(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】生化学医療診断キット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20241008BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241008BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20241008BHJP
C07K 5/072 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/72 C
C07K5/072
(21)【出願番号】P 2023547693
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 TR2022050179
(87)【国際公開番号】W WO2022186803
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-10-06
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(73)【特許権者】
【識別番号】523217178
【氏名又は名称】アーゲロン メディカル アラスティルマ サナイ ヴェ ティカレット アノニム シルケティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビディ、ビュレント
(72)【発明者】
【氏名】オルグン、アブドラ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-532649(JP,A)
【文献】国際公開第2019/152682(WO,A1)
【文献】特開2000-053697(JP,A)
【文献】F. Hausch, et al.,Design, Synthesis, and Evaluation of Gluten Peptide Analogs as Selective Inhibitors of Human Tissue Transglutaminase,Chemistry & Biology,2003年,Vol. 10,225-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱アミド化速度測定キットであって、Boc-Asn-Gly-OEt化合物を含む脱イオン/蒸留水中の原液、及びBoc-Asp-Gly-OEt化合物を含む脱イオン/蒸留水中の原液を含む、脱アミド化速度測定キット。
【請求項2】
前記Boc-Asn-Gly-OEt化合物を含む脱イオン/蒸留水中の原液は、0.000001~1000mMの濃度範囲において前記Boc-Asn-Gly-OEt化合物を含む脱イオン/蒸留水中の原液である、請求項1に記載の脱アミド化速度測定キット。
【請求項3】
前記濃度は、0.25mMである、請求項2に記載の脱アミド化速度測定キット。
【請求項4】
前記Boc-Asp-Gly-OEt化合物を含む脱イオン/蒸留水中の原液は、0.000001~1000mMの濃度範囲においてBoc-Asp-Gly-OEt化合物を含む脱イオン/蒸留水中の原液である、請求項1に記載の脱アミド化速度測定キット。
【請求項5】
前記濃度は、0.25mMである、請求項4に記載の脱アミド化速度測定キット。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の脱アミド化速度測定キットを用いて実行される速度測定方法であって、
Boc-Asn-Gly-OEt化合物の原液を調製し、脱イオン/蒸留水中に連続希釈する段階;
Boc-Asp-Gly-OEt化合物の原液を調製し、脱イオン/蒸留水中に連続希釈する段階;
前記Boc-Asn-Gly-OEt原液の連続希釈を利用して測定される機器についての較正曲線を生成する段階;
前記Boc-Asp-Gly-OEt原液の連続希釈を利用して測定される前記機器についての較正曲線を生成する段階;
脱アミド化速度に対する効果がテストされることになる生物学的サンプルを、等しい体積で3つの異なるサンプルチューブ内に分注する段階;
最終反応体積の1/1000~1/2の範囲内で、前記サンプルチューブのうちの1つへBoc-Asn-Gly-OEt原液を、別のチューブへ(内部標準としての)Boc-Asp-Gly-OEt原液を、最後のチューブへブランクとして脱イオン/蒸留水を、添加する段階;
前記測定の開始時に3つのチューブ全てから測定を行う段階;
温置の後で3つのチューブ全ての測定を行う段階;
Boc-Asn-Gly-OEt及びBoc-Asp-Gly-OEtを添加した前記チューブ内の測定結果を、脱イオン/蒸留水を添加した前記チューブ内の測定結果から減算する段階;
Boc-Asn-Gly-OEtを添加した前記チューブ内での自発的脱アミド化の結果として形成されるBoc-Asp-Gly-OEtを測定することによって、前記脱アミド化速度を決定する段階
を有する、速度測定方法。
【請求項7】
前記測定はLC-MS法により行われる、請求項6に記載の速度測定方法。
【請求項8】
前記最終反応体積は、1/10である、請求項6または7に記載の速度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vitro診断法(生化学医療診断等)の分野における生物学的サンプルに対して、又は他の分野(薬学、化学等)における使用に対して好適なキットに関する。
【0002】
