(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20241008BHJP
A61K 6/818 20200101ALN20241008BHJP
A61K 6/824 20200101ALN20241008BHJP
A61K 6/822 20200101ALN20241008BHJP
【FI】
C04B35/488
A61K6/818
A61K6/824
A61K6/822
(21)【出願番号】P 2022124979
(22)【出願日】2022-08-04
【審査請求日】2024-08-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000162205
【氏名又は名称】共立マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591234787
【氏名又は名称】伴 清治
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】安岡 裕太
(72)【発明者】
【氏名】伴 清治
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0081369(US,A1)
【文献】国際公開第2021/229840(WO,A1)
【文献】特開昭63-050383(JP,A)
【文献】特開昭62-288182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/486-35/488
C04B 41/85-41/88
A61K 6/00-6/90
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアと、バナジウム族元素とを含み、
前記バナジウム族元素は、少なくとも表層の一部に偏在して
おり、
前記バナジウム族元素がニオブ(Nb)であり、
25℃~500℃における平均線膨張係数が9.9×10
-6
/K以下である、ジルコニア焼結体。
【請求項2】
前記バナジウム族元素が偏在する表層の表面おける前記バナジウム族元素の濃度が、該表面の深さ方向の前記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分の前記バナジウム族元素の濃度よりも1.5倍以上高い、または、前記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分に前記バナジウム族元素が含まれない、請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
X線回折パターンから得られる前記バナジウム族元素が偏在する表層の表面における正方晶のc/a軸長比と、前記表面の深さ方向の前記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分における正方晶のc/a軸長比との差が0.001以上である、請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
さらに、安定化剤として酸化イットリウム及び/又は酸化イッテルビウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
前記ジルコニアと前記安定化剤との合計を100mol%としたとき、前記安定化剤の濃度が3mol%以上6mol%以下である、
請求項4に記載のジルコニア焼結体。
【請求項6】
前記バナジウム族元素が偏在する前記表層の表面の少なくとも一部における破壊靭性値が4.5MPa√m以上で
ある、
請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
イットリア(Y2O3)を少量固溶させたジルコニア焼結体(以下「部分安定化ジルコニア焼結体」ともいう)は、その強度、靭性および審美性の高さから歯科材料(例えば、義歯、歯科補綴物、義歯ミルブランク、歯科矯正ブラケット)等の生体材料として広く用いられている。例えば、特許文献1には、酸化イットリウム及び/又は酸化イッテルビウムを3.5mol%~5.0mol%の割合で含み、酸化ニオブ及び/又は酸化タンタルを0.3mol%~1.5mol%の割合で含むジルコニア焼結体が開示されている。このジルコニア焼結体では、優れた破壊靭性、優れた透光性、及び優れた耐水熱劣化特性が実現されている。
【0003】
また、特許文献2および3では、ジルコニア被切削体に所望の化合物を均一性高く分布させる技術が開示されている。また、特許文献4では、空孔率が調整されたジルコニア被切削体に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2021-229840号
【文献】国際公開第2018-155459号
【文献】特開2021-165222号公報
【文献】特開2020-33338号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of the American Ceramic Society, 1990, vol.73, No.1, p.115-120
