(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】磁気浮上移動体
(51)【国際特許分類】
B60L 13/03 20060101AFI20241008BHJP
H02N 15/02 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B60L13/03 L
H02N15/02
(21)【出願番号】P 2020130924
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】中村 壮亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 吉史
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142501(JP,A)
【文献】特表2017-521038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 13/03
H02N 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間的に変化する磁界を電気導体板に向けて発生させることにより誘導された前記電気導体板の誘導電流と、前記磁界との作用によって前記電気導体板に対して浮上するように構成された磁気浮上移動体であって、
機体と、
複数の磁界生成素子それぞれを磁界生成素子配置面に配置して回転する前記磁界をつくる回転磁界生成ユニットを、前記機体の6か所以上の位置に配置した回転磁界生成ユニット群と、
前記回転磁界生成ユニットの磁界の前記回転を制御する回転磁界制御部と、
を備え、
前記回転磁界生成ユニット群の少なくとも1対の回転磁界生成ユニットにおける前記磁界生成素子配置面は、互いに非平行となるように傾斜して前記機体に固定され、
前記回転磁界制御部は、
互いに直交するXYZ軸による空間を定義したときに、前記回転磁界生成ユニット群それぞれの前記回転磁界生成ユニットの回転磁界の回転数を別々に制御することにより、前記磁気浮上移動体の
前記空間内での並進運動、およびX軸、Y軸、Z軸周りの回転運動を独立して制御する、ことを特徴とする磁気浮上移動体。
【請求項2】
前記磁界生成素子は永久磁石であり、
前記回転磁界生成ユニットそれぞれは、前記永久磁石を前記磁界生成素子配置面に搭載したロータと、前記ロータを回転させるモータを備えている、請求項1に記載の磁気浮上移動体。
【請求項3】
前記磁界生成素子は電流線を環状に巻いたコイル素子であり、
前記回転磁界生成ユニットそれぞれは、複数の前記コイル素子を搭載し、
複数の前記コイル素子にそれぞれに流す交流電流の振幅と位相を制御することで前記磁界を回転させる、請求項1に記載の磁気浮上移動体。
【請求項4】
前記回転磁界生成ユニット群は、複数の前記回転磁界生成ユニットが同一平面上の円周に沿って配置されて構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気浮上移動体。
【請求項5】
前記回転磁界生成ユニットに発生する力の方向が、前記円周の中心点の側又は外側に向くように、前記磁界生成素子配置面は傾斜している、請求項4に記載の磁気浮上移動体。
【請求項6】
複数の前記回転磁界生成ユニットの前記磁界生成素子配置面は、前記円周の接線方向に対して、交互に異なる向きに同じ傾斜角で傾斜している、請求項5に記載の磁気浮上移動体。
【請求項7】
前記回転磁界生成ユニット群は、同一平面上の円周に沿って配置され、
前記回転磁界生成ユニットに発生する力の方向が、前記円周の接線方向となるように、前記磁界生成素子配置面は傾斜している、請求項4に記載の磁気浮上移動体。
【請求項8】
複数の前記回転磁界生成ユニットの前記磁界生成素子配置面の傾斜の向きは、前記円周の内側又は外側の方向である、請求項7に記載の磁気浮上移動体。
【請求項9】
前記磁気浮上移動体の並進速度及び機体姿勢の指令値と、前記磁気浮上移動体の現在の並進速度、機体姿勢、及び回転速度の情報と、に基づいて、前記回転磁界生成ユニット群で生成すべき力及びトルクを算出する機体動作制御部と、
算出した前記力及びトルクから、前記回転磁界生成ユニット群それぞれの前記回転磁界生成ユニットに与える磁界回転速度を算出して前記回転磁界制御部に与える磁界回転速度算出部と、を備えている、請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気浮上移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転する磁界(以降、回転磁界という)を利用した誘導反発型の磁気浮上移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気浮上移動体は、誘導反発磁気浮上力を利用して、空中に浮上し推力を得て移動する物体である。具体的には、磁気浮上移動体は、回転磁界を、磁気浮上移動体に対して対向して配置されている電気導体板に鎖交させることによって得られる誘導反発磁気浮上力を利用する。回転磁界は、電気導体板に鎖交する際、磁力線が電気導体板上で円を描くように回転する磁界である。
【0003】
従来、この誘導反発型の磁気浮上では、回転磁界の回転面を同一平面上に、電気導体板と平行に配置していたため、並進移動に際して磁気浮上移動体の姿勢を傾けて移動のための推力を得ていた。また、電気導体板に対して移動のための推力を得る方式として、永久磁石を搭載したロータを電気導体板に対して傾けて配置し、磁界の回転面と電気導体板を傾斜させることにより移動のための推力を得る傾斜方式がある。さらに、電気導体板の縁付近で永久磁石を搭載したロータを回転させ、磁石の回転する領域(回転磁界の回転領域)を電気導体板と部分的に重ねることにより移動のための推力を得る偏い方式がある。
【0004】
特許文献1は、固定側に設けた一方向にレールのように伸びる電気導電体と、電気導電体に磁極面が空隙を介して対向する永久磁石および永久磁石を回転させる駆動モータを設けた浮上体(永久磁石回転体)と、を備えた磁気浮上移動体を開示している。この磁気浮上移動体の回転磁界の回転領域の面積の約半分以下の部分が電気導電体と対向し、残りの部分が、電気導電体に対向しないように構成すること(偏い方式)により、磁気浮上移動体は、一方向への推進力を得ている。
【0005】
特許文献2は、永久磁石の回転手段を3組以上設けた浮上ユニット磁気浮上移動体)の回転軸の向きを変更可能に構成し、この回転軸を固定側の電気導体板面に対して傾け制御すること(傾斜方式)が開示されている。向きが変更可能な回転軸の傾斜角を変化させて、対向面(電気導体板)に平行な複数の分力(推力)を生じさせ、分力の合力により、迅速かつ容易に浮上ユニットの平行移動あるいは回転を可能としている。
【0006】
非特許文献1には、誘導反発型磁気浮上の基本特性が述べられており、磁気車輪は永久磁石の磁界を利用して電機子巻線を組み込み、自己回転型としてモータの不要なコンパクトなユニット形式にしている。このユニット形式の磁気車輪により推力が得られるが、浮上力と推力を独立して制御することはできない。
【0007】
非特許文献2に開示された磁気浮上移動体は、磁気浮上のために磁界を回転させる4つのMPTV(maglev planar transportation vehicle)に加えて、前後左右の平面方向の推力を得るために、リニア誘導モータの原理を応用した4つのSTFLIM(single-sided transverse flux linear induction motor)を別途設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-335111号公報
【文献】特開2012-19618号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】藤井信男、他“自己回転型磁気車輪とそれを用いた試験車の特性”、電気学会論文誌D、Vol.120.No.4、pp495-502、2000.
