大させるためのファンタイプの歯科矯正用拡大装置であって、
間隔をおいて設けられた2つのヒンジを各支点としてスクリューの回動操作により前端側が互いに開く方向に従動する2つの中間部材と、各中間部材に互いに反対方向を向くU字状の屈曲部を介して支持されそれぞれが側方かつ斜め前方に延びる左右2つずつのアーム部材と、各アーム部材の先端に支持され上顎歯列の両側方セグメントの大小の臼歯冠にそれぞれ装着される左右2つずつの環状のバンド部材を備え、
前記拡大装置の上顎骨への装着状態において、前記スクリューおよび2つの中間部材がともに上顎骨の後方部に配置され、
前記拡大装置の非拡張状態において、前記臼歯冠に装着された4つバンド部材は、前方のバンド部材が、前記2つのヒンジの位置に対して相対的に前方に配置された前記スクリューよりもそれぞれ前方に位置し、かつ、後方のバンド部材が、平面視して、前記スクリューの回転軸の延長線と重なる位置に配置され、
前記U字状の屈曲部は、前記スクリューの回転軸に沿ってそれぞれ側方に延びるとともに、前記左右2つずつのアーム部材、対応する左右の前記屈曲部から側方かつ斜め前方に延びており、さらに、前後のアーム部材の先端どうしが連結部材により互いに連結されている
ことを特徴とする歯科矯正用拡大装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科矯正治療に用いられる装置において、特に上顎骨と上顎歯列の拡大に用いる歯科矯正用拡大装置に関する。
【背景技術】
【0002】
不正咬合の実態として、不正咬合の病因は、上下の顎骨の劣成長(顎骨の狭窄と後退による小型化)と歯列の狭窄、さらには歯冠のサイズの大型化にある。上下の顎骨の劣成長と歯列の狭窄、歯冠サイズの大型化は、中顔面の突出した前突様顔貌、下顎の突出した下顎前突様顔貌、八重歯、叢生などの形態的な骨格の異常、さらには摂食、咀嚼、嚥下、呼吸、睡眠などの全身的な機能の異常の病因となっている。なかでも、顔や顎骨の基盤となる上顎骨の劣成長と上顎歯列の狭窄は、全ての不正咬合の病因であると言える。
【0003】
不正咬合の治療には、上下顎骨の小型化と歯冠サイズの大型化の改善が必要となる。上顎骨の小型化の改善には、拡大装置が効果的である。歯冠サイズの小型化は不可能なことから、永久歯の抜歯の選択をせざるを得ない。しかし、上顎骨と上顎歯列を拡大して本来の形態に戻すことができれば、抜歯を選択することなく治療を行える。矯正歯科治療の成否には、不正要因に対する原因療法である上顎骨と上顎歯列の拡大が大きく関わっていると言える。
【0004】
歯科矯正治療に用いられる拡大装置は、構造の違いにより3つのタイプ(ハイラックスタイプ、ユニバーサルタイプ、ファンタイプ)に大別される。ハイラックスタイプとユニバーサルタイプは、上顎骨の中央から前後に延びる正中口蓋縫合に対し拡大用のスクリューが横方向に設置され、スクリューの回転により、水平面からみて上顎骨と上顎歯列の側方セグメントがほぼ平行に横方向に拡大される。特許文献1の図1に示す装置は、ハイラックスタイプと呼ばれるもので、中央のユニットに2個の反対側に位置するアームを備え、各アームには歯への取付バンドが設けられ、スクリューの回転により、上顎骨と上顎歯列の側方セグメントがほぼ平行に横方向に拡大されるようになっている。
【0005】
ファンタイプは、拡大用のスクリューが横方向に設置されるが、拡大時の支点として後端に1個のヒンジが設けられている。スクリューを回転させると、ヒンジを支点として拡大用のアームが開き、水平面からみて上顎骨と上顎歯列の側方セグメントが、斜め前方へ移動して扇状に拡大されるようになっている。特許文献1の図2に示す装置はファンタイプと呼ばれるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-169385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ハイラックスタイプは、上顎骨および上顎歯列の狭窄を伴う不正咬合の改善に効果があるが、上顎骨および上顎歯列の後退を伴う不正咬合は改善できない。これに対し、ファンタイプは、扇状に拡大されるから、上顎骨と上顎歯列の後退を伴う不正咬合に効果がある。しかしながら、従来のファンタイプは、特許文献1の図2に示すように、ヒンジが一つであることから、スクリューからヒンジまでの前後径(前後長)が長くなり、口蓋の後方部の軟口蓋にヒンジが掛かる等の問題があった。また、従来のファンタイプは、扇状の拡大はできるものの、側方への拡大が小さく、上顎骨および上顎歯列の狭窄に対してはあまり効果がなかった。