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者は、ジルコニア焼結体にバナジウム族元素を含有させ、破壊靭性を向上させることを検討している。しかしながら、ジルコニア焼結体にバナジウム族元素を含有させると、熱膨張率が高くなってしまう。即ち、破壊靭性値と熱膨張率とはトレードオフの関係にあり、両立させることが困難である。ジルコニア焼結体の熱膨張率が高くなると、例えば、ジルコニア焼結体の表面に陶材を焼き付けるとき(例えば、歯科材料として使用し着色するとき)、ジルコニア焼結体と陶材との間で熱膨張率差が生じて割れてしまう等の不具合が生じ易くなり得る。
【0007】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、表面の少なくとも一部において優れた破壊靭性を有し、熱膨張率が抑えられたジルコニア焼結体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここで開示されるジルコニア焼結体は、ジルコニアと、バナジウム族元素とを含み、上記バナジウム族元素は、少なくとも表層の一部に偏在している。これにより、ジルコニア焼結体の表層において応力誘起相変態が起こり易くなるため、該表層の表面において破壊靭性が向上する。また、一般的に、ジルコニア焼結体がバナジウム族元素を含有する場合に熱膨張率が増大してしまうが、ジルコニア焼結体の表層以外の部分(例えばジルコニア焼結体の内部)においてバナジウム族元素の濃度が比較的低くなるため、熱膨張率の増大を抑制することができる。この結果、表面の少なくとも一部における破壊靭性の向上と熱膨張率の抑制とが実現される。
【0009】
また、ここで開示されるジルコニア焼結体の好ましい一態様では、上記バナジウム族元素が偏在する表層の表面における上記バナジウム族元素の濃度が、該表面の深さ方向の上記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分の上記バナジウム族元素の濃度よりも1.5倍以上高い、または、上記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分に上記バナジウム族元素が含まれない。これにより、より高いレベルで破壊靭性の向上と熱膨張率の抑制とが実現される。
【0010】
また、ここで開示されるジルコニア焼結体の好ましい一態様では、X線回折パターンから得られる上記バナジウム族元素が偏在する表層の表面における正方晶のc/a軸長比と、上記表層の深さ方向の上記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分における正方晶のc/a軸長比との差が0.001以上である。これにより、より高いレベルで破壊靭性の向上と熱膨張率の抑制とが実現される。
【0011】
また、ここで開示されるジルコニア焼結体の一態様では、上記バナジウム族元素としてニオブ(Nb)を含み得る。
【0012】
また、ここで開示されるジルコニア焼結体の一態様では、さらに、安定化剤として酸化イットリウム及び/又は酸化イッテルビウムを含み得る。また、ここで開示されるジルコニア焼結体の一態様では、上記ジルコニアと上記安定化剤の合計を100mol%としたとき、上記安定化剤の濃度が3mol%以上6mol%以下であり得る。
【0013】
また、ここで開示されるジルコニア焼結体の一態様では、上記バナジウム族元素が偏在する上記表層の表面の少なくとも一部における破壊靭性値が4.5MPa√m以上であり、25℃~500℃における平均線膨張係数が10×10-6/K以下であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1のジルコニア焼結体の切断面のNbのマッピング像(倍率:100)である。
【
図2】参考例1のジルコニア焼結体の切断面のNbのマッピング像(倍率:100)である。
【
図3】元素マッピングに基づくジルコニア焼結体のNb
2O
5濃度分布を示すグラフである。
【
図4】全元素定量分析に基づくジルコニア焼結体のNb
2O
5濃度分布を示すグラフである。
【
図5】実施例1のジルコニア焼結体の切断面における正方晶のc/a軸長比を示すグラフである。
【
図6】各例における破壊靭性値を示すグラフである。
【
図7】各例における平均線膨張率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ここで開示される技術の実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。ここで開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において、数値範囲を「A~B(ここでA、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下」を意味すると共に、「Aを超えてB未満」、「Aを超えてB以下」、および「A以上B未満」の意味を包含する。
【0016】
