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  • 特許-スリッパ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】スリッパ
(51)【国際特許分類】
   A43B 3/10 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
A43B3/10 H
A43B3/10 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018157707
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020028655
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-07-14
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・公開を行った日:平成30年4月3日~4月5日 ・場所等:2018年秋・冬 東京支店展示会(東京都中央区日本橋浜町1-8-9 センコー株式会社 東京支店) ・公開を行った日:平成30年4月11日~4月13日 ・場所等:2018年秋・冬 本社展示会(兵庫県小野市黒川町16番地 センコー株式会社)
(73)【特許権者】
【識別番号】501221359
【氏名又は名称】センコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸治
(72)【発明者】
【氏名】秋田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】岸本 一英
【合議体】
【審判長】北村 英隆
【審判官】伊藤 秀行
【審判官】柿崎 拓
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3061071(JP,U)
【文献】中国実用新案第206079214(CN,U)
【文献】特開2006-21004(JP,A)
【文献】実開昭48-66757(JP,U)
【文献】実開平3-16404(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B3/10,23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲部と底部とからなるスリッパの、
該甲部は、その外表面と内表面の間に中綿が挿入されており、該甲部の前端つま先側から後端甲高部までの間を複数段に分割するように外表面と内表面とをスリッパの幅方向にわたって刺し縫き、複数段のキルト状の段部を形成させたものであって、
さらに該甲部の外表面と内表面及び該底部の上表面は、5mm以上の毛足の繊維が密に配列された起毛状であって、かつ、起毛状の毛先は、つま先側に向かって毛先が傾倒しうるよう向きが揃えられている、
複数段のキルト状の段部と起毛状の表面を備えたこと、
さらに複数段のキルト状の段部は、各段部毎に中綿の量と厚みが異なっていることで、各段部ごとの内面の押圧力が異なること、
を特徴とするスリッパ。
【請求項2】
複数段のキルト状の段部の備える内面押圧力は、後端の甲高部のキルト状の段部の押圧力が最も高いこと、を特徴とする、請求項1に記載のスリッパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばフローリングの床面上で履用するといった、玄関、廊下、キッチン、居室等の室内移動時に履用する室内履きに関し、とりわけ足や脚を締める紐や留め具が付いておらず踵部のない開放型の室内履きのスリッパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な室内履きのスリッパには、大ききく分けて吊り込み型と、外縫い型の2つの態様がある。前者の吊り込みタイプとは、スリッパを履いている人の足の甲の部分と足裏の底の部分とを接合する縫い目が内側にあって外部から見えない形状のものである。この吊り込みタイプでは、製造の際にアッパーである甲部の部分のサイズの型が必要となるので、甲部のサイズにあわせた型が無い場合は想定されていない。吊り込みタイプのスリッパは、病院や、体育館や、公民館などの公共の場で従来から多く使われてきた。その多くはレザーやビニール製などからなっているハードタイプのものである。これらは、歩くたびに踵が浮き、足裏がスリッパから離れ、ペタペタと音をたてることから、吊り込みタイプのビニール製のハードタイプのスリッパは高級感に乏しく、また、踵が離れてつっかけることから、靴に比して歩きにくい履物であった。