【文献】J.H.Park、et al、;“Design and Analysis of a Maglev Planar Transportation Vehicle”、 IEEE TRANSACTINS ON MAGNETICS、 Vol.44、 No.7、pp1830-1836、2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような磁気浮上移動体は、回転磁界を生成するために、多くの場合、ロータで永久磁石を回転させているが、平面状に広がった電気導体板に沿った方向に移動のための推力を得て、並進移動と回転動作を自在に行わせるためには、ヘリコプターのように磁気浮上移動体の姿勢を地面に対して傾斜させ、また、ロータの回転軸の向きを変化させる必要がある。ロータの回転軸の向きを変化させる場合、回転軸の向きを変化させるアクチェータ等の装置を別途設ける必要があり、磁気浮上移動体の重量増加につながるという問題があった。また、磁気浮上移動体に荷物を載せて搬送する場合、磁気浮上移動体の姿勢を傾斜させて移動すると、荷物の載置面も傾斜するので荷物の載置が不安定になる場合がある。一方、磁気浮上移動体の姿勢を傾斜させず、ロータの傾斜角を固定した場合は、3方向への移動、及び、浮上した状態でのその場での3軸周りの回転運動等の動作、すなわち、6自由度の運動の動作を自在に制御することが難しかった。
【0011】
本発明は、回転磁界を形成する磁石等の磁界生成素子を固定した平面(平面の向く向きが変化しない平面)上に複数配置した構成の回転磁界生成ユニットを複数配置して、磁気浮上移動体の6自由度の運動の動作を独立して制御することができる磁気浮上移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施態様は、時間的に変化する磁界を電気導体板に向けて発生させることにより誘導された前記電気導体板の誘導電流と、前記磁界との作用によって前記電気導体板に対して浮上するように構成された磁気浮上移動体である。前記磁気浮上移動体は、
機体と、
複数の磁界生成素子それぞれを磁界生成素子配置面に配置して回転する磁界をつくる回転磁界生成ユニットを、前記機体の6か所以上の位置に配置した回転磁界生成ユニット群と、
前記回転磁界生成ユニットの磁界の回転を制御する回転磁界制御部と、
を備える。
前記回転磁界生成ユニット群の少なくとも1対の回転磁界生成ユニットにおける前記磁界生成素子配置面は、互いに非平行となるように傾斜して前記機体に固定されている。
前記回転磁界制御部は、互いに直交するXYZ軸による空間を定義したときに、前記回転磁界生成ユニット群それぞれの前記回転磁界生成ユニットの回転磁界の回転数を別々に制御することにより、前記磁気浮上移動体の前記空間内での並進運動、およびX軸、Y軸、Z軸周りの回転運動を独立して制御する。
【0013】
前記磁界生成素子は永久磁石であり、
前記回転磁界生成ユニットそれぞれは、前記永久磁石を前記磁界生成素子配置面に搭載したロータと、前記ロータを回転させるモータを備えている、ことが好ましい。
【0014】
また、前記磁界生成素子は電流線を環状に巻いたコイル素子であり、
前記回転磁界生成ユニットそれぞれは、複数の前記コイル素子を搭載し、
複数の前記コイル素子にそれぞれに流す交流電流の振幅と位相を制御することで前記磁界を回転させる、ことも好ましい。
【0015】
前記回転磁界生成ユニット群は、複数の前記回転磁界生成ユニットが同一平面上の円周に沿って配置されて構成されている、ことが好ましい。
【0016】
この場合、前記回転磁界生成ユニット群は、同一平面上の円周に沿って配置され、
前記回転磁界生成ユニットに発生する力の方向が、前記円周の中心点の側又は外側に向くように、前記磁界生成素子配置面は傾斜している、ことが好ましい。
【0017】
複数の前記回転磁界生成ユニットの前記磁界生成素子配置面は、前記円周の接線方向に対して、交互に異なる向きに同じ傾斜角で傾斜している、ことが好ましい。
【0018】
前記回転磁界生成ユニット群は、同一平面上の円周に沿って配置され、
前記回転磁界生成ユニットに発生する力の方向が、前記円周の接線方向となるように、前記磁界生成素子配置面は傾斜している、ことも好ましい。
【0019】
この場合、複数の前記回転磁界生成ユニットの前記磁界生成素子配置面の傾斜の向きは、前記円周の内側又は外側の方向である、ことが好ましい。
【0020】
前記磁気浮上移動体の並進速度及び機体姿勢の指令値と、前記磁気浮上移動体の現在の並進速度、機体姿勢、及び回転速度の情報と、に基づいて、前記回転磁界生成ユニット群で生成すべき力及びトルクを算出する機体動作制御部と、
算出した前記力及びトルクから、前記回転磁界生成ユニット群それぞれの前記回転磁界生成ユニットに与える磁界回転速度を算出して前記回転磁界制御部に与える磁界回転速度算出部と、を備えている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
上述の磁気浮上移動体によれば、回転磁界を形成する磁石等の磁界生成素子を、固定した平面(平面の向く向きが変化しない平面)上に配置した回転磁界生成素子を複数配置して、6自由度の運動を独立して制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施形態の磁気浮上移動体の基本構造の一例を模式的に示す図である。
【
図2】一実施形態の磁気浮上移動体が備える回転磁界生成ユニット群の各磁界生成素子配置面の傾きを説明する図である。
【
図3A】一実施形態の回転磁界生成ユニットが備える磁界生成素子の配置の一例を説明する図である。
【
図3B】一実施形態の回転磁界生成ユニットが備える磁界生成素子の配置の他の例を説明する図である。
【
図3C】一実施形態の回転磁界生成ユニットが備える磁界生成素子の配置の他の例を説明する図である。
【
図4】一実施形態の磁気浮上移動体が備える回転磁界生成ユニットの構成の一例を説明する図である。
【
図5】一実施形態の磁気浮上移動体が備える回転磁界生成ユニットの基本特性を取得するための回転磁界生成ユニット実験装置の外観を示す図である。
【
図6】回転磁界生成ユニット実験装置を説明する図である。
【
図7】回転磁界生成ユニットの浮上力を説明する図である。
【
図8】回転磁界生成ユニットに発生する移動のための推力を説明する図である。
【
図9】測定された浮上力の実験データの一例を示す図である。
【
図10】Z軸周りのトルクの実験データの一例を示す図である。
【
図11】一実施形態の磁気浮上移動体の各回転磁界生成ユニットで発生する力の一例を示す図である。
【
図12】一実施形態の磁気浮上移動体において、回転磁界生成ユニットの磁界生成素子配置面を円周方向に同じ傾斜角で同じ方向に傾けた構成の一例を示す図である。
【
図13】磁気浮上移動体において、回転磁界生成ユニットに発生する力が接線方向に向かう第1の実施態様の一例を説明する図である。
【
図14】回転磁界生成ユニットに発生する力が接線方向に向かう第2の実施態様の一例を説明する図である。
【
図15】回転磁界生成ユニットに発生する力が接線方向に向かう第3の実施態様の一例を説明する図である。
【
図16】磁気浮上移動体の駆動システムの一実施態様のブロック図である。
【
図17】磁気浮上移動体の駆動システムの別の一実施態様のブロック図である。
【
図18】磁気浮上移動体の機体動作制御部の制御を説明するブロック図である。
【
図19】磁気浮上移動体の浮上のみの動作に関する目標値と回転速度の関係の一例を示した図である。
【
図20】浮上高度を維持してX方向に移動する動作に関する目標値と回転速度の関係の一例を示した図である。
【
図21】浮上高度を維持してY方向に移動する動作に関する目標値と回転速度の関係の一例を示した図である。
【
