IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人豊橋技術科学大学の特許一覧

特許7568269高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム
<>
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図1
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図2
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図3
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図4
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図5
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図6
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図7
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図8
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図9
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図10
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図11
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図12
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図13
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図14
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図15
  • 特許-高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-07
(45)【発行日】2024-10-16
(54)【発明の名称】高周波インバータ、整流回路および無線電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241008BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20241008BHJP
【FI】
H02M7/48 A
H02M7/48 E
H02J50/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020198984
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086784
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋士
(72)【発明者】
【氏名】水谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】小山 哲志
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-514901(JP,A)
【文献】特開2020-184824(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126111(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0006566(US,A1)
【文献】特開2013-005529(JP,A)
【文献】特開2020-010414(JP,A)
【文献】特開2015-023686(JP,A)
【文献】特開2013-013288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02J 50/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷抵抗の変動する負荷に対して定電圧または定電流により電力供給する高周波インバータ回路であって、
所定のデューティ比によってスイッチングされるスイッチング素子と、このスイッチング素子に並列に接続される出力コンデンサとを備えるスイッチング回路と、
前記スイッチング回路の出力インピーダンスを変換する受動回路を備え、
前記受動回路は、前記スイッチング回路および実負荷を含む出力側回路に設けられる各素子の構成および設定値に基づき決定されるスイッチング電圧が、ZVSおよびZVDSを達成するときの出力インピーダンスを基準インピーダンスとし、実負荷における出力インピーダンスを前記基準インピーダンスに変換し、かつ、変動する前記負荷の範囲内において、スイッチング電圧がZVSを達成する範囲内となるように出力インピーダンスを変換するものである
ことを特徴とする高周波インバータ回路。
【請求項2】
前記受動回路は、スミスチャート上に描かれる負荷の実軸変動測地線から該スミスチャート上に描かれるZVSを達成するZVS測地線へインピーダンス変換することができるインピーダンスパラメータを求め、該インピーダンスパラメータを満たす回路として構築されたものである請求項1に記載の高周波インバータ回路。
【請求項3】
定電圧または定電流により供給される交流電力を整流するとともに、負荷抵抗の変動する負荷に対して定電圧または定電流として直流出力する整流回路であって、
交流電圧源から入力される交流電圧との位相を調整しつつ所定のデューティ比によってスイッチングされるスイッチング素子と、このスイッチング素子に並列に接続される出力コンデンサとを備えるスイッチング回路と、
前記スイッチング回路に対する入力インピーダンスを変換する受動回路を備え、
前記受動回路は、前記スイッチング回路および実負荷を含む出力側回路に設けられる各素子の構成および設定値に基づき決定されるスイッチング電圧の立ち上がり電圧が、ZVSおよびZVDSを達成するときの入力インピーダンスを基準インピーダンスとし、実負荷における入力インピーダンスを前記基準インピーダンスに変換し、かつ、変動する前記負荷の範囲内において、スイッチング電圧の立ち下がり電圧がZVSを達成する範囲内となるように入力インピーダンスを変換するものである
ことを特徴とする整流回路。
【請求項4】
前記受動回路は、スミスチャート上に描かれる負荷の実軸変動測地線から該スミスチャート上に描かれるZVSを達成するZVS測地線へインピーダンス変換することができるインピーダンスパラメータを求め、該インピーダンスパラメータを満たす回路として構築されたものである請求項3に記載の整流回路。
【請求項5】