ここで開示されるジルコニア焼結体は、少なくともジルコニア(ZrO2)と、バナジウム族元素とを含んでいる。また、ジルコニア焼結体は、さらに安定化剤を含み得る。ジルコニア焼結体は、ジルコニアを主成分として含んでいる。ここで、「ジルコニアを主成分として含む」とは、ジルコニア焼結体を構成する化合物のうち、ジルコニアが占める割合が最も多いことを意味する。ジルコニア焼結体全体を100質量%としたとき、ジルコニアが占める割合は、例えば70質量%以上であって、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。ジルコニアの割合が高いことで、ジルコニア焼結体の強度、靭性等が向上し得る。
【0017】
バナジウム族元素としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、およびタンタル(Ta)が例示される。ジルコニア焼結体は、V、Nb、およびTaのうちの少なくとも1種を含んでいる。バナジウム族元素は、例えば、酸化物としてジルコニア焼結体に含まれている。バナジウム族元素を含む酸化物としては、例えばX2O5(Xはバナジウム族元素を示す)が挙げられる。非特許文献1によれば、バナジウム族元素はジルコニア中に固溶し、ジルコニア焼結体の正方晶のc/a軸長比(正方晶性)を増大させる(即ち、結晶を歪ませる)。これにより、応力誘起相変態(正方晶から単斜晶への相変態)が起こり易くなり、ジルコニア焼結体の破壊靭性値を向上させることができる。
【0018】
ここで開示されるジルコニア焼結体では、バナジウム族元素が少なくともジルコニア焼結体の表層の一部に偏在している。バナジウム族元素は、ジルコニア焼結体の表面積を100%としたとき、例えば2%以上の表面積の範囲における表層に偏在(存在)してもよく、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、50%以上、70%以上、90%以上、または100%(即ち、ジルコニア焼結体の表面全体)の範囲における表層にバナジウム族元素が偏在していてもよい。これにより、ジルコニア焼結体のバナジウム族元素が偏在する表層(表面を含む)において、応力誘起相変態が起こり易くなり得、ジルコニア焼結体表面における破壊靭性値を向上させることができる。また、かかる構成により、ジルコニア焼結体の表層以外の部分(例えばジルコニア焼結体の表層よりも内部側)においては、バナジウム族元素の濃度が比較的低くなるため、バナジウム族元素の濃度増大に伴って生じ得る熱膨張率の増大を抑制することができる。この結果、バナジウム族元素が偏在したジルコニア焼結体の表層で優れた破壊靭性を発揮させ、ジルコニア焼結体の内部で熱膨張率の増大を抑えることができるため、破壊靭性の向上と熱膨張率の抑制とが実現されると推定される。なお、かかるメカニズムは推定であり、本技術を何ら限定するものではない。
【0019】
ここで開示されるジルコニア焼結体において、バナジウム族元素が偏在する表層の表面におけるバナジウム族元素の濃度は、該表面の深さ方向におけるバナジウム族元素の濃度が最も低い部分のバナジウム族元素の濃度よりも高く、例えば、1.5倍以上、2倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、または30倍以上高くあってよい。なお、バナジウム族元素の濃度が最も低い部分では、バナジウム族元素の濃度が0mol%(即ち、バナジウム族元素が含まれない)であってよい。これにより、より優れた破壊靭性を有し、熱膨張率が抑えられたジルコニア焼結体が実現される。なお、本明細書において「深さ方向」とは、ジルコニア焼結体の表面に接する平面と該表面との接点から、該平面と垂直となるようにジルコニア焼結体内部に向かう方向のことをいう。
【0020】
ジルコニア焼結体のバナジウム族元素が偏在する表層の表面におけるバナジウム族元素の濃度は、X2O5換算(Xはバナジウム族元素を示す)で、例えば、0.1mol%以上であって、好ましくは0.3mol%以上、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは0.7mol%以上、特に好ましくは0.9mol%以上である。バナジウム族元素の濃度が高いことで、ジルコニア焼結体の正方晶性が増大する傾向がみられる(即ち、正方晶のc/a軸長比が増加する)。これにより、ジルコニア焼結体の表面への応力付与時に体積変化を伴う相変態が起こり易くなり、破壊靭性値をより高めることができる。また、特に限定されるものではないが、ジルコニア焼結体の表面におけるバナジウム族元素の濃度は、X2O5換算(Xはバナジウム族元素を示す)で、例えば10mol%以下であって、5mol%以下、3mol%以下、または2mol%以下であり得る。なお、ジルコニア焼結体のバナジウム族元素の濃度は、走査型電子顕微鏡-波長分散型X線分光法(SEM-WDX)により測定することができる。
【0021】
ジルコニア焼結体の表面からの深さ方向のバナジウム族元素の濃度が最も低い部分(典型的には、ジルコニア焼結体の内部の中央付近)におけるバナジウム族元素の濃度は、X2O5換算(Xはバナジウム族元素を示す)で、例えば、0.1mol%未満であって、0.05mol%以下、0.03mol%以下、0.01mol%以下、または0mol%(即ち、バナジウム族元素が含まれない)であり得る。ジルコニア焼結体の内部側においてバナジウム族元素の濃度が低い又はバナジウム族元素が含まれないことで、熱膨張率の増大を抑制することができる。