図22】浮上高度を維持してその場旋回(Z軸周りの回転)をする動作に関する目標値と回転速度の関係の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態の磁気浮上移動体は、時間的に変化する磁界を電気導体板に向けて発生させることにより電気導体板において誘導された誘導電流と、発生した磁界との作用によって電気導体板に対して浮上するように構成される。時間的に変化する磁界は回転磁界であり、回転磁界を電気導体板に鎖交させることによって電気導体板に渦電流を発生させ、これによって得られる誘導反発型浮上力を磁気浮上の原理としている。なお、回転磁界は、磁気浮上移動体から電気導体板に向かって延びる磁力線が磁気浮上移動体の所定の軸周りに回転するように、磁界が各位置で時間的に変動する。電気導体板は、平面状に広がった面でもよいし、レールのように帯状に一方向に延びたものであってもよい。
【0024】
磁気浮上移動体の浮上、並進及び回転の各動作は、磁気浮上移動体の重心点の動きに関する自由度(以降、磁気浮上移動体の自由度という)で表すことができ、磁気浮上移動体の6自由度、即ち、空間に対する一般的なXYZ空間座標内での移動と、X軸,Y軸,Z軸周りの回転とによって、磁気浮上移動体の運動の動作を表すことができる。実施形態の磁気浮上移動体には、複数の磁界生成素子を備えた回転磁界生成ユニットが6箇所以上の位置に設けられる。各回転磁界生成ユニットは、平面である磁界生成素子配置面に、複数の磁界生成素子を配置して構成される。このときの磁界生成素子配置面の傾きは可変ではなく機体に対して固定され、少なくとも一対の回転磁界生成ユニットの磁界生成素子配置面同士は、互いに非平行となっている。このような6個以上の回転磁界生成ユニットを使用して、回転磁界制御部が回転磁界生成ユニットの回転磁界の回転を別々に制御することにより、磁気浮上移動体の6自由度の動作を独立に制御する。これにより、磁気浮上移動体の6自由度の運動の動作を実現できる。以下説明する実施形態は、磁気浮上移動体に与える指令値に基づいて、回転磁界生成ユニット毎に別々に回転磁界の回転数(回転速度)を制御する。以下、実施形態の磁気浮上移動体を説明する。
【0025】
(磁気浮上移動体の基本構造)
図1は、一実施形態の磁気浮上移動体の基本構造の一例を模式的に示す図である。磁気浮上移動体10の基本構造は、機体12と、6個の回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6からなる回転磁界生成ユニット群を有して構成されている。回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6は、それぞれ複数の磁界生成素子が配置された回転体であるロータと、ロータを回転させるモータを備えている。
機体12は、磁気浮上移動体10の中心点C
k(重心点)を備える中心機体と、この中心点C
kを通る中心軸の周りに放射状に、軸対称に延びた6つの腕とを備える。6つの腕それぞれの先端に、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の1つが取り付けられるように構成されている。
【0026】
6個の回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面の回転磁界の回転中心点Cr1,Cr2,Cr3,Cr4,Cr5,Cr6は、1つの平面上に位置し、しかも、円周(以下、第1の円周18という。)に沿って、等間隔で配置されている。この円周は、機体12の中心点Ck(重心点)を通る中心軸が回転中心点Cr1,Cr2,Cr3,Cr4,Cr5,Cr6の位置する上記平面と交わる交点を中心とする。6個の回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面は、機体12に対して可動することなく固定されている。また、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のうち少なくとも一対の回転磁界生成ユニットの磁界生成素子配置面同士は、互いに非平行になるように、機体12に対して固定されている。
第1の円周18は、真円ではなくてもよく、楕円であってもよく、第1の円周18の代りに環状に1周する形状であればよい。
以降、6個の回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面の回転中心点Cr1,Cr2,Cr3,Cr4,Cr5,Cr6が位置する上記平面をX軸とY軸とを含むXY平面とし、機体12の中心Ckを通る中心軸に沿った軸を、X軸及びY軸に直交するZ軸とするXYZ空間座標で表す。
【0027】
図2は、磁気浮上移動体10が備える回転磁界生成ユニット群の各磁界生成素子配置面の傾きを説明する図である。
図2では、磁気浮上移動体10の基本構造を平面的に見た図の外側に、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面の傾きを、第1の円周18の径方向外側から中心点C
kの方向にみたときの、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の側面図を示している。磁界生成素子配置面の傾きは、6個のロータの磁界生成素子配置面の回転中心点C
r1,C
r2,C
r3,C
r4,C
r5,C
r6が存在するXY平面(
図2中の一点鎖線)を基準にした傾斜角を示している。
【0028】
回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面は、第一の円周18の接線方向に対して、交互に同じ角度で異なる方向に傾いている。回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面が第一の円周18の接線方向に対して傾くとは、回転中心点C
r1,C
r2,C
r3,C
r4,C
r5,C
r6が位置する平面の向く向き(
図2ではZ軸下方向)に対して、第一の円周18の接線方向に向くように傾斜していることをいう。交互に同じ角度で異なる方向に傾いているとは、例えば、回転磁界生成ユニット14-1の、上記接線方向に対する傾斜角を-θとすると、隣りの回転磁界生成ユニット14-2の傾斜角はθである。以下、回転磁界生成ユニット14-3の傾斜角は-θ、回転磁界生成ユニット14-4の傾斜角はθ、回転磁界生成ユニット14-5の傾斜角は-θ、回転磁界生成ユニット14-4の傾斜角はθである。
【0029】
このように、全ての磁界生成素子配置面を同一平面上に平行に配置するのではなく、6個の回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のうち、回転磁界生成ユニット14-1,14-3,14-5の3つの磁界生成素子配置面と、回転磁界生成ユニット14-2,14-4,14-6の3つの磁界生成素子配置面とを、互いに非平行に配置することにより、任意の方向の力とトルク(回転)を発生させることができる。このように磁界生成素子配置面同士を非平行に配置する場合、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のうち一対の回転磁界生成ユニットの磁界生成素子配置面同士を非平行に傾けて配置してもよい。
したがって、磁気浮上移動体10の姿勢の変化を伴わない並進移動や、その場旋回(静止状態での回転運動)の動作が可能となる。
【0030】
図3Aは、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6それぞれが備える磁界生成素子の配置の一例を説明する図である。
図3Aに示す回転磁界生成ユニットの例は、2つの磁界生成素子20-1,20-2で構成されるが、3つ以上の磁界生成素子を用いてもよい。
図3Aに示すように、ロータ16の磁界生成素子配置面には、磁界生成素子20-1,20-2が配置されている。磁界生成素子配置面は、XY平面に対して傾斜しているので、
