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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】管継手の水圧試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/28 20060101AFI20241008BHJP
   G01M 3/02 20060101ALI20241008BHJP
   G01M 3/26 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01M3/28 P
G01M3/02 C
G01M3/26 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022049709
(22)【出願日】2022-03-25
(65)【公開番号】P2023142688
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(73)【特許権者】
【識別番号】000252207
【氏名又は名称】六菱ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】藤田 弘司
(72)【発明者】
【氏名】小仲 正純
(72)【発明者】
【氏名】吉田 義徳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 健吾
(72)【発明者】
【氏名】魚津 颯二郎
(72)【発明者】
【氏名】原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】武井 将吾
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-159689(JP,A)
【文献】特開2003-294571(JP,A)
【文献】実開昭60-134139(JP,U)
【文献】国際公開第2021/236722(WO,A1)
【文献】特開2021-021665(JP,A)
【文献】特開昭50-099188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/28
G01M 3/02
G01M 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の管(2)と他方の管(3)の継手部の内側に配置される試験機本体(5)と、前記試験機本体(5)を前記管(2、3)の管軸方向に移動可能に支持する台車(6)と、を備え、
前記試験機本体(5)が、本体フレーム(8)と、前記本体フレーム(8)から管径方向外向きに拡径して前記一方の管(2)と前記他方の管(3)との間に跨るように前記各管(2、3)の内面に密接し、前記継手部との間に密閉空間を形成する環状の止水部(9)と、前記密閉空間に接続され当該密閉空間に水を送り込んで加圧する充水加圧配管(10)と、前記密閉空間の頂部に接続され前記水の送り込みに伴って当該密閉空間から空気を抜く空気抜き配管(11)と、を有し、
前記台車(6)が、台車フレーム(23)と、前記台車フレーム(23)から管径方向外向きに突出し前記内面に沿って走行可能な走行キャスタ(24)と、を有し、
前記試験機本体(5)と前記台車(6)が、管軸周りに相対回転自在に連結されている管継手の水圧試験装置。
【請求項2】
前記走行キャスタ(24)の前記台車フレーム(23)からの管径方向外向きの突出量が調節可能となっている請求項1に記載の管継手の水圧試験装置。
【請求項3】
前記止水部(9)の中心を通る水平面で切断した前記試験機本体(5)の上側半分の重量よりも、前記試験機本体(5)の下側半分の重量の方が大きい請求項1または2に記載の管継手の水圧試験装置。
【請求項4】
前記止水部(9)の中心を通る水平面で切断した前記台車(6)の上側半分の重量よりも、前記走行キャスタ(24)が取り付けられている前記台車(6)の下側半分の重量の方が大きい請求項1から3のいずれか1項に記載の管継手の水圧試験装置。
【請求項5】
前記試験機本体(5)の管軸方向の前後両側に前記台車(6)が設けられ、前記試験機本体(5)と前記台車(6)が、前記試験機本体(5)の軸心に挿通された中心軸体(7)によって管軸周りに相対回転自在となっており、前記中心軸体(7)の端部に、管軸方向に延びる操作棒(28)が連設され、前記操作棒(28)を上下させることにより前記走行キャスタ(24)を管内面から浮かせることができる請求項4に記載の管継手の水圧試験装置。