【0022】
ジルコニア焼結体において、バナジウム族元素が偏在する表層の表面から該表面の深さ方向におけるバナジウム族元素の濃度が最も低い部分までの領域を表面側領域と内部側領域との2領域に等分したとき、表面側領域におけるバナジウム族元素の濃度が、内部側領域におけるバナジウム族元素の濃度よりも高い。例えば、ジルコニア焼結体の表面側領域におけるバナジウム族元素の濃度は、ジルコニア焼結体の内部側領域におけるバナジウム族元素の濃度よりも1.5倍以上高くてもよく、2倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、または30倍以上高くあってもよい。また、内部側領域にバナジウム族元素が含まれなくてもよい。これにより、より優れた破壊靭性を有し、熱膨張率が抑えられたジルコニア焼結体が実現される。
【0023】
なお、「表面側領域」とは、ジルコニア焼結体のバナジウム族元素が偏在する表面から該表面の深さ方向におけるバナジウム族元素の濃度が最も低い部分までの距離の中点よりも該表面に近い側の領域のことをいう。また、「内部側領域」とは、ジルコニア焼結体の表面から該表面の深さ方向におけるバナジウム族元素の濃度が最も低い部分までの距離の中点よりも該表面から遠い側の領域のことをいう。
【0024】
ジルコニア焼結体のバナジウム族元素が偏在する表層の表面における正方晶のc/a軸長比(以下、「正方晶性A」ともいう)は、該表面の深さ方向におけるバナジウム族元素の濃度が最も低い部分における正方晶のc/a軸長比(以下、「正方晶性B」ともいう)よりも高くあってよい。正方晶性Aと、正方晶性Bとの差(ただしA>B)は、例えば0.001以上、0.00125以上、0.0015以上、または0.00175以上であり得る。正方晶性の値が高いほど、応力付与時に単斜晶への相変態が生じやすくなり、破壊靭性値を向上させることができる。一方で、正方晶性の値が高いことで熱膨張率が増大し得る。そのため、上記のように正方晶性Aと正方晶性Bとの差が大きいことで、ジルコニア焼結体の表層部における破壊靭性の向上と、熱膨張率の増大の抑制とを実現することができる。
なお、「正方晶のc/a軸長比」は、ジルコニア焼結体の断面におけるX線回折パターンのプロファイルを、統合粉末X線解析ソフトウェア:PDXL2(株式会社リガクソフトウェア製)を用いて測定することができる。具体的な解析方法の一例では、まず、上記ソフトにより自動的に解説プロファイルからピーク位置を決定する。次に、回折角(2θ)が73°付近であるc軸に対応する(004)面の格子定数(d値)、および、2θが74.5°付近のa軸に対応する(400)面のd値から、c/a軸長比を算出する。このようにして、正方晶のc/a軸長比を得ることができる。
【0025】
正方晶性Aの値は、特に限定されるものではないが、1.0165以上であって、1.0170以上、1.0175以上、または1.018以上であってよい。正方晶性が高いほど、応力付与時に単斜晶への相変態が生じやすくなり、破壊靭性値を向上させることができる。また、特に限定されるものではないが、正方晶性Aの値は、例えば、1.02以下であって、1.019以下、または1.0185以下であり得る。
【0026】
正方晶性Bの値は、特に限定されるものではないが、例えば、1.012以上、1.013以上、または1.014以上であり得る。また、正方晶性Bは、特に限定されるものではないが、例えば、1.017未満、または1.0168以下であり得る。正方晶性Bが上記範囲内であることで、熱膨張率の増大を抑制することができる。
【0027】
ジルコニア焼結体に含まれ得る安定化剤としては、例えば、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化イッテルビウム(Yb2O3)、酸化セリウム(Ce2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)等の希土類元素を含む酸化物、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)等のアルカリ土類金属元素を含む酸化物、およびその他遷移金属元素を含む酸化物等が挙げられる。このなかでも、酸化イットリウムおよび酸化イッテルビウムが好ましく用いられる。酸化イットリウム及び/又は酸化イッテルビウムを含むことにより、ジルコニア焼結体における正方晶の割合を高めることができ、破壊靭性値や強度を向上させることができる。なお、安定化剤は1種単独で含まれてもよく、2種以上が含まれていてもよい。また、安定化剤は全てがジルコニアに固溶していてもよく、またはジルコニアに固溶していない未固溶の安定化剤が含まれていてもよい。
【0028】
安定化剤の濃度は、特に限定されるものではないが、ジルコニアと安定化剤との合計を100mol%としたとき、例えば、1.5mol%以上であって、2mol%以上、2.5mol%以上、または3mol%以上であり得る。また、安定化剤の濃度は、例えば、6mol%以下であって、5mol%以下、4.5mol%以下、4.2mol%以下、または3.5mol%以下であり得る。なお、安定化剤として酸化イットリウム及び/又は酸化イッテルビウムを含む場合に、上述の安定化剤の濃度範囲は特に好ましく採用される。