特に、本発明は、溶液が含むタンパク質の脱アミド化速度に対する、当該溶液の効果を測定する使用に対して好適なキットに関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質は、生体を構成する基本的な構造的及び機能的分子のうちの1つである。タンパク質は、アミノ酸が鎖内の互いと結合した結果として形成される大きな有機化合物である。ペプチドは、決まった順序でα-アミノ酸が連結することによって形成される短いポリマーである。あるアミノ酸残基及び別のアミノ酸残基の間の結合は、「アミド結合」又はペプチド結合として公知である。タンパク質は、ポリペプチド分子である(又は複数のポリペプチドサブユニットを含む)。主な違いは、ペプチドは短い一方、ポリペプチド/タンパク質は長いことである。
【0004】
タンパク質の構造内の20の異なるアミノ酸のうちの2つである、アスパラギン(Asp、N)及びグルタミン(Gln、Q)は、それらの側鎖内にアミド基を有する。これらのアミノ酸を含むタンパク質内のアミド基の除去は、タンパク質脱アミド化と呼ばれる。タンパク質脱アミド化は、酵素的に又は自発的に生じ得る。脱アミド化の結果として、タンパク質の構造及び電荷において変化が生じる。脱アミド化の結果として、特にニューロン等の長寿命細胞内に発見される長寿命タンパク質内で、脱アミド化されたタンパク質は、経時的に蓄積し、これらのタンパク質内で、それゆえこれらのタンパク質が内部に存在する細胞内で、構造的及び機能的障害を生じさせ得る。アルツハイマー病、前頭側頭型認知症及び多くの他の慢性疾患におけるタンパク質脱アミド化の役割を裏付ける膨大な量の科学的証拠は、文献で報告されてきた。
【0005】
この理由のため、脱アミド化を予防/減速できる方策を発展させるために、脱アミド化速度に影響する要因又は介入を決定すること、及び個人における脱アミド化速度を決定することが必要である。このようにして、それらは、老化及び加齢関連疾患の予防及び延期に対して非常に重要な寄与をし得ることが予期される。
【0006】
脱アミド化は、老化においてだけでなく、タンパク質を含む医薬品(ワクチン等)の安定性においてもまた重要な要因である。タンパク質脱アミド化速度に対する、これらの薬品が溶解した溶液の効果を測定すること、及び溶液に添加された場合に脱アミド化速度を遅くするための介入をすることが必要である。従来技術において、この主題についての研究が存在する。
【0007】
米国特許出願番号US5273886。この発明は、タンパク質L-イソアスパラチルメチルトランスフェラーゼ酵素によって触媒されるポリペプチドの断片の選択的メチル化による、それらのイソアスパラチル含量の量的決定のための方法及びツールに関する。特定のタンパク質部位におけるアスパラギン側鎖の脱アミド化及び結果として生じるイソアスパラギン酸形成は、マイルドな条件下でのタンパク質分解に対する重要な寄与因子であるように思われるので、この発明は、イソアスパラギン酸形成に関連付けられたタンパク質分解の定量化のための方法にも関する。従来技術においてこの主題についての研究は存在するものの、それらは、純タンパク質の内部において発見される成分を間接的に分析することを可能にするだけである。それは、精製されたタンパク質の脱アミド化を測定するために使用できるだけなので、血漿等のより複雑なマトリックスを有する生物学的サンプルに対して使用することはできない。タンパク質脱アミド化の速度に対する、ヒト及び他の生物の生物学的サンプル(血清、血漿、唾液、脳脊髄液、滑液、尿、細胞/組織/臓器抽出物等)の効果を測定するために使用できるテスト方法は、依然として存在しない。この理由のため、タンパク質脱アミド化速度に対する生物学的サンプルの効果を測定するため及び脱アミド化速度に影響する介入を検出するために医療生化学実験室で使用される可能性を有するテストを開発する必要が存在する。
【0008】
結果として、上記で説明した否定的状況及び主題に対する既存の解決策の不十分さに起因して;脱アミド化速度を測定するキットを開発することが必要とされてきた。
【0009】
[発明の目的]
本発明は、上記で言及された要件を満たし、全ての欠点を取り除き、いくつかの追加の利点をもたらす脱アミド化速度測定キットに関する。本発明の主たる目的は、タンパク質医薬品を含む溶液に添加された場合に脱アミド化速度に対する効果を測定するキットを開発することである。本発明の1つの目的は、脱アミド化速度に影響する要因を決定すること、脱アミド化速度における個体差の老化及び加齢関連疾患との相関を調査すること、及び脱アミド化速度における増大によって特徴づけられる疾患を検出することを可能にする測定キットを開発することである。
【0010】
上記で説明された目的を満たすため、本発明は、化合物Boc-Asn-Gly-OEtを含む脱イオン/蒸留水中の原液、及び化合物Boc-Asp-Gly-OEtを含む脱イオン/蒸留水中の原液を含む脱アミド化速度測定キットである。
【0011】
本発明及びその全ての利点の構造的及び特性的特徴は、下記に記述される詳細な説明によってより明確に理解されることになり、それゆえ評価はこの詳細な説明を考慮して行われるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】Boc-Asn-Gly-OEt化合物の構造の図である。
【符号の説明】
【0013】
1 Boc-
2 Asn
3 Gly
4 -Oet
5 脱アミド化される領域
【発明を実施するための形態】
【0014】