図3に示す磁界生成素子配置面は、X
1軸とY
1軸とを含む平面とし、ロータ16の回転中心軸の方向をZ
1軸方向として表すようにX
1Y
1Z
1空間座標系を定めている。
【0031】
磁界生成素子20-1,20-2は、永久磁石であり、X1Y1平面上の、ロータ16の回転中心軸(Z1軸)を中心とする円周(以下、第2の円周22という。)の中心に対して点対称な位置に配置されている。磁界生成素子20-1ではS極が電気導体板の側に向き、磁界生成素子20-2ではN極が電気導体板の側に向いて磁界生成素子20-1,20-2は磁界生成素子配置面に搭載される。回転磁界は、ロータ16が回転することにより発生する。磁界生成素子20-1,20-2は、2つの永久磁石であるが、4つ以上の永久磁石で磁界生成素子を構成してもよい。この場合は、電気導体板の側に向く極が、交互にS極とN極となるように4つ以上の偶数個の磁界生成素子が配置される。
【0032】
磁界生成素子の配置は、上記磁界生成素子の配置の他に、以下説明する磁界生成素子の配置であってもよい。
図3B、
図3Cは、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6それぞれが備える磁界生成素子の配置の他の例を説明する図である。
図3Bに示す磁界生成素子20-1は、台形状をした3つの永久磁石を磁界生成素子として備え、3つの永久磁石が隣り合うように円周上に連続配置され、S極が電気導体板の側に向いた構成を有する。磁界生成素子20-2は、台形状をした3つの永久磁石を磁界生成素子として備え、3つの永久磁石が隣り合うように円周上に連続配置され、N極が電気導体板の側に向いた構成を有する。磁界生成素子20-1と磁界生成素子20-2は、第2の円周22の中心に点対称の位置に配置されている。
【0033】
図3Cに示す磁界生成素子20-1は、第2の円周22を中心に点対称の位置に2か所、N極が電気導体板の側に向いた永久磁石が磁界生成素子として配置され、磁界生成素子20-2は、第2の円周22を中心に点対称の位置であって、磁界生成素子20-1の配置位置に対して、第2の円周22の中心周りに90度角度のずれた2か所の位置に、S極が電気導体板の側に向いた永久磁石が磁界生成素子として配置されている。さらに、磁界生成素子20-1それぞれと隣り合う磁界生成素子20-2との間の4か所の位置に、N曲及びS極が電気導体板の側に向いた永久磁石が配置されている。
図3Cに示す永久磁石の配置は、ハルバッハ配列である。
【0034】
回転磁界を生成する方法は、永久磁石を回転させる方法に限定されない。例えば、磁界生成素子に電流線を環状に巻いたコイル素子を使用し、磁気浮上移動体10は、電流線に流す交流電流の振幅と位相を制御する電流生成源を備える。この場合、電流生成源でのコイル素子により磁界を回転させるように制御する。コイル素子はフェーズドアレイなどのマルチコイルを使用して、機械的な回転をせずに、マルチコイルで回転磁界を発生させる。コイル素子を用いる場合、用いるコイル素子の個数は偶数個に限らず、奇数個であってもよく、3個以上であればよい。用いるコイル素子の数が2個の場合、交流電流の位相は180度(=360度/2)ずれる。用いるコイル素子の数が3個の場合、交流電流の位相は120度(=360度/3)ずれる。
【0035】
マルチコイルで回転磁界を発生させる例として、鉄心にコイルを巻いたものを3相のコイルとして、120°ずらして配置し、3相交流電圧を印加させる。それぞれの相は、正弦波状に変化しているため、各コイルから発生する極(N極、S極)とその磁界が変化することで、回転磁界が生成される。
【0036】
(回転磁界生成ユニット構造)
図4は、磁気浮上移動体10が備える回転磁界生成ユニット14の構成の一例を説明する図である。
回転磁界生成ユニット14は永久磁石回転型であり、永久磁石を使用した磁界生成素子20-1、20-2を備えたロータ16と、ロータ16を回転させるモータ24と、回転磁界制御部26と、を備える。モータ24の回転数は、回転磁界制御部26によって制御される。
【0037】
(回転磁界生成ユニットの基本特性)
図5は、磁気浮上移動体10が備える回転磁界生成ユニットの基本特性を取得するための回転磁界生成ユニット実験装置の外観を示す図である。
回転磁界生成ユニットの基本特性を取得するための回転磁界生成ユニット実験装置の外観を示す図である。回転磁界生成ユニット実験装置30は、電気導体板32として銅板を使用している。電気導体板32に対向して回転磁界生成ユニット14を設置し、回転磁界生成ユニット14には、6軸力覚センサ34を取り付けている。回転磁界生成ユニット14は、スライダ36で電気導体板32とのギャップが設定される。
【0038】
図6は、回転磁界生成ユニット実験装置を説明する図である。
図6は、
図5で示した回転磁界生成ユニット実験装置30の平面図を示している。回転磁界生成ユニット14の電気導電体32に対する傾斜角は、回転磁界生成ユニット14を傾けずに、電気導電体32をチルトユニット40により傾けた角度とした。傾斜角は、制御記録用PCでチルトユニット40により設定される。回転磁界生成ユニット14と電気導体板32との間のギャップgapは、
図6に示したように、回転磁界生成ユニット14のロータ16の回転中心軸における距離とした。モータ24の回転数は、パーソナルコンピュータ44でモータドライバ42を制御して設定される。モータ24の電源は、DC電源46である。
【0039】
モータ24には、回転数を検出するエンコーダ38と6軸力覚センサ34を取り付けている。回転磁界生成ユニット14と電気導電体32のギャップgapは、回転磁界生成ユニット14をスライダ36で移動させて設定される。制御・記録用PC48は、電気導電体32の傾斜角θの他、モータドライバ42用のパーソナルコンピュータ44の制御、及び、エンコーダ38で検出されたモータ24の回転数、6軸力覚センサ34で検出された浮上力や推力に対応する力及びトルクを記録する。なお、電気導電体32を傾けることで電気導電体32を基準としたXYZ空間座標のX軸及びZ軸は、回転磁界生成ユニット14に対して傾き、6軸力覚センサ34の出力値も、この傾きに応じた値となっている。このため、制御・記録用PC48は、上記傾きに応じて6軸力覚センサ34の出力値を補正して、X軸方向の分力、Y軸方向の分力、Z軸方向の分力、X軸周りのトルク、Y軸周りのトルク、及びZ軸周りのトルクを算出した。
【0040】
図7は、回転磁界生成ユニットの浮上力を説明するための図である。回転磁界生成ユニット14のロータ16の回転面(磁気生成素子配置面)の向きは電気導体板32に対して傾斜角θで傾いており、永久磁石を使用した磁界生成素子20-1,20-2の磁界生成素子配置面(磁界生成素子回転面)50も傾斜角θで傾いている。モータ20は、回転速度(回転角速度)ωで、ロータ16の中心C
rを通る中心軸を時計周りに回転している。ロータ16の回転により磁界生成素子20-1,20-2が回転することにより、回転磁界が生成される。回転磁界は、電気導体板32に鎖交する。この鎖交した回転磁界により電気導体板32に渦電流が発生するが、渦電流は電気導体板32上に生成されるため、電気導体板32に直交するZ軸方向に反発力が働き、これが回転磁界生成ユニット14の浮上力である力F
zとなる。
【0041】
図8は、回転磁界生成ユニットに発生する移動のための推力を説明する図である。モータ24は、ロータ16の中心C
rを通る中心軸を時計周りに回転し、電気導体板32に生成された渦電流により制動トルクが働く。磁界生成素子20-1,20-2の磁界生成素子配置面50は傾斜角θで傾いているため、制動トルクの分布が偏り、磁界生成素子20-1,20-2と電気導体板32に最も近い位置の回転方向と逆向きの方向であるY軸方向に、力F
yが発生する。この力F