【0029】
ジルコニア焼結体は、さらに酸化アルミニウム(Al2O3)を含み得る。酸化アルミニウムは、ジルコニア焼結体を製造するための焼成温度を下げることができる。また、アルミナを含むジルコニア焼結体では、異常粒成長が抑制されるため、ジルコニア焼結体の強度および透光性を向上し得る。また、耐低温劣化特性が向上し得るため、ジルコニア焼結体の強度および透光性を長期にわたり保持することができ得る。一方で、アルミナは、焼結体内部で不純物として残留し光散乱因子として働くためアルミナ含有量は高すぎない方がよい。そのため、アルミナの含有量は、ジルコニア焼結体全体を100質量%としたとき、例えば、0.30質量%以下であるとよく、0.15質量%以下、0.1質量%以下、または0.05質量%以下であり得る。
【0030】
また、ジルコニア焼結体は、ここで開示される技術の効果が著しく損なわれない範囲で、従来公知の着色剤を含み得る。着色剤としては、例えば、遷移金属元素やランタノイド系希土類元素等が挙げられる。このような元素としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、プラセオジム、ネオジム、ユーロピウム、ガドリニウム、エルビウム等が挙げられる。着色剤は、例えば、ジルコニア焼結体全体に対して5質量%以下であるとよく、1質量%以下、0.5質量%以下であり得る。
【0031】
また、ジルコニア焼結体は、不可避的に混入し得る元素を含み得る。例えば、ハフニウム、ケイ素、チタン等が挙げられる。これらの元素の合計の含有量は、ジルコニア焼結体全体に対して、酸化物換算で2.5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下がより好ましく、例えば1.8質量%以下であるとよい。
【0032】
ジルコニア焼結体の形状は、特に限定されるものではないが、例えば、円盤状、円柱状、角柱状等の柱状;直方体状、立方体状、多角体状等の多面体状:球形状、ラグビーボール状、または不定形状等であり得る。なお、ジルコニア焼結体は歯科材料としての形状であり得、例えば、前歯用義歯、奥歯用義歯等の義歯、義歯ミルブランク、歯科矯正ブラケット、歯科補綴物、ブリッジ、クラウン等の形状であり得る。
【0033】
ジルコニア焼結体のバナジウム族元素が偏在する表層の表面から、該表面の深さ方向のバナジウム族元素の濃度が最も低い部分までの最短距離は、特に限定されるものではないが、1.5mm以上であることが好ましく、2mm以上、2.5mm以上、または3mm以上であり得る。これにより、ジルコニア焼結体の表層部における破壊靭性の向上と、熱膨張率の増大の抑制とを実現することができる。
【0034】
ジルコニア焼結体のバナジウム族元素が偏在する表層の表面の少なくとも一部における破壊靭性値は、例えば4.5MPa√m以上であって、6MPa√m以上、9MPa√m以上、10MPa√m以上、11MPa√m以上、又は12MPa√m以上であり得る。本明細書における「破壊靭性値」は、JIS R 1607:2015に規定されているIF法に準拠して測定されたものをいう。
【0035】
本明細書において、ジルコニア焼結体の熱膨張率は、JIS R 1618に準じて測定された25℃~500℃における平均線膨張係数を指標として評価される。ジルコニア焼結体の25℃~500℃における平均線膨張係数は、例えば、10×10-6/K以下であって、9.9×10-6/K以下、または9.8×10-6/K以下であり得る。
【0036】
ここで開示されるジルコニア焼結体は、大まかにいって、成形工程と、仮焼工程と、バナジウム族元素付与工程、乾燥工程と、焼成工程とを含み得る。なお、これらの工程を含む製造工程は、ここで開示されるジルコニア焼結体を製造する一例であって、ここで開示されるジルコニア焼結体の製造方法を限定するものではない。また、これらの工程は必要に応じて省略することもでき、他の工程を適当な順序で含んでいてもよい。
【0037】
成形工程では、まず、ここで開示されるジルコニア焼結体の原料粉末を準備する。原料粉末としては、少なくともジルコニア粉末を準備する。ジルコニア粉末は、製造するジルコニア焼結体の組成によって適宜変更すればよく、例えば、安定化剤を上述したジルコニア焼結体に含まれ得る割合で含む部分安定化ジルコニア粉末であってもよい。また、酸化アルミニウム粉末を上述したジルコニア焼結体に含まれ得る割合となるようジルコニア粉末と混合してもよい。原料粉末は、粉末状のまま使用してもよく、噴霧乾燥等により顆粒状に調製して使用してもよい。
【0038】
次に、準備した原料粉末を成形し、成形体を得る。成形方法は特に限定されず、例えば、加圧成形、射出成形、押出成形、鋳込成形等を採用することができる。加圧成形としては、例えば、冷間静水圧加圧成形(Cold Isostatic Pressing:CIP)、熱間静水圧加圧成形(Hot Isostatic Pressing:HIP)等が好ましく採用される。CIPまたはHIPによれば、高密度な成形体を製造できるため、破壊靭性値をより向上させることができる。
【0039】