【0008】
このため、従来のファンタイプは、さまざまな骨格や歯列咬合の異常を改善することを主目的とする矯正歯科治療において、治療の対象となる患者の選択を余儀なくされる結果となり、これにより、上顎骨や上顎歯列の形態的な改善を十分に行えないという課題を抱えていた。
【0009】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、従来のファンタイプのもつ問題点を改善し、また、側方への拡大も十分図れることで、上顎骨および上顎歯列の形態的な改善、ひいては全身的な機能の改善を効果的に図れる、歯科矯正用拡大装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、歯科矯正治療に用いられ、上顎骨と上顎歯列を扇状に拡大させるためのファンタイプの歯科矯正用拡大装置であって、
間隔をおいて設けられた2つのヒンジを各支点としてスクリューの回動操作により前端側が互いに開く方向に従動する2つの中間部材と、各中間部材に互いに反対方向を向くU字状の屈曲部を介して支持されそれぞれが側方かつ斜め前方に延びる左右2つずつのアーム部材と、各アーム部材の先端に支持され上顎歯列の両側方セグメントの大小の臼歯冠にそれぞれ装着される左右2つずつの環状のバンド部材を備え、
前記拡大装置の上顎骨への装着状態において、前記スクリューおよび2つの中間部材がともに上顎骨の後方部に配置され、
前記拡大装置の非拡張状態において、前記臼歯冠に装着された4つバンド部材は、前方のバンド部材が、前記2つのヒンジの位置に対して相対的に前方に配置された前記スクリューよりもそれぞれ前方に位置し、かつ、後方のバンド部材が、平面視して、前記スクリューの回転軸の延長線と重なる位置に配置され、
前記U字状の屈曲部は、前記スクリューの回転軸に沿ってそれぞれ側方に延びるとともに、前記左右2つずつのアーム部材、対応する左右の前記屈曲部から側方かつ斜め前方に延びており、さらに、前後のアーム部材の先端どうしが連結部材により互いに連結されていることを第1の特徴とする。
【0013】
本発明に係る歯科矯正用拡大装置は、前記各バンド部材が上顎歯列の両側の側方セグメントの大小の臼歯冠にそれぞれ装着された状態で、スクリューの回動操作により、2つの中間部材がそれぞれのヒンジを支点として前端側が開く方向に従動する動きに伴い、当該2つの中間部材が前方に移動するように構成されていることを第2の特徴とする。
【0014】
本発明に係る歯科矯正用拡大装置は、前記各バンド部材が上顎歯列の両側の側方セグメントの大小の臼歯冠に装着された状態で、スクリューの回動操作により、2つの中間部材がそれぞれのヒンジを支点として前端側が開く方向に従動する動きに伴い、前記各バンド部材が上顎骨の正中口蓋縫合を中心線として略左右対称となる向きの扇状かつ側方に移動するように構成されていることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明に係る歯科矯正用拡大装置によると、上顎骨および上顎歯列の拡大用に2つのヒンジを設けたことから、従来のファンタイプに比べ、スクリューから支点までの前後径を短くでき、装置の小型化を図り、口蓋の後方部の軟口蓋にヒンジが掛かる等の従来の問題を解消することができる。また、摂食、咀嚼、嚥下、発語、構音、呼吸、睡眠などの機能に障害を与えずに済み、上顎骨の小さい小児にも本装置を使用することができるなど、治療の対象となる患者の選択の幅を拡大できるという効果を奏する。
【0016】
さらに、従来のファンタイプに比べ、上顎骨および上顎歯列を扇状に大きく拡大させるとともに、同時に上顎歯列の側方セグメントを側方へ大きく拡大させることができ、上顎骨や上顎歯列の形態的な効果的な改善、さらには全身的な機能の効果的な改善を図れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る歯科矯正用拡大装置を上顎骨に装着した状態を示す図、