yが移動のための推力となる。また、制動トルクにより、Z軸周りにトルクが発生する。
【0042】
図9は、測定された浮上力の実験データの一例を示す図である。傾斜角θは5度で、ギャップgapは、5mm,6mm,7mm,8mm,9mm,10mmとしている。横軸はモータの回転数N(単位時間当たりの回転数)で、縦軸は力F
zである。電気導体板32には、モータ20の回転数Nに対応して鎖交する磁界が時間的に変化し、誘導起電力が発生する。回転数Nが小さいときは、誘導起電力が小さいので生じる渦電流も小さく、力F
zも小さい。誘導起電力の大きさは、モータ20の回転数Nに比例して増加する。回転数Nの増加に伴いリアクタンス成分が支配的になり渦電流はもはや増加しなくなる。この状態では、誘導起電力と渦電流の時間的な位相差がほぼ90度となり、渦電流が作る起磁力は永久磁石の磁極位置と一致して、磁界生成素子20-1,20-2として使用した永久磁石から電気導体板32への鎖交磁束を打ち消す状態になる。すなわち、力F
zは飽和する
。
【0043】
実験データでは、ギャップgapが小さいほど力Fzは大きく、例えば、回転数Nが2000rpmの場合は、ギャップgapが5mmのときに約30Nであり、10mmのときに約6Nであった。回転数Nの増加に伴う力Fzの増加する割合は、ギャップgapが小さいほど大きい。力Fzが飽和する回転数Nは、ギャップgapが小さいほど飽和する回転数Nが小さい傾向がみられた。
【0044】
図10は、Z軸周りのトルクの実験データの一例を示す図である。Z軸周りのトルクM
zは、ギャップgapが小さいほど大きく、例えば、回転数Nが2000rpmの場合は、ギャップgapが5mmのときに約0.6N・mであり、10mmのときに約0.14N・mであった。トルクM
zは、ギャップgapが小さいほど飽和する回転数Nが大きくなる傾向がみられた。
【0045】
また、図示されないが、力Fyについても、同様に、ギャップgapが小さいほど力Fyは大きくなる傾向がみられた。
【0046】
このように、1個の回転磁界生成ユニット14は、力とトルクを発生する。安定な磁気浮上、即ち静止状態で回転磁界生成ユニット14を浮上させるために、これらの力及びトルクを他の回転磁界生成ユニット14の力及びトルクにより打ち消すために、複数個の回転磁界生成ユニット14が用いられる。
【0047】
回転磁界生成ユニット14の回転磁界生成素子配置面の向きが
図2に示すように傾斜して固定された磁気浮上移動体10において、磁気浮上移動体10の姿勢を、電気導体板32に対して傾けずに(中心点C
kを通る中心軸が電気導体板32の面に対して直交することを維持したまま)浮上及び並進の動作を可能とし、その場旋回(浮上した状態での回転動作)を可能とするために磁気浮上移動体10の動作を制御するには、浮上のためのZ軸方向の力、並進のためのX軸方向およびY軸方向の力、磁気浮上移動体10の姿勢を地面に対して平行に保つためのX軸およびY軸周りのトルク、その場旋回のためのZ軸周りのトルクが必要である。したがって、上記条件を満足するような動作を実現する場合には、3つの力及び3つのトルクの、合計6つの力学物理量を制御するために、少なくとも6個の回転磁界生成ユニット14の回転磁界を制御することが好ましい。
【0048】
従来の磁気浮上移動体において、4個の回転磁界生成ユニット14を用いて磁気浮上移動体10を構成する場合、1つの回転磁界生成ユニット14の磁界生成素子配置面の向き(方向)を機械的に変更してロータの制御を実現していた。
一方、磁気浮上移動体10では、回転磁界生成ユニット14の数を少なくとも6個とする。磁気浮上移動体10の浮上(Z軸方向の移動)及びX軸,Y軸方向の移動には、それぞれの軸方向に移動させる力が必要であり、X軸,Y軸,Z軸周りの回転にはそれぞれの軸周りのトルクが必要である。磁気浮上移動体10では、6個の回転磁界生成ユニット14の回転磁界の制御を行うために、6つの回転磁界生成ユニット14の上述の回転数Nを別々に(独立して)制御する。
【0049】
(磁気浮上移動体の6自由度の制御)
図11は、一実施形態の磁気浮上移動体の各回転磁界生成ユニットで発生する力の一例を示す図である。
図11に示す回転磁界生成ユニット群は、6自由度の制御、言い換えると6軸独立制御(X軸、Y軸、Z軸方向の力、及びX軸周り、Y軸周り、Z軸周りのトルクの別々の制御)が可能である。6軸独立制御が可能な回転磁界生成ユニット群の配置は、
図11に示す配置に限定されず、以下説明する
図12~15に示す配置も例として含む。回転磁界生成ユニット群が6軸独立制御を可能とする配置であることは、以降で説明する式(5)で示される座標変換行列Tsの逆行列が存在する(式(8)参照)ことを意味する。
図11~15に示す力(力ベクトル)は、磁気浮上移動体が代表的な運動をする際の力を示し、具体的には、XY平面内での6つの力の合成力がゼロで、Z方向の合成力のみが残る定点浮上の運動の際の各回転磁界生成ユニットに働く力に相当する。6軸独立制御では、定点浮上の運動の他に、3方向の合成力および3方向の合成トルクに自在な値を設定することができ、磁気浮上移動体10は、任意の運動の動作をすることができる。
【0050】
具体的に、
図11に示す例は、回転磁界生成ユニットを6個使用しており、
図2に対応した構造である。
図11に示すように、6個の回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面上の回転磁界の回転中心点C
r1,C
r2,C
r3,C
r4,C
r5,C
r6は、第1の円周18上に等間隔で配置されている。回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面は、第1の円周18の接線方向に対して交互に同じ角度で異なる向きに傾いている。
図11に示す例では、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のロータの回転速度(回転磁界の回転速度)ω
1,ω
2,ω
3,ω
4,ω
5,ω
6を、互いに同じ値にし、それぞれ
図11に示す方向に回転させる。
【0051】
図11に示すように、浮上し静止している状態(定点浮上の状態)における回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6に発生する力をF1,F2,F3,F4,F5,F6とする。この場合、力F1,F2,F3,F4,F5,F6は、中心点C
kに向かう方向の力であり、この力F1,F2,F3,F4,F5,F6のXY平面内における合成力はゼロとなっている。また、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のロータの回転方向について、Z軸上方からみて、隣り合う回転磁界生成ユニットの間で、時計回り及び反時計回りのように回転の向きが異なっている。
図11では、回転磁界生成ユニット14-1,14-3,14-5のロータの回転が時計回り、回転磁界生成ユニット14-2,14-4,14-6のロータの回転が反時計回りとなっている。
【0052】
この場合、ロータの磁界生成素子配置面の回転中心点Cr1,Cr2,Cr3,Cr4,Cr5,Cr6で力が発生しているとして、力F1のX方向の分力F1Xは-F1・sin30°=-F1・1/2、力F1のY方向の分力F1yはF1・cos30°=F1・31/2/2となる。力F2~F6についても、そのX方向の分力とY方向の分力は、同様に計算できる。
こうして、磁界生成素子配置面の回転中心点Cr1,Cr2,Cr3,Cr4,Cr5,Cr6に作用する力F1~F6を、XYZ軸座標系のX軸方向の分力、Y軸方向の分力、及びZ軸方向の分力に分解して算出する。
【0053】
同様に、回転中心点Cr1,Cr2,Cr3,Cr4,Cr5,Cr6でトルクが発生するとして、各中心点で作用するトルクを、XYZ軸座標系のX軸周りのトルク、Y軸周りのトルク、及びZ軸周りのトルクに分解して算出する。