【0003】
一方、足の甲の部分と足裏の底の部分とを接合する縫い目が外側にあって外部から見えるものを、外縫いタイプと称している。このタイプのものは、作る時には、サイズの型が必要なく、したがってサイズも自由であり、デザイン性を追及しやすい。つま先の部分も余裕を持たせて、ゆったりとした履き心地に作られており、一般家庭の室内履きとして用いられることが多い。しかし、縫い目が外に出て、外周がゴテゴテと目立つなど、すっきりした外観に仕上がらず、縁取りの幅の分だけ横幅が太くなってしまっている。
【0004】
また、近年、従前のハードタイプのスリッパに比して、履き心地を志向したスリッパとして、ソフトタイプの室内履きのスリッパが登場している。これらのソフトタイプのスリッパは、一般に吊り込みタイプの一種であり、甲皮の外表面を内面側に配して下底を上に向けた底部に吊り込み後に、スリッパ全体の表裏をひっくり返すようにして甲皮の外表面を外側に向けてから、中底の芯材を上底と下底の間の空隙に挿入れて仕上げたものが多い(たとえば特許文献1、特許文献2参照。)。そして、甲部と、上底等に軟らかい布帛が用いられるなど、全体的に肌当たりが軟らかく仕上げられている。そして、甲部の生地を大きく靴底に厚みをもたせたり、さらに中底に低反発樹脂を用いるなど履き心地に向けての工夫が試みられている。
【0005】
こうしたソフトタイプの室内履きは、履き心地の良さを志向しているものであって、どちらかというと、来客用スリッパや耐久性の高いスリッパというよりは、居住者自身の日常的な履用に適したものである。そして、ソフトタイプには、甲部の生地面積を大きくとることで足先を奥深くまでつっかけるようになっているものがある。たとえば、甲の被りが深くなるように、甲部が足先だけではなく、スリッパ全体の2分の1から3分の2ほどの領域を甲被が覆うように、深いカッティングで吊り込まれていることがある。このように足を深く入れ込む形状とすることで、できるだけ踵の浮き上がりを少なくしてホールド感を高めることができる。とはいえ、あくまでスリッパであって、踵が開放されているので、歩行時に踵が浮くような歩行姿勢となることは避けられず、ホールド感は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005ー177407号公報
【文献】特開平11-009307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スリッパは、甲部と上底前方との間に足先を入れてつっかけることで履くものであることから、歩行時に踵と上底後部とが離れてしまう履物である。そこで、スリッパで歩行するときには、通常、足の動きにスリッパが追従しきれず、踵がスリッパから浮いて、パカパカ、パタパタといった、ばたついた動きとなりがちである。
【0008】
ソフトタイプのスリッパのように、ハードタイプよりも踵が厚く履き心地がよく、また甲部を大きく布地が覆うなどホールド感が比較的高められたスリッパであっても、踵は開放型であって脱げやすく、サイズがL、M、Sなど3~4種程度と靴に比べて少なく汎用であることからフィットしにくいことなども相俟って、依然として歩けば踵が浮きがちであり、歩行時のばたつき感が残ることは否めなかった。従前のソフトタイプのスリッパと比しても、さらに履き心地がよく、また足にフィット感が高いスリッパが望まれている。また、ソフトタイプのスリッパは来客用に適したような豪華さはなく、実用本位でどちらかといえばチープ感を伴いがちである。
【0009】
また、スリッパは足先を甲部と上底の間に挿し入れてつっかけるようにして履くものであるところ、足の甲の高さや、足幅、そもそもの足のサイズは、人によって大きく異なっている。そこで、各自の足にあわせるには、通常はサイズを細かくしていくことを要するも、現実的な販売ラインナップを想定するときには、サイズ違い×柄違いの掛け合わせの結果、非常に少量多品種となってしまうことから限界があり、サイズ違いを多数揃えることは現実的に無理があり、飛ばし飛ばしのS、M、Lといった大雑把なものしか提供できないのが現状である。