図2】本発明に係る拡大装置の正面図、
図3図2に示す拡大装置の要部を示す部分拡大図で、(A)は正面図、(B)は側面図、
図4】本発明に係る拡大装置の作用を示すもので、スクリューを回動操作した後の状態を示す図、
図5】本発明に係る拡大装置の拡大前後を示す図で、(A)は拡大前の状態を示す図、(B)は拡大後の状態を示す図、
図6】上顎骨を示す図で、(A)は拡大前の状態を示す図、(B)は本装置を用いて拡大した後の状態を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。図1ないし図6は本発明に係る一実施形態を示すもので、これらの図において、符号Sは本発明に係る歯科矯正用拡大装置を示している。
【0019】
歯科矯正用拡大装置S(以下、本装置Sという)は、歯科矯正治療に用いられ、上顎骨と上顎歯列を拡大するための装置である。図1および図2に示すように、本装置Sは、2つのヒンジ1,2を各支点としてスクリュー3の回動操作により前端側が開く方向に従動可能な2つの中間部材4,5と、各中間部材4,5から側方および斜め前方に延びるように支持された2つのアームユニット6,7と、各アームユニット6,7の先端に取り付けられた4つのバンド部材8~11を備えている。
【0020】
前記2つのヒンジ1,2は、図3に示すように、連結部材12の両端に間隔Lをおいてそれぞれ回動可能に支持されている。一方のヒンジ1および連結部材12の一端は一方の中間部材4の後端支持部4aに回動可能に支持されている。他方のヒンジ2および連結部材12の他端は他方の中間部材5の後端支持部5aに回動可能に支持されている。間隔Lは3mm~6mmの範囲で設定するのが望ましい。
【0021】
前記スクリュー3は、横向きに並ぶ左右のスクリュー体3A,3Bが中間の操作体13によって同軸上に固定支持されている。スクリュー体3A,3Bの周囲は互いに反対向きとなるらせんネジ3a,3bが設けられている。中間の操作体13は拡大用のスクリュー3を回動操作するための操作用貫通孔13aが周上複数箇所に設けられている。
【0022】
前記構造のスクリュー3は、図3に示すように、一方の中間部材4の前端支持部4bと他方の中間部材5の前端支持部5bの間に支持されている。より詳しくは、一方の中間部材4の前端支持部4bに中間支持軸14Aが回動自在に軸支され、他方の中間部材5の前端支持部5bに中間支持軸14Bが回動自在に軸支されている。一方の中間支持軸14Aは、一方のスクリュー体3Aのらせんネジ3aに螺合するらせん溝(図示せず)が内周面に設けられた溝孔14aが設けられ、他方の中間支持軸14Bは、他方のスクリュー体3Bのらせんネジ3bに螺合するらせん溝(図示せず)が内周面に設けられた溝孔14bが設けられている。
【0023】
前記スクリュー3は、中間に操作体13が配置される形で一方のスクリュー体3Aが中間支持軸14Aを介して中間部材4の前端支持部4bに回動可能に支持され、他方のスクリュー体3Bが中間支持軸14Bを介して中間部材5の前端支持部5bに回動可能に支持されている。そして、中間の操作体13を軸回りの一方向に回動操作すると、中間支持軸14A,14Bが左右に離間する方向に移動し、これにより、ヒンジ1,2を各支点として2つの中間部材4,5が、前端側が互いに開く方向に従動し、中間の操作体13を軸回りの他方向に回動操作すると、中間支持軸14A,14Bが互いに接近する方向に移動し、これにより、ヒンジ1,2を各支点として2つの中間部材4,5が、前端側が互いに接近する方向に従動するようになっている。
【0024】
前記2つの中間部材は、スクリュー3の回動操作時に、それぞれの前端支持部4,5を力点、ヒンジ1,2を支点として、スクリュー3の回動操作による力を左右のアームユニット6,7に伝達する役目をし、アームユニット6,7を介しての左右のバンド部材8~11の拡大時に、自身が前方へ移動して、左右のバンド部材8~11のさらなる扇状の拡大と側方への拡大が可能となっている(図5(A)から図5(B)参照)。また、2つの中間部材は、それぞれの後端に、互いに係合して2つの中間部材の動きを同期させる歯車状の係合部4c,5cが設けられている。