【0054】
ここで、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6それぞれの分力とX軸,Y軸,Z軸周りのトルクを、上述の回転速度ω1,ω2,ω3,ω4,ω5,ω6と結びつけるために、回転磁界の回転速度ωrに対する力fxr,fyr, fzr,及び、トルクτxr,τyr,τzrの関係を次式で定義する。rは、1~6の自然数である。
【0055】
【0056】
上記gγ及び上記θγは傾斜角θと磁気浮上移動体10の浮上高度(ギャップ)及び姿勢によって決まる各回転磁界生成ユニット14の電気導体板32に対する位置姿勢であり、回転速度ωrは各回転磁界生成ユニット14の回転速度である。
【0057】
K
fx(g
γ,θ
γ)、K
fy(g
γ,θ
γ)、K
fz(g
γ,θ
γ)、K
τx(g
γ,θ
γ)、K
τy(g
γ,θ
γ)、K
τz(g
γ,θ
γ)は、電気導体板32に対する回転磁界生成ユニット14の位置g
γ及び、姿勢(傾斜角θ)によって決まる。また、K
fx(g
γ,θ
γ)、K
fy(g
γ,θ
γ)、K
fz(g
γ,θ
γ)は、電気導体板32に対する回転磁界生成ユニット14の位置g
γ及び、姿勢(傾斜角θ)によって決まる各回転磁界生成ユニット14の回転速度ω
rに対するX軸,Y軸,Z軸方向の力の係数である。Kτ
x(g
γ,θ
γ)、Kτ
y(g
γ,θ
γ)、Kτ
z(g
γ,θ
γ)は、電気導体板32に対する回転磁界生成ユニット14の位置g
γ及び、磁界生成素子配置面の傾き(傾斜角θ)によって決まる各回転磁界生成ユニット14の回転速度ω
rに対するX軸,Y軸,Z軸周りのトルクの係数である。これらの係数は、
図5,6に示す計測により得ることができる。
【0058】
次に、磁気浮上移動体10の中心点Ckに作用するX軸,Y軸,Z軸方向の力fx,fy,fz、及び磁気浮上移動体10に作用するX軸,Y軸,Z軸周りのトルクτx,τy,τzを次の式で定義する。
【0059】
【数2】
(2)
さらに、各回転磁界生成ユニット14のロータ回転速度ω
rに関する入力ベクトルωを次式で定義する。
【0060】
【0061】
磁気浮上移動体10の中心点C
kに作用するX軸,Y軸,Z軸方向の力f
x,f
y,f
z、及び磁気浮上移動体10に作用するX軸,Y軸,Z軸周りのトルクτ
x,τ
y,τ
zは、各回転磁界生成ユニット14の配置に関する
図11に示す幾何学的情報を用いて得られる座標変換行列Tsにより、各回転磁界生成ユニット14に作用するX軸,Y軸,Z軸方向の分力及びX軸,Y軸,Z軸周りのトルクと関係づけることができ、上記uと上記入力ベクトルωの関係を表すと下記式(4),(5)となる。
【0062】
【0063】
座標変換行列Tsは、次式で表される。
【0064】
【0065】
ここで、磁気浮上移動体10の姿勢を傾けず並進移動が可能であることと、その場で回転可能であることを条件として次式を導出した。
【0066】
【数6】
(6)
この(6)式の行列式を計算すると、次式となる。
【0067】
【数7】
(7)
傾斜角θが、0<θ<90°であれば、K
fy(θ)、K
fz(θ)、K
τx(θ)、K
τy(θ)、K
τz(θ)は0とはならない。このため、逆行列Ts
-1が存在し、次式が得られる。
【0068】
【0069】
従って、磁気浮上移動体10の姿勢が電気導電体32に対して傾いていない場合には、磁気浮上移動体10に作用する力とトルクを、回転磁界生成ユニット14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のロータ回転速度ω1,ω2,ω3,ω4,ω5,ω6によって自在に決定でき、モータ24の回転数Nを制御することにより磁気浮上移動体10を傾けずに並進移動とその場旋回をすることができる。
【0070】
なお、浮上し静止している状態における回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の中心点Ckに向かう方向の力F1,F2,F3,F4,F5,F6のXY平面内における合成力がゼロとなる状態は、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6を第2の円周18の接線方向に同じ傾斜角で同じ方向に傾けても実現できる。
【0071】
図12は、一実施形態の磁気浮上移動体10において、回転磁界生成ユニット14の磁界生成素子配置面を円周方向に同じ傾斜角で同じ方向に傾けた構成の一例を示す図である。
図12に示す例では、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のロータの回転速度を、互いに同じにし、回転方向を、いずれも反時計回りにしている。この場合、力F1,F2,F3,F4,F5,F6のXY平面内における合成力をゼロとすることができる。
図12に示す磁界生成素子配置面の傾きの場合でも、磁気浮上移動体10の6自由度の動作の制御ができ、モータ24の回転数Nの制御で磁気浮上移動体10の姿勢を傾けずに並進移動とその場旋回が可能である。
【0072】
また、浮上し静止している状態における回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の力F1,F2,F3,F4,F5,F6のXY平面内における合成力がゼロとなる状態は、力F1,F2,F3,F4,F5,F6が第1の円周18の接線方向に向いていても実現可能である。
【0073】
図13は、回転磁界生成ユニットが生成する力が接線方向に向かう第1の実施態様の一例を説明する図である。回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面の向きは、すべて機体12の中心点C
kに向かって内側に向くように傾斜している。
図13に示す例では、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のロータの回転速度を、互いに同じにし、回転方向は、Z軸上方からみて、回転磁界生成ユニット14-1,14-3,14-5が時計回り、回転磁界生成ユニット14-2,14-4,14-6を反時計回りにしている。この場合、力F1,F2,F3,F4,F5,F6は、同じ大きさの力であって、第1の円周18の接線方向の、交互に異なる側に向いているのでXY平面内における合成力をゼロとすることができる。
【0074】
図13に示す磁界生成素子配置面の傾きの場合でも、磁気浮上移動体10の6自由度の動作の制御ができ、モータ24の回転数Nの制御で磁気浮上移動体10の姿勢を傾けずに並進移動とその場旋回が可能である。
【0075】
図14は、回転磁界生成ユニットが生成する力が接線方向に向かう第2の実施態様の一例を説明する図である。回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6の磁界生成素子配置面の向きは、すべて機体12の中心点C
kとは反対方向の径方向外側(中心点C
kから見た放射方向)に傾斜している。
図14に示す例では、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のロータの回転速度を、互いに同じにし、回転方向は、Z軸上方から見て、回転磁界生成ユニット14-1,14-3,14-5が時計回り、回転磁界生成ユニット14-2,14-4,14-6が反時計回りとなっている。この場合、力F1,F2,F3,F4,F5,F6は、同じ大きさの力であって、第1の円周18の接線方向の、交互に異なる側に向いているのでXY平面内における合成力をゼロとすることができる。
【0076】
図14に示す磁界生成素子配置面の傾きの場合でも、磁気浮上移動体10の6自由度の動作の制御ができ、モータ24の回転数Nの制御で磁気浮上移動体10を傾けずに並進移動とその場旋回が可能である。
