(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】エンジン用冷却部品
(51)【国際特許分類】
F02M 61/16 20060101AFI20241008BHJP
F02M 61/14 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F02M61/16 F
F02M61/16 M
F02M61/14 320P
(21)【出願番号】P 2021027601
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】393002597
【氏名又は名称】東海交通機械株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】521080484
【氏名又は名称】オオスズ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大原 隆志
(72)【発明者】
【氏名】平松 康平
(72)【発明者】
【氏名】山下 修平
(72)【発明者】
【氏名】寺島 保
(72)【発明者】
【氏名】白石 哲也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 宗太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一▲隆▼
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-066131(JP,U)
【文献】米国特許第06112722(US,A)
【文献】特開2001-107833(JP,A)
【文献】特開昭62-020672(JP,A)
【文献】特開2007-205245(JP,A)
【文献】特開2008-069677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 39/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの被冷却部位と冷却液との間で熱交換を行うエンジン用冷却部品であって、
金属製の母材と、
前記母材に重ねて配置された金属溶射部と、
を備え
、
前記母材は、燃料インジェクタを被覆するように構成された筒状のスリーブであり、第1端部から第2端部に向かって縮径する円錐筒部を有し、
前記冷却液は、シリンダヘッドの天壁の表面であって、前記シリンダヘッドの外側を向く表面に沿って流れ、
前記円錐筒部は、
前記燃料インジェクタと共に前記天壁を貫通するように配置され、
前記金属溶射部が外周面に配置された熱交換部と、
前記熱交換部よりも前記第2端部に近い位置に前記熱交換部に隣接して配置されると共に、前記金属溶射部が配置されない連結部と、
を有し、
前記金属溶射部は、前記天壁の表面より前記第2端部から離れた位置から、前記天壁の表面より前記第2端部に近い位置にわたって、前記シリンダヘッドとの境界に沿って位置する、エンジン用冷却部品。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジン用冷却部品であって、
前記母材は銅を主成分とし、
前記金属溶射部は、ニッケル及びアルミニウムを含有する、エンジン用冷却部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン用冷却部品に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの燃料供給系統は、例えばシリンダに燃料を噴射するインジェクタ等の、運転時に高温となる部位を含む。このような部位に対しては、冷却液による冷却が一般に行われる(特許文献1参照)。冷却対象となる部位には、機器の熱を冷却液へ伝達するための冷却部品が取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の冷却部品において、冷却液の温度が上昇すると、冷却部品の表面近傍でキャビテーションが発生する。このキャビテーションの発生の繰り返しによって、冷却部品の表面に凹凸が形成される。その結果、冷却部品が損傷し、漏水によりエンジンが停止するおそれがある。
【0005】
本開示の一局面は、冷却液のキャビテーションによる損傷を抑制できるエンジン用冷却部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、エンジンの被冷却部位と冷却液との間で熱交換を行うエンジン用冷却部品である。エンジン用冷却部品は、金属製の母材と、母材に重ねて配置された金属溶射部と、を備える。
【0007】
このような構成によれば、母材を被覆する金属溶射部によって冷却部品の硬度が部分的に高められる。そのため、母材による熱交換効率を維持しつつ、冷却液のキャビテーションによる冷却部品の損傷が抑制される。
【0008】
本開示の一態様では、母材は銅を主成分としてもよい。金属溶射部は、ニッケル及びアルミニウムを含有してもよい。このような構成によれば、母材の熱伝導性及び加工性を高めつつ、金属溶射部による損傷の抑制効果を促進できる。
【0009】
本開示の一態様では、母材は、燃料インジェクタを被覆するように構成された筒状のスリーブであってもよい。このような構成によれば、シリンダからの伝熱によって特に高温になりやすい燃料インジェクタに対して、キャビテーションによる冷却部品の損傷を抑制しつつ、冷却を行うことができる。