【請求項6】
前記試験機本体(5)の管軸方向の前後両側に前記台車(6)が設けられ、前記試験機本体(5)と前記台車(6)が、前記試験機本体(5)の軸心に挿通された中心軸体(7)によって管軸周りに相対回転自在となっており、前記試験機本体(5)の管軸方向の前後それぞれに、前記中心軸体(7)を上向きに持ち上げるリフト機構(31)が設けられており、前記リフト機構(31)を動作させることにより前記走行キャスタ(24)を管内面から浮かせることができる請求項4に記載の管継手の水圧試験装置。
【請求項7】
前記止水部(9)が、径方向外向きの開口を有する環状のガイド溝(15)と、前記ガイド溝(15)内に設けられ当該ガイド溝(15)内への作動流体の供給に伴って前記管(2、3)の内面に向かって拡径する弾性リング(16)と、を有し、前記弾性リング(16)の内径縁に前記ガイド溝(15)の壁面に向かうよう管軸方向に屈曲して当該壁面に密接するリップ部(21)と、前記弾性リング(16)の外径縁に前記管(2、3)の内面に臨む突起(22)が形成されている請求項1から6のいずれか1項に記載の管継手の水圧試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、管継手の水圧試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダクタイル鉄管等で構築された上下水道や工業用水等の管路においては、継手の接合作業の完了後に、その継手の止水部の健全性(水密性)を確認するために、この継手に水圧を負荷する試験が実施される。例えば、呼び径が800以下の中口径の管路の継手部への水圧試験に関し、例えば下記特許文献1には、試験対象の継手部の管軸方向前後の弾性体を遠隔操作により管内面に向かって拡径し、継手部を含む密閉空間を構築した上で、この密閉空間に充水加圧する方式の中口径管用の水圧試験装置が示されている。
【0003】
この水圧試験装置の下部には、密閉空間に水を送り込むための通水管路42が、上部には、密閉空間から空気を抜くための通気管路52がそれぞれ設けられている。この水圧試験装置の下部には、走行ローラ23(キャスタ)が取り付けられており、この水圧試験装置が管内を管軸方向に沿って移動できるように構成されている。この水圧試験では、継手部(密閉空間)に水圧(例えば0.5MPa)を負荷し、所定時間(例えば5分間)経過後に所定値以上(例えば0.4MPa以上)の水圧が維持されていれば合格と判定される。このタイプの水圧試験装置は、例えば下記特許文献2、3にも開示されているように一般的に広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-49241号公報
【文献】特開2003-294571号公報
【文献】特許第5725558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3に記載の水圧試験装置においては、管軸方向に沿って移動させる際に、この水圧試験装置に設けられたキャスタが管内の壁面を乗り上げて装置全体が管軸周りに回転する、いわゆるローリングが生じることがある。この水圧試験装置には、頂部(密閉空間の鉛直方向最上部)に空気を抜くための空気抜き配管と、下部に充水加圧のための充水加圧配管が設けられており、ローリングによって空気抜き配管が頂部からずれると、継手部を含む密閉空間に充水する過程でその頂部に空気だまりが生じる。この空気だまりが存在すると水圧の保持中に空気が水に溶け込んで圧力低下を生じるため、水圧試験に支障をきたす問題がある。
【0006】
また、ローリングが進行すると、水圧試験装置が管内でバランスを崩して転倒し、作業にさらに大きな支障をきたすことがある。このため、ローリングが生じた際には、水圧試験装置を管内で周方向に回転させて空気抜き配管を頂部に戻す修正作業が行われる。管内で水圧試験装置を回転することが難しいときは、管から水圧試験装置を一旦取り出した上で、空気抜き配管を頂部に修正し、再度ローリングしないように水圧試験装置を慎重に管内を移動させる必要がある。しかしながら、この修正作業は非常に多くの作業時間を要する問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、ローリングに伴う水圧試験における不具合を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明では、