【0077】
図15は、回転磁界生成ユニットが生成する力が接線方向に向かう第3の実施態様の一例説明する図である。回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6は、機体12の中心点C
kに向かって内側と外側に交互に傾斜している。
図15に示す例では、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6のロータの回転速度を、互いに同じにし、回転方向は、Z軸上方からみて、回転磁界生成ユニット14-1,14-3,14-5が時計回り、回転磁界生成ユニット14-2,14-4,14-6が反時計回りとなっている。この場合、力F1,F2,F3,F4,F5,F6は、同じ大きさの力であって、第1の円周18の接線方向の、交互に異なる側に向いているから、それぞれのXY平面内における合成力をゼロとすることができる。
【0078】
図15に示す磁界生成素子配置面の傾きの場合でも、磁気浮上移動体10の6自由度の動作の制御ができ、モータ24の回転数Nの制御で磁気浮上移動体10の姿勢を傾けずに並進移動とその場旋回が可能である。
【0079】
回転磁界生成ユニット14に発生する力が機体12の中心点Ckに向かう場合は、6自由度の運動の制御を実現するためには、回転磁界生成ユニットの数は6以上の奇数でも偶数でもよい。回転磁界生成ユニットが配置された円周の接線方向に回転磁界生成ユニットに発生する力を得る場合、回転磁界生成ユニットの数は、例えば6以上の偶数個にすればよい。
【0080】
以上説明したように、磁気浮上移動体10の磁界生成素子配置面は、互いに非平行となるように傾斜して機体12に固定されているので、回転磁界制御部26は、回転磁界生成ユニット群それぞれの回転磁界生成ユニット14の回転磁界の回転数を制御することにより、磁気浮上移動体10の、電気導体板32に対する浮上の動作と、並進移動及び回転動作の少なくとも1つの所望の動作をするように制御することができる。
【0081】
一実施形態によれば、磁界生成素子は永久磁石であり、それぞれの回転磁界生成ユニット14は、永久磁石を磁界生成素子配置面に搭載したロータ16と、ロータ16を回転させるモータ24と、を備えているので、簡素な構成により、磁気浮上移動体10の、電気導体板32に対する浮上の動作と、所望の並進移動あるいは回転動作とをするように制御することができる。
【0082】
また、別の一実施形態によれば、磁界生成素子は電流線を環状に巻いたコイル素子であり、それぞれの回転磁界生成ユニット14は、複数のコイル素子を搭載し、複数のコイルの各電流の振幅と位相を制御することで磁界を回転させることも好ましい。この場合、モータ24を必要とせず回転磁界を生成することができるので、軽量の磁気浮上移動体10を提供することができる。
【0083】
一実施形態によれば、回転磁界生成ユニット群は、同一平面上の円周に沿って配置され、回転磁界生成ユニットに発生する力の方向が、
図11,12に示すように円周の中心点C
kの側に向くように、磁界生成素子配置面の向きを傾斜させる。また、
図11に示す磁界生成素子配置面の向きの傾斜の構成において、回転磁界の回転方向を逆回転にすることにより、同一平面上の円周に沿って配置され、回転磁界生成ユニットに発生する力の方向が、円周の外側に向くようにさせることもできる。これにより、磁気浮上移動体10の所望の動作を制御容易に実現することができる。
【0084】
また、一実施形態によれば、回転磁界生成ユニット群は、同一平面上の円周に沿って配置され、回転磁界生成ユニット14に発生する力の方向を、
図13~15に示すように円周の接線方向にするように、磁界生成素子配置面の向きを傾斜させる。これにより、磁気浮上移動体10の所望の動作を制御容易に実現することができる。
【0085】
図16は、一実施形態の磁気浮上移動体10の駆動システムの一実施態様を示すブロック図である。
図16に示すように、磁気浮上移動体10は、機体動作制御部62と、磁界回転速度算出部64とを備える。
【0086】
機体動作制御部62は、磁気浮上移動体10の並進速度指令値及び機体姿勢指令値と、磁気浮上移動体10の現在の並進速度、機体姿勢、及び回転速度の情報と、に基づいて、回転磁界生成ユニット群で生成すべき力目標値(f
x
*,f
y
*,f
z
*)およびトルク目標値(τ
x
*,τ
y
*,τ
z
*)を算出する。
磁界回転速度算出部64は、算出した力目標値及びトルク目標値から、回転磁界生成ユニット群それぞれの回転磁界生成ユニット14に与える磁界の回転速度(ω
1,ω
2,ω
3,ω
4,ω
5,ω
6)を算出して回転速度を回転磁界制御部26に与える。
図16に示す例では、第1~第6モータドライバ42-1,42-2,42-3,42-4,42-5,42-6が回転磁界制御部26に対応する。
このような構成により、磁気浮上移動体10に対して所望の動作を実現するように遠隔操作することができる。
【0087】
図17は、一実施形態の磁気浮上移動体の駆動システムの別の一実施態様を示すブロック図である。
図17に示す磁気浮上移動体10も、機体動作制御部62と、磁界回転速度算出部64とを備える。
図17に示す例は、磁界生成素子が永久磁石ではなく、電流線を環状に巻いたコイル素子を用いた駆動システムである。第1~6電流ドライバ43-1~43-6は、複数のコイル素子(マルチコイル)それぞれへの振幅と位相を制御した交流電流を回転磁界生成ユニット14-1~14-6に供給する。
この場合でも、機体動作制御部62は、磁気浮上移動体10の並進速度指令値及び機体姿勢指令値と、磁気浮上移動体10の現在の並進速度、機体姿勢、及び回転速度の情報と、に基づいて、回転磁界生成ユニット群で生成すべき力目標値(f
x
*,f
y
*,f
z
*)およびトルク目標値(τ
x
*,τ
y
*,τ
z
*)を算出する。
磁界回転速度算出部64は、算出した力目標値及びトルク目標値から、回転磁界生成ユニット群それぞれの回転磁界生成ユニット14に与える磁界の回転速度(ω
1,ω
2,ω
3,ω
4,ω
5,ω
6)を算出して、第1~第6電流ドライバ43-1,43-2,43-3,43-4,43-5,43-6に、算出した回転速度に対応する電流を与える。
図17に示す例では、第1~第6電流ドライバ43-1,43-2,43-3,43-4,43-5,43-6が回転磁界制御部26に対応する。
【0088】
図18は、磁気浮上移動体10の機体動作制御部62の制御を説明するブロック図である。
機体動作制御部62は、
図18に示すように、速度制御器、姿勢制御器、及び回転速度制御器を備える。
【0089】
速度制御器は、磁気浮上移動体10に対して操作者が指示する並進速度指令値(vx
*,vy
*,vz
*)および現在の機体12の並進速度(vx,vy,vz)の入力を受けると、この2つの入力の差分を求め、この差分に応じた力目標値(fx
*,fy
*,fz
*)を算出する。この力目標値(fx
*,fy
*,fz
*)は、磁界回転速度算出部64に送られる。機体12には、並進速度(vx,vy,vz)を計測するセンサが設けられている。
【0090】
姿勢制御器は、磁気浮上移動体10に対して操作者が指示する機体姿勢指令値(φ*,θ*,ψ*)および現在の機体12の機体姿勢(φ,θ,ψ)の入力を受けると、この2つの入力の差分に応じた回転速度指令値(ωx
*,ωy
*,ωz
*)を算出する。算出された回転速度指令値(ωx
*,ωy
*,ωz
*)は回転速度制御器に送られる。機体12には、機体姿勢を計測するセンサが設けられている。
【0091】
回転速度制御器は、回転速度指令値(ωx
*,ωy
*,ωz
*)および現在の回転速度(ωx,ωy,ωz)の入力を受けると、この2つの入力の差分を求め、この差分に応じたトルク目標値(τx
*,τy
*,τz
*)を算出する。算出されたトルク目標値(τx
*,τy