【0010】
本開示の一態様では、母材は、第1端部から第2端部に向かって縮径する円錐筒部を有してもよい。円錐筒部は、金属溶射部が外周面に配置された熱交換部と、熱交換部よりも第2端部に近い位置に熱交換部に隣接して配置されると共に、金属溶射部が配置されない連結部と、を有してもよい。このような構成によれば、スリーブの先端部となる連結部の硬度上昇が抑えられるため、連結部を変形させながらシリンダヘッドの貫通孔に密着させることができる。また、シリンダヘッドに連結される連結部に隣接する熱交換部に金属溶射部が設けられることで、シリンダヘッドと冷却部品との隙間でキャビテーションが集中発生する場合にも冷却部品の損傷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態におけるエンジンの一部を示す模式的な断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のエンジン用冷却部品の一部を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示すエンジン用冷却部品1(以下、単に「冷却部品1」ともいう。)は、エンジンの被冷却部位と冷却液との間で熱交換を行う。
【0013】
<エンジン>
本実施形態の冷却部品1は、シリンダ101と、シリンダヘッド102と、ピストン103と、燃料インジェクタ104とを備えるエンジン100に用いられる。なお、エンジン100は、例えば、ディーゼルエンジン又はガソリンエンジンである。
【0014】
シリンダ101は、側壁101Aと、燃焼室101Bとを有する。側壁101Aは、内部にピストン103等が配置された円筒状の部材である。燃焼室101Bは、側壁101Aと、シリンダヘッド102の天壁102Aと、ピストン103の頂面とによって画定された密閉空間である。
【0015】
シリンダヘッド102は、天壁102Aと、冷却液流路102Bとを有する。天壁102Aは、シリンダ101と連結され、シリンダ101の側壁101Aの一方の端部を閉塞している。天壁102Aには、燃料インジェクタ104が挿通される貫通孔102Cが設けられている。貫通孔102Cは、シリンダ101の内部に向かって縮径するすり鉢状の形状を有する。
【0016】
冷却液流路102Bは、燃料インジェクタ104を冷却するための冷却液を流通させる空間である。冷却液としては、例えば水が使用される。燃料インジェクタ104を冷却した後の冷却液は、熱交換器によって冷却された後、再び燃料インジェクタ104に供給される。このような冷却液の循環によって燃料インジェクタ104が連続的に冷却される。
【0017】
ピストン103は、シリンダ101の内部をシリンダ101の軸方向に往復運動するように構成されている。ピストン103は、側壁101Aに対して摺動する。ピストン103は、コンロッド105を介してエンジン100のクランク軸(図示省略)に連結されている。
【0018】
燃料インジェクタ104は、シリンダヘッド102の内部に配置されると共に、燃焼室101B内に燃料を噴射するように構成されている。燃料インジェクタ104は、本体104Aと、ノズル104Bとを有する。本体104Aは円柱状の部位である。ノズル104Bは、本体104Aの端部に連結された円錐台状の部位である。
【0019】
ノズル104Bの少なくとも一部は、シリンダヘッド102の貫通孔102C内に配置されている。ノズル104Bは、燃料の噴射口が設けられた先端部を有する。ノズル104Bの先端部は、燃焼室101B内に露出している。
【0020】
<冷却部品>
冷却部品1は、燃料インジェクタ104が内部に挿入された筒体である。冷却部品1は、燃料インジェクタ104の熱を冷却液へ拡散させる。
図2に示すように、冷却部品1は、金属製の母材2と、金属溶射部3とを備える。
【0021】
(母材)
母材2は、燃料インジェクタ104を被覆するように構成された筒状のスリーブである。母材2は、銅を主成分とする。なお、「主成分」とは、最も多く含まれる成分を意味し、例えば90質量%以上含有される成分である。
【0022】
母材2は、円筒部21と、円錐筒部22とを有する。円筒部21は、軸方向に沿って径が一定である。円筒部21の内周面は、燃料インジェクタ104の本体104Aの外周面と接触している。また、円筒部21の外周面には冷却液が接触する。
【0023】
円錐筒部22は、円筒部21と連続する第1端部から反対側の第2端部に向かって(つまり燃焼室101Bに向かって)連続的に縮径している。つまり、第2端部における円錐筒部22の内径及び外径は、第1端部における円錐筒部22の内径及び外径よりも小さい。円錐筒部22の内周面は、燃料インジェクタ104のノズル104Bの外周面と接触している。円錐筒部22は、熱交換部22Aと、連結部22Bとを有する。
【0024】
熱交換部22Aは、連結部22Bよりも第1端部に近い位置(つまり燃焼室101Bから離れた位置)に配置されている。熱交換部22Aの外周面には、金属溶射部3が配置されている。
【0025】
連結部22Bは、熱交換部22Aよりも第2端部に近い位置(つまり燃焼室101Bに近い位置)に熱交換部22Aに隣接して配置されている。連結部22Bには、金属溶射部3は配置されていない。
【0026】
連結部22Bの外周面は、貫通孔102Cの内周面と密着している。具体的には、連結部22Bは、貫通孔102Cの内周面に設けられた噛み合い部102Dにめり込むように変形している。
【0027】