さらに、前記スイッチング素子のスイッチング作動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記受動回路によって入力インピーダンスが変換されるとき入力電圧または入力電流の周期との間で生じる位相差を是正しつつスイッチング作動を制御するものである請求項3または4に記載の整流回路。
【請求項6】
請求項1または2に記載の高周波インバータ回路を給電側とし、結合器を介して整流回路に結合させてなることを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項7】
請求項3~5のいずれかに記載の整流回路を受電側とし、結合器を介して高周波インバータ回路に結合してなることを特徴とする無線電力伝送システム。
【請求項8】
請求項1または2に記載の高周波インバータ回路を給電側とし、請求項3~5のいずれかに記載の整流回路を受電側として、前記高周波インバータ回路と前記整流回路との間に設けられた結合器を備えることを特徴とする無線電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷抵抗が変動する場合においても定電圧または定電流を出力し得る高周波インバータおよび整流回路と、これらを使用する無線電力伝送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波インバータは、その高効率および高電力により、誘導加熱器、プラズマ発生器またはワイヤレス電力伝送に採用されている。高出力かつ高効率のインバータにあっては、E級インバータのように、ゼロ電圧スイッチング(Zero Voltage Switching:ZVS)およびゼロ電圧微分スイッチング(Zero Voltage Derivative Switching:ZVDS)を達成することに起因するものであるが、E級インバータは、上記ZVSおよびZVDSが想定された負荷抵抗において実現されるものであるため、負荷抵抗が変動すると、ZVSが達成されず、効率の低下を招来させるものとなっていた。そこで、定電圧(Constant Voltage:CV)出力におけるZVSを達成するインバータ方式が開発されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-010414号公報
【文献】特開2015-023686号公報
【文献】特開2013-013288号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】R.E.Zulinski and K.J.Grady, “Load-independent class E power inverter. I. Theoretical development”, IEEE Trans. Circuits Syst. I, vol. 37, No.8, pp.1010-1018, Aug. 1990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前掲の非特許文献1に開示される技術は、定電圧によるインバータ出力においてZVSを達成するものではあるが、その設計理論が煩雑であり、また、直流電圧源から高周波電圧への変換に際して、電圧変換比が大きくならざるを得ないものとなっていた。そのため実用的なものとなっていなかった。そこで、二つのスイッチング素子を使用し、一方のスイッチング素子がオフ状態から他方のスイッチング素子がオン状態となるまでのデッドタイムを補正することにより、高周波スイッチング回路においてZVSを達成させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1に開示される技術は、充放電可能なキャパシタを備える制御回路を設け、キャパシタ電圧が上限設定電圧となる場合には二つのスイッチング素子をオフ状態とし、キャパシタ電圧が下限設定電圧となった場合に一方又は他方のスイッチング素子を交互にオン状態とするものであり、そのための制御部を必要とするものであった。また、キャパシタを放電させる放電期間における単位時間当たりの放電量を増加させてキャパシタ電圧を速やかに下限設定電圧とさせる補正部をも必要とするものであった。しかしながら、上記のスイッチング回路は、負荷抵抗が変動した場合のZVSを達成させるところに至ったものではなかった。
【0007】
他方、負荷の種類によっては、定電圧による電力供給または定電流による電力供給が望まれるところ、定電圧出力を得ることができるスイッチング電源装置が開発されており(特許文献2参照)、また、定電流電源装置も開発されている(特許文献3参照)。
【0008】
特許文献2に開示される技術は、昇圧コンバータの出力電圧を制御するものであり、入力電圧を所定電圧に変換する際、その入力電圧と出力電圧の測定値(検出信号)の誤差を補正することにより、所定の出力電圧に変換させる構成であった。従って、上記技術は、昇圧コンバータを含むスイッチング電源装置であって、E級インバータまたは整流回路に応用できるものではなかった。
【0009】
また、特許文献3に開示される技術は、スイッチ素子を有する定電流回路において、スイッチ素子のドレイン電流に応じてスイッチ素子を制御部によって制御するものであり、出力電流リップルを抑えることを目的とするものである。従って、上記技術についてもE級インバータまたは整流回路に応用できるものではなかった。
【0010】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、負荷抵抗が変化する場合においても定電圧または定電流を出力できるインバータ回路および整流回路を提供するとともに、これらを使用する無線電力伝送システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、高周波インバータ回路に係る本発明は、負荷抵抗の変動する負荷に対して定電圧または定電流により電力供給する高周波インバータ回路であって、所定のデューティ比によってスイッチングされるスイッチング素子と、このスイッチング素子に並列に接続される出力コンデンサとを備えるスイッチング回路と、前記スイッチング回路の出力インピーダンスを変換する受動回路を備え、前記受動回路は、前記スイッチング回路および実負荷を含む出力側回路に設けられる各素子の構成および設定値に基づき決定されるスイッチング電圧が、ZVSおよびZVDSを達成するときの出力インピーダンスを基準インピーダンスとし、実負荷における出力インピーダンスを前記基準インピーダンスに変換し、かつ、変動する前記負荷の範囲内において、スイッチング電圧がZVSを達成する範囲内となるように出力インピーダンスを変換するものであることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、スイッチング素子の作動により、直流電圧を高周波交流電圧に変換して出力することができるものであるが、このときのスイッチング電圧は、スイッチがオフ状態において上昇した後に下降するため、スイッチがオンに切り替わる瞬間にゼロ(V)となっていること(ZVSを達成すること)が好ましく、しかも電圧変化曲線の傾きがゼロとなっていること(ZVDSを達成すること)がさらに好適である。これは、負荷抵抗が変化した場合、その変動負荷に応じてスイッチング電圧が変化する場合であっても同様である。そのため、受動回路を設けることにより、負荷抵抗が変動する場合において、少なくともZVSを達成させることができるものとなる。