*,τz
*)は磁界回転速度算出部64に送られる。
機体12には、磁気浮上移動体10の回転速度を計測するセンサが設けられている。
【0092】
磁界回転速度算出部64は、上述した式(8)を用いて、算出した力目標値及びトルク目標値から、回転磁界生成ユニット群それぞれの回転磁界生成ユニットに与える磁界の回転速度(ω1,ω2,ω3,ω4,ω5,ω6)を算出して回転磁界制御部26に与える。
【0093】
(実施例)
図16に示される磁気浮上移動体10の構成を用いて、磁気浮上移動体10に対するX軸方向,Y軸方向,Z軸方向の力目標値f
x
*,f
y
*,f
z
*(以降、単に、力f
x,f
y,f
zと記す)及び磁気浮上移動体10に対するX軸周り,Y軸周り,Z軸周りのトルク目標値τ
x
*,τ
y
*,τ
z
*(以降、単に、トルクτ
x,τ
y,τ
zと記す)から、ロータの回転速度ω
1,ω
2,ω
3,ω
4,ω
5,ω
6を具体的な数値として算出した。
力f
x,f
y,f
z及びトルクτ
x,τ
y,τ
zとロータの回転速度ω
1,ω
2,ω
3,ω
4,ω
5,ω
6との関係は、力及びトルクが正の値となる範囲において、上述の(8)式によって関係づけられる。要求される各軸の力目標値及びトルク目標値が正の値の範囲で検討した場合、上述の(6)式の行列の要素を決めるため、傾斜角θ=5度に設定して、係数K
fy(θ)、K
fz(θ)、K
τx(θ)、K
τy(θ)、K
τz(θ)を定数として、
図9,10に示した実験データを基に、係数K
fy(θ)、K
fz(θ)、K
τx(θ)、K
τy(θ)、K
τz(θ)の値を求めた。表1は、その値を示す。
【0094】
【0095】
図16に示されるように、磁気浮上移動体10は、回転磁界生成ユニット14-1,14-2,14-3,14-4,14-5,14-6を備えている。回転磁界生成ユニット14-1は、第1モータと第1ロータと第1永久磁石を備えている。第1永久磁石はS極とN極が第1ロータに配置され、第1モータによって回転する。回転磁界生成ユニット14-2,14-3,14-4,14-5,14-6についても同様の構成となっており、電気導体板32の側に向いたN極、S極が回転することにより回転磁界が形成される。第1モータドライバ42-1は、回転磁界生成ユニット14-1の第1モータを駆動する。第2モータドライバ42-2~第6モータドライバ42-6もそれぞれ、回転磁界生成ユニット14-2の第2モータ~回転磁界生成ユニット14-6の第6モータを駆動する。第1モータドライバ42-1~第6モータドライバ42-6、及び、第1~第6モータは、電源部60から電源が供給される。
【0096】
機体動作制御部62は、
図18に示すように、操作のために入力される並進速度指令値及び機体姿勢指令値と、現在の並進速度、機体姿勢、及び回転速度とに基づいてフィードバック制御をし、磁気浮上移動体10に対するXYZ軸の力目標値及び磁気浮上移動体10に対するXYZ軸周りのトルク目標値を算出する。磁界回転速度算出部64は、機体動作制御部62から送られる力目標値及びトルク目標値から、上述した(8)式に示した逆座標変換行列Ts
-1によって関係づけられロータの回転速度ω
1,ω
2,ω
3,ω
4,ω
5,ω
6を算出する。この磁界回転速度算出部64で算出されたロータの回転速度ω
1,ω
2,ω
3,ω
4,ω
5,ω
6により、第1モータから第6モータの回転数が制御される。
【0097】
機体動作制御部62及び磁界回転速度算出部64はコンピュータで構成され、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、キーボード、ディスプレイ等のハードウェアと、ROMに記憶されたプログラム等のソフトウェアとから構成されている。並進速度指令値及び機体姿勢指令値は、コンピュータのキーボードから入力される。
【0098】
図19から
図22は、力目標値及びトルク目標値(以降、総称していうときは、単に目標値という)に対するロータの回転速度を示す。各目標値は、
図2に示した座標系に対する正負の値である。
【0099】
図19は、磁気浮上移動体10の浮上のみの動作(定点浮上の運動)に関する力目標値及びトルク目標値と回転速度の関係の一例を示した図である。目標値は、Z軸方向の力について-150[N]となっている。磁気浮上移動体10の動作は浮上のみの動作であるので、このときのロータの回転速度(モータの回転数)、言い換えると回転磁界の回転速度は、第1モータ~第6モータの回転数はいずれも同じ1087[rpm]である。浮上のみの動作の場合、磁気浮上移動体10の重さに対する浮上力であり、磁気浮上移動体10は、一定の浮上高度(電気導体板32との距離)を保って静止している状態である。
【0100】
図20は、電気導電体32の表面からの浮上高度を維持してX方向に移動する動作に関する力目標値及びトルク目標値と回転速度の関係の一例を示した図である。浮上高度を維持するため、Z軸方向の力は-150[N]であり、移動するために、X軸方向の力は0.2[N]であり、これらの力が力目標値となっている。このときロータの回転速度(モータの回転数)は、互いに異なる。第1モータの回転数は1195[rpm]、第2モータの回転数は323[rpm]、第3モータの回転数は1743[rpm]、第4モータの回転数は1247[rpm]、第5モータの回転数は323[rpm]、第6モータの回転数は1691[rpm]である。
【0101】
図21は、浮上高度を維持してY方向に移動する動作に関する力目標値及びトルク目標値と回転速度の関係の一例を示した図である。浮上高度を維持するため、Z軸方向の力は-150[N]であり、移動するために、Y軸方向の力は0.2[N]であり、これらの力が目標値となっている。このときロータの回転速度(モータの回転数)は、互いに異なる。第1モータの回転数は1907[rpm]、第2モータの回転数は183[rpm]、第3モータの回転数は548[rpm]、第4モータの回転数は1877[rpm]、第5モータの回転数は770[rpm]、第6モータの回転数は554[rpm]である。
【0102】
図22は、浮上高度を維持してその場旋回(Z軸周りの回転動作)をする動作に関する、力目標値及びトルク目標値と回転速度の関係の一例を示した図である。浮上高度を維持するため、Z軸方向の力は-150[N]であり、その場旋回(Z軸周りの回転動作)のため、Z軸周りのトルクは0.5であり、これらの力、トルクが目標値となっている。このときのロータの回転速度、言い換えるとモータの回転数については、第1モータと第3モータと第5モータの回転数は1643[rpm]、第2モータと第4モータと第6モータの回転数は531[rpm]である。
このように、磁気浮上移動体10の並進速度及び機体姿勢に関する指令値から得られる力目標値及びトルク目標値に対して、ロータの回転速度(回転磁界の回転速度あるいはモータの回転数)を設定して、回転磁界生成ユニットにおける回転磁界の回転数を制御することにより、磁気浮上移動体10の動作を所望の動作に制御することができる。
【0103】
以上、本発明の磁気浮上移動体について詳細に説明したが、本発明の磁気浮上移動体は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0104】
10 磁気浮上移動体
12 機体
14、14-1~6 回転磁界生成ユニット
16 ロータ
18 第1の円周
20,20-1,20-2 磁界生成素子
22 第2の円周
24 モータ
26 回転磁界制御部
30 回転磁界生成ユニット実験装置
32 電気導体板
34 6軸力覚センサ
36 スライダ
38 エンコーダ
40 チルトユニット
42、42-1~6 モータドライバ
44 パーソナルコンピュータ
46 DC電源
48 制御・記録用PC
50 磁界生成素子配置面
60 電源部
62 機体動作制御部
64 磁界回転速度算出部