【0025】
前記2つのアームユニット6,7は、中間部材4,5に固定状態に支持されている。一方のアームユニット6は、U字状の屈曲部6aが一方の中間部材4の中間に設けられたアーム固定部4dに固定されており、屈曲部6aから2本のアーム部材6A,6Bが扇状に延びている。一方のアーム部材6Aはやや上向き(上顎骨に装着された状態では下向きとなる)で側方に延び、他方のアーム部材6Bはやや上向きで側方かつ斜め前方に延びている。他方のアームユニット7は、U字状の屈曲部7aが他方の中間部材5の中間に設けられたアーム固定部5dに固定されており、屈曲部7aから2本のアーム部材7A,7Bが扇状に延びている。一方のアーム部材7Aはやや上向き(上顎骨に装着された状態では下向きとなる)で側方に延び、他方のアーム部材7Bはやや上向きで側方かつ斜め前方に延びている。
【0026】
前記構造のアームユニット6は、2本のアーム部材6A,6Bの先端どうしが、上顎歯列Bの内側でほぼ同じ向きとなる連結部材6Cにより連結され、また、上顎歯列Bの向きに沿って連結部材6Cから中間位置まで弧状に延びる弧状部材6Dが設けられている。同じく、前記構造のアームユニット7は、2本のアーム部材7A,7Bの先端どうしが、上顎歯列Bの内側でほぼ同じ向きとなる連結部材7Cにより連結され、また、上顎歯列Bの向きに沿って連結部材7Cから中間位置まで弧状に延びる弧状部材7Dが設けられている。
【0027】
前記4つのバンド部材8~11は、正中口蓋縫合cを中間線として、左右の上顎歯列B,Bの側方セグメントの複数の歯冠に装着されるもので、一方の2つのバンド部材8,9はアームユニット6のアーム部材6A,6Bの先端にそれぞれ取り付けられている。また、他方の2つのバンド部材10,11はアームユニット7のアーム部材7A,7Bの先端にそれぞれ取り付けられている。
【0028】
上記構成の本装置Sにおいて、各部材、すなわち、2つのヒンジ1,2、スクリュー3、2つの中間部材4,5、2つのアームユニット6,7、4つのバンド部材8~11、連結部材12、操作体13、中間支持軸14A,14Bは、いずれもステンレス素材から構成されている。
【0029】
次に、本装置Sの使用方法および作用について、図面を参照しながら以下に説明する。
【0030】
まず、被施術者に対し、施術者が本装置Sを装着する(図1参照)。具体的には、被施術者が口を開いた施術姿勢で、施術者が被施術者の上顎Aおよび上顎歯列Bに本装置Sを装着する。
【0031】
本装置Sは、図1に示すように、2つの中間部材4,5が初期位置にある状態で、一方のアームユニット6の先端のバンド部材8,9のうち、一方のバンド部材8は上顎歯列Bの一方の側方セグメント(右)(図1では左に位置する)の大臼歯冠b1に装着し、他方のバンド部材9は上顎歯列Bの一方の側方セグメント(右)の小臼歯冠b2に装着する。また、他方のアームユニット7の先端のバンド部材10,11のうち、一方のバンド部材10は上顎歯列Bの他方の側方セグメント(左)(図1では右に位置する)の大臼歯冠b3に装着し、他方のバンド部材11は上顎歯列Bの他方の側方セグメント(左)の小臼歯冠b4に装着する。
【0032】
上記のようにして本装置Sを、被施術者の上顎骨Aおよび上顎歯列Bに装着したら、棒状の操作部材(図示せず)を、上顎骨Aの中央を通る正中口蓋縫合cの真上に位置する操作体13の操作用貫通孔13aに差し入れて、操作体13を軸方向の一方に所定角度回動させ、横向きのスクリュー3を回動させる。
【0033】
横向きのスクリュー3を回動させると、中間支持軸14A,14Bが左右に離間する方向に移動し、図5(A)から図5(B)に示すように、2つの中間部材4,5が、2つのヒンジ1,2を各支点として、前端側が互いに開く方向に従動し、左右のアームユニット6,7を介して、図の左の2つのバンド部材8,9および図の右の2つのバンド部材10,11を、図5(B)の矢印のように拡大方向に移動させる。
【0034】