【0013】
受動回路は、予め実負荷(最適負荷)を含む出力側回路の構成において、スイッチング電圧がZVSおよびZVDSを達成するようなインバータ(以下、E級インバータと称する場合がある)を想定し、そのときの出力インピーダンスを基準インピータンスとし、実負荷における出力インピーダンスを前記基準インピーダンスに変換するとともに、変動する前記負荷の範囲内における出力インピーダンスがZVSを達成する範囲内となるように変換するものである。これにより、負荷抵抗が変動した場合であってもZVSを達成させることができる。このとき、受動回路によるインピーダンスの変換に好適なインピーダンスパラメータを求め、当該インピーダンスパラメータを満たすように構築されるものである。
【0014】
このように、負荷を含む出力側回路に対するインピーダンスが変換されることにより、負荷抵抗の変動時においてもZVSが達成されることとなるから、スイッチング素子がオフ状態からオン状態に切り替わるタイミングにおいてスイッチング電圧はゼロ(V)となり、スイッチング損失を著しく低減させることができる。そして、スイッチング損失が僅少となることにより、交流電圧源として出力する場合には定電圧源となり、また、交流電流として出力する場合には定電流源となり得るものである。
【0015】
上記構成の発明にあっては、前記受動回路は、スミスチャート上に描かれる負荷の実軸変動測地線から該スミスチャート上に描かれるZVSを達成するZVS測地線へインピーダンス変換することができるインピーダンスパラメータを求め、該インピーダンスパラメータを満たす回路として構築されたものとすることができる。
【0016】
ここで、測地線とは、2点の最短距離(非ユークリッド幾何学を用いたポアンカレ計測による幾何学的長さ)を結ぶ線であり、直線の場合もあれば、円または弧の場合もある。また、インピーダンス変換は、メビウス変換とすることができ、円から円へ変換するものであるが、直線は半径∞の円とみなして変換することが可能となる。そして、負荷の実軸変動測地線は、最適負荷においてZVSおよびZVDSを達成させるインピーダンスを含む0Ω~∞Ωの範囲のインピーダンス値において、定電圧を出力させる場合は、0Ω~∞ΩをZVS測地線へ、定電流を出力させる場合は、∞Ω~0ΩをZVS測地線へ、それぞれ変換するためのインピーダンスパラメータを求めることとなる。従って、定電圧出力の場合と定電流出力の場合とではインピーダンスパラメータは異なるが、これらをそれぞれ満たす回路構成による受動回路が設けられることとなる。
【0017】
上記のような構成によれば、定電圧または定電流のいずれかを一方を選択的に出力させる場合、その選択された出力に応じて適宜な受動回路を設けることができる。なお、定電流出力に関し、スイッチング電流に着目する場合には、ゼロ電流スイッチング(Zero Current Switching:ZCS)によるスイッチ損失の軽減が知られているが、ここでは、定電流を出力させる目的から、スイッチ電圧に着目しつつZVSを達成させるインピーダンスパラメータを求めることとしている。これにより、負荷が変動する場合においても定電流を出力させることができるものである。
【0018】
整流回路に係る本発明は、定電圧または定電流により供給される交流電力を整流するとともに、負荷抵抗の変動する負荷に対して定電圧または定電流として直流出力する整流回路であって、交流電圧源から入力される交流電圧との位相を調整しつつ所定のデューティ比によってスイッチングされるスイッチング素子と、このスイッチング素子に並列に接続される出力コンデンサとを備えるスイッチング回路と、前記スイッチング回路に対する入力インピーダンスを変換する受動回路を備え、前記受動回路は、前記スイッチング回路および実負荷を含む出力側回路に設けられる各素子の構成および設定値に基づき決定されるスイッチング電圧の立ち上がり電圧が、ZVSおよびZVDSを達成するときの入力インピーダンスを基準インピーダンスとし、実負荷における入力インピーダンスを前記基準インピーダンスに変換し、かつ、変動する前記負荷の範囲内において、スイッチング電圧の立ち下がり電圧がZVSを達成する範囲内となるように入力インピーダンスを変換するものであることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、供給される交流電圧源に対して、好適なデューティ比によりスイッチング素子を作動させることによって整流することができる。このとき、スイッチ電圧の立ち下がり電圧は、出力側回路の負荷の変動により、ZVSを達成しないこととなるため、その立ち下がり電圧について、少なくともZVSを達成させるように受動回路を設けている。受動回路の構成は、前述の高周波インバータ回路における受動回路と同様の手法であるが、基本的には、スイッチング素子、出力コンデンサ、および、受動回路内の構成についても、インバータ回路と対称な構成となるように構築される。これは、インバータ回路におけるZVSの達成が、スイッチング電圧がゼロ(V)に収束する際の事象であったのに対し、整流回路にあっては、スイッチング電圧の立ち下がり電圧における事象に対するものだからである。このように構成された受動回路を備えることにより、整流された電圧または電流は、定電圧または定電流となるものである。
【0020】
そして、上記構成の発明において、前記受動回路は、スミスチャート上に描かれる負荷の実軸変動測地線から該スミスチャート上に描かれるZVSを達成するZVS測地線へインピーダンス変換することができるインピーダンスパラメータを求め、該インピーダンスパラメータを満たす回路として構築されたものとすることができる。これは、インバータ回路における場合と同様であり、整流後において定電圧または定電流のいずれかを一方を選択的に直流出力させる場合、その選択された出力に応じて適宜な受動回路を設けることができる。
【0021】
上記各構成の発明においては、さらに、前記スイッチング素子のスイッチング作動を制御する制御部を備えるものとし、前記制御部は、前記受動回路によって入力インピーダンスが変換されるとき入力電圧または入力電流の周期との間で生じる位相差を是正しつつスイッチング作動を制御するものとすることができる。
【0022】
上記構成によれば、スイッチング素子に入力される電力は、前記受動回路などによる作用によって位相が変化することとなるため、その位相差を制御部によって是正することができる。。
【0023】