一方の管と他方の管の継手部の内側に配置される試験機本体と、前記試験機本体を前記管の管軸方向に移動可能に支持する台車と、を備え、
前記試験機本体が、本体フレームと、前記本体フレームから管径方向外向きに拡径して前記一方の管と前記他方の管との間に跨るように前記各管の内面に密接し、前記継手部との間に密閉空間を形成する環状の止水部と、前記密閉空間に接続され当該密閉空間に水を送り込んで加圧する充水加圧配管と、前記密閉空間の頂部に接続され前記水の送り込みに伴って当該密閉空間から空気を抜く空気抜き配管と、を有し、
前記台車が、台車フレームと、前記台車フレームから管径方向外向きに突出し前記内面に沿って走行可能な走行キャスタと、を有し、
前記試験機本体と前記台車が、管軸周りに相対回転自在に連結されている管継手の水圧試験装置を構成した。
【0009】
このようにすると、仮に台車に設けられた走行キャスタが管内の壁面に乗り上げて、台車がローリングし始めたとしても、この台車と管軸周りに相対回転自在とした試験機本体のローリングを抑制または低減することができる。このため、ローリングに伴う水圧試験における不具合を防止することができる。
【0010】
前記構成においては、
前記走行キャスタの前記台車フレームからの管径方向外向きの突出量が調節可能となっているのが好ましい。
【0011】
このようにすると、走行キャスタの突出量の調節によって、管の中心と試験機本体に設けられた環状の止水部の中心を一致させて、止水部の拡径に伴うその伸縮量を周方向で均一とすることができる。このため、止水部の周方向の一部分で大きな伸縮が繰り返し生じてその部分の劣化が早まり、止水部の交換頻度が高くなるのを防止することができる。
【0012】
前記構成においては、
前記止水部の中心を通る水平面で切断した前記試験機本体の上側半分の重量よりも、前記試験機本体の下側半分の重量の方が大きいのが好ましい。
【0013】
このようにすると、台車がローリングして試験機本体に連れ回りの回転力が作用したとしても、重量の大きい試験機本体の下部が確実に下側に維持されるため、試験機本体のローリングに伴う水圧試験における不具合を確実に防止することができる。
【0014】
前記構成においては、
前記止水部の中心を通る水平面で切断した前記台車の上側半分の重量よりも、前記走行キャスタが取り付けられている前記台車の下側半分の重量の方が大きいのが好ましい。
【0015】
このようにすると、重量の大きい台車の下部が確実に下側に維持されるため、この台車がローリングするのを防止することができ、この台車に連結されている試験機本体を管内で安定して管軸方向に移動することができる。
【0016】
前記構成においては、
前記試験機本体の管軸方向の前後両側に前記台車が設けられ、前記試験機本体と前記台車が、前記試験機本体の軸心に挿通された中心軸体によって管軸周りに相対回転自在となっており、前記中心軸体の端部に、管軸方向に延びる操作棒が連設され、前記操作棒を上下させることにより前記走行キャスタを管内面から浮かせることができるのが好ましい。
【0017】
このようにすると、操作棒を持ち上げて前後の台車のうち操作棒に近い側の台車の走行キャスタを浮かせることにより、重量の大きい下部が下側となるようにその台車が管軸周りに回転する。その一方で、操作棒を押し下げて前後の台車のうち操作棒から遠い側の台車の走行キャスタを浮かせることにより、重量の大きい下部が下側となるようにその台車が管軸周りに回転する。これにより、台車のローリングを速やかに解消することができる。
【0018】
前記構成においては、
前記試験機本体の管軸方向の前後両側に前記台車が設けられ、前記試験機本体と前記台車が、前記試験機本体の軸心に挿通された中心軸体によって管軸周りに相対回転自在となっており、前記試験機本体の管軸方向の前後それぞれに、前記中心軸体を上向きに持ち上げるリフト機構が設けられており、前記リフト機構を動作させることにより前記走行キャスタを管内面から浮かせることができるのが好ましい。
【0019】