仮焼工程では、成形体を加熱することで仮焼結し、仮焼結体を得る。かかる加熱により、成形体中に含まれ得る水分、不純物等の成分を除去することができ得る。また、仮焼結により、被処理体中に存在し得る空隙を低減させることができるため、高温かつ高速の加熱による焼結において生じ得るクラックを好適に防止することができる。仮焼結は、例えば、800℃~1200℃、好ましくは900℃~1100℃の加熱温度で実施することができる。加熱時間は、被処理体の形状、大きさ、組成等により変動し得るため、適宜調整すればよいが、例えば、0.5時間~5時間であり得る。被処理体の加熱は、公知方法によって行うことができ、例えば、マッフル炉、電気炉、マイクロ波焼成炉等の加熱装置を用いることができる。
【0040】
バナジウム族元素付与工程では、バナジウム族元素を含むバナジウム族元素含有材料仮焼結体に付与する。バナジウム族元素含有材料は、例えば、溶液、ゾル等であり得、特にゾルであることが好ましい。溶液としては、例えば、バナジウム族元素の塩化物溶液、金属アルコキシド溶液等が挙げられる。バナジウム族元素含有材料がゾルである場合、バナジウム族元素を含む粒子が分散媒に分散していることが好ましい。該粒子としては、例えば、バナジウム族元素を含む酸化物が挙げられる。かかる酸化物の具体例としては、V2O5、Nb2O5、Ta2O5等が挙げられる。分散媒は、特に限定されないが、例えば、水、有機溶媒等であり得る。ゾルにおいて、バナジウム族元素を含む粒子がゾル全体に占める割合(ゾル濃度)は特に限定されないが、例えば、1質量%~10質量%、好ましくは5質量%~10質量%程度であるとよい。ゾル濃度(粒子の占める割合)が低すぎる場合には、仮焼結体の表面にバナジウム族元素が十分に配置されず、ジルコニア焼結体を作製した際に、破壊靭性の向上が不十分になる場合がある。
【0041】
バナジウム族元素材料を仮焼結体に付与する方法としては、例えば、仮焼結体の一部または全体をバナジウム族元素含有材料に含浸すること、仮焼結体の表面にバナジウム族元素含有材料を塗布すること等が挙げられる。
【0042】
仮焼結体をバナジウム族元素含有材料に含浸する場合には、仮焼結体の形状や大きさ等により含浸時間を適宜変更すればよく、例えば、0.1時間~48時間程度、好ましくは4時間~24時間程度とすることができる。
【0043】
乾燥工程は、上記バナジウム族元素付与工程後の仮焼結体を乾燥させ、バナジウム族元素含有材料に含まれる液体成分(例えば分散媒)等を除く工程である。乾燥方法は特に限定されず、自然乾燥、送風乾燥、熱風乾燥、加熱炉等を利用した加熱による乾燥、真空乾燥、吸引乾燥、凍結乾燥等を適宜選択することができる。加熱による乾燥の一例では、80℃~150℃条件下で0.5時間~20時間程度の乾燥を行うことができる。なお、乾燥工程は必須の工程ではなく、適宜省略することもできる。
【0044】
焼成工程では、仮焼結体を焼成することでジルコニア焼結体を得る。焼成方法は、公知方法によって行うことができ、例えば、マッフル炉、電気炉、マイクロ波焼成炉等の加熱装置を用いて焼成することができる。焼成温度は、特に限定されないが、例えば、1300℃~1600℃であってよく、1400℃~1500℃であってよい。焼成温度に達した後の保持時間は、例えば、1時間~5時間であってよく、1.5時間~3時間であってもよい。
【0045】
ここで開示されるジルコニア焼結体は、従来ジルコニア焼結体が使用される各種用途に使用することができ、例えば、構造部材、歯科材料等に好適に用いることができる。歯科材料としては、例えば、前歯用義歯、奥歯用義歯等の義歯、義歯ミルブランク、歯科矯正ブラケット、歯科補綴物、ブリッジ、クラウン等が挙げられる。
【0046】
以上の通り、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項に記載のものが挙げられる。
項1:ジルコニアと、バナジウム族元素とを含み、上記バナジウム族元素は、少なくとも表層の一部に偏在している、ジルコニア焼結体。
項2:上記バナジウム族元素が偏在する表層の表面における上記バナジウム族元素の濃度が、該表面の深さ方向の上記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分の上記バナジウム族元素の濃度よりも1.5倍以上高い、または、上記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分に上記バナジウム族元素が含まれない、項1に記載のジルコニア焼結体。
項3:X線回折パターンから得られる上記バナジウム族元素が偏在する表層の表面における正方晶のc/a軸長比と、上記表層の深さ方向の上記バナジウム族元素の濃度が最も低い部分における正方晶のc/a軸長比との差が0.001以上である、項1または2に記載のジルコニア焼結体。
項4:上記バナジウム族元素としてニオブ(Nb)を含む、項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
項5:さらに、安定化剤として酸化イットリウム及び/又は酸化イッテルビウムを含む、項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