無線電力伝送システムに係る本発明は、上記各構成のいずれによる高周波インバータ回路を給電側とし、上記各構成のいずれかによる整流回路を受電側として、前記両回路の間に設けられた結合器を備えることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、直流電圧源をインバータ回路によって高周波の定電圧または定電流として出力させることができ、これを供給側として結合器を介して受電側に伝送することができる。他方、受電側においては、高周波の定電圧または定電流として供給される電力を定電圧または定電流によって整流し、負荷に供給することができる。なお、結合器としては磁界結合方式または電界結合方式などを使用することができ、トランスまたはジャイレータを構築させたものを使用することができるが、ここでは、その種類・構成等を問うものではない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高周波インバータ回路および整流回路のいずれにおいても、負荷抵抗が変化する場合であっても、スイッチング電圧は少なくともZVSを達成するものとなることから、出力電圧または出力電流が安定し、定電圧または定電流として出力させることができる。
【0026】
また、これらを使用する無線電力伝送システムは、直流電圧源を定電圧または定電流に変換しつつ無線伝送を可能にするものであり、整流回路において位相調整されたスイッチング素子の作動により、効率のよい電力伝送が実現されるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】高周波インバータ回路に係る実施形態を示す説明図である。
図2】設計手法を説明する図であり、(a)はE級インバータを示し、(b)はスミスチャートを示す。
図3】設計手法を説明する図であり、(a)は2端子対回路を示し、(b)は測地線の変換例を示す。
図4】高周波インバータ回路における定電圧出力のためのインピーダンスパラメータを示す図であり、(a)はスミスチャートであり、(b)はT型回路の例を示す。
図5】高周波インバータ回路における定電流出力のためのインピーダンスパラメータを示す図であり、(a)はスミスチャートであり、(b)はT型回路の例を示す。
図6】整流回路に係る実施形態を示す説明図である。
図7】無線電力伝送システムに係る実施形態を示す説明図である。
図8】(a)は定電圧出力用の高周波インバータ回路の実施例を示す図であり、(b)は定電流出力用の高周波インバータ回路の実施例を示す図である。
図9】高周波インバータ回路の実施例に係るシミュレーション結果を示すグラフであり、(a)はE級インバータのみ、(b)は定電圧出力用、(c)は定電流出力用の高周波インバータ回路による結果を示す。
図10】スイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)を測定した結果を示すグラフである。
図11】(a)は定電圧出力用の整流回路の実施例を示す図であり、(b)はシミュレーション結果を示すグラフである。
図12】(a)は定電圧出力用の整流回路の他の実施例を示す図であり、(b)はシミュレーション結果を示すグラフである。
図13】(a)は定電流出力用の整流回路の実施例を示す図であり、(b)はシミュレーション結果を示すグラフである。
図14】(a)は定電流出力用の整流回路の他の実施例を示す図であり、(b)はシミュレーション結果を示すグラフである。
図15】無線電力伝送システムの実施例を示す図である。
図16】無線電力伝送システムの実施例におけるシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
<高周波インバータ回路の構成>
図1は、高周波インバータ回路に係る本発明の実施形態の概略を示すものである。この図1に示す高周波インバータ回路100は、スイッチング回路10と、負荷側回路20との間に受動回路(回路網)30を構成したものである。
【0029】
スイッチング回路10は、直流電圧源11のプラス側に接続された入力インダクタ12と、直流電圧源11に並列に接続され、所定のデューティ比によってスイッチングされるスイッチング素子13と、このスイッチング素子13に並列に接続される出力コンデンサ14と、送電側配線に接続された直列LC共振フィルタ15とを備える構成である。
【0030】
スイッチング素子13は、PWMによって制御される周期により、オン状態とオフ状態とが操作されるものであり、代表的なデューティ比は、周期Tの1/2とされることから、本実施形態においてもデューティ比を周期Tの1/2と設定している。このスイッチング素子13には、トランジスタまたはMOS-FETなどを使用することができる。
【0031】
直流電圧源11に接続される入力インダクタ12は、スイッチング素子以降の回路に直流電流を供給する。また、直列LC共振フィルタ15は、送電側配線の出力を共振させるLC共振回路であり、基本波のみを通過させ、高調波を抑制するためのローパスフィルタとして接続されている。なお、受動回路にローパス効果を持たせる場合には、この直列LC共振フィルタ15を省略することができる。
【0032】
出力コンデンサ14は、スイッチング素子13がオフ状態において電荷を蓄積し、オン状態で電荷を放出するものであるが、スイッチング素子13がオフ状態からオン状態に移行する前に蓄積した電荷を全て放出することで、ZVSを達成することができる。このとき、時間の経過によって変化する電荷の放出、すなわち電圧(スイッチング電圧)の変化量(グラフ上の傾き)が、ゼロとなるように設計することによりZVDSを達成させることができる。ZVSを達成させる場合にはスイッチング損失が低減され、併せてZVDSを達成させる場合には、さらにスイッチング電圧の高調波低減が見込まれるものであり、ZVSおよびZVDSの双方を達成させるインバータ回路をE級と称して他のインバータ回路と区別されている。
【0033】
このような出力コンデンサ14の電圧(スイッチング電圧)がZVSおよびZVDSを達成させるためには、スイッチング回路10における出力インピーダンスZを所定値に設定しなければならない。その際、負荷21が最適負荷である場合を前提として出力インピーダンスZを設定することになるか、または、スイッチング回路10の構成により設定される出力インピーダンスZの値に応じて、最適負荷を算出し、その値による負荷21を使用することになる。
【0034】
ところが、上記のいずれの場合においても、負荷21の抵抗値が変動する場合には、ZVSおよびZVDSを達成させることができないものとなっていた。それは、負荷21の抵抗値が最適値よりも小さい場合、出力コンデンサ14に蓄積された電荷の放出が早くなり、スイッチング素子13がオン状態となる時には出力電圧(スイッチング電圧)がマイナスとなり、逆に負荷21の抵抗値が最適値よりも大きい場合には電荷が全て放出されず、出力電圧(スイッチング電圧)がプラスの状態となるためである。
【0035】