このようにすると、管軸方向の前側に設けられたリフト機構を作動させて前後の台車のうち前側の台車の走行キャスタを浮かせることにより、重量の大きい下部が下側となるようにその台車が管軸周りに回転する。その一方で、管軸方向の後側に設けられたリフト機構を作動させて前後の台車のうち後側の台車の走行キャスタを浮かせることにより、重量の大きい下部が下側となるようにその台車が管軸周りに回転する。これにより、台車のローリングを速やかに解消することができる。
【0020】
前記構成においては、
前記止水部が、径方向外向きの開口を有する環状のガイド溝と、前記ガイド溝内に設けられ当該ガイド溝内への作動流体の供給に伴って前記管の内面に向かって拡径する弾性リングと、を有し、前記弾性リングの内径縁に前記ガイド溝の壁面に向かうよう管軸方向に屈曲して当該壁面に密接するリップ部と、前記弾性リングの外径縁に前記管の内面に臨む突起が形成されているのが好ましい。
【0021】
このようにすると、ガイド溝の内壁とリップ部が摺動して、弾性リングがスムーズに拡径することができる。また、弾性リングの拡径時に突起が管の内面に密接することによって、弾性リングと管の内面との間から、密閉空間内の水が漏れ出すのを確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明では、試験機本体と台車が、管軸周りに相対回転自在に連結されている構成としたので、仮に台車に設けられた走行キャスタが管内の壁面に乗り上げて、台車がローリングし始めたとしても、この台車と管軸周りに相対回転自在とした試験機本体のローリングを抑制または低減することができる。このため、ローリングに伴う水圧試験における不具合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明に係る管継手の水圧試験装置の第一実施形態(水圧試験前の状態)を示し、(a)は正面から見た断面図、(b)は側面から見た断面図
図2図1に示す水圧試験装置において台車を取り外した状態における側面から見た断面図
図3】(a)は弾性リングを正面から見た断面図、(b)は(a)の要部の断面図
図4図1に示す水圧試験装置が180度ローリングした状態を示す側面から見た断面図
図5図1に示す水圧試験装置による水圧試験中の状態を示す断面図
図6】この発明に係る管継手の水圧試験装置の第二実施形態を示す正面から見た断面図
図7図6に示す水圧試験装置の作用を示す正面から見た断面図であって、(a)は手前側のキャスタを浮かせた状態、(b)は奥側のキャスタを浮かせた状態
図8】この発明に係る管継手の水圧試験装置の第三実施形態を示す正面から見た断面図
図9図8に示す水圧試験装置の作用を示す正面から見た断面図であって、(a)は手前側のキャスタを浮かせた状態、(b)は奥側のキャスタを浮かせた状態
図10】この発明に係る管継手の水圧試験装置の第四実施形態を示す正面から見た断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明に係る管継手の水圧試験装置1(以下、水圧試験装置1と略称する。)の第一実施形態を図面に基づいて説明する。この水圧試験装置1は、図1(a)(b)に示すように、挿し口が形成された挿し側管体2と、受口が形成された受け側管体3とを止水部材4を介して水密に接合した管継手の止水部の健全性(水密性)を確認するための装置であり、挿し側管体2と受け側管体3の継手部の内側に配置される試験機本体5と、試験機本体5を管軸方向に移動可能に支持する台車6と、を備えている。試験機本体5と台車6は、試験機本体5の軸心に挿通された中心軸体7によって管軸周りに相対回転自在に連結されている。
【0025】
試験機本体5は、本体フレーム8、環状の止水部9、充水加圧配管10、および、空気抜き配管11を有している。
【0026】
本体フレーム8は、試験機本体5の管軸方向両端に設けられた円板状の部材である。図2に示すように、本体フレーム8の中心には、中心軸体7を挿通するための挿通孔12が形成されている。また、挿通孔12の径方向外側には、扇形の貫通孔13が4か所に形成されている。この貫通孔13の大きさは、試験機本体5の下部側となる2か所よりも上部側となる2か所の方が大きく形成されている。このように、貫通孔13の大きさを上下で異ならせることにより、止水部9の中心を通る水平面で切断した試験機本体5の上側半分の重量よりも、試験機本体5の下側半分の重量の方を大きくしている。
【0027】