【0010】
しかし、これらの飛び飛びの中間の足サイズの人が履くと、もともとフィットしていないものであり、さらに、開放型であることから、踵とスリッパの上底後部とが離れてパカパカとなりやすく、容易に脱げ易く、歩行時に安定しているとは言い難いものであり、走れば転びやすいなど、安全面でも十分とはいえないものであった。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとするスリッパにおける課題は、上底および甲部の生地が柔らかで肌当たりがよく素足でも暖かく履き心地がよく、足先から甲にかけての適度なフィット感によって過度な締め付けの違和感がなく歩きやすく脱げにくく、かつ、サイズのラインナップが飛び飛びであっても汎用性が高く足のサイズが前後する人に対しても適用できる脱げにくい構造であるスリッパを提供することである。
【0012】
また、踵が上底踵部から大きく離間するように浮き上がりにくく脱げにくいことに加えて、さらには複数の足サイズの人が履用しても容易に脱げにくいフィット感が高いスリッパであって、かつ、素足への肌触りが良く履き心地に優れ、豪華さも備えたスリッパを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、第1の手段では、甲部と底部とからなるスリッパの、該甲部は、その外表面と内表面の間に充填材が挿入されており、該甲部の前端つま先側から後端甲高部までの間を複数段に分割するように外表面と内表面とをスリッパの幅方向にわたって刺し縫き、複数段のキルト状の段部を形成させたものであって、さらに該甲部の外表面と内表面及び該底部の上表面は、7mm以上の毛足の繊維が密に配列された起毛状であって、かつ、起毛状の毛先は、つま先側に向かって毛先が傾倒しうるよう向きが揃えられている、複数段のキルト状の段部と起毛状の表面を備えたことを特徴とするスリッパである。
なお、さらに底部は内部に弾性体を備えた厚底の底部であってもよい。
【0014】
その第2の手段では、複数段のキルト状の段部は、各段部毎に充填材の中綿の量と厚みが異なっていることで、各段部ごとの内面の押圧力が異なること、を特徴とする第1の手段に記載のスリッパである。
【0015】
その第3の手段では、複数段のキルト状の段部は、各段部毎に充填材の中綿の量と厚みが異なっていることで、各段部ごとの内面の押圧力が異なること、を特徴とする、第1又は第2の手段に記載のスリッパである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスリッパは、ボア状に起毛されているものが、キルト状に段部形成されていることから、充填材の中綿の膨らみで甲部の外表面に立体的な表情が形成され、美しい美観を呈している。そして、ボア状の起毛が肌に優しく心地よい感触を履用者に与えるので、長期の使用に不快感を生じにくい。さらに、甲部の内表面と底部上平面のボア状の起毛が爪先側に毛先が倒れやすい向きで揃っているものであることから、甲部と上底との間に、足を差し入れていくとき、足先が毛先の順目に沿ってすうっと中へ滑っていくのに対して、逆方向への動きは毛先に対して逆目となることから、足が脱げる方向には摩擦がかかり、脱げにくくなっている。
【0017】
また、キルト状の段部が複数段形成されていることから、充填材の中綿によって適度に足の甲が押圧されるので、スリッパの甲部と足との間の隙間が適度に塞がれ、内部のボアの周囲の暖気が逃げにくいのみならず、甲部の周囲が浮き上がりにくいので、スリッパの踵が足裏から離れにくく、足の動きにスリッパの踵部が従動しやすく、スリッパの踵部が足裏から離れてパカパカしたりしにくいものとなり、歩行しやすい。
【0018】
また、キルト状の段部による押圧と、ボア状の起毛によって脱げにくくなっているので、足のサイズが多少異なる者が履用しても、サイズ違いによって脱げやすくなるはずのところが、多少のサイズの違いを吸収することができ、脱げやすくならずに履用することができる。そこで、特定のサイズのスリッパ毎に着用できる足サイズの適用幅を広くすることができ、より汎用的なサイズのスリッパとすることができる。また汎用性を利用することでさらにサイズ違いに備えたラインナップのバリエーション数を減らすことができるので、実用上の商品数を減らすことができ、製造コストを大きく削減することもできる。
【0019】