そこで、本実施形態においては、スイッチング回路10と負荷側回路20との間に受動回路(回路網・ネットワーク)30を設け、この受動回路30によって、負荷21が変動する場合であっても、出力コンデンサ14の電圧(スイッチング電圧)が、スイッチング素子13のオン状態となる時点でゼロ(V)となるように、出力コンデンサ14に蓄積された電荷を全て放出させるように、ZVSを達成させるものとしている。
【0036】
<回路設計手法>
受動回路30の回路網を設計するための手法を以下に説明する。
まず、図2(a)に示すような一般的なE級インバータにおいて、出力電流(i(t))と出力コンデンサ(シャントコンデンサ)の電圧(v(t))は、下式で表すことができる。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、上記式に基づいてハーモニックバランス解析により下式を得ることができる。
【0039】
【数2】
【0040】
そして、t=T/2によるZVSおよびZVDSの条件下では次式を得ることができる。
【0041】
【数3】
【0042】
ここで、上記式(6)を上記式(4)、(5)に代入し、θを削除すると、下式(7)および(8)を得ることができる。
【0043】
【数4】
【0044】
このときの上記(7)および(8)を満たすインピーダンス(Z=R+jX)は、図2(b)に示すように、スミスチャート上において、二つの円弧状の曲線となり、両曲線はZ00の点で交差する。この交差する点Z00は下式で示される。なお、上記のような円弧状の曲線は、双曲幾何学において測地点と称される。ここで、上式(7)はZVS測地線を、上式(8)はZVDS測地線を表すものとなる。
【0045】
【数5】
【0046】
このようなスミスチャート上に円弧状となる曲線(ZVS測地線またはZVDS測地線)は、実負荷変動により変化するものであるが、その際、実軸負荷変動測地線からZVS測地線へ変換することができる。このときの変換は、メビウス変換によるものである。メビウス変換は、円から円に写像可能であり、直線は半径∞の円とみなすことができることから、直線を円(または円弧状の曲線)に変換が可能である。
【0047】
ここで、図3(a)に示すような2端子対回路において、負荷が変動する場合における一般的なブラックボックスモデルを想定する。このブラックボックスは、負荷インピーダンスZを入力インピーダンスZに変換するものとしている。このときのブラックボックスにおけるインピーダンスパラメータZ11,Z12,Z21,Z22によって変換される入力インピーダンスZは下式で示すことができる。
【0048】
【数6】
【0049】
さらに、ブラックボックスが無損失であり、逆数成分で構成される場合には、上式(10)は下式のように表すことができる。
【0050】
【数7】
【0051】
そして、上記のように変換される入力インピーダンスZは、図3(b)に示すように、負荷インピーダンスZを実軸負荷変動測地線からZVS測地線へ変換するものとなり、それぞれの測地線から3点のインピーダンスを抽出すると、各インピーダンスは下式となる。
【0052】
【数8】
【0053】
上記の方程式を解くことにより、ブラックボックスのインピーダンスパラメータを構成する個々のパラメータ(Z11,Z22,Z21(=Z12))を得ることができる。この個々のパラメータは下式で表すことができる。
【0054】
【数9】
【0055】
上記に示されるブラックボックスのインピーダンスパラメータについて、各値を代入することによりによって個々のパラメータ(Z11,Z22,Z21(=Z12))が判明し、具体的な受動回路30の回路網を設計することができる。
【0056】
<定電圧(CV)出力のための受動回路設計>
次に、上記の設計法を参照しつつ、定電圧出力(以下、CV出力と略称する場合がある)とする受動回路30の設計方法を説明する。上記のとおり、ZVS測地線を表す式は、上式(7)に示すとおりであった。この式(7)において、R=0のとき、Xは下式(18)となり、Z0aおよびZ0bを表す下式(19)および下式(20)となる。なお、ZVS測地線とZVDS測地線の交点(Z00)は、前記の式(9)である。
【0057】
【数10】
【0058】
他方、図4(a)に示すように、実軸上の負荷ZLa、ZLb、ZL0について、スミスチャートの横軸は負荷抵抗Rを示すものであるところ、これを負荷抵抗の測地線とみなすことができ、両端は0と∞となる。そして、負荷抵抗Rは0から∞の範囲の任意な点となり、それぞれZLa=0、ZLb=∞、ZL0=RL0とすることにより、定電圧出力のためのインピーダンスパラメータを得ることができる。これらの計算式を上式(15)~(17)に代入することにより、個々のパラメータ(Z11,Z22,Z21(=Z12))が得られる。その結果は下式のとおりとなる。
【0059】
【数11】
【0060】
また、Z11=jX11、Z22=jX22、Z21=jX21であるから、それぞれのリアクタンスX11、X21、X22は下式で示すことができる。
【0061】
【数12】
【0062】
そして、図4(b)に示すT型回路を構成する場合、図4(b)のリアクタンス値に上式(22)~(24)を代入すると、X21の極性と、RL0の範囲によって、4つの異なる回路を構成することができる。また、RL0の範囲は、ωCによって左右される。このような4種類の回路構成を下表に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
従って、上記4種類の回路構成により、負荷抵抗Rがいかなる場合においてもZVSを達成することができる。そして、負荷抵抗R=RL0である場合には、ZVSおよびZVDSを達成するものとなる。
さらに、上式(22)~(24)を上式(11)に代入すると、下式を得ることができる。
【0065】
【数13】
【0066】
そこで、上式(25)および前述の式(3)~(5)により、電流共振幅Iを求めることができ、下式のとおりとなる。
【0067】
【数14】
【0068】
さらに、上式(25)とインピーダンスパラメータから、出力電圧の電圧共振幅Vを求めれば下式となる。
【0069】
【数15】
【0070】
上式(27)から明らかなとおり、負荷抵抗Rに関係なく出力電圧の電圧振幅幅Vは一定となることから、定電圧出力を達成することができるものである。
【0071】
<定電流(CC)出力のための受動回路設計>
次に、定電流出力(以下、CC出力と略称する場合がある)とする受動回路30の設計方法を説明する。定電流出力のための設計方法も定電圧出力におけると場合と同様であり、Xは前記式(18)であり、Z0aおよびZ0bは前記式(19)および(20)であり、ZVS測地線とZVDS測地線の交点(Z00)は、前記式(9)である。
【0072】
定電流出力の場合においても、図5(a)に示すように、実軸上の負荷ZLa、ZLb、ZL0について、スミスチャートの横軸は負荷抵抗Rを示すものである。これは、定電圧出力の場合と同様に負荷抵抗の測地線とみなされ、両端は0と∞となる。
【0073】