噛み合い部102Dは、貫通孔102Cの軸方向に並んで配置された複数の円環状の凸条(つまり複数の段差)で構成されている。連結部22Bは、冷却部品1の交換時にシリンダヘッド102から引き抜けるように、脱着可能な状態で噛み合い部102Dに機械的に連結されている。
【0028】
(金属溶射部)
金属溶射部3は、母材2に重ねて配置されている。具体的には、金属溶射部3は、熱交換部22Aの外周面上に、円環状に形成されている。
【0029】
金属溶射部3は、母材2の表面に金属溶射を行うことで形成された被膜である。具体的には、母材2が構成するスリーブの外周面に対し、溶融状態又は溶融状態に近い状態の金属粒子の吹き付けを繰り返すことで金属溶射部3が形成される。
【0030】
つまり、スリーブ状に成形された母材2の熱交換部22Aに金属溶射を行うことで、本実施形態の冷却部品1を製造することができる。なお、金属溶射としては、緻密な被膜を短時間に形成できるプラズマ溶射が好適である。
【0031】
金属溶射で形成される膜は、塗装、接着等によって形成された膜に比べて剥がれ等の劣化が小さい。さらに、金属溶射で形成される膜は、熱処理(例えば加熱)といった物理的処理や、析出(例えばメッキ)といった科学的処理に比べて、膜の形成場所を精度よく選択できる。
【0032】
金属溶射では、母材2を構成する金属(本実施形態では銅)よりも、JIS Z 2244(2009)に準拠して測定されるビッカース硬さが大きい金属が用いられる。本実施形態では、ニッケルとアルミニウムとの合金が金属溶射の材料として使用される。
【0033】
ニッケルとアルミニウムとの合金を溶射して得られた金属溶射部3は、ニッケル及びアルミニウムを含有し、ビッカース硬さが母材2よりも大きい。また、ニッケル及びアルミニウムを含有する金属溶射部3は、展延性による割れ抑制、銅との高い密着性、銅と熱膨張率が近いことによる亀裂発生抑制、銅とイオン化傾向が近いことによるガルバニック腐食抑制、高温下での軟化及び強度低下の抑制等の利点を有する。
【0034】
金属溶射部3の厚みは、熱交換部22Aにおける母材2の厚みよりも小さい。熱交換部22Aにおける母材2の厚みに対する、金属溶射部3の厚みの比は、例えば9%以上24%以下が好ましい。また、熱交換部22Aにおける母材2の厚みは、例えば1.0mm以上2.5mm以下であり、金属溶射部3の厚みは、例えば、0.2mm以上0.3mm以下である。
【0035】
金属溶射部3は、貫通孔102Cの内周面と離れている。つまり、金属溶射部3と天壁102Aとの間には、冷却液が充填される隙間が存在する。この隙間では、渦、振動等による液圧低下に伴うキャビテーション(つまり気泡)の発生が集中しやすい。しかし、この隙間に面する金属溶射部3は高い硬度を有するため、キャビテーションによる損傷が抑制される。
【0036】
なお、金属溶射部3は、天壁102A(例えば貫通孔102Cの内周面)と接触していてもよい。ただし、金属溶射部3は、母材2に比べて硬度が高いため、天壁102Aに対して、噛み合い等による機械的な連結はされにくい。
【0037】
[1-2.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)母材2を被覆する金属溶射部3によって冷却部品1の硬度が部分的に高められる。そのため、母材2による熱交換効率を維持しつつ、冷却液のキャビテーションによる冷却部品1の損傷が抑制される。
【0038】
(1b)母材2が銅を主成分とし、金属溶射部3がニッケルとアルミニウムとを含有することで、母材2の熱伝導性及び加工性を高めつつ、金属溶射部3による損傷の抑制効果を促進できる。
【0039】
(1c)シリンダ101からの伝熱によって特に高温になりやすい燃料インジェクタ104に対して、キャビテーションによる冷却部品1の損傷を抑制しつつ、冷却を行うことができる。
【0040】
(1d)スリーブの先端部となる連結部22Bの硬度上昇が抑えられるため、連結部22Bを変形させながらシリンダヘッド102の貫通孔102Cに密着させることができる。また、シリンダヘッド102に連結される連結部22Bに隣接する熱交換部22Aに金属溶射部3が設けられることで、シリンダヘッド102と冷却部品1との隙間でキャビテーションが集中発生する場合にも冷却部品1の損傷を抑制できる。
【0041】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0042】
(2a)上記実施形態のエンジン用冷却部品において、母材の主成分は銅に限定されない。また、金属溶射に用いられる金属は、ビッカース硬度が母材よりも高いものであれば、ニッケルとアルミニウムとの合金に限定されない。
【0043】
(2b)上記実施形態のエンジン用冷却部品の冷却対象は燃料インジェクタに限定されない。本開示のエンジン用冷却部品は、燃料インジェクタ以外の被冷却部位の冷却にも用いることができる。
【0044】
(2c)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0045】
1…エンジン用冷却部品、2…母材、3…金属溶射部、21…円筒部、
22…円錐筒部、22A…熱交換部、22B…連結部、100…エンジン、
101…シリンダ、101A…側壁、101B…燃焼室、102…シリンダヘッド、
102A…天壁、102B…冷却液流路、102C…貫通孔、102D…噛み合い部、
103…ピストン、104…燃料インジェクタ、104A…本体、104B…ノズル、
105…コンロッド。