甲高部のキルト部の段部毎に内部の内径や押圧力が異なっていれば、挿し入れた足先のサイズに応じてフィットする部位がいずれか生じやすく、1つのスリッパへの履用者の適用サイズ範囲を広めに確保することができる。ソフトな当接具合でありながらも、複数の段差毎に押圧力が異なることで、保持しうる部位が得られやすいからである。
【0020】
また、甲高部のキルト部の押圧力を高めにすることで、ソフトな当たりでありながらも甲高部の締まりを若干強めにすることができる。そこで、足先はゆるやかにリラックスさせた状態としつつも、歩行の際には甲高部の締まりによって、足に対する追従性が確保できるので、歩きやすいスリッパとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例の一態様を示す断面図。
図2】実施例の一態様を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図面を参照して以下に説明する。
図1図2に示す本発明のスリッパ(1)は、略長楕円状(わらじ型)の底部(3)と、底部(3)の上方を足先側から約3分の2ほど甲部(2)が覆う形状のスリッパである。左右のスリッパ(1)を対で履用するので、左足用と右足用とは左右対称な形状である。その甲部(2)の外表面(4)と内表面(5)及び底部(3)の上表面(17)には経編パイル生地(目付490g/m2)が用いられており、パイルの毛足が例えば約14mmの長さに極細の繊維で起毛されており、その表面はボア状に密な起毛繊維で覆われた起毛部(10)となっている。毛足の長さは実施例の14mmに限られず、5mm以上、望ましくは7mm以上であれば、適用可能である。
【0023】
さて、一般に起毛された布帛では、パイルの起毛部の毛先が傾倒しやすい向きが生じており、毛の流れに応じて、手を表面に滑らせれたとき、すっと流れるものを順目(並毛)、その逆に手にひっかかる場合を逆目(逆毛)と呼称している。そして、図1に示すように、本発明のスリッパ(1)では、足をスリッパ(1)にさし入れて履く際には、毛足の向き(11)が爪先方向に向かい、いわば足を挿し入れる向きが順目となるように、足がスリッパの中に滑らかに滑る向きに毛足を配し、他方、足を抜く際には生地が逆目となって脱げにくくなる向きとなっている。起毛したパイル生地の毛足の向き(11)を揃え、踵側からつま先に向かって毛先が倒れるよう方向づけて配している。
【0024】
そして、順目(並毛)に揃えて生地を配することで、踵側からつま先に向かって手で繊維を撫でて滑らせたときには、滑らかに滑っていくので、底部の上表面(17)と甲部の外表面(4)、内表面(5)のいずれも、つま先側に向かって毛先が流れている。そこで、履く際には、足がスムーズに入る一方で、脱ごうとする向きは、逆目となるので、毛先が逆立つようになって摩擦が生じるので、脱げにくくなる。
【0025】
こうした起毛繊維としては、アクリル、ポリエステル、レーヨンなどの化学繊維や、それらの混紡、ウール、獣毛、綿、などの天然繊維、あるいは天然繊維同士あるいは化学繊維との混紡など、種々の材質をボア状に起毛させてパイル糸に用いることができる。起毛した毛先(12)は、たとえば、基布が織物の場合であれば、起毛機の表面に針が多数突出した円筒ロールを押し当てて、起毛繊維を一方向に引き出すなどして得ることができる。また、基布が編地であれば、パイル糸を編み込み、あるいはパイル織した編地からループ状になったパイルの上部をカットし、長く毛羽を立たせたカットパイルも好適に用いることができる。このように、パイル織、パイル編のいずれであっても、踵側から爪先側に向かって順目となるように配するものであれば、いずれの布帛も適用可能である。
【0026】
甲部(2)は、外表面(4)と内表面(5)の布地の間には中綿(13)が封入されており、図に示したものでは3段のキルティングになっており、外表面(4)から内表面(5)まで刺し縫いすることで、先端のつま先部(6)から後端の甲高部(7)までの間を充填材の中綿(13)が封入されたキルティングによる段部(8)が3つ形成されている。中綿は甲皮に均等に配する。甲部は、つま先から甲高部(7)に向かって幅広かつ高くなっていくので、充填された中綿の押圧感をつま先と甲高部とで変化させることもできる。さらに、必要に応じて任意に甲皮の位置によって中綿の量に重み付けをしたりあるいは3段の幅を段ごとに偏らせることで中綿による足への押圧感を調整することもできる。