このとき、左の2つのバンド部材8,9および右の2つのバンド部材10,11の拡大方向への移動に伴い、2つの中間部材4,5は、図5(B)の矢印のように前方に移動させられるため、左の2つのバンド部材8,9および右の2つのバンド部材10,11の拡大方向への移動量が大きくなり、上顎歯列Bを大きく扇状に拡大させ、また、上顎歯列Bの側方セグメントを側方に大きく拡大させる。これにより、上顎歯列Bが効果的に拡大される。図4は拡大後の状態を示している。
【0035】
本装置Sが装着された上顎骨Aは、図6(A)を参照して、中央で前後方向に延びる正中口蓋縫合cと、前方寄りで横方向に延びる切歯縫合t1と、後方寄りで横方向に延びる横口蓋縫合t2が、本装置Sの作用により、図6(B)に示すようにそれぞれ離開され、扇状に大きく拡大し、同時に側方へ拡大する。
【0036】
図1に示す本装置Sを試作し、計測したところ、スクリュー3の回動により中間部材4,5の前端支持部4b,5b間の拡大量(図5のw-w)を4mmとしたとき、側方への移動量(図5のX-X)は4mm、前方への移動量(図5のY-Y)は4mmであった。なお、ヒンジ1,2間の間隔Lは4mmである。スクリュー3の回動により中間部材4,5の前端支持部4b,5b間は8mmまで拡大可能であり、拡大量を8mmとした場合、側方への移動量は10~12mm、前方への移動量は9~10mm、それぞれ可能である。
【0037】
本装置Sによると、以下の作用効果を奏する。
【0038】
本装置Sは、拡大用に2つのヒンジ1,2を設けるようにしたから、図5(A)に示すように、従来のファンタイプ(1つのヒンジhを支点して拡大させる構成)に比べて、拡大用のスクリュー3とヒンジ間の前後径(スクリューとヒンジ間の前後距離)、すなわちヒンジ部の長さd(従来のファンタイプのヒンジ部の長さd1)を短くすることができ、あわせて装置の小型化を図ることができる。
【0039】
ヒンジ部の長さを短くできることは、本装置Sの装着状態で、口蓋の後方部の軟口蓋にヒンジ部が掛からなくなり、粘膜や軟口蓋を傷つけることがなくなる。また、ヒンジ部の長さを短くすることで、スクリュー部を後方に配置できるようになることから、より大きな拡大量(拡大率)を得ることができる。装置の小型化を図れることは、摂食、咀嚼、嚥下、発語、構音、呼吸、睡眠などの機能に障害を与えずに済む。また、治療する患者の幅が広がり、上顎骨の小さい小児にも使用が可能となる。
【0040】
また、本装置Sは、2つのヒンジ1,2を支点として扇状に拡大させるから、1つのヒンジ(h)を支点として拡大させる場合に比べ、拡大に伴う応力を分散させることができ、拡大時にスクリューやヒンジ部に無理な力が掛からず、耐久性が向上するという利点がある。
【0041】
そして、本装置Sによれば、不正咬合の病因となる上顎骨の劣成長と上顎歯列の狭窄を共に改善できる装置として大きな役割を果たし、上顎骨や上顎歯列の形態的な改善、さらには摂食、咀嚼、嚥下、呼吸、睡眠などの全身的な機能の改善をより効果的に図ることができる。
【0042】
本発明に係る歯科矯正用拡大装置は、成人、小児、高齢者にかかわらず、特に上顎骨や上顎歯列の形態的な改善、さらには全身的な機能の改善を必要とする患者に幅広く使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る歯科矯正用拡大装置は、矯正歯科治療に供される装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1,2 ヒンジ
3 スクリュー
3A,3B スクリュー体
3a,3b らせんネジ
4,5 中間部材
4a,5a 後端支持部
4b,5b 前端支持部
4c,5c 係合部
4d,5d アーム固定部
6,7 アームユニット
6a,7a 屈曲部
6A,6B,7A,7B アーム部材
6C,7C,12 連結部材
6D,7D 弧状部材
8,9,10,11 バンド部材(把持部材)
13 操作体
13a 操作用貫通孔
14A,14B 中間支持軸
14a,14b
A 上顎骨
B 上顎歯列
b1,b3 大臼歯冠
b2,b4 小臼歯冠
S 本装置(歯科矯正用拡大装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6