この詳細な説明において、本発明の主題である脱アミド化速度測定キットは、主題のよりよい理解のためにのみ、いかなる限定効果も生じさせずに説明される。本発明の主題である脱アミド化速度測定キットは、その最も基本的な形態において;化合物Boc-Asn-Gly-OEtを(好ましくは0.000001~1000mMの範囲で、より好ましくは0.25mMの濃度において)含む脱イオン/蒸留水中の原液、及び、化合物Boc-Asp-Gly-OEtを(好ましくは0.000001~1000mM、より好ましくは0.25mMの濃度において)含む脱イオン/蒸留水中の原液を含む。
【0015】
図1においてその見本の図が与えられるBoc-Asn-Gly-OEt化合物は、測定においてキャリブレータ及び分析標準物質として、及び生物学的サンプルに添加されることによって脱アミド化される要素としての両方で使用される。図中に詳細が示されるとおり、Boc-(1)及び-Oet(4)は、アスパラギン(Asn)(2)及びグリシン(Gly)(3)ジペプチドをそれぞれブロックするためのものである。図中に示される脱アミド化される領域(5)において、「NH2」構造は、脱アミド化によって除去され、一方「OH」構造が代わりに結合される。これによって、Boc-Asn-Gly-OEt化合物は、Boc-Asp-Gly-OEt化合物へと変化し、その分子量が約1(0.98)g/mol増える。(溶液中のBoc-Asn-Gly-OEt化合物の構造における)Boc-(1)及び-OEt(4)構造は、Asn(2)及びGly(3)ジペプチドの、プロセス中の望ましくない化学基との結合をブロックすることを可能にする。Asn(2)及びGly(3)ジペプチドは、公知の最も速い自発的脱アミド化を有する構造のうちの1つである。この理由のため、それは、測定において、キャリブレータ/分析標準物質、又は生物学的サンプルに添加された後に脱アミド化を受ける化合物として、使用される。Boc-Asn-Gly-OEtは、自発的脱アミド化の結果としてBoc-Asp-Gly-OEt化合物へと変換されるので、Boc-Asp-Gly-OEt化合物は、較正曲線を描く際にキャリブレータ及び分析標準物質として使用される。Boc-Asp-Gly-OEt化合物は、商業的に利用可能ではないが、特別に合成されてきた。脱イオン/蒸留水は、Boc-Asn-Gly-OEt及びBoc-Asp-Gly-OEt化合物を溶解させることを可能にし、分析ブランクとして使用される。
【0016】
本発明の見本の用途において、開発された脱アミド化速度測定キットは、プロセスの下記の段階を含む:Boc-Asn-Gly-OEt化合物の原液を調製し、脱イオン/蒸留水中に連続希釈する段階;Boc-Asp-Gly-OEt化合物の原液を調製し、脱イオン/蒸留水中に連続希釈する段階;前記Boc-Asn-Gly-OEt原液の連続希釈を利用して測定される前記機器についての較正曲線を生成する段階;前記Boc-Asp-Gly-OEt原液の連続希釈を利用して測定される前記機器についての較正曲線を生成する段階;前記脱アミド化速度に対する効果がテストされることになる前記生物学的サンプルを、等しい体積で3つの異なるチューブ内に分注する段階;(好ましくは、最終反応体積の1/1000~1/2の範囲内で(より好ましくは1/10の範囲内で))Boc-Asn-Gly-OEt及び(内部標準としての)Boc-Asp-Gly-OEt原液を異なるチューブへ、脱イオン/蒸留水をブランクとして別のチューブへ、添加する段階;前記測定の開始時に、好ましくはLC-MS法によって、3つのチューブ全てから測定を行う段階;温置の後で、好ましくはLC-MS法によって、3つのチューブ全ての測定を行う段階;Boc-Asn-Gly-OEt及びBoc-Asp-Gly-OEtを添加した前記チューブ内の測定結果を、脱イオン/蒸留水を有する前記チューブ内の測定結果から減算する段階;Boc-Asn-Gly-OEtを添加した前記チューブ内での自発的脱アミド化の結果であるBoc-Asp-Gly-OEtを測定することによって、脱アミド化速度を決定する段階。
【0017】
本発明は、溶液中のBoc-Asn-Gly-OEt化合物のBoc-Asp-Gly-OEt化合物への自発的脱アミド化の原理、及び結果として生じるBoc-Asp-Gly-OEt化合物を、適切な分析方法によって測定することに基づいている。Boc-Asn-Gly-OEt溶液は、自発的脱アミド化速度に対する効果の測定が望まれる任意のサンプルへ添加される。1分~1ヵ月の間、1~100℃の間の温度に保たれるこの混合物中のBoc-Asn-Gly-OEtの自発的脱アミド化は、確実となる。温置期間中、混合物中のBoc-Asn-Gly-OEtジペプチドの脱アミド化の結果として、-NH
2基[
図1:(5)]は、自発的に分子から放出されることになり、一方で化合物中のアスパラギンは、-OH基を加えて、イソアスパラギン酸又はアスパラギン酸へと変換されることになり、約1(0.98)g/mol質量の分子量増加が生じることになる。質量のこの変化、すなわち、結果として生じるBoc-Asp-Gly-OEt及びBoc-Isoasp-Gly-OEtは、質量分析法によって、並びに、化合物のアスパラギン中の-NH
2基及び化合物中の新しく形成されたアスパラギン酸の-OH基の様々な化学的特性に基づいて最適化された全ての種類の方法を用いて、測定されることができる。
【0018】
本発明の主題である脱アミド化速度測定テストを使用することによって、脱アミド化速度に対する、個人/患者からの生物学的サンプルの効果を測定することによって、及び、(検出され脱アミド化速度に影響する)個体差の、老化及び加齢関連疾患との相関を調査することによって、脱アミド化速度における増加によって特徴づけられる疾患が検出される場合、テストは、これらの疾患に対する罹りやすさを決定するマーカーとして、及びそれらの早期診断のために、使用されるために提供される。