【0027】
この充填材の中綿(13)は、キルティングの膨らみに用いることができる素材であれば、綿、ポリエステルに限らず、化学繊維、天然繊維問わず、種々の材料が充填材として適用可能である。なお、本実施例では、たとえばポリエステルを用いたもので以下説明する。
【0028】
さて、すなわち、甲部(2)の外表面(4)と内表面(5)の間に挿入された充填材の膨らみによって、スリッパに挿し入れた足を全体で包みこむようにして優しくホールドすることを目的としている。そこで、スリッパが脱げたり踵が浮かないようにソフトにホールドすることができる押圧力が付与できるものであればよいことから、中綿の素材は特段限定されることなく、一般的な中綿に用いられる素材であれば広く適用しうる。
【0029】
本発明では、局所的な点接触ではなく、面接触で全体的にホールドしていくので、全体の摩擦力と押当力とが加味されてほどよくスリッパ内で足先がホールドされることとなる。
そこで、中綿がきつく足を押す必要はなく、足指が締めつけられることもない。そして、ソフトな軽い押圧力でも、面全体で十分にホールドすることが可能となっているので、履用者が圧迫感を抱くことがなく、快適に使用することができ、また冬場はボアの周囲の空気層によって足先が暖かい。また、全体のホールド性によって歩行時に踵が上がるときにスリッパの底部もこれに追従するように動いていくので、浮きにくく、歩きやすいものとなっており、さらに毛先の方向が爪先側に流れているので、毛並みに逆らう方向への摩擦が高いことから、スリッパから足が脱げにくくなっている。
【0030】
なお、本発明のスリッパにおいて、さらに底部(3)の爪先側は、先端が床にひっかからないように、スリッパを側面視したとき爪先の先端がやや上方に反ったように湾曲させた、つま先上がりのスリッパとしておくと、足先がひっかからず、歩行がしやすいものとすることができる。また、底面(16)には、スウェード調の皮革や人工皮革のようにざらっとした滑り止めとなる素材を用いることで、フローリング等の平滑な床でも滑りにくく、歩行がしやすいものとすることもできる。底部(3)は、上表面(17)のボア起毛の生地と、底面(16)のスウェード調の生地の底面との間に、たとえば15mm~25mm程度の厚みの弾性体(15)の芯材(18)を挿し入れる。なお、踵部の芯材をやや厚めにすることができ、芯材(18)は、ウレタン樹脂、高発泡EVA樹脂、高弾性EVA樹脂、EVA樹脂などから、一種あるいは複数種を適宜積層させたものを用いることができる。また、踵部の底面にはさらに滑り止め(19)を取り付けてもよい。
【0031】
本発明のスリッパ(1)は、たとえば以下のようにして製造することができる。まず、甲部(2)の上平面となる外表面4の起毛生地と、甲部(2)の内表面(5)の起毛生地とを重ね合わせた間の空間には中綿(13)が充填され、図面に刺し縫き縫着部(9)として示す縫い目のように、甲部(2)が上下に刺し縫きされ、キルティングのようにして縫着されている。そして、この甲部を、内表面(5)が上に向け、外表面(4)を下に向け、底部(3)の底面(16)の底生地を上にして甲部(2)の外表面(4)と対向させ、底部(3)の上表面(17)を下に向けて配してから、底部(3)に甲部(2)の外周をミシンで縫着する。そして、底部(3)の上平面(17)と底面(16)とは、つま先部を縫着しないままとする。次に、上表面(17)と底面(16)の生地の間につま先側から芯材(18)を挿しいれた後、甲部(2)と底部(3)を裏返して、甲部(2)の外表面(4)が上に、内表面(5)が内に、底部(3)の上表面(17)を上に、底面(16)を下とし、本発明のスリッパ(1)を得る。
【0032】
(スリッパを足で履用した場合の脱げにくさについての比較試験)
本発明品は、起毛による摩擦、とりわけ起毛の毛先の向き(11)と逆目となる向きの摩擦と、とキルト状の段部(8)のキルティングの膨らみによる押圧(14)で、使用時に足が脱げてしまいにくく、足の動きに追従しやすいものとなっている。そこで、本発明品を履用した場合の脱げにくさについて、一般社団法人メリケン品質検査協会兵庫試験センターにおいて「足型を使用したスリッパの脱げ難さ試験」を実施して、他の形状のスリッパと脱げにくさの違いを対比した。
【0033】