なお、貫通孔13の形状や個数は、適宜変更することができる。また、本体フレーム8の上部側のみに貫通孔13を形成したり、貫通孔13の代わりに管軸方向の肉厚を減じた薄肉部としたりすることができる場合もある。
【0028】
止水部9は、管軸方向の両端に設けられた一対の本体フレーム8から管径方向外向きに拡径して挿し側管体2と受け側管体3との間に跨るように各管2、3の内面に密接し、継手部との間に密閉空間を形成するための部材である。この止水部9は、本体フレーム8の外周縁と周方向断面がL字形の環状部材14によって形成される径方向外向きの開口を有する環状の一対のガイド溝15と、各ガイド溝15内に設けられるゴムなどの弾性素材からなる環状の弾性リング16と、一対のガイド溝15に跨るように設けられた円筒状の隔壁17と、を有している。
【0029】
ガイド溝15の下端部には、弾性リング16を拡径させる作動流体としての水を供給する給水管18が、ガイド溝15の上端部には、ガイド溝15内の空気を排気する排気管19がそれぞれ接続されている。図3(a)(b)に示すように、弾性リング16は、周方向断面が矩形状の基部20を有し、この基部20の内径縁に、この弾性リング16が挿入されるガイド溝15の壁面に向かうように管軸方向外向きに屈曲したリップ部21と、基部20の外径縁に管2、3の内面に臨む複数の突起22が形成されている。この突起22は、管軸方向の一方側が径方向に切り立った壁部、管軸方向の他方側が傾斜面の断面が略直角三角形となっている。弾性リング16は、止水部9と継手部との間の密閉空間に充水加圧した際に密閉空間に臨む側に突起の壁部が、その反対側に傾斜面がそれぞれ向くように配置される。
【0030】
なお、基部20の周方向断面形状は特に限定されない。本実施形態のように、基部20を中実の部材で構成してもよいし、基部20を中空のチューブ状としてもよい。また、中実とした基部20の周方向断面形状を矩形とする代わりに例えば円形としてもよい。また、例えばドーナツ状の弾性リング16の管軸方向両端をガイド部材によって初期面圧を与えた状態で挟み込み、この弾性リング16の内径側から作動流体の圧力を作用させることによって拡径させてもよい。また、管軸方向の前後両側に個別の弾性リング16を設ける代わりに、単独の弾性リング16の管軸方向の前後両側が作動流体の圧力によって拡径する構成としてもよい。また、作動流体によって拡径する代わりに、弾性リング16の管軸方向両側から機械的に強く挟み込むことによって拡径させる構成としてもよい。また、リップ部21の有無、突起22の形状や個数は特に限定されない。
【0031】
充水加圧配管10は、各管2、3の内面に密接した止水部9と継手部との間に形成される密閉空間に接続された、この密閉空間に水を送り込んで加圧するための配管である。この充水加圧配管10は、止水部9の隔壁17を水密状態で貫通して、密閉空間の下部に開口するよう配置されている。
【0032】
空気抜き配管11は、密閉空間から空気を抜くための配管である。この空気抜き配管11は、止水部9の隔壁17を気密状態で貫通して、密閉空間の頂部に開口するよう配置されている。
【0033】
台車6は、台車フレーム23と、台車フレーム23から管径方向外向きに突出し、管2、3の内面に沿って走行可能な走行キャスタ24を有している。
【0034】
台車フレーム23は、図1(b)に示すように、側面視においてX字形に組まれた部材であって、試験機本体5の管軸方向の前後にそれぞれ配置されている。台車フレーム23のX字形の交差部分には貫通孔が形成されており、この貫通孔に中心軸体7が挿通されている。
【0035】
図1(a)に示すように、走行キャスタ24は、X字形に組まれた台車フレーム23の下端2か所にそれぞれ管軸方向に2個並んで設けられている。走行キャスタ24の台車フレーム23からの管径方向外向きの突出量は、この台車フレーム23に管径方向外向きに固定されたボルト25への走行キャスタ24の取り付け位置を変えることによって調節可能となっている。走行キャスタ24の突出量を調節することによって、この走行キャスタ24が管2、3の内面に接触した状態で、中心軸体7を管2、3の軸心と一致させることができる。
【0036】
X字形に組まれた台車フレーム23の上端2か所には、それぞれ管軸方向に2個並んで補助キャスタ26が設けられている。補助キャスタ26の台車フレーム23からの管径方向外向きの突出量は、走行キャスタ24と同様に調節可能となっている。走行キャスタ24と補助キャスタ26は、台車フレーム23の周方向に90度の均等角度間隔で配置されている。走行キャスタ24は常に管2、3の内面に接触しているのに対し、補助キャスタ26と管2、3の内面との間には若干(例えば1cm)の隙間が設けられている。このように隙間を設けることにより、水圧試験装置1を管内でスムーズに移動させることができる。