項6:前記ジルコニアと前記安定化剤との合計を100mol%としたとき、前記安定化剤の濃度が3mol%以上6mol%以下である、項5に記載のジルコニア焼結体。
項7:上記バナジウム族元素が偏在する前記表層の表面の少なくとも一部における破壊靭性値が4.5MPa√m以上であり、25℃~500℃における平均線膨張係数が10×10-6/K以下である、項1~6のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体。
【0047】
以下、ここで開示される技術に関する実施例を説明するが、かかる実施例はここで開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0048】
<試験1>
試験1では、ジルコニア焼結体中のNbの分布およびc/a軸長比(正方晶性)について解析した。
【0049】
(実施例1)
3mol%の酸化イットリウム(Y2O3)を含むジルコニア粉末(共立マテリアル株式会社製)を準備した。この粉末を、縦50mm、横15mmの底面の金型に15g充填した後、20MPaの圧力で予備成型を行い、予備成型体を作製した。かかる予備成型体を金型から取り出した後、この予備成型体に対し196MPaの圧力でCIP成形を行い、成形体を作製した。かかる成型体は、縦50mm、横14mm、高さ6.8mmの直方体であった。この成形体を1000℃、30分間仮焼し、仮焼体を得た。かかる仮焼体をNb2O5ゾル(多木化学株式会社製、製品番号:Nb-G6000、ゾル濃度:6質量%)に24時間含浸させた後、120℃、16時間の乾燥を行った。乾燥後、1450℃、2時間の焼成を行い、実施例1のジルコニア焼結体を得た。なお、かかる焼結体は縦40mm、横11.5mm、高さ5.6mmの直方体であった。
【0050】
(参考例1)
3mol%の酸化イットリウム(Y2O3)を含むジルコニア粉末(共立マテリアル株式会社製)に、粉末全体の1mol%となるようにNb2O5粉末を混合し、原料粉末を準備した。かかる原料粉末を、縦50mm、横15mmの底面の金型に15g充填した後、20MPaの圧力を付加して予備成型を行い、予備成型体を作製した。かかる予備成型体を金型から取り出した後、この予備成型体に対し196MPaの圧力でCIP成形を行い、成形体を作製した。かかる成型体は、縦50mm、横14mm、高さ6.8mmの直方体であった。この成形体を1000℃、30分間仮焼し、仮焼体を得た。かかる仮焼体を1450℃、2時間焼成し、参考例1のジルコニア焼結体を得た。なお、かかる焼結体は縦40mm、横11.5mm、高さ5.6mmの直方体であった。
【0051】
(Nb濃度分布の解析)
ジルコニア焼結体を長辺方向(40mmの辺方向)に垂直となるように切断し、長辺の中点の位置における切断面(11.5mm×5.6mm)を有する試験片を作製した。かかる切断面を鏡面加工した後、該切断面を走査型電子顕微鏡-波長分散型X線分光法(SEM-WDX)により解析した。SEM-WDXには、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)として、日本電子株式会社製のJXA-iHP200F Hyper Probeを用いた。Nb濃度分布の測定方法としては、元素マッピング像のNb特性X線強度の結果を用いた方法と、全元素定量分析の結果を用いた方法との2種類の方法を行った。
【0052】
元素マッピングは、検出器:Nb WDS detector PET、加速電圧:15.0kV、照射電流:5.0×10
-8A、収集時間:10ms、ピクセルサイズ:0.025μm(倍率:10000のとき)、2.5μm(倍率:100のとき)の条件で実施した。元素マッピングは、上記切断面の中心を通るよう、該切断面の短辺方向に沿って実施した。実施例1のNbのマッピング像(倍率:100)を
図1に示す。また、参考例1のNbのマッピング像(倍率100)を
図2に示す。Nbのマッピング像において、比較的明るい部分(比較的白色に近い部分)はNb濃度が高いことを示し、比較的暗い部分(比較的黒色に近い部分)はNb濃度が低いことを示す。参考例1のNbの特性X線強度の平均値からバックグラウンドを引いた値を1mol%のNb
2O
5として、実施例1のジルコニア焼結体のNb
2O
5濃度を求めた。具体的には、上記切断面の短辺方向(
図1中の上下方向)に該切断面の中心を原点(0mm)とする数直線を引き、マッピング像の上方向を正の方向、下方向を負の方向として、0mm、±0.5mm、±1.5mm、±2.5mm、±2.7mmの位置におけるNb
2O
5濃度を求めた。結果を
図3に示す。
【0053】
全元素定量分析は、検出器:Nb WDS detector PET、加速電圧:15.0kV、照射電流:5.0×10
-8A、収集時間:500msの条件で実施した。全元素定量分析は、上記切断面の一方の長辺(11.5mmの辺)の中点から該切断面の中心に向かって(深さ方向に向かって)行った。参考例1の試験片の切断面で測定されたNb濃度をNb
2O
5濃度換算し、その平均濃度を1mol%とした。そして、実施例1の試験片の切断面におけるNb濃度をNb
2O
5濃度換算し、参考例1の結果を用いて標準化した。結果を
図4に示す。