ここで、負荷抵抗Rは0から∞の範囲の任意な点となるものであるが、定電流出力の場合のインピーダンスパラメータを求めるときは、負荷抵抗の測地線の両端「0」および「∞」は定電圧出力とは逆の値となる。すなわち、ZLa=∞、ZLb=0、ZL0=RL0とすることによって、定電流出力のためのインピーダンスパラメータを得ることができる。これらの計算式を前記式(15)~(17)に代入することにより、個々のパラメータ(Z11,Z22,Z21(=Z12))が得られる。その結果は下式のとおりとなる。
【0074】
【数16】
【0075】
また、Z11=jX11、Z22=jX22、Z21=jX21であるから、それぞれのリアクタンスX11、X21、X22は下式で示すことができる。
【0076】
【数17】
【0077】
上記のリアクタンスは、定電圧出力の場合と同様に、図5(b)に示すT型回路を構成する場合、当該図中のリアクタンスに上式(29)~(31)を代入すると、やはり、X21の極性と、RL0の範囲によって、4つの異なる回路を構成することができる。RL0の範囲は、ωCによって左右されることについても同様である。このような4種類の回路構成を下表に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
上記4種類の回路構成による場合、負荷抵抗Rがいかなる場合においてもZVSを達成することができる。そして、負荷抵抗R=RL0である場合には、ZVSおよびZVDSを達成するものとなる。この点、定電圧出力の場合と同様である。
【0080】
さらに、上式(22)~(24)を上式(11)に代入すると、下式(32)を得ることができ、当該式(32)および前述の式(3)~(5)により、電流共振幅Iを下式(33)として得ることができる。さらに、当該式(33)とインピーダンスパラメータから、出力電流の電流共振幅Iを求めれば下式(34)となる。
【0081】
【数18】
【0082】
上式(34)から明らかなとおり、負荷抵抗Rに関係なく出力電流の電流振幅幅Iは一定となることから、定電流出力を達成することができるものである。
【0083】
<高周波インバータ回路のまとめ>
以上のとおり、最適負荷におけるZVSおよびZVDSを達成するE級のスイッチング回路10を構成するとともに、当該最適負荷に対する出力インピーダンスを基本とし、変動する実負荷に対する出力インピーダンスを基本のインピーダンスに変換することにより、実負荷の負荷抵抗Rが種々変更された場合であっても定電圧出力または定電流出力を達成することができる。このとき、上記のような設計法により、定電圧出力の場合、または定電流出力の場合のそれぞれについて、所望のインピーダンスパラメータを有する受動回路30を設けることができる。
【0084】
<整流回路>
図6は、整流回路に係る本発明の実施形態の概略を示すものである。この図6に示す整流回路200は、前述した高周波インバータ回路(図1)を反転させた構成としている。すなわち、入力側回路(電源回路)40と、整流用のスイッチング回路50との間に受動回路(回路網)30を設けた構成としている。
【0085】
スイッチング回路50は、スイッチング素子53と、これに並列に接続された出力コンデンサ(シャントコンデンサ)を備え、送電側配線には直列LC共振フィルタ55が設けられている。また、負荷60には出力インダクタ52が直列に設けられている。なお、整流回路220においても、受動回路にローパス効果を持たせる場合には、直列LC共振フィルタ55を省略することができる。
【0086】
スイッチング素子53は、PWMによって制御される周期により、オン状態とオフ状態とが操作されるものであり、代表的なデューティ比は、周期Tの1/2とされることから、本実施形態においてもデューティ比を周期Tの1/2と設定している。ただし、後述のように、電源電圧との間に位相差を生じさせる場合があるため、その位相を調整するように制御されるものとしている。なお、スイッチング素子53は、トランジスタまたはMOS-FETなどを使用することができる。
【0087】
スイッチング素子53を用いた整流回路においては、スイッチング素子53によるスイッチング操作により、交流電圧源から供給される交流を直流に変換するものである。そして、スイッチング素子53がオン状態からオフ状態に切り替わるタイミングにおいて、スイッチング電圧が上昇するものである。このときの立ち上がり電圧は、ZVSおよびZVDSを達成する場合には、0(V)から立ち上がることとなる。
【0088】
そこで、スイッチング素子53を使用する整流回路200にあっては、上記インバータ回路の場合と同様に、所定のインピーダンスパラメータによって構成される受動回路30を設けることにより、負荷が変動する場合であってもZVSを達成させることができる。そして、インピーダンスパラメータを調整することにより定電圧または定電流を出力させることができるものである。
【0089】
<整流回路の設計手法>
整流回路の設計手法は、前述の高周波インバータ回路における場合と同様である。すなわち、図6に示したように、整流回路200を構成する各素子の構成は、インバータ回路を反転させた逆構成とする。このような逆構成により、各要素(素子等)における電圧はインバータ回路の場合と同様と考えることができる。その際の各インピーダンスまたはリアクタンス等は、同様に計算することができる。測地線の各点の移動についても同様である。従って、同様の設計手法により、インピーダンスパラメータを得ることができる。
【0090】
ここで、負荷条件や出力条件がインバータ回路と同じである場合には、受動回路30の内部構成についても反転させた逆構成とすることができる。例えば、T型回路としてLLC回路を採用する場合には、左右反転したCLL回路を構成させることができるのである。その際の各素子のインダクタンスまたはキャパシタンスも同様に設定することができる。他方、負荷条件等が異なる場合には、同様の設計手法を用いつつ、異なる回路構成とすることもできる。例えば、インバータ回路がCV出力であったが、整流回路をCC出力するように場合などは、受動回路30は必然的に異なる構成となる。この場合においても、設計手法は、上述のインバータ回路と同様とすることができる。
【0091】
従って、設計方法については同じ説明となるため、ここで再度説明することは省略するが、定電圧出力の場合、定電流出力の場合、ともに同様の手法によりインピーダンスパラメータを求め、受動回路を構成するものとなる。ただし、入力電圧とスイッチング素子の駆動信号に位相差が生ずるため、この位相差を適正値に固定化する必要がある。この位相差は、受動回路におけるインピーダンスパラメータを個々のパラメータのうち、特定のリアクタンスX21の極性によって定まる。なお、このリアクタンスX21はインバータ回路におけるリアクタンスと同様とする。
【0092】
例えば、交流定電圧を入力し、DC電圧CV出力の場合、X21>0のときの位相差は+180°であり、X21<0のときの位相差は0°である。また、DC電圧CC出力の場合、X21>0のときの位相差は-90°であり、X21<0のときの位相差は+90°である。