【0037】
このように、走行キャスタ24と補助キャスタ26を均等角度間隔で配置すると、試験機本体5または台車6に万が一ローリングが生じた際に、水圧試験装置1が転倒するのを防止する効果が高まるため好ましいが、両キャスタ24、26が不均等な角度間隔で配置される場合もあり得る。
【0038】
台車フレーム23の下部には、ウェイト27が設けられている。このように、ウェイト27を設けることにより、試験機本体5に設けられた止水部9の中心を通る水平面で切断した台車6の上側半分の重量よりも、台車6の下側半分の重量の方を大きくしている。
【0039】
上記において説明した水圧試験装置1を用いた水圧試験の手順について説明する。
【0040】
この水圧試験に際しては、まず、図1(a)に示すように、中心軸体7と管2、3の軸心とが一致するように走行キャスタ24の突出量を予め調節するとともに、補助キャスタ26と管2、3の内面との間に隙間(例えば1cm)が形成され、かつ、図4に示すように、この水圧試験装置1が仮に大きくローリング(図4は180度ローリングした状態)しても試験機本体5が管2、3の内面に接触しないように補助キャスタ26の突出量を予め調節する。各キャスタ24、26の調節が完了したら、止水部9を縮径させた状態で水圧試験装置1を管2、3の継手部まで移動させる。
【0041】
次に、図5に示すように、ガイド溝15内に給水管18を通って水を供給してその水圧で弾性リング16を拡径させる。このとき、ガイド溝15内の空気は、排気管19を通って外部に排出される。さらに、管2、3の内面に密接した止水部9と継手部との間に形成された密閉空間に充水加圧配管10を通って水を供給し、密閉空間内の水圧を試験水圧(例えば0.5MPa)とする。このとき、密閉空間内の空気は、空気抜き配管11を通って外部に排出される。そして、所定時間(例えば5分)経過後に所定値以上(例えば0.4MPa以上)の水圧が維持されていれば合格と判定する。
【0042】
管内に水圧試験装置1を挿入する際には、水圧試験装置1に設けられた走行キャスタ24が管2、3の壁面を乗り上げて装置全体が管軸周りに回転するローリング現象が生じ得るが、この実施形態に係る水圧試験装置1においては、試験機本体5および台車6のそれぞれにおいて、上側半分の重量よりも下側半分の重量を大きくしたので、ローリングを速やかに解消することができる。また、仮に台車6がローリングしても、試験機本体5と台車6を相対回転自在に連結しているので、試験機本体5にはその影響が及ばない。このため、試験機本体5に設けた空気抜き配管11および排気管19を常に頂部に保つことができ、密閉空間内およびガイド溝15内の空気を速やかに排出することができる。このため、試験機本体5のローリングに伴う水圧試験における不具合を確実に防止することができる。
【0043】
また、上記の水圧試験装置1は、同一の呼び径であっても粉体塗装とモルタルライニングのように内面塗装が異なることによって内径が異なる管2、3の継手に対して、走行キャスタ24および補助キャスタ26の突出量を調節することによって、共通の装置で水圧試験を行うことができるため利便性が高い。また、走行キャスタ24の突出量を調節して中心軸体7と管2、3の軸心を一致させたことにより、止水部9(弾性リング16)を拡縮径させた際の伸縮量がその全周に亘ってほぼ均一となる。このため、繰り返し使用に伴って止水部9(弾性リング16)の特定部分のみが劣化することがなく、その交換頻度を抑制することができる。
【0044】
また、上記の水圧試験装置1は、走行キャスタ24に加え補助キャスタ26を周方向に均等角度間隔で設けているため、この水圧試験装置1を管軸方向に移動させる際にローリングしたとしても、周方向2か所でいずれかのキャスタ24、26が管2、3の内面に接し、この水圧試験装置1の転倒を防止することができる。
【0045】
この発明に係る水圧試験装置1の第二実施形態を図6および図7(a)(b)に示す。この水圧試験装置1は、第一実施形態に係る水圧試験装置1と基本的な構成は共通するが、中心軸体7の端部に、管軸方向に延びる操作棒28が連設されている点で異なっている。