試験は、素足の右足の足型模型をスリッパに装着し、スリッパの先端を引張試験機(島津製作所製AGS-X5KN)にクリップして引っ張り、JIS L1096の引張強さ A法を準用し、スリッパが足型から外れるときの抵抗力を記録したものである。引張速度は200mm/分である。足型は、測定試料となるスリッパに深く挿し入れ、適宜両面テープを併用しながら先端をクリップ止めした。クリップにとりつけた紐を引張試験機のチャックに挟持させ、スリッパが垂直に引っ張られるように留意しながら手で足型を固定した。なお、スリッパの抵抗力の値は小さいことから、足型を手で固定したことによる試験への影響は無視できる。
【0034】
3回の測定の平均値を小数点以下1桁で丸めた値を、以下の表に示す。本発明品のスリッパ(実施例に記載のキルト状の段部が3段で毛足が14mmのボアで毛先が爪先側に傾倒しているスリッパ)、外巻き型スリッパ、ソフトタイプ型スリッパ、吊り込み型スリッパ、爪先前が開いた前空ソフトタイプ型スリッパの5種類について、いずれも、足型のサイズ23.5cmにみあったサイズのスリッパを試料として用いた。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示すように、本発明品は脱げるまでに要する引っ張り強さが9.2Nであった。他方、従来品のスリッパの引っ張り強さは2.0N~5.5Nであった。これらの比較試験の結果と対比すると、本発明品は、引っ張り強さが高く、歩行程度の動きでは、スリッパから足が格段に脱げにくいものであることが確認された。他方、過度に値が高すぎるわけでもないので、歩行時には脱げにくいからといって脱ぐことができないわけではなく、通常の履用を終える際には、手を沿えれば十分に脱ぐことのできる程度の締めつけである。踵にバンド等がないスリッパでありながら、しっかりとした脱げにくさがあるので、その分だけ足の動きへの追従性がよく、歩きやすいものとなっている。
【0037】
さらに、本発明品は、ポリエステル綿の中綿が充填された甲皮が3段になって、押圧方向(14)の向きで足先から甲までを段部(8)のキルティングがほどよく締めつけるので、決して不快な痛さはないものの、毛足の向き(11)による摩擦抵抗も相まって、フィット性よく脱げにくい形状となっている。他の従来品よりも格段に脱げにくい特性があることから、さらに段部(8)の締めつけの度合いをあらかじめ調整することで、靴サイズによらず履用者を広く確保することができる余地があることがわかる。
【0038】
こうした締めつけは、中綿の充填量で調整することができる。たとえば、甲高な位置(7)の中綿の量を増やすと、甲高部(7)の押圧力が高まるのでボアの起毛(10)と相俟って、ソフトな締めつけでありながらも十分に脱落しないよう保持することができる。足先の締めつけが弛めであっても履用することができる。すると、履用者の足型のサイズが多少異なる長さであっても、対応できる余裕をもたせることができる。甲高部(7)の位置でしっかり保持できるので、足先の違いが吸収できるものとすることができる。そこで、S、M、Lと3タイプのスリッパを用意するところを、フリーサイズで提供してしまった場合であっても、小さい足サイズの人が履いても脱げてしまわずに履用して安全に歩行しうるものとなる。そこで、本発明のスリッパであれば、サイズ適用の範囲を拡げる余地が十分に確保できるものとなっている。
【0039】
たしかにサイズを多数取り揃えることが通常的な外靴とは異なり、室内履きのスリッパでは、サイズは、3~4種程度であることが一般的であるとはいえ、それでもスリッパには色違い、柄違いがあるので、これらを含めたバリエーションは実質的に多数となるので、これらを商品ラインナップとして現実に揃えるとなれば、どうしても多品種生産となりがちである。本発明品によると、従来どおりにSMLといったサイズを取り揃えることもできるが、フリーサイズを提供する余地があるので、より柔軟な生産体制がとれることとなるので、本発明によれば、より現実的に製品化しやすいスリッパを得ることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 スリッパ
2 甲部
3 底部
4 外表面
5 内表面
6 つま先部
7 甲高部
8 段部
9 刺し縫き縫着部
10 起毛部
11 毛足の向き
12 毛先
13 中綿(充填材)
14 押圧方向
15 弾性体
16 底面
17 上表面
18 芯材
19 滑止め
図1
図2