【0093】
<無線電力伝送システム>
次に、無線電力伝送システムについて説明する。上述の高周波インバータ回路および整流回路を用いることにより、個々の回路において、それぞれZVSを達成しつつCV出力またはCC出力させ得る無線電力伝送システムを構築することができる。
【0094】
図7に無線電力伝送システムの実施形態を例示する。この図に示されるように、無線電力伝送システムは、高周波インバータ回路は、スイッチング回路と受動回路とで構成され、整流回路も同様に、スイッチング回路と受動回路とで構成される。これらの高周波インバータ回路と整流回路とは、結合器によって無線結合されるものである。
【0095】
結合器は、電界結合器または磁界結合器などが使用され、これらには、トランス方式やジャイレータ方式などがある。トランス方式は、CV入力をCV出力する場合、またはCC入力をCC出力する場合に使用し、ジャイレータ方式は、CV入力をCC出力する場合、またはCC入力をCV出力する場合に使用する。
【0096】
ここで構成される高周波インバータ回路および整流回路は、前述のとおりであり、具体的には、両者は相互に対象に構成される。すなわち、結合器を中心に、それぞれ高周波インバータ回路および整流回路の構成を反転させて(対称な位置関係として)それぞれ配置したものである。従って、例えば、高周波インバータ回路は、図1に示す構成とし、整流回路は図6に示す構成として、結合器によって結合させる構成とするものがある。
【0097】
ところで、高周波インバータ回路は、直流を高周波に変換し、結合器は高周波を変換せずに無線伝送し、整流回路は高周波を直流に変換するものであるが、これらの変換において、CV入力をCV出力する場合、またはCC入力をCC出力する場合はトランス特性と認識される。他方、CV入力をCC出力する場合、またはCC入力をCV出力する場合にはジャイレータ特性と認識される。そこで、高周波インバータ回路と整流回路がともにトランス特性とする場合、またはともにジャイレータ特性とする場合には、受動回路のインピーダンスパラメータを同様に構成し、各素子を反転させた(対称とした)ものとすることができる。これに対し、一方をトランス特性としつつ他方をジャイレータ特性とする場合には、受動回路のインピーダンスパラメータは異なるため、個別の受動回路が構成されることとなる。
【0098】
なお、高周波インバータ回路と整流回路を反転させた(対称に配置させた)構成とした場合においても、高周波インバータによる出力電圧(整流回路に対する入力電圧)と整流回路におけるスイッチング素子の駆動信号に位相差が生ずるため、この位相差を適正値に固定化しなければならないことは前述のとおりである。そのため、整流回路のスイッチング素子の駆動信号を制御するために図7(a)~図8(b)に例示するような手段により位相を制御することとなる。
【実施例
【0099】
上記に示すような構成により、CV出力特性またはCC出力特性を発揮し得るものであることを実証するため、具体的な回路を構成したものについて実験を行った。実験は、シミュレータを使用したシミュレーションであり、各構成および実験結果は次のとおりであった。
【0100】
<高周波インバータ回路の実施例>
高周波インバータにおいてCV出力のための回路として、図8(a)に示すような構成を設計した。この場合のスイッチング回路の諸元は下表のとおりであり、受動回路は、T型のLLC回路とし、下表に示すように設定した。なお、負荷抵抗は50Ωとしているが、これは受動回路を設けないE級のインバータ回路においてZVSおよびZVDSを達成する最適負荷に該当するものである。
【0101】
【表3】
【0102】
また、高周波インバータにおいてCC出力のための回路として、図8(b)に示すような構成を設計した。この場合のスイッチング回路の諸元はCV出力と同様であり、受動回路は、T型のLCL回路とし、下表に示すように設定した。
【0103】
【表4】
【0104】
上記のCV出力用の高周波インバータ回路とCC出力用の高周波インバータ回路について、負荷抵抗を最適負荷(50Ω)の場合と、変更した場合(25Ωおよび100Ω)について、それぞれスイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)、出力電圧および出力電流について、スイッチング素子のオフ状態からオン状態までの1周期分について、時間経過による変化を検出した。なお、参考のため、受動回路を設けない単なるE級インバータについても同様に各電圧および電流を検出した。
【0105】
これらの結果を図9に示す。なお、(a)はE級インバータのみ、(b)はCV出力を可能とするための受動回路を設けた高周波インバータ回路、(c)はCC出力を可能にするための受動回路を設けた高周波インバータ回路による結果を示す。これらの図に示されるように、スイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)によれば、負荷抵抗が最適負荷(50Ω)の場合には、各構成の回路においてZVSおよびZVDSが達成されている。そして、E級インバータのみの場合には負荷抵抗が変動するとZVSは達成されないが、CV出力用およびCC出力用の高周波インバータ回路においては、ZVSが達成される結果となった。
【0106】
さらに、CV出力用のインバータ回路においては、負荷抵抗が変更した場合であっても出力電圧の振幅に変化はなく、定電圧が出力されている。他方、CC出力用のインバータ回路においては、負荷抵抗が変更した場合であっても出力電流の振幅に変化はなく、定電流が出力されている。
【0107】
なお、負荷抵抗が5Ω~500Ω(最適負荷の1/10~10倍)の範囲において、ZVSが達成状況を確認するため、上記3種の回路について、スイッチング素子がオフ状態からオン状態に切り替わるタイミングにおけるスイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)を測定した。その結果を図10に示す。なお、図中「G2G」とは、上述の受動回路を設けた構成であることを示し、「Conventional」は従来構成としてのE級のインバータ回路を示している。
【0108】
この図10に示される結果から明らかなとおり、理論上のZVS状況に合致するように、CV出力用およびCC出力用の各回路では、いずれの負荷抵抗においても、スイッチング素子がオン状態となるタイミングにおいて、スイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)が0(V)を示している。この結果を参照すれば、この実施例のように構成された高周波インバータ回路は、上記のような25Ωおよび100Ωに限定されることなく、広い範囲においてCV出力またはCC出力を可能にするものと判断することができる。
【0109】
<整流回路の実施例>