【0046】
この操作棒28は、中心軸体7の端部にねじ継手29によって接続されている。この操作棒28の長さは、水圧試験装置1が試験対象となる継手部の位置にセットされたときに、管2、3の外側からこの水圧試験装置1を容易に操作できる程度(例えば、管2、3からの操作棒28の突出長さが50cm以上)とするのが好ましい。この操作棒28は、水圧試験装置1を管軸方向に移動させる際に用いられるほか、台車6がローリングしたときに、それを修正する際にも用いられる。
【0047】
すなわち、図7(a)に示すように、油圧ジャッキ30などを用いて操作棒28を上に持ち上げて、前後の台車6のうち操作棒28に近い側の台車6の走行キャスタ24を浮かせることにより、重量の大きい下部が下側となるようにその台車6が管軸周りに回転する。その一方で、図7(b)に示すように、操作棒28を下に押し下げて前後の台車6のうち操作棒28から遠い側の台車6の走行キャスタ24を浮かせることにより、重量の大きい下部が下側となるようにその台車6が管軸周りに回転する。このように、操作棒28を上下させることにより、ローリングした台車6を速やかに元の状態に戻すことができる。
【0048】
この発明に係る水圧試験装置1の第三実施形態を図8および図9(a)(b)に示す。この水圧試験装置1は、第一実施形態に係る水圧試験装置1と基本的な構成は共通するが、試験機本体5の管軸方向の前後の本体フレーム8にリフト機構31がそれぞれ設けられている点で異なっている。この実施形態では、リフト機構31として流体圧によって作動するシリンダを採用している。このリフト機構31は、台車6がローリングしたときに、それを修正する際に用いられる。
【0049】
すなわち、図9(a)に示すように、リフト機構31で前後の台車6のうち一方の台車6の走行キャスタ24を浮かせることにより、重量の大きい下部が下側となるようにその一方の台車6が管軸周りに回転する。その一方で、図9(b)に示すように、リフト機構31で前後の台車6のうち他方の台車6の走行キャスタ24を浮かせることにより、重量の大きい下部が下側となるようにその他方の台車6が管軸周りに回転する。このように、リフト機構31を動作させることにより、台車6がローリングしても速やかに解消することができる。なお、このリフト機構31として、流体によって膨張する中空バッグを採用することもできる。
【0050】
この発明に係る水圧試験装置1の第四実施形態を図10に示す。この水圧試験装置1は、リフト機構31を採用する点で第三実施形態に係る水圧試験装置1と共通するが、このリフト機構31が中心軸体7に対して回動自在に設けられた保持部材32によって保持されている点で異なっている。この実施形態では、第三実施形態と同様にリフト機構31として流体圧によって作動するシリンダを採用している。
【0051】
このように、リフト機構31を中心軸体7に対して回動自在に設けることによって、試験機本体5がローリングした場合でも、リフト機構31はその自重によって垂直状態が維持される。このため、このリフト機構31によって、前後の台車6の走行キャスタ24を安定的に浮かせることができ、ローリングした台車6を速やかに元の状態に戻すことができる。
【0052】
上記各実施形態において説明した水圧試験装置1は、特に中口径の管2、3の水圧試験に特に好適であるが、それ以外の口径の管2、3の水圧試験にも適用することができる。
【0053】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味およびすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
1 管継手の水圧試験装置(水圧試験装置)
2 第一の管(挿し側管体)
3 第二の管(受け側管体)
4 止水部材
5 試験機本体
6 台車
7 中心軸体
8 本体フレーム
9 止水部
10 充水加圧配管
11 空気抜き配管
12 挿通孔
13 貫通孔
14 環状部材
15 ガイド溝
16 弾性リング
17 隔壁
18 給水管
19 排気管
20 基部
21 リップ部
22 突起
23 台車フレーム
24 走行キャスタ
25 ボルト
26 補助キャスタ
27 ウェイト
28 操作棒
29 ねじ継手
30 油圧ジャッキ
31 リフト機構
32 保持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10