図4に示すグラフは、横軸に上記切断面の短辺方向における表面からの距離(深さ)を示しており、縦軸にNb
2O
5濃度を示している。
【0054】
(c/a軸長比の測定)
X線回折装置(装置名:UltimaIV、株式会社リガク製)を用いて、実施例1の上記試験片の上記切断面におけるX線回折パターンのプロファイルを得た。X線回折パターンのプロファイルを、統合粉末X線解析ソフトウェア:PDXL2(株式会社リガクソフトウェア製)を用いて正方晶のc/a軸長比を測定した。結果を
図5に示す。
図5のグラフの横軸は、上記切断面の短辺方向における表面からの距離を示し、縦軸は正方晶のc/a軸長比を示す。なお、X線回折(XRD)の測定条件は以下のとおりである。
・X線検出器:D/tex Ultra(付属装置)
・スキャンスピード:0.4°/min
・サンプリング幅:0.02°
・発散スリット:1.0mm
・発散縦スリット:10mm
・散乱スリット:8mm
・受光スリット:開放
・電圧:40kV
・電流:40mA
・測定領域:72~76°
【0055】
(試験1の評価)
図1、3、4に示すように、実施例1では、Nbがジルコニア焼結体の内部側ではほとんど検出されず、Nbが表層に偏在していることがわかる。また、
図5に示すように、Nbが偏在している表面では、正方晶のc/a軸長比が大きくなっていることがわかる。一方、
図2~4に示すように、参考例1では、Nbがジルコニア焼結体にほぼ均等に分布していることがわかる。
【0056】
<試験2>
試験2では、破壊靭性および平均線膨張率について評価した。
【0057】
(実施例2)
3mol%のY2O3を含むジルコニア粉末(共立マテリアル株式会社製)を準備した。この粉末を、直径7mmの金型に約1.5g充填した後、0.78MPaの圧力で予備成型を行い、予備成型体を作製した。かかる予備成型体を金型から取り出した後、この予備成型体に対し196MPaの圧力でCIP成形を行い、成形体を作製した。この成形体を1000℃、30分間仮焼し、仮焼体を得た。かかる仮焼体をNb2O5ゾル(多木化学株式会社製、製品番号:Nb-G6000、ゾル濃度:6質量%)に4.5時間含浸させた後、120℃、16時間の乾燥を行った。乾燥後、1450℃、2時間の焼成を行い、実施例2のジルコニア焼結体を得た。なお、かかる焼結体は直径5.5mm、高さ10mmの円柱形であった。
【0058】
(実施例3)
実施例2のY2O3濃度を3mol%から4.2mol%に変更した以外は同様にして実施例3のジルコニア焼結体を得た。
【0059】
(参考例2)
3mol%の酸化イットリウム(Y2O3)を含むジルコニア粉末(共立マテリアル株式会社製)に、粉末全体の1mol%となるようにNb2O5粉末を混合し、原料粉末を準備した。この粉末を、直径7mmの金型に約1.5g充填した後、0.78MPaの圧力で予備成型を行い、予備成型体を作製した。かかる予備成型体を金型から取り出した後、この予備成型体に対し196MPaの圧力でCIP成形を行い、成形体を作製した。この成形体を1000℃、30分間仮焼し、仮焼体を得た。かかる仮焼体を1450℃、2時間の焼成を行い、参考例2のジルコニア焼結体を得た。なお、かかる焼結体は直径5.5mm、高さ10mmの円柱形であった。
【0060】
(参考例3)
参考例2のジルコニア焼結体の製造方法のうち、Y2O3濃度を3mol%から4.2mol%に変更した以外は同様にして参考例3のジルコニア焼結体を得た。
【0061】
(比較例1)
参考例2のジルコニア焼結体の製造方法のうち、Nb2O5粉末を混合しなかったこと以外は同様にして比較例1のジルコニア焼結体を得た。
【0062】
(比較例2)
参考例3のジルコニア焼結体の製造方法のうち、Nb2O5粉末を混合しなかったこと以外は同様にして比較例2のジルコニア焼結体を得た。
【0063】
(破壊靭性値の測定)
ジルコニア焼結体の表面を約0.05mm鏡面研磨し、かかる表面における破壊靭性値を測定した。測定はJIS R 1607:2015のIF法に準じて行った。なお、ビッカース圧子の押し込み荷重を10kgf(約98N)、ビッカース圧子の押し込み保持時間を30秒とした。結果を
図6に示す。
【0064】
(平均線膨張率の測定)
熱機械分析装置(NETZSCH社製、製品名:TMA4000SA)を用いて、25℃~500℃における平均線膨張率を測定した。測定は、JIS R 1618に準じて行った。なお、荷重:20g、昇温速度:5K/min、測定雰囲気:大気雰囲気とした。結果を
図7に示す。
【0065】
(試験2の評価)
図6に示すように、Nb
2O
5を含む実施例2、3、参考例2、3のジルコニア焼結体では、Nb
2O
5を含まない比較例1、2と比べて、破壊靭性値が高くなった。一方で、
図7に示すように、参考例2、3では平均線膨張率が比較例1、2よりも大きくなったのに対し、実施例2、3ではかかる平均線膨張率の増大が抑制されていた。したがって、Nbがジルコニア焼結体の表層に偏在することで、Nbがほぼ均一に分布しているジルコニア焼結体と同等の破壊靭性が実現され、かつ、Nbを含まないジルコニア焼結体と同等の熱膨張率が実現されることがわかる。
【0066】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。