整流回路においてCV出力のための回路として、図11(a)に示すような構成を設計した。この図に示される回路は、前述のインピーダンスパラメータX21の極性が正の場合であり、インピーダンスパラメータX21の極性が正の場合における諸元は下表のとおりである。下表のとおり、入力高周波電圧振幅を51.6V(6.78MHz)とし、出力電圧を48Vにて設計し、最適負荷は86.6Ωとして設計した。この場合の受動回路は、T型のCLL回路とし、各素子は下表に示すように設定した。なお、入力電圧は、周波数6.78MHzの高周波(RF)電圧であるため、スイッチング素子によるスイッチング周波数を6.78MHzとし、位相差180°に固定した。
【0110】
【表5】
【0111】
上記構成の整流回路にかかる実験結果を図11(b)に示す。この図のように、高周波(RF)入力電圧に対し180°の位相に固定しつつスイッチング素子を作動させることにより、スイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)の立ち下がり電圧は、ZVSを達成させるものとなった。その結果、DC出力電圧は定電圧となった。
【0112】
次に、CV出力用として、インピーダンスパラメータX21の極性が負の場合における整流回路を設計した。その構成を図12(a)に示す。この場合のスイッチング回路の諸元は上記表5と同様であり、受動回路についてのみ変更した。受動回路は、T型のLCL回路とし、下表に示すように設定した。
【0113】
【表6】
【0114】
上記構成の整流回路にかかる実験結果を図12(b)に示す。インピーダンスパラメータX21の極性が負の場合には、高周波(RF)入力電圧に対する位相差を生じないため、図示のように、位相の調整は行うことなくスイッチング素子を作動させた状態により、スイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)の立ち下がり電圧は、ZVSを達成させるものとなった。その結果、DC出力電圧は定電圧となった。
【0115】
他方、CC出力のための回路として、図13(a)に示すような構成を設計した。これは、インピーダンスパラメータX21の極性が正の場合を図示している。この回路における諸元は下表のとおりである。入力高周波電圧振幅を51.6V(6.78MHz)とし、最適負荷は86.6Ωとして設計したことはCV出力の場合と同様であり、出力電流を0.55Aにて設計した。この場合の受動回路は、T型のLCL回路とし、各素子は下表に示すように設定した。なお、スイッチング素子によるスイッチング周波数を6.78MHzとし、位相差-90°に固定した。
【0116】
【表7】
【0117】
上記構成の整流回路にかかる実験結果を図13(b)に示す。この図のように、高周波(RF)入力電圧に対し-90°の位相に固定しつつスイッチング素子を作動させることにより、スイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)の立ち下がり電圧は、ZVSを達成させるものとなった。その結果、DC出力電流は定電流となった。
【0118】
次に、CC出力用として、インピーダンスパラメータX21の極性が負の場合における整流回路を設計した。その構成を図14(a)に示す。この場合のスイッチング回路の諸元は上記表7と同様であり、受動回路についてのみ変更した。受動回路は、T型のCLC回路とし、下表に示すように設定した。
【0119】
【表8】
【0120】
上記構成の整流回路にかかる実験結果を図14(b)に示す。インピーダンスパラメータX21の極性が負の場合には、高周波(RF)入力電圧に対し+90°の位相を修正しつつスイッチング素子を作動させることにより、スイッチング電圧(シャントコンデンサ電圧)の立ち下がり電圧は、ZVSを達成させるものとなった。その結果、DC出力電流は定電流となった。
【0121】
<無線電力伝送システムの実施例>
無線電力伝送システムを構築するための回路として、図15に示すような構成を設計した。基本的には、インバータ回路、結合回路、整流回路によって構成され、インバータ回路の諸元は次の表9のとおりであり、整流回路は次の表10のとおりである。また、結合器については、図15に示すような構成とし、諸元を次の表11に示す。なお、入力電圧は、定電圧源による100Vとし、これをインバータ回路により定電圧出力とした。結合器は、ジャイレータ方式を採用し、定電圧による入力を定電流で出力するものとした。さらに整流回路は、定電流による入力を定電圧で出力するものとした。このとき、想定する出力電圧を100Vによる定電圧として設計したものであり、その結果を図16に示す。
【表9】

【表10】

【表11】
【0122】
この図16における結果から、インバータ回路からの出力は、300Vの高周波定電圧となり、結合器を介して整流回路に対し600mAの高周波定電流が入力されていることが判明した。さらに、整流回路において、高周波定電流600mAは、整流され100Vの直流定電圧が出力されることが判明した。
【0123】
<まとめ>
以上のとおり、高周波インバータ回路および整流回路のいずれについても、受動回路の構成を適宜なものとすることにより、負荷が変動した場合であっても、CV出力またはCC出力させることが可能である。さらに、これらを使用しつつ結合器で結合させることにより無線電力伝送システムを構築することができ、この無線電力伝送システムにあっては、高周波インバータ回路においてCV出力またはCC出力を実現したうえ、ワイヤレス結合器により無線伝送し、さらに整流器によって最終的には、いかなる負荷であっても、直流によるCV出力またはCC出力を可能とするものとなる。
【0124】
従って、各種の負荷に対して所望の電力を供給することができることとなる。つまり、定電圧供給を必要とする負荷に対しても、定電流供給を必要とする負荷に対しても、安定した電力供給が可能であり、予め最適負荷を設定したうえで、受動回路を設けることにより、あらゆる負荷変動に対してもスイッチング損失を低減させることができるものとなる。
【0125】
なお、本発明の実施形態および実施例は上記のとおりであるが、本発明がこれらの実施形態または実施例に限定されるものではない。従って、上記実施形態等の構成を変更し、または他の構成を追加することも可能である。例えば、受動回路の構成については、代表的なものを例示したが、受動回路が備えるべきインピーダンスパラメータを得られる回路構成であればよく、他の構成としてもよい。また、結合器については、実施例において一例を示したが、他の構成であってよい。
【符号の説明】
【0126】
10,50 スイッチング回路
11 直流電圧源
12 入力インダクタ
13,53 スイッチング素子
14,54 出力コンデンサ(シャントコンデンサ)
15,55 直列LC共振フィルタ
20 負荷回路(出力側回路)
21,60 負荷
30 受動回路
40 電源回路(入力側回路)
52 出力インダクタ
100 高周波インバータ回路
200 整流回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16